【艦これ】提督「長閑ですねぇ」 (293)

艦これのSSです。
書簡体、対話体、それぞれの形式で書く事があります。
いくつかオリジナル要素が登場します。
何番煎じか解らない設定も多くあると思いますがそこは生暖かい目でお見守り下さい。
一部、過剰な表現が登場したりする場合もあるかもしれません。
各艦娘の相関図や性格等、若干変わってくる部分もあると思いますが二次創作観点からご了承下さい。
更新は不定期になりますのでその点も長い目で見て頂けると助かります。
上記、改めて予めご了承の程宜しくお願いします。

※PCが長い事イカれてた上にリアル仕事の都合上殆ど覗く事も出来ず
結果として以前のスレを落としてしまいました。申し訳ないです。
PCも復帰し、仕事の方も一段落してきたので改めて書き直していきます。

本日は取り敢えず落ちたスレからサルベージできるものをそのまま綴った上で
新規に何スレか投稿したいと思います。



【艦これ】提督「暇っすね」
【艦これ】提督「暇っすね」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14040/1404046254.html)

【艦これ】提督「暇っすね」Part2
【艦これ】提督「暇っすね」part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14042/1404294340.html)

【艦これ】提督「暇っすね」part3
【艦これ】提督「暇っすね」part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404646553/)

【艦これ】提督「暇じゃなくなった」
【艦これ】提督「暇じゃなくなった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411557252/)

【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422113973/)


上記五作品は過去作品になります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459348391

~ダメ提督~



-窓際提督-

武蔵「それ自体に異論は唱えんさ」

提督「いやぁ~、今日も快晴、海は穏やか、こう清々しい天気だと、散歩でもしたくなりますね。ねぇ、武蔵さん?」

武蔵「はぁ…提督よ、少しは真面目に執務をこなそうという気概はないのか?鎮守府のトップである提督が聞いて呆れるぞ」

提督「そうは言ってもねぇ、こう澄んだ空気と空を見たら、そうも言ってられないじゃない」

武蔵「全く、そういってこの間も長門から説教を食らっていただろう。秘書艦として嘆かわしいぞ」

提督「ふふふふっ、見られてましたか。う~ん、悲しいですねぇ…僕としては一生懸命やってるつもりなんですけどねぇ」

武蔵「必死さは全く伝わってこないがな」

提督「おっと、そうこうしている内に三時のおやつですよ。ヒトゴーマルマル、当鎮守府では一時間の休憩時間開始です。
さてさて、今日の間宮さんのデザートはなんでしょうかね。今から楽しみです」スタスタ…

武蔵「はぁ…」


その鎮守府は任務こそ艦娘が行う為にある程度まともではあるが、それを指揮する提督のダメっぷりが災いしている。

身内からも『ダメ』の二文字の烙印を捺されている生粋のダメ人間、もといダメ提督として認識されていた。

無論それは鎮守府内でも変わらず、艦娘からの信頼もベニヤ板のように薄い。

唯一まともに相手をしようとするのは秘書艦の武蔵くらいのものだった。

しかしそれでいて彼の階級は上から数えて三番目、つまり中将。

艦娘としてもそれが納得いかない様子で、度々首を傾げている。

周りの将校達もあれだけのダメっぷりを発揮していながら何故中将の位に座していられるのか、甚だ皆目見当もつかない様子だった。



提督「まーみーやさんっ!っといーらこっちゃん!」

間宮「あら、いらっしゃい、提督さん。今日もメガネが素敵ですね」

伊良湖「いらっしゃいませ、提督さんっ!」

提督「いやぁははは…しかし美人さんお二人がこうして出迎えてくれると、今日のデザートもまた一段と甘みが増しそうですねぇ」

伊良湖「美人さんだなんてそんなぁ///」テレテレ

間宮「うふふ、褒めてもサービスはしませんよ?」

提督「あははは、伊良湖ちゃんは照れても可愛いですねぇ」

間宮「それよりも提督さん、こんな所で油売ってて宜しいんですか?」

提督「はい?」

間宮「先ほど、長門さんが近海に深海棲艦を確認したって、赤城さんや加賀さん等を引き連れてドタバタしてらっしゃいましたよ」

伊良湖「えっと、えっと、作戦指揮とか、でしょうか?そういうの、されなくていいんですか?」

提督「あ~…うん、まぁ…長門さんが行ったのなら大丈夫じゃないでしょうか。それに赤城さんと加賀さんも一緒ならね。
尚の事、心配するだけ逆に失礼かなって、僕は思いますよ」

伊良湖「はぁ、そうですか。あっ…」

長門「提督っ!」ガシッ

提督「おわっ」グイッ

長門「こんな場所で何をしている!近海の哨戒をしていた千歳と隼鷹からの報告を受けていただろう!?」

提督「ちょっと、苦しっ……」

長門「はぁ…」パッ

提督「けほっ、けほっ」

長門「報告を受けてから時間がどれだけあった?何故、任務に当たっていた他の艦娘への報告が滞っているんだ!
下手をすればここが襲撃されていたかもしれないんだぞ!危機感はないのか、提督には!!」テーブル バンッ

提督「お、落ち着いて、ね?落ち着きましょう、長門さん」

間宮「そうですよ、長門さん。それに上司に対してその態度はいけません」

長門「くっ…」

提督「確かに連絡は貰いましたよ。ただですね、問題ないと、僕なりに判断したんです。
その時点で、ここには武蔵さんをはじめ、貴女達主力部隊の面々が待機していた。いざとなれば、即時出撃も可能。
そう僕は判断して、緊急通達はしなかったんですよ」

長門「だからと言って、全くの注意喚起もしないのはどういう事だ!?」

伊良湖「お、落ち着いてください、長門さん」オロオロ…

提督「確かに、注意喚起しなかったのは私の落ち度ですね。その点については謝罪します。
ですが、皆さんを信じていたからこそ、というのも事実ですよ?長門さん達が居るから大丈夫と…
まぁ、それに胡坐をかくと言うのは確かに良くない事ですから、僕も今後は細部に渡って注意をしていきます。
それで構いませんか?」

長門「言う事は毎回呈を成しているが、貴方はいつもそこ止まりだ。何故、もっと提督らしい態度を取らない」

提督「提督らしい、ですか」

長門「そうだ。然として凛とする。提督が威風堂々と構えていれば、自ずと私達艦娘だって身が引き締まる。
その姿勢が貴方には欠けていると、私は言っているのだ」

武蔵「その位にしておけ、長門」

長門「武蔵…」

武蔵「一報を出せなかった責任は私にもある。確かに近海にまで深海棲艦が迫っていながら、任務に当たる艦娘への通達を怠るのは良くない事だ」

長門「当然だ!」

武蔵「だが、お前達が揃って居るなら少し安寧と構えたくなるのも分からん話でもないぜ」

長門「なっ…武蔵、お前まで何を…!」

武蔵「ふふっ、冗談だ。提督には私から後で言い含めておく。一航戦の二人にも私に免じて許して欲しいと伝えておけ」

長門「はぁ…赤城はまだしも、加賀は一筋縄ではいかないぞ」

提督「加賀さんは怒ると怖いですからねぇ…」

長門「提督…!」

武蔵「はぁ、口を慎め、提督。お前の所為だと自覚しろ」

提督「おっと、これは失礼しました」



通称はダメ人間、もしくはダメガネ。

そこはそんな揶揄をされる中将提督が治める鎮守府。

近隣鎮守府の提督からも駄目出しをされるほどに人間としてのダメッぷりを発揮している。

大将連中からも煙たがられ、同じ中将同士でも格下に見られ、己よりも下の階位にある将校連中にすら馬鹿にされる。

そんな男が治めるこの鎮守府には、数多くの艦娘達が日々を過ごしている。

どれも一線で活躍できる実力を持っている実力者達だ。


ザアァァァァ……


矢矧「はぁ…やっぱり塩水被るのは慣れたくないわね。肌が荒れちゃうわ」

古鷹「でもでも、こうしてシャワー浴びるとなんだかシャキッとしますよね」

赤城「皆さん、湯冷めはしないようにしてくださいね」

加賀「湯船に浸かって行っても良いけれど、余り時間をかけないようにお願いします」

矢矧「古鷹さんはどうしますか?」

古鷹「やっぱり浸かっていきたいよねぇ」ニコー

矢矧「ふふっ、それじゃお供しましょうか」

加賀「私は先に出ます。赤城さん、30分後に弓道場で」

赤城「ええ、解りました」


ガララ……


矢矧「はぁ…峠は越えたみたいだけど、また加賀さんの逆鱗に提督は触れたようね」

古鷹「あははは……ど、どうなんでしょうね。私はその、余り気にしないと言うか、なんというか…」

矢矧「でも、急遽の出撃…それも赤城さんと加賀さんが気付いて、命令を下したのは長門さんだもの」

古鷹「そう言えば、長門さんの怒号が響いてたねぇ…」

矢矧「あのダメガネさんは、ホントのんびりしすぎなのよ」

古鷹「ダ、ダメガネって…」ニガワライ

矢矧「さて、と…そろそろ上がりましょう」ザバァ

古鷹「あっ、うん、そうだね」ザバァ



提督「はぁぁ…加賀さん怖かったなぁ…」

武蔵「自業自得と知れ。お陰で私まで一緒に説教を受ける羽目になった。この埋め合わせはでかいぜ、提督」

提督「えぇ、えぇ…解っていますとも。武蔵さんはカステラで許してくれる節が見受けられますが、そこは今回は?」

武蔵「そうだな。一週間、間宮の特製カステラ一本で手を打とうか」

提督「ぐっ……中々に足許を見てきますね」

武蔵「小言がそれで減ると思えば提督としては満更でもなかろう。最も、それ以降の対処は自身次第だろうがな」ニヤッ

提督「ははは、仰るとおりですよ。さて、と…夕食までの鎮守府内の巡察にでも行きましょうか」

武蔵「うむ、ではいこうか」


カツ カツ カツ……


古鷹「あっ」

矢矧「あら」

提督「おや、良い香りですね。ラベンダーでしょうか」

矢矧「」(変態か!)ピクッ

古鷹「あああ、えっと、はい!お風呂頂いてましたから!」

矢矧「地獄鼻……」ボソッ

古鷹「や、矢矧さぁん……」ボソッ クイクイ…

提督「…僕の不手際でご迷惑を掛けてしまいましたね。無事で何よりです。十分に残りの時間、休養を取って下さい」

矢矧「ええ、そうさせて頂きます。では、これで」ペコッ

古鷹「提督もお疲れ様です!それじゃ、失礼しますね」ペコッ


タッタッタ……



武蔵「はぁ、早速棘が刺さったな」

提督「慣れっ子ですから」ニコッ

武蔵「慣れっ子の使い方を間違えているな」

隼鷹「おっ、提督じゃーん、サボってんのぉ?」ヒック

提督「ははは、サボってないですよ?鎮守府内の巡察です」

武蔵「隼鷹、鎮守府内に酒を持ち込むなとあれほど言っただろう!?」

隼鷹「あぁ~、はいはい。武蔵はお堅いねぇ…千歳は気持ち良く乗ってくれたってぇのにさぁ♪」

武蔵「共犯者は千歳か…」

隼鷹「共犯って…物騒な物言いすんない。かぁ~、ちっちゃいねぇ!」

提督「隼鷹さん、鎮守府内は公共の場です。憩いの場も勿論ありますが、出来る限り公私に渡る区切りは明確にお願いします」

隼鷹「へいへ~い、提督は相変わらず緩いねぇ」ニコニコ

提督「おや、僕だって怒る時は怒りますよ?」

隼鷹「へぇ、そりゃあ天変地異が起きそうだねぇ♪アッハッハ!そんじゃ、武蔵が睨んでて怖いから艦娘寮にいくよ~」ヒラヒラ スタスタ…

武蔵「全く…おい、提督。ああいうのは風紀に関わる事だ。ビシッとそこは言ってくれないと困るぜ」

提督「縛り付けるのは良くありませんよ、武蔵さん。さっ、次へ行きましょう」

武蔵「やれやれ…」


カツ カツ カツ……


青葉「おやっ、そこを行くのは窓際司令官と武蔵さんではありませんか!青葉、見ちゃいました!」

提督「はっはっは、いやぁ見られてしまいましたね」

青葉「司令官、ノリが良いのか悪いのか、判断に苦しみます」

提督「おや、そうですか?」

青葉「っていうか、何してるんです?何かスクープとかですか!?」

武蔵「ただの巡察だ。いい加減にしろ」

青葉「…ですよね。そうですよね。だって武蔵さんが一緒の時点でサボってる訳ないですしね」

提督「そうですよ。僕も武蔵さんに監視されてますからねぇ。サボろうにもサボれません」

武蔵「……提督」ピキッ

提督「おや、失言だったようです。さて、それじゃ青葉さんも余り油を売らずに、明日の準備でもしてコンディションを整えて下さいね」

青葉「青葉、了解です!では~!」


カツ カツ カツ……



秋月「あっ」

浜風「あら」

潮「あっ…」

島風「オゥッ!?」

曙「うわっ、最悪…クソ提督じゃん」

提督「曙さん、そのクソ提督っていうの、どうにかなりませんかねぇ」

曙「う、うっさいなぁ!クソ提督だからクソ提督って言って何が悪いわけ!?ばっかじゃないの!ふんっ!」タッタッタ…

潮「あ、曙ちゃん…!あぁ、行っちゃった…あ、あの、提督ごめんなさい。曙ちゃんにはあとで私から…」

提督「いいえ、大丈夫ですよ。潮さんは優しいですね。曙さんは、結構無鉄砲な所も多いですから、支えて上げて下さい」ニコッ

潮「は、はい///」

秋月「司令、お疲れ様です」

浜風「お疲れ様です、提督」

島風「てーとく、お疲れ様ー!」

提督「はい、皆さんお疲れ様です。今日の任務は大変ではありませんでしたか?」

浜風「外海での実戦訓練と近海の哨戒任務ですから、さして難しいとは感じませんでした」

秋月「途中、長門さんからの通信でドキッとしましたけど、それも何とかなりましたし」

島風「問題なーし!」

提督「そうですか。それは何より、無事が一番ですからね」

武蔵「直に夕飯だ。支度を整えておけよ」

潮「あ、はい。これから向かおうと思ってましたから大丈夫です」

武蔵「そうか。薮蛇だったな。私達はまだ少し巡察が残っているから、先に食に付いてもらって構わん」

秋月「解りました。長門さんにもその旨伝えておきますね」

武蔵「ああ、頼んだ。では提督、次だ」

提督「ええ、そうですね。では、失礼しますね」


カツ カツ カツ……



??「オラッ、待てゴーヤ!まだ頭拭いてねぇだろ!」

ゴーヤ「あ、あとは自分で出来るでち~!」タッタッタ…

提督「おっと」

ゴーヤ「はわっ」

武蔵「こら、緊急時以外で鎮守府内で走り回るな」

ゴーヤ「はわわ、ごめんでち」

??「どこ行きやがった、ゴーヤ!」

提督「おやおや」

武蔵「木曾…」

木曾「おっ、なんだ提督と武蔵か……って居やがったな、ゴーヤ!」

武蔵「なんて格好だ、木曾」

木曾「あぁ?んだよ、短パンとタンクトップだよ。別に素っ裸じゃねぇんだからいいだろ」

武蔵「全く…ゴーヤもゴーヤだ。辺り一帯水浸しじゃないか。ちゃんと拭いておくんだぞ」

木曾「ったく、風呂上がってそのまま出てこうとしてんじゃねぇよ!」

ゴーヤ「つ、つい海から上がった時の癖でち…」

提督「はっはっは、元気があっていいですねぇ。ですが、風邪には気を付けて下さいね。最近流行ってるみたいですから。
あぁ、あと木曾さん?」

木曾「あぁん?なんだよ、提督」

提督「君も北風小僧じゃないんですから、少しは気を付けて下さいよ」

木曾「ははっ、北風小僧か。そいつはいいや。くくっ、はいはい解ってるよ。悪かったな、五月蝿くってよ」

ゴーヤ「ごめんでち」ペコリ

木曾「うっし、ゴーヤ、体ちゃんと拭いて着替えて飯だ!今日は確かデザートにお前の好きな間宮アイスがあったはずだ!」

ゴーヤ「ホ、ホントでちか!?こうしちゃいられないー!」ドタドタドタ…

武蔵「くくっ、煽てるのが上手いな、木曽は」

木曾「んな事ねーよ。んじゃ、また後でな!」タッタッタ…

提督「さて、と…以上ですかね?」

武蔵「あとは艦娘寮のほうを確認して終わりだ」

提督「あぁ、そうでしたね。僕とした事が、うっかりしていました。では参りましょうか」


カツ カツ カツ……



瑞鶴「あ、提督さんじゃん」

翔鶴「お疲れ様です、提督」

千歳「あっ、お疲れ様、提督!」

提督「おや、まだ夕食の席には着いていないのですか」

瑞鶴「うん、ちょっとねー」

翔鶴「これから向かう所だったんですよ」

千歳「提督と武蔵さんは?」

武蔵「鎮守府の巡察だ。あと千歳、隼鷹にも言ったが鎮守府内に酒を持ち込むのは金輪際止めてもらおう」

千歳「あっ……あぁ~、あはは、いやぁ~、ごめんね。ついつい…」

武蔵「そういう姿勢が隼鷹を調子付かせるんだ。特にあいつは酒癖が悪い。駆逐艦の者達に悪影響を及ぼす」

千歳「うぅ…了解、気をつけるよ」

提督「まぁまぁ、武蔵さん、それくらいにしておきましょう。千歳さんだって悪気があってやった訳ではないんですから。
ただし、何かが起こってからでは遅いですからね、その部分は留意して下さい」

千歳「うん、そうだね。改めて肝に銘じておきます」

提督「ええ、是非そうして頂けると助かりますね。では、僕達はもう少し巡察してから戻りますので」

翔鶴「はい、それでは失礼しますね、提督」ペコリ


カツ カツ カツ……


瑞鶴「……こういっちゃアレだけど、あれじゃ武蔵さんが提督さんで、提督さんが武蔵さんのお付してるようにしか見えないね。」

翔鶴「こら、瑞鶴」

瑞鶴「え~、だって本当の事じゃん」

千歳「私も提督が怒ったところって見た事ないんですよねぇ。いつもニコニコ朗らかで、笑ってるイメージしかない」

瑞鶴「翔鶴姉ぇは提督の経歴とかそういうの知ってるの?」

翔鶴「さぁ…どうだったかしら。上司の悪口はあまり言いたくはありませんけど、提督間ではあまり良いお噂は聞いてはいません」

瑞鶴「あっ、それ私も知ってる。ダメ提督とかダメガネって言われてんでしょ。はぁ、なんかその鎮守府の艦娘ってだけでもなんかなぁって思う」

千歳「作戦立案、戦術指南、運営形態、その殆どが武蔵さんの考案内容って言われてるからねぇ」

瑞鶴「あぁ~あ、どうしてこんな鎮守府に来ちゃったんだろ。第一部隊は赤城さんと加賀が幅利かせてるから入り込む余地ないし」

翔鶴「瑞鶴、余り先輩方を悪く言ってはダメよ。それに、一航戦のお二人は実力があるんだもの、当然のポジションでしょう?」

瑞鶴「私だってあれくらいやれるわよ!」

千歳「ふふっ、瑞鶴気合入ってるねぇ。私も頑張らないとかな」

瑞鶴「トーゼン!いずれ一航戦だって抜きさってNo.1空母の座を手に入れてみせるんだから!」

-提督の秘密-

武蔵「提督、今日のスケジュール一覧だ」ピラッ

提督「ええ、どうもありがとう。おや…今日は、出撃任務が二つですか」

武蔵「あぁ、南の提督の領海だが、そちらでは対応しきれないという事で私達の艦隊にお声が掛かったと言うわけだ。
随分と上からな物言いで、流石に不快を露に仕掛けたがな…」

提督「そうでしたか。あぁ、それで今朝は武蔵さん、少し機嫌が悪かったんですね。合点がいきました。
しかし困りましたねぇ…今日は第一部隊は別件でこれからもう抜錨します。となると、おのずとそちらへ派兵させるのは
第二部隊という事になりますが、今日の編成はどうなっていましたかねぇ」

武蔵「変わらずだ。私を旗艦とし、随艦には五航戦の翔鶴と瑞鶴、青葉に浜風と島風の六人だ」

提督「では、急遽第三部隊の遠征任務は取り止め、近海の警戒任務に切り替えましょう」

武蔵「そこまで警戒するほどのものか?それに鎮守府の方はどうする。蛻の殻じゃないか」

提督「そこはまぁ、なんとかなるでしょう。心配なら南の任務を早急に片付けて舞い戻って来て下さい」ニコッ

武蔵「全く、たまに意見したかと思えば無茶難題を吹っかけてくるな」


コンコン…


提督「はい、どなたでしょう」


ナガトダ


提督「開いてます。どうぞ」


ガチャ…


長門「失礼する。おはよう、提督」

提督「ええ、おはようございます、長門さん」

長門「昨日は済まなかった。頭に血が上っていたとは言え、提督に対する態度ではなかった」

提督「いいえ、長門さんの言い分は最もですから、そこを咎める気は毛頭ありません。
何より、長門さんのような姿勢の人が居るという事が重要なんですよ。いざという時の道標になります」

武蔵「お前が居れば、私や提督がいない場合でも指針がぶれる事はそうあるまい。私亡き後は長門に任せるのが吉だな」

長門「武蔵、そういう縁起でもない事は口にするな。厄を呼び寄せるだけだ」

提督「そうですよ、武蔵さん。口は禍の角…何気ない言葉でも、それが元で災難を招き身を滅ぼすという事もあります。
言葉とは難しいですねぇ…ものをいう時には慎重になるべきという戒めでしょうか」

長門「ふっ、提督にしてはいい事を言う」

提督「お褒めに預かり恐縮です。それはそうと、謝罪だけの為にここまできたのですか?」

長門「ああ、それなんだが…昨日の深海棲艦の件だ」

武蔵「何かあったか?」

長門「動きが不自然だった」

提督「動きが?」

武蔵「不自然とはどういう事だ?」

長門「これまでの深海棲艦には考察という概念そのものがなかった。
それは言い換えれば、こちらの戦術を理解もしなければ作戦の行使も容易だったといえる。
だが、近頃の深海棲艦にはこちらの戦術を理解・把握し、それに対応しようとする動きが見て取れる」

武蔵「馬鹿な。深海棲艦に知恵でも付いたというのか?」

長門「だが事実、昨日近海に出現した深海棲艦は明らかにこの鎮守府を目指して進軍していた」

武蔵「何…?」

提督「………」

長門「何かが起こる前兆とこれは捉えるべきではないか」

武蔵「提督…」

提督「…解りました。その件については僕の方から大本営に話を通しておきましょう」

武蔵「直接赴くか?」

提督「そうですねぇ…第二の旗艦を翔鶴さんに、武蔵さんは第三の旗艦として鎮守府で部隊待機。
木曾さんに第二へ一時的に移って頂き、任務の従事に当たって頂きましょう」

武蔵「了解した」

長門「では、私達もこれより抜錨する」

提督「ええ、宜しくお願いします。くれぐれも無理はしないようにお願いしますね」

長門「心得ている」


提督「さて、それじゃ武蔵さん、あとは頼みましたよ」

武蔵「ああ、そっちもサボるんじゃないぞ」

提督「はっはっは、手厳しいですねぇ。これでも僕、結構しっかり働いているんですよ?」

武蔵「ふんっ、どうだかな。まぁ期待はしないよ。精々ちゃんとやってくれ。頼んだぜ」


ガチャ……パタン……


提督「……ふぅ」カチャ…

提督「…ふふ、眼鏡…別に目が悪い訳ではないんですけどねぇ。どういう訳か、これを掛けるとしっくりくる」

提督「……願掛け、と言うには少し特殊ですかねぇ」カチャ…スッ…

提督「さて、それでは大本営に赴くとしましょうか」



ザワザワ……


本部員1「おい、あれって…」

本部員2「あぁ、窓際提督だろ。不祥事こそないらしいが、別に目立った功績がある訳でもないのに中将の位に居るって噂の…」

本部員3「眼鏡だけはインテリなんだけどな。ダメガネなんて呼ばれてるらしいぜ」

本部員1「ヒドイあだ名だな、それ…」クスクス…

本部員2「おっと…」

提督「どうも」ペコリ

本部員123「「ど、どーも…」」


ツカ ツカ ツカ……


提督「どうも、元帥はいらっしゃいますか?」

大淀「これは提督、お疲れ様です」

提督「ええ、お疲れ様です。大淀さんもお変わりないようで」

大淀「はい、滞りなく。それで、本日は元帥にどのような件で?」

提督「そうですねぇ。どう説明すれば良いでしょうか。ここ最近の深海棲艦の動きについて、少し気になる事がありましてね?」

大淀「深海棲艦の動き、ですか」

提督「ええ、先日の事です。僕の鎮守府近海で少し変わった行動を取る深海棲艦群が居ましてねぇ…
任務に従事する艦娘からも、挙動が変だったと指摘を貰ったものですから、ご報告をと思ったまでです」

大淀「大変申し訳ありませんが、元帥は非常にお忙しい身です。用件のほどはこの私、大淀が確かに承りました。
追って電文にてお返事のご報告をさせて頂きますので、今日はお引取り頂いて構いませんか?」

提督「困りましたねぇ…出来れば直接、お話がしたかったんですが」

大淀「困るほどの内容でしょうか?深海棲艦の動きに不審な点がある。それ自体には確かに留意の点はありますが、
現時点で元帥に一提督が直接内容をお伝えするほどの事とは到底思いません」

提督「なるほど、一理ありますね」

大淀「それと、余りこういう事は言いたくはありませんが…」

提督「はい?何でしょうか」

大淀「提督、貴方と言う人物の信頼性には些か欠ける部分が多過ぎるという事です」

提督「ふふっ、これは…手厳しいですねぇ。解りました…では今日は大人しく引き下がる事にします。では」ペコリ

大淀「申し訳ありません」ペコリ



提督「…………」


コトッ…


店員「ご注文のホットコーヒーになります。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

提督「ええ、ありがとう」ゴクッ…


カチャ…


提督「…………」

??「ここの席、一緒していいかな?」

提督「…………」チラッ…

提督「…ええ、構いませんよ。むしろ、お待ちしておりました」

??「相も変わらず、と言った趣きだな、君は」ガタ…

提督「お伺いしたんですが、ふふっ…大淀さんにピシャリと言い包められてしまいまして。よい秘書艦を携えてますね、元帥」

元帥「彼女は優秀すぎるほどに優秀だよ。第二秘書艦として十二分な働きをしてくれている」

提督「ええ、そうでしょうね」

元帥「で、私に話があるんだろう?」

提督「大淀さんがどう伝えてくれたのかは知りませんが、概ねの内容は伝わっていると思うんですが…」

元帥「聞いたよ。深海棲艦の動きが変だという話だろう?」

提督「ええ、そうです」

元帥「君はいつまでそうしているつもりだ?」

提督「…そうしている、とはどうしている事でしょう?」

元帥「確信に迫ろうとすると直にそうやって茶を濁す。君の悪い癖だぞ」

提督「僕は別に濁しているつもりはないんですがねぇ…人間誰しも答えたくない内容の一つや二つは心に秘めているものでしょう」

元帥「君の場合は心の奥底に後生大事に隠し持っているようにしか見えんがね。その若さで達観するというのは如何なものかと思うぞ」

提督「そうでしょうか。だとするのなら、今もこうして貴方と向かい合ってティータイムになど興じていませんよ。
少なくとも、僕はこの階位に満足していません。何より、この海軍と言う組織に良い印象を抱いていない。
言葉を返すようですが、貴方はいつまで僕をこの組織に縛り付けておく気なのでしょうか?」

元帥「私が君を海軍に留め続けていると、そういうのか?」

提督「少なくとも、僕はそう感じて止みませんね」

元帥「ふっ、ならばそうなのだろう」

提督「はい?」

元帥「君がそう感じるのならそうなんだろうと、そう答えたまでだ」

提督「歯に衣着せぬ、と言った所でしょうか。遠慮と言うものを相変わらず知らない方だ」

元帥「君がそれを言うのか。ならばお相子と言った所かな。さて、話が脱線しているようだが?」

提督「はぁ…これはあくまで、僕が独自に集めたデータによる憶測に過ぎません。それを念頭に置いて聞いて下さい────」



深海棲艦の動きはここ数週間で劇的に変化をしています。

具体的に申し上げると、一部の海域において深海棲艦の出現地点が徐々にこちらの各鎮守府に近付いているという点です。

そして近付くに連れて、出現の頻度は増している。

僕が知る限りで初めてこの変化に気付いてから数えて十日。

それが次に確認が取れた時点では八日。

そこから二日おきに出現するかと目測を立てていた所、次に現れたのは五日。

そして、今回ので二日。

恐らく今度は明日。

それも奇襲と言う形でどこかの鎮守府が襲撃される恐れは大いにあります。

考えられるものとして、深海棲艦の泊地が何らかの理由により移動している。

もしくは移動した先で前線基地を構えている。

故に短いスパンで態勢を整えた断続的な攻撃に転じられるというのが僕の考えた内容です。


元帥「その内容が真実だったと仮定しよう。だが疑問は残る。深海棲艦の泊地はこれまで何かしらの島を利用していただろう。
そういった島々の沖合いを深海棲艦が制圧し、そこに泊地を築き上げる。これらの泊地はこれまでにも確認は取れている。
だが、君の言う理論で言うと、今回の深海棲艦の泊地は海底移動をしているという事になる。これは流石に受け入れ難いものがある」

提督「ですから、憶測に基くと始めに言ったではありませんか。僕だってこれが真実ならば、大いに恐れ戦きますよ。
海底への進軍となれば、向かえる艦娘にも制限が付きますからねぇ…現時点で名を列挙するならば、
イムヤさん、ハチさん、イクさん、ゴーヤさん、シオイさん、大鯨さん、まるゆさん、ローさんの八名でしょうか」

元帥「……艦娘全員の名前、まさか覚えてるのか?」

提督「まさか…僭越ながら、名の知れている子達を列挙したまでです。流石に深海に泊地を形成する、と言うのは無理がある。
とするならば、小隊を編成して断続的な遠征攻撃を敢行している、というのが僕が一番可能性として考えている案です」

元帥「深海棲艦が遠征だと…?」

提督「事実だとするなら、恐ろしい事です。深海棲艦にも知能が備わっている、という事ですからね」

元帥「…解った。早急に調査を開始する」

提督「お願いします」

元帥「君は、動かんのか」

提督「ふふふ、窓際に何を期待しているんですかね?それに僕の鎮守府は僕が優秀なのではなく、
そこに存在している艦娘の皆さんが優秀なだけです。勘違いしないで下さい。では、失礼します」ペコリ

元帥「……昼行灯、と言うわけか」


過去を一切語らない、窓際提督、ダメ提督、ダメガネと言われたい放題の提督。

そんな提督が治めているとある鎮守府。

艦娘からの信頼は殆どないに等しいが、日々を滞りなく過ごしている。

それも秘書艦の武蔵や第一部隊を牽引している長門の努力の賜物でもあろう。

これは、そんな艦娘からの評判が悪いダメ提督と呼ばれている彼を中心とした物語。




~意に背く男~



-役立たず-

今、その鎮守府では緊急の作戦会議が行われている。

敵対する深海棲艦の動向に関して、不審と思われる点が幾つか上がっていた為、独自に対策を練ろうという方針だった。


武蔵「よし、全員揃ったな。点呼、第一艦隊!」

長門「戦艦長門を旗艦とし、以下随艦五名、赤城、加賀、古鷹、矢矧、秋月、計六名!」

武蔵「第二艦隊!戦艦武蔵を旗艦とし、以下随艦五名、翔鶴、瑞鶴、青葉、浜風、島風、計六名!次、第三艦隊!」

木曾「雷巡木曾を旗艦とし、以下随艦五名、千歳、隼鷹、曙、潮、ゴーヤ、計六名だ」

武蔵「全十八名鎮守府着任を確認。ではこれより作戦会議に移行する」

提督「皆さんご苦労様です。今回集まって頂いたのは先にも説明した通り、深海棲艦の動きに不審な点が幾つか見受けられた為です」

加賀「前回の鎮守府襲撃未遂の件と関連性は?」

提督「それも含めて、とご理解下さい。順を追って説明を先ずはしましょう」


今までの深海棲艦の襲撃周期は散漫なものであり、大体はこちらからの攻撃に対して防衛行動を取るのが主としていました。

これに関しては皆さんもご存知の通りです。

こちらから追撃を仕掛ける事はあっても、相手から追撃を仕掛けてくる等作戦染みた動きは皆無だったといえます。

しかし、ここ最近での深海棲艦の動きは襲撃の頻度と回数、その周期から照らし合わせると非常に奇妙といえます。

最初の襲撃から数えて今回の一件に至るまでに僅か一月、この一月の間に深海棲艦は過剰とも言える襲撃を繰り返しています。

先行打撃部隊をはじめ、偵察部隊、陽動部隊、輸送部隊、哨戒線警戒部隊、こちらの動きを把握し、待ち伏せているケースもありました。

これは異例とも言うべき事態と皆さんには認識して頂きたいと思っています。



提督「赤城さん、これまでの深海棲艦の形態を簡潔に述べるとどうなりますか?」

赤城「烏合の衆、でしょうか。群れは成していますが統率は取れていない」

提督「的確ですね。まさにその通りです。ですが、今は小隊を組み、陣形を成し、明確な意思を持って攻めてきています」

木曾「マジかよ…」

提督「ええ、マジですよ、木曾さん」

武蔵「以前に長門達が殲滅した深海棲艦群もこちらの海域を偵察するために編成されたらしい水雷戦隊と予想される。
速力のある軽巡型を基準に雷巡型が二匹、駆逐型が三匹、計六匹による高速偵察部隊だ」

長門「相手の挙動は初回から不自然なものだった。まず、私達と遭遇した事自体が、相手にとっては不慮の事故であったと思う節がある」

翔鶴「……相手、つまり私達の方で哨戒に当たっている面子に空母部隊が存在しないと思っていた、と言う事でしょうか?」

長門「その通りだ。本来、近海哨戒の担当は木曾達の第三部隊だ」

木曾「おい、それって…」

瑞鶴「私達の艦隊編成や担当海域を把握してたっての!?」

加賀「解せないわね。深海棲艦に作戦立案をするだけの知性と行動力が備わっているという事かしら?」

武蔵「認めたくはないが、そうとしか言いようがない」

提督「そこでですね。次回、またいつ何時こうした事態が起こるかも解りませんので、皆さんで事前の打ち合わせをして頂きたいのです」

古鷹「えっと、その…提督は、話し合いには参加されないんですか?」

提督「僕が参加しても皆さんを困惑させてしまうだけでしょう」

矢矧「参加しても意味ないでしょうしね」

古鷹「あぁん、矢矧さぁん…!」ボソッ グイグイ…

隼鷹「にしても気に入らないねぇ。あたしと千歳が近海哨戒する際に、初回しか空の偵察出さないってのも知ってたワケだ」

千歳「こっちの情報筒抜け、だね」

提督「この鎮守府に深海棲艦と内通するような人が居ないのは僕が良く解っています。
とするならば、やはり深海棲艦に知性と行動力が備わっているだろうというのが見解ですね。
出来うる限り、計画を密に行い、実行に移して頂ければと思います」

武蔵「よし、これより作戦の立案と行使に関しての意見交換をする」


スタ スタ……


秋月「本当に提督、出て行ってしまいましたね」

浜風「まぁ、今に始まった事ではないと思いますが…」

曙「ふんっ、別にあんなクソ提督、居ても居なくても同じじゃない。居れば居たで役立たずなんだし、居ない方がマシよ」

島風「にししっ、ぼのちゃん、しんらつぅ~♪」

曙「うっさいわね」




スタ スタ……

チャッ……


提督「…やっぱり、似合わないと思うんですがねぇ…君は、どう思いますか?ふふっ、答えれる訳もありませんか」

提督「この眼鏡も、もう随分と経ちますねぇ。僕には、過ぎた物なのかもしれません。ですが、手放す事が出来ない」

提督「呪縛……というには些か大袈裟でしょうか。君がこうして見ていてくれるから、僕は誤らずに進めるのかもしれない」

提督「……そう、僕が関われば関わった人は────」


チャッ……


提督「ふふっ、ここまで自虐的じゃなかったはずなんですけど、人間変わるもんですね…」


ツカ ツカ ツカ……


武蔵「…………」



長門「ではこれより先の作戦概要に沿って、今後の哨戒任務は遂行する。それで構わないな、武蔵」

武蔵「ああ、問題ない。ただ、深海棲艦の動向が不明慮なままだ。十分に注意して任務には当たってくれ」

長門「解っている。そっちも提督のお守で大変だろうがよろしく頼む」

武蔵「……」

長門「なんだ、どうした?」

武蔵「いや、何でもない。精々足許を掬われんように気をつけるさ」

長門「…?ああ、気をつけるに越した事はない。では、行って来る」

武蔵「あぁ…」

長門「なんだ?」

武蔵「いや、少し赤城を貸してくれ」

長門「赤城を?」

武蔵「出来れば、だが」

長門「空の目ならば加賀で事は足りるだろうが…少しルートを浅めにして警戒を密にすれば問題はないだろう。
埋め合わせはしてもらうぞ、武蔵」

武蔵「やれやれ、早速足許を掬われる羽目になるとは…それも身内にな」

長門「ふっ、ではな」



赤城「武蔵さん、お待たせしました」

武蔵「急で済まない」

赤城「いいえ、武蔵さんからのお誘いは多くありませんから、少し嬉しいですよ?」ニコッ

武蔵「拙いとは思うが、それは詫びだ」

赤城「間宮さんお手製のカステラですね。これ、大好きです。それで、お話がある素振りですが…」

武蔵「赤城はこの鎮守府に着任してどれくらいになる?」

赤城「今の提督が即位されてから間も無くですね。古参と言う表現をするのなら、武蔵さん、私、加賀さん、長門さん」

武蔵「あぁ、そうだな。今の第一部隊はその半分が古参と言えるかもしれない」

赤城「それがどうかされましたか?」

武蔵「赤城は、提督についてどれくらい知っている?」

赤城「…は?」

武蔵「提督についてだ」

赤城「あ、えっと…う~ん、ごめんなさい。確かにそう改めて聞かれると…何も知りませんね」

武蔵「…ああ、そうだ。私も知らない。提督が着任して、もう彼此一年と半年は経っている。なのに、私は知らない。
提督について知っている事と言えば、性格は大らかで珈琲が好きで、誰に対しても敬語を使う。それだけだ」

赤城「あの、でもそれが一体…」

武蔵「私も…赤城、お前も加賀も、長門も…洞察力、観察力に関しては引けを取らないと思っている」

赤城「つまり?」

武蔵「今回の件だ────」


事の発端は今回、提督と私が事前通達を怠った深海棲艦の接近の一件。

今思い返すと不思議と思える点が幾つかある。

まず始めに、深海棲艦の襲撃の前兆を提督は既に察知していたと言える。

あの時、提督は『またですか』と呟いた。

また、と言う事は以前にも似たケースがあったという事だ。

私はそんな報告を受けてなどないし、提督も口にはしていない。

そして長門から危険示唆を受けて提督は一言『解った。あとはこちらで対処します』と、凡そそんな対応を取った。

それだけの情報で、今回の見解を導き出せるものかどうか、私には腑に落ちない部分が多くあった。

そもそも、提督はこの鎮守府で余り好感触は得ていない。

それは大本営においても同じだと聞いている。

いや、実際同行した際にも陰口の数は他と比べる非じゃなかったのを覚えている。

そんな人間が、大本営に赴いて易々と元帥に目通りなど叶うかどうかも怪しいものだ。

にも関わらず、戻ってきた提督の第一声は緊急の作戦会議の立案とそれに伴う戦術変更の指示。

しかも、そこまで指示を出しておいてそこから先は私達に丸投げだ。

まるでそれ以上は関わるのを避けるかのような態度にも見受けられる。



武蔵「────結論、提督は私達に何かを隠している」

赤城「そ、それは考えとしては飛躍しすぎているのではありませんか?確かにこれまでの提督は積極的ではありませんでした。
何かあっても咎めることもせず、僅かな注意と労いの言葉が殆どです。そういう性格なのだと、私達も納得済みです」

武蔵「性格はそうなのかもしれないが、考え方や行動ともなれば話は別だ」

赤城「武蔵さんは、それを追及してどうなさるんです?」

武蔵「赤城、お前はこれまでの歴代で名を残してきた提督を知っているか」

赤城「それは、無論です。私達艦娘を牽引し、その中枢を担う言わば頭脳です。多岐に渡る戦術用法を始め、戦略や陣の形成。
ありとあらゆる方面で智勇兼備の活躍を見せる提督は数多く存在します」

武蔵「では、幻とも呼ばれ、神の眼を持つ男と呼ばれた提督の事をお前は知っているか?」

赤城「神の眼…?」

武蔵「お前でも知らんか。私は一度だけ風の噂で聞いた事がある。先の先まで見通す千里眼の如きその眼はあらゆる障害を物ともしない。
戦術、戦略、謀略すらも看破し、時としてそれを利用さえして相手の上手を行く。まさに知略に置いて右に出れる者が居なかったと聞く」

赤城「そのような智将であれば知らないはずがありませんが…」

武蔵「ある日を境に、その智将は忽然と姿を消したらしいって話でな。姿を消した日から、完全に表舞台からは消失し、噂だけが流れてるって話だ」

赤城「まるで逸話、伝説のような方ですね」

武蔵「あぁ、実際そういう類に分類されて現実かどうかも定かじゃなくなってる」

赤城「その、神の眼を持つ男がどうされたんですか?」

武蔵「その男が消えてから間も無く、もう一つ噂が立った。大本営の面汚し、居ても居なくても一緒のお荷物提督。
役に立たないにも拘らず、その提督の階位は上位に位置し、皆が揃って首を傾げたという曰くの提督さ」

赤城「それって…」

提督「僕の事ですか」

赤城「あっ…」

武蔵「提督…!」

提督「別に噂には頓着しませんが、余り良い趣味とは言えませんね」

赤城「あの、これは、その…」

提督「別に咎めている訳ではありません。単に僕がこういう類に良い感情を抱いていないというだけですよ。
それで、武蔵さんなりに何か気付く事でもありましたか」

武蔵「ふっ、随分と今日は強気だな、提督」

提督「いえ、強気だなんてとんでもない。何か気付いている事でもあれば、それが改善の参考にでもなるかと、そう思ったまでです」

武蔵「ならば単刀直入に聞こう。お前は噂に流れていた神の眼を持つ男、その人だろう?」

提督「これはこれは…突拍子もありませんね。僕が神の眼を持つ男?」

赤城「…………」ハラハラ…

武蔵「ふっ、その飄々とした顔、返って怪しさ満点だぜ、提督?」

提督「はぁ、困りましたね」

武蔵「ああ、本当にな」

赤城「あ、あの、提督?」

提督「はい、何でしょうか、赤城さん」

赤城「…これは、加賀さんの言葉です。何故、提督は常に一歩引いた所でしか物事を見ないのか────」



加賀「何故、提督は常に一歩引いた所でしか物事を見ないのか、その意味がよく解りません」

赤城「一歩引いたところ?」

加賀「戦術の立案、提案、用法、どれも武蔵さんの提唱という事ですが、本来それらは提督の仕事のはずです。
確かに戦術に長けた艦娘も居ることでしょう。しかし、提督のそれには遠く及ばないと、私は思っているわ。
簡単に言ってしまえば、身体を動かすのは私達艦娘であり、頭脳を動かすのは提督。そういう風に考えていたのだけれど」

