硬派少女「これは……恋文か……?」 (48)

学校 教室

友「おっはよー」

少女「おはよう」

友「ねね。昨日さ、面白そうな映画見つけたんだけど、一緒にいかない?」

少女「映画を視聴するのは構わないが、内容は?」

友「これこれ。今、すっごく流行ってる恋愛小説の劇場版! 私、原作の大ファンでさー。どーしてもみたいんだー」

少女「嫌いではないが、前回も似たような映画をみなかっただろうか」

友「前のとはちがうってー。だって、今度のは甘酸っぱい感じで、前のは胸がキュンってするような話だったしー」

少女「違いが分からない。たまには高倉健主演の任侠映画でも借りて私の家で見るというのはどうだ」

友「あれはもうみたくないよー!!」

少女「やはり趣味が合わないな」

友「でも、これは一緒に見に行ってくれるでしょ?」

少女「約束する。さて、そろそろ師が来るころだ。授業の準備を――」ゴソッ

友「せんせーのこと師とか言うのやめなってー。って、どうかしたの?」

少女「机の中に便箋が混入していた。これは、私のではないな」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458105718

友「それって、もしかして……!!」

少女「誰からだ……? 差出人の名前がないが」

友「みちゃおーよ、ねえねえ!」

少女「しかし、私宛のものかもわからないが」

友「あんたの机の中にあったんだから、間違いなくあんた宛だって!!」

少女「そうか……? では、拝読してみるか」ペラッ

友「ワクワクするー」


いきなりでごめんなさい。今日の放課後、4階の空き教室で待っています。


少女「……」

友「でたー!! きゃー!! わー!!」

少女「静かにしろ。周りが見ているぞ」

友「騒がずにはいられないって!! ねえ、ねえ、どーすんの!? どーするの!?」

少女「呼び出されたんだ。行くしかないだろう」

友「くぅー!! まさか、あんたに気がある人がいたなんて!! どーしよー! きゃー!!」

放課後 空き教室

友「ドキドキするー。どんな人かなー」

少女「君はもう下校したらどうなんだ」

友「親友を呼び出した相手の顔を見るまでは帰れないに決まってるでしょ」

少女「何がそんなに気になるんだ」

友「そりゃ、だって――」

少女「私に個人的な頼み事でもあるのだろうが、わざわざ人気のない場所に呼び出さなくてもな」

友「いや、違うって。これはあれだよ。ラヴレターだから」

少女「恋文? そんなわけがないだろう」

友「え?」

少女「君から勧められた書物で恋文がどういう文面なのかは把握している」

友「どういう意味?」

少女「恋文の文面とは……」

――いつもいつも、貴方のことを見ていました。この胸の高鳴りは日増しに激しくなっています。貴方にこの想いを告げないともう我慢はできそうにありません。好きです。ずっと好きでした。

