【艦これ】曙「このアホ提督!」 陸奥「アホ提督ね♪」 (521)


※ 艦これの『曙』と『陸奥』と提督を主人公としたお話です。

※ エロやグロなどはありません。

※ キャラの性格や口調、お互いの呼称などはなるべくゲームに合わせていますが、筆者の独自解釈も多いです。そういうのが許せない方は読まないほうがよろしいかと思います。

★このお話は下記スレッドの続きとなっております。単体でも読めるとは思いますが、あちこちよくわからない箇所が出てきてしまうと思います。長くて恐縮なのですが、よろしければ前のお話からお読み頂けますと幸いです。

【艦これ】 陸奥「堅物なこまったさんね~」
【艦これ】 陸奥「堅物なこまったさんね~」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455628425/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458129890


>>1で紹介した前のお話が完結してからこちらがスタートとなります。誘導のため先にスレを立てました。
本日中にプロローグ部分を投下予定です。



駆逐艦 曙

それがあたしの名前。

大勢いる駆逐艦の中で、特にこれといった戦果も特徴もない、ごく普通の駆逐艦。強いて言うなら、貧乏くじをたくさん引いたことが特徴かしら。

敵を誤認したり、無茶な命令をされたり、理不尽な責任転嫁をされたり……。

目の前で仲間が……妹が沈んだり。





別にいいのよ。海軍という大きな組織の中では、そういうこともあるでしょう。
司令部の理不尽さに、乗組員共々ものすごく腹を立てたけど……。

でも誇りをもって、がんばってがんばって任務をこなし、仲間を護り……そして沈んだ。

駆逐艦 曙の艦生は終わり、船の魂たるあたしは、海の底で静かに眠った。

これは死。再び目覚めることなんてありえない。





……そのはずなのに、今なぜか意識を持っている。どういうことなのかしら?

それに……遠くに光が見える。なんだろう、あそこはとても暖かそう。暗く冷たい海底とは似ても似つかない場所。

導かれるように光に近づいた。

不思議な暖かな光がどんどん大きくなって……あたしは完全に光に包まれた……そして……





――――― 1年以上前 工廠


五月雨「新しい仲間……楽しみですね! 」

提督 「そうだな……。ただうちも随分と仲間が増えたから、そろそろ誰が誰だかわからなくなりそうだ」

五月雨「あー! 提督、ちゃんと見分けてくれないとイヤですよっ! 」

提督 「さすがに五月雨を間違えたりはしないけどな」

五月雨「えへへ……って、駄目です、わたしだけじゃなくて他のみんなもちゃんと見分けて下さい! 」

提督 「いや……その、顔を真っ直ぐ見るのが照れくさくてな。それでなかなか顔を覚えられないんだ」

五月雨「もー! すごく提督らしいですけど、頑張ってくださいっ」

提督 「ああ、頑張るよ」

五月雨「あ、もうすぐですよ!」


シュワーン





曙 「………… 」

五月雨「あ、駆逐艦の子ですね。誰かな? 」

提督 「また仲間が増えたな。良かった良かった」


……なんだろう、長い夢を見ていたような、ぼんやりした感覚。

あたしは……曙。今、艦娘として転生したのね。


五月雨(わくわく)


生まれたわたしを見守っているあの子は……五月雨。仲間はちゃんと分かる。そう……あたしたちは、国と人を護るために転生したんだ……あの人の手で。


提督 「…… (どきどき)」


そう、あの人があたしの提督……あたしの司令官。ひと目でわかる。





五月雨「あの……曙ちゃんだよね……? 」

提督 「曙なのか……どうしたんだ、大丈夫か? 」


司令官……理不尽な命令……ひどい責任転嫁……そういう嫌な記憶が頭をよぎる。

でも……それなのに……。この人を見ていると心が暖かいもので満たされる。魂のつながり……暖かなつながりを感じる……どうして? この人はわたしと乗組員を苦しめるだけの司令官なのに!?


五月雨「曙ちゃん、大丈夫? 」


あ、心配をかけちゃいけないわね


曙 「五月雨……よね? 大丈夫。改めて、特型駆逐艦 曙よ」

提督 「やはり曙なのか。その……はじめまして」


憎むべき司令官のはずなのに……気弱げにあたしを見るその姿を見て、抱きつきたいような衝動に駆られる。そんな心の不整合を振り払うように、あたしは大声で叫んだ






曙 「こっち見んな! このクソ提督!! 」




++++++++++


これが、あたしと提督……あのアホ提督とのはじまり。

もし今この場所に行けるなら……馬鹿なあたしを引っ叩いてやりたい。本当に死ぬほど後悔してる。

でも……それでも、とてもとても大切な出会いの瞬間だった


++++++++++




プロローグは以上となります。

続きは、早ければ週末、遅くとも来週頭からスタートします。第一部と比べると大分短くする予定です。

>>1で書きました通り、このお話は続きとなっております。もしよろしければ前話からお読み頂けますと嬉しいです。

それではまたしばしお付き合い下さいませ。


続きなかなか書けず申し訳ありません。ちょっとリアルが立て込んでおりまして、開始が遅れそうです。
もうしばらくおまちください。



――――― 曙着任から1ヶ月後 鎮守府近海


漣 「おー、やっぱり実戦の海は違うね~」

曙 「何も変わらないわよ」

潮 「そうかなぁ。わたしはすごく緊張するよ」

朧 「そうだね、海は変わらないけど心構えはやっぱり違うね」

漣 「ま、実戦なんぞ漣は余裕ですぞ」

曙 「いくら近海とは言え、潜水艦が出る場所なんだよ。気を抜いてるんじゃ無いわよっ」

潮 「そうだよー、突然雷撃がドーンってくるから気をつけてね。漣ちゃんはまだ練度低いんだし」

漣 「大丈夫! ぼのたんが守ってくれるから! 」

朧 「ぼのたん…… 」

曙 「ぼのたん言うなっ! 」





++++++++++


着任から1ヶ月。姉妹である第七駆逐隊が次々と着任して、あたしの周りはとても賑やかになった。最初は1人部屋だったのにね。

着任が遅れていた漣も先日ついに仲間に加わり、この日がはじめての第七駆逐隊勢揃いの出撃。漣がお気楽すぎてちょっと心配だったけど……


++++++++++





朧 「そういえば漣、どうして提督のことをご主人様って呼ぶの? 」

潮 「それはわたしも気になっちゃった。提督すごく困ってたよ」

漣 「えー、なんか艦娘って提督に仕える娘って感じでメイドっぽいでしょ? だからメイドさん風味なのだ! 」

曙 「仕えるって……あたしはそんな気はしてないわよ、あんなクソ提督に! 」

潮 「曙ちゃん、その……そんな呼び方しちゃ駄目だよ」

朧 「そうだよ。提督は上官なんだから」

漣 「そーそー。クソ提督に比べたらご主人様なんてかわいいものだよね」

曙 「い、いいのよ。あたしはそう呼びたいんだからっ。それを言ったら霞なんて、『このクズ!』なんて言ってるじゃない」

潮 「霞ちゃんのそれ、最初に聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ……。曙ちゃんも霞ちゃんも、提督のことが嫌いなの? 」

曙 「う゛……、そ、そんなこと言ったら、潮だってクソ提督が一歩近づいただけで叫んで逃げたじゃない」

漣 「えー! そんなことしたの!? 」

朧 「あれはちょっと提督が可哀想だったね…… 」

潮 「ううう……だって、なんだか恥ずかしいし……提督はすごく大きくてなんだかちょっと怖くて…… 」


話題そらし成功……! って、なんであたしがクソ提督のことで焦らなきゃいけないのよっ。





朧 「さて、そろそろ敵がいてもおかしくない場所だよ。索敵開始! カニさんたちも敵を探してね」

潮 「カニさん……いいな…… 」

曙 「あたしは羨ましくない」

漣 「ほいさっさー、じゃあうさ吉も索敵お願いね」

曙 「朧のカニさんもだけど、あんたのうさ吉も謎よね……」

潮 「いいなぁーいいなぁー」

朧 「良くわからないけど、きっとカニさんもうさ吉も艤装の一部みたいな感じなんだろうね。黒焦げになっても入渠で治るし」

漣 「そうなんだ! だってさうさ吉、黒焦げになっても大丈夫だよ! 」

うさ吉(ぶるぶる)

潮 「わたしもかわいい艤装がほしいよー」

曙 「あんたは連装砲がかわいいからいいじゃない」


なんて馬鹿な話をして油断していたら……





朧 「!!! 雷跡!! みんな緊急回避! 」

潮 「え、うそうそ~ 」

曙 「くっ、潜水艦かっ! 」

漣 「え、え、どこ!? 」

朧 「漣、そっちに向かってる、避けてー! 」

漣 「え……あ……うわぁぁぁっぁ」


ドーーン


直撃! 漣はすごい水柱に包まれていた。

あたしは全身の血の気が引くのを感じていた。漣が……沈んじゃう……





曙 「う、うそだ……いやだよ、漣ーー! 」

朧 「あ、曙、落ち着いて! 大丈夫だからっ」

曙 「だ、大丈夫なもんかっ、漣が、漣がっ!! 潮、はなせっ」

潮 「曙ちゃん、落ち着いてよく見て! ほら、漣ちゃん大丈夫だからっ! 」

曙 「え……? 」

漣 「い……てて……、うわ、中破しちゃった。くっそー! 」


あ……良かった……漣、無事……


へなへなへな


潮 「ね、大丈夫でしょ? 被弾はしちゃったみたいだけど」

朧 「おそらく敵は1隻。さ、みんな、気を取り直して敵潜探そう! 」

漣 「まっかせて。仕返ししてやるからっ」

潮 「曙ちゃん、大丈夫? 」

曙 「あ……うん。よし、もう大丈夫! あたしたちも対潜哨戒しよう」

潮 「うん! 」


ちょっと赤面。あたしは何を焦っていたんだか。艦娘は魚雷一発でいきなり轟沈なんてしない……そう聞いている。経験上もそれで間違いないってわかってるのに……。





漣 「ふー、せっかくの初出撃だったのに中破とはついてない。この格好でご主人様の前に行くのはちょっと嫌だな~」

朧 「こら。基地に帰り着くまでが出撃だよ。まだ気を抜かないっ」

潮 「朧ちゃん先生みたいー」

曙 「報告はあたしが行くから大丈夫。漣は帰ったらみんなとすぐに入渠してきなよ」

漣 「あら、ぼのたん優しい~。うっふっふ~、心配しちゃった? 」

曙 「な、なによ」

漣 「聞こえてたよ~、ぼのたんの必死な声」

曙 「なっ! ///」

朧 「こら漣。茶化さないっ。仲間を心配するのは当然でしょ」

潮 「そうだよー。でも、曙ちゃんがあんなに取り乱したのはびっくりしたけど」

曙 「ふ、ふんっ。練度が低いのに油断しまくりの漣だったから、一発でひどいことになるんじゃないかって思っただけよ! 」


もちろん……ほんとは違うけど。また目の前で一瞬で沈んじゃうのかと……





――――― 帰還後 鎮守府


潮 「じゃあわたしたちは入渠してくるね」

朧 「曙も後で来てね」

漣 「待ってるぜー! 」

曙 「はいはい、報告終わったらね」

潮 「でも……報告いつも行ってもらってごめんね? 」

曙 「いいのよ。潮も行くと、潮もクソ提督もすごい緊張するからね」

朧 「潮が緊張するのはいつもだけど、提督も? 」

曙 「うん。また叫ばれないかって、超ビクビクしてる。小心者なのよ、あのクソ提督は」

潮 「うう……提督はわたしを怖がらせないように気にしてくれてるんだよ。優しいのに怖がっちゃって……わたしって駄目だなぁ」

漣 「ま、でも潮らしくていいじゃん! ゆっくりやんなよ~ 」

曙 「それじゃ、ちゃっちゃと行ってくるわ」





――――― 提督執務室


コンコンコン


五月雨「どうぞー 」


ガチャ


曙 「曙、入るわよ」

五月雨「曙ちゃん、いらっしゃい! 報告かな? 」

曙 「ええ。第七駆逐隊での近海対潜哨戒任務は無事終了。潜水艦1隻と遭遇し撃沈。こちらの被害は漣が中破。以上」

提督 「漣が中破か。大丈夫だったか? 」

曙 「ええ。今もう入渠してるけど、練度低いからすぐ治るわよ」

五月雨「そっかー。漣ちゃん初実戦だったよね。無事終わって良かった~ 」

曙 「じゃああたしも入渠するから行くわね。報告終わり」

五月雨「はーい、お疲れ様でした! 」

提督 「あ……曙、待ってくれ」

曙 「ん……なによ? 」

提督 「その……目の前で漣が被弾して……お前は大丈夫だったか……? 」


何か見透かされたような気がして……一気に顔に血が上る……。何よ、あんたあたしのことをどこまで知ってるのよ!


曙 「/// だ、大丈夫に決まってるでしょ! 被弾したのは漣であたしはかすった程度なんだから」

提督 「あ、いや、そういう意味では…… 」

曙 「大丈夫だって言ってるでしょ! しつこいのっ、このクソ提督!! 」


バタン





++++++++++


この頃にはもう分かってた。あいつは……あのアホ提督は、前世であたしが憎んでいたような司令部とは違う。あたしたちを大事にして、沈まないように必死に気を使ってる。

それどころか、艦娘としてのあたしたちの生活や心にすごく気を使ってる。その……とても……優しいやつなんだって。

ただ……最初に掛け違えたボタン。いきなりひどいことを言ってしまったこと。その後引っ込みがつかずに反発を続けている日々。ひどい自己嫌悪を抱える日々だった。

自分しか見ていない……ああ、なんて子どもだったんだあたしは!


++++++++++




大変遅くなりました! やっとですが更新を再開します。
とはいえリアル事情で書き溜めが全然できていないので、ペースはゆっくりになります。おそらく3日ごとに更新ぐらいになるかな?

そのようなわけで、次回更新日もはっきりとは書けません。なるべく頑張りますっ。

それではまた次回。よろしければ是非またお越しください。



――――― 曙着任から2ヶ月後 鎮守府近海





荒潮 「やっと帰ってこられたわね~。やっぱり北方は寒くていやぁね~」

朝潮 「荒潮、任務に文句を言わないの」

大潮 「でも、やっとキス島制圧できたからね! これでもう北方に通う必要もなくなるから、もーアゲアゲだよ! 」

満潮 「苦労させられたわね、まったく! ひどい損傷しちゃったし」

朝潮 「満潮、大破目前の中破よね。そんなひどい損傷はじめてだと思うけど、大丈夫? 」

満潮 「大丈夫よこのくらい! 」

大潮 「でもさ、ずっと挑戦してたキス島攻略、第八駆逐隊で制圧できたの嬉しいね! 」

荒潮 「八駆だけの力じゃないでしょ~。霞ちゃん、曙ちゃん、応援ありがとね」

霞 「あたしにとっても因縁ある場所だったからね。参加できて良かったわ」

曙 「あたしもちょっとだけ北方は参加したことあるからね」


 駆逐艦だけで挑まないといけない北方のキス島。なかなか攻略できないでいたんだけど、本日無事攻略完了! うちの鎮守府は順調に……うん、順調に成長してる。あいつが頑張ってるってことよね。

※筆者注:今では軽巡1隻も参加可能のようですがこの頃は駆逐艦オンリーでした。





――――― 少し後 提督執務室


朝潮 「以上、無事キス島攻略完了です。損害は満潮、霞、曙が中破。以上です」

提督 「きつい戦いをよく頑張ってくれた。ありがとう」

五月雨「みんなお疲れ様です! 何度も出撃しては追い返された場所ですから……ううー、わたしも参加したかったなぁ」

涼風 「参加したいんなら、秘書仕事をさっさと片付けなきゃだよね」

村雨 「みんなで手伝ってなんとかって感じだもんね~」

五月雨「うう、がんばります……」





提督 「何はともあれ、出撃メンバーの皆は本当にご苦労だった。損傷した満潮、霞、曙はすぐに入渠してくれ」

荒潮 「満潮ちゃん、しっかり治してくるのよ~ 」

満潮 「……必要ないわ。まだ中破じゃない! このまま出撃しても全然大丈夫よ! 」

五月雨「そんなぁ。あちこちボロボロだし服だって破れちゃってますし……。なによりそれで出撃なんて危ないです! 」

朝潮 「そうよ。それに命令なんだからすぐに入渠しなさい」

満潮 「いやよ! そんな命令聞けないっ。撤回を要求するわ! 」

大潮 「そんなぁ。満潮どうしちゃったの? 」

霞 「…… 」

曙 「…… 」


……あたしには分かる。霞もきっとわかってる。そうよね、前世のトラウマっていうのは重くのしかかってくるもの。





提督 「わかった、では命令を変更する」

朝潮 「そんな、司令官。わたしからちゃんと言い聞かせますので! 」

満潮 「なによ、わたしのわがままみたいな言い方しないでっ」

五月雨「ほ、ほんとにどうしちゃったんですか(おろおろ)」

提督 「いいから、命令変更だ。第八駆逐隊はこれから全員で入渠すること。満潮が入渠完了するまでは、ドックで一緒にいること」

大潮 「え? あたしたち損傷してないよ~ 」

提督 「損傷してなくてもだ。今後第八駆逐隊は、誰かが損傷したら全員で入渠すること。誰かが入渠している時に間違っても出撃したりしないこと。いいな? 」

荒潮 「あらあら、すごい命令ね~。ま、わたしはお風呂大好きだから大歓迎よ。じゃあみんなで行きましょ? 」

朝潮 「はいっ。ご命令とあらば! 」

満潮 「ちょ、ちょっと、そんなのおかしいでしょっ。わたしは別に……そんな…… 」

提督 「満潮。司令官命令だ。聞き分けてくれ」

満潮 「……分かったわよ。命令に従います」

大潮 「はーい、じゃあみんなで行こ行こ! みんなでお風呂ってなんか楽しいね。アゲアゲになってきたぁ~! 」


ガヤガヤ バタン





五月雨「……納得してもらえたみたいですけど、なんだか不思議な命令でしたね? 」

村雨 「みんなでお風呂いいね。二駆もそうしようかっ」

涼風 「おっと待ちなっ。五月雨はいつもあたいと一緒にお風呂なんだ。とらないでくれよ~ 」

五月雨「えへへ、みんなで入ればいいよ。広いんだもん! 」


ワイワイ


曙 「…… 」


うん、いかにもクソ提督らしかった。でも……なんだかムカムカするのよね。


提督 「霞も曙もご苦労だった」

霞 「…………甘やかし過ぎよっ! ふんっ!」

ツカツカ バタン


霞もなんかイライラしてたわね。うん、気持ちわかる


曙 「霞に同感よ、このクソ提督っ」


足早に執務室を出る……。あいつは別に悪いことはしてない。それどころか、艦娘をとても大切にしているあり方を再確認出来たぐらいだ。それなのに……なんでこんなにイライラするんだろう。





――――― 少し後 ドック兼大浴場


満潮 「まったく……どうして……ブツブツ……」

荒潮 「提督がさみしがりやの満潮ちゃんに配慮してくれたんじゃない~。ここは喜ぶところよ~♪ 」

朝潮 「なんだ、満潮は一人でお風呂が寂しかったの? それならわざわざ命令されなくても一緒に入ってあげるのに」

満潮 「/// はぁぁぁ? 全然違うし! 」

大潮 「みんなでお風呂楽しいね~♪ 」


ワイワイ


霞 「…… 」

曙 「…… 」

霞 「……別にね、あいつが悪いわけじゃないのよ。それどころか、姉妹である満潮を気にしてくれて感謝してるぐらい」

曙 「……うん。だけどなぜだかイライラするんでしょ。あたしもそう」





霞 「あいつ……怒ってると思う? 」

曙 「…… 」


考える。あたしの暴言にも一度たりとも怒ったことがない。いつも無表情に……でも少しだけ悲しそうな目で黙っているだけ。思い出しただけでイライラする。


曙 「怒ってくれるなら、こんなにイライラしないわよ」

霞 「同感。やっぱあんたは分かってるわ」

曙 「クソ提督のこと分かっても嬉しくもなんともないけどね」

霞 「大体あいつは、わたしたちみたいなのに気を使いすぎなのよ」

曙 「そーそー。腫れ物を触るような扱いが気に障るのよ」

ワイワイ


霞とは仲が良いわけじゃないけど、クソ提督への文句と悪口だけは盛り上がる。そういう関係。





――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


朧 「それじゃ電気消すよ」

漣 「こんな健全な時間に寝るなんて……漣も堕落しちゃったよ…… 」

潮 「堕落って……健全な時間に寝るなら更生じゃ……? 」

曙 「はいはい、漣の相手をしてるとまた寝るのが遅くなるからね。おやすみー」

漣 「ぼのたんひどいっ」

曙 「ぼのたん言うなっ! 」


眠ろうと目を閉じると、今日の出来事が頭をよぎる。

一人取り残された辛い記憶に苦しむ満潮。それを知っていてなんとかしようとするクソ提督。そんなクソ提督を見てイライラする霞やあたし。まったく、なんでクソ提督のことでモヤモヤしなきゃなんないのよっ!





潮 「曙ちゃん……? 大丈夫? 」

曙 「大丈夫って? ちゃんと入渠も終えてきたし大丈夫よ」

潮 「ううん、そうじゃなくて。なんだか元気が無かったから。何か嫌なことがあったのかなって」


暗くて見えないけど、きっと心配そうな目でこっちを見てるであろう潮。この子は真面目で優しくて、あたしのちょっとした変化をいつも見逃さない。


曙 「元気よ元気。キス島攻略も無事終えたしね。一緒に行ったメンバーともちゃんと仲良くやってきたわ」

潮 「でも……。元気が無いというか、なんだか苦しそうだったんだもん」

曙 「ほんとに大丈夫よ。心配してくれてありがと。おやすみ」

潮 「うん、おやすみなさい…… 」


この子はどうして、あたしのちょっとした変化がわかるんだろ。それで、どうしてあたしなんかのことをこんなに心配してくれるんだろう。そして……あいつも……クソ提督も、どうしてあたしなんかのことをあんなに気にして心配するんだろう。どうして……あたし以外の子もあんなに心配するんだろう。

優しい人達。その優しさにツンツンとした返事しか出来ないあたし。そう……悪いのは素直になれないあたしの方。





暗い中、目を閉じて落ち着いて考える。さっきの潮の優しさが、心の棘を少しだけ柔らかくしているのを自覚する。

そう、なぜイライラするかはともかく……クソ提督があたしや仲間たちを大切にしてくれていること、心配してくれていること。それは間違いない。それにはちゃんと感謝しよう。優しい言葉を返そう。そのぐらいはすべきだ。

なんとか素直な返事を返せた自分を想像する。その時クソ提督は……きっとびっくりして、次いでオロオロした感じでしどろもどろに返事をする。まったく、大人のくせにしっかりしなさいよね!

よし決めた! 今度クソ提督と二人になった時に、ちゃんと話して、これまでの態度を謝ろう。


曙 「ふふふ……その時を楽しみにしてなさいよ、クソ提督♪ 」


朧 (曙、声に出ちゃってるよ……)

漣 (うはラブ妄想ktkr! からかいたいけどここはぐっと我慢我慢!)

潮 (曙ちゃん、やっぱり提督のことで悩んでたんだ。わたしも怖がらないようにがんばろう……)





++++++++++


今思えば……。なんでこの時にもっと積極的に、ちゃんと自分から動けなかったのか!

なんで「次に二人きりになった時に……」なんて逃げ腰だったのか!

ほんと、自分の臆病さが情けない!

でも……悩んで、臆病に逃げて……そしてまた悩んで。そういう日々があったからこそ今の自分があるのよね。だからこれもまた必要な日々だったんだろうと……そう思いでもしなきゃやってられないわよ!


++++++++++




大変遅くなりましたが更新しました。次回はまた3日後ぐらいになると思います。

お話は現在、提督の新規着任と直後の曙の着任から、現在(むっちゃん編の終わり)に至るまでの間をゆっくりと進んでいます。ですのでむっちゃんはまだしばらく登場しません(時系列的には、むっちゃんは今だ着任すらしていない時期ですので…)

ですのでもうしばらくは曙とその周辺のお話ですがご容赦ください。

それでは、よろしければまた是非お越しくださいっ。



――――― 曙着任から3ヶ月後 鎮守府廊下





曙 「さて、じゃあ遠征報告行ってくるわ」

潮 「あ、わたしも行くよ」

朧 「潮、また提督に叫んだりしちゃわない?」

漣 「ご主人様もびっくりするのが面白いよね! 」

潮 「だ、大丈夫だよ……多分…… 」

曙 「潮も大分クソ提督に慣れてきたよね」

朧 「提督のほうが、いつ叫ばれるかとビクビクしてる感じだね、最近は」

漣 「潮も頑張って苦手克服してるんだねぇ。これも毎日の近代化改装のおかげかもね☆」

潮 「漣ちゃん! もうわかってるもん! 補給だよ補給! 」

朧 「あははは」





――――― 少し後 提督執務室


曙 「以上、遠征は成功しました」

五月雨「遠征お疲れ様でしたー! 南方の遠征はいかがですか? 」

曙 「きつかった。成功したものの結構ギリギリだったわ」

比叡 「遠征も大変そうね。お疲れ様」

潮 「比叡さん、今日はどうされたんですか? 」

比叡 「今朝廊下でね、五月雨が目の前で転んで、大事な資料をわたしにぶちまけたのよ……。その流れで手伝いにね」

五月雨「あ、あはは…… 」

時雨 「五月雨のドジは相変わらずだからね」

羽黒 「あはは……でも、五月雨ちゃんのおかげでお手伝いがいっぱいいるからね」

利根 「五月雨は顔が広いからのー」

曙 「確かに、最近はいつも執務室は人でいっぱいよね。クソ提督、こんなんでちゃんと執務できてるの? 」

提督 「ああ、皆手伝ってくれて助かっている。それで遠征の件だが、曙でも南方の燃料輸送遠征は厳しそうか? 」

曙 「そうね……燃料を得るとなるともう少し奥地に行かないと駄目そうだから、もう一段階高い練度がいるでしょうね」

提督 「そうか……ありがとう。七駆は数日は休暇になる。ゆっくり休んでくれ。潮もご苦労だった」

潮 「は、はいぃぃぃ、ありがとうございます!(裏声) 」





――――― 直後 鎮守府廊下


曙 「潮も大分慣れたじゃない。急に話しかけられても叫ばなかったし」

潮 「う、うん。すごくびっくりしたけど、ギリギリセーフだったよ」

曙 「最初は、一歩近づかれるだけで泣きながら逃げ出してたのにね」

潮 「だって……提督すごく大きいし……いつも難しい顔してるし……怖かったんだもん」

曙 「今は怖くないんだ? 」

潮 「うん。実はすごく優しい人だって分かったし……。だからみんなも提督とすごく仲良くなってるみたいだし」

曙 「そうねぇ……まったく、あんなクソ提督のどこが良いんだか」

潮 「うふふ、曙ちゃんもすっかり提督と仲良しだね」

曙 「今の発言からどうしてそうなるのよ! 」





++++++++++

 この頃は、執務室にいつも何人かの艦娘が入り浸っていて、五月雨を手伝って秘書艦業務をしてたのよね。アホ提督と二人になったときに昔のことを謝りたいと思っていたあたしは、考えてみたら二人きりになる時間なんて全く無いと気がついて……イライラしていた。一歩踏み出せば二人で話せる時間なんていくらでも作れるのにね。ほんと、あたしのアホ!

 だけど……この後事態はどんどん悪くなっていく。それもまたあたしのせいでもあったんだけどね……

++++++++++





――――― 1週間後 港


朧 「ええっ! 五月雨ちゃんが旗艦なの!? 」

五月雨「はいっ! 今後当分はわたしが旗艦でこの遠征を続けますのでよろしくお願いしますっ」

潮 「え、え? じゃあ秘書艦はどうするの? 」

五月雨「秘書艦は……神通さんに交代になりました。だからわたしもこれからは遠征要員です! よろしくねっ」

曙 「よろしくねって……最初からずっと秘書艦だったのに、五月雨はそれでいいの? 」

涼風 「ああっと、みんな、ちょっと来てくんなっ」

涼風 (五月雨、さんざん泣いて落ち込んで、やっと元気になったんだ。どうか触れないでやってくれよ)

漣 (やっぱりショックだったんですね。ご主人様はどうして秘書艦交代なんてしたんだろ)

五月雨「これ涼風! 旗艦のわたしをのけものにしてナイショ話しないのっ! この遠征の旗艦を努められる練度の駆逐艦ってわたしだけだから仕方ないの」

潮 「確かに五月雨ちゃんはうちで一番練度が高い駆逐艦だけど…… 」

五月雨「それに……最近は人数がすごく増えて行ける海域も増えて……わたしは事務作業とか得意じゃないから、秘書艦仕事も限界だったのかなって。だから自分にできる仕事として、遠征頑張るよ!」

朧 「そうだね。確かに五月雨にしか出来ない役割だもんねこれは。あたし達も練度上げて、交代できるようにならなきゃ」

曙 (………… )





――――― 午後 提督執務室


五月雨「というわけで、遠征は無事成功です! 燃料と鋼材をいっぱい持って帰ってきました! 」

神通 「五月雨ちゃん、お疲れ様でした」

提督 「ひさしぶりの遠征なのに、いきなりきついのを任せてすまなかった。無事でホッとした」

五月雨「えへへ、がんばっちゃいました! さて、この後もう1回行ってきますね! 」

提督 「1日2回で計画しているが、どうか無理はしないでくれ。早急に駆逐艦の練度を上げて、交代できるようにするからな」

五月雨「このくらいへっちゃらですよ! それじゃあ行ってきまーす! 」


バタン


曙 「……クソ提督、何考えてんのよ」

提督 「……」

曙 「そりゃこの遠征を上手く回せれば資材はすごく楽になるわよ。でもそのために五月雨を秘書から外すってどういうことよ! 」

提督 「神通が秘書では不満か……? 」

神通 「…… 」

曙 「え!? 神通さんで不満とかそういう話じゃなくて…… 」

提督 「秘書艦をずっと固定している鎮守府のほうが珍しいんだ。それに最近は秘書仕事が多すぎて、五月雨に毎日残業してもらって苦労をかけていた。そういうことも含めた判断だ」

曙 「……えーえー、確かに正論なんでしょうよ。でも、あたしがしてるのはそういう話じゃないのっ。その様子じゃ五月雨にもちゃんと話して無いんでしょ? まったく、ほんとにクソ提督よ、このクソ提督!! 」


バタン





提督 「……………………はぁ 」

神通 「提督……差し出がましいとは思いますが……曙ちゃんの言うことも一理あります。五月雨ちゃん、すごく落ち込んでると思いますよ」

提督 「…… 」

神通 「五月雨ちゃんを急に秘書から外したこと、代わりにわたしを秘書に起用されたこと。突然過ぎて、わたしも含めてみな首をかしげています。少なくとも五月雨ちゃんと……わたしには、理由をご説明いただけると嬉しいです。それから、何を期待してわたしを秘書艦に起用したのかも知りたいですね」

提督 「……。俺はミスが怖い。司令部の判断ミスで、誰かが沈んだり傷ついたりすることが無いように努めたい。そういう点では五月雨は俺の秘書艦にはあまり向いていない。どちらかと言えば『ミスをしない』の対極にいるような子だからな」

神通 「そんな……。確かにドジな子ですけれど、その分がんばり屋で、大勢の仲間に支えられて、しっかり秘書艦を努めてきたじゃないですか」

提督 「ああ。だが、俺の期待に応えるために無理に無理を重ねているのは見ていて辛かった。本当ならもっと早く秘書艦を交代すべきだったんだ。だが、俺が彼女に甘えてここまで引っ張ってしまった」

神通 「…… 」

提督 「君に期待することは、俺がミスをしないよう、どこまでも厳しく監督することだ。よろしく頼む」

神通 「はい……承知しました…… 」





――――― 数日後 港


漣 「ふー、無事帰還! 今日はこれで終わりかぁ。毎日忙しくてやんなっちゃう! 」

朧 「うん、急に忙しくなったね。南方の遠征に出られる練度の駆逐艦が少ないから仕方ないけど」

潮 「はふー、ほんとに疲れたよー」

曙 「文句言わない。五月雨なんてわたしたちよりもう1回多く遠征出たんだよ、今日も」

五月雨「曙ちゃんありがとうー。でも電ちゃんも旗艦出来るようになったから楽になったよ、すっごく」

涼風 「でも五月雨もちょっと疲れてるよ。さ、すぐ帰って早く寝よう」

曙 「それがいいよ。報告はあたしの方で行っておくからさ」

五月雨「うん、ありがとう~」





――――― 少し後 提督執務室


コンコンコン

曙 「曙、入ります」

神通 「遠征報告ですね。お疲れ様です」

曙 「はい。遠征は無事大成功でした」

提督 「お疲れ様」


シーン


神通 「…… 」

曙 「…… 」


毎日あんなに賑やかだった執務室が……。もちろん、これが普通なのは分かる。でも……。


提督 「曙、後ほど皆にも通達が行くが、今後は遠征報告は執務室まで来なくても大丈夫だ」

曙 「……どういうこと? 」

提督 「港横の工廠入り口で、夕張が遠征報告を受け付ける仕組みにした。だから明日からはいちいち執務室まで上がらなくて大丈夫だ」

曙 「……ご配慮アリガトウ。心から感謝いたしますわ、このクソ提督っ! 」


バタン





――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


漣 (潮、ほら頼んだっ)

朧 (潮、お願いね)

潮 (えー、どうしてわたしばっかり……)

曙 「……何こそこそ話してんのよ」

漣 「え!? いや、ほら……ねぇ」

朧 「え、えっと、潮から話があるんだって。ほら、潮」

潮 「え、えー! 」

曙 「……何なのよ」

潮 「あの……あのね曙ちゃん。帰ってきてからずっと難しい顔してるけど、どうしたの……? 」

曙 「はぁ? 別になにもないわよ」

漣 「いやー、それは無理があるでしょ。ずっと眉間にシワがよりっぱなしだし」

朧 「何か思い出しては『チッ』とか舌打ちしてるし…… 」

曙 「……チッ」

漣 「ひぃぃ」





曙 「……悪かったわよ。ちょっとイライラしてたから」

潮 「提督のところに行ってからだよね。提督とケンカしちゃった? 」

漣 (聞きにくいことをナチュラルに聞いたっ。そこに痺れるあk(ry

曙 「……何も無いわよ」

潮 「なにもないならどうして? 」

曙 「何もなかったからイライラしてたの! 」

潮 「……ふぇ? 」

曙 「だからー! 潮も聞いたでしょ? 遠征報告で執務室に行かなくて良くなるって」

潮 「あ、うん。聞いたけど……それがどうしたの? 」

曙 「秘書艦が五月雨じゃなくなったから、執務室に人が集まらなくなったでしょ! その上、報告も誰も行かなくなるんだよ? つまり執務室は1日中、クソ提督と神通さんが無言で作業をするだけの場所になっちゃうのよ! 」

潮 「そっか……そうだね。なんだか急に寂しくなっちゃうね」

曙 「そうよ! せっかく賑やかで楽しそうだったのに! 今日行った時も、無言の寒々しい雰囲気だったわよ! 」

潮 「えっと、それは分かるんだけど……それでどうして曙ちゃんがイライラしちゃうの? 」

曙 「え!? えっと、それは…… 」

潮 「提督が寂しくなっちゃって可哀想だから? 」

曙 「/// ばっ、馬鹿言わないでよ! クソ提督が寂しかろうがあたしには全然関係ないわよ。そもそも自業自得……そう、自業自得なのに寂しそうにしてたからイライラしたのよ! 」

潮 「ふーん。なんだか難しいね」

漣 「うんうん、そうなんだよ潮くん。ぼのたんは難しい子なのだ」

曙 「漣っ! 何わかった風なこと言ってるのよっ」

漣 「きゃー、ぼのたんが怒ったー! 」


ワイワイ





++++++++++

この時あたしは、アホ提督がわざと自分を追い込むような決断をしたんだって知らなかった。

だから、色々やってみては墓穴を掘っておかしな方向に進んでいると思って、それでイライラしていたのだ。

知らないっていうのは本当に罪深い。提督の自業自得なんて言っていたけれど……自業自得なのはあたしの方じゃないか!

++++++++++




本日分は以上となります。次回は明後日金曜日には更新したいなーと思っています。

おそらく次回か次々回で回想編が終わって、むっちゃんも登場する本編に入ります。もうしばらくお付き合いください!


続きをよみたくて仕方ない



――――― 1週間後 工廠前





曙 「遠征から帰還しました。無事完了です」

夕張 「はい、確かに。七駆は今日はこれで終わりね。おつかれさまー」

潮 「ありがとうございます。南方の遠征もすっかり慣れちゃったね」

漣 「慣れてみると意外と良いよね。北方のあの寒さを思えば……」

朧 「北方と違ってカニさんがあんまりいないのが……」

曙 「カニにこだわってるのは朧だけだからっ」

夕張 「うふふ、七駆は当分南方遠征だろうし、夏は水着でも用意しておくわ。そのまま艤装付けて遠征行けるやつね」

漣 「ひゃっほー! それなら涼しく行けるYO! 」

潮 「み、水着で遠征ですか……うーん…… 」

夕張 「あっと、それはともかくとして、遠征報告のことなんだけどね」

朧 「? 」

夕張 「神通さんからの希望で、大成功だとか、何か特記事項があった時は、執務室まで報告に来てほしいって」





曙 「ふんっ。クソ提督は報告なんて来てほしく無いんじゃないの? 」

夕張 「どうかなー。執務室に行かなくてい良い仕組みってね、わたしが相談されてこういう形にしたんだけどさ」

漣 「ふむふむ」

夕張 「近海の短時間遠征に何度も行ってるチームがいるでしょ? 30分で帰ってくるみたいな」

潮 「警備任務とかですよね。最初はわたしも良く行きました~ 」

夕張 「そういう子たちが、帰ってくるたびに報告に執務室行っていて、その手間が申し訳ないからなんとかしたいって言われたのよ」

朧 「確かに、何度も連続して遠征に行ってる子たちからしたら面倒ですよね…… 」

夕張 「だけどその代償として、艦娘が提督に直接会う機会がガクンと減っちゃったでしょ? 神通さんはそれを心配してるみたいだよ」

曙 「……ふんっ。全く……。了解、大成功の時とかは報告に行くようにする」

夕張 「お願いねっ」


……分かってるわよ。クソ提督が、艦娘を邪険に扱ったりしないことぐらい。そんなことだろうと思ってたわよ。でもだからって……あー、イライラするっ!