赤城「提督は、それを放棄しているって事でしょうか?」

加賀「放棄は言い過ぎかもしれませんが、率先的ではない、と言う風に私は考えます」

赤城「でも、それは一体どういう事なのかしら?」

加賀「解りません。ただ、一歩引く意味が解らないという事です。有体に言えば、私達艦娘を避けている、と見て取れます」

赤城「艦娘を、避ける?」

加賀「提督にどういった過去があるのかは解らないけれど、彼は秘書艦である武蔵さんにさえ、壁を作っているように見えます」

赤城「そんな、まさか…」

加賀「巧みに隠しているようですが、永遠と言うものは存在しません。いずれ隠しているものはバレます。
隠し事や嘘は、どれだけ偽ろうと、どれだけ欺こうと、何れは白日の下に晒されるという事です」



赤城「────何れは白日の下に晒されるという事です。提督……提督は、そうなった時、ここから去るおつもりですか?」

提督「……はぁ、敵いませんねぇ。では一つだけ、教えましょう」

武蔵「……?」

提督「加賀さんが言われた通り、この世に永遠と言うものはありません。同じように普遍的なものも存在しないという事です。
時が流れれば人が代わり、世代が代われば在り方も変わる。僕が今もまだこの組織に居る事自体が、異常なんですよ。
過去の存在は、過去にのみ輝けば良い。今尚、輝く必要はないという事です。出すぎた杭は、打たれて然るべきです」

赤城「では、何故提督はまだここにいらっしゃるんですか」

武蔵「赤城…!」

赤城「何故ですか、提督!」

提督「さぁ、何故でしょうねぇ…それを、貴女に教える義理はありますか、赤城さん」ジロリ…

赤城「……ッ!」ビクッ

提督「僕の望みは、この海軍から去る事です」

武蔵「なんだと…?」

提督「ただ、現時点ではまだ僕は海軍を去る訳にはいかない状況にあり、その自由もないという事です。
いざ、去るとなった時に君達との絆が深まっていては決心が揺らぐだけでしょう。だからこそ、最小限の接触に留めている。
これで少しは納得して頂けましたか?」

赤城「……納得は、していません」

提督「何故でしょうか?」

赤城「提督は、本心を隠しているからです」

提督「」(真っ直ぐな目。微塵も僕を疑っていない目。だからこそ、僕がどれだけ巧みに誤魔化そうとしてもそれに惑わされない。
見事なまでの観察眼……この目があればこその、第一航空戦隊。彼女と加賀さん、二人が揃えばまさに敵無しでしょうね)クスッ…

武蔵「何を笑っている、提督!」

提督「……僕が、神の眼を持つ男、と呼ばれていた理由、解りますか」

武蔵「……!」

赤城「…表面的な部分でしか説明は無理です」

提督「それはまた何故でしょう?」

赤城「完璧な解がそこに存在していないからです」


提督「中々に明瞭な回答ですね。そう、答えと言うのは必ずしも一つとは限らない。僕はそれら解の中から最適解を導く事に長けていました」

武蔵「最適解…?」

提督「戦術や戦略と言った類の物も一緒ですよ。数多とある解の中から今の戦力が最大火力を発揮できる戦術。
今居る面子で行える戦略でどれが最も君たち艦娘に負担が無く、且つ最良なのかを見極める事。
僕はそういうのを考えるのが他人よりも若干早いというだけの事です」

赤城「それほどの眼を持っていながら、何故その力を振るわないのですか?」

提督「…お話はここまでですね」

赤城「提督…!」

武蔵「待て、赤城」

赤城「え?」

提督「今、鎮守府に残っている艦娘は?」

武蔵「…私と赤城、二人だけだ。先の作戦概要に沿って、残り十六名は全員出払っている」

提督「武蔵さん、聞こえましたね?」

武蔵「ああ、聞こえた」

赤城「一体…」

武蔵「敵襲だ」

赤城「…!」

提督「こちらの想定を、越えています…!」




-神の眼を持つ男-

武蔵「作戦を考えている暇は無い。クソッ!長門達の包囲網をどうやって突破した!?」

赤城「加賀さんや千歳さん、隼鷹さんの網を掻い潜れる深海棲艦が存在するなんて…」

提督「針のような小さな穴を通したんですよ」

武蔵「小さな穴、だと?」

提督「言った筈です。この世に永遠と言うものが存在しないように、完璧と言うものも存在はしません。
粗を探せば幾らでも見つけられるという事です。そして、この深海棲艦にはそれが出来たという事になります」

武蔵「馬鹿な…」

提督「お二人は即時抜錨。深海棲艦を鎮守府に近付けてはいけません」

武蔵「言われずとも解っている。だが…」

赤城「私達二人だけでは…!」

提督「……回線を開いて置いて下さい。追って指示を出します」

武蔵「どうする気だ、提督!」

提督「先にも述べたでしょう。ここまでは相手が上手だった…それだけの事です。海軍に未練が無いのは確かです。
ですが、僕が存在している以上、こうも易々と僕の預かる陣地を荒らされるのは、我慢なりませんね。
お見せしますよ、一石二鳥と言う奴を…相手を迎撃し、この鎮守府を守り抜きます。その為の力、お貸し願いますよ」



戦局は多勢に無勢、明らかに武蔵達が劣勢を極めていた。

鎮守府側の戦力は武蔵と赤城の二人のみ。

対する深海棲艦はその数、十二匹。

聨合艦隊ではないが、水上打撃部隊と水雷戦隊の複合部隊。

幸いと空を制圧できる分は、武蔵達に軍配が上がるが、普通に考えてこれを二名だけで迎撃するのは至難を極める。

提督は眼鏡中央のフレームを人差し指で押し上げ、静かに考えを巡らせる。

それが考えていたのか、初めから用意していた答えなのか、それが解らないほどの迅速な決断。


提督『赤城さん、敵水雷戦隊を集中的に艦攻艦爆を仕掛けて下さい。出来るなら三匹、せめて二匹は削りたい所ですね』

赤城「…解りました。一航戦赤城、出ます!」

提督『武蔵さんは幾分、肉を切らせて骨を絶つ事になるかもしれませんが…』

武蔵「御託は良い!お前に懸けたんだ!だったら私のする事は一つだけだ。戦艦武蔵、いざ…出撃するぞ!」

提督『赤城さん、貴女の総艦載数は確か82機でしたね』

赤城「えっ!?あ、はい!」(私の扱える艦載機の皆さんの最大数を正確に把握してるなんて…)

提督『制空権はこちらが頂いたも同然です。で、あれば…攻撃として放てる一度の絶対数は比較的稼げますね』

赤城「大丈夫です。いけます!私にお任せくださいませ」チャキッ

提督『敵水雷戦隊は赤城さんの初手で勢いを削ぎます』

赤城「いきます……第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ


ブウウウゥゥゥゥゥゥン……


提督『艦攻隊を先行させ、正面からの攻撃を開始。そこから一拍置いて艦爆隊は上空より空爆を開始。
狙いを軽巡型に絞れば、自ずと随艦は勝手に沈みますよ。必ず、旗艦を庇いますからね』

赤城「……!」サッ

赤城「艦載機のみなさん、用意はいい?」スッ…

赤城「目標は敵機旗艦、軽巡型の深海棲艦です。艦攻隊、攻撃を始めてください!」バッ

提督『武蔵さんは初回、全砲門を解放し広範囲をカバーするように威嚇も込めて砲撃して下さい。
その際、敵水上打撃部隊の正面の視界を完全に奪う形で夾叉・直撃を狙い弾幕を展開するように』

武蔵「ちっ、無茶難題を吹っ掛けてくれるな。だがやってやるさ…全砲門、開けっ!」ジャキッ

武蔵「さぁ、行くぞ!撃ち方…始めっ!!」



ダダダダダダダダッ

ボゴオオオオォォォォォォォォン


ドォン ドォン

ボボボボボボボボンッ

ボゴオオオオォォォォォォォォン


武蔵「赤城、そっちの種別、正確な視認はできているか!?」

赤城「申し訳ありません、旗艦が軽巡型、駆逐型が数匹としか…」

提督『敵水雷戦隊の旗艦は軽巡へ級のエリート型、随艦は雷巡チ級のエリート型が一匹と駆逐ハ級のエリート型が一匹、
残り三匹は通常の駆逐ハ級です』

赤城「えぇ!?」

武蔵「あの、一瞬で種別を判断したのか…」

提督『敵水上打撃部隊は旗艦は戦艦ル級フラグシップ型、随艦に重巡リ級エリート二匹、残り三匹は通常の駆逐ニ級三匹です』

武蔵「……!」(私達ですら把握しきれていない中で、なんだこの男…これが、これこそが提督の実力なのか)

提督『先の艦爆艦攻、砲撃戦で水上打撃部隊の駆逐棲艦は撃滅を確認しました。水雷戦隊側は通常の駆逐棲艦の撃滅を確認。
雷巡棲艦は痛打を受けたようですね。合わせて五匹、上々ですねぇ。赤城さんはそのままの位置で追撃を、武蔵さんは距離を詰めて堅実にお願いします。
その際、武蔵さんには集中的に砲撃が飛来するでしょう。戦艦の力の見せ所ですね』


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュンッ

ボボボボボボボボボンッ


武蔵「ちっ、上等だ。みせてやる…!」

赤城「武蔵さんっ!」

武蔵「そんな攻撃…っ!」ググッ


ボゴオオオォォォォォォォン


武蔵「……蚊に刺されたような物だ!」バッ 小破

ル級FS「シズメ…」ジャキッ

武蔵「…ふっ、痛快だな!いいぞ、当ててこい!私はここだ!」バッ



不敵に笑い、武蔵は両手を広げて相手を挑発する。

そして徐に周囲の景色をつぶさに見て改めて現状を認識しなおした。


武蔵「こいつは、赤城と私の攻撃で完全に足が止まっているのか…」

ル級FS「クラエ…ッ!」

武蔵「……!」


ドォン ドォン

ボボボボボボボボボボン


武蔵「何処を狙っている。私はここだぞ!」ジャキッ


両脇に鎮座するように備えている艤装の砲塔が静かに標的を見定め、ガコッと音を響かせて固定される。

真っ直ぐに武蔵は標的であるル級FSを見据えると、掛けている眼鏡のズレを人差し指、中指の二本で正して大きく息を吸い込む。


武蔵「…………!」チャッ…

ル級FS「……!?」

武蔵「深海棲艦、覚悟は出来てるんだろうな!この領海に侵入して、五体満足で帰れると思うなよ。一匹たりとも逃しはせんぞ!!」ジャキッ


ドォン ドォン


ル級FS「……ッ!」バッ


ボゴオオオォォォォォォォン


ル級FS「」 轟沈

提督『赤城さん』

赤城「あっ、はい!」

提督『恐らくその距離ならば相手の砲撃もまだ飛来はしないでしょう。アウトレンジから一方的に攻め立てられる筈です。
先のお二人の攻撃で相手は恐らく萎縮している事でしょう。暫くは混乱から立ち直れないかもしれませんねぇ』

赤城「……!」(これが、提督の狙い。だから開幕で火力を多めで攻撃をするよう指示を出した…
この好機を逃す手はありませんね)チャキッ


赤城「第二次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


赤城「引き続き目標は軽巡へ級EL!」

へ級EL「……!」ザザザッ

赤城「逃がしはしません!艦載機のみなさん、準備はいい?」サッ

赤城「艦攻隊は真っ直ぐに軽巡へ級ELへ!艦爆隊は絨毯爆撃を敢行!面で制圧します!」バッ

提督『…………』(空間把握能力、認識力、三次元の動きのバランスが取れた赤城さんと、
相手の行動パターンを瞬時に把握し最も有効な攻撃方法の選抜が得意な加賀さん。どちらも計りに掛けるには分量が大きすぎますね。
こちらの意図を一瞬で汲み取ってくれるとは、ありがたい限りです。一航戦の名は伊達ではないという事でしょうか。
このままの推移で事が運べば、恐らく相手は……)


ボゴオオォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォン


赤城の放った艦載機による広範囲爆撃によって相手水雷戦隊の編隊が大きく乱れる。

赤城は次の矢を抜き放ち、武蔵も次発装填をして臨戦態勢に入る。

しかし、相手は向かって来ることはせずにそこで反転、去っていく。


武蔵「ちっ、このまま逃がすわけには…!」

提督『いえ、武蔵さん深追いは止めましょう。むしろ僥倖と言うべきです。加えて言えば、恐ろしくもありますが…』

武蔵「どういう事だ!?」

提督『こちらと相手の力量、それを測る物差しが相手にはあるという事です。この撤退で確信しました。
相手にも僕達と同じ、指揮する者が居る…そしてそれは恐らく深海棲艦ではなく人間でしょう』

赤城「えっ…!?」

武蔵「人間が、深海棲艦に肩入れしているというのか…」

提督『とにもかくにも、お二人ともお疲れ様です。各艦隊への通達は僕がしておきましょう。
通信回線はこれで切ります』

武蔵「ああ、頼んだ」



ブツン……


赤城「ふぅ」

武蔵「お疲れさんだな、赤城」

赤城「ふふ、武蔵さんこそ、腕の傷は大丈夫ですか?」

武蔵「なんのこれしき、ただのかすり傷だ。しかし、驚かされっぱなしだったな」

赤城「ええ、提督の冴え、極まっていました。僅かな隙も見落とさない。まさに神の眼と言うに相応しい千里眼のような方です」

武蔵「こうなる事を想定して先手を打つ。考えれないわけじゃないが、それを実行に移して成功させるんだからな。恐れ入る」

赤城「初手の広範囲に渡る攻撃、これが肝だったようですね」

武蔵「ああ、相手の足を止める事。最初の攻撃でこちらの攻撃を脅威に思わせ、足を竦ませる」

赤城「こちらは二人だけです。それが躊躇う事無く攻撃に転じ、更には一人で複数を一瞬で沈めてくる。
確かにこんな状況を目の当たりにすれば警戒態勢を密にしても不思議はありません」

武蔵「それを見越した上で、距離を図り、相手の進んできた先で構え、先手を打てる間合いをキッチリと見極める…」

赤城「ここまで見越した戦術用法をあの一瞬で構築させるとは…」

武蔵「くくっ、昼行灯とはまさにこの事だな」

赤城「あの、この事は皆さんには…」

武蔵「私とお前が言えば皆は恐らく信じはするだろう。が、あの提督がそれで納得すると思うか?」

赤城「……しません、よね。理由はわかりませんが、ここまで欺き続けてきた事実です」

武蔵「そういう事だ。この事実は、提督自身が自ら告白する以外で認める事は出来ない」

-伏龍-

??「……そうか、鎮守府が蛻の殻になる瞬間を狙ったはずなんだが、不可思議な現象でも起こったのか」

??「……なるほど、そういう事か。ふっ、それはまた手酷いな。そして悲しくもある。
それではまるで、世の摂理からは逃れられないと、暗に示唆されているみたいではないか」

??「しかし、実験にと選んだ鎮守府によもやそれほどの智将が潜んでいるとは想定を越えたな。
だが、面白くもある。艦娘がどれほどのものか、見せて貰おうじゃないか…」


黒のキャップを目深に被り、男は椅子から立ち上がると通信を切る。

そしてゆっくりと振り返り、気配のする方へ身体を向けるとピタリと止まった。


??「あの程度の組織ならば気付かないと…そう高を括っていたんだが、存外馬鹿ばかりでもないらしい。
これなら君達も存分に暴れる事が出来るだろう?今やこの海の制海権は我々にある。人類は空に逃げ、陸に逃げた。
無様に抵抗する組織は海軍を中心に小細工を仕掛けている程度だ。この程度では、まだまだ我々を満足はさせれまい」

??「次ノ目的地ハ、どこなのカシラ?」

??「ここ数ヶ月、余り目立たないように動いてきたのが功を奏している。これを踏まえた上で、次の目標がはっきりとした。
まずは君達のレベリングだ。その次に連携、戦術用法の考案と行使。問題は山積みだが、これを一つずつ攻略していく」

??「つまり、再ビ演習ガ続くと、ソウいう事カシラ?」

??「今回の遠征はあくまでこれまで培ってきたものの動作確認に過ぎない。結果として鎮守府襲撃は失敗に終わり、
こちらの損害は軽微とは凡そ言えない大きさだった。どういう経緯でこうなったのか、また何があったのか。
それらをまずは知る必要がある。今回選抜したメンバーはこう易々と潰される連中ではないはずだ」

??「ドチラも旗艦は轟沈……フフッ、こう言ってハあれだケド、不甲斐無い結果ネ」

??「君達上位種と違って、彼女達には一から教え込まなければならない。それを不甲斐無いで片付けるのは流石に酷だ。
待機していた者からの報告だけでは事の顛末は窺い知れないよ」

??「そう……貴方ガそう言うのナラ、私達はソノ方針に従うダケ。期待シカしてないワ。次のステップへ移りまショウ、黒提督」

黒提督「いつの世も…与り知らず…霞みゆく…」

??「なぁに、ソレ」クスッ…

黒提督「短歌と言ってね。韻文である和歌の一形式で五・七・五・七・七の五句体の歌体の事だよ」

??「へぇ……アラ、でもそれならマダ途中じゃナイかしら?」

黒提督「呑み込みが早いじゃないか。けどいいんだよ…まだ、始まったばかりなんだからね」ニヤッ…




提督「…………」カキカキ…

武蔵「…………」ジー…

提督「…………」カキカキ…

武蔵「…………」ジー…

提督「…武蔵さん、非常に気が散るんですが」

武蔵「あの一件以来、深海棲艦の行軍がパタリと止んだ。お前はこれをどう見る」

提督「さて、どうでしょうねぇ。比較するものがなければそれはどれも憶測でしかなくなります。
憶測は時として閃きのようなものを与えてくれますが、誤った道へも進みやすい。諸刃の剣ですからね」

武蔵「だから何も策を講じず、普段と同じ業務をしろと?」

提督「普段の業務も大事ですよ。基本を疎かにする人が何をどうしたら応用の利く事が出来るのですか。
おっと、そうこうする内に3時のおやつ…ヒトゴーマルマル。休憩ですよ、武蔵さん」ガタッ…


スタ スタ……ガチャ……パタン……


武蔵「はぁ…何を考えているのかさっぱりだな」




提督「まーみーやさんっ!と、いーらこっちゃん!」

間宮「ふふっ、今日も提督は元気ですね」

伊良湖「いらっしゃいませ、提督さん!」

提督「どうも僕は3時のおやつにはここにこないと、エネルギーチャージが出来ないようです。憩いの場とはこの事ですね」

伊良湖「今日は苺大福です!」

提督「おや、それでは珈琲ではなく、ほうじ茶辺りを頂きましょうか」

伊良湖「そう思うじゃないですか?思うじゃないですか?珈琲にもピッタリ合うんですよ~♪」ルンルンッ

提督「これはこれは…ははは、伊良湖ちゃん今日は随分と上機嫌ですねぇ」

間宮「他のお客様にその組み合わせで好評頂きまして、苺大福は伊良湖ちゃんが作ってるから、尚更かしら?」

提督「ふふっ、そうでしたか」

間宮「それよりも提督?」

提督「はい、なんでしょう?」

間宮「そろそろ、私や伊良湖ちゃんでも庇いきれないかもしれませんよ?」

提督「武蔵さんと赤城さんでしょうか」

間宮「もぅ、普段からそのままでいらっしゃればいいのに、どうして隠す必要があるんです?」

提督「困りましたねぇ…僕としては、ただ穏やかに過ごしたいだけなんですけどねぇ」

間宮「まだお若いのに、直にそうやって達観して、年長者の方々へ失礼ですよ、提督?」

提督「ふふふ、手厳しいですね。別に達観しているつもりはないんですが…本当ですよ?」

間宮「私に言われても知りません」

伊良湖「お待たせしましたぁ~、苺大福と、珈琲……えーっと、お砂糖一つまみ、ミルク少量、ですよね?」

提督「ええ、ありがとう」ニコッ

伊良湖「えへへ~、もう覚えましたよ!大丈夫です!」

間宮「伊良湖ちゃん、きっと少ししたら艦娘の子達も着だすでしょうから、それまでの間に一通りの準備お願いね」

伊良湖「はぁーい!今日も張り切って、ガンバります!」タッタッタ…

間宮「伊良湖ちゃんはあの通り純粋だから、提督の昔話とか興味ないんでしょうけど、そろそろ貯めていた期待値が崩壊するかもしれませんよ?」

提督「怖いですねぇ…ですが、間宮さんがここまで僕を庇ってくれる理由に見当がつかないのも事実なんですよ」

間宮「提督と似たようなものですよ、きっと」

提督「はい?」

間宮「その、眼鏡ですよ」

提督「……」

間宮「とても、お似合いですよ」クル……スタ スタ……

提督「…ぐうの音も出ないとは、まさにこの事ですね」チャッ…



提督は眼鏡を外し、その外観を改めて見る。

黒くて細いフレーム、サイド部分には銀のラインが入り、上部に小さく何かが彫り込まれている。

目を凝らしてみて見る。


──Cool heads but Warm hearts.──


冷静な頭脳を持って、温かい心を持とう。

いつでも冷静に、深慮深く、一手先二手先を見て物事を考えた。

心に、温もりが通わなくなったのはいつからだったか。

提督は静かに目を閉じて眼鏡を掛け直す。

ゆっくりと目を開けて小さく息を吐くと一口、二口で苺大福を平らげて珈琲を飲む。


コトッ……


提督「ふふっ、和洋折衷……見事なものです」ガタッ…


スタ スタ スタ……


間宮「……お帰りなさい、提督」

伊良湖「どうしたんですか、間宮さん……ってあれ、提督さん帰っちゃったんですか?感想聞きたかったのにぃ…」

間宮「ふふっ、どうせまた明日も来るわよ。さっ、それよりも準備、整えましょう。艦娘の子達、きちゃうわよ」

伊良湖「はい!一番乗りは昨日は島風ちゃんでしたね!オレンジジュース、用意しておきましょう♪」




~緋色の記憶~



-夜明け-

??「提督、こういう場合はどう指示を出すべきなんでしょうか?」

提督「そうですねぇ…この艦隊がどういう経緯を持ってこのルートを選択したのか、それをまずは考えて見るべきです」

??「どうしてそのルートを選んだのか、ですか?」

提督「ええ、御覧なさい。目的地へ向かうにはこちらのルートを通るのが正攻法であり、距離としても最短です。
あえてそうはせずに、こちらを選んだ理由を考えて見るべきです。考えられる理由としては幾つかあると思いますよ」

??「えーっと…伏兵、とかでしょうか」

提督「ええ、それも考えられる一つの理由ですね。ですがそれは敵が潜んでいると解る状況でなければ体を成しませんね」

??「でも、伏兵と言うのは得てして解らない事が殆どじゃないですか?」

提督「見極める事は可能だと思いますよ」

??「えぇ!?」

提督「おや…解りませんか?この地図上で、何処に潜伏できる場所があるのか。そして艦隊が備えている装備が何なのか。
それらを照らし合わせてみれば、伏兵が居るのかどうかを見極めれるか否かは一目瞭然です」

??「あっ……そっか。あはは、うーん、難しい…」

提督「ふふ、慣れればどうって事ないものばかりですよ。ようはどこに目を付けるか、着眼点の問題です」

??「着眼点…?」

提督「そうです。全体に目を通して、そこからどうすればいいのかは考えないとなりませんけどね。基本は着眼点です」

??「ふむふむ…」カキカキ…

提督「ふふ、楽しいですか?」

??「あっ、はい!提督って何でも知ってるから、ホント為になります!」ニコッ

提督「それは何よりですね」

??「あ、でもでも、提督ってどうしてそんなに色々と知ってるんですか?」

提督「さぁ、何故でしょうねぇ…」

??「アーッ、また直にそうやってはぐらかす!提督って答えたくない質問来るといっつもそうなんだよね。
さぁ、何故でしょうねぇ……か、もしくは、おや、そうでしたか?って言ってはぐらかすの!提督の悪い癖!」

提督「これはこれは、困りましたね…」ニガワライ

??「出た出た、二言目は困りましたねぇ!」

提督「か、敵いませんね────」



────思い出せない記憶。

思い出したくない記憶。

どっちなのか判断に迷う部分が大きい。

だから今も夢に見てしまうのかもしれない。

同じ夢、同じパターン、同じ所で夢は覚める。

淡い夢、儚い思い出、刹那の記憶。

そして意識は現実に引き戻される。


提督「…………」チャッ…

提督「…いきますか」


ガチャ……パタン……


加賀「…おはようございます」

提督「あぁ、おはようございます、加賀さん。日課の鍛錬ですか」

加賀「ええ、この時間に執務室から出てくるなんて、意外でした」

提督「昨日は少し柄にも無い事をしてまして」

加賀「そう、別に私は心配はしないけれど、余計な心配を武蔵さんに掛けない事ね」

提督「ふふ、肝に銘じておきます。それよりも、加賀さん?」

加賀「何かしら」

提督「技法としては申し分ありませんが、心法としては些か、腑に落ちませんね」

加賀「……!」

提督「ある流派の心構えに、我が身を大日如来と思え、大日の規矩(だいにちのかね)と呼ばれる表現があるそうです。
男は凛々しく、女は凜として行射する。心の乱れは残心を狂わせると聞きます。禅を組まれるのが良いかもしれませんねぇ。
では、僕は早朝の巡察に参りますのでこれで」ペコリ

加賀「…………」(私の課題でもある心法について明確に言い当てた…これは、一体…)




古鷹「う~ん……はぁ、今日も良い天気♪」ノビノビー

青葉「それー!」ワキバラ ツンッ

古鷹「ひゃわぁ!」ビクッ

青葉「青葉、聞いちゃいました!古鷹の可愛い悲鳴♪」パシャパシャ

古鷹「~~ッ!あ~お~ば~!あっ……」

提督「これはこれは、朝から元気ですね」

古鷹「て、提督、おはようございます!」

青葉「おや、司令官、聞いちゃいました?聞いちゃいました?古鷹の可愛い悲鳴!」

提督「朝から元気なのはいい事ですが、羽目を外し過ぎない程度にしてくださいよ、青葉さん?」

青葉「えーっ、青葉だけですか!?」

古鷹「青葉はいつも騒がしすぎるんだよ、全くもう!」

提督「元気な事自体は結構ですけどね。青葉さん、髪の毛があらぬ方向に飛び出てますよ。それじゃ示しが付きません」ニコッ

青葉「むむ、女子力の見せ所でしょうか。しかし司令官、なんだか、雰囲気変わりました?」

提督「はい?」

古鷹「え?いつもと一緒じゃないかな?」

提督「特に意識して変えてる訳じゃありませんが、どこか変でしょうか?」

青葉「うーん、青葉の勘違いですかね?」

提督「まぁそれはさておき、もう直朝のミーティングが始まりますから、各自準備を整えて作戦室に集合して下さい」

古鷹「はい、解りました!」

青葉「青葉、了解しましたぁ!」



潮「いち、にっ、さん、しっ!」

曙「ごー、ろく、しち、はち……ふあぁ……」

潮「あー、もう、曙ちゃん、朝なんだよ。シャキッとしようよ~」

曙「あんたののんびり声でシャキッとって言われてもしっくりこないってば」

潮「あーっ、ひどい~!」

島風「早朝ランニングしゅーりょー!」ザザザッ

浜風「はぁ、はぁ……は、速い…」

秋月「お、おかしく、ありませんか、島風ちゃん…はぁ、はぁ…」

島風「え、何が?」

潮「あ、三人ともお帰りなさい」

曙「おかー。島風に足で勝とうっても無理よ、無理。マジでその子速いんだもん」

島風「にししっ」

提督「おや、早朝トレーニングですか」


潮「あ、提督おはようございます」ペコリ

提督「ええ、おはようございます」

浜風「おはようございます。お見苦しいところを…」

秋月「おはようございます」

島風「てーとく、おはよーございまーす!」

曙「クソ提督、あんた朝っぱらから何してるわけ」

潮「あああ、曙ちゃんってば!」

提督「これはこれは、辛辣ですねぇ。朝の巡察ですよ?妖精の皆さんにばかりお任せする訳にはいきませんからね」

曙「フンッ、どうだか!おおかた、武蔵や長門の小言聞きたくなくて逃げてるだけなんじゃないの?」

島風「ぼのちゃん、ツンツンしすぎ~」

曙「うっさいわね!」

提督「それも、曙さんの持ち味ですよ」

曙「は、はぁ!?な、何言っちゃってんの!ばっかみたい!あ、あたしは先に行くからね!///」タッタッタ…

潮「も~、曙ちゃんも少しは素直になればいいのにぃ…」

島風「にっしし~、ぼのちゃんだも~ん、ムリムリ☆」

潮「そ、そんな爽やかな笑顔で言われても~…」ニガワライ

提督「あぁ、そうです。今日皆さんには座学を中心に一日を過ごしてもらいますので、そのつもりでお願いします」

島風「えぇっ」

浜風「座学、ですか?」

秋月「勉強は大事ですからね!」

浜風「秋月、なんだかちょっとやる気あり、な感じですか?」

秋月「勿論!講師はどなたが担当されるんでしょうか?」

提督「僕ですが、何か」

秋月「え゛……」

提督「はい?」

浜風「」(秋月、露骨過ぎます…)アセ

潮「」(あぁ、秋月ちゃん、顔に出てるよぉ…)アセ

島風「あははははっ」キャッキャ

提督「はっはっは、いやいや、素直なことはいい事だと思いますよ?」

秋月「あぁ、えっと、その、も、申し訳ありませんっ///」

提督「まぁ、為にはなると思いますよ?では、僕はまだ巡察がありますから、曙さんには後で伝えておいて下さい」



長門「手加減無用だ」スッ…

武蔵「当然だ。ビックセブン相手に何をどう手加減できる」スッ…

長門「言って、くれるな!」ビュッ


ガシッ


武蔵「朝方の鈍っている体を解すには、これが、一番だ!」ザッ ビュッ


パシッ


長門「精々、眼鏡が割れないように気をつけろっ!」バッ

武蔵「ふっ、心配無用だ!」バッ


ガシィッ


真っ白な道着に着替えている二人の艦娘、武蔵と長門。

二人の日課はこの組み手から始まる。

と言っても、ここ最近始めたばかりであり、戦績は現在の所十二戦三勝三敗六引分、非常に仲の良い二人だ。

今日で十三戦目、互いに気合は入っているが、負けた方は勝った方に昼飯を奢らなければならないという罰が控えている。

互いに戦艦同士、午後の任務に備えて蓄える分は非常に多い。

それに反比例して互いの財布事情は非常に枯渇している。

こう言っては失礼に当たるだろうが、しかし可愛らしい、負けられない闘いが此処にある。



武蔵「今日こそ、昼を支払わせてやる!」

長門「舐めるな、それはお前だ!」


バシィッ


幾度目かの打ち合い、互いの拳を受け止め合い、睨み合う形で力比べが始まる。

双方共に力は似通っている。

一方的に押し負けるという事がない反面、こう着状態も長く続く。


グググッ……


武蔵「力を、上げたな、長門…!」ググッ…

長門「ふっ、相変わらずの、馬鹿力め…!」ググッ…


バッ

ザッ


互いに一足飛びで後方へ一度退き、再度反動を付けて同時にぶつかり合う。

拳、蹴りを同時に放って弾け合い、相手の連撃を綺麗に捌いては反撃に転じる。

左右のワン・ツーから左のブロー、更に沈み込んで長門の左脇腹を抉ろうと右のブローを武蔵は繰り出す。

それを後方へステップで回避して長門は武蔵の足を狙いローの回し蹴りを放つがこれは空振りに終わる。

しかし振り抜いた足の勢いを殺さずに真上に振り翳し、そのまま踵落としへ繋げる。



ダンッ


武蔵「大振りめ!」ザッ

長門「お前が言うのか!?」ザッ


互いに踏み込み、引き絞った弓のように後方で溜め込んだ渾身の右ストレートを同時に放つ。


ドゴォッ


武蔵「ぐっ」

長門「くっ」


ザザザザッ……


共に胸部に強烈な一発を貰い後方へと押し戻されたところで合図のように声が掛かった。


提督「お見事です」

武蔵「はぁ、はぁ、提督か」

長門「はぁ、ふぅ…ま、まさかずっと見てたのか」

提督「真に迫る勢いだったもので、声を掛けるタイミングを逸していました」

長門「別に大したものでもないだろうに…」

提督「僕は体術には疎いですからねぇ…専ら動かすのは頭なものですから」クスッ

長門「……はぁ、まぁどっちだっていいさ。取り敢えず今回の勝負はお預けだな。十三戦目は引分だ」

武蔵「致し方あるまい。だが次は抜かるなよ、長門。確実に私が獲るぜ」

長門「ふっ、言っていろ。私だって燻ったままじゃない。ではまた後でな」スタ スタ…

武蔵「…で、今日は何をするんだ」

提督「取り敢えず、今日は近隣の哨戒のみに勤め、大部分は頭の体操をして頂きます」

武蔵「ふむ、となると…」

提督「空母部隊で哨戒任務には当たって貰う形になりますねぇ」

武蔵「まぁ、妥当か」

提督「ええ、空母機動部隊を編成し、哨戒には一航戦、五航戦の四名と千歳さん、隼鷹さんのお二人、計六名でお願いする予定です」

武蔵「しかし、頭の体操と言っても、一体何を…」

提督「簡単な謎解きゲームですよ」ニコッ

以上、ここまでがサルベージ分になります。
付け足しは若干しかしておりません。
新規に残り数レス投稿させて頂き隊と思います。

-最適解-

提督「さて、今日は少し趣向を変えて皆さんには頭を使った簡単な問題を解いてもらおうと思います」

木曾「はぁぁぁぁ~~~……お、俺ぁ椅子に座ってジッとしてるの苦手なんだよ!なぁ、提督…」

提督「はい?」

木曾「運動系に変えねぇか?」

提督「却下します」ニコッ

木曾「ぐっ…い、いつになく強気じゃねぇか、提督…!」

提督「信頼に足る後ろ盾が今日は控えてくれてますからね。多少は大きく出ますよ?」チラッ

武蔵「座学も立派な任務の一つだ。任務の従事に積極的でない者は相応の罰が加算される。木曾、反抗的だな?」ニヤッ

木曾「おぉぉ……べ、別に反抗はしてねぇよ?た、ただ体も動かしてぇなー、なんて…あ、あははは……ごめん」シュン…

武蔵「解ればいい」

矢矧「簡単な問題って、どういう事かしら?」

提督「個々の判断力、洞察力などを僕なりに見たいと思ったまでです。皆さん個々で全く違う課題を与えますので、
自分が正解だと思う内容を口頭で僕に解答して下さい。皆さん同士で相談し合うのはNGですが、誰か一人に、
一度だけ助力と言う名の相談をする事は可能とします。ただし、一度相談した相手以外への助力はダメですよ。
勿論、僕に相談してくれても構いません。この場に居る方なら、誰にでも助力を願い出て結構です。ただし、一度だけです」

武蔵「」(一人一人に全く違う内容の問題を考えていたのか?だ、だから昨日珍しく忙しいとか言ってたのか)

長門「すまないが提督、空母組に哨戒を任せてまでやる必要がこれにはあるのか?」

矢矧「それに、空母組の人達はこの講義、必要じゃないって事なの?」

提督「双方共に良い質問ですね。答えはイエスです。皆さんには必要であり、空母の皆さんには必要ない講義です」

矢矧「聞き捨てならないわね…!」

提督「そうですか。では矢矧さん、この質問に貴女は答えてみて下さい」

矢矧「……!」



手渡された用紙を見て矢矧は険しい表情を見せる。

一拍置いて提督は全員に向き直り言葉を発した。


提督「個々に問題用紙は用意してあります。それぞれの質問内容には最適解が存在し、絶対的な固有の解は存在しません。
どれも推理などと呼べるような代物ではない、少し考えれば簡単に解は導き出せる内容です。ただし、複数解は存在する。
それら複数の生まれた解の中から、皆さんが最適と思われる解を述べて頂きたい、と言う事ですね。さて────」


貴女は鎮守府防衛に伴い、水雷戦隊の旗艦として近海に抜錨しています。

メンバーは以下の通りです。


旗艦:貴女

随艦:雷巡 駆逐 駆逐 駆逐 駆逐

周辺哨戒を担当する空母部隊より入電。


貴女の預かる領域に奇襲重巡戦隊が接近中との報が入りました。

構成は以下の通りです。


旗艦:重巡リ級EL

随艦:軽巡ヘ級EL 軽巡ホ級 駆逐ハ級EL 駆逐ハ級 駆逐ハ級


このまま進路変更無く進めば、正面からの衝突は免れられません。

戦力差では凡そ五分と五分かもしれませんが、相手方には重巡型深海棲艦を旗艦として軽巡型深海棲艦が二匹も備わっています。

真正面からぶつかり合うにしても、一抹の不安はあると思われます。

さて、ここで問題です。

この状況を最も安定させた上で切り抜けるにはどういった方法が考えられるでしょう。



提督「矢矧さん、解り次第教えて下さい」

矢矧「…………」

長門「」(確かに、聞いた限りでは幾つかの解答はあるだろうが、そのどれもが最善と言えるかは怪しいものだが…)

提督「さて、今のは矢矧さんへの質問です。皆さんが考える内容ではありませんので悪しからず。皆さんには皆さん用の
問題を考えてありますので、それに準じて内容の答えを見つけてみて下さい」

武蔵「」(提督は言っていた。加賀が言うように、この世に永遠なんてものは無い。それと同じように、完璧なものもないと。
粗は探せば幾らでも出てくると。同じように答えと言える解はこの世に探せば幾らでも存在する。幾らでも生み出せる。
それらの中からその場に一番則しているものを選び抜き、当て嵌める。言葉にするのは簡単だが……どうするんだ、矢矧)


ガタッ…


矢矧「……っ!」

曙「クソ提督、あんたあたしの事バカにしてるわけ?」

提督「はい?」

曙「何なのよ、このふざけた質問は!?」バンッ


Q.あなたが一番に護りたいものを示して下さい。


提督「……では逆に問いましょうか。これの何処が、ふざけていると言えるのですか?」

曙「うっ……」

提督「私は曙さんに一番に護りたいものを示せと、そう問い掛けたわけです。何を以て、これがふざけていると思ったのですか?」

曙「え、選べるわけが無いじゃない!ばっかじゃないの!?一番なんて、そんなの…何が一番かなんて、解るわけないでしょ!」

提督「己が定めた量りの中でなら、優劣を決める事など造作も無い事だと思いますよ?」

曙「それが、ふざけんなって言ってんのよ!あたしが護りたいのは全部よ!どれかなんて選べないのよ!」

提督「僕は、選べとは一言も言ってませんよ?」ニコッ

曙「えっ……」

提督「一番に護りたいものを示せ、先にもそう申し上げたではありませんか。それに対する曙さんの最適解は全部。
気持ちの在り様として、これ以上の解は僕はないと思いますけどねぇ。そうではありませんか?」


曙「…………」

武蔵「曙、提督は最初になんて言った」

曙「え?」


──複数解は存在する──

──皆さんが最適と思われる解を述べて頂きたい──


武蔵「提督は細かい事は何も言ってない。出る答えは複数あるだろうが、それぞれが思った『解』を述べろ、そう言っただけだ。
決めろとも、選べとも、それしかないとも、何も言ってないぜ。それは紛れも無く、曙自身が出した解だ。誰のものでもない」

提督「先ほど、皆さんには必要で空母部隊の皆さんには必要ないと言いましたが、既に受けてもらったから必要ないと、そういう事です」

武蔵「ふっ、小賢しい…」ボソッ…

提督「何か?」

武蔵「いいや、何でもない」クスッ

提督「引っ掛かる笑い方ですねぇ」

武蔵「解ったか、曙。お前はそれでいいって事だ」

曙「ぐぬぬ…」

潮「ふふっ」ニコニコ

曙「な、何笑ってんのよ!///」

潮「曙ちゃん、何だかんだいっても本当は優しいんだなって♪」

曙「は、はぁ!?///」

木曾「なんだかねぇ…提督、これぁ直にでも出た答えは持ってかなきゃなんねぇのか?」

提督「今日一日までは待ちますよ」

木曾「へへっ、気前良いじゃねぇか。だったら……」

提督「ただし、自室への持込はダメです」

木曾「え゛……」

提督「自室への持込がダメなのは、一つはサボる方が居る可能性があるため。そしてある程度皆さん、同じ環境で
物事を考えて頂きたいという僕の提案によるものです。故に、自室への持込はダメ、と言う事です。
特に、木曾さんはサボりそうですからねぇ…」チラッ…

木曾「くぉぉぉ……!」




提督「さて、大体皆さんの解は出揃ったようですね。では、本日の講義は以上です。残りの時間は各自自由に使って下さい」


ガヤガヤ……


矢矧「提督」

提督「おや、どうかされましたか?」

矢矧「提出します」スッ…

提督「…拝見します」


考えられる手は三通り。

一つは正面からの艦隊戦。

出来る事なら相手を撃滅、無理でも撤退に追い込む為に尽力する事。

一つは横に逸れて正面からの衝突を避け、側面もしくは背後からの奇襲戦。

ただしこれは周辺に岩礁など伏せる場所がある事に限定される。

一つは一度後退し、その間に援軍を呼ぶ事。

態勢を万全にした状態でこれを迎え撃つ。

この中で最も私が安定と思うのは三つ目、援軍を呼び態勢を万全にして迎え撃つ。

相手が攻めてきており、四面楚歌でない状況ならば愚に突っ込まず周辺を警戒した上で援軍を待つのが利口です。


提督「……なるほど、個ではなく全の考え方ですか」

矢矧「有体な発想です。奇を衒ったものや、誰もがそう思う最良の選択なのかは解りません」

提督「いいえ、それが重要なのではありませんか?」



確かにこれは活字の世界での出来事、虚構の話ですからね。

ある程度、皆さんも安寧と構えられると思います。

考察の段階でもある程度ストレス無く考えを巡らせる事ができるでしょう。

ですが、これが海上でかつ、時間が差し迫った中で考えていたらどうなりますか?

恐らく、ここまで冷静な策は一つ思い浮かべば良かったと思うべきでしょう。

そしてそれが先ほどの三つの中のどれなのか。

気を悪くなさらないで下さい。

三つの中で、矢矧さんが最初に思い浮かぶ戦術は一つ目に提案として出された案でしょう。

空母隊からの連絡を受けてそれを随艦の皆さんに伝達。

まず間違いなく現場には緊張が走りますねぇ。

これから戦闘になるかもしれない。

どこからくるのか、いつくるのか、幸い深海棲艦の艦種と艦隊編成は空母隊の情報提供で入手済みです。

であれば、そんな中で思い浮かぶのは迎え撃つ事。

迎え撃てるはず、もしくは迎え撃たなければならない。

そう考えてしまうでしょう。

虚構と現実の狭間は僕もそうですが、皆さんが考えるよりも大きく、そして深い。

今回、個々で問題の内容を変えたのには同じ内容で意識の共有をして欲しくは無かったから、でしょうかね。

解とは、解き明かすものではなく、捜し求め紐解いていくものです。

手の届く所にあるものにだけに執着せず、その先、その周囲を見て探って紐解く……解は有限ではなく無限である。

実に、面白いですねぇ。


提督「君達艦娘は解と同じく無限の可能性を秘めている存在です。一つではなく、幾つもの可能性を内包し紡ぎ続ける。
僕は、そんな皆さんの足元が覚束無いように、少し添え木をしてサポートするだけの存在ですよ」

矢矧「提督、あなたは始めから…」

提督「ふふっ、自覚はあるのですが癖と言うのは得てして中々に抜けないものです」

矢矧「あなたの悪い癖、ですね」クスッ…

提督「ふふっ」

本日はここまで
改めて皆様、また宜しくお願いします

乙、待ってた

再放送?

