【ディケイド】門矢士「風が見守るあの街で」【デレマス】 (122)

※注意

・仮面ライダーディケイドとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ディケイド寄り
・地の文有り
・他ライダーとのクロス要素もあり

[前回]→【ディケイド】門矢士「このライダー、ドライバー」【デレマス】
【ディケイド】門矢士「このライダー、ドライバー」【デレマス】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454587827/)


○これまでのあらすじ

新たな世界を訪れた門矢士=仮面ライダーディケイドたち。
ここで士に与えられた役割は「アイドルのプロデューサー」だった。

個性豊かな14人の少女、そしてプロデューサーと出会った士は、
自分の本当の役割が「守護者としてこの世界を守ること」だと知る。

そのために必要な6枚のライダーカードは、いずれもブランクだった。

そんな中、仮面ライダードライブ=泊進ノ介と出会った士は、
彼と力を合わせて強敵を倒し、世界の平和を守ることに成功する。

残るライダーカードは、5枚。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459250306



第11話 Clash to C and R / Welcome to “Windy city”.



「……時代はネコミミを求めてるにゃ」

「はぁ?ロックでしょ」

「ネコミミ!」

「ロック!」

「ネコミミぃ~…!!」

「ロックぅ~…!!」

みくがネコミミを持った両手を突き出すが、李衣菜は拒むようにその手を押し返す。

が、負けじとみくも押す。李衣菜も押し返す。

士「…不毛だな」

シンデレラプロジェクト“最後のユニット”の2人のケンカを眺め、士はそっとため息を吐いた。



シンデレラプロジェクト14人中、これまでに12人がデビューした。

いよいよ残すところはあと2人、前川みくと多田李衣菜。

大方の予想では、2人は蘭子同様にソロとしてデビューするのではないかと見られていた。

2人がそれを望んでいたのもあるし、何より。


みく「李衣菜チャンと?いやいや、流石にないにゃ」


李衣菜「みくちゃんと?いやいや、流石に私には合わないでしょ」


お互いに相性が悪い。組ませても空中分解するだけだとほとんどが感じていた。



感じていたのだが。


「「ユニットデビュー!?」」

P「はい」

李衣菜「私たち2人で?」

P「はい」

プロデューサーは、しっかりと頷いた。

みく「なんでっ、ありえないにゃあ!」

李衣菜「どう考えても合わないと思うんですけど…」

P「そうでしょうか…」

李衣菜「ねぇ、士さんもそう思いますよね?私たちはソロの方が良いって!」

士「………………」

士は、目を閉じ腕組みしたまま口を開かない。

みく「だから、士チャンからもPチャンに言ってほしいの!」

士「…………………」

士は、腕組みしたまま口を開かない。

李衣菜「…あ、あの、士さん。聞いてます…?」

士「……………………」

士は、口を開かない。

みく「ちょっと士チャン!いつもお喋りなのに今日はどうしたんだにゃ!?」

その言葉に、士はやっと口を開いた。

士「あまり喋らない日があってもいいだろ。自由ってのはそういうもんだ」

李衣菜「は、はい…?」

みく「……何かいいこと言った風にしてるだけにゃ!」

再び士は目を閉じ、腕組みをして、口を噤んだ。これからも、喋る気はないのだろう。

みく「…どうやら、士チャンは当てにできないみたいにゃ…」

李衣菜「みたいだね…」

2人は、揃って肩を落とした。

そこから先に回復したみくが、決然とした表情になって口を開く。

みく「……あのね、Pチャン。みくはキュートでポップなネコミミアイドルを目指してるんだから……、だから……!」

みく「ロックなんてお断りにゃああぁぁぁーーーっ!!フンッ!」

士「…………………」

やれやれと首を振った。こんなことを言われた李衣菜の反応は、容易に想像できる。

李衣菜「~~~っ!!」

わなわなと震えた後、李衣菜もまたはっきりと言った。

李衣菜「こっちこそっ、ネコミミなんてお断りだしっ!!フンッ!」

今度はみくが震える。

2人は相手を睨み、そして同時に背中を向けた。

プロデューサーは困惑しつつも話を続ける。

P「…既に、曲も出来ているのですが…」

「「えっ!?」」

プロデューサーが、2人のユニットの曲、になる予定の曲を再生する。

みくと李衣菜は、じっとその音に耳を澄ませた。


P「お2人のイメージを窺ってからと思い、歌詞はまだつけていませんが…、どうでしょう」

聞くまでもない。2人の気持ちは表情が完璧に表しきっていてくれた。


そして話は、冒頭のケンカへと戻っていく。

みく「あの曲にはネコミミダンスがぴったりにゃあ!」

李衣菜「ロックなアレンジの方がカッコいいでしょ!?」

士「……ハァ」

今度は、周りにも聞こえるようため息を吐く。

だが、それを聞かせてやりたい2人には、相手の言葉以外はまったく耳に入ってこないようだった。

それから数日。
みくと李衣菜はプロデューサーから指示を受け、揃ってレッスンや仕事に足を運ぶことが増えた。

相手とは気が合わないながらも、いざレッスンだ仕事だとなると、この2人は不思議なくらい息が合う。
それでもう少し器用に、少し相手に譲る気さえあればどれほどか楽になれるのだが、あいにくどちらも主張を譲る気は無いらしい。

卯月「みくちゃんと李衣菜ちゃん、最近レッスンもお仕事もずっと一緒なんですよね」

美波「CDデビューの前に、チームワークを高めようって事みたいだけど…」

みりあ「5分に1回くらいケンカしてるよ」

プロジェクトメンバーも、その行く末を案じていた。

杏「そこまでして仕事したいのか…。凄いなぁ…」

未央「何でプロデューサーは、わざわざあの2人を組ませたのかな?」

そこに、資料を手にした士がプロジェクトルームに現れた。

未央「おっ、つかさん!丁度良いところにー♪」

士「あ?どうかしたか」

みりあ「あのね。私たち、どうしてプロデューサーたちが、みくちゃんと李衣菜ちゃんを同じユニットにしたのか、気になってるんだ」

卯月「あの、良ければ教えてもらえませんか?」

彼女たちの視線が、一気に士に集まる。

士「……ノーコメント」

しかし、士はそれに答えようとはしなかった。

「「「えーーっ?」」」

莉嘉「なんでなんで?士くんのケチー」

士「言ってろ。俺はアイツに用があるんだ」

そう言って話を無理やり終わらせ、士はプロデューサーの部屋へ入って行ってしまう。

未央「つかさん、出てきたら教えてくれるかな?」

美波「どうかしら…。士さん、タイミングに関わらず、答えそうにないと思うけど」


それから15分ほどして、士はプロデューサーの部屋から出てきた。

彼の元へ、莉嘉とみりあが駆け寄る。

みりあ「ねえ士さん、さっきの質問なんだけど、教えてくれないかなぁ」

士「…………ノーコメント」

みりあの純粋な目に一度引き、それでも士は答えようとはしなかった。

士「……聞きたいならアイツに聞け」

そう言って、士はさっさとプロジェクトルームから出て行ってしまった。

未央「もー。あれじゃちょっと前のプロデューサーと一緒じゃーん」

莉嘉「じゃあ、Pくんに聞いてみようよ!アタシ、聞いてくる!」

みりあ「私も行くー!」


一方プロデューサーは自室でPCに向かい、士から渡された資料を基に入力を行っていた。

『346production IDOL FES 【仮】 企画書』

そう銘打たれた企画書には、これまでシンデレラプロジェクトからデビューしたユニットの名前が並ぶ。

new generations。

LOVE LAIKA。

ROSENBURG ENGEL。

CANDY ISLAND。

凸レーション。

そして、未だ結成にも至っていない前川みくと多田李衣菜のユニット。

P「…………」

首の後ろを触り、プロデューサーは短く、記号のみをタイプした。

『・*』



「「アイドルフェス!?」」

P「っ」

横からの声に、手が止まる。

そちらを見ると、莉嘉とみりあが、いつの間にか部屋に入ってきていた。

莉嘉「そんなのあるの!?」

みりあ「わぁ!みんな出られるの?」

P「…まだ、企画段階です。いずれ私と門矢さんの方からきちんと発表しますので、あまり大騒ぎしないでください」


未央「アイドルフェス!?」

しかし、はしゃぐ11才と12才に、それを守ることなど出来るはずもなかった。

みりあ「うん!ちゃんと書いてあったもん!」

かな子「わぁ~!みんなで同じステージに立てるなんて…!」

初めてのフェスへの期待に一同が胸を膨らませる中、みくと李衣菜が戻って来た。

李衣菜「ん、みんなどうかしたの?」

莉嘉「李衣菜ちゃん!フェスだよ、フェス!」

李衣菜「ふぇす…?」

みりあ「うんうん!みーんなで同じステージに立って、歌えるんだよ!」

みく「おおぉ……!ついにネコミミブーム到来にゃ!」

李衣菜「ロックの魅力をみんなに伝えるチャンスかも…!」

「「む……、フンッ」

フェスと言う大舞台を見据えてもなお、2人の反りは合わなかった。

未央「とことん気が合わないね…」

凛「でもフェスってユニット単位での参加なんでしょ?もしみくと李衣菜のコンビが上手く行かなかったら、2人は出れないんじゃない?」

みりあ「えーっ、みんなで出ないのー?」

李衣菜「ま、まさか…」

みく「でも、もしかしたら…」


他のみんなが立つステージに、自分たちだけは立てないかもしれない。


流石にそれには危機感を覚えたのか、2人はより一層仕事、レッスン、オーディションなどに励むようになった。

ただし相手の主張に対して譲ること、自分の主張を曲げることは、決してなかった。

お互いに反発したまま、時間だけが過ぎていく。

2人のユニットデビューの話が持ち上がって2週間は経つというのに、ユニット名どころかユニットの正式結成さえ行われていない有様だった。

このままでは本当にまずい、シャレにならないと危機感を覚えたみくと李衣菜は、ついにプロデューサーへの直談判に打って出る。

みく「Pチャンお願いにゃ!」

李衣菜「ユニットじゃなくて、ソロでデビューさせてください!」

P「…………」

みく「そもそも、何で組ませようと思ったの?」

李衣菜「余ってる2人だから、適当にくっつけようってこと?」

李衣菜の問いに、プロデューサーは立ち上がって即答した。

P「そんなことはありません。相性の良いユニットだと思います」

「「……ないない!」」

言葉とは裏腹に、2人の返事は息ぴったりだった。

P「どうしても無理と言うことでしたら、仕方ありませんが……」

「「……!」」

P「その場合、どちらかお1人のデビューは後回しと言うことに……」

「「えっ」」

デビューは後回し。デビューは後回し。後回し。後回し。

最後までデビューできずにいて、ようやくその機会がやって来たと思いきや、
コンビが上手く行かなければ、今度こそ1人きりでのラストデビューになってしまう。これ以上の順番待ちは、流石にしたくない。

