春菜「眼鏡を捨てた私」 (23)

「眼鏡の君を採用」

それが私の、上条春菜の眼鏡アイドルの始まりでした。
わざわざ眼鏡を外して受けたオーディションで落ちた直後でしたから、驚いたし、なにより嬉しかった。
また眼鏡が私を変えてくれた
新しい私に輝かせてくれた
だからこそ、今や眼鏡なしの私は上条春菜とは言えません
眼鏡も含めて、眼鏡ありきのアイドル上条春菜です

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「ここにいる皆には、今一度各々の方向性を考え直して頂きたい」
突然集められた会議室での話は、はじめ理解できませんでした
「わが社は、プロダクションとしての抜本的なイメージを見直すこととなった」
つい先日帰国したという、会長の娘のプロダクション改革。
「バラエティ路線の仕事は減らしていく予定です。将来的にはなくなるものと思ってください」
アイドル部門の見直し、縮小。
「それを踏まえて、各々のキャラクターを見直してほしい」
要するに、``イロモノ’’アイドルはいらないと
「あの人たち、さっきから何を言ってやがるです?」
このままでは仕事はない、それは事実上のクビ警告。
それでもプロデューサーさんなら、私を認めてくれた人ならと
「それから、君たちにプロデューサーはつかない」
えっ
「いろいろと人手が足りない状態ですので、これまでのプロデューサーさん達には別の仕事が割り振られてまして。しばらくはほかの誰かと一緒に仕事をするか、セルフプロデュースという形になります」
他の子たちの間でも、ざわめきが走る。
プロデューサーさんが、プロデューサーじゃ、なくなる?
「とはいえ、さすがにそれでは限界があるでしょうし、キャラクターを見直す点での質問なら、適宜お答えすることは可能です」
「その際は、私でも彼でも構わない。必要に応じて道標を示してやろう。話は以上だ。では各々良く考えてくれたまえ」
そう言って、偉そうな男性とその部下らしき人は部屋から出て行った。
残された私たちは、今の話を理解するのに精いっぱいで、会話もそこそこにそれぞれ帰った。

『春菜、ほんとうにすまん』

寮の部屋に帰ってきた時に届いていたメールには、短い一言だけ。
それは、プロデューサーさんからの心からの言葉だったのでしょう。

プロデューサーさんはもうプロデューサーさんじゃないんだ

そう思うと、途端に薄っぺらい言葉に見えてきて、そっと携帯を閉じた。

「これから、どうしよう」

その答えは、今までならプロデューサーさんが教えてくれた
でも、もういまはいない。

「キャラクターを見直せ、かぁ。」

眼鏡かなぁ、眼鏡だろうなぁ

眼鏡という特殊武器は捨て、アイドルらしい歌と踊りをしろと。
それに従わないなら仕事はない。

「アイドルを、諦める?」

絶対に嫌です!ずっと憧れてた、その舞台にようやく立てるようになったのに
立つ前なら少しは違ったかもしれないです

けれども、あのときめきを知ってしまったいま、逃したくないという感情はおおきくて。

助言なら与えると、一応の措置は応じてくれると言っていたので、とりあえずは明日話だけでも聞きに行こう。

今日は疲れた、もう寝よう

「では、こちらでお待ちください」

翌日、訊くべき相手がどこにいるのかわからなかった私は、フロントに事情を説明し、そしてこの部屋へ案内された。
部屋はそれなりに広く、けれども必要最低限の家具しか置いてないような、シンプルな部屋だった。

「うわ、高ぁ」

部屋の一辺、丁度会社のエントランスが見える角度がガラス張りになっていて外が見下ろせるようになっていた。

こんな高いところなら、あの偉そうな人はほんとうに偉い人なのでしょうか。

そんなことを考えていた時、丁度ドアが開いた。

「話を聞きに来たとは、君かね?」

「あっ、えっと、はい!上条春菜です!」

あれっ?女の人だ。背が高いですね、160?70近くあるでしょうか

「ふむ、それで聞きたいこととは?」

「はいっ!昨日、助言ならもらえると聞きましたので」

「ん?ああそういうことか」

ちゃんと伝わった?というかこの人は?