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

>>50
ありがとうございます
頑張ります

>>51
サルベージ分は再放送になります
ここから先は新規です

-第一段階-


ドォン ドォン ドォン ドォン


??「何もナイ海原に砲撃ヲ撃ち込む意味って何カシラ?」

黒提督「君は鬨の声と言うのを知ってるかい?」

??「トキノコエ?」

黒提督「ふっ、深海棲艦には馴染みがないか。人間と言うのは何かを皆でやる時に掛け声を掛け合うのさ。
一つの覚悟、結束、一丸となって何かを成そうとする時に思いをシンクロさせる為に、士気を上げる為に、
物事の始まりを知らせる為に、鬨の声を掛けるのさ。これは、その合図のようなものだよ」

??「ヘェ……」

黒提督「始めよう。君達の努力は、必ず報われる。暁の水平線に、勝利を刻めっ!」


幾重にも連なる雄叫びとも呼べるような深海棲艦の上げる咆哮。

それは今までにない深海棲艦の行動原理。

発掘され、育成され、教育され、指導され、完成された集団行動の基本的理念。

これを得た事によって、深海棲艦の戦力は恐ろしいまでに錬度を上げて今も尚向上し続けている。

烏合の衆であり、連合ではなかった存在達が考えを持って行動し、知略をもって挑んでくる。


黒提督「何も、艦娘だけが勝利を刻めるわけじゃない。一定の錬度を保った深海棲艦であれば、お前達から勝利を、
安寧を、平和を…刻み、奪い、破壊する事が出来るんだよ。精々悠長に構えていろ…気付いた頃には、後の祭りさ」ニヤッ…




提督「まーみーやさん!っと、いーらこっちゃん!」

間宮「時間ピッタリね。こんにちは、提督」クスッ

伊良湖「いらっしゃいませ、提督さん!無遅刻無欠勤!」

提督「前にも申し上げたではありませんか。ここでティータイムを取る事が、僕にとってのモチベーションの維持に繋がるんですよ」

間宮「はい、前にも伺いました」

武蔵「失礼する」

伊良湖「あっ、武蔵さんいらっしゃいませ!」

間宮「あら、今日は秘書艦さん同伴?」

提督「おや」

武蔵「やっぱりここか。私に書類の後始末を押し付けて自分は堂々と間宮亭にしゃれ込むとは良い度胸だな」

間宮「あら、そうなんですか、提督?」

提督「人聞き悪いですねぇ。僕はきっちり自分のノルマは達成してますよ。残りの作業は武蔵さんが買って出たのではありませんか」

武蔵「ちっ、手伝おうとか労おうって気がサラサラなさすぎだぜ、ったく!」

提督「三時のおやつが迫ってましたからね。僕としては、急ぐ理由があった訳です」

伊良湖「提督さん、あの鎮守府に着任されて初日からずっと通い詰めてくれてますもんね」

間宮「そっか、伊良湖ちゃんは知らないのよね。提督は伊良湖ちゃんがうちで働いてくれるようになる前から、ここの常連なのよ」

伊良湖「えぇ!?」

提督「間宮さんの作るお料理はどれも絶品でして」

伊良湖「あ~、でも解ります~。ほっぺた落ちちゃう位の美味しさなんですよね~」ニコー

間宮「もう、そんなに煽てても何も出しませんよ」

武蔵「はぁ、ここで提督にあれこれ言っても始まらんか。取り敢えず私も珈琲とカステラを貰おう」

間宮「はい、ただいま♪」

伊良湖「珈琲、直にお持ちします♪」

提督「武蔵さんはここのカステラに目がありませんからねぇ」

武蔵「間宮亭のカステラは絶品だ。これを食べずして他のメニューを語る事は許されん」



──それには同意せざるを得ません──


提督「おや、これはこれは…」

赤城「提督、お疲れ様です」

加賀「お疲れ様です」

翔鶴「お疲れ様です、提督」

瑞鶴「あれ、提督さんもここで休憩?」

提督「今日は皆さん、訓練日でしたね」

瑞鶴「そうよ。後ちょっとで一航戦に勝てたのに!」

加賀「下らないわ。比べる事の意味なんてないと思うけれど、そんなに必要な事かしら」

瑞鶴「むっかー…!」

赤城「加賀さん、余りそういう事は言わないで、ね?」

加賀「赤城さんは五航戦に甘すぎます。何より、これは競技でも何でもないわ。生きるか死ぬかの戦闘訓練よ。
その優劣を決めようという事自体が愚かしいと、私は言っているに過ぎません。前言の撤回はしません」

瑞鶴「ふんっ、何よ!どーせ負けるのが怖いだけでしょ!」

翔鶴「瑞鶴!先輩に対して言う言葉じゃないでしょう?それに、提督や武蔵さんもいらっしゃる前で、なんて口の利き方を…!」

武蔵「…いやまぁ、別に私の事は気に留める必要はない。が、言葉の使い方としてはどうかと思うぜ?」

提督「切磋琢磨する事は良い事ですが、いがみ合う様では本末転倒ですね」

瑞鶴「ねぇ、提督さん!」

提督「はい?」

瑞鶴「私と翔鶴姉だって十分経験も実戦も積んだわ。第一部隊に編入させてくれたって良いんじゃないの!?」

翔鶴「ず、瑞鶴…!」

加賀「はぁ、またそれですか」

瑞鶴「な、何よ!?」

赤城「…………」

提督「そうですねぇ…では、一航戦のお二人との真っ向勝負で演習を行い、勝った方を改めて第一部隊に編入させましょうか?」

加賀「……!」

瑞鶴「さっすが、提督さん!解ってるじゃない!」

赤城「て、提督!?」

瑞鶴「ふっふーん♪あっ、間宮さーん!私、苺パフェ!あとメロンソーダね!」スタスタ…

間宮「はぁい」

翔鶴「瑞鶴ったら…申し訳ありません、赤城さん、加賀さん、提督、武蔵さん。失礼しますね」ペコリ


加賀「……提督、どういう事ですか」

提督「何がですか?」

加賀「勝負の件です。貴方なら、解っていると思ったのだけれど」

提督「ええ、残念ですが目に見えて解っている勝負ですね」

赤城「それを、瑞鶴さんに教えて差し上げれば良いだけではないのですか?」

武蔵「そういう事じゃないって訳か」

提督「ええ、出来る事なら、自ら気付いて欲しい所です」

加賀「武蔵さんも解っていると思うけれど、別に私も赤城さんも突出して強いという訳ではないわ」

赤城「ただ周囲の警戒、索敵の綿密性、戦闘における攻守の切り替え、それらを連携と言う形でこなしているだけです」

加賀「翔鶴も瑞鶴も、潜在性で言えば私や赤城さんを優に超えていると思うわ。でも……」

武蔵「でも、なんだ?」

加賀「翔鶴はどうかは知らないけれど、瑞鶴には決定的に欠けているものがあると思うわ。それに気付けないようなら…」

提督「ええ、何度お二人に勝負を挑んだところで焼け石に水。結果は逆立ちしてもひっくり返る事はないでしょうね。
先んじて六人の空母隊の皆さんにも解の問題を提示しましたが、瑞鶴さんは今一つと言うところですね」

武蔵「成長の兆しは有り、と言う所か」

提督「まぁ、見せて頂きましょう。実際に見れば、武蔵さんも瑞鶴さんの何が未熟か、直に解りますよ」


何が足りて何が足りないのか。

人より学ぶ事もあるだろう。

物事の中で見出す事もあるだろう。

己の中に変革が起こり、自ら気付き悟れる事もあるだろう。

しかし、時としてそれは誰かに教えてもらって気付く事は許されないものもある。

己が成長する為に、その先へ足を踏み入れる為に。

教えるだけが優しさではない。

時に気付かせ、自分で探す事も必要なのだ。

本日はここまで


待ってたよー

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

>>59
ありがとうございます
完結まで持っていけるよう頑張ります




~布石~



-一航戦vs五航戦-

青葉「さぁ、やって参りました!己のプライド、意地、地位を賭けて!互いの技、戦術、戦略を駆使して!負けられない!
戦いが!ここにある!実況は青葉型一番艦、重巡洋艦ネームシップの青葉がお伝えします!解説は司令官と秘書艦の武蔵さんです!」

武蔵「五月蝿いぞ、お前」

青葉「えぇ!?」

提督「青葉さんの実況にはムラッ気がありますからねぇ、どうでしょうねぇ」

青葉「がーん…」


赤城「余り気が進みませんね」

加賀「心配要らないわ。赤城さんはいつも通りでいいのよ。私も、それに順ずるだけです」

瑞鶴「覚悟しなさいよ、加賀!」

加賀「…………」

瑞鶴「むっかぁ!無視すんじゃないわよ!」

翔鶴「瑞鶴!いい加減にしなさい」

瑞鶴「翔鶴姉ぇだって言われっ放しで悔しくないわけ!?」

翔鶴「何はともあれ、貴女の我が侭に付き合ってくれたのよ。胸を借りるつもりで…」

瑞鶴「じょーだん!逆に貸してやるってのよ。あの無表情を歪めさせてやるんだから…!」


青葉「いやー、火花散ってますねぇ。主に瑞鶴さんの一方的な火花っぽいですけど」

提督「武蔵さんはどう見ますか」

武蔵「開幕、赤城と加賀の艦爆艦攻で五航戦は劣勢に陥るだろうな」

青葉「えっ、いや五航戦のお二人も一緒に発艦させるんですから、一方的は言いすぎでは?」

武蔵「赤城と加賀、あの二人が何故第一部隊に居続けるのか。何故、長門達が何の憂いもなく空の目を二人に任せるのか。
青葉、お前にその理由が解るか?」

青葉「えぅ…えっと、うーんっと…」チラッ

提督「おや、実況ならば下調べくらいはしておくべきではありませんか?」ニコッ

青葉「うぅ…青葉、不覚でした…」

武蔵「ははっ、まぁ見てれば解る。静かなものだが、加賀は結構イラッときてる顔だったからなぁ…荒れるかもな」

提督「それが良い薬にでもなれば、御の字なのですがねぇ」



赤城「いいんですね、加賀さん」

加賀「言って駄目なら、その身に叩き込む他ありません」

赤城「解りました。では……」スッ…


赤城は一拍置いて静かに目を閉じ、大きく静かに深呼吸をしてそっと目を開く。

その目は、先ほどまでの柔和な赤城からは想像もできないほどに鋭利に研ぎ澄まされた刃のような表情に変わっていた。

第一部隊の旗艦を務めるのは武蔵か長門が殆どだ。

しかし、赤城、加賀、古鷹、矢矧、秋月、他の面子の誰もが旗艦として十分に機能するだけのものを持っている。

そんな中でも信頼の厚い武蔵や長門が普段は旗艦を務めている。

赤城は一度だけ、旗艦を務めた事がある。

だがその一度きりで、旗艦の座を辞している。

他のメンバーも彼女の決断には納得している。

それは彼女が旗艦として向いていないからではなく、彼女の力を最大限に生かすためだ。

赤城と加賀を例えるならまさに矛と盾、と第一部隊のメンバーは言う。

強い意志を持ってそれを曲げず、如何なる逆境をも耐え忍んで跳ね返す。

誰もが真似できる芸当ではなく、そして誰もがそうでなくてはならない、と言う訳でもない。

赤城と加賀が共に志す信念、それこそが赤城をそうさせるだけの覚悟を背負わせている。

そして、それこそが第一部隊の赤城と加賀を確固たるものにさせている。

第一航空戦隊、その栄光とも言える名はそう簡単に誰かへ継がせられるほど優しいものではない。

それを解っているからこそ、赤城は敢えて鬼となる。



赤城「全力で、お相手しましょう」

加賀「はい」


武蔵「空気、変わったな。一航戦の本気が見れるぜ、提督」

提督「瑞鶴さんも、加賀さんの逆鱗にこうも鮮やかに触れてしまうとは、不運ですねぇ…」

武蔵「それ、慰めになってないぞ」

提督「時として、身内同士でこうして競い争うのは必要だと思っています。ですが、度を越した争いはもはや競争ではなく、
ただの諍い事になってしまう。切磋琢磨の在り方を履き違えると面倒な事になってしまうものです」

武蔵「それを解らせる手段にしては、少し強引だったんじゃないのか」

提督「どうでしょうねぇ。時として痛い目を見ないと解らない事もありますからね。先にも申し上げましたが…」

武蔵「ああ、これが良薬である事を願うばかりさ」



赤城「……」

加賀「……」

翔鶴「先輩方、この度は瑞鶴の我が侭で申し訳ありません」ペコリ

瑞鶴「だからなんで翔鶴姉ぇ謝るのよ!」

赤城「いいえ、問題はありませんよ」

加賀「切磋琢磨の機会を設けた、そう捉えれば幾らかはましね」

赤城「この勝負で白黒がはっきり付いた場合、負けた方にはペナルティを設けるべきです」

瑞鶴「ぇ……」

加賀「私達が負けた場合、その実力に伴っていないと認め、私達は第一部隊を退きます。合わせて、一航戦の名も、捨てます」

翔鶴「なっ…」

赤城「お二人が負けた場合…」

瑞鶴「ま、負けたら……この鎮守府から去るわよ!」

翔鶴「瑞鶴…!」

赤城「……瑞鶴さん」

瑞鶴「な、何よ!」

赤城「それに、翔鶴さんを巻き込むのは無粋ではありませんか?」

瑞鶴「えっ…」

加賀「私達のペナルティは二人で決めて二人で納得した内容です。ですが、貴女が提示した内容は貴女が勝手に決めた内容です」

赤城「それに、翔鶴さんを巻き込むのは無粋ではないかと、申し上げたんです」

瑞鶴「そ、それは…」

翔鶴「……構いません。私も、負けた場合はここより去ります」

赤城「…翔鶴さん」

瑞鶴「……」

翔鶴「瑞鶴の言葉は、そのまま私の言葉…自分だけそれは違うなど、言える筈もありません」

瑞鶴「ぁ……」

加賀「解りました。ですが元を質せば言い出したのは瑞鶴です。その言葉には責任を持って然るべきです。
けれど、この鎮守府における決定権は提督にあるわ。最終的な判断はそこでしてもらう事になると思うけれど、構わないわね?」

瑞鶴「わ、解ったわよ…」


青葉『それでは、両者ペア共に戦闘配置について!これより、一航戦と五航戦による演習決戦を始めます!両軍、抜錨!』



赤城「一航戦赤城、出ます!」

加賀「一航戦、出撃します」

翔鶴「五航戦翔鶴、出撃します!」

瑞鶴「五航戦、瑞鶴出撃よ!」


双方共に一足飛びで前に出ると同時に弓を構えて相手を見据える。

が、機先を制したのは一航戦。

目にも留まらぬ速さで矢を射ると同時に、次の行動へと瞬時に転じる。


赤城「第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ

加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」ビュッ

翔鶴「は、速い…!くっ、全航空隊、発艦始め!」ビュッ

瑞鶴「何なのよ、あの速さは…!第一次攻撃隊、発艦始め!」ビュッ


一拍遅れる形で五航戦の二人も矢を射って次の行動に移るが、完全に出遅れた事で艦爆艦攻隊の編隊に乱れが生じる。


加賀「赤城さん、私は右舷より向かいます」

赤城「はい、私は左舷方面ですね」


上空では双方の艦載機が攻防を開始する。


ボボボボボボボンッ


幾つかは撃ち損じたとは言っても、その上空は殆どが一航戦の艦載機で埋め尽くされる。



瑞鶴「そんな…!」

翔鶴「完全に後手に回ったわ。瑞鶴、被害を最小限に抑えるわよ!」バッ

瑞鶴「うんっ!」バッ


ボンッ ボボンッ


一航戦側に降り注ぐ艦爆艦攻は微々たるもので、二人はそれを難なく回避する。

しかし、この時点で五航戦は気付くべきだった。

後手に回ったはずの自分達の攻撃が何故先に届いていたのか。

それに攻撃が開始される間際に気付いた翔鶴は愕然とした表情でそれを目視した。

頭の中を様々な憶測と考えが一瞬にして巡る。

先ずは何故、あの二人はもう二順目の構えに入っているのか。

次に、何故こちらの攻撃がもう終わっているのか。

改めて、一航戦の艦載機群の動きに注視する。

既に遅すぎる刮目。

敵方の攻撃なのに、それを美しいとさえ思ってしまう見事な編隊。

相手の艦載機を見上げているのだと確信し、そうして愕然とする。


翔鶴「敵機……直上っ!瑞鶴!!」

瑞鶴「そんな、なんで…!」


訳が解らない。

瑞鶴の脳裏で繰り返し紡がれる言葉はそれが大部分を占めていた。

明らかに出遅れたはずだ。

実際、こちらの発艦が中途半端になってしまい編隊が完成する前に大部分が撃墜されていた。

完全に後手に回った。

そう思っていたのに、何故まだ相手の攻撃がこない所か、こちらの攻撃はもう終わっているのか。

いや、それよりも何故、相手の艦載機が直上に来るまで気付けなかったのか。

様々な考えが一瞬にして頭の中を駆け巡り、姉の声に我に返る。

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます

翔鶴「瑞鶴!!」

瑞鶴「っ!」

翔鶴「横に回避!」バッ

瑞鶴「くっ」バッ


ボゴオオオォォォォォォン

ボゴオオオォォォォォォン

ボゴオオオォォォォォォン


断続的に響き渡る爆発音。

一瞬にして周囲を噴煙が包み込み、水面を大きく揺らす。


赤城「第二次攻撃の要を確認します」チャキッ

加賀「了解です。第二次発艦準備」チャキッ

翔鶴「させません…!」バッ 小破


煙を撒いてそこから翔鶴が躍り出る。

この行動には一航戦の二人も眉を僅かに跳ね上げる。

先の一撃であわよくばと、そう思っていたのも確か。

しかし、実際はそうはいかなかった。

甘く見ていた。

更に言えば、慢心していた。

その事実を直に受け止め、二人の眼差しは更に鋭さを増した。


加賀「それをどうするのかしら」

翔鶴「はっ!」ビュッ


裂帛の気合と共に翔鶴は速度に乗ったまま、その勢いに乗せて矢を投射。

そう、弓に番えずそのまま投擲したのだ。



ヒュン ヒュン ヒュン


赤城「なっ!?」

加賀「……!」


しかし矢は水平に真っ直ぐと飛来し、途中で無数の艦載機に変化、空を飛翔する。

予期していなかった行動に一瞬、身が固まる。

だが翔鶴達にとってはその一瞬が十分にありがたい硬直となった。

態勢を立て直した頃に翔鶴の投擲した艦載機の攻撃が始まる。


ダダダダダダダダダダダダッ


不安定な発艦にも関わらず、翔鶴の投擲した矢から散開した艦載機達は赤城と加賀へ猛攻を仕掛ける。

ただそれだけで決定打にはなってなくとも、二人の動きを封殺する事には成功する。


加賀「くっ、出鱈目な…」 被害軽微

赤城「弓を使わずに発艦させたのには驚きましたが、問題なのはそこではないみたいですね」 被害軽微

翔鶴「瑞鶴、瑞鶴!」

瑞鶴「まだまだぁ!」 小破

加賀「存外しぶといですね」

翔鶴「誰よりも、鍛錬をしている自負があります!お二人よりも!」チャキッ

瑞鶴「演習だって関係ない!絶対に勝つんだから!」チャキッ

加賀「必ずしも勝敗が全てではありません」ザッ…

赤城「ただ制すればいいだけなら、私達はここまで辿り着きはしていませんよ」ザッ…


構える五航戦に対して一航戦は無造作に一歩前に踏み出し間合いを詰める。

その行為に五航戦の動きがピタリと止まる。

予想しなかった行動。

その一歩に何の意味があるのか、何故前に出てきたのか。

距離で言えば遠距離から中距離、近距離にも迫る間合い。

翔鶴、瑞鶴共に目を大きく見開いて一航戦を凝視するしか出来なかった。



加賀「瑞鶴、貴女は言ったわ。私を、私達を越えると」

瑞鶴「だ、だから何よ!」

赤城「その意気込み自体を否定する理由はありません。ただし、その姿勢は褒められません」

瑞鶴「……っ」

加賀「…………」

赤城「加賀さん」

加賀「……はぁ」


少しの沈黙から、赤城に背を押されて観念するように加賀は小さくため息を吐いて五航戦を真っ直ぐに見据える。


加賀「断言します。今の貴女達に私達一航戦は幾万、幾億戦いを挑まれようと負ける気はありません。
嫌味でもなく、挑発でもなく、これは歴然とした自信から来る確信です」

瑞鶴「な、何ですって…!」

加賀「私達第一部隊が何故、第一部隊なのか…貴女は解っていて?」

瑞鶴「ぇ……」

赤城「確かに実力が伴っているからこその第一主力艦隊と言うのは正しい部分もあるでしょう」

加賀「けれど、私達の場合は違うわ。常に死線と隣り合わせ。次へ繋ぐ事こそが、私達第一部隊の本当の役割よ」

翔鶴「…………」

赤城「翔鶴さんはある程度、解っていたはずです」

瑞鶴「翔鶴姉…」

翔鶴「瑞鶴…私はね、貴女にはもっと強くなって欲しいわ。けど、今の貴女は強さだけを求めているように見える」

加賀「この勝負、貴女達には悪いけど勝たせてもらいます」

瑞鶴「……!」

加賀「私達は必ずしも常勝してきた訳ではありません。数々の辛酸を舐め、時に挫けそうになり、それでも折れずに立ち続けた過去がある」

赤城「それは私達にとって絶対的な後ろ盾となって今も尚、私達を支えてくれています」

加賀「見出しなさい。瑞鶴、貴女にとって何が足りないのかを」



それは一航戦から五航戦に受け継がせる一つの試練にして何物にも変え難い形のない贈り物。


赤城「その上で私達を越えるというのであれば、私達は何度でも立ち塞がります」


そう、第一部隊を牽引してきたからこそ解る辛さと厳しさ、そしてその隊に席を置く者の覚悟。


加賀「だからこそ、ここは譲れません」チャキッ

赤城「少なくとも、今の貴女達にこの場はまだ荷が重い」チャキッ

翔鶴「…瑞鶴」

瑞鶴「……やろう、翔鶴姉」グッ…

翔鶴「貴女が今持っている全てを、あの二人に見せてあげなさい」


武蔵「第一部隊だからこそ圧し掛かるプレッシャー。これはどんな死線を潜ってきた奴にだって例外無く足を竦ませる」

提督「おや、武蔵さんにしては随分と消極的な発言ですね」

武蔵「どういう意味だ。私だってプレッシャーくらいは感じるさ」

提督「他意はありませんよ」

武蔵「だがまぁ、あの二人が五航戦に塩を送るとはな。変われば変わるもんだ」

提督「それだけの期待値を秘めているからこそ、ではありませんかね」


結果から言えば一航戦の圧勝、五航戦の完敗だった。

心、技、体、全てが一航戦は五航戦を上回っていた。

志、技術、身体能力、そのどれもが五航戦は一航戦に微塵も太刀打ちできていなかった。

力無くその場に崩れるように両膝を突いて瑞鶴は虚空を見上げる。

静かに俯き、翔鶴はそんな瑞鶴を悲しげに見詰める。

そんな二人の前に、悠然と聳えるようにして立つ一航戦。

周りも二組の真剣なまでの勝負に声も出さずに固唾を呑んで見守っていた。

その沈黙を破り、武蔵が一歩前に出て口を開く。



武蔵「勝負有りだ。勝者は一航戦、異論は無いな?」

翔鶴「…はい。これが、今の私達の実力です」

瑞鶴「…………」

提督「さて、どのようなルールでしたか?」

加賀「…………」

赤城「勝敗の有無は別として、各自で立てた敗北の条件を提督に判断して頂く、というものです」

瑞鶴「……っ」

提督「そうでしたね。では後回しにしてもただ酷なだけでしょうし、この場で言い渡しましょう」

翔鶴「……」ウツムキ

瑞鶴「……」ウツムキ

提督「五航戦翔鶴及び瑞鶴のお二人にはこれより第二部隊を退いて頂きます。代わって第二部隊の航空隊は
一航戦赤城及び加賀の両名に在籍して頂き、空いた第一部隊には五航戦翔鶴及び瑞鶴に在籍して貰いましょう」

翔鶴「えっ!?」

瑞鶴「ぇ……?」

提督「瑞鶴さん、君は言いましたね。彼女達一航戦を越えると」

瑞鶴「そ、それは…」

提督「おや、口だけですか?」

瑞鶴「なっ」

提督「お二人にも、了承頂きたいのですがどうでしょうねぇ?」

赤城「提督が決められたのなら、私に異論はありません」

加賀「五航戦に勤まるとは到底思えないけれど」チラッ…

翔鶴「…………」

瑞鶴「…………」

提督「ならばまずは試用期間としましょう。それで如何ですか、加賀さん」

加賀「……良いでしょう。それなら見せて頂きます。今後の働きを」

提督「それでは正式な異動通達は追って書面にて通達します。演習戦はこれにて閉会としましょう。
各自、通常の任務形態に戻って下さい」

短いですが、本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

-重荷と覚悟-

古鷹「対空見張りを密に願います!」

矢矧「先行する。秋月、随艦して」

秋月「了解です!」

長門「矢矧達の進路を確保する。左舷に瑞鶴、右舷に翔鶴!共に警戒に当たれ!」

翔鶴「は、はい!」

瑞鶴「了解!」

古鷹「……!長門さん、前方に深海棲艦を発見しました!」

瑞鶴「えっ!?」

翔鶴「そんな…!」

長門「ちっ…」(提督の言っていた事の焼き直しか。認識を改めるべきか…深海棲艦が、我々と同じ『戦術』を使うとは)

秋月「こ、これでは先行しても…」

矢矧「…長門、これより先の進軍は悪手かもしれないわ。悔しいことだけど、相手の戦術が上手よ」

長門「…認める他無い、か。出来る事ならもう少し先の開拓までは済ませたかったが、ここまで深海棲艦の手が伸びているとはな」

古鷹「翔鶴さん、瑞鶴さん、左右の状況を!」

翔鶴「う、右舷には敵影ありません!」

瑞鶴「左舷も同様よ!」

古鷹「この海域の離脱を進言します。左右への展開はまだ済んではいないのかもしれませんが、この動き出しは…」

矢矧「ええ、正面を厚く、そこから恐らく扇状に隊を展開させてこちらを包むように布陣するでしょうね」

秋月「一部薄い箇所を作ってそこへ誘導、隊を左右に展開させて退路を封殺し円状に囲い込む…」

長門「この距離ならまだ離脱は可能か。事の顛末を鎮守府へ通達しに戻る。回線は閉じて相手への警戒を密にしろ!」



武蔵「ご苦労だった。成果を聞こう」

長門「不愉快極まりない。あいつ等、戦術を行使してこちらを包囲する算段だったようだ」

古鷹「ですが、行動は遅く付け入る隙は多分にあったと思います」

矢矧「こちらも行動が遅れていた。そう認識すべきかしら」

秋月「ここの所の深海棲艦の動きは非常に不自然なものが多いです。警戒をするに越した事はないと思います」

武蔵「ふむ、それで…五航戦、お前達の意見は?」

翔鶴「あ、えっと…」

瑞鶴「それは…」

武蔵「よもや何も感じなかった訳ではあるまい。今回の任務は未踏海域の開拓だ。情報が全て、情報こそが物を言う。
そこで何の情報も仕入れないのは怠慢と捉えられても異論は述べられんぞ。斥候からの情報を仕入れていないのか?」

長門「やめろ、武蔵。解っていて問い質すのは些か性質が悪いぞ」

武蔵「……」

翔鶴「申し訳ありません」

瑞鶴「現状の把握と索敵にしか注視してなかった…」

長門「ああ、そうだろう。だがそれは本来、出来て当たり前の域だ」

翔鶴「……!」

古鷹「緊張していたのもあると思います」

矢矧「だとしても、未開海域で何をすべきか、どうすべきか、解っていたはずよ」

秋月「私が言う事ではないのかもしれません。ですが、提督や武蔵さんから事前に通達を受けたとおりに準じます。
与えられた内容はお二人とも熟知していたはずです。実際、第二部隊に置いても同じ事はされていたはずです」

矢矧「何故それが今回は出来なかったのか。違いは開拓されているかいないか、それだけよ」

古鷹「お二人は、まだ一航戦の方々を意識しすぎです」

翔鶴「え…?」

瑞鶴「……」

古鷹「彼女達は彼女達です。貴女達は貴女達です。私が今日お二人を見て得た感想です。お二人は、劣化した一航戦です」

翔鶴「……!」

瑞鶴「……!」

長門「次は精々自分達を大いに曝け出してみる事だ。本日の任務は完了だ。各自任務報告書を提出後は自由だ、以上」



提督「思いの他、手を焼いているようですね」

武蔵「提督、長門達からの報告書を見て思ったが、まさかこの件をあの二人にも見せることが目的だったのか?」

提督「おや、中々鋭い着眼点ですね?」

武蔵「ちっ、くえない男だよ」

提督「相手はこれまでにない猛者です。あの深海棲艦を懐柔し、己の指揮下に置いて手足の如く扱う。
恐ろしい試みと言えるでしょう。深海棲艦に知恵と組織力を与えているのですからね」

武蔵「今回の試みはなんだ」

提督「今、僕が預かるこの鎮守府に置いて最高水準を見出しているメンバーに他を合わせる事です」

武蔵「何…?」

提督「順位を付ける、というのは余り好ましくありませんが、否が応にも優劣は生まれるものです。その差を消します」

武蔵「消すって…どうやってだ!」

提督「同じ個体を量産するのなら、最も単純で適しているのは個性を奪う事です。各々が持つ独自性を排除し、
そこに一律の決められた概念を新たに埋め込み固定化させる。それだけで事は済みます。
済みますが、表面上までは固定化、制御は難しい。何故なら、そこに感情と言うものが邪魔をして固定化された概念を
揺さぶり、思考の中に雑念を振りまくからです」

武蔵「お前、何を言ってる?」

提督「以前に、僕が考えた『規律』に基く軍や隊を統率する為のにはどうすべきかを考えた際に模索した強制プログラム、
その一端です。兵を効率的に規則正しく動かすにはどうすべきか…それが課題でした。結論から言えばこれは机上の空論。
絵空事にも等しい内容であり、実現させるというのは人道に反して然るべき内容だった」

武蔵「だから!それがなんだと…!」

提督「今回の長門さん達の報告を受けてある種の疑惑とも言うべき事案が発生しました。それが…」

武蔵「あの深海棲艦が戦術と連携を駆使してこちらを包囲殲滅しようと目論んでいたと言う奴か」

提督「不愉快ですねぇ…」

武蔵「何?」

提督「不愉快、と申し上げたんです。今回の深海棲艦の一連の動きは、過去に僕が考え自ら危険と判断して破棄したもの。
言わばパンドラの箱に封じた忌まわしきもの、そのものです。知性の乏しい深海棲艦だからこそ成立したにすぎないもの。
紛い物に等しい、策とも言えない愚策以下の蛮行です。何故、これを深海棲艦が知っていたのか…皆目見当もつきません」

武蔵「以前にお前が言っていた深海棲艦側にも提督に等しい存在がいるってのが関係してるってのか?」

提督「……少し、執務室に篭ります」

武蔵「はぁ?お前、今日は午前中にデスクワークは終わらせてただろうが。っていうか私の質問に答えろ!」

提督「それは次回という事で、小さな事が気になるんです」ニコッ

武蔵「はぁ……ったく、そうやって現場指揮は私に押し付ける。お前の悪い癖だ」クスッ…

提督「間宮亭のカステラで手を打ちましょう」

武蔵「……ん、異論は無い。等価値の交換条件と受け取ろう」




黒提督「……包囲乱打に失敗、か。ふっ…石兵八陣とはいかんか。易々と組み伏せれるならそれも好しとしたが…」

???「エエ、艦娘の中ニモ思慮する者ガ居ル。こちらの布陣ヲ見て、何の迷いもナクこちらに背ヲ向ケタ」

黒提督「お陰で包囲は失敗。近付く事も間々ならず取り逃がしたと言う事か」

???「本当にアレで正解ダッタのかしら?」

黒提督「動き出しは若干遅かったと言える。が、在り方としては文句無しだ。今回は相手が上手だった。
気に病むだけ無駄に心労が祟ると言うものだ。かかる網とかからない網がある。今回は後者だっただけの事」

???「ソレにしても驚イタ。この場カラは動かず、タダ口を挟むダケで、こうも容易く我等ヲ先導スルとはナ」

黒提督「ふっ……」


必ずしも将が前線で周りを鼓舞する必要は無い。

無論例外はある…フランスの聖女・ジャンヌ=ダルクのように周囲を照らし、自ら旗を振って周りを奮い立たせる者も居る。

が、どちらかと言えば私は聖女とは相反する正反対の存在なんだろう。

例えるならばこの世全てを憎み、恨み、蔑み、吐き捨てる。

自らがそうだとは言わない。

が、巌窟王……彼のエドモン=ダンテスには心惹かれ躍るものがある。

私が送るのは世辞でも賛辞でもない。


黒提督「よく聞け」



ただそこにあって然るべき現実を受け止めよ、という事だ。

今は待て。

必ずお前達がこの海を統べる時は来る。

故に待て、しかして希望せよ。

今この時こそ、内に秘めたその力は蓄えるべきだ。

だからこそ私はここに居る。

ここに居てお前達の前に居る。

手を伸ばせ。

知恵を絞れ。

しかし闘志は捨てるな。

滾らせよ。

燻らせるな。

知らしめるはこの先、その瞬間だ。

人間の友情、艦娘の友情は時として人知を超え、得も言えぬ美しい奇跡を運ぶ。

しかし私は知っている。

人間ほど愚かで、無様で、嘆かわしい存在はなく、そしてそれに類する自らも哀れで浅ましい、愚の体現者であると。

心を通わす全ての生物は総じて移ろう。

そこに至るまでに、幾つの犠牲を孕もうと、決して振り返りはしない。

故に同じ過ちを永遠と未来永劫気付く事無く繰り返す。

深淵へ踏み込もうと、気付きもしない。

だから、そうなる前に教えてやる必要がある。

裏切りの果実は、摘み取らなければならないからだ。


???「……お前ハ、何者ダ……」

黒提督「ただの『人』さ」ニヤッ…

本日はここまで

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~動きあり~



-真価-

幾度目かの抜錨によって五航戦は第一部隊の普段の在り方と言うものを学んだ。

多くを学んだ中で突き刺さるかのように、胸の奥に楔を打ち込まれたかのように感じたのは『死』だ。

常に死と隣り合わせだという事をまず一番初めに自覚した。

それに伴って得られる経験値は他と一線を画したのも事実として受け止めた。

ハイリスク ハイリターン。

そしてあの時、赤城が発した一言。


──少なくとも、今の貴女達にこの場はまだ荷が重い──


錯覚などではない。

事実として自分達はいつ死んでも不思議は無かった。

その度に長門が、古鷹が、矢矧が、秋月が、時として武蔵が、助けてくれていた。

そうして生き延びる度に重荷とは違う別のものが大きな岩の如くズシリと背に凭れ掛かってくる。

重圧、責任、覚悟、これらを第一部隊は常に背負っていたのだと再認識した。

鍛錬を積もうと今、五航戦の二人は弓道場へと歩を進めている。

その弓道場から首にタオルを下げて二人の女性が並んでこちらへ向かってくる。

赤い袴と青い袴の女性達。

それだけで顔を見ずとも誰なのかなど一目瞭然だった。



赤城「お疲れ様です、翔鶴さん、瑞鶴さん」

加賀「お疲れ様」


余談だが、この二人は誰に対しても今まで『ご苦労様』とは言わなかった。

戦場以外では決して二人は上から物を言う言い方をしない。


翔鶴「あ、お疲れ様です、赤城さん、加賀さん」

瑞鶴「……お疲れ様、です」

赤城「長門さんから報告は伺っています」

加賀「深海棲艦の斥候を看破し、その進軍を阻止、一群の殲滅まで敢行したと聞いています。お見事でした」

瑞鶴「……ぇ?」

翔鶴「加賀さん……」

赤城「第一部隊が力戦奮闘するという事は、それだけ第二部隊に掛かる負荷が軽減されるという事です」

加賀「第二部隊に降り掛かる火の粉を掃き、事後処理を速やかにする。つまりリスクの低減は部隊全体の任務を
円滑にし、その精度を極めて高次元に纏め上げていきます。第二部隊に関わらず、第三部隊の偵察任務にさえも
第一部隊の任務の成果が反映される訳です」

赤城「その場その場で何が優先されるかは変わると思います。個であったり、全であったり、優先されるべきは
それ以外に存在するのかもしれません。空の目を担う以上、その判断基準が最も優先されるのが私達空母です」

加賀「……私は比べる、という事を嫌います」



Aは優れているがBは優れていない、と言った優劣を決めたくはありません。

こと身内に関して言うならそれは尚更です。

身内同士で争うのではなく、競う事こそ本懐と捉えています。

争いは無用の軋轢と嫌疑しか生みません。

ですが、互いが互いを知りその上で競い合う事で新たに生まれるものはあります。

私は貴方達の事を全て知っているわけではないわ。

知る情報は周りの声のみで、貴女達から得た情報は何もありません。

同じように、貴女達も私達の情報は周りの声のみで、私達から直接は聞いていないはずです。

今だからお伝えします。

これは提督の言葉です。

今後皆さんが相対する深海棲艦はこれまでの深海棲艦とは一線を画す、極めて危険な相手になるはずです。

名実共にこの世の海、如いては世界を賭けた『戦争』へと発展する恐れすらあります。

その窮地に至って仲間内でいがみ合う余地があってはなりません。

今一度、艦娘の力を結集する必要があります。

これは、その為の第一歩と言うわけです。



加賀「そしてこれも、提督からの言葉です。五航戦翔鶴及び瑞鶴、お二人の決意は確認できました。
芯に括ってからのお二人が邁進する姿勢は皆が見習うべきものでしょう。それらを踏まえ、今一度第二部隊での
任務を任命します」

翔鶴「第二部隊…?」

瑞鶴「それじゃ…」

赤城「試用期間は本日を持って満期です。第二部隊に戻り、今後もこの鎮守府での任務に従事して下さい」

加賀「あえて、第一部隊を牽引してきた一翼として述べます。ご苦労様です」

赤城「ご苦労様です」

翔鶴「…ありがとう、ございます」ペコリ

瑞鶴「…ありが、とう…」

加賀「……越えなさい」

瑞鶴「……ぇ?」

加賀「私を、赤城さんを、一航戦を、越えていきなさい。今の五航戦には、それが出来ると私は信じています。
だって、私達と貴女達は違うのだから。越えられない事こそ道理に反するわ」ニコッ

瑞鶴「加賀、さん…」

赤城「私達は互いが互いを高め合うライバルである前に、掛け替えのない友です。だからこそ、応援していますよ」ニコッ

翔鶴「赤城さん…」



皆が声を揃えて言う。

赤城は温和で優しく、笑顔の絶えない朗らかな性格だと。

対して加賀は常に凛とし、他者にも、自身にも厳しく笑顔を見た事もないと。

勝利を手にして喜び合う中、一人憮然とした表情の加賀。

美味しい物を前にして周りが美味で笑みが零れる中でも眉一つ動かす事無く食を平らげる様。

対して皆で勝利を分かち合い、共に笑顔で肩を叩き合う赤城。

美味しい物を美味しいと素直に述べて満面の笑顔で食を平らげる様。

真逆にして表裏一体。

見慣れていた笑顔と見慣れていた無の表情。

その二人の揃った笑顔。

優しい、柔和な、微笑というのはこういうものを言うんだというお手本のような笑み。

鋭い視線、強い眼差し、その中に一瞬だけ現れたヴェールのような柔らかさを思わせる笑み。

二人は小さく頷いて五航戦の肩を軽くポンッと叩き、その場を後にする。

改めて二人は思った。

あぁ、あの二人を目標にして良かったと。

頬を伝う涙を二人は拭う事もせず、ただ流れに任せて溢れんばかりに流し続けた。

拭う必要の無い涙。

流して恥ずべき事のない涙。

それは、紛れもない誇れる涙なのだから。




武蔵「……はぁ、今月に入って何件目だ」

提督「5件目ですね。どうやら、あちらも試用期間は満期を迎えたようです。本腰を入れてこちらを襲撃してきましたね」

武蔵「こうも後手に回るものか!?」

提督「周りの意識の低さが招いた、起こって当然の結果と言えるのかもしれませんね。こうも喧騒としていると、
些かため息も重くなりますねぇ…」


コンコン……


武蔵「誰だ?」

木曾『第三部隊旗艦の木曾だ』

武蔵「入れ」


ガチャ……

パタン…


木曾「今し方戻った」

提督「ええ、ご苦労様です」

木曾「提督の方針が型にハマッた感じだぜ」

武蔵「気のせいか、あれからこっちへの当たりが微妙に弱く感じるが…」

提督「想定内です。恐らく周囲の鎮守府を相手取っての実戦形式の演習なのでしょう」

木曾「俺等はメインディッシュってワケかよ」

提督「空母の意識は統一されました。ですが未だ全体の意識疎通とまでは行きませんが、これ以上時間は掛けれませんね。
残りは実戦の中で培っていくしかなさそうです。まずは主力となる一航戦と五航戦、この二組が完成した事を誉れに思うべきです」


ピー、ピー、ピー……


武蔵「提督、通信だが、これは…」



ガチャ…


提督「もしもし」

大淀『大本営所属、元帥直属第二秘書艦の大淀です』

提督「ええ、存じてますよ。そろそろではないかと思っていました」

大淀『では、こちらの意は汲んでおられると?』

提督「貴女が不審に思うのも無理はありませんが、大方元帥からの勅命を受けて致し方なくと言った所でしょう」

大淀『……用件をお伝えします。現時刻ヒトサンサンマルより、貴殿鎮守府提督へ大本営召集命令が下りました。
電文でなく通信による通達が緊急である事、極めて急を要するとご認識して頂きます』

提督「解りました。では大本営へ今から向かいましょう」

大淀『宜しくお願い致します。では、通信はこれにて、失礼致します』


ブツッ……


提督「武蔵さん、同行をお願います。木曾さん、僕はこれより大本営へ向かいます。第一第二の旗艦にそれぞれ通達を
お願いしても構いませんか?」

木曾「ああ、そんくらい別に問題ねぇよ。けど、どういう心境の変化だ?俺が言うのもアレだが、ホント変だぜ、提督」

提督「ふふっ、変とは、これはまた辛辣ですね」

木曾「茶化してんじゃねぇよ。これまでのあんたの行動見てりゃあ、誰だって気でも触れたかと疑うってもんだ」

提督「はっはっは、いやぁ、それは困りましたね。ですが、僕だって真面目な時は極めて真面目なんですよ?」

木曾「へっ、真面目な奴は自分から真面目ですなんて言わねぇだろ。ったく、どこまでもおちょくりやがって」ニヤッ

提督「ふっふっふ、いやいや…非常に鋭い着眼点に驚きます。言葉を選ぶのも一苦労ですねぇ。それでは、頼みましたよ」

木曾「おう、ここはあんたの寄る辺だ。さっさと行ってさっさと帰って来い」

武蔵「準備は整った。行くぞ、提督」

提督「ええ、では参りましょうか」

本日はここまで

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-宣戦布告-

中将「な、なんだ、これは…!何故、深海棲艦がここまで…!」

??「提督!ダメ、全方位囲まれて、脱出ルートさえも…!」

中将「深海棲艦が、戦術を駆使してくるなど、ありえるのか!?」


ボゴオオオォォォォォォン


中将「くっ!こ、このままではこの鎮守府が…」

??「提督、緊急電文を!周辺鎮守府へ救援要請を打診して!それまで、ここは私達が食い止めて見せるわ!」

中将「この、近海にある鎮守府……はは、冗談だろう……よりにもよって、あの鎮守府とは……だが────」



ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ


長門「む…」

赤城「緊急通信!?」


ガチャ…


長門「こちら提督鎮守府。所属先と……」

中将『それらを述べている暇は無い!その声、戦艦長門だな。いいか、良く聞け。そこより南南西、凡そ20km先に
私の鎮守府は存在する。今そこに、深海棲艦の一群が攻め込んできている』