++++++++++


こうして、1週間に1回くらい顔をあわせる程度になったわけだけど……。アホ提督はどんどん無表情に、無口になっていった。その変化にイライラして、あたしはきつく当たるばかり……。

そうこうしているうちに……


++++++++++





――――― 2ヶ月後 鳳翔さんのお店


曙 「……あ」

潮 「? 曙ちゃんどうしたの? 」

曙 「ちょっと行ってくる。潮はみんなと食べて」

潮 「行くってどこへ~~? 」


ダダッ


曙 「あの、神通さん」

神通 「あら曙ちゃん、どうしたの? 」

曙 「その……少しお話をしたくて……ご一緒しても良いですか? 」

神通 「ええ、どうぞ」





神通 「お話って、秘書艦のことでしょう? 」

川内 「なー。突然秘書艦交代って聞いて、あたしもびっくりだよ」

神通 「実は結構前からお話はあったんだけどね。一応機密だから……黙っててごめんね、姉さん」

曙 「その……理由とか聞いても良いですか? 」

神通 「そうねぇ。あんまり詳しくはお話できないけど…… 」

曙 「…… 」

神通 「わたしが秘書艦になった時、なにを期待しているかを聞いていたの。その期待に応えるように頑張ってきたんだけど……。最近ね、その期待に応えたくないって反発したの」

川内 「おいおい神通。提督と真っ向からケンカ? 凄いことするね」

神通 「ケンカしたわけじゃないわ。ただ、ご期待は存じていますが、もっと違う秘書であるべきだと思いますと意見させてもらった感じです。提督が怒ったりしないことに甘えてのことですけど」

曙 「その……それで……? 」

神通 「提督、すごく悩まれて……。わたしの言うことももっともだけど、今は自分の方針を貫きたいっておっしゃってね。その方針にあった秘書艦に交代することになったの」

川内 「我が妹ながら強いなー。提督とそこまでやりあっていたとはっ」

曙 「提督がどんなことを期待していたのか……。教えてもらえませんか? 」

神通 「それは言えません。知りたいのであれば、提督に直接聞きに行くべきですね」

曙 「…………分かりました。ありがとうございました」





++++++++++


どんどん無口に無表情になっていく様子……そして秘書艦の交代。アホ提督がどんどん暗いところに入り込んでるのは、なんとなく感じていた。でも、その原因も、対処も、全然分からなくて……。ただイライラしながら遠くから眺めているだけだった。


++++++++++





――――― 1ヶ月後 提督執務室


那智 「今日はこれで終了だな。わたしもこの後演習に参加して、上がらせてもらおう」

提督 「ああ、今日もお疲れ様」

那智 「演習の後、千歳や隼鷹と一杯やる予定なんだ。貴様もどうだ? 」

提督 「……いや、遠慮しておくよ」

那智 「そういえば呑んでいるところを見たことが無いな。もしかして下戸なのか? 」

提督 「いや、酒は好きなんだがな……。訳あって禁酒しているんだ」

那智 「なんともったいない。人生の楽しみも、嫌なことを忘れる事も、すべて酒が賄うというのに、その酒を遠ざけるとは……。わざわざ損な生き方をすることもあるまいに」

提督 「うぐ……確かに酒は素晴らしい。だがな、うちの艦隊には潔癖な子も大勢いる。司令官が酔っ払っている姿を見たら、不安になったり腹が立ったりするかもしれない。だから我慢するしか無いんだ」

那智 「なるほど……貴様は真面目だな。確かに言うこともわかるが……。それなら、誰にも見つからないように飲めば良いのではないか? 」

提督 「……それも考えたが、執務室で酒をあおったり、私室に酒瓶が転がっていたりするのは、やはり司令官としどうかと思う」

那智 「難しく考えすぎだと思うがな。見つからずに呑める場所などいくらでもあるだろう。おっと時間だな、では失礼する」

提督 「ああ、お疲れ様」


バタン


提督 「酒……か……。そうだな、呑めば少しは明るい気持ちになれるだろうか」





――――― 1ヶ月後 七駆の部屋


漣 「ビッッッックニューース!! 」

潮 「わぁ、びっくりした! 漣ちゃんどうしたの? 」

漣 「今、青葉さんの極秘新聞もらってきたんだけどさ、見て見て! 」

朧 「なになに……『司令官、深夜にお忍びでお出かけ! 外部に愛人か!? 』 って、えええ! 」

曙 (ぴくっ)

潮 「あ、あ、愛人って…… 」

漣 「ぼのたんも来て来て! 超ビックニュースだよ! 」

曙 「なによ、まったくくだらない……。なになに……『深夜にこっそりと玄関から出て行く提督が目撃される。目撃者Sさんによると、目撃したのはこれで2回めとのこと。どうやら頻繁に抜けだしているようだ。外部の人か、はたまた誰かと外で待ち合わせなのか! 青葉を中心とした調査隊が尾行予定なので乞うご期待! 』 まったく、青葉さんのデマにも困ったもんだね」

漣 「それがね、目撃者の川内さんにも聞いたんだけど、ほんとに2回見かけたらしいよ。なんかリュックサック背負ってコソコソ出て行ったって」

朧 「夜遅くに内緒で出て行くとなると……愛人とかはわからないけど、ちょっと気になるね」

曙 「ふんっ。クソ提督がどこに行こうが知ったこっちゃないわ」

潮 (とかいいつつ曙ちゃん、耳が真っ赤だね……)

漣 「青葉さんと川内さんが中心になって、本気の追跡隊を結成するって言ってたから、続報楽しみだよ! 」

曙 「ま、興味ないけど……どうせ聞いて欲しいんだろうから、結果が分かったら聞いてあげるわよ」

漣 (ぼのたん、分かりやすすぎるやろ~! )





――――― 4日後 七駆の部屋


漣 「追跡結果でたよ~~! 」

朧 「え、提督の外出の話? 」

漣 「そうそう、ご主人様が昨夜外出したの、バッチリ追跡出来たって」

潮 「そ、それで……あ、あ、あ、愛人さんは…… 」

曙 「まったく騒がしいわね。それで、どうしたって? 」

漣 (ぼのたん、声がちょっと震えてる……萌え(゚∀゚)

朧 「もったいぶらないで教えてよー」

漣 「えっと、結果はちょっとガッカリというか、やっぱりと言うかだったみたい」

潮 「がっかり? 」

漣 「うん。ご主人様ね、鎮守府の横の森に入っていって……小さなテント立てて焚き火してたって」

曙 「……は? 」

潮 「え? テント? 焚き火? 」

朧 「それって……深夜にわざわざ1人でキャンプしに行ってたってこと? 」

漣 「うん、そういうこと。それで早朝に片付けしてこっそり戻ってきて、普通に仕事してたって」

曙 「な……な……なによそれっ。全くもう人騒がせな……人の気も知らないで! あのクソ提督っ! 」

漣 「あれぇ~。人の気も知らないでって、ぼのたん、どんな心配してたの~ニヨニヨ 」

曙 「/// う、うっさい! 」





潮 「でも……なんだか不思議だね。何か理由があるのかな? 」

朧 「うーん。多分趣味なんじゃないかな」

漣 「深夜に1人でテントを張る趣味……でゅふふ」

曙 「なによその気持ち悪い笑い。あーあ、まったく何を考えてるんだか、ほんとクソ提督」

漣 「そうそう、後でちゃんと通達が来ると思うけど、みんな邪魔をしないようにしようって」

潮 「そうだね、静かにお星様とか見たいのかも……。邪魔しちゃ駄目だよね」

曙 「お星様って顔じゃないでしょ、クソ提督は」

潮 「顔で見るわけじゃないよね…… 」

朧 「あたしは邪魔しないのに大賛成。あたしのカニさん趣味もそうだけど、周りに理解されない趣味ってあるからね」

曙 「確かに、実は艤装の中にカニさんをいっぱい飼ってるの、人によってはドン引きしそうだよね」

潮 「カニさんもうさ吉もうらやましいな……」

漣 「うさ吉、カニさんと同列かぁ……」

曙 「ま、あたしも邪魔しないのは賛成。内容はともかく、あの仕事仕事のクソ提督が趣味らしきものを楽しんでるなら良いことじゃない」

潮 (曙ちゃん、結局、提督のこと心配してるんだね……)





――――― 数日後 深夜 七駆の部屋


朧 「じゃあ電気消すよ。おやすみー」

漣 「今日は夜更かし出来たから満足じゃ」

潮 「明日は出撃無いから、ついついおしゃべりしちゃったね」

曙 「まったく、毎日一緒にいるのに、なんでこんなにしゃべることがあるのよ…… 」

潮 「えー。だって毎日いろんなことがあるもん」

漣 「そーそー、毎日いろんな事件があるからね! 」

朧 「こらこら、またおしゃべり始まっちゃうよ。じゃ、おやすみー」


パチン





曙 (…………)


シーン


曙 (そーっと、そーっと)


パタン


潮 「……みんな起きてる? 」

漣 「うん、曙、今日も出かけたね」

朧 「トイレかと思ったけど、こうも毎晩だと違うかな? 」

潮 「でもすぐ帰ってくるから、やっぱりおトイレかなー? 」

漣 「でも、これで3日連続だよ。さすがにちょっと気になるなー。ちょっと見てくるね」

潮 「あ、わたしも行くー」

朧 「それならわたしも行くけど、くれぐれも曙に見つからないようにしようね。見られたくないことかもしれないし……」

漣 「み、見られたくないこと(゚∀゚) 」

潮 「? 」





――――― 鎮守府廊下


曙 「はぁ……あたし何やってんだろ」


あの話を聞いて以来、どうしても気になって……。でも邪魔しちゃだめだから3階の窓から探してる。でも、毎日出かけているわけじゃないだろうし、そもそも森のなかじゃ窓からなんて見えないわよね。ほんと、何やってるんだろ……。


曙 「あっ…… 」


でも今日は変化があった。森のなかに小さな明かりが見える。ゆらゆらと揺らめく明かり……おそらくは焚き火の明かり……あそこにいるんだ……。


曙 「まったく、こんな深夜に何やってるのよ! 」


暗い森のなか、1人焚き火の前で座っているクソ提督が目に浮かぶ。おそらくは堅い暗い顔で、じっと火を見つめている姿。

その姿は……どこまでもどこまでも孤独だった。


曙 「なんで………… 」


同じ状況に置かれた自分を想像してみる。そもそも想像するのが難しかった。転生してからずっと潮と一緒で……すぐ七駆みんな揃って、部屋も出撃もいつでも一緒。あたしは孤独とは無縁だった。だから、1人暗い森のなかにいる自分を想像すると……寂しさと不安でいっぱいになる。





曙 「ほんとに何でなのよ…… 」


日々孤独な方に自分を追いやって……余暇のささやかな楽しみでも孤独に沈む……。あんた最初はそんなんじゃ無かったじゃない……ほんとに一体どうしちゃったのよ!


曙 「ぐす……ほんと馬鹿みたいに……あれ……? 」


あいつは大人だ。男の人だ。だからきっと自分とは違うんだろう。それはわかってる。だけど……だけど……あんまりにも……寂しいじゃない……。あたしだって、落ち込んだ時やイライラした時に、七駆のみんながいてくれなかったら……。


曙 「ちょっと……どうして止まらないの……ぐす……うぐ……う……うう……。あたし、泣きたくなんか……ひっく…… 」


あいつはきっと泣いたりしない。ただ無表情にしてるだけ……。そうやって泣けないことすらもとても悲しいことに思えて……もう泣き止むのは無理だった。


曙 「ぐす……ひぐっ……ずずっ……ばか……ぐす……クソ提督……ひぐっ……なんであんたなんかのことで……ぐすっ……泣いたりなんか……ひっく…… 」


もう頭のなかがぐちゃぐちゃで……何も考えられなかった。焚き火の前で静かに座るクソ提督の幻だけが消えず……涙もしばらく止まらなかった……。



潮 (…… )

漣 (…… )

朧 (……帰ろ。気軽に見に来ちゃ駄目だったよ)

潮 (うん…… )





++++++++++

あの時、どうしてあんなに泣いたんだろう。

アホ提督が孤独で寂しいこと。周りにはあいつを慕う大勢の艦娘も……あたしもいるのに……それなのにどこまでも孤独なこと。間にある絶望的な距離。そういう諸々が頭を巡っていたのは覚えてる。

本当はあたしとアホ提督に距離なんて無かった。ただお互い背中を向け合っていただけだった。どうして……ちゃんと向き合えなかったんだろう。

++++++++++




本日分は以上となります。次回は少し間が空いて恐縮ですが、11日(月)更新予定です。
回想部分は次回で終わり予定です。

それではまた次回。よろしければまた是非お越しくださいっ。


これは陸奥スレのはずだと忘れてしまうな
後半に期待



――――― 1ヶ月後 北方海域





那智 「ああ、やはりわたしは戦場の方が性に合うな」

足柄 「2ヶ月もろくに出撃出来なくて、良く我慢出来たわね。わたしなら絶対無理ね」

潮 「那智さんとの出撃、ひさしぶりですね」

霞 「でも、秘書艦をやめてしまって良かったの? 」

那智 「ま、これからは長門さんがしっかりやってくれるだろうから安心だよ」

曙 「長門さんは元々連合艦隊旗艦だし、上手くやってくれると思うけど…… 」


那智さんが秘書艦を降りると聞いて、もしかしたらクソ提督を明るくしてくれるような秘書艦になるかもしれないと少しだけ期待してた。そう、五月雨みたいな秘書艦なら……。でもやっぱり、あのクソ提督がそんな秘書艦を選ぶわけもなく……。本人の希望もあって長門さんに決定したそうだ。





足柄 「でも、長門さんも着任したてで練度も低いし、そもそもあの人も戦場が好きな人でしょ? 秘書艦になって大丈夫なのかしら? 」

那智 「長門さんもそれは考えていたみたいでな。自分も戦場に出られるように、陸奥さんに補佐を頼むそうだ。実質的には、二人で交互に秘書艦をやることになるのではないか? 」

霞 「そうね……一人で秘書艦をやりきろうとすると大変だし……良い判断だわ」

那智 「提督は渋い顔をしていたがな。長門さんに押し切られていたよ」

潮 「長門さん強そうですもんね~」

曙 「そう……陸奥さんも…… 」


陸奥さんとは何度か会ったけど、明るくて優しいお姉さんだった。そっか、陸奥さんが秘書艦をやってくれるなら、クソ提督も少しは元気になる……かも





++++++++++


アホ提督との大きな距離を感じて、何も出来ない無力感でいっぱいだったこの頃のあたしは、自分で何かしようなどと全然思わず、新秘書艦の陸奥さんに勝手な期待をしていた。

とはいえ、もちろん劇的に何かが変わるわけでもなく……。ただ、陸奥さんが秘書艦のときに執務室に行くと……少しだけ以前のような明るい雰囲気があって……それが喜びだった。

そういう停滞した日々が続いて……もうそれが当たり前になってきている頃にまた変化が訪れた。


++++++++++





――――― 数ヶ月後 鳳翔さんのお店





曙 「あ、霞。ちょっといい? 」

霞 「……いいわよ。ごめん不知火、少し曙と話してから行くわ」

不知火「わかった」

曙 「悪いわね」


霞 「話なんて珍しいわね。どうしたの? ま、あんたが話しかけてくるときは、大体あいつの件だけどね」

曙 「……ま、そうよ。ちょっと情報交換したくてね」

霞 「ふーん……。いいわ、まず話を聞きましょうか」

曙 「あんた、五月雨がひさしぶりに秘書艦業務に復帰してるって知ってる? 」

霞 「ちらっと噂で聞いてたけど、ほんとだったんだ? 」

曙 「ええ。陸奥さんの提案で、長門さんや陸奥さんの補佐をしてるらしいわ。もう何度も行ってるとか」

霞 「あいつ、どういう風の吹き回しかしら」

曙 「あたしも気になるのよ。それで、あんたの方も何か知らないかと思って。最近、朝潮型が随分バタバタしてるから」





霞 「……幾つかあるわよ、あいつの話」

曙 「そうなの? 」

霞 「ええ。まず最近、荒潮が何度か執務室に呼ばれてるわ」

曙 「! どうして……? 」

霞 「理由は内緒だって教えてもらえなかった。でも直後に、朝潮が何度か長門さんに呼ばれて……何故かぬいぐるみを買ってきたりしてる」

曙 「……訳がわからないわ」

霞 「それだけじゃなくて……これはついこの間のことなんだけど……わたし、あいつと街の近くで会ったわよ」

曙 「街って……ええ!! 司令官は鎮守府外への外出は禁止でしょ!? 」

霞 「そうなのよ。それが長門さんと二人でコソコソと隠れながら歩いてて。慌てて問い詰めたら、陸奥さんの悩みがどうこうってごちゃごちゃ言うから、一喝して帰らせたわ」

曙 「あいつ……一体何してんのよっ」

霞 「わからないけど……でも、今までよりは良いと思うわよ。ムカつくけどね。じゃあ時間だから行くわ」

曙 「確かにムカつくわね。ありがと」





――――― 夜 七駆の部屋


曙 「……という話なのよ」

潮 「鎮守府の外に出てるなんて、提督すごくアクティブになったんだね」

朧 「潮、それ全然違うと思うよ」

漣 「朝潮のぬいぐるみの件は聞いたよ。この間は、不公平にならないように大潮と満潮もお揃いのぬいぐるみを買ったとかなんとか」

朧 「それに提督が関わっているってこと? 」

漣 「噂では、長門さんと陸奥さんに買ってもらったらしいけど……荒潮が執務室に呼ばれてたってことは、ご主人様も一枚噛んでるんじゃない? 」

潮 「ぬいぐるみいいなぁ。わたしたちも買ってもらえるのかな? 」

曙 「ふむ……誰か他に何か聞いてない? 」

潮 「えっと、関係あるかわからないけど……。この間、五月雨ちゃんと長門さんが一緒にご飯食べてるの見たよー。楽しそうだった」

朧 「長門さん、最初はすごく怖かったけど、最近は仲良くしてる子が増えてきてるね」

漣 「漣の情報網によると、長門さんは実はぬいぐるみとか大好きで、この間もすごく大きなくじらのぬいぐるみを買って帰ってきたとか」

潮 「かっこいいのにかわいいね」

朧 「話が逸れたけど、提督の生活がちょっと変化してるねって話だよね? 曙は情報を集めてどうするの? 」

曙 「……知らないわよ。ちょっと気になっただけ」

潮 「………… 」


クソ提督に何か変化があったのは確かみたいね。でも急にどうして……? この間会った時にも特に違いは感じなかったのに……。

ていうか、他の子たちとの関係を良くしていってるのに、あたしには変化なしって……どういうことよ。あームカつく!





潮 「曙ちゃん。ちょっと二人でお話したいんだけど! 」

曙 「な、何よ突然大きな声で……別に良いけど」

潮 「じゃあ、ゆっくり話せそうなところに行きましょ! 」

曙 「ちょっと、ここじゃ駄目なの? どこ行くのよ、もう」

朧 「いってらっしゃーい」

漣 「先に寝てるからね」

曙 「そんなに遅くなんないわよ! 」

潮 「ほら、曙ちゃん、行くよ! 」

曙 「わかったって……もう、何なのよ」

朧・漣(潮がんばれ! )





――――― 少し後 3階廊下


曙 「ちょっと、どこまで行くのよ」

潮 「ここ」


シーン


曙 「ここって…… 」

潮 「そう、曙ちゃんがしょっちゅう、キャンプしてる提督を見つめてる場所だよ」

曙 「!! あ、あんた着いてきてたのっ」

潮 「だって、あんなにしょっちゅう夜に抜け出してたら、どうしても気になっちゃうよ。わたしだけじゃなくて、朧ちゃんと漣ちゃんも一緒にだよ」


み、見られてた……お、落ち着くのよあたし。大泣きした時に見ていたとは限らない……落ち着いて……。


曙 「……それで、話って何よ」

潮 「話をする前に。今だけは、嘘をついたりごまかしたりしないって約束して。本当に大事なお話だから! 」

曙 「…… 」


何の話かは想像できる。だからさっさと切り上げて逃げてしまいたい。でもこういう時の潮は絶対に引き下がらない。ぼやっとして弱っちく見えるくせに、実は一番がんこで強い。そして、こういう時の潮は……自分のためじゃなく誰かのために……今はあたしのために……必死になっている時。





曙 「はぁ……まったくあんたは……わかったわよ、約束する」

潮 「良かった……。じゃあ聞くね。曙ちゃんは、提督がどんどん元気をなくしちゃって、すっかり寂しそうにしてるのが心配で気になるんだよね? 」

曙 「……心配かはともかく、気になってるのは正解。あんただってそうでしょ? あいつ、昔はあんなじゃなかったし」

潮 「うん気になるよ。でもわたしは、別の人の元気がどんどん無くなってしょんぼりしてるのが、もっと気になるよ」

曙 「なあに、クソ提督以外にもそんな人がいるんだ? 」

潮 「曙ちゃんのことだよ! 」

曙 「なっ! 何言ってるのよ、あたしは違うでしょっ」

潮 「違わないよ! 溜息ついたりイライラしたり上の空だったり夜にこっそりでかけたり……ずっとずっとそうでしょ」

曙 「…… 」


悔しいけど……否定できなかった。


曙 「あ……あははは。そっか、あたしも同じように見えてたわけだ」

潮 「提督みたいに全然会えなくなっちゃった訳じゃないけど……元気がなくてすごく心配だよ。元気がない理由は提督が心配だから。あってるよね……? 」

曙 「……さっき言ったとおり、心配かどうかはともかく気になってるわ。クソ提督のあの様子でイライラしたりしてるのもあってる」





潮 「やっぱりそうだよね……それじゃあ、どうして……どうして見てるだけなのっ」

曙 「!! な、なんですって! 」

潮 「だって曙ちゃんは、いつだって思い立ったら遠慮なく即行動するのに……提督をなんとかするために何かしないの変だよ! 」


カッと頭に血がのぼる


曙 「あ、あんたに何が分かるっていうのよ! 」

潮 「分かるもん! 曙ちゃんは提督のことが心配でしょうが無いのに何も出来なくて……それでイライラしてるんだって、落ち込んでるんだって」


ますます頭に血が上る。それはきっと図星を突かれたから。


曙 「ちっ……ほんとに何も分かってないくせに! あいつに何をしたって…… 」

潮 「うん、わたしは提督のことは何も分かってないけど……曙ちゃんのことなら分かるもん。曙ちゃんは遠くから見つめてため息ついてたって絶対元気になれない。何かしないと! 」

曙 「……話はそれだけね? もう十分よ。帰る」


これまで自分の中で問いかけてはそうしてきたように……今度は潮から逃げようとする……だけど……





潮 「まって、行っちゃ駄目だよ……! あ、曙ちゃんのばかぁぁっぁあ!! 」

曙 「えっ……しまっ……油断したっ」


説明しよう。潮は普段は乳牛みたいだけど、たまに暴走して闘牛みたいになるのだ!
一瞬で間合いを詰められ、無我夢中の頭突きをみぞおちに受けて吹っ飛ぶ……。


曙 「げふっ……」


呼吸が止まる……ふっとばされて完全に浮揚する……ああ、潮にふっとばされるのもひさしぶりね……


ドダン ズザザーー


落下の衝撃でまた呼吸が止まる……艦娘だからこの程度でかすり傷ひとつつかないけど……痛い……


潮 「あ、あああ! 曙ちゃん、ごめんね、ごめんね、大丈夫!? ぐすっ、ひっく」


そして自分でふっ飛ばしておいて心配してオロオロ泣くのよね。まったくこの子は……


曙 「あ、あんたね……ごほごほ……なに加害者が泣いてんのよ」

潮 「ご、ごめんね、無我夢中で……ごめんね」





曙 「無我夢中ね…… 」

潮 「うん、ごめんね、ごめんね。でも、絶対に今日は分かってもらうんだって思ってたから、お話終わらせたくなくて……そしたら…… 」

曙 「それで、とりあえず突進して頭突きって……あんた、ほんと闘牛ね。乳牛卒業したほうがいいわ」

潮 「そ、そもそも牛じゃないもん! 曙ちゃんひどいよ~ 」

曙 「あはは……そうね、無我夢中か」


何をすれば良いか一生懸命考えたつもり。でも分からなくて立ち止まる……失敗して落ち込んだり嫌われたりするのが怖くて立ち止まり続けている。でもそんなあたしより、頭突きしてでもなんとかしようとする潮のほうがずっとかっこいい。
少なくとも……あたしのために、不器用なりに全力を尽くしてくれているのは伝わった。うん、それでいいのかもね。


曙 「…… 」

潮 「曙……ちゃん? 」

曙 「潮、ありがと。今の頭突きで目が覚めたわ。乳牛だと乳ばっかりで役に立たないから、やっぱ闘牛でいたほうがいいわ」

潮 「も、もう! でも、目が覚めたって……? 」

曙 「あんたの言うとおり、あたしらしく無かった。どうすればいいかわかんなくて、それで立ち止まってた。結果なんて気にせず、思いついたことをどんどんやるのがあたしだよね」

潮 「曙……ちゃん……。う、うん、そうだよ! とりあえず突っ走るのが曙ちゃんの十八番だもん! 」

曙 「……そういう評価もなんかむかつくわね。ま、いいわ。さ、明日から気合入れるわ」

潮 「うん! わたしにできることがあったら何でも言ってね! 」

曙 「うーん、じゃあとりあえず、クソ提督に今の頭突きをかまして目を覚まさしてやって」

潮 「そんなことできるわけないよ!>< 」





++++++++++

ほんと、潮の言うとおりだった。あたしらしくもない、立ち止まってうじうじじて遠くから見つめて、勝手に泣いて……。あたしを良く知ってる七駆のみんなからしたら、ほんとに奇異に……よっぽど元気が無いように見えてたよね。

でも……この時はしょうがなかったのだ。どうしてそうだったのか、気がついたのはずっとずっと後のこと。

++++++++++




更新予定日に1時間半遅れてしまいました。申し訳ないです。やっぱ書き溜めがないと煮詰まったときにきつい!
そしてもう一つ。回想編終わらず……。あと1回。ほんとに次回で終わりますから許してっ。
そして次回更新は2~3日以内には。なるべく早く書き上げられるよう頑張ります。

>>87
すごく励みになります。がんばります。

>>107
ごめんなさい、むっちゃんはもう少しで……今回はついに名前だけ出てきました!


三部作の幻の二部はやっぱり書かないの?



――――― 翌日 第七駆逐隊の部屋




曙 「とは言え具体的に何をしようかしら」

潮 「難しいよね。提督がなんで元気がなくなっちゃったのか、全然わかんないもん」

漣 「なになに何の話? 潮の口からご主人様が元気とか聞こえると、色々捗るんだけど」

朧 「提督が元気がない件がどうしたの? 」

潮 「曙ちゃんが、提督が元気出せるように頑張って何かするって」

曙 「ちょっと、そこまでは言ってないわよ」

漣 「おー! じゃあ潮、ぼのたんとちゃんとお話しできたんだ? 」

朧 「大成功だったみたいだね! 」

潮 「うん! 」

曙 「くっ…… 」

漣 「まぁまぁ。からかったりしないからさ。曙が元気ないと、漣たちだってやっぱり心配だよ」

朧 「でもこれで大丈夫だね。あとは行動あるのみ! 」





潮 「それで、具体的に何をしたら良いかなって悩んでたの」

曙 「あたしとしては、七駆が誇る闘牛『潮』を執務室に放り込んで、元気が出るまでクソ提督に頭突きしてもらうのが良いかなと思ってるんだけど」

漣 「……? 潮は乳牛だよね? 」

朧 「うん、乳牛」

曙 「それが、たまに闘牛になって追い回して頭突きとかするんだわ」

潮 「もう、みんなっ! 絶対そんなことしないから>< 素直に元気出してって言えばいいよ! 」

朧 「うーん、あたしはあんまり賛成できないなぁ」

漣 「そうだよねー」

潮 「どうして? 」

曙 「どうして元気が無いか分からないのに元気出せっていうのは、無責任な感じがするわ」

朧 「無責任っていうのは言いすぎかもだけど……。直接話すなら、まずは元気が無い理由を聞いて、一緒に解決策を考えるとかのほうが良いよね」

潮 「そっかぁ。みんな大人だあ」

漣 「でも、ご主人様に元気がない理由を聞いたところで、謝られるだけで絶対に理由とか言わなさそうだよね」

曙 「間違いなくそうね。ほんっとクソ提督」





朧 「多分だけど、これまでもいろんな人が提督を元気づけようと色々やってると思うんだ。それでもこんな感じだから、きっと誰も上手く聞き出せて無いんだろうね」

漣 「うーん……そうは言っても、最近ちょっと変わってきてると思わない? 」

潮 「思う思う! 五月雨ちゃんがひさしぶりに秘書艦やったりしてたもん」

曙 「……艦娘とのコミュニケーションを徹底的に避けてたけど、なにか理由があって、少しずつまた接点を持ち始めてる感じなのよね」

潮 「理由かぁ。なんだろう? 」

朧 「理由はともかく、少しでも接点持てるなら嬉しいよね。あたしもまた提督に会いたいな」

漣 「漣もまたご主人様と遊びたーい」

曙 「あたしたちにはなんの接触も変化もないわね。五月雨や朝潮型にはあるのに……」

潮 「曙ちゃん、顔怖いっ」

漣 「嫉妬のオーラがにじみ出てるよ、ぼのたん」

曙 「し、嫉妬とかじゃないわよっ/// 」

朧 「朝潮型の話って、頑張ったご褒美にぬいぐるみを買ってもらったっていうやつでしょ? 六駆が、次はわたしたちがもらうぞーって盛り上がってたの聞いた」

潮 「ぬいぐるみいいなぁ。わたしたちも頑張ったら買ってもらえるかな? 」

漣 「ふむ……何か戦果を上げればご主人様との接点が持てる可能性が高いと……そういうことかな? 」

朧 「それなら、確か近々、小規模な作戦があるっていう話だから、そこで頑張ってみようか? 」

潮 「素敵だね! なんとか曙ちゃんに大戦果を上げてもらって、ご褒美に提督と仲良くとか…… 」

曙 「な、なによそれっ! 」

漣 「潮かしこいっ。それで行こう! 」





――――― 数日後 第七駆逐隊の部屋


漣 「えー、作戦はサンマ漁だったわけですが……なにそれって感じだね」

朧 「カニ漁なら出番だったのになー」

潮 「曙ちゃん、サンマ釣りってやったことある? 」

曙 「……あるわけ無いでしょ。まったく、大本営は何を考えてるんだか…… 」

漣 「ライバルとなる六駆はめっちゃ気合入れてたよ。うちもなんとかしないとね」

朧 「釣りで必要なのは知識と道具……。曙、図書室で釣りの本を借りて読んでおいてよ。あたしたちで道具を揃えるから」

曙 「いいけど……あたし釣りなんてしたことないわよ」

朧 「変な作戦なのは確かだけど、きちんとやんないと提督が叱られちゃうでしょ。だからがんばろう」

漣 「そうそう。理不尽な命令でも従うしかないのが軍だもんね」

曙 「……そうね。イヤになるわ、ほんと」

潮 「わたしも一生懸命用意するからね! 」





――――― 数日後


漣 「おお、ぼのたん釣り人バージョン、意外と様になってる! 」

曙 「あたし、すごい恥ずかしいんだけど……」

潮 「曙ちゃん、かっこいいよ! 」

朧 「全体としては、サンマは兵装を使って捕まえる形で準備してるみたいだけど……。釣りの準備で大丈夫だったかな? 」

曙 「ま、せっかく用意してくれたんだし、これで頑張ってみるわ」

漣 「おお! ぼのたんがやる気だっ」

曙 「ぼのたん言うなっ。ま、あれよ、うだうだしてるよりは、こうやって立ち向かうほうが性に合ってるわ、やっぱり」

潮 「うん、そうだよ! 」

朧 「曙らしいね。がんばっておいでね! 」

曙 「うん、ありがと! 」





――――― 後日 北方海域


大淀 「ソナーに感あり。サンマ魚群と思われます」

神通 「探照灯照射! 」

雷 「爆雷投下! あったれー! 」


ドーンドーン


ぷかぁ


電 「やったのです! サンマげっとなのです! 」

大淀 「やはりこのやり方が一番のようですね」

雷 「この調子で、もっともっと集めてもいいのよ! 」

曙 「………… 」

神通 「曙ちゃん、釣りの方はどうですか? 」

曙 「駄目ね。爆雷の音でみんな逃げちゃうから。釣りでやるなら別行動の方が良さそうだわ」

神通 「そうですか……。沢山集めないといけないようですので、曙ちゃんもがんばって! 」

曙 「釣りなら弾薬も使わないし、頑張ってみます」





――――― 翌日 鎮守府近海


潮 「……意外と釣れないんだね」

漣 「竿が一本しか無いからねー。みんなでやればまた違うのかもだけど」

朧 「弾薬も燃料も使わないし、のんびりやればいいよ」

曙 「だぁーイライラする! もっとちゃちゃっと食いつきなさいよね、サンマ! 」

潮 「曙ちゃん、落ち着いて……どうどう」

曙 「……あんた、闘牛って言われたののお返し? 」

潮 「? 」

朧 「あ、引いてるよ! 」

曙 「え! わっとっと…… 」

ワイワイ





――――― 後日 第七駆逐隊の部屋


曙 「30匹で無事作戦完了と……。で、あたしが釣り上げたのは2匹…… 」

潮 「が、がんばったよね! 」

朧 「総数としては少ないけど、ちゃんと作戦に貢献できた……よね? 」

漣 「六駆が爆雷方式で大戦果だったから、ちょっと負けちゃったけどねー」

曙 「ま、しょうが無いわよ。やることはやったし、釣りもなかなか面白いって分かったし、良かったわ。あたしだけ浮いてたけど」

漣 「ぼのたんだけ、釣り人フル装備だったもんね……」

曙 「服はあんたが用意したんでしょうか! でもいいわ。仕掛けとかちょっとしたものをしまうのに、ポケットが多い釣り服は確かに便利だったし」

潮 「曙ちゃん、すっかり釣り人だね」

朧 「こんどカニ釣り一緒に行こうよ」

曙 「ま、気が向いたらね」

漣 「そういえば、今回は作戦の打ち上げをやるらしいよ。鳳翔さんのお店を借りきって本格的に打ち上げパーティーだって」

潮 「すごいよねー。食べ放題らしいよ。楽しみ~」





――――― 打ち上げの日 鳳翔さんのお店


長門 「それでは、皆楽しんでくれ」


ワイワイ ガヤガヤ


潮 「おいしーおいしー」

漣 「長門さんがギャグを交えた挨拶をするとは……雪でも降るんじゃない? 」

曙 「長門さんも最近いろんな駆逐艦と仲良く話してるし、多分馴染んできてるんじゃないの? 」

朧 「前は怖くて近寄りがたい感じだったから、こっちのほうが良いかもね」

潮 「曙ちゃん、このお料理美味しいよ」

曙 「……この食欲が潮パイの秘密なのかもね。はいはい、いただくから」


作戦後の打ち上げなんてはじめてだった。いつの間にか大所帯になった我が鎮守府。100人以上の艦娘が集まって、皆楽しそうに飲んだり食べたり。

でも……あいつはいない。この鎮守府で一人だけここにいない。あームカつく!





長門 「皆、歓談中に悪いが注目してくれ」

朧 「あれ、もう終わりなのかな」

潮 「そんなぁ。まだ食べ始めたばっかりなのに」

漣 「まさかぁ。また誰か挨拶……って! 」

曙 「うそ…… 」


赤くなりながらマイクを渡されてる……執務室の外で見るのはどの位ぶりだろう……やっとあの部屋から出てきたんだ……クソ提督……。


提督 「皆、任務ご苦労だった。なぜサンマ漁なんて任務が来るんだと疑問に思った者も多いと思う。……正直俺にもわからん」


しどろもどろで……そりゃそうよ、人前で話すなんてどの位ぶりよ。赤くなってうつむいて……司令官でしょっ、もっと堂々と話しなさいよね! ほんと、クソ提督……クソ提督……クソ提督…………。

頭がぐちゃぐちゃで、クソ提督が何を言ってるかすらわからないぐらいで……たどたどしく真っ赤になりながら話すクソ提督から目が離せず……そんなテンパってる時に突然あたしの名前が出た。


提督 「あ、曙なんて、気合入れた釣り装備までして、一生懸命勉強してくれてたみたいだしな」


!!!

テンパってたあたしは、とっさに言い返す……これがあたしの悪い癖なのよね……


曙 「/// なっ……! ど、どうせ空回りだったわよ! 何よ嫌味なの、このクソ提督! 」

提督 「い、いや……成果はともかく、こんなおかしな任務でも全力を尽くしてくれたことが本当に嬉しいんだ。その……ありがとう」

曙 「べ、別にっ! 任務だしっ! 」

提督 「そ、そうか……」


……ていうか、どうしてわたしの動向なんて知ってんのよ! ちゃんと……見てるの?