「いいだろう、私自らが君の方向性とやらを決めてやろう」

「あ、はい。お願いします!」

そういいながら女性は椅子に腰かける。

なんだか昨日の人より偉そうですね

「まず、そうだな。その眼鏡は外して、コンタクトにしたほうがいい」

「それは無理です」

「次に、ってなんだとっ!?い、今なんといった!?」

「眼鏡は外せません」

「なぜだっ?」

予想外だったのか、女性は立ち上がってこっちを見下ろす体勢になっている。

「眼鏡は私の一部です。眼鏡なしに、この上条春菜は成り立ちません!」クイッ

眼鏡を指で持ち上げながら声高々と宣言。

うんやっぱり私はこうでなくちゃ

「ふん」

女性は呆れたように椅子に腰かけると、カチカチとPCをいじりだしてしまいました。

「あっ、あの、なにかありました?」

まずいこと言っちゃったのでしょうか

「上条春菜、といったな?」

「あっ、はい」

「君はアイドルとして、もっと上に立ちたいとは思わないか?」

「上、ですか?」

「そうだ。今までよりも重い仕事、大きなステージ、そしてより多くの声援。そういったものを得たいと考えないのか?」

えっと、もっと輝きたいか、ってことですかね?

「思います!もっとかg」

「なら、私に従えばいい」

「えっ」

私の声は女性の強い言葉で遮られた。

「データを見たところ、君は歌も踊りもかなりのレベルをこなせているようだ。ビジュアルこそその眼鏡を外せば、Sランクアイドルだって不可能ではないだろう」

「それは、」

それは、つまり

「君には、トップアイドルの素質があると言っている。その眼鏡を外せば、の話だが」

「眼鏡を、外せ、ば?」

「そうだ。もっとも、外さなければアイドルの道すら残らないわけだが」

こんどこそ、現実的な選択肢が突き付けられました

眼鏡を外し、この会社でトップアイドルを目指すか。

眼鏡を外さず、アイドルの道を諦めるか。

「決断が難しいなら、今すぐに答えを出す必要はない。そうだな、二週間くらいなら猶予を与えても――」

「――ります」

「ん?」

「やります!トップアイドルに、なります!」

そうです、何を迷っていたんでしょう
あの人は、眼鏡姿を褒めてくれる人はもう・・・なら!

「私は!眼鏡を外します!!」

「そうか、いい顔だ」


この時私は、『眼鏡』を捨てた『アイドル』になった

「まずは二週間、高校生として過ごせ」

「は、い?」

眼鏡を外す決意をした私に、女性はこう言った

「ど、どうしてですか?営業とか、レッスンとかは」

「今の君には、最低限のレッスンで十分だ。しばらくは今の技術で事足りるだろう」

「じ、じゃあ営業しましょう!」

「その必要はない」

「なんでですか!」

「君には今後、スター性を持った正統派アイドルとして活動してもらおうと思っている。今の君がこの『正統派』になれるとは到底思えん」

「そっ、それはそうですけど」

自分が正統派じゃないって、なんか悲しいです

「だから君には、まずは``普通’’を養ってもらう」

「``普通’’ですか」

「そうだ。二週間、普通の高校生として過ごしてみてくれ。学校へ行き、授業を受け、友達と遊んだり、だ」

「な、なるほど」

「もちろん羽目を外しすぎるのは感心しないな。あくまでも君はアイドルだ。それを忘れてもらっては困る」

「はっ、はいっ!」


こうして、私上条春菜のトップアイドルへの道は始まったのです

ちなみに、この女性は美城常務といって、例の帰国した会長の娘だったと、知ったのはかなり後になってからでした

恨む?忙しくてそんな余裕なかったですね

それに、常務さんのおかげでファンが増えていたころに、恨めっていうほうが無理な話です
少しは感謝しているんですよ?