長門「何…!?」

中将『悔しいが、私の鎮守府の戦力では最早食い止める事は適わん。頼む、これまでの態度を鑑みても言えた義理ではないのは
十分承知している。恥を承知の上で頼む……助けてくれ』

長門「中将提督、この現状で私情を挟む余地などはない。そちらの戦力を述べてくれ」サッ


長門は受話器を耳に当てながらも空いている片手で赤城達にジェスチャーで指示を飛ばす。

赤城達も一つ頷きそれぞれが動き出す。


中将『鎮守府にて待機していたのは三名ばかりだ。戦艦型、重巡型、駆逐艦型、それぞれ一人ずつの計三名だ』

長門「相手の戦力は?」

中将『完全な目視は出来てない。だが、鎮守府は完全に包囲されている状態だ』

長門「」(先の五件と同様か。となると、これまでの形からして手馴れてくる頃か。ちっ…)

長門「到着までの善処をする。何としてでも持ち堪えてもらいたい」

中将『……頼む』


ブツッ……


赤城「長門さん」

長門「考えている余地はない。全責任は私が負う。窮地に陥った同胞を見捨てて何が仲間だ」

加賀「準備は整っています」

古鷹「大丈夫、行けます!」

矢矧「他の隊への通達は済ませてあるわ。提督と武蔵さんにもね」

秋月「行きましょう!」

長門「助かる。よし、提督艦隊第一部隊、出撃するぞ!」

全員「「了解!」」



ザワ ザワ……


武蔵「はぁ、相変わらず塗りたくったような色眼鏡でお前は見られるな」

提督「僕は別に目立ちたいわけではないんですけどねぇ…」

大淀「お待ちしておりました。提督、それから武蔵さん」

提督「お待たせして申し訳ない」

武蔵「さっさと済ませよう。こっちもついさっき身内から通信が入っててんやわんやだ」

大淀「恐らく、その通信とも起因しています。こちらへどうぞ」


ガチャ……

パタン……


元帥「きたか」

??「……」

武蔵「む?」

提督「これはまた、大層な顔ぶれですね」

大将1「口を慎め、元帥の前だぞ」

提督「申し訳ありません」ペコリ

大将2「…………」

大将3「元帥、現存する大将のうち半数までここに集め、どうされようというのか」

大将4「さぁな。だが気に入らんのはそこに中将……それも惰眠のみを貪る不逞が居る事よ」

大将5「時間が惜しい。揃ったのなら早々に執り行いましょう。こうしてる間にも、深海棲艦の魔手はその速度を
落とす事無く、この海を侵蝕しているのです」

大将4「ふん、女がでしゃばるんじゃねぇよ」

大将5「……」ジロッ…

大将4「けっ」

元帥「さて、方々挨拶は済んだかね?」パンパンッ

大将1「お見苦しい所を…申し訳ありません、元帥」ペコリ

元帥「うむ、では早速だが始める。今回、貴殿等を集めたのは他でもない、深海棲艦に対抗しうる知恵を授けて欲しいからだ。
まずはここ最近までの経緯を、第一秘書艦娘より報告させよう」

??「お初にお目にかかる方々、はじめまして。大本営所属、元帥直属第一秘書艦娘、戦艦大和でございます。
既にご報告にも上がっていると思われますが、ここ最近の深海棲艦には秩序を保ち、規律を重んじ、
整った行動を取る、という報告が上がっております。つまりは集団行動、作戦立案とその行使及び対応です。
皆様に置かれましては、この事案を各方面管轄の鎮守府群へ通達し、今後の作戦概要に組み込んで頂くためです」



現在の海軍は元帥を頂点に置き、その下に大将が十名、更にその下に中将が数十名、少将がその更に倍、大佐が、

という形で等倍式に中将より先は増えていく。

中でも大将は特定の艦隊を所有せず、秘書艦を二名のみ所持しているだけで大抵は中将以下の鎮守府を複数統括する。

一つの鎮守府を受け持てるようになるには最低でも大佐クラスまで階位を高めなければならない。

その大佐でも最初は中将や少将の受け持つ鎮守府に着任して仕事を覚えるところから始まる。

十名居る大将の中で、上位三名の大将は三大将と呼ばれ統括する数も他七名とは群を抜く数を占める。

今回集まった大将は総勢五名。

一人は提督が入室早々に咎めてきた大将、第壱将を拝命する海軍の誇る最高戦力の一端を率いる一人だ。

次に壱将の隣に席を置き寡黙に腕を組んでいる第肆将を拝命している男。

その肆将の隣で神経質そうに周囲を伺っているのは第漆将。

漆将の隣で荒々しい態度と言葉を先ほどから投げているのが第伍将。

その伍将の標的となっていたのが大将紅一点の第拾将。

そして、この拾将が統括する鎮守府の一つに、提督が治める鎮守府も含まれる。


大和「先ほど、ある鎮守府より一報が届きました。拾将提督」

拾将「はっ!」

大和「貴方の統括する鎮守府の一つが現在襲撃を受けていると言う報です」

拾将「……存じております」

武蔵「」(例の中将提督の鎮守府か…って事は、報告を送ったのは長門か)

大和「このような事態にこちらへの召集を優先させてしまった事は元帥に代わり陳謝致します。
ですが、この案件もその深海棲艦に抗する対策を成立させる為に是が非にも必要な召集と心得て頂きたく存じます」

武蔵「つまり何か、拾将傘下の鎮守府一つは犠牲になっても仕方ないって事かい?」


ザワッ……


大和「…武蔵」

提督「武蔵さん」

武蔵「命の張り所、間違ってんじゃないのかって聞いてんのさ、元帥」ジロ…

元帥「……ふっ、彼の下に付くと艦娘も弁舌が冴え渡るな」

提督「申し訳ありません」ペコリ


壱将「口を慎め、戦艦武蔵。分を弁えろ。この場は口論をする為の場ではない。それが理解できないとあらば、
即刻この場より去れ。鬼畜生と思考回路が違わぬのなら、この場に居る資格は毛頭無い」

武蔵「なんだと…っ!」

提督「武蔵さん…!先の件ならば長門さん達が既に動いてくれています。落ち着いて下さい!」グイッ…

武蔵「くっ」

壱将「礼儀くらいは備えさせておけ。同じ大和型とは思えない粗暴振りだ。自らの名を余り穢すな、武蔵」

武蔵「言わせておけば…っ」

提督「武蔵さん…っ!」

壱将「ふん……元帥の事です、その報を受けてから既に拾将には通達しているのでしょう?」

元帥「無論だ」

拾将「ですが、間に合うかどうかが肝です」

壱将「最善は尽くしたのなら、あとは現場の者達を信じろ」

伍将「くくっ、そこの惰眠貪ってるダメガネくんのところが一番近いんだ。弾除けにでもなってもらえばいいんじゃねぇのか?」

提督「…………」

武蔵「」(こいつ等……ッ!)

拾将「私の傘下に配する提督を侮辱する事は許しません」

伍将「はっ、言ってろよ。ボンクラ集団掻き集めた所で何も変わりゃしねぇんだ」

肆将「……少し黙れ」

伍将「あ?」

肆将「耳障りだと言った。動かぬ者が一々吼えるな。余計に見苦しい」

元帥「それくらいにしてもらえるかね?話がとんと進まん。それとも、私の話は世間話にも劣るかね?」ジロ…

伍将「も、申し訳、ありません…」

肆将「…失礼」

拾将「出すぎた真似をしました。申し訳ありません」

元帥「大和、続けてくれ」

大和「はい。状況は皆様が思っているよりも切迫しております。まず今現在、皆様が認識しておられる深海棲艦の在り方、
その概念を捨てて頂きたく思います」

元帥「壱将、今海軍に置いて全体に認識統一を図っている深海棲艦に対する意見を述べよ」

壱将「はっ!深海棲艦は烏合の衆であり、こちらの意図を汲み取れずにいると思われます。故に、戦術を組み立て策を弄し、
こちらが万全の体制で臨めばまず間違いなく相手を殲滅できるものとして認識させています」

元帥「うむ、そうだな。まずはこれを改める」

肆将「……?」

元帥「彼奴等は戦術を理解し、また自らも戦術を組み立てこちらに策を弄してくる。作戦を立案しそれを実行できる
だけの知能を持ち、またこちらの意図を把握するだけの知性も合わせて持っていると見てまず間違いない」

肆将「……なんと」

漆将「深海棲艦が…知能を、得たと、元帥はお考えなのですか!?」

元帥「然様。彼奴等は間違いなく、脳を成長させている」

伍将「だからなんだってんですか。力で捻じ伏せりゃ良いでしょう。それだけのもんをこっちは持っている!」

提督「…お言葉ですが」

伍将「あぁ!?」

提督「伍将殿の策ではよくて一度、二度目は確実にありません」


拾将「……!」

壱将「……」

肆将「……」

漆将「……」

元帥「……」

提督「あるのは敗ぼ……」

伍将「ダメガネがぁ!もう一辺言ってみろッ!!」ガシッ

提督「……っ!」


激昂する伍将は提督の胸倉を掴み取り上へと引き上げる。


ブツンッ


強引に引き伸ばされ、提督のワイシャツの第一ボタンが弾け飛ぶ。

小さくため息を吐く壱将、静かに目を閉じ腕を組む肆将、現場から視線を逸らす漆将、その後の展開を見守ることしか出来ない拾将。

そこに割って入ったのは傍観を続ける四名ではなく、か細く白い腕だった。


パシッ


大和「少々度が過ぎます。この場を何処と心得ていますか。階位五位の大将と言えど、分別を付けれないとあらば相応の対処をします」

伍将「ぐっ」

大和「まだ、続けますか?」

伍将「ちっ、勝手にしろ!胸糞悪ぃ!」バッ


提督から手を離すと大和の手を振り解いて伍将は踵を返してその場を去っていく。


大和「提督、伍将に代わり非礼をお詫び致します」ペコリ

提督「いいえ、大和さんが悪い訳ではないでしょう。僕は気にしていませんから」

壱将「提督、伍将が脳筋なのは今に始まった事ではない。故に今まであいつの行っていた方法は先に述べたとおりの戦法だ。
力で捻じ伏せる。やられる前にやる、という至極シンプルな戦法だ。それが通用しないと言うからには、相応の理由があるのだろうな?」

提督「無論です。そもそも、今までは深海棲艦も同じだったんです。故に戦術は拮抗したが自力の差がこちら側が勝っていた。
故に快勝、圧勝が可能だっただけに過ぎません。元帥が仰られたとおり、僕の艦隊はここ最近、その戦術を駆使してくる
深海棲艦と幾度かの戦闘を行っています」

肆将「…ほぅ。戦果は?」

提督「撤退は二回、辛勝三回、快勝三回、圧勝ゼロです」

漆将「少なくとも、それでは、八回は、戦っているのか?」

提督「ええ、そうです」

拾将「」(あの報告書は、そういう事だったの?だから、彼は……この、男────)チラッ…

壱将「なるほど、実際に合間見えているからこそ、この場に呼んだという訳ですか」

元帥「伍将の件は後でいい。まずは、対策を改めて考えようか」

本日はここまで
少し次回のレスに間隔あきます

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~その先にあるもの~



-敵の影-

長門「退けぇ、深海棲艦!」ジャキッ


ドォン ドォン

ボゴオオォォォォォォォォン


赤城「この動きは…!」

加賀「古鷹、矢矧、秋月、散開して下さい」

古鷹「付かず離れず…!」

矢矧「明らかに私達が援軍に向かおうとしているのを妨害しにきてるわね」

秋月「私達の行動が読まれている…!?」

長門「小賢しい連中だ。私達が中将鎮守府に到達するまでの時間を遅らせ、その間に先着している深海棲艦で
中将鎮守府を壊滅させる算段か!」


──第一次攻撃隊。発艦始め!──


赤城「これは…!」


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

ボゴオオオォォォォォォォン


瑞鶴「赤城さん達は先へ!」


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

ボゴオオォォォォォォォォン


翔鶴「ここは、第二部隊が引き受けます!」


古鷹「翔鶴さん、瑞鶴さん!?」

秋月「鎮守府に待機のはずでは…!」

翔鶴「独自の判断です。罰は後で受けます。それよりも…」

瑞鶴「深海棲艦が戦術を使ってるっていうなら、当然妨害工作にだって知恵を使うはずでしょ」

青葉「もー、お二人とも以前よりも強情になってやしませんかねー」

浜風「ですが、事実としてお二人の考えは的を射ていたようです」

島風「ひっどーい!邪魔するなんてサイッテー!連装砲ちゃん、悪い深海棲艦にはオシオキいくよ!」

翔鶴「如何に浅知恵か、知らしめてあげましょう」

赤城「言うようになりましたね」クスッ…

加賀「……お任せします」

瑞鶴「……!当然じゃない!」

青葉「あ、因みにこれって司令官にバレたらどーなるんでしょう?」

秋月「緊急事態ですし、そこまでお咎めはないと思いますけど…そこまで司令は矮小な心の持ち主ではないはずです」

青葉「ほうほう…」

浜風「提督は別に普段通りかもしれませんが、武蔵さんの目が見開かれるかもしれません…」

島風「アオバ、ワレ、アオバ…」

青葉「何なんですかそれはー!っていうかぜかましさん、そのカタコトなんか不吉な感じだから止めて下さいよー!
こーなりゃどーなるかも解りませんが、八つ当たりですよ、八つ当たり!徹底的に深海棲艦をド突き回しちゃいますよぅ!」

長門「全く、緊張感の無い奴等め…とにかく、五航戦達の横槍は私達にとっては僥倖だ。この場を任せ、急ぎ中将鎮守府への
進行速度を上げるぞ!」

第一部隊「「了解!」」



志を同じくして現場へと駆けつけた第二部隊。

それを牽引する五航戦。

凛とした声、姿勢、その立ち振る舞いに加賀は自らには背を向けている二人を尻目に小さく微笑んだ。

これほど頼もしい存在はないと確信を持てた。

憂いなどはなく、安心して背を預けられる仲間を得る事ができたという充足感。

その想いだけで加賀は何の躊躇いもなくただ進むべき航路の先を真っ直ぐに見据える事が出来た。


加賀「流石に気分が高揚します。このような場でありながら、戦意は最高潮です」

赤城「ええ、上々ね」クスッ…



中将「どうなっているんだ…拾将殿の報告では、まだこの海域までは…!」


ボゴオオォォォォォォォォン


中将「くっ…あいつ等は、無事なのか。くそ、拾将殿より預かり受けた精鋭達なのだ。このような場所で……」


??1「ふう~ん…少しはやるじゃない。これが中将提督が注意喚起してた例の深海棲艦ってワケね」

??2「言っても少しだろ。あたし等にかかればどーって事ないね」

??3「うん、今度は守る…絶対に!」

??2「おう、そんならやる事は一つだ。こっちから仕掛けてやる…行くぜ!」

??1「火遊びは程ほどにね。けど、このままじゃジリ貧だしね…打って出るわ!」

??3「こいつら倒せば戦艦になれるかな!?」

??2「んなわけねぇだろ、アホかお前」

??3「がーん……」

??2「おら、前向け!どうせこのライン突破されたら戦艦も潜水艦もねぇんだ。だったらまずは目先の生に集中しろ!」

??1「まぁ、そういう事ね。さぁ、私達が気張ればその分だけ遠征に出向いてる子達が戻るまでの時間稼ぎにはなる。
それまで、なんとしても凌ぐわよ。戦艦陸奥、出撃よ!」

??2「おう!いくぜ!防空巡洋艦摩耶、抜錨だ!」

??3「うん。清霜に任せて!」



黒提督「四方は囲えているな?」

??「ええ、滞りナク、ね」

黒提督「ならばあの鎮守府は最早死を待つばかりの早贄も同然だな。精々彼女達の糧になってもらうとしよう。
錬度と精度の確認を行う。敵泊地強襲艦隊、その錬度を持って眼前の敵を破壊せよ。肉片すら残すな、塵と化せ」

泊地棲鬼「ついに、コノ時が、キタノカ……」グッ…

レ級「沈めルヨ、何も、カモ…」ニヤッ…

ヲ級FS「オオセノ、ママニ…」

リ級EL「シズメル…!」

ト級EL「グルル…ッ!」

ニ級後期「キキッ」

黒提督「あの鎮守府の智将は、今度はどう出てくるか…さぁ、どうする?どう出る?見せてみろ、見ててやる。
喜劇か悲劇か笑劇か、この私に見せてみろ!この私の弄する全てを見事打ち砕けるなら打ち砕いて見せろ!
やらないと言うのなら、その気になるまで見渡す限りの海原を煉獄に変えてやる……貴様が狂気に身を委ねるまで
何度でも、何度でも、何度でもな…っ!これは、その為の第一歩…その全てを蹂躙する!」


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


黒提督「……!」


黒提督の叫びを掻き消すように、遠くで間断無く規則正しい爆発音が轟き渡る。

一瞬だけ目を見開き、だがそれは直に狂気を帯びた歪な笑みに形を変える。

やはりか、やはりきたのかと、彼は内心声に出して笑いたい衝動を抑えて小さく体を震わせる。

その目には深淵よりも更に深く、絶対零度を上回る冷気を帯び、永久(とこしえ)にただ永久に待ち続け待ち焦がれた

希望にも等しい輝きがどす黒く光を放っていた。


黒提督「……こい。そうだ、こい!その輝きは眩しい。その勇姿は希望に満ち溢れている。暖かい光を放ち、周りを
一瞬の内に癒すだろう。だがしかし、あえて私は与えよう。貴様達に絶望と言う茨の鞭を叩きつけよう。
苦悶に歪むその顔こそが最も美しい。その美しさを帯びたままに、沛艾の如く猛り狂い、そして死ね!」



長門「見えたぞ!」

赤城「先行致します。第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ

加賀「続きます」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


古鷹「この、深海棲艦は……なんて、数…!」

矢矧「…赤城さん、加賀さん、次発は待って下さい!」

赤城「な、何を…」

加賀「…どういうつもりかしら?」

秋月「や、矢矧さん…?」

矢矧「この陣形は、何か変です」

長門「……全艦、矢矧の発言に一言半句も漏らさず耳を澄ませ。これより私達は戦闘に入る。躊躇いや判断ミスは
即座に死へ直結すると思って行動しろ。これは演習ではない。繰り返す!これは演習ではない!」

矢矧「長門さんは全体のラインを見て、古鷹さんと秋月は常に左右の警戒を。一航戦のお二人は長門さんの操る
ライン指示に合わせて艦載機に細かい誘導指示を!」

赤城「加賀さん」

加賀「」コクッ

赤城「矢矧さん、戦術用法の提供をお願いします」

加賀「術があるのなら伺うわ」

矢矧「この陣の完成系は恐らく包囲殲滅。鎮守府を大円で囲い、一部に小さな穴を作りそこに艦娘達を誘き寄せる。
その穴の先に相手は主力級を配置して四面楚歌の状況を作り上げて一気に殲滅する気です」


まずは、この陣を崩します。

赤城さんと加賀さんのお二人で左右に艦載機を発艦、ラインの薄い部分を中心に左舷と右舷にそれぞれ攻撃を敢行して下さい。

大円を中円に、小円に、徐々に攻撃する輪を狭めて最終的に全体の囲いを脆弱にして下さい。

長門さんはお二人の攻撃するラインを見極めて指示を、詳細は私がお伝えします。

古鷹さんと秋月は長門さんと共に行動し一航戦のお二人が弱めた輪に穴を次々に開けていって下さい。

その行動を阻止しようと何匹かは必ず妨害に来るでしょうが、それらは全て無視して下さい。

妨害に動き出したのは私の方で対処します。

妨害に乗り出す数が多ければ多いほど、この大掛かりな陣は呆気無くその形を失うはずです。

これは、殲滅戦ではなく救出戦です。

一点集中では恐らく鎮守府の防衛ラインは持ちません。

私達だけで、この包囲ラインを崩壊、瓦解させなければなりません。

救出します。

この鎮守府と、この鎮守府を治める提督と、在籍する艦娘を!


長門「心得た。この場の指揮はお前に預けるぞ、矢矧!」

赤城「お任せを。必ず成功させて見せます!」

加賀「問題ないわ」

古鷹「はい!」

秋月「成して見せます!」

短いですが本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

-過去-

彼は、元は新米の提督、新着したばかりの艦娘等に基本を教える指導官だった。

階位は大将。

別名、神の眼を持つ男、神眼提督。

普段は新米提督には提督としての心構えから在り方、目指す所を教授し、海へと羽ばたかせる。

艦娘には基礎となる戦術用法、戦闘法、用語から素養一般常識等を教えていた。

大本営での教官業務が主だった彼には大将でありながら統括する鎮守府は存在しない為、秘書艦も居なかった。

そんな中、彼に初めての部下、もとい秘書艦が着任した。

香取型練習巡洋艦一番艦の香取。

各鎮守府の艦娘達の錬度向上を図った一策で、彼はこの作戦の総責任者として元帥より推薦抜擢された。

そのサポートと今後の勉強も兼ねて香取は傍付きとして秘書艦となった。


香取「香取型練習巡洋艦一番艦の香取です。はい、練習遠洋航海の指揮は、お任せください。
必ずや艦隊の練度向上にお力添えできると思います」

提督「ええ、宜しくお願いします、香取さん。貴女の指導に、僕も大いに期待していますよ」


互いの挨拶。

共に『ド』が付くほどに真面目で堅苦しい挨拶。

だが、その誠実さが互いの距離を一瞬で縮めたのは言うまでもなかった。


香取「ううん、遠洋航海の知識は提督にも引けは取らないのですが…」

提督「別にいいではありませんか。一つずつ覚えれば良いだけの事です。纏めて覚えようとして結果、
一つも覚えれないよりはマシですよ」

香取「そうはいいますが…」

提督「考え過ぎるのは体に毒です。時には頭を休めてリラックスするのが一番ですよ。疲れた脳を癒すには…」

香取「癒すには…?」



提督「まーみーやさんっ!」

香取「…………」絶句

間宮「あら、提督さんいらっしゃい。まぁ、今日は可愛らしい方とご一緒ですね?」

香取「えっ///」

提督「僕の秘書艦です。香取さん、こちらは間宮亭の間宮さんです。デザートを作らせたら右に出る人は居ないというくらいに絶品なんですよ」

間宮「もう、直にそうやって誇張表現する。提督の悪い癖ですよ?」

香取「は、はじめまして!香取型練習巡洋艦一番艦の香取です。以後お見知りおきを」

間宮「まぁ、礼儀正しい子ですね。そうそう、丁度来週のランチから出そうと思っている自信作があるんです。
良かったら試食していって下さいます?」

提督「これはこれは…香取さん、初日早々に運がいいですねぇ」

間宮「うふふ、それじゃ準備してきますね」

香取「あの、提督はいつもこちらの茶屋で休憩を取られているんですか?」

提督「ええ、僕のティータイムはいつも間宮亭ですねぇ。張り詰めた糸がぷつりと切れる感覚を味わえる貴重な場所です」

香取「そういえば、この間艦娘の子が提督を褒めてらっしゃいましたよ。言葉だけなのに、情景がとても描きやすくて
解りやすくてためになったと。誉ですね」

提督「そうですか。そう言ってもらえると、教える側としてはこれ以上ない賛辞ですねぇ。今後の糧になるというものです」

香取「私もまだまだ、教えて頂きたい事は山ほどありますからね」

提督「そのように慌てずとも、僕は何処にも行ったりはしませんよ」

間宮「はい、お待たせしました。間宮亭特製のカステラと、こちらはいつもの珈琲です」カチャ…

提督「おや、これはまた美味しそうじゃありませんか。珈琲とも良く合いそうですねぇ」

香取「ええ、本当に美味しそうですね」ニコッ

提督「……香取さんは、この後は艦娘の皆さんの講義でしたね」

香取「あ、はい。三日後には各鎮守府へ着任予定の子達を相手にするので幾らか楽、と言えるかもしれません。
基本となるノウハウは既に皆さんお解かりになってるでしょうから。基本のおさらいで済むと思います」

提督「羨ましいですねぇ。僕は本日付で着任の新米提督諸君の講義です」クスッ…

香取「あら、思ってもないような事を笑顔で仰るんですね?」

提督「ええ、思っている事と真逆の顔をする…」

間宮「提督さんの悪い癖、ですね」ニコッ

提督「はっはっは、先手を取られてしまいましたねぇ」

間宮「それじゃ、出遅れた罰として間宮亭特製カステラの宣伝、お願いしますね?」

提督「ふっふっふ、困りましたねぇ…」

香取「」(ふふっ、全然困ってなさそう)クスッ…



提督「さて、皆さんはまず鎮守府、というものについてどれほどの知識を持っているのでしょうか。はい、そこの君」

新米1「はいっ!古くは日本海軍の根拠地として艦隊の後方を統括した機関です!」

提督「模範的回答をありがとう。歴史は非常に古いです。1875年に日本周辺を東西の二海面に分け、東西両指揮官の指揮下に
置く事になります。翌年の1876年に東海、西海の両鎮守府を設置する事になります。東海鎮守府はまず横浜に仮設され、
1884年には横須賀に移転され、横須賀鎮守府と改称されました。この横須賀鎮守府を筆頭に、舞鶴、大湊、佐世保、呉、
といった皆さんもご存知の名立たる鎮守府が置かれるようになったわけですね」

新米2「教官、質問宜しいでしょうか?」

提督「ええ、どうぞ」

新米2「鎮守府における提督の役割と、それに伴い提督自身も抜錨する必要性は未だにあるのでしょうか?」

提督「そうですねぇ…これから皆さんが着任される鎮守府には既にその場を取り仕切っている先輩提督が居ます。
各地に点在する鎮守府は今エリアで区分けされており、それぞれのエリアを大将提督がそれぞれの規模で統括管理
している状態です。ですので、場所によっては一つの鎮守府に提督が二名以上着任する事になります。
で、あれば…経験値を積むという意味でも、初回は艦娘の皆さんと共に抜錨し、戦場がどのようになっているのか、
実際に見てみる良い機会だと僕は思いますねぇ」

新米3「ですけど、それは逆に言えば新米である私達には経験値がないわけで、そんな私達が抜錨して戦線を混乱
させないという保証もないと思いますが、そこはどうお考えですか?」

提督「おや、そうならない為に、今こうして皆さんは講義を受けているのではありませんか?そもそも、その考え自体が
甘いという認識を持つべきです。僕達は常に死と隣り合わせであるという事を自覚して下さい。楽な任務などありはしません。
そしてその大半をこなすのは皆さんではなく艦娘の方々であるという事も認識して下さい。皆さんはあくまで後方支援。
道を見失わないように、艦娘の皆さんが進むべき先を違わぬように、照らす光だという事です。千里の道も一歩から、
と言うではありませんか。楽な道などそこらに沢山ありますよ。進み甲斐はろくすっぽないと思いますけどね。如何ですか?」

新米3「……考えや認識が甘かったと思います。何処かでまだ、気の緩みがあったのかもしれません」

提督「ならば今その事に気付けた君は一歩前進したという事ですね。良かったではありませんか。成長しているという事です」

新米3「は、はい!」

提督「では、次は……」


ヴーッ ヴーッ ヴーッ



提督「!」


ザワザワ…


ガラッ…


香取「提督、敵襲です!」

提督「この、大本営にですか?」

香取「間違いありません。空母ヲ級フラグシップ及び戦艦ル級フラグシップが少なくとも計三匹ずつ確認されています!
恐らくは他の種別の深海棲艦も後続に連なっているものと思われます!」

提督「皆さんはここで待機、一歩も動いてはいけません」

新米1「で、ですが!深海棲艦がきてるんでしょう!?ならば我々だって…!」

提督「勇敢と無謀を履き違えてはいけません。少なくとも、今の君達にフラグシップ級を相手に作戦指示など不可能です。
被害を拡大するだけと認識して下さい」

新米1「くっ…」

提督「前線の指揮を執ります。現存する正規の艦娘を召集して下さい。大本営ならば各大将クラスの秘書艦娘が駐在しているはずです」

香取「提督、私も準備をして抜錨致します!」

提督「なりません。香取さん、貴女はここにいる研修生や新規着任をする艦娘に要らぬストレスを与えないように
ケアを優先して下さい。このような場で、最悪の事態を招く訳にはいきません」

香取「ですが!私は艦娘です!深海棲艦が目の前まで迫ってきているのに、何故私がこの場に留まらなければならないんですか!」

提督「先ほども申し上げたはずです。今、この場には未来を担う提督達や艦娘が詰めているんです。
その芽を、決して摘み取られるわけにはいきません!この場に居る彼等彼女達は、この海軍の宝です!」

新米1「教官……」

香取「提督……」

提督「貴女を失う訳にはいきません。まだまだ、僕の隣で学んでもらうべき事は星の如くあるのですから」

香取「」(それでも……!)



元帥「前線の指揮は神眼に一任している。各艦娘は神眼の指示に従い即時抜錨、深海棲艦を撃滅せよ!追って他の大将にも
通達し戦力を各方面より集結させる!」

大和「畏まりました。戦艦大和、推して参ります!神眼提督、戦術用法をお願い致します!」

提督「烏合の衆と侮ってはいけません。これまでの経験上、フラグシップ、エリートタイプの進化を果たした深海棲艦には
微弱ながらも知能が備わっているという結論に至っています。これは、明確な殺意を持った侵略として捉えて下さい」

大和「畏まりました」

提督「それらを踏まえ、部隊を選抜します」


■第一部隊 - 大本営中枢防衛艦隊
旗艦
大和

随艦
伊勢
飛龍
蒼龍
利根
筑摩

■第二部隊 - 大本営第二水雷戦隊第十六駆逐隊先行隊
旗艦
神通

随艦
初風
雪風
天津風
時津風

■第三部隊 - 大本営第一航空防衛艦隊
旗艦
雲龍

随艦
天城
葛城
北上
大井
阿武隈

■第四部隊 - 大本営前線抑止防衛艦隊
旗艦
扶桑

随艦
山城
妙高
那智
足柄
羽黒


これは、後に語られる大本営強襲事件。

この深海棲艦の予期せぬ奇襲によって大本営は初めて、深海棲艦と刃を交えてから痛手を被った。

戦力を大幅に削られたわけでもなく、機密施設、重要施設が破壊されたわけでもない。

だが、大本営にとってはこの上ない最大戦力をこの事件によって失う事になる。

そして一人の男もまた、この事件によって心に生涯大きく刻み込まれる傷を負う事になる。

時を同じくして、この時この瞬間に別の所で異変が起き始める。

烏合の衆だった深海棲艦が本格的な知恵を付け、戦術を駆使して各地の鎮守府を強襲するようになる。

攻められる側だった深海棲艦達が、ついにその本性を剥き出しにして攻める側へと転じようとしていた。

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます




~最適解~



-臨戦態勢-

矢矧「長門さん、左右のバランスを整えて下さい。左舷の赤城さんが少し前のめり気味です」

長門「よし…左舷は少し下がれ、右舷は面で威嚇を続けろ!」

赤城「…!勇み足が過ぎました。申し訳ありません」スッ…

加賀「問題ないわ」

矢矧「古鷹さん、秋月、右舷方向、手薄になります!」

古鷹「了解!」

秋月「はい!」

矢矧「長門さんは一拍置いて左舷に弾幕を!再三に渡る長門さんの執拗な砲撃で、そろそろ相手も業を煮やすはずです!」

長門「ふっ、ここが正念場だな!」


??「何者ダ、あの連中ハ…」

黒提督「何度か我々の演習を阻害していた艦隊だな。確か…智将が治める鎮守府の者達だったはずだ。
ふふっ、果たして間に合うか否か…間に合うようであれば、次の手を打たないとな。ただ同然で救出されては
こちらの立つ瀬がない。せめて、そうだな…翼の一枚や二枚は、剥ぎ取らせてもらおうか」ニヤッ…


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


陸奥「今度は何よ!?」

摩耶「まてまて、陸奥。これぁ…援軍じゃねぇのか?」

清霜「はぁはぁ…嘘、遠征に出向いた皆がこんなに早くに到着するわけ…」

陸奥「近隣の鎮守府の艦隊ね。ありがたい話だけど、ここで私達が潰れたら彼女達の努力も水の泡って事よね」

摩耶「無駄に責任重大だな、こいつは…」ニッ

清霜「でも、流石にこの状況は不味い…」

摩耶「あぁ、背は三人で背中合わせで何とかしちゃいるが、動き出したらそうも言ってられねぇ」

陸奥「こいつ等、頭の回転も早いわね。こっちの考えてる事を直に判断して動きを変える」

摩耶「小賢しい連中だ。胸糞悪い…あたし達のお株を奪おうって腹かよ」

陸奥「とにかく、希望が出てきたのは間違いないわ。何としてでもこの場は凌ぐわよ。提督を、鎮守府を、
私達で死守する!」

摩耶「おう!」

清霜「うん!」



長門「まだ邪魔立てをする気か、深海棲艦!」

泊地棲鬼「元ヨリ、我等と貴様等ノ相関図、ソノままだろう?違いナドはない」

加賀「随分と弁舌ですね。知恵を仕入れて、少しは心持が大きくなった。そう解釈せずにいられません」

泊地棲鬼「何とデモ言えばイイ。我等に与えらレタ任務は、貴様等をコノ場に釘付けにしてオク事」

赤城「言い換えれば、そうまでしなければあの鎮守府を殲滅しきれない。更に言うなら、まだ間に合う、と言う事ですね」

泊地棲鬼「」(ヤハリ、艦娘の知能ハ我等のソレを遥かに上回ル。あの会話ダケでそこまで憶測ヲ述べらレルとは…)

古鷹「何を…何を深海棲艦は企ててるんですか!」

レ級「答える必要ナンテない。どうせお前達ハここで死ぬンダ」

矢矧「戦艦レ級…!」

秋月「鬼や姫を除く深海棲艦の中で最も獰猛な…」

レ級「そう、ボクってそうイウ評価ダッタの。ハハッ、ねぇ泊地棲鬼、彼ハあぁ言ってたケド、こいつ等は別格…
キミだってそう思っテル。違うかい?足止め、ソレで事が足りるトハ到底思えナイ。ならば、本能の赴くママに
喰らエバいいじゃないカ…!」ニヤッ…

ヲ級FS「レ級……!」

レ級「イイ子してればいいってワケじゃない。そうだろ、違うカイ?」

リ級EL「我等ハ、ソノヨウナ命ハ受ケテナイ」

レ級「ダカラさぁ…そういうノ、要らないカラ。こういう連中ニハ、『こう』した方が効果的ッテネ!」ザッ

泊地棲鬼「レ級の悪い癖ガ出たヨウね。けど、殺す気デやらなけレバ、恐らくこの艦娘達ハ退けれナイ。
戦術を変更スル。この場でコノ艦隊は殲滅スル。全艦、陣ヲ敷ケ…!一点突破でコノ場ヲ制圧する!」

長門「来るぞ!全艦、この長門に続け!」

赤城「加賀さん!」

加賀「心得ています。五航戦の開いた活路、ここで途絶えさせては一航戦の名折れ。一航戦の名に懸けて、ここは譲れません!」

赤城「無論です!提督より受けた命、完遂させます。一航戦の名に懸けて!」

古鷹「矢矧さん、私は長門さんと前線へ赴きます。中核をお願いします!」

矢矧「任せなさい。阿賀野型をただの軽巡だなんて言わせない。思い知らせてやるわ、艦娘の底力!」

秋月「相手にはヲ級FSが控えていますが、ご安心下さい。この艦隊は、私が守ります。この秋月が健在な限り、やらせはしません!」


黒提督「…やはり、レ級の協調性には若干の難有りか」

??「アレを難の一言デ括れる辺り、アナタは優秀よ」

黒提督「あいつは生粋の魂喰いだろ?絶対なる捕食者…弱者を糧に強者を屠り、その強者をも喰らう。
憂いがあるとすれば、あれは枷や首輪をも喰い散らかし、己の自由を謳歌しようと邁進してしまう事さ。
奴を手懐けるなんて真似を考えた刹那、その者は奴の胃の中さ。許容し、自由を与え、組み伏せずに操る事こそ最適解。
見せて貰おうじゃないか、彼女がその名に恥じぬ畏怖をばら撒く生粋の存在なのかどうかを」

??「」(これ程マデに我等ヲ理解し、その考えを汲み取るコノ男…既に私の範疇を越え、遥かソノ先へと展望は続いてイル。
そうマデして、何故艦娘や人間ヲここまで憎悪スルのか……面白い、コノ男は、面白い…!)



同時刻、長門達を送り出し、その場に留まって妨害を繰り返す深海棲艦を相手にしていた第二部隊。

相手の付かず離れずの厭らしい攻めにも難色も示さずこれを撃破し、先行した第一部隊に追随すべきか否かで思案していた。


瑞鶴「青葉、そっちどうなの?」

青葉「問題無ぁし!完・全・勝・利!これは鎮守府通信の一面を飾れる大挙ですぅ!」

瑞鶴「何よそれ…」

浜風「深海棲艦がここまで考えて行動を起こしてくるとなると、少し慎重になるべきではありませんか?」

島風「んもー、細かく考えすぎーっ!」

翔鶴「いいえ、浜風さんの意見には賛成です。こちらは火力に優れる武蔵が今は提督と共に行動している為に居ません。
そんな中で戦艦クラスの深海棲艦が複数現れた場合、万が一が起こっても不思議はありません」

青葉「うーん、とは言っても…このまま進軍して良いものかどうか…」

島風「じゃー、一度鎮守府に戻る?」

浜風「戻るにしても、先ほどのような深海棲艦が潜んでいないとも言い切れません」

翔鶴「……」

瑞鶴「……」


瑞鶴「────最適解?」

提督「ええ、これから皆さんにお配りするのはそれぞれ異なった内容のものです。相談は一度だけ、誰に聞いてもらっても構いません。
ただし、答えとなるものはダメです。あくまで相談、受けた側はそれに対する助言までとします」

瑞鶴「提督さん、こんな事しても意味ないって」

提督「おや、そうですか?」

翔鶴「こら、瑞鶴!」

瑞鶴「だってその場その場で状況なんて変わっちゃうし、紙の上の出来事通りになんてなる訳ないじゃない」

隼鷹「うんにゃ、とも限らないんじゃないかい?基本が解ってりゃ応用が利く。応用するには基本が解ってなきゃダメだ。
こいつはその基本をなぞる為の言わばテストみたいなもんだろ、提督?」

提督「素面の時は冴えますねぇ」

隼鷹「にっしし、一言余計だよ」ニヤッ

千歳「えっと、私のは…」

加賀「……」

赤城「……」

提督「出来た方から、僕に見せて下さい」

翔鶴「ほら、瑞鶴。席に座って」

瑞鶴「はいはーい」ガタ…



Q.貴女は一部隊の空の目として艦隊戦に参戦しています。


味方部隊の編成は以下のとおりです。

旗艦:戦艦

随艦:貴女 正規空母 重巡 軽巡 駆逐

相手部隊の編成は以下のとおりです。

旗艦:正規空母

随艦:正規空母 軽空母 重巡 重巡 軽巡


艦種の違いはありますが実力はほぼ拮抗、制空権争いは若干不利と見られます。

空母の舵取りは貴女が行っています。

ではここで問題です。

現状の打破には幾つかの方法が考えられますが、その中でも貴女と正規空母の二名を活かした戦術を提示して下さい。

陣形は味方側は単縦陣、相手側は輪形陣とします。


瑞鶴「」(何よこれ…)


ガタ…


瑞鶴「!」

加賀「提出します」

瑞鶴「」(加賀…!)

提督「おや、随分と早いですね」

加賀「決まりきった質問だったもの。考えるより、思ったままを綴りました」

提督「なるほど、加賀さんらしい考え方ですね」


ガタ…

ガタ…


瑞鶴「」(ウソ、なんで皆そんな直に解るのよ!?)


ガタ…


瑞鶴「」(ちょ、翔鶴姉ぇも!?)

翔鶴「提出します」

提督「拝見します」

翔鶴「……」

提督「……」

翔鶴「……」

提督「…なるほど、良く熟考されたのでしょう。理に適った方法と言えます」

翔鶴「ありがとうございます」


提督「ですが、これを提唱する時間が無いでしょう」

翔鶴「え?」

提督「殆どの方々に言える事ですが、僕が提示したのは最適解です。一つを導き出せと一言も言ってはいません。
この策を練り上げるのに使った時間は何分ですか?」

翔鶴「それは…」

提督「現場で相手はその時間をジッと待っててくれはしませんよ。思いついたものをその場で即決して実践する。
それしか方法としては事実ないと思いますが、如何ですか?」

翔鶴「仰るとおりだと、思います」

提督「僕は何も無理難題を出しているつもりはありません。皆さんならば辿り着けるであろう一つの結論を聞かせて頂きたい。
ただそれだけなんですよ。それは感性に近いのかもしれませんね。故に、熟考されたものは時間を掛けて綿密に練り上げ、
互いの錬度を上げて皆で取り組むべきものです」

翔鶴「……」

提督「感じたままを綴って下さい」

翔鶴「解りました」

瑞鶴「」(こんなの────)


瑞鶴「────関係ないことなんて無い」ボソッ…

翔鶴「瑞鶴…?」

瑞鶴「いくべきよ」

浜風「瑞鶴さん」

青葉「ですけど、不確定要素が満載ですよ?」

島風「ほんとーに行くの?」

瑞鶴「行く。行かなきゃダメな気がする。だって今の深海棲艦の強さ見たばっかでしょ!?」

翔鶴「本隊は、今の倍は居ると予想されます」

瑞鶴「第一部隊だけじゃ、絶対ダメよ。少なくとも、後方を支援できるだけの部隊が一つは必要なはず」

翔鶴「行きましょう。提督が、武蔵さんがと言ってる場合ではありません。私達が成すべき事、それは深海棲艦と戦う事です!」

瑞鶴「解らないから、不安だから、言ってたらそんなのきりが無い。だったら前に進むだけよ。矢尽き刀折れるまで、
艦載機がある限り、私は飛ばし続ける!」

青葉「……はぁもう、そういう熱血は長門さんだけでいいですよぅ。でも、嫌いじゃないですよ。青葉、トコトンお付き合いします!」

浜風「この部隊の大黒柱がそういうんだから、私達はそれに順ずるだけです」

島風「はーい!島風、がんばりまーす!」

瑞鶴「皆、ありがとう!行こう、翔鶴姉!」

翔鶴「ええ、少し時間は経ってしまってるけど、幸い邪魔立てしていた深海棲艦は根こそぎ殲滅できたわ。あとは進むだけ!
先行している長門さん達の援護へ向かいましょう!」

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます

-悪意の塊-

??「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


男はただ只管に走っていた。

何度も後ろを振り返り自身の安全を確認し、走ってはまた振り返り、その繰り返し。

どれくらい走っただろう。

息も絶え絶え、立ち止まれば忽ち動く事は愚か呼吸すらも間々ならなくなりそうなほどに焦燥しきったその姿。

哀れと言うには余りにも惨めなその姿。

その男を見れば誰もが口を揃えて言うだろう。

愚かな事を。

無様な奴だ。

裏切り者め。

恥を知れ。

決して死ぬ事は許されない。

生きたままに地獄を体現させ、その先に連なる煉獄を顕現し、輪廻の如くそれを繰り返し与え続ける。

与えられる男はいつしか移ろう瞳の視線の先に幻視する。

優しく微笑む女神の姿をした生粋の悪魔。

手を取れば優しさと言う地獄に身を焦がされ、抱擁すれば慈愛に満ち満ちた感覚が全身を纏い、煉獄へと突き落とされる。

だがそれすらも今の男には蜘蛛の糸。

藁をも縋る思いで躊躇う事無く手を伸ばす。

地獄への一歩。


煉獄の門に手を掛ける。

どちらかを選ぶなどそれこそ傲慢だろう。

だから両方とも手にする。

その手に取れるものは例え何であろうと手にする。

己にとって利益となるなら例え馬糞だろうがなんだろうが手に取る。

生きるための最適解。

その場を出し抜く最良の一手。

そうして男はこの世の全てを憎み、恨み、蔑み、妬み、世界全てに悪意を持って生まれ変わった。

誰にも解って貰う必要は無い。

誰にも共感して欲しくなどはない。

誰にも同じ道を歩ませはしない。

誰にも自分の隣に並び立つ事は許さない。

だからこそ与えられる。

最高の死を、最高の痛みを、最高の苦しみを、最高の屈辱を、最高の遺恨を与えられる。

考えうる限りで最高のものを提供できる自負がある。

それだけのものを己の内に育み、孕ませ、吐き出す時を刻一刻と待ち望んできた。

この場ではない、別の何処かで、この場は既に地獄に塗り替えた。

しかし思い描いたものとは程遠かった。

そこで男は気付いた。

対に等しい存在が必要だと。

そうして男は現れた。

走って、走って、走って、駆け抜けた先で男は絶望を味わった。

死の淵に立って男は考えた。

殺されて死ぬくらいなら絶対に殺されてやるものかと。

そうして男は自ら死の淵に飛び込んだのだった。



??「…………」

??「……ここは……」

??「死んで、ない…?」

??1「ヨウコソ、深淵ノ園へ」

??「お前は…!」

??1「アラ、今更その反応ナ訳?」

??「ぼ……私を、どうするつもりだ」

??1「別にドウもしない。水面へ帰りタイなら、送り届けヨウ。ただし、この邂逅ハ一度きり…二度はナイ」

??「そういう事を言ってるんじゃない。君達は、敵だろう…我々の。その一片たる私を何故始末しないのかと聞いている」

??1「フフッ、そうね。何故かしら?不思議ヨネ…だって、あなたハ私達と同じ『匂い』がシタんだモノ」

??「同じ、匂いだと…」

??1「恨み、辛み、妬み、嫉み、マンマ…悪意の塊じゃナイ。悪意をコノ世にばら撒くべく生まレタ存在。違う?」

??「……ふっ」ニヤッ…

??1「?」

??「ふふっ、はははははっ!そうか、私は、そうか…!同じか、匂いが!存在が!あるべき姿が、これか!」

??1「フフッ、人が変わったヨウな有様ネ」

??「私は『私』だよ。私なんだ…」

??1「まぁソレは後でデモ良いわ。それヨリ、腑に落ちナイのよネ。あなた、何処カラきたの?」

??「何…?」

??1「突然降って沸いたノヨ、あなた」

??「何だと……今、何年だ」

??1「……?アァ、人間の暦ネ。さぁ、どうだったカシラ…確か、そうね、2016年……だった気がスルわ」

??「2016年だと……」(過去…なのか?)

??1「何カシラ?」

??「今、周辺の鎮守府はどのように点在している」

??1「敵ノ拠点がドウなってるか知りタイわけ?早速攻め入るのカシラ?」クスッ…

??「いいから答えろ」

??1「ハァ…」


バサ……


??1「AトBに二つ、CトDに四つ、EトFには三つ、確認が取れてるダケで九つ」

??「」(違う……その年の配置はそうではない……結論────)

??1「なぁに?」クスッ…

??「私は、降って沸いたと、言ったな…」

??1「ええ、そうネ」

??「面白い……」ニヤッ…

??1「何が、カシラ?」

??「物事全てさ。本来はここに存在しない存在、それが私と言う事だ。ならば、破壊する…世界を捻じ曲げれば
元の世にも戻れよう…くくっ、徹底的に破滅を齎す。一つ教えてやろう、深海棲艦」

??1「…………」

??「『人』は狂うと何をするか解らない。それは天才でも馬鹿でも一緒だ。ただし、天才と馬鹿では決定的に
違う狂い方をする。天才は自我を保持して狂う。己のしている事を理解して狂うが、馬鹿は自我の崩壊した獣だ」

??1「ふぅん…ソレデ、あなたハ?」

??「磐石にして不変。例えどれだけ狂おうと、この自我まで屠れはしない。破滅を辿るだけの貴様等に、
反撃のチャンスを送ろう。ここより始まる…猛追開始だ」




黒提督「さて、私の記念すべき第一段階の子達は彼女達に勝てるかどうか、見物だな」

??「あら、記念スベキ子達ナノに、信じてあげナイノかしら?」

黒提督「だからだ」

??「ハ?」

黒提督「過度の期待は期待した側もされた側も大抵滅ぶ。する側は押し付けがましく、される側はその重圧に
耐え切れず拉げて潰れる。飄々と構える位が丁度いい。成果を上げれば褒めてやればされる側は確実に伸びる。
飴と鞭だよ。悪い事をしたら叱り、良い事をすれば褒めるだけだ。故に磐石にして不変。変わる事もない」

??「ふぅん……」


泊地棲鬼「コノ先へは、通さんゾ…!」グッ…

長門「いいや、是が非でも通る。その為に、お前達をここで沈める!」ザッ…ジャキッ


その場で身構えた泊地棲鬼に対し、長門は一足飛びで前に出て主砲を翳す。


泊地棲鬼「チッ…」ジャキッ

長門「む」


ドン ドンッ

ボボボボボボボボボンッ


長門「くっ…!」(私の主砲の射線軸を読み取って副砲で牽制したというのか!?)

泊地棲鬼「なるほど、ソウカ…」ニヤッ…

長門「てーーッ!」ジャキッ


ドン ドンッ


泊地棲鬼「ふんっ」ザッ



ボボボボボボボボボンッ


泊地棲鬼「…コウダ」ジャキッ

長門「何っ!?」サッ


ドォン ドォン

ボゴオオォォォォォォォォン


泊地棲鬼「他愛もナイ…」

長門「ビッグセブンの力、侮るなよ…!」 被害軽微

泊地棲鬼「……!」

長門「長門型の装甲は伊達ではないよ。奇を衒ったつもりだろうがな、それでは届かんぞ!」

泊地棲鬼「面白い。ナラバ、貴様のソノ面が歪むマデ撃ち続けてヤロウ」


時間にして僅か数十秒。

一見、長門が一方的に攻撃を受けているようにも見えた。

だが、目を見張るべきはその一方的とも思える攻撃を軽微に抑えて凌ぎきった長門だろう。

開幕、長門は先んじて自ら一歩前に出て相手の出鼻を挫いた。

考える隙と選択の時間を短縮させたのだ。

踏み込むという事は何かを仕掛けるぞと言うスタンスの表れ。

これまで幾多と策を張り巡らせる深海棲艦と交戦してきたからこそ出来た行動。

対深海棲艦の動きではなく、対人の動き。

だがそれでも長門の想像を深海棲艦は超えていた。

相手もまた、考えるという点においては秀でていたのかもしれない。

長門の行動を読み取った上で反撃に転じ、更にはその上をいき最初の競り合いを制したのだから。

しかし、それが長門の闘争本能に火を点けた。


長門「第二幕だ。提督鎮守府第一部隊旗艦、長門型一番艦戦艦長門…推して参る!!」ザッ



レ級「ボク等の相手ハ君達?」

ヲ級FS「……」

赤城「不服ですか?」

加賀「……」

レ級「不服ダネェ…お前等……」


ビュッ


レ級「ッ!?」

ヲ級FS「……!」


ブゥゥゥゥゥゥゥゥン……


加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」


ボゴオオォォォォォォォォン


レ級「クッ…!」 被害軽微

ヲ級FS「ハヤイ…!」 被害軽微

加賀「……」スッ…

赤城「……」スッ…


無言で加賀は背の矢筒から新しく矢を抜き放ち、手にする弓に番える。

それに合わせ、並び立つ赤城も加賀に倣う。


レ級「練気ッテやつ…?」ニヤッ…

ヲ級FS「……ツヨイ」

赤城「この道を作った五航戦への手土産とさせて頂きます」

加賀「相手にとって不足はありません。徹底的に叩きます」


レ級とヲ級FSを見て二人は一瞬にしてその錬度に気付いた。

この深海棲艦達は今までのとは格差が段違いにあると。

互いを見る事もなく、目配せすらもなく、静かに一航戦が仕掛ける。



リ級EL「ミサダメタアイテハ、カクジツニシズメル」

古鷹「このラインは死守します」

ト級EL「コロス、シズメル…!」

矢矧「本隊ね…!明らかに他と錬度が違う。こうも気迫が伝わってくるものなの?」

秋月「これは、異常事態として認識すべきです」

ニ級後期「ギギ…!」バッ

矢矧「秋月!」

秋月「…!やらせません!」バッ


ドン ドンッ

ドン ドンッ

ボボボボボボボボボンッ


即座に反応した秋月の砲撃がニ級後期の放った一撃とぶつかり合い、中央で炸裂する。


秋月「迷う道理も暇もありません。さぁ、始めましょう」ジャキッ

矢矧「そうね。この矢矧が、全てを護り切る。あなた達程度の相手をいつまでもしている暇はないのよ。砲雷撃戦、始めます!」ジャキッ

古鷹「勝ちに行きます!」ジャキッ



黒提督「こちらの包囲を破壊した上で、メインになる彼女達を的確に狙うか。しかも、相手の土俵では戦わない。
小賢しい……だが理に適った解だ」

??「アソコまで綿密な戦術……相手にもアナタのような指揮官が随行シテいるのカシラ?」

黒提督「くくっ、君達はまだ知恵比べでは彼女達の足許にも及びはしないさ。あれは、彼女達の判断だよ」

??「何…!?」


---- ・・- -・-・- ・・・- -・ ・-


黒提督「ん?」


・---・ ・・ ・-・-・ -・・・- ・--・


??「モールス信号…そんな、工作隊の全滅ガ確認サレタ…ですッテ!?」

黒提督「対処が早いな。まぁ、あの艦隊がここに居る時点で察してはいたが…」

??「コチラの妨害作戦ガ看破されてイタト?」

黒提督「いや、看破と言うよりはこのタイムラグからして遭遇してからの対応だろうな。
工作隊と交戦し、あの艦隊はそれを振りきりこの場に着た。では何故工作隊が後続から追随していないのか。
相手方の妨害部隊と交戦していたと見るべきだろう。そして殲滅された。十分もせずに相手の援軍が到着するな」

??「そこマデ読めるものナノ?」

黒提督「ふん、解らんか?海図を元に交戦のあった海域と現海域の航路時間を鑑みれば、自ずと答えは出るだろう。
ようは着眼点だ。どこに目を付け、どこに注目を集めるか、それさえ抑えておけば大抵の事は把握できる」

??「ふぅん…」

黒提督「囲いに穴は開けられているが、再構築は十分に可能だ。既に囲っている三匹の艦娘はそのまま固定させ、
疲弊させた段階で刈り取ればいい。今危険視すべきは眼前の艦隊とその艦隊の援軍に来るであろう艦隊。
これらを制圧した後でも十分にあの鎮守府は陥落させられる。順番を見誤るなよ」

本日はここまで

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~Over the limits~



-越えろ-

矢矧の考えた作戦は次の通りだ。

まず広範囲をカバーできる赤城と加賀による艦爆艦攻隊を先行させ、囲いとなっている深海棲艦に打撃を加える。

そして穴の空いた箇所、弱まった箇所を残りの四人で散開して破壊していく。

ヒット&アウェイでこれを行い、決して対峙はせずに動き回る事で固定標的を回避する。

止める事も出来ずに被害が拡大すれば必ず相手の主力級が出張ってくる。

その段階で陣を再構築してこれを迎え撃ち撃滅する。

主力級を制圧できれば相手に与える精神的ダメージは計り知れないと矢矧は考えた。

戦闘時に於ける精神的考査。

対人ならばこの考査は必須だ。

相手が何を考えどう動くのかを模索し、それに対抗する術を見出し実践する。

疑心暗鬼ではきっとこの解には辿り着かなかっただろう。

矢矧は脳をフル回転させて次の一手、その先に続く二手、三手を模索する。

相手の出方を見てからでは全て後手に回ると解っているからこそ複数の解を用意しておく必要がある。

想定外の行動にも臨機応変に対応できるだけの引き出しを備えて迎え撃つ。

翔鶴や瑞鶴のように、彼女もまた成長を遂げた。

今、彼女の瞳にはこの海原は俯瞰に見えていることだろう。

一つのエリアとして区切り、一つの盤面として考え、それぞれを一つの駒として捉えてそれを一つずつ動かす。

将棋やチェスと同じだ。

狙うは一点、王手であり、チェックメイト。

そしてこの時間を掛けた作戦の大本命。

矢矧が考えていた三つの考査の内一つが的中する。



ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

ボゴオオォォォォォォォォン


泊地棲鬼「クッ……爆撃、ダト…!?」

長門「ふっ、形勢逆転だな」ニヤッ

泊地棲鬼「何ヲ笑ってイル!」

長門「頼れる仲間の到着と言った所だな」


レ級「チッ、横槍!?」

加賀「…遅い」ムスッ…

赤城「文句言わないで下さい、加賀さん」クスッ


瑞鶴「邪魔よ!」ビュッ


ヒュン ヒュン

ボゴオオォォォォォォォォン


青葉「さぁさぁさぁ!どれからいっちゃいましょうか!青葉、ガンバっちゃいますよ~!」ジャキッ

浜風「翔鶴さんと瑞鶴さんの睨んだとおりですね」

島風「着てせいかーい!」

翔鶴「青葉さん、浜風さん、島風さんは古鷹さん、矢矧さん、秋月さんのサポートを」

瑞鶴「長門さん達の援護は私と翔鶴姉で受け持つわ!」

三人「「了解!」」


矢矧「来たわね…!」

古鷹「援軍…!」

秋月「矢矧さん、まさかこれを予見してたんですか!?」

矢矧「第二部隊が来てくれるのが公算として一番大きかったわ。そうでなくとも、あの鎮守府の遠征部隊の到着でも良かった」


ザザザッ…


浜風「ご無事で、皆さん!」

青葉「さっすが我等が鎮守府第一部隊ですねぇ」

古鷹「もう、青葉は少しは緊張感持ってよ!」

秋月「でも本当に助かりました。これなら、次のラインへも突破が可能です。急ぎ今度こそ、孤立している中将鎮守府の
艦娘さんの救援へ向かわなければ!」

島風「バビューン!って行ってギュイーン!って戻ればいいの?」

矢矧「ち、抽象的過ぎます…」

古鷹「まずは眼前の障害を取り除きましょう」



翔鶴「長門さん!」ザザッ

長門「翔鶴、恩に着る」ザッ

泊地棲鬼「チッ…」(本腰ヲ入れてカラのこの戦艦ノ動きハ脅威だ…ソレに加え、正規空母…形勢ハ不利…ナラバ…)ニヤッ

長門「何が可笑しい」

泊地棲鬼「サテ、何でカシラね?」クスッ…


レ級「さっきノ空爆、お前カ…!」

瑞鶴「深海棲艦…!」

赤城「いいタイミングでした、瑞鶴さん」

加賀「少しは感謝します」

瑞鶴「すこっ…むっかー…」

赤城「ふふっ」

ヲ級FS「形勢ハ、不利トミル…ワタシノ搭載数デハ、オサエキレナイ」

レ級「解ってルヨ…けどね、泊地棲鬼ダッテ同じ事を考えてイルはずダヨ」ニヤッ


ザバァァァァァン

ザバァァァァァン

ザバァァァァァン

ザバァァァァァン


長門達の援軍が到着すると同時にこう着状態に入って直に異変が起こる。

周辺を固めていた包囲網が瓦解すると共にその包囲網の一角を担っていた深海棲艦達が一斉に標的を長門達に切り替えた。


陸奥「攻撃の圧が緩んだ…?」

清霜「でも、これチャンスじゃない!?」

摩耶「ああ、一気に突き崩して援軍にきてくれてるらしい連中と合流、一致団結ってのが理想だね」

陸奥「なら、この機を逃す手はないわね。行くわよ!」

摩耶「おっしゃぁ!」

清霜「おっけー!」


矢矧「!?」(標的を私達に切り替えた!一体どういう事なの…?)


黒提督「ちっ…これだけズタボロにされた包囲では最早囲いの呈は成さんな。ならば、その物量を持ってこの奸計を
台無しにしてくれた連中に礼を尽くすのが礼儀だろう。押し潰してやれ」

??「」(コノ男の表情をココまで険しくサセルとは…やはり、艦娘ハ別格と言うコトか…)



長門「ようやく深海棲艦らしくなってきたじゃないか」

泊地棲鬼「何ダト」

長門「ふっ、その物量だ。貴様達は確かに数が多い。だが、それだけだ」

泊地棲鬼「今マデはな…ダガ、今ハ違う。コノ数の深海棲艦、ソノ全てガ考えて動く」

長門「……」

泊地棲鬼「果たシテ貴様等の中デ生き残レルのがドレだけいるのか、楽しみジャナイカ…」


レ級「お前等、ボクとヲ級FSの援護をシロ!」

加賀「囲まれた…」

瑞鶴「うわ、うざ…!」

赤城「警戒を密に…!」

ヲ級FS「無駄ヨ…モウ、決シテ逃ゲラレナイ」


深海棲艦達の不敵な笑みは結果として提督をはじめ、彼が束ねる鎮守府全員の怒りを呼び起こす事になる。

大きな成長と大きな損害を持って、この戦いにも終止符が打たれる。


レ級「ヲ級FS!艦載機ヲ放テッ!」

ヲ級FS「沈メ…!」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


赤城「第一次……」チャキッ


ドン ドンッ

ボボボボボボボボボンッ


赤城「くっ…!」

瑞鶴「赤城さん!このっ…!」チャキッ

レ級「させるカヨ、バーカッ!」ジャキッ


ドォン ドォン

ボゴオオォォォォォォォォン


瑞鶴「きゃっ」 被害軽微

加賀「見縊るな、深海棲艦」チャキッ


ビュッ


レ級「……」ニヤッ

加賀「なっ…」



ドドドドドドドッ

ボゴオオォォォォォォォォン


一瞬の間隙を縫って正確無比な一撃を放った加賀だが、周りの深海棲艦の対空砲撃によって艦載機が散開するよりも先に

粉々になるまで矢が撃ち抜かれる。

間断なく身動きが取れないギリギリまで攻撃の的になる赤城と加賀。

瑞鶴への攻撃はそれに比べて手薄になる。

それが瑞鶴の逆鱗に触れた。

だが、それこそ罠。

今回の作戦を台無しにしてくれたお礼。

その標的として深海棲艦が選んだのが瑞鶴だ。

その言動、その行動から瞬時に深海棲艦は組し易いと判断したのだ。

つまり、艦娘を舐めて掛かった。


瑞鶴「馬鹿にして…!」

レ級「存外シブトイねぇ…」ニヤッ

ヲ級FS「アト、少シ…」クスッ…

赤城「瑞、鶴…さん…!」 被害軽微

加賀「熱くなっては、ダメ…!」 被害軽微

レ級「ホラ、こいよ!一航戦ノ後ろ盾ガ無けレバ何もデキない出来損ナイッ!」

瑞鶴「言わせておけば…!」ザッ

ヲ級FS「デタ…」

レ級「仕掛ケロ、ヲ級FS!」


ブウウゥゥゥゥゥゥゥゥン……


瑞鶴「……っ!」

赤城「瑞鶴さんを、おびき出す為の、罠…!」

加賀「……!」バッ


ボンッ

ボボボンッ


加賀「くっ」 小破

赤城「か、加賀さん…!?」

レ級「クタバレ、バカがっ!」

瑞鶴「しまっ……」(ダメだ、今から矢を番えて発艦させても間に合わない…!)



一瞬の油断と気の緩み。

巧妙に仕組まれた、それは罠。

だが、瑞鶴の行動は決して責められるものでもない。

散々一航戦を執拗に狙い、痛めつけ、あまつさえ小馬鹿にした。

自分達が目標にと選んだ人達を馬鹿にしたのだ。

許される事ではない。

自分達がどれだけ言われようと構わない。

だが、自分達が目指し、憧れ、追い付こうと、追い抜こうとしている尊敬する彼女達を穢される訳にはいかない。

だから瑞鶴は怒った。

そして、嵌った。

故に悲劇は起こった。


ドンッ

ザバァァァン


強い衝撃を胸部に受けて瑞鶴は後方へと弾き飛ばされ、そのままバランスを崩して尻餅をつく。

咄嗟の事で思わず目を瞑ってしまった。

直に起き上がろうと腰を浮かし、目を見開いて、そこで始めて眼前に大きな背がある事に気付く。

見慣れた背中。

追い続けた背中。

何れは並び、そして抜き去り、越えてゆく背中。

肩越しに加賀が振り返る。

小さく頷き、僅かに微笑んだように見えた。

口が動き、何かを呟いている。

それがスローモーションに見えて瑞鶴は音としては認識していなかった。

だが、何を言っているのか理解できたような気がした。


──越えなさい、瑞鶴──


その直後、自分と加賀を隔てるようにしてヲ級FSの容赦ない艦攻艦爆が海面を揺らし、一瞬にして加賀の姿を掻き消した。

目を見開き、声にならない声を上げて、未だ攻撃の止まない海域に手を伸ばそうとして、それとは反するように後ろへ体は持っていかれる。

赤城が瑞鶴の腕を掴んで攻撃範囲外へと引きずり出したのだ。

それでも瑞鶴は爆発音に掻き消されても尚、彼女の名を叫び続けた。


瑞鶴「────────さんっ!」

瑞鶴「加────────さんっ!!」

瑞鶴「────加賀さんっ!!」

瑞鶴「いやああぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」

本日はここまで

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-知られざる歴史-

元帥「────宜しい。では、今後はこの方針に沿って各鎮守府での哨戒任務に従事して欲しい」

壱将「この短時間で良くぞここまで纏めたものだ」

提督「皆さんの理解度が高かったお陰ですよ。僕はそこに添え木を何本か添えただけに過ぎません」

肆将「…………」

漆将「いや、君の着眼点は、素晴らしい。中将の中にも、君のような智慧を備えた者が居るのは、好ましい」

拾将「」(この男、本当にあのダメガネだとかダメ提督だと言われていた人物と同一人物なの…?)

大和「」(やはり、この方は…)

武蔵「……」イライラ…

大和「武蔵」

武蔵「…はぁ、何だよ」

大和「顔に出すぎよ」

武蔵「ふん、気に入らないから気に入らないって言って何が悪い」

大和「変わらないわね」

武蔵「お前もな。提督の事、大和は知ってたんだろ?」

大和「うーん…まぁ、それなりには、かしら?」

武蔵「ったく…どいつもこいつも、涼しい顔してだまくらかす…性質が悪いなんてもんじゃないぜ」

大和「……しょうがないのよ」

武蔵「はぁ?」

大和「元帥達はまだ少し話し合いがあるみたいだし、私達は外に出ていましょう」スッ…

武蔵「あっ、おい!」

大和「元帥、私達はしばし席を外しますが構いませんか?」

元帥「ああ、少し休憩を取るといい」

大和「ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね」ペコリ



少し喧騒としている大本営。

常に何処かで深海棲艦との戦いが起こり、その情報は大本営へと送られてきている。

休む間などそれこそないほどに。

故に喧騒としている。

そんな中でも、風が吹けば心地よいと感じ、日差しの中に立てば日の照りを手で遮り、暖かさを感じられる。

それだけの事をする余裕と優雅さがこの大本営にはある。

その中庭にあるベンチに腰を下ろし、二人の艦娘は暫しの沈黙を決める。

最初にその沈黙を破ったのは妹の方だった。


武蔵「…で、何がしょうがないって?」

大和「……」

武蔵「お前から言い出した事だ。それに、あそこじゃ続きを言い難いからわざわざここまで連れ出してきたんだろう?」

大和「…武蔵は、提督の事はどれだけ知っているのかしら?」

武蔵「殆ど知らないよ。着任してからもう彼此一年近く経つが、その中で解ったのはあいつが神の眼を持つ男と過去に
呼ばれていたって事くらいだ。実際にその慧眼は伝説と呼ばれるに相違ない凄さを物語っていた」

大和「そうね、あの方の目には、常に未来が見えていた。だから、見たくない未来さえも見てしまった」

武蔵「どういう事だ」


彼は、神の眼を持つ男と呼ばれた提督。

通り名として神眼提督なんて呼ばれていた時期があるわ。

元の階位は大将。

大本営直属指導教官総長、第壱将の座に位置していた大将。

それが元の彼の肩書き。

三大将の一角を担う壱将でありながら固有の鎮守府群は統括せず、秘書艦娘も付けず、ただ日々を指導と教鞭を振るう

事に心血を注ぎ、それを周りも良しとしてきた異端の大将。

そんな彼に初めて秘書艦が付いた。

香取型練習巡洋艦一番艦の香取。

それが、彼が初めて傍付きに選んだ秘書艦娘。

そして、初めて失った秘書艦娘。


武蔵「なっ…」

大和「……その事が切っ掛けかどうかは解らないけど、秘書艦を失って直だった。提督が海軍を辞めると言ったのは────」



元帥「辞める?辞めるとは、どういう事か」

神眼「言葉通りの意味です。僕はこの海軍を去りたいと申し上げているんですよ」

元帥「辞めてどうする気だ」

神眼「そうですねぇ…長年の夢でもあった喫茶店のマスターなど、良いかもしれませんねぇ」

元帥「…認めんぞ」

神眼「たかが一兵卒です」

元帥「お前をそこらの提督と同一視しろと言うのか」

神眼「同じですよ。何が違うというのですか」

元帥「違うだろう。お前は三大将の一角を担う壱将だぞ。言葉の重みは他とは断じて違う」

神眼「お飾りの提督に何を期待しているのか」クスッ…

元帥「自ら飾り気のない場を選んだのはお前だ。それでいてこのような時だけ飾りと言う言葉を使うのは卑怯ではないか」

神眼「相変わらず言葉尻を良く捉えますねぇ」

元帥「お前とこうして会話していれば嫌でも身に付くだろうさ。それに、その言い回しでは自分の言葉に損ないがあると認めているようなものだ」

神眼「否定はしません。ただ、僕にとって最早この海軍に居る意味がない。故に退きたいと申し上げているんです」

元帥「理由としては足りんな。居る意味はある」

神眼「僕が、ではなく僕の考えが理由として居る意味があると、そうとしか聞こえないんですよ。言わば僕の脳があればいい…
そういう事ではありませんか?」

元帥「愚かな…それこそ愚問だ。私がそういったか?」

神眼「言わずとも感じますよ」

元帥「それこそ偏見と言うものだろう」

神眼「…はぁ、恐らく一昼夜語り尽くしても結果は平行線で変わりはなさそうですね」

元帥「言うに及ばずだ」

神眼「良いでしょう。ならば僕も僕のやり方でこの海軍に残らせて頂きます。これ以上は、僕も引きません」



大和「こうして、今のあの方が出来上がった…」

武蔵「じゃあ、あいつが非協力的なのは…」

大和「過去の十字架を今も背負っているから、でしょうね」


スタ スタ…


提督「ここに居ましたか、武蔵さん」

武蔵「提督…」

提督「話は終わりました。急ぎ、僕等も鎮守府へ戻りましょう」

大和「……」ペコリ

提督「少し、口が軽くなったのではありませんか、大和さん」

大和「そのお言葉は、甘んじてお受け致します」

提督「はぁ…悪い子ですねぇ」

大和「あら、今更気付かれたんですか?」クスッ

武蔵「こいつは事ある毎に人が地味に嫌がる事や物言いをするのに長けている」

大和「まるで私が悪人みたいな言い方、止めて下さい」ムスッ

武蔵「ふっ、私にしてみりゃ大悪党だから気にするな」ニヤッ

大和「全く、直に減らず口を…」

武蔵「お前の妹らしいからな。そりゃ口数も減りはしないだろうよ」

提督「姉妹漫才も結構ですが、そろそろ時間も厳しいですよ、武蔵さん」

武蔵「ちっ、解ったよ…っていうか姉妹漫才ってなんだよ!」

大和「鬼(提督)が金棒(武蔵)を持つときっとあんな感じなんでしょうねぇ…」ボソッ…

提督「聞こえてますよ」

大和「ただの戯れですから気になさらずに。最後に少し真面目なお話をします」

武蔵「あん?」

大和「提督…今一度、貴方の力が必要です。その事を、熟考なさって下さい。今度ばかりは、嫌な予感しかしません」

提督「ならば、肝を冷やさぬ程度には心構えがいるかもしれませんね。熟考しましょう」

本日はここまで

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-信念の権化-

黒提督「くくっ、ははははっ!」

??「アラアラ、一人やらレタだけなのに、あんなに取り乱すナンテ…」

黒提督「くく…何匹かとは思ったが、よもや五航戦を餌にして一航戦の一翼が釣れるとはな。僥倖だ」


瑞鶴「はなっ……してっ!赤城さん、離してぇ!」

赤城「今は、ダメです!理性を保って下さい、瑞鶴さんっ!」

瑞鶴「加賀さん、助けなきゃ……助けないと、わた…私、の、身代わりに……どうしてっ!」

レ級「アハハハハッ!お見事、ヲ級FS。さぁて、次は何ガ釣れるかナァ…」


ビュッ

ビッ


レ級「ッ!?」 被害軽微

ヲ級FS「……!」


蜂の巣となった加賀の周辺は視界を遮るほどに煙が立ち込めている。

その中から正確無比な矢による射撃が行われた。

飛来した矢はレ級の頬を掠めて過ぎ去る。

そしてゆっくりと煙が晴れていき、そこに一つのシルエットが浮び上がる。


加賀「…………」 大破


全身を朱に染め上げ、飛行甲板も大破し、手にする弓も弦が千切れ最早使い物にはならない。

大きく両肩で息をし、満身創痍ながらそれでも尚まだ立ち続ける。



バシャァァ…


しかし、静かに両膝から崩れ落ちた加賀。

それでも、倒れない。

その場で両膝を突いたまま、両腕を力なく垂らし、顔は俯いたまま、それでも彼女は倒れなかった。

少しでも、例え慰め程度でも、瑞鶴に負い目として感じて欲しくなかった。

仲間なのだから、助けて当たり前なのだから、負い目に感じる必要などないと、教えたかったから。

だから加賀は倒れる事を拒否した。

口元は俄かに微笑を携え、決して苦悶の表情ではない。

その姿を見て、赤城は片手で口元を押さえて静かに涙を流した。

彼女の姿勢と意思を汲み取って涙した。

そして、直に正気を取り戻して尚も前に出ようとする瑞鶴を強引に自分の正面に向き直らせ、問答無用でその頬を張った。


パァァン


瑞鶴「っ!」

赤城「助けるんです。加賀さんの言葉を忘れたんですか…!貴女は、加賀さんから彼女の事をどれだけ聞いたんですか。
まだ、何も聞いてないでしょう?彼女は、身代わりなんて考えは持ちません!加賀さんは、一航戦の加賀は…!この程度では沈みません!」

瑞鶴「…赤城、さん…」グッ…


頬を張られ、冷静さを少し取り戻し、そして赤城の言葉を脳裏で反復する。

助ける。

加賀はまだ、助けられる。

この程度で、終わるような人じゃない。

否、終わらせるわけにはいかない。

自分の不手際で、自分の勇み足で招いた結果。

何度迷惑をかけ、何度支えてもらったか。

それに報いようと邁進してきたのではなかったのか。

それがこの結果では、最早これ以上加賀に、赤城に、一航戦に顔向け出来るはずもない。

ラストチャンス。

これを逃せば一生後悔する。

今ここで、己が成す事は一つ。

眼前の敵を殲滅し、一分一秒でも早い加賀の救護をする事。

今この場ですべき最善の一手。

瑞鶴が選んだ最適解。

それが、彼女自身を覚醒させた。



レ級「クタバリ損ないが…!ヲ級FS!次発発艦ヲ急げ!」

ヲ級FS「確実ニ沈メル…!」グッ…

赤城「瑞鶴さん、敵機次発発艦来ます!構えて!」

瑞鶴「……敵機は見るものじゃない。感じ取るもの……」ボソッ

赤城「…え?」

瑞鶴「そこっ!」チャキッ

レ級「なっ…!?」

ヲ級FS「ハ、ハヤイ…!」


ビュッ


瑞鶴の瞳が静かな輝きを宿して残光を煌かせる。

初手の一矢を放ってから既に二順目を構え、瑞鶴は瞳を閉じて音に集中する。


瑞鶴「…さん、に、いち…攻撃隊、発艦っ!」ビュッ

赤城「」(早い……いいえ、それよりも、これは…!)


静かにカウントし、そして目を見開いた直後に引き絞っていた弦を放し、矢を射る。

一拍遅れて、二条の矢が段階を踏んで艦載機へと散開して行く。

一瞬の内に相手の領海上空を自らの艦載機で制圧した瑞鶴は更に畳み掛ける。



瑞鶴「」(助ける、絶対助ける。私が、絶対死なせないんだから!)バッ

瑞鶴「目標、空母ヲ級フラグシップ!一斉掃射、開始!!」

レ級「クッソ…!」(ナンだよこれ、こんなのハ聞いてナイッ!あの男、クソッ!!)バッ

赤城「…!逃がしはしません!」サッ

赤城「第一次攻撃隊、発艦してください!」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


レ級「クドイッ!」ジャキッ


ドォン ドォン

ボボボボボボボボボンッ


レ級「仕損じた…!アァ、クソッ!!」


瑞鶴の放った艦載機はその全てが次発発艦準備をしていたヲ級FSに狙いを定め、これを一瞬の内に殲滅べく襲い掛かる。

それを危険と察知し、戦線離脱を試みたレ級に感付き、赤城がそれに対処する。

加賀から離れるように、そして自分達が加賀の盾となるように立ち回り、そしてレ級を今度こそ包囲する。


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


二度の爆発音。

完膚なきまでに瑞鶴の放った一斉掃射はヲ級FSの姿を一瞬にして掻き消し、そのまま海の藻屑と化させた。

そして赤城の放った艦載機による絨毯爆撃はレ級の進路を寸断し、その場で足踏みをさせる結果となった。


レ級「クソ、クソ、クソ、クソッ!たった二匹で、お前等…!」

瑞鶴「時間が惜しいの、瞬殺よ!」チャキッ

赤城「問答をする暇はありません。仕留めます」チャキッ

瑞鶴「第二次攻撃隊。稼働機、全機発艦!」ビュッ

赤城「第二次攻撃隊、全機発艦!」ビュッ



ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


その艦載数にレ級は初めて恐怖した。

そして悟った。

戦術とは、戦略とは何か。

そして、相手を痛めつけるだけではこういうしっぺ返しが来ると。

ポイントを抑えた殲滅方法が必要だと。

だが、それに気付けた頃にはもう遅かった。

レ級は、眼前で悠然と構えを取る二人の空母の逆鱗に触れたのだ。

逃れられようはずもない。

遅すぎたのだ。

これこそが、自分達が風情と罵ってきた艦娘の実力だと知って、奥歯が砕けるんじゃないかというほどに歯を食い縛った。

だからせめてもの足掻きとして呪う事にした。

この恨みを、この憎しみを、この悪意にして殺意を、ばら撒くが如く。

だがそんなものなど意に返さずという表情で二人の艦娘はレ級を凝視する。

調伏するが如く、ただレ級を滅さんとするその姿勢に、レ級の放った敵意など蚊ほども届きはしなかった。


赤城「戦艦レ級及び空母ヲ級フラグシップの殲滅を確認…」



ザッ


赤城「あっ、瑞鶴さん!」

瑞鶴「加賀さん!」


ガシッ


瑞鶴「加賀さん!」

加賀「……終わった、みたい、ですね……」

瑞鶴「喋らなくていいから!直に治療するから!」

加賀「耳元で、騒がれるのは、困ります…」

瑞鶴「こんな時に何言ってんのよ!」

加賀「瑞鶴……」

瑞鶴「え?」

加賀「瑞鶴、貴女は…無事でいて…?」

瑞鶴「加賀さんが、助けてくれたから…無事だよ」

加賀「…そう、良かった。貴女が無事なら……それでいいの」

瑞鶴「加賀さん……」

加賀「少し、疲れました……眠っても、いいですか」

瑞鶴「ダメ!寝ちゃダメ!赤城さん、赤城さん!!」

赤城「他はまだ交戦中ですし、応急修理要員も随行させていません。唯一の望みは、一点」

瑞鶴「……!」

赤城「目と鼻の先にある、中将鎮守府を頼る事」


黒提督「……」

??「…相手ヲ一人重傷に追い込ンダだけで、こちらの損害ハ多大となったワネ。よもや戦艦レ級ガ沈めラレルなんて…」

黒提督「…場が白けたな。方策を練り直す。撤退指示を出せ」

??「撤退?」

黒提督「中将鎮守府などを殲滅した所で海軍に与える動揺など微々たる物だろう。捨てておけ」


憤怒の表情。

肩越しに伺った黒提督の顔はそう表現するに相応しかった。

彼の計算外にして彼の描いた展望を悉く凌駕し、打ち砕いた提督鎮守府の艦娘達。

艦娘の行動に、一歩先をいかれた事に明確な憤りを感じて黒提督は踵を返し船室へと向かう。

黒提督が確認しただけで、目に余ると感じた艦娘は提督鎮守府第一部隊六名及び第二部隊の五航戦姉妹、計八名。


黒提督「」(この私の計略を悉く打ち砕くか。面白い、が…相応にして不愉快だ。やはり、貴様は語るに及ばず。
死してこの世から消え去るべきだ。存在するだけで、この世を不幸にする。要らぬ知恵と有らぬ希望を与え、
あまつさえそれを糧とさせ要らぬ成長を促す。だからしくじったのだ…絶望を見たのだ。この世でも変わらず同じ地獄を
見るというのなら、別の地獄を貴様に見せてやろう。最も醜く惨たらしい、残酷な結末をな)

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます




~闇の扉~



-一難去って-


ボゴオオォォォォォォォォンッ


黒提督「……」

泊地棲鬼「何故撤退ノ指示ヲ出した…!」

??「あらあら、荒ぶっテルわね」

泊地棲鬼「貴様は黙ってイロ」

??「ハイハイ…」クスッ…

黒提督「ふん、自意識過剰なだけの低知能な海を泳ぐ猿が粋がるな」

泊地棲鬼「ナンダト…ッ!」

黒提督「あのまま続けても痛んでいたのは貴様の方だ。が、私の采配にも問題があった事は認めよう」

泊地棲鬼「アノまま続けてイレバ、この私が負けてイタというのカ」

黒提督「その通りだ」



長門「第二幕だ。提督鎮守府第一部隊旗艦、長門型一番艦戦艦長門…推して参る!!」ザッ

泊地棲鬼「ッ!」


泊地棲鬼は砲撃戦を予期して構えていただけに、長門のその行動に面食らう他なかった。

彼女は真っ直ぐに駆け出すとそのまま拳を繰り出してきたのだ。


ドガッ


泊地棲鬼「グッ」ザザザッ

泊地棲鬼「貴様、正気カ!?」

長門「ふっ、局面は艦隊決戦と言った所か。胸が熱いな…貴様との殴り合いなら大歓迎だ。ビッグセブンの力、侮るなよ!」バッ

泊地棲鬼「オノレ…!」バッ


ガシッ ガシッ


長門「ふっ、自慢の艤装に頼りっきりで、てんでこっちは話にならないな」ググッ

泊地棲鬼「コ、ノ…ッ!」ググッ

長門「で、私ばかりに感けていていいのか?」ニヤッ


バッ


泊地棲鬼「……ッ!」

翔鶴「目標補足。行くわよ!」チャキッ

泊地棲鬼「シマッ……」

翔鶴「全機、突撃!」ビュッ



ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

ボゴオオォォォォォォォォン


泊地棲鬼「グッ…!」 小破

長門「お前達の策は最早呈をなしていない。中将鎮守府の艦娘達を抑えておく為に布陣していた深海棲艦をこちら側の
援軍として招き入れれば枷の無くなった彼女達は内側から外側に出るべく手薄になった場所を狙って攻撃を始める」

翔鶴「その手を逃れても、私達の部隊が甘さず殲滅します。御覧なさい…包囲していたはずの深海棲艦は何処へ行ったんです?」

泊地棲鬼「…バカナ」


ボゴオオォォォォォォォォン

ドォン ドォン

ボボボボボボボンッ


泊地棲鬼「この、ヨウナ…!」

長門「大規模戦闘をする場合、それを統括指揮できる器の持ち主が必要になる。だが指揮官が存在しても、
お前のような一個小隊を率いる将が指揮官の考える策を理解していなければ結果はこうなる。瓦解だ」

翔鶴「所詮、あなた達が行っている事は模倣、真似事に過ぎないという事です。如何に真似て、如何に模倣しようと
そこに自分達の描く展望が無ければ意味を成しません。総指揮の描く展望を理解し、それに付随し、どうして行くのか
考えてこそ、バラバラだった意思は一つとなり、瓦解する事無く纏まっていくんです」

泊地棲鬼「……ッ」

長門「宣言する。我々は貴様達深海棲艦に出し抜かれはしない。例えどれだけの逆境、苦境に立とうとも、必ず己の
掲げた信念を貫き通し、この手に勝利を掴みとる!」グッ



泊地棲鬼「……己ノ稚気ヲ自覚した。次ノ命令が入るマデ、待機スル」

黒提督「ふん…」

??「で…今回モ結局ハ失敗に終わったケド、どうする気なのカシラ?」

黒提督「くくっ、これが最後だ。最後の辛酸だ…じっくりと噛み締めておけ。今後は二度と舐める機会は無いだろうからな」




中将「陸奥、入渠の準備はどうなってる」

陸奥「出来てるけど、流石にあの状態じゃ…」

長門「中将提督、世話を掛ける」

中将「助けてもらったのはこちらだ。つまらない事を言うな」

陸奥「そうよ、姉さん。それに、本当に感謝してるんだから」

長門「ああ、まさかお前が中将提督の下で秘書艦をしているとはな」

陸奥「ふふっ。けど、加賀の容態は安穏とはしていられない。入渠で事足りるような怪我じゃないもの」

摩耶「おう、中将提督!救護艦隊、あと数分で来れるってよ!」

中将「そうか…!よし、手当てをしてる面々にも伝えてきてくれ」

摩耶「あいよ!」


瑞鶴「……!」

赤城「…大丈夫、きっと、大丈夫」

翔鶴「貴女があれだけ必死になったんだもの、助けられなかったら嘘よ。そうでしょう、瑞鶴」

加賀「…………」


ガラッ…


摩耶「おう、提督鎮守府の面々!あと数分もすりゃ救護艦隊が到着するそうだ。それまで、なんとか気力振り絞れよ!
ここで死なれちゃあたし等だって寝覚め最悪だ。是が非でも、加賀には全快してもらわなくちゃなんねぇからな」

瑞鶴「加賀さん……あと少しだよ、もう少しだから、頑張って…!」

加賀「…………」

赤城「私達が出来る事は全部やりました。あとは、お任せするしかありません」

瑞鶴「…うん」

翔鶴「摩耶さん達も、本当にご無事でよかったです」

摩耶「いやまぁ、あたし等の事は今はいいって。こうして垣根越えて助けに来てくれた。そんだけでも御の字さ。
うちの提督もそこの所は感謝してもし足りないって言ってたしな。持ちつ持たれつってヤツだろ?
それよりお宅んとこ、第二部隊まで出張ってきちまって自分とこは大丈夫なのかよ。あの深海棲艦、最近噂の
考えて動くとかいうふざけた連中だろ。浅知恵働かせてお礼参りにお宅んとこにいかないとも限らない。違うかい?」

赤城「それは私達も考えました。故に何名かは戻してあります」



ガラッ…


長門「失礼する」

赤城「あ、長門さん」

長門「加賀の容態は」

赤城「まだ、予断は許しません」

長門「そうか。こんな時に申し訳ないが、提督と武蔵が到着した。事の詳細を私達に聞きたいそうだ」

摩耶「加賀はあたしが見とくから、あんた等は行ってきな。何か変化があればどんな小さな事でも報告してやるよ」

瑞鶴「ありがと…」

翔鶴「恩に着ります」


提督「お待たせして申し訳ありません」

武蔵「加賀の容態は今し方こちらの中将提督と陸奥から聞いた。緊急事態とは言え、済まない」

赤城「武蔵さんが謝る言われはありません」

瑞鶴「私が、私が悪いの!」

翔鶴「瑞鶴…」

提督「話は聞いています。瑞鶴さんは最善を尽くした。そこは誇るべきではありませんか?」

瑞鶴「でも…!」

提督「加賀さんがそう判断して起こった結果なのだとすれば、それを自分の所為と判断するのは加賀さんに失礼です」

瑞鶴「…………」

赤城「……加賀さんが、何故あの場で倒れる事を拒否したのか、瑞鶴さんには解りますか?」

瑞鶴「…どうして、拒否したのか?」

赤城「…提督が仰られた事が殆どですけど、その一点に集約されています。加賀さんは、誰よりも貴女を評価していました。
あとは経験を積むだけで自然と私達を追い抜き、この提督鎮守府を牽引していける正規空母になってくれると」

瑞鶴「そんな…」

赤城「だから、加賀さんはそんな貴女の盾となれた事を誰よりも誇っている。誰よりも貴女の事を気遣っていたから、
倒れる事を拒否した。少しでも貴女に負い目に感じて欲しくない一心で…大袈裟な表現かもしれませんが、
貴女の覇道を阻む存在にはなりたくなかった。目指すものがあり、辿り着く場所がある。そしてその先へ続く道を歩む足を
止めて欲しくなかった。自分の所為で、寄り道等して欲しくなかったのかもしれません。有体に言えば、瑞鶴さんの枷に
なりたくなかったんです」

瑞鶴「加賀さん…」

武蔵「…提督」

提督「ええ、些か熱いものが込み上げてきますね。この代償は、是非相手方に支払って頂かなければなりません」

武蔵「で、実際には何が起こった」

中将「それは発端も含めて私の方から説明しよう」

提督「中将提督」



中将「────とまぁ、そんな所だ」

提督「確かに、以前にも増して深海棲艦の襲撃頻度は増加の傾向にありました。スパンが短いんですよ」

武蔵「スパン…?間隔という事か」

提督「ええ、その通りです」

中将「確かに、今までに無い短期間での断続的な襲撃がここ最近でも報告されていた。ただし、継続的ではなかった」

提督「恐らくそこは相手にとっても否めない部分なのでしょう。今、深海棲艦が行っているのは遠征からの侵攻です。
最も近い所に拠点を置き、陣営を構えて侵攻の準備を整えているのでしょう」

中将「まさか、我々と同じ鎮守府を形成しているとでも言うのか!?」

提督「泊地、でしょうね。ですが、在り方としては同じでしょう。僕達の本拠地を大本営とするならば、
相手にとっても大本営が存在して然るべきでしょうし、そこから侵攻を可能にする為にも、要所を抑えて
泊地、僕達でいう所の鎮守府を形成して各方面からの作戦行動に移れるように備えるのは考えられないものではありません」


『お邪魔するわよ』ガチャ…


中将「あっ」

提督「…………」

拾将「やはりここに居たのね」

提督「拾将殿」

中将「こ、この様な場所にご足労頂かなくとも、召集命令を頂ければこちらから赴きますものを、如何されたんですか!?」

拾将「私の統括している鎮守府です。そこが襲撃を受けたともなれば、心配して当然でしょう」

中将「筆舌に尽くし難いご恩です」

拾将「艦娘も無事なようで何よりです」

中将「ハッ…いえ、しかし私の預かる艦隊は無事でしたが、提督鎮守府の……」

拾将「……?」

提督「重傷者一名です。正規空母の加賀が大破し、意識状態は極めて危険な状況にあります」

拾将「……っ」

拾将「……貴方は、それで何故そんなに冷静でいるのかしら」

提督「…生来、感情が顔に出難い性質のようです。これでも十分に憤りを感じてます」

中将「此度の一件は我が鎮守府にて起きた事変。そこに提督殿は艦娘を派遣し、馳せ参じてくれた身です。
如何なる処遇を以てしても、このご恩ばかりは是が非でも返したい」

拾将「それは私も同意見です。何より、提督鎮守府も中将鎮守府も私が統括している区画。言わば私達は同志」

提督「…………」

拾将「こうして手を取り合って共同戦線を張り、苦難を乗り越えてくれたのは誉れ高い事です」

提督「僕に関わるとろくな事にならないと思いますけどねぇ」

拾将「あぁ、その事でしたら重々承知の上です。それに、貴方の過去には十分に興味を持たせてもらいましたからね」

提督「はぁ…その、こちらの傷口を凝視しながら手に塩を塗りたくってにじり寄るような言い方、不快ですねぇ」

武蔵「」(例え方が無茶苦茶だな、おい…)


拾将「随分と警戒しているのね」

提督「無警戒な人の方が少ないと思いますよ。それよりも、大本営と今とでは随分と雰囲気が違いますね?」

拾将「ジキルとハイド、とまでは言わないけれどね。貴方も会議室での一悶着は見たでしょう?そういう事よ」

提督「なるほど。上に立つと、色々と厄介事しか増えませんからねぇ…」

拾将「で、話を逸らしたつもりでしょうけど、そうは問屋が卸さないって所かしら?」

提督「はぁ、未だその手には塗りたくった塩が付着したままのようですね。趣味がいいとは言えませんよ?
他者の、それも秘匿としている過去を根掘り葉掘りと聞きだそうとするなどと言うのは…」

拾将「どうしても説明がつかない事が多かったんだもの、当然よね」

提督「はい?」

拾将「貴方の報告書関連やその他の考察案件がそうかしらね」

中将「あの、拾将殿…それは一体?」

拾将「中将提督、貴方もこの海軍に身を置いているのなら、二種類の『物語』を聞いているはずです」

中将「物語、でありますか?」

拾将「そう…」チラッ…

提督「……はぁ」

拾将「一つは誰もが知っているそこの男の物語。何の功績も実績も無い…それにも関わらず階級は中将。
故に付いた渾名はダメ提督、ダメガネ…万人が知る凡庸以下の反面教師となりえる男の物語」

中将「そ、それは…」

提督「ふふ、事実ですよ。事実、僕はこの海軍に置いて何の役にも立っていません」

中将「いや、だがしかし…!」

拾将「もう一つは!」

中将「…!」

拾将「…神の眼を持つ男、と呼ばれた。真実か、伝説か、それすらも謎に包まれている男の物語」


中将「風の噂で…艦娘の間でも実しやかに囁かれております。しかし、それは御伽噺の類では…」

拾将「私も、ついこの間まではそう思っていました。海軍の提督たる者、その頂を目指して邁進せよと。
一つの戒め的なものであると、感じていました。でも、真実はそうではない…でしょう?提督鎮守府の提督さん?」

提督「…………」

拾将「的確な指示と明確な解答だと、私が率直に思った感想です」

提督「何がでしょうか」

拾将「……」ピラッ

中将「それは…我等提督が大将殿へ書類として提出している任務報告書ではありませんか」

拾将「ここ最近の深海棲艦に対する思慮と考察、それに対する解答と解決策。最も即した解答が記され、
それ以外にも解はある中で最も実践的、現実的、解決に向かいやすい策を最適解にして纏めてあります」

中将「…これは、これほどの策を、まさか貴方が熟考されたというのか!?」

武蔵「中将提督、こいつは熟考なんてしないよ。即決だ」

中将「何…?」

武蔵「考えてから紐解くまでの時間さ。勝負で言えば瞬殺って奴だ。瞬く間すらない、一瞬にして考え付く」

中将「ば、ばかな…」

拾将「…やはりね」

提督「武蔵さん…」ムッ…

武蔵「くくっ…精々楽しめよ、この瞬間って奴をな」ニヤッ

提督「改めて、君が大和さんと姉妹なのだと痛感しますよ」

武蔵「あぁ、今更だったか?何も姉妹が似るのは顔立ちや癖だけじゃないぜ」

提督「顔立ちも癖も似ていませんよ、全く…似ているのは性格でしょうに」

武蔵「そいつは褒め言葉だぜ。それに、お前が自分で言ったんだぜ?身内でいがみ合ってる場合じゃないってな?」

拾将「それは、どういう意味です?」

提督「場面場面で本当に手の施しようのない名台詞を残してくれますね、君は」

武蔵「手間が省けて好都合だろ。間宮亭のカステラ一本で良いぜ」ニヤッ

提督「言ってなさい」

拾将「いい加減に答えなさい、提督!」

提督「…解りました。答えれる範囲で、お答えしましょう」

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます

-締結-

瑞鶴「…………」

翔鶴「最善は尽くしたわ。あとは、救護部隊に任せましょう」

瑞鶴「うん…」

赤城「瑞鶴さん」

瑞鶴「あ、はい?」

赤城「こんな時に不躾ですが、伺いたい事があります」

瑞鶴「?」

赤城「加賀さんが大破し、戦線離脱してからの瑞鶴さんの動きです。一体、何があったんです?」

瑞鶴「え?」

赤城「まるで、全てを見通しているような眼差しをしていました。相手が次に何をしてくるのか、どう動くのか、
どんな策を弄しているのかさえも解っているような、そんな眼差しと動き出しでした。実際、あの場に居た誰よりも、
瑞鶴さんは一歩先に居た」

瑞鶴「わ、解りません。無我夢中と言うか…ただ、一つだけ、はっきりとしてる事があります」

赤城「それは?」

瑞鶴「……表現が難しい、かも……敢えて言うなら、魂」

赤城「魂…?」

瑞鶴「声、のような、そうじゃない、ような…脳裏に直接流れてくるような、そんな感覚で────」



瑞鶴「」(動け、動け、動け!動け!!)


──慌てるな──


瑞鶴「」(……ぇ?)


──相手の動きを見よ──


瑞鶴「」(何、これ…)


──呼吸を整えて見事発艦できるか──


瑞鶴「」(やってやるわよ。やれるんだから!)


──敵情変化なければ二次攻撃隊は第四編成をもって実施。この局面、見事打開して見せよ──


瑞鶴「」(やれる…私なら出来る!)


──矢尽き──


瑞鶴「」(刀折れようと)


──そうだ、飛べ──


瑞鶴「」(艦載機がある限り、私は飛ばし続ける!)




赤城「聞き覚えはないんですね?」

瑞鶴「うん、全く…でも、なんでかな…とっても、暖かい感じで、心強く感じた…」

赤城「」(以前に加賀さんが言ってたのと同じ、ですね)



赤城「声、ですか?」

加賀「はい」

赤城「誰かの号令ではないの?」

加賀「男性の声でした。それも常に聞こえている訳ではありません。時々、そう…精神統一から集中が極限に達した
その瞬間に、頭の中に響くように、浮かぶようにしてその声は聞こえてきます。
ですが、不思議と嫌な感じのしない声だったのを記憶しています」

赤城「……」

加賀「な、なんですか、赤城さん」

赤城「あ、いえ。加賀さんでも、そういった抽象的なものの存在には躊躇いを見せるんだなって」クスッ

加賀「わ、私は機械ではありません。赤城さんの発言としては些か不満に感じました///」

赤城「そんな、顔を赤くしてまで言わなくたって」クスッ

加賀「笑い事ではないわ。由々しき事態と言うものです!」

赤城「ふふっ、今日は加賀さんの感情的な面が見れただけで良しとしておきましょう」

加賀「…不本意です」



赤城「」(あの時は途中茶々を入れてしまって話の腰を折ってしまったけど…)

瑞鶴「赤城さん…?」

赤城「あっ、ごめんなさい」

瑞鶴「この感じについて、赤城さん何か心当たりあるの?」

赤城「私個人が、と言うよりも加賀さんかしら」

瑞鶴「加賀さんが?」



ガチャ…


武蔵「失礼するぞ」

翔鶴「あ、武蔵さん」

赤城「皆さんもお揃いですね」

長門「提督陣だけで話し合いだそうだ。加賀は、無事搬送されたか」

瑞鶴「…うん」

武蔵「先行して帰した古鷹達からも先ほど連絡があって無事鎮守府へ到着したそうだ」

摩耶「まぁ、その…なんだな。まだ両手離して喜べる状態じゃないだろうけどよ、まずは一歩前進ってトコだよな」

陸奥「中将提督達の話し合いもそんな長いものじゃないでしょうし、帰る準備進めておいた方がいいわよ」

清霜「私も次にお会いする時には、武蔵さんや長門さんのような立派な戦艦になります!」

摩耶「ねぇよ。空気読め、馬鹿霜」

清霜「え~!っていうか馬鹿霜ってなんですか、馬鹿霜って!」

摩耶「ったく、五月蝿ぇなぁ…」

陸奥「ごめんね、この子なんだか私達リスペクトみたいで」

長門「いやまぁ、その気概はいいんじゃないか?戦艦にはなれないだろうが…」

武蔵「安寧ともしてられん。いつまた何時同じ状況にならないとも限らないからな」

翔鶴「はい…!」

瑞鶴「…………」

赤城「問題は、山積みですね」


ガチャ…


提督「皆さんお揃いですね」

拾将「君達の提督を長い間拘束してしまったようですまなかった」

中将「一端の解決には道が繋がった。取り敢えずはここで解散だ」

武蔵「提督…」

提督「…解っています。僕の認識の甘さが招いた結果でもあります。先の件も踏まえて、熟考する必要があるでしょう」



その後の話し合いで拾将、提督、中将提督は今後も密に連絡を取り合い、今後の深海棲艦の動向を探っていく方向で

一応の話し合いに折り合いはつけた。

しかし、提督には一抹の不安が拭えずにいた。

現在の海軍に於ける全体の今回に関する一件の認識の低さ、そして自意識の強さ、上に立つ者達の過信の強さ。

どれも足許を掬われる案件と踏んで憚らない。

それらを踏まえた上で、この三名による同盟だけでは確実に敗れ去る公算が大きいと考えていた。

大本営で提督が安堵したのは大和の心構えくらいだった。

彼女は事の重大さを認識し、提督に釘を刺した。

その含みは提督にも十二分に伝わってきていた。

先の上層部の会議で大和ほどの危機感を持った将は元帥を含めて一人も居ない。

いつもそうだった。

事が起きてからが基本行動。

提督はそれを再三に渡り注意喚起してきたつもりだった。

文字通り、つもりでしかなかった。

故に起こってしまった過去の事件と自らの失態。

あれだけ偉そうに講釈を垂れて教鞭を振るっていたにも拘らず、最も近くに居た存在を守る事すらも出来なかった不甲斐無さ。

そして今、同じ事が起きようとしている。

再び失う恐怖を味わおうとしている。

否、既に味わっている。

一航戦と五航戦の成長を垣間見れた矢先に起こった悲劇的な現実。

無論、まだ加賀が死んだわけではない。

それでも、否が応にも過去の悲劇を思い出す。

あの黒い感情が湧き上がりそうで、自分が自分ではなくなってしまう感覚。

人が怪物に変わる瞬間。

それを身をもって体験しそうになった。



『怪物と戦う者は、己も怪物と化さぬよう注意せよ』


ドイツの哲学者・ニーチェの余りにも有名な言葉。

彼自身もこの言葉を用いて新米達を戒めた事も数知れない。

あの時の、抗いようのない殺意と敵意。

まさにあれこそ、怪物と化す道だった。

あの時はただ悲壮に振る舞い、現状の被害を最小限に留めるべく奔走した。

それが結果として功を奏し、あの黒い感情が薄らいだに過ぎない。

たまたま時間とその場の忙しさが色を薄めてくれたに過ぎない。

だが今度は違う。

考える時間がある。

蓄えてしまえるだけの余裕がある。

そう思った時、無意識に握り拳を作っていた。

表に出す感情が希薄ゆえに、その感情を補填するかのように拳はワナワナと震え出そうとしていた。

そんな彼の肩にそっと触れる手があった。


武蔵「お前の気持ちが解るとは言わない。私達はまだ、現実に失った訳ではないからな」

提督「…武蔵さん」

武蔵「大和から話は聞いて理解している。他の者に言うつもりもない。同情を引いてどうにかするなんてそんな無粋な真似、
絶対に私はしない。私は艦娘である前にお前と並び立つ戦友だから、そんな安い真似は決してしない。
だが忘れるなよ?お前は一人じゃないと解れ。そしてお前も私達と共に在れ。同じ想いは二度とさせはしない、任せろ。
お前の傍らにはこの武蔵がいる!……心配するな」



それだけを静かに伝えると武蔵は肩越しに振り返り号令をかける。


武蔵「まだ加賀がやられたと決まった訳ではない。私達は今一度鎮守府へ戻り今後の作戦行動の検証と考査へ移る」

長門「…うむ」

赤城「はい…!」

翔鶴「畏まりました」

瑞鶴「了解…!」

武蔵「今度ばかりは手を焼いてもらうぜ、提督」ニヤッ

提督「僕は、良い秘書艦を持っていたようです」フッ…

武蔵「当然だ。私は大和型戦艦二番艦、武蔵だ。文字通り、大船に乗ったつもりで作戦指揮を執れ」

長門「この鎮守府のメンバーは誰もが優秀の一言に尽きる。我等第一部隊の事も忘れてもらっては困るな」

瑞鶴「提督さん、私はやるよ。徹底的に…!」

翔鶴「奪われた分のお株、取り返しに参りましょう」

赤城「少なくとも、加賀さんを痛めつけられて憤慨しているのはこの場に居る面子だけではありません。
提督鎮守府の面々全員を本気にさせてしまった事を、深海棲艦に後悔させて差し上げましょう」

提督「ええ、そうするとしましょう」




拾将「改めて敬意を表すると共に、海軍は恐ろしい男を敵に回すかもしれない瀬戸際に居るのね…」

中将「それは、どういう事です…?」

拾将「戯言です。それよりも、改めて貴女達が無事で良かった」

陸奥「遠征に出てる子達が戻ってきた時の事を考えたらね」

摩耶「一発や二発貰ったくらいで諦めてらんねぇよ」

清霜「でもでも、正直万事休すとは思いましたよ。今までの深海棲艦とは勝手が余りにも違いすぎたし…」

陸奥「そうね…姉さんからある程度の情報は流してもらったけど、相対しても未だ尚信じられないって感情の方が強いわ」

中将「拾将殿、当面は提督殿との共同戦線の提案は出来ましたが、あの表情…贔屓目に見ても余り良好とは正直言い難い…」

拾将「解っています。彼がその気になれば、この海軍などどうとでもなるでしょう。けど、現時点では彼の晴眼に未来を
託す他無いと、私は感じています」

陸奥「そろそろ遠征に出てた子達も戻る頃よね」

摩耶「ああ、事情話して演習の準備だ」

中将「今までの対深海棲艦の立ち回りとは違う。その事を肝に銘じて演習には取り組むんだ」

清霜「勿論です!そして、この過酷な演習を乗り越えた時こそ、私は晴れて戦艦に…!」

摩耶「ねぇよ。いい加減そこから離れろよ五月蝿ぇな」

清霜「えぇ~!?」

摩耶「リスペクトの方向間違えすぎだろ、マジで」

清霜「で、でも諦めなければいつか…!」

摩耶「そろそろ黙ろうなー」ギュッ

清霜「ふぎゅっ」ジタバタ

中将「お、おい、摩耶。キマッてるぞ…」

摩耶「ん?あぁ、大丈夫だって、いつもの事だから。な?」ギュギュッ

清霜「」パンパンッ

摩耶「よし、タップ二回だ。もう騒ぐなよ」パッ

清霜「し、死んだ。半分死んだ。なんか軍服着たおじいちゃんとか一杯見えた」

陸奥「貴女達、少しは緊張感持ちなさいよね…」

中将「はぁ、全く…」

拾将「漫才は終わった?」

摩耶「ん?おぉ、あっはっは!いやぁ、こいつ毎度の事ながら寝言が酷くてさ」ワシワシッ

清霜「んもー!頭ワシワシするのやめてってばー!」

拾将「…清霜、だったわね」

清霜「うん?」

拾将「憧れる事は別に悪い事じゃないわ。そうなりたいと願う事も別に咎めはしないわ。
でもね、貴女には貴女の輝くところがある。それまで、失わないようにね」

清霜「うん!」

拾将「いい返事ね。それじゃ、中将提督…私も一度大本営へ戻ります。今後の方策については追って指示を出すわ」

中将「はっ!此度のご足労、改めて感謝致します!」




黒提督「今回の作戦は失敗に終わった。戦艦レ級まで投入しておきながらこの様だ。いや、お前達を責める訳ではない。
これは紛れも無く私の采配が誤っていたという事が全てであり、勝敗がそれを物語っている。だがここまでこようとも、
盤面に狂いはない。磐石にして不変…動かすべき次の一手は既に考えてある。まずは、席を設けよう。主力を集めろ……
リコリス棲姫。いや、リコリス・ヘンダーソン」


相貌が露となった黒提督の傍らに付き従っていた深海棲艦の名が呼ばれる。

今はその禍々しき艤装を身に纏っていないからか、その威圧感は押さえ込まれているようにも感じる。

だが、紛れも無く彼女こそ嘗てのヘンダーソン飛行場の権化。

その奇々怪々とした艤装は周りをも震撼させるほどに恐ろしいまでの邪気を放っている。

名を呼ばれ、静かに黒提督の方へ振り返り、リコリスは薄っすらとした笑みを浮かべて応える。


リコリス「了解ヨ。相手ニモ幹部、なんて呼ばレテいる者達ガいるのナラ、こちらニモ相応の存在ガいても不思議デハない、か」

黒提督「彼女達は君も含め、私の言葉に最も多くの理解と共感を示し、そして運命共同体となる事を決意した。つまりは同志だ。
周囲の開拓にもそろそろ飽きが来る頃だろう。彼女達は本当に飽きっぽい。直に横道に逸れる。が、その実力は本物だ。
私はその実力を高く評価すると共に敬意を表している。君達の力なくして、この一計は完成しないだろう」

リコリス「相も変わラズ、と言ったトコロね。鼓舞するのが上手ナ事…」

黒提督「私は事実しか述べない。確かに今回は采配を誤った…結果として、確実に沈めるには至らなかった。が……
事実、結果としてあるのは一航戦の加賀に痛打を加え戦闘不能にしたという事だ。この事実は戦線に出た深海棲艦には
大きなアドバンテージとなる。艦娘は、倒せるのだという自信に繋がる。そしてそれは近い将来、現実のものとなる」

黒提督「一つずつ片付ける。まずは下地を定着させる。地盤を形成したなら次は下地だ。何をするにも下準備無しにはできない」

黒提督「この下地を形作ったなら、いよいよ本腰を入れて大本営を突き崩す準備に取り掛かる。牙を研げ…!」ニヤッ

本日はここまで

皆様こんばんは
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レスありがとうございます

~負の連鎖~



-燃ゆる過去-


ボゴオオォォォォォォォォン

ドオオオォォォォォォォォォン


神眼「第一部隊は正面に展開。その武力を持って眼前の敵を征圧して下さい」

大和「了解致しました。これより第一部隊は正面に布陣し、掃討戦を開始致します!」

神眼「同時に第二第四部隊は左舷と右舷へ展開。第二部隊は左舷を突破し大きく旋回して相手の側面へ移動」

神通「賜りました。二水戦、この神通に続いて下さい!敵陣を一刀の下、両断致します!」

神眼「第四部隊は第一部隊との距離を均等に保ち、第二部隊の強襲を合図に全速前進。主砲の雨で敵部隊を圧殺」

扶桑「畏まりました。第四部隊、抜錨致します!この武力を如何無く発揮致しましょう!」

神眼「第三部隊、一拍置いて重雷装艦の一斉雷撃。目標は前線にラインを敷いている深海棲艦群。
雷撃後、間髪居れずに空母隊の一斉艦爆艦攻を展開。相手の両翼を圧し折り、空を制圧して下さい」

雲龍「了解。第三部隊、各空母は発艦準備。北上、大井、阿武隈は即時雷撃の準備を開始!」


矢継ぎ早な指示にも動じず、各部隊の旗艦は神眼の言葉に応じて随艦に激を飛ばす。

神眼の瞳がより一層爛々とした輝きを放ち、水平線に蠢く黒い影を真っ直ぐに見据える。


神眼「不愉快ですねぇ。こうも易々と領海に侵入を許してしまうとは…ですが、それもここまでです。
ここは海軍の中枢たる大本営。深海棲艦…あなた達程度に落とせる代物ではありませんよ。
そこまで、この海軍は甘くはありません。この僕が、それを許しません────」




提督「……思い出したくもない過去を夢に見るとは、重症ですね」

武蔵「…随分と魘されていたぜ?」

提督「…君は、節操がありませんねぇ…」

武蔵「聞き耳を立てていた事については素直に謝ろう。確かに節操がなかった。だから、この後に続ける言葉が重い」

提督「……加賀さんの事ですか」

武蔵「意識不明の重体だそうだ。艦娘病院の医師の話じゃ、今の状態が最早奇跡だそうだ。本来であれば既に死んでいても不思議はないとさ…」

提督「彼女の強い意志が、死すら拒絶した結果でしょう。この事は皆さんには?」

武蔵「否が応にも伝えざるを得ないだろう。受けるショックは言い方は悪いが早い方がいい」

提督「瑞鶴さんが心配ですね」

武蔵「あぁ、あいつも心配だし…提督、お前もだ」

提督「……はぁ」

武蔵「大和から少しは聞いている。だから、今回の件はお前には堪えているだろうとは思っていた。
未だに、お前はその十字架を背負ったままなんだろう?自分を許す気はないのか」

提督「許した所で結果が覆る訳ではありません」

武蔵「許さなくとも結果は変わらんぜ」

提督「戒めとしては十分ではありませんか」

武蔵「じゃあ、今度は加賀の分も背負うか?」

提督「それが最良ならば、躊躇いはしません」

武蔵「そうかい。だったらお前にその責は絶対背負わせない」

提督「はい?」

武蔵「ふっ、私は貴様の秘書艦だ。貴様は私の提督だ」

提督「上官に対して貴様呼ばわりは如何なものかと思いますよ?」

武蔵「これくらいが丁度良いだろ。そうでないと、貴様がどうにかなりそうだ」

提督「…全く、度し難い秘書艦が居たものです。大体、何故君は僕の私室に居るのですか」

武蔵「報告がてら執務室に行けば貴様は居ない。時間が時間と判断し、私室だろうと踏んで足を運び、
数度に渡りノックしても貴様は出てきやしない。挙句、ドアの鍵は施錠もされてない。あぁ、非情かもしれんが
一抹の不安とやらはその時は微塵も感じていなかった。貴様が自ら死を選ぶような矮小な玉の持ち主とは到底思っていないからな。
案の定、貴様はデスクに突っ伏して寝ているだけだった。おまけに何やら魘されているときた。話題の一つに選ぶには丁度良いと聞いていた訳だ。
が、先にも謝ったとおり、流石に少し度が過ぎていたと反省はした。他に質問は?」

提督「僕とした事が、セキュリティの面で遅れをとるとは、迂闊でした」

武蔵「だったら以降は足許を掬われんように精々注意を払っておく事だ。私は容赦はしないぜ?」

提督「肝に銘じましょう。時刻は?」

武蔵「ヒトキューマルマル、夕飯時だ」

提督「では、フタマルサンマルまでに会議室に全員を召集しておいて下さい」

武蔵「…あぁ、解った」



ザワザワ……


武蔵「全員揃ったら部隊毎に席に着け」

瑞鶴「武蔵さん、加賀さんは…!」

武蔵「それについても提督から発言がある」


ガチャ……


提督「皆さん集まってますね」

赤城「…………」

青葉「司令官、加賀さんはどうなの」

木曾「無事なんだろうな!」

ゴーヤ「加賀さんがそんな簡単に負けるわけないでち……ですよね?」

提督「単刀直入に申し上げて、加賀さんは現在も意識不明の重体です。医師の診断は極めて奇跡的な状況下である事。
そして、いつ容態が急変しても不思議はない事。この二点を申されていました」

秋月「そんな…」

曙「こ、このクソ提督!あ、あんたね、そんな嘘が通用すると本気で思ってるわけ!?」

潮「あ、曙ちゃん…!」

曙「嘘に決まってんじゃない!一航戦の加賀よ!この鎮守府の空母部隊のエースなのよ!?嘘って言いなさいよ……
言いなさいよ、この…クソ提督っ!!」

提督「…申し訳ありません」ペコリ

曙「……っ」

矢矧「曙、貴女の気持ちが解らない訳じゃない。けど、今それを提督にぶつけるのはお門違いって事も、解ってるんでしょう?」

曙「なんで、よ…」

矢矧「……?」

曙「どうしてこんな事になってんのよ!?」

瑞鶴「…………」

翔鶴「曙ちゃん…」



ガタッ


長門「済まない。第一部隊を預かる身として、今回の件は全面的に……」

武蔵「それ以上は言うな、長門」

長門「…しかし!」

武蔵「今回の件は誰がどうのって話じゃない。誰も悪くないし誰も落ち度なんてない。全員がその場で考えうる最善を尽くした結果だ」

瑞鶴「……提督さん」

提督「…なんでしょう、瑞鶴さん」

瑞鶴「加賀さん、もう目覚めないの?」

提督「解りません。ただ、現時点では極めて危険な状況にあると、それしか伺えませんでした」

瑞鶴「でも、それって…つまりは、目覚めるかもしれないって、事だよね?」

提督「断言は出来ませんが、あくまで可能性の問題としては、ですね」

千歳「それで、提督…加賀さんの穴はどうやって埋めるの?」

提督「現状、武蔵さんがフルに動けると仮定して、一部隊六名の編成で計三部隊の編成が現在は可能です。
ですが、余りはゼロ。加賀さんが戦線離脱した事で、必然的に第一部隊に穴が空いたのが現状ですね」

隼鷹「部隊を縮小運営するのが堅実なんじゃないのかい?一時的に第三部隊を解体し、フリーになった木曾達六名を
第一と第二の補填要員として随時待機、交代で運用するってのはどうだい?」

木曾「俺等は普段、遠征任務が主だ。資材調達や鎮守府の資金調達に関しては大本が整ってから決めるのが良いだろ。
隼鷹の提唱する案は理に適ってると思うぜ?」

武蔵「どうする、提督」

提督「凡そ、隼鷹さんの考えと寸分違いません。僕も同じように考えていました。そして、その場合必然的に第二部隊には
千歳さんか隼鷹さんに入って頂き、翔鶴さんか瑞鶴さんには第一部隊に移動して頂く予定です」

翔鶴「ならば、瑞鶴をお願いします」

瑞鶴「翔鶴姉ぇ…!」

提督「その心は?」

翔鶴「今回の一件、瑞鶴の判断力と先導力は立派なものでした。姉視点の贔屓目抜きに、その瞬間その瞬間で適切な
判断を下し、その状況において最も最適と見られる行動を取っていました」

青葉「第一部隊を妨害してた深海棲艦を殲滅した後の判断も見事だったと、青葉は思いますよ!」

浜風「私も同意見です。あの時の瑞鶴さんはとても頼りになりました」

島風「安心して付いていけるって感じだったよねー」

浜風「ええ、そうですね」


瑞鶴「皆…」

提督「第一部隊の編成は追ってお伝えします。今は何より、皆さんは休息を取って下さい」

長門「何を言っている、提督!」

古鷹「提督、この間隙を縫って、相手の情報を仕入れるのが適切ではありませんか?」

長門「古鷹の言う事が最もだ。安寧としている暇などはないだろう!?」

提督「だからこそです。今皆さんはご自身が思っている以上に、各々が感じている以上に、疲弊し不安定な状態です。
そのようなコンディションのまま、海へ出す訳にはいきません」

武蔵「悲しいかな、提督の意見に私も賛同する」

長門「武蔵…!」

武蔵「忘れるな長門。その『慢心』が今回の事態を招いたんだ」

長門「……!」

提督「言い難い事を君はズバズバと言いますねぇ…」

武蔵「本音は言いたくないし聞かせたくないさ。だが、自分達にとって都合の悪い言葉ほど、きっちりと届く声で、
通る声で知らせてやらないとならないんだ。本質を隠しても決していい事なんて何もない」

提督「仰るとおりですね…」(それと共に、耳が痛いですが…)

提督「さて、僕の気持ちを汲んでくれた秘書艦の言葉です。申し訳ありませんが、この言葉には一種の強制力が含まれると
思って聞いて頂きたい。さぁ、武蔵さん。どうせですから残りも仰って下さい」

武蔵「…ったく、ちゃっかりしてるぜ。全部被せてくるとはな」ニガワライ

提督「お相子、と言った所でしょうかね」ニッ

武蔵「いいか皆。先にも話したとおり、そして実際に相対したとおり、今度の深海棲艦は一癖や二癖なんて
生易しいものじゃない。心して挑まなければ容易くこちらの足元が掬われる。だが安心しろ…」ニヤッ…

提督「……はぁ」

武蔵「……ふっ。こっちには神の眼を持つ男が付いている」ニッ

古鷹「神の、眼…?」

提督「」(全く、姉が姉ならその妹も妹ですよ。言葉で争うととんでもないしっぺ返しをしてくる典型ですね)

島風「それって御伽噺の?」


武蔵「昔話の類にまで昇華されてるが、この男は実在する人物で現在でもピンピンしている。健在だ」

青葉「えぇ!?あ、青葉不覚でした…都市伝説レベルと勝手に決めつけ真相究明に全く乗り出してませんでした…」

浜風「その、神の眼を持つ男…伝説にも等しい方が、大本営にいらっしゃった、という事なんですか?」

長門「…………」

赤城「……最初からずっといらっしゃいました。静かに息を潜め、飄々と周りに溶け込み、最小限の言葉のみで、
私達艦娘を正しい道へ導き続けていらっしゃいました」

古鷹「赤城さんは、お会いした事があるんですか?」

矢矧「え、そうなの!?」

赤城「皆さん、既に会ってらっしゃいます」

青葉「はい?」

長門「やはり、そうか」

隼鷹「皆会ってるって、どこでよ?」

千歳「ここに他の鎮守府の提督とか視察に来たことあったっけ?」

武蔵「常日頃から、ここで会っている」

秋月「ぇ…そ、それって、まさか…!?」

ゴーヤ「話が良く解んないでち」

木曾「お前は起こった結果だけを見てりゃいいんだよ」ワシワシッ

ゴーヤ「あーっ、頭ワシワシはやめてでちぃ~!」

木曾「なぁ『変な』提督さんよ。もう化けの皮は剥がれてんだ。いい加減、俺等にもその力…見せてくれや」ニッ

提督「……僕は生来、過去と言うものが何よりも好きではありませんでした────」


中には忘れたくない、覚えていたい過去と言うものもあるのでしょう。

ですが僕にはそんなものはありません。

あるのは忌まわしい過去と消し去りたい過去、この二点だけです。

一つは今皆さんがお話しになった神の眼を持つ男としての過去。

忌まわしい以外の何ものでもありません。

この肩書きがなければ、僕はもっと海軍を好きになっていたのかもしれない。

普通に君達艦娘と過ごし、君達を統率し、深海棲艦を迎え撃つために日々精進していた事でしょう。

もう一つは、僕が心より信頼し、また彼女も僕を信頼し…そして愛してくれた。

そんな艦娘を、死なせてしまった過去です。

厳密には、死なせてしまったではなく、殺してしまったと言い換えても遜色はないでしょう。



隼鷹「マジかよ…」

千歳「えっと、え?提督が、あの神眼提督、なんですか…?」

矢矧「ウソ…」

古鷹「あわわ…」

青葉「ス、スクープとか最早そういうレベルの話じゃないですよね、これ…」

潮「で、伝説の、提督…」

曙「は、はぁ!?じ、冗談に決まってんじゃない!あんなクソ提督が、艦娘の誰もが知ってるあの伝説の神眼提督と
同じなんて、マジでありえないでしょ!エ、エイプリルフールはとっくに過ぎてんのよ!?」

武蔵「まぁ、こうなるだろう反応は至極当然だな」

提督「はぁ、だから僕は嫌だと始めに申し上げていたではありませんか。勝手に僕の過去を穿り返して、
あまつさえ触られたくない過去の話までさせられた挙句がこの結果です。どう責任を取るおつもりですか、武蔵さん」

武蔵「ったく、自分の昔話になると直にムキになる。貴様の悪い癖って奴だぜ、提督。こうでもしないと先には進まんし、
貴様自身も前には一向に進まんだろうが」

提督「ムキになどなってませんよ。ただ事実をそのままにお伝えしているだけです。実際に御覧なさい、皆さんはただただ
混乱するばかりではありませんか。当然です。与太話に等しい事を真実だとして話しているのですからね」

武蔵「ふん、だがそうでもない反応の奴もいるみたいだぜ?」クイッ

長門「この程度の混乱など直に収まる。問題はそこではないだろう」

赤城「今はそれよりも、今後についての行動方針を固める事が先決ですよ、提督」


ヴェールに包まれていた提督の過去の一片が漸く開示された。

それに不満顔の提督だったが、どこか観念したようにも伺える。

それでもやはり、どこか安堵とした表情がその中には含まれていた。

雲の切れ目から漸く顔を覗かせた希望と言う名の光。

だが、その光すらも一瞬にして掻き消される出来事が起こる。

本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます

-絶望色-

提督鎮守府 提督殿
第二艦隊所属 旗艦 翔鶴

今回の事案に関する経緯報告書
1.発生日時
 ○月×日

2.発生場所
 提督鎮守府近海

3.内容
 今回の経緯を詳細に纏めてご報告申し上げます。

事の発端は第二艦隊による鎮守府近海の警備巡回中にて起こりました。

出撃時のメンバーは以下の通りとなります。

旗艦 翔鶴
随艦 木曾
   隼鷹
   浜風
   島風
   ゴーヤ

私、翔鶴と随艦の隼鷹は共に左舷と右舷に展開し、随時空の哨戒任務を継続しておりました。

木曾、浜風、島風は正面、左舷、右舷の水上監視を、ゴーヤには水底より周辺の警戒に当たらせておりました。

まず、第一に水底の警戒を行っていたゴーヤとの通信が途絶えた事で、異常を察知して警戒態勢に移行しました────



木曾「────おい、ゴーヤ!おいっ!」

翔鶴「通信が途絶えてどれくらいになりますか?」

木曾「ちっ、詳細にはわからねぇ…だが、凡そで八分くらいか…五分置きにゴーヤからは通信が飛んできていた。
が、さっきの通信を最後にゴーヤからの通信が途絶えた」

隼鷹「ダメだ。あたしの方には反応がない!」

浜風「左舷方向、水面に変化は見られません!」

島風「右舷も同様!ゴーヤちゃん、無事だといいけど…」

翔鶴「……!────」


ゴーヤ捜索開始から五分後の事でした。

私、翔鶴の放っていた艦載機からの情報により右舷方面に敵艦隊の一団を確認。

この時のこちら側の状況は混乱の極みだったと考えられます────


木曾「クソがぁ!翔鶴、深海棲艦の種別確認を急いでくれ!雷撃の準備に取り掛かる!」

翔鶴「目標確認!種別……こ、これは…!」

隼鷹「どーしたい!?」

翔鶴「敵、旗艦…種別、棲鬼…っ!」

木曾「な、に…?」

浜風「棲鬼って…」

島風「深海棲艦の、幹部クラス!?」


軽巡棲鬼「お主達ノ探し物ハ、コレか?」ニヤッ



ザバァ……


ゴーヤ「」大破

翔鶴「…っ!」

隼鷹「ゴーヤ!てめぇ…!」バッ

軽巡棲鬼「オット、行動には注意ヲ払って貰オウ…」


グイッ…


軽巡棲鬼が片手を振り翳すと同時に周囲に展開していた深海棲艦が一斉に構え、その矛先をゴーヤへと向ける。

それに反応して隼鷹は広げていた艤装をその場に留める。


軽巡棲鬼「イイ判断ダ」ニヤッ

軽巡棲鬼「ご覧の通り、コノ潜水艦娘ハ虫の息…アト少し、どこか抉ってヤルだけで轟沈ダ」

木曾「何が目的だ、てめぇ等!」

軽巡棲鬼「目的?アァ、そうか。目的か…フム、改めて個人トシテの考えヲそう言えば述べた事ガ無かったノウ…」

軽巡棲鬼「此度の任務ハ、お主等哨戒隊ノ実力精査、及び削りダ。が、フッ…潜水艦娘一名デハ、些か手緩いカ」

軽巡艦娘「まぁ、ソレはさて置き…そうサノウ、目的……フム、ではこうしヨウ。童ハ此度の任務以外デお主等誰か一名
トノ果し合いヲ所望スル。お主等の力、童に見セテみよ」ニヤッ

木曾「上等だ馬鹿野郎。舐めた事抜かしやがって…ッ!」

翔鶴「木曾さん!」

隼鷹「おい、相手が艦娘だろうが深海棲艦だろうが、私闘は原則厳禁だ!規則を破ればどうなるか、あんただって解ってんだろ!」

軽巡棲鬼「やれやれ、お主等ハ事一つにもアレコレと面倒よノウ…」



遭遇した軽巡棲鬼はこちらに対して一対一の果し合いを申し出てきました。

ご存知の通り、私達艦娘はいつ如何なる場に置いても艦娘同士、敵相手であろうとも私闘は禁じられております。

ですが、軽巡棲鬼の挑発に木曾が乗ってしまい、一触即発の事態となってしまいました。

結果、それが事態を更に悪い方へと導く結果にもなりました────


軽巡棲鬼「フッ…そんなに掟ガ重要カ?」

木曾「んだと…!」

軽巡棲鬼「楔に打ち据えラレタままデハ何かと不便デあろう?童がソノ楔、解いてやロウ」スッ…

軽巡棲鬼「ソウさのう…お主、人柱とナルがよい」ニヤッ


軽巡棲鬼はぐるりと視線を巡らせ、その視線を島風の所で止めると寒々とした笑みを浮かべた。


島風「え…?」

浜風「島……」


ボゴオオォォォォォォォォン


浜風が注意喚起する間も無く、彼女の眼前で無慈悲にも軽巡棲鬼の一撃が島風を捉えた。

辺り一帯に言い知れない緊張と殺気が色濃く満ちたのを軽巡棲鬼はその肌でじっくりと感じ取り、ニヤリと笑う。



軽巡棲鬼「何かとお主等ノ艦隊には一歩先ヲ行かレル事が多くてノウ…戦力デ見るか、ソノ手腕で見るか…」

木曾「島風…ッ!!」

軽巡棲鬼「ソノ島風と言う艦娘ハ何かと面倒そうジャ…戦力としテモ、今後の活躍とシテも…この場でお主等ノ人柱とナルは
本望の至りであロウ。よき働きと思うゾ?」

翔鶴「島風ちゃん!」

島風「ぅ……あぁ……い、痛い、よ……!」大破

浜風「早く、入渠させないと…!」

隼鷹「てめぇ…何様だ!」

木曾「退いてろ、隼鷹…っ!」グイッ

隼鷹「あ、おい木曾!」

木曾「散々舐めた真似ばっかりしやがって…!深海棲艦が多少知恵を得た程度でつけ上がってんじゃねぇぞ!」

軽巡棲鬼「吠えルナ三下。童相手に、お主程度では肩慣ラシにもナラヌ。が、余興としテノ遊び相手には相応じゃロウ?
故に掛かって参レ。稚気愛すベシ…フフッ、童カラお主への手向ケじゃ、有難く思ウがよいゾ?」