潮 「提督……すぐ部屋に帰っちゃったね」

朧 「そうだね。でも、みんなの前で挨拶なんてはじめてじゃない? すごい心境の変化があったのかな? 」

曙 「はじめてじゃないわ。鎮守府が出来立ての頃は、みんなの前で作戦説明とかやってたんだから」

漣 「そうだったんだ。不器用ながらも前向きになっていいじゃんいいじゃん! 」


陸奥 「いたいた! ねぇねぇ、七駆の子たちも、良かったら提督の部屋に突撃しない? 」

潮 「突撃……ですか? 」

陸奥 「そうよー。提督、せっかくの打ち上げなのにすぐ帰っちゃったでしょ? ひさしぶりに会ったっていう子も多いのにね。それでね、もっと提督と話したい子でお部屋に突入しちゃおうって」

漣 「はいはーい、行きます行きます! ぼのたんが行きますっ」

曙 「言ってないでしょ、そんなこと! 」

朧 「あたしも行きたいな。みんなで行こうよ」

潮 「潮もいきまーす」

陸奥 「七駆は全員参加ねー。なんだか凄い人数になりそうだけど、ま、良いわよね♪ 」





――――― 少し後 提督執務室


ガヤガヤガヤ ワイワイワイ


朧 「なんか、満員電車みたいになってるね……」

漣 「これはご主人様と話すどころじゃないわぁ」

潮 「でも、執務室が賑やかなの、なんだかすごく懐かしいね、曙ちゃん」

曙 「そう……ね…… 」


元気な駆逐艦に取り囲まれて、汗をかきながら対応するクソ提督。ほんと懐かしい……。

きっと陸奥さんや五月雨ががんばってこういう風になってるんだって分かる。あたしは何の役にもたってなくて、それは悔しいけど……。でも、それでもクソ提督がみんなの前に戻ってきた……それで……どうしようもなく心がいっぱいになる。


曙 「ちょっと行ってくるわ」


なんとか人混みをかき分けてクソ提督に近づく。せめて一言だけ……





曙 「ちょっとクソ提督! 」

提督 「曙も来てたのか。さっきはすまなかったな」


挨拶の時のことを言ってるのよね。ほんっと、的外れのクソ提督っ


曙 「それは良いんだけど。駆逐艦に囲まれて、すっかりご満悦じゃない」

夕立 「ご満悦って何っぽい? 」

島風 「難しい言葉つかってるー」

提督 「いや、ご満悦ではないが…… 」


夕立や島風にベタベタされて、赤くなって硬くなってるクソ提督。ふふ、ほんと、ご満悦どころか勘弁して下さいって感じよね。まったく……


曙 「ふふふ……せっかくの打ち上げなのに、挨拶だけで逃げ出した結果なんだから自業自得よ。せいぜいみんなのおもちゃになることね、このクソ提督♪ 」

夕立 「おもちゃにしていいっぽい? 」

提督 「おもちゃ……いや、ほんと勘弁してくれ…… 」

ワイワイ



潮 「見て見て、曙ちゃんが提督とお話して笑ってる」

漣 「おー! 笑顔でご主人様と話すぼのたんなんて、スーパーレアですなっ」

朧 「うん、良かったね! 」





++++++++++

立ち止まって落ち込んでいた自分。立ち止まって暗く沈んでいたアホ提督。
それが少しずつ動き始めた……そんな頃。

この日あたしは……アホ提督が遠くから帰ってきてくれたような……そんな気持ちで無邪気にはしゃいでいた。今思えばこれもまた幼いことだけど……。

でも……本当に、本当に嬉しかったのだ。今にも泣き出してしまいそうなぐらい。

++++++++++




本日分は以上となります。

これで回想編は終了です。次回から陸奥さんと曙のダブル主人公で時間が進むことになります。
ただ、ちとリアルが忙しいので次回が少し間が空くかもです。ご容赦ください。

>>129
はい、全二部構成でお話を作りなおしちゃってますので、追加は無しです。終了時点で二部を飛ばした影響で説明不足な点などあれば補足するかもでが。



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 Side 陸奥

**********





――――― 数日後 提督執務室


陸奥 「あら、もう3時ね。おやつにしましょ、提督」

提督 「もうそんな時間か。わかった、一休みしよう」


最近は、休憩するときにゴネないから楽ね~。以前は「いや、休憩はやめておこう」なんて難しい顔で抵抗したりしてたけど……。ま、いつでも力ずくで休憩させちゃうんだけどね♪


陸奥 「はい、お茶」

提督 「ありがとう」


開けた窓から、そよそよと良い風が入ってくる。常夏の島だから秋っぽさは全く無いんだけどね。


コンコンコン


隼鷹 「提督、今ちょっといいかい? 」

飛鷹 「お仕事の話じゃないから、今じゃなくても良いんだけど」

陸奥 「あら二人とも珍しいわね。今ちょうど休憩中なのよ。だからいいわよね、提督? 」

提督 「ああ、入ってくれ」

飛鷹 「おじゃまします」

陸奥 「ちょうどおやつ中だったよの。はい、お茶と、おまんじゅうも食べてね」

隼鷹 「甘いものかぁ。酒はないのかい? 」

陸奥 「三時のおやつにお酒飲むわけ無いでしょ~」

飛鷹 「そもそも執務室でお酒を飲む司令官がいるわけ無いでしょ、ばかっ」

陸奥 (ぎくっ)





提督 「それで、どうしたんだ? 」

飛鷹 「あ、えっと、別に大した用事じゃないんだけどね」

隼鷹 「ほらー、そんなごちゃごちゃ言ってないでさ」

飛鷹 「心の準備とかあるのよ、もうっ」

提督 「? 」

飛鷹 「その……ね。この間、本当にひさしぶりにみんなの前に出てきてくれたでしょ。それで、その……元気なのかなとか気になって」

陸奥 「うふふ……ほらね、やっぱり大事件だったのよ、提督? 」

提督 「ぐぬ……。心配をかけていたならすまなかった。具体的にできることが無くても、皆の前に顔を出して話すことが大事だと陸奥に説得されてな」

隼鷹 「おお、陸奥さんが引っ張りだしたのか! 偉いぜ陸奥さんっ」

陸奥 「でしょ~♪ 」

飛鷹 「そうでしたか。でも……そうですね、本当に嬉しかったです」





提督 「そ、そうか……。ぐぬぬ……これは陸奥にも話したことだが……俺は口下手でろくな挨拶も出来ないのに、俺なんぞが出て行くだけで何故か皆が喜んでくれる……不思議な事だ」

隼鷹 「はっ、分かってないね提督。こりゃ陸奥さんの苦労がしのばれるよ」

飛鷹 「ずっと出てこないと思ったらそんなことを考えていたんですか。ほんと、提督は分かっていませんね」

陸奥 「そうなのよぉ。わたしの苦労、分かってくれる?(にやにや)」

提督 (俺フルボッコ……)

隼鷹 「飛鷹なんてさ。この間の打ち上げの後も執務室にすっげー行きたそうだったんだぜ。でも駆逐艦の子たちに交じるのは恥ずかしいからって諦めてさ」

飛鷹 「ちょ、ちょっと隼鷹! /// 」

隼鷹 「でももっと提督とお話したかったって毎日愚痴るから、今日はこうやって引っ張ってきたんだ」

飛鷹 「/// 」

陸奥 「ほーら、自分がいかに駄目だったか分かるでしょ、提督。ほら反省反省」

提督 「う、うむ……。その、ほんとにすまん、反省してる」

隼鷹 「あはは、飛鷹がもうしゃべれそうにないから行くけど、ほんと、これからはもっとオープンでいてくれよな……いてて、悪かったよ飛鷹」

飛鷹 (バシバシバシ)





隼鷹 「ほんじゃなー 」

飛鷹 「し、失礼しましたっ」


バタン


陸奥 「うふふ、なかなか楽しかったわね」

提督 「俺はなかなか針のむしろだったけどな」

陸奥 「自業自得ね♪ 」

提督 「しかし、いつも冷静な飛鷹がああいう風に考えていたとはな……俺は本当に何も見えていないな」

陸奥 「提督は人の心を読むのが苦手な上に、女心に関しては壊滅的に駄目よね~。ま、士官学校出の軍人なんてそんなものよ。前世でわたしに乗っていたみんなも、やっぱり女心は全然だったもの」

提督 「ああ、返す言葉もない。なかなか難しいものだな」

陸奥 「ほんとね~。百数十人の艦娘がいるんだもの、一人ひとりを見きれないのも当然といえば当然だしねぇ」

提督 「そうだな……。だから俺としては何人か基準となる艦娘を決めて、その子に合わせてやり方を考えたりしていたが……もっと一人ひとりを見ないといけないな」

陸奥 「そうねぇ。理想としてはそうありたいわね」

提督 「時間はあるんだ。とりあえずできることをやっていくよ」

陸奥 「あ、前向きっ! そういうの素敵よ、ほんと♪ 」

提督 「/// からかうのは勘弁してくれ」

陸奥 「うふふ♪ 」





提督 「とりあえずできることの話なんだが、ちょっと長門に相談しようと思ってることがある」

陸奥 「わたしじゃなくて長門なの? 」

提督 「ああ、長門と仲のよい子のことでな。それで、できれば陸奥も一緒に聞いていてもらいたいんだ」

陸奥 「いいわよ、大歓迎♪ 」

提督 「それじゃあ、明日の執務終了ぐらいに合わせて陸奥に来てもらうのがいいか? 」

陸奥 「うーん……でも最近は執務室にお客さんが来ることも増えたから、内々の相談はちょっとやりにくいわよね」

提督 「そうだな……」

陸奥 「あ、それじゃあ提督。今日はうちに晩ごはんを食べに来て。作るのは二人分も三人分も一緒だし、食べながらゆっくり相談できるでしょ」

提督 「いや、そんな迷惑をかけるわけにはいかない」

陸奥 「て・い・と・く・? まだまだお勉強が足りないみたいね?」

提督 「え、あれ、何か間違ったか……?」

陸奥 「わたしが食事に誘ってるのに、それに応じることが迷惑な訳無いでしょ? せっかくだから一緒に食べたいって言ってるの! それに、わたしのお料理もたまには食べて欲しいじゃない」

提督 「あ、う、そ、そうか……」

陸奥 「そうよ! 提督は夕食の予定は特にないんでしょ?」

提督 「ああ」

陸奥 「じゃあ決まり。1900にうちに来て。ちゃーんと作って待ってるから!」

提督 「わかった……急にすまんな、うかがおう」





――――― 1850 長門と陸奥の部屋


陸奥 「ふんふんふ~ん♪ 」


提督は、普段はお弁当やおにぎりを食べていることが多いから、メニューは考えた末にシチューに。
あーあ、来ると分かっていたらもっとじっくり煮込めたんだけど……美味しいから大丈夫か♪


長門 「ああ、もう時間がない! くっ、仕方ない、余計なものはすべて寝室に投げ込んでしまうか……」

陸奥 「ながとー。別にそのままで良いじゃない。汚れている訳じゃないんだし」

長門 「ばかものっ。提督をお招きするというのに生活感のある部屋に入れられる訳がないだろうっ。ああ、なぜ突然ご招待したんだっ」

陸奥 「もー、考えすぎ! ちょっと晩ごはん食べに来るだけなのに」


最近どんどん増えたぬいぐるみが居間に侵食してるから、きっとそれを見られたくないのね……。今更隠すことないのに。





――――― 1900 長門と陸奥の部屋


コンコンコン

陸奥 「はーい、どうぞー、開いてるわ」

提督 「すまんな、邪魔をする」

長門 「提督、良く来てくれた。さ、こちらに」

陸奥 「これから並べるから先に座ってて~」

提督 「何か手伝うことはあるか? 」

陸奥 「うふふ……提督や長門に手伝ってもらったらお皿が割れるだけよ。いいから座っていて」

提督 「面目ない……」

長門 「そうそう提督。こちらは私室だから扉は絶対に開けてはいかんぞ!」

提督 「女性の部屋を覗いたりしないよ。大丈夫」

長門 「そ、そうか、ならいいんだが……」





陸奥 「はい、めしあがれー」

提督 「シチューなんで本当にひさしぶりだ。頂きます……うん美味い。それに懐かしいな……」

陸奥 「提督は普段からおにぎりだとかばっかりだものね。晩ごはんぐらいちゃんと食べるようにしてよ~」

提督 「そうだな、そうすべきか……」

長門 「わたしも陸奥が作ってくれなければ、ひどい食生活になっているだろう」

陸奥 「まったく、食べる楽しみをもっと感じてほしいわぁ。食べることは後回しで好きなことに夢中って、なんだか男の子が二人いるみたい」

長門 「男の子……」

提督 「あはは……長門言われてるぞ」

長門 「提督もいい歳をして男の子扱いされてるぞ」

陸奥 「うふふ、ごめんね♪ 」





陸奥 「そうそう、今日は長門に話があるんでしょ?」

長門 「そうだったな。なんだろうか?」

提督 「ああ、長門は酒匂と縁があるだろ? 仲はいいのか?」


酒匂ちゃんというのは阿賀野型軽巡の末っ子。結構最近加わった子よね。


長門 「そうだな、顔を会わせれば立ち話をする程度だが」

提督 「そうか、あまり個人的な親交はないんだな」

陸奥 「提督、酒匂ちゃんがどうしたの?」

提督 「えっとだな……酒匂は結構数奇な前世を送ってる。それで転生した今……具体的にどんな配慮をすれば良いのかイマイチよく分からなくてな。俺も酒匂とは着任挨拶で一言話しただけで接点は全くないしな」

長門 「ふむ……具体的にはどういうことだ?」

提督 「そうだな……。前世では戦局の関係もあって、姉妹や仲間がバラバラになることなんかが多かっただろ?」

陸奥 「そうね……沈んで欠員がでたら再編成されたりして……どんどんバラバラになっちゃったわね。仕方のない事だけど」

提督 「そうだな。だから今は、せめて駆逐艦は、姉妹や仲間を出来るだけ一緒に、離れ離れにならないようにしているわけだが」

長門 「駆逐隊をなるべくセット単位で扱うのはそういう理由か」

提督 「だが軽巡以上の艦になると、指揮艦になったり戦力配分の関係で、そういうわけに行かない。前世でもそうだよな。軽巡は水雷戦隊旗艦として軽巡1隻と駆逐艦で組んだりしていた」

陸奥 「それは仕方が無いわよね。軽巡だけの艦隊とか戦艦だけの艦隊なんて困っちゃうし」

提督 「だからせめて姉妹同室になるように工夫したりしているわけだ」

長門 「ふむふむ……」





提督 「それで酒匂なんだが……。彼女は軽巡の末っ子でとても幼い。俺からすると駆逐艦とあまりかわらなく見える」

陸奥 「うふふ、そうね、小柄で可愛かったわ」

長門 「言葉遣いも少し幼いな」

提督 「だから駆逐艦のように寂しくないような配慮をしたほうが良いのかなと思ったんだ。まして、沈んだ時の記憶なんかはひどいものだと思うしな……」

長門 「そう……だな。わたしやプリンツよりひどいはずだ」

陸奥 「……」


酒匂ちゃんや長門や陸奥は、超強力な新型爆弾の実験で沈んだのよね……。


提督 「今は姉の矢矧と同室。出撃時は数少ない縁のある艦として雪風や初霜なんかと組ませてる」

陸奥 「そうね」

提督 「この現状で満足してるだろうか? もっと誰かと組みたいとかの希望は無いだろうか」

長門 「どうだろうな……今までそういう話は出たことはないが……」

陸奥 「わたしは個人的に話したこともないからわからないわ」

提督 「ふむ……そうか」

長門 「ただそうだな……置いて行かれることにおびえている感じはあったな。寂しがりなんだろう」





提督 「そうか……。しかし矢矧とも接点が全く無いし、雪風や初霜に聞いてみたほうが良いだろうか……」

長門 「力になれずすまんな」

提督 「いや、もし何か知っていれば位の気持ちだったんだ。十分参考になった」

陸奥 「うーん……」

長門 「? どうした陸奥? 」

陸奥 「ね、提督。どうして本人に直接聞かないの? 」

提督 「まぁ、そうだな……本人に聞いてみても良いのか……」

長門 「ふむ、言われてみればそうだな」

陸奥 「それが普通でしょ? 探偵じゃないんだから周りに聞き込みなんてしなくていいじゃない」

提督 「それはそうだが……」


きっとまた……前世で人間が彼女にした仕打ちを思うと後ろめたいとかそういうことよね……。


陸奥 「陸奥さんのおすすめは、ちゃんと本人に聞くこと! ……この間の打ち上げのことを忘れないで。みんな提督を大事に思ってること、分かったでしょ? 」

提督 「…………そうだな。考えてみる」

陸奥 「ええ、そうしてね♪ さ、なんだか湿っぽくなっちゃったし、食後に一杯行きましょ!」


ドンッ!


長門 「またお前は……」

提督 「いや、知ってるだろう、俺は鎮守府内では呑まないんだ」

陸奥 「ちょっとだけよちょっとだけ! それに……このお酒を見てもまだ呑まないなんて言えるかしら……?」

提督 「なに……十四代だと…………! 」

陸奥 「美味しいわよ~♪ 」





長門 「これは……確かに美味いな……」

陸奥 「でしょぉ? 」

提督 「いつの間にこんな良い酒を……」

陸奥 「提督と一緒。明石さんにお願いしたのよ。気長に待つからって」

提督 「そうか。しかし……旨い酒に釣られて自戒を破るとは……俺もまだまだだな」

陸奥 「なーに言ってるの。自分一人で勝手に決めてるルールなんて、自分の都合で変えればいいのよー」

長門 「さすがに陸奥の意見はゆるすぎると思うが……たまに少し酒を呑むくらい、悪いことでは無いと思うがな」

提督 「……」

陸奥 「まぁまぁ、せっかく美味しいお酒なんだから、難しいことを考えずに味わいましょうよ」

提督 「そうだな。楽しませてもらおう」


……



長門 「ぐおー、ぐおー」

提督 「さて、長門も寝てしまったし、俺はそろそろお暇する。おいしい食事と旨い酒、ごちそうさまでした」

陸奥 「今日は楽しかったわ。また是非来てね♪ 」

提督 「そうだな……またおじゃまさせてもらおう」

陸奥 「うふふ……また美味しいお酒を手に入れなきゃ」

提督 「酒は……。いや、そうだな、期待しておくよ」

陸奥 「ええ♪ 」


こうしてうちに来てくれたり、お酒に付き合ってくれたり。
提督の確かな変化を感じてとっても嬉しいわ。うふふ……この調子で、大勢で笑ってお酒を呑める日が来るといいわね。その時は……この人もきっと、心から笑ってくれるはず……。





++++++++++

 Side 曙

++++++++++





――――― 深夜 鎮守府3F廊下


曙 「はぁ……今日は行かないのかな」


夜、なんとなくここに来て森を見るのが習慣になってしまっている。まったく、何をやっているんだか。でも今日はいないみたい。


曙 「別に……いないほうがいいんだけどさ。さ、帰ろ帰ろ」


コツコツコツ


あれ、こんな時間に足音? また潮が来たのかしら


提督 「ん、曙か。こんな時間にどうしたんだ? 」


!!!!





顔に血が上るのが分かる。びっくりした! まさか……窓から探してるの見られたっ!?


曙 「な、な……なんで……なんであんたがこんなところにいるのよっ! 」

提督 「え……? いや、執務室に戻る所なんだが……」

曙 「戻るってこんな時間に……お酒の匂いする。お酒飲んでたのね、この酔っぱらい! 」

提督 「酔ってはいないが、まぁ少しだけな」

曙 「と、とにかく。司令官が酔っ払ってて判断誤ったりしたら大変なんだから、気をつけなさいよね、このクソ提督! 」

提督 「あ、ああ。気をつけるよ」

曙 「な、ならいいのよ! じゃあねっ! 」


ドスドスドスドス



お、落ち着けあたし……ここで何をしてたかとか分かるわけないんだから……。
そうよ。あたしもクソ提督も偶然通りかかっただけ……それで大丈夫よね、うん。

でも……あいつがお酒飲むなんて知らなかった。誰かと……お酒飲んでたのかな……。




更新大変遅くなりました! 無事回想編も終わって、やっと時間が進み始めました。
次回はまた2~3日後に更新予定です。

ぴゃん! よろしければまたぜひお越しください。

乙です
>>169の新型爆弾~のところが間違ってるのがちょっと気になったり


>>177
あ、ほんとだ。ご指摘さんくすです!

>>169の真ん中辺り、本文中の「陸奥」→「プリンツ」ですね。むっちゃんはとっくに沈んだあとじゃまいか……。


舞ってる

>>183
舞風がいる!


今最初から読みなおしていたのですが、スタートからもう2ヶ月たってるんですね。
こんな長くなったのをずっと読んでいただいてコメントして下さる人がこんなにいて、ほんと嬉しいです。

多分まだ2週間ぐらい続いちゃいますがどうぞよろしくです!



――――― 数日後 工廠横





夕張 「はい、報告確かに受けました。大成功したのね、さすが~! 」

曙 「まーね。南方への遠征はベテランだもの」

潮 「曙ちゃん、遠征の時すっごく頑張るもんね」

漣 「なんというかぁ~。大成功するぞ!っていう執念を感じるっていうかぁ~」

曙 「……なによ。何か言いたげじゃない」

朧 「重要な遠征なんだ。大成功で資源に余裕ができるのは良いことだよ」

夕張 「そーそー。燃料弾薬鋼材、どれをとっても南方遠征が欠かせないからね。ほんとにお疲れ様!」

霞 「北方の遠征も大変よ。あーもー、寒かった! 」

夕張 「霞ちゃんもおかえり! 北方遠征お疲れ様。そちらも大成功なのね」

霞 「当然よ。北方はもう庭みたいなものだわ」

夕張 「ほんと、通い始めてウンヶ月だもんね。じゃあ悪いけど提督に大成功報告、お願いね」

霞 「了解。じゃあわたしが行っておくからみんなは先に戻ってて」

陽炎 「たまにはわたしが報告に行こうか? 」

不知火「そうね、いつも霞だから」

霞 「ふん、もう慣れっこよ。じゃあ行ってくるから」

曙 「じゃああたしも行ってくるわ」

漣 「はいはい、いってらっしゃーい」





――――― 鎮守府 廊下


コツコツコツコツ

霞 「…… 」

曙 「…… 」


コツコツコツコツ


霞 「ん? 」

曙 「あの二人なにしてるのかしら」


初霜 (雪風ちゃん、聞こえる?)

雪風 (ドアにピッタリ耳をつければ聞こえますね)


曙 「……あんた達、なにしてるの? 」

雪風 「うわぁ! しーっ、しーっ! 」

霞 「なに? 盗み聞きなの? まったく、なにしてるのよ」

初霜 「実は……酒匂さんが急に提督に呼び出されまして」

曙 「ああ、確か阿賀野型の……わたしはよく知らないけど」

雪風 「建造が遅かったですからね! 酒匂さん、最近仲間に加わって、わたしたちと練度上げしてたんですけど、帰ってきたら急に呼び出しで……一人で執務室に来なさいって」

初霜 「急なことで、酒匂さんすごく怯えちゃって……ドアの前まではついてきたんです」

霞 「あいつが呼び出しをかけるなんてめったに無いことよね…… 」

曙 「そうね……あたしも長くここにいるけど、一回も無いわ、そんなこと」

雪風 「そうですよね……それでなんとかお話を聞こうと」

曙 「……そういうことなら仕方ないわね。見逃してあげるわ(ピタ)」

霞 「そうね、感心しないけど特別な事情ということで許してあげるわ(ピタ)」

雪風 「許すもなにもお二人だって聞きたいんじゃないですか!(ピタ)」

初霜 「しーっ、しーっ! 雪風ちゃん声が大きいよ(ピタ)」


……気になる! 何を話してるんだろ!





**********

 Side 陸奥

**********





――――― 提督執務室


酒匂 (カチンコチン)


あらあら、ガッチガチに硬くなってるわね。でも、慣れない中で提督に突然呼び出されたら仕方ないかぁ。


陸奥 「酒匂ちゃん、はい、お茶」

酒匂 「ぴゃ! あ、ありがとうございますっ」

陸奥 「そんなに緊張しなくて大丈夫よぉ。提督、全然怖くないから」

酒匂 「は、はいっ」

陸奥 「さて、わたしも座っちゃお。酒匂ちゃん、おとなりに失礼(ストン)」

酒匂 「ぴゃー……」

陸奥 「酒匂ちゃん、長門と仲良しなんでしょ? 長門から色々聞いてるわ。知ってると思うけど、わたしは長門の妹なのよ♪ 」

酒匂 「はいっ。そっか、長門さんと同じ服なんだぁ。でも、雰囲気は全然違うんですね? 」

陸奥 「うふふ、長門はわたしと違って堅物さんだからね。最近は少しやわらかくなったけど」

酒匂 「うちの矢矧ちゃんもキリッとしてます。わたしとは全然似てないんだぁ」

陸奥 「うちと同じね。姉妹だから似てるし、服装も一緒だけど、性格は全然違うのよねー。でもね、長門はあんなにできる女風だけど、家事とかはからっきしなのよ」

酒匂 「あ、矢作ちゃんもですねー、すごく真面目そうだけど、実は戦闘以外のことは苦手で、書き物とかお片づけとか家事とか、すぐ面倒くさくなってやめちゃうんですよぉ」

陸奥 「あら意外! 何でもそつなくこなしそうなのにね。片付けとかは能代の方が得意そうね」

酒匂 「能代お姉ちゃんですかー……姉妹なのにあんまり知らなくて……」

陸奥 「そうよねぇ……」


阿賀野型は四姉妹なんだけど、酒匂が竣工した頃には、阿賀野と能代はもう沈んだ後だったのよね。姿を見ることも無かった姉妹ってどんな感じなのかしら……不思議な感じ。





提督 「いや、すまんすまん、呼び出しておいて待たせてしまった」

酒匂 「ぴゃっ! 」

陸奥 「おつかれさま。はい、提督もお茶」

提督 「ありがとう」


提督 「……」

酒匂 「…………ピャー」


もう、提督ったら黙っちゃって! 口下手なのは分かるけど、酒匂ちゃん困ってるじゃない。

ま、仕方ないか。酒匂ちゃんと縁がある長門が秘書官の日じゃなく、わたしの日に呼んだのは……きっとこういう時の助け舟になってほしいのよね。頼られてる以上、陸奥さんもしっかりやらないとね!


陸奥 「提督。酒匂ちゃんが困ってますよ。お話したいことがあるんでしょ? 」

酒匂 「あの……酒匂なにかしちゃった……? 」

提督 「あ、いや違うんだ。怒るとかそういう話じゃなくて……そうか、俺が黙っちゃうとそう感じちゃうんだな」

陸奥 「そりゃそうよー。偉い人が難しい顔して黙ってたら、提督だって『やべっ』って思うでしょ? 」

提督 「む……言われてみればそうだな。俺はあんまり自分が偉いって気がしないから、その辺の配慮がなってないのか」

陸奥 「そうよぉ。提督はうちで一番えらいっていう自覚が足りないわ。ねー、酒匂ちゃんだって怖いわよねー」

酒匂 「ぴゃっ……。はい、すごく怖い人だって思ってたけど……なんかイメージ違ったかも? 」

陸奥 「うふふ……提督は人見知りな上に女の子に慣れてないんですって。だから目を見て話すだけで赤くなっちゃうから、こうやって怖い顔してあっちを向いて話したがるのよ」

提督 「ぐぬ……本当のことだが、もう少し言い方が……」

酒匂 「うふ……うふふ…………なんだか二人とも楽しそう! 」





陸奥 「うふふ……さ、ほぐれたところで、提督、お話お話」

提督 「ああ、そうだな。えっとだな酒匂」

酒匂 「ぴゃん! 」

提督 「えーっと……、その……。俺はその、君の前世のことは、記録を読んで分かっているつもりだ。随分寂しい思いをさせたし、辛い最後だったと思う」

酒匂 「ぴゃー……。ぼんやりしか覚えてないけど、そうかも」

提督 「それでな……その……その分、転生した今は楽しく過ごせたらいいなと思うんだ。だが、前世がちょっと特殊なせいもあって……その……どんな生活なら君が楽しいか、ちょっとわからない部分があってな」

陸奥 「わたしも提督に相談されたんだけどね、良くわからないから本人に直接聞けばいいじゃない! という事になって、今日来てもらってるの」

酒匂 「ぴゅー! 酒匂もよく分からないよっ! 」

提督 「ちょっと抽象的過ぎたか。えっとだな、例えば……。前世では姉の阿賀野や能代に会えなかっただろ? それで……今は『前世でも会ったこと無くてよく知らないからあんまり……』なのか、『前世で会えなかったからこそ今世ではたくさん一緒にいたい』のか、とか」

陸奥 「あとはそうねぇ。あなたはわたしと同じように、前世では実戦参加の機会がほとんど無かったでしょ? その分、今世ではバンバン戦いたいと思うのか、やっぱり実戦は怖いのか、そのあたりよね。ちなみにわたしは、前世で出来なかった実戦を思いっきり楽しんでるわ♪ 」


あら、酒匂ちゃん、びっくりした顔で固まっちゃってるけど……どうしたのかしら?





提督 「どうした……? 一気に話されて混乱しちゃったか? 」

酒匂 「ぴゃ! う、ううん、そうじゃなくて……。酒匂のこと、そんなに考えてくれてるんだって……嬉しくて、びっくりして…………グス」

陸奥 「あらあら、泣かないで。大事な仲間だもの、当然よ~ 」

酒匂 「わたし、前世では一人で置いてかれてたから……矢矧ちゃんや雪風ちゃんや初霜ちゃんと一緒に出撃出来るだけで、すっごくすっごく幸せだったの……グス」

提督 「そうか……」

酒匂 「だから、これ以上もっとなんて全然考えてなかったけど……いいの? 」

陸奥 「もちろんよ♪ そのためにこうやってお話を聞いてるんだから」

提督 「ああ。どんどん希望を言ってくれ。そうしてくれないと俺も辛いんだ」

酒匂 「ぴゃー! じゃ、じゃあ……。出撃は今みたいにみんなとどこかで戦えたら十分だよ。だから、これからも出撃させてほしいっ」

提督 「ああ、もちろんだ」

酒匂 「あと……あとは……お姉ちゃんたちには迷惑かもしれないけど……阿賀野ちゃん、能代ちゃんとも一緒にいたい……四人でいつも一緒にいたいよ…………前世で会えなかったの寂しくて……転生してからは、どんな風に接したらいいか分からなくて……でももっとお話したくて……グス……ピャーンピャーン……グスグス」


ああ……そうね、わたしが長門に感じる特別な絆と同じなのね。こういう、提督では感じることが出来ないことこそ、わたしがしっかり伝えないと行けないのに……わたしも修行が足りないわね。





陸奥 「良し良し、泣かないで……。提督……きっと、阿賀野や能代も同じ気持です。今更ではありますが、阿賀野型四姉妹を同室にする手配を提案します」

提督 「そうか……そうだな、じゃあ早速、阿賀野たちにも話して、同室にする準備をしよう」

酒匂 「グスグス……阿賀野ちゃんや能代ちゃん、嫌じゃないかな? 」

陸奥 「大丈夫よ。姉妹艦の絆っていうのはやっぱり特別。一緒に居たくないはずがないの。阿賀野たちも言い出せなかったのね、きっと。やっぱり、もっと意見しやすい、開かれた執務室を目指さないと駄目ね! 」

提督 「そうだな……俺はほんとに駄目だな……着任して随分経つのに、艦娘のことが全然分かってない」

酒匂 「ぴゃん! そんなこと無いよ! 提督、こうやってわたしなんかのこと真剣に考えてくれて! すごく感謝してるもんっ」

陸奥 「そうよぉ。頑張ってるし駄目じゃないわ。ちょぉっと鈍いけどね♪ 」

提督 「…………鈍い……のかなぁ」


ワイワイ


うふふ、確かに鈍いけれど……。その分、確実に一歩一歩前進する強さが素敵よ、提督♪
こうやってちょっとずつでも分かり合っていければ、いつかはみんなと仲良くなれるわ。がんばってね!





++++++++++

 Side 曙

++++++++++





雪風 「うう、いいお話でした……」

初霜 「叱られちゃうなんて、とんでもなかったですね。良かったー 」

霞 「そうね。ふんっ、わたしはもう行くわ(イライラ)」

曙 「陸奥さんは優しいわねほんと。さ、あたしも帰る(イライラ)」



ドスドスドスドス


霞 「……」

曙 「……」

霞 「……あんた、あんな話されたことある……? 」

曙 「……もちろん無いわよ。そういうあんたも? 」

霞 「あるわけ無いわよ! もう長い付き合いなんだけどね! 」

曙 「あたしなんてあんたより古参なのよ! 」

霞 「ふんっ。どーせ、ああいう可愛くて気弱な感じの子だけちやほやするのよ、あのクズはっ!」

曙 「ふんっ。あたし達みたいなうるさい女はお呼びじゃないってね! 」


あー、もうもうもう! あのクソ提督クソ提督クソ提督!

どうして……どうして酒匂さんなの……? ほんとに……ああいう子が好みなの……?

急に部屋から出てきたと思ったら……今度は酒匂さんと仲良くしたりして……あんたが何考えてるのか全然わかんないわよ……ああもう、クソ提督!クソ提督!




本日分は以上となります。次回更新はまた2~3日後の予定です。
葛城なんかもそうですが、大戦末期に竣工した船こそ、転生後にいっぱい活躍して欲しいですよね。
とはいえ酒匂は軽巡にライバルが多くてなかなか出番が……。阿賀野型もうちょっと最新鋭らしくしてほしいです……。軽巡は競争率高いしっ。

さて、それではまた次回。よろしければまた是非お越しください。

修羅場の前に書いてた奴からずっと見てる
酒匂の性格とか反応がゲームから受けるイメージ通りで>>1の技量に感服
やっぱ安心して読める

あと飛鷹嬢かわいい

乙ー
相変わらず面白い



――――― 2日後 鳳翔さんのお店





曙 「ごちそうさま……先に戻ってるわ」

潮 「あ、うん……」



漣 「ぼのたん、一昨日は烈火のごとく荒れてて、昨日は一日イライラしてたと思ったら、今朝は落ち込んでるし、どうしちゃたのかねぇ」

朧 「提督のところから戻ってからだもん。また何かあったんだよ」

潮 「……曙ちゃんのあれこれって、結局全部提督絡みだよね」

漣 「恋する乙女なんだもん、しゃーないよー」

朧 「一昨日は霞と一緒に執務室に行ってたよね。霞は何か知ってるんじゃない? 」

潮 「わたしもそう思ったんだけど、霞ちゃんが見当たらないの。いつも一緒の霰ちゃんは今日は一人で食べてるし」

漣 「ほんとだ。ちょっと聞いてみよう」


霰 (もぐもぐ)

潮 「霰ちゃんおはよう。今日は霞ちゃんは一緒じゃないの? 」

霰 「もぐもぐ……おはよう。霞は朝ごはんいらないって。イルカさんを抱っこしてごろごろしてた」

朧 「そういう霞はなんかイメージできないね」

漣 「霞も変なのかぁ。うちの曙もなのよ。霰、なにか聞いてない? 」

霰 (フルフル)

漣 「そっか、ありがと」

潮 「うーん……どうしよう、またお話を聞いたほうがいいのかなぁ……」





――――― 第七駆逐隊の部屋


曙 「……はぁぁぁぁぁ…………(ごろごろ)」


昨日までは怒り心頭でイライラしてたけど、冷静になってみるとガッカリ落ち込んでしまった。

だってね……全然おかしくないじゃない。優しい子やかわいい子。陸奥さんという、いつも大人の余裕でサポートしてくれる秘書もいる。クソ提督の周りには、そういう素敵な艦娘がいっぱい。じゃああたしはと言えば……出会いでつまずいてから、暴言暴言また暴言。そりゃ、近づきたくないわよね……。


曙 「ていうか、あいつは自分のなすべきことをしてるだけなのよね…… 」


提督として、艦娘のことを考えて、できることをしてるんだから何も悪く無い。それなのにあんなに腹が立ったのは……ごまかしてもしょうがない。嫉妬よね、嫉妬。


曙 「あたしってホント子ども……。本当なら喜ぶべきことだっていうのに…… 」


そう。あいつが一人孤独に沈んでいることが心配だった。イヤだった。でも、こうしてまた艦娘との関係を取り戻してきてるんだから、嬉しいことよね。





漣 「ただいまー」

朧 「ただいま」

潮 「ただいま。曙ちゃん大丈夫? おなか痛いの? 」

曙 「おかえり。大丈夫よ」


でも……でも、それでもまだクソ提督は孤独に見える。暗いの森のなか、一人焚き火を見つめるクソ提督の幻が頭をよぎる。

あたしは違う。あたしがちょっと苛ついたり落ち込んだりすると、飛んできてあれこれ世話を焼こうとする潮。からかいながらも一番にあたしの異変に気づく漣。いつも真面目に一番良い解決策を考えてくれる朧。いつもあたしと一緒にいてくれる大事な姉妹。

でも……クソ提督にはそんなに近い人はいないはず。いくら秘書でも、仲良しでも、きっとあいつとは壁があり距離がある。あいつは本当に落ち込むと、やっぱり森のなかに入って、一人で焚き火をするんだ。


潮 「な、なに曙ちゃん。そんなじっと見られたら困っちゃうよ…… ///」


駄目だ、あいつはまだまだ寂しい身だ。嫉妬なんてしてる暇はない。やれることをやるって決めたんだ。立ち止まるな曙!





