女「初めまして。」(10)

男「えと、初めまして。で、いきなりで悪いんだけど、ここどこ?」
女「私にも分かりかねます。」
男「そうなの?俺さっきまで…あれ、何してたんだっけ。」
女「おそらく、思い出す事は叶わないかと。」
男「む、おいおい知った口を聞くじゃない。初対面だよね、俺ら。」
女「はい、間違いありません。ただ、ここに来る方々は往々にして生前の記憶がございませんので、あなた様も例外では無いかと存じ上げます。」
男「ここに来る方?いやそれよりも、生前?あんた…何言ってるんだ。」
女「あなた様は元の世で死なれております。私はあなた様を次なる生へと導く、転生管理人と申します。」

男「ふーん、そうなんだ。」
転生管理人(以後「管」)「ご理解が早いようで、助かります。」
男「いやいや!訳分かんないし…ってなりそうなとこなんだけど、なんとなーく納得できちゃったわ。」
管「そうですか。」
男「なんか夢見心地って感じだけど、夢にしてはリアルだし、あんたみたいなべっぴんさんは見た覚えも無いしね。」
管「そうですか。」
男(会話する気ねーなこいつ)
男「まあいいや、で、何をすればいいわけ?」
管「まずはあなた様の記憶を辿ります。」

男「記憶を辿る?」
管「そうです。こちらへ来てください。」
転生管理人とやらに連れられ、狭い書庫へと連れて来られた。
移動中、自分が薄く透明な棒人間のような身体である事や、歩いてもいないのに進む道などに驚かされ、どんな部屋に連れてこられるかと怯えていたのだが、案外ぼろっちい書庫で拍子抜けした。
男(よくよく考えれば、驚くのもおかしいよな。自分が生きてきた世界がどんなものかも思い出せないんだし。)
管「さあ、好きな本を一冊取り出して下さい。」
男「いいけど…どの本も背表紙に何も書いて無いよ?」
管「問題ありません、これから書かれるのですから。」
相変わらず噛み合わないが、従うが吉だろうと思い、近場の本棚から適当な一冊を抜き出す。
管「それではゆっくりと、1ページづつ捲っていって下さい。」

それからは一瞬だった。

大輔とはあまり仲の良い友達ではなかったが、雄三に誘われてよく三人で遊んでいた。
流行っていたのは勇気試しという遊び。
誰が一番高いところから飛び降りれるか、という馬鹿な遊びだ。
考えてみれば、雄三は大輔から逃げるために俺を誘っていたのかも知れない。
大輔はずる賢く、自分も飛べないギリギリの高さを見つけては他の誰かを煽り、飛べない事を理由に言いなりにしていた。言わばパシリだ。
俺は毎度、飛ぶ事が出来ずに大輔の言いなりになっていた。「
だがこの日は違った、前日に見たアニメの影響か、明らかに危険、下はコンクリートで怪我は必至の勇気試しで飛んだのだ。
…着地に失敗し、膝を強打したため、消えない傷が膝に残ってしまった。
軽症は負ったものの、この日を境に自分が勇気試し誘われる事は無くなり、自分はこの傷を勇気の負傷と名付け、それはもう学校で言いふらしたのだった。

管「お疲れ様でした。」
管理人の声で気が付けば、最後のページまで本を読み終えていた。
男「俺は今、何をしていたんだ。」
管「記憶を追想していたのでございます。」
男「そうだ、今のは…俺の記憶。」
本の背表紙を確認すると勇気の負傷と書かれていた。
管「ここは記憶の書庫、以前転生された方に付けていただいたのですが、私はそう呼んでおります。」
男「なるほど、なんでか知らないが、ここの本には俺の記憶が入ってるって事か。」
管「左様でございます。」
男「…ちなみにだけど、あんたもさっきの見てるの?」
管「さっきの、とは。あなた様の勇敢とも無謀とも取れる跳躍と、その後の情報操作の事でしょうか。」
男「ああ、見られるのね、なんか恥ずかしいな。」

管「さて、どうなさいますか。続けて本をお読みになるか、それとも休憩なさいますか。」
男「休憩とか出来るの?なら、そうしたいんだけど。」
管「かしこまりました。寝室へ案内しますのでこちらへ。」
男「えっ!管理人ちゃんと一緒に寝れるの?捗っちゃうなあ俺。」
管「私は睡眠を取りませんので、早くこちらへ。」
管理人の声音からは嫌悪感も何も感じず、まるで機械のような動作で案内される。
男(顔は可愛いのにいまいち人間らしく無いというか、勿体無いよなあ。)
死んでいるのに寝るというのも変な話だが、気だるさの感じる身体は自然と深い闇へと思考を追いやった。

一旦終わり!

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