少女「という感じのはず。この手紙は到底恋文とは言えない」

友「いやぁ、それはあれ、小説のだし」

少女「君も一度でいいから、そんな恋文をもらいたいと言っていたじゃないか」

友「そうだけどぉ」

少女「む……。誰か来たようだ」

友「マジ!? 掃除用具ロッカーにかくれよっと!」

少女「ここまで来て身を隠すのか」

友「相手に失礼だもん! がんばって!! 草葉の陰から見守ってるよ!!」バタンッ

少女「それは死ぬ間際にでも言うんだな」

少年「あ……いた……」

少女「君は同じクラスの……」

友『おー!? なんか意外な人がきたー!!』

少年「えっと……その……急に、呼び出して、ごめん……」

少女「構わない。して、用件は?」

少年「あ、あの、その、ど、どうしても、言いたいことが、あって……」

少女「言いにくいことなのか」

少年「ま、まぁ……」

少女「そうか。私にしか、頼めないことか?」

少年「う、うん。そう、かな」

少女「君は確か美術部に所属していたな」

少年「え!? なんで、知ってるの!?」

少女「同じ教室で学ぶ者のことだ。名前は勿論、所属する部活動ぐらいは把握していて当然だろう」

少年「あ、そ、そう」

友『あんたぐらいだって!!』

少女「生憎だが、私に絵の才能はない。勧誘なら他をあたってほしい」

少年「部活動の勧誘じゃなくて……」

少女「絵のモデルか? 見ての通り、貧相な体だ。彫刻のように完成された肉体のほうが好ましいだろう。私の親友を紹介するぞ」

友『おぉーい』

少年「そ、そういうわけでもないけど……絵のモデルなら……むしろ、あなたのほうが……」モジモジ

少女「では、なんだ。はっきり言ってくれないとわからない」

少年「よ、よし……。あ、あの! 実は、その、ずっと、ずっと、思っていたことがあって……それで、今日、言いたくて……勢いで手紙を……」

少女「ふむ」

少年「手紙を出せば、もう、退けないから、その……」

少女「……」

友『がんばれー!』

少年「つ、つき、つ、付き合って、ほ、しい……です……」

友『やった!!』

少女「付き合う、とは?」

少年「え?」

少女「何に付き合えばいい?」

友『くそー!! 飛び出していきたい!!』

少年「あ、えっと、俺と、付き合って、ほしい……」

少女「君と付き合うのか」

少年「そ、そうです」

少女「それは、買い物にか?」

少年「ち、違う。えっと、こ、こい、こいびとに……なって……ほしい……ってことで……その……」

少女「恋人……? 交際したい、と言っているのか」

少年「そ、そう、そう」

少女「では、これは……恋文か……?」ペラッ

少年「ま、まぁ、そ、そう、かなぁ……」

少女「間違っているぞ。恋文であれば、文面の中に自身の気持ちを書き記すのが一般的だ。これではただの呼び出し状、あるいは果たし状だ」

少年「は、はい。ごめん」

少女「いいか。男女が交際するには、それなりの順序というものがある。君のように前段階を無視しては相手に失礼というもの」

少年「そ、そうなの?」

少女「私が読んだ書物ではいつ、どこで、どのように、相手のことを好きになったのか、そして、相手の好きなところなどを網羅している」

少年「……」

少女「君のようにただ好きだとか、交際してほしいなどという輩は、相手の顔しかみておらず、また、体だけが目的であるような描かれ方をしていた」

友『口下手なだけだってー!!』

少女「これだけは言っておきたい。私は、軟派な男は好きではない」

少年「そう、なんだ……」

少女「分かってくれたか」

少年「あ、えっと、ど、どうしたら、いいかな。このままじゃ、ダメってこと……だよね……」

少女「……」

少年「で、でなおします」

少女「そうか。気を付けて帰ってくれ」

少年「はい……」

少女「ふむ」

友「おぉーい!! なにやってんのよー!!!」

少女「何がだ」

友「なにがってあんたねえ!! 振ったのかどうかもわかんなような言い方したら相手がこまるでしょーが!!」

少女「想いを告げる場面での礼儀を教えただけにすぎない」

友「あーもー!!!」

少女「私は帰るが、君はどうする」

友「帰る。あーあ、かわいそう……」

少女「帰りに任侠映画でも借りていくか」

友「行かないって!!」

通学路

友「いい? 明日以降、また手紙とかであの子から呼び出されたら、ちゃんと応じるのよ」

少女「無論だ」

友「で、ちゃんと付き合うのか付き合わないのか、はっきりと言うこと」