その上、フェスへの参加まで怪しくなる。これはいよいよ、2人にとって四の五の言っていられる状況ではなくなってきた。

みく「まずいにゃあ。このままだと、どっちか1人しかフェスに出られないかも…!」

李衣菜「そんな!どうするの?」

みく「みくは絶対出たいにゃ!」

李衣菜「私だって絶対出たいに決まってるでしょ!」

P「どうしました…?」

図らずも、ここでの2人の気持ちは完璧に一致していた。

お互い、自分のために何とかデビューへの道を守ろう、と口が動く。

みく「よく考えたら、ユニットも悪くないにゃ!もう一回試してみようかなーって!」

李衣菜「そうそう、もう一回!私たち、お互いのことまだ良く分かってないと思うし!」

みく「うんうん!コミュニケーション不足にゃ!」

「…ハハハハハ……」

「「っ!?」」

突然後ろから聞こえてきた笑い声に振り向いた2人。

目の前には、士がいた。腕組みをして笑ったままの。

士「お前たち、ハハハ……、本当に面白いな……ハハハ」

李衣菜「ちょ、ちょっと!面白いって何ですか士さん!」

みく「そうにゃ!みくたち、すっごくマジメなんだからね!?」

士「そうかそうか、あれで真面目か…っくく」

「「ぎくっ」」

士は、2人がデビューへの打算からああ言ったことを、しっかりと見抜いていた。

莉嘉「士くん、笑いすぎだよー」

士の後ろから、莉嘉が顔を出す。更に、開いたドアの向こうには卯月とかな子も。

莉嘉「仲良くなりたいなら、一緒に住んじゃえば?」

みく「うぇっ!?」

莉嘉「アタシ、お姉ちゃんと一緒に住んでるから、すっごく仲良しだよ?」

卯月「それ、いいですね!」

かな子「みくちゃんは寮に住んでるから、李衣菜ちゃんが泊りに行ってみる、とか?」

話を聞きつけ、きらりもやって来た。

きらり「にょわぁ~!面白そうだにぃ☆」

「「…………」」

その場の思い付きから出た言葉が、周囲の提案であれよあれよと膨らんでいく。

P「……いいアイデアかも、しれません」

「「なぁ…………!」」

そして、プロデューサーの言葉によって、2人はもう引き返せなくなってしまった。

士「くくくく……。精々頑張れよ」



士「……忘れるところだった。お前、さっき来た連絡事項には目を通したか?」

P「いえ、お2人と話をしていましたので。何かあったのですか?」

士「ああ。今すぐ目を通せ」

P「分かりました」

莉嘉「何かあったの?」

士「後で話す。お前らは一旦ここから出ろ」

「「「はーい」」」

6人の少女たちは、プロデューサーの部屋を後にする。ドアを閉めてから、士は口を開いた。

士「確認できたか?」

P「…はい、了解しました。これは……」



P「皆さんに、一点連絡事項があります」

莉嘉「なになに?」

みりあ「あっ、もしかしてフェスのこととか!?」

士「…残念だが、真逆のかなり悪い話題だ」

「「「えっ……?」」」

士もプロデューサーも、何か大切なことを伝えようとしているのが分かる、真面目な顔をしていた。

P「…これからしばらく皆さんには、お1人での夜間外出を控えていただきます」

きらり「どういうことぉ?」

士「ここ最近、都内の芸能事務所所属の若手ミュージシャンたちが、相次いで音信不通になっててな。それも複数の事務所で、だ」

士「表向きは体調不良、一応は行方不明ってことになってるが、期間に比して数があまりに多い。
だから、何らかの事件に巻き込まれたんじゃないかと専らの噂だ」

智絵里「じ、事件……」

P「まだ、他のアイドル事務所で行方不明者が出たという話は聞きません。しかし、こちらでも同様のことが起きないとも言えません」

P「皆さんの身の安全を守るための措置です。何卒、理解と協力のほどをお願いします」

「「「はい…」」」

士「………………」


プロデューサーの部屋に、士はいた。

その士に、首の後ろを手で押さえたプロデューサーが問う。

P「あの、門矢さん。今回の件について、警察の方の協力は仰げないでしょうか」

士「…進ノ介か。ハッキリ言っておくぞ、無理だ」

P「……………」

そう言って、士は携帯の画面をプロデューサーに見せる。そこには電話の着信、送信履歴が表示されていた。

先日のイベントの日に、進ノ介の番号からの着信と、士からの送信の履歴が残っている。
それ以降、士から何度か進ノ介の方へ電話をかけているのが確認できた。

士「見ればわかるだろうが、俺はあの日以降何度か進ノ介に電話を掛けた」

士「だがな、全て圏外で繋がらなかった。同じ都内にいるはずなのに、な」

P「もう、彼のいる世界とは繋がっていない、と言うことでしょうか」

士「……お前もだいぶ順応してきたな。その通りだ」

ドライブの世界と繋がっていた影響は、次の日には全て消えていた。
ロイミュード事件は報道されず、仮面ライダーのことは誰も知らない。
全てが元通り。世界は何事もなかったかのように回り続けていた。

士「…だが、繋がっていたことまで無くなったわけじゃない。これが証拠だ」

士はポケットからカードを取り出す。それは先日力を得た、ドライブのカード。

士「証拠はあるが、今は繋がっていない。ヤツの助力に関しては諦めろ」

P「はい」



雨降りのある日、1人の男性がプロジェクトルームを訪れた。

P「歌えるアイドル、ですか」

イベントプロデューサーだと言う彼は、プロデューサーと士に名刺を渡し、事情を話し始めた。

「はい。2日後のイベントなのですが、現地で歌ってもらう予定だった方たちと、連絡が付かなくなっちゃいまして……」

連絡が付かないとなれば、それは例の行方不明事件のはずだ。

士「…またか」

「…はい。ですが、そのままにはしておけませんので…」

「どなたか346プロさんの方で代役を立てていただけないかな、と思ったのですが…」

プロデューサーが首の後ろを手で押さえ、士がため息を吐く。

事情は汲む余地があるが、流石に急に2日後のスケジュールを空けられるユニットは1組もいない。
これから忙しくなる時期、仕事はしっかりとこなしていかなければならないのだから。

