【ガルパン】西住しほ「おかえりなさい」 (205)


※独自解釈のオンパレードです。
なるべく公式設定に準ずるようにしてますが所々に想像や妄想がありますので注意してください。


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【戦車道西住流演習場】

 常に先を読み優位に立ち相手を圧倒するように戦況を動かしてきた私だったが、娘に対しては翻弄される一方だ。これまで戦ったどの試合よりも先を見通せないし、上手く立ち回れないでいた。

しほ「...」スタスタ

西住流門下生A(以下門下生A)「家元!お疲れ様でした!」ペコ

西住流門下生B(以下門下生B)「お疲れ様でした」ペコ

しほ「...お疲れ様でした。私用で戻りますが引き続き貴方達は模擬戦を続けなさい」 スタスタ

門下生AB「「はい」」


 目下私の気がかりとなっているのはみほのことだった。まほは私によく似ていたからあの子へ物事を伝えるのは容易にすんだ。だがみほは私ではなく常夫さん
に似ていた。だからこそ同じ目線から伝えれる夫に頼りたいが、その常夫さんは今いない。
 夫は世界大会開催に向けて戦車道連盟からの申し出を受け、数年前からドイツにて技術指導をしている。相談には乗ってもらうが、あまり帰っては来られないし手紙や電話では娘たちのことを伝えるには限度がある。


門下生A「最近の家元はいつにも増しておっかないな」

門下生B「ほら、あれだよプロリーグがどうとかっていう」

門下生A「なるほどそれでピリピリされてるのか」

門下生B「つい昨年家元を襲名されて仕事を引き継いだり、娘さんのことだったり色々重なって大変なのよ」

 私がお義母様より家元を襲名したのが去年の夏、西住流の家元としてこの流派を体現する者であり次代を育てる義務を負った。そんな折にあの試合があった。
みほの行動は人として賞賛されるべき物だ、母として誇らしいとさえ思った。しかし私は西住流の体現者であり家元なのだ戦術的に見てあの行動は咎めなくてはならなかった。母としてでなく家元として、みほが西住流を継ぐ者になれるようにと。
 その結果は失敗だ。伝えたかったことは他にもあったのに上手くあの子に話せなかった、私は不器用な自分を嘆く。


【西住邸しほの私室】


しほ「...(書類より娘達のアルバムが読みたいわ)」ペラ カキカキ

コンコン

しほ「どうぞ」

菊代「奥様、文科省の役員の方が起こしです」

しほ「わかりました。客間へ通してください私もすぐに行きます(役人なんかよりみほとまほに会いたい)」


西住邸客間】

役人「家元襲名おめでとうございます」

しほ「有難うございます。それでご要件は?」

役人「以前お話させて頂いたプロリーグについて――――」

役人「――――ですから、是非西住さんにプロリーグの委員長として協力して頂きたい。またそれに伴って世界大会に関することでも協力いただければと思います」

しほ「わかりましたお引き受けしましょう。(将来まほが入るでしょうし協力しましょ)」

しほ「詳しいことは後日資料と一緒にお願いします(本来だったらみほも...)」

役員「快諾ありがとうございます。」


しほ「プロリーグや世界大会の準備などはどの程度進んでるんですか?」

役員「ええ順調です。費用面も学園艦をいくつか解体して用立てますから、かなり大きな額になりますよ」

しほ「学園艦を?」

役員「ええ、おそらく来年度の初めには大洗女子が廃校になりますからね。そこを始めとし他もいくつか統合していきます」

しほ「そうですか(ん?みほの学校ね、聞いてないわそんな話)」

役員「それではまた後日、内容を詰めていきましょう失礼します。」

 必要なことは話したとばかりに役人は早々に帰っていった。残された私はあの子が帰ってくるかもしれないことに喜びと期待をしてしまう。みほを思うなら嘆くべき話を聞いたのにも関わらずだ。そんな自分勝手な思いに内心自ら嫌悪する。



しほ「でもそう...。1年待てば戻ってくるのね、そうしたらもう一度やり直せるかしら...)」

しほ「(あの子はもう戦車道を辞めた、なら帰ってきたら西住流じゃなく....母親として言葉をかけてもいいわよね)」

 次にあの子と話す時は全部をちゃんと伝えよう。家元としての考えも母親としての思いもたとえ長い時間を掛けてでも。自分の中で一つの決意をし、前向きな気持ちで眠りに着いた。


――――――――――――――――――――――――
【西住邸の一室】
しほ「――――――」

みほ「で、でもお母さ 

しほ「―――犠牲なくして大きな勝利は得ることはできないのです」

まほ「...(シュンとしたみほ可愛い)」

みほ「あっ...」シュン

しほ「...」

みほ「..わ、私は...勝つことだけが全部なんてそんなの..嫌だよ...」

しほ「...勝つことを尊びそのために邁進するのが西住流。それ以前に勝つことを目指さないのなら...あなたは戦車道に向いていないのかもしれませんね」

みほ「ち、ちが「もういいです」

しほ「みほ選びなさい。この先西住流として戦車道をやるならば勝つことを第一とする覚悟をなさい。それが出来ないのであれば、戦車道をやめなさい」

まほ「お母様それは!」

しほ「まほ、黙りなさい。これはみほが決めることです」

みほ「...私は―――」


  ガバッ


しほ「...そう夢ね」

 何度見ても気分が重くなる。後悔ばかりが押し寄せてくるあの日の出来事。寝る前にした前向きな決意も無かったかのように気分を落とし込むそんな夢。あそこで家元としてでなく母として言葉をかけていれば、みほは戦車道を嫌いにならなかったのかしら。...やめましょう。余計なことは考えない。
 明日は大会前の黒森峰への最後の指導だ早く寝なくては。隈など出来てていては威厳もなにも無い。それに...次に会う時ちゃんと話すと決めたのだ。私は西住流家元、目標を定めたら前進するだけだ。


【黒森峰女学院演習場】

しほ「―――以上で本日の練習を終了します。貴方達は優勝するに足る十分な練度に達しています他校を圧倒してきなさい」

黒森峰生徒達「「有難うございました」」

まほ「明日は練習は休みだ、エリカと私は抽選会へ行く連絡は以上だ。片付けしだい解散」

しほ「まほ、私は家に戻ります。貴方も初戦が終わったら一度家に戻りなさい」

まほ「わかりましたお母様。エリカ明日のことで話がある少しいいか?」

エリカ「はい!隊長!」


 みほがこの学園を去った頃は少し気落ちしているようで心配だったけど杞憂だったようね。まほは立派に西住の女らしくなったわ。長女だったこともあり幼少期から後継者として厳しく育ててきた、それでも折れず挫けずまっすぐ育ってくれたことを嬉しく思う。欲を言うならば今もみほと二人並んで戦い、黒森峰を率いていて欲しかったわ。
 あったかもしれない未来を思い描き、また少しやるせない気持ちを抱きながら帰路へついた。


―――――――――――――――――

【西住邸客間】

役人「―――という形で現在勧めいます。プロリーグ設置の委員長としての仕事に加えて、世界大会に向け今年度中には各社会人チームから代表選手候補を選抜していただきたい」

しほ「承知しました。ですが一つよろしいですか?代表選手は社会人チームからの選抜ではなく連盟に所属する全ての選手からの選抜にしてください」

役人「構いませんが結局のところ実力的に社会人チームの選手で固まってしまうのでは?」

しほ「確かに概ね社会人選手が枠を占めるでしょう。しかし現在の学生の若手選手の中にはそれを凌ぐ実力者達も存在します。先程の説明では年齢制限も無いようですし、完全な能力によって決めたいのです」

役人「連盟加入者全員からとなると西住さんに掛かる負担が増えるだけですよ。世界大会に向けての今回のプロリーグ構想ですが今までプロという枠組みがなかっただけで、社会人チームの選手は実質プロですよ。学生達は言うなればアマチュア結果は目に見えているのでは?」


 今まで日本には企業から専属契約した社会人チームが存在していたにも関わらず、プロという枠がなかった。企業が行う広告的また興行としての催事専属の社員という扱いになっていた。それでも広大な演習場を持ち、定期的に試合が行われている規模の大きく立派なものである。だが『戦車道とは武芸であり己を磨く為のもの、スポーツではない』とする慣習が日本にはあったためこれまでプロは存在していなかった。
 しかし斜陽になりつつある戦車道を次世代に周知・関心を持たせる事を目的に近年その考え方が変わってきたのだ。その変化が形となったのが今回のプロリーグ構想である。本格的にプロ選手を育成、支援していき活性化を図るのだ。世界大会という大規模な催しを日本に誘致し行うことで、歴史ある戦車道を次代に繋げるための変革だ。
 


しほ「受けたからには全力で取り組むのは当たり前のこと労力は惜しみません。それほどの実力者を実際に知っているから申し上げているのです」

役人「しかしですねぇ社会人チームの各企業からはスポンサーとしての出資も期待しています。その枠を減らすのは中々...」

しほ「この国の代表を選ぶというのに、くだらない事情など挟まないでいただきたい!」

役人「で、ですが戦車はチームで動かすのですし、例え社会人を凌ぐ数人の若手をいれたところで個の影響なんてそんな無いのでは?」

しほ「チームで動かすからこそ個の能力が問われるのです、それに数人とは限りません。」

しほ「...どうしても納得いただけませんか。ではそうですね...大学選抜チームの試合を見てきてください。若手選手達の実力がはっきりわかるでしょうから」

役人「その大学選抜は社会人を凌ぐと?」

しほ「はい。並の社会人チーム相手でしたら圧勝でしょう」

役人「そこまで言うのでしたら、こちらの方で大学選抜と社会人チームで試合を組ませていただきます。それでもし勝つようなことがあれば西住さんにすべてお任せします。負けた場合は運営資金に余裕を持たせるためにも、社会人チームからの選抜でいいですね?」

しほ「異論ありません」


 規模が大きくなると仕方ないことだが金銭の力が強くなる。国の顔となる選手までその力で選ばれるなどあってはなら無い、それがこの国の在り方を表すのだから。なによりこれは戦車道の世界大会なのだ。そんな行為は戦車道を貶めることであり、西住流家元の私が看過などするものか。家元を引き継いでからこうしたやり取りは幾度もあった。不本意ながらそんなことに慣れてしまったと気がつき陰鬱な気分になる。
 そういえば勝手に約束を取り付けてしまったがまぁいいでしょう。彼女なら気にせず、むしろ不敵に笑って楽しむに違いない。陰鬱な気分だったが大学選抜を指導する剽軽で爛漫とした昔馴染みを思い出し、その陰りは消えた。あまり会いたくは無いが近々挨拶に行かなければと一人考えつつ、帰る役人を見送りながら結果のわかりきった試合に小さく笑いを漏らすのだった。


西住邸しほの私室】

まほ「お母様ただいま戻りました」

しほ「おかえりなさい、初戦はどうだったの?」

まほ「古豪の知波単学園でしたが、全車両殲滅し勝利しました」

しほ「そう。次の相手は?」

まほ「継続高校です」

しほ「継続ですか...以前の試合ではかなり翻弄されたそうね」

まほ「各員の能力も高いですが、特に隊長が優秀でした。しかし今回は我々に有利なマップですし、対策もあります」

しほ「心配はしていません、貴方がそういうなら大丈夫でしょう」

まほ「...あ、あのお母様」

しほ「何?菊代が夕食の支度をして待っていたるわ、早く食べてきなさい」

まほ「...いえ何でもありません、失礼します」


 まほ達は順調に勝ち進むでしょう。今年は黒森峰が優勝する、そうなるように指導したのだから。ただみほが居なくなった黒森峰が優勝したら、それを知ったあの子は昨年のことに余計に責任を感じるかも知れない。でも西住流としての在り方こそが正しく最強であると証明するためにも、今年は優勝してもらわなくてはいけない。親として家元としてどうしたらいいのかわからなくなる。いくら考えてもあの子と何を話せばいいのか答えはでない、これまで戦車以外の話をしてきただろうか。最近は暗い考えばかりしている気がする、一度休むことも検討しようかしら。
 あの子はもう戦車道辞め関わることもないはず、今回の大会もきっと知ることはないでしょう。いえむしろ避けていると思う。だったらあの子がこれ以上思い悩むこともきっとない。自分にそう言い聞かせ、私も夕食へと向かった。
 この時はみほが再び戦車に乗り、その上隊長として大会で躍進しているなど想像もしていなかった。