曙 「ねえ潮。あんた最近、すごく嬉しかったとか幸せだったみたいなことあった? 」

潮 「ふぇ……? うーん……この間、焼き芋したときは、すごく甘くて美味しくて幸せだった……かな? 」

曙 「……あんた、ほんとに食い意地はってるわね」

漣 「さすが七駆の食欲魔神! ま、どれだけ食べても栄養が胸に行くからいいよね」

潮 「漣ちゃんひどいよ >< 」

朧 「まぁ、あたしも楽しかったよ。焼き芋も初めて食べたけど美味しかったし」

曙 「焼き芋ね……よし、今日は遠征もないから、また焼き芋しよ。ちょっとお芋買ってくるわ」

潮 「えぇ! どうしちゃったの、曙ちゃん! 」

曙 「その潮の幸せを、クソ提督にも分けてやるのよ。この間は差し入れとかしなかったしね」

潮 「そっか……うん、いいね! あんなに美味しいんだもん、提督だってきっと喜んでくれるよっ」

漣 「ほほぉ。突然どういう心境の変化か知らないけど、良い傾向ですにゃぁ~(ΦωΦ) 」

曙 「うっさい、漣も買い出し手伝えっ」

朧 「そうだよ、からかったりしないでちゃんと手伝お? 」





――――― 午後 鎮守府中庭


パチパチパチ


漣 「ふー、焚き火も結構たいへんだね。たまには良いけどさ」

潮 「まだかなぁ、まだ焼けないかなぁ? 」

曙 「今焼き始めたばっかでしょ」

明石 「お芋いっぱい入れたから、うんざりするぐらい食べられますよ! 」

朧 「明石さんすみません、手伝ってもらって」

明石 「いいんですよー。それより、大量に補給されて困っていたお芋を焼いてくれるんですから、わたしのほうが感謝です! でも、突然焼き芋をやりたいなんて、何かあったんですか? 」

曙 「いえ、なんとなk」

漣 「実はですね! ぼのたんが、美味しい焼き芋を提督に食べてもらって喜んでもらいたいって!」

潮 「そうなんですよー。焼き芋を食べると幸せな気持ちになれるからって」

曙 「あーもう、うっさいうっさい! /// 」

明石 「そうでしたか! 提督は甘いものが好きですから喜ばれますよ! 」

潮 「だってー! よかったね、曙ちゃん」

曙 「あーもう、うっさいうっさいうっさい! /// 」





明石 「そろそろ焼けた頃ですね……一つ取り出してみてと……おお、いい感じで焼けてますよ! 」

潮 「うわぁ……はふはふ……あまーい! あつつっ」

曙 「潮、あんた食べるの早すぎ…… 」


阿賀野「あれ……なんかいい匂い……ふらふら~ 」

明石 「あれ、阿賀野さん、大荷物を抱えてどうしたんですか? 」

阿賀野「ああ! 焼き芋だ! 阿賀野にもちょーだい! あつっあつっ」

曙 「阿賀野さんは引っ越しでしょ? いいの、寄り道してて? 」

阿賀野「ふぇ? どうしてお引越しだって知ってるの~? はふっはふっ」

能代 「あがの姉~! あがの姉~! 」

朧 「阿賀野さん、呼ばれてますよ」

阿賀野「あ、やばい! じゃあ焼き芋ごちそうさま~♪ 」

酒匂 「あ、阿賀野ちゃんいた~。ぴゃ! そんな荷物いっぱいかかえて大丈夫なの!? 」

阿賀野「ふふーん、お姉ちゃんは強いから大丈夫だゾ! 」

酒匂 「阿賀野ちゃんすごーい! 」

阿賀野「えっへん! さ、運ぼう運ぼう~」

能代 「ああ! あがの姉、逆逆! 持って帰っちゃダメ! 」

矢矧 「……なんだか面倒になってきたな。もうこれは全部捨ててしまってもいいんじゃないか? 」

酒匂 「だ、だめだよ矢矧ちゃん! 」


ワイワイ





朧 「……こんな時期に引っ越しなんてどうしたんだろうね……はふっはふっ」

漣 「新加入艦とかいないよね、確か? あつっあつっ」

明石 「阿賀野型はこれまで2部屋に分かれてたんですけど、急遽4人部屋に移ることになったそうですよ……はふはふ」

潮 「そっかー。姉妹なら同室がいいよね。よかったねー……もくもく」


早速引っ越しね……。酒匂さん……良かったね。クソ提督いいことしたじゃない。もちろんっ!陸奥さんががんばったんだよね、きっと。


曙 「さて、ちょうど1500だし、焼き芋を届けてくるわ」

漣 「はーい、いってらっしゃーい」





――――― 1500 提督執務室


陸奥 「1500。提督、おやつの時間よ~」

提督 「もうそんな時間か。じゃあ一息いれるか」


コンコンコン


陸奥「はぁーい、どうぞ~」

曙 「失礼します」

陸奥「あら曙ちゃん。どうしたの? 今日は遠征じゃなかったはずだけど」

曙 「いえ、その……中庭の掃除ついでに焼き芋をしたので、差し入れに……」

陸奥 「あら、ありがとう♪ ちょうどおやつの時間だったのよ。食べましょ食べましょ♪ 」

提督 「焼き芋か……懐かしいな。ありがたくいただこう」

曙 「う……あ……、が、がんばって焼いたんだから味わって食べなさいよ、このクソ提督! 」

提督 「ああ、大事に食べさせてもらうよ」

陸奥 「曙ちゃんも一緒に食べていきましょうよ」

曙 「え……! で、でも……」

提督 「そうだな、せっかくだから一緒に食べて行くといい」

曙 「そ、そんなこといって、あたしがいたら落ち着いて食べられないでしょっ! 」

提督 「? いや、そんなことは無いが」

曙 「そ、そう……そこまで言うならしょうがないわね」

陸奥 「くすくす……じゃあ曙ちゃんの分もお茶を淹れるわね」





陸奥 「そっかー、中庭で焚き火してるなーって見てたんだけど、焼き芋のためだったのね」

曙 「そうなんです。潮に最近幸せだったことを聞いたら『焼き芋が甘くて美味しくて幸せだった~』なんて言うから」

陸奥 「ぷっ……。潮ちゃんらしいわね」

提督 「そうか、潮は焼き芋が好きなのか」

曙 「焼き芋がじゃなくて、食べるのが好きなのよ。あの子は食欲すごいのよ。七駆では食欲魔神って呼ばれてるわ。あとは闘牛とか乳牛とか……」

陸奥 「ぶはっ……失礼、吹き出しちゃった」

提督 「ふふふ……七駆は仲良くやってるみたいだな」


……クソ提督が微笑んだ。お父さんみたいな優しい目をして……。それを見て顔に一気に血が上る


曙 「/// そ、そうよ、仲良く楽しくやってるわ! あ、あんたも楽しく生活するのよ、このクソ提督! 」


クソ提督が……すごくびっくりした顔で硬直して……そして、ゆっくりと表情を崩して言った。


提督 「ああ……そうだな。少しでも日々を楽しく暮らせるように頑張るよ。……曙、ありがとう」

曙 「ふ、ふんっ! 感謝しなさいよね、このクソ提督! じゃ、じゃあ、みんながまだ焚き火してるから戻るから! ごちそうさまっ! 」





たったったったった


曙 「ふふ…………ふふふふ………… 」


ずっと前、まだ執務室が賑やかだった頃。執務室で楽しそうにおしゃべりしている子たちが羨ましかった……それで随分きついことも言った気がする。


曙 「こんなに……簡単なことだったんだ…… 」


でも今日、はじめて執務室でお茶しておしゃべりをした。本当にたったそれだけのことなのに……


潮 「曙ちゃんおかえり。はふはふ」

曙 「なに、あんたまだ食べてるの。どれ、どの程度肉がついたか確かめてあげる。それっ(ぎゅ~) 」

潮 「きゃ、きゃあ! 急に抱きつかないでよぉ~ 」

曙 「おお、この柔らかな抱き心地が……」

潮 「もう >< 」


朧 (曙、ごきげんだね。いいことあったのかな)

漣 (ほんとにわかりやすい乙女回路だよね~。ま、嬉しそうだからいっか! )



姉妹たちのおかげで少しだけ成長したあたしが、ほんの少しだけ前進して、出来なかったことができて……、ただそれだけのことが本当に幸せな、そんな秋の日だった。




本日分は以上となります。次回はがんばって2日後に更新予定です。
お話はもう後半で終わりも見えてきました。GW中には終わらせたいなぁ。過酷な大規模作戦が来るしがんばらないとですな!

>>200 >>201
お褒め頂き恐縮です。SSを書き始めて1年ちょっと。まだまだ修行中の身ですが少しでも良い話を書けるようがんばります。



**********

 Side 陸奥

**********





――――― 提督執務室 曙が帰った後


いつも提督にキツくあたっていた曙ちゃんが、今日はどういうわけかとっても好意的(?)だったわけだけど……。

提督はちょっと呆けたように焼き芋を黙々と食べ続けてる……でもこれは、色々想いをめぐらせてるのね、きっと。


陸奥 「提督、曙ちゃんと話せてよかったわね」

提督 「……そうだな…………。正直言えば曙が一番気になる存在だからな……あとは霞もそうか……。だから、こうして少しでも話せるのは嬉しい」


むっ……むむっ……! 提督ってまさか……ろ……。そんでもってM……。ううん、まったまった、思い込みは良くないわね!


陸奥 「でも、ほんとうにどういう風の吹き回しだったのかしらね? 」

提督 「そうだなぁ。司令官である俺を少しでも許してくれてのことならいいんだがな……」


……なんだか、微妙な言い回しね。





コンコンコン


陸奥 「はーい、どなたー? 」

霞 「霞です」

陸奥 「あら、噂をすれば。どうぞ~ 」

霞 「失礼します! 」

提督 「どうした、今日はオフのはずだが……? 」


キッ


提督 (ビクッ)


な、何かしら……すごい殺気で提督を睨んでるけど……さっきの曙ちゃんといい、今日は一体どういう日なの!


陸奥 「うん、確かにオフよね。どうしたの? 」

霞 「ちょっとそいつに話があるのよ」

提督 「聞こう」


ほんとに険悪ね~。でも、霞ちゃんが怒るようなこと、何かあったかしら? さっきの焼き芋、実は霞ちゃんのだったとか……違うか!





霞 「あんたはここの総司令官でしょ? 」

提督 「? ああ。若輩の身ではあるがこの鎮守府の総司令官なのは確かだ」

霞 「それじゃあ、重い責任があるし、部下に対しては公明正大でなきゃ駄目よね? 」

提督 「そうだな。同感だ」

霞 「はぁ!? あんた自分好みの子をいっぱい贔屓してるじゃない! そういうのやめなさいって言いに来たのよ! 」

提督 「……。いや、覚えが無いが……」

霞 「ごまかしてるつもり!? 満潮の件だって、酒匂さんの件だって知ってるんだからね! 」

提督 「……? ああ、八駆は全員で入渠するルールとか、酒匂のは……阿賀野型で同室にする件か? 」

霞 「そうよ! 」

提督 「気に障ったならすまないが、それもまた公平な対応の一環なんだ。だから断じて贔屓などではない」


提督が珍しく断言! 霞ちゃん相手にはいつも弱腰というか、反応を探るような雰囲気だったけど、ここは堂々としてるわね。そうよねー、提督が一番こだわっている所だもんね。でも、霞ちゃんはほんとにどうしちゃったのかしら?


霞 「……ふんっ。認めないなら結構よ。このクズ! えーえー、あたしや曙みたいなうるさいのは北方や南方にでも追いやって、自分は好みの子と仲良くしてればいいのよ! じゃあね!」


クル スタスタスタ


提督 「霞、待て」

霞 「もう話すことなんか無いわよっ」


ガチャ





陸奥 「止まりなさい、霞。命令よ」





霞 (ビクッ)

陸奥 「はぁ~。突然どうしたのか知らないけれど、そんな捨て台詞で逃げ出したら、この後が辛いわよ」

霞 「!! に、逃げてなんか! 」

陸奥 「だったら、戻ってきて座りなさい。提督が、あなたが納得できるような話をしてくれるから」

提督 「…… 」

陸奥 「もー! ここは乗ってくれるところでしょ! 」

提督 「え!? あ、ああ、そうだな。上手く話せるか自信は無いが、確かに話さないといけないことがたくさんあるようだ。霞、座ってくれ」

霞 「…………分かったわよ」


ストン


陸奥 「長くなりそうね。会議中につき入室禁止の札を出してくるわ。あとはお茶入れるわね」

提督 「ああ頼む」

霞 「……」





さてさて、ほんとに今日は色々ね。酒匂ちゃんの話が出てたから……どこからかその話が伝わって、それがきっかけで爆発したような感じなのかしら?

おっとっと、早くお茶を入れて戻らなきゃね。


陸奥 「はい、おまたせ」(コト)

提督 「ああ、ありがとう」

霞 「……ありがとうございます」


ずずー


提督 「……」

霞 「……」


はぁ~。お茶を入れてる間もひたすら黙っていたのね……。ほんとに進歩が無いんだから!


陸奥 「提督? 黙っていたら相手が困るだけだって、この間言ったばかりよ?」

提督 「あ、ああ、そうだったな。えっとだな、霞」

霞 「……なによ」

提督 「その……俺が艦娘みんなに対して公明正大でありたいと思っているのは本当だ。これは神に誓っていい」

霞 「……」





提督 「ただその……何と言えばいいのか……そのだな……」

陸奥 「提督提督。どういうふうに公平かとか、そういうことを言わないと……」

提督 「おお、そうだな! えっとだな……」

霞 「なによ。これじゃ陸奥さんと話したほうが早いじゃない」

提督 「いやその……すまん……」

陸奥 「駄目よ。霞ちゃん、あなたは提督の心を聞きたんでしょ? 提督は確かに口下手だけど、時間をかけてちゃんと話してくれるから、変に急かさないの」

霞 「……はい」

提督 「いや、俺がもっと気合を入れてちゃんと喋ればいいんだよな。頑張るから少しだけ許してくれ」

霞 「……ふふ。焦らなくていいわよ。あたしも悪かったわ。ちゃんと聞くから」





提督 「えっとそれでだな…………。俺は提督になるにあたって、自分が率いることになるであろう艦娘たちの情報……前世だな……を詳しく学んだんだ。もちろん一人ひとり違った艦生だが……総じて、あまり幸せなものでは無かったと思う。戦時中の戦闘艦だ……当然のことかもしれないがな」

霞 「……それで? 」

提督 「それでその……そういう艦生を終えて眠っている魂を、俺たち人間の都合で呼び戻して、また人間のために戦わせる。俺は提督という仕事をそうとらえた。なかなかひどい話だと思う」

霞 「……」

提督 「深海棲艦と戦うために転生させられる。それはもう動かせない。だからせめて……新たな艦生が……戦いと悲劇だけじゃない、少しでも幸せなものになればいいと……そんなふうに思っている」

霞 「…………」


提督……ちゃんと話せてるじゃない。そうよ、変に隠したり取り繕ったりせず、わたしに話すみたいに、心にあるものを正直に言葉にすればいいのよっ。





提督 「俺にできることは限られているが……。まずは誰も沈まないこと。離れたくなかった相手と一緒にいられること。前世の心残りを果たすこと……。そういうことが少しでも出来たらいいと……そう思っている」

霞 「満潮の入渠の件は、やっぱり前世とのからみでそうしたってことね」

提督 「……そうだ。満潮は一人で入渠することにひどい恐怖を感じているように見えた。だから特例とした」

霞 「なるほどね……。酒匂さんのことはよく知らないけど、そっちも同じような感じってことね」

提督 「そうだな」

霞 「他にも……ひとりひとり、前世を考えながら、あれこれと対応してるってこと? 」

提督 「…………」


提督が……遠い目をしてる。着任以来ずっと悩み続けて頑張り続けて……それでも……。


提督 「正直……どこまでできているか分からない。その艦娘がどうすれば幸せなのか……前世の情報があってもな……わからないんだ」

霞 「そう……よね…………。幸せなんて目に見えるものじゃないもの」

陸奥 「ま、それにしても提督が鈍いっていうのもあるけれどね! 」

提督 「……いつも鈍い鈍い言われるなぁ」

陸奥 「だって聞いてよ霞ちゃん。わたしなんて、楽しく遊んで最前線で主砲ぶっ放して、とっても幸せなんだけど、提督ったら、わたしが不幸に沈んで悩んでるって思ってたくらいなのよ♪ 」

霞 「……ふんっ。クズ司令官らしいわね! こんなに身近にいる秘書艦のことすら見えてないなんて! 」

提督 「いや……そうは言うが、艦娘の価値観がわからない上に……女心とか言われると……正直、途方に暮れるばかりでな……」

陸奥 「あは♪ 確かに女心に敏感な提督とか、想像も出来ないわっ」

霞 「残念ながら同感ね」

提督 「はぁ……」





霞 「じゃ、じゃあさ……あたしのことは……どういうふうに見ていたの?(ドキドキ) 」

提督 「……霞は特に難しいと思っている。正直手探りだ」

霞 「なによっ! 気難しくて悪かったわね! 」

提督 「いや、そういう意味じゃない。前世が複雑だから、どうすれば幸せか見えないってことだ」

霞 「……どういうことよ」

提督 「えっとだな……。お前は大戦末期まで数々の戦いを生き抜いて……多くの仲間を失った記憶を持っているはずだ」

霞 「……」

提督 「それに……司令部からひどい扱いを受けたり、ひどい作戦に参加させられて……海軍上層部を……この鎮守府で言えば俺をだな……恨んだり憎んだりしていると思う」

霞 「そんなっ……ことは…………」

提督 「それに、駆逐艦でありながら艦隊旗艦をつとめて、指揮統率の苦労も知っている……こんな多彩な経歴をもった駆逐艦は霞だけだと思う」

霞 「そうね……」

提督 「だからそうだな……まず司令官たる俺自身がどのような行動を取るべきか……。そういう指標として霞の価値観を見させてもらっていた」

霞 「……? 」





提督 「それから……霞は前世で多くの艦と組んでいたから色々試させてもらったが……。やはり第十八駆逐隊メンバーといる時が一番幸せそうに見えた。だから第十八駆逐隊を固定編成にさせてもらった。……不知火と仲良さそうだよな」

霞 「/// べ、別にっ! 」


あら、赤くなる霞ちゃんなんて珍しい。この子は普段オフェンス一辺倒だから、自分の話になると上手くかわしたり出来ないのかも。いつも大人っぽい子だけど、こういうところは可愛いわね~♪


提督 「あとは……霰の所在をいつも気にしている風に見えた。だから部屋は霰と同室とさせてもらった」

霞 「/// し、仕方ないでしょ! 霰はちょっと目を離すとすぐいなくなっちゃうから! 」

提督 「それから……息抜きという訳ではないが、たまに礼号作戦時の艦隊を組むようにしている」

霞 「それはほんと意味分かんない! あの艦隊になると、足柄さんはイケイケで言うこと聞かないし、大淀さんも普段と違ってノリノリになっちゃうし、清霜も朝霜も人の話聞いてないし、もう大変なのよ! 」

提督 「それはそうなんだろうが……足柄や大淀に振り回されたり、清霜におにぎりを作ってやったり……そういうのが、とても楽しそうというか、いきいきして見えたんだ……もしかして迷惑だっただろうか」

霞 「べ、別に迷惑だなんて言ってないし! あの艦隊を何とかできるのはあたしだけだから、ちゃんと何とかするし! 」





提督 「……この程度なんだ……。霞にはもっともっとできることがあればいいと思うんだが……。今の俺ではこの程度のことしかできていない……」

霞 「この程度ってなによ!!!! 」

提督 「……」

霞 「あたしのことちゃんと見て……できることやってるじゃない! なんで卑下すんのよ! ほんっっと、意味分かんないわよ(ぽろぽろぽろぽろ)」

提督 「霞……」

霞 「えーえー、言うとおりよ!(ぐすっ) 霰が見当たらないと、またいなくなっちゃうんじゃないかと不安になるわよ! だから同室でありがたく思ってるわよ!(ひっく) 十八駆で一緒に出撃できて嬉しいわよ! 陽炎や不知火と肩を並べて、こんどこそ霰を護るって思ってるわよ!(ぐす) 礼号艦隊もほんっとに大変だけど楽しいわよ! 」

提督 「そう……か…………。良かった……」

霞 「良くないわよ! 何よ人のこと見透かして!……(ぐすっ)……ほんとに……(ひっく)……迷惑よ……(ぐす)……。こんな生活してたら……(ひっく)……失うのが……怖くなるじゃない……(ぐす)」

提督 「……大丈夫だ。君たちを沈めたりしない。この生命をかけてでも絶対に沈めない」

霞 「ひっく……ぐす……う……うわぁっぁぁあぁぁぁん」


いつも大人びて、強い責任感で張り詰めている霞ちゃんだけど……この子だって駆逐艦だもの。やっぱり、歳相応に泣いたり甘えたりすべきよね。この子、転生してはじめて泣けたんじゃないかしら。


陸奥 「よしよし。こんな時ぐらい思いっきり泣くといいわ……」

霞 「う、うわぁぁぁん……ぐす……」

提督 (おろおろ)


あーあ、本当ならここで優しく抱きしめるのはわたしじゃなくて提督の仕事なんだけど……まったく困った人ねぇ。





霞 「……ぐす……ほんとはね、ちゃんと分かってた。司令官があたしのこともちゃんと気にかけてくれてるって」

陸奥 「うんうん……そうね」

霞 「でも……あたし以外の子にはもっと世話を焼いているように見えて……なのにあたしには、なんだかおどおどと接してくるし……」

陸奥 「困った提督よねー。でも提督なりに、霞ちゃんのことを知ろうとしての事だったみたいね」

霞 「ぐす……そんなの……わかんないわよ……ひっく……」

陸奥 「ほんと……堅物で鈍くて口下手で困った人よね~…………でも、もう誤解は解けたわね? 」

霞 「…………はい」

陸奥 「うん、良かったわ♪」

提督 「…………ふぅ……(ぐったり)」


ふふっ……提督、お疲れ様。たどたどしくだけど、しっかりと心を伝えてたの、カッコ良かったわよ♪ ……ま、明らかに贔屓目だと思うけどね♪





陸奥 「落ち着いた? 」

霞 「/// は、はいっ。その……子どもみたいに泣いてしまって……申し訳ありませんでした」

提督 「いやその……なんというか……」

霞 「/// あ、あんたに言ったんじゃないから! なによっ、ちょっと泣かせたぐらいで勝ったと思わないでよね! あんたなんてまだまだなんだから! 」

提督 「そ、そうだな! 俺もまだまだ未熟者だ。意見があったら是非聞かせてほしい」

霞 「ふ、ふんっ。当たり前よ! これからもビシビシ行くからね! その……し……司令官っ」


あら♪ 『クズ』が消えたのね♪


提督 「ああ、よろしく頼む」


そしてその変化に気づかない提督……ほんっと、駄目ねぇ……怒られるわよ……。


霞 「ふ、ふんっ! 早速なってないわね、もう意味分かんない! じゃあねっ! /// 」


ツカツカツカ バタン





提督 「……? 」

陸奥 「うふふ、やれやれね。はい、お茶のおかわりよ」

提督 「ああ、ありがとう。……しかし、ほんとに艦娘心と女心はわからん……」

陸奥 「そんなことも言ってられないでしょ。時間はいくらでもあるんだから、ゆっくりと分かっていかないとね」

提督 「時間をかければ分かるようになるだろうか? 」

陸奥 「う……ごめんなさい、全然イメージわかないわ」

提督 「うぐ……だ、だよなぁ……」

陸奥 「あははは、ほら元気出して……困ったときはおねーさんが助けてあげるから♪」

提督 「今日も沢山助けてもらったからな……本当に感謝してる」

陸奥 「あらあら、これはお礼を期待しても良いのかしら♪」

提督 「……俺にできることにしてくれよ」

陸奥 「うふふ……考えておくわ♪ 」


あーあ、本当に分かってないんだから。こうやってあなたの力になれること……あなたに頼ってもらえること……それこそがわたしの幸せなのに♪

……提督じゃないけど、時間をかければ分かってもらえるようになるのかしら……はぁ、まだまだ前途多難ね!




本日分は以上となります。ようやっと霞の話が書けたので、そろそろ終盤です。もうしばらくお付き合いくださいませ。
次回は明後日木曜日に更新予定です。

それではまた次回。よろしければまた是非お越しくださいっ。



――――― 夜 長門と陸奥の部屋





陸奥 (ぼーー)

長門 「もぐもぐ……どうした陸奥。食べないのか? 」

陸奥 「え!? いけないいけない、ぼんやりしちゃったわ」


今日は曙ちゃん、霞ちゃんと、立て続けに色々あったから、なんだか考えちゃうのよね……。ていうか、提督は駆逐艦の子たちを可愛がりすぎじゃないかしら……まさか本当に……。


長門 「……すぐに箸が止まるな……何か悩み事か? 」

陸奥 「うーん……そうねぇ。悩みというか……。長門、あなた駆逐艦の子たちがすごく好きよね? 」

長門 「な、なんだ藪から棒に。と、と、と、特に駆逐艦が好きということは無いぞ。みな平等だ、うん」

陸奥 「特II駆逐艦が好き? 」

長門 「誰もそんな話はしていないっ! 」

陸奥 「冗談よ♪ いいじゃない、姉妹なんだから隠し事しなくても。駆逐艦の子たちはちっちゃくて無邪気で可愛いわよね……たまに違う子もいるけど…… 」

長門 「まぁ……そうだな、否定はしない。それで、何の話なんだ? 」





陸奥 「それがねぇ……今日はいろいろあって、提督も長門みたいに駆逐艦を愛しちゃってるタイプなのかなぁって」

長門 「ほう……そうか、提督も駆逐艦が好きなのか。それは胸が熱いな……いや、まて…………なん……だと……!? い、いかんいかんいかん! 立派な成人男性が駆逐艦をなど、憲兵が黙っていないぞ! 」

陸奥 「えー。駆逐艦の子たちは、確かに見た目はあれだけど、実際は前世も含めると結構な歳だし……なにより艦娘は『兵器』の扱いなんだから、何も問題にならないわよ~」

長門 「し、しかしだな……あんな子やこんな子が提督となど……い、いかんぞっ! 例え天が許してもこの長門が許さん! 」

陸奥 「提督と長門による駆逐艦の取り合いなんて洒落にならないわ。……まったく、わたしの好きな人は揃って駆逐艦ラブなんて……わたしも小さく生まれたかった~ 」

長門 「何を言う! 陸奥はそのままでいい! わたしは……その……今の陸奥が好きだぞ /// 」

陸奥 「あら、ありがと♪ 」

長門 「う、うむ……もちろん提督も陸奥のことが…………むむ? むむむ? 」

陸奥 「どうしちゃったの、難しい顔して? 」

長門 「い、いや、その…………なぁ陸奥、一つ聞きたいんだが」

陸奥 「? なあに? 」

長門 「その……陸奥はもしかして……提督のことが、その……好き…………なのか? 」

陸奥 「? そうよ? なあに、気づいて無かったの? 」


長門ってば、いつもそばにいるのに、こういうことはほんとに全然ねぇ。





長門 「な! なんだと! そ、それはいかんぞ! いかんいかんいかんっ! 」

陸奥 「どうしちゃったの、大きな声だして? わたしは見た目もちゃんと大人だし、何も問題ないじゃない。そもそも、ケッコンカッコカリなんてシステムがあって、どの艦娘とでもケッコンできちゃうわけだし…… 」

長門 「し、し、しかしだな! 仮にも司令官たるものが部下となど…… 」

陸奥 「艦娘は全員、提督の部下なんだけど…… 」

長門 「ぐ……ぐぬぬ……と、とにかくダメだぁぁ」

陸奥 「はぁ、困った長門ねぇ」



コンコンコンコン



長門 「提督め……駆逐艦だけでなく陸奥に手を出すなど、この長門がゆるさんぞぉぉ」

陸奥 「あらお客様かしら? はぁーい」





長門 「聞け! 人の話を聞かんかっ! 」


ガチャ


陸奥 「はーい、どなたー? 」

リットリオ「こんばんは、突然ごめんなさい」

ローマ「こんばんは」

陸奥 「あら二人ともこんばんは。どうしたの? 」

リットリオ「この間、お食事をごちそうになったお礼に、ワインをお持ちしたんです。二人で一本ずつですけど……。わたしからはこの赤を」

ローマ 「わたしからはこっちの白を。お口にあうといいのだけれど」

陸奥 「あら~♪ いつも日本酒だから嬉しいわー。良かったら一緒に飲んでいかない? ワインのことも教えてほしいし」

リットリオ「あら、いいですね♪ じゃあおじゃましましょうか」

ローマ 「でも姉さん、なんだか長門さんが叫んでいるように聞こえるんだけど…… 」

陸奥 「あははは♪ その話も一緒にしましょ♪ 」





長門 「というわけなんだ。二人からも何か言ってやってくれ! 」

リットリオ「まぁ! 陸奥さんがラブ提督なんですね! 素敵ですね! 」

長門 「なにっ! 」

ローマ 「男の趣味はともかく、恋愛は別に悪いことじゃないですよ? 」

陸奥 「でしょぉ。ふふーん、長門の考えが古いのよ♪ 」

長門 「ばかな……上官と部下で恋愛など……前世ではありえなかったぞ……」

陸奥 「そもそも前世は上官も部下もみんな男だったじゃない……」

ローマ 「それで陸奥さん、具体的な進展は何かあるの? 何かアプローチとかしてるの? 」

陸奥 「なんだかローマが食いついてるわね。それがねぇ……提督はあんな感じだから、もう全然よ」

リットリオ「うふふ……ローマはこう見えて恋バナとか大好きなんですよ」

ローマ 「ちょ、ちょっと姉さん、やめてよ! 」





ローマ 「で、でも提督っていつも無口でお話が弾んだ試しがないわ。あの人のどこに惹かれるんだか…… 」

リットリオ 「あら? わたしは提督は素敵だと思うわ。すごく誠実で真面目で、サムライのようです」

長門 「むむむっ」

ローマ 「そんな、姉さんまで…… 」

陸奥 「リットリオは分かってくれるのね♪ 」

リットリオ「はい♪ でも……もう少しこう……地中海的だと嬉しいんですけど♪ 」

長門 「地中海的というと? 」

リットリオ「イタリアには多いんですけど……情熱的な感じです。『海よりも深く君を愛している!』みたいな……」

陸奥 「あら素敵っ」

ローマ 「ふんっ。実際はスケベな男ばかりですよ。まぁでもそういう意味では、提督は確かに、そういう軽薄な男たちとは違う感じですね。セクハラとかもされないし」

リットリオ「わたしは地中海的な挨拶をされたりしてもいいけれど♪ 」

ローマ 「もう! 姉さん、はしたないわよっ」

陸奥 「地中海的な提督ねぇ……はぁ、見てみたいけど絶望的だわ…… 」





ローマ 「提督が駆逐艦が好きだっていうのはよく分かりませんけど……。リベのハロウィンに付き合わされた時は、提督は小さい子に優しいなって思ったわね、確かに」

長門 「ああ、ハロウィンの仮装をしていたときか」

リットリオ「ローマもリベにせがまれると断れないんですよ。それでイヤイヤ仮装して……うふふ」

ローマ 「姉さん、余計なこと言わないでっ」

陸奥 「うふふ……二人が仮装して執務室に来た時、提督ってば、リベちゃんにがおがおされて、必死にお菓子を探してたのよね」

ローマ 「ふふっ。慌ててて面白かったわ」

陸奥 「それに……ローマも衣装がかわいいって褒められて、リベに付き合ってやって優しいなって言われて、それで真っ赤になって言い訳を……」

ローマ 「/// わーーーわーーーー」

リットリオ「あらぁ? 執務室から出てきた時に真っ赤だったのはそういう訳なのね。ローマも人のことは言えないわね♪ 」

ローマ 「ち、違うから! わたしは急に褒められてびっくりしただけだから! 」

長門 「提督……わたしと似たタイプだと思っていたのに……ひどい女たらしだったとは……見損なったぞっ」

陸奥 「あははは、何言ってるのよ長門。提督が女たらしだったら、もう愛人の1ダースぐらいはいるはずよ。ほんっと、朴念仁なんだから……。でも確かに、長門が男の人だったら、同じような朴念仁になりそうね♪ 」

リットリオ「うふふ、そうかも知れないですね」

長門 「ぐぬぬ……」





ローマ 「ま、まぁ、話を戻すと、陸奥さんは提督がろr……失礼、駆逐艦ぐらいの子が好きで大人の女性には興味が無いんじゃないか?と疑っていると……」

陸奥 「まー、ぶっちゃけるとそうねぇ」

リットリオ「上官の話なのに、ぶっちゃけすぎです……」

長門 「駆逐艦を愛するのはふつうの事……しかし提督がそうだとするとやはり問題が……ブツブツ」

陸奥 「でも、実際手を出してとか云々じゃないのよ。気を使ったり優しくしたりする相手が駆逐艦に偏っているというか……」

リットリオ「でも、そんなことを言ったら、いつもそばに居て一番仲良くしてるのは陸奥さんや長門さんですよね? 」

ローマ 「そうね。それに、もし疑惑が事実なら、秘書艦には駆逐艦を指名するはずだもの」

長門 「初代秘書艦は五月雨だったが、そもそも初期艦は駆逐艦しか選べないはずだな」

陸奥 「うーん……じゃあわたしの考えすぎかしら? 」

リットリオ「優しい人ですからね。きっと小さい子相手には、より気を使ってしまうんでしょう」

ローマ 「そうね。リベも随分なついているようだし」





リットリオ「あとはそうですね、一つ思い当たることがあるのですが」

陸奥 「お、なあに~? 」

リットリオ「わたしたち大型艦は、出撃で旗艦にならないかぎり、提督執務室に行く機会ってほとんどないですよね? 」

長門 「ふむ……そうだな、遠征に行く機会もほぼないから報告もないし……言われてみれば重巡以上の艦娘とは出撃で顔を会わせるぐらいだな」

ローマ 「そうね。わたしも提督とお話した機会なんて数えるほどしかないわ」

リットリオ「でも、駆逐艦の子たちは遠慮がないから……最近は執務室に遊びに行ったり、遠征に出た全員で報告に行ったりしてますよね。そういう、コミュニケーションの機会が多いかどうかの差もあるんじゃないでしょうか」

陸奥 「そうねぇ。顔を会わせて話をすれば色々気づくことも多いし、それで気になって世話を焼いたり優しくしたり……なるほどね」

長門 「ああ、でもそれも変わってきているのではないか? 先日も金剛型4姉妹で遊びに来て、提督をお茶会に誘ったりしていたが……」

陸奥 「そういえば、隼鷹と千歳と那智で、提督を呑みに誘いに来てたわねぇ……」

リットリオ「そうなんですかぁ。最近は提督も、地中海的とまでは行きませんが随分フレンドリーになってきたし……わたしたち海外艦も、執務室に遊びに行っても平気でしょうか? 」

陸奥 「提督は、海外艦とか気にしたことも無いわよ~」





リットリオ「そうですか……じゃあ美味しいパスタを作って差し入れに行こうかしら……」

ローマ 「姉さん、本気なの……? ほんとに本気……? 」

リットリオ「あら、ローマも一緒に行くのよ。リベも誘ってみんなで行きましょうか」

ローマ 「わ、わたしも行くの!? 」

リットリオ「もちろん、作るところから一緒によ。一緒に作って、それを提督に食べていただくの♪ 」

ローマ 「あ……う……わ、分かったわ」


陸奥 「あらあら、ライバルが多くて大変だわ、わたしも♪ 」

リットリオ「うふふ……提督の競争率は高そうですね」

長門 「ち、鎮守府の風紀が……い、いや、まだ大丈夫だ……わたしがしっかり監督すれば……」


わたしの恋愛的にはちょっと複雑なところだけど……。でも、みんなが提督に好意を持って近づいて来てくれるのは、きっと幸せなことよね。こうしてあの人の悩みや重荷が少しでも軽くなってくれると嬉しいわ。

もちろん……恋愛で負けるつもりはないけれどね♪




本日分は以上となります。次回は少し開いてしまって恐縮ですが5月2日(月)の更新予定です。
前回が霞のちょっとシリアス話で(てか、霞ママすごい人気ですね)、今回はうってかわって女子会でした。個人的にはイタリア戦艦姉妹は大好きです。あ、リベも好きです(小声

それではまた次回、よろしければまた是非お越しください。


がおがお。すみません、今日更新予定でしたが間に合いませんでした。明日にはなんとか。
許すまじGW……

56 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/23(土) 00:06:17.33 ID:2vN2clFz0
メモで書いてるから55までレスきてるとは思ってもみなかったwwwww
はえーよw

提督「ほら、間宮券だ」

陽炎「しーれーいーかーん?」

提督「何だよ、高価なもんだろ?」

陽炎「確かに高価だけどさぁ~……あーもういいや、今日は疲れちゃったから間宮さんのところで甘味食べて寝るよ」

提督「おうそうしろ……ところで陽炎?」

陽炎「なに?」

提督「来週にはたくさん間宮が手に入るかもしれんぞ?」

陽炎「……はぁ?それってどゆこと?」

提督「明日には説明するよ。ほら、今日はお疲れさんってことだ」

陽炎「全く意味わかんないけど……はーい」



提督「……あいつなら、あの3人を止められるかもしれないな」

提督「……人間性を捧げよ……か、あいつらは果たして救えるのか……」

提督「大丈夫だろうな、さてと、執務を終わらせるその前に磯風のところに見舞いに行くかな……」

57 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/23(土) 00:08:58.72 ID:2vN2clFz0
みなさまお疲れ様でした。



よろしかったらこちらも書いてますのでぜひ参加してください

陽炎「ダークソウル3?」提督「陽炎型は強制参加な」
陽炎「ダークソウル3?」提督「陽炎型は強制参加な」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460706468/)

html出してきます

101 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/23(土) 01:07:00.08 ID:2vN2clFz0
陽炎

102 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/23(土) 01:08:12.71 ID:2vN2clFz0
ksk

131 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/04/23(土) 01:45:52.94 ID:2vN2clFz0
荒らし止めなよ
迷惑じゃないの?

201 ◆bcl3OxnGHI sage 2016/04/23(土) 21:40:51.18 ID:2vN2clFz0
今日の更新はお休みさせていただきます


荒らされてるから気の毒だと思ってたらこいつ自演作者じゃねえか
これは荒らされて当然だし荒らしはもっと荒らせよ



++++++++++

 Side 曙

++++++++++





――――― 港


曙 「じゃあ報告行ってくるわ」

漣 「たまには漣も行こうかなー」

曙 「今日の秘書艦は長門さんよ」

漣 「行ってらっしゃい! 」

曙 「ったく……お調子者め」

朧 「でも、長門さんはすっかり優しい感じになったし、そんなに嫌がらなくてもいいのに」

潮 「漣ちゃんはねー。長門さんから、提督のことをご主人様って呼んじゃ駄目って言われるのが困るんだよね~♪」

漣 「そーそー。今更気にしなくてもいいのに」

朧 「真面目な人だからね」

潮 「曙ちゃんは、長門さんがいる時は、クソ提督!って言わないの? ご主人様よりずっと叱られそうな呼び方だけど…… 」

曙 「叱られるから呼ばないようにしてるわ」

漣 「なになに~、じゃあ司令官さまぁ~とか呼ぶの!? 」

曙 「そんな訳あるかっ! なるべく呼ばないようにしたり……『あんた』とか……そのぐらいよ」

漣 「それも叱られそうじゃん。それならさぁ、天津風みたいに呼べばいいんだよ」

曙 「天津風はクソ提督のことどんなふうに呼んでたっけ? 」

漣 「あ・な・た って呼んでるよ! 新妻風(゚∀゚)キタコレ!! 」

曙 「あほあほあほっ!! 」





――――― 提督執務室


コンコンコン

長門 「……誰だ」

曙 「曙です。報告にうかがいました」

長門 「そうか、入ってくれ」


ワーーワーー


島風 「ぴゅーーん」

秋津洲「それでね、大艇ちゃんが……」

青葉 「ネタが無いんです、ネタが! 」

最上 「おやつの時間はまだかなぁ」

酒匂 「はやくおやつ食べたいぴゃん! 」

卯月 「ぴょん! 」





曙 「……」

長門 「すまんな。最近、午後休憩前になるとこのような有様でな……(ズキズキ)」

提督 「まぁ、休憩時間には好きに遊びに来て良いと言った以上は責められんだろう」

曙 「まったく……あ、そうそう、遠征は大成功ね」

提督 「ありがとう。お疲れ様」

曙 「お疲れはいいけど……あんた、なんだかすごく疲れてない? 」

長門 「曙、提督に対してそのような呼び方はイカンと何度も……」

提督 「長門、それはもう言うな。言い出したらきりが無いしな……」

長門 「しかし、示しというものがだな……」

提督 「気にすることはない。鎮守府には俺たち以外誰もいないんだからな。それで曙、心配してくれるのはありがたいが、俺は特に疲れていないぞ。君たちと違って出撃するわけじゃないからな」


ぎこちなく笑うクソ提督。……ふんっ。そんなんでこの曙様の目をごまかせると思ったか!


曙 「まぁいいわ。それじゃあね」

長門 「これからおやつ休憩だが、曙は食べていかないのか? 」


……本当はそれを目当てに来たんだけど、この混雑じゃね……


曙 「もう満員みたいだもの、やめておきます。では失礼します」





――――― 少し後 第七駆逐隊の部屋


潮 「ふーん、そんなに集まってるんだぁ」

漣 「噂には聞いていたけどすごいね」

朧 「でもさ、それって例の淑女協定違反にはならないのかな? 」

曙 「一応、執務中の休憩時間だし、クソ提督自ら遊びに来て良いって言ったわけだから、許容範囲なんじゃない? 」


淑女協定……クソ提督が一人キャンプをしていることが発覚した時に結ばれた協定。クソ提督がそこまでして一人静かな時間を求めていると知ってショックを受けたあたしたちは……クソ提督の邪魔をしないことを約束した……抜け駆け禁止の意味も含めてだけど。


朧 「でも、また執務室が賑やかになったのは良いことだね」

曙 「まぁ……ね」

漣 「一時期はほんとに寂しかったからね」

潮 「わたしもまたおじゃましようかな……今度は怖がったりしないように……」

曙 「……」


確かにそうなんだけど……でも、あの疲労が色濃く出た顔が気になった。

着任したてのあの頃……クソ提督もまだ自然に笑っていた賑やかな日々……。今の執務室は確かにあの頃みたいなのに……あいつの顔は全然あの頃と違う。そんな気がしてしまう。

まったく……どうしていつも心配させるんだ、ほんっとクソ提督!





潮 「……曙ちゃん、また何か心配事? 」

曙 「うぇ!? な、なによ」

漣 「また顔に出てたよー」

朧 「話だけ聞くと良くなったように思えたけど……そうでもないの? 」

曙 「……ちょっと気になるだけよ。まだわかんないわ」

潮 「ふぅーん。良くわからないけど、がんばってね!(ぐっ)」

曙 「はいはい、程々にがんばるわ」


そうだ……あたしにとっての潮みたいな……。そういう存在であろうと思うなら立ち止まってなんかいられない。





――――― 夜 長門と陸奥の部屋


コンコンコン

長門 「来客か。最近多いな」

陸奥 「ほんとね~。はーい、どなたー?」

曙 「曙です。少しお時間を頂けませんか? 」

ガチャ

陸奥 「いらっしゃい。どうぞ、はいってはいって」

曙 「あ……はい、失礼します」

長門 「曙か。どうした? 」

曙 「いえその……秘書艦のお二人にお話を聞きたくて」

陸奥 「そんな堅苦しくしないで~。さ、お茶お茶」





陸奥 「はい、お茶よ。それで、どうしたの? 」

長門 「わざわざ我々の部屋に来るぐらいだ。重要な話なのだろう? 何かトラブルか?」

曙 「いえ! はっきりと何かあるわけでは無く……その……」

長門 「? 歯切れが悪いな」

陸奥 「うふふ……長門、駄目よ。曙ちゃんが相談に来るなんて、提督絡みのことに決まってるじゃない」

曙 「!! そ、それは……そのぉ……」

長門 「? 提督の話か。なんだ、呼び方をちゃんとすべきかとかそういうことか? 」

陸奥 「もうっ、長門はちょっと黙ってて。ごめんね曙ちゃん。提督のことで何か相談よね? 心配なことでもあるのかしら?」

曙 「その……はい……。いえその、クソ提督が心配とかそういうわけでなくて、司令官の様子が変だと落ち着かないですからっ! 」

陸奥 「うふふ……じゃあまずは、何が心配……気になるのか、話してくれる? 」

曙 「……はい。その……クソ提督の最近の様子なんですけど……。日に日に疲れが酷くなっているというか、そういう風に見えるんです」

陸奥 「うん、それで……? 」

曙 「でも、あいつが朝から晩まで仕事三昧なのは今に始まったことじゃないですよね。だから……最近の変化が原因なんじゃないかって」

長門 「ふむ……確かに少し疲れ気味には見えるが……やつれているわけでもないし、あまり気にしていなかったな」





陸奥 「続けて」

曙 「最近の変化といえば、執務室に大勢が押しかけるようになったことです。それが原因なんじゃないかって」

陸奥 「……わたしもほぼ同意見ね」

長門 「なるほどな。確かに大勢を相手にして大変そうだ」

陸奥 「わたしは大勢でワイワイすると元気が出るけどねー。この辺は人それぞれだものね」

曙 「あたしは、身近な人じゃないと緊張して疲れるタイプですね」

陸奥 「なるほど。だから提督もそうなんじゃないかって心配してるわけだ♪ 」

曙 「そういう……わけじゃ……」

長門 「ふむ……そういうことであれば、やはり休憩時間であっても執務室に遊びに来るのは禁止にすべきだろうか」

曙 「……」


……あいつの孤独が心配で……でも今度はまたせっかくの賑やかさを失うような話をして……本当にこれでいいの?





陸奥 「わたしは反対。提督が自分でそうしたいって言ったのよ。尊重すべきだわ」

長門 「しかし、それで提督が苦しんでいるのだぞ? 」

陸奥 「うーん……。提督は変わろうとしてる。出来なかったことを頑張ろうとしている。その時に、疲れたり大変だったりするのは当然だと思うの。だけど、それが本人の望みなのであれば、応援するべきじゃないかしら? 」

曙 「あいつは……変わろうとしてるんですか? 」

陸奥 「わからないけどね。そうなんじゃないかって思ってるわ」

長門 「陸奥の言うこともわかる。では……しばらく様子を見るが、提督がどんどん疲れて行くようであれば力ずくでも止めるべきだと思う。それでどうだ? 」

陸奥 「うふふ、そうね。長門の力ずくを見てみたい気もするし♪ でも、しばらくは見守りましょ。曙ちゃんもそれでいいかしら? 」


……やっぱり、いつも一緒にいる秘書艦だもの。よく分かってる。


曙 「わかりました……」





――――― 少し後 3階廊下


いつもの場所から森を見下ろす……。焚き火の明かりは見えない。今日は行っていないのかな? ていうより、まだ時間が早いわね。

長門さん陸奥さんとの会話を思い出す。最終的には様子見なわけだけど……身近な秘書艦二人がちゃんと分かっているということで安心しなきゃよね。


曙 「まぁ……ね……。何かをがんばるなら、疲れたり苦労したり……当然よね」


なんとなくつぶやく。そう、そんなの当たり前の事。勝利を得るためにはリスクも背負うし、強くなりたければ厳しい訓練を積む。あいつがやってるのはそういうことなんだろう。だけど……


曙 「もっと上手くやるとか、気楽にがんばるとかあるじゃない……」


生真面目に、真正面から地道に取り組んで、ひたすら耐えてるような……そんな気配ばかりを感じる。ほんっとクソ提督!


曙 「大人なんだから、もっとしっかりしてよね…… 」


まったく……あいつがあんなだから……寝ても覚めてもあいつの心配ばっかり……だからクソ提督なんて呼ばれるのよ! あーもう、クソ提督クソ提督!


曙 「あんな疲れた顔してたのに、きっと今も…………。あーー、もう!」


ダッダッダッダ





――――― 提督執務室


ドンドンドン


提督 「ビクッ 誰だ!? 」

曙 「曙よ、開けるわよ! 」


ダァン


提督 「曙か……許可無く扉を開けるのは感心しないぞ」

曙 「なによ……何かやましいことでもしてたわけ? 」


クソ提督がさり気なく隠そうとしてるのは……。ふんっ……大戦の艦艇資料ね。こんな時間まで居残りで、やっぱり艦娘の前世を勉強してるんだ?


提督 「それで……どうしたんだ、こんな時間に? 何かトラブルでもあったのか? 」


心配そうな顔をするんじゃないわよ! こっちがあんたの心配してんのよ!


曙 「違うわよ。駄目なあんたを叱りに来ただけ」

提督 「? 」

曙 「あんたね。ここんとこ凄い疲れた顔してるわよ。昼間は引き下がってやったけど、そんな疲れた顔して、ごまかすなんて無理だからね」

提督 「…… 」

曙 「あんたは人間なのよ? バケツぶっかけて、ハイ元通り!ってわけにいかないんだからね! 」

提督 「…… 」

曙 「……はぁはぁ」


息切れしながら思う。あたし……なにやってんだろ。

それに、夜の執務室に押しかけるって、これは淑女協定違反よね……。勢いで来ちゃったけど……あたし、ほんとになにやってんだろ……。





提督 「……すまないな曙。ありがとう」

曙 「は、はぁ? /// な、なにお礼言ってんのよ! 」

提督 「心配をかけた。俺もまだまだだな」

曙 「べっ、別に心配なんかっ! あんたはあたしたちの司令官なんだから、倒れられたりしたらあたしたちが困るのよっ。そういうことを言ってるの! 」

提督 「そうだな……。もっと精進して……曙に認められるような司令官になりたいと思う。本当にまだまだだな、俺も……」

曙 「ふ、ふんっ! そう思うなら、休むべき時にはちゃんと休むのよ、このクソ提督っ! 」

提督 「ああ……そうさせてもらうよ。ありがとう」

曙 「/// だからっ……お礼を言うようなことじゃないって言ったでしょ! じゃあねっ!」


バタン


足早に部屋に向かう。なんかもう興奮しちゃって頭がグルグルしていた。協定を破ってしまったこと。言いたいことをはっきり言ってしまったこと。照れ隠しでまたきつい言い方をしてしまったこと。

……やろうと思えば、あいつと二人きりになれること……二人で話せること……あいつの心を聞けること……。

そんなことを考えていた。




大変遅くなりまして、本当に申し訳ありません!! ようやく更新出来ましたっ。
次回なのですが、まだリアルがアレなので、数日後には……ぐらいで気長にお待ちいただけると幸いです。

それではまた次回! よろしければまたぜひお越しください。



**********

 Side 陸奥

**********





――――― 12月 鎮守府湾内 猫島


提督 「ふぅ、ごちそうさま」

陸奥 「おそまつさま。はい、お茶」

提督 「ありがとう」(ズズー)


休日に提督を連れ出すのはもう何回目かしら。今日はひさしぶりに、ちょっと強引に連れ出しちゃった。提督は最近さらに疲れ気味だから、ここはわたしがひと肌脱がないとね!


陸奥 「ここに来るのも久し振りね」

提督 「そうだなぁ。最後が11月頭ぐらいだったか。とはいえまだ1ヶ月ぐらいか」

陸奥 「そうね。ああっ、もう師走かぁ。1年なんてあっという間ね」

提督 「そうだなぁ。いつの間にかって感じだな」

陸奥 「でも……常夏の島だから仕方ないけど……季節感まるで無いわよね! 」

提督 「1年中ほとんど気温が変わらない島だからなぁ……」





陸奥 「ま、いつでもハイキングや海水浴ができるのは悪くないけどね。さ、提督、膝枕かもんっ」

提督 「えっとだな陸奥。ここに来ることで十分リラックスさせてもらってるから、そんな毎回膝枕しなくてもいいんじゃないだろうか……」

陸奥 「もうっ。往生際が悪いわねぇ。やっぱり力ずくがいいの? 」

提督 「……はぁ……参った」


ゴロン むにゅ


陸奥 「そうそう、いい子いい子(なでなで)」

提督 「むぅ……」

陸奥 「うふふ、ご不満? 」

提督 「いや……気持ち良いよ」

陸奥 「よろしい♪ 」


提督を癒やすというより、わたしの楽しみでやっているような感じよね♪





提督 「はぁ~」

陸奥 「ふふ……ほんと、お疲れよね。心配して話を聞きに来る子もいたのよ」

提督 「そうなのか……。うーん、俺もまだまだだな」

陸奥 「疲れが顔に出ちゃうのはしょうが無いわよ。元々苦手なことを頑張るのは大変だものね」

提督 「はぁ……まったくだよ。……つまらない愚痴だが聞いてもらっていいか? 」

陸奥 「もちろんよ♪ 今日はそういう日でしょっ」

提督 「ありがとう。そうだな……俺は艦娘のみんなが好きだ。それは絶対に間違いないんだが……だがな……やっぱり人付き合いは疲れるんだよ! 」

陸奥 「うふふ……ほんとに大変そうよねぇ」

提督 「艦娘Fと話している。そこに艦娘Sが来て話しかけてくる。Sと話をするとFは寂しそうにする。Fと話してるとSは無視するなと怒る。なんだかな、こういうこと一つ一つがな……みんな一体どうやって上手くやっているんだろうか……本当に不思議だ」

陸奥 「あははははは! 昨日の吹雪ちゃんと島風ちゃんね。ほんと、難しく考えちゃうと大変よねぇ」

提督 「しかもな……怒ったり寂しそうにしてくれるならまだわかりやすいが……『大丈夫です(ニッコリ)』と言われるが不穏なオーラが見える、なんてこともあるからなぁ」

陸奥 「うふふ……色男は大変ね♪ 」

提督 「なんだよそれ……」





陸奥 「それを言ったら、この間の阿賀野型が遊びに来た時は笑ったわ」

提督 「笑い事じゃないぞ……」

陸奥 「あれのきっかけはなんだったっけ? 」

提督 「阿賀野がな……提督さんはわたしのことが一番好きだからしょうが無いけどみたいなことを言ったら、酒匂が『ぴゃん! 司令が一番好きなのは酒匂だよね?』って詰め寄ってきて……」

陸奥 「そうだったのね♪ それで、仲裁に入った矢矧が『提督はわたしを一番大切にしてるんだから、二人が争うことは無いよ』みたいなことを言ったんだっけ?」

提督 「ああ……それで3人に詰め寄られて……能代が間に入って叱ってくれなかったらどうなっていたことか……」

陸奥 「うふふ、すっかり懐かれちゃったわね」

提督 「ああ。好意的に接してもらうのは嬉しいんだが、こんなに大勢の艦娘と上手に付き合うというのは、俺には荷が重すぎるよ……はぁ」

陸奥 「そんなに気負うことないんじゃない? 提督だって一人の人間なんだから、いつでも誰とでも仲良く、相手を満足させられるっていう訳にはいかないわ」

提督 「……そうだな、そうかもしれない。だが、陸奥や……そうだな、五月雨とか、プリンツとか、いつでも誰とでも仲良くしている人達を見るとな。俺もそうなりたいと思うんだ……。ま、持って生まれて性格が違うから難しいとは思うんだが……」

陸奥 「あら、褒められちゃったわ♪ でもね、わたしなんて難しく考えてないわよ。きっと五月雨ちゃんやプリンツもそうだと思うけどね。ただ楽しく生きてるだけよぉ」

提督 「自然とそういう風にできるのが才能だよなぁ」





陸奥 「そうねぇ。大人の落ち着きと余裕……鳳翔さんみたいな。ああいう感じを目指したほうがいいんじゃないかしら? 」

提督 「そうだな、鳳翔さんは決して口数が多いわけじゃないのに、物静かにニコニコして、それだけですごく暖かい感じだよなぁ」

陸奥 「ああいうのを包容力って言うのかしらね」

提督 「年の功なのかな。俺は全然自信ないぞ……」

陸奥 「年の功ね……。鳳翔さんに言ってやろ♪ 」

提督 「……これ以上問題を増やすのは勘弁してくれ。いや、ほんとに……」

陸奥 「うふふ♪ 」





陸奥 「ね、提督? 」

提督 「ん? 」

陸奥 「みんなから好意を受けるのは、嬉しいけど荷が重いって言ってたけど……。それでもがんばるの? 」

提督 「……そうだな。結局、皆の幸せのためにできることを見つけるには、もっともっと皆との距離が近くなければいけない。そういう結論に達したからこそ頑張っているわけだが」

陸奥 「ええ、そうね」

提督 「しかし、距離を近くしようとしただけでアップアップしている……というのが現状だな」

陸奥 「うふふ……ほんとにそんな感じね」

提督 「しかも……そんな苦労をしても、なかなか分からないんだよ」

陸奥 「……」

提督 「休憩時間と就業後の少しの間だけとはいえ、毎日のように多くの艦娘と話すようになった。これまで知らなかった色々な面を見ることが出来た……と思う」

陸奥 「ええ、そうね」

提督 「だがなぁ……それでも分からない。今楽しそうに笑ってくれているが、本当に幸せなのか? 幸せでないとしたら何が原因か……難しいものだな」





陸奥 「提督、焦らないで」

提督 「そう言われてもな……」

陸奥 「そうねぇ……提督、わたしたち艦娘はみんなあなたのことが大切よ。それは分かってくれる? 」

提督 「ああ……ありがたいことだ」

陸奥 「大切な相手には幸せでいてほしいって思うわ。提督がわたしたち艦娘の幸せを願ってくれるのと同じようにね。でも、わたしたち百数十人がそう思って頑張っても、現実問題として提督は今も苦しんでるわよね。すごく幸せハッピー!っていう風にはとても見えないわ」

提督 「それは……立場も違うからな」

陸奥 「同じよ。大切な相手に幸せでいてもらいたいという気持ちの話なんだもの」

提督 「……」

陸奥 「そもそも、何の悩みも心配もない完全な幸せなんて無いのかもしれないわね。それでも、できることを頑張る……そういうものだと思うわ」

提督 「陸奥は大人だな。そうだな、もっともだと思う。やはり俺が欲張りすぎるのかもな」

陸奥 「欲張りというより焦りすぎに見えるかも。わたしたちはずっと……きっと死ぬまで一緒なんだもの。慌てることは無いわ。ゆっくりと仲良くなったり、できることをすれば良いもの」





陸奥 「それにね」

提督 「? 」

陸奥 「執務室に遊びに行って提督に会えるようになっただけで、みんな幸せ度がUPしてるわよ! それだけでも十分な成果じゃない」

提督 「そうだといいんだが……」

陸奥 「うふふ……そのせいで提督の気苦労が絶えないわけだから……提督の幸せはDOWNしちゃってるかもね♪ 」

提督 「ぐぬぬ……いや、別に嫌なわけじゃないんだぞ? ただ上手く出来てないだけで……」

陸奥 「あは♪ それもだんだん慣れていくわよ。それまでは大変だと思うけれど……愚痴くらいは聞くからね♪(なでなで)」

提督 「……ありがとう、がんばるよ」



わたしたちは艦娘に転生した。そして、大切な姉妹や仲間たちと共に戦って、一緒に暮らして笑い合って……それだけでどうしようもなく幸せなのよ。

そして、わたしたちの幸せの源泉である、大切な大切なあなたを取り合って、競い合ったり喧嘩したり……うふふ、それすらも幸せの一部。

そういうこと、あなたもいつか分かってくれるのかしら……そんな日が来るといいな……




本日分は以上となります。次回はまた未定なのですが、数日中には!
お話も終盤ではあるのですが、おそらく後5回くらいかかります。気長にお待ち頂けますと幸いです。

それではまた次回!



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 Side 曙

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――――― 12月下旬 第七第駆逐隊の部屋


漣 「というわけで、漣はがんばってクリスマスケーキを作ろうと思うんだよ! 」

朧 「お~! がんばるねっ」

曙 「なにが『というわけで』なのかはわかんないけど、別にいいんじゃないのー」

潮 「ケーキいいなぁ……」

漣 「チミたち、何を人事みたいに言っているんだね。みんなも手伝うんだよ」

曙 「何よそれ……別にいいけど、あたしケーキなんて作ったこと無いわよ」

潮 「わたしも無いよ~」

朧 「当然、あたしも食べたことしか無いよ」

漣 「それは大丈夫! ネットでバッチリ作り方調べたし、比叡さんみたいに隠し味入れたりしないからっ! 」

曙 「ああ……レシピ通りに作らずに、謎の工夫をしちゃうのが敗因だもんね……」

漣 「そーそー! じゃあ、材料集めからみんな手伝ってね」

潮 「はーい! 」


常夏の島だから季節感なんてまるで無いけど、そういえばもうクリスマス。あたし達の時代はクリスマスのお祝いなんてしなかったからピンと来なかったんだけど、金剛さんや海外艦のみんなが中心になって、クリスマスが祝われるようになってきたのよね。





朧 「じゃあ七駆はみんなでクリスマスケーキを作るというのでいいね」

漣 「美味しいケーキ作って、ご主人様をびっくりさせよう、おー! 」

潮 「おー! 」

朧 「朝潮型なんかは、みんなで何かプレゼントを作ってるらしいよ」

潮 「金剛型のみなさんはティーセットを贈るって言ってたよ~」

曙 「そ……そうなんだ……」


みんなもうプレゼント用意してるのね。あたしはどうしよう……いきなりプレゼントなんて変に思われるかもって悩んでたけど……


朧 「曙は何をプレゼントする予定なの? 」

潮 「手作りしてる風じゃないし、これから買いに行くのかな? 」

漣 「あ、自分のプレゼントで忙しかったら、ケーキ手伝いはてきとーでいいからね」

曙 「なんであたしがプレゼント贈る前提になってるのよ! 」


くっ……





――――― 翌日 街の雑貨屋


曙 「むむ、これが気に入ったんだけど……さすがに変かな……」

潮 「どうして? すごくかわいいよ! 」

曙 「あんたが使うんじゃなくてクソ提督が使うものなのよ! かわいいのは変でしょっ」

潮 「そうかなぁ。提督がかわいい枕を使ってもいいと思うけどなぁ」

曙 「……ほんとにそう思う? 」

潮 「うん! 」


悩みに悩んだ末、プレゼントはまくらにしようと決めて買いに来てみた今日。あいつ、ずっと疲れ気味の顔をしながら頑張ってるからね。ゆっくり眠れたらいいなと思うんだけど……


潮 「でも、これはペアなんだね。二つもらっても困っちゃうかな? 」

曙 「そ、そ、そうね。でも単体では売ってないみたいだから仕方ないわね! あたっ、あたっ、あたしが使うしか無いかな! 」





ペアのかわいい抱きまくら……。

あ、あいつ、変なこと考えないわよね……。例えば……あたしからのプレゼントだからって、まくらに『曙』って名前をつけて……抱きしめて寝るとか…………あ゛あ゛あ゛あ゛!! 変態クソ提督!!

はぁはぁ……今のはあたしのほうが変態だったわ……。落ち着け曙……ゆっくり眠るために寝具を贈るだけよ……他意はないんだから自然に自然に……


潮 「曙ちゃん、どうしたの……? 」

曙 「なんでもないわよっ! もう面倒だからこれに決定決定! 」


店員 「ありがとうございました~ 」

曙 「クリスマスっていうのは気軽にプレゼントを贈るイベントなんだから……別に特別じゃない……特別じゃない……ブツブツ」

潮 「へんな曙ちゃん。大きくて大変そうだから一つ持つよー」

曙 「大丈夫よ、軽いからっ」

潮 「そっか……。プレゼント、きっと喜んでもらえるよ!」

曙 「……ほんとにそう思う? 」

潮 「うん。だって提督、きっと支給品のせんべいお布団セットのまんまだと思うし……ふかふかまくらが気持よくてびっくりするよ、きっと! 」

曙 「そう……よね。ほんっと、寝具一つ揃えられないなんて、ほんと仕方のないクソ提督よねっ。それでしょうがなく用意してあげてるんだから! 」

潮 「くすっ……そうだね」

曙 「……なによ」





――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


潮 「曙ちゃん、早速使ってみるんだね、抱きまくら」

曙 「そ、そりゃあ、一応寝心地とか確認しておかないとでしょ、贈る側の義務としてね! 」

朧 「くすくす……そうだね、しっかり確認しなきゃね」

漣 「ぎゅうって抱きしめて確認しなきゃねぇ(・∀・)ニヤニヤ 」

曙 「ぐぬぬぬぬ……何よ、含みがあるわね。いいわ、おやすみっ」


パチン


ふにふにした抱き心地の抱きまくら。これ、ほんと気持ちいいわ。

耳の長いくまなのかうさぎなのか分からない不思議な抱きまくら。男の子と女の子のペアの抱きまくら。悩んだ末……あたしが男の子の方を使って、女の子の方を贈ることにした。

ほんとに……他意は無いんだからね!

その柔らかい体をぎゅっと抱きしめる。あいつは筋肉質だからきっと硬いんだろうな……それにこの子よりもっともっと大きくて……暖かくて……

あ゛あ゛あ゛あ゛!! 何考えてるの! 寝よ寝よ寝よ!!





――――― 12月24日 提督執務室


コンコンコン


提督 「どうぞ」


バターン


漣 「ご主人様、メリークリスマース! 」

曙 「はいはい、メリクリメリクリ」

朧 「提督、メリークリスマス」

潮 「提督、めりーくりすますです」

提督 「ああ、メリークリスマス。七駆もクリスマスモードか。すっかりクリスマスが定着したな、うちも」

朧 「気温は全然クリスマスっぽくないですけどね」

漣 「そんなことより、七駆みんなでクリスマスケーキ作ったんですよ! さ、どうぞどうぞ! 」

提督 「ケーキか……ありがとう、みんなで頂こう」

潮 「わーい! 」

曙 「あれ、長門さんは? 」

提督 「ああ、今ちょっとおつかいを頼んでいてな」

曙 「そう。じゃあお茶はあたしが入れる」

朧 「ありがと、曙」





漣 「お味はどうですか!? 」

提督 「うん、上手に出来てるな。美味しいよ」

潮 「よかったですー! 」


……クソ提督、笑ってるけど顔色がすごく悪い。いつもの疲れとは違うみたいだけど、体調でも崩してるのかしら?


朧 「うん、確かに美味しいね。味見はしたけど、ちゃんとケーキになってると、ちょっと感動する」

曙 「そうね。漣が作ったとは思えないくらい良く出来てるわ」

漣 「失敬な! ケーキも作れずしてメイドが名乗れようかっ」

潮 「漣ちゃん、メイドさんじゃないじゃん……」

漣 「さ、提督、もっと食べて食べて! 」

提督 「うぷっ……いや、十分頂いてるからみんなで分けて食べよう」

潮 「はーい! 」





漣 「はい、おそまつさまでした! 」

潮 「は~、おいしかった! 」

曙 「お茶おかわり入れたわよ。ちょっとクソ提督、ほんと顔色悪いけど大丈夫なの? 」

朧 「言われてみれば顔色があまり……お風邪ですか? 」

提督 「い、いや、大丈夫、なんでもないんだ」


バタン


長門 「戻ったぞ。……七駆が来ていたのか」

漣 「はい、おじゃましています! 」

長門 「ま、今日はクリスマスで仕事は入れないようにしているから構わないが……。提督、ほら、薬だ。……なんだ、また食べたのか」

曙 「……また? 」

提督 「あ、長門、そのだな……」

長門 「食べ過ぎで気持ち悪いというから薬を取りに行ったというのに、その間にまた食べているようでは意味が無い。少しは自重することだ」

漣 「食べ過ぎ!? 」

提督 「いやその、決してそういうわけでは」





長門 「今日はクリスマスだからな。朝から大勢が代わる代わる料理だお菓子だを持ち込んでな。いくらなんでも食べ過ぎだ」

潮 「そ、そうだったんですか……」

朧 「無理に食べていただいて……」

提督 「いや、違うんだ! 本当に美味しかった。ただ、朝から沢山食べているのも本当だから、薬でも飲んでおくかなと……」

漣 「もー、ご主人様ってば。言っていただければまた夜にしたのにっ」


怒りが……ふつふつと湧き上がるのを感じる……まったくこいつは……このクソ提督は……!


曙 「ばっっっっかじゃないの!!」

潮 「あ、曙ちゃん……」

曙 「遊びに来る艦娘にいい顔をするために疲れきっていたかと思えば……今度は差し入れを無理やり食べまくり!? あんた、艦娘の下僕か何かなの!? 」

提督 「……」

曙 「みんなは、あんたに機嫌を取ってもらいたくて来てるんじゃないわよ! 無理して喜んだ振りをして欲しくてクリスマスしに来てるんじゃないわよ! 勘違いもいい加減にしなさいよっ! 」

提督 「いや、そんなつもりは……」





曙 「そんなつきあい方しか出来ないのなら、まだ一人で閉じこもってた頃のほうがマシよ! ほんとに……どうして分かってくれないのよ、このクソ提督っっっ!!!! 」


とっさに……後ろに隠してたプレゼントを投げつける


ぼふっ


しーん……


提督 「曙……俺は……間違っているだろうか……? 」


顔面からずり落ちたプレゼントを両手で持ちながら……悲しそうな目でこちらを見てる提督。罪悪感がふつふつと湧き上がる……。でも……でも……!


曙 「間違ってるわよ! いい加減に分かれっ!! 」


溢れ出る涙を見られないように……背を向けて駆け出す……。みんなも……あたしも……ただあんたの幸せな笑顔が……見たくて…………どうして……あんたはいつだって……。

せっかくのクリスマスなのに……どうして……。




5月に書くクリスマスエピソード……。というわけで本日分は以上となります。

次回なのですが……今日これから5日間の出張になりまして……少し間が開いてしまうかもです。申し訳ありませんが、しばしお待ち下さい。

あと5スレとか死んじゃう! もう十分に十分に長くなってしまったので……。とは言えほんとに終盤ですね。
終わり方は最初から決めているとおりになりそうです。ご期待に添えるかは分かりませんが、よろしければ最後までお付き合いくださいませ。



――――― 深夜 鎮守府3階廊下


曙 「はぁぁ~~」


今日何度目なのかわからない溜息。

気まずいから七駆のみんなにも会いたくなくて……結局1日、あちこちをウロウロして時間を潰し……こうしてまたここに様子を見に来てしまった。


曙 「やっぱり……いた」


森のなかに小さな灯りが1つ。あいつはやっぱり一人キャンプをしている。落ち込んだり疲れたりすると森に行くっていうのはもう分かってる。今日は……今日もまたあたしのせい。


曙 「でも、あたしは絶対間違ったこと言ってないからね! 」


強気につぶやいてみたたところで……心のなかに広がるのは罪悪感と後悔ばかり。思い出すのは、あたしを見つめた悲しそうな目。

今はきっと……あの目で焚き火を見つめているんだろうな。そう思うと、心が苦しいぐらい締め付けられる。





曙 「まったく……しょぼくれてるんじゃないわよ!」


今すぐあそこに行って、そんな目をするな! あたしは間違っていない! そう言ってやりたい!


それから……ごめんなさいって……言いたい……。


でも、そんなの淑女協定違反だからダメダメ……という言い訳をして立ち止まる。

短気をおこしてあいつを悲しませたあたしに、あいつの大事な時間を奪う権利なんて無いよね……。


曙 「はぁぁ~~」


振り出しにもどる。そして森の小さな灯りを見つめ続けた。





潮 「曙ちゃん」

曙 「潮……どうしたのよ、こんな時間に」

潮 「もうこんな時間だもん。そろそろお部屋に帰って寝ないとだよ。ほら、帰ろ? 」

曙 「……」


潮がわたしの手をとって歩き出す。なんとなく抵抗する気も起きなくて、とぼとぼと歩き始めた。


潮 「提督、怒ってなかったよ。それより、曙ちゃんを悲しませたって、すごく心配してた」

曙 「うん……」

潮 「朧ちゃんも漣ちゃんも、心配してたんだよ」

曙 「うん……」

潮 「わたしも心配したよ」

曙 「うん……(ぽろぽろ)」

潮 「明日、提督に謝りに行こうね。一人が嫌だったらわたしが一緒にいくね」

曙 「うん……(ぽろぽろぽろ)」


部屋に戻って、布団に潜り込んで、抱枕を強く抱きしめた。この子の分身は、今日はきっと一人寂しくしてる。それはあたしのせいだった。





――――― 翌日夕方 提督執務室前


曙 「はぁぁ~~」


潮に促され、泣かれ、頭突きをされ……。観念して執務室に来た。まったく、まだお腹いたい……。あの子は手加減を学ぶべきね。でも……後押しありがとう。

執務は終わり、遊びに来たみんなも秘書艦も帰って、今は一人で執務室にいるはず。謝るチャンスは今しかない!


曙 「す~~~は~~~。よしっ!」


コンコンコン


提督 「はい」

曙 「は、はいるわよっ!」


ガチャ


陸奥 「ほらね、曙ちゃん来てくれたでしょ」

提督 「ああ……陸奥はすごいな、預言者みたいだ」

陸奥 「うふふ……提督が鈍いだけよ♪ 」


あれ、陸奥さんがまだ居る……


陸奥 「さ、入って入って。閉めるから」

曙 「は、はい」





**********

 Side 陸奥

**********





――――― 少し前 提督執務室


陸奥 「さて、今日の業務は終了。お客さんも帰ったし、お茶入れるわね」

提督 「ああ、ありがとう」


提督、今日はほんとに元気無いわね。長門から話は聞いてるけど……やっぱりショックだったのね。


提督 「はぁ~(ずずっ)」

陸奥 「提督、昨日のこと聞かせてくれる? 長門から聞いてるんだけど、なにせあの子を通すと細かな情緒が何も伝わらないから」

提督 「そうだな……陸奥に相談しようと思ってたから、まずは様子を話すよ」


…… 提督説明中 ……


提督 「そんなわけでな。また俺の無神経で艦娘を傷つけてしまったようだ」

陸奥 「長門ぉ。もうっ! 帰ったらうんと叱ってやるから! もー、ほんとにごめんなさいね、長門が空気読めて無くて。自分が何をしたか、全く分かってなかったわよ」

提督 「いや、俺が悪いんだ。長門に責任は無い」





提督 「それでな……また以前のように、業務以外では執務室への立ち入り禁止にしようと思う」

陸奥 「……本気? みんな悲しむわよ」

提督 「……」

陸奥 「……前に、霞ちゃんがここに来てお話した時があったわね」

提督 「ああ」

陸奥 「その時、霞ちゃんや曙ちゃんを行動の指標にしてるみたいな話をしてたわね。そういう理由なの……? 」

提督 「…………そうだ」

陸奥 「ふぅーん。じゃあ曙ちゃんが、これなら執務室に誰もいなかった頃のほうがマシだって言ったから、そうしようってことよねぇ」

提督 「そういうことだ」

陸奥 「提督ってほんと、アホねぇ……」

提督 「あ、アホ……? 」

陸奥 「提督がそういう人なのは知ってるけど……単純な言葉じゃなく、その裏にある意思とか気持ちを汲んであげないと、曙ちゃんみたいな素直じゃない子とは、いつまでも良い関係になれないわよ? 」

提督 「そう……だろうか? 」

陸奥 「そうよー。これまで何度もフォローしてきた陸奥さんを信じられない? 」

提督 「いや……信じてるが……」





陸奥 「曙ちゃんと直接お話しして、そういうことも含めてきっちり話せばいいんじゃないかしら。そもそも提督は、曙ちゃんが何で怒ってるかもよく分かってないんでしょ? 」

提督 「それは……俺が艦娘の顔色を伺うような行動をするのが気に入らないと……」


ほんとアホねぇ……。曙ちゃんかわいそ~。


陸奥 「ま、今日はきっと曙ちゃんの方から訪ねてくれるから、そしたらゆっくり話をしましょ」

提督 「……? 曙が来るのか? 」

陸奥 「当たり前よ。昨日、そういう喧嘩別れしてるんでしょ? ほんでもって、我らのアホな提督は曙ちゃんをフォローに行ったりしないし」

提督 「またアホ言われたか……」

陸奥 「悩んだ挙句、きちんと謝りにいかなきゃ!って思うはずよ。ほんと、アホな提督よりよっぽど大人よねぇ」

提督 「ぐぬぬ……」

陸奥 「あんまりにも遅いようならこちらから訪ねましょ。じゃあ、お茶のおかわりでも入れるわね」





コンコンコン


陸奥 「あら、もう来たみたい。早かったわね」

提督 「はい」

曙 「は、はいるわよっ!」


ガシャッ



陸奥 「ほらね、曙ちゃん来てくれたでしょ」

提督 「ああ……陸奥はすごいな、預言者みたいだ」

陸奥 「うふふ……提督が鈍いだけよ♪ 」


全く、世話のやける提督と曙ちゃんね。でも、不器用な二人が一生懸命距離を縮めてきたんだもの。今日こそきっと仲良くなれるわ♪

提督の言うところの預言者陸奥が保証しちゃう!




ぐったり。大変遅くなりました。出張疲れたよママン……。
さて、次回は多分明後日には更新できるかと。終盤ですのでどんどん進めたいなと思います。

それではまた次回!



