勇者「まおうを助けに行く」 (58)

~~始まりの街(酒場)~~

戦士「なあんか、突拍子もない台詞が聞こえた気がしたけど気のせいか?」

勇者「気のせいじゃない。俺はまおうを助けに行く」

戦士「………くっ」

勇者「?」

戦士「ガハハハハ! おいおいおい! 珍しいじゃねえか! おめえがそういう冗談口にすんの、久しぶりに聞いた気がするぜえ!」

勇者「………………」

戦士「……あ?」

勇者「……」

戦士「マジで言ってんの?」

勇者「ああ、大マジだ」


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戦士「この大馬鹿野郎があっ!」ゴンッ

せんしのこうげき!

ゆうしゃは128ダメージをうけた

せんしは64のはんしゃダメージをうけた

勇者「いでっ」

戦士「〜〜〜っ!?」プルプル

勇者「おい、大丈夫か?」

戦士「相変わらず硬ってえなあ! 殴った拳の方が痛むくらいだぜ、ちくしょう!」

戦士「…………ふう」

勇者「落ち着いたか?」

戦士「ああ。拳の痛みはな」

勇者「そうか良かったよ。ほんじゃな」ガタッ

戦士「……いや待て。よしじゃねえ、何も良くねえよ」ガシッ

勇者「ん、どうした?」

戦士「どこ行くつもりだよ、お前え」

勇者「王様の所だが」

戦士「……王様に魔王を助けに行きます、とでも報告するつもりかあ?」

勇者「だからそう言ってるだろ」

戦士「アホか!」

勇者「? 確かにあの人はアホだけど、でもだからといって報告も無しに旅に出るとか失礼だろ? あの人だって王様なんだぞ?」

戦士「そういう問題じゃねえ!」

戦士「勇者のくせして魔王を助けにいくとかほざいてるおめえをアホだっつってんだ! つうかそもそも——」

勇者「じゃあ聞くが」

戦士「あ?」

勇者「お前、冒険に着いてきてくれる気あるのか? まおうを助けるために、命を掛けられるのかよ?」

戦士「そりゃあ…………勿論そんな気ねえけどよぉ」

勇者「なら余計な口出ししないでくれ。これは俺の問題だ。親友の戦士には、せめて旅立つ前に別れの挨拶を済ませたかっただけなんだよ」

戦士「いやだからなあ、そういう問題じゃ——」

勇者「じゃあな。何だか迷惑掛けちゃったみたいだし、酒代ぐらいは奢っとくよ」

戦士「お、おい……!」

勇者「店員さん、ゴールド置いときますね」

店主「アザース」

バタン……。


戦士「…………ったく」

戦士(どうしちまったんだあ?あいつ)