【西住邸玄関】

菊代「奥様、まほお嬢様いってらっしゃませ」

まほ「行ってきます菊代さん、また近いうちに戻ります」

しほ「まほ、第二試合が終わったらまた報告に戻りなさい」

まほ「わかりました」

 学園艦にさっさと戻ってしまう娘に試合の報告に来るように言う。正直なところ試合内容が気になるのではなく、娘の顔がみたいだけなのだがそれは決して口にしない。悩みや仕事に追われる中でも娘を見れば心労は回復できるのだ。まほ送り出すと戦車道連盟へプロリーグの打ち合わせに向け支度し出かける。
 この時まで穏やかな気分だったが、その穏やかな気分は半日と経たずに理事長の一言で吹き飛ぶこととなった。


【戦車道連盟 理事長の部屋】

しほ「――――のように話を進めようと思います」

理事長「うんわかりました西住さんに任せるよ」

しほ「ありがとうございます」

理事長「そういえば高校生の全国大会、娘さん達順調に勝ち進んでるみたいだね」

しほ「娘さん『達』?」

理事長「このまま行くと姉妹対決なんかも見られるかもしれないね。特に妹さんの方はびっくりしたよ!無名の学校が強豪のサンダースを倒しちゃったんだから!私も長いこと見てきたけど、サンダースが一回戦で負けるなんて何年ぶりかな。前は―――」


しほ「...」

理事長「―――それでね。ん?西住さんどうかした?」

しほ「いえ何でもありません。理事長そのサンダースを破った学校の名前は?」

理事長「大洗女子学園だよ。あれ?知らなかったの?」

しほ「...急用を思い出しましたのでこれで失礼します」スッ

理事長「あ、あれ西住さん?ちょ―」

ガチャ バタン


 思考がまとまらず疑問ばかりが浮かび上がってくる。なぜみほが戦車道を?あの子は戦車道を辞めたのではなかったのか。西住流を否定したのではないのか。なんの為に転校までしたのか。なんの為に私達から離れて行ったのだ。なんで、なぜ、どうして、何度も何度も頭の中で繰り返す。自問に対して自答するよりも
新たに問いが生まれてしまう。困惑は収まらず焦燥になり、焦燥は燻り広がると次第に怒りへと変わっていった。
 あの子が戦車道を続けると言うのなら『西住』であろうとするならば、私は親ではなく家元として振舞わなければいけない。あの子の為にと戦車道から離したのに。あの子に選択させたのに。みほ、貴方はそれをなかったことにするのね。
 


 しほ自身無自覚ではあったが娘を思い、今までみほについて悩んでいた自分を本人によって軽んじられた、そう感じていた。これまで抑えていた感情が爆発し本人でも把握できないほどに、複雑に荒れ狂っていた。不器用な彼女はそのわからない気持ちを怒りによってしか出力できない。
 彼女は普段と変わらぬしかめっ面の下にどうしようもなく困惑し憤っている激情を抱えて、自宅へと帰っていった。数日後には帰ってくるであろう事実を知っていたはずの長女を待つために。


眠くてしょうがないので寝ます。許してくだせぇ
明日の昼前には更新する予定です


【西住邸の一室】

しほ「貴方は知っていたの?」

まほ「はい...」

しほ「西住の名を背負っているのに勝手なことばかりして...これ以上生き恥を晒すことは許さないわ」

しほ「撃てば必中 守りは固く進む姿は乱れなし 鉄の掟 鋼の心 それが西住流」

しほ「...まほ」

まほ「私は!お母様と一緒で西住流そのものです。...でも、みほは...」

しほ「もういいわ。準決勝は私も見に行きます。...あの子に勘当を言い渡すためにね」

まほ「...」


 みほ、貴方が戦車道を辞めたいというから私は聞き入れた。貴方が黒森峰から離れたいと言うからそれも受け入れた。その結果がこれなのね。
結局は戦車道でも黒森峰でもなく『西住』から離れたかった。みほが嫌だったものは私だったの...。
...それならまた望み通りにしてあげるわ。『西住』を捨てて自由に生きたらいい。
 
 みほが戦車道を再び行っていると発覚してから数日が立ち、しほ自身も落ち着きをを取り戻していた。しかしそれでも怒りが鎮まったわけではなく極端な考えに飛躍していた。そのことに気が付けないほどには彼女はまだ冷静となれていなかった。
 



 だがそれも仕方なかったといえよう。勘当しようと考えたのも根底に有ったのは様々な感情と以前の『次に会うときには西住流家元としてでなく
母として接する』という決意に起因したものだった。彼女は家元と母としての二つを両立できるほど器用ではない。
その為彼女は母である前に家元として娘達の規範になることで流派の指導、親としての教育その二つを合わせて行うという育て方を取っていた。
 だからこそみほが『西住』を嫌うならば、それは自分が娘に伝えてきたことの半分を否定されたのと同じである。まして『西住しほ』とは西住流として生き、その頂点にまで歩みを進めた人だ。そんな彼女は『西住流』そのものである。
 その『西住』を拒絶されたことで娘に自分を拒絶されたと感じた。その衝撃は彼女から冷静さを奪うには十分だっのだ。娘が離れたかったのは戦車道ではなく、自分だったと知って平静でいられる親などいないだろう。そうした無意識のうちの複雑な考えから、色濃く浮かんだ『西住』からみほを離すという思いを怒りのままに汲み取った結果の勘当であった。


 部屋にまほを残し退室すると激しい怒りがまた湧き出てくる、それを抑えもう考えたくないとばかりに私は床についた。
彼女の胸中を真に理解できる人はいない。彼女自身ですら分からないでいるのだから。


【準決勝戦:プラウダ―大洗戦会場】

 みほの話をした時以来、まほとは一切口をきいていなかった。お互い無言のまま会場まで共に来たのである。元より口数の少ない二人であり普段であればそこに重い雰囲気などない。
 しかし今の二人は重い空気と気まずい雰囲気に包まれていた。会場の天候はまさにそんな二人の状態を表すように冷え込み雪が舞っていた。
 
しほ「...」

まほ「...」

 試合が始まるとモニターに映るみほを見て二人を包む雰囲気はより一層重くなっていた。片や妹を思い、何もできない自分を嘆く姉。
もう一方は久しく見ていなかった愛娘の元気そうな様子に安堵し、同時にその愛を裏切られたという思いこみにより更に怒りを強くする母。
共に表情に変化は無いが互いの間にあった空気は形を変え、熱い視線となってモニターへ向かっていた。
 


しほ「...」

まほ「...」

 開幕して数分後プラウダの3両の戦車が発見され、内2両を撃破し大洗が勢いづいた。その上フラッグ車まで見つけ更に1両撃破。周りの観客は沸くが未だプラウダの戦力が上である。その上作為的な動きに見える。二人は罠にも見える敵の動きに、みほがどう動くか興味深く見ていた。

 先ほどの雰囲気などなかったかのようにモニターに向ける二人の表情は、しかめっ面ではあるがリラックスしたものであった。別に二人の気が晴れたのではない。ただ二人は『西住』であり生粋の戦車乗りであった。故に試合となれば仮想で作戦を立て、相手の手を読み勝つための策を練る。戦車前にした彼女達は切り替わる、私情を挟んだ指揮などしない。試合となれば『撃てば必中 守りは固く進む姿は乱れなし 鉄の掟 鋼の心』を厳守した西住流の体現者へと成り代わるのだ。


だからこそ私情を挟み勝利より、仲間を優先したみほは『西住』ではないのだ。彼女と二人の決定的な違いである。


 真剣に試合の行く末を、みほの指揮能力を見ようと集中して観戦していた。ところが勢いづいた大洗はプラウダの罠に飛び込みそのまま完全に包囲されてしまう。そのあまりに拙い様子は『西住流』などと到底結びつかないものだった。このまま包囲殲滅されて終わってしまうそう思える程にお粗末だった。
 あまりに呆気なさ過ぎて気追い込んでいた怒りすら、どこかに落としたように呆れて毒気を抜かれてしまった。試合を見るうちに戦車乗りとしてサガなのか一時的にも平静な状態に戻っていたことも相成って、しほは冷静さを取り戻していた。冷静になると同時に自分の極端な思考に内心恥らえるまで余裕も取り戻していた。


しほ「(少し頭に血が上っていたようね、帰って頭を冷やしましょう。みほの学校もここで敗退でしょうし、終わってからあの子と今後を話せばいいわ)」

しほ「帰るわ、こんな試合時間の無駄(極端な自分の思考が恥ずかしくなってきたわ)」

まほ「待ってください」

しほ「まほ?」

まほ「まだ試合は終わってません」


 思考が冴え始め自分を省みて恥ずかしくなり早く帰りたかったのだが、まほはまだ何かを待っているようだった。これでお仕舞と結果を予想していたが、まだ続きがあると娘は読んでいるのである。戦車乗りとして先の展開を見通す力があると自負しているし、まほもそれは十分わかっているはずだ。
その上で私が終わりと言った試合に続きがあるとこの子が言うのである。この子が私に意見することはそう多くないことだ。であればそれは尊重するべきであろうと思う。まほはみほに私の知らない何かを見出しているのだろうか。
 
 その見出したものを知る為に、再び腰を下ろしモニターへと視線を戻す。


 膠着状態から大きく試合が動き出した。大洗が包囲の中から飛び出したのだ。敵の思惑に乗ったと見せかけて、そこからの意表を突く作戦は大いに成功した。後続による再包囲も38tの陣形内への飛び込みで崩してみせた。これには正直驚いた、まさか包囲網から突破できるとは思わなかったからだ。
そうして包囲網から抜けると、暗さに乗じて相手を出し抜き2両で敵フラッグを討ち取った。
 まほの読み通り試合は続き、そして大洗が勝った。しかしまほはみほには何かがあると言外に伝えてきていたが、今回は相手が舐めて油断をしていたから得られた勝利だろう。

しほ「勝ったのは相手が油断したからよ」

まほ「いえ、実力があります」

しほ「実力?」

まほ「みほはマニュアルに囚われず臨機応変に対処する力があります」

まほ「みほの判断と心を合わせて戦った、チームの勝利です」

しほ「あんなものは邪道。決勝戦では王者の戦いを見せてやりなさい」

まほ「西住流の名にかけて...必ず叩き潰します」


 はっきりと勝利を宣言し、まほはモニターに映るみほを見つめている。チームと喜び笑い合うあの子を見て、まほの表情は険しいものになっていた。
あんな笑顔は久しく見ていない、黒森峰に居た頃あの子は笑っていただろうか。自分と似ていて全て理解できている、そう思っていた長女も私とは違う考えを持っていた。今の妹を見てこの子は何を思っているのか。試合中なら相手の考えを読めるのに、戦車から降りると私は何も見えなくなる。
 いや違う、この試合展開は読めていなかった。自分は西住の体現者だと自負していたのに、結局みほを見ている時の私は家元でなく母親としての私情を挟んで見ていたようだ。私は中途半端だったのか。これまで生きてきて気がつかなかったが私は考えすぎると却って悪くなるらしい。
 西住流や母としてどちらの自分も上手く扱えない。であれば決勝戦は戦車に乗った時のように試合以外の事は考えない、ただ純粋な戦車乗りとしてあの子達を見よう。自分の甘さを反省し今まで娘として、指導する弟子として見ていた娘達を今一度見定めよう。考えがまとまると重くのしかかっていた憑き物が取れたような気がした。
 
 そうして私はまほと共に会場を後にし決勝戦を待ち望む。


――――――――――――――――

 完璧な『西住』として振舞おうとしていたのは、『西住』であれと強く意識していたからだと気がつけた。本当の体現者なら考えるまでもなく、その振る舞いが全て『西住』となるはずなのだから。
 私は娘達だけでなく自分の事もわからなくなっていたみたいだ。家元を襲名しその名前の重さとプロリーグと世界大会に関わる大役は、知らないうちに私を追い込んでいたようだ。
 しかし分かってしまえば問題は無い。知らないものは対処できないが、それを分かったのなら改善が可能なのだから。少し前に検討した休暇を決勝戦までの数日に取るとしよう。プロリーグのことも家のことも忘れ、自分を取り戻そうと決めた。
 
 それから決勝戦までの間、彼女は自由な時間を得たのだが、その大半は菊代と共に戦車を駆るものとなっていた。彼女はどうしようもないほどに戦車乗りだった。思えばどうしてあそこまで拗れてしまったのか自分でもわからない。久しぶりに感じる楽しいという気持ちに、彼女の心は十分なほど癒された。


―――――――――――――――――

【決勝戦:黒森峰―大洗戦会場(東富士演習場)】

 一人の戦車乗りとして両チームの戦いぶりを見るため私はここいる。ここしばらく抱えていた悩みや心労は全て置いてきた。ただただ純粋に自分の相手だったならば、どう攻略するか。または相手は自分に対してどう動いてくるか。そんな仮想戦をイメージし彼女らの実力を測ろうと考えていた。
 
 両チームが向かい合い挨拶を終えた。総員がモニターへと映される。その人数差はひと目で倍以上だとわかる上に、これが乗組員なのだから当然車両数でも大きく差が出来る。それはつまり圧倒的な戦力差があると試合前からわかっているのだ。この不利な戦力差でどこまでやれるかで、みほという指揮者の実力が見れるだろう。
 それを見定めるべく一人の戦車乗りは鋭い視線をモニターへ向けるのだった。


 試合が始まる。元は自分の所属したチームであり、身に染みている西住流に忠実な黒森峰である。その戦法は完全統制された陣形による包囲からの圧倒的火力による短期決戦だ。例えそれを知っていたとしても崩すのは容易ではない。みほは確実に正面戦闘を避けるだろうが、そこからどう動くか。数の優位性を殺すために地形を利用するのはまず間違いないだろう。
 対するまほもみほに手が割れていることは承知のはず、策があろうとそれを実行させる前に終わらせようとするだろう。接敵の状況がどちらの思い通りになるかで、試合運びは決まると予想を立てた。
 モニターの黒森峰の動きを見てまほも自分と同じ考えだと理解する。虚を突かれるであろうみほの対応力が試される。


 まほが取った作戦は単純なものだった。おそらくみほが利用するであろう経路に最短で迎うためショートカットを用いたのだ。しかしその抜けてきた地形は視界の悪い、加えて樹木の生い茂る森。早期の接触を考えるとしてもこのマップの森林は大抵迂回を選択した方が、早く進める。それはこのマップの森林は障害物となる上に、鬱蒼とした木々による視界不良で並みの走行技術では却って時間をくうものだからだ。一部の熟練者だけが抜けてもそれでは敵を殲滅できないので意味がなく、故に森を抜ける選択は大抵のチームはしないだろう。みほもそう予想していたのだろう。
 しかしこのチームは黒森峰だ。全ての乗員がそれを可能とするだけの技術を持ち、その森林を陣形を保ったまま全速で突き通って来たのである。そうして見事に側面をとったのである。
 
しほ「(これが黒森峰と西住流よ、みほ。並みのチームと同じに考えているようでは到底かなわないわ)」


 陣形は乱れフラッグ車は守られていない。既にティーガーⅡはみほのフラッグ車に砲塔を向けていた。ここで終わるのかに見えたが、しかしそれを察知したのか三式が全速後退し盾になるように射線に飛び込んだ。咄嗟の判断で身を挺して庇うとは大したものだと感心する。大洗は新設されたチームだと聞いていてプラウダ戦を見ても、まだまだだと思っていが経験が不足しているだけで個々の能力は高いのかもしれない。
 三式を犠牲にしつつも他車両は無傷で離脱に成功してみせた。みほは虚を疲れても動じず冷静に指示しているようで、まほの言うとおり対応力は中々のようである。

 さて方角からしてみほが目指しているのは高台にある丘のようだ。高地に陣取り上から砲撃するのだろうが、却って的になるのではないか。それにまほが登頂をよしとするとは思えない。
 すると突然大洗の全車両から大量の白煙が上がった。


しほ「(煙幕によって被弾率を下げるつもりなのかしら、でも目的地がわかっているならば煙幕の切れ目を狙えばいいだけであまり意味がないわね)」

 Pティーガーがいる時点で早急な登頂はできないでしょう。まほもそれを読んで無駄な砲撃をせず煙幕が晴れるのを待っているようだ。ところが晴れてみると
大洗は山頂付近まで上り詰めているのだから驚きだ。

しほ「!」


 大洗は各車両をワイヤーで連結する事でPティーガーの速力を補助したのだ。これには正直驚いた。さらに立て続けに煙幕を炊くと車両と山頂部を広く隠してきた。広範囲に広げた白煙にみほが何かを仕込んでいると察したまほは、榴弾にて煙を吹き飛ばした。そこに顕になったのは山頂部に土壁を盛り、高地から見下ろす形の稜線射撃を可能とする陣形だった。丘を取り囲むように展開する黒森峰だったが、これを崩すのは時間が掛かかるだろう。
大洗は高台から一方的に砲撃ができ、土壁により車両の半分は隠されて守られていた。加えて重戦車を運用してきた黒森峰は丘を上がるのに時間がかかる。
 よく考えたものだ。ここまでこの戦力差で有利に立ち回れるとは思いもよらなかった。
 


 それでもまほは動じることなく装甲の厚い重戦車を盾にし、じわじわとその距離を詰めていく。対応力に優れているのはみほだけではないのだ。
 しかしみほの作戦はまだ終わらなかった。別働隊として先程速力を削ぐ妨害を行っていたヘッツァーが、ようやく丘の中腹を超えた黒森峰の車両間に飛び込んできたのだ。まるで煽るかのように車両間を走り回る。撃破しようにも同士打ちを恐れて砲撃できず、その隙に大洗の本隊から射撃で討ち取られる。陣形は乱れ大きく混乱していた。
 それに合わせるように一際大きく乱れた箇所を、まほと同じように重戦車のPティーガーを盾としながら大洗全車が全速で下っていく。あっという間に包囲陣形を抜けて颯爽と逃げていってしまった。気が付けばヘッツァーも居らず完全に出し抜かれていた。


 奇策の連続に加え追い詰められたところからの大脱出に会場は沸いていた。圧倒的な脅威に対して臆することなく、むしろ絡めてを用いて翻弄するみほに私は感嘆した。西住流としてではなく自由に指揮するあの子の実力を垣間見て、ここに来てようやく今までの彼女への評価を改めたたのだった。
そして同時にこの子が黒森峰に残り、高火力の戦車軍を自由に指揮していたらどうなっていただろうか。みほを改めて見直したことで、一人の戦車乗りとしてのみほを私は素直に認めることができた。

 逃走を計る大洗は黒森峰の重戦車運用を逆手に取り、足場の悪い悪路をあえて走り回った。その結果追撃隊は足回りのトラブルにあい、転輪が外れてしまう。
これではまほの率いる体制を立て直している本隊と合流してからの追撃しかないだろう。
 その間に大洗は距離を取るため、通常迂回するであろう川を横断するようだ。流れが強いように見えるが、車両の重さ等を考慮し下流の戦車が流されないように編隊して進むようだ。突飛だが決して無謀じゃない策である。これなら難なく渡れるだろうと見ていたら、M3が停止したのだ。つくづくあの子は水難に見舞われるらしい。
 当然のように私はM3が走行不能になったものと考え、みほも先を行くものだと思っていた。ところが大洗車は全車両停止し始めたのだ。

しほ「(距離を稼ぎたいはずのこのタイミングで何を考えているの?ここまで稼いだ間合いを無駄にすることになるというのに...)」



 おもむろに4号からみほが飛び出すとワイヤーを体に縛り戦車を渡りだした。4号はフラッグ車であり、その上みほは隊長なのでは無いのか。
誤ってここで脱落すればチームが終わってしまう。指揮官が自ら危険に飛び込むなど私には考えられなかった。


 しかし飛び移るみほの表情はどこまでも真剣で、これこそが正しい私の在り方なのだ。そう語っているように見えた。やはり彼女は『西住流』ではないのだろう。万が一の事故の可能性を見過ごせず、なにより尊ぶは仲間であるとする姿勢。黒森峰では有り得ないものだ。
 だがその在り方は仲間に正しく浸透し、共感を得ているのだろう。昨年のあの試合でみほが飛び出したフラッグ車は、残った乗員は何もできず討ち取られた。対して大洗はみほが抜けたフラッグ車をはじめとする各車両が砲塔を旋回し、迫り来る黒森峰を威嚇射撃し、みほの援護と自主的な防衛を行っている。
互いに仲間を思いやりそれを重んじる。それがモニター越しにでも伝わってきていた。まったく異なる戦車道だ。
 
 会場中が固唾を飲んで見守る中、M3は再び動き出した。観客によっては涙まで流している。『西住流』とは圧倒的強者として見るものに畏怖を与える絶対王者の道だ。だがみほの『それ』は心を惹きつける情愛と信頼の道なのだろう。向かう先の違う『道』を私が示していたならばあの子が迷うのも道理である。
 
しほ「...」


 M3を連れ出し無事に全車両で逃走すると、みほ達大洗は市街地へと向かうようだ。道中に橋を落とすという新技も使い十分に距離は確保出来ている様子。
 しかし黒森峰にはまだアレがある。まほが市街地へあらかじめ回しておいた秘密兵器が。絶対的な装甲を誇り、一撃でなぎ払う超重戦車マウスである。
障害物だろうとお構いなしに吹き飛ばすその戦車をどう引き付けるのか、この戦車を押さえ込めなくては大洗は絶対に勝てないだろう。
無力化に時間をかければ本隊も合流する。一人の選手と認めた今、しほはみほがどう対応するのか楽しみとなっていた。黒森峰を象徴すると行ってもいい、鉄壁の高火力戦車に対してである。対応すると行っても大洗の戦力で倒せるとは微塵も考えていない。
 大洗は2両がやられると、正面から迎える形で構えた。総攻撃を仕掛けるのだろうかと考えていると、予想外の行動を取った。
 

しほ「!!!」


 車両を持ち上げ動きを封じマウスに戦車を乗せ砲塔を固定する、そして排気口を上方から発破しこれを打倒したのだ。この試合だけで何度も驚かされてきたが、マウスが倒されたことには言葉も出なかった。対して観客は盛大に湧き上がる。それだけ圧倒的な存在だと周知されている車両なのだ。

しほ「(咄嗟の判断でこんな奇策を思いつくなんて...)」

 しほはここに来てまほの言うみほの本当の実力に戦慄した。自分がまったく見えていなかった能力は想像よりも遥かに高いものだった。


 だが大洗の快進撃はまだまだ止まらない。ようやくやってきた黒森峰本隊を相手に緻密な連携でフラッグ車の進路を憚り、はたまた黒森峰の車両を本隊より引き剥がす。
 更に恐ろしいことにあのM3が地形を利用しエレファントを仕留めると、立て続けにヤークトティーガーを道連れにしたのだ。川で救援に泣いていた選手達とは思えない活躍ぶりである。
 3両を相手取る八九式は凄まじい操縦技術でその砲撃をかわし、自軍のフラッグ車から引き離す。いつの間にか大洗の4号の後に付いているのは、黒森峰のフラッグ車となっていた。
 そんなみほとまほの二両が学校のような建物に入ると同時に、待機してたPティーガーがその入口を塞ぐように立ちはだかる。後続の黒森峰車両は阻まれ、両軍のフラッグ車による単騎戦となっていた。
 


 観客「これで互角の条件になった!運が味方したな大洗は!勝てるかもしれんぞ」

 観客の一部が興奮気味に声を上げている。しかしその意見は正しくない。運などではないのだ。この状況は単騎決戦を目的とした大洗チームによる完全な誘導によるものだ。各戦車すべてが高い技術を持っている上に、驚くべきはその連携能力だ。すべての行動が同時に進んでいたことから、予めこうなるように作戦は立てられていたのだろう。
しかし状況とは変わるものであり、それに応じて実行するのは難しい、隊長からの指示だけではそれはなりたたない。各車両がみほの考えを汲み取り、受けた指示以上のものを自分の頭で考えて動いているのだ。でなければここまで細かい誘導などできるはずがない。


 みほの仲間を尊ぶその在り方によって生まれたこの大洗というチームは、練度に加えて連携によって何倍もの真価をはっきする。恐ろしいチームだ。
あの子が行ったのは既存の『道』でなく、新たな『道』を開拓しそれを伝え導いたのだ。

しほ「...この試合が始まってから驚かされるばかり、あの子の才覚はとんでもないものかもしれない」

 考えが口に出ていたが今の彼女はそれに気がつかない。もはや彼女は姉妹の実力を計ることを忘れ、ただ試合の行く末に夢中だった。


 モニターではみほとまほが対峙し、限られたエリアでお互いの先を読み戦っている。どちらも私の娘なのに知らぬ間に立派に成長していた。
私がここまで食い入るように試合を見るのは、いつ以来だろうか。楽しくてしょうがないのだ。同時に嬉しくて仕方がない。
 この時しほの中に合った感情は、好敵手を見つけた一人の戦車乗りとして、指導してきた弟子二人の成長をみる家元として、大きく成長した二人の母として、
今まで両立できてこなかった3人の『西住しほ』が初めて全員共感した感情だった。しかし本人はそれに気がつかない。今頭にあるのはみほとまほの勇姿だけである。
 いつまでも続いて欲しいそんな二人の攻防は、砲撃による爆煙を伴った激しいぶつかり合いで幕を閉じた。


――――――――――――――
【離れた丘】

 会場から遠く離れた位置でしほはモニターを見ていた。そこに映るのは優勝旗を握り仲間に囲まれ笑顔を零すみほと大洗選手達である。
その中心の幸せそうなみほを見て、私も肩の力を抜くのだった。

しほ「............フゥ」 パチパチパチ

しほ「戦車道とは武芸であり己を磨く為のもの...か。初心は忘れてたのかもしれないわね」


 私は『西住流』を歩む。みほは彼女が作った道を行く。そうやって自分の道を見つけ、その在り方を軸に己を磨いていく。
それは一生付き合っていくものであり、そうした己の心の主軸こそが、それぞれの戦車道なんだろう。西住の家元として戦車道に深く関わっていた私だったが、そんな私もまだ道の途中なのだ。
 であれば私と比べて、みほは歩き出したばかりなのだ。あの子の道を早急に決めさせようとしていたのは間違いだった。
 昨年の試合での彼女行動を、私情を挟んだ愚策と見ていた『西住』としての私もあの時の考えを改めていた。
 少しだけ母としての自分と家元としての自分が近づいたような気がした。


 昨年の試合も含め現在のみほの在り方を受け入れた私は、以前した決意を思い出す。

しほ「あの子が戻ったらすぐにでも謝りましょう。そして今度は時間をかけてあの子の気持ちを最後まで聞きます」

 そう自分に宣言すると踵を返し、彼女は会場を後にする。その背中は母としての強さも、家元としての威厳もどちらも備えた逞しいものに見えた。


この後大学選抜編を続けるんですが、用事を済ませてくるので少し間が空きます。


―――――――――――――――――――


【戦車道連盟 理事長の部屋】

しほ「この前は話の途中に大変失礼しました」

理事長「いやいや、まさか妹さんが戦車道を辞めて転校していたなんてね。それなのに新たにチームを作って大会に出てたら、それは驚くよね」

理事長「...それで...勝手に続けていたことは咎めるのかな?できるなら優勝するほどの人材を辞めさせちゃうのは勿体無いと思うんだけど」

しほ「黙っていたことに関しては叱りつけるつもりです。ですが戦車道に関してはあの子の好きにやらせようと思います」
 
しほ「あの子は西住流とは違う道を選びましたが、西住の名に恥じない自分の道を見つけたようですから」


理事長「西住さん少し変わったね。いい意味でだよ」

しほ「そうですか?よくわからないですが、ただ自分の中で少し考え方は変わったかもしれません」

理事長「若い人は多様に変化していいなぁ、見ていてこっちまで活気が沸くよ」

理事長「そういえば妹さんの大洗女子が複数の学校を呼んで、エキシビジョンマッチをやるそうだよ」

しほ「新設のチームなのにもうそんな広い繋がりを持っているんですね。それにしても大会が終わってまだ間もないのに、精力的なことです」

理事長「大洗はつい最近まで今年度で廃校が決まっていたからね。だけど全国大会で優勝したことで存続する方向で話が変わったそうだよ。」

理事長「なんでも大洗が戦車道を復活させたのは、廃校を撤回させるためだったとか新聞なんかに書いてあったよ。本当かどうかわからないけどね」

しほ「そうですか...廃校じゃなくなったんですね」


 廃校の件は役人より聞いていた。おそらく廃校撤回のためにチームを作ったというのも本当だろう。そしてその時に丁度みほが転校してきて目を付けられたのではないだろうか。でもただ祭り上げられた訳ではなく、あの子は各員を上手くとりまとめ、強力なチームを築いたのだ。黒森峰でオドオドし姉の後ろを付いていたあの子は、大洗に転校してよかったと思う。
 偶然や奇跡が重なったからかもしれないが、それがあの子の進む道を示す結果となったのだから。


理事長「その分のプロリーグの予算の財源は再検討になったそうだから、西住さんもこれからまた大変になるね」

しほ「ええ、十分に英気は養いましたから大丈夫です」

理事長「頼もしい限りだ。そうだ!もう一つ話そうと思ってたんだ。」

理事長「世界大会の代表選手は年齢制限のない戦車道連盟所属選手全員に決まったよ」

理事長「選手選抜の実行委員も西住さんだったでしょ。最高のチームを期待してるからね」

しほ「鍛えに応えれるよう尽力します。それではそろそろ失礼しますね」

理事長「ああ、またね」

 世界大会の選手選抜条件が連盟員全員となった。つまり以前話に上がった大学選抜と社会人チームの試合は大学選抜が勝利したのだろう。分かりきっていたが、あの堅物そうな役人が魂消たであろう表情を想像して笑いが漏れた。


―――――――――――――――――――――
【戦車道西住流演習場】

 
しほ「お早う御座います」スタスタ

門下生A「家元!おはようございます!」ペコ

門下生B「おはようございます」ペコ

しほ「10:00より教練を始めますから、それまでに各車両の点検を済ませ整列するよう伝えてください」 スタスタ

門下生AB「「はい!」」


門下生A「最近の家元は雰囲気がなんか柔らかくなったな」

門下生B「えぇそう?相変わらず怖い顔してるように見えるけど」

門下生A「いやなんだろう、表情に出てないんだけど態度とか声がね」

門下生B「んー私はわからないけど。貴方本当に師範のこと好きだよねぇ、よく見てるだけあるわ」

門下生A「そりゃ私は家元に憧れてここにいるんだから、当たり前じゃない」

門下生A「その私が言うのよ変わったって。なんなら私、今の家元だったら食事に誘える気さえするわ」

門下生B「それはない」


 門下生Aが察した通り現在のしほは機嫌がいいのだ。負担となっていたのは悩みと重責からの心労であり、その二つは取り除かれた。むしろその悩みから好転し自身も成長できたのだ。母と家元、徐々にではあるが二つを両立して娘達を見れるようになったことで、娘達の成長は2倍喜ばしいものとなった。
 さらに世界大会の選抜選手をしほが選び、自分の考える最高のチームを作れるのだ。面白くないはずがない。もちろん独断による決定権があるわけでは無いが、強い影響力を持っているのだ。選手の中には自身の娘達も推薦しようと考えていた。これは贔屓などではなく、実力からの考えである。
まほは国際強化選手で最優秀選手とされるなど十分な実績を持っている。みほもその姉を抑えて全国大会を優勝したのだ。異論はないはずだ。
 実力で周囲から認めらるまでになった二人を思い、また嬉しくなるのであった


 こうした理由から表情には出ないが、しほは現在上機嫌である。唯一残念な点といえば、大洗が存続することでみほが戻ってこない。その結果あの子が自主的に戻るまで、以前した決意は実行できないことくらいである。しかしそれもあの子自身の頑張りによって、学園艦が守られた為であるから仕方ない。
 気持ちというものは大事なもので、仕事は軽快に勧められていた。明日にはまほも帰ってくる。故に彼女の調子は増すばかり、仕事は速度を落とすことなく完遂されることだろう。


 しかし良い事があれば悪い事もあるもので、彼女の知らないところで自体は動き出していた。不幸が訪れるのは彼女自身ではないのだが、それが娘にもたらされるならばそれは親にとっても同じだろう。未だその不運を知らず親子はそれぞれの日常を進めていた。


――――――――――――――――――

【西住邸しほの私室】

 まほが帰省し数日が経つ。別段変わったことが有ったわけではないが、充実した毎日であった。そんな中その知らせは突然やってきた。
門下生達への指導を終え、私室に戻ると電話が鳴っている。

しほ「はい、もしもし。理事長どうされました?」

理事長『あまり良くない知らせなんだけどね。大洗女子を含む複数の学園艦の解体が決定したって』

しほ「どういうことですか?」

理事長『どうやら予算確保のためらしいんだ。役人からは簡単な資料だけ送られてたきてまともに話せてすらいないよ』

しほ「...」


 元より学園艦を解体し、来年度の学園艦運営に回す予算を流用すると言っていた。加えて世界大会の代表を社会人チームだけでなく連盟参加者全員にしたことで、社会人チームの会社からスポンサーとしての支援が少なくなると考えたのかもしれない。その結果予算面で、やはり学園艦は解体すると再度決定が下ったのではないだろうか。
 この国を思い代表枠は実力者で決めるべきと進言したが、その結果あの子達の守ったものを奪ってしまったのかと暗い気持ちになる。しかし間違ったことをしたわけではないのだ。彼女は後悔はしていない。無論このまま娘の守ったものを手放させるつもりもない。


しほ「優勝までした学校を廃校とは、国の方針に反していますね」

理事長『うん、私としてもあまりに可哀想に思う。それに大洗の生徒会長が私のところに直訴に来てね。どうやら文科省まで殴り込みに行きたいそうだ』

理事長『一緒に来た蝶野くんまで随分と乗り気みたいで、私では彼女達を止められなかったんだ。』

理事長『プロリーグ設置委員会の役員である君に、助力を願いに行くってそっちに向かっちゃったから宥めておいてほしいんだ』

しほ「...わかりました。お話下さってありがとうございます」ガチャ

 理事長からの電話を終えると、直ぐに外出の支度をする。蝶野さんのことだ、そのまま向かうつもりだろう。理事長には悪いが私も直接話にいきたいのだ。
 戦車道において信じて進んだ道を潰されるなどあってはならない。『道』を示し探し進む武芸なのだから。自ら道を変えるならともかく、大人の都合で道を変えさせるのは間違いである。私自身それに気がついたのは最近のことであるが、だからこそここで正さねべならない。
 


しかしただ物申すだけのつもりはないのだ。『西住』の門下を出た人物は各方面の有力者は大勢いる。戦車道を好む資産家や企業にも十分心当たりがあった。
プロリーグや世界大会に向けての動きは、まだ周知されていない。それを伝えるだけで彼女らは協力と支援を約束してくれる。戦車道を嗜んだものは現在戦車から離れていたとしても、皆その時の青春を忘れてはいないのだ。
それだけの魅力があり伝統がある武芸なのだ。
 それに社会人チームを有する企業も自身のチームの選手が選ばれずとも、スポンサーに確実になってくれるだろう。企業が社会人チームを作るのは、興行としての商売だけでなく純粋に戦車道が好きだからこそ設立しているのだ。役人の彼は戦車道を知らなさすぎる。
 


西住邸の一室】

 やることが決まるとすぐに各方面へ向けた文書を書くため、筆を取った。すると庭の方より話し声が聞こえる。
 一方はまほであり、もう一方は久しく聞いていなかったみほであった。

しほ「まほ....お客様なの?」

まほ『学校の友人です』

みほ『!』

しほ「..そう」

 私は気持ちの整理がついた。しかしみほはまだなのだろう。あの子が自分から堂々と帰ってくるまでは、私は待つと決めていた。
それでも顔を見たかったのは事実で少しだけ気落ちする。
 


【西住邸しほの私室】

 書面を書き上げ私室へと向かうと、何やらまほがコソコソと私の机を物色している。

しほ「まほ...どうかしたの?」

まほ「!!.......いえ、お母様にこれを。私は友人を送ってきます」スタスタ



 どうやら私の印鑑を持ち出していたようだ。みほの学校の書類か何かにつかったのだろう。友人と隠すのであれば、もう少し工夫して欲しいものだ。
まほが置いていった友人からのお土産は、大洗の特産品だった。ここまであから様なお土産を持った来たのなら、みほは本当は私と向き合うつもりだったのでは...。
 まほが余計な気を利かせなければ、みほと対面できてたのではと考え、しほは顔をしかめるのだった。

菊代「奥様、蝶野様がお見えです」

しほ「わかっています」


――――――――――――――
【西住邸の一室】

蝶野「―――――――」

しほ「...」

しほ「来年の大会に大洗が出てこなければ、黒森峰が叩き潰せなくなるわね」

 元より理事長から話は聞いていた。故に蝶野さんに詳細を求めず、彼女と共に戦闘ヘリで目的地へと早々に向かう。
さてどう説得するものか思案していると、蝶野さんがすでに作戦があると言う。大洗の生徒会長の子と結託して何か考えがあるようだ。
 都内に着くと生徒会長さんと理事長が既に待っていた。私もまでやって来たことに理事長は頭を抱えて色々仰っていたが、適当に流しておいた。
 向こうにとって重要なポジションの私が反論することで牽制し相手がボロをだしたら、そこに食いつくという作戦らしい。
その具体的な内容を聞いてこの生徒会長さんの胆力には恐れ入った。この年にして肝が据わっている。


【文科省 役人の部屋】

しほ「若手の育成なくして、プロリーグは成し得ません。これだけ考えに隔てりが有っては、私がプロリーグ設置の委員長を引き受けることはできません」

役人「しかしですねぇ今年度中にプロリーグを設置しなければ、誘致ができないのはご存知でしょう」

しほ「優勝するほどの学校を廃校にするのは、国の方針にも反します」

役人「まぐれで優勝した学校ですか―――

しほ「戦車道にまぐれなし!どうしたら認めていただけますか」グイッ ゴトン

役人「大学選抜チームに勝ちでもすれば...」

杏「わかりました!」

役人「えぇ..」

杏「今ここで覚書をしてください!噂では口約束は約束じゃ無いらしいぃですからねぇ~」


 作戦通りしっかり釣れた。この生徒会長さんには随分と感心させられる。私は短い間でその堂々たる様と作戦を考え実行する姿勢に好感を持った。
学園を率いる彼女は優秀な人物のようだ。こういった若手が育つなら、学園艦教育というのは優れた教育方法なのではないだろうか。
 取り付けた約束は単純なものであり、大洗女子と大学選抜による試合で勝てばいい。それだけだ。あとは彼女達は試合で奮闘するのみだ。


 ここからは私の番だった。予算面に関しての問題を解決するため、知る限りの企業や有力者へ支援協力を仰ぐ。プロリーグ設置委員の役員達にも、世界大会誘致に向けた広報をするように伝えてある。義援金の募集も行うように指示も出した。
 子供らが頑張っているのだ、裏側で備えてしっかりと支えるのが大人としての勤めである。予算面の問題が解決できれば、仮に負けたとしても学園艦の解体は取りやめにできるはずだ。
 しかし出来れば勝利して欲しい。生徒会長さんの頑張りや全国大会を優勝するために彼女らがした努力が報われてほしい。
だからこの勝負は彼女ら自身によって勝ち取って貰いたいものだ。


 さて相手は『島田流』の彼女の娘だ。期せずして戦車道の2大流派対決となったのだ。みほは西住流とは異なるが、それでもその名を冠するに足る能力を持っている。純粋にどちらが強いかを知れるこの機会を私はただ楽しむのだった。


―――――――――――――――――
【島田邸客室】

千代「家元襲名おめでとうございます」

しほ「ありがとうございます。この度は大学選抜チームを率いている島田流家元にもご了承いただきたい」

千代「受けて立ちます。ただし、やるからにはこちらも手加減は致しません」


 数年ぶりに顔を合わせる昔馴染み。不敵に笑う島田千代の考えは未だに読めない。ただわかるのは彼女も家元としてこの試合に関心と興味があるということだけだった。お互いに自分の娘の勝利を確信しているように余裕のある態度で挨拶を済ます。
 私は屋敷を出ると変わらぬ様子の彼女との過去を思い出し、懐かしむように微笑んだ。同じ頃自室で千代も笑う。二人が思うのは明日行われる試合のことである。
 明日の試合は過去の好敵手であった、お互いの娘達による代理戦闘なのだ。まるで自分達が試合に赴くように二人の闘士は熱く燃える。


お付き合い頂いてる皆さんありがとうございますです。
遅筆ですいません!もうしばらくお付き合いください!
明日は朝が早いので、後日戦闘編を書いていきます。では失礼します。


―――――――――――――――――

【都内某所のホテル】

 島田邸を後にした後、しほは書面にて世界大会への支援を求めた各方面の有力者に直接挨拶しに回っていた。予想していたと通り快く資金援助と協力を約束してくれた。その上協力してくれるであろう企業らに声をかけてくれるそうだ。彼女らの心意気に感謝すると共に、戦車道による広く強い繋がりを感じた。
彼女らも戦車道への熱い気持ちを同じくする同士なのだ。


 ところで書面にて良い返答を得られたのにも関わらず、なぜ待たずにしほが挨拶へ回ったのか。これには理由があった。
それは至極当たり前のことだが例え戦車道を慕い、その繁栄を望む同士と言えども莫大な金額を動かすよう求めたのだ。もちろん世界大会の誘致が成功すれば、世界各国から膨大な資金が入り、支援した彼女らにも見返りはある。
 だがそれでもだ。具体的な見積などの正式な交渉をすることも無く、しほの手紙による願い入れを受けて、二つ返事で快報をくれたのである。
であれば、直接頭を下げお礼申し上げるのは当然のことだろう。人を寄せ付けぬまでの強者であり、表情も険しく不器用なしほ。それでもそんな彼女に信頼が寄せられるのは、彼女が真っ直ぐであり、スジを通すからだ。


そうして各方面への挨拶を終えて彼女が宿泊先のホテルへ着いたのは、日を跨ぐまであと2時間といった頃だった。寛ぐ間もなくしほは電話を取り出した。


菊代『お疲れ様です奥様。』

しほ「ありがとう菊代。明日の教練についてなのだけれど、私は戻れそうにないの」

しほ「これから送るメールの内容を門下生に伝えてくれるかしら」

菊代『畏まりました。別件ですが奥様、まほお嬢様が学園艦にお戻りになりました』

しほ「まほが?」

菊代『門下の逸見さんが迎えにいらして、少し話すと荷物をまとめて突然に出て行かれたのです』


しほ「何かあったの?」

菊代『私も心配しておりましたが、先程お電話をいただき「菊代さん何も言わず出てきてすいません。少しお茶会に行ってっきます」と仰っていました』

菊代『嬉しそうな様子が電話越しにも伝わったので、トラブル等では無いようです」

しほ「?そうですか、まほには戻った時に話を聞きます。それでは菊代明後日には戻りますから、おやすみなさい」

菊代『はい失礼しますおやすみなさいませ』


 まだ黒森峰の夏期休暇は残っているし、しばらく黒森峰の戦車道も休みだったはずだがどうしたのだろうか。問題があった様子ではないようだし、今はみほのことに集中しましょう。慣れない土地で一日動き回ったのは、知らずのうちに疲労を貯めていたようだ。
 菊良へのメールを済ませベッドに横になる。明日の試合は苦戦必須であることは前提条件からわかっている。そんな困難な状況を娘がどのように覆すのかを想像し瞼をとじる。娘の勝利を疑うことなく、そのまま彼女は眠りに落ちていった。


誰も知ることはでは無いが、その寝顔はボコられグマを抱いて眠る、大洗の伝説の寝顔と紛れもなく同じものだった。

――――――――――
あんまり更新できてません!
ちょっと泊まりで仕事なので金曜まで都合がつかず、それまで続き書けないかもです。
レスは大変励みになってます!週末には最後まで書き上げますので、今しばらくお待ちください

【大学選抜VS大洗女子 試合会場】

 空は快晴、風もない。試合観戦にはもってこいの陽気である。昨日のうちに設営は済ませ、既に試合準備は終わっていた。
全ての手配を引受け一夜で終わらせるあたり、役人の手腕が伺える。その仕事ぶりに、しほは彼への評価を改めた。
 試合前に運営スタッフや審判団に挨拶に向かうと見知った顔が駆けてくる。

蝶野「師範お早う御座います!」

しほ「お早う御座います。急だったのに審判長を引受けてくれてありがとう。助かったわ」

蝶野「問題ありません!乗りかかった船ですし連盟委員の一人として彼女達に協力したいと思ったのは私も同じです」

蝶野「何より彼女達の戦いぶりを最後まで見たいじゃないですか!」


 大雑把なようだが、実際は実直で真摯な彼女を門下に持って誇らしく思う。彼女も忙しい身であるにも関わらず時間を作ってくれているのだ。そういった裏での労を表に出さない彼女は本当に器量の大きいできた人だ。そんな彼女はもちろん、この試合は多くの人の協力で成り立っている。
挨拶へ回ったところ、そういった運営の人達も皆蝶野と同じようなことを言う。良い人達ばかりだ。彼女らもまた戦車道を学び、魅了されそれに関する職へついた者達である。こうした温かい人柄の人間が育つのだから、戦車道という武芸はやはり素晴らしい。
 試合とは異なる裏方の人達の働きを見て、戦車道は多くの人に愛され支えられているのだと改めて感じるのだった。

【試合観覧席】

 モニターから少し離れた位置の観覧席に座ると、直ぐに視界を遮るように目の前に日傘が現れた。相変わらずわかりやすく挑発してくる、前席に座る相手に声をかける。

しほ「モニターが見えないわ、日傘を閉じるか席をずらしてして貰えますか」

千代「あら、これは失礼しました。いらしたんですね、気がつきませんでした」ニッコリ
 


 自分達が試合をするわけでも無いのに、互いに威嚇し合う二人。異様な雰囲気のその二人を避けるように彼女達の周りの席には誰も腰をおろさなかった。
二人もその空気のままに千代が少し席を横に座り直し、それっきりお互いそれ以上話すことなくモニターへ視線を移した。
 彼女とは以前より交流が有った。ただしそれは交遊等や対話のような可愛らしいものではない。試合の中で互いの指揮の元に戦車同士でのぶつかり合いによるものだ。学生時代の大会で彼女と争わなかった大会は無いといってもいい。それもその筈で両者は強者で有り、その大会の覇権を握る為に最後まで必ず残るのだから。どちらも宣言したわけでは無いが、そうした雌雄を決する機会が多かったが為に互いを好敵手と認めていた。同時に苦汁をなめさせられた宿敵でもある。


 そういった事情からこの二人の間にあるのは戦車を通した会話が全てであり、仲良く観覧を楽しむような間柄ではないのだ。そしてこの試合は自分達の育てた娘による戦車戦であるため、今回もある意味では戦車を通して二人の交流が行われていると言えるだろう。
 じきに試合が始まる。島田千代と西住しほによる久しぶりの戦車道による戦が始まろうとしていた。


――――――――――――――――――――――――
【試合観覧席】

 しほ静かに激高していた。彼女の射殺すような視線の先、モニターに映されていたものが原因だ。試合前の挨拶で両陣営が一堂に会す、その光景は悲惨なものだった。黒森峰を相手にした時より更に10両も多いのだ。当然乗組員が立ち並ぶその場には、それだけの人数が加算される。多勢に無勢とは正しくこのことであろう。車両数の絶対的優位に加え大学選抜の選手は経験も豊富、絶望的な状況なのである。
 これまでの逆境を全て覆してきたみほに、今回も自分の予想もつかない形で勝つだろうと考えていた。しかしそれはフラッグ戦を前提としていたからだ。にも関わらず、モニターに映し出されていたのは『殲滅戦』である。役人が試合準備を全て引き受けたのはこの為だったのだ。姑息な手段を使うあの男とそれに気がつかなった間抜けな自分に憤る。


千代「.............。」

 千代の方もフラッグ戦を想定していたようだ。それもその筈、殲滅戦とは名前のとおり全車両を殲滅させられたら負けなのである。つまり戦車の台数がモノを言う試合であり、車両としての性能でも優っている大学選抜チームが負けるのは有り得ないのだ。千代はあくまで戦術的な戦いを望んでいた。『西住』の名前を冠する、しほの後継者の一人であるみほと戦術的に愛里寿を競わせたかったのだ。加えて不利な状況での全国大会決勝では隊長車同士の一騎打ちに持ち込み勝利したと人伝に聞いていた。だからこそ今回もそうしてくると読み、個としての能力も競わせられると考えていた。
 だが試合は殲滅戦であり劣った戦車8両に対して優れた30両の戦車である。結果は一目瞭然だ。千代も役人の意向に強い不快感を示して冷たい視線でモニターを見る。


これは『西住』を嵌め、『島田』を貶めた侮辱行為だ。両家の家元たる二人は自分の流派を愚弄したあの男を許すはずが無い。モニターから視線を外すと無言のままに役人の居る設営テントへ向かおうとし、二人は立ち上がった。









 しかし二人がテントに向かうことはなかった。










まほ『待ったーーーーーーーッ!』

 審判長の蝶野の合図で両チームが挨拶を終えようとするともう一人の愛娘の声が響いいた。娘の声を聞き我に返ると、しほは声の方向であるモニターへ視線を戻す。そこには4両の戦車を伴って大洗の制服を来たまほが居た。
 
まほ『大洗女子学園 西住まほ』

エリカ『同じく逸見エリカ』

まほ『以下16名試合に参戦する。短期転校の手続きは済ませた』


 しほは驚き口を開けたままモニターに釘付けになってしまった。質実剛健なまほがこんな大胆で豪快なことをするとは思わなかったのだ。昨夜まほが家を出たのはこの為だったのかと驚愕した。彼女もまた母の血を色濃く受け継ぎ、堅いところが有る。しかししほに似ているから妹を溺愛し、妹の為に行動したのである。予想外な展開により大洗の戦力は重戦車を含む4両の加算で12両となった。増援は続いていく。
 まほ達に続くようにサンダース・聖グロ・プラウダ・アンツィオ・継続・知波単と大洗に縁のある各校から増援が現れたのだ。総車両は大学選抜と同数の30両までになったのだ。


 まるで演出のような展開に観客は湧き、試合も始まっていないというのに大盛り上がりである。一方呆気に取られていたしほだったが状況を理解し小さく笑いだした。その少し先で口元と腹を抑えて島田千代が笑い崩れている。先程までの怒りも嘘の様に消え、二人は再び試合に関心を戻し席についた。
 それにしても今の若手選手は大胆なことをするものだ。大洗と大学選抜の試合が決まったのは昨日のことで有り、それをいつ知ったのかは分からない。しかし一日で短期転校の書類を用意し戦車を持ってきたのだ。大したものである。これだけ多くの協力者・仲間を得たのもみほの人徳によるものだろう。誇らしい。本当にあの子の真価を見誤っていたようだ。あの子の強みは強い絆の仲間と戦うことであり、その仲間は増え続けていくのだろう。その道は正しかった。なぜならその道を進んだことで今こうして、各校の隊長格達がみほの元に集まり共に戦ってくれようとしているのだから。
 こうして大学選抜対大洗女子学園は、大学選抜対高校連合という形にその様相を変えた。


――――――――――――――――――


 試合が始まるとしほと千代はモニターを注視していた。経験はともかく車両数は同数となり、限りなく条件は近くなったのだ。であれば勝敗は隊長の指揮能力によって決まるのだ。
 これは面白い。当初の予定通り二人は存分に試合観戦を楽しむのだった。


 試合が始まると3中隊に別れたみほ達は高台を取るようだ。戦術的に有利になる地形なので抑えるのは有効である。しかしそれは当然向こうも承知だろうし、何よりそれは『西住流』のような進め方であった。嬉しくも思ったが同時に違和感を持って試合を見ていると、モニターのスピーカーとそれに遅れる形で遠方より爆音が響いた。その衝撃は遠く離れた観覧席でも、空気の揺れを感じるほどのものだった。


 優位な高台をとったのにも関わらず、どこからともなくその開けた高台に高火力砲撃が打ち込まれてくる。更に前方と後ろからは半包囲までされ高校連合の中央中隊は追い詰められていた。早くも4両が落とされる。中央中隊はみほのいる中隊と合流を図るべく斜面を全速前進する。開始30分程で立て続けに撃破される高校連合。しかし追撃部隊の手は緩むことはない。
 そんな心象を語る様に暗雲から雨が降りだした。仲間を逃がすために追撃する敵に特攻を仕掛けた3両のおかげで、中央中退は辛くも退避に成功する。この際2両を仕留める。

 強力な重戦車を立て続けに失い、高校連合は開幕戦から大打撃を受けたのだった。この戦力では『西住流』のやり方では勝てないだろうと千代は笑う。雨の中でも傘を刺し悠然とする様からは余裕が感じられた。彼女は『西住流』をよく知っている。同数からならいざ知らず、こうなってからでは正攻法で負けることはないだろう。そんな考えからの笑みであった。軽く振り向き見えたしほの表情も険しいものに見える。このまま徐々に削りきるだろうと勝利を予想しモニターへと向き直るのだった。

千代「....」フフ

しほ「.....」

 しかし千代の読みは外れていた。土砂降りの中、傘を刺さず険しい表情でモニターを見るしほ。傍から見れば娘のチームが大打撃を受けて負けを感じて落胆しているのように見えるかも知れない。だがしほはみほの勝利を未だ疑うことはない。彼女の険しい表情はみほが『西住流』のやり方だったならば、『島田流』のこのチームにおそらくこのまま負けただろうという自分の予想に対するものだった。それは戦車乗りとしての仮想戦をイメージした結果であり、その予想が不愉快だったための表情であった。
 現状手痛い追撃を受けたが、逆境にはあの子は慣れたものだろう。むしろそういった状況下でこそあの子は本領を発揮する。みほはみほらしい戦い方をすればいいのだ。あの子がここからどう状況を打開するのかを考え思考に集中する。そうして彼女の顔はまた一段と険しくなるのだった。


 そんなしほの心中を仮に見れるものがいたならば、雨の中ずぶ濡れになった彼女の姿の見え方は千代とは違ったことだろう。負けを予感したことによる悲愴な姿ではなく、土砂降りなど意に返さないといった強者に見えたに違いない。それを体現するように高校連合もまた、戦力を削られたことなど意に返さず直ぐに対策へと移るのだった。


=現在車両数 大学選抜28対23高校連合=

 今問題となっているのはどこからともなく降り注ぐ超質量の砲撃だ。高校連合はどのように対応するか。しほは本隊とは別に動き出した高校連合の4両小隊を見て索敵用の部隊だと予想する。みほの他中隊達は合流を図るようだ。大学選抜も同様に一度体制を整えるため合流を目指している様子。そんな二つの部隊とは離れた位置で先ほどの4両が例の砲撃元を発見したようだ。
 その正体はカール自走臼砲。要塞攻略に用いられる600mmを撃ち出す化物だ。さて見つけてみほ達はどうするのか。水平な地平でないと運用ができないはずであるから火力のある数両で足元を榴弾で荒らし、砲撃できなくした後ゆっくり仕留めるのだろうか。適当に予想してモニターを伺っていると、小隊はまさかの行動に出た。
 

 みほ達本体に報告し合流するものと思いきや、BT-42が単騎で護衛のパーシングに突っ込み立て続けに2両を撃破。そのまま残り1両となった護衛車と戦闘を始める。同時にカールの居る中洲へ向かう橋から、後ろに乗せたCV33を89式が急ブレーキの勢いで投擲したのだ。
 しかし距離が足らずあえなく失敗する。だがこれで終わらないが『大洗』である。完全にひっくり返った形のCV33が履帯を回転させると、そこにヘッツァーが全速で飛び乗った。さながら加速するジャンプ台のようにヘッツァーは跳ね上がりカールの砲門に上方から砲撃を放つのだった。
 砲身や砲塔から黒い煙を吹き出しカールから白旗が上がる。
 護衛車を引きつけていたBT-42だったが片車輪となり走行不能状態になりながらも、巧みな操縦によって片輪走行で接近し至近距離で砲撃。見事打ち倒す。恐ろしい技術力である、しほはBT-42の乗組員の名前を後で調べようと心に決めた

BT-42は脱落したが、残り3両は無事である。カールを打倒した小隊達は本体へ合流するべくその場を後にするのだった。

千代「!!?」

しほ「...」フフ

 改めて驚かされる『大洗』の発想力とその行動力。みほの体現する仲間との連携による自由な戦い方は、確実にチームに伝播しているのだ。指揮者としてもだが、指導者としての資質があるのだ。少しばかりみほ達と試合をしてみたいという気持ちが湧いてきた。


 1人高揚していると前に座る千代が傘を落として魂消ている。以前に『大洗』の戦い方を見ていた私でもまた驚かされたのだ。初見だったであろう千代が驚くのは当然だろう。そもそも戦車を飛ばそうと考える者など普通いないのだ。観客達はその異質さに気が付くことなく派手な動きに興奮しているが、戦車道経験者は愕然としているだろう。
 常に余裕の表情でしほと同様にポーカーフェイスの千代の驚きの表情に、しほは内心ご満悦であった。気が付けば雨は止み雲の隙間から日差しが指し始めていた。
 反撃の知らせのように天候は切り変わりだし、戦況もまた大きく変わるのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――
=現在車両数 大学選抜24対22高校連合=

【試合観覧席】
 高校連合は全車両合流すると、共に遊園地跡へと向かうようだ。遭遇戦を得意とする大洗らしい地形選択である。大学選抜は以前として強者ゆえの余裕の振る舞いで、高校連合の後を追う。さてここからが本番である。


 城壁のような高く分厚い壁に囲まれた遊園地跡は、その出入り口を3箇所に限ったマップであった。高校連合は各出入り口に中隊を構えさせ、敵が集中する場所に中央で待機させている予備戦力を援護に向かわせ迎撃するようだ。到着と同時にさっそく面白い動きが有った。各車両が配置につく中CV33のみ単独で場内を移動し建物に入っていく。何をするのかと思えばなんと、ジェットコースターのレール上に乗り上げ出したのだ。場内のほとんどの場所を見渡すように走るこのジェットコースターの線路を利用して、逐一敵の位置を知らせられるだろう。さながらそれはGPSであり、レーダーだ。感心していると大学選抜がやってきた。
 

 煙幕を炊き正面ゲートにて4両がデコイとなり、西裏門4両と東通用門へ15両と別れて進撃してきた。CV33のおかげですぐに本体が東通用門とわかったようだ。対応は早い。
 しかし高校連合の迎撃舞台を押しのけるように超重戦車T28が現れる。以前のまほの様にT28を盾にし敵本体は園内へ進行を開始した。
 高校連合は後退しながら攻撃を繰り返し、分散されぬよう上手く固まりながら攻撃を繰り返している。時間はかかるが安全に戦力を削れる縦深防御によって、進行を遅らせながら少しつづダメージを与えている。
 急造チームだというのに上手く連携が取れていた。個々の能力が高い上に隊長格は皆優秀なのであろう。初めて組んだというのにみほの指示を的確にこなしている。

 別の各門でも動きがあった。南正門では敵3両のパーシングをほぼ同時に3両撃破。隊長格3人による3台の車両はまるで同じ教練を受けてきた仲間のように、完璧な連携をとってみせた。その無駄のない美しさは練度を表すには十分なものである。やはり今の若手選手のレベルは非常に高い。それを再確認して、しほは世界大会での選抜をより楽しみに思う。
 西裏門では陽動と待ち伏せからのゲリラ戦によってパーシングを1両撃破。狭い道での先頭車撃破により敵進行を遅らせる。

=現在車両数 大学選抜20対22高校連合=

 ここに来て初めて高校連合が大学選抜の車両数を上回った。だが当然このまま上手くはいかない。何せ相手は変幻自在の『島田』が率いているのだから。嫌な予感というものは大抵的中するもので、今回もその通りとなった。

 分散を恐れ固まっていた高校連合だったが、それを逆手に取る形で包囲されてしまったのである。途中で気がついた高校連合だったが、既に逃げられなくなっていたのだ。
 正門にて3両を倒したまほ達は残党の1両追って本体とは離れた位置にいた為遅れて、包囲網の形成を阻止できなかった。中央にて控えていたみほも間に合わず、包囲はほぼ完成しようとしていた。道中にて2両のパーシングを破るも、高校連合は16両が完全包囲されるという最悪の状況になってしまったのだ。

観客1「ああああ!そっちはだめだよ!」

観客2「これは終わったんじゃないかね」

 モニターに移る完成間近の包囲に観客達は高校連合の負けを感じているようだ。斯く言う私も包囲網が完成してしまえばほぼ壊滅だろうと読んでいた。この局面をどう切り抜けるのか。少なくとも数両は犠牲にしなければならないだろう。仲間を盾として包囲網を抜ける作戦をしほは考えたが、それでも大きな損害がでる。しほが自分が隊長ならどうするか真剣に考え、モニターを注視する。


 すると気になるものを見つけた。モニターのマップに1両だけ、離れた位置で単独行動している車両がいるのである。観覧車へ向かうその車両は何故か
観覧車に砲門を向けている。一体なんのつもりかと訝しんでいると、その車両M3が観覧車を撃ち落とした。
 観覧車の主軸を打ち抜くことで、車輪のような観覧車の鉄骨がその形のまま支柱から落ちたのだ。丘に設置されていた為、観覧車は勢いをつけて転げていく。さながらパンジャンドラムだ。
 そのまま包囲網に突っ込む形で観覧車は下って行き、大学選抜の包囲網を見事崩してみせた。それに乗じて高校連合は一車両もかけることなく無事に脱出に成功する。
 黒森峰戦でもエレファントとヤークトティーガーを機転で撃破したのもあのM3である。しほの中でM3の乗組員達の評価は大変高かった。このM3の乗組員は相当な猛者達なのだろうと彼女は考えている。その実態は自由奔放で適当な少女達であることを彼女は知らないのだった。


=現在車両数 大学選抜18対22高校連合=

 窮地から脱したみほ達はすぐに次の行動に移った。複数の小隊に分かれると各々に任せた遭遇戦を行うようだ。
 まず始めに場内のセットに合わせたカモフラージュによって3突を隠し、待ち伏せによって敵車両2両。セットの建物を吹き飛ばし、3式とPティーガーが連携する。
それに合わせる形でT34/85がフォローし敵車両3両を撃破。知波単4両と89式の奇襲と連携により、敵車両2両を倒す。更にジェットコースターの線路上からリアルタイムで敵の位置情報を教えるCV33を利用して、迷路にて敵を嵌めるとここでまた敵車両2両を落とすのだった。

 どの小隊にも必ず『大洗』として鍛えられた戦車が含まれ、彼女達が他の高校同士の車両を上手くつなぎ合わせているように見える。みほの『大洗』とは人と人を繋ぐ流派なのかもしれない。今まであまり直接的な言葉で考えなかったが、認めざるを得ない。新しく道を拓きそれを、伝えて浸透させているのだ。みほの『大洗』は新しい一つの流派なのだと。
 感慨深い気持ちになりながらもモニターから視線を外すことはない。モニターには現在の車両数が表示される。


=現在車両数 大学選抜9対22高校連合=

 高校連合の邪道とも言える奇策の数々に大学選抜は混乱していた。同時にそれらを実行したことで、大学選抜の無線はさぞ錯乱していることだろう。そこを上手く突いたことによる連続撃破だった。
 先程まで高校連合の負けを匂わせる発言をしていた観客も今度は大学選抜が負けそうだと、手の平を返すような発言をしている。それほどまでに高校連合の連撃の反撃は鮮やかだったのだ。

 しかし高校連合優位なその空気はすぐに消え失せるのである。大学選抜隊長車島田愛里寿が動いたのだ。
 愛里寿の乗るセンチュリオンが動き出すと、動揺し混乱していた大学選抜の戦車達が落ち着きを取り戻した。冷静さを取り戻した彼女らは速やかに3突を撃破すると隊長車と合流を図るようだ。
 それは隊長車の護衛などではない。むしろその圧倒的戦力に追随することで、敵の殲滅を確実なものにするためだ。センチュリオンは場内に入るとたった1両で複数の高校連合車を相手取り、その全てを撃破してみせた。中隊長達と思われるマーク持ちのパーシング3両も、3両が合流した途端に動きが変わった。その動きはまるで3両で一つの生き物であるかのように瀟洒で可憐、華のあるまるで演舞のような動きであった。

 各個が強者でこそ最強であるとする、単車での華美で鮮やか且つ圧倒的な技量を重要視するのが『島田流』である。マーク持ちのあの3両はおそらく『島田』の門下なのであろう。その技量と独特の華やかな動きですぐにわかる。
 3両も出会う的全てを葬り、隊長車へと合流を急ぐ。しかししほはその3両を見て感心もしたが同時にまだまだだと思った。3両の強さは『島田流』の動きに3両の高レベルの連携を加えることで、成り立っている。だが『島田流』とは個の力に重きを置くのだ。3両の連携による瀟洒な立ち回りではなく、1両での圧倒的なまでの技量による華美で豪快な戦闘をしてこそなのだ。それが私に辛酸を舐めさせた島田千代の『島田流』なのだ。誰よりも彼女の戦い方を見てきたしほは高い練度の3両の乗組員に賞賛と同時に、未熟さをみたのだった。

 連続して落とされていた高校連合だったが、PティーガーとT34/85とティーガー2の連携よって大学選抜の中隊長3両の内1両を落とすことに成功した。
 この際のPティーガーのエンジン規定をくぐり抜けるように、モーターの方を限界まで弄るという発想も大概有り得ないものだったが、しほは慣れてきたのか驚かなくなっていた。それどころかモーターを弄り速力の向上ということに少しだけ興味を持ってしまったのは秘密である。
 
 短時間で展開は反転を繰り返し、怒涛の応酬戦は最終局面へと突入した。


=現在車両数 大学選抜3対2高校連合=

 あれだけいた戦車だったが、この場に残ったのはこの5両のみとなった。高校連合各車の尽力により、T28をはじめとする大学選抜のこの場にいない戦車達は全て撃破されていた。大学選抜側は隊長車のその圧倒的な実力によって視界に映る全ての高校連合車両をなぎ払った。残ったのは『島田流』と『西住流』の2大流派の指導を受けた者達であった。
 

 5両すべてがアトラクションの並ぶ広場に入るとすぐに戦闘は始まった。最初に脱落したのは『島田』のパーシングだった。まほがトンネルに飛び込むのと合わせるように、みほの乗るⅣ号が富士を模した高台を駆ける。囮となったまほを追走する形でトンネルに入ったパーシングを出口で急停車することによって動きを奪わった。センチュリオンと接触するも上手く砲撃を回避したⅣ号は、まほによって止められたパーシングをトンネル上部から車体を乗り出す形で真上から砲撃する。排気口を抜かれ白旗をあげるパーシング。これで2対2である。

 この状況で横転の危険が有ることを平然とやってのけるⅣ号の乗組員達は流石だ。砲撃による衝撃で上手く体制を立て直せたものの、失敗すればあの場で走行不能だ。みほが乗組員を高く評価し信頼しているのが伺えた。
 サラッと行われた今の連携だったが、パーシングを止めるタイミングとⅣ号が上方にくるタイミングは完璧に合わせられていたから出来たものである。息の有った姉妹二人だからこそ出来るものであった。

 娘二人がこうして再び連携を取っているのを見れたことでしほの心は浮き立っていた。一度は自分の手によってその二人の間を裂いたのだ。それがこうして再び共に戦っている。消えたと思っていたが、自分の中にある蟠りはまだ残っていたようだ。それはみほに対してだけではなく、みほを離したことで姉として心配し葛藤していたであろうまほを思ってのものだった。
 そうした憂いがようやく解消されたのだった。感傷に浸っているウチに、もう一両のパーシングは倒されていた。

 =現在車両数 大学選抜1対2高校連合=

千代「.......」

しほ「.......」

 
 両家の娘が対峙する。そしてこれは両後継者による流派の代理戦闘だ。『島田』を継ぐ各個を鍛え華美で豪快、単騎にて最強の道を行く島田愛里寿。対するは『西住』を継ぐ規律と鋼の精神によって、全車両で作り出す圧倒的な戦力で蹂躙する道を行く西住まほ。
 果たして勝つのはどちらの流派なのか。2大流派の正当後継者の戦いが始まった。
 試合前までの笑みは千代にはなく、当然しほも真剣な顔でただモニターを見ていた。

 千代はこの戦いが今まで何度もやりあってきた、しほとの戦の続きだと思っている。この試合を『島田』対『西住』だと思っているからだ。
しかししほは違っていた。高校連合は『西住』であって『西住』にあらず。この支柱となっているのは西住みほによる『大洗流』なのだ。試合前までは千代と同じ気持ちであったが、試合の中でみほの『大洗』は新しい形の流派の一つと認めてしまった。であればこの戦いは私達の代理戦闘などではなく。『島田』VS『大洗』。『個の強さVS仲間との絆』と言った方が正確だろう。しほはまた考えを改めたのだ。みほに感化されたのか彼女もまた柔軟になってきていた。
 異なる二人の気持ちを乗せて、視線はモニターへと突き刺さる。
 

 西住姉妹による連携と連撃は確かなものだった。並みの相手であれば数秒と持たないだろう。しかし相手は島田であった。愛里寿は超信地旋回によって砲弾を避け、踊るように動き回りアトラクションを吹き飛ばす。その華やかで豪快な動きは完全に『島田』の戦闘である。
 先程破れたマーク持ちのパーシング達は1両を削がれていたことによって連携がうまく機能できていなかった。だからこそ敗れたのだ。彼女達は3両で『島田』再現しようとしていた。だがここに居る愛里寿は正しく単騎で『島田』を体現しているのである。さすがは正当後継者だ。
 それに立ち向かう『西住』姉妹。しかしその戦い方は到底『西住』とは言えないだろう。それもその筈である。『西住』は集団であることを前提としている。陣形により包囲し火力で殲滅する。そうしたやり方を得意とするのだ。この場にいるのは2両のみだ。包囲などできないし、センチュリオンが相手では挟撃しようにも片方が早々に打倒されて直ぐに終わりだろう。
 そうした様子を見てここに来て千代も察する、愛里寿が戦っているのは『西住』ではないのだと。

 二人と同様に会場も静まり返っていた。それだけ皆集中して、この最終局面を見ているのだ。繰り返される攻防。どちらも一歩も譲らないでいた。
 そんな中みほとまほが互いに何かを伝えた様子がモニターに映る。何か仕掛ける気のようだ。だが先に仕掛けたのは愛里寿だった。再び合図を送ろうと先行するみほが振り向いたその一瞬にアトラクションを突き破って距離を詰めてきたのだ。Ⅳ号は後ろを取られる形で停車し、センチュリオンの砲身が狙いを定めた。
 しほは心臓が鷲掴みにされたような気分になったが、緊迫したその瞬間に砲撃が放たれることはなかった。戦闘の余波で動き出していたクマの遊具がⅣ号とセンチュリオンの間に入ってきたのだ。一瞬の止まった時間に早く反応したのはみほだった。Ⅳ号が動くのに遅れてセンチュリオンが砲撃する。決着がついたかに見えた戦いは、予想外の乱入者によって延長された。

お互いに体制を立て直すように距離をとる。広場の出口にセンチュリオンが、その正面の富士を模した高台にⅣ号とティーガー1が縦列に並ぶ。両者は向かい合うと同時に動き出した。

 千代・愛里寿の2人はⅣ号を盾にしての突撃と予測した。至近距離ならともかくあれだけ離れていればⅣ号の砲撃ではセンチュリオンは抜けない、同様にティーガー1でも距離があれば抜けないのだ。であれば接近する前に順次倒せばいい。しほも同じことを考えていたが、同時にみほはきっと違うことをするのだろうと予想する。これまでもあの子は私を驚かせてきた。当然のように私の想像の先を行く。しほはみほの勝利を疑わない。先程まほとみほが何かやり取りをしている姿が映った以上、単純な突撃などありえないと思ったのだ。
 動き出す両雄。高台からの降下によって加速する西住姉妹のⅣ号とティーガー1、十分な距離があったはずのその間合いはティーガー1の砲撃により一瞬で消えた。
ティーガー1が放ったのは空砲であり、打ち込んだのは目の前を走るⅣ号へだった。空砲により急加速したⅣ号は刺し違えるようにセンチュリオンに砲身を突き刺し砲撃する。白旗があがったのはセンチュリオンとⅣ号の両雄からだった。残存するはティーガー1のみ。
 審判団の目視確認も終わり、勝利宣告がくだされる。


審判員「目視確認.....残存車両1」

蝶野「大洗女子の勝利!」

観客「「「うおおおおおおおおおおおおッ!」」」

 かくして勝利を手にしたのは大洗女子学園改め高校連合であった。
 歓声に紛れるように二人の宿敵は言葉を交わす。

千代「次からは蟠りの無い試合がしたいですね」フフ パチパチ

しほ「ええ、まったく」フフ パチパチ

 揃って笑う二つの流派の家元達。当初は代理戦闘だと息巻いていたが、勝利したのは『西住』でも『島田』でもない『大洗』だった。そこに流派やこれまでの試合における溝はなく、ただ2人の戦車乗りが見事に勝利したみほを賞賛するのだった。 
 

――――――――――――――――――

【観覧席の出口付近】

 閉会式が終わりほとんどの客が退場すると、しほと千代も人の少なくなった出口へ向かう。すると満面の笑みの理事長と失意の表情の役人がいた。

役人「あ、あのクマのおもちゃが通らなければ、大学選抜が勝っていたはずだ!あんなのは実力じゃない!運がよかっただけだ!」

 この後に及んでまだ言うのかと、隠れて殲滅戦に試合を決定していたことなども含めてしほは腹を立てた。しかし彼女が声にするまでもなく、そんな情けない姿の役人を咎める者達がいた。
 しほや千代同様に出口へ向かう残っていた観客達だった。


観客E「その幸運を手にするために誰しもが努力してますのよ。偶然があったとしても戦車道はチームワークに成り立つ、それがあったからこその勝利ですわ」

観客F「エクレール様あんまり他の方の会話に口出しするべきではないですよ?」

観客A「大の大人がみっともない、努力した方が強く強いほうが報われるそれが戦車道でしょ。知らないの?」

観客1「おい、変な人に絡むのはやめた方がいいぞA」

観客2「車長も本人の前で変なとか言わないほうがいいと思うよ」

 みほやまほと同じくらいの年の子達が、通り過ぎざまに役人を非難していった。他にも役人の発言を不快に思った客達が横を抜ける際に彼を睨んで行った。

理事長「君も自分の言ってることが負け惜しみだってわかってるんだろう。他の見に来てた人の反応を見てはっきりわかったでしょ?」

役人「くそ...」

 しほは色々言ってやりたいことがあったが、もう少ないとはいえ人の往来がある場所だ。何より先程の少女達が代わりに苦言を代弁してくれたから良しとしよう。理事長があとは上手くやってくれると信じて肩の力を抜いた。
 隣をみると千代も同じような心境だったららしく、目が合うと互いに軽く肩をすくませる。

千代「今度門下同士で戦わせてみましょうか」クス

しほ「受けて立ちます。ただしやるからにはこちらも手加減は致しません」フフ
 
 実際に対峙して自分と同じように娘を見る千代と接して、島田千代という人物をしほは思っていたよりも近くに感じた。同じ家元であり娘を持つ身、そんな似ている境遇からも親しみを感じていた。そんな彼女になんとなく、いつか言われた言葉をそのまま返してみる。

千代「あら、案外面白い返しをするんですね。そういうの苦手な方だと思ってました」

しほ「貴方ももっとひねくれた人物だと思ってました」

 すこし打ち解けた二人はその後短い言葉を交わすと挨拶を済ませ、それぞれの背負っている家へと足を向けた。以前の自分ならありえないことだが、今は人との気持ちを考え、打ち解けられるようになった気がする。これもみほに感化された影響なのだろうか。私も『大洗』門下に入ってしまったかと1人冗談を考え笑う。これでみほの学園艦は守られるだろう。
大々的にこの度の試合を公開したのだ、これでまだ言うのなら国民の顰蹙を買うことになる。もう大丈夫だろうと満足し彼女は歩き出す。
 本音を言えば、みほとまほに一声かけて行きたい。しかしみほ自身が気持ちを整理し自分の意思で戻ってくるまで、私から接触はしないと決めていた。しほはいつかみほが戻ってくると信じて、西住の家へと帰っていった。


――――――――――――――――――――
【西住邸の一室】

 あの騒動があってから1ヶ月程が経った。騒動があった直後は多忙な毎日となった。援助を依頼した方達が紹介してくれた企業から資金援助、スポンサー契約などの話があがったのだ。それは喜ばしいことだったのだが、多忙となったのはその数のあまりの多さによるものだった。大学選抜対高校連合の試合はネット配信されていたらしく、廃校から脱するために戦う彼女達を応援したいと言う声で一般の方からの義援金まで集まった。義援金の募集をした趣旨としては世界大会に向けてのものだったのだが、蝶野さんによる過剰なまでの大洗を救おうとする煽りに釣られた人が大勢いたようだ。実際そのお金を使って学園艦解体分の金銭を賄えるので、大洗のためといえばそうなのだが騙したようで気が引ける。

 多忙となったことは順調に世界大会へ向けて戦車道連盟と国が本格的に動き出したことを意味している。
 プロリーグや選抜選手の育成なども本格的に決まってきた。それに伴いわかったことなのだが、大洗の学園艦は解体ではなく流用する予定だったらしい。というのも代表選手達の移動式演習場と選手村を載せた艦を作ろうとしていたそうなのだ。その為に既存の学園艦を利用する方が、早く運用できるということでの廃校だったのだそうだ。仮名で施設艦と呼ぼうか。
 施設艦を作り早期から選抜選手達の育成及び強化をすることで代表選手の強化を図る計画があったそうだ。しかし今回の騒動で予算は得たが施設艦の完成までには時間がかかってしまう。そこで私は西住の所有する演習場の貸出を提案したのだ。連絡を取ったところ島田流家元も協力すると返事があり、それならばと玉田流の協力の声もあがった。島田・西住・玉田の広大な演習場を活用することで、選手達の早期育成に関する計画の問題も解消された。
 そうして問題は徐々に解消され話は進み、つい昨日まで仮ではあるが代表選手の選考が行われていた。仮というのも世界大会は数年後、まだ先の話なのである。その為伸びしろのあるものも含め一度候補達を決め、その候補を定期的に3家の演習場で鍛え練度を高めるということになった。そしてその中から正式な選手を選ぶのだ。

 余談なのだが島田千代とはあれ以来連絡を取るようになった。戦車道の話や娘の話などたわいないことを話すくらいの間柄である。そんな彼女から聞いたところによると、やはり大学選抜の選手達は手を抜いていたそうだ。序盤での撃破も可能だったが、廃校の話を聞いて気持ちよく蹂躙などできるわけがない。しかしそんな彼女達もカールを倒されてからは本気となったらしい。だが最初の高地を目指していたような正攻法ではなく、突然の奇策の数々に翻弄されるといった情けない結果になってしまった。正直舐めてかかっていたと反省していたので教練の量を倍にしてあげたとのことだった。
 試合後さっぱりした顔をしていたが、千代は負けたことを案外根に持っているようだ。そのうちみほ達に再戦を申し込むかもしれない。


 ちなみにカールについては役人が使うよう要求してきたそうだ。600mmを撃ち出すカールをタダで貰える上にそれを好きに放てるということで、つい了承してしまったらしい。

 問題の解決と共に構想は現実味を増し計画は形になってきた。次々に進む様相は戦車道の試合に似ている。そんな多忙な毎日がここのところ続いていたが、今日から数日はしほは休みなのである。世間は今シルバーウィークであり、しほもまた祝日によって体を休めていた。
 疲労がたまっているはずの彼女だったが、疲れている様子は微塵もない。表情は普段通りの仏頂面ではあったが、その内心では喜び勇んでいた。原因は彼女の手に握られた一通の手紙だ。差出人名は西住みほ。内容はシルバーウィークに帰省する。というものである。そろそろ到着するだろうか。私同様に浮き足立っていたまほが電話を受けて先程駅まで迎えいったのだ。
 そわそわとしながら菊代が入れてくれたコーヒーを飲みながら、何を話すか考える。
 

 しかし子供というのは親の思い通りには動いてくれないものである。
 しほの考えがまとまらぬ内に呼び鈴は鳴らされた。玄関の方で菊代とみほが話す声が聞こえてくる。まほも含めた3人がこの部屋へ向かっているのを感じた。さてどうしたものか。
 昨年のことを詫びようか、全国大会のことを称えようか、候補選手の一人として名が上がっていることを伝えようか、己の道を見つけたことを褒めようか。伝えたいこと話したいことはいくらでもあった。しかし彼女は西住しほである。余裕を持ち柔軟になったとはいえ彼女は不器用なのだ。
 故に彼女は多くを語るのは苦手である。だからこそシンプルに自分の気持ちを込めた一言から伝えよう。撃てば必中 守りは硬く 進む姿は乱れなし 目標を見据えて、しほは娘たちを待ち構える。
 
 襖が開くと同時にそちらを見やる。緊張した様子で言葉を発し、その都度飲み込むみほ。まほはただ見守るように下がって見ている。菊代も同様であった。
さて子が行き詰まっているのなら親が先を示さなくては。今度は正しく道を示せるように、しほは齷齪する愛娘へ向けて微笑みながら声をかける。





しほ「おかえりなさい」



 当たり前の一言が彼女からみほへ向けられたのはいつ以来だろうか。緊張を解いて泣き出す娘を抱きしめ、しほは自分が母であることを実感する。

以上で完結になります。保守や温かいコメントをくださった方々ありがとうございます。
自分の中のストーリというかイメージを読んでもらえてその意見が貰えるのはとても嬉しいですね。
今まで読むだけだったSSでしたが、最近書く楽しさも実感できました。

長く稚拙な文章になりましたが、最後までお付き合い頂いた方々ありがとうございますです。

過去作の【ガルパン】黒森峰生徒A「...よかったね副隊長」もよかったら読んでくだせぇ

BT-42の乗組員調査は技術の高さから、代表候補の1人として推薦しよう。というしほの考えから来たものです。
みほ・まほ・他隊長格以外の有名じゃない選手でも、世界大会の代表候補に相応しい技量を持っている選手が、高校連合の中にたくさん居るって言うのを表現したかったんですが上手く書けませんでした。

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