陸奥 「はい、お茶」

曙 「あの……ありがとうございます」

陸奥 「本日終了の看板も出してきたから、時間は気にせずゆっくり話して大丈夫よ」

提督 「ああ、すまんな」

陸奥 「それから曙ちゃん。あなたが今日は提督と二人でお話しようと思って来たのは重々承知しているんだけど……」

曙 「べ、別にそういう訳じゃっ! 」

陸奥 「でもねぇ。鈍くて頑固な提督と、意地っ張りで恥ずかしがりな曙ちゃんだと、どうしてもすれ違うっていうのは、もう十分わかってるから」

提督 「……ぐぬぬ」

曙 「うう……」

陸奥 「だから、今日はわたしが仲人役を努めさせてもらうわ」


曙 「…………はい……その……多分そのほうがいいです」

陸奥 「はい、よろしくね♪」





提督 「……」

曙 「……」


……またこのパターン……と思ったら、提督ががんばりそう! しばらく見守ってみましょうか……


提督 「その、曙……昨日はすまなかった」

曙 「……すまなかったって、何よ……」

提督 「いや、俺の行動でまた君を不快にさせた……」

曙 「ふんっ! そうよ、その点ではあたしは謝る気は無いからね! ただ……その……短気を起こして怒鳴ったのは悪かったわ……」


うんうん、いい感じだけど……きっとまた曙ちゃんが爆発するわね


提督 「いや、曙が謝る必要はない。今後はちゃんと対応するから許してくれ」

曙 「対応するって……どうする気? 」

提督 「まだ相談中ではあるが……以前と同じように、業務以外での執務室立ち入りを禁止にしようと思う」


あーあ……ほんと、分かってないわねぇ


曙 「…………」

提督 「みんなとのコミュニケーション不足をなんとかしようと思っていたんだが、俺ではやはり制御出来なかったようだ。嫌な思いをさせて済まなかった」

曙 「あん……たは……(プルプル)」

提督 「?」





バァン!

曙 「ほんっとクソ提督! 馬鹿なの? アホなの? なんでそういう話になるのよ!! 」

提督 「え……? いや、その……」

陸奥 「はい、ここでストップ!! 」

曙 「何ですかっ!? 」

陸奥 「ここで曙ちゃんがカッとなって、提督はなぜ怒られているか分からず、それでイライラした曙ちゃんが飛び出す……こういうパターンよね? 」

曙 「ぐ……」

陸奥 「でもね、わたしとしては、そろそろ事情が知りたいの。だから曙ちゃん、ちょっとだけ抑えてくれる? 」

曙 「はぁはぁ……事情があるなら……確かにあたしも知りたいです。このクソ提督の口からどんな事情が飛び出すのか知りませんけど! 」

提督 「あっと……俺はどうすれば……」

陸奥 「ね、提督。昔みたいにみんなとの距離を縮めるために頑張ってたのに、曙ちゃんが怒ったから、やっぱりやめることにした。そういうこと? 」

提督 「いや、できることをもちろん頑張るつもりだが……執務室でのコミュニケーションはやめるかなと」

曙 「あ゛あ゛あ゛あ゛」





陸奥 「曙ちゃん、もう少しだけ我慢してっ。提督、それは例の『曙ちゃんや霞ちゃんを基準に行動を決める』っていう話から来てるのよね? 」

提督 「? ああ、俺は司令官としてのあり方に迷った時には、曙や霞……とりわけ曙を再優先にして行動指針としているから……」

曙 「……へ…………? あたしが基準……? 」

陸奥 「そうなのよ。提督は曙ちゃんを基準に司令部運営をしてるんですって。わたしとしては、どうして曙ちゃんが基準になったとか、それでどうして、鎮守府の運営が大きく変わったり、秘書艦が次々交代したりしたのかとか……そのへんの経緯をきちんと知りたいの。曙ちゃんも知りたいんじゃない? 」

曙 「(キッ)どういうこと、クソ提督? 」

提督 「いやその……規模が大きくなって、基準をどこに置こうかと考えて、曙に……」

曙 「そんな説明じゃわからないわよ! 」

陸奥 「提督、良かったら最初から話してくれない? 鎮守府開設から今までのこと。わたしは着任が遅かったから初期の頃をよく知らないし、どうも断片的に聞いても提督は上手に説明してくれなさそうだし……」

曙 「……そうね。正直興味があるわ。あんたの変化に散々振り回された身だもの」

提督 「最初から……? どう説明すればいいのか……」

陸奥 「ほんとに最初からよ。提督として着任するところからでいいからっ」


曙ちゃんを基準にした理由はなんとなくわかってる。そして不器用で裏目に出ていたことも。でも、それだけじゃなく、この人がずっと、悩んで足掻いてきた日々をこの人の口からちゃんと聞いてみたい。抱えてきた重荷と苦悩を共有できるのは……今はきっと、わたしと曙ちゃんだけだものね。さて、どんな話が飛び出すのかしら……





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 Side 曙

++++++++++





あたしが基準……クソ提督はあたしに合わせて司令部運営をしていた……? そんなのウソ! 全然あたしの意向と違ってたじゃない! 何を言い出してるの、このクソ提督は! つまんない話だったら蹴っ飛ばしてやるから!

そんな思いと同時に、不安で足はガクガクと震えていた。


提督 「その、最初からとなると、着任前の話になってしまうんだが……」

陸奥 「いいから、提督が話しやすいように話してみて」

提督 「わかった。その、長くなってしまうぞ?」

曙 「前置きはいいから早くしなさいよ! 」

提督 「あ、ああ。えっと……そうだな、俺は提督になる前は、護衛艦の下っ端船員だった。まだ若造だからな。でも、海と船が好きで、希望しての軍艦乗りだったからな。それなりに充実していた」

陸奥 「……そうね、海は好きだものね」


こいつが海に出てるところなんて、当然だけど見たことなかった……そうか、こいつも海が好きなんだ……


提督 「でな……ある日、適性があると分かったって、いきなり提督就任が決まったんだ。それですぐに研修に投げ込まれた」





陸奥 「研修なんてあるの? 」

提督 「ああ。以前は何の予備知識も無くいきなり鎮守府に着任していたらしいんだが、それだと多くのムダがあるからと、着任前講習が行われるようになったらしい。これは先達たちが強く働きかけて実現したことだそうだ。講師も現役の提督が行っている」

曙 「それで……講習がどうしたっていうのよ(イライラ)」

提督 「あ、すまん。それでな、講習を受ければ受けるほど、俺は提督に向いていないと思った。なにせ極端な人見知りで口下手だ。まして、家族以外の女性と話したことなど記憶に無いぐらいの俺が艦娘を率いるなど……」

陸奥 「ぷっ……提督、ほんとにオクテだったのね」

提督 「笑うなよ。田舎育ちから士官学校、そのまま軍艦乗りなんだから。それでな、講師の提督に相談した。俺はどう足掻いても良い提督になれそうにないから辞退したいと」

曙 「ふん……それでどうしたのよ」

提督 「辞退はどうあっても無理だった。適性がある人間が足りないぐらいだから拒否権は無いんだそうだ」

陸奥 「ふぅん……じゃあ提督はイヤイヤ着任したわけね」

提督 「イヤイヤというと語弊があるが、気が進まなかったことは確かだな。そんな俺を見て講師がな。自分も最初は同じような感じだった。だが今では大勢の艦娘を率いる提督としてなんとかやれるようになったと」





陸奥 「講師になるくらいですもの。立派な提督なのよね」

提督 「それでコツを聞いたんだよ。そうしたら一つだけアドバイスをくれた。初期艦で五月雨を選んで、彼女と二人三脚で頑張れば大丈夫だと」

陸奥 (ムカッ)

曙 (ムカッ)

提督 「それで、半信半疑ではあったが、初期艦には五月雨に来てもらうことにして鎮守府に着任した」

陸奥 「ふぅ~ん。やっぱり五月雨ちゃんは提督に取って特別なのねぇ。今からでも秘書艦に戻ってもらったほうがいいんじゃない? 」

曙 「やっぱり素直でかわいい子が好みって訳ね。ほんっと、男なんて……」





提督 「何の話だよ……。そんなわけで五月雨と二人で鎮守府をスタートさせた訳だが……。正直に言えば、最初は艦娘との接触に恐怖もあった。だが五月雨と出会って話して、それも吹き飛んだ」

曙 「恐怖って……どういうこと? 」

提督 「……着任にあたって、俺が率いることになる艦娘たち。その生い立ち……というか前世はしっかり勉強したんだ。皆それぞれに必死に戦って……大体悲しい結末で終わっていた」

曙 「……」

提督 「だから、もっと暗い……それこそ憎しみに満ちているような……そんなイメージすら持ってたんだよ。そんな気持ちでいたところに会ったのが、あの五月雨だからな……」


クソ提督の表情が自然と柔らかくなる。……そうよね。残念だけどそれはあたしには無理。あの子だからできること。


提督 「五月雨に……それこそ長年の友人か家族のような接し方をされて……。面食らっていたところで、次々と……そうだな、電や睦月、那珂なんかが仲間に加わって……」

陸奥 「くすくす……それはまた狙ったようなメンツね」

提督 「ああ。正直言えば、俺は間違って鎮守府とは違うところに着任したんじゃないか?って思ったぐらいだよ。なんというか……小学校の先生にでもなった気分だった」

陸奥 「うふふ……それはいくらなんでも……ねぇ♪ 」


クソ提督の柔らかな微笑。……そんな、もう失われた故郷を想うような表情するのやめてよね……





提督 「どうやら艦娘というのは俺が思っていたような人たちでは無いらしいと、やっと緊張が取れてきたころ……そうは言っても、色々なわだかまりをもって転生する子たちが現れた」

陸奥 「そうね……それが……」

曙 「はぁ……。あたしなんかのことね。正直言えば、転生した時は司令部は憎むべき相手って思ってたわ、確かに」

提督 「……当然の事だ。曙だけじゃない、霞や満潮、摩耶なんかもそうだな。上官への不信をもっているような……それ以外にも、いろんなトラウマを抱えている子たちがいた」

陸奥 「下手に前世を知ってるからなおさら見えちゃうわよね、トラウマとか……」

提督 「そうだな。だが、人間の都合で無理やり呼び起こしてしまったわけだから……そんな子たちも、せめて少しでも幸せであって欲しいと思った。だが……それが本当に難しくてな」


さっきまでの柔らかな表情から、今度は苦悩に歪んだ表情に……。こいつは本当にずっと前から苦悩を抱えてた訳だ……





提督 「艦娘はどんどん増えていく。しかし、ひとりひとりが抱えているものは全く違う。艦娘Aが喜ぶ方針を艦娘Bは喜ばない……。そういう中、俺はどうすればいいのか」

陸奥 「なるほどね……。それで、基準を決めたわけだ」

曙 「基準を決めるのは分かるけど、それがなんであたしなのよ」

提督 「……曙は怒るかもしれないが、前世で一番司令部に冷遇されたのは、曙なんじゃないかと思ったんだ」

曙 「それは…………」

提督 「だから、せめて転生した今は、一番大切にされる艦娘になって欲しかった……」


あたしが……一番……大切!?!?


曙 「/// あ、あんた何言ってんのよ!」

陸奥 「あーあ、一番大切にされてうらやましいわぁ~」

曙 「陸奥さんまでっ! 」





って、この頃にあたしを基準にして方針を決めたって……。これからクソ提督がどんどん孤独になっていく時期じゃない……。もしかして……まさか…………。


曙 「あたしや霞なんかを基準にして……それで……どういう風に変わったのよ……(ブルブル)」

提督 「そうだな……。あの頃は、五月雨の手伝いと称して大勢の艦娘が執務室に入り浸っていた。曙や霞からは、その雰囲気が不真面目だという意見をもらったな。それで、ちょうど五月雨の秘書艦業務が限界に達していた事もあって、秘書艦を神通に交代をしたはずだな」

陸奥 「あちゃぁ……。そういうことだったのね」

曙 「…………」


確かに……言った。こんな雰囲気じゃ業務に支障が出るんじゃないかとか、とてもまじめに執務をしてるように見えないとか……。

もちろん、島風が走り回ってたとか、深雪スペシャルが炸裂してたとか、那珂ちゃんが歌ってたとか、そういう具体的に騒がしい時に言ったことだけど……。

でも……それでも…………。あたしが入れない楽しそうな雰囲気や笑顔に嫉妬もしてた。楽しそうな子たちに囲まれて困っているクソ提督に無性に腹が立った……。それでついついきつい言い方を……してた。





そっか……あたしが……あたしの勝手が、あんたを孤独にしてたんだ。





提督 「……! あ、曙、どうした!? 」

曙 「…………」


あふれた涙が頬を伝ってるのが分かる。こいつの前では絶対泣くもんかって決めてたのになあ……

泣き叫ぶような気力も……資格も……無くて。だけどあふれる涙を止めることが出来なかった。


提督 「あ、あの、曙……? 」

陸奥 「もうっ。提督は黙ってて」


ぎゅっ


優しく暖かく抱きしめられる……潮に抱きしめられるのと同じ感覚……陸奥さん……?


陸奥 「大丈夫よ……。そもそも提督がアホなのよ。ただ言葉だけを頼りにして……その裏にある気持ちとか心が全然見えてないんだもの。ほんっとに鈍感よね」

曙 (こくこく)


ほんとにね……あたしだけじゃない。他のみんなも……照れ隠しだったり、意地をはったり……色々あるのに、全然気がついてもらえて無いんだ……





提督 「あ、あの……」

陸奥 「黙っててって言ったでしょ! 」

提督 「はい……」

陸奥 「落ち着くまでこうしてるから……」

曙 (こくこく)


動揺してオロオロしてるクソ提督が視界に入る。どうしようもないアホだけど……それでも真面目で優しい愛すべき人……こいつを孤独に追いやって苦しめてたのかあ……。そう思うとまた涙があふれてきた。


クソ提督を見ないで済むように目を閉じる。


ああ……全部夢だったら……いいのに…………。




遅くなりましたが更新しました。次回は明後日土曜日の予定です。

ちょっと前に、あと5回位の更新で終わりますって言いましたが……あれはウソだ!(結果的に)
あと数回はかかりますので、どうか気長にお付き合いくださいませませ。

それではまた次回。よろしければまた是非お越しください。



静かに泣かせてもらって、落ち着いた頃、陸奥さんの優しい声がした。


陸奥 「今日はもう終わりにする? それとももっと聞く? 」


ゆっくりと目を開ける……。まだオロオロして心配そうにしてるあいつがいた。

……うん、逃げてる場合じゃないわね。


曙 「大丈夫です。ごめんなさい、取り乱して ///」


陸奥さんに抱きしめられてることを改めて確認すると、なんだか急に恥ずかしくなってきた!


陸奥 「いいのよぉ。曙ちゃん抱き心地いいし。やっぱり小さい子はかわいいわ~」


あ、やっぱり長門さんの妹だわ





曙 「さ、もう大丈夫。続きを聞かせて」

提督 「いやその……なんと言ったらいいのか……」

陸奥 「いいから続きっ! 他のことはお話の後にしましょ? 」

提督 「あ、ああ……わかった。しまった、どこまで話したんだったか……」

曙 「秘書艦が神通さんに変わったところよ」

提督 「そうだったか、それじゃあその後だが……」

提督 「秘書艦を変えるにあたって……。秘書艦として全体の指揮をしっかり取れる実務能力を持っていて、かつ……どちらかと言うと堅く真面目に仕事をするタイプ……公私混同とかをしないタイプの艦娘がいいだろうと思った。それで神通を選んだ」

陸奥 「そうねぇ……今の条件だと、すごく妥当な人選ね」

提督 「それで……俺のことをとにかく厳しく監督してくれるように頼んだ。だがそんな心配もいらなくてな……あれほど遊びに来て騒いでいた駆逐艦たちがピタッと来なくなって……」

陸奥 (なるほど……)

曙 (そりゃそうよ……)





提督 「その後、秘書艦が那智に交代することになって……」

曙 「待った。神通さんから那智さんに交代した理由は何なの? 前に神通さんに聞いたけど教えてもらえなかったんだけど」

陸奥 「なあに、何か事件があったの? 」

提督 「……神通から、秘書艦はまた五月雨に戻すべきだと。実務はわたしがサポートするから、という申し出があったんだ。それが叶わないなら、少なくとも秘書艦を誰かに変わって欲しいと」

曙 「そんな……理由は? 」

提督 「それが……。神通が言うには、俺がどんどん元気がなくなっていくのは、自分が秘書艦なのが原因だろうと。以前のように賑やかな執務室にして元気を出して欲しいと……。そんなことは無いと言ったんだが、なかなかな……」

曙 「なによ……どんどん元気がなくなっていったのは本当の事じゃない」

提督 「そうだな……。そういう意味ではまぁ自業自得だった。だが、俺の元気のために、また元に戻すというのはどうしてもできなくてな……。それで秘書艦を那智に変わってもらったんだ」

曙 「……元に……秘書艦を五月雨にして楽しい執務室にできなかったのは……やっぱり、あたしなんかが原因だったわけね」

提督 「原因という言い方には語弊があるな。だがそうだな……理由は確かにそうだった」

曙 「そう……」


神通さんは……自分が秘書艦になってからどんどん元気をなくす提督を見てどう感じていたんだろう……きっとすごく苦しかったよね。ごめんなさい神通さん……ごめんなさい……。





陸奥 「でもちょっと待って。提督って元々人付き合いが苦手な方よね? 一人でいるほうがほっとする、みたいな」

提督 「ああ、そうだな」

陸奥 「それなのに、執務室が静かになったら、どんどん元気が無くなったの? ちょっと不思議な感じね」

曙 「言われてみれば……」

提督 「ああそうだな。執務室が静かになって……確かにちょっとさみしく感じたのは本当だが……元気をなくしていたとしたら、主な理由は違うな」

曙 「!! じゃ、じゃあ、理由ってなんだったのよ!? 」


どういうこと……わたしが思っていたこととは少し外れてきた感じ……?


提督 「……これから言うことは他言無用に……いや、君たち艦娘が気づいていないはずはないか……」

陸奥 「もったいぶって……どういうお話なの? 」

提督 「この頃、仲間も増え、遠くの海域にも行けるようになってきた頃……さすがに俺も気づき始めたんだよ」

曙 「何によ! 」

提督 「…………深海棲艦が、君たちと同じもの……君たち自身だということにだ」





艦娘ではなく、実際に戦場に居るわけでない提督は気づいていないと思っていた……。いや、提督だけじゃなく、人間は誰も気づいていないと思ってた……。そっか、気づいちゃったんだ……。


陸奥 「……そっか、提督も気づいてたんだ」

提督 「艦娘と真剣に向き合っている提督なら誰でも気づくだろう。軍規違反ではあるが……その疑問を例の講師だった提督に聞いたんだ。彼は俺よりもはるかに多くの情報を元に検証を行い……同じ結論に達していたよ」

曙 「……そう……確信まで持ってたんだ……」

提督 「ああ……。それで理解できたんだよ。俺たち人間や司令部を恨んでいてもおかしくない……恨んでいて当然な皆が、どうしてそんなに俺を大切にしてくれるのか……。簡単だ、恨みや憎しみの部分は別の個体として……深海棲艦として存在しているんだから」

陸奥 「それで……どうしたの? 」

提督 「どうするも何も……俺は人間を護るために、艦娘を活用して深海棲艦を滅ぼす役割の男だ。やることは変わらない……ただ、君たちに、自分自身と殺し合いをさせていることを知りながら命令するようになっただけだ」


暗い目で噛みしめるように……懺悔でもするように……


提督 「だが、俺を慕ってくれる、心配してくれる……そんな皆に対して俺は……命令を…………」


この生真面目な男は……この罪悪感を背負ってたわけだ……なるほどね…………ほんっっとアホ!

陸奥さんと目が合う。陸奥さんも盛大なため息。





陸奥 「提督。あなたはほんっとにアホね」

提督 「…… 」

陸奥 「深海棲艦がわたしたち艦娘と同じ……船の魂から姿を得たものだっていうのは正しいと思うわ。だけどその先が間違ってるわよ」

提督 「間違い……? 」

陸奥 「そうねぇ……例えばわたし、陸奥の魂がね。『人間を護る部分』と『人間を憎む部分』に分かれて、それぞれが艦娘と深海棲艦になってる、っていうのが提督の考えでしょ? 」

提督 「ああ…………違うのか? 」

陸奥 「違うわよ。そもそも提督は、わたしたちが人間を強く憎んでるはずだ!って思ってるのがそもそも間違ってるのよ。これはもう何度も言ってるのにねぇ」

提督 「じゃあ……深海棲艦の……あの人類を滅ぼすための憎しみは一体……」

陸奥 「それはわたしたちにもわからないけど……。あれは何かに汚染されているというか……取りつかれているというか、そういうものだと思うわ」

提督 「……なぜ? 」

陸奥 「簡単よ。戦って倒すことで浄化できてるじゃない。特別な深海棲艦を倒すことで新しい艦娘の魂を迎えたりできるのは、そういうことでしょ? 」

提督 「そう……なのか? 」

陸奥 「当事者であるわたしたちが感じていることなんだもん。信じてもらわないと困るわ」





提督 「曙も……同意見だろうか? 」


まだ信じられないのね。まぁ、1年以上ずっとそう思い続けてきた計算だもんね……簡単には分かってもらえないか


曙 「全くもって同意見よ。そもそもね、考えても見なさいよ」

提督 「? 」

曙 「あんたが言うところの一番司令部に冷遇されたわたしだけど……。例えばね、マニラに散ったわたしの乗組員たちが転生したとして……冷遇された恨みから、祖国や人間を滅ぼそうとすると思う? 」

提督 「…………いや。俺たち軍人は、例え理不尽な命令であっても、ひどい最後であっても……祖国を護るために散ることが出来たならそれで…………」

曙 「なら分かるでしょ。あたし達軍艦だって、生まれた意味……護るべき人達、護るべき祖国。そのために散ることになんの後悔もない。それにね……艦娘は乗組員たちの意思なんかも含めて転生してるの……知ってるでしょ? それでどうして、祖国を憎んで滅ぼそうとするのよ」

提督 「そう……か…………。じゃあ、俺の誤解だったのか……」

曙 「そうよ!」





提督 「そうか……誤解だったのか……そうか…………」

曙 「!!」

陸奥 「!!」


提督の頬を涙が流れる……。この岩みたいな男が泣くなんて……。

どれほどの苦悩を……一人で抱えて……なのにあたしはもっと苦しめるばかりで全然気がつけなかった……。


提督 「不幸な前世を持つ皆を……せめて今世では幸せにしたいと思った……。だが根本の部分で……俺は皆に自分自身との殺し合いをさせていると……そう思っていた」

陸奥 「提督……」

提督 「だから……皆を幸せにという気持ちも、そのためにできることをしている自分も……それが皆への愛情からなのか、ただの罪滅ぼしなのか、自己満足なのか……もう何も分からず……」

曙 「あんた……そこまで思いつめて……」

提督 「皆が無邪気に俺に向けてくれる信頼が……どうしようもない罪に感じた……。ああ、俺は本当につまらないことを考えていたんだな……」


陸奥 「提督……それほどの苦しみに気がつけなくてごめんなさい……でも……でもこれからは……」


陸奥さんが自然と提督に歩み寄って……静かにその頭を抱きしめた。提督も自然にそれを受け入れて、静かに涙を流し続けていた……。


こいつの抱えていた苦悩がようやく解消しようとしている……本当に嬉しい瞬間なのに……それなのに、それなのに……。

陸奥さんへの嫉妬を必死に押さえつける自分がすごく惨めだった……。



1日遅刻申し訳ありません! なんとか更新しましたっ。
次回は明後日火曜日更新予定です。大詰めですからガンガン進めたいですねっ。

パンダ提督を覚えていてくださる方が多くてびっくりしました。本当に感謝!
自分的にはとても思い入れのある提督でして(そもそも名前?が付いている提督はパンダ殿だけですし)、また、パンダ提督とわたしは、龍驤派だった自分が五月雨教に入信することになった思い出深い……げふんげふん。

今度こそ本当にあと4~5回の更新で終わる予定です。あと少しお付き合いくださいませ。

生存報告を……。体調崩して寝込んでます。数日中には必ず……がくり



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 Side 陸奥

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静かに涙していた提督が、ゆっくりとわたしを離す。
提督のこと思わず抱きしめてたけど、考えてみたら曙ちゃんが見てるじゃない……うわぁ……恥ずかしいわね……。


提督 「二人共、今日はありがとう。大きな……本当に大きな思い違いに気づけて本当に良かったよ」

陸奥 「ええ! 本当に良かったわね♪ 」

曙 「……」

提督 「話してもらったこと、今夜ゆっくり考えるつもりだ」

陸奥 「ええ……でも、また一人で落ち込むのはナシよ? 」

提督 「ああ……、ありがとう」

曙 「ふんっ……もう大丈夫みたいね。じゃああたしは帰るから! 」

陸奥 「わたしも今日はもう帰るわ。提督も今日は一人でゆっくり考えたいだろうし……。じゃあね」

提督 「ああ、ありがとう」


バタン





曙 (じーーーー)


曙ちゃんの様子……うーん、これは二人で話したほうが良さそうね。


陸奥 「提督とは色々話せてよかったけど……曙ちゃん、良かったら二人でもう少しおしゃべりしない? 」

曙 「うぇっ!? あ……えっと……はい……」

陸奥 「おっけー! じゃあ行きましょっ」


そうねぇ……ゆっくり話せる場所がいいわね





――――― 少し後 応接室


曙 「こんな部屋があるなんて、はじめて知りました」

陸奥 「お客様用なんだけど、そもそもお客様なんて誰も来ないからね。今はわたしの隠れ家の一つよ……秘書の特権ね」

曙 「秘書……そうですよね、秘書艦だから……」


なんだか羨ましそうにわたしを見てる曙ちゃん。あーあ、やっぱり誤解してるのかな?


陸奥 「さてっ! 提督が何を考えているか、どんな誤解をしていたかはよく分かったし、ちゃんと話し合いができてよかったよね? 」

曙 「え……、はい、良かったです」

陸奥 「でもっ! 曙ちゃんはまだ話したいことがあるんじゃない? 提督じゃなくてわたしに。……どう、あってる? 」

曙 「…………はい、あってます」

陸奥 「じゃあ、せっかくの機会だもの、思い切って聞いちゃって! 」

曙 「……」





じっと俯いていたけれど……意を決したようにまっすぐにこっちを見る。この子のこういう果断な所、とっても素敵だと思うわ。


曙 「じゃあ、お言葉に甘えて! 」

陸奥 「いいわよー、何でも聞いてっ」

曙 「えっと……陸奥さんは…………あいつと……付き合ってるんですか!? 」

陸奥 「ぶっ! 」


ストレートすぎ! さすがねぇ。


陸奥 「ま、待って待って待って! そんな訳無いじゃないっ」

曙 「でも、でもっ! 優しく抱きしめて……すごく分かり合ってる感じじゃないですか!」

陸奥 「わたしってば、寂しそうな子がいると、つい抱きしめちゃうのが癖なのよ。さっきはうっかりしちゃったわね……たはは」

曙 「……」


あ、ジトっとこっちを見てる。信じてもらえないかな?


陸奥 「はぁ~、それにねぇ曙ちゃん」

曙 「はい」

陸奥 「提督が……あの人がね、特定の誰かとお付き合いとかすると思う? 」

曙 「…………。いえ、想像できない……です……」

陸奥 「でしょぉ……。ほんっと、堅物なんだからっ」





曙 「で、でも……陸奥さんもあいつのことが……好きなんですよね?」

陸奥 「……その質問は……イエス。うん、あの人のこと愛してるわ。だけど……まー、一方通行ねぇ」

曙 「そ、そうなんですか……ま、まったくあいつってば、鈍感でどうしようもないわね!(ほっ)」

陸奥 「ほんとよねぇ。曙ちゃんの気持ちにも全然気がつかないし……もう少しでいいから女心も理解してほしいわよねぇ……」

曙 「/// なっ……なにをっ……あたしの気持ちって……あたしはあんな奴のこと全然!!」


うふふ……真っ赤になっちゃって。あーあ、こんなかわいい子が相手じゃ先が大変だわ、わたしも。


陸奥 「曙ちゃん、残念だけど……曙ちゃんの気持ちに気がついてないのは、提督や長門みたいな堅物だけよ」

曙 「///っ~」

陸奥 「それにねぇ、自分の気持ちを隠すつもりなら、陸奥さん『も』あいつのことが好きなんですよね? なんて聞いちゃだめよ~」

曙 「ぁ……」

陸奥 「うふふ、提督のことが大好きな曙ちゃんは、わたしがついつい提督を抱きしめちゃって、ハラハラしちゃったのよね? ほんと、ごめんね、抜け駆けは駄目だったかな? 」

曙 「///っ~(バタバタ)」


くすくす……あんまりいじめちゃ可哀想ね。





陸奥 「はい、お茶」

曙 「ありがとう……ございます……」

陸奥 「うふふ、意地悪言ってごめんね。ついついからかいたくなっちゃって」

曙 「いえ……」

陸奥 「でもね、ちょっといじわるしたくなる理由もあるのよ」

曙 「……? あたし、何か失礼なことを……」

陸奥 「ううん、そうじゃなくて……わたしの嫉妬」

曙 「?」

陸奥 「提督がさっきも言ってたでしょ? 曙ちゃんや霞ちゃんを基準にしたり特別に見てるって」

曙 「それは……見当違いだし、全然あたしの気持ちもわかってないし!」

陸奥 「うふふ……本当よねー。でもね、分からないなりにも……あの人はいつだってあなたのことを一生懸命見て、なんとか仲良くなろうと話しかけて……。正直言えば、羨ましかったわ」

曙 「そんな……陸奥さんは秘書艦で、いつもあいつに信頼されて相談されてて……あたしこそ、陸奥さんが羨ましくて……」

陸奥 「ぇー。そりゃ、提督を一番支えられる、頼られる女でありたいと頑張ってはいるけれど……頼られることはいつでも、曙ちゃんをはじめとする駆逐艦の子たちと仲良くするとか、そういうことなのよぉ」

曙 「……」





陸奥 「もう、あまりにもそういうことばっかりだから、提督ってろr……じゃなかった、小さい子が好みなんじゃないかって、戦艦仲間に愚痴って慰められたりしてたのよ」

曙 「……なんか……意外です。陸奥さんはいつも大人の余裕であいつを支えてるイメージだったから……」

陸奥 「そうであったらいいんだけどねー。好きな人のことだと、色々考えちゃったり、ついつい意地になっちゃったり……」

曙 「はぁ……すごく分かります。そっか、陸奥さんみたいな大人でもそういうことがあるんだ……」

陸奥 「当たり前よ♪ だって、わたしも艦娘。見た目はこうでも、恋愛経験なんてまるで無いしね」

曙 「そっか……そうですよね。みんな元は軍艦なんだから……」

陸奥 「そーそー。飛龍ちゃんみたいに、軍艦時代から艦長LOVE!なんて子でもない限りね~」





陸奥 「提督のことではね、わたしも自分の経験不足を痛感することばっかりよ」

曙 「……」

陸奥 「最初はね、提督が着任時は明るかったとか知らなかったから……長門と同じような、ただの口下手さんだと思っていたのよ。だから艦娘と上手にコミュニケーションできてなくて、それで距離が開いてるんだって」

曙 「そうですね……暗くなっちゃったあいつをみたら、そうとしか見えないです」

陸奥 「ところがね、だんだん提督の過去が分かってきて……そんな単純な問題じゃない、何か深い悩みを抱えて、それで艦娘と距離を取ってるんだって。やっとそれが分かるようになったの」

曙 「……はい」

陸奥 「その悩みは……艦娘の前世に責任を感じてるとか、そういう艦娘の手前、自分が幸せでいるのが許せないとか、そういう感じなんだろうなっていうのは漠然と理解できたんだけど……」

曙 「そうですね……あたしもそういう感じで思ってました」





陸奥 「でも、今日の話を聞いてね。実は根本の部分に気がつけていないままだったなーって。あの人のそばであの人を一番支えているつもりだったけど……」

曙 「そんなのあいつが悪いんですよ! こんなに心配してるのに……秘密主義で、すぐ黙っちゃって! 」

陸奥 「お、曙ちゃん、いいこと言うわね~。ほんとほんと、ちゃんと話してくれればいいのにねっ」

曙 「そうですよ! あたしのことだって……そんな……あたしの言葉をそんなに気にしてるとか、そんなの全然わかんなくて……実際あたしの前では、なんかオドオドと話しかけてただけなのにっ」

陸奥 「ぷっ……ほんと、ビクビクしながら話してたもんね~」

曙 「そうなんですっ。それで、霞とその不満をぶちまけあったりとかしてたんですよっ」

陸奥 「うふふ、いいわね~、それでそれで? 」

曙 「それでですね…………」

ワイワイ


こうして曙ちゃんの誤解は無事解けて、提督のことが好きなもの同士で仲良く語り合ったのでした。提督の朴念仁ぶりはひどいものだけど……提督を好きな子全員に対して平等なのは確かだから、こうやって仲間として手を取り合えるのは……悪くないのかしら?




大変……大変遅くなりました!ひさびさ更新です。
次回は明後日には更新予定です。もう大詰めですから早く進めて終わりたい……がむばります。

それではまた次回!



++++++++++

 Side 曙

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――――― 夜 第七駆逐隊の部屋


曙 「ただいまー」

潮 「おかえり! 曙ちゃん、どうだった? 」

朧 「ちゃんと話できた?」

漣 「泣いてないってことは、ちゃんとお話できたのかにゃ~」


いつもながらの賑やかな出迎え。漣はムカつくっ


曙 「ちゃんと話せたわよ。その後、陸奥さんと話し込んじゃってね」

漣 「およ? 陸奥さんも一緒だったの? 」

曙 「うん。陸奥さんが仲介してくれてね。ゆっくり話せたわ」

朧 「そっか、良かったね」

潮 「曙ちゃん、お話できたのは良かったけど……大丈夫だったの? ちゃんと満足できるくらいお話できた? 」


心配そうに聞く潮。ほんっと、この子は鈍いくせに本質をついてくるわね。





曙 「…………うーん」

漣 「なになに、まだ話し足りない感じ?」

曙 「話し足りないって言うかね……」

朧 「何か引っかかってるの? 」

曙 「ちゃんと聞けたのよ。あいつが何を考えていたのか、何を悩んでいたのか、そういうこと」

潮 「そっか、それは良かったよね! でも、じゃあどうして浮かない顔なの? 」

曙 「なんかね……何かが足りないというか……」

漣 「愛の告白が足りないんじゃないの(・∀・)ニヤニヤ 」

曙 「ばっ/// 馬鹿言ってるんじゃないわよ! そういうのじゃなくて……」


……聞きたいこと、伝えたい事がいっぱいあるはずなのに、イマイチそれがわからない……。モヤモヤして嫌な感じ……上手く言葉にできない……。


潮 「今日はもうゆっくり休んで、また明日考える? 」

朧 「そうだね。色々混乱してるなら、ゆっくり休めばまた何か分かるかも」

曙 「そうね……それもいいかも」

漣 「じゃあ、漣さんが特別に紅茶を入れて差し上げよう。立派なメイドになるために金剛さんに習ってるんだよねー」

潮 「うわぁ、紅茶なんてオシャレだね! 」


ワイワイ





朧 「はい、じゃあ電気消すよ。おやすみー」

漣 「はーい」


パチン


シーーン


曙 「………………ハァ」

潮 (曙ちゃん、曙ちゃん)


しまった、思わず出た小さなため息を聞かれちゃったか……


曙 (……大丈夫だから……ほんとに、なんというかモヤモヤしてるだけだから……)

潮 (でも……)


思わず苦笑してしまう。ほんとに、この子はどうしてあたしの心配ばかり……。でも、そうね、あたしはこんな潮がとっても眩しい。


曙 (ねえ潮。どうしてそんなにあたしの心配ばっかりしてくれるの?)

潮 (そ、それは……曙ちゃんは、いじっぱりで素直じゃないし……)

曙 (ぐぬぬ……そういう話じゃなくて……あんた、あたしのこと好きだから心配してるの?)

潮 (えっ!? /// そ、そんなぁ……真正面から聞かれたら恥ずかしいよぉ)

曙 (なによ、言えないの?)

潮 (そ、それは……)


漣 (な、なんか百合百合した……)

朧 (あやしい感じに……)





曙 (どうなの?)

潮 (それはそのぉ……うん、わたしは曙ちゃんが大好きだから、だから心配なんだと……思う……よ?)

曙 (そうよね。好きな相手を心配するのは当たり前だし……。その相手が悩んだり苦しんでたりしたら、何とかしたいと思うわよね?)

潮 (? うん)

曙 (でもさ……相手がおせっかいだと感じて、それで嫌われたりしたらどうしようとか、そういうことは考えないの?)

潮 (ええーー! わたし、おせっかいだった? わたしのこと嫌いになった?)

曙 (違うっての! そういう不安を感じたりしないのかって)

潮 (どうだろう……考えたこと無かったかなぁ)

曙 (はぁ……あんたらしいわ)

潮 (うう……)


ほんと、潮らしい。でも……でもこの子が正しい。嫌われるのが嫌だから放っておく? 好きな人が悩み苦しんでるのに? はっ! あたしってば、何やってるんだかね。

ま……あいつのことを好きだって認めることができてなかったせいもあるけどさ……。


潮 (曙ちゃん……?)


あたしは、あいつにとっての潮みたいになりたいって思った。なら……おそらく今また一人で呆けているあいつを放っておいていいの? あいつを一人にしてくれる人はいくらでもいる……でも今、あいつを一人にしないように頑張れるのはあたししかいないはず!

それに……そもそもあいつが孤独になったのはあたしのせい。まだそれを謝ることすらできてない……。





曙 (潮、あたしちょっとくs……ううん、提督のところに行ってくるわ)

潮 (お話しにいくの?)

曙 (うん。あいつさ、今また一人でぼんやり考え事とかしてると思う。だから……あんたがあたしにしてくれるみたいに……あいつのこと励ましてこようと思う)

潮 (うんうん、素敵だね!)

曙 (ここだけの話だけど……あんたがあたしの心配をしてくれるみたいに……あいつが心配なんだ。あいつのこと……好き……なんだ……)

潮 (うんうん、知ってるよ! 頑張ってきてね!)

曙 (なっ/// あ、あたしが意を決して伝えたのに、知ってるよの一言でスルーなのっ)

漣 「……そんなの、ずっと前からみんな気づいてるって」

朧 「恋愛にうといあたしにすらもろバレだよ……」

曙 「あんたたちまで……ぐぬぬぬぬ…………と、とにかく行ってくるから!」

潮 「うん、気をつけてね!」

漣 「朝帰りでいいからね~(・∀・)ニヤニヤ」

曙 「うっさい!!」


恥ずかしさも手伝って、思いっきり部屋を飛び出す。

あいつがいる場所は……間違いなくあそこだ。

外に飛び出し、まっすぐに森を目指す。この森に入ったことは無いけど……どこでキャンプしてるかははっきり分かる……何度見たかわからない、森のなかの焚き火の明かり。それを目指して、一直線に森のなかを走る。

行くんだ……あいつのところへ!