〜〜王の間〜〜

勇者「————っというわけで、まおうを助けに行きます。それでは」

王様「待てい!」

勇者「?」

王様「不思議そうに首を傾げるな! ちゃんと説明しろ!」

勇者「今説明したばっかりじゃないですか」

王様「今の回想じゃ、お主がワシをアホだと思ってたことくらいしか伝わらんわ!」

勇者「ど、どうしてバレているんですか!?」

王様「お主が今しがた、自分の口で説明したんじゃろうが! アホめが!」


側近「王様」

王様「……済まぬ。取り乱した」

王様「しかし勇者よ。魔王を助けたいとは一体——」

勇者「いや待って下さい王様。まず先に僕をアホ呼ばわりしたことを撤回してください。さりげなく流そうとしないでください」

王様「ええい、黙れい! お主もワシをアホ呼ばわりしたんじゃからおあいこじゃろうが!イーブンじゃ!」

勇者「イーブンではありません。アホをアホ呼ばわりするのと、アホがアホ呼ばわりするのはまた別です」

王様「こ、こいつっ……こやつだけはっ……!」

側近「落ち着いて下さい。王様」

勇者「まあいいです。もう用は済んだので行きますね」

王様「待てと言っとるじゃろうが! ……本気で、魔王城に行くつもりか?」

勇者「ええ。そうしないとまおうを助けられませんし。……行っていいですか?」

王様「————動くな」

勇者「はい?」

王様「もし、そこから一歩でも動いてみろ。反逆行為と見做して、お主の首を刎ね続けるよう国中に命令を下す」

勇者「俺の首を跳ねても、またすぐに復活するだけですが」

王様「はっ、分かっとらんな。跳ね"続ける"というたじゃろ」

勇者「?」

王様「この王の間に復活すると同時に、ノータイムでお主の首を跳ねさせるのじゃ。お主は反省するまで延々と殺され続けることになる」

勇者「随分と酷いことおっしゃりますね」

王様「記憶を持ち越せることお主にとってこれ以上よ責め苦はあるまい……どうじゃ? 想像するだけで気が滅入るじゃろ」

勇者「ええ、たしかに。でも構いません」

王様「なに?」

勇者「ただ——」



勇者「その場合真っ先に跳ぶのは多分、あなたの首ですよ?」


王様「な、なっ…………!」ゾッ

側近「王様! お下がりください!」ガチャ

勇者「冗談です。では本当に行きますね」

タタタタッ……バタン

王様「〜〜〜っ! ふうっ……ふうぅぅぅ!」ガクガク

側近「お、王様!? ……おい誰か、至急かかりつけの医師を呼べ!」

王様「いらんわ! それより……御触れを出せ! 国中に勇者を討てと伝えるのじゃ!」

側近「は!」

勇者(——と、こんな調子で着の身着のままに国を飛び出して来てしまったわけだけど)

勇者「流石に王様に喧嘩を売ったのはマズかっただろうか」

勇者(でも、みんな口を揃えて反対するんだもんなあ)

勇者(だからつい反抗的な態度をとってしまったが……やり過ぎたか)

勇者(ま、詳しい事情を説明しなかったから、王様たちの反応も仕方ないんだが)

勇者(とはいえどうせ話した所で反応は同じだったろうし。何となく……まおうの話を誰かに語りたくはない)

勇者「今更後悔したって仕方ないな」

勇者「もう暗くなって来たし。今日はここらで野宿するか」

勇者(ちなみに今いる場所は、始まりの街から、北へ離れた森の中)

勇者(王様の追ってを警戒して見つかりにくい場所を選んだんだが……その分視界が悪いな)

勇者(寝ている所を魔物に襲われないといいけど)

勇者(……)

勇者(……まおう)

〜〜王の間(六年前)〜〜

王様「おお勇者よ、こうして会うのは半年ぶりじゃな」

幼勇者「はい! お久しぶりです」

王様「まずは十歳の誕生日おめでとう、と言っておこう」

幼勇者「ありがとうこざいます!」

王様「で、分かっておるとは思うが——お主には今日より魔王討伐の為の特別訓練を、住み込みで受けて貰う」

幼勇者「は! 心得ております!」

王様「屈強な兵士ですら音をあげる訓練じゃ。幼いお主にはちと辛いじゃろうが、これも平和のため。分かってくれ」

幼勇者「お言葉ですが、王様」

王様「ん、なんじゃ?」

幼勇者「俺と同い年の子供が既に三人。本日俺が受ける訓練よりも更に熾烈な訓練をこなしていると聞いております」

王様「ああ——そういえば、あの三人はお主の幼馴染じゃったか。訓練については他言無用と厳しく言っておったんじゃが……。人の口に蓋は出来んな」

幼勇者「彼らの付き合いが急に悪くなったので、俺が半ば強引に聞きだしただけです。しかし、王様。そんな些事はどうでもいいのです」

王様「と、言うと?」

勇者「彼らと同じ訓練を受けさせて欲しいのです。なんだったら、彼らの三倍の量の訓練だって容易にこなしてみせましょう」

王様「ほっほー。随分と威勢がいいのう。善哉善哉。おい、側近!」

側近「は!」

王様「勇者をあやつらの合同訓練に参加させてやれ」

側近「いや……しかし、初日からいきなりというのはあまりにも……」

王様「黙れい! 当人がやると言っておるのじゃから、やらせればいいじゃろうが!」

側近「……承知致しました」

幼勇者「ありがとうございます! 王様!」

王様「わしも主には期待しておる。励めよ」

幼勇者「は! 精進いたします!」

王様「うむ。では下がれ」

幼勇者「失礼しました!」

バタンッ

幼勇者(ふぅ。緊張した……)

