貴音「Never @gain……」 (156)


前スレ:貴音 「Once @gain」
貴音 「Once @gain」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432019221/)


今回はPの一人称語り、ということでよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459521603



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ーー




『さようなら、あなた様……お元気で』

そう言い残して……貴音は、俺の目の前から消えてしまった。

ーー呆気に取られた俺が、ほとんど何も言えないままに。

ーーあの時給湯室の外から感じた気配は、貴音のものだったのだろう。

おそらく、全てを聞かないまま立ち去ってしまったに違いない。

P「貴音……そうじゃなかったんだ」

あんなことを言わなければ、今頃は。


P「俺のせいだ……俺のせいで貴音はっ……」

懐からスマートフォンを取り出す。

俺は素早く画面を操作し、電話をかけた。

相手は音無さんの携帯電話。

まず、貴音がいなくなってしまったことを話さねばならない。


数コールの後、彼女は電話に出た。



小鳥『小鳥です。プロデューサーさん、何かご用ですか?』

P「音無さん……」

P「貴音が……貴音が消えてしまったんです!」

小鳥『……え?』

P「俺があんなこと言わなければ、こんなことには……!」

P「全て俺の責任です……」


小鳥『あ、あの……プロデューサーさん?』






小鳥『「貴音」……って誰です?』


P「……えっ!?」

小鳥『あっ、もしかして新しい子をスカウトしたとか?流石はプロデューサーさんですね♪』

P「何言ってるんですか!?貴音ですよ、貴音!」

P「銀髪で、ラーメン大好きで、ミステリアスなあいつですよ!」

小鳥『そんなこと言われても……うちのアイドル十一人の中に、そんな子はいませんよ?』

小鳥『あっ、律子さんを合わせれば十二人か……でも、貴音ちゃんなんて子は……』




P「……」

小鳥「……プロデューサーさん?」

P「ーーすいませんでした。それでは」

小鳥『えっ、ちょっと待』


プツッ


……俺はそのまま、通話を切った。

その後も、俺は手当たり次第に電話をかけてみた。

他のアイドルのみんな。テレビ局のスタッフ。営業先のお偉いさん……。


でも。

春香も、雪歩も、伊織も……誰も貴音のことを知らなかった。

もっとも響だけは、なぜか通話に出なかったのだが。


……


足に力が入らず、俺は膝から崩れ落ちる。

P「俺の決心が、もう少し早ければ……!」

P「俺だって……俺だって貴音を……」

そんなことをいくら言っても、もう遅い。

ーーもう、この世界に……貴音はいないのだ。

俺以外の誰一人、貴音のことを覚えている人物はいないのだろうか。

貴音の存在自体が、この世界から消えてしまったのだろうか。

……俺には、もうどうしようもないのか。


そんな時だった。








『あーあ、やっちゃったね』



『「ルールを破れば」この世界から意識は「存在ごと」消えて、元の時間に意識が戻される……』

『存在が消えれば、もちろん身体も消えるし、当事者以外の記憶も消える』

『あまりにも酷だったから、あの時貴音ちゃんには言わなかったけど』



P「!?」

突然、どこからか声が聞こえてくる。

辺りを見回すが、人影一つ、気配すらない。

この場所にいるのは……俺一人だけ。

……この声はなんだ?