木曾「……っ!ざけんじゃねぇ!!」ジャキッ

隼鷹「やめなって、木曾!」

翔鶴「いけません、木曾さん!」

浜風「今はゴーヤと島風を…!」

木曾「────────ッ!」

短いですが本日はここまで

皆さんこんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます



コン コン……


『どうぞ』


ガチャ……


翔鶴「お待たせ致しました、提督」

提督「この様な言い回し、癪に障るかもしれませんがそれでも言わずにはいられませんね。ご無事で何よりです」

翔鶴「……!」

武蔵「経緯報告書は読ませてもらった。思い出すだけでも辛かっただろう。心中察するに余りある」

提督「更に鞭打つような真似をする事になるのをお許し下さい。現状の確認を再度せねばなりません」

翔鶴「私は、大丈夫です。私なんかよりも、ゴーヤちゃん、島風ちゃん、木曾さんの安否が気遣われて然るべきです。
あの時、強引にでも私は木曾さんを引き摺ってでも、退けるべきだったんです…!例えその結果、人質にされていた
ゴーヤちゃんを見捨てる結果になったとしても、恨まれるのは私だけでよかった…!その、決断を……私は……っ」

武蔵「言うな、翔鶴…!たらればの話ほど虚しいものはない。起こった事が事実で、それ以外は夢想に過ぎん。
お前は、あの混乱の渦中に在りながら、結果として全員をこの鎮守府へと帰還させたんだ!」

提督「武蔵さんの仰るとおりです。貴女の行動に呼応して、隼鷹さんと浜風さんも撤退を最優先に行動した。
結果として人質にされていたゴーやさんをはじめ、負傷した島風さんと木曾さんも帰還させるに至ったのです。
そして、悲しんでばかりもいられません。これより作戦会議を行います」

翔鶴「提督…」

武蔵「貴様の手腕、ここで発揮されなきゃ最早呈を成さんぜ」

提督「言うに及ばず。磐石にして不変、それを証明して見せましょう」



武蔵「全員集まったな」

提督「このような事態になってしまった事を先ずはお詫びします。全てが後手に回った結果と捉えるべきでしょう」

赤城「提督…」

瑞鶴「別に提督さんが悪いわけじゃ…」

長門「今は謝罪をする場を設けてる時ではない。違うか、提督」

提督「ええ、仰るとおりです。言い方は悪いですが、話の繋ぎとして聞き流して頂いて構いません。言葉にせずとも、
各々僕も含めた全員が同じ責を背負っているのだと、僕自身が一番理解しているつもりです」

提督「そして、皆さんには再度認識を改めて頂かなくてはなりません」


これは、これまで起こってきた深海棲艦と言う脅威と相対し続ける状況とは異なります。

明確な殺意を持ち、狡猾な罠を弄し、隙有らばこちらを内側から食い破る算段すらも持つ、怪物です。

良いですか、皆さん。もう一度言います。

これは深海棲艦と呼ばれる怪物との戦争です。

我々が知る清浄なる青海は、最早存在しないと認識すべきでしょう。

武を以て、智を絞り、これを迎え撃たねばなりません。

この鎮守府、如いては大本営をも揺るがす事態に直面しています。

ですが、僕達が不安になっては元も子もありません。

僕達こそ、最後の砦。

磐石にして不変、今こそ鉄の結束と過去より受け継がれてきた誇りを相手に知らしめる時です。

怪物と戦う者は、己もまた怪物と成らぬように注意せよ。

いいですか、これです。

身内をやられ、今もまだ死の境を彷徨っている彼女達を想えばこそ、なってはなりません。

押さえ込んで下さい。

表に出ぬように、顔を覗かせぬように、僕達がこれから見る先は漆黒の闇そのものでしょう。

深淵と呼ばれる筆舌に尽くし難い闇がそこには広がっている事でしょう。

そちら側から、こちら側を覗いているのは怪物です。

そちら側へ皆さんを引き摺り込もうとする魔手です。

そしてこれより先は、その闇へと立ち向かわねばならない過酷な戦いが待ち受けています。

僕の本音は、皆さんをそのような危険な地へ送り出したくないと言う事です。

ですがその上で、覚悟を決めているという方はご起立願います。



ガタッ…


武蔵「この期に及んで何を況や…私は貴様の秘書艦だ。四の五の言う暇すらも惜しいというものだ」


ガタッ…ガタ ガタッ……


長門「是非もない。どのような苦境に立とうと、必ず勝利を掴み取る」

赤城「深海棲艦を退ける事が出来るのは私達だけです。ならば、私は決死の覚悟を抱いて次の作戦にも臨むのみ」

瑞鶴「…やろう、提督さん。私は、やるよ!」


四人の艦娘の起立に呼応して、その場に居た全員が即座に立ち上がる。


提督「……皆さんの覚悟、この目で見届けさせて頂きました」

古鷹「提督、今後の行動指針をお願いします」

隼鷹「それに沿って、あたし等は進む」

千歳「提督になら、この後の展望もある程度は見えてるんですよね?」

提督「僕の考えるとおりなら、相手は少し調子に乗り始める頃でしょうね」

翔鶴「調子に、乗る…?」

提督「相手の計画の着地が何処かは図りかねますが、出だしとしては良好なはずです」

提督「こちら側の主力の一人、加賀さんを意識不明に追い込み、立て続けに今度は木曾さん、島風さん、ゴーヤさんに手を掛けた」

青葉「えっと、つまり…深海棲艦的には、順風満帆と言う事でしょうか?」

提督「ええ、相手の計画の推移が現状どれほどなのかは把握しかねますが、概ね順調に伸びていると見て間違いはありません」

提督「そして、翔鶴さんの経緯報告書に上げられていた軽巡棲鬼の言葉の意味から察するに、相手は随分と姑息な手段に出ているようです」

秋月「こちらの哨戒部隊の実力精査と、削り…」

提督「ええ、哨戒部隊と言う事は裏を返せば主力部隊ではないとも取れます。武装も本腰を入れた戦闘のものではないでしょう」

提督「こちらの海域に侵入してまで行う行為にしては些か腑に落ちません。恐らく、思惑はまだ別にあると思われます」

提督「結論、軽巡棲鬼は恐らく再びこちらの領海を侵犯し、己の悦を満たそうと考えるはずです」

浜風「あの行動が、独断専行による無差別行動だったと?」

提督「仰るとおりです。言葉と行動が全くかみ合ってませんからねぇ…敵情視察に託けて、私欲を満たしているのでしょう」

提督「故に、軽巡棲鬼は再び現れると思われます。そこで、こちらも少し動く事にしましょう」

矢矧「どうするんです?」

提督「大した事ではありません。随分と軽巡棲鬼の鼻は伸びているみたいじゃありませんか」クスッ…

武蔵「あぁ?」

提督「圧し折って差し上げるんですよ。文字通り、出鼻を挫いて差し上げようじゃありませんか────」




軽巡棲鬼「フッ……前回ノ遊戯がちと行き過ギタかのう」ニヤッ…

軽巡棲鬼「しかし、アソコまで脆いと流石に哀レと言わザルを得ぬ。艦娘トハ不憫な存在よノウ…」


──不憫なのがどっちか、その身にきっちりと叩き込んでやろう──


軽巡棲鬼「……!」バッ

武蔵「ツケにしたまま滞らせるのは私の流儀に反する。熨斗付けて返してやるよ、深海棲艦」

長門「私の友が随分と世話になった。礼は四倍返しだ…余さず受け取れ」

翔鶴「当たり前のようにこちらの領海を侵し、あまつさえ侮辱の発言の数々。深海棲艦と言えど度し難い限りです」

瑞鶴「今度はそっちが泣き見る番よ。覚悟してもらうんだから!」

浜風「絶対に、許しません。ここで撃滅します!」

曙「島風達が受けた分、徹底的に返してやるわ。覚悟しなさい!」

軽巡棲鬼「お主等…ッ!何故、童がコノ海域に居るコトが…」

曙「ふんっ、そんなのどうだっていいでしょ。どうせあんたはここでお陀仏よ。念仏だけ唱えてれば?」

武蔵「そう言ってやるな、曙。が、まぁ確かに教えてやる義理はないのも確かだがな。なぁ、深海棲艦…」

武蔵「哨戒任務に当たっていたのが、私達主力部隊だったのが運の尽きだな?」ニヤッ

長門「ここ最近は貴様等の所為で何かと物騒だったからな。我々も哨戒任務に当たっているのさ」

赤城「敵側の領海に足を踏み入れておきながら随艦に空母型を同伴させない浅ましさ、こう言っては無粋ですが……」クスッ

瑞鶴「言っちゃっていいって、赤城さん」ニッ

赤城「…自信過剰なのか無計画なのか、ただの馬鹿なのか、甚だ理解に苦しみます」

軽巡棲鬼「ナンダト…ッ!」

浜風「ここ最近知恵を付けたばかりなんですから、馬鹿は言い過ぎです。せめて、幼稚と表現するのが妥当ではないでしょうか」ニコッ

赤城「あぁ、なるほど。言葉を選ぶのは大変ですね。浜風さんの表現が一番妥当かもしれません」

瑞鶴「ふふっ、気取っちゃいるけどその辺りのオツムがてんでなってないわね」

軽巡棲鬼「驕ってイタと、言う事じゃノウ…が、それと勝敗ハ別物ジャ。お主等如き、童の率イル艦隊デ十分よ!」



潮「提督、曙ちゃん達は大丈夫でしょうか?」

提督「戦力面、精神面共に今の彼女達は高次元に纏まっています。まず、間違いなく戦果を上げれるでしょう」

提督「杞憂があるとすれば…」

隼鷹「なんだい、勿体振るね」

提督「些か軽巡棲鬼を不憫に思う程度でしょうか」

翔鶴「圧倒すると?」

提督「ええ、間違いなく」

青葉「ですけど司令官、軽巡棲鬼が戻らないと解れば、相手も直に次の手を練ってくるのでは?」

提督「そうでしょうねぇ」

青葉「そ、そうでしょうねぇって…それじゃいたちごっこになっちゃうじゃないですか!?」

提督「問題ありません。先手を取ってしまえば良いだけの事です」

古鷹「先手?」

提督「そうです。まぁ、先ずは武蔵さん達の吉報を待ちましょう」

短いですが本日はここまで

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます


前回の>>214の書き込み、赤城と間違えて翔鶴で「」を付けていました
訂正しておきます




~Let's beginning~



-決死の覚悟-


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


軽巡棲鬼「おのれ、何故ダ…!」

武蔵「何故?それを私達に問いかけるのは愚の骨頂だろう」

軽巡棲鬼「童が…お主等如キに遅れヲとるワケが…!」

長門「その深慮の浅さが遅れを取ったわけと言うものだろう」

瑞鶴「逃げるなら今のうちよ」チャキッ

軽巡棲鬼「何ダト…?」ピクッ

浜風「今なら見逃すと言う意味です」

軽巡棲鬼「冗談のツモリか?」

曙「ホント、冗談じゃないわ」

軽巡棲鬼「……?」

曙「蹴散らしてやるって言ってんのよ」

軽巡棲鬼「ダカラ冗談の……」

曙「この場にいる全員がキレてるって言ってんのよ!ウザいのよ、このクソ深海棲艦!!」



曙の轟くような声量に軽巡棲鬼をはじめ、深海棲艦達の動きが一瞬停止する。

そして彼女達の眼差しが己に注がれている事に軽巡棲鬼は気付いて艦娘全員を順々に一瞥する。

刺さるような視線。

しかし不思議とそこから憎しみを感じない不快感。

そう、その眼差しは自身に注がれていながら怒りを内包しつつも憎悪は混ざっていない。

つまりは純粋な怒りそのもの。

これが、覚悟を決めると言う事か。

軽巡棲鬼は何時ぞやの黒提督の言葉を脳裏に思い浮かべて自嘲気味に笑う。

勝てる訳がないと、そういう事か。

口にはせず、しかし鼻で笑った記憶がある。

たかが艦娘風情が傲慢にも程があるとさえ思ったくらいだ。

一匹、いや現時点で言えば四匹、精々戦線復帰が出来ない程度の些細な傷だろうと。

その程度で一々感情を揺さぶられ撤退した、程度の知れる脆弱な集団。

そう判断した。

なのに、今はどうだ。

あの時とは雲泥の差ではないか。

頬を嫌な汗が一筋流れた。

曙の咆哮にも似た一言でこちらの隊は完全に戦意を失ってしまったのだ。

いや、厳密には戦う意思はあるが完全に尻すぼみ状態。

即ちこれが覇気と呼ばれる相手を気圧させる迫力を秘めた姿勢なのか。

認めざるを得ないものがある。

これでは、レ級も滅ぼされて当然だ。

それどころか、自らも容易く足元を掬われる。

泊地棲鬼がそうであったように、軽巡棲鬼もまた己の稚気を自覚した。

だが、この状況では撤退も間々ならないだろう。

全てが遅すぎた。

自覚する事が、気付く事が、知る事が、思い出す事が、遅すぎた。



曙「あんた等は絶対に許さない。あの子と約束したんだから…あの子の分まであたしが走ってケリをつける!」

浜風「約束したの、曙さんだけじゃありません」

瑞鶴「あんたが自分で言ってくれたじゃない。私達全員よ、ぜ・ん・い・ん」

赤城「見逃すなんて選択肢、ありますか?」

武蔵「ふっ、愚問だな。端から見過ごす気なんて毛頭無い。言っただろ、深海棲艦…熨斗付けて四倍にして返すってな!」

長門「四人分だ、曙…鬨を上げろ!」

曙「全艦全速前進、目標軽巡棲鬼艦隊!」

曙「行くわよ、島風…皆────」



翔鶴「三名の容態は?」

医師「命に別状は無いとは言え、まだ予断は許さない状態とだけお伝えしておきます」

翔鶴「そう、ですか…」

医師「暫くしたら安静にして頂きます。十分後、また伺いますので…」

翔鶴「ご厚意感謝致します」ペコリ


ガチャ…パタン…


曙「……他の面子は木曾とゴーヤのところ?」

翔鶴「ええ、そうですね」

曙「そ…」

島風「…………」

曙「島風、あんたが戻ってこないと、駆逐艦部屋はお通やモードのまんまでヤバい事になりそうよ」

島風「…………」

曙「だから、早く治しなさいよ。誰よりも早く、最速で、戻ってきなさいよ。はやさはあんたの取り柄でしょ」

曙「あんたが全快になって戻ってくるまで、あたしがあんたの分まで最前線を駆け続けてあげるわよ」

曙「誰にも譲らない、譲らせない…この鎮守府のスピードスターはあんたなんだから」

曙「あんたの居場所、あたしが守る。必ず────」




曙「────出撃よ。蹴散らしてやるわ!」

武蔵「おうとも、相違無い!」

長門「完膚なきまでにな!」

赤城「行きます!」

瑞鶴「よーし、私も張り切っていくからね!」

浜風「覚悟して下さい!」


これが、怒りに任せただけならば態勢を立て直し、戦略的撤退も可能だっただろう。

戦艦レ級に続き、またしても一匹、彼女達の逆鱗に触れた深海棲艦。

軽巡棲鬼。

生き延びるには倒すしかない。

この攻略不可能にも思えるほどの錬度の塊と比喩すべきか、そう形容するほどの覇気を全身に漲らせた六人の艦娘。

戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐艦、潜水艦。

そんな種別など関係ないほどに、眼前で臨戦態勢を取る艦娘達は畏怖するほどだった。

こちらの思考など待ってくれようはずも無い。

この雑念すら、今は煩わしい。

考えるよりも先に動くしかない。

だから軽巡棲鬼は誰よりも早く駆け出そうとした。

しかし、その覚悟すらも掻き消す勢いで己との距離を詰めて視界に飛び込んできたのは曙だった。


曙「スピードスターの座は譲らないわ」ジャキッ



誰よりも早く、速く。

疾風迅雷、電光石火。

島風が戻るまで、誰にも己の前は走らせないし、相手にも先には走らせない。

そんな彼女の行動は軽巡棲鬼のお株を奪うには十分だった。


軽巡棲鬼「ナ、ニ…!?」


ドン ドンッ

ボゴオオォォォォォォォォン


軽巡棲鬼「グッ…!温い…ッ!ソノ、程度カ……!?」小破

曙「初撃払った程度で付け上がってんじゃないわよ」バッ


曙は咄嗟に後方へと飛び退くようにステップを踏んで下がる。

それと入れ違いに、曙の両左右から武蔵と長門が前に飛び出す。

二人は一斉に前に出ながらその重厚な艤装を翳して照準を絞る。


武蔵「さあ、行くぞ!全砲門、開けっ!」ジャキッ

長門「全主砲、斉射…!」ジャキッ

武蔵「撃ち方…始めっ!!」

長門「てーーッ!!」


ドォン ドォン ドォン ドォンッ


軽巡棲鬼「チッ…!」バッ


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


間一髪、直撃こそ回避するも戦艦二人の苛烈な一斉射を前に無傷で居られるはずもない。

まだ戦闘は始まって数分しか経っていない。

にも関わらず全身を襲うこの疲倦怠感はなんだ。

どうしてこうも体が言う事を聞かない。

爆風と熱風を全身に浴び、避け損ねた砲撃のいくつかを覚悟を決めてその身で受け止めながら、軽巡棲鬼は自問自答する。

しかし容易くその答えは出ない。

何より先にも述べたとおり、相手が答えを得るまで待ってはくれない。



軽巡棲鬼「よもや、童がコノような遅れヲ取るトハ…!」中破

軽巡棲鬼「ダガ…このままデハ、終わらヌッ!」ジャキッ

浜風「守り抜きます!!」ジャキッ

赤城「やらせはしません」チャキッ

瑞鶴「このまま黙って終われってのよ!」チャキッ


ボゴォォン


軽巡棲鬼「ガッ…!」

曙「やらせるわけないでしょ、あんたバカなの?」チャキッ

軽巡棲鬼「ナッ、童の艦隊ハ…」

長門「ふっ、そんなもの…」

武蔵「当の昔に沈めたぜ?私達の砲撃、別にあれはお前を狙って放ったわけじゃない」

長門「当たればよし、当たらなくとも貴様の背後で構えていた貴様の残存艦隊に照準がズレただけの事だ」

軽巡棲鬼「ナン、と…」

浜風「既に詰みです。大人しく…」ジャキッ

浜風「沈みなさい!」


ドン ドンッ


軽巡棲鬼「させぬ…サセヌわ…!!」グワッ


ボボボボボボボボボンッ


浜風の一撃を力任せに片手で蹴散らし、漆黒の長髪を靡かせてその青白い瞳を一層輝かせる。


軽巡棲鬼「童ノ行動が浅はかダッタ事実は認めヨウ…が、ソレとコレは別とスル」

武蔵「何…?」

軽巡棲鬼「童ハ黒提督率いる深海棲艦聯合隊ノ一番槍…主要任務遂行部隊主力旗艦艦隊ヲ率いる軽巡棲鬼」

軽巡棲鬼「例え沈モウと…ただデハ沈まぬ。お主等モ……二度と浮上デキナイ…深海へ…」ググッ…

軽巡棲鬼「…沈メッ!!」ザッ

武蔵「死に物狂いで攻めに来るぞ、全員気を引き締めろ!」

長門「慢心は身を滅ぼす。徹底的に行くぞ!」

瑞鶴「油断も慢心もしない。赤城さん、やろう!」

赤城「そうね、行きましょう!」

浜風「曙…!」

曙「赤城と瑞鶴の艦爆艦攻に合わせるわよ、浜風!」

浜風「勿論です!」



たった一匹でありながら怖じる事無く、単騎で駆け出す軽巡棲鬼。

敵ながらに天晴れと、武蔵は痛感し同時に恐れ戦いた。

これが今まで相手をしてきた深海棲艦なのかと首を傾げたくなるほどに恐れた。

こんな思考、思惑、使命、志といった凡そ人や艦娘が賭すべき思いを秘めた深海棲艦が今までに居ただろうか。

答えは否。

少なくとも、武蔵はこの軽巡棲鬼が初めてだ。

己の死を覚悟の上で、それでも尚こちら側を道連れにしようと四面楚歌になりながらも戦いを挑んでくる相手を、今までに見た事がない。

改めて自覚した。

これは脅威だ。

これまでのどのケースにも該当しない、初めて味わう決死の覚悟を抱いたものを相手にするという恐怖。

確実に、ここでこの軽巡棲鬼は沈めなければならない。

生かして帰すわけにはいかない。

生かして帰せば、それはこちらの敗北を意味する。

決定的な打撃を受けた上での敗北を意味してしまう。

その恐怖に他の者が気付く前に、勝負をかけるしかない。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……


己の思考を遮るように、大空を赤城と瑞鶴の放った艦爆艦攻隊が飛翔する。

その音に武蔵は我に返り、改めてこちらへ猛然と突進してくる軽巡棲鬼を凝視した。


ボゴオオォォォォォォォォン

ボゴオオォォォォォォォォン


大きな爆発音が二つ。

突進してくる軽巡棲鬼を捉えて艦爆艦攻がその火力を遺憾なく発揮する。

しかしそれを振り払い、ただ一つの思考の下に軽巡棲鬼は一点目指して駆け抜ける。



赤城「なっ」

瑞鶴「う、そ…でしょ!?」

曙「何よ、あいつ…」

浜風「鬼気、迫る勢い…!」

長門「こいつは…」

武蔵「退けっ!」バッ

長門「む、武蔵…!」


ドゴオォォッ


軽巡棲鬼「……ッ!」大破

武蔵「貴様等は、何を企んでいる…!」

軽巡棲鬼「ククッ……童ハ何も知らヌ」

軽巡棲鬼「が……」

武蔵「…?」

軽巡棲鬼「『あの男』ハ必ずお主等に地獄ヲ見せヨウ…童は、ソノ先駆け」

武蔵「あの男とは何だ!」

軽巡棲鬼「艦娘風情に、コレ以上語ル謂れモ無いノウ!」

軽巡棲鬼「お主だけデモ、共に連レテ逝こうカ…ッ!」ジャキッ

武蔵「貴様だけで逝け、深海棲艦…!」グッ


ドゴッ


軽巡棲鬼「グッ…!」ザザザッ



互いに睨み合っていた状態から軽巡棲鬼が艤装を構えた瞬間、武蔵は右の拳で軽巡棲鬼を力一杯に殴打し、後方へと押し戻す。

その硬直時間を利用して武蔵は己の艤装を展開させ、その照準を軽巡棲鬼へと合わせる。


武蔵「決して私達は負けんぞ!」

軽巡棲鬼「ククッ……進むガ…イイサ……その、先には……!」


ドォン ドォンッ

ボゴオオォォォォォォォォン


不敵な笑みを最後まで携え、武蔵の砲撃の前に軽巡棲鬼は露と消えた。


武蔵「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」


ザザザッ……


長門「武蔵、無事か!?」

曙「ふんっ、何よ先走っちゃってさ」

武蔵「すまん、鬼気迫る勢いでの突貫…自爆覚悟の特攻とも取れたものでな」

浜風「確かに、凄まじい気迫でした…」

赤城「私と瑞鶴さんの艦攻艦爆の嵐の中でも、その勢いは衰えてなかった…」

瑞鶴「悔しいけど、あいつは強かった。あそこで武蔵さんが飛び出してなかったら、正直どうなってたかも解らないし…」

武蔵「そう気に病むな。勝利は私達の手の中だ。今はそれを噛み締めて然るべきだろう」

瑞鶴「……うん、そうだね。そうだよね!」

曙「まぁ、目標は達成だし別に良いけど」

武蔵「」(…こんなのが、まだ未曾有に居るというのか。提督、貴様はこの展望を既に描いていたのか…)

長門「…………」

本日はここまで


回想シーンのセリフは「」のままじゃなくて『』にするとかした方がもっと読みやすくなるかも

皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

レスありがとうございます
>>231
貴重な意見ありがとうございます

-涙-

軽巡棲鬼との一戦から二週間が経った。

幸いとゴーヤ、島風、木曾の三名は意識も回復し三人仲良く艦娘病院のベッドで治療を受けている。


木曾「そっかぁ、お前等には返済に苦労しそうな貸しが出来ちまったなぁ」

ゴーヤ「どうせ返す気ゼロでち」

木曾「んだとテメ……いてててっ」

島風「はぅ~、笑うとまだお腹痛んだから~、やめてよね~」

曙「ま、それだけ喋れるんなら退院もすぐよね」

島風「早く、走りたいな~」

曙「病人が走るとか言ってんじゃないわよ」

島風「にししぃ…退院したら、ぼのちゃん競争だよ?」

曙「は、はぁ?何よそれ…」

島風「私の分まで、走ってくれたんでしょ?」

曙「んなっ///」

浜風「あら、そんな約束してたんですか?」クスッ

長門「あの戦場での台詞はこの事か、合点がいった」

曙「あーっ!うるさいうるさいうるさいうるさい!///」

武蔵「お前が五月蝿いぞ、曙。ここは病院だ、静かにしろ」

曙「ふんっ!何よ!ちょっと優しくするとすぐこれなんだから!さっさと戻ってきなさいよね!///」


ガチャッ パタンッ


瑞鶴「な、なんだかなぁ…」

翔鶴「ふふっ、曙ちゃんも口ではああ言ってますけど…」

長門「ああ、頬が緩み過ぎて解り易い限りだった」

木曾「へへっ、素直じゃないねぇ…」

ゴーヤ「改めて、皆ありがとうでち。本当に…ありがとう」

島風「…うん、ありがと」

木曾「まぁ、なんだ…サンキューってヤツだな」プイッ


瑞鶴「ぷふっ」

木曾「な、なんだよっ///」

瑞鶴「あんたが一番素直じゃないって顔に書いてあるじゃない」

木曾「なっ…ばっ、おま、俺はだなっ///」

瑞鶴「あー、はいはい。どーいたしましてー」ニコッ

木曾「てめぇ、瑞鶴…覚えてろよ」

武蔵「瑞鶴」

瑞鶴「うん?」

武蔵「そろそろ時間だ。行ってきて良いぞ」

瑞鶴「あっ…うん、ありがと。じゃあね、お三方。大人しくしてんのよ?」

木曾「うっせー」

ゴーヤ「はーい」

島風「わかってるよーだ」


ガチャッ パタンッ


長門「加賀か」

武蔵「ああ」

翔鶴「まだ、目覚めませんか」

浜風「外傷自体は治癒されてきてるんですよね?」

武蔵「聞く限りではな。が、心がそこに追いついていないのか、どうなのか…目を覚まさん」

武蔵「それを見越してなのかどうかは知らんが、瑞鶴にこうして時間があれば加賀に会わせてやれと、提督がな」

長門「何をどう取り繕おうと、瑞鶴にしてみればあの一件は心に大きなしこりとなって残ってしまうだろう」

翔鶴「自身に言い聞かせてはいるようですが、やはり時折どうしようもない、やるせない表情を見せる時はあります」

武蔵「無理もないぜ。正味目の前で起こった出来事だ。誰よりも、責任を感じているのは瑞鶴だろう」

翔鶴「…………」

木曾「翔鶴」

翔鶴「…!は、はい?」


木曾「気負うんじゃねぇぞ、絶対に」

ゴーヤ「皆、解ってるよ。だいじょーぶ、誰も気にしてないでち」

島風「私達三人、だーれも翔鶴さんの判断を間違えてたなんて思ってないよ?」

ゴーヤ「あの時、咄嗟に通信も出来たのにしなかったのはゴーヤの判断ミスでち」

島風「うん、私も避け損ねたのは痛感してるー」

木曾「カッとなってつい先走っちまう。俺の悪いクセだ。それをお前は止めようとしてくれた。隼鷹や浜風もな」

木曾「なのに相手の挑発に乗っちまって、このザマだ。ったく、頭上がらなくてトーゼンだぁな」

浜風「同じですよ」

木曾「あ?」

浜風「同じです。木曾さん達こそ、負い目に感じる必要なんてありません」

木曾「へへっ、やっぱお前ぇ等サイッコーだわ…いいトコにこれたよ、マジでさ」ニッ…

ゴーヤ「うん」ニコッ

島風「ふふっ」ニコッ

長門「なんだ木曾、お前まさか泣いてるのか?どこか痛むか?」

木曾「ばっ…ちげぇよ!///」

武蔵「ふっ、素直じゃないを地で行くな、貴様は」

翔鶴「皆さん、ありがとうございます」ペコリ

長門「木曾、痛いのなら素直に…」

木曾「だー!もうちげぇっつって……いででででっ」

ゴーヤ「…アホでち」

島風「ちょーウケ……いたた……うぅ、笑うと痛いぃ…」

翔鶴「ふふっ」

武蔵「やれやれ、さぁ戻るぞ」クスッ…




瑞鶴「かーがさんっ」

加賀「…………」

瑞鶴「はぁ、またそうやって眠った振り…まぁ良いけど、勝手にまた喋るだけ喋って帰るし」

瑞鶴「…………」

瑞鶴「…周りはね、皆優しいよ。赤城さんも、翔鶴姉も、隼鷹や千歳も、空母組は皆優しい」

瑞鶴「他の子達もさ、大丈夫って。あぁ、私の働きの事じゃないからね?加賀さんよ、加賀さん」

瑞鶴「きっと加賀さんはすぐに戻ってくる。すぐに目覚めて、またあの鎮守府で赤城さんの隣に立って、第一部隊を引っ張っていく」

瑞鶴「だって、今私が第一部隊なんだよ?加賀さんの指定席、私が座っちゃってるんだよ?」

瑞鶴「前みたいに、言いなさいよ。五航戦の子なんかと一緒にしないでって、突き放してきなさいよ」

瑞鶴「何よ……なんで、寝てる時までそんな澄ました顔なのに……どうして、あの時、笑ったのよ」グスッ…

瑞鶴「普段、全然笑わないクセに……あんな時だけ、笑って……卑怯よ、そんなの。何にも、それじゃ言えなくなっちゃう…」

瑞鶴「戻ってきてよ、戻ってきなさいよ!一航戦の加賀っ!」

瑞鶴「赤城さんの隣はあんたでしょ!?なんで私なのよ!いい加減っ……目ぇ、覚ましてよぉ……」グスッ…


コンコンッ…


瑞鶴「っ……は、はい!」


ガチャッ…


瑞鶴「ぁ……」

提督「まだ少し、時間があるようでしたので」

瑞鶴「……他の皆は?」

提督「先に鎮守府へ戻りました」

瑞鶴「…………」

提督「…………」

瑞鶴「…………」(気まずい…)

提督「…少し、昔話をしましょうか」

瑞鶴「ぇ、はい?」

提督「一度しか話しませんから、そのつもりで」

瑞鶴「……?」



数十年も前の事です。

海軍には、新人の提督や各鎮守府への着任を控えて新しく着任したばかりの艦娘に基礎・基本を教鞭する場が設けられていました。

その教壇に立つ人物は階級は大将、第壱将を拝命する三大将の一人です。

彼は自身の傍付たる秘書艦を設けず、また推薦・志願されても全て辞退・拒否していました。

そんな彼にこの度役職がもう一つ設けられる事になりました。

大本営直属指導教官総長。

彼の教えを受けた提督・艦娘達は各々の鎮守府に配属後もその理念と信念を忘れず、ぐんぐんと成長を遂げていったそうです。

孤高の存在であった彼はそんな羽ばたいて行った提督達を見て誰よりも誇らしく思っていた事でしょう。

そんな彼に、ある日通達としてついに秘書艦を迎え入れる事になりました。

彼の傍付きとなった艦娘も行く行くは艦娘専門に教鞭を振るう事になる予定で、まずは彼の下で学ぶ事から始めたそうです。

上からの命令ならば仕方がないと、今までは断り続けてきた彼も仕方なく折れて首を縦に振りました。

何より、艦娘にはやはり同じ艦娘が教示すべきであると感じていた彼にとっては、これはある意味誉れな事でもありました。

同じ理想を抱き、同じ夢を持ち、共に歩んで行こうと誓い合い、彼と彼女は共に切磋琢磨し、日々新人達を指導していきました。

そんなある日、君も聞いた事はあるでしょう。

大本営強襲事件。

多数の深海棲艦が突如として海軍の中枢、大本営へ向けて攻撃を仕掛けてくると言う事件が起こりました。

大枠の話は知っていると思いますのでここは割愛しましょう。

大本営直属指導教官総長、大将第壱将。

またの名を神の眼を持つ男、神眼提督。

彼の傍付きとして秘書艦となった香取型練習巡洋艦一番艦の香取。

彼女も、艦娘と言う立場からその使命と責務に燃えていました。

そして、悲劇は起こりました。



大和『第三部隊より入電。自陣後方、左翼より突出する識別一名確認!これは…!』

神眼「まさか…!」

飛龍『種別…れ、練習巡洋艦…?』


バンッ


神眼「香取さん、君は…!」


香取「私にだって、出来る事はあるはず…練習巡洋艦香取、抜錨します!」


大和『神眼提督、左翼より抜錨したのは恐らく神眼提督の秘書艦、香取さんです。これは何かの策でしょうか?』

神眼「今すぐに彼女を止めて下さい。僕は一言も彼女に抜錨の指示は出していません!」

大和『それでは、独断で!?』

神眼「彼女の戦場はあくまで教壇の上です。ですが、やはり艦娘なのでしょう…敵を前にすれば、護らなければと言う
感情が体を自然と動かしてしまうのかもしれません。君達のように…!」

大和『今は詩的に語っている場合ではないでしょう』

神眼「単独先行の恐れが濃厚です。止めて下さい、必ず!」


普段は冷静沈着で慌てる事もない神眼のその態度に、大和は一抹の不安を抱きながらも自軍の艦娘達に指示を飛ばす。

彼女達は力戦奮闘した。

香取を救う為に、死なせない為に、最善を尽くした。

誰もが考えうる中で最良の一手。

全員がそれならいけると踏んだ最適解。

しかし、現実は無情だった。



提督「突出し過ぎた彼女は深海棲艦の格好の的になりました。結果、大和さん達の援軍も一歩及ばず、彼女は敵の凶弾に倒れました」

瑞鶴「…………」

提督「そして僕は、己の犯した罪を未来永劫背負い続ける為に、己の地位と座を捨てました」

提督「これが、僕の今までです。手の届く所に彼女を置いておきながら、むざむざ死へ追いやった」

提督「神の眼が、聞いて呆れるばかりです」

瑞鶴「…………」

提督「君の胸中は痛いほどによく解ります。目の前に居て、手の届く所に居て、助けられなかったと言う悔しさ」

提督「己の無力さを瑞鶴さんは今、痛感しているのではありませんか?」

瑞鶴「私は…」

提督「…………」

瑞鶴「私になんて、加賀さんの代わりが出来るわけないじゃない…!」

提督「加賀さんの口癖を、君はもう忘れてしまったのですか?それに君も大いに反発していたでしょう」


──五航戦の子なんかと一緒にしないで──


瑞鶴「代わりになる、必要なんて、ない…?」

提督「ええ」

瑞鶴「…………」

提督「木曾さん、ゴーヤさん、島風さん…彼女達についても同様です。その場に居た全員が、君と同じ思いだったでしょう」

瑞鶴「全員が…?」

提督「彼女達が重傷を負った時、その場には翔鶴さん、隼鷹さん、浜風さんがいらっしゃいました」

提督「翔鶴さんは第二部隊を預かる旗艦です。にも拘らず今回の一件です」

瑞鶴「…………」


ピラッ…


瑞鶴「…それは?」

提督「翔鶴さんの今回の件に関する経緯報告書です。ここ、よくご覧になってみて下さい」トンッ

瑞鶴「…シミ?」

提督「涙の痕だと思います」


提督「悔しかったんだと思いますよ。辛くて、悲しくて、情けなくて、その場に居ながらこれほどの被害を出してしまった」

瑞鶴「…………」

提督「僕自身は今回の件について別に咎める気も罰を下す気もありません。今はそのような事をしている暇もありません」

提督「書類を提出に来た時も、彼女は堪えきれずに涙を流していました」

提督「僕が考える一つの美学として、この世には流すべき涙と流すべきではない涙、二種類が存在していると考えています」

提督「感動や別れに流す涙は尊ぶべき、流すべき涙。傷付き、苦痛を伴い、心に深い傷跡が残るような流すべきではない涙」

提督「今の君達が流している涙こそ、流すべきではない涙ですよ」

瑞鶴「……提督さんは、秘書艦さんを亡くして、涙を流したの?」

提督「…ええ、一昼夜。同じ涙を、もうこれ以上君達に流して欲しくはありません」

提督「ですから、その流した涙を最後にして頂きたい。次に流す時は、流すべき涙を、流して頂きたいのです」

提督「幸いと木曾さん、ゴーヤさん、島風さんは意識を取り戻されました。担当医は加賀さんの容態は思わしくないと
仰っていましたが、僕は加賀さんの生命力、忍耐力を信じています。彼女は、ここで終わるようなたまではありません」

瑞鶴「…うん」

提督「腹を括ります。僕も、今僕が出来うる最善の手を尽くしてこの勝負に挑みましょう」


コトッ…


瑞鶴「それは…」


提督「これは、香取さんの愛用していた眼鏡です。今まで、お守り代わりでずっと僕が肌身離さず付けていたものです」

瑞鶴「え、提督さんって…」

提督「ええ、両目の視力共に1.0と良好です。ですので、このレンズはただのガラス、伊達眼鏡と言う奴ですよ」クスッ

瑞鶴「それ、ここに置いてっちゃうの?」

提督「ええ、せめてものお守り代わりと、あとは…そうですねぇ、僕自身のけじめというやつでしょうか」

瑞鶴「ん、そっか」

提督「戻りましょう、瑞鶴さん」

瑞鶴「そうね。まだ、やり残してる事多いしね」

提督「僕は一度鎮守府に戻って武蔵さんを連れて大本営へ赴きます。その間に瑞鶴さんは第一部隊に招集をかけ、
少し僕のお願いを聞いて頂きたいと思います」

瑞鶴「提督さんのお願い?」

提督「はい、ちょっと派手な鬨の声を上げて頂く程度です」

瑞鶴「ちょっとなのに派手ってどーいう意味よ、それ…」

提督「ふふ、さぁどういう事でしょうねぇ。お伝え頂く内容は次の通りです────」


瑞鶴「────そっか、相手がそう動いてるのなら、それに便乗しない手はないって事よね」

提督「仰るとおりです。随分とコケにされましたからねぇ…舐めた分の辛酸は、返して然るべきでしょう」

瑞鶴「トーゼンよ。倍以上にして返してやるんだから!」

提督「では、参りましょうか」

瑞鶴「うん!」

瑞鶴「あっ、ちょっと待って」

提督「はい?」

瑞鶴「加賀さん!行って来るわよ!あんたの分、とっておかないから、悔しかったら直にでも起きて残りものでも何でもとりに来なさいよね!」

瑞鶴「私達五航戦と加賀さん達一航戦は違うんだから、でしょ!?じゃあね!」

加賀「…………」

提督「…お待ちしてますよ、加賀さん。では…」


ガチャ…パタン…


加賀「…………」ピクッ…

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~鬨の声~



-復活-

その日、大本営に激震が走った。

否、厳密には元帥執務室にて激震が走った。


元帥「…今、何と言った…」

提督「唯一無二のお願いをしにきました」


元帥、そして隣に控える大和、同行した武蔵さえも、その瞳を大きく見開いて言葉を失った。

彼がお願いしたその内容に、文字通り言葉を失った。


元帥「もう一度、言ってくれ…」

提督「今の階位を返上します。代わりに、元の階位に戻して頂きたい、と申し上げました」

元帥「ば、馬鹿を言え!三大将の席は当然の如く埋まっている。何より、彼等の働きは現時点でも申し分ない。
それをいきなり降格にでもしようものなら、末端の提督陣にまで波紋は広がる恐れすらある!」

提督「そこを上手に纏めるのが元帥のお役目と認識していたのですが、違いますかねぇ?」

元帥「それとこれはまた別だろうに、お前と言う奴は自らこちらへ足を運んだかと思えば突拍子もない事を…!」

提督「僕が今まで貴方に我侭を述べた事はありますか?」

元帥「……ない」

提督「その僕からのたっての願いとしても聞き入れては頂けませんかねぇ」

元帥「だから、それとこれはまた別だと…大体お願いをする態度か、それが!?」

提督「ならば賭けをしましょう」

元帥「このような事態に何を…」

提督「このような事態だからこそですよ。僕が第壱将として復帰した暁には、この『世界』を平和へ導きましょう」

元帥「なっ」

提督「現状のまま、進めると言うのなら僕は僕の手の届く範囲のみを守護します。つまり、僕の預かる鎮守府のみを守護します」

元帥「何を…」

提督「事実、今の三大将の働きは目に余りますよ。これ程までに劣勢を極めておきながら被害は広がる一方、打開策の一つも講じてはいないではありませんか」

元帥「そ、それは…」

提督「あの時と同じ過ちをもう一度繰り返し、まだ見ぬ未来ある提督陣や艦娘をまた僕と同じ道へと誘いますか」

提督「また同じ失態を繰り返し、目に映る勝利にのみ固執して内面の腐敗した現実から目を背けますか」

大和「提督…それは、言い過ぎでは!」

元帥「大和…!」

大和「……!」

元帥「構わん…事実だ」

大和「元帥…!」

提督「このまま何も手を打たなければ、確実にこの大本営を始めとし、世界が滅びます。それほどの現状です」

元帥「しかし…」

提督「今すぐに三大将をこの場に召集して下さい。時間がありませんので、僕が直接説き伏せます」



大和「ちょっと、武蔵…これ、どう言う事なんです?」コソコソ…

武蔵「私だって知らなかったよ。とんだビックリ玉手箱野郎だぜ…ったく」コソコソ…

元帥「大和、武蔵はしばし席を外しておれ」

武蔵「なっ、おいそれは…!」

大和「武蔵…!」ガシッ

武蔵「あっ、おいこら放せ大和!」ズルズル…

大和「それじゃ失礼しますー」スタスタ…


ガチャ…パタン…


元帥「…ふぅ、全くお前の提案には毎度肝を冷やす以外に驚きの表現方法がない」

提督「それだけ後ろ暗い事をしている証明でしょう」

元帥「全く、言葉の端々に棘を仕込むのも毎度の事か」

提督「コソコソと隅っこを歩くような真似をしなければ引っ掛からない程度の棘ですよ」

元帥「手厳しい限りだ。が、往々にして己が選んできてしまった道でもある、か…」


コンコン…


『壱将以下弐将と参将、召集に応じ馳せ参じました』


元帥「着たか。入れ」


ガチャ…パタン…


壱将「このような事態に何用です、元帥…む?」

弐将「これはこれは…」

参将「最近噂に上がっている拾将管轄下に居る提督か」

提督「お初にお目に掛かります。提督鎮守府を統括する提督中将と申します」

壱将「言うに及ばず。そのような話をする為に我々を呼ばれたわけではないでしょう、元帥」

元帥「そう逸るな。お前達三人に話があるのはそこにいる提督本人だ」

弐将「ほう、私達に?」

参将「我等に話とは、何用だ」

壱将「下らん話ならば即刻退室する。今はこの場で腰を下ろしている場合ではないのだからな」

提督「ふっ」ニヤッ…

弐将「……」ピクッ

参将「おい、無礼であろうその態度!」

提督「失礼…壱将殿の発言に現実が追いついていない矛盾に些か…」

壱将「何…?」ギロッ…


提督「僕は事実を口にしたまでです。以前に提唱させて頂いた作戦をそのままに実行していれば、
推移としては現状よりは幾分かましだったと思いますよ?」

壱将「我等が元帥から直々に賜った策を蔑ろにしているとほざく気か」

提督「僕が事の発端だからこそ、蔑ろにしているというのが本音ではありませんかねぇ」

壱将「俺が貴様如きを目の敵にする矮小な心の持ち主とでも思ったか!図が高いぞ中将風情が!!」

提督「階位がそれほど大事ならば懐にでもしまっておきなさい!大将だろうと元帥だろうと、全体を動かす者の矜持が
高が知れている司令官にこの先を進める未来などありませんよ!」

参将「なっ」

弐将「言ってくれますね…」

壱将「貴様…ッ!」

提督「実際、前回の召集時にあの場に居る面々を見て僕が抱いた感想は無様の一言ですよ」

元帥「…………」

壱将「重ね重ね、貴様何様のつもりだ!」

提督「前兆は既にあったにも関わらず、複数の鎮守府が被害を被り死傷者が出てからやっと動くなど愚の骨頂ではありませんか」

提督「僕は再三に渡り経緯報告書を提出し、全体への開示を請求してきましたがそれが叶った例はありません」

弐将「当然と言えば当然でしょう。中将の一意見では、全体への開示賢覧は余程全体への認識が伴っていなければ目通りは叶いませんよ」

元帥「…………」

提督「それがそもそもの間違いの始まりですよ」

参将「貴殿は元帥を愚弄する気か」

提督「はい?」


参将「それら開示の最終決定権は元帥に一任されておられる。その元帥が必要無しと判断したのだ。何か問題でもあるのか」

提督「問題大有りでしょう。現状が全てを物語っています」

弐将「が、それも結果論に過ぎない。違いますか?」

提督「その結果を事前に警鐘していたのにも関わらず放って置いた事について僕は問題があると申し上げているんですよ」

弐将「では君が今回の結果に繋がるであろう前兆を見つけ、更には元帥に自ら警鐘を鳴らし続けたと?」

提督「ええ、そうですね」

元帥「……事実だ」

壱将「……ッ!」ガタッ…

弐将「……!」

参将「元帥…!」

提督「やはり、元帥を始め、三大将もその件については周知の事実だったようですねぇ…」

提督「口裏を合わせ、現状維持を図って尚、好転しないこの状況をどう説明なさるおつもりですか」

壱将「貴様の提唱する策はどれも驚天動地の域にある。凡そまともに理解し、実行に移せる鎮守府など半数にも満たん!」

壱将「無用な諍いと指揮系統の混乱を促す切っ掛けにしかならんと知れ!」

提督「それは投げるだけ投げて明確な説明をしないままに実行するからですよ。僕は一度として各自が実行不能な提案を
してきた覚えはありません。それぞれがその在り方を認識し、把握すればこそです。それを怠っておきながら無理も不可能もないでしょう」

壱将「ぬぐ…!」


弐将「君は、何が目的だ」

参将「ここで論説を捲くし立てようと無意味に思うが?」

提督「皆さんに成り代わります」

壱将「何だと…?」ギロッ…

提督「最早一刻の猶予もない状況です。ここより先は、この僕が指揮を執ると申し上げているんですよ」

弐将「ふっ、惰眠を貪っていた君がレギオンクラスの全体指揮を執ると言うのか?」

参将「こういうのはただの陰口にしかならんが、君の噂は悪いものしか聞いた記憶がない。なぁ、ダメガネ殿?」ニヤッ…

元帥「む……?」(そういえば、この男…あの眼鏡はどうした…?)

提督「いつの話をしているんですか」

参将「何?」

提督「権威も、風格も、実力さえも地に落ちたあなた方では、この海軍は任せられないと申し上げているのがまだ解りませんか?」

弐将「言わせておけば…!」

壱将「何の功績も挙げていない貴様のような馬の骨が、これ以上調子に乗るなよ!その頭蓋諸共、この場で斬り飛ばしてくれようか!」

元帥「静まれ…ッ!!」

壱将「……ッ」

元帥「お前達は知らなくて当然であろう。が、この男は過去に数知れぬ功績を挙げている。現存するこの海軍将校の誰よりも…!」

参将「なっ」

弐将「ご、ご冗談を、元帥…」

元帥「この大本営の今の在り方、その基盤を磐石にしたのがそこに居る男だ」

壱将「……!?」

元帥「磐石にして不変…その男の口癖でな」

壱将「その、台詞は…」

弐将「馬鹿、な…」

参将「神の眼を持つ、男…」

壱将「貴様が、神眼提督だと言うのか!?」

提督「ええ、過去にはそのように呼ばれていた時期もありましたねぇ…」

提督「ですが、今はそのような瑣末な事はどうでもいいでしょう。ようは今がどうかです」

提督「今一度、申し上げます。僕を、第壱将として海軍大将に任命して下さい。必ず、この騒乱を沈静化して見せましょう」

本日はここまで

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-開眼-

黒提督「軽巡棲鬼が戻らないだと…?」

リコリス「哨戒隊ノ報告では例ノ鎮守府領海付近デ連絡が取れナクなったそうヨ」

黒提督「馬鹿め…欲を掻いて作戦から逸脱したな」

リコリス「ドウするの?」

黒提督「好き勝手に遊んだとは言えど、多少は相手に痛打を加えたのも事実だ。ならばこれを足掛かりに……」


バンッ


黒提督「…騒々しいぞ」

ル級「ホウコク、イタシマス」

ル級「カクチニ、ショウカイ、テイサツヘムカッテイタワガカンタイグン、ソノスベテガセンメツサレタトノホウガ、ハイリマシタ」

リコリス「何デすって…!?」

黒提督「全て、だと…?」

??1「相手モついに本腰ヲ入れてキタと言う事ダロウ?」

??2「ナンだってイイ、強ければソレで…」

??3「暴れてるノハ、レ級や軽巡棲鬼ヲ沈めた連中カシラ?」

泊地棲鬼「ならば次コソ、私が屠ル」

黒提督「各個撃破ではなく、一挙制圧の手法を取ったと言う事は、こちらへ流れるはずの情報の断絶が目的だろう」

リコリス「事実、撃破されてカラの情報ハぱたりと止ンダ」

黒提督「当然だろう。完全に前線に赴いていた艦隊は殲滅されているのだ。これ以上の情報はこちらへは入ってこないのは必然」

黒提督「が、なぁに…そんなものは取るに足らない情報という事だ。あろうがなかろうが変わりはしない。磐石にして不変…」

黒提督「大局の流れは未だこちら側にある。その事を奴等へ教えてやろう」




提督「────と、向こう側は考えるでしょうね」

赤城「未だ大勢は変わらず、自分達に有利に働くと?」

提督「ええ、その為にあえて大味の情報は与えたわけですからね。瑞鶴さん、随分と派手にやってくれましたね?」

瑞鶴「だって、提督さんがやれって言ったんじゃない」

提督「勘違いしないで下さい。褒めてるんですよ?僕の想像以上の戦果ですよ」ニヤッ

瑞鶴「ふふーん♪」

武蔵「で、貴様はここで安穏としててもいいのか?」

提督「最初で最後の我侭ですからね。大盤振る舞いで吹っ掛けましたから────」


提督『今一度、申し上げます。僕を、第壱将として海軍大将に任命して下さい。必ず、この騒乱を沈静化して見せましょう』

壱将『……貴様が先頭に立ち、深海棲艦に反撃の狼煙を上げるというのか』

弐将『元帥…!』

参将『このような話は前代未聞!許容の範囲外です!』

元帥『はぁ、全くお前の話は突拍子もない反面、何故かこちらをワクワクさせる』

壱将『げ、元帥…?』

元帥『先にも話した通り、戦闘のイロハを説いていたのはそこに居る男だ。我々が当たり前のように行使している戦術も、
陣形も、その男が居て初めて形になったものばかりだ。無論、原初という訳ではないが礎と言うには相応しい働きをしてくれた』

元帥『元は大本営直属指導教官総長、海軍の第壱将を拝命していた男だ。お前達三人が束になろうと、私はその男の唱える
言葉を重んじる。それだけの説得力とカリスマ性を備えている男だ』

壱将『では何故あの時…!』

元帥『ただの意固地だな。ふふ…その男にしてみれば、子供の駄々とそう変わりはなかったようだが…』

元帥『お前達のこれまでの働きを否定するつもりは毛頭無い。むしろここまで良くやってくれた。
だが、これより先はそこの男の力がどうしても必要になる。何れお前達にも解る時が来る。その時をどうか待って欲しい』

弐将『……元帥が仰るのなら、私はそれに従いましょう』

参将『如いてはそれが、この大本営の、海軍の、この国の未来の為ならば…』

壱将『勘違いをするなよ…我等は元帥の意向に従うだけだ。貴様の傀儡ではない』

提督『ご理解、感謝致します』

元帥『良くぞ、戻ってきてくれた』

提督『僕は過去に遡る気は毛頭ありません。それを、今を生きる彼女達に教わりました。故に、僕は神眼の名は得ません』

壱将『では何だと言うのだ』

提督『僕は提督鎮守府の提督です。ですから、大将の座に位置しようと、今の鎮守府を手放す気は毛頭ありません』

弐将『大将が一つの鎮守府に座すると言うのですか!?』

提督『僕の賭すべき全てのものがその鎮守府には詰まっているんですよ』



武蔵「なんだ、勿体ぶるじゃないか」

提督「いえ、時には言わずにおくのも良いものかもしれません」

武蔵「ったく、すぐそれだ」

長門「それで、この後はどうするんだ、提督」

提督「待ちます」

長門「待つ?」

提督「相手に知らしめるのが今回の目的の一つです。何をしても無駄だとね」

長門「次に相手がどう動くのか、既に解っていると言うのか?」

提督「ええ、大体はですが。まず間違いなく相手はここを襲撃してくるでしょう」

長門「なっ」

提督「軽巡棲鬼を撃破して直の大立ち回り。僕等が暴れたと相手は容易く感付くはずです」

提督「故に相手はこう解釈するはずです。勘違いするなよ、まだ形勢はこちら側にある。それを知らしめてやる、とね」

提督「ですから否が応でも相手は僕等に喧嘩を売らずにはいられないという訳です。
そして、その中には恐らく泊地棲鬼やそれに類する幹部クラスが必ず一匹以上、三匹以下は含まれているでしょう」

提督「自分達が優位な立ち位置にいる事を無意識の内に証明すべく、強さにベクトルを置いた布陣で来るはずです」

提督「ですがその艦隊は恐らくこの鎮守府まで到達する事は無理でしょう」

武蔵「何故そう言い切れる。散々こちらの包囲網を突破して来た連中だぞ」

提督「それに胡坐を掻いているような連中です。網を張って絡める程度、造作もない事ですよ」

長門「既に布陣を済ませているのか」

提督「ええ、とびっきりの素敵な艦隊を用意してあります」ニヤッ…




大和「…………」

飛龍「大和、来たよ」

蒼龍「あの提督の宣言通り!」

飛龍「泊地棲鬼に…種別、新しいのきてるね。どーする?」

大和「…決まっています。あの方が戻ってこられた今、恐れるものなど何もありません。
私が受けた命はこの領海に侵入する深海棲艦を余さず殲滅する事。ならば、任された責を全うするのみ」

大和「この海を、これ以上我が物顔で闊歩される訳には参りません」


泊地棲鬼「……相手ガ待ち構エテいるダト?」

ル級EL「」コクッ…

装甲空母鬼「誘き寄せられレタ……と、解釈スルのが最も自然ネ」

泊地棲鬼「我々の動きヲこうモ容易く看破スルものカ?」

装甲空母鬼「解らん。シカシ、これは想定ヲ上回る難題ト捉えるベキだろう」

泊地棲鬼「……撤退ダ」

ル級EL「何モセズニ、デスカ?」

ヲ級EL「黒提督ニハ、ドウ説明ナサイマスカ?」

装甲空母鬼「随分と情報ト違う。コレでは、道化ダナ」

泊地棲鬼「いいや、コレは想定外ダ。海軍、大本営、鎮守府、ソレらを束ねる提督共…コレ程とは、恐レ入ル」

装甲空母鬼「ドウいう意味ダ」

泊地棲鬼「やはり、我等ハ未だ同じ域ニハ達してイナイ、と言う事ダ。戦術ヲ練り直す…!」




ピーッ、ピーッ、ピーッ


提督「随分と早い報告ですね」

元壱将『…貴様の読み通りだった。奴等はこちらの布陣を確認だけして撤退。戦闘には至らなかった』

提督「大和さん達と自分達の力量をその場で天秤に掛け、客観的冷静な判断を下せる決断力を持ち合わせている」

提督「僕の想定ではそのまま戦闘になり、もう二匹か三匹は相手の幹部クラスの首を獲れると踏んでいましたが…」

元壱将『ああ、存外馬鹿の集まりではないという事だ。改めてこちらも認識を改める必要がある。貴様の意見通りな…!』

提督「はぁ、別に僕を敵視するのは構いませんが、見据える先は同じでなければなりません」

元壱将『愚問だ。これは俺の一感情、大局にまでこの感情を持ち込みはしない』

提督「結構。恐らく、相手もこれで本腰を据えてくる事でしょう。動きは更に慎重に、狡猾になってくるはずです」

元壱将『ならばこちらはどうする』

提督「先にも申し上げたとおり、何をしても無駄だと教えて差し上げるだけですよ」ニッ

元壱将『神の眼の本領…見せて貰おうか』

提督「存分にご覧に入れて差し上げますよ」

元壱将『ふん…ではこれで失礼する』


ブツン……


提督「さて…こちらも次の手を考えておきましょうか」


トン…


武蔵「その駒を、どうするんだ?」

提督「そうですねぇ…」



スッ…


武蔵「…はぁ?」

提督「次にこの駒はこう動くはずです。少なくとも、正面切って勝負を挑む、という呈は最早捨てるでしょう。
攻めから守りへ、そのまま逃げへ…敵陣に向かっているのに攻めるどころか守って逃げて、気付いた頃には堀の中、ですよ」

武蔵「そう容易く事が運ぶものかよ」

提督「ええ、恐らく相手も気付くと思いますよ。ワンテンポ遅れて、ですがね」

武蔵「まさか、そうなるように仕向けたってのか!?」

提督「その為の情報操作です。こちらにとって別に渡しても構わない情報は勝手に持ち帰ってもらえばいい。
それ以外の、確信に迫るような情報は決して与えないように努めてますからねぇ」

武蔵「ったく、陰湿、陰険、悪辣非道…貴様の為にある言葉だな」

提督「君は失礼ですねぇ。僕を何だと思ってるんですか」

武蔵「陰湿陰険悪辣非道な提督」

提督「些か別の意味で殺意が芽生えそうですねぇ…」


バンッ


曙「クソ提督!」

提督「ノックもせずに扉を開け放って開口一番が罵倒と言うのは如何なものかと思いますよ?」

曙「う、うるさい!近眼だか裸眼だかなんだか知らないけどあたしにはカンケーないってのよ!」

武蔵「神眼だ……全く、木曾とはまた違うベクトルでお前も大概素直じゃない奴だな」

曙「な、何よ。なんか文句でもあるの!?」

武蔵「ない。言った所で平行線の話題に今は付き合う暇もないからな」

曙「ふんっ!」プイッ

提督「で、どうなさいましたか」

曙「…翔鶴からの報告よ。空の目を厚くして警戒していたのは正解だった。大きく進路を迂回させて深海棲艦は再度、
あたし達の鎮守府へその進路を決めているだろうってさ」

提督「そうですか。愚の骨頂…この作戦に時差など不要だというのに、相手は何か勘違いをしているようですねぇ」

武蔵「翔鶴達の哨戒によって最早奇襲の呈はなしていない。それでもこのまま我武者羅に突っ込んでくると思うか?」

提督「来るでしょうね。一度目はおめおめと大和さん達に恐れをなして逃げたわけですから、このまますごすごと下がる
ままなど、彼女達のプライドが許さないでしょう。こちらの想定を凌駕していると、思い知らしめる必要があるのですから」

提督「次は逃がしません。深い位置まで気付かない振りをし、逃げ場を封鎖した上で聨合艦隊を編成し徹底的に叩き潰します」

武蔵「」(深海棲艦を脅威に感じたのは事実だ。底知れない恐怖を感じたのも事実だ。だが、それでも今の奴等を同情せずにはいられない。
この男は、冗談抜きにして無慈悲極まりないぞ…こと、貴様等深海棲艦に対しては心の芯から底冷えするほどにな)

提督「何か?」

武蔵「いいや、万全を期す、というものをここまで解り易く体現する奴をはじめて見た。ただそれだけだ」

提督「この程度では、まだまだですよ」

武蔵「…何?」

提督「いいえ、何でもありません」

提督「」(もし、僕の考えが的を射ていたのなら、驚天動地の戦いになるでしょうねぇ…実に、不愉快極まりない。
しかし、この一戦は是が非でももぎ取らねばなりません。逃がす訳にはいきませんからねぇ)

本日はここまで

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-陰湿陰険悪辣非道-

青葉「さてさてー、参りましょうかー!」

千歳「私達の任務はここに来た深海棲艦のヘイトを稼ぐ事」

隼鷹「ようは釘付けにすりゃあ良いんだろう?迎え酒一気にいくよりも楽なもんだよ」

矢矧「それにしても、告白を受けた今でもまだ夢見心地とはこの事かしら…」

隼鷹「あぁん?」

矢矧「戦術の組み立て方、行使するタイミング、そこに至るまでの時間、どれもが高い次元で纏まっているなんてものじゃないわ」

潮「そう、なんですか?」

秋月「即決、即断、即行、凡そ他の司令なら立ち止まりそうな場面でさえも迷いなく踏み込む姿勢は驚嘆です」

千歳「伝説の提督だったから、なんて物語で簡単には括れないよね。目の当たりにしちゃったら、尚の事」

青葉「でもだからこそ、その伝説に直接絡んでるこの瞬間がたまりません!青葉、燃えに燃えてきましたよ!」

青葉「司令官の意図を汲んでこその青葉達です!」

隼鷹「どしたい、普段の青葉とはちょっと違うねぇ?」ニヤッ

青葉「ふふっ」ニコッ

千歳「ん?」

青葉「口にしたら、ダメな理由ですよ?」

秋月「言わずとも」

潮「解っています!」

千歳「散々私達が哨戒してる領海で暴れられたんだもの。勿論、言われなくても解ってるわ」

隼鷹「あぁ、勿論。今日のあたしは素面でもテンションは極めて高いさ」

千歳「さて、と…それじゃあ」

隼鷹「ああ、最っ高に苛立つ嫌がらせと行こうじゃないか────」ニヤッ



隼鷹『嫌がらせ?』

提督『ええ、恐らく大和さん達を前に、相手は一度撤退するでしょう』

隼鷹『んで?』

提督『ただ、相手は一度加賀さん達を出し抜き、勝利を治めているのも事実です。
木曾さん達の件も然り…その自信と沸き起こった確信は簡単には払拭できません』

千歳『今度こそやれるって、思うってことかな?』

提督『ええ、解りやすい思考です。正面からの強硬手段が無理と解ると側面を攻める』

潮『えっと、えーと…うん?』

提督『ふふ、潮さんにはちょっと解り難かったでしょうか』

潮『うぅ…///』

提督『解り易く言うのなら、皆さんを舐めていると言う事ですよ』

青葉『舐めてる…?』

提督『正面に布陣していた大和さん達よりは、側面に布陣している青葉さんの一団の方が組し易い、そう考えた訳です』

秋月『馬鹿に、して…!』

矢矧『上等じゃない…!』

潮『そ、それって…それじゃ、私達になら勝てるって、そう考えてるって事、ですか?』

隼鷹『へぇ…』ギリッ…

提督『ええ、実に不愉快じゃありませんか。ただし、相手方にも強さが備わっているのは否めない事実です』

千歳『だからって、このまま引き下がるわけには…!』

青葉『…そうです。青葉達の、それじゃ名折れじゃありませんか!』

提督『そう逸ってはいけません。相手がそう出るのなら、こちらも相応の準備と構えを取って出向かえればいいだけです』

青葉『えっと、つまり?』

秋月『あっ』

潮『え?』

秋月『そうか…こちらも』

提督『ええ、同じ事です。側面から当たればいい。実力差が生まれる事は恥ではありません。ただし、それを盾にして
居直って良い訳ではない。大が小を兼ねるという言葉がありますが、小が大を兼ねても良いじゃありませんか』



千歳「…きたよ、皆!」

隼鷹「青葉、舵取りしっかりしなよ!あんたが旗艦だ!」

青葉「第一遊撃部隊、出撃ですねぇ?」

潮「えぇ!?」

秋月「なんで疑問系…」

矢矧「もう、締まらないわね!」

青葉「いやぁ、あははは、いっつも取材…もとい皆さんに追従する事が多かったもので、いやはや…」

隼鷹「にっしし、まぁそっちの方があたし等は馴染みがあって良いよ。なぁ、千歳♪」

千歳「ふふっ、青葉がいきなり超真面目になるのはそれはそれで怖いもの。リラックスできて逆に良いわ」

青葉「ちょっとそれどうなんですかぁ!それじゃまるで普段は青葉、怠けてるみたいじゃないですか!?」

隼鷹「ったく、お遊びはそんくらいにしとこうかねぇ」ザッ…

千歳「りょーかい!」ザッ…

青葉「遊び始めたの青葉ですか!?」

千歳「艦載機の皆さんも、行きますよ。第一次攻撃隊、発艦!」バッ

隼鷹「どうせやるなら全力だ全力ぅ!パーッといこうぜ~。パーッとな!」バッ


ビュン ビュン ビュン ビュン ビュン ビュンッ


隼鷹と千歳、二人は一歩前に出ると遠めに未だ見える深海棲艦の一団へ向けて艦攻艦爆を仕掛ける。

それと同時に六人は一斉に駆け出し、相手との距離を詰めて行った。

狙いは既に定まっている。

相手の殲滅ではなく足止めと時間稼ぎ。


泊地棲鬼「チッ、艦攻艦爆…!」

装甲空母鬼「全艦散開シロ!あれハ、私が止メル…!」バッ



提督『先の情報によれば、相手には装甲空母型の通称”鬼“と呼ばれるタイプが存在していたと思われます』

隼鷹『あたし等の同僚でいう所の装甲空母かい』

提督『ええ、実力は折り紙付だと認識して頂ければその脅威は相対せずとも感じ取れるはずです』

千歳『私達軽空母が正面からぶつかっても太刀打ちするのは難しい、か…』

提督『何も正面切ってのガチンコの殴り合いをする訳じゃありません。ただし、相手にそう思わせない事には始まりませんけどね?』

千歳『そう、思わせる?』

隼鷹『なんだい、そりゃ?』

提督『相手に思い込ませるんですよ。こっちには準備が出来ている。邪魔をするなら正面切って相手をしてやるぞ、とね』

提督『相手が誘いに乗ったらそこからが本当の勝負です。周りが異変に気付く前に、こちらの策が弄してある海域まで
相手を引き摺って連れて来なければなりません。正念場ですよ────』



ボボボボボボボボボボンッ


装甲空母鬼「フン、他愛もナイ……むっ!?」

青葉「それで終わりな訳ないじゃないですか、舐めてます?」ジャキッ

矢矧「前に出すぎなのよ」ジャキッ

装甲空母鬼「貴様等…ッ!」


ドン ドン ドン ドンッ

ボゴオオォォォォォォォォォン


装甲空母鬼「グッ…!おの、レ…!」小破

泊地棲鬼「下ガレ、装甲空母鬼!」

隼鷹「ビビッてそれ以上前には出れませんって感じかい?」ニヤッ

千歳「その重厚な装甲はお飾りって事かしら?」クスッ

装甲空母鬼「言わセテおけば貴様等ァ……ッ!!」ブチッ

泊地棲鬼「オイ、装甲空母……」

装甲空母鬼「黙レッ!たかが艦娘風情に、コレ以上ノ恥を晒せと言うツモリか!」

隼鷹「おーおー、怖いねぇ…あたしは素直に下がるけどね」スッ…

千歳「あ、ちょっと、いきなり下がらないでよ!」サッ…

装甲空母鬼「逃げルナ貴様等ッ!」ザッ

泊地棲鬼「チッ…我を忘れタカ。全体、装甲空母鬼の援護に回レッ!」



泊地棲鬼の檄が飛ぶ中、青葉達は互いに顔を見合わせ静かに頷き合う。

隼鷹と千歳は後方へ退きながらも追撃を封殺すべく次発発艦を完了している。

更に前へと出てきた装甲空母鬼の進行を寸断する艦攻艦爆に彼女の怒りは更に募り、噴火しても尚、更なる爆発を引き起こしそうになっていた。

彼女の怒りを垣間見て泊地棲鬼達は完全に艦娘達の動きを見落としてしまった。

その行動が如何に不自然なものか、少し考えれば今の泊地棲鬼達になら理解できたはずだろう。

そこまで思考が追いつかなかったのは、やはり今尚成長し続けているが故の弊害か。

成長し、進化し、完成するまでには月日が掛かる。

それを今この場で悠長に艦娘達が待つわけがないし、気に掛けるはずもない。

一分一秒を惜しんでいる彼女達にとっては、僅かな差異を見極める事に全神経を集中させているのだから。


装甲空母鬼「ソコを退け、駆逐艦風情ガッ!!」ザッ

潮「仲間を傷つけるのはだめです!」ジャキッ

秋月「ここより先は進ませはしません。この秋月が健在な限り、やらせはしません!」ジャキッ


ドン ドン ドン ドンッ

ボゴォォォォォォォォォォォン


装甲空母鬼「グッ…!次から次ヘト、目障りナ…!」小破

潮「分厚い、装甲…!」

秋月「私達の武装では貫ききれない…!」

装甲空母鬼「言った筈ダ、そこヲ退けトッ!」バッ


ヒュン ヒュン ヒュン


秋月「潮さん、私の後ろへ!」バッ

潮「は、はい!」サッ

秋月「やらせはしません!」ジャキッ

装甲空母鬼「ふん、雑魚ガ…!そのまま潰レテ爆ぜろ!」


ダダダダダダダダダダッ

ボボボボボボボボボボン


装甲空母鬼「なっ」

秋月「防空駆逐艦を余り舐めないで下さい。この力で、私は艦隊を守り抜きます!」

潮「」(か、かっこいい!)


装甲空母鬼「その程度ノ火力デ粋がるナヨ、艦娘風情がッ!」

秋月「ふふっ、だったらその自慢の艦載機で押し潰してみればいいじゃありませんか」

装甲空母鬼「何…!?」

潮「でも、他との連携を疎かにしているようでは無理です!」

矢矧「まだ気付けないのかしら?あなた、相当に猪突猛進型ね」

装甲空母鬼「ナッ……」

青葉「単純に互いの戦力差を考えれば自分達が有利だって気付けるもんですけどねぇ…」

矢矧「こちらは軽空母二人に重巡、軽巡各一人ずつ、残りは駆逐艦二人よ」

青葉「そちらは泊地棲鬼に貴女、装甲空母鬼を主軸にした主力部隊じゃないですか?随艦しているのも重巡リ級EL一匹に
軽巡ヘ級EL二匹、正直真っ向からぶつかったんじゃ勝ち目薄すぎますって」

装甲空母鬼「……マサカ……マサカ、貴様等…コノ、私ヲ…!」

隼鷹「今更気付いたかい?」ニヤッ

千歳「時既に遅し、かしらね。潮!」

潮「はい!」バッ

装甲空母鬼「何を…!」

泊地棲鬼「何ダ…!?」

潮「これで、袋のネズミです!」ジャキッ


潮は上空に向けて艤装を掲げると一気に引き金を引く。


ドン ドンッ

パァァァァァァン


装甲空母鬼「クッ…!何だコノ閃光は…!」

泊地棲鬼「マサカ…貴様等ァ…!」



上空へと打ち上げられた閃光弾。

その輝きを忌々しげに眼を細めて睨みつけながら泊地棲鬼はその時に至って漸く全てを理解した。

それと共に以前に黒提督に対して己が零した一言さえも、本当の意味で理解していなかったのだと痛感した。


──己の稚気を理解した──


驕りでしかなかった。

深海棲艦は本当の意味で艦娘には知力で遠く及んでいない。

不測の事態、想定外の連続、その事について艦娘達は驚き、一時の混乱を起こしたに過ぎない。

そして彼の真意に気付いていないが故に、彼女は苦虫を噛み潰したような苦々しい表情で小さく呟くのだった。


泊地棲鬼「何処マデも馬鹿にシテ…!何が好機ダ…!」


黒提督『好機だろう』

泊地棲鬼『何…?』

黒提督『相手も恐らくもう一度攻めてくる事は想定している。その上で策は弄しているだろうがな』

泊地棲鬼『ダガ正面からの突破ハ無謀ダ』

黒提督『ならば側面から突き崩せばいい。正面をそれだけ堅牢にしているのなら、側面は存外脆いものだ』

泊地棲鬼『…イイだろう。貴様の口車に乗ってヤル』

黒提督『受けた借りを返したいんだろう?だったら示して見せろ。貴様が強いと言う事を、この私に』

泊地棲鬼『フン…』


泊地棲鬼「生キテ、必ず貴様ヲ殺しに行くゾ…ッ!!」


そう意を決し見開いた瞳に怒りと憎しみ、そして悪意の炎を滾らせ泊地棲鬼は現れた艦隊にその矛先を向けた。

本日はここまで

長い事放置状態になり申し訳ありません
仕事、体調不良による入院等があり、こちらへの書き込み所ではありませんでした
正直まだ残っていた事に驚きましたが、もう暫くは療養等が必要になるので
更新には相当のばらつきと時間が掛かりそうですが
進められる時は少しずつでも進めていければと思います

以上、簡素ながらご報告になります

~溢れるもの~



-正義-

勧善懲悪。

善を勧め、悪を懲らしめると言うものだが、一般市民からしてみれば海軍と深海棲艦の構図はこの一言に集約される事だろう。

しかし、いつの世も相対するものがなんであれ善と悪では全てを括れない場合が存在する。

互いに信じるものがあり、その信じるものの為に互いの意見がぶつかり合い、交わる事がない為に争いは起こる。

互いが信じるものこそが善であり、各々が秘めるものこそが正義なのだ。

故に、構図は善と悪ではなく善と善になる。

艦娘を要する海軍にしてみればこの海を侵略してきた深海棲艦は敵であり、淘汰すべき存在である。

しかし深海棲艦にしてみればどうなのだろうか。

その存在定義を蔑ろにし、ただ海を侵略したという点と一般人に対して被害が出たという点から海軍は敵と見なした。

そう、これは人間の主観であり、艦娘達の主観なのだ。

誰も深くは考えなかった。

深海棲艦は何処から出でて何処へ向かおうとしているのか。

研究の対象とするには幾らか危険を伴うのも事実だったから敬遠されたのも頷ける。

しかし何を以て危険と判断し、生命の危機と捉えたのか。

対話の余地はなかったのか。

知恵を付け、海軍を翻弄するようになった深海棲艦は最早人にとってただの脅威でしかなくなってしまった。

その矛先をもっと別の方角へ向ける術もあっただろう。

しかし、それをしなかった。

いや、厳密にはさせなかった人物が居る。

恐らくは初めてであろう、深海棲艦との対話の機会を得た人物こそ、対話をすべきではなかった人物なのだ。

言葉巧みに深海棲艦を炊きつけ、己の手先として使役し、この世に混乱を巻き起こそうとしている人物。

この者には、正義と言う言葉自体到底当てはまりはしないだろう。

だが、それでも正義と言う言葉は利便性を兼ね備えた優秀な言葉であり、都合のいい言葉になる。

先にも述べたとおり、各々が秘めるものこそが正義なのだから。

そして、今この瞬間にその正義に目覚めて意を決した深海棲艦が居る。

己の善を布き、それを信じ、そして打ち砕かれた。

それ故に歪んでしまった歪曲した正義。

己の目的を全うすべく、全力を賭す覚悟を決めて包囲されながらも微塵も怖じる事無く仁王立ちの姿勢で眼前を見据える。



泊地棲鬼「……コノ、命尽きるマデ……四肢ヲもがれヨウと、必ず目的ヲ果たす……ッ!掛かって来い、艦娘共ッ!!」

隼鷹「…何なんだい、あいつは…」

千歳「覚悟を決めたって、事なの…?」


ビリッ……


泊地棲姫「オノレ…忌々しい艦娘共メ…このヨウな策ヲ弄し、そうまでシテ我等ヲ深海へと誘おうとスルか…!」


飛龍「前方、青葉達が包囲した泊地棲鬼の様子に異変!」

蒼龍「何、あれは…」

大和「まさか…進化!?」


泊地棲姫「タダでは滅びヌ……私は…滅びぬゾ…!この、力を以て、コノ海に覇ヲ唱え、武ヲ布き、貴様等を根絶スル!
我が名は泊地棲姫、畏怖せぬ者共ヨ、死を超越スルと言うのナラ、掛かって来いッ!ソノ悉くを屠り、今一度……水底へ還ルが良いワ…」


ザッ……


大和「やはり、これまでの敵とは一線を画す相手と見る他ありませんね」

泊地棲姫「ここマデが策か…!」

装甲空母鬼「……誘き寄せ。貴様等、初めカラこれが目的デ…!」

飛龍「青葉達が弱いとは言わないよ。けど、適材適所って言葉があるように、私達にはそれぞれに適した役割があるんだよ」

蒼龍「卑怯、なんて言葉は無しだよ?深慮の浅さが明暗を分けた。私達についてる提督は、そんなに甘くないっ!」

泊地棲姫「…先ノ包囲殲滅デ随艦は制圧されタカ」

装甲空母鬼「ツマリ、我々だけと言うコトか…!」

泊地棲姫「迂回スル事が解ってイタのか」

大和「ええ、概ねは」

泊地棲姫「だが、たったの三匹デ何ヲどうスル?」

大和「見縊って頂くのは構いませんが、己の立ち位置と言うものを把握された上で発言する事をお奨めします」

装甲空母鬼「何…?」

飛龍「単純な足し算と引き算さ」

蒼龍「こちらは三人、そちらは二匹」

飛龍「3-2は1…この時点で数では私達が有利」

装甲空母鬼「フッ…世迷言ヲ…」

大和「次に武装の有無です」

泊地棲姫「……チッ、そう言う事カ」

装甲空母鬼「…オイ、何を納得シテ…」

飛龍「うちの大和が君を抑える。私と蒼龍で、君を抑える」



飛龍は人差し指を順々に指しながら泊地棲姫と装甲空母鬼に指先を向けて答える。

想定を越えた進化。

しかしそれに怖じる訳にはいかない。

青葉達が作った決死の舞台。

味方が用意してくれた土俵なのだ。

そこを敵に譲る訳にはいかない。


大和「青葉さん、皆さん。後はお任せ下さい。ここより先は、この大和型一番艦戦艦大和が率いる私達が推して参ります!」ザッ…

泊地棲姫「殺ス…ッ!!」ザッ…


この日、提督の指揮の下に作戦を実行した大本営陣営は大勝を収めた。

難敵の通称”鬼“や”姫“と呼ばれる上位の深海棲艦を複数葬り、内一匹は捕虜として捕縛するに至ったのだ。


提督「…………」

武蔵「どうした、随分と険しい顔じゃないか。結果だけを見れば大勝じゃないのか」

提督「ええ、結果だけならば、確かにそうですね」

武蔵「つまりはそう言う事かよ」

提督「ええ、腑に落ちない。と言うのが正直なところでしょうか。同時に、彼女には些かの同情を隠しきれませんね」

武蔵「鬼の目にも涙ってわけかよ?」

提督「君は本当に僕を何だと思っているんでしょうかねぇ…」ムスッ…

武蔵「くくっ、何度目になる問答だよ。大喜利にすらなってないぞ」

提督「僕は大喜利をしているつもりはないんですけどねぇ」

武蔵「はいはい。それでも、この勝利はでかい…だろ?」

提督「ええ、皆さんを鼓舞するには十二分の成果と効果を持っている事でしょう」

武蔵「だったら今はそれで良いじゃないか。小難しい話は提督陣営だけでやってくれ。出された結果と概要に沿って私等は動くだけさ」

提督「やれやれ、自分の頭で整理が追いつかないと直に投げ出す。君、この悪癖は余り付けない方が身の為ですよ」

武蔵「うーるっさいなぁ。私は考えるより体動かしたいタイプなんだよ。ほっとけっての」ムスッ…



瑞鶴「あの二人ってさー、仲が良いのか悪いのか、良く解んないよねー。ねぇ、翔鶴姉はどう思う?」

翔鶴「どうって…いつも通りに見えるけど?」

翔鶴「それよりも瑞鶴、艦載機の手入れは終わったの?」

瑞鶴「あっ、やば…!」

翔鶴「全くもう…ちゃんと整備して、試運転も済ませておくのよ」

瑞鶴「はいはーい…っと、よし!それじゃ行ってくるね!」タッタッタ…

翔鶴「はぁ、本当にもう、あの子ったら…」


瑞鶴「うーん…と、ひーふーみー……うん、ちゃんと揃ってる♪あとはっと…ん?」チラッ


場所を浜辺近くに移し、瑞鶴は武装の点検と艦載機の点検及び整備を行っていた。

本来であれば弓道場などで行う事が空母達にとっては通例だが瑞鶴は海風に当たりながらが好きらしい。

以前にそれで加賀と衝突もしているが、このスタイルだけは変えていない。

そんな場で瑞鶴の視界に二つの陰が映り込み、それに視線を向けて見る。


木曾「おら、でち公!もっとこっちだ!」

ゴーヤ「でち公っていうなでち!」バシュッ


サッ……

パァァァァァァン


木曾「へっへっへー、当たりませんってな」ニヤッ

ゴーヤ「むっか~…!」

瑞鶴「あれって、木曾とゴーヤ?何してるんだろ…」

ゴーヤ「当てるでち!」サッ

木曾「あたっかよ、ばぁか♪」ヒョイッ


パァァァァァァン


ゴーヤ「むきーっ!」

木曾「っしょっと…お、何だよ瑞鶴、居たのか」

瑞鶴「あぁ、うん。何してたの?」

木曾「ん、おおこれか。へへっ、こいつの練習相手みてぇなもんだ」ポンポン

ゴーヤ「んあー、頭叩くなでち」ブンブンッ

瑞鶴「二人ってホント仲良いよねぇ」クスッ

木曾「んん?あぁ、まぁ腐れ縁みてぇなもんか?」

ゴーヤ「ゴーヤと木曾は同時期にこの鎮守府に着任した艦娘でち。その頃からの仲でち?」

木曾「まぁ、そうなるな。なんでかしんねぇけど、こいつとはウマが合うんだよ」ニヤッ

瑞鶴「へぇ、そうだったんだ」

木曾「んで、お前はここで何してんだよ」

瑞鶴「こーれ」スッ…

ゴーヤ「艦載機?」

瑞鶴「そっ!整備と調整、あとは微調整して最後に試運転して終わりかな」

木曾「くくっ」

瑞鶴「な、何よ」

木曾「いや何、板についてきてんなって思ってよ」

瑞鶴「?」

木曾「その、なんだ…加賀はよ、まだ目覚めてねぇだろ。けどよ、こうしてお前がその分踏ん張ってよ、赤城と肩並べて第一部隊を引っ張ってってる。
翔鶴は隼鷹や千歳、軽空母組を統率して第二部隊の空の目をきっちりこなしてる。すげぇよなって思ってよ。何より、あの提督が本気出してからは
目を見張る活躍振りだ。正直嫉妬しちまうぜ」

ゴーヤ「ゴーヤ達はどうしても後方支援や事後処理、偵察任務が殆どでち」

木曾「花形はどうみたって最前線!戦場の真っ只中だ。無論、危険も多いし死のリスクも付き纏う。当時は旗艦だつっても第三部隊って事で
不満も多かった。俺にだって第一で駆けるだけの実力はあんのに何でだよってさ」

瑞鶴「木曾…」

木曾「でもよ、そんな時にこいつが言ったんだよ。ゴーヤ達は縁の下の力持ち、いざと言う時の最後の砦なのでちってな」ニヤッ

瑞鶴「最後の、砦…」

ゴーヤ「そーでち!てーとくも言ってたんでち。皆さん第三部隊が役割を全うしているからこそ、第一第二部隊は何の憂いもなく前線に立てるんですよって」

木曾「この世に不要なモンなんてのはねぇ。あの提督はそう言ったんだ。だからよ、お前等は前だけ見とけよ。後ろは俺等がきっちり固めてやっからよ。
なぁに、加賀だって今までクソ真面目に早寝早起きでちょっと遅めの反抗期迎えて寝過ごしてるだけだ。直にお前に悪態つきに舞い戻ってくんだろうよ。
あいつが戻ってきた時に、前と変わってたら戸惑っちまうだろ。ん、いや……良い意味でなら変わってても良いのか?」

ゴーヤ「どっちでもいいでち。木曾は回りくどいんでち」

木曾「う、うるせぇ!」

ゴーヤ「木曾は『ガンバレ』って言いたいだけでち♪」

瑞鶴「がんばれ…?」

木曾「ばっ、おまっ……!///」

ゴーヤ「ふふっ、瑞鶴は今のままでいいんでち。木曾も言ってたでしょ、加賀さんだって直に戻るって」

瑞鶴「う、うん」

ゴーヤ「だから、瑞鶴は前だけ見てて欲しいでち。後ろは、ゴーヤ達がガッチリ固めておくんでち!」

木曾「普段通りにしてるつもりだろうけどよ…バレバレだぜ、お前。もちっと周りに頼る事を覚えんだな。周りはお前が思うほど迷惑には感じちゃねぇよ」

木曾「一人じゃたりぃ事でも、二人三人でやりゃあちったぁマシになる事もあんだろ。っしゃ、そんじゃ戻るかゴーヤ」

ゴーヤ「うぃー!」

瑞鶴「あ、あのさ!」

木曾「あん?」

瑞鶴「ありがとね、木曾…それからゴーヤも!」

木曾「……へっ、礼はいらねぇから代わりに実績残しといてくれよ」

瑞鶴「ふふ、りょーかい!」


ザザァァァ……


三人がその場を後にするその遥か後方。

規則正しく波打つ海に六つの黒い影が静かに蠢く。

今、静かに第二幕の鬨の声が上げられようとしている。

今回はここまで
保守ありがとうございます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月14日 (木) 08:51:32   ID: ZgLhZ-oP

これは見入るSSだね!

2 :  SS好きの774さん   2016年08月04日 (木) 12:37:01   ID: FeoQfTIu

これは良いSS
更新頑張ってください!

3 :  SS好きの774さん   2017年01月17日 (火) 08:25:47   ID: rMQFi0Yl

この方の書くものは毎回面白い!

4 :  SS好きの774さん   2017年01月18日 (水) 01:31:37   ID: ClWqBw_K

右京さんみたい

5 :  SS好きの774さん   2017年10月18日 (水) 18:20:16   ID: UgRSwC5I

はよ続きを!

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