女勇者「アイドルから勇者に転身しました♪」 (40)

王宮魔術師(王様のご命令で、勇者様御一行の様子を視察しに来たけれど…)


中ボス「ガーッ」

勇者「きゃーん!」


戦士「ゆうちゃん危ない!」バッ

賢者「僕がゆうちゃん周囲に防護壁を張る! 2人とも、魔物をやっつけて!」

弓師「よしきた! 今すぐ片付けるから心配すんなよ、ゆうちゃん!」


勇者「ゆう、応援ソング歌うよー! 皆ぁ、拍手お願ーい!」

楽師「よし出番だ!」ポロロン♪

追っかけ「「ウオオオオオォォォ」」

~♪


王宮魔術師(何だこれ?)



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楽師「戦闘終了…」ポロロ~ン♪

勇者「皆ぁ、戦闘お疲れ様♪」ニコニコ

戦士「ゆうちゃんこそ、歌お疲れ様! はい、水!」

賢者「いいコンサートでしたよ、ゆうちゃん。僕のMPも回復しました!」

弓師「皆、ゆうちゃんに拍手だ!」

追っかけ「ゆうちゃーん」「ウオオオォォ」「最高ーッ!」


王宮魔術師「もしもし?」

賢者「あ、王宮魔術師さん。ごきげんよう」

王宮魔術師「只今の戦闘を拝見させて頂きましたが…」

戦士「いい歌だったろ。それに間奏の時のダンスも可愛いよな~」

弓師「俺、振り付け覚えた!」

王宮魔術師「えっと。現在パーティーの人数は…40名ほどですか?」

戦士「いや? 4人だぜ?」

王宮魔術師「…では彼は?」

楽師「ただの楽曲担当です。メインはあくまでゆうちゃんですので、私のことは気にせずに…」ポロン♪

王宮魔術師「それで、彼らは…」

追っかけ「俺らはただの追っかけです。ゆうちゃんと同じステージに立つなど、そんなのはおこがましい!」

勇者「皆、いつもありがとー♪ ゆうと皆はパーティーは違っても、心で繋がってるよー♪」

追っかけ「「ウオオオオォォォ」」

王宮魔術師「と、とりあえずパーティーに属してないことはわかりました」

王宮魔術師「次に、パーティーにおける各々の役割ですが…」

戦士「俺は前衛での戦いや、力仕事を担当している」

賢者「僕は魔法全般と、情報収集等ですかね」

弓師「俺は後衛で2人のバックアップと、あと家事担当」

王宮魔術師「それで、勇者様は?」

勇者「歌です」ニコ

王宮魔術師「……」

戦士「一言で歌と言っても、ゆうちゃんの持ち歌は20を越える!」

賢者「状況によって歌やダンスを使い分け、我々の士気を上げる…その判断力、侮れません」

弓師「しかも、本番で失敗しない為に毎日練習を怠らないんだ。その頑張りっぷりには頭が下がるぜ」

勇者「皆も、いつも戦ってくれてありがとう♪」

王宮魔術師「ちょっと待て」

勇者「どうしたんですか~?」

王宮魔術師「勇者様、背中に剣を背負ってますよね?」

勇者「そうそう、これかっこいいでしょ~♪ ファンの方に頂いたんです!」

王宮魔術師「それ、使ったことはありますか?」

勇者「勿論、ありますよぅ」

戦士「ゆうちゃんの剣さばきは見事なんだぜ!」

王宮魔術師「ほう。見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

勇者「オッケー! ミュージック、スタート!」

王宮魔術師「…ミュージック?」

楽師「奏でます…"戦乙女は愛ゆえに"」ポロロン♪


勇者「♪花よ蝶よと言うけれど~、乙女の道は甘くない~」

追っかけ「「ハイ、ハイ、ハイハイハイッ!」」

勇者「♪そうよ剣は箸より重いけど! 戦うの、この茨道~」チャキ

王宮魔術師(あ、剣を抜いた)

