八幡「強くてニューゲーム?」 (24)

 学校から帰ると、机の上に見慣れないボタンが置いてある。黒い箱に赤い突起が付いた、見れば一発でボタンと分かる。そんな
代物だ。

八幡「こんなもの、買った覚えがないぞ」

 小町の悪戯かとも思ったが、俺は間違いなく自分で玄関の鍵を開けた。それはないだろう。

八幡(まぁいいや、試しに押してみるか)

 片手で箱を持ち、軽く力を込めて突起を箱の中に押し込んだ。

―――道は、お前次第だ。

八幡「……っ?」

 頭の中で声が聞こえた。聞き覚えのない男の声。それと同時に、意識が遠のいて行く。頭に靄がかかったような感覚
で体がよろめいたが、しかし何とか踏ん張り倒れることを堪えた。

八幡「なんだったんだ?今の……」

 頭を振って靄を晴らす。目が冴えて来たのを感じてからもう一度箱の正体を確認しようとするが。

八幡「あれ、今ので落としたのか?」

 フローリングには、何もない。はて、と、突然消えたあのボタンを不思議に思いながら窓の外を見てみると、外には
まだこの季節には早すぎる、桜の花が満開に咲いていた。


Act IF それでも、比企谷八幡は同じ道を往く

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平塚「なぁ比企谷、私が授業で出した課題は何だったかな?」

八幡「……はぁ、『高校生活を振り返って』というテーマの作文でしたが」

 どうやら、俺はクルミの代わりにボタンを使い時をかけてしまったらしい。昨日の夜、慌てた俺は家族に泣きついたのだが、どいつも
こいつも口を開けば頭がおかしくなったと言い放った。けれどそれが冗談ではないことに気が付いたときは、本当に頭がおかしくなる一
歩手前まで追い詰められたよ。

平塚「聞いているのか?」

八幡「えぇ、はい」

 しかし、幸い今は二年生に進級したばかりの時期のようだ。これならば正直言って大した事はない。いや、もし戦国時代にタイムスリ
ップしていたら、とか、そのレベルの事態に比べれば、だけど。とにかくただもう一度同じようなことをすればいいだけの話だ。意外と
なんとかなるだろう。むしろちょっとずつ外して違いを楽しむのも悪くないかもしれない。と、一晩眠った俺にはそれくらいの余裕が出
来ていた。我ながら驚くほど冷静で、少し関心する。

平塚「なので、君には奉仕活動を与える。罪には罰を与えないとな」

 さぁ、もう一度あそこへ行くとするか。

雪ノ下「それで?そのぬぼーっとした人は?」

 あぁ、なんかやたらと懐かしい。最初は何するにしても一に悪口、二に罵倒、あとは毒と鞭しか使わなかったっけ。さすがに言いすぎか。

平塚「彼は比企谷。入部希望者だ」

八幡「あぁ、えーっと。二年F組の比企谷八幡です。よろしく」

 雪ノ下は俺のほうを一度じっと睨むと、平塚先生の方へと向き直る。

雪ノ下「どうして彼を?」

平塚「今はこう猫を被っているがな、彼は中々に根性が腐っている孤独を憐れむべき奴なのだ」

 何度聞いてもひどいセリフだ。

雪ノ下「それなら先生がやればいいのでは」

 二人が、言い合いをしている様に見えて実は俺を貶しているだけの会話を右から左へと受け流しながら、俺は窓の外に舞う桜の花びらの一枚
の行方を目で追っていた。

平塚「……や、聞いているのか?比企谷」

八幡「え?あぁ、はい。つまり二人でごみの押し付け合いしてるんでしょう?そんなものをよく聞けだなんて少しひどくないですか?先生」

平塚「そうではないよ。ただ説得をしているだけだ。なぁ、雪ノ下」

雪ノ下「……はぁ、わかりました。まぁいいです」

 いつの間にか会話は終わっていたようだ。

平塚「そういうことだ。後は頼む」

 そういうと、先生は教室から出て行ってしまった。どうでもいいがこの部活、どうやって出来たんだ?結果三人になるとは言え今は部員も一人
だし、部として成立させようがないだろうに。もしかして最初からあの先生は俺らを集めて活動させようとしてたのか?