――――― 森の少し開けた場所


提督 「……」


ガサガサ バサバサバサ


提督 「なんだ……?」

提督 (獣かなにかか?)


バサバサッ


曙 「はぁはぁはぁはぁ」

提督 「あ、曙……? ど、どうした、こんなところで」


曙 「はぁはぁ……あんたに……はぁはぁ……会いに……はぁはぁ……来たのよっ」

提督 「そ、そうか。まぁ、とりあえず座ってくれ。隣で申し訳ないが」


座るのにちょうどいい倒木に腰掛けてる提督。そのとなりに誘われて座る。

……考えてみたら、隣に座ることすらはじめてだ。





提督 「息切れが大変そうだな……まずは水を」

曙 「そうね……ぜぇぜぇ……ありがと」


ゴクゴク ふぁー、一息ついた!


提督 「あとは……酒は呑まないよな? コーヒーでいいか?」

曙 「あ、えっと……うん」


手際よく、コーヒー豆をゴリゴリしたり、不思議なヤカンでお湯を沸かし始める提督。


曙 「……なんか、あたしの知ってるコーヒーと違うんだけど」

提督 「パーコレーターははじめてか? このヤカンみたいなので湯沸かしと抽出までできるんだ」

曙 「へー……」

提督 「ほら、この蓋のガラスの部分から中を覗いて……良い色になったら火からおろして……ほい、出来上がりだ。熱いから気をつけろ」

曙 「あ、ありがと……」


コーヒーの良い香り……





曙 「にが……美味しいけど……」

提督 「ああ、結構濃いからな。そうだなぁ……じゃあ口直しにマシュマロでも食べるか? 」

曙 「ましゅまろ!?」

提督 「? ああ、焚き火の定番だぞ。知らないのか?」

曙 「そうなの? まぁ、いただくけど……」

提督 「じゃあ、この小枝に刺して……ほら、これを焚き火に近づけて炙るんだ。ちょっと焦げ目がつくぐらいでいいから」

曙 「焼くの!? マシュマロを!? 」

提督 「ああ、溶けておいしくなるんだ。本当ならそれをクラッカーに挟むんだが、そこまでは持ってきてないからな。ま、やってみるといい」

曙 「う、うん……こんな感じ? 」

提督 「そうだ……満遍なく炙って……そのぐらいでいいぞ」

曙 「はふはふ……なにこれ、甘いのが口に溶けて……おいしい! 」

提督 「あはは……だろ? 焚き火の醍醐味なんだぞ(にっこり)」


なんだろう……すごく……楽しい……


曙 「あんたは食べないの?」

提督 「ああ、俺は酒だからな。さすがにマシュマロは合わん」

曙 「それじゃあ、なんでマシュマロ持ってきてるのよ」

提督 「……前にな、ちょっときっかけがあって、すごく食べたくなったんだよ。そしたらこんなキングサイズが届いてしまって……少しずつ食べてるんだよ」

曙 「うわぁ……これは消費するのが大変そうね……」

提督 「だから、たくさん食べてもらえれば、俺も助かるよ」

曙 「そう? じゃあ遠慮無く♪ 」





パチパチパチ……バチッ……

焚き火の音……思い出したように薪をくべて火を調整する提督。


曙 「ふーふー……にがっ……ふーふー……」

提督 (ごくごく)


なんとなく焚き火を見つめる……千変万化の炎……いくら見続けても飽きない不思議な光。


提督 「曙も……知ってたのか? 俺がここでキャンプしてるって」

曙 「ええ……」

提督 「そうか……」


パチパチ……


提督 「俺は……元々田舎育ちでな。山と森と川に囲まれて育ったんだ」

曙 「……うん」

提督 「士官学校に入学して、はじめて都会にでた。コンクリートばかりの街は息苦しくて……星もあんまり見えない。それに……この性格だ。友人もあまり出来なくてな」

曙 「…………うん」

提督 「それで休暇のたびに、一人で近くの森や山でキャンプをするようになった。そうすることで気持ちをリセットする……暗いって笑われたけど、俺には大切な儀式だったんだ」

曙 「そっか……じゃあ、その時の道具一式を持ってきてたんだ」

提督 「ああ。今は鎮守府内で酒を飲まないって決めてるから、酒を飲みがてらではあるが……こうしてキャンプして、焚き火と星を見つめて酒を飲んで……それで気分転換をしてる」

曙 「あたしもさ、一人でキャンプに行ってるって話を聞いた時は、何を暗いことを!って思ったわよ。でも……今日実際に来てみて、ちょっと考えが変わったわ」

提督 「そうか?」

曙 「ええ……なんだろう、本当に気持ちが落ち着く……なんだか不思議な感じね」


焦りも苛立ちも、恥ずかしさもプライドも……色んな感情が静かに落ち着いてる……そんな感じ。不思議だわ……。





提督 「それで……曙はどうしてここに? 」


ゆったりとした声で聞かれる。不思議……今のこの空気なら……どんなことでも素直に話せそうな……そんな気持ちになる。


曙 「色々と……話したいことがあってさ」

提督 「うん」

曙 「……その……執務室での話なんだけど……。あたしが前世で司令部に冷遇されてたこと……それで今でも司令部を……あんたを憎んだり恨んだりしてるんじゃないかって話……してたでしょ?」

提督 「ああ……」

曙 「それね……さっきもちらっと話したけど……少しだけ当たってた」

提督 「少しだけなのか?」

曙 「そ……少しだけ。えとね、転生した時……やっぱり司令部なんて信用出来ない!みたいな気持ちがやっぱりあってね……それでその……反射的に、こっちみんなクソ提督って……」

提督 「そうだったな……もう随分前のことだ。なんだか懐かしいな」


優しく微笑みながら焚き火に薪をくべる。嫌なことを言われた記憶なのに、なんでそんなに優しい顔するのよ……


曙 「でもね……正直に言えば、あんたが前世の司令部とは違う……ちゃんとあたしたちのことを考えてくれる、信じられる司令官だっていうのは、すぐに分かった」

提督 「……それは過大評価だと思うが」

曙 「うっさい、自虐すんな! あんたがいつだってあたしたちのことを考えて心配してることぐらい知ってるわよ!」

提督 「……」





曙 「なんて……あたしも偉そうなこと言う資格は無いんだけどね……。あんたのことを誤解してたって分かって……謝らなきゃって思ったのよ。だけど……恥ずかしくて……勇気がなくて……言えないうちに……あんたはあたしのせいでどんどん孤独になった……」

提督 「それは気にしなくていい。さっきも話したとおり、俺は一人でも全然苦にならないタイプだ。落ち込んでいったのは別の理由なんだから」

曙 「ばかっ! おおばかっ! ずっと悩んで落ち込んで暗くなって……ひっく……孤独じゃなかったら……ぐす…………近くにいたら……ぐすん…………誰もあんたを放っとかないわよ! みんなあんたが大事なんだから……ひっく……」

提督 「曙……」

曙 「あんたが孤独じゃなかったら、きっとそんなに苦しむことは無かったのよ! ぐす……あたしなんて、ほんのちょっと落ち込んだだけで……ひっく……七駆のみんなが飛んできて……ぐす…………助けてくれるんだから! 」

提督 「……そうか……そうだな……」

曙 「そうよ! それなのに……あんたのそばから……あんたを助けてくれる人達を遠ざけた……あたしがちょっと素直になれなかったせいで……ぐす……」

提督 「曙……それは結果論だ。それに選択したのは俺なんだから、責任は俺にあるんだ」

曙 「そうよ、あんただって悪いわよ! だけど……だけど……間違いなくあたしにも責任はあるんだからっ! だから……だから……」

提督 「……」

曙 「だから……ご……ごめんなさい……ごめんなさい…………ごめんなさい……」


訳が分からず涙が止まらなくなって……温かい手で肩を抱かれた。陸奥さんと違ってすごく遠慮がちに……。提督の気持ちがその手から伝わってくるみたいで……もっと泣いた。


提督 「俺も本当に悪かった。だからもう謝らなくていい……ほんとにごめんな……ほんとに、不甲斐なくてごめん……」


泣きじゃくるあたしの肩を、提督がずっと支えてくれていた。すごく大きな手……不器用ながらもあたしたちを支えている……一番大切な人の温かい手だった。





提督 「さ、コーヒーおかわりだ。俺もコーヒーにするか……」

曙 「あり……がとう……」


落ち着いて泣き止んでみると……子どもみたいに泣いてしまった自分が恥ずかしい。最近なんだか泣いてばかりな気がする……。

さっきまで手が置かれていた肩を意識する……泣き止んだら自然と離れた手……それがすごく寂しく感じた。


曙 「ごめんね……もう落ち着いた」

提督 「そうか……」

曙 「でも……うん、すっきりした。ほんとにもうずっと前から……それこそ、まだ五月雨が秘書艦をしていた頃から……謝ろう、謝りたいって……あはは、今まで何やってたんだろ、あたし」

提督 「それは……随分長い間……曙がそんなに悩んでいるなんて全然気が付かなった……」


しょぼんとする提督。ほんと、こういう人よね。なんだか可笑しくなる


曙 「じゃあ……お互い様ね!」

提督 「……ふふ、そうだな、じゃあお互い様だな」


二人で笑い合う……こうして、自然に笑い合える日が来るなんて……なんか夢みたい。

心が……とても暖かかった





曙 「そうだ、一つ宣言しておくわ」

提督 「?」

曙 「もうあんたのことを『クソ提督』とは呼ばない」

提督 「別にいいんだぞ、呼びやすい呼び方で」

曙 「良くないわよ! それで自分が嫌われてるとか憎まれてるとか誤解するくせにっ」

提督 「それに関してはそのとおりだが……しかし、クソとかクズとか呼ばれると、やはり嫌われていると思うんだが……」

曙 「照れ隠しよ! まったくもう……察しなさいよ! あたしだけじゃない、霞とか摩耶さんだってそうなのよ」

提督 「……俺には、本気と照れ隠しの差がわからんぞ……やはり艦娘は謎だな……」

曙 「もうっ! これは艦娘としてじゃなくて『女心』よ。とにかく! あんたがすぐ真に受けて誤解するのは十分わかったから……あたしもちゃんと反省して、呼び方や言葉遣いに気をつけるわ……気をつけます……」

提督 「呼び方はともかく、敬語は勘弁してくれ。とても曙とは思えん……」

曙 「なにぃー!」


騒ぎながらまた笑い合う……。ほんと、仲の良い友達とか……こ、恋人みたいじゃない!





しばらく二人で話し込んで……


提督 「もう随分と遅い時間だな。曙もテントに泊まっていくか? 」


こいつがとんでもないことを言い出した!!


曙 「/// な、な、何言ってんのよあんた! テントで……ふ、ふ、二人っきりなんて……」

提督 「まぁ、狭いテントだけど二人用だし、気温も高いから毛布をかけるだけで十分温かいしな。二人までなら問題ないと思うぞ」

曙 「…………」


こいつが……あたしのこと全く女扱いしていないことが分かった瞬間だった。む、むっかつく~!

どうしてくれようか……この女心のわからない鈍い男の目を覚まさせてやるには……


曙 「帰るっ!」

提督 「? 何怒ってるんだ?」

曙 「いいの、確かに遅いし、もう帰るっ」

提督 「あ、ああ」





立ち上がって、座ってる提督の背後に回る。大きな背中がそこにあった。

こいつの目を覚まさせてやるんだ!と心のなかで言い訳をしつつ……その背中に抱きついて……顔をうずめた。大きくて暖かくて……


提督 「あ、曙……? どうした……? 」


ふふっ……動揺してる動揺してる。こんなもんじゃすまさないからっ。

大人の色香でからかってやる……


曙 「女を誘って一緒に泊まろうって……ど、ど、ど、どういうつもり……?」

提督 「な……! ///」

曙 「なあに……? 駆逐艦だと思って侮っちゃった? あたしだって……お、お、お、女なんだからっ!」


な、なんか、緊張して、大人の女っぽくない感じだけど……


提督 「いや、あのっ……そ、それは……」

曙 「あたしだって一人の女なんだから……」


提督を一層ギュッと抱きしめる……背中の暖かさ……あ、あれ……なんか心が溢れて……


曙 「あんたのこと……女として……好きなんだから……愛してるんだからね……」


あ、あたし、な、何を言ってるのおおお!


提督 「え、あ、え!? 」

曙 「/// そ、それだけっ、おやすみ!!」


ダダダダダダ


あたしってば……あたしってば……勢いで……なに告白しちゃってるのよおおおお!!

脇目もふらず一直線に森を駆け抜ける……。もう何がなんだか……でも……でも……あいつに近づけたこと、心にふれたこと、そして……心を伝えられたことで、もうそれだけで、喜びが溢れそうな……そんな気持ちだった。



本日分は以上となります。おそらくあと2回で終わりです。やっと、やっと終わりが見えた……。
次回はまた明後日の予定です。よろしければ是非お越しください。

終わりが見えたと思ってからアレアレ?って長くなるんだよなww



――――― 翌日 鎮守府廊下




潮 「曙ちゃん、顔色悪いよ? 報告代わろうか?」

曙 「だ、大丈夫……大丈夫……」


昨夜はほとんど眠れず……ふらふらな状態で遠征に行ったら、こんな時に限って大成功……。まったく……あいつの前でどんな顔すればいいのよ!


朧 「いや、でもふらふらしてるよ? 体調悪いんでしょ?」

漣 「昨夜、なんだかウンウンうなされてたもんね」

曙 「ちょっと寝付きが悪かったからさ……でも、ただの寝不足だから大丈夫だって。それに、報告してくるだけなんだから」

漣 「まー、そうだよね。それに、ぼのたんの大事な大事な時間を奪ったらかわいそうだよネ!」

潮 「それもそうかぁ」

曙 「なによその含みのある言い回し! ふんっ、とにかくちゃっちゃと行ってくるから!」


いっそ代わってもらおうかと思ったけど……理由を聞かれるのが怖くて結局自分で行くことに……





――――― 少し後 提督執務室


すーーはーー。何事も無かったように、落ち着いて……落ち着いて……。


コンコンコン


曙 「曙です、入ります」


うぐぐ……顔を上げられない……///


長門 「遠征報告か、ご苦労」

曙 「は、はいっ。東京急行遠征、大成功いたしました」

長門 「大成功助かる、ありがとう。……提督、どうした?」

提督 「あっ、いや、そのっ……お、お、お疲れ様だったな! うん、お疲れ様!」


……相手が自分よりテンパってると、なんか余裕ができるのね……はじめて知ったわ。

ゆっくりと顔を上げて提督を見る。


提督 「/// あ、いやその、うん、その……」


真っ赤になって慌てて目をそらす提督……。

ぷっ……。大の男が何やってるのよ! ふふ、女との接点がまるでない人生だったって……ほんとみたいね。なんか焦ってて可笑しい!





長門 「提督……一体どうしたんだ? 何か様子が変だが……」

提督 「え!? い、いや、何もない、何もないぞ! 」

曙 「提督……昨日のお話なんですけど」

提督 「!!」

曙 「もう……あたしが提督のこと、憎んでるとか、嫌いだとか、そういう誤解はなくなりましたよね?/// (にっこり)」

長門 「?」

提督 「あ……ああ、分かった、もうちゃんと分かった。大丈夫だ!(あたふた)」

曙 「そうですか……別に返事がほしいとかそういうわけでは無いので、分かってもらえたならいいです」

提督 「そ、そうか……うん、ちゃんと分かった、うん」


むぅ……あからさまに安心した様子なのがムカつくわね……ならば……


曙 「で、でも……あたっあたっ……あたしの……気持ちは本当だから!! ///」

提督 「あ……ああ……その、わ、わかった、ちゃんと受け取った ///」

曙 「そ、そうっ! それならばいいわっ」

長門 「ふむ……よくわからないが、曙の言葉遣いがちゃんとしているのは感心だ。ようやく上官への尊敬の念が芽生えたか。結構だ」

曙 「え、えっと、別にそういう訳じゃないのですが……きょ、今日はこれで失礼します! 」

提督 「あ、ああ! うん、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ!」


バタン


つ、つ、疲れたぁ~~。でも……あいつ、ちゃんとあたしのこと女として意識して……赤くなって……えへへ……うん、良かった!





提督 「…………(ぐったり)」

長門 「ふむ……本当にどうしたんだ? 曙の様子も随分変だったが、提督は輪をかけておかしいな」

提督 「大丈夫……だ……」

長門 「いや、全く大丈夫に見えない。机に突っ伏して脱力しているようにしか見えないが……」

提督 「その観察は正しい……長門、悪いが今日の執務はこのぐらいにする」

長門 「ふむ、必要な業務はもう終わっているから構わないが……めずらしいな」

提督 「それで、申し訳ないが、陸奥に執務室に来てほしいと伝えてくれ。私的なことだから時間が空いたらで良いからと……(ぐったり)」

長門 「それは良いが……提督よ、本当に大丈夫か? 医者が必要なんじゃないか? 」

提督 「いや、本当にちょっとした脱力だ。じゃあ陸奥の件、頼むな」

長門 「承知した」





――――― 少し後 第七駆逐隊の部屋


潮 (なんだか……曙ちゃん、すごく変だよね?)

朧 (うん……なんか抱枕を出してきてずっと抱いてるよね?)

漣 (うしし……きっとご主人様と上手く行ってる妄想でもしてるんだよ)


曙 (ぎゅー)


あいつとお揃いの抱枕を座らせて……昨日みたいに背中からこう……うん、こんな感じでぎゅって……うわぁ!うわぁ!


曙 (ばたばたばた)



潮 (えっと……幸せそう……なの……かなぁ?)

漣 (た、たぶん?)

朧 (とりあえず、そっとしておこうか……)





**********

 Side 陸奥

**********





――――― 夕方 長門と陸奥の部屋


陸奥 「ただいまぁ~」

長門 「おかえり。待っていた。提督から伝言があってな」

陸奥 「伝言? どうしたの?」

長門 「執務室に来て欲しいそうだ」

陸奥 「ええぇ!? そんな、呼び出してくれればいいのに」

長門 「それがな、私的なことだから陸奥が都合が良い時でと。どうせ夜遅くまで執務室にいるから時間があるときで良いとのことだ」

陸奥 「ふーん……分かったわ。じゃあすぐ行ってこようかしら……。長門、悪いんだけど今日の晩ごはんは外で食べてくれる? 」

長門 「わかった。提督は随分と深刻そうだったから話も長くなるだろう。ゆっくり行ってくるといい」

陸奥 「そんなに深刻だったの……? 一体何があったのかしら?」

長門 「朝からちょっと様子がおかしかったんだが、曙が報告に来たら急に挙動不審になってな。二人でよくわからないやり取りをしたかと思うと、曙が帰った後、提督がぐったりとしてな……」


何かしら……すごく嫌な予感しかしないわ!


陸奥 「長門、大事な話だから、二人のやり取りを詳しく教えてくれる? 」

長門 「ふむ……まず曙が入ってきて…………(長門説明中)」





長門 「という感じだった」

陸奥 「そう……なるほどね~」

長門 「なんだ、こんな暗号のようなやり取りで分かるのか?」

陸奥 「そうね、これはわたしの分野だからね」

長門 「そういうものなのか」


そう……これは間違いないわ。曙ちゃん、ものすごく思い切ったわね。淑女協定を飛び越えて突き進んだんだぁ。でもそうね、昨日の提督の話を聞く限り、淑女協定なんて害でしか無い。あの鈍い人には、わたしたちの気持ちを、もっともっとちゃんと伝えないとね。

となると……わたしもうかうかしていられないわね!


陸奥 「よく分かったわ! じゃあ、わたしもちゃんと準備して行かないと! これと……これぐらいかしら? 」

長門 「陸奥よ……なぜ酒とつまみを物色している……? 」

陸奥 「おそらくしらふでは話せないような相談なのよ。だから今日は特別対応よ!(断言)」

長門 「うっ……そ、そうなのか……まぁ、ほどほどにな……」

陸奥 「ええ、じゃあわたしも覚悟を決めて行ってくるわ! 抜錨っ! いざ出撃!」

長門 「それほどなのか! では、武運を祈る」

陸奥 「ありがとう長門、じゃあ行ってくるわ!」


先を越されちゃったのは残念だけど……。わたしも頑張るわ!

昨日の話を聞いて改めて思った……この人を支えたい、笑顔にしたい……幸せにしたい……。並んで笑い合って……ともに生きてともに死にたい……。不器用で堅物で放おっておけない……大事な大事な人。

わたしも勇気を出してスタートラインに立とう……曙ちゃんと同じように!



更新遅くなりました! 本日分は以上となります。
いざ終わりとなると、あれこれ考えてしまってなかなか書けないですよね……>>411さんのご指摘通り、早速長くなってあと2回という予想がもうはずれました!

次回はまた2~3日後の更新予定です。それではまた是非お越しください。



――――― 少し後 提督執務室





コンコンコン

陸奥 「はいりまーす」


いつもは執務机でなにかやっている提督が、ソファでぐったり。あらあら、本当に困ってるみたいね。


提督 「陸奥、来てくれたか」

陸奥 「ええ、なんだか大変らしいから、元気が出るものも持ってきたわよ~」


ドンッ


提督 「……ありがとう」

陸奥 「あらあら、今日は『禁酒中だー』って抵抗しないの?(くすくす)」

提督 「いや……今日はもう呑まないとって感じでな……」

陸奥 「そうだと思ったわ~。さ、呑みながら聞きましょうか」





陸奥 「それで~? 何があったのぉ?」

提督 「いや、曙のことなんだが……その……何か接し方を間違えていたんじゃないかというか……」

陸奥 「ふむふむ」

提督 「いやその……なんと言ったらいいか……」

陸奥 「じれったいわねぇ……曙ちゃんに告られちゃったっていう話じゃないの?」

提督 「!! やはり預言者か何かなのかっ」


あーあ、やっぱりかぁー


陸奥 「アホッ。言っておきますけど、曙ちゃんが提督を好きなことに気がついてなかったのなんて、提督と長門ぐらいですからね……(ちょっと大げさだけど)」

提督 「なん……だと……?」

陸奥 「も~、ほんとに鈍いんだから(ごくごく)」

提督 「ぐぬぬ……(ごくごく)」

陸奥 「それで、具体的にどんな感じだったの?」

提督 「えっとだな、昨夜また一人でキャンプしていたら……(提督説明中)……という感じで、最後にこう、逃げるようにだな……」

陸奥 「はぁー、なるほどねぇ。キャンプに飛び込むなんて、さすが曙ちゃんね」


曙ちゃんの行動力、決断力、ほんとに感心するわ。でも……告白しちゃったのは、勢いでやっちゃった感じね。きっと今頃、本人も戸惑ってるのかな。





陸奥 「それで……告白された感想は?」

提督 「感想もなにも……。接し方を間違っただろうかとあれこれ考えているところで……」

陸奥 「さっきも言っていたけど、接し方を間違えるってなーに? 意味がわからないんだけど」

提督 「そのだな……本来の上官と部下という関係ではなく……なんというか……男女を意識してしまうような……。例えばセクハラまがいの行動をしていたとか……そういうのをだな……」


まー……うん……これが提督よねぇ。曙ちゃんかわいそ……。


陸奥 「接し方に正しいも間違いも無いでしょ。それに、提督は仕事以外で艦娘と接することなんてほとんど無いじゃない。間違えようがないわ」

提督 「……それはそうだが」

陸奥 「だからー。曙ちゃんは、ありのままの提督が好きになって、それで頑張って告白したわけよ。間違えたなんて言ったら失礼だわ」

提督 「……ありのままの俺を……ばかな…………」

陸奥 「もー、いつも思うけど、自己評価が低いというか……卑屈ねぇ」

提督 「ぐぬぬ……」





陸奥 「それで、改めて聞くけど、告白された感想は?」

提督 「そう言われてもな……俺のことを憎んだり恨んだりするどころか好意まで持ってもらえたというのは本当に嬉しい……。だが……正直、困惑している。なんというか……子どもを騙しているような……そんな気分だ」

陸奥 「駆逐艦の子たちは、見かけは子どもだけど……歴戦の猛者なのよ?」

提督 「それは分かっているんだが……見た目やしぐさ、会話なんかは……どう見ても子どもだろ?」

陸奥 「それはそうだけど……。でもね提督。仮にそうだとしても……女は何歳であっても女なの。それこそ5歳の女の子ですら、気に入った男を独占しちゃうぐらい。だから、子どものたわごとじゃなく本気なのよ」

提督 「そうかもしれない……。だが、俺の悪い部分や憎まれる部分が見えていなくて、幻想に恋をしているんじゃないだろうか……?」

陸奥 「また始まった……卑屈なのは駄目って言ってるでしょー(ぐびぐび)」

提督 「だが、曙もそうだが……日常的に俺になついている艦娘というと駆逐艦と……軽巡ぐらいか。大人の艦娘たちはやはり一歩引いて俺と接してるだろ? 」

陸奥 「うん、それは認めるわ」

提督 「だから……子どもが身近な大人に懐いてるだけなんじゃないかと考えているんだが……」


この人は、自己評価が低すぎる以外は、物事を冷静に観察する。なるほどね、現状を卑屈に分析するとそうなるのね。これはもう淑女協定を終わりにするしか無いわね。独断でみんなには悪いけど……。





陸奥 「提督。わたしたち艦娘は一つの淑女協定を結んでるの。知ってる?」

提督 「? 何度か言葉に出ているのは聞いたが……内容は知らないな」

陸奥 「そうよね。その内容は、提督の一人の時間を邪魔しないこと。つまり、あなたのところに押しかけたり個人的な話をすることを禁止してるのよ」

提督 「?? 何だそれは」

陸奥 「あなたが艦娘とのコミュニケーションをどんどん減らして執務室に閉じこもるようになって……この辺は聞いた話だけどね。それで、ついには夜には森に行って一人でキャンプでしょ? それが発覚したときね……わたしもそうだけど、艦娘みんな……特に大人の艦娘が受けたショックって凄いものだったのよ」

提督 「ショック? なんでまた?」

陸奥 「そこまでして一人になりたいのか……そこまで艦娘を拒絶するのかってね」

提督 「(ガタッ)そ、そんなつもりは無い!!」

陸奥 「もちろんわかってるわ。わたしはあなたの身近にいたからね。だけどね……そうじゃない子から見たら、自分たちを拒絶しているように感じるっていうのは……分かるでしょ?」

提督 「……」

陸奥 「わたしはその頃はまだ着任したてだったからピンときて無かったけど……今ならみんなの気持ちがよく分かるわ。だから……あなたがまた皆に歩み寄った時、みんなあんなに喜んでいたのよ」

提督 「そうか……俺の方から距離を作っていたんだもんな……そうか……」





陸奥 「だからね、無邪気な子や情熱を抑えきれない子があなたに近づいたりしてるけど……。他の艦娘は、あなたがどういう距離を取ろうとしているのか。それを見つつ、自分を抑えてるの」

提督 「そうか……」


ぐぬぬ……分かってないわね。これはもう……全部言っちゃうしかないわ。お酒の力を借りないと……。


陸奥 「(ぐびぐび)分かってないわねぇ。つまりね……曙ちゃんみたいに、あなたを愛してる艦娘は他にもいっぱいいるのよ。それを抑えてるっていうこと」

提督 「…………え?」

陸奥 「え? じゃないの! だからぁ~、子どもの勘違いとかそういうのじゃなくて、あるがままのあなたを心から愛してる子が、曙ちゃん以外にもたくさんいるって言ってるの! 当然、大人の艦娘たちにもね」

提督 「……………………え?」

陸奥 「もうっ! どうしてフリーズしてるのよっ!」

提督 「……だってな。俺もそんなに長く生きてるわけじゃないが……これまでの人生で、家族からも他人からも……愛された覚えなんてない……そんな俺に……おかしいだろう?」





陸奥 「まったく、そんなに疑うなら、ちゃんと分からせてあげる!」

提督 「……どういうことだ?」


どきどきどき……。う……曙ちゃんが背中に抱きついて告白した気持ちがよく分かる……。目を見てると恥ずかしくてとても言葉が出ない……。わたしも真似しちゃお……


陸奥 (すくっ……スタスタ)

提督 「?」


……広い背中……。わたしは艦娘の中でも特に大柄で、小さい子たちに飛びつかれたりしてるけど……。提督はわたしよりずっと大きいからね。本当に広くて……そうね……この背中には抱きつきたくなるわ……。


陸奥 (ぎゅっ)

提督 「!! む、陸奥……ど、どうした?」


あ、ヘッドギアつけっぱなしだと角が提督に刺さりそう……。はずさなきゃ……


陸奥 「よいしょっと(はずしっ)」

提督 「(ほっ)まったく、急にどうしたんだ」

陸奥 「だって、曙ちゃんはこうしたんでしょ? 曙ちゃんだけずるい! わたしもするのっ(ぎゅ~)」

提督 「うわ……待てって!」

陸奥 「やだ。ヘッドギア外したから、遠慮無くスリスリ出来るわね。すりすり~」

提督 「まったく、酔っぱらってるのか!」





陸奥 「……酔ってないわ」

提督 「……」

陸奥 「真剣に……聞いてね?」

提督 「う……わかった(ごくり)」


困らせないように……ずっと心に秘めてきたこと……ついに……言うのね……


陸奥 「提督、その……わたしはね…………長門のことが大好きなの!」


……わたしは何を言ってるの!!


提督 「あ、ああ、知ってるが……」

陸奥 「あ、それで、そのぉ……長門が笑顔でいられるように、あれこれ世話を焼くのが楽しいの!」

提督 「ああ、それも知ってるが……?」


提督が不審そうに答えてる……そりゃそうよね、この体勢でなんでこんな話を……。もうっ、曙ちゃんみたいに勇気出さなきゃ!





陸奥 「でも……でもね……長門と同じように堅物な困ったさんの提督も……なんとか笑顔にしたくて……あれこれおせっかいをして……」

提督 「おせっかいとは思っていない……本当に感謝している……」

陸奥 「そ、そう! で、それでね……あなたのおせっかいを焼いているうちにね……あなたの……真剣な想いだとか、優しさだとか……苦しくても逃げ出さない強さとか責任感とか……」

提督 「買いかぶりだ……」

陸奥 「ずっと近くで見てきたのよ? ちゃんとわかってるわよ! そういう……あなたのすべてが……」


駄目……気持ちが溢れて涙が……顔が見えない位置で……よかった……


陸奥 「あなたの……不器用だけど、皆の幸せのためにがんばる姿に……諦めない強さに……惹かれて…………自分の弱さを嘆くあなたを……どうしても支えたくて……ぐすっ」

提督 「陸奥……」

陸奥 「あなたを……愛してるわ……どうしようもないくらい……ぐすん……」


ついに……言っちゃった……。あはは……もっと大人の女らしい、スマートな告白がしたかったなぁ……あはは……。




本日分は以上となります。次はまた数日後に!
お話の構成に関して、賛否両論色々あるとは思いますが、あくまで二次創作物ということでご容赦ください。
一応、お話全体の構成や補足などは終了後に簡単に解説する予定です。

今度こそあと2回くらいで終わると……思います。ラストをもっと練るため明日から一人キャンプに出かけてきます! というのは大げさですが、一人キャンプは自分の趣味でして、そこで焚き火を見ながらゆっくりお話を考えて来ます。
それではまた次回!よろしければまた是非お越しください。



提督の背中に抱きついたまま……静かに時が流れる。

ぎゅ~。ああ、提督の背中、あったかい……ずっとこうしてたいな……。

で・も・! 背中から伝わってくる感情は……「俺はどうしたらいいんだ!」っていうフリーズだけ。はぁ……せっかくの告白なのになぁ。仕方ない、ここはお姉さんらしい余裕で!


陸奥 「提督、そんなに困らないで。『わたしと曙ちゃん、どっちを選ぶの!!』……とか、『今すぐ返事をして!』みたいなつもりは無いんだから」

提督 「い、いやその……そうなのか?」

陸奥 「そーよ。第一、提督を独占できないことなんてみんな知ってるから、誰を選ぶのか!なんて話にすらならないわよ」

提督 「……どういうことだ?」

陸奥 「えー、だって提督も、艦娘全員と魂がつながっているの、ちゃんと感じてるでしょ?」

提督 「あ、ああ……それはまぁ、前も話したと思うが、魂のつながりを感じるな」

陸奥 「でしょー? わたしがどれだけ頑張ったって、提督と他の子の魂のつながりを消すことなんてできないわけなのよ」

提督 「ふむ……」

陸奥 「だからそうねぇ……提督はハーレムの王様みたいな存在なわけ。いっぱい愛して欲しいとは願うけど、独り占めは無理なのは最初からわかってるみたいな……そんな感じ?」





提督 「ま、待った待った! ハーレムってなんだ! 俺は全然そんなつもりはっ」

陸奥 「提督にそんなつもりが無いのはわかってるわよぉ。だけどね、多くの艦娘があなたを求めてる。父性を求めてる子もいれば、母性でもってあなたを包みたい子もいる。男性としてのあなたを愛してる子もいる……わたしみたいにね」

提督 「あ、ああ……その……///」

陸奥 「でもって、魂でつながっているあなたは……みんなを一定以上愛してるだろうし、その願いを無下に拒絶したりできないでしょ?」

提督 「…………」


考えこんじゃった。あーあ、そりゃわたしだって、出来ることなら提督に選ばれて愛されたら素敵だなって思うわよ……。でもそれで、鎮守府の仲間たちが苦しみ続けるのもイヤ……誰もいない二人だけの鎮守府だってイヤ……結局は、そういうことよね。


提督 「確かに……そのとおりだ……すまない……」

陸奥 「いいのよ。分かっていたことだもの」

提督 「でも……でも聞いてくれ、陸奥!」

陸奥 「(どきっ)な、なに、大きな声を出して……」


強い調子の声、まっすぐにわたしの目を射抜くように見つめる瞳……ど、どうしよう……(ドキドキドキ)





提督 「俺は……家族や親族とも上手くやれず、口下手で友人もろくにいなかった……ずっとそうやって生きてきた」

陸奥 「う、うん……」

提督 「だが、そんな俺が……一緒に酒を飲んで馬鹿話をしたり、真剣にアドバイスをもらったり、つまらない愚痴を聞いてもらったり、相手のやりたいことに協力したり……その……そういう……本当の友人同士みたいなやり取りを陸奥とできて……本当に感謝してるんだ」

陸奥 「あ、えっと……」

提督 「だからその……陸奥は俺にとって本当に特別な……大事な親友なんだ。それだけは……その……伝えたくてな……」

陸奥 「……」


提督がこうやってわたしを認めてくれて、強く心を伝えてくれたのは嬉しいのよ。うん。だけど……告白したら親友宣言って……なんなのよぉぉ!


陸奥 「…………(ぎゅ~)」

提督 「あ、あの……陸奥……苦しいし……その……あたっているというか……」

陸奥 「あーてーてーるーのー!」

提督 「あ、あててるって ///」





陸奥 「何よっ! 普段からすぐ胸とかおしりとか見てるし、こうして抱きついたらおっぱいばっかり意識してるくせに、なのに女じゃなくて親友扱いってどういうことよ!」

提督 「/// なっ! い、言いがかりだっ! ど、ど、ど、どんな根拠があってそんなことをっ」

陸奥 「あーのーねー! わたしはいつも提督の目を見て話すのっ。そうすると、何故か提督の目線がちょっと下の方に移動してたり、もっと下の方に移動してるのなんて、すぐ分かっちゃうのよ!」

提督 「……」

陸奥 「『あ、またおっぱい見てる』とか『また太もも見てる。スカートみじかいからなぁ』とか、いつも思ってるわよ!」

提督 「…………」

陸奥 「親友なら、そんな所見ないでしょっ。どういうこと?」

提督 「/// だ、だってなぁ、しょうが無いじゃないか! そんな立派な体で、そんな水着みたいな服で目の前に立たれたら……どうしても目が行っちゃうだろう! これはもう、友情とか愛情とかの前に、男の本能なんだっ! それとこれとは別なんだっ!」

陸奥 「あー、開き直ったわね! つまり、わたしのことを親友とか言いながら、女の魅力を感じてたのは認めるんだぁ」

提督 「くっ……。それは、そのとおりだ! だが俺は上官として、部下と性の対象と考えないように一生懸命だなぁ……」

陸奥 「ふふーん、認めたわねっ。ほら、やっぱり女としての陸奥さんが魅力的なんじゃないっ」

提督 「それはそうなんだよ! だが……その……俺に恋愛とか難しすぎるんだ! まず何より友人になれたことが本当に嬉しくて、友人として本当に大切なんだ! 分かってくれよ……」





うふふ……あんまりいじめちゃ可哀想か。わたしが魅力的だって認めたんだから、いじわるはこのぐらいに……しないでもっといじめてやるっ!


陸奥 「ふー、わかったわ。そうよね、エッチな目で見てるのはわたしだけじゃないもんね……(はぁ)」

提督 「なっ! な、なにを証拠にそんなことをだな……」

陸奥 「摩耶ちゃんがねー、愛宕に相談したそうよ。『改二になったら、提督が妙に俺の胸元を気にしてる気がする』ってねー」

提督 「う、うそだ……」

陸奥 「ほんとよー。それに五月雨ちゃんもね、『この服、動くとすぐおへそが見えちゃうんですけど、そこにすごく提督の視線を感じるんです。お腹壊さないかご心配かけてるみたいで』とか言ってたわよ。わたし以外の誰かにもこの話してるかもねー(にやにや)」

提督 「……」


全部ほんとの事とはいえ、ちょっといじめすぎかな?


