雪歩「どこにいたって聞こえる」 (17)


地の文有り

雪歩とPしか出てきません(多分)

書きため無し、投下速度凄く遅め


https://www.youtube.com/watch?v=WZ6A_Gt4b_Q

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458101797


「遠い存在になる、か...」

ファンってこういう心情なのかな、とさっきより少し小さく呟く。

自己中心的だから寂しいとか言うんだ、とか誰かは言うけど、別に自分も迷惑かけたいとかそういう気持ちで居る訳じゃない。

ただ、漠然と喪失感があるだけだから。


コーヒー買うって言って外出ただけだし、早く戻らないとな。

こう思うと、自分も前に比べたら仕事がだいぶ増えた。
スーツも、最初の頃に比べたら割と似合うし、ネクタイもなんとやら。

コンビニに入ってコーヒーを買う。いつものやつでいつもの価格。

変わらないで居てくれる安心感がきっとあるんだろう。
自分や他人は変わってしまうから。


「ご来店ありがとうございましたー」


店を出ようとしたとき、丁度曲が終わって次に入る。


『では、本日は最近勢いがあるアイドル、萩原雪歩さんのカバーで...』



ぴくっ、と動いた肩に他の人は気づいたんだろうか。

アガペかな


小鳥さんが仕事をあがると、さっきより事務所は暗く見える。


「テレビかラジオでもつけるかな...」


独り言が空しく事務所に消える。



少し探したがラジオは見つからない。
そういえば、買い換えようとか言ってたような。

捨ててから...きっと、みんな忙しくなっちゃったんだろう。


頭を振ってテレビをつける。

雑音さえ聞こえてくれればいいから、別に中身は気にしない...はずだった。


『この世の果てまで』


本当にもう、どこまでも彼女の声は届くのかもしれないな、なんて思った。

>>5 
アガペー、と自分は伸ばしていましたが
どうなんでしょう?


アイドルの仕事がいつからか急に増えた。

それでも頑張れるのは、理由がある。

カチッ

『これからも、一緒に頑張ろうな』


どこにいたって、あなたのこの声は聞こえたから。


なんだか、この前の歌みたいだなぁ


....あなたの愛は、きっと私一人で受け取ってはいけない物だから。


それでも、私はこのエロースがあなた一人に届いてくれれば構わない。


タクシーを降りて、久しぶりに事務所に急ぐ。

もう時計は十時半を指そうとしているから、あんまり期待はしていない。


今日も本当は戻る予定じゃなかったし....


みんなもう帰っちゃったかなあ、とか
でも、仕事が長引いてるかも、とか。


自分には処理できない感情が不意に胸を突く。


この角を曲がれば。


足が段々重くなっていくような感覚も、結局は一瞬で。



がん



衝撃を感じる。

暗闇で何があったかわからないうちに、聞き慣れた声がした。


「すすす、すみません...はうぅ...」


紛れもない、うちのアイドルの声だった。


「雪歩?」

わかっていても何となく、語尾は疑問調になってしまう。



「....え?」

顔を上げ、赤面する雪歩は、当然だがかわいい。


「ぷ、プロデューサーさん!」

....こんな時間にそんな大声出して、迷惑じゃないか...?
そんな顔を見て察したのか、雪歩はもっと赤面する。


「ああ、わたしったら、また...あ、あの、本当にすみませんー...」


冷静になるまで、どれぐらいかかるだろうか.....


雪歩を落ち着けてから、ベンチで二人コーヒーをすする。


「あ、雪....」


どっちが言ったんだろう。二人で笑いあえたから、それでもう満足してしまう。


「天気予報でこんなこと言ってたかな...」

改めてじっくり見ると、街は起きているようで寝ているようで
なんだか不思議な感覚だった。

いつのまにか遅い帰りにもなれちゃってこの、目の前に広がる景色もかすんでしまっていた気がする。


「綺麗だね」


思わず、呟く。

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