男「俺、推理小説にチャレンジしようと思う」 (20)

友人「また落選したんだって?」

男「ああ……自信作だったのに……」

友人「まぁ、そう落ち込むなって。またチャレンジすりゃいいじゃんか」

男「うん……だけど次は俺、推理小説にチャレンジしようと思う」

友人「推理小説? ……ミステリーか」

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友人「推理小説って人気あるし、やり尽くされてるジャンルって聞くけど……勝算はあるのか?」

男「ある」

男「実はさ……前々から温めてたアイディアがあるんだ」

友人「ほう」

男「推理小説で、容疑者全員が犯人だったってヤツあるだろ?」

友人「ああ、あるな。アガサ・クリスティのアレとかな」

男「そうそう」

男「俺もああいうのをやってみようと思うんだよ」

友人「ほう」

男「ずばり……地球人類全てが犯人!」





友人「……ほう」

男「どうだ!? このスケール! すごいだろ!?」

友人「うん……たしかにすごい。すごいよ、うん。すごいことはすごい」

友人「だけどさ、動機はどうすんだよ?」

男「動機?」

友人「60億人……今は70億だっけか? そんだけの人間がたった一人を殺そうとする動機だよ」

男「えぇと……あんまり考えてなかった」

友人「言っとくけど、ミステリー物で動機ってすげえ大事だからな?」

友人「ハッキリ言って俺は推理小説読む時は、トリックやら推理部分なんてわりと流す感じで読んで」

友人「なんでこの犯人はこんな犯罪やったのか、ってところの方がむしろ興味あるからね」

友人「極端なこというとトリック破綻してても、動機部分がドラマチックなら結構読めるんだよ」

友人「いくら発想がすごくても“なぜそうなったか”に説得力がなきゃ、話にならんぜ」

男「ううん……そうだなぁ」

男「そうだ! 犯人は宇宙人にすればいい!」





友人「……ほう」

男「犯人は地球侵略にきた宇宙人! これなら人類全員がそいつに殺意を抱いてもおかしくないだろ?」

友人「どうかな」

男「え」

友人「地球って広いよ?」

友人「たとえば日本を襲撃してる宇宙人に対して、ブラジル人は殺意を抱かないと思うんだ。対岸の火事だ」

男「たしかに……」

犯人じゃなくて被害者では?

男「だったらこうしよう!」

男「世界各地を同時に攻撃できるような宇宙人なんだ。これなら問題ないだろ?」

友人「ああ……まぁなんとか」

男「よっしゃ!」

友人「問題はまだあるぞ」

男「まだあるのか!」

友人「仮に米軍だとか自衛隊だとかがそいつを退治したとしても、70億人全員が犯人とはいえないだろ」

友人「そこをどうすんだ?」

男「うーん……あっ、そうだ!」

男「軍隊じゃ宇宙人に歯が立たないんだけど、ある天才博士が作り上げるんだよ!」

友人「なにを?」

男「全人類の心の力をエネルギー化して放出できるマシーンを!」

友人「それが凶器ってわけか」

男「そうそう! これが凶器!」

男「だけど、最初はうまくいかないんだ」

男「人々は精一杯宇宙人を憎んだり恨んだりするんだけど」

男「憎しみや恨みといった心じゃ、残念ながら悪い宇宙人には通用しなかった」

男「天才博士の秘密兵器も通じず、もはやこれまで……人類は諦めてしまう! ――しかしその時!」

友人「その時?」

男「一人の少年が立ち上がるんだよ……!」

男「皆が絶望する中、ある少年がたった一人で宇宙人に立ち向かおうとする」

男「宇宙人はまるで弄ぶように少年を痛めつけるが、少年は決して諦めない。何度でも挑みかかる」

男「その様子を博士の映像機械を通じて知った全人類は、ようやく悟る」

男「憎しみじゃ宇宙人に勝てない。少年のような勇気を持たないとってね」

男「結果、そのパワーが少年に注がれて、少年は正義の戦士として覚醒する!」

男「そして、みごとに宇宙人を倒すんだ!」

男「――どうだ!?」

友人「うん……いいんじゃないかな」

友人「もうちょい細かいところをちゃんと詰めていけば、もしかすると化けるかも……」

男「よぉし、さっそくこの物語を書いて、ミステリー界に風穴を……」

友人「ちょっと待った」

男「なんだよ、まだなにかあるのか?」

友人「……俺に提案がある」

――

――――



記者「このたびは、SF小説における名誉ある賞『エスエフ賞』の受賞おめでとうございます」

男「ありがとうございます!」

記者「男さんは長年SF小説に挑戦し続け、落選を繰り返していたそうですが、ついに花が開きましたね」

記者「全人類の力を結集させて戦う……読者を熱い気持ちにさせてくれる素晴らしい物語でした!」

男「元々は違うジャンルの賞に応募するつもりだったんですが、友人のアドバイスで変更しましてね」

記者「そうだったんですか!」

男「友人も来てくれているので、この場を借りて礼を言わせてもらうよ。ありがとう!」

友人「どういたしまして。こちらこそ、改めて祝福させてもらうよ」



友人(……この作品がどういういきさつで出来上がったか、果たして推理できる人はいるのだろうか)





おわり



お前がナンバー1だ!!

乙!

もし推理小説として発表してたら、バカミスに分類されてただろうな

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