横断歩道「近頃の子供は“白い線から落ちたら死ぬ”ってのやらないんだな」 (23)

横断歩道「近頃の子供は“白い線から落ちたら死ぬ”ってのやらないんだな」

少年「なにそれ?」

横断歩道「ほら、オレは白い線で出来てるだろ?」

横断歩道「この白い線を橋かなんかに見立てて、ここから足を踏み外したら死ぬって設定でオレを渡るんだよ」

横断歩道「ま、一種のごっこ遊びだな」

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少年「――プッ! なんだよそれ、くっだらない!」

横断歩道「なんだと?」

少年「白い線から落ちたら灰色のアスファルトがあるだけじゃん! 死ぬわけないじゃん!」

少年「いくらなんでもリアリティがなさすぎるよ」

横断歩道「そりゃそうかもしれないけど、あくまで遊びだし……」

少年「あいにくボクはそんなリアリティの欠片もない遊びをするほど、ヒマじゃないんだよ」

横断歩道「……かわいくねえガキだなぁ」

横断歩道「だいたいさ、リアリティっていうなら、こうして横断歩道がしゃべってるのはどうなんだよ?」

少年「それはそれ、これはこれ、さ」

少年「キミが人間の言葉を話すことについては、こうして現に起こってるから否定しようもない。受け入れるよ」

少年「だけど、横断歩道の白い部分から落ちたら死ぬなんて事件は聞いたこともないし、荒唐無稽すぎる」

少年「だから受け入れられない……それだけのことさ」

横断歩道「ホントかわいくねーなぁ」

少年「だからボクは、キミのいう“白い線から落ちたら死ぬ”なんて遊びはやらないよ」

少年「それどころか、これからも白い部分だけを避けてキミを渡ってあげるよ」

少年「あえてね」ニヤッ

横断歩道「こいつぅ……」

少年「アハハッ、じゃあねー!」ピョンピョン

横断歩道(くっそ、マジで白い部分だけ避けてやがる……なんてガキだ!)



少年「やぁ」

横断歩道「おう、白い線を通る気になったか?」

少年「ならないね。今日もあえて、白くない部分を通らせてもらうよ」ピョンピョン

横断歩道「ムカつくぅ~!」



少年「みんなー!」

友A「なになにー?」

友B「なんだよ?」

少年「この横断歩道は、あえて白い線を避けて渡ろう!」

友A「どうしてさ?」

少年「そうした方がこの横断歩道は喜んでくれるからさ」

横断歩道(……このヤロウ)



少年「よっ、とっ、はっ」ピョンピョン

横断歩道「そろそろ白い部分を踏んだらどうだ?」

少年「いやー、白い部分を踏まないようにする遊びは面白いなぁ」ピョンピョン

横断歩道「それはそれで楽しいかもしれねえけど……ホントひねくれてやがるぜ」チッ

そんなある日――

少年(今日も、あの横断歩道の白い線じゃない部分を歩いてやろうっと! へへへっ!)

少年「……あれ?」



大人A「なるほど……これはもう……」

大人B「ああ……」

大人A「ここまで白い線が薄くなってしまうと、もうダメだな」

大人B「ああ、これじゃここは横断歩道じゃないって思う人も多いだろう」

少年「ちょ、ちょっと待ってよ!」

大人A「ん? なんだ君は?」

少年「この横断歩道はまだダメじゃないよ!」

少年「だって、だって……ボクちゃんと白い線を踏まないように歩いてたもん!」

少年「薄くなるわけないんだっ!」

大人A「ハハハ、面白い子だ」

大人B「君が踏んでなくたって、この横断歩道を使う人はいっぱいいるんだよ」

大人A「そうそう、この横断歩道はもうダメなんだ」



少年「ダメじゃないよ! ボクにはちゃんと白く見えるよっ! 見えるんだよーっ!」

……

……

……

横断歩道「そうだったのか……お前、オレを消さないために、ずっと白い線を踏まなかったんだな?」

少年「うん……」

横断歩道「ありがとな、どうやらオレはお前を誤解してたみたいだ……嬉しいぜ」

少年「こっちは嬉しくないよ! ボクがもっとみんなに踏まないでっていってれば……」

横断歩道「お前のせいじゃないよ」

横断歩道「ここは人も車もよく通るし、オレがどんどん消えていくのは、仕方ないことだったんだ」

少年「ボク……キミと別れたくないよ!」

横断歩道「……オレだってそうさ。だけど、形あるものはいつか消えるもんさ」

少年「う、ううう……」

少年「う……うわぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁん!」

横断歩道「よしよし……今日は日が沈むまで、二人で語り明かそうな」

少年「うん……」グスッ…

少年「ボク……キミのこと絶対忘れないよ……」

……

……

……

それから少しして――



横断歩道「よう」ピカピカ…

少年「あれーっ!?」

横断歩道「塗り直されたんだよ。どうだ、見事な縞模様だろ?」ピカピカ…

少年「うん、かっこいい! ……ってちょっと待てよ」

少年「もうすぐお別れみたいなこと言ってたけど、もしかして自分が塗り直されること知ってたんじゃ!?」

横断歩道「ああ、知ってた」ピカピカ…

少年「んもう! ひどいよ!」

横断歩道「ハハハ、悪い悪い。でも、たまにはオレからも反撃しないとな」ピカピカ…

少年「むうう……」

少年「でも……よかった」

少年「これからもキミとボクは一緒なんだね?」

横断歩道「ああ、一緒だ!」

横断歩道「こんだけ濃く塗り直されたから、これからはどんどんオレの白い線を踏んでくれよ!」

少年「もっちろん!」

……

少年「みんな、今日はこの横断歩道を白い線から落ちないように渡ろうよ!」

友A「面白そう!」

友B「やろう、やろう!」

横断歩道(フッ、少しは子供らしいとこも見せてくれるようになったな)

少年「設定は……そうだ、もし白い線からはみ出したら、景気が悪くなるってルールにしよう!」

横断歩道(やっぱりかわいくねえ!)





おわり

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