勇者「♪行くわ私、愛の為に! 辛くて泣いちゃう時もあるけど、それは許してね~」シュッシュッ

追っかけ「「辛けりゃいいんだ泣いたってー!」」

王宮魔術師「……」

王宮魔術師(音楽が始まった段階で、踊りのフリで使うことは予想できてました)ハァ

王宮魔術師「で、その剣で魔物を斬ったことはないんですね?」

勇者「やーん、そんなの怖くてできなぁーい!」

戦士「いいんだよゆうちゃん、魔物なんてのは俺がやっちゃるから」グッ

賢者「ゆうちゃんの剣は魔物を斬る為ではなく、癒やしの為の剣ですからね」

王宮魔術師「あのー…。貴方がたの旅の目的は?」

弓師「魔王を倒すことだろ?」

王宮魔術師「…で、"勇者"とは何だかわかっています?」

弓師「人々の英雄だろ?」

王宮魔術師「それで…その為に勇者様は何をすべきですか?」

勇者「頑張って歌います!」

追っかけ「「頑張れゆうちゃーん!!」」ウオオオォォ

王宮魔術師(ちっげーだろが…)ビキビキビキビキ

王宮魔術師「すみません、少し勇者様と2人きりでお話しをしたいのですが」

戦士「おう、いいぜ。でも妙なことすんなよ」

賢者「まぁ王宮魔術師さんは女性ですから、ゆうちゃんに変なことはしないと思いますけど」

勇者「皆ぁ、ちょっと待っててね~♪」


勇者「それで、お話って何ですかぁ?」

王宮魔術師「…そりゃ、貴方は気の毒だとは思いますよ」

勇者「はい?」キョトーン

王宮魔術師「全国を渡り歩いてアイドル活動していた所で、神託により勇者に選ばれ、魔王討伐の責務を背負わせてしまった境遇…同情はします」

勇者「そんなそんな! 全然、気にしてませんよぅ!」ブンブン

王宮魔術師「ですがね、もう少し勇者としての自覚を持って頂きたいのです」

勇者「勇者としての自覚…ですかぁ?」

王宮魔術師「例えば弱い魔物相手でいいので、修行するとか…」

勇者「やぁ~ん。ゆう、乱暴なことするのはイヤー。それに戦うのは戦士君達がやってくれるしぃ~…」

王宮魔術師「いい加減にしなさい」

勇者「っ!」ビクッ

王宮魔術師「魔王討伐の旅は道楽じゃないんです。人々を救う為、貴方にも本気になって頂かないと困るのですよ」

勇者「……」

勇者「…うふふっ」

王宮魔術師「? 何がおかしいのですか?」

勇者「だってねーぇ…」

勇者「おバカな男の人を手玉に取って利用することの何がいけないんですかぁ?」クスクス

王宮魔術師「」

勇者「王宮魔術師さん、知ってますぅ? 戦士君も賢者君も弓師君も、最初はもっと弱かったんですよぉ」

王宮魔術師「ま、まぁ確かに…短期間でかなりのレベルアップをされているようですが」

勇者「それはね、ゆうが応援したから3人とも頑張ってくれたんですよぉ~」

王宮魔術師「そ、それなら貴方も頑張って…」

勇者「駄目ですよぉ。あの3人は、守るものがある方が燃えるタイプだもん。ゆうが強くなったら、萎えちゃうと思うなぁ~」

王宮魔術師「貴方は"勇者"なんですよ!?」

勇者「仲間の皆を強くして魔王を倒すのも十分アリだと思いますぅ」

王宮魔術師「仲間ばかり危ない目に遭わせて、罪悪感はないんですか!?」

勇者「そこは役割分担ですよぉ」

王宮魔術師「…仲間の方々に言いつけますよ」

勇者「女の嫉妬だと思われるのがオチですよ?」

王宮魔術師「……」

勇者「ふふっ」ニコッ

王宮魔術師「…よく、その本音を明かしましたね?」

勇者「女性相手にブリッコしても仕方ないじゃないですかぁ~」

王宮魔術師(この女…)

王宮魔術師「しかし心配ですね。男性陣は皆、貴方を崇拝していて判断力が鈍っていないか…」

勇者「そうそう、皆おバカなんですよ~。あ、おバカってのは愛情表現であって、純粋という意味でぇ」

王宮魔術師「勇者様が大きな失敗をすれば、それが致命傷となりかねない…。それがひどく心配です」

勇者「んー、じゃあ~…王宮魔術師さんも旅に同行しますぅ?」

王宮魔術師「……え?」

勇者「知的で有能で若くして王宮付きになった王宮魔術師さんなら、心強いです~」ニコニコ

王宮魔術師(このブリッコが同性相手に媚びるとは…何を企んでいるの!?)ビクビク

勇者「それにぃ、同じ女の子のお友達も欲しかったしぃ」モジモジ

王宮魔術師(…見下し要員? 私のような冴えない女を側に置くことで自分の魅力を強調する気?)

