渋谷凛「私が神様だったら」 (21)

アイドルマスターシンデレラガールズ、渋谷凛のお話です。

独自設定、キャラ・文章が変などは大目に見て頂けると幸いです。 地の文あります。


世界観とかは
北条加蓮「世界の終わる日に」
北条加蓮「世界の終わる日に」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457757444/)
などと同じです。

単純に今度は凛メインなだけです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457972465

 仕事が終わって奈緒と加蓮の二人で某ハンバーガーショップに来ている時だった。

「私さ、Pさんにフラれたんだよね」

 加蓮がポテトをくわえながら投げやりな様子で伝えてきた。

「ふーん」

 興味がなかったわけではないが、あの堅物プロデューサーの事だ。告白してもダメなのは分かり切っていた。

「ふーんってそれだけ?」

 私の態度に不満を覚えたのだろう。険しい目つきで加蓮が噛みついてくる。

「それだけって言うか、案の定って感じだから」

 そう言うと加蓮は納得したのか、だよねぇと言いながら顎を机に乗せた。

「行儀悪いよ」

 無駄だとは知りつつも軽く窘める。

「もう、凛まで奈緒みたいなこと言うのー?」

 なんとも面倒くさげな声で加蓮は私を非難してきた。

「奈緒には?」

 加蓮の非難を受け流しながら聞きたい事だけを簡潔に聞く。まぁ、多分言ってないと思うけど。

「言えるわけないでしょー?」

「だよね」

 未だにハッピーセットのおもちゃをどれにするかで悩んでいる奈緒の姿を目の端に捉えながら、予想通りの答えに対して軽く受け答えをしておく。

「はぁ……」

「奈緒に見つかるよ」

 大きくため息を吐く加蓮に注意をする。見つかったところで問題はないのかもしれないが、こういう事は穏便に済ませておくべきだろう。

「奈緒ならもうしばらくかかるでしょ。だいじょーぶ」

 奈緒の方を見もせずに言い切るあたり、加蓮の奈緒に対する理解度は相当なものなのだろう。まぁ、私も同じくらい理解はしていると思うが。

「さっさと奈緒が告白してPさんと付き合ってくれれば諦めもつくんだけどなー」

 ようやく机から顎を離した加蓮がポテトをタバコのようにくわえて愚痴る。

「無理でしょ。奈緒だよ」

「だよねー」

「「はぁ……」」

 二人揃ってため息を吐く。いくら何をしようが、何を言おうが、私達の想いはプロデューサーに届く事はないだろう。奈緒が居る限り。

「ねぇ」

 ふと思いついた黒い考えを加蓮にぶつけてみようと口を開いた時だった。

「待たせたな! いやぁ、最近のハッピーセットのおもちゃは出来が良くってさぁ~」

 ニコニコ顔の奈緒がトレイと悩みに悩みぬいて選んだであろうおもちゃを手にテーブルまでやってきた。

「ん? どした?」

 一仕事終えた後のようなすっきりとした笑顔でこちらに問いかけてくる。

「なんでもないよ」

「そーそー」

 奈緒に話せるようなことではないからなんでもないと言うしかない。

 奈緒は訝しげな顔を一瞬見せつつも、もらってきたおもちゃを堪能するのを優先したみたいでそれ以上の追求は無かった。


 食事を終え、二人と別れて家に向かう帰り道。先ほどの加蓮の言葉を思い出していた。

「プロデューサーにフラれた、か……」

 アイドルが恋愛なんてご法度だろう。でも、私達はそれを理解出来るほどに大人にはなりきれない。

「大人になれば我慢出来るのかな……」

 ぽつりぽつりと独り言を零しながら家路を急ぐ。どこで誰が聞いているか分かったものじゃない。迂闊な言葉は口にしない方が良いのは分かっているが、我慢できずに口から溢れ出してしまう。なら、早く家に帰って一人で枕とでもしゃべっていた方が安全だろう。