提督 「死にたい……いや、死のう。陸奥、腹を切るから介錯を頼む……」

陸奥 「ぶははは、提督、何その深刻な顔! いいじゃない、ちょっとくらいエッチだって!」

提督 「あああ、俺はセクハラ野郎として軽蔑されてたんだ……真面目一筋に頑張ってきたつもりだったのに……本能に……本能にちょっと負けてこんなことに……」

陸奥 「あほたれちゃんっ。ほら、改めて抱きついちゃう。陸奥さんのおっぱいだぞー」


ぎゅ~





提督 「こら、やめなさいっ」

陸奥 「まじめに真剣にひたすら耐えるあなたは素敵よ……でも、ちゃんと人間らしい煩悩があって恥ずかしがって……そういうあなたはもっと素敵。そうやって、少しずつでいいから本音を見せてガードをといてほしいわ」

提督 「陸奥……俺は……」

陸奥 「それにー。提督にはもっと積極的にエッチになってもらいたいぐらいよ。リットリオも言ってたわよー。提督にはもっと地中海的であって欲しいって」

提督 「……なんだそれは」

陸奥 「イタリア男みたいな情熱的なスケベのことらしいわよ」

提督 「俺にはハードル高すぎだろう……」

陸奥 「うふふ……そうね。まーでも、男の本能なんでしょ? ちょっとぐらいエッチでもいいじゃないっ」

提督 「いや……その……な。真面目な駆逐艦の子なんかは潔癖だろ? 酒を呑まないのもそうだが、セクハラみたいなのを嫌う子が多いだろうと思ってな……」

陸奥 「また曙ちゃん基準の話でしょー?(つねりっ)」


ああもうっ、やっぱり嫉妬しちゃう!





提督 「痛い痛いっ。まぁ……そうだ。最初に改装したときだったかな? 『わたしの裸が見たいだけなんでしょ!』ってすごい怒鳴られて……それで特に気を使うようになったんだ」

陸奥 「もー、言葉通り受け止めすぎよ。曙ちゃんはツンデレで誘い受けのドMなんだから、そんなの『改装の時脱げちゃうから見て!』っていう意味じゃない(暴論)」

提督 「…………え?」

陸奥 「おっと、さすがに提督にはハードルが高すぎたわね。照れ屋だったり、素直になれないだけで、決してそういうのがイヤなわけじゃないってこと」

提督 「はぁ……」

陸奥 「だからほら、別にひどいセクハラを推奨してるわけじゃないんだから、ね?」

提督 「ああ……」

陸奥 「友人だと思っていた陸奥さんの魅力に抗えず、ついに女として意識してしまっても全然OKってことよ!」

提督 「はいはい……」

陸奥 「もー! でもね、うん……全然色気がない話でガッカリではあったけれど……さ」

提督 「うん」

陸奥 「わたしが、あなたの人生において本当に特別な存在だって……そういうのは本当に嬉しい……嬉しいわ」

提督 「うん、それは本当に本当だ。なんというか……そばに居てくれてありがとう。その……これからもよろしく」


後ろから抱きついているわたしの手を提督が握る。すごく遠慮がちに……うふふ、でも、うん、提督にしては上出来上出来!





陸奥 「……提督、あのね」

提督 「ん?」

陸奥 「あなたという男性を愛してる艦娘は、多分、あなたが思っているよりずっと多いわよ」

提督 「……」

陸奥 「もちろん、わたしは誰にも負けない気持ちを持っているつもりだけど……。でも、こういうのは理屈じゃないからね。あなたが誰かと愛し合ったって、誰かに甘えたって、仕方ないと思ってるから……だから、わたしに遠慮したりはしないでね」

提督 「陸奥……」

陸奥 「わたしに友情を感じてくれているのは嬉しいけど、愛情はまた別問題だったりするのはちゃんとわかってるから……だから、わたし以外の子とラブラブしたところで、友情は消えたりしないから」

提督 「うん……ありがとう」

陸奥 「あ、でも、なんか想像したら腹が立ってきた(つねりっ)」

提督 「いてっ。な、なんだよ、怒らないんだろ?」

陸奥 「仕方ないとは言ったけど、怒らないとは言ってませーん!(つねりっ)」

提督 「想像だけで怒るなよ……恋愛とか俺にはほんと、ハードルが高すぎる。正直途方に暮れてるんだ。当分そんな心配は無いよ、ほんと」

陸奥 「そーね。提督の理性がスケベ心に負けなければ、ね♪」

提督 「その話を蒸し返すなっ!」

陸奥 「あはははは! さ、じゃあもっと呑んで呑んで」

提督 「ああ、呑まずにやってられるか!」


そうね……わたしたちはどうせ死ぬまで一緒なんだもの。ゆっくりゆっくり前に進んでいけばいいわ。これまでもそうだったし、これからだって、ね。

でも……淑女協定が破棄されたら……そんな呑気なことを言ってられないかもよ♪



本日分は以上となります。
次回が最終回になります。数日中にはなんとか投下する予定です。

例えばむっちゃんが秘書艦として同じ部屋に居たとして。あのおっぱいや太ももに目が行かない男がいるだろうか。いやいない。
でもって、うっかり目が行っちゃうと、ちゃんと相手は気がついてるんですよね。怖い……ブルブル。

それでは、長かったお話もようやく最終回です。よろしければ是非またお越しください。

摩耶様……申し訳ありません……。
ちょっと空母6隻で対空カットイン摩耶様と演習してくる。吐き出す……ボーキを…………。

さて、遅くなりましたが最終回投下します。



――――― 翌日 夕方 長門と陸奥の部屋





長門 「ただいま」

陸奥 「おかえりなさい長門。すぐご飯にするわね」

長門 「ああ、いつも済まないな」


いつも思うけど、わたしたち夫婦みたいね……


……



長門 「いただきます、もぐもぐ」

陸奥 「はい、召し上がれ」

長門 「ああそうだ、今日は珍しいことがあったぞ」

陸奥 「なあに、なにがあったの?」

長門 「執務終了にあわせて酒匂が部屋に来てな。提督を夕食に誘っていた」


ふぅん……酒匂ちゃんも協定違反かぁ。やるわね!


陸奥 「提督も断るのに苦心してたでしょ?」

長門 「いや、根負けして、一緒に鳳翔さんのお店に向かったぞ。それが珍しいなと」

陸奥 「なんですってぇ!」

長門 「(びくっ)ど、どうしたっ」

陸奥 「長門……行儀が悪いのは重々承知だけど、急用ができたからちょっと出かけるわ」

長門 「あ、ああ……その……ほどほどにな……」





――――― 少し後 鳳翔さんのお店


さて……二人はどこにいるのかしら……

いた……。ちょうど二人が席につくところね。

うわっ……取り囲むように聞き耳を立ててる軍団が……金剛なんて黒いオーラ出てるし……二人共気がついてないなんて揃って鈍感ねぇ……。

わたしも……こっそり近くに……


酒匂 「司令っとごはんっ♪ いっただきまーす!」

提督 「ああ、頂きます」

酒匂 「ぴゃんっ。おいしいっ」

提督 「そ、そうか。ところで、何か話があって誘ったんだろ? 聞かせてくれるか?」

酒匂 「ぴゃん? ううん、特にご用事はないよ?」

提督 「へ? じゃあどうして急に二人で食事をしようなんて……」

酒匂 「もー♪ それはぁ……酒匂が司令のこと大好きだからだよぉ」


ピクッ

おっと……殺気が漏れちゃったわね。周りからもチラホラと……





提督 「いや、そのだな……あはは」

酒匂 「阿賀野ちゃんや矢矧ちゃんも司令のこと大好きだし、他にもいっぱいそういう人がいるみたいだし……酒匂も負けないようにがんばろうかなって……ぴゃん!恥ずかしいっ」

提督 「い、いやその……買いかぶりだろう……あははは……はは…………」


そうだ、そういえば酒匂ちゃんは最近の加入だから……きっと淑女協定のこと知らないのね。そっかー、協定が無くなったらこれが日常になるのね。わたしも、もたもたしていられないかもね!


酒匂 「司令って確かエビフライが好きって言ってたよね。酒匂のもあげるよ~、はい、あーん♪」

提督 「(ダラダラダラ)い、いや、そういうわけには……ちゃんと自分の分を食べないと、姉たちみたいに大きくなれないぞ、うん」

酒匂 「ぶー! どうせ酒匂はちいさいよーだ」


二人のイチャイチャしたオーラに対して……聞き耳を立ててるみんなから立ち上るどす黒いオーラが……あ、あら、わたしからも立ち上ってるわね……まったく、提督ってばデレデレしてしょうがないわね~


酒匂 「あ、司令。ほっぺたにごはん粒ついてるよ。もー、うっかりさんだなぁ」

提督 「え、そ、そうか。いや、まいったなぁ……」

酒匂 「そっちじゃないよー。もー、しょうがないなぁ……えいっ……(ちゅっ)」

提督 「………………えっ?」

酒匂 「/// ぴゃんっ! と、とれたよっ」





ガタガタガタ

がしっ

酒匂 「ぴゃ! な、なにっ」

金剛 「ヘーイ酒匂! ちょぉっと向こうでお話するデース!」


がしっ


酒匂 「ぴゃ、ぴゃー……」

飛鷹 「淑女の約束事を、しっかりと教えてあげるわ(にっこり)」


ガタガタガタ


五月雨 「はい、約束は大事ですよね!」

神通 「秩序を守ることはとても大切です……わたしも参ります」

酒匂 「ぴゃ、ぴゃぁぁぁぁ!」

提督 「あ、あの……」

五月雨 「提督は黙っていてください!」

提督 「……はい…………」

陸奥 「あ、みんな、ちょっと待ってくれる?」

金剛 「What? なぜですかー。明らかな淑女協定違反デース!」

曙 「その淑女協定に……あたしも異議ありです!」

神通 「どういう……ことですか?」


これはいい機会よね。この際ちゃんと話しちゃいましょう。





陸奥 「淑女協定って……わたしたち艦娘から距離をおいて一人になりたがってる提督を邪魔しないように……そういう位置づけよね」

青葉 「はい、青葉が集めた情報を元に、そういう協定になったんですよね!」

陸奥 「でもね……。その提督が一人になりたがってる理由っていうのがそもそも誤解だったのよ」

五月雨 「誤解……ですか?」

曙 「そうなのよ。このくs……提督はね、自分が艦娘に酷いことしてる。艦娘は自分のことを恨んだり憎んだりしてる、そんな誤解から距離を置いてたのよ」

提督 「いや……そこまででは……」

金剛 「Why! どうしてそんな誤解をしてるデスかー!」

陸奥 「まぁそれは話すと長くなっちゃうけど……。ま、何はともあれそんな誤解してるからね、こっちが淑女協定で提督と距離をとったら『自分が嫌われたり憎まれたりしてるから』なんて思い込んじゃうのよ」

五月雨 「そんなぁ……誰もそんなこと思ってないのに……ぐすっ……」

曙 「ああ、泣かないでよっ! だから協定なんか無くして、こいつのことを……その……大切に思ってるっていうのを言葉とか行動で示すようにしたほうが良いと思うの!」

神通 「…………そうですね、賛成です。提督は自分から暗く沈んでいこうとしていました……。一人で勝手に誤解して沈んでいくなんて……もう許しません。わたしももう遠慮しません」

飛鷹 「そう……遠慮が逆に提督を苦しめているなら、確かに協定なんて百害あって一利なしよね」

デモソレダト...ナニガイチバン...

ガヤガヤ





提督 「みんな聞いてくれ……その……確かに誤解していた部分があるのは本当だ……。それに、俺はどうも鈍いらしくて……皆の気持ちとか考えを察しているとは言い難い。だからその……協定とかはよくわからないが……皆には心のままに接してもらえると嬉しいんだ。俺はでかい上に無口で、非常に話しづらいとは思うが……どうか遠慮せずに……その……」


うふふ、最後は消え入るように……この人のこういうところがすごくかわいいわ。でも、頑張った甲斐はあったみたいね。みんなちゃんと分かってくれたみたい。


金剛 「OKテイトクー! 淑女協定は破棄して、心のままにアタックシマース!」

青葉 「わっかりましたー! じゃあ、淑女協定は終了ということで、青葉がバッチリ、周知徹底しますね!」

瑞鳳 「そういうことなら負けてられない……早速卵焼きを差し入れなきゃ!」

陸奥 「良しっ、ちゃんとまとまったわね! でも、その前に……抜け駆けにはちゃーんとお仕置きしないとね♪」


がしっ


酒匂 「ぴゃ! え、え、え?」

金剛 「賛成デース!」

神通 「公衆の面前での破廉恥行為は許されませんから」

曙 「そうね、鎮守府の秩序を保つのは大事だわ」

五月雨 「というわけで酒匂さーん。ちょっとあっちに行きましょうか?(にっこり)」

酒匂 「ぴゃ、ぴゃぁぁぁ、助けてぇぇ」

矢矧 (ごめん酒匂……無理……)


ズルズルズルズル





提督 「あ、えっと……」

龍驤 「なんや、提督一人になってしまったんかいな。仕方ない、うちが一緒に食べたるわ」

秋津洲 「しょうがない、わたしと大艇ちゃんも一緒にいてあげるかも!」

提督 「えっと、ああ、ありがとう……?」

夕立 「ずるいっぽいー! 夕立も一緒に食べるっぽい!」

雪風 「しれぇ、雪風もご一緒します!」

提督 (お、俺は……どうしたらいいんだ……)


ワイワイワイワイ



……酒匂ちゃんとしっかりお話して戻ってきてみたら、提督はみんなに囲まれて酷いことに……まったく、油断も隙もないんだから!





++++++++++

 Side 曙

++++++++++





――――― 2週間後 お昼すぎ 提督執務室


時津風「もう終わりかー。しれー、またねー!」

雪風 「またです!」

ワイワイ


陸奥 「ふー、今日も賑やかだったわねぇ」

提督 「ああ、まったくだ……」


ぐったりつかれてるわね……。でも、賑やかにわいわいと騒がしい昼食は楽しそうだから、きっとこれでいいのよね! 無理だけはさせないように気をつけないと!


曙 「でも、無理はしすぎないでくださいね。どうしても辛いようなら、やり方をまた考えますから」

陸奥 「そーそー。無理は駄目よね。お昼休みと1500の休憩は自由に来て良い!ってルールだと、どうしても大勢来ちゃうからね。いっそもっと開放したほうが混乱が少なくなるのかしら?」

曙 「ルールは試行錯誤が必要かもしれないですね。あたしの秘書艦補佐も、交代制にしてー!って希望が沢山きているようですし」

陸奥 「それはもう沢山来てるけどねー。でも、お仕事の効率を考えると固定のほうが良いのよね。提督はどう思う?」

提督 「どう思うというかさ。そもそも、秘書艦は陸奥固定、秘書艦補佐に曙って……俺の知らないところで決まってたしなぁ……」

陸奥 「だってぇ。長門は連合艦隊旗艦としての仕事に専念して、わたしが秘書に専念するほうが、お仕事効率が良さそうなんだもん」

提督 「それはそうかもしれないが……」

陸奥 「というのは言い訳で……提督と一緒にいる時間を増やしたかったからしょうが無いの♪ だって、淑女協定廃止で仁義なき競争がはじまるんですもの……わたしだって負けてられないわ」

提督 「……えっと…………」

曙 「あ、あたしだって……負けてられないから……陸奥さんにお願いして、秘書艦補佐にしてもらったんだからねっ!」


そうなのだ……あたしにできること……こいつの近くで、こいつが元気に過ごせるように……意地を張ったり落ち込んだりした時に力になれるように……そのためにはいつでも近くにいなきゃだよね!





陸奥 「ま、曙ちゃんは提督にとって特別みたいだからぁ……姿が見えたほうが提督が安心するかなぁ~って思ってね」

提督 「うぐ……まぁ……それは……」


そんなわけで、秘書艦補佐になってはや一週間。毎日こいつのそばに居て、お仕事の力になって……陸奥さんが、いかにこいつの力になっているかを見せつけられて落ち込みつつも……あたしも負けじと頑張っているのだ!


提督 「ま、まぁ、それはともかくだ……曙にお願いがある」

曙 「なんですか?」

提督 「それだよ! なぁ……お願いだから前の口調に戻ってくれ。呼び方もまたクソ提督にしてくれ……なんだか無理をさせているみたいで落ち着かないんだよ、ほんとに」

曙 「またその件ですか……いい加減慣れてください」

陸奥 「くすくす……口調が変わった子には、ほんと困ってるわよね、提督」

提督 「そうなんだよ……霞も丁寧な口調になるし、摩耶までたどたどしい敬語をつかってきて……」


実は、あたしと同じ口調がきつい子たちに、個別に話したのだ。こいつが……こんな岩のような無表情のくせに……実はきつい口調や呼び方で落ち込んでいたことを……。





曙 「仕方ないんです。提督が言葉をすぐ真に受けて、落ち込んだりオロオロしたりしてしまうんですから」

陸奥 「ですって提督。自業自得らしいわよ~♪」

提督 「いやもう、ちゃんと分かったから。もう誤解しないから、元の口調に……な?」

曙 「駄目です、信じられません」


ほんとは信じてるけど……こうして懇願してくるのが楽しいからこのままで……


陸奥 「ほら提督、奥の手しか無いわよ」

曙 「奥の手……?」

提督 「ああ。どうしたものかと陸奥に相談したらな……漣にアドバイスをもらうといいと言われて……」


……嫌な予感がするわね





提督 「これでバッチリ、曙が以前のように罵詈雑言を投げかけてくれますよ、ご主人様! っていう作戦をだな……」

陸奥 「くすくすくす……」

曙 「……だ、駄目ですよ。口調は変えませんから」

提督 「……そんなこというなよ、ぼのたん」

陸奥 「ぷっ……くくくっ……」


こ、こいつ! な、なんて呼び方を!


曙 「あ、あんた……い、いえ、提督、ふざけた呼び方はやめてください」

提督 「ふざけてないぞ。今後はぼのたんと呼ばせてもらう。かわいいアダ名だな」

曙 「/// な、な、あんた何言ってんの! ……ハッ」

陸奥 「ぷ……ぷぷぷ……(プルプル)」

提督 「なぁ、頼むよ~、ぼ・の・た・ん・♪」

曙 「な、く、が………い、いい加減にしなさいよ、このくs……ぐぐぐ」


だ、だめ……クソ提督って言わないって約束したんだから!





提督 「さ、どうぞ、ぼのたん!」

曙 「こ、こ、こ、この……く、く、く……」

陸奥 「アホ提督(ぼそっ)」

曙 「こ、このアホ提督ーーーー!!」

陸奥 「うん、アホ提督ね♪」

提督 「アホかぁ……。陸奥にも良く言われるんだよなぁ」

陸奥 「アホっていうのはねー、関西のほうでは、まぁ……愛のこもった言い方なのよ。これなら提督も誤解したりしないでしょ?」

提督 「そうだな。じゃあ、クソ提督がだめならそれで。それでいいか、ぼのたん?」

曙 「だから、その『ぼのたん』はやめなさいってば、このアホ提督!!」

陸奥 「うふふ……提督、このくらいで許してあげなきゃ♪」

提督 「そうだな。でもな、また敬語使い始めたら容赦なく『ぼのたん』だからなっ」

曙 「分かったわよ……はぁはぁ……漣、覚えてなさいよー!!」





提督 「漣を責めないでくれよ。俺としては……俺のために無理をするんじゃなく、自然なままで仲良くやっていきたいんだ……だから……その口調に『アホ提督』か……。あはは、曙がそうやって叫ぶのは久しぶりだが……なんだかほっとするよ。ありがとう」

曙 「な、なによそれ……ふんっ、もう敬語なんて使わないからっ。後悔したって遅いからねっ///」

提督 「ああ、それでいい」

陸奥 「いいなー。わたしも提督のこと罵ってみようかしら……」

提督 「いや、それはまた不自然だからやめてくれ……本気で落ち込みそうだ」

陸奥 「あら♪ じゃあ、甘やかすのがわたしの役目って言うことで良いのかしら♪」


抱きっ


提督 「/// ちょっ……いや、そういう意味ではっ」

曙 「駄目っ、抜け駆けだめー!(ぐいぐい)」

陸奥 「むぅ……先は長いわねぇ」


はぁはぁ……でも……うん。心のままに、自分らしくあることで喜んでもらえる。そうね、それが一番かもね。さすがね……アホのくせに優しい……あたしの……アホ提督……。

でも漣は許さない!泣かすからっ!





――――― エピローグ ―――――





――――― 1ヶ月後 夕方 鎮守府横の森


陸奥 「……結構森の奥のほうなのね」

曙 「ええ、思ったより遠い……」

陸奥 「曙ちゃんは行ったことあるのに?」

曙 「前は夜だったし、夢中で走ってたから……」

陸奥 「うふふ……その思い切った行動が、大きな変化のきっかけになったのよね!」

曙 「あはは……あの時は無我夢中で……」

陸奥 「そうかぁ。でもそうね、理屈抜きの思い切った行動が必要になることもあるのよね。わたしも見習わなきゃね」


ザクザクザク

曙 「わざわざキャンプの森に呼び出して……どういうことだと思います?」

陸奥 「うーん、最悪、秘書艦交代の話でもするのかと思ったんだけど……」

曙 「!! ま、まさかっ!」

陸奥 「うん、なんか、呼び出した時の様子だと違う気がするのよね……。じゃあ何の話かって、ちょっと想像がつかないけれど……」

曙 「そうですね……ほんと、何なんだろ」


ザクザクザク





曙 「あ、ここです」

提督 「お、二人とも来てくれたか」

陸奥 「お招きありがと、提督。でも、どういう風の吹き回しなのか、ちょっと気になるわ」

曙 (うんうん)

提督 「ああ、じゃあ二人共そこに座ってくれ」

曙 「今日はちゃんと椅子があるのね」

提督 「ああ、ちゃんとした招待だからな。テーブルの上にビールがあるからとりあえずどうぞ」

陸奥 「……え?」

曙 「……え?」


ジュー


提督 「肉はすぐ焼けるから」

陸奥 「あ、あの、提督……? その……ビールとか、その炭火で焼いてるお肉とか……どういうこと?」

提督 「いや、見ての通りのバーベキューだが……」

曙 「はぁ!? 大事な話があるんじゃないの!?」

提督 「……? いや、とりあえず二人にバーベキューを振る舞いたかったから呼んだんだが」

曙 「だ、だって……どうしても二人に来てほしいから、例のキャンプでって……」

陸奥 「くれぐれも二人だけでって……」

提督 「いや、見ての通り、一人用のバーベキューセットだからな。大勢で楽しめるようなものじゃないんだ。まして、空母の一人でもきたら食材が足りないし……」

陸奥 「……なるほどね、だから夕食前にっていう注意付きだったわけね……。はぁ……なんか気が抜けちゃった。ビールいただきまーす(ぐびぐび)」





提督 「曙もビールどうだ? プリンツにもらったドイツビールだが、ジュース代わりに飲まれるような、飲みやすいビールらしいぞ」

曙 「はぁ……(脱力) 緊張して損したわよ! いただくわっ(ぐびぐび)あ……あんまり苦くなくて飲めるかも……」

陸奥 「そうね、わたしは日本酒党なんだけどたまには良いわね。提督、お肉まだー?」

提督 「ああ、もう焼けてるぞ。ほら、そのタレにつけて食べてくれ」

曙 「はふっ、はふっ……美味しい!」

提督 「どんどん焼くからなー」

陸奥 「はふはふ、うん、ほんとに美味しいわ。もぐもぐ」

曙 「美味しいけど……ほんと、どういうことなのよこれ! もぐもぐ」

提督 「俺も適当につまみながら焼くからなー。もぐもぐ」

………
……






陸奥 「ふー、ごちそうさま! お腹いっぱい!」

曙 「ビールってなんか美味しいのね……意外だったわ……」

陸奥 「バーベキューとか焼き肉とか、特別にビールが美味しくなるメニューがあるのよぉ」

提督 「そうだな、バーベキューの時だけは俺もビールだ」

曙 「ふうん……お酒にも色々あるのね」

提督 「じゃあ、こっちで焚き火はじめるから、これからの酒はそこにあるのから好きなのを飲んでくれ」

陸奥 「じゃあわたしは日本酒~。お、天狗舞があるじゃないっ」

曙 「あたしはお酒わかんないから……」

提督 「じゃあ、梅酒をお湯で割ろう。香り程度だから酔ったりはしないはずだ」

曙 「……わかんないからそれでいいわ」

………
……






パチパチッ


陸奥 「(ちびちび)焚き火って不思議ね……わたしは火が苦手だけど、焚き火はなぜか落ち着くわ……」

曙 「そうなんですよね。火薬の炎とはぜんぜん違う……不思議な、あったかい感じです」

提督 「そうだな……」

陸奥 「……」

曙 「……」

提督 「……」


パチッ


曙 「……それで……何か話したいことがあるんでしょ……聞かせなさいよ、アホ提督」

提督 「……」

陸奥 「あなたが、何の理由もなく、いきなりバーベキューに誘わないことぐらい分かるわよ。さ、聞くわよっ」

提督 「…………」





提督 「陸奥と曙のおかげで、俺とみんなの関係は随分変わった。いろいろ大変ではあるが……とても大切に思われていること、愛されていること……そういうことを強く実感できるようになった……」

陸奥 「くすくす……ほんと、いろいろ大変だけどね」

提督 「まったくな(苦笑)」

曙 「ふんっ……でも、ちゃんとわかってるみたいで良かったわ」

提督 「ああ、みな素直に愛情をぶつけてきてくれるからな。そうだな……俺を父のように感じて慕ってくれる子たち……対等な戦友、尊敬すべき司令官として大切にしてくれる子たち……。俺を友達だと感じてくれている子もいれば……その……俺を一人の男として愛してくれる人達……。どれも光栄でありがたいと思う、本当に」

曙 「モテモテで結構ですわね、このアホ提督っ」

陸奥 「ぶー! のろけてるの?」

提督 「いや、そういうわけではなくて……」

曙 「……」

提督 「前に話したと思うが……。俺は友達もいなかったし、家庭もな……愛情を感じるものではなかった。……そう思っていた」

陸奥 「……ええ」





提督 「でもな、家族からの愛情がなかったと愚痴ってるくせに……俺も大切な皆に、何も愛情を示せていない。皆は、それぞれが様々な形で俺に愛情を示してくれているのに……な」

曙 「そうよね、あんたは汗かいてひたすら困ってる感じだものね」

提督 「そうなんだ……。だからな、ここの所ずっと、俺はどうやってみんなにこの気持ちを伝えたら良いかを考えていた。そうして考えているうちに……俺は家族に愛されていなかったっていうのは、もしかしたら間違いだったんじゃないかと思うようになった」

陸奥 「…………どういうこと?」

提督 「俺が大切な皆にできること……もちろん司令官として出来ること……皆の安全とかな……そういうことは当然として。一人の男として出来ることを考えると……本当に何も思いつかなくてな……。ただ……自分が感動したものを分かち合いたい……美味しかったものを振る舞ったり、美しい景色を共有したり……そういうぐらいしか思いつかないんだ」

曙 「このアホ提督っ! 十分じゃない……とっても素敵じゃない!」

陸奥 「ええ、そういうものだと思うわ。わたしもね、美味しいものは長門に食べさせたいと思うし、素敵な場所を見つけたら提督を連れて行きたいと思うもの。そういうことでしょ?」

提督 「はぁ……俺が必死に考えたことも、二人に取っては当たり前なんだな。でもそうだ、そういうことだ。それでな……思い返してみると」

曙 「うん」





提督 「俺の家は全員無口で、必要な事以外、誰も何もしゃべらない。両親も二人の兄もそんな感じだったから、俺も当然そのようになった。いつも無言で静かな家だった」

陸奥 「提督が5人って感じね……」

提督 「だけどな……あまり豊かではなかったのに、食事はいつも美味しかった。育ち盛りの男三兄弟が満足できるような凄い量でな。唐揚げが大皿に特盛りみたいな感じで。それで食事はいつも楽しみだった」

曙 「……いいお母さんじゃない」

提督 「それから……年に一度ぐらいか、親父には登山に連れだされた。俺は末っ子だから親父や兄について行くのは大変だったが……キャンプしたり……稜線や頂上からみる景色……朝日や夕日、満天の星……圧倒されるほど美しかった……」

陸奥 「……素敵な思い出ね」

提督 「ああ……言葉も笑顔もなかった……だけど……俺はちゃんと両親から……家族から愛されていた……。家族みんな、愛情表現に不器用だっただけだ……。皆のおかげで今はそう思う」

曙 「…………なーにが『俺は愛されたことがなかったー』よ! そのお話だけでも、ちゃんと愛されてたって分かるじゃない! ほんっと、昔っから鈍かったのね、このアホ提督っ」

提督 「……そうだな(苦笑)」

曙 「だからあたしの気持ちにも全然気づかず……ってそれは置いておいて……でも、気がつけてよかったわね」

陸奥 「ほんとよ……だからかしら、最近すごく穏やかに微笑むようになったのは」

提督 「ああ、そうかもな」





提督 「それで、俺も両親のように……大切な人に、その心を伝えようと思ってな……出来ることからはじめてみようと思ったんだ」

陸奥 「もしかして……それでバーベキューなの……?」

提督 「ああ、俺が振る舞える美味しいものっていうとこのぐらいだから……。あとは、この森のキャンプ……静かな穏やかな時間……この素晴らしいものを共有したいなと……」

曙 「はぁ……すごくあんたらしいわ……斜め上というか」

陸奥 「まぁでも……わたしたち二人に特別にっていうのは、評価しちゃう♪」

曙 「そうね、あたしたち二人がリードって感じなのかしら?」

提督 「そうだな、二人には特に感謝しているから。それでだな……俺はこの歳まで、両親の愛情に気がつけなかった」

曙 「うん」

提督 「だからだな……両親と同じようなことをするだけでなく、俺はちゃんと言葉でも伝えようと思っている。とても勇気がいることだが……陸奥や曙がそうしてくれたように、俺も頑張ろうと思う」

陸奥 「素敵ね! さ、どうぞどうぞっ!」

曙 「ふ、ふんっ……どうしてもって言うなら聞いてあげるわよっ(どきどき)」





提督 「ぐぬぬ……じゃあ、まず陸奥に」

陸奥 「は~い♪ わくわく! わくわく!」

提督 「ぐ……にやにや見るなっ。えっとだな、陸奥。君は……人の気持が分からず、おかしな場所に迷い込んでいた俺を導いてくれた。悩み、迷い、立ち止まる俺を……暖かく見守って励まして、後押ししてくれた……。その……感謝の言葉も無い。君がいなければ、俺は今も暗い場所で迷っているはずだ……。本当に……ありがとう」

陸奥 「…………こちらこそありがとう……ぐすっ……あなたの力になれて本当に幸せよ」


提督 「そして曙……」

曙 「/// ど、ど、どんと来なさいよっ」

提督 「君は……前世からの暗い記憶を抱えながらも……みんなと俺のために一生懸命頑張ってくれた。そして……君は俺と同じように不器用でありながら……逃げださず、俺に歩み寄って、最後は俺の作っていた壁を叩き壊してくれた。君が俺を許し、俺のもとに飛び込んで来てくれなかったら、俺はずっと自分を許せないでいたはずだ……本当にありがとう」

曙 「ぐすっ……あたしには七駆のみんながいてくれたから……いつも励ましてくれたから……今度はあたしがあんたにのそばに居て……ぐすっ……潮があたしにしてくれるみたいに……あんたを支える……そうするんだから……ぐす……」





提督 「ふー……なれないことをすると緊張するな」

陸奥 「くすくす……今日はいっぱいしゃべってるものね」

提督 「それでその、二人には本当に感謝していてだな……その……男として二人に揃ってこういうことを言うのは本当は駄目なことだと思うんだが……///」

陸奥 (ぴくっ)

曙 (ぴくっ)

提督 「大勢いる艦娘のなかで、俺にとってやはり二人は特別だ。それでだな……その……」

陸奥 「その?」

曙 「続きはっ!」

提督 「その……二人には本当に本当に感謝していて……俺は二人のことを……その……あ……あ……」

陸奥 「あ……?」

提督 「あ……あい……あい……」

曙 「あい……?」

提督 「ぐ……その、二人をとても頼りにしているから、今後もよろしくな!」


ガタッ!


陸奥 「ちょ! 言いかけていたことと違うわっ」

曙 「逃げるんじゃないわよ、このアホ提督っ! ほら、『あい』の続きはっ!」

提督 「うぐ……う……その……じゃ、今日はお開きにするか! もう遅いもんな」

陸奥 「何よそれっ! 絶対に言わすわよっ、曙ちゃん、いいわね?」

曙 「ええ、ここまできたら意地でも言葉にさせてやるっ」

提督 「か、勘弁してくれ~!」





陸奥 (まぁそれでも……この人の心が明るくなり、囚われていた多くの闇がはらわれて……。わたしを特別に感じて、信頼してくれて、こうして笑って一緒にいられる……。うふふ……十分幸せよね。でもこれで満足しないわ……もっと明るく楽しく幸せな……そんなふうにしちゃうんだから。そ・れ・に・♪ わたしは女の幸せもつかみたいっ。きっとそのうち悩殺しちゃうんだからっ。覚悟しててよね……わたしのアホ提督♪)


曙 (暗く沈んでいたこいつが……こうして笑って追いかけあえるぐらいに……七駆のみんなといるときみたいな……そんな風になれた。悩んでいた日々を思うとウソみたいよね……。でもこれからも、こいつはきっと悩んだり苦しむことだってある。その時に、あたしにとっての潮みたいに……あんたを励まして、蹴飛ばして、元気づけてやるんだから……覚悟しなさいよね、あたしの……アホ提督♪)

 

おしまい





本当に長くなってしまいましたがこれで終わりです。ずっとお読みいただいた方、本当に有難うございました。

今回のテーマは、提督ラブ勢がみんな諦めない、でした。自分は一人の艦娘と提督の恋愛話を書くことが多いのですが、ではその子と提督が結ばれた時、他の提督ラブ勢はどんな思いで、どういう心の整理をして、その後どのようになっていくのか。そういうことを有耶無耶にしてごまかしておりました。
とは言え、話を書くごとに提督ラブ勢のその後を全部書いていくわけにもいかないですからしょうがないのですけれど。

そのようなわけで、今回はこんな終わり方になっています。まだまだお話は続いていく……そういう感じですね。

途中の第二部をまるっと飛ばしてしまったので、説明不足になっている点がいくつもあり、その辺が皆様に分かりづらかったかなとも思います。自分の力量限界で申し訳ないところです。

二部は金剛さんが主役の予定でした。テーマは「建造された瞬間から提督ラブ」の艦娘たちです。その感情に疑問をもった提督が「兵器としての艦娘を運用しやすいよう、建造時に、盲目的に提督を慕うように刷り込みが行われているのではないか?」という疑問と罪悪感にとらわれるお話です。
この疑問を金剛さんは「この世には一目惚れだってあるし、好きになったきっかけなど一切関係ありまセーン! 今のこの気持が全てなのデース!」みたいに笑い飛ばして、提督ラブを迷わず貫き、その強さと明るさに提督が救われる、という感じでした。
提督が艦娘からの愛情に対してひどく懐疑的だったりするのは、このお話があってこそなので、そのへんが説明不足で疑問を持たれたかもしれません。
また、淑女協定結成に至る経緯とかもこの二部だったの、この辺も不足ですね。読みなおしてみるといろいろ心残りが出てきちゃうなぁ。

などなど、くどくど言うのもあれですね。また次作でお会いできることを楽しみにしております。

続きまして過去作リストです。

次回作は、うーん……。過去作の後日談を書きたい気持ちもあるし、新しく書きたい話もあり……。

新しい話の場合、多分山城さんの話になると思います。それでは!


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陸奥さん、ぼのたんファンで、ラブラブエンドご希望だった皆様にはほんと、申し訳ないです。ご贔屓艦が主人公だと、やっぱり単独ラブラブハッピーエンドが欲しくなりますよね。
僕も個人的には、五月雨とのラブラブハッピーエンドSSがいっぱい出てきてほしいなぁと思いますもん……。

二部の件も申し訳ない。ただ、あらすじを見ていただいてわかると思いますが、ひたすら提督が悩み苦しみ暗くなっていき、艦娘たちが遠巻きに心配し不安になっていく……みたいなのがお話の大部分を占めてしまいまして……。筆者の暗い部分全開!って感じになっちゃいましたからやむを得ずというやつです……。

それでは、HTML依頼を出して、切り替えて次回作に取り組みます! 次はそんなに長くないお話にしたいので、多分近日中にははじめられるかと。その際には是非またお越しください。

長い話を追いかけて下さった皆様に心から感謝いたします。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月28日 (月) 07:55:07   ID: cP2CMPE7

期待

2 :  SS好きの774さん   2016年05月09日 (月) 16:15:28   ID: TBpO8t4O

これは良い物だ

3 :  SS好きの774さん   2016年05月09日 (月) 18:11:56   ID: qAyb_D3r

なにこれくそおもろいんだが

4 :  SS好きの774さん   2016年05月25日 (水) 14:04:11   ID: lLfjveCH

とても面白いです。
毎日来てます。

5 :  SS好きの774さん   2016年06月01日 (水) 00:07:39   ID: -7C7gJHm

スレタイ期待値の100倍おもろかった

6 :  SS好きの774さん   2016年06月05日 (日) 19:42:27   ID: TnQqqkwR

いつか時間あったら陽炎で書いて欲しいな

7 :  SS好きの774さん   2016年06月06日 (月) 23:28:20   ID: vvEJP5kY

すごいほっこりする

たまにこういうのかける人がいるからわからない。

8 :  SS好きの774さん   2016年06月20日 (月) 20:51:41   ID: zvwA2qIK

乙乙乙 今回も素晴らしい作品でした

9 :  SS好きの774さん   2016年06月22日 (水) 19:24:11   ID: 6g8nJrfH

すごく面白かったです。読んでいて全く飽きませんでした
次回作も楽しみにしています!

10 :  SS好きの774さん   2016年06月23日 (木) 18:54:44   ID: DE5fTbmi

戦闘や戦争を描かずとも心の葛藤だけでこれだけ面白い話が書けるのか
ああ画面から出てきてくれないかな

11 :  SS好きの774さん   2016年07月07日 (木) 11:51:08   ID: 0uSzWvcW

ゆるふわラブコメを期待して開いたら…素晴らしかった。
実に素晴らしかった。

12 :  SS好きの774さん   2016年07月09日 (土) 20:15:41   ID: 8b7AFlqc

次回作はまだかな?

13 :  SS好きの774さん   2016年09月03日 (土) 09:26:10   ID: HygdMMsI

次の話が読みたい

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