少女「承知した」

友「わかってるの……」

少女「心配しなくてもいい。恋愛のイロハぐらいは、把握しているからな」

友「じゃあ、次に付き合ってくださいって言われたら、どうするの?」

少女「相手次第だな。交際とは即ち、契りを交わすということ」

友「え?」

少女「杯を酌み交わすことは、血よりも濃い関係となるんだ。そう簡単には許可はできない」

友「あー……」

少女「何事も示しが必要なんだ。人と人が生きていくのにはな」

友「なんでこんな奴のこと好きになったんだろう、あの子」

少女「次に会うときは、きっと男の顔になってるだろう」

翌日 教室

少女「うむ……」

友「おっはよー。ねえねえ!! きいてよー!! 昨日の帰りにまた新作の恋愛小説がさぁ並んでてぇ……」

少女「……」

友「どうかした?」

少女「ん? ああ、また便箋が入っていてな」

友「す、すごい。あの子、昨日の今日でもうトライしてきたんだ」

少女「差出人の名前は書いていないが、宛先は私になっているな。さて、どのように改良されたのか、拝読するとしよう」

友「私にもみせてよー」


昨日はごめんなさい。確かに好きという言葉だけじゃ、俺の気持ちは何も伝わらないと思うし、君だって困ると思う。
だから、ここにはっきりと書いておきます。

君のことが好きです。去年からずっと好きでした。

また今日の放課後、同じ空き教室で待っています。


友「きゃー!!! きゃー!!! なにこれー!! いいなー!! 私もこんなのほしーなぁ!!」

少女「……」

放課後 空き教室

友「ねえねえ、いい加減おしえてよー。つきあうのー? ねえねえー」

少女「隠れているんじゃないのか」

友「ま、今からその答えがわかるんだし、いっかー。かくれてよっと」

少女「……」

少年「あ……」

少女「読ませてもらった」

少年「う、うん」

少女「はっきりと言わせてもらおう」

少年「うん」

友『心臓がバクバクするよぉー!!』

少女「好きという言葉だけでは何も伝わらないと分かっているのに、この恋文には好きとしか書かれていないぞ。どうなっている」

少年「え……あの……その……それは、色々書くより、好きだってことを強調したかったからで……えっと、いつ好きになったかは書いたから……」

少女「去年のいつだ」

少年「二学期が始まったとき、で……」

少女「何かあったか?」

少年「えっと、廊下に、その、美術部の作品を飾ってて……夏休み中に書いた、作品を……」

少女「ふむ」

少年「で、たまたま、俺が自分の作品を眺めてたら、君が立ち止まって……」

少女「全然覚えていない。何か失礼があっただろうか」

少年「俺の作品を見て、この絵が一番上手いって一言言ってくれたんだ。それが、嬉しくて、それ以来、君のことを……」

友『おぉー!! 好きになった理由が私好みー!! かわいいなぁー!! てか、アイツに絵の良さが分かるってのが驚きだけど』

少女「すまない。記憶にない」

少年「べ、別にいいんだけど。俺が勝手に……」

少女「ふーむ。その絵はどこにある?」

少年「家に、あるけど」

少女「次の機会で構わないから、その絵を見せてくれないだろうか」

少年「え? な、なんで」

少女「君との初めてを思い出せないなんて、あってはならないことだ。これでは杯を酌み交わすどころか、私は指を落とさねばならない」

少年「ゆ、ゆびって、そんなに気にすることじゃあ……」

友『初めてって、何言ってんのよ……』

少女「気にするな? 寝言は寝て言え。私は君と初めて会ったのは今年の四月だと思っていた。なのに、君は私の記憶よりも更に半年ほど前に出会っているという」

少女「これより交際をするかもしれない男と、あるいは、これから先も共に人生を歩みかもしれない男との初めてを覚えていないなど……」

少女「仁義に反する!!!」

少年「え……え……そ、そうなの……」

友『付き合う気満々なの!? どーなの!? まずはそこをはっきりと言ってあげて!! おねがいだからぁ!!』

少女「記憶の溝は、関係の溝となる。そこを埋めるためにも、件の絵画を見たい。頼む」

少年「そ、そこまでいうなら、明日、持ってくる」

少女「ありがたい」

少年「そ、それじゃ、また、明日」

少女「本当にすまない。この体たらく、自分を恨みたくなる」

少年「そんな、ことないよ。君は、真面目なだけで」

少女「そういってくれるのか。素直に嬉しい」

少年「お……あ……うん……。ま、また、明日」