雪ノ下「いつまでも突っ立っていないで座ったら?」

八幡「あぁ、すまん」

 そこにあった椅子を引き寄せて座り込む。相変わらず雪ノ下は本を読んだままだ。そんな彼女に一瞥をくれてから、俺はまた窓の外に目線を
移した。あまりジロジロ見やってもこいつはいい気分をしないだろうからな。

雪ノ下「……あなた」

八幡「ん、どうした」

雪ノ下「やけに落ち着いているわね」

八幡「そうか?実は緊張で胸が張り裂けそうなんだがな」

雪ノ下「そんなジョークを言える人間なのね。見た目は体を表す、という言葉を少し改めようかしら」

 どうやら感触は悪くないようだ。まぁ、そりゃ俺からして見れば一年近く顔を合わせてたんだしなぁ。まぁ、見た目は貶されてるけど。

八幡「そりゃどうも」

 俺がキョドらないせいか、雪ノ下は自分が会話することを奉仕にすることが出来ないでいるようで、彼女はたまに首を上にあげてはまた本を
読むふりをしていた。不思議な感覚だ。こうまで彼女が会話の糸口を掴めないでいる姿を見るのは。それじゃあ、少し意地悪をしてみようか。

八幡「なぁ、ここは一体どんな部活なんだ?」

雪ノ下「……ここは奉仕部よ」

 それだけ言うと彼女は口を閉じてしまった。なんだろう、少しかわいいぞ。

八幡「そうか」

雪ノ下「……それだけ?」

八幡「まぁ、なんとなくそういうところなんだろうなってのは分かったし」

雪ノ下「そう……」

 心なしか、雪ノ下が少しシュンとしている様に見える。やはり彼女は自分でペースを握れないと会話が続かないタイプなのだろう。まぁ由比ヶ浜
との絡み方を見ればわかることだがな。

 

 もう少し位はこのなんだかよくわからない空気を堪能していても悪くないと思ったんだが、その静寂は荒々しいノックとドアを開く音で
切り裂かれてしまった。

平塚「邪魔をするぞ」

雪ノ下「ノックを」

平塚「悪い悪い、少し様子を見に寄ったのだが……、なにやら苦戦しているみたいだな、雪ノ下」

雪ノ下「いいえ、私はただ聞かれても居ないのにベラベラと喋ることを嫌っているだけです」

 ふてくされてるようにしか見えないんだよなぁ……。

平塚「まぁ比企谷も緊張しているんだろう。口を開けないことを許してやりなさい」

雪ノ下「そうは見えないのですが」

平塚「ん?どういうことだ?」

雪ノ下「彼には矯正が不必要なのでは、と言ったんです」

平塚「そんなことはないだろう。なぁ?比企谷」

八幡「いや、それを俺に聞かれても。ここでの第三者の声は先生とその……雪ノ下、のものなわけですし」

平塚「……比企谷、お前、本当に比企谷か?」

八幡「何言い出すんですか。俺がコブラにでも見えますか?」

平塚「その軽口が君らしくないと言っているんだ。君ならもっとこう、卑屈というか下卑ているというか」

八幡「とことん評価低いですね。まぁそれだから罰なんでしょうけど」

 平塚先生が俺への言葉を探していると、その態度に見かねたのか雪ノ下が口を開く。

雪ノ下「話を聞く限りその卑屈なところがあなたの欠点のようね」

八幡「そんなところだ。自分が一番下だと思い込めば恥ずかしいむ事がなくなるからな」

 俺がそういうと、雪ノ下はため息をついてパタリと本を閉じ、椅子から立ち上がる。

雪ノ下「ようこそ、奉仕部へ。頼まれた以上、あなたがここで活動することを認めるわ」

 雪ノ下はあの時と同じように俺を見下ろしていた。ようやく彼女らしさを俺は見ることが出来たと、そう思っていたのだが、少し開いた窓の隙間
から桜の花びらが舞い込みそれが彼女の頭に乗ったのを見て、俺は思わず苦笑を漏らしてしまった。

今日はここまで
今度は頑張っエ書くから応援よろしくね

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月01日 (金) 16:05:59   ID: aaPFd17p

本スレ見てきたけど、読者様()がうるさいな

2 :  SS好きの774さん   2016年04月02日 (土) 06:36:11   ID: feC6dWlu

割と楽しみだからエタるのはやめて欲しいかな

3 :  SS好きの774さん   2016年04月09日 (土) 17:53:45   ID: 3oQDLGOq

復活やったぜ。
今回はぶれずに書いていって欲しい

4 :  SS好きの774さん   2016年04月10日 (日) 01:12:54   ID: 538L0_3g

続きをのんびりとまっとる

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