2人の反応を見て、男性の方も無理を悟ったらしい。静かに、頭を下げた。

P「すみません。何分、急な話なので……」

プロデューサーが応接室のドアを開け、退室を促す。

彼の目の前には、前川みくの姿があった。

みく「あ、あのっ!」

「…?」

みく「そのお話、みくたちにやらせてもらえませんか!?」

李衣菜「…えっ!?」

士「…ほお」


あの後、男性はすぐにみくたちのステージ登壇をOKした。

そして、その決定に関して、プロデューサーと士は一言も口を挟まなかった。

李衣菜「2人で歌ったことなんて一度もないじゃん!何であんなこと言ったの?」

プロデューサーの部屋で、李衣菜がみくを問い詰める。

みく「ごめんなさい…。でも、チャンスを無駄にしたくなかったの」

李衣菜「チャンス…?」

みく「みくたち、まだ一度も纏まれてないでしょ?」

李衣菜「っ」

みく「アイドルフェス、みくだって出たいよ。でも、だから無理やりユニット組むなんて、やっぱりダメだよ…」

みく「プロデューサーが組ませてくれた意味、今納得しておきたい。
もし、これでやっぱりダメだって分かったら…、李衣菜チャンに先にデビューしてほしいの」

『デビュー出来ないかもしれない』という不安を爆発させた少女が今、場合によっては自分より他人のデビューを優先する、と言った。

どれほど勇気のいる決断だっただろうか。そこまで推し量る術は、いかに士が多芸だからと言えど、持っていなかった。

しかし気持ちがそうでも、今2人には現実的に立ち向かわなければいけない壁がある。

P「…イベントは2日後です。曲があっても、まだ歌詞はついていません」

士「それをどうにかしない限り、ステージに立っても出来ることはないぜ」

みく「そ、それは……」

現実的な壁に直面し、みくが俯く。

しかし、みくが開いた道を行くために、それに対しての解決策を李衣菜が出した。

李衣菜「…2日で作ればいいんでしょ、歌詞」

みく「李衣菜チャン…」

士「ほう。実際に出来るのか、多田」

李衣菜「作詞とか興味あったし。…それに、私も気持ちは同じだから」

2人の視線が交わる。

そこで2人は、初めて相手から目をそらさずに、しっかりと見つめ合った。

これ以上、言葉は必要ないだろう。後はこちらがなんとか応える番だ。

P「…本気、なのですね」

「「はい!」」

P「分かりました。衣装と曲の方は何とかします。門矢さんも、協力をお願いできますか」

士「いいだろう。俺を働かせた分の活躍は期待させてもらうぞ」

P「ありがとうございます。お2人は、当日の朝までに歌詞をお願いします」

「「はいっ!」」

雨降りの中を、1分1秒を無駄にしないように、2人は女子寮へと駆けて行った。


士「…お前が言う以上は、俺たちも取り掛かるとするか。抜かるなよ」

P「はい。門矢さんこそ」

士「フッ、お前も言うようになったな」

プロデューサーの部屋から出た士は、イベントプロデューサーが置いて行ったイベントのチラシに目を通す。





「サマーステージ…。場所は“風都”、“風都タワー前”…か」



雨は止み、雲一つない青空に、気持ちのいい風が吹き抜ける。


真夏日和に、士、プロデューサー、みく、李衣菜の4人は風都へやって来た。

みく「んん~~~っ…!風が気持ちいにゃ~」

士「“風”がPRポイントになるような都市だからな。この街の電力の多くは風力発電で賄われてる。その最たるものがアレだ」

士の視線の先にあるのは、巨大な風車。街のどこからでも見えそうなほど巨大だ。

士「アレが、今日お前たちの立つステージがある“風都タワー”だ」

李衣菜「へえ~…。士さん、詳しいですね。私、こんな都市があるなんて知りませんでした」

みく「勉強不足…って言いたいところだけど、みくも知らなかったにゃ」

士「知らなくて当然だ。この都市は、この世界には無いからな」

頭にクエスチョンマークを浮かべるみくと李衣菜。

しかしプロデューサーは、その言葉の意味を正しく理解していた。

P「ということは、また…?」

士「ああ。別の世界と繋がってる」

P「……ッ」

凸レーションの時の事件を思い出し、思わずプロデューサーの全身に力が入る。

しかし、士は軽く鼻で笑って歩き出した。

士「ぼさっとするな、行くぞ」

「「はい!」」

士に続いて歩き出すみくと李衣菜。

P「あっ……」

それに置いて行かれないよう、プロデューサーも後を追って歩き出した。


そんな彼らの様子を、離れたところから見ていた男がいた。

「ああ、もしもし?駅前で目つきの悪い男が、若い女の子たちの後を追ってくのを見かけた」

「…ああ、これから追跡する。いかにも怪しいからな。…ああ、じゃあな」

男は通話を終えると、プロデューサーの後を追って歩き出した。


士を先頭に、その後ろにみくと李衣菜、3人を追うプロデューサーと、さらにそれを追う謎の男。

距離を空けて歩く謎の5人(特に後ろの悪人面と、挙動の怪しい男の2人)は、
周囲から視線を集めながら、目的地である風都タワー目指して歩を進めた。


みく「うわぁ…!すっごく大きいにゃ…!」

李衣菜「うわ、てっぺん見えない!でっかい!」

4人(とその後ろをつけている1人)の前に、街のシンボル風都タワーがそびえる。

その下では、既にイベントが始まっており、着々と人が集まって来ていた。

P「もう始まっていますね。奥へ行きましょう」

今度はプロデューサーが先頭になって、4人はバックグラウンドへ入った。




一方、4人をつけてきた男は再び携帯を取り出すと、どこかに電話を掛けた。

「ああ?あの男、関係者入り口から入ってった、ってことは…、怪しい奴じゃねえか」

『まったく、人を見かけで判断した上に、彼は怪しい人物でも何でもないとは。それだから君は半熟なのさ。わかるかい?』

「だーっ!せーな、んの野郎!」

『声だけで言えば君の方がうるさい。切るよ』

「ああおい待て待て。の前によ」

『どうかしたのかい?』

「今日のイベントだ。お前も出てきたらどうだ?」

『ふむ…。そうだねぇ、何かが検索にかからなければ、そうさせてもらおうか』


「あっ、346プロさん!本日は本当に、ありがとうございます…!」

バックグラウンドのテントへ入った4人を、例のイベントプロデューサーが出迎えた。

みく「今日はよろしくお願いします!」

李衣菜「よろしくお願いします!」

「いやあ、急なところに入ってもらっただけでも感謝の極みですよ!それじゃ準備の方、お願いしますね!」

「「はい!」」

イベントプロデューサーはとにかくぺこぺこと頭を下げて、テントから出て行った。

士「……さて、俺たちはやることやったが、お前たちはどうだ。歌詞は出来たか?」

李衣菜「もちろん!」

みく「にゃ!」

2人が差し出した歌詞カードを受け取り、プロデューサーと士は共に目を通す。

P「………………」

士「………………」

みくと李衣菜は、固唾を飲んで、2人の言葉を待つ。

プロデューサーが歌詞カードをめくり、士の目が素早く紙面を走る。

そして、最後の1枚をめくり、歌詞をすべて読み終えた2人が、口を開いた。

P「…お2人らしい、良い歌詞になったと思います」

士「…フ、言うだけのことはある。中々悪くない」

「「……!」」

P「リハに十分な時間は取れませんが、いけますか」

「「はいっ!」」

士「なら、後は任せる。…っと」

士の携帯が震えた。

士「…島村たちが到着した。迎えに行ってくる」


バックグラウンドから出て来た士の姿を、男が見ていた。

「…アイツ…!」

驚愕の表情になった男は、再びどこかへ電話を掛けた。

『何だい。そんなに催促しても、行くか行かないかは僕が決め―――』

「アイツだ。ディケイド…、士がいた」

『―――興味深い。すぐそちらに向かおう』

「ああ。こりゃひょっとすると、ひょっとするぞ…!」


蘭子「仮面の戦士よ!」

卯月、凛、未央、蘭子、アナスタシアの5人は、駅前ですぐに発見できた。

未央「つかさん。みくにゃんとリーナ、どんな感じ?」

士「確かめたいなら、早く行くぞ。あと15分も無い」

アーニャ「オー、それは大変、ですね。早く会場、行きましょう」

5人を引き連れ、士は来た道を引き返し始めた。


10分ほど歩いて、士は再びイベント会場に戻って来た。

未央「おお!お客さんいっぱいいるね!」

士「……お前から、そんな言葉が聞けるとはな、本田」

未央「えちょっ、どうしたのつかさん」

士「お前も、成長してるのか……」

卯月「わ、わあぁ!士さんっ、泣かないでください!」

俯き、目元を隠す士。その上、嗚咽まで聞こえてきた。

未央「ちょちょちょっ!つかさん、いつもみたいにからかってくれないと、何か調子狂うじゃん!」

士「ああ、だから泣いてないぞ」

そう言って顔を上げた士の顔は、少しニヤけていた。

凛「わっ、立ち直り早い…」

アーニャ「ツカサ、крик…泣いてなかった、ですね?」

アーニャも、いたずらっぽく笑う。

卯月「えっ!?」

よく見れば、士の目元に濡れた痕はない。要は、めちゃくちゃ上手いウソ泣きだった。

未央「あーっ!また遊ばれたーっ」

士「ハッ、ウソ泣きも見抜けないようじゃまだ甘いな」

未央「ぐぬぬぅ……」

士「……あ?」

そうやって遊んでいる中で、士は自分に向けられた視線を感じ取った。

周囲のアイドル5人ならまだしも、なぜ自分が。

敵かと考え視線の位置を探ろうとするが、相手も中々慣れているようで、それを辿ることが出来ない。
それどころか、この街の全てから見られているような気さえしてくる。

士「……まあいいか。俺は向こうに戻るぞ」

が、所詮は視線を感じる程度。見られているからと言って、士が動揺するようなことは何もなかった。


バックグラウンドに入った士。

いよいよステージ衣装に着替えたみくと李衣菜が、袖で待機していた。

みく「あっ、士チャン!」

士「…準備は出来たか」

李衣菜「はい!バッチリです!」

士「…なら、楽しみにさせてもらうぜ」

2人の間を通り、通りすがりに肩を軽く叩く。

士「行ってこい、猫とロック」

「「はい!」」



「「いぃいえぇーーーい!」」

「みく!アーンド」

「李衣菜です!ヨロシクー!」

拍手はまばら。反応も薄い。悲しいが、知名度0の2人にはそれも当然だった。

しかし、2人は退かない。

みく「みんな元気にゃー!?今日は、いっぱいいっぱいいーっぱい!みくたちの魅力をお届けしちゃうにゃあー!」

李衣菜「みんなー!最後までついてきてね!」

みく「それじゃあ、元気出していくにゃ!みんなで、『にゃー!』って言ってね!」

李衣菜「それじゃあいっくよー!せーのっ!」


「「にゃあーーー!」」


『『『にゃあー……』』』

李衣菜「あれー?おっかしいなー聞こえないよー!?
このみくちゃんのネコミミにしっかり届くように、おっきな声でねー!」

みく「じゃあ、もう一回いくにゃあ!せーのっ!」


「「にゃああーーー!」」


『『『にゃあー……!』』』


二度目の観客の反応も、先ほどよりは良くなっているとは言え、まだまだ盛り上がっているとは言い難い。