「やっぱりプロデューサーは奈緒が好きなのかな……」

 その言葉を口にした途端、先ほどまでは意図的に黙らせる事が出来なかった口が自然と塞がってしまった。


 一度口が塞がってしまうと今度はしゃべれなくなるようだ。帰宅してから一度も口を開かなかった私を心配してか、布団に入るまでハナコが常に傍に居てくれた。

「ハナコは優しいよね」

 いつもは私のベッドの下にあるハナコ用のベッドで寝ているのだが、今日だけは私のベッドの上に居る。

「あのね、ハナコ」

 ハナコの背中を撫でながら語り掛ける。先ほどまでは出てこなかった言葉が、ハナコしか居ないと思うとスラスラと出てきた。

「加蓮がプロデューサーに告白したんだって」

 撫でる手を止めずに、でも目だけは窓の外に向ける。

「絶対にフラれるってわかってたはずなのに、告白したんだよ。すごいよね」

 加蓮から報告を受けた時には軽く流してしまったのだが、少し落ち着いた今になって純粋に加蓮はすごい事をしたんだなと実感が沸いてきた。

「私は絶対に失敗すると分かっている事に挑戦する勇気は出ないよ」

 先ほどまで鳴き声も上げずに私にただ撫でられているだけだったハナコがくぅーんと言う鳴き声と共に私を見上げてくる。

「もし、もしもだよ。私がプロデューサーに告白して成功したら、それはとても幸せだと思う」

 スカウトされ、なんだかんだ衝突はあったもののシンデレラガールにまでしてくれた人なんだ。好きにならないわけがない。

「でも、プロデューサーは私よりも加蓮よりも……事務所の誰よりも奈緒の事が好きなんだ」

 プロデューサーは決して認めはしないだろう。でも、見ていれば分かる。プロデューサーと一番長く一緒に居るからこそ、他の誰よりも痛いくらいに分かってしまう。

 ハナコを撫でる手を止め、天井に向かって手を伸ばす。そこには闇が広がるばかりで、伸ばしても何も掴めない。

「もし、私が神様だったらこんな世界は作らなかったよ」

 アイドルとして幸せになれた世界だが、女の子としての幸せは掴めない世界。

 伸ばした手をぎゅっと握りしめる。私が神様だったら、それだけで幸せは掴めただろう。

「私、プロデューサーに告白するよ」

 ハナコに宣言する。誰かに宣言しなければ逃げてしまいそうだったから。

「今も充分に幸せだけど、私はもっと幸せになりたい」

 強欲は身を滅ぼしてしまうかもしれない。だけど、ずっとしまっておくはずだった気持ちに加蓮が火をつけた。もうしまっておくには明るすぎる。

「可能性はゼロじゃない限り、試してみる価値はあると思う」

 私に勇気をくれた友人に感謝をしつつ、決意を胸に秘め眠りについた。


 しかし、決意をしたのは良いが、中々神様も意地悪なものでタイミングを掴めずに居た。

 決意した次の日からタイミングを見計らってはいたのだが、中々二人きりになる機会は無かった。やれ仕事だ、やれ営業だでプロデューサーは片時も一所に留まっていないのだ。

「はぁ……」

 ここ数日急激に増えたため息がまた零れる。

「やっぱりオフに呼び出すしかないかな……」

 それが一番確実なのだろうが、プロデューサーがオフの日は私が仕事、私がオフの日はプロデューサーが仕事。これでは呼び出しどころではない。

「そうやって結局貴重なオフを店番で潰しちゃってるんだよね……」

 閑散としている店内を眺める。店には数多の花があるだけで人は私以外に存在していない。

「私が神様だったら、今プロデューサーを呼び出すのにな」

 とりとめのない事を口に出してみる。もし私が神様ならば願うだけですべてが叶うはずだろう。だけど、私はただの人だ。どんな願いをしても叶いっこない。

「あれ、お客さん居ないのか?」

「いらっしゃいま……せ?」

 私がそんなとりとめのない事を考えていると、思い焦がれた人が目の間に現れた。

「ちょっと近くを通ってな。せっかくだし、凛の顔でも見て行こうかと思って」

 照れくさそうに頭をかくプロデューサーがここに来た理由を説明してくれた。だが、そんなことはどうでもいい。私の願いが叶ったのだ。もしかしたら私は神様だったのかもしれない。

「そ、そうなんだ」

 平静を装いつつ返事をする。若干声が上ずったような気がするが気のせいだろう。

「せっかくだし、事務所に花でも買って帰ろうかな。殺風景だし」

 プロデューサーはそう言うとショーウィンドウの花の値段を見て引きつった笑顔を浮かべた。

「ねぇ、プロデューサー」

 私が声をかけるとプロデューサーはこちらを向いてなんだ、と尋ねてきた。

「これから私が言う事はアイドルの渋谷凛が言うんじゃなくて、花屋の娘の渋谷凛が言う言葉だから」

 前置きをしておく。アイドルのままではフラれるのは確実だ。でも、花屋の娘なら、ただの女の子の言葉ならプロデューサーに届くかもしれない。

「私と付き合ってください」

「……どこに?」

 一瞬怪訝な顔をしたプロデューサーだったが、すぐさま表情を隠して気付いていないフリを始めた。頭をかいているからバレバレなのだが。

「誤魔化さないでよ」

 鋭く睨み付ける。プロデューサーが鈍感を装っているのなんて、もうだいぶ前から知っている。

 私の顔から目を背けると、プロデューサーはあらぬ方向を向きながら一言、すまんとだけ返してくれた。

「……なんで?」

「アイドルとは付き合えないよ」

「花屋の娘として言ったんだけど。それに、付き合ってくれるならアイドル辞めるよ」

 どれだけ言ってもプロデューサーは首を縦に振る事はないだろう。でも、ここまで来たら引き下がれない。一縷の希望に縋りつくしかないのだ。

「……例え、アイドルを辞めたとしても俺は凛とは付き合えない」

 分かっていた事ではある。願った時にプロデューサーが現れ、自分の事を一瞬神かもしれないと錯覚したが、やはり私はどこまで行ってもただの人なのだろう。

「……わかった」

 なんとか一言だけ絞り出す。泣く訳には行かないから、限りなく無表情のままで。

「すまん」

 謝るなら付き合ってくれと言いたかったが、込み上げてくる涙を堪えるために言葉には出来なかった。

「……帰って」

 手で追い払いながら、震える声と共にプロデューサーに帰るよう促す。

 何か言いたげな顔であったが、やはり鈍いわけではないプロデューサーはまた一言だけ、すまんと言い残して去ってくれた。

 先日、加蓮に問おうとした質問が脳裏をよぎる。店内に誰も居ない事を確認し、先ほどまでプロデューサーが居た空間に問いかける。

「もし、奈緒が居なければ私と付き合ってくれた……?」

 とりとめのない質問だ。絶対にありえない質問。もし、奈緒が居なければプロデューサーは私と付き合ってくれたのだろうか。もし、奈緒が居なければプロデューサーは加蓮と付き合っていたのだろうか。

 神様でもなんでもないただの人である私には、その答えは見つける事は出来ないだろう。


 後日、仕事を終えた私達トライアドプリムスはいつぞやのように某ハンバーガーショップに来ていた。

 前と違うのは私と加蓮の座る場所だけだ。奈緒は相変わらずハッピーセットのおもちゃを選んでいるし、加蓮はポテトを加えている。

「私も告白したよ。プロデューサーに」

 あっさりと加蓮に報告する。

「そっか、お疲れ様」

 聞かずとも答えは分かるのだろう。加蓮はそれ以上追及しないでくれた。

「前に聞こうと思ったんだけど」

 前置きをすると加蓮はちらっと奈緒の方を確認してから、なに?と聞き返してきた。

「もし、奈緒が居なかったらプロデューサーは付き合ってくれたと思う?」

 私の問いかけにしばらく無言のあと、加えていたポテトを飲み込んでただ一言だけこう返した。

「わからないよ」

「だよね」

 こう言うという事はやはり加蓮も神様ではないのだろう。なら、ただの人である私達に出来る事は願う事だけだろう。

「だからさ、せめて私達のお姉ちゃんがうまくいくことを祈ろうよ」

「そうだね」

 加蓮が奈緒の方を見つめるのに習って私も奈緒の方に目をやる。幸せそうな顔をした奈緒がこちらに向かって歩いてくるところだった。

 今の私達に出来る事は私達の自慢の姉が今以上に幸せになってくれる事を祈る事だけなのだろう。

 私の想いと加蓮の想いは届くことなく消えてしまったが、私達の想いは決して無意味ではなかったと信じている。振り返らずに前に進むことしか出来ないのだから。
End

以上です。タイトルはチャットモンチーさんの「世界の終わる夜に」から拝借しました。

誰かが幸せを手に入れると、他の誰かはその幸せを手にすることは出来ないんですよね。
だから奈緒が来てくれないのは、きっと他の誰かが幸せになるのに必要だったからなんです。

だから辛くないし、加蓮は来てくれたし……。

書こうと思えば割となんでも書けそうな気がしてきました。きっかけさえあれば良いんだと思います。

では、依頼出してきます。

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