電「ケッコンカッコカリの書類が届いたのです」 (57)

電(数日前に本部からケッコンカッコカリ一式が届いてからというもの……)






提督「電、この書類を大淀に届けてくれ」

電「分かりました。今から届けてくるのです」

提督「あぁ、頼む」

電「」ガチャ

電「」パタン



金剛「あっ! ヘーイ電! 提督の様子はどうデスカー?」

電「金剛さん。提督さんは、えっと……いつも通りだと思うのです」

金剛「そうデスカ……。ンー、もし私を呼ぶことがあったら、すぐに教えて欲しいのネー!」

電「分かりました。では失礼するのです」






電(鎮守府内が少しざわついているのです)

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五十鈴「あら、電」

電「五十鈴さん。こんにちはなのです」

五十鈴「はいこんにちは。何してるの?」

電「この書類を大淀さんにお届けする途中なのです」

五十鈴「なんの書類?」

電「内容までは……」

五十鈴「ちょっと貸してもらってもいいかしら?」

電「えっ。あの、中身を見るのはいけないと思うのですが……」

五十鈴「見ない見ない! 見ないから、少しだけね!」

電「は、はぁ?」スッ

五十鈴「ありがとう」

五十鈴「」マジマジ

五十鈴「」スッ スッ

五十鈴「ふーん、紙以外無さそうね……。ありがとう、電」スッ

電「は、はいなのです?」

五十鈴「じゃあ、秘書艦のお仕事がんばってねー」テクテク

電「あ、ありがとうございます。失礼しますのです」ペコ

電「……」

電(五十鈴さん、指輪が封入されてないか調べてたのです……)











電「大淀さん」

大淀「電さん、どうしたの?」

電「提督さんから書類を預かってきたのです」

大淀「あら、ありがとうございます。なんでしょうか……」

電「……」ソワソワ

大淀「ふふっ、気になりますか?」

電「えっ!? い、いや! 気にならないのです!」

大淀「そうですか。でも良かったら電さんも、見てください」

電「これは……今月の資材の予算計画書ですか」

大淀「みたいですね。備蓄量を考えると、ここは潤沢とはいえませんね」

電「その通りなのです。深海棲艦との闘いも激しさを増すばかりで……」

大淀「そういえば、電さんはケッコンカッコカリのお相手、誰になると思いますか?」

電「えっ、あ、そのお話ですか……」

大淀「ケッコンカッコカリすることで、燃費の向上の効果があるみたいですしね」

電「うーん、練度でいえば金剛さん、赤城さん、加賀さん、大和さん、利根さん、千代田さん、陸奥さん……」

大淀「そして、あなた」

電「お、恐れ多いのです」

大淀「着任してからの期間では、金剛さんが一番の古株ですね。次に赤城さんと加賀さん」

電「電は大和さんの次に新参者です」

大淀「みなさん、提督への好意はありますし、悩みどころでしょう」

電「……///」

大淀「うちの提督は真面目ですから、しっかり考えて決断してくれると思います」

電「電も、そう思うのです」

大淀「では電さん。書類、ありがとうございます」

電「はい、失礼しますのです」

電「ただいまなのです」ガチャ

提督「ご苦労様、電。ちゃんと大淀に届けてくれたか?」

電「はい、届けたのです」

提督「ありがとう。戻ってきたばかりで悪いのだが、もう一つ頼みごといいか?」

電「なんでしょう?」

提督「大和を呼んできてくれ」

電「!」

電「分かり、ましたのです……」

電(その後、提督さんからケッコンカッコカリを申し込まれたことを、嬉しそうな大和さんの口から聞きました)

電(数日経った今でも、鎮守府は祝福と落胆の空気が入り混じったままですが、次第に収まってくると思います)

電(本音をいうなら、電を選んでくれるんじゃないか、と期待していた部分もあったのです。だから大和さんが選ばれた時は、ショックでしたし、何より泣いている金剛さんの姿が心に深く残っています)







電「提督さん、第三遠征部隊が無事帰還したのです」

提督「了解した。各自、補給と休息をとるように伝えてくれ」

電「分かりましたのです」

提督「それと、この書類を本部に送っておいてくれ」

電「これは……」

提督「ケッコンカッコカリ一式の追加申請の書類だ」

電「あの……」

提督「ん? どうした?」

電「それは、えっと……提督さんはジュウコンをする、ということなのですか?」

提督「その通りだ」

電「……」

提督「どうした、電?」

電「……」

電「……提督さん、あの、お、恐れ多いのですが、意見具申があるのです」

提督「……ふむ。聞こう」

電「提督さんは先日、大和さんとケッコンカッコカリを行ったのです。それはつまり、大和さんとの間に強い絆を結んだということなのです」

電「確かに他の鎮守府ではジュウコンをしている所もあるのですが、個人的にはそれは、不誠実なことだと電は思うのです。なので、大和さんの好意に応えるためにも、ジュウコンはするべきでは……ない、と思うのです」

提督「……」

提督「先程君に与えた仕事に、追加の指示を出す。本部から追加のケッコンカッコカリ一式が届き次第、該当する練度の艦娘たちに燃費の悪い順に配っていってくれ」

電「それって……!」

提督「以上だ」

電「それは酷いです! 提督さんは電たちをなんたと思っているのですか!?」

提督「反対に聞こう。電は自分たちのこと何だと思っている?」

電「い、電たちは艦娘であり……」

提督「ならば艦娘とは何だ?」

電「艦娘とは、えっと……」

電「……」

提督「……」

提督「質問に答えなくてすまない。だが、電自身にもしっかり考えて欲しかったんだ」

提督「電、君が考える艦娘とは何だ? 他の艦にも聞いてみるといい」

電「はい、なのです……」









隼鷹「艦娘ぅ? 艦娘は艦娘じゃない?」

皐月「艦娘とは僕たちのことだよ」

木曾「艦娘……。それはこの海を守ることのできる唯一の存在」

睦月「艦の……娘?」

秋雲「うーん? 艦を擬人化したやつでしょ」

最上「艦娘は人だよ」

大井「艦娘とは兵器ですね」


~~~
電「提督、入るのです」ガチャ

提督「電か」

電「……」

提督「どうだった?」

電「正直、分からなかったのです……」

提督「そうか」

電「みなさん、色々なことを言っていて」

提督「艦娘という存在を定義付けすることに、正解はないと私は考えている。個人個人の見方はあっても、絶対的な見方は存在しない。だから、電自身の考えで艦娘とはどういうものか捉えるしかないのだよ」

提督「それならば大別して、艦娘は人か兵器か。どっちだと思う?」

電「それは、その……」

提督「元々、人の定義は刑法上だと胎児が母体から一部でも露出したら、人としてみられるのか通説らしい。生物学的にはヒトとは、脊索動物門ほ乳類綱サル目ヒト科に属しているのがヒトとされている。しかし、今私たちが考えている人とは、こういった『ヒト』のことではないよな?」

電「はいなのです」

提督「なのでいわゆる人というのは、常識的な見方、もしくは社会的な見方から人と判断されるのが普通だ。しかし艦娘同様、人としての絶対的な定義はない」

電「常識的な見方、ですか」

提督「そうだ。これに基づくと世間の目は、電たち艦娘を人として考えるだろう、と私は思う」

電「電たちは人……」

提督「電も五感があるし、お腹も減るし、疲れたりもするし、怪我だってする。そこはなんら人と変わりないだろう?」

提督「じゃあ次は、兵器としての点を考えてみよう」

電「艦娘は兵器かどうか、ですか……」