不安げな2人の瞳が、プロデューサー、そして士と交わる。

プロデューサーはただ、頷いた。

士はただ、ニヤリと笑った。

そこに言葉は無い。だが、2人の気持ちを、みくと李衣菜はしっかりと受け取った。


しっかりと頷き返し、力強く笑う2人の瞳には、不安も迷いも無かった。



「「にゃあああああああーーーーっ!!」」



精一杯の声が、会場いっぱいに響き渡る。


みく「もう一回行くにゃ!」

右手を空へ伸ばし、天を指さす李衣菜。それに合わせて、彼女たちの曲が始まった。


音とリズムに乗って、ひたすらに声を挙げ続ける2人。


彼女たちがボルテージを上げ、誰かがそこに乗っかれば、あとはもうノンストップだ。


気付けば、会場中を巻き込んでのにゃあにゃあコールの大合唱となっていた。


みく「それじゃあ!」

李衣菜「いっくよー!」


「「せーのっ、『ØωØver!!』」」


李衣菜「いえええーーい!!みんなサンキュー!!」

みく「みんなー!盛り上がってくれたかにゃー!?」

割れんばかりの歓声、拍手喝采。興奮冷めやらぬイベント会場に、再びみくと李衣菜の声が響き渡る。

李衣菜「どーもっ、みく&李衣菜でした!!」

みく「みくと李衣菜チャンのこと、みんな覚えてくれたかにゃー!?」

再び、歓声が沸き起こる。どこかから、『ファンになった』なんて嬉しい声も聞こえてきた。

みくと李衣菜は、ステージ上で互いに見つめ合う。

どちらからともなく、その手が伸び。


「「いえーいっ!!」」


互いの手を打ち合わせる。気持ちのいい音が響き渡った。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」



だが、そんな熱狂と歓喜の時間は唐突に終わりを告げた。


観客席で、誰かが突然絶叫した。近くの者は耳を塞ぎ、周辺の者の視線が一気にそちらに集まる。

その中心にいたのは。


士「…ああ?」

P「え……?」


「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだっ!!ダメだーーーーっ!!!!」



この仕事の依頼を持ち込み、みくと李衣菜のステージを許可した、イベントプロデューサーだった。


「ダァメだぁ!!あいつらも!!お前らもォ!!」


「そんな音楽じゃあ!!この街の風にはそぐわなぁぁぁぁいっ!!!」


「やはりこの街の風に合うのは、俺の奏でる唯一至高のサウンドのみ!!!」


「それ以外は全て認めえええええええええん!!!」


「さあお前ら、俺の魂のサウンドを聞きやがれえええええええええええ!!!!」


絶叫し続ける彼は、ポケットからあるものを取り出した。

化石の様な有機的なフォルムをした、USBメモリのような物体。それのスイッチを押す。


『BEAT!』


「うおおおおおおおおおおおあああああああああああああああっっっ!!!!」


絶叫しながら、彼は自分の首裏にメモリを押し当てる。


そして、彼は異形の怪物へと変貌した。


士「チッ!」

舌打ちし、士は即座にバックグラウンドから駆け出した。

「さあ来い、ショッカーどもよ!!!」

叫ぶと、彼の背後にオーロラが出現し、そこからショッカー戦闘員が大挙して出現する。

熱気と歓声でいっぱいだったイベント会場は、あっという間に混乱と悲鳴で満たされた最悪の場所になってしまった。

逃げ出す観客たちに手を出そうとする戦闘員を殴り飛ばし、士は中心へと進んで行く。

その途中で、士は自分のちょうど反対にも、同じことをしているやつがいることに気が付いた。

戦闘員や逃げる人が多いため、そいつの顔は見えないが、ぶっ飛ばされた戦闘員が転がって来るので、戦っている事だけは分かる。

士は更に周囲を見渡す。ステージ上に、みくと李衣菜の姿はない。
恐らくプロデューサーが下したのだろう。これまでの事件に士以外では皆勤賞なだけあり、彼も少しずつ異常事態に対して耐性が付き始めていた。

一方、応援に来ていた5人も見つけることが出来た。

士「クソッ!」

「「「イーーーーッ!」」」

戦闘員が迫っているという、まったく嬉しくないおまけ付きで。

だが、士が救出のためにそちらに向かおうとしたところで、誰かの声が聞こえた。

『ファング!エクストリーム!少女たちを守れ!』

「「「イッ?イーーッ!」」」

命令の直後、地面から跳んだ恐竜のようなメカと、空から舞い降りた鳥のようなメカが、戦闘員たちに体当たりして撥ね飛ばした。
戦闘員が弱いのではなく、2つのメカが規格外に強いと見るべきだろう。

ともあれ、そちらは任せて問題ないと判断した士は、再び戦闘員たちをブッ飛ばしながら中心に向かって進み始めた。


「何だこの役立たずのザコ共はぁぁぁ!!?クソっ、ショッカーのやつらめ、不良品を掴ませやがってえええええええええ!!!」

観客のほとんどが逃げ出し、後には戦いやすい空間が残ったイベント会場。

士「フッ!」

目の前の戦闘員を蹴り飛ばす。士の前にいたのはそれで最後だった。

「うォラッ!」

一方、反対側で戦っていたやつも、最後の戦闘員を蹴り飛ばしたようだった。

「てめえらああああああああああ!!!何してくれやがんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

士は深くため息を吐いた。そして、言い放つ。

士「うるせえ!」

そして、反対側にいるやつも言い放った。

「まったくだな。お前、うるせえんだよ」


士「……ああ?」

その声に、士は聞き覚えがあった。

目の前の怪人に意識を向けたまま、反対側にいる人間の顔を見るため、士は少し横へ移動する。

そこにいた男の顔を、士は良く知っていた。


「よう。久しぶりだな、ディケイド」


「……お前、左翔太郎か」


そして彼、左翔太郎の元にもう1人がやって来た。


「ディケイド、僕もいるのだけど」


「……と、その相棒。フィリップ、とか言ったか」



いつか、共に戦った2人。


2人で1人の仮面ライダー、『仮面ライダーW』の2人が、士の前に立っていた。

「ああん!!?何だお前らはぁ!!?」

翔太郎「久しぶりだな。何年ぶりだ?」

士「…本来の世界のお前たちとなら、5年ぶりくらいか。そうじゃなければ、俺は1年前に別世界でお前に会ってる」

翔太郎「はぁ?別世界?」

フィリップ「僕らも、別世界の鳴海荘吉と出会っただろう?それと同じことのはずだ」

士「相棒の方が察しが良いな。半熟はそのままか?」

翔太郎「だーっ!それが久しぶりに会った人間に言うことか、テメェ!」

フィリップ「ハッハッハ。その反応、まさしく彼の言う通りじゃないか翔太郎」

翔太郎「フィリップ、テメーもか!」


「無視すんじゃねええええええええええええええええええええっ!!!!」


「「「………………」」」


間にいる男の変貌した姿、“ビート・ドーパント”のことなど少しも気に留めず、
再会の喜びを彼らなりに分かち合っていた士と翔太郎とフィリップの会話は、そのドーパントの大声に中断された。

が、士は何事もなかったかのように口を開く。

士「そう言えば、ウチのアイドルを守るよう、あの小物に命令したのはお前らだろ。一応礼は言っておく」

そう言って、士は翔太郎に名刺を投げた。

翔太郎「ほー。お前がアイドルのプロデューサーね。人間、何やってっか分かんねえもんだ」

士「探偵がそれを言うか」

フィリップ「まったくだね」


「いい加減に―――」

ドーパントがしびれを切らして叫ぼうとしたところで、

士「ハッ!」

翔太郎「オラッ!」

フィリップ「ファング!」

士と翔太郎の蹴り、ファングの体当たりが同時に突き刺さり、彼は地面を転がった。


翔太郎「…さぁて、そろそろやろうぜ。相棒、士」

翔太郎が懐から取り出したのは、ダブルドライバーとジョーカーメモリ。

フィリップ「敵の能力は未知数だが、いいのかい?」

翔太郎「当たり前だ、やるって決めたからな。『男の仕事の8割は決断―――』」

フィリップ「『そこから先はオマケみたいなもの』…だろう。そう何度も聞かされれば覚えるさ」

翔太郎「ああ。対策なんざ動いてから立てりゃいい」

士「……ったく、カッコつけやがって」

2人のやり取りを軽く聞き流して、士もディケイドライバーを取り出した。

P「門矢さん!」

臨戦態勢に入った士を、プロデューサーが呼ぶ。

声のした方を見ると、彼の元にみく・李衣菜と応援に来た5人が揃っていた。

未央「やっつけちゃえ、つかさん!」

蘭子「うむ!仮面の戦士よ。我が同胞の宴を妨げし愚か者に、汝の力で裁きを与えよ!」

翔太郎「…あ?なあオイ、後の子、なんつった?」

士「俺にも分からない」

フィリップ「へぇ…!君たちに理解できない言葉で話す少女か…、興味を惹かれる。ゾクゾクするねぇ!」

翔太郎「やめとけやめとけ」

士「用があるなら後にしろ。行くぞ」

士がディケイドライバーを装着し、ライダーカードを構える。

フィリップ「仕方がない…」

フィリップがサイクロンメモリを取り出したのを確認し、翔太郎も腹部にダブルドライバーを装着した。

同時にフィリップの腹部にも同じものが出現し、彼の頭上に鳥型のメカことエクストリームメモリが飛来する。


『CYCLONE!』


『JOKER!』


「 「 「 変身! 」 」 」


『KAMEN RIDE DECADE!』


『CYCLONE!JOKER!』


ドライバーから出現した7枚のライドプレートが、頭部に突き刺さる。

灰色の竜巻が翔太郎の身体を包み、首元のマフラーがたなびいた。


ビート「お、お前らは仮面ライダー!!?」


それには答えず、翔太郎がビートを指さす。




「『さぁ…、お前の罪を数えろ!』」



李衣菜「ふ、2人で変身…した…?」

みく「変身って、1人でするものじゃないのにゃ!?」

みくと李衣菜の声は、翔太郎とフィリップにしっかりと届いていた。

翔太郎「ああ、そうさ。俺たちはこうやって変身するんだ」

フィリップ『だから僕らは、僕らをこう呼ぶ』

「『仮面ライダーダブル』」

翔太郎「ってな。俺たちは、この街の涙をぬぐう2色のハンカチさ」

士「フン。カッコつけは十分か、“ハーフ”ボイルド探偵」

翔太郎「…あぁ、“ハード”ボイルドに決めるぜ」

士が手を払い、翔太郎が左手をスナップする。

そして、“3”人が駆け出―――

「ヘエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!」

「「『っ!?』」」

そうとしたところで、ビートがまたしても絶叫した。

ビート「今日のステージッ、主役は俺だああああああああああああああ!!!」

叫びながら、背中に担いでいたギター状の武器を構える。


ビート「ヘェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!俺のサウンドを聞きやがれええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