私が普通の高校生として二週間過ごしている間にも、会社は動いていて

たくさんの仲間、アイドルだった子たちはいなくなって

前にユニットを組んでいたみんなもそれぞれの道へ行ってしまいました

さらには、常務さんと対立関係にあった大きなプロジェクトが、アイドルの離脱で自然消滅したとか

「君には関係のないことだ。ただ、プロジェクトの縮小化計画がほぼ済んだ、といったところか」

その常務さんの言葉は、少し寂しそうに聞こえました


「今日は演技レッスンをしてもらう。君はまず、アイドルを演じる必要があると見た。
 いずれ演じる必要がなくなったときでも、表現力という点で培ったものは決して無駄にならないだろう」

「ダンスレッスンのときただ体を動かすだけでなく、どう動かせばより負担が少ないか考えながら踊るといい。
 君を見ていると、お手本通りに踊ることを意識しすぎている節がある。アイドルは体が資本だ。無理のある動きをして怪我でもしたら、元も子もない」

「明日の取材だが、前に一度受けたことのある雑誌社だ。だが、前の取材のことは忘れてのぞむといい。
 記事を見る読者が皆、前の記事を見ているとは限らないからな。もちろん、クオリティは前以上を期待している」

常務さんの出していく指示はいつも的確で、はじめのころは考える余裕すらなかった私にも、徐々にその意図が分かるようになりました

そんな、私の心の余裕に比例するかのように知名度は上がっていき、そして今や私はSランクアイドルの一人になっていました

「君には、Pランクアイドルになってもらいたい」

ある日の常務の唐突な言葉がきっかけでした

「は、えっ?Pランクアイドルって、えぇーっ!!?」

「なんだ、どうした?」

「どうした、じゃないですよ!なん、どうして私が!?」

Pランクアイドル。PerfectとかPlatinumとか、はたまたPrincessだとか

このPが何を示しているのかははっきりしていないが、意味は明確。

Sランクを超えた、ただ一人のアイドルの象徴であり頂点。

それに、私が?

「近々、アイドル総選挙がある。そこで一位を取り、その後のIUで優勝すればPランクとなれる。
 まあ前者が可能ならIUは簡単だろう。どうだ、名実ともにトップアイドルになれるのだ」

「なれ、るんですか」

「今の君なら、な」

今の私、なら――

そしてアイドル総選挙を明日に控えた今日、私はドームライブの控室にいた

「上条さん、十分後に最終確認します。よろしくお願いします」

「あっ、はい!」

眺めていた眼鏡ケースを閉じて鞄にしまう。

最近は打ち合わせのときでもかけることはなくなってしまったけど、大きな仕事の前ではいつもこうして眺めるようにしている

これまでの総選挙の中間発表では常に私が一位だった。

これから始まるのは、もしかしたら私のSランクアイドルとしての最後の舞台

『Pランクとなれば、記録にも人々の記憶にも永遠に残ることになるだろう。``アイドル上条春菜’’という存在がな』

常務さんの言葉が頭をよぎる。

トップアイドルになるのは``アイドル上条春菜’’

そこに、眼鏡は当然ない

ここにくるまでにも考えていた

眼鏡のない私は、はたして私といえるのでしょうか

「らしくない、緊張してるのかな」

まだ時間もあるし外の空気でも吸おうと、控室を出た

「春菜ちゃん」

通路を歩いていると、後ろからどこかで聞いたことのある声がして振り向く

「比奈ちゃん!ひさしぶりですね!」

「いやぁ人違いだったらどうしようかと思ったっス」

前に一緒にブルーナポレオンというユニットを組んでいた荒木比奈ちゃんです

「でも春菜ちゃんすごいっスねぇ、総選挙もずっと一位じゃないっスか」

「そんなことないよ、まだ決まったわけじゃないですし」

「いやあ、なんだか手の届かない場所に行っちゃったってかんじでスよ」

「そんなこと。。。あっ、比奈ちゃんは今どうしてるの、もしかして漫画家さんとか?」

そういえば、ほかのみんながどうしたか何も知りませんでした

「私スか?漫画は描いてますけど、違いまスよ。一応、今でもアイドル続けてるんスよ」

「えっ、本当ですか!?」

「本当っスよ。前のプロデューサーさんがプロダクション立ち上げたんスよ。
そこで一緒にやらないかって」

え?

「ほら春菜ちゃんも担当してたあの人っスよ」

プロデューサー、さん?

「にしてもトップアイドル前にして、アイドル名乗るのって恥ずかしいでスね」

『眼鏡の君を採用』

『眼鏡を外すくらいなら、服を脱いだ方がマシです!』

『眼鏡あってこその春菜だ』

『眼鏡は私の翼なんです』

『俺が、トップメガネアイドルにしてやる!』

「どうかしたんでスか、春菜ちゃん。ぼーっとしちゃって」

「比奈ちゃん!!」

「は、はいっ!?」

「電話、今その人に電話できる!?」

「そっ、その人?」

「ぷ、プロデューサーさんですっ!」

「あ、えっと待ってください。い、今かけまス」

慌てた様子で携帯を操作する比奈ちゃん

無理言っちゃったかな、でも。


いつだって、眼鏡が私を変えてくれた

アイドルになるきっかけも、あの人との出会いも、すべては眼鏡があったからです

なら、眼鏡なしの上条春菜は、『私』とは言えないじゃないですか!

トップアイドルになっても、それは『私』ではありません

『私』を捨て、『トップアイドル上条春菜』になるか

それとも―――

「あっもしもし、プロデューサーさんでスか?
 はい。今春菜ちゃんと一緒にいるんでスけど」

比奈ちゃんが話している、あの人と

「そうでス。なんかプロデューサーさんと話がしたいって。
 はい?いや、よくわかんないでスけど、いいでスか?」

しばらくしたのちに、比奈ちゃんが携帯を差し出す

「どうぞ、プロデューサーさんとつながってまス」

「ありがとうございます、比奈ちゃん」

受け取り、そっと耳に当てる

「もしもし?」

『もしもし、春菜か。久しぶりだなぁ。といってもこっちからは、最近はテレビで見ない日はないくらいだけどな』

聞こえてきた声と笑い声は記憶と変わりなく

「おひさしぶりです、プロデューサーさん。」

『今は春菜のプロデューサーじゃないけどなー』

少し、寂しそうな声でした

『で、どうしたんだ急に。これからライブじゃないのか?』

「そう、なんですけど。プロデューサーさんに、訊きたいことがあって」

『俺に?有意義なことを言えるかわかんないぞ』

「それでいいんです。ただ、思っていることを答えてくだされば」

スッと息を吸う

「『眼鏡のない上条春菜』は、『私』だと思いますか」

『―――。』

「眼鏡のない、トップアイドル上条春菜を、プロデューサーさんは見たいですか」


『俺は――――』



たくさんの人が行きかう街中を、変装をして歩く少女が一人

ビルのポスターや街頭ビジョンは、たった一人のトップアイドルで埋め尽くされていた

街の片隅、眼鏡屋の前で小学生くらいの女の子が佇んでいるのが目に入った

「どうしたの?」

気になった少女は、女の子に声をかける

「えっ、えっと。視力が下がったから眼鏡をかけなさいってママが」

突然話しかけられたことに戸惑いつつも、少女がどこかで見たことのある顔だったので
女の子はうつむき、話す

「でも、眼鏡かけてたらなんか地味だし、みんなにからかわれそうだから。やだなぁ」

「そんなことありません!」

「えっ?」

突然の少女の強い否定に驚き、顔を上げる女の子

「目がよくないままで、いいことなんてありません。
 眼鏡をかければ、きっと見える世界は変わってくる。あなたも、もっと自分に自信を持てるはず。」

「でも、みんなが」

「それは、眼鏡をかけたあなたに自信がないからです。
 眼鏡をかけたってあなたはかわいいまま、むしろもっとかわいくなります」

「ほんと?」

笑顔になる女の子

「ええ、私にはわかります。なんせ」

そして、少女は叫ぶ

和服アイドルで埋め尽くされた街中で

「私は、眼鏡アイドル上条春菜ですから!!」

眼鏡かわいいはるにゃんかわいいEND

ふぅ、満足。

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 01 Snow Wings

3月30日、明日!発売!!

最初2レス見づらいけどまあいいか

依頼してきますー

いいか、はるにゃんは眼鏡かわいい。
でも、眼鏡なしはるにゃんもかわいい!!!

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