閻魔「それでは被告人に判決を言い渡します」 (27)


閻魔「これより裁判を開廷します。 被告人、前へ」

女「よろしくお願いしまぁす。 思っていたよりダンディな方なんですねぇ」


ザワザワ


赤鬼「ケッ、女かよ。 今日は早く終わりそうだな」

青鬼「かわいい子だなぁ……フヒッ」

黄鬼「アンタ見境ないわねぇ、あんな媚び媚びした女のどこがいいのよ」

閻魔「傍聴席の方は静粛に。 女さん、どうしてあなたがここで裁かれる理由は分かりますか」

女「ちっともわかりませぇん。 私、天国に行けないんでしょうかぁ?」

閻魔「天国へ行くことのできる資格は、心に一点の曇りもない清らかな魂を持つ者に与えられます」

閻魔「しかしあなたは現世の法律で定められた数多の罪を犯している」

女「えぇ? そうでしたっけぇ?」

書記鬼「閻魔様、こちらを」 スッ

閻魔「記録によれば、あなたは麻薬密売、児童強姦、殺人、また殺害した小児を食し遺棄したそうですね」


ザワッ


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赤鬼「うげぇ! 人間のやることじゃねぇ、本物の化け物じゃねえか!」 ガタッ

青鬼「ヒィィっ!? ボクたち鬼もそこまで酷いことはできないよぉっ」

閻魔「静粛に。 しかしそこまでの罪状をかけられながらも、あなたは良心の呵責を一切感じていない」

閻魔「あなたにはご自身の罪を正しく理解しておられないとの疑いがかかっております」

女「いやですねぇ。 私は間違ったことなんて何一つしてきませんでしたよぉ?」

女「はやく天国に連れて行ってくれないかしらぁ」


閻魔「本裁判ではこの閻魔が弁護士、検事および裁判長を務めさせていただきます。 書記鬼」

書記鬼「はっ。 こちらに」 ゴト

閻魔「これはあなたの魂を審判する天秤です。 片側には罪悪感、もう一方には正義感を」

閻魔「真実を騙ることはご自身の首を絞めることとなりますので、質問には正直にお話しください」

女「ひどいですねぇ。 嘘なんかつきませんよぉ」


閻魔「それでは尋問に移ります。 あなたが現世で犯した罪についてお話しください」


女「ありませぇん」

赤鬼「おいふざけんな! そんだけ真っ黒のクセに罪がないワケねーだろうが!」

黄鬼「でも天秤が傾いてないってことはあの女、心の底から潔白だって思ってるわけね……」

閻魔「……質問を変えましょう。 あなたは麻薬の密売をしていたとき、これは悪いことだという自覚がありませんでしたか?」

女「? 薬を売りさばくことがどうして悪なのでしょう?」

閻魔「えっ」


女「物を欲しい人がいて、見返りにお金と交換するのはとってもシンプルな経済の見本だと思いません?」

黄鬼「アンタが売ってたのは常習性のある薬物でしょう? なにが経済の見本よ、言ってる事めちゃくちゃじゃない!」

女「たかが薬を売るのがいけないことですかぁ? そもそも何をもって麻薬がダメなのでしょう?」

女「頭の中まで届くものがダメというおつもりなら、お酒もタバコも紅茶もナツメグもぜーんぶダメですよぉ?」

赤鬼「そういう問題じゃねぇ! 麻薬は法律で使うなって定められてるんだよ!」

赤鬼「それにそんな危険なモンを吸い続けてたら廃人になっちまうだろうが、麻薬は社会悪だ!」

女「社会悪? おかしなことを言う鬼さんですねぇ。 大麻所持が非犯罪の国なんていっぱいありますよぉ」

青鬼「き、君は吸ったことあるの? ないでしょ? 自分がイヤなことは誰かに勧めたらいけないと思うな、フヒッ」

女「でも、麻薬に手を出してしまうほど追い詰められた心の弱い人にとっては必要ですよねぇ?」

女「今までたくさんの人をお悩みから救ってきたのに、こんな仕打ちはひどいと思いますぅ……」 グスッ


閻魔「しかし、なぜ麻薬売買が違法と知りつつなお薬物を売り続けたのですか?」

女「閻魔さん。 人はみんな成人前までにお酒は飲みませんか? 18歳までに貞操を捨てませんか? 車のいない赤信号を待ちますか?」

女「ときに法律よりも優先すべきことがあるのですよぉ。 私が薬を渡さなければとっくに首を吊っていた方も中にはいらっしゃられます」