ここに、最低最悪のリサイタルが幕を開けた。



ビート「聞けえええええ!!!これが俺のっ、魂だあああああああああああああああ!!!」

手にしたギターを、激しくかき鳴らすビート。

滅茶苦茶な演奏に合わせて、空中に五線譜と音符型のエネルギー弾が出現し、士たちに襲い掛かる。

翔太郎「うおっ!?オラッ、オラァッ!」

翔太郎が緑色の風を纏った右脚を繰り出す度に、発生した旋風が音符を吹き飛ばす。

士「フッ!ハッ!」

士もライドブッカーを振るい、五線譜と音符を斬り裂く。

ビート「ヘェェェェェェェェェェェェェェェイ!!!そんなんじゃ意味ねえぜえええええええええええええええええええええ!!?」

だが、ビートのボルテージはさらに、そして勝手に上昇していた。

ギターを弾く手は更に速くなり、より多くの音符が士たちに襲い掛かる。

翔太郎「くっそ、近付けやしねえ!」

士「ああっ、うるせえ!」

ビート「ハァーーーッハッハッハァーーーーッ!!!」

攻めあぐねる士たちの姿にさらに気を良くしたのか、ギターを激しくかき鳴らしながらビートが大声で笑った。

士「……野郎…」

士はイラついていた。ヘタクソな演奏を延々聞かされ、それを止められないのが腹立たしいのだ。

しかし音符の弾幕は止まず、士たちは防御に徹するしかなくなっていた。

フィリップ『ここは僕らがサポートに回るべきだね』

翔太郎「だな。おい士ぁ!」

士「あ?」

フィリップ『僕らが君をサポートしよう。ヤツに最初の一撃を入れるのは、君に任せる』

2人とも、士が『とにかくアイツに一発入れてやりたい』と思っているのを察していた。

士「…なら任せるぞ。上手くやれよ」

ビート「ああああああああ!!?何言ってっか聞こえねえぞおおおおおおおおおおお!!!」

翔太郎「…行けっ」

士「ハッ!」

翔太郎とフィリップを信じ、士はライドブッカーの刀身を撫で上げ、駆け出した。

ビート「バアアアアアアアアカ!!!喰らいやがれええええええええええええええ!!!」

ビートからすれば、今の士は飛んで火にいる夏の虫。容易に対処できる相手だ。
思い切りギターをかき鳴らし、音符を飛ばす。狙いは士1人だけ。それが分かっていながら、士は止まらずに走り続けた。


『LUNA!』

『LUNA!JOKER!』

身体の右半分、“ソウルサイド”をルナメモリにハーフチェンジした翔太郎とフィリップ。黄色に染まった右腕が、ルナの力によってゴムのように伸びた。

卯月「う、腕が伸びました!?」

ビート「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」

しなる右腕が、士に襲い掛かる音符を弾き飛ばす。

あえて士を先行させることで攻撃を絞らせ、こちらは防御だけに集中する。士がその狙いを理解していたかは不明だが、とにかく作戦は上手く行った。

一直線で駆けた士は、勢いのままライドブッカーを振り下ろす。

ビート「うおおおおおおおおおおおお!!!」

士「ぐっ!」

しかし、ビートは肩のスピーカーから重低音の衝撃波を発生させ、士の足を止めた。

ビート「近付くんじゃねえええええええ!!!」

ギターのネックを両手で握りしめ、振り上げるビート。ボディのサイドにある鋭利な刃が、太陽の光を反射して輝いた。

翔太郎「おっと」

『METAL!』

『LUNA!METAL!』

翔太郎「フッ!」

今度は左半分、“ボディサイド”にメタルメモリを装填した翔太郎。

その背に出現したメタルシャフトを掴み、ビートの腕を狙って振るう。

ビート「何ぃッ!!?」

伸長したメタルシャフトの先端が、ビートの腕に巻き付き、その動きを止めた。

ゴムのようにぐにゃぐにゃなクセに、巻き付いたメタルシャフトは鋼鉄のように強靭で、ビートがどれだけ力を込めても振り解くことが出来なかった。

ビート「離せオラッ、離せええええええええ!!!」

士「いい加減黙れ、音痴ッ!」

『ATTACK RIDE SLASH!』

これまでに溜まった鬱憤を叩きつけるように、士は分身したライドブッカーを思い切り振り下ろした。

ビート「んごぁっ!?」

翔太郎「うォオラッ!」

続けて、体勢を崩したビートに、伸長したメタルシャフトの突きが入った。

ビート「くっ……そがああああああああああ!!!」

突きを喰らい、空中を吹っ飛ぶビートは、しかしただではやられない。肩のスピーカーから狙いを直近の士に絞り、音波の大砲が放たれた。

士「ぐおあっ」

咄嗟にガードはしたものの、再び翔太郎たちの元まで戻されてしまった。

一方で、吹っ飛ばされたビートは、それすら利用してさらに距離を取ることに成功する。

ビート「おおおおおおおおおおおっ!!!俺に近寄るんじゃねえええええええええ!!!」

ビートは遠方で再びギターをかき鳴らし、その音符を放ってきた。

フィリップ『厄介だねえ』

翔太郎「言ってる場合かっ」

『TRIGGER!』

『LUNA!TRIGGER!』

胸元に出現したトリガーマグナムを握り、トリガーを引く。

銃口から青と黄色のエネルギー弾が発射、さらに空中で無数の小型弾に分かれ、それぞれが音符を相殺していく。

『ATTACK RIDE BLAST!』

士もライドブッカーを分身させてエネルギー弾を放ち、ビートを狙う。だが、ビートの目前にまで迫ったエネルギー弾は、突如として消失した。

ビート「効かねえなあああああああああああ!!!」

士「ああ?」

翔太郎「おい、どういうことだ?」

トリガーマグナムから放たれたエネルギー弾も、同様に消失してしまう。

その様子を見ていたフィリップが、2人に指示を出した。

フィリップ『翔太郎、士。今の攻撃を、もう一度だ』

翔太郎「おう、任せとけ」

士「フンッ、しっかり見破れ!」

士はもう一度アタックライドを使用してエネルギー弾を撃ち、翔太郎も再びトリガーマグナムのトリガーを引いた。

ビート「効かねえって言ってんだろおおおおおおおお!!?」

音符と五線譜は、トリガーマグナムから放たれたエネルギー弾が相殺する。

ライドブッカーから放たれ、何にも邪魔されずにまっすぐ飛んだエネルギー弾がビートに迫るその瞬間を、フィリップは注視していた。

ビート「無駄ああああああああああっ!!!」

言葉通り、またしてもエネルギー弾は消失した。

フィリップ『なるほど、協力に感謝する。届かない仕組みが分かった』

翔太郎「ああ、聞かせ…のわっ!?」

士「チッ」

ビート「オラオラァ!!!俺のステージは終わってねえぞおおおおおおおお!!!」

フィリップによるありがたい説明の瞬間も、時間は止まらない。
迫る音符を躱し、撃ち落し、斬り裂きながら、士と翔太郎の2人はフィリップの言葉に耳を傾ける。

フィリップ『弾丸が消失する瞬間をよく見たところ、超高速で振動していたことが分かった』

フィリップ『ヤツのメモリは“ビート”。“音”よりも、“振動”を操ることこそが真価のメモリだ』

フィリップ『恐らく士、君が吹き飛ばされた音を放った、あのスピーカー。あれがタネだろう』

フィリップ『そこから、変身した僕らの耳でも捉えられないような超音波を放ち続けている』

フィリップ『その超音波の振動によって、エネルギー同士の結合を無理やり引き離し、散らしていた、というわけさ』

士「なるほど、だいたいわかった」

翔太郎「あー、つまり…どういうことだ?」

士「弱っちい弾丸じゃ、アイツには届かないってことだ!」

フィリップ『さて、それを踏まえた上で僕から2つ、ヤツに対抗できる策がある』

士「ああ?」

フィリップ『まず1つ。接近できない原因はあのギターだ。もっと言うなら、ヤツがアレを弾いているせいだ。故に、弾けなくなれば接近は容易だろう』

フィリップ『そこで、無効にされない銃撃でヤツの手を止めてから、接近戦に持ち込む』

翔太郎「もう1つは?」

フィリップ『あのスピーカーを破壊し、遠距離戦でもイーブンに持ち込む。そのどちらかだ』

「「ヤツの手を狙う」」

2人の答えは即座で、なおかつ完全に一致していた。

士「撃つより、直接やってやらなきゃ気が済まない」

翔太郎「だな。散々付き合ってやったんだ、今度はこっちにも付き合ってもらわねぇと」

フィリップ『フッ、君達ならそう言うと思っていたよ』

考えはまとまった。そうなれば、後は実行に移すだけだ。

ビート「ハァーーーッハッハッハァーーーーッ!!!どうだ俺のサウンドはあああああああああああああ!!!」

士「そんなに音楽が好きなら―――」

士は、1枚のライダーカードを引き出した。

『KAMEN RIDE HIBIKI!』

士「清めの音でも叩き込んでやるッ」

ビート「なああああああにが清めの音だああああああああ!!?この世界で一番なのは、この俺のサウンドなんだよおおおおおおおおおおお!!!」

『ATTACK RIDE ONGEKIBOU REKKA!』

手にした音撃棒・烈火の先端の赤い鬼石に、息を吹きかける。ろうそくを消すようなそのアクションで、烈火の鬼石に炎が灯った。

士「ハァァッ!」

士が烈火を振るうと、鈴の音と共に鬼石から大量の火炎弾が放たれた。

ビート「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

ビートもギターをかき鳴らし、無数の音符を放つ。

空中でぶつかり合ったそれぞれの“音”が、爆発を起こした。

ビート「オラオラオラオラ!!!どうしたどうしたああああああああ!!?」

翔太郎「テメっ、この野郎!攻撃に集中できるようにしっかり撃ち落とせよ!」

しかし、士が放つ火炎弾の方が、若干数が少ない。翔太郎はそのせいで、相殺し切れなかった音符を躱すハメになっていた。

『CYCLONE!』

『CYCLONE!TRIGGER!』

ソウルサイドをサイクロンに変え、翔太郎は攻撃の準備に入る。

フィリップ『照準は僕がやろう。君は攻撃を躱すことに専念したまえ』

翔太郎「っしゃ、任せたぜ相棒!」

翔太郎は少しも躊躇うことなく、右手の主導権をフィリップに渡した。翔太郎の意識から離れた右手が、トリガーマグナムを握りしめる。

さらに翔太郎はバットショットを取り出し、ギジメモリをセットした。
コウモリを模したライブモードになったバットショットを、トリガーマグナムに装着。
それをスコープにして、フィリップが狙いを定める。