少女「ああ」

友「また答えだしてなくない?」

少女「なんのことだ」

友「だからぁ、あの子と付き合うかどうかってこと」

少女「話は聞いていただろう。あの男との初めてを思い出さなくては、とても答えなど出せはしない」

友「なんでよ」

少女「私が当時、何を想って絵画のことを称賛したのか全く覚えていないからだ」

友「別に関係ないじゃん。あの子はあんたの一言が嬉しくって、ほんとーに嬉しくって、あんたのことが気になりだしたんだろうし」

少女「それが勘違いだったらどうする」

友「勘違い?」

少女「私は別の絵を褒めていたかもしれない。あの男の絵など眼中になかったかもしれない」

友「いや、もういいじゃない。あんたも覚えてないっていうなら」

少女「本気で言っているのか? 私があの男の絵に惹かれたというのなら、今後の作品に対しても実直に褒めることもできるだろう。しかし、何も感じていなければどうする」

少女「奴が筆を持ち血豆を潰しながらも作り上げた作品を見ても、私には空虚にしか思えないということ。奴だって、近しい人間に作品の批評を求めるだろう。だが、私から出る言葉は月並みの言葉だけだ」

少女「そんな二人が上手く付き合えるのか!! いや、それどころか、私は奴に上辺の付き合いしかできないということになる!! そんなもの、そんなもの……仁義ではない……」

友「とりあえず、かえろ」

通学路

少女「いいか。そもそも私は奴の愛情を受け取るだけの資格があるのかどうかを知りたいのであってだな」

友「もー、相変わらずかったいんだからぁ。んで、明日、絵を見て、何も思い出せなかったらどうするの」

少女「そのときは、心苦しいが断るしかない」

友「それだけはダメ」

少女「な、なぜだ」

友「あんたが見せてきた映画の男たちは、勇気を振り絞った相手にはどうしてた?」

少女「む……。確かに誠意を見せる、敵だろうが仇だろうが。それが、任侠だ」

友「それはよくわかんないけど」

少女「では、交際を、したほうがいいのだろうか」

友「絵を見て思い出せないからダメっていうのはよくない。もっと他に理由があればいいんだけど」

少女「断るときの理由か。ならば、他に好きな人がいるからでいいか」

友「ダメにきまってんでしょ!? さんざん、期待させといて、そんなフリかたされたら、私は引き籠っちゃうもん!!」

少女「では、どうしたらいいんだ」

友「あんたは難しく考えすぎ。もっと楽に考えればいいんだって。一緒にいても楽しそうとか。そういうことで付き合っちゃえばいいんだってば。初めの出会いなんてこの際気にしないの」

少女「気にするなと言われても、君から借りた書物の殆どは最初の出会いはとても鮮烈だった。そしてそれが伏線となり、終盤の想いを告げる場面に活きてくる」

友「そりゃ、初対面では不良に絡まれていたところを助けてもらうとか、階段で転げ落ちそうになったときに強く抱きしめてもらったとか、そのほうが燃えるんだけどさ」

少女「それが恋の始まりだと、私は学んだ。だから、忘れているなど論外ではないか」

友「真面目すぎ!! いいから!! あんたの気持ちはどーなのよ!! ええ!!」

少女「き、気持ちと言われても……」

友「あの子のことが好きなの!? それとも別にどーでもいい存在!? さぁ、どっち!!」

少女「一クラスメイトに対してその二択はどうだ。あまりにも失礼ではないだろうか」

友「今日、家でゆっくりかんがえること。あんたがあの子をどう思ってるのか」

少女「急に言われても、困る」

友「二日連続で手紙をだして、しかも告白までしてくれる子なんてマジいないからね!!」

少女「何故、君が怒るんだ」

友「おこるわよ!! 嫉妬で!!」

少女「分からないな」

友「それじゃ、バイバイ!!」

少女「私がどう思っているか、か」

少女の自室

少女「難問だな」

『帰っておるかぁ』

少女「父上。開いています」

父親「夕食の準備ができた。すぐに居間へこい」

少女「はい」

父親「どうした。何を悩んでおる」

少女「え……。何を言っているのですか、父上。私は何も悩んでなどいません」

父親「隠すな。十数年、貴様の親をしているワシに隠し事ができるとでも思うておるか。未熟者が」

少女「も、申し訳ありません」

父親「昨日から様子がおかしいとは思っておったぞ」

少女「流石です。実は、昨日、学校で色々ありまして」

父親「話は居間で聞く。降りてこい」

少女「はい」

少女(こうなれば父上にご教授願うしかない)