女「人命、なによりも大切ですよね?」 ニィ

黄鬼「そんな子供の言い訳……!」

女「言い訳? なんのことだかよくわかりませんねぇ。 あっ天秤見えますかー? ほらぁ、こんなにまっすぐです!」

赤鬼「ゲスめ……お前がばら撒くから買っちまう奴が現れるんだろうが」

女「薬に手を出すのは自己責任ですよぉ。 それを売り手に責任転嫁はよくありませんねぇ?」


閻魔「しかし、あなたの死因は致死量に至る麻薬の服薬とあります。 あなた自身は麻薬を毒と認識していたのでは?」

女「毒だなんてとんでもありません! 度数と一口の量を間違えればコップ一杯のお酒でも人は死んじゃいます、ようは使い方ですよぉ」

女「どうせ死ぬなら気持ちいい方がいいじゃないですかぁ。 最後の晩餐、というやつですぅ」

赤鬼(……ん? そういやどうしてこいつは自殺したんだ?)ヒソ

黄鬼(大方、警察に追い詰められて捕まるぐらいなら……って筋立てでしょうね)

黄鬼(こんな良い性格したヤツが自責の念って言葉を知ってると思う?)

赤鬼(そりゃそうだよな……)


閻魔「続いて次の質問に移ります。 あなたが児童強姦の罪を犯した経緯についてお話しください」

女「強姦だなんて滅相もありませぇん。 ちゃんと合意の上でしたよぉ?」

赤鬼「合意でも年が何歳離れてると思ってんだこのペド野郎!」

青鬼「ど、どうせ非合法な手口で攫ってきたんでしょ?」

閻魔「静粛に。 女さん、あなたが合意の上と判断する根拠はありますか?」


女「はぁい。 あれはお仕事で南アジアにお出かけした頃でしたねぇ」

女「私も人間ですからムラムラしましてぇ、帰りに寄ったとき買ったんです!」

黄鬼「子供を物扱いするなんて!」

女「そう目くじら立てないでくださいよう。 ちゃんと相場の50倍で話をつけたんですよぉ?」

女「ご両親、とっても笑顔でした! あの子たちも家族を養うんだーって……あっ、なに言ってるのか分かんなかったので想像ですけど」

赤鬼「右も左も分からねえガキを麻薬で荒稼ぎした金で買うだなんて、それがマトモな人間のやることかよ!」

女「ふふっ、そうやって動揺を誘っても私の天秤はびくともしませんよぉ?」

女「それに私のおかげでみんな幸せになれたじゃないですかぁ、どこに落ち度がありましたかぁ?」


閻魔「ですが、あなたは若く容姿の優れた女性です。 わざわざ大金を支払ってまで子供を買う必要はあったのですか?」

女「そうですねぇ……本音を言うと大人の男性って硬くておいしくないし、量も多いので後処理が大変なんですよぉ」

女「それに比べて子供はいいですよねぇ……解体が楽で」

赤鬼「て、テメェ! 最初から喰うつもりでガキを買ったのか!」


女「さすがにそれだけの理由ってわけじゃないですよぉ? 私、子供は可愛くてよく言うことを聞いてくれるから大好きです!」

女「そのときはお兄ちゃんと妹ちゃんの2人を買い取ったんですけどぉ、我慢できなかったのですぐ手短なホテルに連れ込みましたぁ」

女「あっ、その時の話いります?」

赤鬼「俺はこれ以上聞きたくない……」

閻魔「……続けてください。 あなた自身の口から話すことで自責の念を覚えることもあるやもしれません」


女「うふふっ、最初は妹ちゃんでしたねぇ。 まだ6歳ぐらいでかわいい盛りでしたぁ」

女「ほんとうに小っちゃくて、ちゃんと張形入るのかしら? と思ったんですけど無理やりねじ込んだらやっぱり入りましたねぇ」

女「もういろんなところが裂けてびっくりするぐらい血塗れで、しばらくは薬吸ったみたいに奇声あげてたんですけどぉ」

女「『うるさくしてたら二度とお父さんに会えなくなるよ?』って教えてあげたら必死に声抑えてましたねぇ」 クスクス

女「そのまま抜き差し続けてたら白目向いて失神しちゃいましたけど」

黄鬼「閻魔様、やはりコイツは邪悪そのものです! 今すぐ地獄に……!」

閻魔「静粛に、天秤に動きはありません。 罪の意識がない被告人を地獄に堕とすことは不当です」

青鬼(こんなのおかしいよ……あの天秤、壊れてるんじゃ……)