フィリップ『………………』

全神経、全脳細胞を駆使して導き出したベストのタイミング。そこで、スコープの中央に入ったビートの右手。

フィリップ『ハッ!』

風の弾丸が、銃口から放たれた。

フィリップ『士!』

士「ああっ、ハァァッ!!」

フィリップからの呼びかけは最低限、だが士は自分のするべきことを理解していた。

烈火の鬼石に、炎が集まる。その炎が通常より強くなったところで、思い切りそれを振り、大量の火炎弾を放った。

その火炎弾の内の一つが、先ほど放たれた風の弾丸にぶつかって、ビートに迫る。

フィリップ『…これで、十分かな?』

風の力を取り込み、炎がより激しく燃え上がる。風と炎の弾丸は、フィリップの予測を少しも外れずに、ビートの右手に着弾した。


ビート「ああああああああああああああああああっ!!!お、俺の手が!!!あっちぃ、あっちいいいいいいいいいいい!!!」

小規模な爆発がビートの右手で起こり、その手を火で包む。手を振って何とか火を消すビート。しかし、焼けたその手でもうギターは弾けなかった。

ビート「ちっくしょおおおおおおおおおおおお…おおおおおおおお!!?」

士「そろそろ終わりにするぞっ!」

音符が消えたそのタイミングを逃さず、士と翔太郎が駆け出す。

ビート「…いや、まだだあああああああ!!!まだ音は出せる!!!」

叫んだビートは、両手でギターを持つと、それを頭部に近付け―――

李衣菜「うわ、歯ギター!なんかロックかも…」

みく「何言ってるにゃ!?」

何と、歯ギターで音を出し始めた。

翔太郎「そんな苦し紛れが」

フィリップ『通用すると思っているのかい?』

『METAL!』

『CYCLONE!METAL!』

走りながらハーフチェンジし、メタルシャフトに風を纏わせて、高速回転させる翔太郎。その竜巻は、いとも簡単に音符を吹き飛ばしていく。

ビート「ああえうああああああああああああ!!!」

ビートは歯ギターしながら叫び、肩のスピーカーから音を放つ。

「「フンッ!」」

しかし、そのスピーカーはメタルシャフトと烈火によって叩き壊された。

『HEAT!』

『HEAT!METAL!』

翔太郎「うぉぉぉおラァッ!」

士「ハアァァーーッ!」

烈火とメタルシャフトが、今度はそのボディに直接叩き込まれる。

ビート「のわああああああっ!!!」

強烈な打撃を同時に喰らったビートは、耐えられずに吹っ飛ばされた。

『TRIGGER!』

『HEAT!TRIGGER!』

士「フンッ!」

烈火、そしてトリガーマグナムから放たれたそれぞれの火炎弾が空中で一つになり、巨大な火球となって、吹っ飛んだビートを包む。

ビート「ぎゃああああああああああああああああっ!!!!」

今回の絶叫は、全身を焼かれる痛みからのものだ。それを聞き流し、翔太郎はメモリを入れ替える。

『JOKER!』

『HEAT!JOKER!』

翔太郎「さぁて、最後に思いっきりお熱いの、かましてやろうぜ!」

士「ああ、行くぞ!」

烈火の鬼石に、炎を集める。一方の翔太郎も、右の拳に力と炎をため込んだ。

成す術なく落下してくるビートを待ち受ける、士と翔太郎。

ビート「やっ、やめ―――」

その言葉は、最後まで続かなかった。


ビートの頭部に、翔太郎の右拳が。ボディに、士の烈火が。

それぞれが渾身の力で以って、叩き込まれた。


ビート「――――――――」

先ほどまで馬鹿みたいにうるさかったビートが、声も絶叫もなく吹っ飛んでいく。

その身体は、地面に叩きつけられ、何度か跳ねてからやっと止まった。

ビート「こ……っ、ご………」

士「ああ、それくらいでちょうどいい。静かにしてろ、音痴」

烈火を投げ上げて、手を払う。烈火をキャッチしたところで、清らかな鈴の音が鳴った。

そんな士の雰囲気から、翔太郎はあるものを感じ取っていた。

翔太郎「お前…、怒ってんのか?」

士「あ?」

フィリップ『いや、雰囲気がどことなく、ね。何がそんなに気に入らないのかな』

士「…洞察力は探偵らしいな」

翔太郎「“らしい”じゃねえし。探偵だっての」

士「…まぁ、そうだな。そこのヤツが、気に入らなくてな」

士は、地面に這い蹲るビートに、烈火の先端を向ける。

士「…お前、今日のステージのために、前川と多田の2人が何やって来たか、知ってるか?」


P「…………………」

みく「え、士チャン…?」

李衣菜「わ、私たち…?」


ビート「ぐ……が……」

士「…いや、ここは俺が言うべきじゃない、か。お前、言いたいことがあれば言ってやれ」

P「………………」

そう言って、士はプロデューサーに発言の機会を譲った。

士も、目の前の敵にはそれなりに苛ついている。

しかし、プロデューサーからはそれより強い、静かな怒りの情が放たれているのを、士は感じ取っていた。

極力怒りを抑えた静かな調子で、プロデューサーが言葉を発する。

P「……あなたからすれば、多田さんと前川さんのお2人は、ただの代役程度だったかもしれません」

P「ですが、お2人にとっては、このステージはチャンスでした」

P「全てをぶつけるために、お互い気が合わないにも関わらず、共に進もうとしていました」

P「お2人には、お2人なりの衝突と困難がありました。それでもステージに立つために、力を合わせて進もうとしてきたのです」

P「それを台無しにされたことを、私は『プロデューサー』として許すわけには行きません」


李衣菜「プロデューサー……」

みく「……っ」


プロデューサーは普通の人間だ。

だから、みくと李衣菜が今日このステージに立つまでにしてきた衝突も、困難も、その全てを知っているわけではない。

しかし、2人のプロデュースを担当する物として。

今日このステージに立つために、互いのこだわりを尊重することで前に進んできた2人の初ステージを、
“こんな形”で台無しにされたことを、許すわけには行かない。

それは、普通の人間としての、当然の怒りだった。


士「その上、お前の演奏はそんなにヘタクソときた。それを延々聞かされるこっちの身にもなれ、音痴」

『ハハハハハ……』

士「……ああ?」

フィリップ『ああいや、すまない。彼の話や彼女たちを笑ったわけじゃない』

フィリップ『案外冷たそうな彼にも、翔太郎のような部分があるんだと分かって、面白かっただけさ』

翔太郎「なんっ…でそこでっ!俺を引き合いに出すんだよフィリップ!」

1つの身体でぎゃあぎゃあと言い合う翔太郎とフィリップの様子に、士も毒気を抜かれてしまった。

士「…で。前川、多田。お前らから、何か言いたいことは有るか」

士に問われ、顔を見合わせるみくと李衣菜。

しばし何かを相談していた彼女たちは、やがて頷き、口を開いた。



李衣菜「3人ともっ!やっちゃってください!」


みく「そんなヤツ、やっつけちゃうにゃあ!」


ビート「く………っそおおおおお……!!!てめえら、動けねえからって好き放題、言ってくれやがって………えええええええええ!!!」

怒りに震えながら、ビートが立ち上がった。

ビート「クソガキどもめ!!!てめえらの音楽なんざ、何の価値もねえええええええ!!!」

ビート「ただ騒ぐしか能のねえ、ガキの音楽なんかなあああああああああああああ!!!」

士「静かにしてろと言っただろうが」

そう言って、士は右手で握る『吽』を、ビートの頭部に投げつけた。

ビート「グヘアッ!!?」

ビートの頭部に命中した吽は、跳ね返って見事に士の手元に戻って来た。

フィリップ『騒ぐしか能がない、は君が言えたセリフではないと思うのだけど』

翔太郎「まったくだな。……なあ、君たち!」

翔太郎は振り返って、みくと李衣菜に向き合った。

翔太郎「あー、みくちゃんと、李衣菜ちゃんだったか。…俺は好きだぜ、君たちの歌」

翔太郎「こういう夏の日にぴったりな、力溢れる感じでよ。こう、グアーっ!てな」

李衣菜「ホントですか!?ありがとうございますっ!」

フィリップ『…フフッ、君らしい言い方だ、翔太郎』

フィリップ『だが、僕も翔太郎と同じさ。君たちの歌を、ヤツの出す騒音と比べるのもおこがましい』

フィリップ『ヤツの言うことなど、気にする必要はない。所詮ただの雑音だ』

みく「はいっ!」

みくと李衣菜の2人は、揃ってピースサインを突き出す。

“2つ”並んだ『V』が、翔太郎とフィリップの目に飛び込んできた。

フィリップ『士。今も切り札、持ってるよね?』

初めて共に戦った時のものと、よく似た問い。

仮面の下で不敵に笑って、士は答えた。



士「ああ。―――だが、前と同じじゃ面白くないだろ?」



ライドブッカーが開き、カードが飛び出した。

3枚のうち、1枚は既に色がついている。

『FINAL FORM RIDE DOUBLE』。以前共に戦った時には、これしか出現しなかった。

今度は違う。残り2枚のカードにも、鮮やかな色がついて行く。

だがしかし、士はそのカードをしまった。

翔太郎「…あ?あっおい、何やってんだよ、それでまたトドメ刺すんじゃねえのか?」

士「言っただろ、前と一緒じゃ面白くないってな。お前たちの全力、見せてみろよ」

そう言って、士は代わりにケータッチを取り出した。

『KUUGA!AGITO!RYUKI!FAIZ!BLADE!HIBIKI!KABUTO!DEN-O!KIVA!』

『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』

コンプリートフォームへ強化変身した士。その姿を見て、翔太郎とフィリップもその意図を察した。

翔太郎「…なるほどな。じゃああの子たちに、コンビの先輩らしいところ見せてやろうぜ。相棒」

フィリップ『ああ、もちろんだとも。士、君も手伝ってくれるかい?』

士「逆だろ?お前らが、俺を手伝うんだ」

翔太郎「フッ。なら一緒に、だ。“あの時”みたくな」

『CYCLONE!』

『CYCLONE!JOKER!』

一周し、再びサイクロンジョーカーに戻った2人の元に、フィリップの肉体を取り込んだエクストリームメモリが飛来する。

サイクロン・ジョーカーメモリをデータ化し取り込んだエクストリームが、空いたドライバーのスロットに装填された。

『XTREME!』

身体の中心にあったラインが左右に開き、クリスタルサーバーが姿を現す。

今ここに、翔太郎とフィリップは心と体が完全に一体化した、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身を遂げた。

ビート「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


その余韻をぶち壊すように絶叫するビート。だが、それはただの絶叫ではなかった。

フィリップ「士、君は下がれ!」

瞬時に、翔太郎とフィリップの後ろに下がった士。その直後、士のいた辺りの地面が抉れた。

翔太郎「さっき、スピーカーからの音で士を吹っ飛ばした攻撃の応用か」

フィリップ「しかし、相変わらずうるさいね。そろそろ封じさせてもらおう」

『PRISM!』

クリスタルサーバーから出現したプリズムビッカー。そこからプリズムソードを引き抜き、手元にある赤いボタンを押す。

『PRISM!Maximum Drive!』

翔太郎とフィリップはプリズムソードを手に駆け、

「「プリズムブレイク!」」

すれ違いざまマキシマム状態のソードで、ビートに斬り付けた。

ビート「はああああああああああああ!!?そんな攻撃、効いてねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

だが、その効果の表れるところは破壊力ではない。

ビート「……!!?何故だっ、何故増幅させた俺の声が効かない!!?」

フィリップ「その機能はもう“封じた”」

翔太郎「これでお前は、ただ声のデカいだけの迷惑野郎ってわけだ」

士「これで決まりだな」

ビート「あっ…ああああああああああああっ!!!」

士と翔太郎・フィリップに挟まれたビートが絶叫する。

しかし、プリズムブレイクで能力を封じられた今、それは本当にただの絶叫でしかなかった。

李衣菜「~~~っ…!!耳がおかしくなりそう…!」

みく「士チャンたち、お願いにゃ!」

P「皆さん、お願いします!」

翔太郎「…おっと。お願いされちゃあ、応えねえわけにはいかねえよな?」

フィリップ「ああ、勿論だとも」

士「最強の音撃で終わらせてやる」

『HIBIKI!KAMEN RIDE ARMED!』

士はトドメを刺すべくケータッチを操作する。士の隣に、装甲響鬼が出現した。

「「メモリブレイクだ!」」

一方、翔太郎とフィリップもトドメの準備に入った。エクストリームメモリを閉じ、再び開く。

『XTREME!Maximum Drive!』

「「ハアアアアァァーーーッ……!!」」

黒と緑の二色の竜巻に包まれ、2人が上昇していく。

そして、その竜巻のパワーとスピードの全てを受け、渾身の両脚蹴りを繰り出した。


「「ダブルエクストリームッ!!」」


強烈な一撃が叩き込まれ、ビートは声を挙げる間もなく吹っ飛ばされた。

その反対側にいる、士に向かって。


『FINAL ATTACK RIDE HI・HI・HI・HIBIKI!』

士「ハァァァァーーーーッ……!!」

士の前にはマゼンタの、響鬼の前には紅の音撃鼓が出現し、吹っ飛ばされたビートをそれで受け止めた。

手の中に出現したマゼンタの音撃棒を強く握りしめ、士が両腕を振り上げる。

士「だぁぁアッ!!」

全力の一打を、響鬼と共に音撃鼓にぶつけた。

ビート「こっ……!!!が、あっ………!!!」

2つの清めの音が、ビートの内で幾度となく反響を繰り返し、その度に力を強めていく。

やがてビートの身体は、最大限に達した清めの音の力に耐えきれず―――


「ぐがああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」


その内から、身体を弾けさせた。



「あああっ……あっ……」

地面に倒れ込む、イベントプロデューサーの男。

その首の後ろからメモリが飛び出し、空中で砕け散った。



翔太郎「照井、ドーパントになった人間を取り押さえた。誰か寄越してくれ」

それから二言三言交わして、翔太郎はスタッグフォンを閉じた。

メモリをブレイクされたイベントプロデューサーの男は、士、フィリップ、ファング、エクストリームに取り囲まれ、地面に正座させられていた。

士「…あの2人に、ステージを提供したことだけは礼を言う。その後のことは…、檻の中でよく考えろ、音痴」

翔太郎「あー。お前さんにはいくつか確認しときたいことがあってな。…もちろん、喋るよなぁ?」

「ヒッ」

左手首をスナップする翔太郎。敗北し、メモリを失ったイベントプロデューサーの男は、力なく頷いた。

翔太郎「都内で起きてたミュージシャンの失踪事件。アレの犯人、お前か?」

「は、はいそうですっ。わ、私がやりました…!す、すいません…!」

フィリップ「僕らに謝られても困る。被害者たちにしたまえ」

翔太郎「で、彼らはどうした。殺したのか?」

「い、いえっ。監禁して、私の演奏を聞かせていました…!」

士「そいつらに同情するな。まったく、何が悲しくてお前の “騒音”なんて聞かされなきゃならないんだ」

士「俺なら、金を積まれても聞かないぜ。音痴」

「うう……っ!」

翔太郎「動機は?」

「か、彼らの音楽が、私の思う『この街の風に合う音楽』じゃなかったから……」

フィリップ「それで、彼らを監禁して、自分の演奏を聞かせていたというのかい?」

「は、はいい…」

フィリップ「まったく呆れるね。君の価値観一つで監禁するなど、独りよがりで身勝手にもほどがある」

フィリップの人差し指が、男の頭を指した。指示通りに、エクストリームとファングが男の頭に軽く体当たりする。

「い、いだっ」

翔太郎「フィリップ、その辺にしとけ」

翔太郎が諌め、フィリップは両方を下がらせた。

男の目の前でしゃがみこんだ翔太郎は、彼の目を見て、口を開く。


「この街を、風都を愛する人間として言っとくぜ」


「……この街の風はな、精一杯頑張る人間が奏でる音なら、何だって受け入れてくれる。そんな優しくて強い風だ」


「例えばそう、今日のあの子たちの曲とかもな」


振り向いた翔太郎の視線の先には、大きく手を振るみくと李衣菜の姿があった。


「あんたの音は、この街の人間と、この街の風を泣かせたのさ。それにどう向き合うかは、檻の中でじっくり考えな」


「はい……。すみませんでした……」

自らの犯した過ちを認め、後悔の涙を流す男。

街に流れる涙を、優しく拭い去るように。

その涙を、吹き抜ける風がさらっていった。


P「左さん、フィリップさん。ご協力、ありがとうございました」

翔太郎「どうってことないさ。こっちは、街を泣かせる奴らを止めるのが役目だからな」

フィリップ「礼を言われるほどの事でもない」

翔太郎が帽子を被りなおし、フィリップが手にした本を閉じる。

そうして振り返った2人の後ろには、人のいなくなったイベントステージがあった。

翔太郎「…イベント、台無しになっちまったな」

フィリップ「あー…、あまり気を落とさずに、頑張りたまえ」

李衣菜「いえ、大丈夫です!」

みく「ステージに立てて、2人でやっていけるってことは分かったにゃ」

李衣菜「だから、これからもっともっと、色んなステージに立つんです!」

みく「今日みたいに楽しく、今日よりももっといっぱいの人の前で!にゃん!」

翔太郎「…へぇ、中々いいコンビになりそうじゃねえか」

P「…はい。お2人は、相性のいいユニットだと、私は思っています」

士「そこだけ見ると、な。実際は5分に1回はケンカする奴らだぜ」

李衣菜「ちょっと士さん!」

みく「今そういうこと言わなくていいでしょーっ!?」

士「ハハハハハ」

茶化して笑う士。一方、フィリップは何かが気になったようで、興味津々の表情になって口を開いた。

フィリップ「5分に1回はケンカする…、つまり君たちは仲が良いということかい?」

みく「い、今の流れからどうしてそうなるにゃ!?」

翔太郎「…『喧嘩するほど仲がいい』って言いてぇのか?」

フィリップ「そう!その通りさ翔太郎。何故人間は喧嘩をしている方が仲がいいと言えるのか…、君たちは知らないかい!?」

李衣菜「わっ、ちょちょっ!」

P「あの、フィリップさん……」

唇に人差し指を当て、身を乗り出して問うフィリップ。その瞳は、興味の対象を見つけて爛々と輝いていた。

翔太郎「あー待て待てフィリップ。ん゛っ!」

翔太郎が後ろからその肩を掴み、咳ばらいをする。

翔太郎「今はやめとけ。帰ったら好きなだけ検索しろ。な?」

フィリップ「む…。仕方がない…」

翔太郎に諌められ、フィリップは渋々ながら引いた。

翔太郎「悪いな、こんな相棒でよ」

みく「でも2人とも、戦ってる時は息ピッタリだったにゃ」

フィリップ「それはまあ、7年は一緒に戦っているからねぇ」

李衣菜「な、7年…」

みく「年季が違うにゃ…」

7年も一緒に組んでいるコンビを前にして、今ここから始まったばかりのみくと李衣菜のコンビは、身を縮こまらせてしまう。

李衣菜「あ、あのっ。翔太郎さん、フィリップさん!」

翔太郎「ん?」

フィリップ「どうかしたのかい?」

李衣菜「私たち、さっき士さんが言ったみたいに、よくケンカしちゃうんです。どうしたら、2人みたいに上手くやっていけるかなって…」

みく「李衣菜チャン…。あのっ、みくにも教えてほしいにゃ!」