居間

父親「して、我が娘よ。学び舎で何が起こった」

少女「昨日、これが私の机の中に入っていたのです」

父親「これはぁ……」

少女「……」

父親「果たし状かぁ。我が娘に楯突くとは、中々に気骨ある者よな。当然、完膚なきまでに滅したのだろう?」

少女「いえ。これは、その、恋文でして」

父親「恋文だと? このように無骨な恋文があってたまるかぁ。何故、そのようは嘘をワシに吐く」

少女「本日、二枚目の恋文を頂きました」

父親「にまいめだとぉ?」

少女「これです」

父親「んー? んん? うぅ……」

少女「彼の者はどうやら、私のことを気に入っているようなのです。それで、私は悩んでいました。彼の想いにどう応えるべきなのかと」

父親「応える……。お前、まさか、この手紙の差出人と……」

少女「それを決めかねていて……」

父親「なるほどなぁ」

少女「父上。私はどうしたらよいのでしょうか。このまま彼と交際をしたほうがいいのでしょうか」

父親「連れてこい」

少女「は?」

父親「その男を、ここへ連れてこい」

少女「家に招くのですか」

父親「当然だ。我が娘に手を付けようとする者の顔は、親として見ておかなくてはならん」

少女「相手が許諾してくれるかどうか、分かりませんが」

父親「ふん。愛した女の住居へ赴くことに躊躇うような軟弱者なら、お前が想いに応える義理はない」

少女「む……。なるほど、相手の気持ちを量るためですか」

父親「そのとおりだぁ」

少女「分かりました、父上。明日、声をかけてみます」

父親「その場で逃げるようなら、斬り捨てよ」

少女「はい」

父親「うむ。では、食事の続きだ。おかわりはいるか?」

翌日 教室

友「家に呼ぶぅ!?」

少女「ああ。奴が本当に私のことを想っているのかどうか、確かめようと思う」

友「重い! 重いよ!! そんなんじゃあ、誰も寄ってこないって!!!」

少女「軟派な男は寄ってこなくてもいい」

友「いや!! 軟派とかのレベルじゃないから!!」

少女「騒がしいな。そろそろ席に戻れ。師がくる時間だ」ガサッ

友「あー、長い付き合いだけど、ここまでとは思わなかったぁ。あんたさぁ、私が見せてきた少女マンガとか恋愛小説でなにを学んできたのよ。そういう女の子はみんな途中退場してたでしょ!!」

少女「また手紙が入っていた」

友「おお、三通目? あの子、マジだね」

少女「なにが書いてあるのか……」ペラッ


あの絵を持ってきました。また、放課後にあの教室で待っています。


友「ケータイの番号とか教えてあげたら? 今どき、手紙で待ち合わせとかないと思うし」

少女「……」

放課後 空き教室

友「ねえ、考え直さないの? 家に呼ぶってホントにやめたほうがいいから」

少女「考え直す必要はない」

友「あぁ……もっと甘ったるいマンガを読ませておけばよかったのかなぁ……」

少女「さて、奴は今日も待っていると言いながら、私のほうが先に――」

少年「あ……」

友「ヤバ! もういる!!」

少女「今日は早いな」

少年「待っているって書いたのに、いつも待たせてたから……」

少女「そうか」

少年「えっと……」

友「あはは。私はトイレにいくから」

少年「あ、うん」

少女「早く済ませてこい」

友(廊下にいても声はきこえるよね、たぶん)

少年「これが、例の絵なんだけど」

少女「見せてくれ」

少年「はい」

少女「……」

少年「何か、思い出した?」

少女「……」

少女(駄目だ……全く、記憶にないぞ……参ったな……)

少年「この絵を一番上手いって、君が言ってくれて、俺、本当に嬉しかった。あのときは、色々と悩んでて……」

少女(いや、最初の出会いは気にしなくてもいいという助言は貰っている。ここは心を鬼にして、次の段階へ進もう)

少女「ありがとう。よく、わかった。その、絵は、あれだ、記念にとっておくといい」

少年「うん。そうする」

友『思い出せなかったんだね……あの子が不憫……』

少女「ところで、今日はこのあと、何か予定でもあるか」

少年「予定? 部活はあるけど」

少女「部活の終了予定時間は?」

少年「いつも5時頃には終わるけど、ど、どうして?」

少女「いや、私の――」

少女「……」

少年「え? な、なに?」

少女(そういえば、借りた書物の中に今と同じような展開があった気がする)

少女(あれは、確か……)


ねえ、良かったら、私の家で雨宿りでも、していけば?