女「じゃあ続けますねぇ。 妹ちゃんはダメになっちゃったので、次はお兄ちゃんの方を使うことにしましたぁ」

女「子供って元気ですよねぇ、ヤり方を教えたらお猿さんみたいにずぅーっと腰動かしてましたよぉ」

女「すぐ隣で妹が泡拭いて倒れてるのも忘れてねぇ……うふっあははは!」

赤鬼(人間ってのは非道徳を犯せば、無意識に罪悪感ってのを覚える生き物だろうが)

赤鬼(天秤がビクともしねぇってことは、コイツはもはや人間じゃねぇ!)


女「けれど男の子って限界があるみたいなの」

女「でも妹ちゃんと同じように後ろからぶっ挿してあげたら、またすぐに元気になりました! ぷふっ、穴兄妹……ああ失礼」

女「それで3回は持ちましたねぇ。 そこから先はバイアグラで無理矢理勃たせましたけどぉ」

青鬼「ば、バイアグラ!?」

女「涙でぐちゃぐちゃにしながらもうやだやめてって、でも下はガチガチなんですよぉ。 はぁぁかわいかったなぁ……!」 ゾクゾク

女「あ、でも大人用の用量はマズかったですねぇ。 ヤってる途中で急にカエルみたいに痙攣起こして動かなくなっちゃいましたぁ」

閻魔「……死んだ男の子を見て、あなたはどんな感情を抱きましたか?」

女「もったいないなぁって思いましたぁ」

黄鬼(人を消耗品みたいに……!)


女「あ、次は死体遺棄でしたっけぇ? それも今からお話ししますねぇ」

女「お兄ちゃんは死んじゃって妹ちゃんは気絶してるし、さすがに私ちょっと困りました!」

閻魔「虐待や殺人を犯したことを後悔したということですか?」

女「えっ、やだなぁ違いますよぉ。 どうやって移動させようか迷ってたんですぅ」

閻魔「……」


女「妹ちゃんはうまく折り畳んでトランクケースに突っ込めました。 さぁ問題はお兄ちゃんの方です」

女「そこで私、閃いちゃったんですよぉ。 ―――おんぶしていれば死んでることに気付かれないかなぁって!」

赤鬼「は!?」

青鬼「フヒィッ!? そそ、それって死体を背中に乗せて外を出歩いたってこと!?」

女「くっくっ……すれ違いざまにお婆様とご挨拶したんですよぉ」

女「『可愛らしい寝顔のお連れさんですね』……ふふっ、もうそいつ死んでるのに、くふふふふふっ!」

閻魔「あなたには気を失った女の子を背中に乗せるという選択肢もあったはずです」

閻魔「なぜ気付かれるリスクを冒してまで、男の子の死体を背負ったのでしょう?」

女「だぁってそっちの方が面白いじゃないですかぁ! それにこの私がバレるだなんて微塵も思ってませんでしたしぃ?」

女「町中の人が優しい目で死体を見つめるんです。 それを思い出しただけでもう、滑稽すぎて……!」 プルプル

黄鬼「子供の死体を人形みたいに弄ぶなんて……いくら私たち鬼でもそんなことはしないわ、この悪魔が!」


女「さすがに子供とはいえ人間二人を持ちながら移動するのは大変だったので、今時古めかしいリキシャをチャーターしましてねぇ」

女「降りた後は一時間ほど歩いて、適当に人気のない場所を見繕いましたぁ」

赤鬼「へっ、散々使い込んだあとはゴミみたいに捨てたのか。 同じ人間のクセに何様のつもりなんだ?」

女「同じ人間……? それは違いますねぇ。 あれらと私の価値を比べようだなんて、正直笑っちゃいますね」 ハッ

女「一匹も虫を殺さない人間はいますかぁ? 命の重さは平等とでも言いだしますかぁ? ゴミをそれ相応の扱いして何が悪いんです?」

女「ヒトはDNA情報だけじゃあ頭のデカい猿ですよぉ。 環境や社会的価値で人間に進化するんです、同じ生物扱いはよしてくれないかしらぁ?」

黄鬼(……完全に狂ってる)


閻魔「なるほど、あなたの言い分はよく分かりました。 ではなぜ人を食べようと思い至ったのですか?」

青鬼「も、もしかして人間じゃないから共食いにならないってい、言うつもり?」

女「それもありますけれどぉ……私の中では"儀式"という感じが大きいですねぇ」

赤鬼「儀式だぁ? ついに頭のおかしい宗教を持ち出してきたってわけかよ!」

女「ふふっ、私は根っからの無神論者ですよぉ? まぁあなた達を前にすると説得力ありませんがねぇ」


女「儀式、というのは広義には人間だけが行える行為。 ヒトと動物の一線を画すものです」

女「『毎日決まった時間に三食』『いただきます』と言ってから『マナーに気を付けて』ごはんを食べる……」

女「ヒトが人間である所以の行為。 私はヒトの中でも人間だっていう証明なんですよぉ」 ニィ


黄鬼「それで共食いだなんて頭おかしいんじゃないの? ヒトどころか下等生物まで落ちてるように見えるけれど?」

女「知らないんですかぁ? 人間は意志や感情でプログラミングされた本能に抗えるんですよぉ?」

女「人間は眠るよりも優先すべきことがあり、たとえ飢えても尊厳を踏みにじるものを口にせず、家族に性的な興奮を覚えません」

女「共食いもそんな設計された無意識の断片! これを意志で克服してこそ私は更なる人間の高みに登れるんですぅ……!」

赤鬼(なんだ……一体何ワケ分かんねえこと言ってんだコイツは?)


閻魔「つまりあなたは人間の高みとやらに近づくために子供を殺害し、遺体の一部を食したと?」

女「うーん、厳密には少し違いますねぇ。 最終的な目的は確かにそうですけどぉ、手段としての動機は別にあります」

黄鬼「だったら何? お腹が空いてたまたま近くにあったからだなんて言い出すつもり?」

女「そんな原始的な理由なんかじゃありませんよぉ。 これは"征服"です」


女「このかさぶたはいつ頃できたものなんでしょう。 歪んだ肩甲骨は重い荷物を来る日も来る日も担いできたに違いありません」

女「そうやって身体に残された人生の跡を、視覚で触覚で味覚で嗅覚で聴覚で忘れないように脳の奥深くへ刻みつけるのです」

女「そうして私の身体に取り込まれたとき、私はその人の存在をすべて凌駕するんですよぉ……あは、はははひははぁ!」

赤鬼(俺たち鬼も役目で人を食うことはあるが、あんなマズい物をすき好んで喰うやつは見たことねぇ) ゾゾッ

黄鬼「どこまでも自分勝手なクズめ……!」

女「ごはんに最大限の礼儀を尽くしておいしく頂いてるのに、自分勝手とは心外ですねぇ……」


閻魔「記録によれば、あなたは女の子の方も殺害しているとありますが」

女「さすがに生では食べられませんからねぇ。 油をまぶして火をつけたんですよぉ」

青鬼「う、嘘でしょ!? 生きたまま焼き殺したってひ、酷すぎる……!」 ブルブル

女「今思い出しても吹き出しちゃう……ふふっ! 燃える人ってなんであんなに動物的なんでしょう!」

女「両手足を縛ってるから、打ち上げられた魚みたいにその場でバタバタするしかないの!」

女「叫び声も全力で裏返っていて、まるで"人間マンドラゴラ"でしたねぇ……!」 クスクス


赤鬼「もう我慢できねぇ! テメエはこの俺が―――!」

青鬼「そ、それは駄目だって赤鬼!」 ガシッ

黄鬼「アンタの気持ちは分かる! でも閻魔様の前よ、立場をわきまえなさい!」 バッ

赤鬼「離せ! コイツは天国に送っちゃいけねえ、地獄に突き落としてもきっと反省しねえ!」

赤鬼「こいつには"後悔"がない! いいや負の感情全てもだ! 一見して善良に見えるが中身は人ですらねえ!」

閻魔「静粛に! 審議の最中です、傍聴席の方々は着席を―――」

赤鬼「待ってくれ、閻魔様!」


女「……部外者がなんのつもりですかぁ?」

赤鬼「コイツは普通の人間と善の価値観が違い過ぎます! 反省もしなければ後悔もない、良心に問いかけても無意味です!」

閻魔「では、それに代わる具体案の提示を」

赤鬼「己を悪であることを認めさせるのではなく、善でないことを自覚させるのです!」

女「へぇ。 面白そうですねぇ……いいですよぉ」

閻魔「ふむ……一考の余地があると判断しました。 では被告人に問います」


閻魔「あなたにとって、"善"とは何でしょう?」


女「―――カントは言いました。 私の内側で囁く格率の声に従い、普遍的な道徳を実行することが正義であると」

女「ミルは言いました。 快で重み付けした頭の数の総和、最大多数の最大幸福を満たす行為が正義であると」

女「でも私はこう考えるのですよぉ。 『勝ち残り、より長く保存される集団』それを目指す意志こそが正義だって!」

赤鬼「な……」


女「殺人を許容する社会とそうでない社会、どちらが正義なのか一目瞭然! 許容する社会が悪なのは存続しなかったからですぅ!」

女「共食いも! 近親相姦も! それが遺伝的に不利である名残り、淘汰され保存されなかっただけのこと!」

女「麻薬にたかるゴミや金で売られるヒトモドキがいなくなって何が悪いんですぅ? 世界は一段とクリーンになったじゃないですかぁ!」


閻魔「つまりあなたは自分で認めたということだ、殺人や共食い……ご自身が淘汰されるべき悪であるということを」

女「―――――」


キィ

カタンッ


青鬼「て、天秤が……!」

黄鬼「目いっぱい傾いて、地面にぶつかった……」


赤鬼「な……なのに、なんで"正義感"が乗ってる方が下なんだよ!」

女「ぶふっ……あはぁ、ふ、ひァはははははアはははは!! そんなの当然に決まってるじゃぁないですかァ!」

女「人がかつて四足歩行から二足歩行へ、手話から発声へ跳躍進化したように……!」

女「私という種は愚かな人類を超越し! 旧人類を駆逐し淘汰する絶対的な基準になるんですよォ! ひはっ! ヒゃははははは!!」

女「私が、私の意志こそが保存されるべき正義だ!! 悪なわけがないんだよぉぉぉぁははははははァ!!」


閻魔「……天秤は道を示しました。 これより審議を終え、判決に移ります」

赤鬼「ちょ、ちょっと待て! いくらなんでもこんな裁判間違ってる、だっておかしいじゃないか!」

青鬼「一体どうして……」

女「ざまァみろォォ!! 私のぉぉ勝ちィだぁぁああアアアアア!!!」

黄鬼「くっ……!」


閻魔「それでは被告人に判決を言い渡します」




閻魔「―――公訴棄却」


女「……は?」




女「公訴……棄、却……?」


ザワッ


『おい、マジかよ……』『いったい何百年ぶりだ?』『こんな判決初めて見た……』『閻魔様は何をお考えなんだ?』


赤鬼「な、なぁ……公訴棄却って」

黄鬼「ああ、アタシも今まで一度しか見たことない。 まさかこんな……」

女「―――っふざけるなふざんなふざけんなぁぁぁぁぁ!! 公訴棄却!? そんなの怠慢だ! この天秤が見えねえのかよぉぉぉぉ!!!」

閻魔「あなたを、いや貴様を無罪にも有罪にもしない理由。 それこそ貴様の前にある天秤が示しているのだ」

女「ハァ!?」

閻魔「人の心は誰でも欲望と規範の狭間で揺れておる。 女よ、その天秤……普通は揺れるのだよ」

女「だからなんだよ!?」

閻魔「まだ分からぬか。 貴様のそれは傾きはすれどいっさい揺れぬ、その天秤の片側には何も乗っておらぬ証拠だ」

女「罪がないってことだろォ!!」

閻魔「人は原罪がある故、一つの罪も持たない人間などおらぬ。 貴様は罪の概念を理解していないだけぞ」

閻魔「己の罪に向き合い、考え続けることが罪を償うということだ。 それができぬ貴様は地獄にも天国にも行く資格はない」


女「そんなの言いがかりだ!! 現に私はこんなに正義感溢れる人間だろうがよぉぉぉ!!」

閻魔「そもそもこの裁判は罪を裁く場である。 貴様がいかに善人であろうと関係はあらぬ」

閻魔「貴様は罪悪を知らぬから、ありもしない善をでっちあげるのであろう?」

女「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! なら私はどうなるんだ!! そこの鬼共と仲良くしましょうってか!? そんなの冗談じゃないわ!!」

青鬼「ひぃっ!」 ビクッ

閻魔「ふ……貴様が永劫ここにいてもおそらく人の罪は理解できまい。 貴様の行く先はもっと業の深い場所である」

赤鬼(……? 地獄じゃないのか?)


閻魔「被告人よ、貴様は現世行きだ」


ザワザワ


青鬼「よ、蘇らせるってこと!?」

赤鬼「……そういえばアイツ、たしか自分に薬を打って自殺したんだっけな」

黄鬼「それをまた生き返らせるだなんて……くくっ、やっぱり私たちの閻魔様は何も変わられていないわね」

黄鬼「きっとアイツの行き先は―――」


女「あ……あぁあっ―――! ……ク」

女「クゥゥゥソがぁぁぁぁぁぁああああああアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」 ガァン


黄鬼「―――"生き地獄"よ」


閻魔「以上をもって本裁判を閉廷とする」

女「待てよォォォ!! クソ閻魔ァァァ!! まだ終わっちゃいないだろうがよォォォォ!!」

女「生き返ってもまたすぐに自殺してやる!! お前らが私を天国に連れていくまで何度でも死んでやるからなァァァ!!」

女「そうだ!! 私はまだ負けちゃいない!! 最後に勝つのはこの私だァァァアアァァアァヒャハハハァハハハハァァ!!!」

女「だったら何度やっても同じだろうがァァァ!! なら私を今すぐ天国に連れていけよなぁぁああほらぁぁあああぁ!!」


閻魔「……書記鬼。 つまみだせ」

書記鬼「はっ」 ガシ

女「汚ぇえ手でぇぇ触るんじゃねぇぇぇぇええええ!!」

書記鬼「それは私のセリフだ……」 ズルズル



閻魔「続いて次の裁判を行います。 被告人、前へ―――」


―――――
―――



女「はっ……夢?」 ズキッ

女「くそっ、死に損なったか……え? な、なによこれ!?」 ジャラ

青年「起きたみたいですよ」

警官「ようやくお目覚めか。 もう自殺はできねえぞイカレ女」

女(こいつら現地の警察!? 畜生、手錠で自殺が……)


ゾク


女(あ、あ……薬薬薬ッ! 薬が欲しいィィィ薬ィィィ薬ィィ薬ィ薬薬薬薬薬薬!!)

女「アアアアア!! なんで私を生き返らせたクソ閻魔ァァァァ!! 薬ィィィィィ!!」 ガチャガチャ

青年「コイツ、暴れながら何か言ってますけど……」

警官「死ぬほど大量の麻薬を自分に打ったんだ。 たぶん幻覚でも見てんだろうよ」

青年「そっすか。 それよりも早くヤっちゃいません?」

警官「それもそうだな」 グイッ

女「薬イイィィィイィイモガッ! んむぅぅうう!」 ギシッ


警官「でもコイツ人食ったことあるらしいぞ。 お前よく勃つな」

青年「こんな上玉を前に勃たないときたら、男が廃りますよ」 ズンッ

女「ひぐぅっ!! ん、んんッ! むぅぅんぅぅ!!」 ポロポロ

警官「一応釘刺しとくが、中には出すなよ」

青年「分かってますって。 それ以外ならキチガイ女の妄言にしかならない、そうでしょ?」 ズッズッ

警官「……ま、ブラックリストに載ってるような奴だからな。 いっそのこと使い終わったらお得意様に売るか」

青年「いいですねそれ。 警官殿もご一緒にどうです?」


女(クソ! クソが!! こんな薬ずじゃなかっ薬のに!!)

女(こんな薬ソ共に、下劣で薬薬な猿ど薬に薬ィィ薬薬薬ィ薬薬薬薬薬薬薬薬―――)


女「―――――!! ―――――っ、―――――……」


―――――
―――


書記鬼「閻魔様、こちらが被告人の記録になります」

閻魔「そこに。 はぁ……」

閻魔(人の数は前にも増して溢れんばかりであるが、その心の造りはいつの時代も変わらぬものよ)

閻魔(人間は己を律することができぬ愚かしい生き物だ)

閻魔(しかし人の枠組みを超えたヒトならざる者ほど手に負えぬものはあらぬ)

閻魔(そやつは人間自身の手で裁かせるのが手っ取り早い)


男「俺は聞いたんだ! 神様が俺にお告げを授けてくださったんだ! だから俺は悪くねえ悪いのは全部神の野郎だ!!」

閻魔(しかし人の罪は多種多様。 何千年と続けておるが退屈はせぬ)

閻魔「───天秤は道を示しました。 これより審議を終え、判決に移ります」

閻魔「貴様は地獄行きだ」

男「ご慈悲を閻魔様ぁぁぁ!!」

閻魔(……くくっ、だからこそ人間を裁くのは面白い)



おわり

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