めぐみん「サキュバス!?」カズマ「!?」 (29)

 今日はどこで爆裂魔法を使おうか?という有意義な事を考えながら散歩をしていると、私の仲間の姿を見かけた。
 その仲間---カズマは明らかにソワソワしている。
 トイレにでも行きたいのだろうか?

 するとカズマは路地裏に入って行った。
 ソワソワするカズマの様子が気になって、私も距離を置いて行く。
 すると……。

「路地裏の……小さな喫茶店に入っていきましたね。そういえばちょうどお昼時でした。運が良かったです。カズマにご馳走して貰うことにしましょう」

 なんだかんだ味にうるさいカズマの事だ、きっとこのお店は美味しいのだろう。
 私は何をご馳走して貰おうと胸を躍らせながら、カズマを追いかけるようにお店に入った。



「いらっしゃいませ」

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------チャームの力

 あくまでも例えばの話。
 もし、私がその力を持っていて、チャームの力をカズマやダクネスに使ったとする。
 これでカズマは私の恋人に。ダクネスは私の大親友になってしまう。
 ここまで聞くと大した力ではないように聞こえるが、警戒心や猜疑心が消えてしまうのが大問題なのだ。

 親友や恋人から「お金を貸して。明日返すから」と言って、貸す人はほとんどいないだろう。
 でも、このチャームの力で親友になっていまうと、『明日返してもらう』という言葉を簡単に信じてしまう。
 普通なら「本当に返してもらえるの?」「明日? 無理でしょう」と人を疑う気持ちや警戒する気持ちが優先されるのだが、チャームの力ではこれがなくなる、これがとても厄介。



 なぜ私がこんな話をするかというと、後から知ったのだが、この時の私はチャームの力によって、こともあろうかサキュバスを親友と思っていたらしい。

  *  *  *


「あら?こんにちは。迷子の小さな魔法使いさん」
 そこには私の無二の親友のサキュ……人間のお姉さんが働いているお店だった。

「こんにちは、お姉さん。さて、小さい魔法使いとは誰の事か聞こうじゃないか」
 紅魔族は売られたケンカは絶対に買う。
 それは相手がお姉さんでも同じことだ。

「ふふふ。ごめんなさい、冗談よ。………で、今日も紅茶でよろしかったかしら?」
「いえ、今日は知り合いの人がこのお店に入ってくるのを見まして。それで奢ってもらおうかと」
「あら? 来ていないわよ。そんな人」
 あれ?カズマを見かけたはずなのだが---

「お姉さんがそう言うのならそうなのでしょう。私の見間違いのようですね。では、紅茶を一つお願いします」
 ここは私のお気に入りのお店。そしてここの紅茶を私はいつも飲んでいる。
「ええ。少し待っていてね」

 待っている間、暇だったので周りを見渡した。
 よくよく見るとこのお店は男性客が多い。
 いや、多いというより私以外は全員男性客だ。
 しかも、その男性客たちは料理も頼まずに、何かを必死に書いている。何を書いているのだろう?
 私が物珍しそうにキョロキョロしていると。

「魔法使いさん。ごめんなさい。この席、次の予約が入っていて--」
 親友のお姉さんが申し訳なさそうに言ってきた。
 いつの間にか長居していたのだろう。さっさとお店から出ることにしよう。

 ………………あれ?そんなに長居していたのかな?紅茶も飲んだ記憶が……?

「それはすいませんでした。お会計をお願いしたいのですが」
「いえ。今日はお姉さんが奢ってあげる。だから、このお店の周りに二度と近づいたらダメよ?」
「ありがとうございます。また今度奢ってください。なんなら今日の夕ご飯でも。見ての通り育ち盛りなのでカロリーが高いものがいいです」
「う、うん。またそのうちね。とにかくお店に近づいたらダメよ?」

「はい」
 素直に返事をした私がお店を出ようとした時に----




「カズマ----?」

「げっ」

 そこには良く知る男、カズマがいた。
 あれ?さっきお姉さんに「来ていないわよ。そんな人」って言われたはずなのに……。
 あれ?じゃあ、なんでカズマがここに……?
 あれ?あれ?あれ?


「常連さん!早く逃げて!彼女はまだ混乱しているから大丈夫なはず!」

 よくわからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。


 どういうことなのか。わからない。

 そうだ。こんな時はいつもみたいにすっきりしよう。






----爆裂魔法を使って----








「めぐみん!やめろーーーーー!!!」

 私が詠唱をしているとカズマが止めに入ってきた。
 爆裂魔法を止める事に定評があるカズマでも、今回の私は止められませんよ。
 なぜなら、状況がよくわからないから。
 でも、きっと爆裂魔法を使えば、何もかもすっきりするはず。だから私は----





 ----あれ?私はなにをしてるの?