幼戦士「ブハハハハッ! 本当にやりやがったな、おめえ! あの万年更年期な王の野郎に注文つけるとかよお! どんだけ命知らずなんだっての!」

幼魔法使い「ちょっと。ここで王様のこと悪く言うのやめなさいよ。扉の向こうにまだいんのよ?」

幼僧侶「やったね! これで勇者くんも一緒に訓練出来るね!」

幼勇者「お前ら……聞いてたのか」

幼勇者(俺が王の間を出るとすかさず声を掛けてきたこの三人は、件の幼馴染達だ)

幼勇者(俺含めこいつらは全員物心つく前に魔物に両親を殺されている。要するに孤児だ。身寄りのない俺たちは同じ孤児院に保護され育った)

幼勇者(だから幼馴染というより、家族といった方が感覚的には近いのかもしれない)

幼戦士「ん、なあにをボケェッとしてんだよ?」

幼勇者「ああ、悪い。ちょっと緊張し過ぎちゃって。反動が……」

幼魔法使い「なっさけないわねー。そんな様でよく『彼らの三倍の訓練をこなせますぅ』だなんて言えたもんね」

幼戦士「それ聞いたときゃあ、俺も笑い堪えんの大変だったぜえ。無鉄砲ここに極まりって感じだな!」

幼僧侶「うーん。でもあのくらい大げさに言った方がかえって説得力はあるんじゃないかな?」

幼勇者「おいおい、あれは本気で言ったんだぞ? お前らが毎日やってる訓練なんざ、俺なら楽々こなせるね」

幼戦士「なあに馬鹿なこと言ってんだ。こんなかで一番年下の貧弱野郎が強がったって見苦しいだけだぜ?」

幼勇者「今日から同い年だ。だから公式に訓練だって受けれる」

幼魔法使い「じゃあ賭ける? 私は勇者が今日の訓練についてこれないに一ゴールド」チャリン

幼戦士「お!俺もその賭けのった!」チャリン

幼僧侶「…………うん。初日は途中で挫折しちゃっても仕方ないよ」チャリン

幼勇者「ぐっ……お前ら、後で後悔しても知らないからな!」

〜〜訓練場〜〜

側近「点呼!」

幼戦士「1」

幼魔法使い「2」

幼僧侶「3」

幼勇者「……4」

幼勇者(っておい)

幼勇者(合同訓練って……たったの四人かよ!? じゃあ、今まではこいつら三人だけでやってたってのか!? そんなんじゃ訓練にならないだろ絶対!)

側近「おい、勇者。返事が小さいぞ。やる気がないのか!」

幼勇者「い、いえ!」

幼勇者(っていうか、側近さんが監督なんだな。まあ別に誰でもいいんだけど)


側近「しっかりしろよ。お前は良くも悪くも注目を集めてるんだから」

勇者「はい!」

勇者(ああ……やたらと見物人が多いのはそういうことか)

側近「よし。見ての通り。今日から勇者を加えて、この四人で訓練を行って貰う」

側近「勇者も予想はついているだろうが、中には共同でことにあたる訓練も多々ある」

側近「その際、互いの力量を把握し役割分担をスムーズに行うことが不可欠になって来る」

側近「よって」

側近「本日勇者にはこの三人と実戦形式で総当り戦をして貰う。戦いを通して力量差を確かめろ」

勇者「こいつらと戦えっていうんですか?」

側近「ああ、殺す気でやれ。心配はいらん。こいつらは私が半年以上かけて鍛えたのだ。お前ではどう足掻いても勝てん」

勇者(くっ……こいつもか! どいつもこいつも舐めやがって!)