勇者「ねぇ~? 皆おバカなんだもん、王宮魔術師さんも来て下さいよぉ~」ギュッ

王宮魔術師(そうですね…確かにこのままだと、パーティーの行く末が心配です)

王宮魔術師「わかりました、同行しましょう勇者様」

勇者「やったぁ♪ じゃあ、ゆうのことは"ゆうちゃん"って呼んで!」

王宮魔術師「ゆ、ゆうちゃん?」

勇者「それで私は王宮魔術師さんのこと…おねーさまって呼ばせて頂きますぅ~!」

王宮魔術師(おばさんって意味かしら…? まぁ、この子に比べればおばさんなんだけど…)

勇者「それじゃあ早速皆に挨拶しましょうねぇ、おねーさまぁ♪」グイッ

王宮魔術師「わわっ」

>そして


魔物「ガルルル!」

勇者「きゃーん」

戦士「ゆうちゃんに手を出すんじゃねえええぇぇ!!」ズバアアァッ

魔物「ギャアアァァ」

勇者「怖かったぁ~。戦士君は頼りになるね!」

戦士「へへへへへ」

王宮魔術師(勇者様の叫び声ひとつで、ここまでやる気を出すとは…)


勇者「あ、弓師君。あの木になったリンゴが食べたいなぁ♪」

弓師「任せろ!」ビュンッ

勇者「わー、採れた! 弓師君、凄いすごぉい!」

楽師「腕を上げたな」ポロン♪

弓師「へへっ、ゆうちゃんの為よ!」

王宮魔術師(きっと本当に勇者様の為に頑張ったのでしょうねぇ)


賢者「ゆうちゃん! 今日は魔物を沢山倒したので、沢山ゴールドが貯まりましたよ!!」

勇者「わぁ、皆のお陰だねっ♪」

賢者「フフ…今日はスイートルームに泊まって下さい、ゆうちゃん!」

勇者「えぇ、いいのぉ!?」

賢者「勿論。あ、ゆうちゃんの大好きなショコラケーキを買う余裕もありますね」

勇者「やったぁ♪ ありがとう、ゆう嬉しいなぁ~」

賢者「何を言いますか。ゆうちゃんが1番頑張っていたじゃありませんか」フフン

王宮魔術師(勇者様の為に気持ちよく貢いでいる…)

>風呂


王宮魔術師「身近で見ると、勇者様は本当に上手くパーティーの手綱を握っているのがわかります」

勇者「ゆうちゃんって呼んでって言ってるのにぃ~」プンプン

王宮魔術師「いえ…それは抵抗があると言いますか…」

勇者「おねーさまったら、奥ゆかしいんだからぁ」ウフフ

王宮魔術師「その『おねーさま』も、ガラじゃありませんし…」

勇者「でもでもぉ~。おねーさま、お胸おっきぃしぃ♪ いいなぁ、EかFくらいあるんじゃないですかぁ~?」

王宮魔術師「!!! ふ、太ってるからですよ…!」カアァ

勇者「そんなことなぁ~い。ぷにぷにしてもいいですかぁ~?」

王宮魔術師「や、やめて下さい! 私はもう上がりますよ!!」

勇者「おねーさまのいけずぅ~」

王宮魔術師「全く…」


王宮魔術師(意外となつっこくて…彼女をちやほやする男性陣の気持ちもわかってきてしまいます)

>そして


勇者「みんなぁー、遂に来たよぉー。せーのっ」

追っかけ「「「魔王城オォォォ!!」」」

王宮魔術師(追っかけの数が最初の頃の倍以上になっている)

勇者「何だか雰囲気くらーい。ゆう、こわーい」

戦士「大丈夫だぜゆうちゃん、俺らが守る!」

賢者「そうです。ゆうちゃんはいつも通りに歌って踊ってくれればいいんですよ」

弓師「それにはゆうちゃん! 楽しもう!」

王宮魔術師「いや楽しんじゃ駄目だろ」

勇者「みんなぁー、ふぁいとー♪」

追っかけ「「「いっぱあああぁぁつ!!」」」

ウオオオォォォ

王宮魔術師(まぁ…皆やる気満々ならそれでいいか)

勇者「おねーさまも♪ ふぁーいとっ!」

王宮魔術師「え? は、はい。いっぱーつ…」

勇者「ふふっ、それじゃあ行きましょっ!」

王宮魔術師(明るいなぁ)

>城内


幹部「貴様らが勇者一行か! 幹部の名にかけて、ここは通さ…」

追っかけ「引っ込めコラァ!!」「ゆうちゃんの邪魔すんのかコラァ!!」「踏み潰すぞオラァ!!」

幹部「!?」

王宮魔術師(これだけ数がいれば過激派も出てきますねぇ…)

勇者「皆ぁ、もっと心をピュアハートに染めて! それじゃ景気づけに一曲歌いまーす!」

楽師「"ファンタジックゆうちゃんパレード"」ポロローン♪

勇者「♪行け行け行け! ゴーゴーゴー! 進むぞ皆でレッツゴー!」

追っかけ「「「ウオオオオオォォォォ」」」ドドドドド

幹部「ぎゃあああぁぁぁ……」

~♪

幹部「」死ーん

王宮魔術師(狙って殺しにかかりましたね勇者様…恐ろしい方)

勇者「♪この心のときめき止まらない~」

賢者「…! 向こうから強大な魔力を感じます」

戦士「ってことは魔王がいるのか!」

弓師「燃えてきたな…!」

王宮魔術師(追っかけの功績により、ここまで戦闘による消耗は避けてきた…これなら存分に力を出せますね)

勇者「皆ぁ、ここまでありがとー♪」

追っかけ「「「ゆうちゃあああぁぁん!!」」」

王宮魔術師(つーか追っかけ達が1番元気ってどういうこと)

勇者「それじゃあここでバラード行きます…"涙は未来への鍵"」

王宮魔術師「いや、はよ行け」

勇者「♪涙を堪える必要なんてない、明日はきっと笑えるよ~」

戦士「いい歌だよなぁ」ジワリ

王宮魔術師(仕方ない…曲が終わるのを待つか)


?「ほう、いい歌声だな」

王宮魔術師「――えっ?」

ギギギ…

王宮魔術師「!! 扉が開いて…」

魔王「よくぞ来たな…俺に逆らう人間どもよ!!」

王宮魔術師「お前が魔王か…!! 人間に仇なす魔物の王よ、覚悟…」バチバチッ

魔王「まぁ待て。まだ勇者の歌が終わっていない」

王宮魔術師「え?」


勇者「♪涙は未来への鍵、希望の扉を開けるよ~」

賢者「ゆうちゃーん」ウルウル

弓師「希望の扉ぁーっ」涙ドバー


魔王「歌を邪魔するのは無粋であろう?」

王宮魔術師(な、何て大きな心の持ち主…)


勇者「皆ぁ、ありがとーっ」

追っかけ「「「ゆうちゃああぁぁん」」」ピューピュー

魔王「さて勇者よ」

勇者「さてバラードで泣いた後は…笑顔になれる曲、いっちゃおー!」

王宮魔術師「いい加減にしろ」

王宮魔術師「ほら、魔王ですよ皆さん」

魔王「ふふ、我が魔王城で好き勝手してくれたな?」

戦士「い、いつの間に!!」

王宮魔術師「もし歌の最中に魔王に攻撃されてたら、全滅してましたからね?」


魔王「評判通り、可愛らしい勇者だ。それに男を虜にする歌声と舞…勇者にしておくには勿体無い」ニッ

勇者「…っ」

魔王「決めた…」

魔王はマントを広げ、戦闘態勢に入った。

魔王「勇者よ…お前をこの、魔王様のモノにしてやる!!」

戦士「あ?」

賢者「あ?」

弓師「あ?」

追っかけ「「「あ?」」」


王宮魔術師(全力で地雷を踏みましたね魔王…)

戦士「すぉんなことさせるくぁwせdrftgyふじこlp;」

賢者「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」ブツブツ

弓師「へへへ…久々にクズ野郎の心臓を撃ち抜けるんですねぇ~ケケケケケケケ」

追っかけ「「「ウワアアアアアァァァァァァ」」」

王宮魔術師「いやちょっと皆さん錯乱しすぎでしょ」

楽師「恐らく相手が相手だからでしょう」ポロン♪

王宮魔術師「というと?」

楽師「見て下さい、魔王の顔を…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「…まぁ美男子ですね。凛々しくて逞しい男の顔です」