男を簡単に招くのか。お前、結構スケベなんだな。

だれがスケベだぁ!! お前みたいなナンパやろーと一緒にするなぁ!!


少女「……」

少年「どうかした?」

少女「一つ、訊ねたい。その、女から家に誘うというのは、どうなのだろうか」

少年「どうって……?」

少女「女として正しいのか。軟派ではないか?」

友『おぉ。なんか迷いだした!! いいぞー!! 最初は公園とか喫茶店でいいんだー!!』

少年「どうだろう……よくわからないけど……」

少女「君はどう思うんだ。そんな女が目の前にいたら」

少年「え……まぁ、急に誘われたら、戸惑うかもね……」

少女「やはりか……。いや、だが、父上との約束もある……。ここで私が誘わなければ……」

少年「大丈夫?」

少女「部活が終わったあ、あとで構わないが……」

少年「え?」

少女「わ、私の家……」

少年「い、家……?」

少女「私の家……家……」

少女「私の家の近所に出来の良い駄菓子屋があって、是非紹介したい」

少年「だ、だがしや?」

少女「幼少より贔屓にしている店だ。君もきっと気に入ると思うので、い、行かないか?」

少年「うん。行きたいな。紹介してよ」

少年「それじゃ、またあとで」

少女「校門のところで待っている」

少年「うん」

少女「……」

友「やっぱり、いきなり家に呼ぶってのは気が引けちゃったか。それでこそ、乙女。それが正解なのよ。いくらなんでも家に呼ぶとかないから」

少女「危うく、私が軟派者になるところだった。あの書物を借りていなければ、私は今頃、道を違えていたかもしれない」

友「よかった、アレは無駄じゃなかったのね」

少女「家の近所に誘うのが、精一杯だったが、父上は納得してくれるだろうか」

友「お父さんをその場に呼んじゃだめだからね」

少女「ダメなのか」

友「そんなことして嫌われてもいいの?」

少女「私は構わない。あくまでも奴の気持ちを見るための行為だからな」

友「いきなり家族に紹介するって、どーなの。それって軟派じゃないの」

少女「軟派……? 何故、そうなる……」

友「任侠とか仁義とか硬派気取るなら、自分の力で相手の想いを量ってみたらどうなの!!」

少女「な……あ……!?」

友「貴方が大好きな高倉健も、不器用ながらも相手の気持ちはちゃんと自分だけで察していたんじゃないの」

少女「そうだ……。相手の度量、相手の心。それは人を頼るものではなく、自分の目と耳と肌、そして己の心で感じ取るもの」

少女「家族とはいえ、他人の目を借りては意味がない。そんなもの、曇った眼鏡をかけているようなものだ。否、己の眼をくり貫いてしまっているのと同義」

友「そーそー。例えはよくわかんないけど、そんな感じよ」

少女「私が間違っていたようだ。父上との約束は、反故するほかない。きっと、父上も分かってくれるはずだ」

友「それで怒るようなら私に言って。私からもお父さんに言ってあげるから」

少女「助かる。父上の言いつけを破るのは、生まれて初めてだから、少し怖かった」

友「まぁまぁ、大事な一人娘だし、そこまで厳しいことは言わないと思うけど」

少女「甘いな。父上は怒ると、本当に怖い。怖いんだ」

友「まぁ、見た目からしてアレだけどさ。良いじゃないの、もう私たちは子どもじゃないんだから、誰と遊んだって文句言われる筋合いはないから」

少女「それは違う。父上は私のことを男手一つでここまで育ててくれたんだ。できるだけ、言いつけは守りたいんだ」

友「そう? なら、なんて言い訳する?」

少女「そうだな。部活が忙しいために家には呼べなかった、としておこう」

友「それしかないかな」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom