二宮飛鳥「ボクに与えられたヒカリ」 (42)

これはアイドルマスターシンデレラールズのSSです。
独自設定がありますのでご了承を。

そしてこのSSでは、
「もし二宮飛鳥がいじめられていた過去を持っていたら」
という設定で書いていきますので、そちらもご了承を。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458144550

ボクは、一体何のために生きているんだろう。

学校の帰り道を歩いていると、ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。
そんなネガティブな考えが突然浮かぶのも仕方ない、仕方ないのだ。
少ししわになったスカートの裾が目に入る。

今日も色んな嫌がらせを受けた。
体育の授業が終わったあと、着替えの制服を隠されたり。
それに対して抵抗したら、ビンタされたり。


ボクが通う学校に、仲間と呼べる人はいない。




ひたすらネガティブな思考を連鎖させていたら、いつの間にか家の前に着いていた。
持っていたカギで家の中に入ると、そこには母がいた。

「おかえりなさい、飛鳥」

母はこう言って、ボクの帰りを迎えてくれる。
こんなにあたたかい場所はない。

「・・ただいま、母さん」

ボクは少し笑って母へ挨拶を返した、はずだった。
母から返ってきた言葉は、予想もしなかった言葉。

「飛鳥・・・あなた、顔が怖いわ」

・・・・・・え?
ボクの顔は、笑ってはいなかった。
その代わりに、無表情で目を見開いた顔をしていたのだ。
簡単に言えば、生気の無い顔。
生きてる、ということを感じさせないような、そんな顔。

「・・え?・・そんな、母さん、そんな事ないよ。ボクは、大丈夫だから」

ボクはこれ以上指摘されるのが嫌で、走って自分の部屋に入った。
学校のバッグを下ろし、リボンを外して、Yシャツだけ残して脱いだところで、ふと部屋の鏡を覗く。
そこに映っていたボクの顔は、これっぽっちも笑えていない、まさに生気のない表情をしていた。

「ひっ」

思わず自分の表情に驚き、ベッドに飛び込んだ。
知らなかった、さっきボクはあんな恐ろしい表情を母にしていたのか。
ボクに唯一優しくしてくれる、母に。
それを思うと、罪悪感から涙が出てきた。
ベッドで体を丸めてすすり泣いているうちに、いつの間にか寝てしまった。

ふと、夜に目が覚めた。

「くしゅんっ」

Yシャツと下着だけで寝ていたせいか、体が冷えてしまった。
携帯を見ると、メッセージ通知が1件。
母からだった。

「ごはん、おにぎりとお味噌汁よ。充分に温めてから机に置いておいたからね」

その短い文章なのに。
ボクはまた、罪悪感と感謝の気持ちで泣いてしまった。

「・・ありがとう、母さん」

そう呟いて、ベッドから起き上がった。
そして、母がつくってくれたあたたかいおにぎりを食べ、味噌汁をすすった。
ありがとう、母さん。

……何よりも美味しいよ、このごはん。

次の日。
学校の様子は、いつもと変わらない。

ボクもいつもと変わらず、周りの嫌がらせに耐える。
決してこちらも手を出す、なんてことはしない。
そうしたら最後、喧嘩に発展し、しまいには先生に連帯責任という形で終わらせられるからだ。

この世界は理不尽だ。
何せ、被害者が損をする時代なのだから。
嫌がらせや暴力に対して手を出したりしていないのに、加害者が先生に対してうまいこと自分の罪を逃れ、
あるいは軽くし、結果、被害者が損をする。
そして、反省したと見せかけて加害者は、同じことを繰り返す。

……何故、世界はこんなに理不尽なのだろう。
加害者はそれ相応の罰を受けるべきなのに。

そんな世の不条理にイライラしながら、周りの嫌がらせに耐えるのだ。

耐える、耐える、耐える、耐える。………耐える。
耐える度、心の中に何かドス黒いものが流し込まれてくる感覚があった。
が、そんなことを気にしている暇はない、耐えるんだ、ボク。耐えろ。耐えろ…。

そうして学校という地獄を耐え抜いたボクは、放課後になると真っ先に帰路に着く。
身も心もボロボロになって、重い足取りで帰り道を歩いていたら、ふと公園にいた男性が目に入った。
スーツ姿のその男性は、電話で何か謝っている様子だった。

…そういえばあの男性、最近公園でよく見かけるな。何故公園で・・・?

…細かい事は考えないようにしよう。脳がストレスと疲れでパンクしてしまう。
ボクは疲れきった自分の体に鞭を打ち、小走りで家へと帰った。

今日は一旦ここまで。

家に帰ってやることは、漫画を書いたり、ヘアアレンジをしている。
漫画も、ヘアアレンジも、今の自分とは全く違う自分を演出できることに楽しさがある。
漫画の中なら、ボクは勇者にでも魔王にでもなれるのだ。
ヘアアレンジだって、腕次第ではいくらでも違う自分になれる。

最近は、家の中でエクステをつけるのにハマっている。
学校ではそういう類の髪のアレンジは校則によってできないが、家に帰ってしまえばどうということはない。
好きなだけ、自分の思いつく限り、違う自分になれるというのが本当に楽しかった。

ある学校の休みの日。
ボクはいつも学校の帰りに通る公園でベンチに座り、音楽を聴きながら読書をしていた。
休みの日はヘアアレンジをして、お気に入りの服を着て、読書をしている。

ふと顔をあげると、どこかで見た男が目に入る。

「すみません、その件ではただいま…」

…また、あのスーツの男性か、よほどこの公園がお好きなようで。
ボクは特に気にすることもなく、読書に戻った。
読書をしていると、その本の中の世界に吸い込まれていく感覚がする。
まるで主人公が自分のような気分になり、あれこれと架空の世界で冒険をしたりする。
ボクはやっぱり現実のボクよりも、架空のボクが好きで。

「…こんな理不尽な世界と自分はもう嫌だ」

心からの思いをポツリと呟く。

「随分と怖い顔をしているな」

…怖い顔?そんなにボクは怖い表情をしていたのか。
また、前のような表情になって…って、え?

「聞こえてますかー?イヤホンしているから聞こえづらいのか…?」

目線をチラっと上に上げると、そこには先ほどのスーツの男性が立っていた。
しかし、読書中に話しかけられるのはあまり良い気分じゃない。
わかっている表情のことも指摘されるとなおさらだ。
頭のなかで不満をぶつぶつ思っていると、今度はトントン、と肩を叩かれた。

「ひゃっ…!?…っ、さ、触るなっ!」

パシッ、と反射的に手を払ってしまった。
しまった、と少し罪悪感を感じつつ、ボクはイヤホンを外して話に応じることにした。

「…ボクに何の用ですか」

「まぁ、そう構えないで。…隣、座っていいか?」

「……どうぞ」

するとスーツの男性は躊躇なくボクの隣に座ってきた。
…中学生の女の子の隣に躊躇なく座られれば、構えるのは当たり前だろ。

「いつもここで読書しているんだな、君は」

「…ええ、まぁ。落ち着くんで」

「今もだが、怖い表情をしている。何か、あったのか?」

「あぁ。…色々と、ね」

相当不満やストレスが溜まっていたのだろう。
ボクはその素性の全くわからない男性に、色んな不満をぶちまけた。
日々の生活の事、学校の事、理不尽な世界の事。
話せば話すほど、その言い方は男性に向かって吐き捨てるようになっていった。

気づけば夕暮れ。
ボクはようやく言いたいことを全て言い切った。

「…はぁ、っ、…はぁ…。」

「…よく耐えたな。お前は偉い。そして強いよ。」

偉い?強い?…おかしいな。
こんな、知り合いでもない男性に自分の不満を全部話して。
途中で何回も涙ぐんで。
それでも、自分の思いを話して、話して、話して。
そんなに簡単にボロボロと出てくるボクが、強いわけがない。偉いわけがない。

「…ボクはそんな大そうな人間じゃない」

「いーや違う。お前は強いんだ。強くなきゃ、お前みたいなところまで耐え続けるのは難しいだろう」

「…そんなもの、なのかな」

「そんなもの、だよ」

…そうか。
ボクは、早く楽になりたかったんだ。
ボクの気持ちを、みなそのままに受け止めてくれる人が欲しかった。
簡単な事こそ、簡単に気づかない。
そんな言葉を聞いたことがあったが、そのとおりだな。

「…そんな強いお前に、一つ提案があるんだ」

うつむいて、涙を拭っていると、男性は突然名刺を出してきた。

「…アイドルの…プロデューサー?」

「あぁ、そうだ。さっき、お前はこんな理不尽な世界は嫌だと言っただろ?
それなら、新しい「セカイ」に踏み出せばいいんだよ」

「新しい……「セカイ」…?」

「あぁ。それに、今のお前とは全く違う、新しい自分にもなれる!キラキラと輝けるんだ!」

「キラ…キラ…」

プロデューサをやっているその男の言葉1つ1つに、想像できないような魅力を感じた。
キラキラ。輝く。全く違う自分。理不尽な世界から、新しい、輝けるセカイへ。
それを語る男性の目はとても輝いていて、楽しそうで。

「…ボクにも、輝けるのかな」

気づいたときには、その言葉を口にしていた。
するとそのプロデューサーの男性は、ボクの手に名刺を差し出し、こう言った。

「輝けるかどうかはお前次第だ。しかしアイドルの世界というのは、今のお前の感じている「世界」とは
違う。アイドルの「セカイ」は、お前の今よりもずっと、楽しいぞ!」

ボクはその言葉を聴きながら、名刺を受け取った。
受け取ると、男性は残りの仕事をしなきゃと帰ってしまった。
しかしその去り際に、

「アイドルになりたい、そう決意したならその名刺の番号にかけてくれ」

と言葉を残した。

さて、レストラン店内。
ボクたちはそれぞれ、食べたいものを食べていた。
智香はパスタ、ボクはハンバーグ。
そしてそのあとに二人一緒にパフェを頼んだ。
甘いものは別腹、というやつである。

「おまたせしましたー」

2つのパフェがテーブルに置かれる。

「わぁ、飛鳥ちゃんはティラミスパフェ!なんかイメージに合ってるねっ☆」

「智香だってシンプルなパフェだけど色々のっている。パッション、というのかな、そんな感じがする」

「えへへ♪あむっ……美味しい♪」

「…うん、甘すぎず美味しい」

しばらくパフェを堪能してから、ボクは話を切り出す。

「さて、ここでもうユニット名について決めてしまおうか」

「うん、こういうところでのお話って落ち着いてできるよね♪」

「ふふ、智香はボクとよく気が会うらしい。…で、どうしようか?」

「ノープランなんだ…。ベタなところで名前をうまいこと合わせたり、とかかな?」

「アスカとトモカ…。…駄目だ、ボクには良い組み合わせというものが見つからない」

ボクは腕を組んで唸る。
なかなか難しいものだ、ユニット名にはよく英語を使ったりするが、ボクの中学英語ではうまくできなそうだ。

「なら名前を組み合わせるのは駄目かぁー…。ならアレはどうかな?それぞれのイメージを合わせるの!」

「イメージ、か。智香はやはり、チアのイメージだ」

「飛鳥ちゃんは、やっぱりクール?ビター?うーん…どっちもかな?」

「ビターか…。…いいことを思いついた。智香、キミのイメージの「元気」を味として「甘い」と例えてみよう」

「うんうん」

「そしてボクが「苦い」甘くて苦い…。」

「甘くて苦い…?」

ボクはあえて言葉に出さず、レストランのメニューの中の、1つのデザートを指差した。

「アフォ…ガード…?」

「そう、アフォガード。エスプレッソの「苦味」にアイスの「甘味」…ボクたちにぴったりだと思わないかい?」

「確かに…!飛鳥ちゃん、すごいっ!レストランにきて正解だったね!」

「フフ、良いヒントが近くにあったね」

突然、智香が何かに気づいたようにハっとした。

「そ、そういえば飛鳥ちゃん…エスプレッソ飲めないんじゃなかった!?」

「アフォガードの場合はアイスで中和されるからいいんだ!」

そこで注文していたアフォガードが1つ、テーブルに乗っけられる。

「智香、どうぞ。ボクからの追加のデザートさ」

ボクはお返しだと言わんばかりに指を指す。

「私、流石にもう1つは入らないよ~…。…そうだ、飛鳥ちゃん!アフォガード、一緒に食べよっ!」

「ボ、ボクもかい?構わないけれども…」

「ユニット名は「アフォガード」で異議なしっ!私達2人のユニット名なんだから、2人で味わおうよ!」

「なるほど、それは良い考えだ。納得したよ」

そしてボクたちはアフォガードの味を楽しんだ。
甘くて、でも苦くて。でもそれが、とてもマッチしていて。
それと同じように、こうして智香と一緒にいる時はとても心地が良い。
我ながらナイスアイデアだったな、と誇らしげになるボクだった。



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