提督「艦娘は人間と違って、人工的に作られて生まれてくる。電の一番古い記憶は?」

電「……鎮守府のドッグなのです」

提督「艦娘が作られた目的は、深海棲艦と戦うためだな」

電「そして、この海に平和をもたらすためなのです」

提督「そのために、艤装を装着することができ、通常の人間なら死ぬ砲撃にも耐えることができる」

提督「存在意義が、対深海棲艦用兵器なんだ」

電「今までのお話からすると、電たち艦娘は人でもあり兵器でもある……?」

提督「人でも兵器でもない存在ともいえるね」

電「結局、よく分からないのです」

提督「私の考えと電の考えを合わせる必要はないさ。だから電自身がしっかりと考えて欲しいと言ったんだ」

電「難しいのです……」

提督「まぁ、だろうね」

電「提督さんは……」

提督「うん?」

電「提督さんは電たちを何だと思っているのですか?」

提督「……」

提督「『兵士』かな」







電「……」トボトボ

鈴谷「あれ、電じゃーん。何してんのー?」

電「あっ、鈴谷さん。こんにちはなのです。今は……お散歩を……」

鈴谷「ふーん、要するに暇なんだね。アタシと一緒」

電「……」

鈴谷「……」

鈴谷「あー、あのさ、電? ちょっと聞いてもいいかな?」

電「なんでしょう?」

鈴谷「落ち込んでない? 大丈夫?」

電「落ち込む……。あの、ケッコンカッコカリのことですか?」

鈴谷「まぁね。熊野と喋っててさ、私ら練度足りないから候補には入ってないけど、選ばれたいよねーって。だから電の気持ち、少し、分かる……」

電「確かに、電を選んでほしかったって気持ちもあるのですが、提督さんの判断なら仕方ないと思うようにしているのです……」

鈴谷「そう、それなんだよね」

電「?」

鈴谷「提督の判断ってやつ」

電「……が、どうかしたのですか?」

鈴谷「いや、うーん……なんだろ。はっきりと言葉にしにくいんだけどさぁ」

鈴谷「大和さんが嫌いって、意味じゃないんだけど……。大和さんが選ばれたことで『あぁ、やっぱ結局は性能かぁ』って思っちゃってさ」

電「……」

鈴谷「提督が私たちをただの道具だと思うような人じゃないことは知ってるけど、ケッコンカッコカリで選んだ相手を見るとやっぱそういうことじゃん?」

電「鈴谷さんは、間違ってたと思うのですか?」

鈴谷「間違ってるじゃなくてさー。うーん……、ケッコンカッコカリを単なるレベルキャップ解放の手段じゃなくて、ケッコンカッコカリの名前とか、なんで指輪なのかとか……。そこらへんをもっと提督には考えて欲しかったなぁーって」

電「……」

鈴谷「うわぁー、やっぱこれって非難してるのかなぁー。ヤバい、頭ごっちゃなってきた……」

電「なんとなく、なんとなく鈴谷さんの気持ち、分かるのです……」

鈴谷「いやいやいや! 分からなくていいから! 変なこと言っちゃったから忘れて! んじゃアタシいくからー」テクテク

電「あっ、あの! 鈴谷さん!」

鈴谷「うん?」ピタッ

電「心配してくれて、ありがとうございましたなのです」ペコリ

鈴谷「いいっていいって。がんばろーねー!」






電「……」テクテク

電(鈴谷さんの言っていたこと、電たち艦娘にとってケッコンカッコカリはとても特別なものだった……。練度が足りない艦娘でも意識するほどに……)テクテク

電(提督さんが電たちを使い捨てるような人ではないのを知っているから、ケッコンカッコカリも相手のことを想った選択をしてくれると期待していたのです……)テクテク

電(でも実際は……。鈴谷さんの言葉は、やるせなさのことを言っていたのです……)

電「うーん……」テクテク

明石「電? どうしたの?」

夕張「何?電が来たの?」

明石「ええ。何かドックに用事?」

電(考え事に夢中で、いつの間にかドックに迷い込んでいたのです……!)

電「ご、ごめんなさいなのです! 考え事をしていて……」

明石「ドックと気付かないくらい、夢中になるなんて。どんなことを考えていたの?」

夕張「新装備のアイデア?」

電「そ、それは……」











夕張「なるほどねぇ……」

明石「難しい話よね」

電「はい……」

明石「電は艦娘がどうやって生まれるか知ってる?」

電「どうやって……? ドックで生まれるのでは……?」

明石「場所はね。燃料とかボーキなどの資材を使って。ただ、実際に艦娘が建造される過程は知らないのよ」

夕張「資材を妖精さんに渡して、その後は出来上がるのを待つだけだもんね」

電「……」

明石「妖精さんってみんな可愛いし、とってもいい子だけど、妖精さんが何なのかは誰も知らない」

明石「自分がどうやって作られてたのか知らず、自分を作った者の正体も知らないって、ゾッとしない?」

明石「大本営は艦娘の詳細をひた隠しにしているから、大部分は未だ闇の中なんだけど……。あっ、ここからは私の予想っていうか妄想だからね! 私は、私たち艦娘は量産型じゃないかと思っているの」

電「量産型、ですか?」

明石「電も聞いたことない? 艦娘の中にはたまに、生まれる以前の記憶や、ずっと前の大戦の記憶を持っている子がいるって話」

電「その話は電も聞いたことがあります」

明石「私はね、艦娘とは艦娘じゃない人間だった元の私たちと、艦の一部を融合した存在、試作型(プロトタイプ)があると考えている。その試作型の情報を基に量産化されたのが、私たち艦娘。それなら艦娘になる前の記憶も、大戦の記憶も、試作型の影響と考えれば合点がいくわ」

夕張「私たちはクローンってこと?」

明石「技術的に艦娘がクローンなのかはわからないけど、それに近いものじゃないかな」

夕張「うーん、まぁ他の鎮守府にも『私たち』はいるものね」

明石「そんなことを思っていたらね、人間と違う部分を見つけて、『あぁ、やっぱり自分は作られたんだな』と感じては、自身が兵器だってことを実感するかな」

電「……明石さんは、艦娘は兵器だと?」

明石「そうね、そういうことになるかしら」

夕張「電はどっちだと思ってるの?」

電「電は……」

電「……」

電「……まだ答えが出せないのです。提督さんにも、よく考えろと言われてたのに、まだ……分からないのです」

夕張「そうね……。私もはっきりと、答えを出せないかも。ただ……」

電「?」

夕張「電は、『他の』電にあったことはある?」

電「は、はい。演習で何度か……?」

夕張「私も他の自分に会ったことあるし、ここの鎮守府にいる子たちの同型も会ったことがあるわ。うちの龍讓は元気いっはいだけど、他の龍讓は大人しかったり、大人しい白雪がよそでは活発だったり……」

夕張「明石の話を基にするなら、量産された私たちは同じ性質を持っている。けれど、こうして違った特徴が表れるのは、環境要因が含まれているからだと思うわ」

電「環境、要因……」

夕張「同じ電でも、それぞれの鎮守府でそれぞれ違った刺激を受けるから、異なる電に成長する。その部分は、兵器には持ちえない電自身の個性であり、人としての部分じゃないかしら?」

電「電の人としての部分……」

夕張「もし、電が自分の人としての部分を見失いそうになったら、私の今言った話を思い出してみて」

電「は、はい……。ありがとうなのです」

明石「じゃあ私たちは作業に戻ろっか?」

夕張「そうね。大分話し込んじゃったし、じゃあね」

電「失礼しますのです」


~~~
電「」ガチャ

電「提督、休憩から只今戻ったのです」

大淀「おや、電。お帰りなさい」

電「大淀さん? あの、提督さんはどちらに……?」

大淀「提督なら私と入れ替わりで、席を外されました。諸用のようでしたけど」

電「そ、そうなのですか……」

大淀「それで、電さん。提督がジュウコンをされるというのはお聞きになりましたか?」

電「……はい」

大淀「……納得いってない、という顔ですね」

電「正直なところ……」

電「ジュウコンされるのが不純な理由なら、もっと分かりやすく怒れてたと思うのです。でも、大和さんを選んだ理由もジュウコンされる理由も、艦娘にとって冷たい理由ですから、なんだか……やるせないのです……」

大淀「……上の者と下の者で、目的に対する責任の大きさが違うのは仕方のないことです。私たちが思っている以上に、提督は海軍の世界の中で行動しなければなりません」

大淀「電さんも旗艦として部隊を背負った経験があるからこそ、鎮守府を背負っている提督の心境は理解できる筈です」

電「そんなの、分かっているのですが……」

大淀「ですが……何でしょう?」

電「提督さんは……提督さんは、考えすぎなのです!」

大淀「……」

電「鎮守府の運営者も! ケッコンカッコリの相手を選ぶ理由も! ジュウコンの理由も!」

電「もっと電たち艦娘のことを考えて欲しいのです! 目的よりも!」

電「全部全部、真面目過ぎるのです!」

電「ここだけです! 他の、他の鎮守府はもっと……もっと楽にしているのです! ここだk」

大淀「他が良いというなら、他の鎮守府にいけばどうですか?」

電「ッ!!」

大淀「……電さん。秘書艦であるあなたと同様に、私も鎮守府の運営を手伝うようになり、他の艦よりも鎮守府全体が見えるようになったと思っています」

大淀「だからこそ、私は提督と判断は妥当だと考えています」

大淀「私情を挟んで特定の艦娘を選ぶことは、相手に対する全責任を負うことです。人か兵器か不明な私たちを、守る必要があります」

電「そんなの、深海棲艦に打ち勝てばいいだけで……!」

大淀「深海棲艦だけではありません。社会は艦娘を人間と見るでしょうか? 戦いが終わった後もそうでしょうか?」

電「それは……」

大淀「私たちが解体されたとしても、社会は自分たちと同じ人間と見てくれるでしょうか? かつて燃料やボーキサイトを体内に取り込み、高速修復材を浴びていた私たちを」

電「……」

大淀「私たちが産む子供は、健康に暮らせる保証はあるのでしょうか? 被爆二世と同じ目を向けられないという保証は?」

電「……そんなの、分からないのです」

大淀「私たちの想いを背負うことは、そこまで背負うことなるんですよ。中途半端な優しさや考え無しに応えることは、お互いに不幸な結果に繋がります。提督の慎重な判断は、艦娘のことを思ってこその判断だと、私は感じます」

電「……」

大淀「電さん、少し……厳しい言葉でしたけど、分かるわよね?」

電「分からないです……」

大淀「?」

電「分からない……分からないのです!」ダッ

大淀「あっ、電さん!」

電「……っ!」ダッダッダッ




吹雪「あれ、電ちゃん」

夕立「どこいくのー?」

電「」ダッダッダッ








吹雪「……」

夕立「いっちゃったっぽい」

吹雪「どうしたんだろう?」

夕立「なんか思い詰めてたっぽい?」

電(分からない、分からないのです……!)ダッダッダッ

電(艦娘は人間とか兵器とか……)ダッダッダッ

電(その先や子供のこととか……)ダッダッダッ

電(じゃあ一体艦娘は……)ダッダッダッ

電「」ドカッ

大和「きゃっ……って、電!? 」

電「……」

大和「大丈夫? 怪我はないかしら……?」

電「艦娘は……」

大和「えっ?」





電「艦娘は、どうしたら幸せになれるのですか?」















大和「大分落ち着いた?」

電「はい、ご心配をおかけしたのです」

大和「怪我もなくて安心したわ。でも今度からは急に飛び出してきちゃダメよ?」

電「すす、すいません。気をつけるのです……!」

大和「……」キラッ

電「……!」

大和「どうかした?」

電「あっ、いえっ! 指輪……綺麗だな、って……」

大和「ふふっ、ありがとう」

電「……」

大和「……そんな悲しい顔しないで、電」

電「かっ、悲しい顔なんてしてないのです!」

大和「実は提督がさっきいらっしゃってね、ケッコンカッコリの相手に選ばれた理由を教えて頂いたの」

電「えっ、それって……」

大和「それとあなたに指摘されたこともね」

電「……ごめんなさいなのです」

大和「どうして謝るの。艦娘のことを思ってしたことじゃない。私の方が感謝したいくらいなのよ?」クスッ

電「……大和さんは、あの、提督さんの話を聞いてどう思ったのですか?」

大和「私? 私はね……嬉しかった」

電「嬉しかった?」

電「え? 選ばれた理由が、その……」

大和「戦力強化として選ばれたのに?」

電「そ、そうなのです……」

大和「電、私はね。大和型一番艦ととしての自分に誇りを持っているの」

電「……」

大和「艦娘は人間かもしれないし、解体されればより人間という存在が確かになるわ。それでも私は自分の人生を兵器である『大和』として生きたいの。日本海軍の結晶として生み出されてた、この大和としてね」

電「でも、兵器として生きていくことって……」

大和「悲しいことだと思う? 私はこの道で幸せを見つけたわ。電がさっき言ってたわね。艦娘はどうしたら幸せになれるのかって」

電「は、はい……」

大和「私も答えは出せないけど、一つ言えるのは……人間になれば、もしくは兵器になれば見つかるというものではなく、人間でも兵器でも幸せにはなれると思うわ」クスッ

電「大和さん……」


~~~

電(あの日、そう言って微笑んだ大和さんの笑顔はすごく綺麗で、左手に光る指輪がとても似合っていました)

電(あれから数年後、深海棲艦との戦いが終わりを告げ事実上この海に平和が訪れました。誰かがポツリと呟いた『これからは艦娘同士の戦いか……』という言葉が印象的でした)

電(終戦後、艦娘は継続して軍属となるか、解体され人間として生活するか選ぶことになり、多くの艦娘は解体されることを選びました。雷ちゃんや暁ちゃんは今、学校に通っているそうです。後から知ったのですが、終戦の何年も前から提督さんが鎮守府の艦娘全員に、自分の人生をどう生きていくのかしっかり考えるように言い聞かせ回っていたそうです。戦争で生き残ることだけじゃなくて、生き残った後のことも……。かつて電に話したように、自分の存在や生き方を考えた上でみんなそれぞれの道を進んでいきました)

電(一方、何人かは軍に居続けることを選びました。大和さんや不知火さん、そして電も……)





電「失礼しますのです。鎮守府警備隊、電、鎮守府近海の哨戒任務から只今帰還いたしましたのです」

「お疲れさま。異常は無かったかな?」

電「はい、異常無しなのであります」

「ふむ。ではゆっくり休んでくれたまえ」

電「失礼しますのです」

電(電が海軍に残ることを選んだのは……結局人か兵器か選べなかったからなのです)

電(自分がどちらで生きていきたいのか、その先でやりたいこともまだ分からなくて……。だから、もう少し考えてみることにしました。今は兵器としてではなく、海の平和を守る艦娘として生きています。この海を守りながら、自分は人間か兵器か……もしくは全く別の答えが出る日がくるかもしれないのです)

憲兵「電殿。お客様がお見えになられております。応接間に通しております」

電「は、はい。すぐ向かうのです」

電「」コンコン

電「失礼します」ガチャ

提督「久しぶりだな、電」

電「提督さん……!」

提督「はは、今はもう退役したけどな」

電「突然どうされたのですか?」

提督「いや別に大したことじゃないんだけど、様子を見にな」

電「あ、ありがとうなのです」

提督「どうだ? 体を壊さずにやれているか?」

電「もう、電は子供じゃないのです」

提督「残党は今も出ているか?」

電「いえ。最近は全く見てないのです。任務も見回りばかりで」

提督「そうか、良かった……」

電「あの、提督さん。一つお聞きしても……?」

提督「ん? なんだ?」

電「他の艦娘……いえ、みんなの様子も確認しているのですか?」

提督「あぁ、電みたいにこうして会って近況を聞いている」

電「そうなのですか……」

提督「電、かつてお前が俺に『艦娘とは何か』と聞いたことがあったよな」

電「は、はい。提督さんは兵士、と……」

提督「そうだ。俺はな、艦娘を大切に思っていたが艦娘が人か兵器か答えを出すことが出来なかった。答えが出せなかったから、軍という建前を使って、君たちを戦闘単位として考え、割り切っていた」

電「……」

提督「君たちに踏み込んでいくことで、その先も君たちを守れる勇気も実力もなかったんだ。だから、君たちを守れるようになった今、あの日向き合えなかった分こうして君たちを見守っている」

電「えっ……」

提督「軍に縛られたままでは自由がきかんしな。退役しても深海棲艦を破ったことで、それなりの社会的地位を手に入れた。これからの俺の役目は君たちの今後を支えることだ」

電「そ、そうだったのですか……」

提督「まぁな。っとと、すまない。そろそろ行かなければ……。妻を外に待たせているんだ」

電「それは長いをさせて申し訳な……えっ?」

提督「すまない、言ってなかったな。金剛のことだ」

電「金剛さん……えっ、えええ!?」

提督「まぁ、驚くか」

電「いつなのですか?」

提督「最近だよ最近。俺が退役して、金剛も解体された後だから知らないのも無理はない」

電「い、意外なのです……。あれ? 意外でもないような……?」

提督「まだ軍属だった時に、一度はっきり断ってな。さっき言ったような理由で『艦娘にまだちゃんと向き合えない』って。すると金剛が『それならずっと待ってますから、ビックになって早く迎えに来てください』って言ってくれてな」

電「さすが、金剛さん……」

提督「じゃあ、これで失礼するよ。またしばらくしたら様子を見に来るから」

電「は、はい。お待ちしているのです」










電「……」

電(大和さんが言っていた『人間でも兵器でも幸せになれる』という言葉、今なら少し分かる気がするのです……)

電(いつか、電も自分のやりたいことが、いつか……)

【完】

呼称とか語尾とか至らないところは脳内補完でおなしゃす

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