側近「ではまず、戦士と勇者。武器を持って前に出ろ!」

勇者「はい!」

戦士「オッス!」

勇者(戦士の武器は馬鹿でかい斧か。一撃喰らったらダメージはデカそうだな。精々四……いや、三発受けるのが限界か)

戦士「ん? なあに、辛気臭え顔してんだ? ビビってんなら早めにギブアップした方がいいぜえ」

勇者「はっ、言ってろ」

側近「無駄口を叩くな。用意……」

勇者(つっても、でかいってことはイコールで重くて鈍いってことだからつまり——)

側近「始めっ!」

勇者(————先手必勝!)ダッ

戦士「——んな!?」

勇者(思った通りだ。敵が懐に入ってるってのに、まだ得物を振りかぶってやがる)

勇者「もらった!」

勇者(こんなんならヒットアンドアウェイ繰り返してれば無傷で勝てる! どんだけ破壊力があっても当たらなかったら意味は——ない!)ザンッ

ゆうしゃのこうげき

せんしは1のダメージ



勇者「ふえっ!?」

勇者(おい待てよ。ダメージ少な過ぎだろ。どんだけ硬いんだこいつ)

勇者(どうする? いくらスピードは勝ってるつっても、流石にこれじゃ戦士を倒す過程で三発以上は喰らってしま——)

戦士「——ってえなあ。こんちくしょう!」

勇者「! しまっ————っ!?」

戦士「お返しだ!」ブンッ

せんしのこうげき

ゆうしゃに38のダメージ。




王様「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」

勇者「何……だと?」

側近「ニ戦目。魔法使いと勇者。前に出ろ!」

勇者「はい!」

魔法使い「……はい」

勇者「なんか気持ち悪そうだけど、大丈夫か?」

魔法使い「……あんた。死んでから王の間に転成するまで、タイムラグがあるでしょ?」

勇者「ああ。今更それがどうしたってんだよ?」

魔法使い「で、知らなかったかもしれないけど、蘇るまでの間あんたの死体はその場に残るの」

勇者「えっ」

魔法使い「つまりついさっきまであんたの生首と首なし死体がここに放置されてたのよ? 後は察しなさい」

勇者「うん、ごめん……」

勇者(でもだからって幽霊を見るような視線を向けないで欲しい……それこそ今更だろうに……)

側近「用意」

魔法使い「先に言っておくけど、私は戦士と違って優しくないから」

勇者「え?」

魔法使い「あんたを練習台のサンドバックとしてじわじわといたぶるつもりなんで、そこんとこよろしく」

勇者「こっちこそ。お前に弄られ続けた積年の怨み。ここでたっぷり返させてもらうからな」

魔法使い「弱虫勇者が言ってくれるじゃない」

勇者(魔法使いがどういう戦法を仕掛けて来るのか大体想像はつく)

勇者(正直魔法使いが"アレ"を使えるとは、とても思えないってのが本音なんだけど……。戦士との戦いで学習した。多分こいつらは、俺の予想よりも遥かに成長している)

勇者(さっきは使う間もなく倒されてしまったが……俺も"アレ"を使うしかないだろう。同じ土俵に乗らなければまず勝てなそうにない)

側近「始め!」

魔法使い「メラ」

勇者「————メラ!」

まほうつかいはメラをとなえた

ゆうしゃはメラをとなえた

じゅもんがそうさいされた!

魔法使い「!?」

側近「ほう、あの歳でメラを扱えるのか」

戦士「そ、相殺だあ!? んなこと出来んのかよ!」

僧侶「すごーい。それってつまり魔法使いちゃんの『メラ』に勇者君の『メラ』の威力が追いついたってことだよね」

勇者(当然だ)

勇者(呪文は多少の上下はあれど基本的に固定ダメージ。唱える者によって威力が左右されたりはしない) 

勇者(メラがメラゾーマ並の威力になるなんて御伽噺だ)

勇者(とはいえ最大MPは魔法使いの方が上のはず。なら消耗戦に持ち込まれたら不利だろうな。俺は後二発しかメラを撃てそうにない)

勇者(だからこっちのMPが尽きる前に——)

勇者(接近戦に持ち込む!)ダッ

魔法使い「ちょ、ちょっと! 何駆け寄って来てんのよ!」

勇者「近寄らないと、攻撃が届かないだろうが!」

魔法使い「っ————メラ!」

勇者「メラ」

じゅもんがそうさいされた

魔法使い「〜〜〜っ! 盛大に火葬してやろうとしてんだから、幽霊らしく黙って成仏しなさいよ!」

勇者「ついに口に出して俺を幽霊呼ばわりしやがったな!」

魔法使い「幽霊に幽霊って言って何が悪いのよ!」

勇者「よーし、キレた。俺はブチギレたぞ。手心なしでぶん殴ってやるから覚悟しろよ、魔法使い」

魔法使い「ふんっ。くたばれゾンビ野郎ーーーー!」

勇者(魔法使いが詠唱を始めた。これさえ凌げば、もう魔法使いに手が届く。でもって魔法使いは運動音痴だ。一度組み敷けば、後はこっちのもの。つまり……)

勇者「これで俺の勝ちだ! ——メラ」

魔法使い「ヒャダルコ!!!」

ゆうしゃはメラをとなえた。

まほうつかいははヒャダルコをとなえた。

ゆうしゃは34ダメージをうけた。



王様「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」

勇者「待って。ありえない。絶対におかしい」

側近「三戦目。僧侶と勇者。前に出ろ」

僧侶「はい」

勇者「……はい」

僧侶「勇者くん大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど」

勇者「……ああ、まあ、何とか」

僧侶「今日は首を切られたり、氷でお腹を貫かれたり大変だったもんね。仕方ないよ」

僧侶「戦いの際中耐えられないくらい気分が悪くなったら遠慮せず言ってよね。回復呪文かけたげるから!」

勇者「……いや。お前は俺と今から戦うんだから、回復させたりしちゃあダメだろ」

僧侶「あ、そっか。えへへ」

勇者(……なんだかなあ)

勇者(俺が意気消沈気味なのは、続け様に死んでしまったからではない)

勇者(死ぬのにはそこそこ慣れている)

勇者(気掛かりなのはむしろ——)チラッ

僧侶「?」

勇者(……こいつと戦わなきゃいけないことなんだよなあ)

勇者(がさつな戦士や性悪な魔法使いと違って、どうしても気が引けてしまう)

側近「用意——」

勇者(……ま、どうせ僧侶も滅茶苦茶強すなってるんだろうが)

勇者(たしかこいつ、回復魔法を使えたよな。……ダメージを与えた端から回復されてしまうんじゃ倒しようがない。泥臭い展開の後、押し負けるのが目に見えている)

勇者(何より、いくら回復出来るとはいえ、痛みは痛みとして成立するわけで……)チラッ

僧侶「お互い頑張ろうね! 勇者くん」

勇者「お、おう」

勇者(痛めつけるのは、ちょっと気が滅入る……)

勇者(だから)

勇者(理想は初撃でかいしんのいちげきを叩きだして、僧侶の意識を奪うことだ)

勇者(この作戦なら、僧侶の回復を封じ込められるし、何よりこいつも痛みを感じることもないだろう)

勇者(しかし、果たして俺にそれが出来るのだろうか……?)

勇者(メンタル的にもフィジカル的にも厳しそうだ)

勇者(……いや。やるしかない。それ以外の勝ち方も思い浮かばない)

勇者(よしっ——)



側近「始め!」

僧侶「せぇぇぇぇえええええええいいいいい!!!!」

勇者「!?」


そうりょのこうげき

かいしんのいちげき!

ゆうしゃは108のダメージ!







王様「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」

勇者「……………………何だよこれ」


勇者(こうして。側近さんの宣言通り、俺は幼馴染達との実力差を思い知らされた)

勇者(言うまでもなく。彼らを基準に組まれた訓練についていくことは叶わず——その日、俺は訓練途中に極度の疲労が原因で気絶しすることとなる)

勇者(幼馴染達との賭けに見事負けてしまったのだ)

勇者(気絶する前後の記憶は朧で、何をやらされていたのかはよく覚えていない。思い出したいとすら思えない)

勇者(あまりに悲惨な俺の姿に同情したのか、あの性悪でがめつい魔法使いですら、俺から賭け金を徴収しようとしなかった……と言えば概ね想像はつくと思う)

勇者(早すぎた。訓練内容が俺の身の丈にあっていなかったのだ)

勇者(とはいえ、王様に直談判して合同演習に参加させて貰った手前、今更訓練の難易度を下げろと言うわけにもいかず)

勇者(結局、俺は彼等と共に訓練を続けることになる)

勇者(で、一週間経った頃には————)

勇者「……」

戦士「んだよ、おめえ。まあだ、うじうじしてんのかよ。弱いなら強くなりゃあいいだけじゃねえか」

勇者「……うっせ」

僧侶「で、でも! 昨日の水中演習とかは結構いい線言ってたと思うよ!」

勇者「……ありがと」

魔法使い「さっきから陰気臭いんだっての。やめてよね、こっちまで気分悪くなって来るんだから。ほれ、わざわざクッキー持って来てやったんだから、機嫌直しなさい」

勇者「……いらん」

勇者(すっかり自信をなくしていた)

勇者(自信をなくしていたというか——拗ねていたのだろう)

勇者(単に幼馴染達に差をつけられたことが悔しくってベソをかいていたんだと思う)

勇者(今になって振り返ってみると、我ながら幼稚な態度だったと言わざるを得ない)

勇者(でも)

勇者(だからこそ)

勇者(彼等を見返してやりたいと願っていたからこそ)

勇者(俺は彼女と出会うことが出来た)

〜〜王の間〜〜

王様「何! 勇者が見つからないじゃと!?」

側近「はい。恐らくは城から抜け出したかと」

王様「ありえん! 勇者の動向は、24時間体制で見張らせておったはずじゃろう!」

側近「どうやら彼は自室の窓から飛び降り、監視の目をくぐり抜けたようです」

王様「ゆ、勇者の自室はこの城の5階にあったはずじゃが……?」

側近「彼の身体能力を鑑みれば、その程度の高さ。何の障害にもなり得ないでしょう。腐っても勇者ですから」

王様「ぐぬぬ……」


王様「ええい! 眠っている兵を叩きこせ! 総動員で勇者を探し出すのじゃ!」

側近「そ、総動員……ですか?」

王様「なんじゃ、不服か?」

側近「……些か、対応が大袈裟過ぎやしませんか?」

王様「勇者の身にもしものことがあったらどうする!? 真の意味で魔王を倒せるのはあやつだけなのだぞ!」

側近「お言葉ですが。もしものことがあったとしても勇者ならすぐにーー」

王様「たわけが! そのくらい心得ておるわ! お主の言うとおり、魔物に襲われ殺される程度ならまだいい! どうせあやつはここに蘇る! じゃが」

王様「……万が一、勇者が魔王軍に捕まったらどうするのじゃ」

側近「!」

王様「魔族側は勇者を"葬る"ための手段を有しておる。お主も知っておろう?」

側近「勇者殿の父上も"それ"で命を落とされた、のでしたね」

王様「そうじゃ。さきも述べたとおり、勇者は魔王を殺す唯一の手段じゃ。もしも今あやつを失うことになったら……」

側近「我々人間は、魔王軍にあらがう術をーー完全に失う」

王様「分かったら、さっさと行けい! 一刻も早く勇者を連れ戻すのじゃ!」

側近「っ……はっ!」


一方その頃……

〜〜始まりの街郊外(夜)〜〜

幼勇者(………よし、誰もついて来てないな?)

幼勇者「……く」

幼勇者「くくくっ。ふははははは!」

幼勇者(よっし! ついにあの糞生意気な貴族どもを出し抜いてやったぞ!)

勇者(いつもいつもいつも、俺を落ちこぼれ扱いしやがって!)

勇者(いい大人が、年端もいかない子供の悪口で盛り上がると恥ずかしくないのかね)

勇者(そもそも同い年の奴等に遅れをとってるからってどうした!)

勇者(俺は遅生まれで、あいつらは早生まれなんだぞ!?)

勇者(にも関わらず、あいつらと同じ訓練に辛うじて食いついていけるだけでも凄いと思うわけよ)

勇者(そういう将来性とかーー細かいところもちゃんと加味して評価してくれないと、俺としても挨拶に困っちゃうんだよね)

勇者(表面的な成果だけで俺の強弱を計られたくはないわけ)

勇者(まあ、でも気持ちは分かるよ?)

勇者(結果を出さない天才よりも、結果を出す凡人を褒め称えたくなるの気持ちもさ)

勇者(だからーー)

勇者「俺だって、結果を出してやる」

勇者(で、どうやって結果を出すのかというと……)

勇者(どうやら最近、はじまりの国周辺の魔物が活性化しているらしい)

勇者(そのせいで魔物に襲われて怪我を負う人達が急増しているのだとか)

勇者(町の人たちも極力町の外には出ないように心掛けているようだけど、それでも不安に思っているに違いない)

勇者(そこで)

勇者「俺がその魔物たちを蹴散らしてしまえば、評価も鰻上がりってわけだ」シメシメ

勇者(幸い。ここら辺の魔物は雑魚しかいない)

勇者(俺でもどうにかなるだろう)

勇者(そうはいったものの)

勇者「中々出てこないなあ」

勇者(ん? あそこでぷるんぷるん蠢いてるのはもしかして……)


スライム「!?」


スライムがあらわれた!


勇者「お、やっと出て来たか」ジャキッ

スライム「ピ、ピギーーーーーッ!!!!」


スライムBがあらわれた!

スライムCがあらわれた!

スライムDがあらわれた!


勇者(っ………増援か)


スライムEがあらわれた!

スライムFがあらわれた!

スライムGがあらわれた!


勇者「え……ちょ……!」


スライムHがあらわれた!

スライムIがあらわれた!

スライムJがあらわれた!

勇者「くっ……!」

勇者(か、完全に囲まれた)

勇者(いや……落ち着け。所詮はスライム。冷静に一体一体対処していけばばどうにかなる!)


勇者「せいっ!」ザンッ

スライムA「ピギィ!?」


ゆうしゃのこうげき!

スライムAは15のダメージ


勇者(よし、手応えあり。さて次はーー)


スライムA「ピギーーーーーッ!」

勇者「なっ!?」


スライムのこうげき!

勇者は5のダメージ


勇者「ぐはっ!?」

勇者(ス、スライムにしては力が強過ぎる!)

勇者(それに、スライムが俺の斬撃を受けきっただと!?)

勇者(……とにかく接近戦は危険だ。反撃をくらう恐れがある)

勇者(なら魔法だ!)

勇者「ーーーーメ」


スライムB「ピギィ」

スライムBのこうげき!

ゆうしゃは4のダメージ


勇者「ぐっっ……!?」

勇者(速すぎるっ。呪文を唱える暇すらーー)


スライムCのこうげき!

スライムDのこうげき!

スライムEのこうげき!

ゆうしゃは14のダメージ


勇者「がああああぁぁぁ!?」ドサッ

スライムF「ピギィ?」


スライムFはようすをみている


勇者(……くっ、そ。こっち見て笑ってやがる)

勇者(でも)

勇者(立てない)

勇者(視界も、ボヤけて来た)

勇者(これは、詰んだな)

勇者(まあ、いいさ。どうせここで死んでもすぐに)

勇者(すぐに……)

勇者(……)

勇者(俺は、スライムにすら勝てないのか?)

勇者(そんなやつに、果たして本当に魔王を倒せるのだろうか)

勇者(同年代の友達にすら勝てない野郎に、勇者なんて務まるのだろうか)

勇者(いくら蘇たって、生きてたところで、意味ないんじゃないのか?)

勇者(……)

勇者(俺は、俺はーー)

??「マヒャド」

スライムA~J「「「「「ピギィ!?」」」」」


スライムAに111のダメージ!

スライムBに104のダメージ!

スライムCに109のダメージ!

ーーーーー
ーーー



スライムたちをやっつけた!


勇者(な、にが?)

??「そこの君、大丈夫かい?」

勇者(だれ……だ……?)

勇者「う……あ……」

??「ちょっと、しっかりしーーーー」

今日はここまでで

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