「チャームを解きました。お願いします!誰か!誰か早く止めてください!」

「めぐみん!」

 カズマが私の口を塞いできた。
 紅魔族は頭が良い。
 混乱していた私だが『チャームを解きました』を聞いて、私がどんな状況だったのか全て理解できた。

 
  *  *  *



「で、どういう事でしょうか?」
「いや、その……あの……だな」
 カズマは正座している。

「で、どういう事でしょうか?」
「いや、その……このお店は素敵なお姉さんとお茶できる、素敵なお店で……」
「で、どういう事でしょうか?」

「あー! もうわかってるんだろう!? ああそうだよ! ここはいかがわしい店だよ! なんか文句あんのか!? 誰か迷惑してんのか!? ああ!?」
「開き直りましたね。この最低男は」

 ちなみに、「おい、この店を消されたくなかったら、どういう店か教えろ」と脅し……頼んで、サキュバスから事情を聞いた。
 だから、まぁ、何のお店か知ってるし、男性冒険者にこういうお店が必要なのも理解しているつもりだが……
 カズマがこのお店を利用するのは、なぜか納得がいかない----

「あ、あのー」
「なんです?」
 近くでこの状況を見守っていたサキュバスが、私に近づいて来て耳打ちした。

「見逃して貰えるならば、あなたに無料で夢をお見せしますが。ちなみにあなたは女性なので精をとったりはできないので、無料でデメリット無しです」
 まさか私を買収しようと?
 残念ながら私はそんなに安い人間じゃない。
「考えが変わりました。やはりこのお店は消し飛ばします」
「あ、あの、よかったら常連……カズマさんの夢を見せる事も」
「!?」


 な、ななななななな何を!?
 私が軽く……本当に軽く、悪魔のささやきに動揺しているとサキュバスがニヤリと微笑み。


「なんなら、今度からカズマさんの夢の相手を、ずっとあなたにする事も----」


 悪魔が悪魔のささやきをしてくる。
 なにを言ってるんだろう?この悪魔は。
 私がそれを言われたからと言って、なにを悩むというんだろう?
 そう、何も悩むことはなかった。

 私は立ち上がり何も迷うことなく。

「はぁ……。仕方ありませんね。そこまで言うのなら、このままにしておきましょう」

 里を出る前に注意されていた事がある。
 それは夜に男性冒険者に襲われる危険性。
 奴らは家だろうが部屋だろうが、どこでも襲ってくる。モンスター以上に危険な奴らと注意を受けていた。

 だがアクセルの街では、女性冒険者が襲われた話を全然聞いたことがない。このお店のおかげのようだ。
 私がアクセルの街に来る前の街ではセクハラが凄かったのにだ。


 このお店のお陰で、この街の女性は襲われる心配がなく夜ぐっすり眠れる。
 そういう事であれば、いちいちサキュバスを倒す必要もない。
 共存生活とは素晴らしいものだと思う。

「え!?め、めぐみん、大丈夫か? ケンカの早さだけでは誰にも負けないめぐみんが何もしない? お前まだチャームが残ってるんじゃないか!?」
 カズマからびっくりする声が。
 この男は私をなんだと思っているのだろう? 一度しっかり話し合う必要がありそうだ。
 でも、今日の私は機嫌がいいのだ。
 サキュバスに今晩お願いしますと耳打ちして、今後のカズマとの進展を願いながら、私は宿に向かった。

 
  *  *  *



 良い朝だった。
 昨日から同じ紅魔族であり同級生のゆんゆんがいる宿に泊まった。


 それにしても夢があんなにすごいなんて。
 カズマたちがハマる気持ちがわかるかも----
 そんな事を考えながら朝食をとっていると、ゆんゆんが不思議そうな顔で。

「ずっとニヤニヤしているけど、何かいい夢でも見たの?」
「み、見てません! 見ていませんよ!」
「ふーん?」


 これはヤバい。夢の内容を思い浮かべただけで……積極的なカズマもなかなか……。だ、ダメだ。私がダメ人間に……。
 さっさと家に帰って、自室でゆっくり夢の内容を思い出そうと決意し。

「さて、私は帰ります。今日は泊めてくれてありがとうございました」
「うん、いいよ。だって私たち、しっ、親友だからね! いつでも歓迎だよ。いつでも泊まりに来ていいよ。だって親友だし!」
「はい。これから好きな時に好きなだけ泊まらせてくださいね」
「うん。いいよ。いつもで好きな時に好きなだけ-----ってあれ? 私都合よく使われているだけのような……。ね、ねえ? めぐみんにとって私って都合の良い親友とかじゃないよね?」
「あたりまえじゃないですか」
「ねえ! 今の棒読みだよね!? もっと感情を込めて言ってよ! ねえ!」


 騒々しいゆんゆんを後にして宿を出た。
 帰路でゆっくり夢の事を思い返そうかと思ってたら、なぜかゆんゆんもついてきた。

「まだ朝早いし、変な人がいたら危ないから」
「私くらいのレベルになるとその辺のゴロツキくらい楽勝ですよ」
「いや、だから相手が危なくて----って、痛い。髪を引っ張らないで!」
「あっ」


 カズマ。カズマがいた。
 そうか。ここは宿が密集している地域。
 きっとカズマも宿に泊まって----え? 宿に泊まって何をして…………たの?

「おはようございます。カズマさん」
「あ、ああ、おはよう。ゆんゆん……めぐみん」
「カズマさん。風邪ですか? 顔が真っ赤ですよ?」


 なっなななななな!!!?や、やっぱりこの男!?


「あれ? なんでめぐみんも顔が真っ赤なの? もしかして風邪が流行ってるの? 私も気を付けたほうがいいかな? 痛っ。なんで!? なんで杖で打つの!? 痛い! 痛いから!」


 こうして、私たちは顔を合わせるごとに赤くなり……意識して----
 仲は進展するどころか。見事に停滞するのであった----








       終わり

これにて終わりになります。
また機会があればよろしくお願いします!

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