楽師「対して、こちら陣営の男性陣の顔…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「良く見積もってフツメンですね」

楽師「つまり…そういうことです」ポロロン♪

王宮魔術師「なるほど」

戦士「ぶっ殺してやんよ魔王オオォォォ!!」ダッ

賢者「殺す殺す…"死の狂風"」ビュウッ

弓師「心臓ちょォだァ~い♪」ビュンッ

追っかけ「「「うおりゃああああぁぁぁぁ」」」ドドドドド

王宮魔術師「一気に行った…! これなら魔王も無事では済まない」


魔王「……フッ」バチバチッ

王宮魔術師「!! あの魔力は……!!」

魔王「喰らえ…"黒雷の旋風"!」

バチバチバリイイイィィィッ

王宮魔術師「くっ…勇者様、危ない!!」バッ

勇者「…っ!?」

王宮魔術師「ハァ、ハァ…」


戦士「ううぅ…」

賢者「く……」

弓師「…ガハッ」

追っかけ「「「」」」ピクピク

楽師「あーこれ無理」パタッ


王宮魔術師「一擊で全員に致命傷を負わせるとは…カハッ」

勇者「お、おねーさま…そのダメージ…」

王宮魔術師「私は、大丈夫です…か弱い女の子にこんな魔法、喰らわせるわけにはいかないでしょう…?」

勇者「……!」

魔王「ふふ…勇者よ。もう守ってくれる者はいないぞ?」

勇者「…っ」

王宮魔術師「お逃げ下さい、勇者様…!」

勇者「そ、そんな…そんなこと……」

魔王「怯えなくとも良い…俺はお前を傷つけん」ジワリジワリ

勇者「ひっ…」

王宮魔術師「おのれ魔王…! 勇者様に近寄るな……っ!!」バチバチッ

魔王「邪魔だ」ドォン

王宮魔術師「きゃあぁ!!」

勇者「おねーさま!!」

王宮魔術師「く…」


魔王「さぁ勇者よ――俺の手に抱かれるが良…――」



ざくり


魔王「……え?」

勇者「……」

王宮魔術師「ゆ、勇者様…?」

王宮魔術師は目を疑った。
しかし目を凝らしても間違いなく、魔王の胸に剣を突き立てているのは勇者で――

魔王「はっ……? 馬鹿な、太刀筋が見え……」

勇者「身の程知らずとはこのことねぇ、魔王様ぁ?」ニコ

魔王「…は?」

王宮魔術師「へ?」

勇者「…だああぁれがテメェのモンになるかあああぁぁ!!」ズバアアアァァァッ

魔王「!!!!!」

勇者「この魔王様のモノにしてやる? あー気持ち悪い気持ち悪い、ふっざけんなああぁぁ!!」ズバババッ

勇者「多少顔が良くても、テメェはゲロ以下の汚い魔物なんだよ、ばあぁか、ぶわあああぁぁぁか!!」ズバッズバッ

勇者「って、顔をズタズタにしたら、なァんの価値も無くなりましたねええぇ!! ざまあああぁぁぁ!!!」ズシュウウウゥゥッ

魔王「」

王宮魔術師「ひいいいいぃぃぃ」ブルブル

勇者「討伐完了、っと♪」フー

勇者「はい、おねーさま。これ、回復薬♪」

王宮魔術師「あ、あの」ガタガタ

勇者「ん? どうしたんですかぁ~?」

王宮魔術師「その豹変ぶりと腕前…何なんですか?」ブルブル

勇者「えぇ~っ? 何のことですかぁ~?」

王宮魔術師「いや、だから今の…」

勇者「…何のことですか?」マガオ

王宮魔術師「…何でもございません」

勇者「うっふふー♪ 皆にも回復薬ぅ~♪」

戦士「うーん…」

賢者「ハッ! ゆうちゃん、無事だったのですね!」

弓師「で魔王は…こ、この惨殺死体は……!!」

勇者「あのね、妖精さんが助けてくれたの~」

戦士「そうかそうか、妖精さんかぁ」

賢者「ゆうちゃんの歌声は妖精さんを呼びますからねぇ」

弓師「怖い思いさせてごめんな、ゆうちゃん」

勇者「えへへ。妖精さんに感謝だねっ!」

王宮魔術師(こんなスプラッタな妖精がいてたまるか…って言いたいけどやめとこう怖いし)

こうして世界には平和が戻った。
今や世界の英雄となった勇者のコンサートは、チケットが即完売になる程の人気ぶりである。

勇者「♪皆の笑顔が見たいから~」

追っかけ「「「ゆうちゃーん!!」」」

王宮魔術師(VIP席のチケットを頂いて、来てみましたが…こうして見ると、勇者様の歌と踊りは惹かれるものがありますねぇ)


勇者「皆ぁ~! 実は今日は、ゆうからの大事なお話があるのー!!」

王宮魔術師「大事なお話?」

勇者「ゆう…アイドル活動を一旦、休止したいと思います!!」

ええええええぇぇぇ

戦士「何でだゆうちゃーん!」

賢者「せっかく平和が戻ったというのに!!」

弓師「どうしたの、体調不良!?」

勇者「実はね、ゆう…好きな人ができちゃったんだ」

えええええええぇぇぇぇぇ


王宮魔術師(恋をしながらのアイドル活動は、ある意味ファンへの裏切りですからねぇ…。ファンにとっては悲しいでしょうけれど)

勇者「そして実はぁ…今日、その好きな人を、会場に呼んじゃいましたー!!」

王宮魔術師(へぇ。あの勇者様の心を射止めるとは一体、どんな男性なのでしょうね)

勇者「私、貴方のことが大好きです…――」




勇者「王宮魔術師の、おねーさま」

王宮魔術師「…………は?」

ウオオオオオオォォォォォ

勇者「おねーさまああぁ!!」ギュッ

王宮魔術師「え、ちょ!?」

勇者「あぁ、おねーさまぁ…ずっとこうしたかった…ハァハァ」ギュウウゥ

王宮魔術師「ちょ、どこ触って…! 勇者様!?」

勇者「おねーさまはずっと、ゆうのこと甘やかさないで厳しく叱ってくれたりして…それがゆう、嬉しかったの」スリスリ

王宮魔術師「あんっ、ちょっ…そこそんな風に触ったら…」

勇者「それにね、おねーさまは、ゆうのこと守ってくれた…その時からゆう、おねーさまのことが…」ペロペロ

王宮魔術師「ん、フゥ…っ」


戦士「そうか…ゆうちゃんに恋人ができるのはちょっと寂しいけど」

賢者「相手が女性なら、あまり嫌な気はしませんね」

弓師「応援すんよー! ゆうちゃああぁぁん!!」

追っかけ「「「うおおおおおぉぉぉ」」」


王宮魔術師(あぁ、もう何か…いいや)パタッ

勇者「ふふ、もう離さないわ。ゆうだけの、おねーさまぁ…♪」

>そして


勇者「おねーさまぁ♪ 今日は肉じゃがを作って参りましたっ!」

王宮魔術師「あら、ありがとう。ここのところ魔術師研究で忙しくて、栄養が偏っていたのよ」

勇者「おねーさまったら、研究研究で、ゆう寂しい…」モミモミ

王宮魔術師「ちょっ、そこ揉まないで!」

勇者「栄養が偏っていても、おねーさまはスタイル抜群ね…」ウットリ

王宮魔術師「~っ……と、ところで貴方は最近、政治活動にも参加しているとか。ちゃんとやれている?」

勇者「えぇ。私のイエスマン…じゃなくて支持者は多いから、王様も私を無視できないみたいです」

王宮魔術師「そ、そう。ところで、どんな活動をしているのかしら?」

勇者「ふふ…勿論、同性婚を法律で許可してもらうんですよ」

王宮魔術師「ど、同性婚!? それって…」

勇者「この法案が通ったら、私とおねーさまは晴れて夫婦となれるのです…あぁ、素敵」

王宮魔術師「べ、別に法的な縛りにこだわる必要は…」

勇者「そして法案が通れば、王宮の魔術師チームには同性同士で子供を作る方法を研究して頂くつもりです」

王宮魔術師「!!?」ブッ

勇者「ゆう、おねーさまとの子供が欲しいんですぅ…2人で一緒に産みましょう?」ギュウ

王宮魔術師「ちょっ、離…」

勇者「ダ~メ。おねーさまがゆうのワガママを聞いてくれる方法、わかってるも~ん」ペロペロ

王宮魔術師「あん…っ」


アイドル活動を休止した勇者だが、後に彼女らは国で第一号の同性夫婦となり、国民的夫婦となる。だがそれは、また別のお話。


FIN

ご読了ありがとうございました。
可愛いは正義。

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