姿を見せない相手に向かって、俺は話しかけてみる。

P「……誰だ!?どこにいる!?」

『どこにいる、って言われてもねぇ……』

『見えないけどここにいる、としか言いようがないなぁ』

P「ふざけないでくれ、あんたは誰なんだ?」





『僕?……誰って、神様だけど』



大変長らくお待たせ致しました、再開です。
以前と同様に週一での投稿になりそうなのでご了承下さい。

今回の投稿は以上となります。

またしばらくの間、お付き合い願えれば幸いです。

おつー
前スレから引き続き楽しみにしてる

あと、前スレから誘導した方がいいかもしれんよー

>>18 さん

前スレからの誘導完了しました。アドバイスありがとうございます。






P「ーーは?」

聞こえてきた声の内容を信じられず、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。


だが神様だと名乗る声は、俺に構わずそのまま喋り続ける。

『まあ、いきなり信じてもらえるとは思ってないよ。貴音ちゃんの時もそうだったし』

『信じるも信じないも、君自身だ。だけど僕は確かに、ここにいる』

P「なんだよ、それ……」

P「いきなりそんなこと言われたって……信じようが……」

『それも分かってるよ。そうだなぁ、どうやって説明しようか……』

『……っとその前に。まずはもう一人のゲストを呼ぼうかな?』

P「え?」

『気付いてなかっただろうけど、この場にはもう一人いたんだよ?』








『ーーねぇ、響ちゃん?』


P「!?」




屋上の扉が開き、そこから一人の人物が現れる。

長い黒髪をポニーテールにし、肩に相棒であるハムスターを乗せた少女。

……間違いなく、それは響だった。





P「響……!いつからそこに!?」

響「ご、ごめんプロデューサー。別に邪魔しようとか思ってたんじゃないんだ」

響「ただ……なんだか朝から、貴音の様子がおかしかったから……」

響「だから事務所からずっと、プロデューサーをつけてたんだ。本当にごめん!」

P「いや、貴音のことを思ってなんだろ?別に構わな……」

P「……ん?」

その時、俺は頭に少しの引っ掛かりを感じた。

響は、何かが違う。

少なくとも……春香や音無さん達とは。

ーー何が違うんだ?

さっき響が言った言葉を、頭で反芻してみる。



『ご、ごめんプロデューサー。別に邪魔しようとか思ってたんじゃないんだ』

『ただ……なんだか朝から、貴音の様子がおかしかったから……』



『ただ……なんだか朝から、「貴音」の様子がおかしかったから……』



P「!」

……これだ。



P「ーー響、さっきお前、『貴音』って言ったか!?」

響「え……言ったけど、それがどうかしたの?」

P「お前、貴音が分かるのか?」

響「な、何言ってるのさ、プロデューサー?」

響「さっきのプロデューサーの言葉を借りるなら、銀髪でラーメン大好き、ミステリアスな貴音のことだよね?」



響「自分の一番の親友のことを忘れるわけないでしょ?」




P「俺だけじゃなかった……!」

少なくとも、ここにもう一人。

貴音の存在を覚えている人物が、ここにいる。

たったそれだけのことかもしれない。

それでも……俺は嬉しかった。

『ーーあー……えっと……あのさ、僕のこと忘れてない?』

P「そうだった……すいません、神様」

『あっ、信じてくれたんだ……それはさておき、ちゃんと貴音ちゃんの事考えてる?』


ーーそうだった。

今大切なのは、貴音を知る人物を増やすことではない。

どうすれば貴音は帰ってくるのか……これに尽きる。

だが、貴音は今どこにいるのだろう?



貴音は『別の時間』と言っていたが、どうすればいいのだろう?


P「タイムマシンでも使えってことなのか……?」

響「タイムマシンなんてあるわけないじゃん……プロデューサー、何言ってるの?」

P「……だよなぁ」


その通り。

タイムマシンなんて、存在する訳がない。

響「あっ!でも神様ならできるよね?」

響「前やったみたいにさ、自分達二人を貴音がいる時間まで飛ばせるでしょ?」


P「……前やったみたいに、だって?」

俺がそう言うと、響はハッとした表情を浮かべ、口を押さえる。

響「な、なんでもない!お願いだから、それ以上聞かないで……」

『残念だけど響ちゃん、今の僕にはそこまでの力は残ってないんだよね』

『二人をタイムリープさせてからまだ半年くらいしか経ってないんだ、僕の力にも限りがある』

P「二人?」

『うん、そうだよ』


『……正確には二人と二匹、だけどね』

響「……っ!」









『僕がタイムリープさせたのは、貴音ちゃんと響ちゃんの二人』

『そこにいる響ちゃんも、タイムリープしてきた一人だ』


響「……」

P「なっ……!」

『かつて貴音ちゃんとの連絡が出来なかったのは、響ちゃんが先にタイムリープしたから』

『響ちゃんの家にあまり動物がいなかったのは、連れて来れる限度があったから……他の動物達は、響ちゃんの実家に送り返しておいたけどね』

『新人の割に全体的に能力が高かったのも、前の時間での経験の影響だね』

今明かされる衝撃の真実、ってヤツでしょうか。今までの伏線に気付いたあなたはスゴイ!(多分)

今回の投稿は以上です。




響「……」

響は何も喋ろうとしない。

……響も貴音と同じ、別の時間の人間だったのか?



だがそう言われると、色々と納得がいく気もする。

いきなり聞こえてきた神様の声に、大して反応しなかったのも。

貴音のことを忘れずにいたのも。

さっきの『前やったみたいに』の言葉も、これで説明がつく。


響「あ、あれ……自分、消えないよ?貴音は消えちゃったのに」

『まあ、禁止なのはあくまで「自分で話すこと」だからね』

『今のは僕が勝手に話しただけだから。心配いらないよ』

『でも、この場に響ちゃんがいたのは助かった』

P「?」

『さっきも言ったけど、今の僕にはもう人間二人をタイムリープさせるなんて力は残ってない』

『人一人飛ばすにも、あと数ヶ月は待たないと』





『……でも響ちゃんは、「もう一つの時間軸」の人間だ』

P「それに、何の関係が……?」



『いや、簡単な話だよ』

『響ちゃんが「ルールを破って」、その反動で貴音ちゃんのいるところへ飛べばいいのさ』

『もともと二人は同じ時間軸の存在。行き着く先も一緒だからね』

『響ちゃんにしがみつくなりなんなりしてくれれば、僕がほんの少し力を加えるだけで済む』






ーー貴音に、もう一度会えるのか?

『こんな状況で嘘なんかつかないさ』

『さっき言った通りにすれば、ちゃんとタイムリープは可能だよ』

『ただし、ルールは守ってもらわなくちゃならないけどね』

P「他人に喋っちゃいけない、か……」

『まあ、それもだけど。今回は時間制限がつく』

『せいぜい持って1日かな……僕の力が足りないばかりに、ごめんね』

『こっちの世界は凍結しておくから、こっちのことは気にせず行動してくれて構わないよ』

『でも、最も大切なのは……失敗した時の話』

響「失敗したら……?」

『もちろん、もう貴音ちゃんには会えないと思ったほうがいい』

『赤羽根くんという「イレギュラー」のおかげで君達は強制送還されるけど、貴音ちゃんはそうはいかないし』

『それに……貴音ちゃんの存在は消えて、チャンスはもうなくなってしまいかねない』

『……どうする?それでもやる?』

P「ちょ、ちょっと待って下さい!」

P「神様にもう力が残ってないんなら、どうやって帰って来れば!?」

少し含み笑いをしながら、神様は答える。

『それなら問題ないよ。貴音ちゃんは君がプレゼントしたペンダントを持って行ったからね』

『別世界の……別次元の「もの」は、元の世界に戻ろうとする性質があるんだ』

『別世界の同じ「もの」が出会うと、お互いに混ざり合って元の世界に戻ろうとするエネルギーが生まれる』

『そのエネルギーで出来た歪みに入れば、この世界に帰ってこれるって寸法さ』

『ただし……持ち主が変える意思を持っていればだけど』



かなりぶっ飛んだ話だが……これもおそらく、本当なのだろう。

『こんな状況で嘘なんかつかない』という言葉もあったじゃないか。



『さて、もう一度聞くよ?』

『……どうする?それでもやる?』

俺は、横目で響を見る。

響は俺の視線に気付くと、ゆっくりと頷いた。

ーーもちろん、俺も同じ気持ちだ。



どんなことがあったって、貴音を取り戻してみせる。

P「お願いします、神様」

『後悔しないね?』

P「はい。貴音を取り戻すためなら、どんなことだってやりますよ」


P「俺だって、貴音のことを……愛してますから」

『ーーその言葉が聞きたかった……なーんてね。決意はちゃんと伝わったよ』


……


『……さあ。準備はいい?』

響「う、うん……」

そうは言うものの、響の表情は暗い。

彼女にとって、一番古くの付き合いである貴音は、とても大切な存在だからだろう。

これに失敗すればもう貴音に会えないなら、無理もない。

貴音が大切なのは、俺も同じだ。

だが……かといって、ためらっていては始まらない。


P「響、大丈夫だ。絶対貴音を連れ戻す。そうだろ?」

響「……うん。そうだよね。ここで立ち止まってちゃいられないぞ!」




響は俺の方に向き直ると、深呼吸をして、



響「……プロデューサー、自分も、貴音と同じ」



響「別の時間の……タイムリープした人間なんだ」





……『タブー』を、破った。

ーー響の体が光りだす。

貴音の時と全く同じ光が、響の体を包んでいく。

響「やっぱり、こうなるんだね」

響「なんだか、少し怖いや……あはは」

少し苦笑いを漏らしながら、響はそう呟いた。

P「大丈夫だ、響。俺もついてる」

響「うん……プロデューサー、今だけでいいから、手を握ってて欲しいな」

差し出された手を、ゆっくりと掴む。



その手は少し震えていた。

まるで心細げな響の心境を表しているような……そんな気がした。

響「ありがと、プロデューサー。少し落ち着いた」


響「……貴音を連れて帰ったら、離れないようにちゃんと手を握ってあげて」

響「今度は自分のじゃなくて、貴音の手を……ね」

P「ああ……分かってる。もう、貴音の手を離したりなんかしないさ」

P「絶対に……な」

ーーそんな会話をしているうちに、響を包む光は輝きを増していく。

心なしか、響の体も少しずつ消えているような……そんな気もする。



響「もうちょっと……かな。なんとなくだけど、分かるんだ」

『うん、あと10秒もないよ。そろそろ時間だ』

『制限時間は、日付が変わるまで』

『貴音ちゃんを見つけても、こちらの世界に戻る決心を持たせないとダメだからね』

『たとえ貴音ちゃんを見つけても、進展がなければゲームオーバー。いいね?』

P「……はい」


さすがに、俺の決心ももう固まっている。

もう、二度と……貴音を失わせはしない。

俺の想いも、伝えてみせる。






『それじゃあ、いってらっしゃい』

『ーー貴音ちゃんのこと、頼んだよ』



神様のその言葉とともに、俺の意識は薄れていき……そして、途絶えた。


今回の投稿は以上です。


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目が覚めると、そこは俺の部屋だった。



いや……正式には、少し違う。

そこは、『もう一つの世界の俺』の部屋だった。

よく見ると、内装なんかもほんの少し異なっている。

本当に、ほんの少しの違いでしかないが。

枕元にあるメガネを手に取り、かける。

P「……ピッタリだ。まあ当然か」


どうやらこちらの世界の俺の体を乗っ取って、俺は存在しているらしい。

P「本当に、ここは別世界なんだな」

すまない、こっちの俺。一日だけでいい、力と体を貸してくれ。




寝巻きとして着ていたジャージを脱ぎ、シャツとスーツに身を包む。

別の世界だろうと、『俺』である限りは765プロに出社しなければならない。

普段と同じように朝の一連の行動を終え、荷物を点検。

P「朝は……これでいいか」

かつて千早が頼りっきりだったバランス栄養食を手に取ると、俺は家を出た。


……


P「おはようございます」

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん♪」

いつもとほぼ同じ時間に、事務所に到着する。

これまたいつもと同じように、音無さんが挨拶をしてくれた。



社長の名前が『順二朗』じゃなくて『順一朗』だったり、律子がプロデューサーを兼任していなかったり。

それに貴音や響が事務所にいないことなんかを除けば、基本的には俺がいた世界とほとんど同じ。

他の世界って話だから、もっと色々と違うところだらけだと思っていた。

……ほんの少しだけ、拍子抜けだ。

P「さて、仕事仕事……」

小鳥「あら?プロデューサーさん、今日は外回りに行くんじゃなかったんですか?」

小鳥「確か昨日、『明日は外回りのついでに、流行調査にでも行こうかなー』っておっしゃってましたよね?」

P「!……そういえばそうでしたね。早速行ってきます」

小鳥「はーい。アイドルのみんなのことは任せてくださいね♪」

ーーどうやらこちらの世界の俺は、今日は外回りと流行調査で一日を過ごすつもりだったらしい。


だが、これは俺にとってかなり好都合だ。

これで貴音を探す時間が取れる。事務所を抜け出す理由もついた。

P「まあ取り敢えず、まずは響とコンタクトをとらないとな」






事務所からある程度離れた場所にある喫茶店で席を取り、コーヒーを頼む。

俺は懐からスマートフォンを取り出し、連絡先を確認した。

765プロの面々の名前とともに、貴音と響の名前があるのを確認する。

P「……マジか」

これなら、すぐに連絡を取ることができそうだ。

メールアドレスといい、事務所を抜け出す口実といい、こっちの俺がかなり有能に思えてくる。

……できるなら、こっちの世界の俺を褒めてやりたい。

連絡先が分かるなら、話は早い。

俺は早速、メールを送ることにした。

まずは響から。貴音に状況説明ができるようにしておかなくては。

直接会って話したほうが早いので、この喫茶店に直接来てもらうことにする。

貴音が言っていたことを考えれば、響も961プロを解雇されているのだろう。

おそらく俺よりも、ここに来るのは簡単なはずだ。


……


送信して、待つこと数分。

P「……おっ、来たか」

響「お待たせ、プロデューサー」

思ったより早く、響は俺の元にやって来た。

この世界でも響は有名人であるからか、少し変装している。

そういえば響はこの世界でも一度トップアイドルだったっけ。

バレないようにするのは、無理もないだろう。

P「よく来てくれた。早速で悪いが、貴音のことについて話したい」

響「分かってる。自分もそのために来たんだし」

響「貴音って、どこにいるのかな?やっぱりラーメン屋さん?」

P「そうかもしれないが……まずはこの連絡先を試してみたい」

俺はさっき確認した貴音のメールアドレスを、響に示す。

響「へぇ……こっちのプロデューサーも、貴音の連絡先を知ってたんだね」

P「そうらしいな。なかなか有能だろ、こっちの俺」

P「これを飲み終えたら早速連絡してみるよ。俺のおごりだ、響も好きなものを頼むといい」

響「えへへ、それじゃお言葉に甘えちゃおっかな」


……


喫茶店を出た俺達は、近くの公園にやって来ていた。

日中の平日なためか、ほとんど人はいない。

P「さて……早速メールするか」

P「いや、電話のほうがいいのかな」

響「プロデューサー、電話番号も持ってたの?」

P「ああ、そうらしい。ちなみに響のも持ってるぞ」

響「うん、知ってる。こっちのプロデューサーとも面識はあったからね」

響「まさか貴音のまで持ってるとは思わなかったけど……」

P「……そうだった。元はと言えば響も、この世界の住人だったよな」

俺は早速、貴音に電話をかけてみた。



……しかし。

《ーー現在、電話に出ることができません》

《ピーッとなりましたら……》

貴音は電話には出なかった。

少しがっかりしながら、俺は通話を切る。

響「出なかったの?」

P「ああ。電源切ってたりはしないだろうけど」

響「まさか貴音……プロデューサーが入れ替わってることに気付いてるのかな?」

響「どうしても戻りたくなくて、自分達から離れようとしてるんじゃ」

P「いくらなんでも、それは考えすぎだろ……貴音だってエスパーじゃないんだからさ」

いかに貴音の直感が鋭いといえども、さすがに俺達の事に感づいているとは思えない。

こっちではまだ、貴音との何かしらの接触はできていないからだ。

その後数回電話をかけたが、反応は全くなし。

とりあえず、貴音と連絡は取れないことだけは分かった。

一応貴音にメールを送信し、スマートフォンをポケットにしまう。

P「うーん……歩き回って探すしかないか。電話やメールは意味がなさそうだ」

響「だよね。歩いて探してみよっか」

P「ああ。手分けして探そう、何かあったら連絡してくれ」

響「了解さー」


今回の投稿は以上です。


……


P「ふーっ……」

二手に分かれて捜索を開始してみたはいいものの、全く貴音の姿は見当たらない。

俺がいた世界で貴音が住んでいたマンション。

かつて貴音と行ったラーメン屋。

もしかしたら、と思い961プロや765プロの事務所周辺を探してもみた。



だが、手がかりの一つすら一向に見つかることはなかった。

……時間だけが、刻一刻と過ぎていく。

電話をかけるときに来た、公園のベンチに腰を下ろす。

貴音からメールの返信は、未だにない。電話も同様だ。

もう一度かけてみても、結果は同じだろう。

P「どこにいるんだ、貴音……」




もうすっかり日も暮れ、あたりは真っ暗だ。

765プロ事務所の周辺を探す際、音無さんに直帰すると伝えておいたため、事務所に戻る必要はない。

とはいえ、もうあまり時間も残っていない。

探せる時間は、あと数時間か。

何かヒントの一つでもあれば……少しは楽になるのに。

P「……とりあえず響に電話するか」

こんな遅い時間だ、響のような女の子が一人で出歩くのは危ないだろう。

連絡がなかったから大した収穫はなかったのだろうが、響の状況も知りたい。

一度合流したほうがいいな……そう思い、スマートフォンを取り出す。



P「……響か?……いや、まだ見つかってない。そっちもなんだな?」

P「もう遅いし、とりあえず一度合流しよう。場所は……」






数分後、俺達は再び合流した。

響もやはり、貴音を見つけてはいなかったらしい。

お互い様々な場所を巡ってみたようだが、貴音の手がかりは無し。

貴音自身も少しずつ移動していて、行き違いが起こっているのだろうか。

……実際、ほとんど八方塞がりの状態だ。

響「貴音、どこ行っちゃったんだろ?」

響「このまま貴音に会えないなんて、自分嫌だぞ……」

P「それが分かればいいんだけどな」

P「貴音の行きそうな場所はあらかた探したが……」

知っている貴音の行動から推測し、俺はラーメン屋や事務所を探した。

だがしかし、貴音はそこにはいなかった。

貴音は今どこで、何をしているのだろう?

響「貴音がしたいことが分かれば、もっと探しやすいのに……」

P「……ん?響、今なんて?」

響「えっ?貴音がしたいことが分かればいいのに、って言ったけど……」



その時、俺はあることを思い出した。

ーー本当に、何もヒントはないのか?

いや、それは違う。

例えば……貴音が消える前のあの言葉は?




貴音『この想いが叶わぬものなのならば、わたくしがこの場所にいる理由はございません』

貴音『それならば、わたくしは置き去りにしてきた響のそばにいるべきです』




……これこそ、今の貴音の行動原理じゃないのか?

P「響、貴音に電話したりはしてみたか?」

響「ううん、かけてないぞ」

響「プロデューサーからの電話に出ないんなら、自分がかけても意味ないかなって」

P「そうか……なら響、少し携帯電話を貸してくれないか?」

P「一つ、試してみたいことがあるんだ」




響のスマートフォンを借り、連絡先の欄を開く。

響「プロデューサー?自分、出ないと思うんだけど……」

P「いや、試してみる価値はあると思う」

P「俺と貴音の会話、聞いてたんだろ?貴音が消える前の言葉を思い出してみてくれ」

P「貴音はこの世界で、何をしようとしていた?」

貴音から発されたあの言葉が正しければ。

きっと今も……貴音は『こっちの世界の響』を探している。

だけど貴音の思惑とは違い、響もこちらの世界にはいなかった。

響もまたタイムリープをしており、俺が知っている響とこちらの響は同一人物。

それならば。

ーー『探している響』からの連絡に、貴音は食いつくかもしれない。



響のスマートフォンから、貴音の番号に電話をかける。

今の俺達に残されている手は、これくらいしかない。

……出てくれ、貴音……!




ガチャ、と音がした。



貴音『響!?響なのですか!?』

P「!」

貴音『今どこに?昨晩電話に出なかったのは何故なのです?無事なのですか?』





P「落ち着いてくれ、貴音」

貴音『……なっ!?』

貴音『あ、あなた様!?どうして響の携帯電話に!?』

P「ちょっと借りてるんだ。貴音、俺からの電話に全く出なかったから」

貴音『……』

P「どうして出てくれなかったんだ?何かまずいことでもあったのか?」

P「あ……別に怒ってるとかじゃないんだ。ただ、心配でさ」

P「答えて……くれないかな、貴音?」

貴音『……あなた様は、本当に優しい方なのですね』

貴音『かつて、わたくしはあなた様の折角のお誘いを断ってしまいました』

貴音『あなた様に甘えるような真似は……できませんから』


P「そんなことはどうでもいいんだ。もう一度会えないか、貴音?」




貴音『……それはできません』

P「えっ……」

貴音『あなた様が良くても、私自身が許せないのです』

貴音『一度わたくしは、あなた様を裏切ったようなもの。ただでさえつらい今の気持ちを、よりつらいものにするだけでしかありませんから』

P「ま、待ってくれ!俺は裏切られたなんてこれっぽっちも思ってない!」

P「それに貴音、お前は勘違いをしているんだ!」

貴音『……勘違い、ですか?』

P「ああ。俺は『この世界』の俺じゃない」



P「昨日のお前と同じ、あっちの世界からやって来たんだ……貴音、お前を追いかけるために」

軽く咳払いをし、俺は貴音の説得にかかる。

正直、卑怯な方法かもしれないが……

P「貴音、このまま向こうのみんなを置いて行く気なのか?」

P「向こうに残されたみんなのことはどうなる?」

P「このままじゃ765プロのみんなを……お前を『仲間』だと呼んでくれた仲間を裏切ることになるんじゃないのか?」



貴音『……!』

P「今からでも遅くはない、もう一度考え直してくれないか、貴音?」






貴音『……あなた様』

貴音『やはりわたくしは、戻ることはできません』

貴音『もともと私は、こちらの人間です。元の居場所に戻る……それだけのこと』

貴音『たとえ、向こうの世界に戻るにしても……こちらの響と話し合ってからでなければなりません……わたくしが戻ってきたのは、そのためですから』



貴音『ーー皆には……そして、そちらの響には、よろしく伝えておいて下さいませ。それでは』

P「あっ、おい!貴音……!」


ブツッ


ーーそのまま、通話は切れてしまった。

P「くそっ……まだほとんど何も伝えられてないのに……!」

P「どうしてなんだよ、貴音……」



響の電話に俺が出ると分かった以上、もう同じ手は使えないだろう。

直接会わないと、うまくいかないのか……?

ーーまた、振り出しだ。


日付をまたいでしまった…1日で終わらせておきたかったのに…

今回の投稿は以上です。


……


響「プロデューサー、どうだったの?」

P「……ダメだ。切られたよ」

P「貴音がいる場所を探し出して、直接話すしかないみたいだ」

響「そっか……」


がっかりしつつ、俺と響はベンチに腰を下ろした。

響「プロデューサー。貴音、なんて言ってた?」

P「ああ……一度裏切ったようなものだからもう俺には頼れない、みたいなことを言ってたよ」



響「貴音、あの時プロデューサーの誘いを断ったこと、まだ引きずってるんだ……」

響「貴音、そういうとこ気にするタイプだからな……」

P「そう、かもな。貴音は自分で抱え込もうとするところがあるから」

P「ーーつらいなら、俺達を頼ってくれればいいのに」

響「……?」

P「ん?ああ、貴音がさっきそう言ってたんだ」

P「つらいだけの今の気持ちを、よりつらくするだけだ、って」

P「それがどうかしたのか、響?」

響「うーん……」

響「本当に、貴音……何も手がかりを残してなかったのかな?」

響「何でもいいんだ。何か少しのヒントでもあれば、それで……」

難しそうな顔をしながら、響はそう答えた。


P「何かって……あれ以外、何かあったか?」

響「よく覚えてないけど……貴音、他に何か言ってなかったっけって思って」




響「例えば、あの時とか。他に何か言ってなかったかな?」

P「あの時って……貴音が消える前にか?」

貴音が消える前に言ったことといえば、俺への告白、響を探すという目的くらいだろうか。

P「何だっけ、こっちに来て響を探すってことは言ってたけど」

響「それは分かってる。もっと前に、何か言ってなかった?」

響「プロデューサーが告白される、もっと前」

P「もっと前、って言えば……」

P「あの屋上が貴音のお気に入りの場所だってこと言ってたくらいだろ」





響「……!それだ!」

P「え?」


響「もっと細かく思い出してよ!そのすぐ後、貴音はなんて言ってた?」

P「……あっ!」







貴音『月もよく見えることですし、わたくしのお気に入りの場所、と言っても過言ではありません』

貴音『つらいときや、悲しいとき……そんな時は必ず、わたくしはここを訪れます』


『つらいとき』。

貴音も今、そんな状況にある。そう、彼女自身が入っていたから間違いない。

となると……!



P「貴音は今も、あの場所にいるってことか!?」

P「あの屋上で今も、一人で……?」

響「絶対にそう、とは言い切れないけど。試してみる価値はあるんじゃないかな」

響「ただ……自分はそうなんじゃないか、って思うぞ」


確かに、試してみる価値はあるかもしれない。

ダメでもともとだ。

今の俺達には、それ以外の手はないのだから。

もしも、ほんの少しでも……可能性があるのなら。


俺は、それを信じたい。



P「……行こう、響」

響「うんっ」


……


P「……ここだったか?」

響「う、うん。間違い無いぞ」

ある程度の時間をかけて、俺達はとあるビルの前にやってきた。

貴音にとっての始まりの場所であり、終わりの場所でもある、この場所に。



お互い無言のまま階段を登る。

なぜか声を出す気にはなれない。妙な緊張感が漂っているためだろうか。


響の考えが正しければ、貴音はここにいるはず。

……そのことも、少し関係しているのかもしれない。



そして俺は、屋上のドアに手をかけた。




ガチャリ、と音を立て、扉が開かれる。



街を見渡せるこの場所には、すでに一つの人影があった。







月の光を受けて輝く、ふわりとした銀髪。



堂々としているが、どこか儚げな雰囲気。



どこか浮世離れしたその女性は、ゆっくりと俺達の方に振り返る。






貴音「ーーあなた様。響……」

響「やっと見つけたぞ」

P「……ようやく会えたな、貴音」





一日中探し続けた、まさにその人物。

四条 貴音が……そこにはいた。


今回の投稿は、これで以上です。




ーー次回、最終回。

こんばんは。

最終回、投稿開始します。




貴音「なぜ……なぜ追いかけてきたのですか……!」

貴音「あなた様との決別は、すでに済ませたはずです……なぜわたくしのために、そこまで……!」

響「なんでって……そんなの簡単でしょ?」

P「そうだ。俺達がここまで貴音を追いかけてきた理由は一つ」





P「……お前が大切な存在だからだよ。貴音」

貴音「っ……」

P「貴音、俺と音無さんの話最後まで聞いてなかっただろ。音無さんはあの後、俺の背中を押してくれたんだ」

P「アイドルだからそんな目で見ることはできない……っていうのは、建前だ。俺の勝手な感情で、みんなに迷惑はかけられないから」

P「だから貴音がいつかアイドルをやめて、別のことをしたくなった時に……ちゃんと言おうと思ってた」

P「でもきっと、それじゃ遅かったんだよな。俺の決断が弱かったから、こんなことになってしまった」


P「ごめん、貴音。全部俺のせいだ」

俺が頭を下げると、貴音は慌てたような様子を見せた。

……が、俺は構わず話し続ける。

P「だからさ。今、ここで言うよ」

P「プロデューサー失格かもしれないけど、言わせてくれ」


P「俺も……貴音が好きだよ」

貴音「あなた、様……」

目に涙をためながら、貴音は何かを言おうとした。



しかし彼女は首を振り、キュッと口を結ぶ。

まるで……言いたかったことを振り払い、拒絶の意思を持ち直すかのように。



貴音「……わたくしにはこちらの時間の響を探さねばならないという使命があります」

貴音「そこにいる響は、あなた様と同じあの時間から来た響なのでしょう?」

P「……」

貴音「先ほども申し上げました通り、わたくしはこちらの時間の響を探さねばならないのです」

貴音「ですから……」

P「それも分かってるよ。でも貴音にはまだ、知らないことがある」

話し続ける貴音を遮り、俺は響に話をするよう促す。

貴音が知らない、響の話を。



響「……貴音。自分、貴音に言わなくちゃいけないことがあるんだ」

響「えっと……でも、はじめに聞きたいことがあるんだけど……いいかな」

響「貴音は、こっちの自分を……こっちの時間の『我那覇 響』を探しに来たんだよね?」

貴音「……はい」

少し伏し目がちのまま、貴音は頷いた。

それを見た響も、納得したかのように軽く頷く。


貴音「ですが、それを聞いてどうするのですか?」

貴音「こちらの時間の響にはともかく、貴女には関係ないことです」

響「……関係大アリだぞ!だって自分も……」





響「自分も、貴音と同じで……タイムリープしたんだもん」

貴音「なっ……!?」

貴音「冗談はやめなさい、響。そんなことが……」

響「自分、こんな時に冗談なんか言わないぞ……貴音」

響「つまり自分は、『こっちの時間』の『我那覇 響』でもあるんだ」


響「黙っててごめん。まさか貴音もタイムリープしてたなんて、思ってもみなかったから」

貴音「そんな……まさか……」

貴音「ではわたくしが戻ってきた意味とは、一体……」

力が抜けてしまったのか、貴音はその場に座り込んでしまった。

貴音「わたくしがしようとしたことは、全て……無駄だった、ということなのですか……?」

P「ーーいや、貴音がしたことは決して無駄なんかじゃない」

貴音「?」

P「響のことを思って、貴音はそうしたんだろ?」

P「友達の……親友のために何かしようとすること……それは絶対に、無駄なことなんかじゃないさ」

響「そうだよ、貴音。自分のためにここまでしてくれるなんて、自分すっごく嬉しかった」

響「やっぱり貴音は、自分の一番の親友さー」






貴音「……」

座り込んだ貴音は何も言わないまま、ただ呆然と俺達の顔を見つめていた。

つうっ、とその目から涙が流れ落ちる。


溢れ出る涙はとどまることを知らず、ただただ貴音の顔を濡らし続けていく。

俺はハンカチを取り出し、そっとそれを拭った。



貴音「……わたくしは、許されるのですか?」

貴音「仲間も、親友も……そして何より、あなた様を裏切った、わたくしは」

P「大丈夫、みんな気にしちゃいないさ」

P「ーーもちろん、俺もな」




P「だからさ、貴音」



P「もう俺の前から消えるなんて、悲しいことはしないでくれ……」



P「これからも、ずっと一緒だ。もちろん、765プロのみんなも」







P「ーー帰ろう、貴音。『あの』世界へ」



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ーーーーー


ーー







元の世界に戻って数ヶ月。



俺を待ち受けていたのは、いつもと変わらない日常だった。





『僕の力が戻り次第、二つの世界は統合することに決めたよ』


『二つの次元は一つになり、同じ人、ものは一つに統合される。それぞれの記憶をうまく混ぜ合わせてね』


『そうすれば……誰もつらい思いをすることはないだろう?』



あの後、俺達の前に神様が再び現れ、このようなことを言った。

このようなことを二度と起こさないためだ、とかなんとかだそうだ。

神様による『統合』はもうすでに終わり、俺たちの世界にいくつかの変化が現れた。

分岐しただけで元々は同じ世界であるためかほとんど変わりはなく、支障はない。

自分が知らない出来事もすぐさまインプットされる。便利なものだ。



変化の一つ一つは微々たるものだが、大きく変わったことも少なくはない。



例えば……






ーーいや。ここから先のことは、敢えて何も言うまい。

ここで多くのことを語るのは、もうやめよう。





俺達のこれからの未来が、どうなるのか……。

それは、あなたのご想像にお任せしたい。







貴音の言葉を借りるとすれば……そう。





これから先は……『とっぷ・しーくれっと』だ。







ーー【Fin.】



……



完結です。最後の方は駆け足気味になってしまい、申し訳ありません。

オチが弱いかもしれませんが…大目に見てやって下さい。



最後に。

一年以上もの長い間、こんな駄文にお付き合いしていただいた皆様に、最大級の感謝を。

それでは、またどこかで。

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