花陽「憧れの大学生活!」凛「新歓コンパ!」 (22)

凛「ん……あれ、ここどこだろ…」

気が付くと、凛は知らない場所にいたの
明かりの付いていない部屋……自分の部屋?たぶん……違うにゃ……

ふかふかのベッド、向こうにあるガラスが曇ってる

水の流れる音がしてる

お風呂?誰か入ってるの?

凛「んっ……」

起き上がろうとしたら、何だか体が怠いような気がしたよ

何でかな?

とりあえず、うーんと背伸びをした

ここ、どこにゃ?


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凛「あっ……」

服が無い!

にゃ、にゃあ!何で!?

慌てて辺りを見回したら、足元に凛の服を見つけた

フリルが可愛いミニスカート、ことりちゃんと買った時の、凛のお気に入り

薄いピンクのカーディガン、白いTシャツ、ちょっと子どもっぽい靴下

ぐしゃって、一纏めに置かれていた

こんなにしたら、皺が出来ちゃうにゃー!

ぷんぷんと凛は怒った

お布団から出るまで気付かなかった凛も凛だけど、こんなにするなんて酷いよ!

いそいそ、もぞもぞ、よっこいしょ

凛は急いで服を着たよ、裸のままだと恥ずかしいもんね

凛「ふあぁ~」

大きな欠伸が出ちゃったにゃ

凛はどれくらい寝てたんだろう……そういえばかよちんはどこにいるんだろう……

お風呂からの光がぼんやりと部屋の中を照らしてる

凛はそれを何と無く見つめた

ガラスが曇ってて見えないけど、あれ普段は中が丸見えなんだよね……?

何で壁とか無いんだろ……

凛「っ!」

ぐらっ

視界がゆらっと歪んだ

あ、あれ……?何だか気分が悪いかも?

ぽふ…っとまたベッドに腰掛ける凛

右手が、何か触った

凛「わっ」

ビクッと右手を胸元に引く

それは藍色のジーンズだったにゃ

凛「な、なんだ……びっくりしたにゃー」

よく見ると、そこにも服がてきとうに纏められていた

凛は特に何も考えずに、そこに手を伸ばす

昔から凛は、何にも考えずに、思った瞬間にばーって行動に起こしちゃう癖があるの

周りはそれを良いことだよって褒めてくれるし、凛もそれでいいと思っていたけど、この時は……

凛「ぱ、ぱん…っ!」

それはアニメの人気キャラクターがプリントされた、男物のトランクスでした

え!え?

凛はパニックに!あたふた!頭ガンガン!

あーもう!頭が痛いにゃー!

写真がプリントされたTシャツ、黒いベスト(木こりみたいってにこちゃんが前に言ってた)、黒いハット

どれもサイズが一回り大きくて、女の子のものじゃないって、凛は一目で分かった

どういうことだろう……?

じゃあ今お風呂に入っている人が、この服の持ち主?

ブルッ……と体が震えた

凛……なんだか怖くなってきたにゃ…

頭が痛いのを我慢して、凛は立ち上がったよ

ふらふら、ふらふら

相変わらず体が揺れて、真っ直ぐ歩けない

何でかなー?

やっとの思いで、凛は扉の前まで来たにゃ

小さい靴、かよちんと色違いの靴を見つけたにゃ

これ、大学生になったお祝いにってかよちんが買ってくれた靴なんだ

凛もかよちんにプレゼントしたかったけど、凛はそういうの分かんないから、かよちんが選んでくれた靴と同じ靴を選んだの

それでもかよちんはすごく喜んでくれたよ

凛ちゃんとお揃いだね、楽しい大学生活を送ろうね!って言ってくれたんだ

うん!って、凛も頷いて、かよちんと二人で笑ったにゃー

その靴を履こうとして、隣にもう一つ靴があるのに気付いた

当たり前だけど、今この部屋にいるもう一人の人の靴だよね……

白いデッキシューズ……凛の知っている人で、こんなの履いてる人はいたかな……

凛は、しっかりと靴を履いて、踵をとんとんってして、ドアノブに手をかけた

がちゃり

扉を開けるとそこは知らない場所だった

ずらっと扉が並んでいて、扉の上には番号が書かれていた

凛「どこ……かよちん……?」

寂しくなった凛はかよちんの名を呼んだ

赤いカーペットの上を歩いて、廊下の端っこまで行くと、そこはフロント?だったにゃ

もう何が何だか分からないよ!凛どうしたらいいの?

キョロキョロと視線を巡らせていると

「出口はあっちだよ」

ビクッとして、声がした方に振り向いた

フロントの向こう、ガラスで見えないけど奥の部屋から手だけが伸びて、出口を指していた

「あ、ありがとう……ございます…」

そう言って凛は出口に向かう

たったったっ!

廊下の向かうから人が走ってくる音が聞こえた

凛は、急いで外に出た

「はっ……は…はあ!はっ……」

寒空の下、凛は一所懸命走ったよ

途中、黒猫がにゃあにゃあと凛の横を通り過ぎたけど、凛はそれに返事をする余裕も無くて、息を乱しながら走った

季節は春、肌寒いけど、体の芯が熱かった

気持ちがぐらぐらと揺れていた

得体の知れない感情が、溢れそうになっていて、凛は何だか無性に泣きたくなったにゃ

「かよちん……はっ……かよちん…っ」

ただかよちんの名前を口に出して、無理やり自分の気持ちに蓋をした

どこにいるの…?

何をしているの…?

凛を一人にして、淋しいよかよちん…!


自分が何でこんな状況に陥っているか、何であんなところにいたか……

そんなこと、凛は考えたくなかった

「かよちん…っ!」

ただ、走った

「凛ちゃん!」


最初は空耳かと思った

足を止めないまま目線だけそっちを向いて、


「かよちん!」


凛は足を止めた


「か、かよちん!かよちん!」

「凛ちゃん!」


凛は全力でかよちんに抱き付いた

昔から知ってるかよちんの柔らかいだき心地に、ちょっぴり涙が出たよ


「り、凛ちゃんどこに行ってたのっ?」

「そ……それはこっちの台詞にゃー!目が覚めたらかよちんいなくて、とーっても心細かったにゃ!」


涙を浮かべたかよちんはすぐに凛の心配をしてくれたよ

凛はそれが嬉しくて、怒ったようなこと言いながらつい笑ってしまったにゃ

「凛ちゃん寝てたの?どこで?」

「あっ……」


しまった……そう思ったにゃ

つい安心して、思わず口に出してしまった台詞に、かよちんはすぐ気が付いちゃうの


「え、えっと……」


どうしよう、どうしよう……

あんなところにいたなんて、かよちんには絶対言えないよ

あーバカバカ!凛のバカー!真姫ちゃんみたいに凛も賢くなりたいよー!


「えっと!そ、そこらへんで寝てたんだにゃー!」

「え、えーっ!」


かよちんが目を見開いて驚く


「そこらへんってどこ!?まだ寒いのに!だ、大丈夫!?」

「えへへ、大丈夫だよ……」


かよちんは、やっぱり優しいな

「私はね、新入生歓迎会の途中で先輩に無理やりお酒飲まされて……少しの間倒れちゃって、さっき気が付いたの」

「あ……」


思い出してきたにゃ……

確か、テニスサークルの人たちが凛たちのところに来て……


『か、かよちんの分も凛が飲むにゃ!』


ふらふらのかよちんに無理矢理お酒を飲ませようとする人たちに、凛がそう言ったんだにゃ……


それから、えっと……


それから…………

「うえっ…!おえ……!」

「きゃあ!凛ちゃん!」


戻しちゃった……

かよちんがかけよってきてくれたけど……かよちん、汚れちゃうよ


凛に触ったら、汚れちゃうよ


「凛ちゃん!大丈夫!?」


優しく背中をさすってくれるかよちん

凛は、いろんなものが混じり合っちゃって、涙が止まらなかったの


「うぇっ……ぐす……うえーん……うえーん……」


ぐずぐず、鼻水も出てきて、凛の顔はもうぐちゃぐちゃ

酷い顔なんだろうな……かよちん、凛を見ないで


そんな心配そうに凛を見ないで……

「大丈夫?凛ちゃん、水買ってくる?」

「や、やだっ……」


精一杯の力で、かよちんの服の裾を掴んだ


「ここに…いてほしいよ」


力なくそう言った凛を、かよちんはどう思ったかな?

かよちんはただ黙って頷いてくれた


「…………」

「…………」


それから凛とかよちんは近くの公園に行って、ベンチに座っていた

かよちんは凛が落ち着くまで、ずーっと側にいてくれたよ

凛はベンチの上でうずくまって、かよちんに聞こえないように泣いた

でもね、かよちんはそっと、凛を抱き締めてくれたの


へへへ……かよちんには敵わないなぁ…

「そろそろ、帰ろっか……」


凛がそう言うと、かよちんも笑顔で頷いてくれた


「今日うちに泊まっていく?」

「ありがとうかよちん……でも…」


でも、今は一人にして欲しいにゃ……きっと、また泣いちゃうから


「そっか……」


かよちんもそれ以上は言わず、了解してくれた

二人で公園から出て、真夜中の街を歩いていく


「楽しい大学生活にしようね」


無理矢理作った笑顔でそう言うと、かよちんはとっても辛そうな顔で凛を見た

あ、あれ……?またあの時みたいに二人で笑おうよ……

うんって言ってよ……


「凛ちゃん……」

「これから、きっと楽しくなるよ!」

「あ……」


何で、何でそんな辛そうに言うの…?

かよちんが笑ってくれなきゃ、凛も笑顔になれないよ…


「ありがとう……っ」


凛はまた泣いちゃった

ぎゅっ、とズキズキ痛むところを押さえる……かよちんに気付かれないように気を配りながら


「あのね、穂乃果ちゃんは今もアイドル続けてるんだって」

「にこちゃん…大学でも忙しいみたい」

「あ、そうだ!今度真姫ちゃんと三人で遊びに行こうよ!」


帰り道、かよちんは色んな話をしてくれた

普段は凛ばっかり喋るから、何だかたどたどしくて、もどかしくて……

凛の胸が、嬉しさでいっぱいで、悪い気持ち全部流しながら溢れちゃったよ

夜桜が風に揺られて舞う

ひらひら、ひらひら

舞い落ちるそれは、ひどく寂しく見えた


「きれいだね」


かよちんがそう言う。

あぁ、そっか。見えてるものは一緒でも、凛とはもう違うんだね……

それから、かよちんは凛を家まで送ってくれたにゃ


「じゃあまた明日、凛ちゃん」

「おやすみにゃ、かよちん」


背を向けても、かよちんの視線を感じた

振り返ると、やっぱりかよちんはまだそこにいた


「えへへ……」


凛は、上手に笑えたかな

終わり

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