「「………………」」

2人は顔を見合わせる。そして、優しく微笑んだ。

翔太郎「俺たちもさ、最初は全然上手く行かなかったんだぜ」

翔太郎「でも俺たちには、共通の思いがあってよ。それのお陰で、何とか上手くできるようになっていった」

みく「それって…?」

フィリップ「ある男の遺志…。それを受け継ぎ、この街を守ること。それこそが、僕らを繋ぐ最初の糸だった」

翔太郎「そっからまた、色んな戦いとか、出会いとか、別れとか…。そういうモンを、俺たちは共有してった」

フィリップ「だからこそ、今の僕らがある。君たちも、焦ることは無い」

翔太郎「ベタな言い方だけどよ、君たちが、俺らみたいになる必要はねえんだ」

フィリップ「君たちは今日、これからなんだろう?ぶつかり合い、共に進んで行きたまえ」

翔太郎「そんで、君たちらしいやり方を、君たちで見つけるんだ」



「「君たちの『ダブル』を探せ」」


みく「みくたちらしい…」

李衣菜「やり方…」

翔太郎「それと、もう一つ。俺たちに道を示してくれた人の言葉を、君たちに贈る」




  Nobody's perfect.
『完璧な人間などいない。支え合って生きていくのが、人生と言うゲーム』



フィリップ「喧嘩した後にでも、思い出してくれたまえ」

翔太郎「何かあった時には、同じ風に吹かれるのも悪くねえ。風の向こうには、いつだって未来が待ってる」

翔太郎が左手を、フィリップが右手を差し出す。

「「……はいっ!」」

みくと李衣菜は、それぞれの手をしっかりと握りしめた。


翔太郎とフィリップは揃って帰路につく。

みく・李衣菜、そして士・プロデューサーの4人は、その背中が見えなくなるまで見送り続けた。

みく「行っちゃったにゃ」

李衣菜「うん。でもさ、色んなこと教えてもらえたよ」

士「忘れても、二度は聞けないぞ。忘れるなよ」

李衣菜「はい!」

みく「わかったにゃ!」

これから2人が行く道を、既に通った者たち。

しかし、始まりは同じでも、行き着く場所はきっと違う。

その道を行くための『歩き方』を、2人はしっかりと胸に刻み込んだ。


穏やかに吹き抜ける風を感じながら、プロデューサーがつぶやく。

P「…お2人は、“歯車”によく似ていると思います」

みく「む。そこはネコチャンに例えてほしいところにゃ」

李衣菜「いやいや。猫なんかより、もっとロックに例えてくださいよ。何ですか、歯車って」

みく「…李衣菜チャン、今ネコチャンを軽視したかにゃ?」

李衣菜「ええ?だって、ロックの方が例えやすそうだし」

士「…お前ら、今は黙って話を聞け」

「「は、はい…」」

ケンカを始めそうになったところで、士がそれを止めさせた。

一つため息を吐いて、プロデューサーは話を続ける。

「…ぶつかり合っている間は、少しも回りません。騒音を出し続けるだけです」

「ですが歯が噛み合った時、それはとてつもない力を生み出すこともあります」

「…それが前川さん、多田さん。あなたたちお2人だと思うのです」

「ケンカしているときのお2人は…、正直、騒音のようなものです」

「ですが、同じ目標に向かう時に、あなた方は信じられないほどの力を生み出しました」

「そして何より、歯車は一つでは意味がありません。噛み合う相手がいてこそだと、思うのです」


「「……………………」」


プロデューサーの言葉に何か思うところがあったのか、みくと李衣菜は互いに考え込む様子を見せる。

少し経って、みくが口を開いた。



みく「流石Pチャン、士チャンと違ってよく考えてるにゃ!」



李衣菜「私たちのこと、プロデューサー“は”ちゃんと考えててくれたんですね!」




「……………………お前たち、次の仕事はバラエティにしてやろう。しかもかなりロケのキツイやつをな。覚悟しておけ」



P「か、門矢さんっ、それは……」

みく「えっ!?な、なんでにゃ!?」

李衣菜「もーっ!みくちゃんが、士さんをバカにしたようなこと言うから!」

みく「そ…、それを言うなら!李衣菜チャンだって乗っかったし!同罪にゃ!」

李衣菜「言いだしっぺが全部悪い!」

みく「乗って来た方も悪いにゃ!」



「「うううぅ~~~~……!!!」」





「「解散だーーーーーっ!」」



士「…早速か…」

P「………………」

2人の声は、風都の風に乗って、どこまでも伸びて行った。



それから何日か経って。

みくと李衣菜の2人は、改めてユニットデビューへの意思確認のため、プロデューサーの部屋に呼び出されていた。

このまま2人で行くのか。そう問われ、みくと李衣菜は頷いた。

P「では、このユニットでCDデビューということでよろしいですね」

李衣菜「はい。お互いのこだわりを尊重しながら、やっていけると思ったので」

みく「ネコミミもロックも、どっちも大事にしていくにゃ!」

士「上手くやれよ、猫ロック…あ?」

士の台詞の途中で、誰かが突然部屋のドアを叩く。

P「はい」

顔を出したのはちひろだった。

ちひろ「プロデューサーさん。このアイドルフェスの企画書、社内へ回してよろしいですか?」

P「あ…。すみません、この2人のユニット名がまだ…」

士「ユニット名?“猫ロック”でいいだろ」

みく「雑ーっ!?士チャン、それはいくら何でも雑すぎるにゃあ!」

李衣菜「ていうか、それなら“ロック&猫”にしてくださいよ」

士「それ、大差ないだろ」

李衣菜「“ロック”が先の方が、何かカッコいいじゃないですか!」

みく「士チャンは“猫”を先にしたにゃ。つまりこのユニットは、みくの方が大事にされてるってことにゃ!」

李衣菜「…“ロック”が先」

みく「“猫”が先にゃ!」

士「……『お互いのこだわりを尊重しながらやっていける』ってのは、もう撤回か?」

「「うっ」」

ちひろ「…あら?ユニット名は『アスタリスク』じゃないんですか?」

士「何?」

ちひろ「ほら、これです」

ちひろが表を見せる。その2人のユニット名の部分には、確かに『*』と書かれていた。

P「あ、いえ…。それはひとまず、仮の印を付けただけだったのですが」

ちひろ「そうですか」

李衣菜「あすたりすく…?」

みく「何にゃ、それ?」

ちひろ「ふふ。ラテン語で、『小さな星』という意味よ♪」

アスタリスク、小さな星。

その言葉の意味を、2人は気に入ったらしい。

李衣菜「アスタリスク…、ロックかも!」

みく「可愛くていい感じにゃ!」

P「え?」

みく「あっ!それにほら、Pチャン、士チャン、この記号の形!」

士「何だ?……ああ、なるほど」

李衣菜「……あっ。そう言えば、『歯車』に似てるかも!」

ちひろ「ふふっ♪なんだか、決まっちゃいましたね」

P「…分かりました。では、ユニット名は『アスタリスク』で行きましょう」

「「はい!」」

今ここに、シンデレラプロジェクト最後のユニット『アスタリスク』が、正式に発足した。

P「…それと、デビュー曲の衣装イメージが上がって来たのですが」

みく「わぁ~!ネコミミかわいい…あっ」

冷静になったみくは、隣の李衣菜の反応を窺う。

李衣菜「へぇ、可愛いんだ…。こういうのも結構ロックかも!」

みく「はぁぁぁ!?これのどこがロックにゃ!?」

李衣菜「何!?言ったでしょ、『ロックだと感じたら、それがロック』……」

みく「ポリシーなさすぎにゃ!」

結局、なんだかんだとぶつかり合う2人。その様子を見て、プロデューサーは微笑んだ。

P「2人とも、気に入ったようですね」

みく「むぅぅぅ~~~っ…!!解散!解散にゃ!!」

李衣菜「こっちこそ解散だよ!!」

P「…今ここで解散すると、次の仕事がキャンセルになりますが」

「「えっ!?」」

士「当然だろ?ユニットでの仕事なんだからな」

みく「…あ、アスタリスク再結成にゃ!ロック大好きー!」

李衣菜「ネコミミサイコー!」

士「…まったく、お前らは…」

肩を組んで白々しく笑うみくと李衣菜に、士はカメラを向けた。


今回はここでおしまいです。

どっちも知っている方からすれば「ああこう来るだろうな」と思われる組み合わせでした。
私はシリーズの話を練っていてこの組み合わせが一番に決まったくらいです。

そしてほぼバレバレだったと思いますが、6枚のライダーカードに対応するのは平成2期6ライダーです。
残り4ユニット、4ライダー。どのユニットに誰が付くのかは、既に決めてあります。
今後もお付き合いいただける方は、組み合わせを予想しながらお待ちいただければ幸いです。

また機会があったらよろしくお願いします。


あととてもどうでもいいのですが、投稿を考えたタイミングでWのクロスSSが2つもあった時は流石に驚愕しました。
こんなにクロスネタが被ることってそうそうないと思います。


蛇足ついでにもう一つ。
今回のサブタイトルは「ぶつかり合うCとR / ようこそ“風の街”へ」という英文のつもりです。
後半部分はWの主題歌の歌詞ネタ。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom