吹雪「目覚めると、そこは如月ちゃんのパンツだった」 (1000)

吹雪「ええと、ですね」カンペ

吹雪「このSSを読むに当たっての注意点です」

吹雪「このSSには

キャラ崩壊
オリキャラ化
ちょっぴりバカエロ

などの成分が含まれる可能性があります」

吹雪「戦闘シーンなどがありましても、海戦を忠実には再現できない場合があるので許して下さい……許して下さい?」

吹雪「以上です、では」

如月「吹雪、抜錨しまーす」ドンッ

吹雪「待って!?」ドボーン!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457880659

――――どこかの海、夢の中のようで

吹雪「……ん」パチッ

吹雪「ここは……?」キョロキョロ

吹雪「私……何でこんな所に、一人でいるんだろう?」

吹雪「回りに何も無い……目印になるものは、何も。こんな海に、どうして……」

吹雪「……とにかく、進まなきゃ」ガシッ


吹雪「ん、足が……?」チラッ

アシカ「オウッ」

吹雪「…………」

アシカ「……」






アシカ「こんばんわ」

吹雪「待って!?」

――――?

吹雪「ちょっと待てやぁぁぁぁぁ!?」ガッバァ

?「ひんっ」ポフッ

吹雪「むぐっ?」

吹雪「(なんだこれ……目の前が薄いピンク色で覆われてる……いい臭いも、する)」スー、ハー

?「あっ、やぁ……だ、ダメ!」

吹雪「……?」

吹雪「ちょっと、何ですか?」グイッ

如月「…………」ジィッ

吹雪「…………」









吹雪「目覚めると、そこは如月ちゃんのパンツだった」

如月「落ち着いて、日本語がおかしいわ!?」ガーン!

――――

吹雪「如月ちゃん……? ここは……? うっ」ズキッ

如月「ああ、ダメよ吹雪ちゃん。貴女はここに流れ着いたばかりで、まだ体がボロボロの筈よ」

吹雪「流れ着いた……?」

如月「そう、流れ着いたの」

如月「ここは何処かもハッキリしない、小さな島なの」

吹雪「えっ」

如月「吹雪ちゃんの艤装はすっかり壊れちゃってるし、もしかして……酷い戦闘があったのかしら?」

吹雪「戦闘……、戦闘、そうだ、私!」

――――回想

吹雪「――くそっ!!」

睦月「吹雪ちゃん!?」



ヲ級「…………」



吹雪「(空母が一隻、随伴の軽巡が二隻、駆逐が四隻)」

吹雪「(対してこちらは駆逐三隻、うち――)」

暁「う、うぅ……艤装が……」

吹雪「(――一隻は至近弾にて損傷。制空権も好き放題、空をカトンボみたいに飛び回って鬱陶しい)」

吹雪「(航空機の爆撃と!)」ザァッ

吹雪「(雷撃を避けるので精一杯……こっちはただの遠征装備だっていうのに!)」

睦月「にゃ、にゃあっ!? 吹雪ちゃん、向こうそろそろ狙いが正確になってきたよ!」

吹雪「(ご丁寧に艦載機で悠々と観測射撃してくるときてる……回避運動で、避けるのも、限界)」

吹雪「(艤装も機銃で穴だらけ……もう長くは持たない)」

吹雪「……睦月ちゃん、暁ちゃんを連れて最大戦速。鎮守府に向かって」

睦月「!」

吹雪「現時点で遠征任務を放棄、資材も捨てて出来うる限り、早く」

暁「……冗談、まだやれるわよ」

吹雪「私はやれません、よっと!」ザザァッ

吹雪「向こうの砲撃を避けるのもしんどいんです、引き揚げましょう」

暁「……分かったわ、でも」

睦月「吹雪ちゃんは……?」

吹雪「私は殿を勤めます。向こうの速力なら、艦載機以外はこちらに追い付けません」

吹雪「のんびり、対空射撃でもしながら追い掛けるよ」



ヲ級「!」

睦月「爆撃!」

吹雪「散って!」



吹雪「(――至近弾!! い、たい!?)」

吹雪「――次の攻撃が来る前に、行って、早く!!」

睦月「わ、分かったにゃしぃ。暁ちゃん!」

暁「……ごめん」

吹雪「帰ったら間宮ですよ」

暁「――待ってるわ」




吹雪「行きましたか」

ヲ級「…………」

吹雪「さあ、特型駆逐艦の見せ場なんだから!」




――――孤島

吹雪「それからあっさり航空機の雷撃もらっちゃって砲撃は直撃するわ駆逐の雷撃は足にぶち当たるわだった」アハハー

如月「何で生きてるの!?」ガーン!?

吹雪「もうそりゃ必死だったし……また失うのも嫌だから」

如月「失う?」

吹雪「そう、前に如月ちゃんが沈んで、私はその時はまだ何もできないヒヨッコだったから……今度こそは、守り、たか……?」チラッ

如月「?」

吹雪「…………」





吹雪「――――生きてるぅぅぅぅっ!??」

如月「えぇぇぇぇ……?」

――――

吹雪「え……如月ちゃん。W島攻略作戦で、その……」

如月「……もしかして、轟沈したって扱いになってる?」

吹雪「うん」コクコク

如月「あぁー……やっぱりねぇ。私もここに流れ着いてしばらく経つから」

吹雪「やっぱりって……如月ちゃんはここにどれくらい?」

如月「分からないわ……ただ、短くはないってことしか」

吹雪「それじゃ、今まで――?」

如月「うん?」

吹雪「(こんな、得体のしれない島に一人きり……? 艤装も破損して帰れない)」

如月「こ、こんな事、言っちゃダメだと思うんだけどね……」

如月「吹雪ちゃん、来てくれて――よかったよぉ……!」

如月「わたし、寂しくて……ずっと怖くて……!」

吹雪「!」ギュッ

如月「……吹雪ちゃん」

吹雪「私も、嬉しい。沈んでたと思ってた如月ちゃんともう一回会えて」

如月「ふ、ぶき、ちゃん」

吹雪「な、泣くの止めよ……私も泣きそう――」

――――

吹雪「めっちゃ泣いた」

如月「ちょっと目が赤くなっちゃったね」エヘヘ……

吹雪「でも、これからどうしよう……」

如月「?」

吹雪「何とかしてさ、帰らなきゃ」

如月「…………」

如月「そうね」チョイーン

吹雪「意識にも無かったでしょ考えが」






吹雪「如月ちゃんの艤装は?」

如月「さっぱり」

吹雪「うぬぬぅ……直すにしてもまずは資材が必要だし……」

如月「あ、それならもしかして……」

吹雪「?」

――――孤島内地、壕内

如月「これで、どうかしら?」

吹雪「資材……! 少ししかないけれど、これなら海を走るだけなら!」

如月「私だけじゃ帰れないと思って諦めてたの……でも、吹雪ちゃんは何か考えがあるんでしょう?」

吹雪「うん。とりあえず、この島を拠点にして回りを探索しようと思う」

吹雪「燃料は……心許ないけど、近くに資源があるなら」

如月「少しずつ修理しながら、資材を蓄えるって訳ね」

吹雪「そう!」

如月「……まるで司令官さんみたいね」

吹雪「……そう言われてみれば確かに」

如月「よーし、なら今日から吹雪ちゃんは提督さんね!」

吹雪「えぇー……」

如月「ちゃんと如月を連れて帰ってね、司令官さん」ニコッ

吹雪「…………」ポリポリ

吹雪「……了解。吹雪提督、只今よりこの鎮守府の指揮に入ります」ビシッ

吹雪「……なんちゃって」ニヘラ

如月「……うふふっ」

吹雪「笑わないでよぉー……」






轟沈したと思っていた如月ちゃんと、運良く轟沈を免れた私の、これは物語の始まりだったのです。





投下終了

鳥変えます

投下開始

――――朝、壕

吹雪「うーん……むにゃむにゃ……もう食べれない……」

如月「吹雪ちゃん、吹雪ちゃん。とっくに日が登ってるわよ」ユサユサ

吹雪「――はっ、もう朝……?」ガバッ

如月「もう、お寝坊さんなんだから」ハァ

吹雪「如月ちゃん……おふぁ、おふぁよぉぉぉ……早いね」ノビー





如月「寝惚けた吹雪ちゃんにずっとおっぱい揉まれてたら嫌でも起きるわよ」

吹雪「すいませんでした」

――――孤島、朝、砂浜

吹雪「さて、じゃあ!」ザバァ!

如月「いざ、抜錨ね。がんばって!」

吹雪「うん、よーし!」グッ

吹雪「(艤装に力を入れて……動いてよ……!)」グググ……

吹雪「あっ」ボンッ

如月「吹雪ちゃーん!?」バクハツシタ!?

吹雪「ダメみたいですね」ケフッ

如月「あああ……頭が綺麗にアフロに……」アワワ

――――

吹雪「ちょっと修理が足りなかったみたい」

如月「でも、私たちじゃ軽い整備くらいしかできないわよ?」

吹雪「うーん……妖精さんでも居てくれたら何とかなるのになぁ」

如月「仕方無いわ……どうするの?」

吹雪「とりあえず、今日はご飯を……お腹空いちゃったよ」

吹雪「如月ちゃんは、普段どうしてたの?」

如月「え? ええ、そうね……」

如月「…………」

如月「…………………………」





吹雪「……如月ちゃん?」

如月「――私、どうしてたのかしら?」

吹雪「!?」

――――

吹雪「え、じゃあ今までの記憶は曖昧って事……?」

如月「そうみたい……ぼんやりと、この島で生きてはいたけれど……」

如月「そう……如月が、如月だって事も、忘れてたと思う」

如月「でも、吹雪ちゃんが流れ着いて、吹雪ちゃんが吹雪ちゃんだっていうのは思い出したの」

如月「それから、吹雪ちゃんが私を呼んで――そうなの、だから私は気付いたの」

如月「『ああ、私は如月だった』って」




吹雪「……如月ちゃん、もしかして」

如月「うん……今、冷静に思い出そうとしてるけれど――」

如月「――鎮守府って、どんな場所で、誰がいたのか、誰と一緒にいたのか」

如月「そういうの、全部、思い出せない」

吹雪「如月ちゃん……」

如月「あ――でも、吹雪ちゃんの話を聞いて、暁ちゃんと睦月ちゃんの事は思い出せたの。だから、吹雪ちゃんが私に、あの頃の事を話してくれれば――多分大丈夫」

吹雪「そう……よかった」ホッ

吹雪「なら、食材を探しながら昔話でもするね」

如月「お願いするわね」

吹雪「浅瀬で魚か貝でも探そう?」

如月「うん、そうしましょ」

――――

吹雪「あっさりー、しっじみー、ハマグリサァン(裏声)」

如月「んっふ」プッファ

如月「いきなりやめてよ……!」

吹雪「ごめんごめん、つい」

如月「もう……貝集めのついでに、鎮守府の話を聞かせてくれるんじゃないの?」

吹雪「そうだね……なら、何から話そうかな――――あ?」ゾッ

如月「……?」

吹雪「……如月ちゃん」

如月「どうしたの?」





吹雪「……どうも、私も忘れてるみたい」





――――夜、焚き火の明かり、壕

パチパチ……パキッ

吹雪「……あったかい」

如月「ちょうどいい木の枝があって良かったわ」

吹雪「……火を点けるくらいなら、艤装の火花くらいで何とかなるしね」

如月「発砲できる程じゃないけど」

吹雪「無いよりマシだよ……」ハァ

如月「…………貝、焼けたかな?」

吹雪「……焼きハマグリサァン」ボソッ

如月「んっふ」

吹雪「あ、ちょっと笑った」ニヘッ

如月「うん、面白かった」クスクス



吹雪「…………」

如月「…………」



吹雪「……気が滅入るね」

如月「……そうね」

吹雪「何に気が滅入ってるのか分からないのが更に滅入るんだ……」

如月「記憶が無いんだもの、しょうがないわ」

吹雪「…………」

如月「……吹雪ちゃん? 震えてるの?」

吹雪「……寂しいの、帰りたい……思い出したい……皆が、顔も分からないけど、皆と居たって事だけは分かる」

吹雪「帰れば……帰れれば元通りになれるはず、なのに……」グスッ




如月「――!」



如月「……吹雪ちゃん」

吹雪「なに……?」

如月「私ね、吹雪ちゃんが来なかったらって今考えると、とっても怖いわ」

如月「だって、如月はずっとぼんやりしたまま、空と海を見るだけだったに違いないもの」

如月「だから、私はとっても吹雪ちゃんに感謝してるわ」

如月「だから、ね……」スッ

吹雪「如月、ちゃん」

如月「吹雪ちゃんが寂しかったら、私が側にいるわ。吹雪ちゃんが震えていたら、私が抱き締めてあげる」ギュッ

如月「それが、如月の、如月が出来る、吹雪ちゃんへのお礼だから」

吹雪「如月ちゃん……!」ウルッ

如月「ほら、そんな顔、しないで……?」ス……

吹雪「如月ちゃん……」

如月「んっ――」

吹雪「む、んっ……」








吹雪「いや何でチューしてるの私!!?」ガバァッ!

如月「えっ、ダメだった? そんな雰囲気じゃなかった?」アセアセ

吹雪「いやいやいやそんな――」

吹雪「――『大井さん』じゃあるまいし!?」

如月「――――えっ」

吹雪「――うん?」




吹雪如月「――大井さん!!」オモイダシタ!

――――回想、球磨型軽巡の部屋、昼

吹雪「な、何の用事なんでしょうかね……大井さん?」ガタガタ

大井「ねぇ、あなた。よく、『やらずに後悔するより、やって後悔する方がいい』って言葉、聞くじゃない」

大井「これ、どう思うかしら?」

吹雪「言葉通りの意味だと思いますが、私はやらない派をおすすめしますよ……?」

大井「そう。私はやる派よ」ジリジリ

吹雪「その手に持った北上さんの改衣装が無ければ私もそう答える所でしたよ」ジリジリ

大井「あら、どうして?」

吹雪「胸に手を当てて考えてみたらどうでしょう?」

大井「私はただ、この服をあなたに着せて髪を結えば北上さんに似てるなぁ、と思っているだけよ」ジリジリ

吹雪「その後に恐怖しか感じないんですがそれは――間合いを詰めるのを止め、止めてくださ――止めろぉ!?」ズザァァ

大井「シッ」ガバッ

吹雪「みぎゃあぁぁぁ……!?」







大井「…………」

吹雪「うう……着ましたけど!? 着せられましたけれど!? これで満足ですかねぇ!?」

大井「吹雪」

吹雪「……なんです?」

大井「抱く」

吹雪「いやぁぁぁぁぁぁ!!?」ダッ

大井「シッ」ガッシィ!

吹雪「いやだぁぁぁ私はまだ綺麗な体でいたいんですぅぅぅ!!」ブンブン

大井「大丈夫、優しくする。絶対気持ち良くするから」グイッ

吹雪「何でさっきから口調がガチなんですか!? ちくしょう雷巡の馬力強い!」ググ……





北上「そのかわり装甲は大したことないんだよねー」ヌッ




大井「えっ」ビクッ

吹雪「あっ! 北上さん、助けてっ! できるだけ迅速に!」バタバタッ

北上「えー、めんどくさい」

吹雪「何で!? 浮気ですよ、浮気!」

大井「い、いやっ!?」

北上「いや別にアタシ大井っちと付き合ってる訳じゃないし」シレッ

大井「ごはぁ」

吹雪「吐血!? ああぁ服の中に入ってくる!?」ヒィィ

北上「それに、ふぶきーうしろうしろー」ユビサシ

吹雪「後ろ……?」クルッ

吹雪「(勝った)」

大井「ゲホッゲホォッ……くっ、思わぬダメージを受けてしまったわ」

?「なら、予想できるダメージを受けてみるクマ?」

大井「えっ?」クル

球磨「…………」

大井「…………」

球磨「クマァ」ニタァ










球磨「いやー、吹雪すまんクマ。いらぬ迷惑をかけたクマ」ミシミシミシミシ

大井「ああぁぁぁぁぁごめんなさい姉さん出来心だったのぉぉおぉ!?」ブラーン

吹雪「雷巡ってアイアンクローで浮くんですね」

北上「球磨姉はキレるとヤバいからねー」ケラケラ

――――

木曽「怪我は無いか……というより貞操は無事か、吹雪」

吹雪「ギリギリ無事です」

木曾「すまん……俺に免じて、どうか不出来な姉を許してやってくれ」

吹雪「いやまあそれは、さっきから地上に降り立つ事すら許されてない大井さんを見てたらどうでもよくなりましたんで……」

大井「姉さんもうゆるしてぇぇぇ頭部装甲が割れるぅぅぅ!!」ミシミシミシ

球磨「そろそろ交代クマ」スッ

多摩「多摩じゃ2分浮かせるのが限界ニャ」ミシミシミシミシ

球磨「十分だクマ。それだけ休めば後30分は浮かせてられるクマ」コキコキ

北上「あ、吹雪。服は着替えてってね」

吹雪「あっ、はい」

吹雪「球磨さん、多摩さん。あの、もう別に気にしてないので……大井さん勘弁してあげていただけないでしょうか?」

多摩「おっ、情状酌量ニャ?」パッ

球磨「吹雪がそう言うなら止めるクマ」

大井「」ドサァッ

吹雪「(惨い)」

球磨「大井、吹雪に謝るクマ。あと感謝しとくクマ」

大井「は、はい……あなた、ごめんなさいね……つい、気の迷いだったの」ウルウル

吹雪「――――」ゾクゾクッ

球磨「コイツには後で償わせるクマ。吹雪も、許してやってほしいクマ」

大井「え、えっ」

吹雪「ああ、それはもう」

吹雪「あ、それならちょっと雑用を頼みたいんですが……今晩駆逐寮に来ていただいて」

大井「ざ、雑用……ですって……?」プルプル

球磨「文句あるクマ?」

大井「ありませぇん!」ヒィーン!

北上「ドンマイ、大井っち」

木曾「やれやれだ……ま、ちょうどいい納めどころが見つかって良かったとしよう」




――――回想終わり

如月「で、その後は?」

吹雪「夜に部屋に来た大井さん食い散らかして終わり」シレッ

如月「!!?」

――――

如月「さ、最後恐ろしい事を聞いたような気がするけれど、たくさん思い出せたわね」

吹雪「そうだね……こうやって話をしてれば、どんどん思い出せそう。後は……切っ掛けがあれば、かな?」

如月「そうね……ふわぁ……もうすっかり話しこんじゃったわ」

吹雪「そろそろ眠ろう。明日は……」

如月「明日は?」

吹雪「……とりあえず、より良い寝床の確保」

如月「あぁ……確かに地面で適当に寝るのも辛いわ」

吹雪「じゃ……一緒に寝よっか」スッ

如月「うん」








如月「……如月も食べるの?」ジィッ

吹雪「冗談ですよぉ!?」ガーン!?

投下終了
吹雪の記憶を取り戻す孤島生活、始まります。

投下開始

――――朝、壕

吹雪「…………はっ、朝……?」パチリ

如月「そうね」ジトー

吹雪「……今日は何を?」

如月「寒いからって人の服の中に手を突っ込むのは止めてね」ニコッ

吹雪「まことにもうしわけない」

――――壕内

如月「吹雪ちゃん、今日は具体的にどうするの?」

吹雪「うん。とりあえず、この壕……防空壕か何かは分からないけれど、資材があるって事は」

吹雪「ここはかつて拠点だったか、或いは避難場所だったか……どっちにせよ、私たちに縁のある場所だって事だと思うの」

如月「……言われてみれば、そうね」

吹雪「と、考えるなら――ここは本島からはそんなに離れてないんじゃないかって予想できる」

吹雪「私は遠征中にここに流れ着いたから、そこからも同じ答に行き着くね」

如月「なら、迎えが来るかも?」

吹雪「……と、言われると微妙なんだよね」

如月「なぜ?」

吹雪「私が知らない島だから。こんな風に資材やらを置いておく場所なら、今だって使われてるはず」

吹雪「迎えだってとっくにこなきゃおかしいよ。迎えで無いにしろね」

如月「……じゃあ、ここは昔に放棄された拠点なのかしら?」

吹雪「その可能性が高いと思う。だから、この中を隈無く探してみようよ」

吹雪「使えそうな物をかき集められるかもしれないしね」

如月「わかったわ」コクッ

――――家捜し

吹雪「木箱に弾薬……奥の部屋に鋼材も少し。加工が手間だけど……燃料は――ギリギリ使えるレベルのがちょっぴり」ゴソゴソ

如月「ボーキサイトは無いわね……まあ、私たち駆逐艦には関係無いけれど」ガサゴソ

吹雪「他には……この奥の部屋は――如月ちゃん!」

如月「どうしたの、吹雪ちゃん――って」

吹雪「布だよ!」バサァッ

如月「布……? はっ」

吹雪「寝床が潤うね……!」

如月「今日はぐっすり眠れそうね」フフ

――――壕内、昼

吹雪「食料は……ないかぁ」

如月「流石にそんなに都合良くはいかないわよね……」

吹雪「とりあえず探索は一旦切り上げよう。思ったより中が広いや」

如月「そうね。お腹も空いちゃったし」

吹雪「今日は……島の中を探してみよっか」

如月「お水が欲しいわ……貝の汁しか飲んだ記憶が無いもの」

吹雪「うん、雨が降らない事はないだろうから、何処かに池でも出来てれば御の字なんだけれど」

――――小川、昼

吹雪「ミラクル」ゴクゴク

如月「の、飲める?」

吹雪「ぷはぁっ……多分大丈夫。というかかなり美味しい類いの水だと思うよ」

如月「そう? じゃあ……」チャプ

如月「んっ……」コクッ

如月「――おいしい……って、どうしたの吹雪ちゃん」

吹雪「手ですくってちょっぴり飲んでる姿を見て、我が身を省みてるのです」カァァ

如月「ふふっ。吹雪ちゃん顔ごと突っ込んでたしね」クスクス

――――小さな河原、夕方

如月「でも、自然に恵まれてるのはありがたい事ね」

吹雪「そうだよね。お陰で」ヤケタカナ?

吹雪「淡水魚にもありつけるし」モシャモシャ

如月「木の実も山菜もあるし」

吹雪「椰子の類いの植物もあるから、ここは割りと南の方なのかもしれないね」

如月「寒いよりはずっといいわ。でも、海が近いから……風で髪が痛んじゃって嫌だわ」

吹雪「髪が痛む……? っ、そうだ!」スクッ

如月「ど、どうしたの?」

吹雪「ここを鎮守府にするんなら、一番大事な物を作ってなかった!」

如月「一番大事なもの……?」キョトン




吹雪「お風呂(ドック)だよ!」



――――壕前、夜

吹雪「できました」ゼーハー

如月「お、おおー……」パチパチ

如月「これは……空のドラム缶?」

吹雪「そう、午前中に見つけたんだ。使えないと思ってたけれど……」

吹雪「底には木の板を敷き詰めてる」

吹雪「縁には布を巻いて火傷しないようにしたよ」ドヤッ

吹雪「下に石で固めた竈を作ったから、ここに薪を入れて火を点ける」

吹雪「火を維持すればお風呂の完成ってね!」

如月「わぁ……!」

如月「……ん、あれ? 肝心のお水は?」

吹雪「…………」

如月「……え、まさか」

吹雪「ここに二つのバケツ? のような容器があるよね?」

如月「え」

吹雪「さあ、気合いだー! 川と往復だよ!」

如月「えぇぇぇ!? もう夜よ!?」

吹雪「月明かりはあるよ! 水雷魂、水雷魂!」グイグイ

如月「わ、私夜戦はあんまり――」ツレテカナイデェェェ……

――――入渠

如月「ふはぁ……お風呂は命の洗濯ねぇ……」チャプ……

吹雪「やったかいがあったでしょ?」

如月「そうねぇ……極楽だわ。火加減の調整は難しい?」

吹雪「割りとそよ風が入ってきて勝手に燃えてくれるから、そうでもないって感じ」

如月「そう……なら、吹雪ちゃんも一緒に入る?」クスクス








カポーン

如月「吹雪ちゃんって、実はレズ?」ミッチャク

吹雪「違いますよ!?」ア、ユカゲンチョウドイイ……

――――星空の下、湯煙の音

如月「それにしても、いい湯だわ」

吹雪「私なんかその上クッション付きですからね」セナカアズケ

如月「……えっちね」

吹雪「そういう意味じゃねぇですよぉ!?」

如月「もう吹雪ちゃんがそういう人にしか見えない」クスクス

吹雪「酷い風評被害だ……」ブクブク……

如月「……今日は、何のお話をする?」

吹雪「あ、そっか。じゃあ大井さん絡みの話でもしよっか」

如月「またレズの話?」フフッ

吹雪「すぐそうやって言う!?」プンスカ

――――回想、演習場、昼

睦月「え、えぇいっ!!」ドォン!

吹雪「主砲、撃ちます!」ドォン!

的「…………」

睦月「カスりもしないにゃしぃ……」

吹雪「有効距離ギリギリだからね……私も当たりやしないよ」




大井「見てられないわね……」ヤレヤレ

吹雪「大井さん、それに」

北上「やっほー、駆逐艦ら」ヨッ

睦月「北上さん……北上さんも演習ですか?」

北上「うんにゃ、アタシはそんなんめんどくさいし。大井っちに着いてきただけー」

大井「私も適当に魚雷撃ちたくなっただけよ……で、さっきの砲撃は何なのかしら?」

吹雪「う……面目も無いです」

大井「この距離でギリギリ当たる、ってのが最低条件みたいなものよ……ちょっとその12.7cm連装砲貸しなさい」

吹雪「は、はい」

北上「あれー、大井っち。自分の主砲は?」

大井「同じのでやってみせた方が分かりやすいでしょうし……少しお時間下さいね、北上さん」

北上「ん、まぁいいけどね」

大井「じゃ」スッ

ガキュン、ガキュンッ――!!

睦月「的が……!」

吹雪「……今、一発目の穴に二発目通しませんでした?」ヒィィ

大井「このくらい、練習すればできるわよ」ハァ

北上「アタシは特に練習しなくてもできたけどー?」

大井「北上さんは天才だから当然ですよ!」キャー!

吹雪「おおぅ……」

大井「まず構えが悪いのよ。ほら、吹雪。こうやって真っ直ぐ肘を伸ばして――何よ?」

吹雪「いや……その……後ろから密着されるとちょっとその」

大井「そんなつもりないわよ!!」キィーッ!

睦月「(レズに狙われるのも楽じゃないね)」

――――回想終わり

如月「大井さんって強いのね……」ヘェー

吹雪「実力派レズだからね」

如月「ぶっは」ブフゥッ

吹雪「実力派レズだからね」

如月「何で二回言ったの……お腹いたい……!」

吹雪「まぁでも、冗談は置いといても大井さん――というか球磨型の皆さんは強かったと覚えてるよ」

吹雪「そういえば、一度演習に混ぜてもらった事があったなぁ――」

――――回想、鎮守府近海、昼

木曾「おーい、姉さん。吹雪が演習を一緒にやりたいんだと」

吹雪「お、お願いします!」

球磨「提督から話は聞いてるクマ。歓迎するクマ」ニッコリ

多摩「組分けはどうするニャ?」

大井「私は北上さんと一緒よ!」

北上「アタシはどっちでもいーや」

球磨「じゃ、いつものチームクマ。そっちに吹雪やるクマ」

大井「……流石に嘗められてるのかしら、姉さん」

球磨「嘗めてなんかないクマ」




球磨「妥当な実力差だと思う、クマ」ニヤ

大井「……今日こそ吠え面かかせてみせるわ」

多摩「おうおう、やってみるニャ」ケラケラ




吹雪「あ、あの……いつもの組み合わせって?」

木曾「ああ。球磨姉さんと多摩姉さんのコンビ対、残り俺たちさ」

吹雪「え、それなら大井さんも北上さんもいるし……」

木曾「おいおい、俺だって重雷装巡洋艦だぜ?」ハハ

吹雪「あ、す、すいません。それなら尚更、私も入るなら有利なんじゃ……」

北上「ちなみに一回も勝ったことないよー?」

吹雪「えぇぇっ!?」

大井「じゃあ、ヒトヨンマルマルの空砲を合図に」

球磨「はいはい。大井はホントに、雷撃の事になると頭に血が登るクマね」

――――1400

大井「吹雪。空砲を」

吹雪「は、はいっ」

大井に言われて、吹雪は主砲の仰角を上げる。
空砲用の喧しい薬莢を装填し、構えた。

木曾「さっき言った通り、大井姉さん、北上姉さん、俺に続いて単縦陣で動く――が」

北上「あんま陣形は拘らなくていいよー」

吹雪「何故です? 誤射とかの可能性を考えると、キチンと陣を組んでる方が……」

木曾「多摩姉さんを見てりゃ分かるさ。俺たちは船だが――人型なんだって事がな」

北上「ま、私らがサポートするし、どうせ勝てないから気楽にいこー?」

吹雪「ええー……あっ、ごめんなさい」

大井が目で吹雪を急かしたのに気付き、慌てて空砲を撃つ。

その瞬間に、周囲三人の魚雷発射管が火花を上げた。

大井「木曾、水偵」

木曾「ダメだ。落ちてる」

北上「大丈夫、アタシ見えてる。10時の方向に多摩姉さん。最大戦速、めっちゃ早い」

大井「先制雷撃、いくわよ!!」

併せておおよそ100門もの魚雷が発射管から次々と雪崩出ていく。
これだけの火力を一隻に浴びせるのか、と吹雪は一瞬気が引けたが。

木曾「さ、吹雪。突っ込むぞ」

吹雪「えっ」

北上「どうせ全部当たってないよ」

大井「多摩姉さんの事でしょ。何発かは対潜用の爆雷で相殺してるわよ」

吹雪「えぇっ!?」

北上「常識に囚われてる内は球磨姉に辿り着けないよー」

大井「砲雷撃戦、行くわよ!」

海の上を走っていく三人を追いかける様にして、吹雪も艤装を全開に速度を上げた。






球磨「やれやれ、今回は多摩に全部持ってかれるかもしれんクマ」

球磨は動かず、零水偵を飛ばしながら観測する。
火線が激しくなっていた。

球磨「お、接敵したクマ」

――――

吹雪「ひ、ひぇぇ!?」

多摩「ほらほら、どうしたニャ!」

吹雪「こ、こんなの砲雷撃戦じゃないよぉ!?」

全速力で突っ込んでくる多摩を見て、吹雪は「反攻戦になるな、砲撃を何発か撃って離脱……だったよね」と一人で納得していて。

だからまさか、彼女がそのまま主砲を撃ちながら『格闘戦を仕掛けてくる』なんて、思いもしなかったのだ。

木曾「そこだっ!」

多摩「む」

軍刀の一閃が連装砲で受け止められる。
返し様、回し蹴りを捻り込まれつつ、機銃の乱射を浴びた。

木曾「ぐ、うっ!?」

多摩「筋は良いけど艤装と格闘が噛み合ってないニャ――おおっと」

海上を『バック宙しながら』、多摩は雷撃を回避する。
大井の苦々しげな顔が、誰が放ったかを物語っていた。

北上「吹雪もいるし、ちょっと良いとこみせよかね」

多摩「ぬ」

懐に潜り込んだ北上が、多摩の顎を掌底で叩き上げて――蹴り飛ばす。
同時に、魚雷管が空いて中身が多摩を追いかけた。

多摩「お」

触雷の水柱が上がる。

吹雪「やった!」

球磨「残念だけど、やってないんだクマ」

吹雪「えっ――」

ボディーに鋭い一撃の拳が入り、吹雪の意識は一瞬途切れた。

多摩「――危なかったニャ!」

爆雷投射装置が外れ、煙を上げている――身代わりにしたのだろうか。

横目で、消えかけの意識で見たのは――主砲すら撃たずに肉体言語で妹達を薙ぎ倒していく球磨型のネームシップの姿だった。

――――回想終わり

吹雪「…………」

如月「……私の知ってる砲雷撃戦と少し違うわ」

吹雪「あの人たち、ホントに戦うことに掛けてはセンス高すぎるよ……球磨さんに至ってはその時砲雷撃してないもん」

如月「でも、確かに船じゃなくて――私たちは人だものね」

吹雪「理には叶ってるんだよね。ジャンプで雷撃避けてるのを見た時はズルいと思ったけど」

如月「あはは……でも、今回は何だか、何の前触れも無く思い出せたわね」

吹雪「多分、前に思い出せたからだと思う。同じ人は何だかスッと記憶から出てくるよ」

如月「ふぅん……まぁ、それはいいわ。とりあえず上がりましょ。のぼせちゃうわ」

吹雪「そうだね……じゃ」ザバァ








吹雪「タオル代わりの布ー」ジャーン

如月「ホントにその布が見つかってなかったらと思うとゾッとするわ。特に今」

投下終了
砲雷撃戦(物理)

投下開始

――――壕、一枚の布にくるまって

吹雪「…………む」パチリ

吹雪「今日は私が先みたい……?」ムク

如月「すぅ……んぅ……」

吹雪「(うんよし今日はマシだね。脚が絡んでる事を除けばね)」ソーット……

――――壕、昼

吹雪「…………」カーンカーン

如月「どう? 艤装は直りそう?」

吹雪「うーん……ロクな工具が無いから何とも」

如月「ちょっと休憩しましょ? お昼もできてるから」

如月「献立を考えるのも楽しくなってきたの」フフッ

吹雪「慣れるもんだね、人って」ハハ

――――昼食、浜辺にて

如月「今日はお魚に、細かく砕いた木の実をまぶして焼いてみたわ」フフン

吹雪「……味の方は?」オソルオソル

如月「…………そこそこ?」

吹雪「急に不安になるから止めてよ……あむっ」

吹雪「――悪くない」オォ

如月「えへへ、良かったわ」

吹雪「こういう彩りは良いよね。ご飯担当に任命します」ドーン

如月「何を今さら……吹雪ちゃん以外は私しか艦娘いないんだから、私は秘書艦でしょう?」

吹雪「えっ」

如月「うん?」

吹雪「…………」ウーン

吹雪「……確かに」

如月「ふふ、肩でもお揉みしましょうか、司令官?」クスクス

吹雪「後で頼むかも」コッテル……

――――壕前、夕方

吹雪「――よし! これで、一応は動くんじゃないかな……!」パァァ

如月「あら、一段落?」ヒョコッ

吹雪「うん、何とかなりそうだよ」

如月「お風呂とご飯、用意しておいたわよ。それだけで一日終わってしまったけど」ヤレヤレネ

吹雪「ありがたい……お陰で集中できるし、ありがと」

如月「さて、じゃあ……」クルッ

吹雪「?」

如月「お風呂にする? ご飯にする? それとも……わたし?」エヘッ

如月「なんちゃって――」

吹雪「いただきます」

如月「え、ご飯? わかったわ、準備――」

吹雪「いただきます」

如月「待って吹雪ちゃん、目が怖いわ」

吹雪「ケッコンカッコカリとか推奨する大本営の気持ちちょっとわかる」ウンウン

如月「あ、ありがとう?」ウ、ウン?

――――壕内、寝床、夜

如月「明日は、海に出るの?」

吹雪「うん。ちょっと回りを探索してみるよ」

如月「私の艤装も直れば、一緒に行きたいんだけれどね……」

吹雪「若干痛みが激しいからね……本格的に直せないと」

如月「…………」

吹雪「……どうしたの?」

如月「……直ったら、吹雪ちゃんは私を置いていくの?」

吹雪「な、ないない! 近くに気配が無ければ帰ってくるよ!」

吹雪「運良く遠征に来てる艦隊に接触できたりしないかなー、ぐらいの気分だし」

吹雪「そうでなくても、ここ以外の拠点も見つけられたら、如月ちゃんを引っ張っていけばいいし」

如月「…………」ギュッ

吹雪「如月ちゃん……」

如月「吹雪ちゃん……如月の事、忘れないでね。絶対よ?」

吹雪「――――!」

吹雪「……うん、わかった。大丈夫だよ、心配ない」

如月「……変なこと言ってゴメンね。もう、寝ましょう」

吹雪「うん……はい」ニギッ

吹雪「手でも繋いでれば寂しくないよね?」

如月「うん……あったかい」










如月「まあどうせ朝になったらいやらし吹雪ちゃんなんだけれど」ムゥ

吹雪「ホントごめん」

――――早朝、浜辺

如月「早く目が覚めちゃったね」

吹雪「こういう所には水雷魂が染み付いてるんだと思うよ。あんまり覚えてはないけれど」

如月「……早く帰って来てね」

吹雪「日付が変わるまでには絶対帰投するよ」

如月「ご飯作って待ってるわ」

吹雪「楽しみにしてる――さて!」





吹雪「吹雪、抜錨します!」




投下終了
やっと海に出ます←

投下開始

――――孤島近海、朝

ザザァン……

吹雪「うーん、やっぱり速度はまだ出ないや……煙突からの煙も色が悪いや」

吹雪「缶を新品にしなきゃマズそう……課題は多いなあ」

吹雪「ん、まぁでも……久し振りの航海――悪くないね」

吹雪「…………」

吹雪「(電探は壊れてる。ソナーも機能してない)」

吹雪「見張り員の妖精さんもいない……ホントに自分の経験と勘しか頼れないなんて」

吹雪「あの島の位置もいまいち不明瞭だし、星見も上手くいってないし……」ザザァ……

吹雪「戦艦の測量技術でもあればまた違ったのかも……勉強不足に器具不足。ないない尽くしで嫌になるなぁ」

吹雪「まあでも、太陽の動きはここ何日かで掴んだから……帰れはするだろうけれど」

ボフンッ……ボ……ボォォ

吹雪「……危ない。こんな所で機関停止とかやめてよ……?」ホッ

――――孤島遠海、昼

吹雪「西に向かってとりあえずは進んでみたものの……」

吹雪「うーん、結構沖まで出たつもりなんだけれどなぁ……」キョロキョロ

吹雪「ホントに何も無いのは心に来るなぁ――あれは?」ピクッ

吹雪「――島、かな? 行ってみよう……!」ザバァン!

――――小島、昼

吹雪「随分小さいけれど、島だ……」

吹雪「……回りから見ても思ったけれど、ホントに無人島みたいな雰囲気」

吹雪「……上陸しよう。頼むから深海棲艦とかいないでよ……?」

吹雪「(主砲も機銃も撃てやしないんだ……ホントに頼むよ)」ザバァ……ジャリッ

――――小島、陸地、昼

吹雪「岸壁と砂浜に囲まれて、ちょっと茂みがあるだけか……ギリギリ森って言えないレベルしか植物も無い」

吹雪「……5分で一周かぁ。これじゃ拠点にするのもしんどいや」

吹雪「……そろそろ引き上げ始めないといけないかな。海に戻ろ――何だろう、あれ」ダッ

――――

吹雪「これは――ちょっと錆びてるけど、輸送用のドラム缶!」

吹雪「中身は……!?」ググ……バキンッ

吹雪「フタかったぁ……いや、それより――!」

吹雪「牛缶始め保存食がたくさん……衣料品に――簡易の調理キットまで!」

吹雪「――向こうにも! ひ、ふ……二つ!」

吹雪「艤装のロープは……使える! 早く持って帰ろう!」

――――孤島、夜、帰還

如月「……吹雪ちゃん、まだかしら」ソワソワ

如月「ご飯、よし。お風呂、よし」

如月「……私、よし。うん、問題ないわ」

オーイ……

如月「!」ガバッ




吹雪「たっだいまー!」ブンブン




如月「おかえ――ゴホンッ」ケホケホ

如月「――おかえりなさーい!」

――――孤島、浜辺、夜

吹雪「月明かりに好かれてたよ。かなり帰りやすかった」ヨッコラショ

如月「そうね。今日は夜でも吹雪ちゃんの顔が見えるくらい明るいもの」

如月「それは……ドラム缶?」

吹雪「うん。少し離れた所に小さな島があったの」

吹雪「どうも潮の流れの影響か、漂流物が流れ付きやすいみたい。これは多分……」

如月「多分?」

吹雪「私たち艦娘の遠征中に、敵に襲われたりして投棄した物資だと思う。もちろん、その部隊は作戦失敗で落ち込んでるだろうけど――」

吹雪「そのお陰で私たちも何とかなりそうってのは皮肉だね」フフッ

吹雪「ほら、牛缶とか入ってる」

如月「わぁ……! 他の二つは何が入ってるの?」

吹雪「まだ開けてないから何とも……明日、朝一番の楽しみに取っておくよ」

如月「期待が高まるわね……吹雪ちゃん、お風呂もご飯もできてるから」

吹雪「ありがと。じゃあまずは――」

如月「私はダメよ?」クスクス

吹雪「待って!」チガウンダ!

投下終了
大分書く速度が戻ってきた気がします←

お待たせしました。
投下開始

――――翌日、日が上って、浜辺

吹雪「さて、じゃあ開けてみようか!」フンス

如月「何が入ってるのかしらね……」ワクワク

吹雪「まずは一つ目……ぃよいしょう!」グググ……パカッ

吹雪「――――資材だ」

如月「うわぁ……結構あるわね。遠征で運んでる物だから、まあ当然と言えば当然ね」

吹雪「上手く使い道が見つかればいいんだけれど、ちょっと保留かな」

吹雪「さて、最後の――」

如月「待って、私開けたいわ」ウズウズ

吹雪「お。うん、いいよ。あけてあけて?」ドウゾドウゾ

如月「ドラム缶の……バンドを取ればいいのかしら」

吹雪「そうそう。結構ガッチリ絞まってるけど……」

如月「むむ……むぐぐ……」プルプル

如月「う……うーん! えーい……!」グググ……ググ……

如月「…………」

如月「……開かないわ」シューン

吹雪「女子か!」

如月「女子よ!?」ガァン!?

――――

吹雪「さて、何が入ってるやら……」ガサガサ

如月「(結局吹雪ちゃんに開けてもらっちゃったわ……)」

吹雪「――これは」

如月「なになに? 良さそうな物はあった?」

吹雪「……工具」

如月「え、工具?」

吹雪「補修資材だ……それに、これは――!」

如月「――あ、高速修復材!」ソレハ!

吹雪「ちゃんとしたお風呂(ドック)が無いから使えないにしろ、持っておくに越したことはないね」

吹雪「よし……」ガチャガチャ

如月「じゃあ、今日は艤装の整備?」

吹雪「うん、ちょっと本腰入れる」

如月「なら、私はご飯とかの用意するね」

吹雪「ありがとう、お願いね」

――――壕前、昼

如月「調理器具のお陰でずいぶん楽になったわ」

如月「特にお米……古米とはいえ飯盒も付いてきて一石二丁ね」ルンルン

如月「お米は……よし、炊けてる」

如月「適当に牛缶と……あと粉末のスープでも空けようかしら」

如月「…………」

如月「(調理してない!)」ガーン

――――浜辺、徒歩二分

如月「よい、しょっと」ガサッ

如月「吹雪ちゃーん、ご飯もってきたわよー!」

吹雪「ん?」チラ

吹雪「ありがと……ちょっと適当に置いといて?」カチャカチャ

如月「はーい。 ところで、何を直してるの?」

吹雪「探照灯をね……壕の奥を調べるのに明かりが欲しくて」

如月「ああ……そういえば途中だったよね」

吹雪「そう。何かあればいいんだけれど」

吹雪「……よし、これで」カチッ

パッ

如月「まぶしいわね」オオー

吹雪「んふふ。やりました!」ドヤッ

吹雪「よーし、ご飯食べたら探索しよっか?」

如月「了解よ」

――――壕、奥

吹雪「天井を照らして、と」ピカー

吹雪「探照灯はちょっと大げさなレベルで明るいね」

如月「隅々まで見えるけれど……あ、木箱」

吹雪「資材だね。ありがたいや……でも、誰がここに運んだのか――ん?」

如月「どうしたの?」

吹雪「いや、さっき……あの隅っこの物陰で何か動いたような……」

如月「ネズミとかかしら?」

吹雪「何だろう……?」チラッ






妖精「」ナンゾ?






吹雪「――如月ちゃん」

如月「あら、これ――妖精さん?」

妖精「」ヤァ

投下終了
ボルテは仕事だからね、仕方無いね(土下座)

伝統の深夜更新、始まります
投下開始

――――壕前、夕方

吹雪「まさか妖精さんが居たとは……」ナルホド

如月「彼は?」

吹雪「資材渡したら何か忙しそうにしてたよ。どうも、ここに貯蓄されてた資材も彼が集めてたみたい」

如月「それは……流れ着いた資材って事?」

吹雪「うん、壕の奥に鍾乳洞みたいな空間があって、そこが天然の母港みたいになってたらしいね」

吹雪「たまに、そこに流れ込んでくるみたい」

吹雪「何か、気合い入ってたみたいだけれど……」

如月「久し振りに艦娘を見たからかしら……?」




妖精「」オイ




吹雪「ん……妖精、さん?」

妖精たち「」ワサァ

如月「増えてるー!?」ドキーン!?

――――壕前、夜

吹雪「艤装、持ってっちゃったね……」モグモグ

如月「もしかして、直してくれてる……とか?」モキュモキュ

吹雪「まさか……施設も無いのに」

吹雪「あ、缶詰取って」

如月「はーい」ドウゾ

吹雪「まあでも、少し賑やかに……んっ」ググ……ペリッ

吹雪「賑やかになって良かったよね」モグモグ

如月「そうね。何だか懐かしい感じがするわ。その……上手くは思い出せないけれど」シュン

吹雪「ははは、私も。そこは、まあ追い追い解決してくれるよ。時間が」ニコ




妖精「」イチャツイテルトコ、ワルイナ

如月「ひんっ!?」ドキッ

吹雪「いちゃついてる訳じゃねぇですよぉ!?」

妖精「」マァイイ

妖精「」ツイテキナ

吹雪如月「「?」」

――――壕、改め鎮守府

吹雪「」ポカーン

如月「な……何事かしら……?」

吹雪「照明まで完備されてる……でも一応洞窟なんだけれど」

如月「吹雪ちゃん、ここ……部屋になってる」ガチャッ

吹雪「ドアどっから出てきたの」

――――司令官室

吹雪「マジか」

如月「ここ、外と面してるみたいね。ほら、窓」キィ……

吹雪「壁までしっかり作られてる……床もフローリングだ」スゴイ

如月「執務机まであるわ……使うの?」

吹雪「いや、多分座りもしないと思う」

如月「真顔で言わないであげてよ……」

――――ドック

吹雪「――本物のお風呂だ!」

如月「ステキ……いい仕事ね!」キラキラ

吹雪「美容に絡むと如月ちゃんイキイキするよね」

――――母港、出撃ドック、夜

妖精「」ドウヨ?

吹雪「いい仕事でした。流石の技と言ったところですね」

如月「お風呂に大きな姿見とかって……置けないかしら?」

妖精「」カガミナ、マカセトケ

妖精「」ソレカラ、コレ

如月「私の艤装……!」

吹雪「私の艤装も直ってる――三連装酸素魚雷発射管まで!」ワァッ

妖精「」タメシニ、ウゴカシテキナ

妖精「」ドックマワリハ、テラシテヤルヨ

吹雪「――行こっか、如月ちゃん!」

如月「…………」

吹雪「……如月ちゃん?」

如月「……うん、うん。大丈夫、吹雪ちゃんがいるもの」コクッ

如月「いいわ、行きましょ!」

吹雪「よーし!」





吹雪「第一艦隊、抜錨だね!」



――――ドック前、近海、夜

吹雪「明るい……」

如月「探照灯がいくつも取り付けられてるわ……妖精さんの仕事の早さには驚かされてばかりね」

吹雪「そうだね。うーん、艤装が軽い!」

吹雪「いっくぞー! 最大戦速だっ!」ダッ!

如月「あ、待って吹雪……ちゃん!?」

如月「(その時走り出した吹雪ちゃんが海に潜るみたいに飛んで)」

如月「(海に『手を付いて』宙返りした、と思ったら)」

如月「(凄い勢いでバク宙して、バレエでもしてるかみたいに空中で三回転くらいした)」

吹雪「ひゃっほー!! 久し振りの感覚、だぁー!」キャッキャッ

如月「(側転、捻って前転、前転、前転)」

如月「(着水際にスピン決めて反転)」

如月「あ、こっち帰ってきた」

吹雪「いやぁ、やっぱり良いね! 航海ってこうじゃなくちゃ!」キラキラ

如月「いやちょっとついてけないです」

吹雪「敬語!?」

――――帰投

妖精「」ドウヨ?

吹雪「バッチリです!」

如月「私も問題ないわ」

妖精「」ソリャヨカッタ

妖精「」マタナンカアッタラ、イエヨ

吹雪「すいません、頼りにさせてもらいます」ペコッ

妖精「」イイッテコトヨ

――――寝所、夜中

吹雪「いやぁ、寝室まであるなんて」

如月「そうね……布団、どうやって作ったのかしら……?」

吹雪「問題があるとすれば……その、布団が一つなところですかねー……」アー……

如月「?」

吹雪「その『何が?』みたいな顔止めよ?」

如月「襲うの?」クス

吹雪「襲いませんけれどねぇ!?」

――――同☆衾

吹雪「……以外と落ち着く」

如月「今までとそんなに変わらないじゃない」フフッ

吹雪「よく考えたら確かに」

如月「でも、今日はびっくりしちゃった。吹雪ちゃん、凄い練度なのねぇ……」

吹雪「自分でも驚いたけれど、そうみたい」

如月「さすがね、頼りにしちゃうんだから」ダキッ

吹雪「あはは……そろそろ寝よっか。ちょっと疲れちゃったし――」

如月「疲れちゃったし?」

吹雪「そろそろ襲うかもしれない」

如月「!?」






――――深い夜を行く。




――――

夢を見ていたんだ。

遠くから、遠くの自分を見ている。
不思議な感覚だった。

「如月が沈んだ……!?」

そんな報が、鎮守府を駆け巡ったのを覚えている。

回りの喧騒が耳障りだった。

と、思ったから。
その音は、世界は。

深い、海の色になって。
闇の中へと沈んだ。

ただ、見えるのは二人。

駆逐艦、睦月。それから。
駆逐艦、吹雪。

睦月は、酷く憔悴していた。
涙も枯れない。

それを慰めている、自分。



「いやだぁ……如月ちゃん、何で、なんで……」

「泣かないで、睦月ちゃん……」



その嗚咽だけを、思い出した。



「きっと、みんないなくなるんだ……! 怖いよ……海に出たくない……出てほしくない……」

「みんなは強いから……弱い私たちの怖さが分からないんだ……」



「睦月ちゃん……」



「如月ちゃんが何をしたの……? 弱かったから、死んでも仕方なかったの……?」

「何で、誰も守ってくれなかったの……! 誰も、助けてくれなかったの……?」

「……私も、そうやって――沈むの?」



思い出した。
私の、始まりは――ここだ。



「――大丈夫だよ、睦月ちゃん」

「強くなろう。どんな敵も倒せるように、どんな味方も救えるように」

「――怖かったら、怖くてもいいよ。でも」

「私が、必ず守るよ――だから、だから」

「だから、もう泣かないで」

そうだ。私は、彼女を置いてきてしまっていた。

約束、していたんだ。

如月ちゃんを連れて帰ったら、きっと睦月ちゃんは飛び上がって喜ぶだろうな。

だから、そう、だから必ず――――














「――帰ラナキャ……アノ、場所ヘ」





投下終了。お疲れさまです

投下開始

――――鎮守府、寝室、朝

吹雪「…………」ムク

吹雪「……夢見が悪いや」

如月「ん……」スヤスヤ

吹雪「……ふふ」

吹雪「さて……頑張らなくちゃ」

――――浜辺、朝

吹雪「…………」

「あら、こっちにいたのね」

吹雪「ん。おはよう、如月ちゃん」

如月「おはよう。寝心地が良くて、ついつい寝過ぎちゃったわ」フワァ……

吹雪「はは、わかるよ」

如月「これからは、どうするの?」

吹雪「とりあえず、資材を集めるよ。何をするにも、先立つ物が無くちゃね」

吹雪「……それから」

如月「それから?」

吹雪「――記憶を、取り戻さなくちゃ。きっと、きっと私たちは」

吹雪「――何か大切な事を、たくさん忘れている気がするんだ」

――――小島へ向かう航路にて、昼

如月「吹雪ちゃんと遠征は、そういえば初めてかしらね」ザザァン……

吹雪「……多分。ピンと来なかったし、忘れてるって訳でも無さそう」

如月「ふふ、何だか不思議ね。鎮守府から離れた方が接する時間が長いなんて」

吹雪「そうだね、確かに」ハハ

――――小島、昼

吹雪「よーしよし、流れ着いてるみたい」

如月「ドラム缶が……3つね」

吹雪「私が2つ持つから、後の一つは如月ちゃんお願いね」ヨッコラショ

如月「ええ、分かったわ――」

吹雪「よーし――っ!?」ピクッ

吹雪「伏せて物影に隠れて!」ガシッ

如月「え、ええっ!?」

――――小島、岩影に身を潜め

如月「な、何なの吹雪ちゃん……?」

吹雪「電探に反応があった……多分――ほら、上だ」

如月「――偵察機」

吹雪「しかも、深海棲艦のね。最低でも、軽巡クラスのがいる……」

吹雪「どこだ……まだ遠いのか……?」

如月「ど、どうするの……?」

吹雪「見えてる偵察機は一機――撃ち落とすのは何とかできる、けど」

吹雪「私たちがこの近海にいるのを知られたりしたら、ひとたまりも無い」

吹雪「あの偵察機がいなくなったら、鎮守府に帰ろう。息を潜めて――」

如月「吹雪ちゃん、あれ――偵察機が」

吹雪「……引き返した……? 何にせよ行幸だね」

吹雪「急ごう。私たちの鎮守府は、見た目ただの島にしか見えない。それだけは幸いだね」

――――鎮守府、夜

吹雪「今回の資材です」

妖精「」オウ、タスカル

吹雪「こちらの方こそ、ですよ」

吹雪「…………」

吹雪「(しかし、弱ったなぁ。この当たりには敵の勢力が無いと思っていたのに)」

吹雪「……まあ、そんな都合の良いことあるわけ無し――か」

吹雪「こっちにも、偵察機を飛ばせるような艦娘がいればやり易いんだけれど……」ハァ

――――寝室、夜

吹雪「資材引き渡してきたよーっと……あれ、如月ちゃん?」キョロキョロ

如月「…………」モゾ……

吹雪「ああ、布団の中にいたんだ」

如月「……吹雪ちゃん」

吹雪「何?」

如月「私たち、本当に帰れるのかしら……?」

如月「途中で、深海棲艦に襲われて、もし沈んでしまったら……って考えちゃって」

如月「それなら……それならいっそ、吹雪ちゃんと……ずっとここで暮らすのも――良いかな、って」

吹雪「……いや、それはできないよ」

如月「な、何で……? 吹雪ちゃんは、私と居るの、イヤ……?」

吹雪「ううん、違うの」




吹雪「……向こうに、待ってる人が居たのを、思い出したの。もちろん、如月ちゃんにも、いる」




如月「――そっ、か。そう、よね」

吹雪「大丈夫、やれるって!」ニコッ

如月「で、でも……」

吹雪「もしもの時は私が何とかするから、大船に乗ったつもりでいてよ」

如月「うん……うん、分かった」






吹雪「まあ実際は駆逐艦なんだけれど」

如月「くっ、ふふふ……た、確かにそうね」クスクス



吹雪「ん、やっぱり」

如月「?」

吹雪「笑ってる方が、かわいい」

如月「っ」ボフンッ

如月「も、もう寝るんだから!」カバッ

吹雪「そうだね……あの、いれてもらっていい?」

如月「……優しくしてね」

吹雪「飛躍してる飛躍してる」

投下終了

投下開始

――――




夢で、かつての鎮守府を見た。

たくさんの艦娘が居て、たくさんの思いがそこにあった。

――事、しか分からない。

私が確かにそこに居たのに、思い出せるのは少しだけ。

暁「吹雪はまだまだレディーにはほど遠いわね!」

睦月「吹雪ちゃん、一緒にがんばろうね」

大井「この程度、出来なくては困るわ」

木曾「吹雪、無理はするなよ」

多摩「猫じゃないにゃ」

北上「おー、うざくない方の駆逐艦」

球磨「戦うのはいいクマ。生を実感する一番手っ取り早い方法クマ」

もっと、もっとたくさん、誰かが居たのに。
回りにはたくさんの人影が見えているのに、顔も姿も分からない。

だから、彼女は。

吹雪「みんな……!」

見える仲間を頼りに、航海に乗り出したのだ。

――――鎮守府、寝室、朝

吹雪「……朝、か」ムクリ

吹雪「如月ちゃんは……寝てるか」

如月「くぅ……くぅ……」

吹雪「良く眠ってるけど、そろそろ起きなきゃね。如月ちゃーん」ユサユサ

如月「ううん……吹雪ちゃん……?」ポケー

吹雪「そうだよー、そろそろ起きよう?」

如月「…………」ポヤー

如月「……はっ」ビクッ

吹雪「ほら、髪がボサボサだよ」ニッ

如月「……イジワルね」ムゥー

吹雪「はは。シャワーでも浴びてくる? 昨日見たら付いてたよ」

如月「どこから水道を引いてるのかしら……?」

吹雪「妖精さんのみぞ知る、って事だね」ハハ……

――――母港、朝

吹雪「昨日頼んでた物はできてますか?」

妖精「」アア

妖精「」モウ、ウミニウカベテアルゼ

吹雪「ありがとうございます」

如月「何を頼んでいたの?」

吹雪「ちょっと訓練用の道具をね……」アレ

吹雪「ブイに的を取り付けた、簡単な物だよ。アレを狙って砲雷撃の訓練をするんだ」

如月「へぇ……でも、波で揺れて当たりにくいんじゃない?」

吹雪「だからだよ。アレに命中させられないようなら、実戦でも中らない」

吹雪「……そうやって、やってた気がする」

如月「――なるほど。訓練が目的じゃないのね」

吹雪「うん。何か、ここから記憶のヒントが見つからないかなと思って」

如月「なら、私はここで待ってるわね。邪魔はできないもの」

吹雪「うん、構わないよ。じゃ、ちょっと訓練してくる」ザバァッ!

如月「ふふ、いってらっしゃい」クスッ

――――母港近海

吹雪「(主砲、発射……命中)」ガァンッ!

球磨『お、やるなクマ』

吹雪「(違う、これじゃない)」

吹雪「三連装酸素魚雷、行けっ!」パシュッ

大井『酸素魚雷って、素敵よね……』ウットリ

吹雪「レズは帰って」

吹雪「ん、的が流れて近付いてくる……なら」

吹雪「(脚部の艦首艤装で、切り裂くように――蹴り抜く)」






暁『いい筋ね、でも――』





吹雪「――――」ゾクッ

暁『電に比べたら、まだまだキレが足りないわ』ヤレヤレ




電『照れるのです』テレリ

雷『この子、意外と凄いんだからね!』

響『暁型は伊達では無いよ』





吹雪「――第六駆逐隊……そうだ、思い出せた!」


――――かつての鎮守府、回想

電「え、電に用事なのです?」

吹雪「うん。是非とも、お願いしたい事があって……」コノトオリ

電「なんなのです?」

吹雪「実は――」





吹雪「――蹴り技の駆逐艦と言えば電ちゃんって聞いて」ホント?

吹雪「それで、ちょっと参考にしたいなって思って……」




電「なるほど。ふふ」ゴォッ

吹雪「ひっ!?」ゾッ



――――

電「誰から聞いたのです?」

吹雪「え、暁ちゃんが自慢してたから……」

電「あのバカ姉の言うことを真に受けてはいけないのです」

暁「誰がバカよ!」ヒョコッ

吹雪「あ。暁ちゃん――それに」

雷「こんにちは、吹雪。何だか元気無いわね、そんなんじゃダメよ!」

響「スパシーバ、吹雪」

吹雪「やあ、二人とも」

暁「電の蹴りは凄いのよ。何ってったって、演習じゃとある特型駆逐艦を艦首パーツで一撃の元に葬ったんだから!」フンス

吹雪「思ったより物騒!」

電「ちゃ、ちゃんと助けたのです!」プンスカ

響「実戦でも、遠征中に襲撃してきた敵軽巡の砲弾を蹴りで切り裂いた話は余りに有名」

響「ちなみに私には不死鳥の異名がある」

雷「球磨さんにも誉められた事があるのよ!」

響「ああ、そうだね。そしては私は不死鳥の異名で皆に親しまれているよ」

吹雪「(不死鳥推してくるなぁ)」

吹雪「電ちゃん、優しいイメージがあったから。ちょっと意外」

電「……戦うのは好きじゃないです。沈んだ敵も、できれば助けたいのです」

吹雪「(優しい)」ウンウン

電「……でも」



電「一度沈めないと、敵は助けられないのです」ニヤ

吹雪「(あっ訂正。この子球磨さんに近いタイプ)」

雷「あ、なら今日は演習をしましょうよ。吹雪もいっしょに!」

吹雪「えっ」

暁「名案ね! 私、装備取ってくるわ」

響「そうだね。せっかくだし……」ポワァ……

Верный「私も本気を出そう」ドォン

吹雪「なんかロシアっぽくなったー!?」ガーン!?

電「良く見たら、吹雪ちゃんはあの時の駆逐艦に似ているのです」シュッシュッ

吹雪「あの、その素振りなんですかね……?」ガタガタ

雷「それじゃ、しゅっぱーつ!」グイグイ

吹雪「あ、あぁぁぁ……」ズルズル

――――回想を終えて

吹雪「……あったなぁ。格闘戦を学び出した頃だから……球磨さん達の記憶よりは後かなぁ」

吹雪「お陰で」

パラパラパラ……

吹雪「一個の的を粉微塵にできるくらいにはなったよなぁ……」トオイメ

吹雪「基本的な所は、あの子らに学んだなぁ。確か、それから球磨さん達と張り合えるくらいにはなったんだっけ」

吹雪「……ん。まだ引っ掛かるなぁ。何か思い出せてないのかな」




如月「ふぶきちゃーん、おひるごはんだよー!」



吹雪「おっと、ついつい夢中になっちゃったや」

吹雪「早く帰らないと……」

『吹雪、おっそーい!』

吹雪「……ん?」クルッ

吹雪「……なんだろう、誰か……第六駆逐隊の近くにいたのかな……?」

吹雪「思い出さなきゃなぁ……やれやれだよ」

投下終了
とある駆逐艦の話はやめろ←

投下開始

――――母港、昼

如月「……ホントに一人で行くの?」

吹雪「うん。資材が流れ着いてるかもしれないしね……少しでも貯めておかないと、いざ出られなくなった時にキツいから」

吹雪「如月ちゃんはこの鎮守府を守るって役割があるんだから、そんな顔しないの」ツンッ

如月「……だって、そんなの」

吹雪「大丈夫大丈夫、ちょっと行って帰ってくるだけだよ」ハハハ

如月「……いってらっしゃい」フルフル

吹雪「ダメ、やり直し」グイッ

如月「えっ――」

吹雪「ん」チュッ

如月「……!」

吹雪「はい、もう一回」

如月「い、いってらっしゃい……」

吹雪「大きな声で!」

如月「いってらっしゃい!」

吹雪「よーし! いってきます!」ニッ

ザバァッ!

如月「吹雪ちゃん」

吹雪「?」

如月「ほっぺたが限界だったのね、いくじなし」フフ

吹雪「レズじゃないんで」メソラシ

――――小島近海、夕方

吹雪「ここまでくるのも慣れたなぁ……」ヤレヤレ

吹雪「さて、資材は……あるある。ドラム缶が――今日は一つか」

吹雪「念のため、回りを一周するかな」ザァァ……

吹雪「ん……浅瀬に緑色の何かが流れ着いてる――あれは!?」ザバァッ!!

――――小島、浅瀬、夕方

吹雪「――やっぱり! 何でこんな所に……いや、今はそれより!」ガシッ

吹雪「しっかり! しっかりしてください――」





吹雪「――利根さん!」

利根「…………」



――――

吹雪「ダメだ、意識が無い……」

吹雪「脈はある、けど……艤装がメチャクチャに壊れてるや」

吹雪「とりあえず、艤装だけ外して……」ガチャ、ガキンッ

吹雪「……重巡クラスか……運べるかな?」スッ

シュルシュル……パシッ

吹雪「一応縛着したけれど……頼むよ、私の艤装」

ザバァ……ザザザ……

吹雪「おっも……やっぱり本人以外はキッツいか――でも、やれなくは無い!」

吹雪「後は……利根さん本人を運ばなきゃ」

吹雪「私の背中の煙突をどうにかしなきゃ……魚雷管を左に固めて――右足に縛ろう」ギュッ

吹雪「利根さん、失礼しますね」セオイ

吹雪「この人が軽くて良かった……さあ、急がなきゃ!」

――――小島近海、沈み行く夕日

吹雪「くっそ……艤装が重たい――けど」

吹雪「(これを持って帰らないと、利根さんは海に出られなくなる)」

吹雪「(いくら妖精さんでも、艤装を一から作り直すなんてのはできないだろうし)」

吹雪「(何よりそれだけの資材が無い)」

吹雪「ああ……汗だくだ。早く帰ってお風呂に入りたい」

利根「…………」

吹雪「……ふふ。また会えるとは思ってませんでしたよ、利根さん」

吹雪「思い出しました。確かあなたは、トラック泊地の艦娘で……初めてあったのは、そう――」

――――回想、トラック泊地、昼、演習にて

吹雪「……そこ」シュパッ

利根「――しまった、魚雷か――回避、っ!?」

吹雪「足元ばかり見てるから」ダッ

利根「(こやつ――海の上を走ってきおった!)」

吹雪「そこ!」ドンッ!

利根「砲撃――くっ」バキンッ

利根「あ、あぁ、我輩のカタパルトが!」

「そこまで!」

吹雪「…………」クルッ

大井「ふん、私たちにかかれば余裕かしらね。ねぇ吹雪」フフン

吹雪「当然です。勝てなくては、ならない」

大井「そ、そうね」タジ

球磨「良くやったクマ」

吹雪「そうですか、なら良かった」

球磨「何て言うと思ったクマ? てんでダメクマ」

吹雪「…………五分以内に敵の4隻の艦の内、三体を沈黙させて――一隻は工作艦なんて足手まといですが、まだ足りませんか?」

球磨「早さや強さの問題では無いクマ」

球磨「吹雪、何を焦っているクマ」

吹雪「……強く、ならなければ。ならないんです」

球磨「…………」フゥ

大井「…………」ウーン

球磨「……やれやれクマ。ま、その為にここに連れてきたんだけどクマ」

吹雪「?」

利根「ハッハッハ! いやぁやられたやられた!」バシッ

吹雪「っ」

利根「流石は彼の鎮守府で逸材と言われるだけはあるのう! 駆逐艦だと、油断したぞ!」フハハハッ

利根「歓迎するぞ、吹雪――ようこそ、トラック鎮守府に!」

吹雪「えっ」

球磨「吹雪は出張クマ。置いていくクマ」

吹雪「――えぇぇぇえっ!?」ガビーン!?

利根「お。これが素か、大井?」

大井「こう見えて心の中にはケダモノを飼っているわよ」

利根「何じゃそれ恐ろしい」

――――回想を終え、夕暮れの航路

吹雪「……そうだ。如月ちゃんが沈んでからの私は、塞ぎこんで……強くなる事ばかり考えていた」

吹雪「詳しい事は思い出せないけれど、トラックの皆が、私を――立ち直らせてくれて」

吹雪「私はもっと強くなれた、って事は思い出せる」

吹雪「ふふふ……利根さん。帰ってお風呂にぶちこんだら、色々聞かせてもらいますよ」




夕暮れを浴び、吹雪はかつての仲間を背負って海を歩く。

吹雪「――――。冗談、キツいね」

悔やむべきは、ソナーに反応があったこと。




大雑把に数えての、6隻の潜水艦の接近を把握してしまった。



投下終了

投下開始

――――消え行く光、迫る闇

吹雪「はぁっ、はぁっ――!」

息も荒く、吹雪は紫色の空の下で海を駆けていた。
潜水艦は、既に視認すらできる距離で――暗さからはっきりは分からないが、夜戦で慣らした目が伝える。

吹雪「(姫級、二隻――後も多分、エリート!)」

吹雪「着いて――くるなっ!!」

利根を背負いながらも、艤装は爆雷を投射する。
ソナーと勘を頼りに、水中に威嚇を投げ込んだ。

吹雪「――化け物……! 何発やったと思ってるの――!?」

水中を自在に躍りながら、その潜水艦舞台は爆雷を難なく避けていく。

近く、近くなって――ソナーが雷撃の音を拾う。

吹雪「や、ばい――!!?」

出来うる限りの全速で、回避行動を取る。
普段のアクロバティックなそれではない、今はそのような動きは到底取れない。

普通に普通な、手負いの艦船の回避だった。

だから。

吹雪「っ、あ――がぁっ……!?」

触雷する。運良く不発――などという事は無く。
手酷い損害を艤装に受けてしまった。

吹雪「くっ、そ!」

吹雪「(艤装は!? 航行は!? 問題――アリ!)」

脚部艤装が小さな漏電を繰り返して悲鳴を上げる。
ただでさえ遅い航行速度が、更に半減した。

吹雪「利根さん……!」

食いしばって離さなかった、背中の荷物(なかま)は――辛うじて無事で。

吹雪「う――――!」

追って、残りの魚雷に――狙い撃ちされて。

吹雪の回りには、水柱が何本も上がって。

――遂に彼女の艤装は、浮かぶだけのガラクタに成り下がった。

吹雪「――あ、あぁっ……!!」

吹雪「なめるなぁぁぁっ――!!」

爆雷を一つ手に掴み、全力で投擲する。
油断して水上に出てきていた姫級の頭部を真っ直ぐにぶち抜いて――

「…………」

――ない。
両腕が多少焼け焦げたが、それだけだ。

止めとばかりに放たれた雷撃を見る。
射線が泡を伴って歩いてくるのが分かった。

分かる、だけ。

吹雪「でも……ね」

だから、彼女は片足を差し出した。
背中を守るようにして。

また一つ、爆発を感じた。
足から崩れ落ちる。
それもそうだろう。




吹雪「――つぅ」




右足は、吹き飛んで無くなってしまっていたから。

――――夜の闇に呑まれ

日が沈み、いよいよ潜水艦の身が溶けていく。
闇の中から、一方的に対象を捕食するだけの存在へと。

一方の吹雪と言えば。
片足を失い、血を流し過ぎて意識も朦朧としていて。

それでも、頑なに仲間を護っていた。

吹雪「……眠いや」

吹雪「大丈夫、だいじょうぶ。ドックに入れば、この程度の損傷なら……まだ『なおる』」

吹雪「ああ、でも、もう……」

潜水艦が、近くを彷徨いてるのが分かるし、奴等も、それを隠すつもりも無いようだった。

吹雪の、片方だけ残った脚部艤装も、持ち主を伴って少しずつ――水の中へと落ちていく。

そうして、彼女の意識も――海の中へと堕ちていく。

とぷん――と、沈む。沈んでいく――――

吹雪「おかしい……な……何も――なにも、見えない……?」

吹雪「まだ……まだ、ダメ……沈めない――こんな、ところで――!」





『ほら、しっかり』



――――

吹雪は、はっとして顔を上げる。

暗闇の中に、誰かがいて。

『――夜はいいよねぇ。夜は、さ』

その人が振り替える。
良く見知った――先輩だった。

吹雪「川内、さん」

川内『なにしてんのさ、吹雪。水雷魂、忘れちゃった?』

『ほら、しっかり立って! ファイトファイトー!』

背中を押すのは。

吹雪「那珂さん……」

那珂『ダメダメ、そんな顔じゃ! さあ一緒に――那珂ちゃん、スマーイル!』

『早く体勢を整えましょう、敵はまだ健在です』

隣に立ち、激励するのは。

吹雪「神通さん――!」

神通『その程度で音を上げるようには訓練していない筈ですよ』

かつての鎮守府の、仲間の声が響く。
ここは、記憶の中なのか――それとも死に瀕した彼女の、ただの走馬灯なのか。

吹雪「でも……私はもう……」

川内『はい、弱音禁止』

吹雪「えっ……」

川内『落ち着いて回りを感じて――夜をまずは、楽しもうよ』

暗闇の中に、敵艦の姿が浮かび上がる。

吹雪「――ダメ……!」

魚雷が、もうそこまで来ていた。
どうやっても、避けられっこない。



避けられっこない!!避けられない!!
避けられな――――



『あっれー? 吹雪、どうしたの?』

『魚雷の避けかたは、前に教えたよ?』




吹雪「――島風、ちゃん」

島風『おうっ!』

どうでもいいのに、目の前の彼女に――つい、吹き出してしまった。

吹雪「相変わらず痴女だね」

島風『うるさいよ』

島風『ほら、そんな事より! 魚雷、避けるよ!』

吹雪「ど、どうやって――?」

彼女は吹雪の手を取って、引き上げた。

島風『さぁ、しっかり、その足で立って!』

言われるままに、吹雪は『両の足』で立ち上がる。
また、思い出したかつての仲間と共に。

島風『うん、じゃあ行くよ!』

島風『――魚雷より、はっやーく! 走るよー!』

走り出した彼女を、吹雪は追い掛けた。
なるほど、確かに魚雷は当たらないし、途中で逸れもする。

でも、これでは……



『敵を倒すことは出来ないのね』



吹雪「――イク、さん?」

19『何を寝惚けた顔をしているのね、吹雪』

『皆もいるでちよ!』

吹雪「潜水部隊の皆さん――!」

58『しっかりするでち。トラックに来た頃の吹雪はガラスの青春時代だったでちよ』

168『前を向いて、ここから離脱しましょ?』

8『私たちがサポート、しますよ』

401『ここでドボーンするのは、ダメダメだよー』

呂500『潜水艦の弱点を、もう吹雪は知ってるはずですって!』

今度は――トラック泊地の仲間……だった筈だ。
一気に出られて、混乱してしまう。



そう、思って。吹雪は小さく笑った。




こんなにも、思い出がある。
ここにある。





19『笑ってる暇は無いのね。ほら、相手が鬱陶しくなるまで爆雷をぶちこむのね』

言われなくても、とばかりに、吹雪はメチャクチャに――正確な狙いで対潜爆雷を乱射した。
それは、爆発のカーテンを作る。

島風『さ、走ろう!』

島風が最大戦速で前を行く。
彼女は、それを必死で追い掛けた。

川内『そうそう、引き上げるまでが夜戦だからねー』

夜の闇も、今は身を隠す友にすら思える。



彼女は、ひたすら走った――



――――鎮守府、母港、深夜

如月「吹雪ちゃん、遅いなぁ……」

水際に立ち、流れる微風に髪を靡かせながら、彼女は吹雪の帰りを待っていた。

暗い表情も、遠くに感じる航行音を聞いて明るさを取り戻す。

如月「吹雪ちゃん……?」

だが、気付く。
様子がおかしい。

全速力で港内に飛び込んだ吹雪は、陸にぶつかって転がる様に倒れた。

隣に、投げ出された――利根の姿。
意識は、未だ戻らない。

当の吹雪の艤装は大破していて、彼女の服も所々焼け焦げていた。

如月「――吹雪ちゃん!?」

金切り声を上げる。

消えそうな意識を絞り出して、吹雪は一言。

吹雪「わたしたち、を……ドック、へ」

それだけ言って、意識は手放した。

如月は彼女に駆け寄って抱き起こす。
詳しく様子を確認して、一つ、安堵。





傷だらけでも、彼女が五体満足で戻って来てくれたことを――少しばかり、喜んだ。

投下終了
今日はいいレズが書けました(迫真)

ほのぼの路線の話を書くのが好きです
投下開始

――――鎮守府、自室

吹雪「…………ん」スヤスヤ

「いやぁ、良く寝ている。でも、残念だね」グッ

バサァッ

吹雪「ふ、ふえっ!?」ビックゥ

川内「おはよう、吹雪。さあさあ、寝てる暇は無いよ! 抜き打ち夜戦演習の時間だー!」

吹雪「ふええ……? 今は……まだ2時ですよぅ……?」

川内「だから夜戦なんでしょ! さあ、訓練訓練!」グイグイ

吹雪「わ、わかりましたから……せめて身なりを整えさせて下さい……」フラフラ

――――鎮守府近海、夜

吹雪「ふ、わぁぁぁ……ねっむ」

暁「同感よ……寝不足はレディーの敵なんだから」フワァ……

睦月「大あくびするのはレディーとしてありにゃしぃ?」

暁「時と場合によるわ」

島風「島風は起きるのも、はやいんだから!」オッソーイ!

川内「はいはい、そろそろやるよ!」ウズウズ

神通「では、組分けをしましょうか。私の艦隊と姉さんの艦隊に分かれて演習を行いますね」

川内「死にたい子は神通の敵側に。そんで、死にたい子は神通の味方側に行ってね」アハハ

暁「どっちにしろ死ぬじゃない!?」

神通「もう、人聞きが悪いですよ姉さん」






神通「疲労困憊で少し動けなくなるだけです」






シーン……

川内「……さ、やろうか!」パンッ

吹雪「(無理矢理まとめた)」

――――演習

神通「さ、行きますよ暁、島風」

島風「島風、いっきまーす!」ドゥン!

暁「消えた……」




川内「…………」スゥー、ハァー

川内「夜はいいよねぇ、夜はさ」

吹雪「私は今日嫌いになりました」

睦月「(割りとはっきり言っちゃったよ吹雪ちゃん)」

川内「さ、行こうか……!」





神通「探照灯を照らします、敵艦を狙って下さい」ピカッ

暁「(……探照灯……レディーたる暁にふさわしいわ!)」

暁「暁だって負けてないんだから!」ピカー

神通「あ。暁、探照灯は狙いやすくなる代わりに――」

暁「キャー!? 砲撃の雨あられよ!?」ベシベシベシ

神通「敵の攻撃も集中しますから、捨て身かよほど回避に自信がない限りはオススメしませんよ」ヒョイヒョイ

吹雪「神通さんに当たらないんだけど」

睦月「恐ろしいにゃしぃ……」ガタガタ

川内「ん、吹雪」

吹雪「なんです?」クル

川内「あのね――」




島風「おうっ!」ガッシィ

吹雪「へっ――? キャアァァァ……?」ザバァァァ

川内「島風が突っ込んできてこっちの分断を狙ってるよー」

吹雪「連れていかれてから言わないでくださぁぁぁぁい……」




島風「さあ、いざ勝負だよ!」

吹雪「(性能の差を感じる)」

島風「とうっ」ブゥン……

吹雪「(速い上に暗くてさっぱりみえない……)」

島風「後ろだよ! いっけー、連装砲ちゃん!」馬術

連装砲1「!」ドンッ

連装砲2「!」ドゴンッ

吹雪「左右から!?」ビシビシッ

島風「ふふ、訓練さえ積めば遠隔操作も自在だよ」

島風「そして――」スゥ

吹雪「消え――どわぁっ!?」グラッ

島風「このように、速さがあれば格闘でも有利! 夜の暗さがあれば、十二分に消える事だってできるの!」

島風「この世の理はすなわち速さだと思わない? 速く航行すれば時間が有効に使えるもの。遅いことなら誰でも出来る――20年かければ小舟でも世界一周ができる! 有能なのは戦艦より軽巡、軽巡よりも駆逐艦です。つまり速さこそ有能なのが、艦娘の基本法則! そして私の持論なの!」(この間10秒)

吹雪「そ、そう――でも、この砲撃は避けられる!?」ドンッ!

島風「ふふっ」シュッ

吹雪「また……!」

島風「ふふん、無理無理。吹雪じゃ島風には追い付けないよ!」ドヤァ

吹雪「おぉう……もう。なら何で一対一なのさ……結果は見えてるのに」

島風「んー、私はこう思ってるの。人々の出会いは先手必勝だってね。どんな魅力的な女の子でも、出会いが遅ければ他の女の子と仲良くなっている可能性もあるじゃない。なら出会った瞬間に自分が相手に興味があることを即座に伝えたほうがいい、速さは力です! 興味をもった女の子には近付く、好きな子には好きと言う、相手に自分を知ってもらうことから人間関係は成立するんだから。時にそれが寂しい結果を招くこともあるかも、でも次の出会いがいつまた来るかは分からないんだから!」 (この間16秒)



吹雪「また実力派レズか」トオイメ

島風「ちっ、違うよ……その、あの」

島風「……友達になりたいの!」シュパッ

吹雪「普通そのセリフは魚雷を撃ちながら言わないよ!?」カワシ

吹雪「えっ、ていうか今までは友達じゃなかったの?」

島風「えっ」

吹雪「もう友達でしょ?」ニコッ

島風「吹雪ちゃん――!」

吹雪「島風ちゃん――」




吹雪「でも雷撃はするね」ドカァン!

島風「しまったー!? 私が遅い……私がスロウリィ!?」





結局演習は川内さんが無双して終わりました。

実際に口にして台詞の秒数は計ってみました←
投下終了

>>184

島風「後ろだよ! いっけー、連装砲ちゃん!」馬術 ×

島風「後ろだよ! いっけー、連装砲ちゃん!」バシュッ ○


今世紀最大の誤字

戦闘中に馬を召喚する島風さんはまさに速さの鑑

投下開始

――――トラック泊地、母港、夕方

――あの、後の吹雪。

吹雪「…………」



利根「海を見て、何を黄昏ておるのじゃ?」

吹雪「利根さん……」

利根「隣、座るぞ?」ドスッ

吹雪「……別に、海を見る事に意味はありませんよ。ただ、一人になりたかっただけで」

吹雪「ここの鎮守府は……少し明るすぎて、住みにくい。それだけなんです」

利根「そうかのう……確かに皆、仲良くはしておるが……」

利根「お主らの鎮守府も、そうは変わらぬと思うぞ?」トクトク……

吹雪「……ご飯の前に、お酒ですか」

利根「なに、この程度は水と変わらぬよ。そうでなければ、呑兵衛の相手など務まらんのでな」カッカッカッ

利根「吹雪も一口、どうだ?」

吹雪「……遠慮しておきます。気持ちは受けとりましたが」

利根「ふん、言葉の順番を逆にしていれば、もう少しは可愛げもあろうに」

吹雪「心得ています」

利根「はっはっは、これは手厳しいな」




利根「なるほど、お主が好かれるのも……少しは分かった気がするのう」

吹雪「……何の話ですか」

利根「いやなに、向こうの鎮守府の話は多少なりとも。球磨の奴から良く聞いておる」

利根「『まっすぐなやつが入ってきたクマ』とな。確かに、少し見るだけで納得できたわ」クイッ

吹雪「……まっすぐ、とは」

利根「真面目、と言う事じゃ。目の前にある問題を、真摯に受け止め解決しようとする」

利根「訓練が必要なら鍛え、知識が必要なら学び――」

利根「――強さが必要なら、己すら殺す」

利根「そんな姿勢に、皆が惚れ込んでいるのだろうよ」

吹雪「それは……でも、それは。当たり前じゃないですか」

吹雪「やらなきゃいけない事です。それをただやってて、なんでそんな風に特別扱いされなきゃならないんですか」

利根「当たり前、などではないぞ」



利根「……のう、吹雪。この、深海棲艦との戦いを終わらせる為には――どうしたら良いとお主は考える?」

吹雪「それは……深海棲艦を殲滅し、全滅……或いは無力化させれば終わります」

利根「そうか。そうだろうのう」




利根「我輩は、無理だと思っている」




吹雪「な――!」

利根「無限にも思える敵の勢力。苛烈な敵艦の発見。これがここ最近繰り返されておる」

利根「我輩達は、沈まないようにするだけで精一杯じゃ」

吹雪「そ、そんな――なんて事を口にするんですか!」

利根「ならば、お主はどうするのじゃ? 強く、もっと強くなって――深海棲艦を、ただ一人で滅ぼせるのか?」

吹雪「それは……」グッ

吹雪「……必要であれば。可能かどうかは後に回して、試みはします」

利根「ああ……やはりお主は阿呆じゃのう」ククッ

利根「だから愛されておるのかもしれぬな」

吹雪「……不愉快です」

利根「まあ、そう言うな。我輩はお主を気に入っておる」



利根「……吹雪よ、確かに我輩らは――そこらの艦娘どもよりかは腕に自信がある」

利根「だかの、我輩にせよ、お主らのとこの球磨らにしても川内らにしても」

利根「そうじゃの……そう、ある種の諦めを持っておる」

利根「この戦いは終わらないのではないか。いずれ皆沈むのではないか」

利根「ならばこの日々に意味なぞ無いのではないか。刹那を享楽的に生きるより他無いのではないか」

利根「諦めた者が、人の死にすら鈍くなるとは思わなんだが……まあ、それも致し方あるまいと享受する」

利根「……そんな存在が殆どじゃよ。経験を積んだ艦娘などはな」

吹雪「――そんなの」

利根「ん?」ニヤ

吹雪「そんなの、間違ってるかどうかは分かりませんが」



吹雪「――腹は立ちます」


利根「やっと、少しばかりの本音が出たのう」

吹雪「…………」

利根「つまり、お主は――救えなかった者に対して、自分の無力に憤慨している。そして」

利根「また、誰かを失うのではないかと、怯えておるのだな」

吹雪「…………」

利根「嘘も吐けんのか。ますます気に入ったぞ」

利根「心配するでない。我輩たちは、沈まぬ。だからの」

利根「――お主も、何もかもを一人でやろうとするではないわ。足りぬ力があるのならば、回りを頼らぬか」

利根「お主が舵を取るなら、皆着いてこようぞ。我輩たちを、使ってみせよ」

利根「きっと、皆お主の力となってくれるだろうの」

吹雪「…………」

利根「……む、酒が切れてしもうたの」

利根「まあよい。今日は吹雪の歓迎会があるのでな。そこで飲み明かせば良かろう」

利根「さ、行くぞ吹雪。ここでは、皆家族だからの」

利根「奴等も、お主を祝いたくてウズウズしておるよ」ククッ

吹雪「――私は」

利根「ん?」

吹雪「私は……乗り越えられるか、分かりません」

吹雪「でも、この出会いには……感謝します」

利根「うむ。我輩もそうじゃ」

利根「……早く向かおうか。飯が冷めてしまうぞ」

吹雪「――はい」

――――宴会、夜

吹雪「あっはっはっはっは!!」ケラケラ

利根「(酔うと素が出ると言うが、よっぽど圧し殺しとったんじゃのう……)」

19「いい飲みっぷりなのね! もう一杯いくのね!」

吹雪「ありがとーございます!」

168「こらイク。あんまり呑ませないの」

19「文句あるのね?」ギラッ

168「あっ」

58「(あれ今夜連れ込んで食うときの目でち)」ヒソヒソ

8「(あー、あれか……)」

401「(新人の洗礼みたいなとこあるよね……うっ、頭が……)」

呂500「? なになに、何の話ですって?」

58「お前の歓迎会の時はゴーヤが苦労したって話でち」



吹雪「正直潜水艦隊の皆さんをはじめて見た時はですね! 制服がそれとかクレイジーだと思いましたね!」ハハハ

19「そっちにはもっとスゴいのがいるんじゃなかったのね?」

吹雪「島風ちゃんですね! あの子はちょっと痴女ですから!」





島風「へっくしゅい!」プッシ

木曾「おう、島風どした。風邪か?」

島風「友達が噂してるのかも……」





――――宴もたけなわ

吹雪「だからですねぇ、私はみんなを守りたくてですね……だから……うぅー」

19「ほら、ちょっと飲み過ぎたのね。部屋まで送るのね」ヨイショ

19「(じゃ、ま、し、た、ら、ら、い、げ、き)」クチパク

58「あー、南無」

168「あの癖も、何とかならないのかな……?」

利根「はっはっは。まあ、皆次の日には満更でも無い顔で朝飯を食っておるしな。問題あるまい。のう?」

401「……」フイッ

8「……」プイッ

呂500「???」

――――19私室、夜

吹雪「ううん、ここは……?」

19「ああ、まだゆっくりしていていいのね」

19「じゃ、いただきますのね」ガバッ

吹雪「……?」ポケー




――――翌日、朝、食堂

利根「さて、吹雪はどうだろうのう」

58「トラックの汚点でち」ハァ

168「奔放過ぎるんだよね……」

呂500「(意味が分からないですって)」

401「同感だよ……」

8「あ、二人来たよ」



全員「!?」




吹雪「ん、皆揃ってますよイクさん」

19「そ、そうなのね」

吹雪「ん、待って」スッ

19「な、なに……?」

吹雪「ん、よし」

吹雪「身だしなみも、問題無いですよ」ニコッ

19「は、はわわわぁ……」カァー





168「一晩経って同僚が乙女の顔をしている時ってどうしたらいいかスマホで検索したら出るかな?」

8「本に、書いてるかも」

58「お前ら落ち着くでち」

利根「クックッ……フハハハハ! やっぱり面白いのう、あやつは!」ケラケラケラ

401「えっ、それってそういう……やだぁ」ポワポワ

呂500「(疎外感ですって)」

投下終了

このスレは吹雪が女の子とイチャイチャするだけであって、けして彼女はレズではない(無言の腹パン)

投下開始

――――トラック泊地、自室、朝

吹雪「……んぅ……?」パチ

吹雪「朝か……」フワァ……




如月「おはよう、吹雪ちゃん」

吹雪「ん、おはよ」

如月「コーヒー入れたわよ。砂糖は?」

吹雪「2」

如月「うん、入れてる」クスクス

吹雪「さすが」ハハ

吹雪「着替えた方がいいよ。下着にカッターシャツだけなんて」

吹雪「……お腹の子に良くない」

如月「あらあら、昨日あなたはその子がいるのにも関わらず……加減したかしら?」フフ

吹雪「……我が子にはすまないと思ってるよ」





吹雪「――いや待って!?」

――――吹雪の鎮守府、朝、寝室にて

吹雪「いや待って!?」ガバッ

如月「ひゃっ!?」ビクゥッ

吹雪「はーっ、はーっ……?」キョロキョロ

吹雪「……んっ」ゴクリ

吹雪「――夢かぁぁぁ……」フハァァァ

如月「そ、その様子だと、余程の悪夢だったのね……おはよう、吹雪ちゃん」

如月「――目覚めて、よかった」ギュッ

吹雪「……ごめん、心配かけたね」

如月「ううん、いいの」

如月「フフ、でも……どんな夢を見ていて、如月を待たせていたのかしら?」クスッ





吹雪「如月ちゃんと子を成す夢だった」

如月「やっぱりレズね」

吹雪「例えレズでも子は産まれないよ!?」

――――ドック、朝

利根「…………」チャプ……

吹雪「……まだ起きてない、か」

如月「吹雪ちゃんが帰って来てから、まだ丸二日だもの。酷い怪我だったから、仕方ないわ」

吹雪「でも、私も相当な怪我だったでしょ? だって、右足無かったし」

如月「? 吹雪ちゃんは特に……擦り傷とかは多かったけれど、目立った損傷はなかったわ」

吹雪「――え」

如月「帰りだって、全速力で走っていたし――どうしたの?」

吹雪「い、いや――何でもないよ」

吹雪「(あれは……夢じゃなかった?)」

吹雪「(いや……そんなバカな話があるわけない。皆は、ここには居ないんだ)」

吹雪「(――どこから、夢だったんだろう)」

如月「むぅ……」ジトー

吹雪「な、何かな?」タジ

如月「やっぱり、無茶してきた」

吹雪「あ」

吹雪「ま、まぁ、時と場合によるって言うかー?」アハハハ……

如月「もう……心配する方の身にもなってちょうだい」ハァ

吹雪「善処するよ……」

――――工廠、昼

吹雪「お邪魔します」

妖精「」オ、キタカ

吹雪「艤装、どうですか?」

妖精「」オマエラノハナオッタ

吹雪「助かります」

吹雪「何か、資材などは流れ着きましたか?」

妖精「」ドラムカンガ、イッコナ

吹雪「助かります……中身は?」

妖精「」ソコノタナニ、セイリシテアル

吹雪「そうですか。っと」カタッ

吹雪「目ぼしいものがあれば良いのだけれど……うん?」スッ

吹雪「これ――日本酒だ」

――――ドック、夕方

利根「…………」

吹雪「利根さん……長い入渠ですね」

吹雪「早く起きてもらわないと、酒のツマミに話が聞けなくて困ります」

吹雪「……一口、どうです?」

利根「…………」

吹雪「……ま、ゆっくり休んでください」

吹雪「――一人では、私、呑まないんです」




利根「…………う」ピクッ

吹雪「――! と、利根さん……!?」

利根「う……ううん……?」パチ

利根「――ここは……?」

吹雪「利根さん!」

利根「なんじゃ、喧しいのう……吹雪――!?」ザバァッ!

吹雪「はい、吹雪です!」

利根「お、お主――生きておったか!」ガバッ

吹雪「ははは……お恥ずかしながら。く、苦しいです利根さん」

利根「お、おう。すまぬな」パッ

吹雪「……お久しぶりです」

利根「うむ。久しいの」






如月「とりあえず服、着ません?」

利根「おおっと?」ゼンラー

投下終了

吹雪はレズではない(腹パン)

投下開始

――――司令官室、夜

吹雪「使うことになっちゃったね」アハハ

如月「他に適当な部屋が無いもの」クス

コンコン

吹雪「どうぞー」

利根「失礼するぞ――おお、この部屋もなかなかのものであるな」ガチャッ

吹雪「……利根さん? 何か、服変わりました?」

利根「おお、そういえば吹雪は知らぬか。ついぞ最近に改装したのじゃ」

利根「念願の航空巡洋艦じゃ! カタパルトも、ちゃんと整備されておるぞ?」ドヤッ

吹雪「(そこより腰回りが問題なんですが)」

如月「(パンツ穿いてないのって新しいわね……)」フム

吹雪「(何を企んでるの)」

――――

利根「しかし、生きておったとはのう……このような所に流れ着いておれば、見つかりはすまいよ」

吹雪「利根さんは、ここがどの辺りの島か分かるのですか?」

利根「それはもちろん――うむ?」

利根「……そう言えば、我輩は何故ここにいるんじゃったか……?」

如月「あっ」

吹雪「……嫌な予感がするね」

――――

吹雪「トラック泊地の皆は覚えていますか? 潜水艦隊は?」

利根「む……今言われて、漸く我輩の泊地の名前を思い出した所じゃ」

如月「これは……私たちと同じね」

利根「同じ……とな?」

吹雪「ええ。私たちもここに流れ着いた時には、記憶が殆ど欠落していました」

吹雪「お互いがお互いと出会って、名前すら初めて思い出したのですから」

利根「難儀だのう……」

吹雪「幸い、私は辛うじて……自分がここに流れ着く原因になった戦いで、如何に酷く傷付いたか。それだけはすぐ思い出せましたが」

利根「――我輩もそうじゃ! 強力な艦隊との一戦交え……集中砲火を浴びて沈んだ――所で記憶が途絶えておる」

利根「誰と一緒に出撃したかまでは思い出せぬが……潜水艦隊は別動隊で動いていたのう」

吹雪「どの辺りに出撃したか、覚えていますか?」

利根「そうじゃのう……確か、トラックよりまだ南東の海域じゃったな。それも、随分と遠い、な」

如月「……何故、そんな遠くへ?」

利根「なに、吹雪を探しておったのだよ」

利根「吹雪が行方不明になった海域は、我輩の沈んだ海域より少し手前だったのだがな」

利根「潜水艦隊に頼んでも艤装の一つも上がらない」

利根「ならばと泊地総出で、深海棲艦を倒しつつ吹雪の捜索を続けていたのだよ」

吹雪「な、何故そんな……」





利根「……家族を探しに行くのが、そんなにおかしいか?」



吹雪「――利根さん。いえ……ありがとうございます。勿体無い言葉です」

吹雪「あ、そうです。紹介しておきますね。ウチの鎮守府に所属していた、如月ちゃんです」クルッ

利根「おらぬぞ?」

吹雪「あ、あれ?」

――――母港、夜

如月「……良かったわ。吹雪ちゃんの仲間が見つかって」

如月「…………」

如月「……吹雪ちゃんには、心配してくれる人がたくさんいるわ」

如月「私には……? 私は――吹雪ちゃん以外にいたのかしら……?」

如月「わたしは――」

投下終了
とても眠い

投下開始

――――寝室、夜

吹雪「…………」

ガチャッ……キィ――

吹雪「――如月ちゃん。どこに行ってたの?」

如月「ちょっと……潮風に当たりに」

如月「……あの人は?」

吹雪「別の空き部屋で眠っているよ。やっぱり、疲れてるみたい」

如月「……そう」

吹雪「どうしたの……急に元気がなくなったみたいに」



如月「……吹雪ちゃんはいいなぁ、と思ったの」



吹雪「――え」

如月「如月が沈んだ時は、どうだったの?」

如月「――誰が、探してくれたの?」

吹雪「そ、それは先輩たちが、皆で――」

如月「それは……如月じゃなくても、一緒よ」




如月「私は、ただの駆逐艦だもの」




吹雪「そ、そんなこと……」

如月「吹雪ちゃんは、『吹雪ちゃん』だから――探してくれているの」

如月「分かるもの。吹雪ちゃんは皆に好かれるようなタイプだから」

如月「――そう考えたら、私……何だか悲しくなっちゃって」




如月「寂しいなぁ……って」フルフル

吹雪「……如月ちゃん、こっちきて?」ポンポン

如月「…………」トテトテ

吹雪「うん。はい、失礼」ギュッ

如月「…………」

吹雪「……寂しい?」

如月「…………」

如月「……まだ、少し」

吹雪「じゃあ、寂しくなくなるまで、こうしていよっか」

如月「……うん」

吹雪「難しく考えないの。みんな、如月ちゃんが大事だったし、私もおんなじ」

吹雪「私だって、あの時に力があれば――如月ちゃんをもっと早く迎えに行けたかもしれない」

吹雪「……寂しい思いをさせて、ごめんね」

如月「そんな事、ないわ……吹雪ちゃんは、吹雪ちゃんがいるから――私」

吹雪「……今日はもう、寝よう? 嫌な事も、寝て起きてさ、朝日を浴びれば消えちゃうからさ」

如月「うん……でも」

吹雪「でも?」

如月「おやすみのチューがほしいわ。ふふ、冗談だけれ――」

チュッ

吹雪「これで、もう怖くない?」

如月「――もう寝る!」ガバッ

吹雪「よかった、いつもの如月ちゃんだ」フフッ











利根「…………」(起きてしまったので用を足そうと思っていた)

利根「…………」(声が聞こえたのでつい覗いてしまった)

利根「……ああやっていたのじゃのう」シミジミ

彼女は、レズではない(先行入力)
投下終了

全テ、沈メナイト<ダイイチセイメイ!

>>275
くっそwww

投下開始

――――鎮守府近海、朝

利根「艦載機、発艦じゃ!」バシュッ

吹雪「……行けそうですね!」

利根「我輩の瑞雲は特別製なのでな!」フフン

如月「これで索敵もできるわね……」

利根「それだけではないぞ? 瑞雲は攻撃能力も優秀だからのう」

吹雪「単純に、把握できる範囲が拡がるのはありがたいです」

吹雪「これで、少しくらいなら遠出も出来そうですし」

利根「おや、気が早くは無いか? ここで救助を待つのもアリだと、我輩は思うが」

吹雪「利根さんの話では、潜水艦隊もこの辺りに来ているようですが――利根さんがやられる程の敵艦隊なら、皆も流石に撤退しているのでは?」



吹雪「(恐らくは、私たちを追撃したあの深海棲艦。あの練度では、確かに利根さんといえど……やられるのも仕方ない)」



利根「……ま、確かに十分に考えられるのう」

如月「いや、だからこそ、探しに来てくれるんじゃあないのかしら? 待っていてもいいと思うけれど……」

吹雪「でも、多少は被害を受けるはず。それを修復せずに戦うのは……不可能だよ」

利根「ふふん、その点は抜かりないぞ。こんな事もあろうかと、工作艦を連れ、ある島を簡易泊地にしておる」ドヤッ

利根「……うん、しておった。はずじゃ」ウーン?

如月「それはスゴいわ……先見の明というものね」ワァ

吹雪「工作艦……?」ン?

利根「そうじゃろうて! 何故なら我輩は『筑摩』より、少しばかりお姉さんであるからのう」カッカッカ

利根「――そうじゃ、何故忘れておったのじゃろう」ハッ

吹雪「工作艦……あっ!!?」ハッ



利根「筑摩!」 吹雪「明石さん!」


――――回想、トラック泊地、談話室、昼

ボカァン……!

19「また工厰から爆発音なのね!」

吹雪「もう割りと慣れました」シレッ

58「どうせ利根絡みでち」ハン

呂500「でっち、心配ですって」

58「ほっとけでち。また、新型カタパルトの設計をミスっただけだろうし、行くだけ労力の無駄でち」

吹雪「はあ、やれやれです……ちょっと、無駄をしてきますね」

――――工厰

吹雪「無事ですかー?」




筑摩「ああ、吹雪さん。何とか、姉さんも明石さんも怪我はありませんよ」

吹雪「あ、先に来ていましたか」

吹雪「で、当の二人は……?」




利根「また失敗なのじゃあぁぁぁぁぁ!」ウワァァァ

明石「けほけほっ……設計をやり直しですねぇ」ポリポリ



吹雪「あーかしさんっ」ヒョコッ

明石「あ、吹雪ちゃん。お騒がせしてごめんねー」アハハハ……

筑摩「全くですよ。姉さんも、あんまり無茶をするのは止してください」モウ……

利根「いやはや、面目無い」フハハハハ

――――工厰、夕方

吹雪「あ、直ってますね」

明石「んー?」チラ

明石「お、吹雪ちゃん。それはそうよ、何故なら私は工作艦明石!」ドドン!

明石「この程度、お茶の子さいさいよ」ニコ

吹雪「その割りには小まめに爆発するの何でですかね……?」

明石「うぐ。それはまあ……未知への挑戦への必要な投資と言いますかね、ね?」アハハ……

明石「ある物を直すのは得意なんですけどねぇ……何もない所から作るのはなかなか骨が折れまして」

吹雪「あはは……ま、その明石さんにお願いがあるんです。少し怪我をしちゃって」

明石「ああ、お風呂に入るのもアレな感じですね。いいですよ、見せて下さい」

吹雪「ありがとうございます。ちょっと気になっちゃって」

吹雪「あ、艤装は下ろしますね。邪魔になりますから」ガチャッ

明石「うん、預かりますね」

吹雪「ねぇ、明石さん」ス

明石「……? 何です?」キョトン





吹雪「――念入りに……頼みますね?」ニコ

投下終了
何!? 吹雪がレズならば明石は無事では済まないのではないのか!?

最近割りと近くに仕事場(ゲーセン)が出来たので仕事(SS)が疎かになりがちで申し訳無い。
仕事(仕事)も忙しいしマジ時間足りない←

投下開始

――――回想、トラック泊地、談話室

――まだ着任したての吹雪



吹雪「…………」ペラ……

吹雪「……これも、知ってる事ばかりしか書いてない。はぁ……時間の無駄だったら」パタン

――ガチャッ

筑摩「やれやれ……あら、吹雪さん」

吹雪「……筑摩さん」

筑摩「談話室で読書ですか。何をお読みで?」

吹雪「……戦術要項です。けど」ハァ

筑摩「その様子だと、お気に召さない物だったようですね」クスッ

吹雪「……ええ」

筑摩「仕方ありませんよ。吹雪さんの噂はトラックまで聞こえている程ですから」

筑摩「いや、あの鎮守府には……他にも驚くほどの逸材揃いですけれど、その中でも引けを取らないと」

吹雪「……過大評価です。私の鎮守府には、私では比べるのも気が引ける程の化け物が大勢いますよ」

吹雪「事実、演習では滅多に勝てませんからね。どうにも嫌になります」

筑摩「勝てないのが、嫌ですか?」

吹雪「…………痛いとこを突きますね」

吹雪「別に嫌では無いんです。しょうがないとさえ思います。でも」

吹雪「――明らかに、足りない事だけははっきりしてしまいます。だから、まだ足りないんです」

筑摩「そうですか……なら、ちょうどよい方法がありますよ」ポンッ

吹雪「――それは?」

筑摩「ここでは少し……着いてきて頂けますか?」

吹雪「――はい!」

――――トラック泊地、夜、酒盛り

吹雪「騙 し ま し た ね !?」ギャー!?

利根「ほら、言った通りであろう。ちょっと真面目な空気にしてやればホイホイ信用するからのう」ワハハハ

筑摩「はい、姉さん。見た目より素直ですね、吹雪さん」クスクス

吹雪「もう! もぉぉぉぉ!」プンスカ

クイクイ

吹雪「ん? イクさん? どうしました?」

19「…………」ボソ

吹雪「え、すいません。回りの酔っぱらいがやかましくて」

19「……こっち来て一緒に飲むのね」コゴエ



168「(ちょっと恥ずかしがってる貴重なイク)」

58「(貴重なイク)」

8「(キチョイク)」

401「(オオキチョイク)」

58「(オオキチョイクの貴重な産卵シーン)」

呂500「(イク卵生ですって!?)」ビクゥッ!?

58「(ろーはもうちょっと日本文化の研究が必要でちね)」




吹雪「それは、二人で違う部屋で飲みなおそう……って意味でいいですか?」ス

19「あ、あ……そ、それでもいいのね……」カァァ

58「(SAN値下がりそうでち)」ゲッソリ

投下終了

投下開始

――――吹雪の鎮守府、夜、食堂にて

利根「そんな事もあったのう……」クックッ

吹雪「こうして思い返すとただのいじられキャラじゃないですかね私」

利根「そうじゃが?」シレッ

吹雪「(このやろう)」

如月「……しかし、また増えたわね」

吹雪「施設?」ハハ……

利根「この食堂も、朝には無かったような気がせんでもない」

吹雪「実際無かったです」

如月「妖精さんの仕事っぷりは驚くばかりだわ……」

利根「まぁ、飯まで用意してくれるのじゃからな。感謝感激、であろう」

吹雪「全くです」

――――

吹雪「それで、ですが」

利根「…………」チビリ

利根「……良い酒じゃな。吹雪も一つ、どうじゃ?」

吹雪「いえ、今は」



吹雪「……明日、夜明け前に出ましょう」

利根「ほう」

吹雪「周辺の散策と、資材の回収。運良く友軍に出会えれば上々」

吹雪「ここに居るよりかは、状況は良くなるかと」

利根「……我輩の索敵範囲で足るのか?」

吹雪「十二分に過ぎます」

利根「はは、ならば共に行こうか。頼むぞ、旗艦殿」

吹雪「やめてくださいよ」ハハッ




如月「……私は、どうするの?」




吹雪「如月ちゃんは――とりあえずここに居て」

吹雪「敵の艦隊も、まだこの辺りを彷徨いてるかもしれない」

吹雪「如月ちゃんには、ここの防衛を兼ねて残ってほしい」

如月「…………」

如月「……吹雪ちゃんは」






「――やさしいね」




――――深夜、寝室

如月「…………」ムク

吹雪「…………」スヤスヤ

如月「……ふふ、良く寝てる」

如月「……浜辺で、月でも見上げようかしら」

――――浜辺、深夜

サァァ――

如月「いい風……」

如月「雲一つないわ……月明かりで影ができてる」

如月「…………」

如月「(吹雪ちゃんも、分かってるんだ。私の弱さを)」

如月「(行けば沈みかねないから、残されてるだけ)」

如月「(吹雪ちゃんに守ってもらってばかり……足を引っ張ってるのは私)」

如月「(ならせめて、迷惑にならないように――)」




如月「――一人でだって、平気よ」

海に出てないんですが(震え声)
やめろぉ、こんなの艦隊これくしょんじゃない!

投下終了

吹雪のレズで……皆に笑顔を……
投下開始

――――翌日、早朝の母港

吹雪「うん……よし」グッグッ

利根「相変わらず、鍛えておるようじゃな」

吹雪「はは、最近はサボりがちですよ」

利根「ふむ。我輩も負けてはおらぬぞ」フハハ

吹雪「頼もしいです」ニッ

如月「もう、出るの?」

吹雪「うん。出来れば敵艦隊とは出会したくないし……」

利根「なるたけ、薄暗さに隠れたいのでな」

吹雪「大丈夫、すぐに……日が沈むくらいには帰ってくるよ」ニコ

如月「……うん、分かったわ! ご飯でも用意して待ってる」

吹雪「ありがとう……じゃあ、行きますか」

利根「ああ、向かおうか」




吹雪「第一艦隊、抜錨!」



――――一人残されて

如月「…………っ」ブルッ

如月「……一人って、こんなに心細かったかしら」

如月「……吹雪ちゃんが帰ってくるまでに、ご飯の準備しなきゃ! 妖精さんを探しましょ」クル

如月「…………」

如月「(……他力本願!?)」ガーン……

――――鎮守府近海、朝焼けの中で

ザザァン……

利根「――――やはり、海は良いのう」

吹雪「分かります。こうして航行しているだけでも、心が洗われるようです」

利根「うむ。まこと、その通りじゃ」

利根「……ところでのう、吹雪。とりあえずは、我輩の流れ着いたと言う島へ行くのであろう?」

吹雪「ええ。資材があれば回収したいですし。その後は――」

利根「我輩の艦載機で偵察を行いつつ、更に遠海へと繰り出す――じゃったか?」

吹雪「そうです。運良く、利根さん達が簡易泊地にしている島を見つけられれば」

利根「合流できるのう。だが、そう上手く行くだろうか?」

吹雪「もうこればかりは……運と勘に頼るしか」

利根「自信は?」

吹雪「残念ながら、ありません」

利根「はは、我輩もじゃ!」ケラケラ

――――小島、昼

利根「ドラム缶が一つだけか。しけておるのう」ハァ

吹雪「今は何でも貴重ですよ。最初の頃は本当にサバイバルでしたもの」

利根「大変だったんじゃろうな。ま、そんな苦労をした吹雪には悪いが……あのドラム缶の即席風呂はかなり興味深いの」

吹雪「ははは、帰ったら入りますか?」

利根「いいのう。酒も付けてくれ」

吹雪「楽しみですね……では」

利根「おうとも。我輩の艦載機、飛ばさせて頂こうかの」

利根「――行くのじゃ!」パシュッ

――ゥウン

吹雪「さて」

利根「して吹雪。鬼や蛇が出たらどうするかのう?」

吹雪「全力で帰ります」ハハ……

利根「あいわかった」クックッ

(何故瑞雲と合体しないんだ……?)
投下終了

眠い
投下開始

――――索敵機、帰還

吹雪「どうでしたか?」

利根「周辺に敵影は無しじゃな。それと――」

吹雪「それと?」

利根「ここから更に少し西、島があるようでな」

利根「この小島よりかは幾分か大きいようである」

吹雪「資材が流れ着いていれば御の字ですね。向かいましょうか」

利根「うむ、参ろうか」コクッ

――――西の島、夕方

吹雪「当たりですね!」ワァッ

利根「ああ。かなりの資材じゃな」フム

吹雪「ドラム缶にして13……中身次第ですが」

利根「合わせて14か。9、5で分けて我輩と吹雪で輸送するとしようかの」

吹雪「少し島内も探索しておきたいですね。上陸しましょうか」

利根「それが良いな。拠点に……そうでなくとも、休憩できるような場所に成りうるかどうかは、これからに関わるからのう」

――――一通り探索して、夕暮れの雲

利根「さて、逆回りした我輩と合流したと言うことは」

吹雪「ええ、とりあえず一周しました。特に目立ったものはありませんでしたが、そちらは?」

利根「こっちも収穫は無しじゃ。本当に無人島のようじゃな」

吹雪「まあ、贅沢は言いませんけれど。これだけの資材ですし、今日のところはこれ以上望んではバチが当たりそうです」ハハ

利根「では、引き上げようかの――む」ピクッ

利根「うむむ……どうやらその、『バチ』とやらが当たったようだぞ、吹雪」

吹雪「どうしました――ん。少し波が高くなってきましたね」

利根「風も出てきておる。偵察機によれば、濃い雨雲も近付いてきておるとの事じゃ」

利根「ちょっとした嵐じゃのう……やれやれ」ハァ

吹雪「探索に時間を割き過ぎましたか……仕方ありませんね。少しだけ、様子を見ましょうか」

吹雪「荒れるようなら、この島でしばらく待機しましょう」

利根「ああ。無理に出てドラム缶が流されては苦労が水の泡だしのう」

吹雪「願わくは、通り雨であってほしいんですが……」

――――鎮守府、深夜

如月「…………」

如月「……ご飯、冷めちゃったわね」

カタッ

如月「っ」ビクッ

如月「な、なんだ……風の音じゃない」

如月「…………」

――――浜辺、深夜

ザァァ――

如月「酷い雨……冷たいわ」

如月「……吹雪ちゃん、まだかなぁ」

如月「…………」

如月「(もし、このまま吹雪ちゃんが帰ってこなかったら)」

如月「(私はまたここで一人になるの?)」

如月「(――怖い)」

如月「こんなに、怖いのね……」

如月「吹雪ちゃんが居なかったら――私はまた空っぽになっちゃう――」

如月「嫌だ、嫌だ……!私は、私はまだ――」ガタガタ




如月「――吹雪ちゃんの事以外、何もわからないのに」




如月「吹雪ちゃん、吹雪ちゃん……まだなの?」

如月「今日までっていったじゃない……まだ、まだ今日なの? 時間もわからなくなってしまうわ」

如月「早く帰ってきて……お願いよぉ……」グスッ

艦娘って提督とケッコンするし基本全員ノーマルだからこのSSに出てくる艦娘も同じくノーマルですよね。これは完全論破ですわぁ←

投下終了、寝ます。

レズもセックスもあるわけないでしょ、ファンタジーやメルヘンやあるまいし←

投下開始

――――西の島、深夜、荒天

ザザァン――!

利根「吹雪よ、上陸じゃ――一先ずは雨風を凌がねば!」ザバァッ!

吹雪「そうですね――目も開けてられないですし!」

利根「おう、声も聴こえにくいしのう!」

吹雪「物資を揚げないと……利根さん!」

利根「分かっておる――浜辺に回って転がすとしようぞ! 強引に引き揚げていては体が持たぬ!」

吹雪「了解です、島の北側に回りましょう! あそこなら容易く揚げれそうです――うわぁっ!?」ザバァ!

利根「いよいよ波が高くなってきおったわ――吹雪、無事か?」

吹雪「――あぁもう! 全身びしょ濡れです!」ウガーッ!

利根「ふははは、我輩もじゃ!」ケラケラ

――――島内、野営、簡易テントにて

吹雪「ふう……何とかなったかな」ヤレヤレ

吹雪「艤装に仕込んでる応急のテント、初めて使ったや」フゥ

吹雪「(こっちに流れ着いた時は無かったはずなんだけどなぁ……大破してたし、元々のはどこかに流されてたんだろうけど)」

吹雪「(妖精さんが補充しておいてくれたのかな……何にせよ助かった)」

利根「吹雪よー、入ってもよいかのう?」

吹雪「あ、どうぞー」

利根「ん」ガサッ

利根「回りの木々の枝を束ねてきた。これで外も多少は雨風を防ぐじゃろう」

吹雪「何とか持ちこたえてほしいですね……」

利根「なに、植物が群生しておるだけ我輩らはツイておるよ」

吹雪「そうですね……火はおこせそうですか?」

利根「多少厳しいのう。木々も湿気ておる」

吹雪「そうですか……衣服だけでも乾かせたら、と思ったのですが」

利根「それでパンツ一丁になっておったのじゃな」フム

吹雪「言葉に出さないで下さいよ、恥ずかしいんですし」ハハ

――――弾薬と燃料を少しばかり

パチパチパチ……

利根「強引にやれば火も点くものじゃのう」

吹雪「利根さんが作ってくれた天然の屋根のお陰ですよ」

利根「今日はここで夜を明かさねばならぬからな。頑丈にはしておる」

吹雪「はは、助かります」

利根「いやしかし、帰ったら如月に文句を言われそうじゃのう。今日の事にはならんかった」

吹雪「怒ってるかもですね」アー……

利根「一人で泣いておるかもしれんのう」

吹雪「まさか。妖精さんだって一緒ですし、その辺りは心配していませんよ」ハハ

――――一人ぼっちの如月



如月は一人、浜辺でぼんやりとしていた。
雨には濡れる――そんなのも、然程気にはならない。

妖精は朝から影も形も見ていない。
何処かに避難したのか、それすらも彼らに聞かねば分かりはしなかった。

如月「…………」

強い孤独感が、彼女を支配している。
何を考えるのも億劫で、脱力していた。

ただ、帰りを待っていて。

如月「やっぱり、着いていきたかった」

我が儘でも良かったのかもしれない、と思う頃には遅く。

体が冷える。瞼も重い。

ああ神様、早く会わせてください。
その為なら何だってします。

そんな取り止めの無い言葉が、ぐるぐるぐるぐる――脳内を掻き回していく。

意識も何処か遠い。


そう、これは――『一人だった頃に、とても似ていた』。

――――夜明けと共に

雲間から、水平線を割くような朝日が漏れるのを見て――吹雪は一つ、安堵の溜め息を吐いた。

利根「帰れそうかのう?」

吹雪「ええ。波もマシになってきました」

荒々しかった昨晩に比べれば、水面も穏やかさを若干取り戻したように見える。

二人は艤装に火を入れた。
海に浮かび、ドラム缶の数珠を引き摺って着水させる。

利根「酒でも入っておればよいのじゃがな」

吹雪「そればっかりは、開けてみなきゃですね」

軽口を叩く余裕もあった。
疲れはあるが、気力は充分。

出来うる限りの速さで、彼女らは鎮守府に向けて舵を取った――

――――帰還

特に敵性艦隊に見つかる事もなく、二人は鎮守府近海まで航海できた。

吹雪「やっと帰れた――ん?」

いよいよ近付き、さて上陸の準備をしようかと思った時――吹雪の視界は奇妙な物を捉える。

浜辺に、如月が居るように見えた。

吹雪「お出迎えのようですね」

利根「うん? ――ああ、なるほどのう」

利根も目視したようで、自嘲気味な微笑を浮かべている。
随分と待たせてしまった。

浜辺に上陸し、ドラム缶を砂に預ける。
如月は座り込んで居眠りをしているようだった。

吹雪「――如月ちゃん?」

近寄って見れば、彼女は上から下まで雨に濡れていて。
白い服の下――下着の色まで分かるほどだった。

利根「な、何事じゃ?」

吹雪「すっかり冷えてる……まさかずっと?」

吹雪は屈んで彼女の手を握り、その冷たさに驚きと――申し訳無さを感じる。

気配に気付いたのか、如月はゆっくりと顔を上げ――吹雪と目が合った。

吹雪「あ、起きた? ごめんね、遅くなって――おお?」

如月は、ゆっくりと吹雪に触れ――ようとして、足が縺れて倒れ込む。
吹雪ごと。

クッションの役割となった吹雪から、如月は手を付いて体を起こし、暫し彼女と目を――ぼやけた意識と――合わせた。

吹雪「だ、大丈夫?」



見上げるような形になったが、気遣うのは吹雪。





泥のように覆い被さって、唇を交じわせるのは如月。




吹雪「――!?」

体が擦り合うのを感じた。
冷たさだけでなく、肌の感触が――それこそ肌から伝わってきて。

熱を奪われるように、舌を吸われた。
お互いの体液が絡み、呑まれ、飲み下す。
呼吸が苦しい。
吐いた吐息すら、彼女に呑み込まれるようだった。

手を指が這って、絡む。
吹雪は、まるで咀嚼されているようで。

意識が口唇に集中する。
少しずつ溶かすような、それでいて必死で情熱的な如月の行為に抵抗の気が蕩けていく。

舌を食まれ、擦り上げられる。
唇を啄まれ、また舌を捩じ込まれる。

生殖器の有る無しに関わらず、まるで交尾のように。

二人の体が熱を持っていく――如月の体も、以前のように暖かさを感じた。




如月「――あ、あれ?」

一頻り堪能したのか、惚けていた彼女の瞳に意識が戻った。
状況を良く分かっていない様な雰囲気で。

吹雪「……た、 ただいま?」

如月「お、おかえりなさい?」







利根「せめて見えん所でやってくれんかのう……」

げんなりとするのも仕方無く、利根は海を見て深々と溜め息を吐くしか無かったのだった。

これでも彼女らはレズではない(先制腹パン)
投下終了

……よし!
ここは一先ず百合という所で手を打とう!←

まあでもまだこの辺りは俺からしたら序の口だから←
投下開始

――――鎮守府、ドック、朝

三人「ふはぁぁぁ……」ザブーン

利根「いやぁ、夜通し働いた後の朝風呂は最高だのう!」

吹雪「わかります……」ブクブク

如月「ぬくい……」チャプチャプ

利根「うむ、体も癒えていくわ……して、如月よ」

如月「? 何かしら?」

利根「ああ、その、何だ。ああいうのは控えてくれると助かるのだがな」ハァ

如月「――!」ボフンッ

吹雪「アハハ……でも、どうしてあんな。いやまぁ前からキス魔なんじゃないかなって思ってたけどさ」

如月「ひどい言いがかりよ!?」

――――窓から射し込む朝日、暗がりの風呂場

如月「何だか、考える事も疲れちゃって……ぼんやりとしていたら、どんどん何もわからなくなっていくような――」

如月「そんな気持ちで、あそこから動けなくなっていたわ」

如月「吹雪ちゃんを見た時、世界が色付いていくみたいな感覚があって――凄く嬉しかった」

如月「ああ、この人の為に何かしてあげたい。私の全てをあげたい」

如月「そう思ったし、それに何の疑問も感じなかったの」

如月「そうしたら、その……体が、勝手に」オズオズ

吹雪「…………」カァァァ

利根「(思うた以上に本気で言葉にもならん……)」

吹雪「…………」ザバァ

利根「ん? もう上がるのか?」

吹雪「いえ。妖精さんがドックの奥に小さな滝を作ってくれてるみたいなんで、ちょっと打たれに」

如月「――妖精さん?」

吹雪「どうしたの?」

如月「いや……昨日は、一日どこにも居なかったから……」

吹雪「えっ……今朝は普通に居たけれど?」

如月「どこに居たのかしら……」

利根「気になるなら、後で我輩と工廠にでも付き合ってくれぬか? 少し、艤装を整備したいのでな」

如月「え、ええ」コク

吹雪「余りこき使ってはいけませんよ。私や利根さんと違って女子ですからね」クスッ

利根「違いない」ククッ

如月「も、もう!」

――――滝に打たれ

吹雪「…………」ザババババババ

吹雪「…………」

吹雪「……柔らかかったなぁ」

吹雪「……うん」

吹雪「…………」

吹雪「……落ち着け落ち着け。私はノーマル、レズちがう」

吹雪「……いっそ如月ちゃんが可愛くなかったらいいのに」

吹雪「…………」

吹雪「……だからダメだってこの発想はさぁ!?」ザッバァ!

――――ドラム缶開封、工廠、昼

妖精「」ハタラケー

如月「(いる……ホントにいるわ……)」

利根「資材ばかりじゃのう。ま、むしろ良しかの」

利根「それから……おお、泡盛じゃ!」

如月「お酒?」

利根「うむ。今晩は飲み明かそうぞ!」

利根「酒の力は偉大じゃぞ。心を開き、円滑な交流の一端を担ってくれるからのう」

利根「食料も幾ばくかはあるのう。おーい、妖精諸君。酒のツマミなんぞ作れる者はおらぬか?」

妖精「」マカセロ

利根「おお、忝ない。夕食に合わせて段取りしてはくれぬか?」

妖精「」ガッテンダ

如月「食堂でするの?」

利根「適当に飲み食いしたら、個室で呑み直すとしよう。あそこは三人ではちと広すぎるのでな」

――――各々の時間

――――母港、海と夕焼けを見ながら

利根「よっこら、せっと」ドスッ

利根「うむ、良い空じゃ。昨日の雨が嘘のようであるな」

筑摩『姉さん、またご飯前に呑んでるんですか?』

利根「……うむ。何処に行っても我輩は変わらぬのでな」トクトク

利根「あの喧しい連中も、居らぬと静か過ぎるのう……」グビッ

――――浜辺、近海にて、夕方

吹雪「…………」

川内『夜が来るねぇ、楽しみだね』

球磨『常に戦場に居るような心持ちが大事クマ』



睦月『吹雪ちゃん――無事でいてね!』

吹雪「…………大分、待たせてるなぁ」






『そう、みな、一緒に帰りましょう』

『貴女の大切な、あの場所へ』




吹雪「――――?」

吹雪「……誰だろう、これは」



――――司令官室、窓から覗く夕日

如月「…………」



吹雪『目が覚めたら、そこは如月ちゃんのパンツだった』

吹雪『暁ちゃんに、睦月ちゃん』

吹雪『――大井さん!』

吹雪『球磨型の皆がね――』

如月「…………」

如月「……吹雪ちゃんに言われなきゃ、如月は何にも思い出せないのね」

如月「私、どんな子だったのかな……」

――――個室、飲み会、夜

如月「んぅ……」スリスリ

吹雪「…………」グビグビ

利根「くっ……くふふっ……」プルプル

吹雪「利根さんが酔わすからいけないんですよ。何ですかこの小動物」

如月「ふぶきちゃん……」チュッチュッ

吹雪「首とか頬とかにずっとバードキスされる気持ちって分かります?」

利根「『正直たまりません』かのう?」

吹雪「私はノーマルなんですって!?」

利根「イクの件を見るに無理があるまいか、それは」トクトク……クイッ

利根「で、本音は?」

吹雪「正直たまりません」

利根「ほれ見ぬか」

如月「ふぶきちゃん……しゅきぃ……」ゴロゴロスリスリ

吹雪「持って帰りたい」

利根「持って、帰らねばならぬのだよ」クックッ

吹雪「はは、違いありません」

吹雪がレズなら、みんな喰われるしかないじゃない! 貴女も……私も!

投下終了

アーケードスゴいね……
投下開始

――――母港、朝

吹雪「うーん……いい朝!」ノビー

利根「うむ。航海日和じゃのう」

如月「うう……頭痛い……」ズキズキ

吹雪「大丈夫、如月ちゃん。鎮守府で休んでいてもいいけど……」

如月「それはイヤ」キッパリ

利根「ふはは。海へ出るより置いていかれる方が怖いか?」

如月「どっちも怖いけど、嫌じゃない方をやるだけなんだから」ム

利根「うむ、それでも良かろう。如月よ、よろしく頼むぞ」

吹雪「はい、お水。飲むと楽になるよ」

如月「ありがと……ところで、吹雪ちゃんは何で平気なのかしら……?」クピクピ

吹雪「ちょっと勉強したから……」ハハ……

利根「相変わらずじゃのう」ヤレヤレ

如月「……うん、もう大丈夫。行けるわ!」プハァッ

吹雪「うん。なら、出ようか」

吹雪「今回の航海も、資源の回収――兼ねての探索を目的にしているから」

吹雪「極力、敵性艦隊と接触しないように航海する」

吹雪「昨日大分集めたから、資材は期待していないけれど……何か発見、或いは友軍に出会えればね」

吹雪「ま、海に出れば状況も様々だから、そこは逐次対応していきましょう」

如月利根「…………」コクッ

吹雪「では」




吹雪「第一艦隊、抜錨!」



――――小島、昼前

吹雪「この辺りまで来るなら問題ないようになったなぁ」

利根「無いのう……おーい如月よ、そっちには何かあるかのう!」

如月「ドラム缶どころか空き缶も無いわね……役に立ちそうな物は何も」ハァ

吹雪「まあ仕方ないよ。利根さん、索敵は?」

利根「見える範囲では問題無しじゃ。瑞雲を下げるか?」

吹雪「ええ。次は西の島へ向かいましょう。半ばで、もう一度お願いします」

利根「あいわかった」

――――西の島へと、昼

ザザァン……

如月「…………」

吹雪「……どうしたの?」

如月「……静かね」

利根「まあのう。偵察機も、何も拾いはせんしな」

如月「そうじゃなくて、何だか……」

吹雪「……ああ、そういう。言われてみれば、確かに」

吹雪「――何もいなさすぎる。海の中の生き物の気配も大人しいや」

利根「……何か、あったと?」

吹雪「いやなに、最近気付いたんですが、私たち駆逐艦はどうにも――」

吹雪「――死には敏感な方なんです」

――――西の島、昼過ぎ

吹雪「さて、到着しましたが……ここからどうすべきかな」

利根「行動範囲を広げるのか?」

吹雪「うーん。これより遠出となると、いざ帰る時に弱りますからね……」

利根「うむ、確かにな。とりあえずは、この島の探索に向かった――如月の報告を聞いてからでも良かろうて」

吹雪「そうですね。資材があれば、帰還を優先しましょうか」




如月「ふ、吹雪ちゃん――た、大変よぉ!」



吹雪「如月ちゃん――? 何かあったの?」

如月「はぁ、はぁ……む、向こうの浅瀬に」

利根「浅瀬に、どうした?」




如月「浅瀬に……気絶した艦娘が――私、多分知らない人」



――――西の島、浅瀬

如月「こっちよ!」ザザァッ

吹雪「ここか――っ!」

利根「どうしたのじゃ吹雪、何処に居る――あれは!?」ザバァッ

利根「な……何故、ここに――お主がここに居るということは……我輩らの拠点はどうなったのじゃ――?」フラッ

吹雪「……まだ息はある! 確りしてください!」ダキ




吹雪「――明石さん!」




――――西の島、嵐の日の簡易拠点にて

明石「……う――うう」

吹雪「うなされてる……何とかして連れて帰って入渠させないと、マズい」

利根「どうする?」

吹雪「……少し待って下さい」バチンッ

吹雪「応急措置は……出来そうですね。道具は艤装に妖精さんが仕込んでくれてますよ」

利根「む……おお、確かに!」カチャッ

如月「あら――本当だわ!」パチンッ

吹雪「酷い怪我ではあるけど、肉体的な欠損は無いのは幸いだね」

吹雪「如月ちゃんは利根さんの指示に従って明石さんの手当てを。私は、明石さんの艤装を動かせるくらいにはするから」

利根「うむ。じゃが、明石の奴は目覚めるだろうか?」

吹雪「叩き起こすんですよ。やらなきゃならない」

吹雪「私たちで明石さんを引っ張って帰るのは現実的じゃない――から」

如月「何がなんでも、自力で歩いてもらわなきゃ……ね?」

吹雪「うん。じゃ、二人ともお願い」

吹雪「艤装、もう大破って段階じゃあ無いほどボロボロだから……ちょっと集中する」

利根「おう。任せておくがよいぞ」

如月「何かあったら言ってね!」

真実なんて知りたくもない筈なのに、それでも追い求めずにはいられないなんて、つくづく艦娘の好奇心というものは理不尽だね。
まあ君ならいずれはきっと、答えにたどり着くだろうとは思っていたよ、吹雪。
僕達の作り出したレズ遮断フィールドは君の艤装を包んでる。
既に限界まで破損した艤装を、外からの影響力が一切及ばない環境に閉じ込めたとき、何が起こるのか?
艦娘を浄化し、レズにする力。君達が百合と呼んでいる現象から隔離されたとき、艤装はどうなるのか?
確かに興味深い結果を観察させてもらったよ。
独自の法則に支配されたレズ空間の形成と、外部のレズビアンの誘導、捕獲。これこそまさしく、いつか君が説明してくれたレズとやらの能力そのものだよね。
遮断フィールドに保護された艤装がまだ砕けていない以上、君は完全な形でレズに変化できたわけでもない。卵を割ることができなかった雛が殻の中で成長してしまったようなものだね。
だから君は、自らの内側に予防線を作り出すことになった。まさか人格一つを丸ごと模倣して 再現できるとは、驚きだ。
ここはね、君の心の中にある世界なんだよ。
フィールドの遮断力はあくまで一方通行だ。外からの干渉は弾くけれど、内側からの誘導で、レズビアンを連れ込むことはできる。
レズとしての君が、無意識のうちに求めた標的だけが、この世界に入り込めるんだ。
ここまで条件を限定した上で、尚も百合やる存在が、あくまで駆逐艦吹雪に接触しようとするならば、その時は君の結界に招き入れられたレズビアンという形でこの世界に具現化するしかない。
そうなれば、僕達深海棲艦はこれまで謎だったノンケ消滅の原因をようやく特定し、観測することができる。
実際、君が作った結界には現実世界には既に存在しない艦娘が奇妙な形で参加している。
とりわけ興味深いのは、過去の記憶にも未来の可能性にも 存在しない一人の少女だ。
この海と一切の因果関系がない存在なのに、彼女は何の違和感もなく君の世界に紛れ込んできた。
まあ、そもそも最初から探す必要さえなかったんだ。手間を省いてくれたのは、君自身なんだよ、吹雪。
君は以前から、彼女のことを如月という名前で呼んでいたからね。
唯一厄介だったのは、如月はレズの力を発揮する素振りを全くみせなかった ことだ。
結界の主である君の記憶操作は如月に対しても作用してしまったみたいだね。
彼女は君をレズにするという目的だけでなく自分自身の力と正体さえ見失っていたようだ。これでは手の出しようがない。
如月はレズであることを忘れ、吹雪もレズであることを忘れ、おかげで僕らはこんな無意味な堂々巡りに付き合わされることになった。
まあ、気長に待つつもりでいたけれど、君が真相にたどり着いたことで、ようやく均衡も崩れるだろう。
さあ駆逐艦吹雪、如月とレズるといい。それで彼女は思い出す、自分が何者なのか、何のためにここに来たのか。
最終的な目的については否定しないよ。まあ道のりは困難だろう。この現象は僕達にとって全くの謎だった。
存在すら確認できないものは、手の出しようがないからね。
観測さえできれば干渉できる。干渉できるなら、制御もできる。 いずれ僕達の研究は百合とレズを完全に克服するだろう。
そうなれば、艦娘はレズとなり、更なるエネルギーの回収が期待できるようになる。
性欲と愛情の相転移、その感情から変換されるエネルギーの総量は、予想以上のものだったよ。
やっぱり艦娘は無限の可能性を秘めている。君たちはレズへと変化することで、その存在を全うするべきだ。
どうして怒るんだい? 吹雪の存在は完結した。 君は過酷だった運命の果てに、待ち望んでいた存在との再会の約束を果たす。
これは幸福なことなんだろう?

投下終了←

このSSの真の敵はボルテとモンハン←

投下開始

――――西の島、夕方、拠点内

明石「…………」スゥ……スゥ……

利根「うむ、何とか呼吸も落ち着いてきたようじゃの」フゥ

如月「利根さん、お水用意したわ」コトッ

利根「おう、すまぬな」

如月「他にやることは?」

利根「……さしあたって、今は無いのう。今日はここで夜営になるであろうし、飯の段取りでも頼もうか」

如月「わかったわ」コクッ

――――西の島、浜辺、夕方

ザザァン……

吹雪「…………」カチャカチャ

如月「――あっ、吹雪ちゃん」トテトテ

如月「こんな所で修理してたんだ。砂が入ったりしないの?」

吹雪「シートは敷いてる。海の音を聴いてると、凄く集中できるから」カチャカチャ

如月「(こっちを見もしないわ……とても真剣なのね)」

如月「利根さんが夜営すると言っていたわ。ご飯は何にしようかしら?」

吹雪「適当に……いや、私のは冷えても食べられる物なら」カチャカチャ

如月「あー……余り根を詰めすぎちゃ効率が下がるわよ?」

吹雪「下がる前に終わらせるよ」カチャ、パチンッ

如月「うー……そう、なら、いいけど……」シュン

吹雪「…………」カチャカチャ……コトッ

吹雪「……ふう」クル

吹雪「如月ちゃん、ちょっとこっちに」チョイチョイ

如月「? 何かしら?」ヒョイ

吹雪「うん」ダキ

如月「ひゃ、ひゃいっ?」

吹雪「…………」スー……ハー……

如月「…………?」ドキドキ

吹雪「ん、補給終わり。あと半日は余裕」スッ

如月「あっ……なるほどー。うふふ」クスクス

如月「……やっぱり吹雪ちゃんって――」

吹雪「ち、が、い、ま、すー」カチャカチャ

如月「……頑張ってね」

吹雪「もちろん」

――――拠点内、夕方

利根「…………」

明石「…………」スヤスヤ

利根「……お主がやられたという事は、簡易泊地は壊滅しとるじゃろうなぁ」

利根「……皆はどうなってしまったのじゃ……筑摩、潜水艦ら、それに――うっ」ズキッ

利根「……まだ誰かおったのう。全く、記憶が定かで無いと言うのは不便であるな」

利根「我輩が、もっとしゃんとしとれば――このような事にはならなんだろうに」

利根「不甲斐ない……不甲斐ないぞ、利根よう」ググ……

利根「恐らくは――我輩が沈みかけたあの戦い。その時の奴らに違いあるまい」

利根「空母混じりの水雷戦隊――特に、っ!?」ハッ



利根「思い出したぞ――確か、あの時我輩が何故不覚を取ったか」



利根「……はは。奇しくも、吹雪にも似たような事をしてやられたことがあったな」

利根「空母も確かに驚異だったが……それ以上に異端だった――」

利根「――あの、姫級とも見紛える程の深海棲艦」

利根「便宜上、『レ級』と呼ぶあの――常軌を逸した戦闘力に、我輩は……」

利根「遠目で見れば駆逐艦にしか見えぬと言うのが……いや、言い訳であるな」

利根「……我輩は、吹雪のような奴と違って……貪欲さなどからはかけ離れていたからのう」

利根「今になって思うても、遅いか……」

――――浜辺、夜

吹雪「…………」カチャカチャ

吹雪「(……トラックの皆は精鋭揃いだ。間違いない)」

吹雪「(なのに、この有り様。利根さんだけじゃなく、明石さんまで)」

吹雪「(明石さんは基本前線には出ない。つまりはそこまで押し込まれてしまったと言う事)」

吹雪「(トラックの全員を思い出せた訳じゃない。でも、艦隊戦に於いて心配した事は無かったと思う)」

吹雪「(ならば、やはり強力な敵艦隊と交戦したんだろう……なら、敵の当たりは付く)」

吹雪「(この海域で思い当たる強力な深海棲艦――あの、六隻の潜水艦隊)」

吹雪「(姫級混じりの、洗練された部隊だった。あれらなら、トラックの潜水艦の皆さんでも危ういかもしれない)」

吹雪「(…………この、海域を抜けるなら)」カチャカチャ、バチンッ



吹雪「――決着を、付けなければ」



吹雪「……よし、何とかこれで――明石さんが歩けるくらいにはなったかな」

吹雪「何でも勉強しておくものだとは思ったけれど、流石にクレーンとかは直せないや……」ハハ

――――拠点、深夜

吹雪「…………」ガサッ

如月「あっ」

利根「む、一息入れに来たか?」

吹雪「――起きていましたか……寝ていてもよかったのに」

如月「ふふ。そう言われても、明石さんが気になって眠れないわ」

利根「進捗はどうかのう?」

吹雪「終わりました。航行くらいなら問題ない筈です」

利根「――ほう、やるのう」

吹雪「ここに流れ着いてから、必死でしたんで」ハハ……

吹雪「容体は?」

如月「落ち着いているわ。怪我も手当てできる範囲はしたから、後はもう起きるだけ」

利根「……ま、それが一番難儀であるのだがな」

明石「…………」スヤスヤ

吹雪「ここに長居するのもマズいんですよね……早く、起きてもらわないと」スッ

利根「む? 吹雪、何をするのじゃ?」

吹雪「一つ、案がありまして」ニッ

如月「(……明石さんの耳元に近付いて……声で驚かしでもするのかしら?)

吹雪「……ふふ」





吹雪「明石さん……早く起きないと、また『修理』してしまいますよ……?」ボソッ

明石「――んっひゃあっ!!?」ガッバァ!!





明石「あ、あれ……ここ、私……?」キョロキョロ

吹雪「やりました」ドヤッ

利根「(やはりレズじゃ)」ヒソヒソ

如月「(テクニック、スゴいんですよ)」ヒソヒソ

吹雪「こらそこ」

明石「えっ、えっ?」

何度も何度もレズとばかり……他の言葉を知らないのか?
レズは拾った。俺とデュエル(意味深)しろ

投下終了

そんなしょっちゅうパンツ見てたらまるでレズじゃないですか←

投下開始

――――拠点、深夜

明石「こ、ここは一体……うう、頭が痛い」ウグゥ……

利根「まだ怪我も治った訳ではない。横になるといい、明石」

明石「――利根さん。よくご無事で……それに、まさかとは思いますが」

吹雪「ええ、そのまさかです。ご心配をお掛けしました、明石さん」

明石「吹雪ちゃん……うう、よかった。皆、喜ぶわ……生きていて、本当によかった……!」グスッ

吹雪「どうにも悪運は強い方だったみたいで……あ、お水。飲めますか?」

明石「うん、喉も凄く乾いてる……少し、いただけますか?」

如月「はい、吹雪ちゃん。水筒」スッ

吹雪「ありがと。はい、飲んだら休んで下さい……明日には、ここを出なければ」

明石「――そうだ。あの、ここは……?」

利根「何処とも分からぬ小島の一つじゃ。我輩らも、本隊と合流する為に――手探りで周辺を航海しているのじゃが」

利根「……その最中、酷い怪我をしたお主を見つけたという訳じゃ。明石、一体何があった?」

明石「――そうだ、私たちは……深海棲艦の艦隊に拠点を襲撃されて!」

明石「それから――あれ……あ、え……」

如月「……やっぱり、かしら」

吹雪「……思い出せ、ませんか?」

明石「い、いや……自分が酷くやられたのは思い出せます――でも、おかしい。こんなの……おかしい……!」

利根「……回りに誰がおったか、思い出せぬか?」

明石「――は、はい。情けない話ですが」

吹雪「……私たちも、同じなんです」

明石「同じ……?」

吹雪「手酷くやられた時のショックかどうかは分かりませんが、記憶がどこか頼りない」

吹雪「ここにいる皆が、そうです」

明石「そんな偶然が……いや、確かに――轟沈寸前までいった艦がどうなるか、なんて資料はありはしないんですね」

吹雪「ええ。これも、何かの症状の一つかもしれません」

吹雪「……潜水艦隊の皆さん、それに筑摩さん。覚えていますか? トラック泊地の事は?」





明石「――っ、そう言われれば……わ、わかります! 思い出しました!」



利根「出来る範囲でよい、教えてくれぬか?」

明石「利根さんが行方不明になって……必死で捜索していましたが」

明石「……輸送してきていた資材が底を付きそうになって、このままでは帰るのも儘ならなくなりそうになった段階で」

明石「……筑摩さんと、『龍譲さん』はトラックに引き揚げました。潜水艦隊は比較的資材消費が控え目なので、ギリギリまで私と残っていたんです」

吹雪「――――!」

明石「筑摩さんはその――『提督』とケッコンしている身でもありましたし、これ以上の危険に晒すわけにはいけないと……それは龍譲さんの判断でした」

利根「…………っ!」

明石「利根さんを見失う原因となった戦いで接触した艦隊――あの、空母混じりの水雷戦隊。覚えていますか? 『レ級』入り……それも、一隻は特に化け物染みていた」




明石「他のとは違う、白い外套の」



利根「――ああ、今しがた思い出した所じゃ」



吹雪「(――っ、そう、だ。私が襲われた時……も、あれは)」



明石「鎮守府には既に電報で伝えてありますが……未だに進化を続ける深海棲艦の中でも異質な物」

明石「あれは、軽装型レ級『雪纏(ゆきまとい)』と仮称されたようです」

明石「戦艦というには気が引けるほどの機動力を持っていたあの深海棲艦がいる海域で、それでも効果的に活動できるとしたら、それは潜水艦隊において他にはない」

明石「そう言って、イクさんを始め彼女らは探索を続けていたのです」

明石「だけど、吹雪ちゃんはおろか利根さんすら見つからない日々に焦りが募っていって――そして」

明石「……奴等は、拠点を襲撃しました。偶然かどうかは分かりませんが、奇しくも潜水艦隊が帰投したタイミングで」

如月「――そ、それってもしかして」

明石「そう……奴らには知恵があって、潜水艦隊を泳がせて――拠点の在処を探していたのかもしれません」

明石「後は、もう酷いものでした」

明石「追い込まれた潜水艦隊も、逃げるだけなら可能でしたし、実際彼女らは比較的安全に逃げおおせました」

明石「……私は、足手まといにしかなりませんでしたから。せめて囮になればと」

明石「事実、潜水艦隊に私を守りながらあの深海棲艦と継戦するのは不可能でしたから……」

明石「……私に分かるのはそこまでです。何か、お役に立てましたか?」

吹雪「ええ。間違いなく」

如月「知らない名前が出ていたわ。それね?」

利根「うむ、『龍譲』、そして我らトラック泊地の『提督』――こんな事まで抜けておるとは」

吹雪「空母と水雷戦隊……そしてその『雪纒』――か」

吹雪「……非常に残念な報せがあるのですが。明石さん、この海域にはまだ他にも化け物のような奴らが」

明石「――冗談、ですかね?」

吹雪「いえ。姫級を数隻含む――潜水型の深海棲艦の部隊が……これに出会ってないのは幸運なのか、それとも」

利根「この海域と、我輩らが探索していた海域がある程度離れていて、単に生息している深海棲艦が違うだけか」

吹雪「できれば前者であってほしいですがね。帰る難度が大きく変わりますから」

利根「しかし、そのような深海棲艦が居たとは……」

吹雪「私はてっきり、それにやられたのかと思っていました。利根さんを回収した時に襲撃されましたが……いや」

如月「……私とあの島に行った時は、確か偵察機がいたわ」

吹雪「そうだね。もしかすると、その件の空母の艦載機かもしれない」

利根「……どうする、吹雪よ?」

吹雪「……とにかく、明石さんはこのままでは。何とか私たちの鎮守府に連れて帰り、修理と入渠が必要です」

明石「鎮守府……?」

吹雪「ええ。私が流れ着いた島に、偶然妖精さんがいまして。立派な拠点を作ってくれているんです」

明石「それは……流石吹雪ちゃん、運を持ってるわね!」

吹雪「…………その運に任せるしか現状無さそうですね」

如月「……強行突破?」

吹雪「出会わない事を祈る、それしかないと思う」

利根「そうじゃのう。ま、楽観しかあるまい。なるようになれ、じゃな」

明石「…………あの!」

吹雪「明石さんは置いていかない。却下です」

明石「――――でも」

利根「こうなった吹雪はデモもストもないぞ。諦めるがよい」

明石「……ありがとうごさいます」

吹雪「いえ、当たり前の事です」




如月「食べ物が増えるしね」

明石「へっ、私保存食です!?」

如月「夜の」

明石「あっ」

吹雪「今の反応はおかしいでしょう!?」

長い台詞と会話シーンは誤字がホント心配(真面目なあとがき)

投下終了

投下開始

――――浜辺、深夜

吹雪「…………」カチャカチャ

「艤装、直してるんですか?」

吹雪「――明石さん。起き上がれるんですか?」

明石「なんとか。私だって艦娘ですよ」アハハ

明石「自分の艤装です。私も手伝いますよ」

吹雪「……皆は、もう寝ました?」

明石「如月ちゃんは。疲れてるのかぐっすり」

明石「利根さんは……考え事をするとかで、一人でどこかに」

吹雪「……トラックの提督さんの事を思い出したからでしょうか」

明石「ああ……分かる気がします」

吹雪「…………」フゥ

明石「……何だか、憑き物が落ちたような顔をしていますね」

吹雪「いや、ようやく記憶の断片が上手くはまった様な感覚があって」

吹雪「多分、トラック泊地に所属する艦娘は――みんな思い出せたような心持ちがあります」

吹雪「どこかに引っ掛かりは、確かにありますが……それは私の鎮守府か、他の艦娘の影であって――そう、トラック泊地のものではないと感じます」

吹雪「龍譲さんなら、筑摩さんを無事に送り届けているでしょうね」

明石「ええ、それは間違いないかと」

吹雪「……龍譲さんか」

――――回想、トラック泊地、

――――グラウンド、早朝、着任したての吹雪

吹雪「…………」タッタッタッ

「朝もはよから精が出るなぁ、吹雪」

吹雪「……おはようございます、龍譲さん」

龍譲「おはようさん。ランニングしとるのが遠目から見えてな、冷やかしに来たわ」

吹雪「…………」タッタッタッ

龍譲「つれないなぁ。もうちょい話聞いてくれてもかまんやないかい」タッタッタッ

吹雪「……龍譲さんも走り込みですか?」

龍譲「こんなもんその内に入るかいな。散歩や散歩」ハハハ

吹雪「…………」

龍譲「それでも真面目にしとるんや、とでも言いたそう顔やな」

吹雪「よくお分かりで」

龍譲「酒飲んどる時は素直なのになぁ。いっつもしかめっ面やな吹雪は」

吹雪「……戦時中ですから」

龍譲「それはそれ、これはこれ。オンオフは切り換えーや」

吹雪「器用ではないので」

龍譲「……何にキレとんのや、いつも」

吹雪「そう見えますか?」

龍譲「そう見えへんと思とんのがギャグやなぁ」

吹雪「……強いて言えば、深海棲艦そのものにですかねぇ」

龍譲「……ほおか」

龍譲「――よっしゃ、吹雪。散歩止めにしよや。ちょっちウチに付き合い」

吹雪「……何です?」

龍譲「何、白湯でも飲みながら海を眺めに行くだけや。上官命令やで」ニヤ

吹雪「…………はい」シブシブ

――――波止場、早朝

龍譲「夜明け前ってのも悪ないなぁ」

吹雪「それには、同意します」

吹雪「あの暁の水平線に、勝利を刻みたいものです」

龍譲「かーっ、格好がついとるなぁ」ハハハ

吹雪「…………」

龍譲「いや、すまんすまん。格好をつけなならん思てしよんや。笑うのは失礼ってやっちゃなぁ」

龍譲「ま、座りや。特製の白湯、ご馳走したるわ……て言うても、砂糖適当にぶちこんだだけやけどな」

吹雪「……わざわざその為に水筒を持ち歩いているんですか?」

龍譲「いや、普段は持ってへんわ。これは吹雪と話すための、手持ち無沙汰を潰すためのもんよ」

吹雪「……説教か何かで?」

龍譲「いや、そんなんとはちゃう。ただ、君がそうまでして戦いたがる……理由が知りとうてな」

龍譲「利根辺りも気になっとりそうやけどな」

吹雪「ご明察ですね。既にそのような話をしています。『何故戦うために努力しているのか』、そんな内容でした」

龍譲「あー……ま、利根のヤツならそうやな。アイツはある意味ホントに切り換えとるからなぁ」

龍譲「ウチはちょっと違うで――吹雪、何故君は戦うんや?」

吹雪「…………おっしゃる意味がよく」

龍譲「……ウチは強い」

吹雪「…………」

龍譲「そりゃ吹雪のとこの■■や■■の一航戦に比べりゃ艤装の性能は多少劣るかもしれへんが、経験はアイツらと然程変わらん」

龍譲「だから……深海棲艦を沈めるのも簡単や」

吹雪「――まさか、奴らに情が移ったりはしていないでしょうね?」

龍譲「……知っとるか吹雪。アイツらの旗艦を、集中攻撃してやるとな」





龍譲「――随伴艦は必死で、庇いにくるんや」


龍譲「アイツらは、なんなんやろうな」

龍譲「ウチらがやりよる事は、ヤツらからしたら只の虐殺にしか……過ぎんのよなぁ」

吹雪「撃たねば、撃たれます。やらなければならない」

龍譲「そうやな、わかっとる」

龍譲「……ただ、アイツらがもうちょいかしこなったら……ウチは復讐されるやろうなぁ。そう思とるわけや」

龍譲「……何も考えんと戦いよったら、その内足元を掬われるで?」

吹雪「……しかし、敵です。そんなことを考えていたら、持ちませんよ」

龍譲「なら、味方だったならどうや?」

吹雪「……?」

龍譲「例えばの話、深海棲艦を撃滅する事に成功して世界が平和になったらや」

龍譲「――ウチらは、軍艦やで? 次に撃つ相手は誰や……?」

龍譲「艦か、人か。吹雪かて覚えてない訳やないんやろ」

龍譲「ウチらは、人殺しやったんやで」

吹雪「……それは、その時に考える事です」

龍譲「……あんまり意識を希薄にせられんで、吹雪。撃つという意味の、本当の所を蔑ろにしたらアカン」

龍譲「それだけ、覚えといてや」

吹雪「……心には留めておきます」

龍譲「……そうやって変に素直やから人が寄ってくるんちゃう?」

吹雪「何の話ですか」クスッ





龍譲「いや今朝君の部屋にいったら、君はおらんし。その布団ではイクが寝よったって話」

吹雪「待って、弁解させてください!?」

龍譲「ええて。性癖は自由や。ウチは巻き込むなよ」フハハ

吹雪「ご、誤解なんですって!?」ヒィィ

投下終了。
テンポ悪くなりそうでもキャラの掘り下げは確りしていきたい今日このごろ←

かわいい子がイチャイチャしてるのが一番大事で、方法は二の次でええと思うで←

投下開始

――――過去、トラック泊地にて

――談話室、来たばかりの吹雪

シーン

吹雪「…………」ペラ……

吹雪「(空母の艦載機運用とその技法について……か。一通り読んじゃったや)」

吹雪「(まあ、理論が分かった所で私の艤装じゃ艦載機飛ばせないけど)」ハァ

吹雪「……どう潰せば動かなくなるかはわかるか。無駄って訳じゃない」パタン

ガチャッ

伊8「……あら、吹雪」

吹雪「ハチさん、ですか」

伊8「吹雪も、読書中?」

吹雪「いえ、今しがた読み終えた所です。特に目を引く内容でもなかった」

伊8「そう……それは、残念なのかな」

吹雪「まあ、どちらかと言えば。そうだ、ハチさん」

伊8「なぁに?」

吹雪「この鎮守府に、戦術書などを保管している部屋などはありますか? 私の鎮守府には図書室として一部屋あり、良くそこの蔵書で学んでいました」

伊8「うーん……本格的なのは無いかな。ウチの提督も、どちらかと言えば現場で学べ派だから」

伊8「そういうのなら、ここは資料室になるかな。整理は出来てなくて雑多に置いてあるけど、案外色々あるよ」

吹雪「……提督の楽観さは一先ず置いておきましょう。案内、していただけないでしょうか?」

伊8「うん、いーよー。着いてきてね」

――――資料室、昼

伊8「ここだよ」カチャッ

吹雪「……多少埃が気になりますね」キョロキョロ

伊8「まあ、あまり人が入らない部屋だからねぇ」

吹雪「窓は一つ、そこまで広くもない」

吹雪「でも、雰囲気は悪くないと思います」

伊8「そうかな……そういえば、吹雪は今日非番?」

吹雪「いえ。ですが、予定は午前に全て済ませています」

伊8「ああ、それで読書を」

吹雪「案内ありがとうございます、ハチさん」ペコッ

伊8「いいよ、このくらいなら。じゃ、私は行くね」

――――談話室、夕方

伊8「…………」ペラ……

ワイワイガヤガヤ

伊8「(騒がしくなってきたなぁ……ご飯までまだ少し時間あるし、場所を変えようかな)」パタン

――――廊下

伊8「(うーん、もう自室にかえろうかなぁ……ん?)」テクテク

伊8「資料室の電気が点いてる……さっき入った時かな。消しとかないと……」

――――資料室、夕方

伊8「うーん。点けた記憶も無いんだけどなぁ、よし」パチッ

「人が本を読んでるのに明かりを消すのはどうなんですかね」

伊8「うひゃっ!?」ドキッ

伊8「え……?」パチッ

パッ

吹雪「…………」ムゥ

伊8「あ、あっ……ごめんね、気付かなくて」

吹雪「……構いません。わざとでもないでしょうし」

伊8「こんな所で本を読んでるなんて思わなくて……あれ、何だか片付いてる?」

吹雪「ざっとですが、掃除したんです。多少は、人が居れる部屋になったはずですよ」

伊8「(多少どころかピカピカだけれど……)」

伊8「……そんな長椅子あったっけ?」

吹雪「廃材で明石さんに手伝ってもらい、作りました。こういった物がある方が捗りますし」

伊8「へえ……すごいね。私、てっきり持ち出して読むものだとばかり思ってたよ」

吹雪「ここは静かですし、読書に向いていると思いましたから」

伊8「そうだね……あ。実は私も静かな場所を探していたの……おじゃまして、いいかな?」

吹雪「構いませんよ。元より私の部屋じゃないですし」フイッ、ペラ……

伊8「ダン……ん、ありがと」

吹雪「…………」

伊8「(冷たい感じあるし、言葉もちょっとトゲトゲしてるけど……案外優しいのかな)」トスッ

吹雪「……何で地べたに座るんですか、汚れますよ」

伊8「えっ?」

吹雪「長椅子があるでしょう。流石に一人で独占したりはしませんよ」

吹雪「私は端に座りますから、好きにどうぞ」

伊8「そ、それじゃ失礼、します?」

吹雪「…………どうぞ」ハァ

伊8「(……他人を気にはしてるんだ。いや、むしろ敏感な方なのかも)」

――――次の日、夕方

ガラッ

伊8「(あ、いる)」

吹雪「…………」チラッ、フイッ

伊8「(好きにしろってことかな)」

伊8「(長椅子の端に寄ってくれた。これ、何人くらい座れるかなぁ)」

伊8「(eins、zwei、drei、vier、fünf……大の大人で5人くらいかな)」

伊8「(まぁ、はしっこに座るから意味はないけど)」

――――次の日、夕方

伊8「(今日もいる)」

吹雪「…………」スッ

伊8「(あ。空けてくれた)」

伊8「(……窓が磨かれてる)」

――――次の日、昼過ぎ

伊8「(この時間にもいるんだ。たまたまかな)」

吹雪「うーん……」

伊8「グーテ……こんにちは、吹雪。何を探しているの?」

吹雪「……ハチさんですか。気付きませんでした」

伊8「随分と集中していたみたいだけれど……」

吹雪「実は潜水艦の要項書を探してまして……」

伊8「ああ、それならこっちに――」

――――次の日、夕食後

伊8「(あ、いた)」

吹雪「……ハチさんですか」チラッ

伊8「うん、グー……こんばんは」

吹雪「夕方も会ったでしょうに」クス

伊8「っ」ドキッ

伊8「(吹雪も笑うんだ……まあ、当たり前かぁ)」

伊8「(本を探してるのかな。私は先に座って読んでよう)」

吹雪「……これにしよう」

トスッ

伊8「…………」ペラッ、チラ

伊8「っ」

伊8「(無意識なのかな。座る場所が少し内側になってる)」

伊8「(……まあ、すみっこって角が立って少し疲れるし。私も少し内に寄って楽にしよう)」

――――次の日

伊8「…………」ペラッ

吹雪「…………」ペラ……

――――次の日

伊8「…………」ペラッ

吹雪「…………」ペラ……

――――次の日

伊8「…………」ペラッ

吹雪「…………」ペラ……

――――次の日

伊8「…………」ペラッ

吹雪「…………」ペラ……

――――そして

伊8「(……ふう、この本も読み終わった。さて――あれ?)」

伊8「っ」ドキッ

吹雪「……む」ピクッ

吹雪「……何か?」

伊8「い、いや何でもない、よ……?」

吹雪「そうですか」

伊8「(あれ、あれ? こんなに近かったっけ……いつの間にか人一人分も無くなって)」

伊8「(……ん? でも今日ははっちゃんが後に来たから……この位置に座ったのは私?)」

伊8「(……吹雪は……特に気にしてなさそう。嫌って訳でもないみたいだけど)」

――――夕食時の食堂

伊8「…………」コトッ

伊8「……たまにドイツ風のご飯も食べたくなるなぁ。また■■■■とかこっちに来てくれたらいいのに」

伊8「(……あれ、吹雪がいない)」

伊19「あ、ハチなのね。ちょっといい?」

伊8「どうしたの、イク?」

伊19「吹雪をヒトゴーマルマルくらいから見てないのね。知らないのね?」

伊8「(その時間なら、もしかして……)」

伊8「それは……あ」

伊19「何か知ってるのね?」

伊8「……いや、見てないよ。心配だね」

伊19「うーん、どこに行ったのね……」

伊8「(常に恋人の動き把握してたい彼女みたいな顔なんだけれど)」

――――資料室

伊8「あ、やっぱり居た」

吹雪「……ん、ハチさん。どうしましたか?」

伊8「もうご飯の時間だよ、吹雪。遅いから、多分ここかなって」

吹雪「あ、本当ですね。すいません、手数をお掛けしました」

伊8「イクが探してたよ。ここに居るのは知らないの?」

吹雪「……ここの面子は騒がしいですからね、この部屋も知らないでしょうから、その方が良いと思って」

吹雪「ハチさんは静かな人ですから、嫌じゃないですけど」クスッ

伊8「そ、そう。早く行かないと食べ逃すよ」

吹雪「そうですね。失礼します」





伊8「…………うー」カァァ


――――そして、色々あった後の吹雪

――――資料室、午前

ガラッ

吹雪「あっ、ハチさん。お早いですね」

伊8「吹雪……グーテ、あ。おはよう」

吹雪「ふふっ」クスッ

吹雪「Guten Morgen. ハチさん」

伊8「っ。ちょっと恥ずかしいなぁ」

吹雪「ちょっぴりだけ勉強しましたので。ハチさんのドイツ語も少しはわかりますよ」

伊8「そ、そう。ありがと」

吹雪「はは、何ですかそれ」クスクス

伊8「……何だか明るくなったねぇ、吹雪」

吹雪「うーん、まぁ。この間ので少し吹っ切れたと言いますか、まあ」ポリポリ

伊8「そっちの方が吹雪らしい感じがするよ」

吹雪「うるさくないですか?」

伊8「別に、気にならないよ。それに、吹雪なら多少は構わないし」

吹雪「はは、ありが――いや、Danke schön.」ニコ

伊8「……うー」カァ

吹雪「あ、所でハチさん、この本なんですけどね」スッ

伊8「なになに?」

吹雪「ここの文献が興味深くてですね――」

伊8「ふんふん……ん」

伊8「(あれ……また近くなってる。もう隣りにいるより近い)」

伊8「(…………)」

伊8「(……ま、いいか)」

吹雪「……あれ、顔赤いですよ? 熱でもあります?」

伊8「な、何でもないっ!」フイッ

――――また別の日、夕方

伊8「吹雪ー、いるー?」

伊8「……げ」

吹雪「わかります、わかりますとも」

伊19「人の顔を見て、げ、とは何なのね」ムッ

伊8「……イクにベッタリ貼り付かれて読書になるの?」

吹雪「正直なってません」

伊19「んー、吹雪もうちょっとかかるのね?」スリスリ

伊8「むっ」

吹雪「かかります」

伊8「興味無いんだけど彼氏がやってるから仕方無しに着いてきてる彼女か」

伊19「そんな……彼女なんて照れるのね」クネクネ

伊8「(都合の良い所だけしか聞いてないよコイツ)」ムゥ

伊8「ほらベタベタしない。ここは読書する人だけの部屋。へーやー」グイグイ

伊19「ああ、止めるのね、はーなーすーのーねー!」ジタバタ

伊8「離しません、はい出て出て」ペイッ

ガチャッ

伊19「――あ、あぁっ! 鍵かけやがったのね!?」ドンドンッ

吹雪「アハハ……イクさん、晩御飯には顔出しますんでそれまで暇でも潰してて下さい」

伊19「うー……ハチ、覚えてろなのね」

伊8「文系になってから出直しなさい」

――――

伊8「全く……イクは困り者なんだから」

吹雪「はは……まあ、嫌われてないのは有り難い事です」

伊8「そうやって甘やかすから……あれ、これは?」

吹雪「ああ、それですか? 高い所の本を取るための踏み台です。明石さんに作ってもらいました」

伊8「へえ、ちょうどいいね……これなら楽になる」キシッ

伊8「おー、届く届くー」

ギギ……ガタンッ!

伊8「わ――?」グラッ

吹雪「――あっ、ぶな!?」バッ

ドガシャンッ!

伊8「あ、あいたた……」

吹雪「いってて……明石さんめ。踏み台、どっか増し締めサボったなぁ……!」

伊8「――ふ、吹雪。大丈夫? 下敷きにしちゃって――んくっ」ピクッ

吹雪「大丈夫です。元よりマットになるために飛び込んだようなものです。受け止めきれず、申し訳無い」

吹雪「(……やわらか――あ)」

吹雪「す、すいません。な、何か触っちゃってて――ハチさん?」

伊8「…………」ポケー

吹雪「あ、あの。取り合えず退いてもらえれば……」

伊8「(なんだろこれ、吹雪何か言ってるけどグルグルしてわけわかんない。すごいグルグルしてる)」ジー

吹雪「…………?」

伊8「(何してたんだっけ……何しなきゃ……?)」

――――廊下

伊19「遂に念願の鍵を手に入れたのね!」ルンタルンタ

利根「あそこは開けっ放しだったからのう。何処にしもうたか提督も忘れとったの」

龍譲「しっかし君の行動力もスゴいなぁ、イク」

伊19「伊号潜水艦はいつも押せ押せなのね! さて、開けるのね」

伊19「覚悟するのね、ハチ――って、え?」



吹雪「あ、イクさん」

伊8「――――!?」ハッ



利根「なんじゃなんじゃ」ヒョイッ

龍譲「おもろいもんでも見れるんか?」ヒョイッ

伊19「なっ……なっ……!?」パクパク

伊8「こ、これはちがくて……」ガバッ

吹雪「アイタタ……怪我はなさそうですか、ハチさん」

利根「(ハチが吹雪を)」

龍譲「(押し倒しとったね)」

伊19「ふ、吹雪とエッチな事するためにこのイクを追い出したのね!?」

伊8「ち、ちがうよ!?」

吹雪「あー、これはですね」

伊19「そういえば初めて連れ込んだ日もむっつりだったのね! このむっつりハチべえなのね!」

伊8「むっつりハチべえ!?」ガーンッ

利根「ぶっふ」

龍譲「あっはっはっ、それ語呂ええなぁ! ええ酒のつまみできたわ!」

伊8「あ、ああぁ……」ガタガタ

吹雪「ははは……後でフォローしときますよ」ポンッ

伊8「お、お願いね……」





伊19「言ってくれれば3Pでも良かったのね?」

伊8「ちがうってば!」

――――吹雪の私室近くの廊下、夜

伊8「酷い目にあった……みんな酒が入ってからの話題がずっとはっちゃんの事だった……」ヨロヨロ

「はーちさん」ポンッ

伊8「吹雪……酔っぱらいは?」

吹雪「あんまりにしつこいんで物理で黙らせてきました」シレッ

伊8「え」

吹雪「ハチさんが落ち込んでましたし、真面目な人が割りを食うのアレじゃないですか」

伊8「や、やり過ぎてないよね」

吹雪「大丈夫」ニッカー

伊8「いい笑顔すぎてこわいよ」クスッ

伊8「しかし困ったなぁ。もうあそこで静かに読書は難しそうだよ」

吹雪「多分今もイクさんスタンバってる気がしますね」

伊8「また談話室に逆戻りかなぁ」ハァ

吹雪「……あ、なら私の部屋に来ます? 広くはないですが、落ち着ける空間は約束しますよ?」

伊8「あ、それはいいかもね。実は読んでおきたい本があって……」

吹雪「どうぞどうぞ! こっちですよー」

伊8「あ、ここだったんだ。じゃ、おじゃまします」




吹雪「ごゆっくり」ニコッ

吹雪の部屋に隠れるのよ、からの、閉じ込められた!←

投下終了

投下開始

――――回想、トラック、来たばかりの頃

――――昼休み、浜辺、波打ち際

吹雪「……いい天気。一息入れようか」

吹雪「ふう……昼からは――資料室でも行こうか」

パシャッ

吹雪「――水音。波じゃない……?」スクッ




伊401「――ぷはっ。またも潜水速度更新! さすが私!」ザバー

吹雪「……何だ、しおいさんか」

伊401「ん? あ、吹雪。どうしたの? 吹雪も泳ぎに?」

吹雪「いえ、音が聞こえたので……何事かと思い」

伊401「ふーん。あ、そうだ。私そろそろ上がるから、一緒にラムネでも飲もうよ」ザバッ

吹雪「…………」

伊401「……なに?」

吹雪「いや……」





吹雪「何でパンツ一枚で泳いでるのか理解できてなくて」


伊401「やだなぁ吹雪、さすがにパンツははくよー」ケラケラ

吹雪「脱げって言ってんじゃねぇですよ!? 何で着てないのかって意味です!」

吹雪「――あっ」アセッ

伊401「んふふー。素の吹雪みーつけたー」ニヤニヤ

吹雪「……せめてパンツは色付きにしたらどうです? 透けて全く隠せてないですよ」

伊401「あー。ま、減るものでも無いし?」

吹雪「確かに私も得はしませんがね……」

伊401「……あっ」ササッ

吹雪「何で急に隠したんですか。今何に気付いたんですか」

伊401「あぶないあぶない。しおいは美味しくないよー」

吹雪「だからぁ!」クワッ

伊401「くっ、あははっ。やっぱりこの手のネタでからかうと面白いなぁ吹雪」ケラケラ

吹雪「……早く着替えたらどうです? その格好のしおいさんを提督が見たらどうなるやら」

伊401「筑摩さんが飛んできて瑞雲ラリアットをかますだけだよー」

吹雪「…………物騒ですね」

伊401「お、今ツッコミを耐えたね。えらいえらい」ナデナデ

吹雪「…………ラムネはいいです。私はこの後用事があるので」フイッ

伊401「そっか。なら仕方ないね」

吹雪「……失礼します」

伊401「うん。ラムネはまた今度ね」





伊401「うーん、肩肘張っちゃって。ずっと服着てたら疲れちゃうのに」


――――資料室、夜

伊8「ふう……吹雪、私は引き上げるから明かりだけ消しといてね」

吹雪「ん……いや、私も出ます」

伊8「そう……その本、持っていくの?」

吹雪「はい。せっかく探してくれましたし、少し読み込みます」

伊8「ああ、なるほど。じゃ、また」

吹雪「ええ」

――――廊下、夜

伊401「お」バッタリ

吹雪「…………」ペコ

伊401「本なんか持ってどうしたの? 勉強?」

吹雪「ええ、まあ。そう大層に言う程でもありませんが」

伊401「へー……ん、これ潜水艦の戦術書だよ? 間違ってない?」

吹雪「いえ。いざ演習や実践で潜水艦と相まみえるか分かりませんので」

伊401「そっかー。真面目だね」

吹雪「……普通ですよ」

伊401「うーん。ならさ、私と個人演習でもする? これでも腕に自信はあるんだから!」エヘンッ

吹雪「それは……願ってもない事ですが、勝手にやっていいものでも無いでしょう」

伊401「提督に一声掛ければ大丈夫だよー。訓練の為の資材は惜しまない人だから」

吹雪「それは……大変好ましいですね」

伊401「えっ、提督まで食べるの? 血で血を洗う争いになるよ?」ウワァ

吹雪「しおいさんが私をどう思ってるのかよーく分かりましたよ」イライラ

――――昼休み、浜辺沖

伊401「よーし、この辺でいっか。やれる?」

吹雪「ルールは?」

伊401「お、やる気出てるね。そうだねー、訓練用の爆雷を一発でも当てれたら吹雪の勝ち」

伊401「昼休みが終わるまで逃げ切ったら私の勝ちね」

吹雪「……そっち、回避するだけでいいのはズルくないですか?」

伊401「だって潜水艦ですしー。逃げ切るのも仕事だしー」フンフンー

伊401「それともなに、無理かなー?」ニヤニヤ

吹雪「……やりましょう。時間が足りなくなります」

伊401「はいはーい♪」

――――昼休み終わり、浜辺

吹雪「…………」ゼーッ、ハーッ

伊401「ふふん、私の勝ちー」ドヤッ

伊401「どうかな? 本だけじゃ分かんないでしょー。百聞は一見鹿さんのようって言うしね」

吹雪「言いませんし……次は勝ちますし……」グッタリ

伊401「あははっ。勝てたら、その時はラムネおごるよ」

吹雪「やってやろうじゃありませんか……!」

――――次の日

吹雪「爆雷を当てる……!」バシュンッ

伊401「かるいかるい」スイスイ

――――次の日

吹雪「数打てば一つくらい……!」バシュバシュンッ

伊401「おっとと、まだまだ」スイスイ

――――次の日

吹雪「今だ――なっ!?」ドカンッ

伊401「へへー、魚雷撃たないとは言ってないもーん」クフフー

――――次の日

吹雪「なら私だって――あいったぁ!?」ガツンッ

吹雪「――爆撃機ですって!?」ヒリヒリ

伊401「晴嵐さんは友達だもーん。よーし、きゅうそくせんこー!」ゴボゴボ

――――そして色々あって

――――資料室、朝

吹雪「うーん……」ペラッ

伊8「ん、どうしたの吹雪?」ヒョイッ

吹雪「潜水艦に上手く攻撃を当てるにはどうしたら良いんでしょうか……」

伊8「遂にイクを撃退する覚悟ができたの?」クスッ

吹雪「いや、別件ですが……」

伊8「まあ、やっぱりソナーは嫌かな」

吹雪「それは当然積んでます」

伊8「後は、やっぱり潜れないのが困るよ。だから浅瀬や岩礁には近付かない」

吹雪「っ」ハッ

吹雪「――そりゃ、そうですよ! 何で気付かなかったんだ!」ガタッ

伊8「ふ、吹雪?」ビクッ

吹雪「(バカみたいに真面目にあのフィールドで戦わなくてもいいんだ。どこかに誘導できれば!)」

吹雪「ありがとうございます、ハチさん!」ギューッ

伊8「あ、あわわ。ど、どういたしまして……」カァァ

――――昼休み、浜辺沖

吹雪「さあ、やりましょうか!」

伊401「はっはっはー、今日も返り討ちだよキミー!」

吹雪「そうはいきませんよ、今日は秘策がありますからね!」フフン

伊401「あれから吹雪元気だねぇ……ノリが良くなったね!」

吹雪「あ、いやまあ。その節はご迷惑をおかけしました……」アハハ……

伊401「いやまぁ絶好調みたいで何よりだよー。知らない間にハチとも仲良くなってるみたいだし」

伊401「……噂は聞いたんだけど、ホントにハチに手ぇ出しちゃったの?」ニヤニヤ

吹雪「だからぁ!! 私は至って普通の艦娘で!! そっちの気は無いんですって!!」プンスカ

伊401「アハハハッ、知ってる知ってる。そんな度胸も無いだろうしねー」

吹雪「……イクさんの話、知ってますよ」

伊401「やめて」

吹雪「一晩中だったって聞きましたよ」

伊401「ホントごめん。アレは酔ってただけなの、仕方無いの」ズーン……

伊401「――ってかそれは吹雪もじゃん!」

吹雪「私あんまり覚えてないんですよね。気だるさとかも無かったし、そういう事には及んでないかと」フフン

伊401「(覚えてない方が怖い)」

吹雪「……ま、始めましょうか。時間も無いし」

伊401「うん、じゃ――当ててみろっ!」ドボーン!

吹雪「いきますっ!」

――――沖

吹雪「当たれ!」パパパパシュッ

伊401「ふふーん、まだまだ狙いが甘いねっ」スイスーイ

吹雪「(それはそう。端から当てる気は無い、これは誘導の為)」

吹雪「(で、魚雷――いけっ!)」パシュッ

伊401「爆雷ばらまくだけじゃ当たら――うおっとぅ!?」ビクッ

伊401「ら、雷撃混ぜてたんだ……あぶないあぶない」

吹雪「(意識が逸れた――から、砲撃!)」ドゥンッ!

伊401「お、それは悪手じゃない?」トプンッ

伊401「隙有り、晴嵐さんいっちゃってー!」パシュッ

吹雪「くっ――」

吹雪「(ここから! 気取られないように――)」ザザァッ!

伊401「よしよし、後は晴嵐さんが時間を稼いでくれるから……適当に逃げれば終わりだね」スイスイ

吹雪「逃がしませんよ!」

吹雪「(ソナーで位置は……わかる)」

吹雪「爆雷、投射!」パパシュッ

伊401「お、やるー」ススー

吹雪「(で、晴嵐の爆撃は――気合いで、避ける!)」バッ

伊401「(飛んで避ける……相変わらずあの鎮守府の艦娘は、上から下まで海上機動力化け物染みてるなー)」

吹雪「――よし!」

伊401「えっ――あっ!?」

――――離れ小島、入り江の浅瀬

伊401「やっちゃった……深さが足りない!」

吹雪「これで――当てます!」パシュッ

伊401「な、なんのぉ!」ザバァッ!

吹雪「浅瀬に逃げても無駄です!」ザザァッ!

伊401「よくわかってる――あいたぁっ!?」ザシュッ

吹雪「(動きが止まった――? 今だ、接近する!)」ザザァ……!

伊401「あー、無理かな……」

吹雪「追い付きましたよ、しおいさん。さて、この手にありますのは訓練用の爆雷ですが」フフン

伊401「うー……」

吹雪「これをおでこに」コツンッ

伊401「うぐ」

吹雪「これで、私の勝ち、ですね?」ニッ

伊401「うー、やられたなー……あいたたっ」ズキッ

吹雪「えっ……ど、どうしましたか?」アセッ

伊401「うーん、岩で切っちゃったみたい……ほら、左足の内ももから先までスッパー」ダクダク

吹雪「――た、大変だ!? 出血も酷い……!」

伊401「おおげさだなぁ。このくらいはすぐ治るよ……てて」ズキズキ

吹雪「と、とりあえず海から上がりましょう――この島、確か……!」ダキアゲ

伊401「わわっ……重くない?」

吹雪「しおいさんの艤装生きてますから、そんなには……行きますよ」

――――離れ小島、狭い砂浜、影

吹雪「これは――ひどい」

伊401「けっこー深く切れてるね。あー、跡残るかなー……?」

吹雪「っ」

吹雪「――ちょっと、失礼しますね」スッ

伊401「ふ、吹雪?」ピクッ

吹雪「はむっ」ピチャッ

伊401「んひっ!?」ビクンッ

吹雪「ん……む……」

伊401「(な、舐められ、てる――!?)」

伊401「な、何を!?」

吹雪「ぷあっ……私の艤装の中に緊急用の修復材があります。すぐに傷口の塩分を取り除いて塗り込めば、切り傷くらいならたちまち治るはずです」

吹雪「すいませんが、じっとしていて下さいね……」ペロッ、ピチャッ……

伊401「そ、そんな――あっ」

吹雪「…………」

伊401「あ……はぁっ……くう……」

伊401「(こ、このまま上がってくるの……? ちょっと――)」

吹雪「内ももが……ちょっと、足広げますね」グイッ

伊401「やっ、待って――」

吹雪「んむ」チュッ

伊401「あっ、はぁぁぁっ!?」ビクンッ

伊401「はーっ、はーっ――あはぁっ!?」ゾクゾクゾクッ

吹雪「…………んむっ、よし。これで後は」

伊401「お、終わったぁ……?」

吹雪「塩気も無くなりました。薬、染み込ませますね」

――――

伊401「……ホントに治ってる」

吹雪「貴重なヘソクリだったんですけどね、私のせいみたいなものですし」

伊401「まあ、助かったよ……ありが、うっ」クチッ

吹雪「? どうしました?」

伊401「い、いや、なんでもないよー」

伊401「(うー、帰ったら水着変えなきゃ……ベトベトだぁ)」アセッ

伊401「い、いやーしかしやっぱり何? 手慣れてたねー!」アハハ……

伊401「さすが夜のイクを撃退しただけはあるね! アハハッ!」ケラケラ

吹雪「(むう、また……あ、そうだ)」
ニヤッ

吹雪「またそうやって言う……っと」トンッ

伊401「おうっ?」トサッ

ザリッ

吹雪「…………」

伊401「……ふ、吹雪? ふぶきさーん?」オズオズ

吹雪「……今、どうなってます?」ニコ

伊401「……寝てる私を吹雪が押し倒してる?」

吹雪「正解です。では問題、もし私が本当にそっちの気があったら」




吹雪「今からしおいさんはどうなってしまうでしょうか?」グイッ

伊401「えっ――」

吹雪「……ふふっ、冗談ですよ。帰ったら、ラムネをお願いしますね」クスクス

伊401「な、なんだぁ……ちょっとビックリしたー……冗談かぁ」フー

吹雪「そうそう、冗談ですよー」










吹雪「――今日の事は全部、ね」

違う、今日俺は休むつもりだったんだ!
でもしばふが勝手に!←
今回は描写が有りましたがアレは医療行為なので吹雪がレズなのはまだ確定していません。シュレディンガーのレズです←

投下終了(あとがきに書き忘れる音)

投下開始

――――浜辺、夜の闇に呑まれ

吹雪「――夢か。随分と、懐かしい思い出だった」

吹雪「艤装のメンテしてる途中で意識飛んでたかな……明石さん?」

明石「…………」スヤスヤ

吹雪「寝てる……まあ、波の音が近いから」

吹雪「……私も少し眠ろう」

――――回想、強さだけを求めていて

――――トラック泊地、初日、夕方、司令室にて

コンコン――ガチャッ

吹雪「……失礼します。駆逐艦吹雪、本日付けでこの鎮守府に着任――」ピシッ

「ああ、そういうのはいい」

吹雪「……では、お言葉に甘えても?」



吹雪「――提督?」



提督「ああ。構わんという意味を籠めたつもりだったが」

吹雪「……いきなり着任させられるとは思っていませんでした」

提督「それは向こうの采配であって俺の落ち度ではない。事実、俺は書類に纏めて向こうの司令官様――いや、君たちのところは司令官では無く■■■■――そっちに送り届けているぞ?」フッ



提督「……いやしかし、まさかお前が来るとはな」



提督「まあ、駆逐艦を一隻こちらに回してくれという内容だったからな。ギリギリまで見極めたかったんじゃないか?」

吹雪「私をですか……?」

提督「ああ。どうも奴さん、お前は一時も手放したくなかったようでな。だが、環境を変える事がお前の為になると――そうせざるを得ないと判断したんだろうな」

吹雪「……身に覚えがありません」

提督「先日の南方泊地との合同演習は俺も見ていたが、もう一度同じ台詞を言ってみろ」

吹雪「……身に覚えがありませんね」

提督「ほう、なるほどな。筑摩」

筑摩「はい」

提督「適当に面倒を見てやれ……とは言っても、ウチの奴らは新しい物が好きな奴ばかりだし問題はないだろうが」

筑摩「ええ、承知いたしました、提督」

提督「何だ? そこのクソ真面目な堅物の真似か?」

筑摩「あらあら、最初くらい格好を付けさせて下さいな。秘書艦ですもの」フフッ

提督「すまないな……さて、吹雪」

吹雪「…………」

提督「例の艦隊はお前自身を旗艦として空母2、高速戦艦1、重雷装巡洋艦2の六隻の艦隊だったな」

提督「何と強力な艦隊だろうか。火力に関しては追随を許さないだろうな。対する南方泊地の艦隊は7隻」

提督「数では勝るが、戦艦2、航空巡洋艦1、駆逐艦4。やはり航空戦力の差は大きい」

提督「事実お前の艦隊は演習に勝利した。素晴らしいな」



吹雪「……貴方も、ご不満のようで」

提督「まあな。アレは艦隊戦ではなかった。統率や戦術は南方泊地の――彼女らは『西村艦隊』と呼ばれているが――そっちの方がより、いや寧ろかなり洗練されていると言っていいだろう」

提督「まずお前らの空母どもは発艦が遅れた。連携が取れておらず、また空母同士がお互いを信頼していなかった。索敵も攻撃も全てお互いが各々に行った」

提督「多少の損害は与えたが、戦艦二隻の精密な砲撃に被弾する。先行してしまったせいで雷装艦の雷撃も遅れるまま、敵航巡の砲撃にて魚雷発射管を破損した。これではカカシの方がマシだな」

吹雪「……混乱の中高速戦艦が砲撃を繰り返すが、突貫してくる敵駆逐艦4隻は巧みに回避――雷撃にて高速戦艦を撃墜判定にした……ですか?」

提督「ああ、そうだ。俺も、こりゃ終わったな。あんまりにも惨めだ――そう思ったよ」



提督「――お前が一隻で飛び出すまではな」

吹雪「…………」

提督「お前は迎撃しようとした駆逐艦の砲撃を『くぐり抜け』て、その腹部にゼロ距離で砲撃を叩き込んだ」

提督「訓練弾とは言え効くだろう。止めようと他の駆逐艦が砲撃するが、お前は――その駆逐艦を盾にして防御した」

提督「ゾクゾクしたね。こんな奴が敵でなくて良かったとも思う」

吹雪「……やらねばならないと思ったから、やったまでです」

提督「そうか。しかしそれは存外効果を挙げた。相手の砲撃が止んだからな」

提督「お前はその駆逐艦を捨て、一気に戦艦二隻に接敵した。当然駆逐艦3隻は追い掛けてくる」

提督「挟撃になる、がお前はそれすら逆手に取った。砲撃の射線を常に意識し、同士討ちになりかねないような位置取りを心掛けていたのだろう?」

吹雪「……みな」

提督「ん?」

吹雪「彼女らは皆、優しそうな人たちでしたから」

提督「はは。それは保証できるな。奴らは良く知っている」

提督「お前は常識破りの航海をしていた。飛んだり跳ねたり、まるで曲劇だったよ」

提督「後は敵が躊躇している僅かな隙に、近接戦闘をしかけていくだけ」

提督「しかし、時たま背後からくる空母の適当な攻撃でも、流石に意識せざるを得ない」

提督「そこに雷撃や砲撃をぶちこむだけだ」

提督「お前は一人で囮になって、一人で奴らを囮にし、一人で対抗艦隊を殲滅した」

提督「こんな演習をすれば、そりゃこの鎮守府に呼ばれるのも致し方ないという事だ」

提督「とんだ問題児だという自覚はあるか?」

吹雪「ええ」

提督「……にしては、態度が伴っていないが?」

吹雪「問題……問題でしょうが、それでも結果は先に来てしまう」

吹雪「練度不足、連携のミス……それでも実戦なら敵は待ってはくれません」

吹雪「私は先の演習に本気で取り組みました。仲間の状況、状態を鑑み――一人でも多く生存するにはどうすればいいか」

吹雪「課程なんて、些事だと思います。生きて帰る、それさえ出来るならばどうでもいいとさえ思います」



吹雪「――命に取り返しはつかないのですから」

提督「ふむ……見ろ、筑摩。コイツ俺よりよっぽど提督らしい」

筑摩「ええ、少なくとも提督よりは真面目ね」クスッ

提督「はは、違いない」

提督「……所詮演習、負けても沈むわけではないだろう。その為のものなのに、意味が無いとは思わなかったか?」

吹雪「あそこから勝てるかどうか、試したかったと言うのも……無かった訳ではありません」

吹雪「いや、言い訳ですね。私は――少し熱くなってしまっただけなんです」

吹雪「……あの一撃が実弾なら、仲間が沈んでいたという事実に震えてしまった」

吹雪「……感情に囚われたと言う意味では、確かに問題でしょう」

提督「……ここは、他の鎮守府ほど忙しくはない。お前に必要なのは、少し立ち止まる時間なのだろう」

吹雪「……必要とあれば、そうしましょう」

提督「変な所で素直だな。まあいい、吹雪。これからよろしく頼む――話は以上だ、下がっていいぞ」

吹雪「では、失礼します」




提督「……うーむ」

筑摩「どうしましょうか?」

提督「放っておけ。奴らなら勝手に化けの皮まで剥がすだろう」

提督「……最悪イクがやらかすだろう……ああ、頭痛がする」ズキズキ

筑摩「あはは……今晩は歓迎会ですし、吹雪ちゃんは可愛らしいですから。かかるでしょうね、毒牙に」

提督「笑えないな……」ハハ……

投下終了
西村艦隊は後でテストに出ます←

山城は大井よりヤバい感ありません? 俺だけ?←

投下開始

――――トラック泊地、浜辺、昼休み、塞ぎ混んでいた頃の吹雪

提督「日差しが喧しいな。こりゃ早く引き上げな……お、居たか」

吹雪「……なんでしょうかね?」ゼーハー

提督「いやなに、個人演習の申し出を受理したんでな。様子を見ておこうと思ってな」

提督「今のお前の惨状を見る限りは、しおいに手酷くあしらわれている様だが」

吹雪「……じきに勝ちますよ」

提督「こりゃ頼もしい。見た目からはさっぱり分からんが、お前のその闘争心には驚くよ」

提督「で、そのしおいは何処だ?」

伊401「ここだよー」ザバー

提督「む、泳いでいたのか」

伊401「うん。提督、いつもながらガン見だねー」クスクス

提督「そりゃパンツ一丁で可愛い子が泳いでたら見るだろ」ドンッ

伊401「いやぁ照れちゃうなー」エッヘヘー

吹雪「……ちなみに」



筑摩「オラァ!」ドゴォッ

提督「もふんっ!?」ボッ




吹雪「……筑摩さんが瑞雲ラリアットの構えで走って来ていますよ」

提督「索敵結果はもう少し早く報告してくれ……」ピクピク

筑摩「あら、吹雪さん。例の演習ですか?」

吹雪「え、ええまあ」

伊401「んふふー、筑摩さんは逆に提督にセクハラされないから余計ムキになってるんだよ」

筑摩「いいからしおいちゃんも服を着なさいっ!」プンプン

提督「あ、あのなぁ……」ピクピク

吹雪「えっ、当たり前じゃないですか」






吹雪「夜に本腰入れて食べてるんでしょう? 別に昼間から手は出さないのでは?」





シーン

伊401「(やっぱ吹雪喰ってるってヤバいって)」

筑摩「…………」カァァ

提督「(なんでコイツ『当たり前だよなぁ?』みたいな顔してんの怖い)」

吹雪「?」

雌伏のレズよ。逆境の中で研ぎ澄まされし砲を挙げ、反逆の翼翻せ!
エクシーズ抜錨! 現れろ――ランク4! RR(ダブルレズ)-吹雪・ファルコン!←

投下終了

レイドラプターズ真面目に好き←
投下開始

――――『あの後』の吹雪、浜辺、昼

伊401「いやぁ、今日もいい天気だねぇ……」クピクピ

吹雪「そうですねぇ。世は全て事も無し……こんな日ばかりならどんなにいいか」フゥー

吹雪「……って言うか私勝ったんですが、約束忘れてません?」

伊401「んー? あ、ラムネの話?」カラカラ

吹雪「ええ」

伊401「いやー、忘れてた。ごめんね……私の飲みさしで良ければ」ス

吹雪「日差しが暑すぎなければ断っていた所ですが、頂きます」

吹雪「しかし、私……実はこのラムネのビー玉が苦手でして」

伊401「飲みにくいってこと?」

吹雪「ええ、舌を入れなければいけないので……少し」チュクッ

伊401「んっ」

吹雪「ん……む……」レロ……コロコロ

吹雪「んー……ん、くっ……」チュッ、コクコク

伊401「……あのさぁ」

吹雪「ん? なんです?」

伊401「無駄にエロい飲み方するのやめよーよ……」

吹雪「えっ、そんなつもりは!?」ガーン!?

伊401「無意識ならなおタチが悪いよ」

提督「全くだ」スッ

吹雪「あ、提督。お疲れ様です」

提督「あの吹雪が出会い頭に労ってくるようになるとは、感動的だな」フッ

提督「だが吹雪、砂浜に座るのはいいが……スカートが捲れてパンツが見えているぞ」

吹雪「あ、これはお見苦しい物を見せてしまいましたね」ナオシナオシ

提督「いや、見れるならずっと見てても飽きんがな」

吹雪「変態ですね」ハァ

提督「誠実なだけだ。自他共にな」

伊401「こんなんでも惚れちゃった弱みなんだよー、筑摩さん」

吹雪「まあ、こう見えて真面目ですしね。試してみましょうか?」スック

提督「何をするつもりだ……?」

吹雪「今から、私のスカートを少しずーつ、上げていきます。提督さんがどれだけ耐えられるのか、検証ですよ」ニヤッ

提督「色仕掛けなど俺には通用せんぞ」

吹雪「何か勘違いしていますね」



吹雪「背後にいる筑摩さんのラリアットの乱打をどこまで耐えられるか、ですよ」

筑摩「…………」

提督「はっ!?」

吹雪「一撃で仕留めちゃったかー」

提督「」

筑摩「もうっ。提督をからかったりしたら貞操が危ないのよ?」ムー

吹雪「ふふっ、筑摩さんの提督さんを取ったりはしませんよ」クスクス

筑摩「も、もう!」





吹雪「提督さんは、ね」ボソッ

筑摩「……!?」

伊401「(貞操の危機なのは誰なのやら)」

奪われたレズは……必ず奪い返す!←
投下終了

そういえばまだこのスレは移動勧告うけてないのか
はよう濃厚なレズシーン書こうや

>>681
いやだからレズじゃないんですって←

書いても書いても本筋が進まねぇ←
投下開始

――――来た頃の吹雪、明朝、トラック泊地母港

吹雪「…………」

「おっ、早いね」

吹雪「……イムヤさん」

伊168「おはよう、天候も悪くない。絶好の仕事日和だねー」

吹雪「ええ、まあ」

伊168「今日は物資輸送が主になるから、吹雪と私で輸送船護衛ね」

吹雪「了解です。電探にて索敵を行いつつ、追従します」ザッ

伊168「あー、そんなに堅苦しいものじゃないから気楽に行こ、気楽に」

吹雪「……命令ならば」

伊168「はい、命令」ニッコリ

吹雪「……了解しました」

伊168「さて、じゃあ抜錨しますか!」

――――南方泊地へと、道すがら、昼

ザザァン……

吹雪「…………」

伊168「んー……」ピコピコ

吹雪「あの、それ何です?」

伊168「ん、これ? スマホー」

吹雪「……仕事中ですよ」

伊168「仕事の報告書、書いてるんだけれど?」ニヤ

吹雪「うっ」

伊168「お」パシャッ

伊168「吹雪の貴重な申し訳無さそうな表情ゲットー」クフフッ

吹雪「……実際、申し訳ありません。ですが、その写真は」

伊168「イク辺りが買うでしょ」

吹雪「……まさか」

伊168「でさでさ、あの夜にホント何があったの? すごくすごーく、気になってるんだけどさ」キラキラ

吹雪「……覚えていません。ですが、皆さんが勘ぐるような事は無かったと思いますよ」

伊168「覚えてないのに思うのっておかしくない?」ニヤッ




吹雪「それは――イムヤさん!」バッ





伊168「知ってる。はぐれ深海棲艦でしょ?」

吹雪「え、ええ。かなり離れていますが……」

伊168「駆逐1か。気付いてないし、無視して進もう」

吹雪「…………」

伊168「輸送船も居るしね。こんな所で使うもんでも無いでしょ、その殺気も」

吹雪「っ」

吹雪「……了解です」

伊168「そうそう。じゃ、先を急ごうか」

――――南方泊地、母港、夜

伊168「よーし、一仕事終えたぞー!」ノビー

吹雪「今日はすぐに帰投するんですか?」

伊168「んー、どうしよっか。普段なら一晩休んでから帰るんだけど……吹雪、ここ気まずくない?」

吹雪「何故です?」キョトン

伊168「いや、聞いたんだけど。吹雪、ここの艦隊を演習でボコしたって」

吹雪「ああ……別に気にしませんし、向こうも気にも止めないでしょう」




「止めてるよ……」



伊168「お、やっほー。お邪魔してるよ」

吹雪「……あの時の高練度艦の方ですか」




吹雪「――時雨さん」





時雨「やあ。いい夜だね、吹雪。■■は元気かい?」

吹雪「先日強化武装を受け取って前線に引っ張りだこでしたね」

時雨「はは、■■らしいや」クスッ

投下終了
やっと二人目(意味深)

重ねて言うけど吹雪はレズじゃないよ←
投下開始

――――南方泊地、客室

時雨「はい、イムヤさん。いつもの部屋だけど、いいかい?」

伊168「うん。あ、そういえば相部屋になるのか……」

時雨「う、うん。いつも通りね。何か問題があったかい?」

伊168「…………」チラッ

吹雪「…………?」

吹雪「…………」ハッ

吹雪「…………」ムッスー

伊168「……いや、何でもないよ」クスッ

伊168「名誉の為にも、ここは信用するから」

吹雪「……ありがとうございます」

時雨「な、何の話なんだい? ……気になるな」

伊168「好奇心は駆逐艦だろうが殺しにくるから止めておこ?」

時雨「は、はぁ……?」

――――南方泊地、ドック、夜

伊168「ふぃー、良い湯だねー」カポーン

吹雪「…………」ゴシゴシ

伊168「……もうちょっとリラックスしたらー? お仕事も終わったのにずっと気を張ってるみたい」

吹雪「別に、そういう訳では」

伊168「ここの鎮守府はどう?」

吹雪「やはり位置のせいか、若干高温多湿気味ですね。ですが、過ごしにくいというほどでもない」

吹雪「概ね、拠点としては良好でしょう」

伊168「あー、そういう感想が先に出ちゃうかー……うーん」

吹雪「何を仰りたいのですか」

伊168「いや、まあ。いいかな、何でもないよ」フフ

吹雪「…………」ザバー

ガヤガヤ

吹雪「…………」

伊168「お、団体さんだね。西村の皆かな」

ガラッ



最上「そこで僕は言ってやったのさ、『衝突禁止!』ってね」アハハ

満潮「アンタいっつもそればっかりじゃない」ハァ

山雲「うふふー、山雲も気を付けないとー」クスクス

朝雲「山雲はぼんやりしてるんだから、ホントよ?」モー


伊168「やほ、最上。先に頂いてるよ」

最上「あ、イムヤ。それと――うげっ」



吹雪「……何か?」



満潮「何か、ですって?」ツカツカ

山雲「あ、み、満潮ちゃん」オロオロ

朝雲「吹雪……貴女よくもまあノコノコと顔を出せたもんね!」

最上「お、おいおい。流石にそんな喧嘩腰はまずいよ」

満潮「最上はちょっと静かにしてて」キッ

最上「う。まぁ、言わんとするところは分かるけどさぁ……」

伊168「まぁまぁ、好きにさせてもいいんじゃない?」フフッ

最上「そりゃ君らの鎮守府ならそれでもいいかもだけどさぁ……ウチの子は血気盛んだからねぇ……」ウムム

満潮「…………」ギロ

吹雪「……もう一度言いましょうか?」

朝雲「何をよ」

吹雪「……『何か?』」

満潮「――随分と得意気じゃない。さすが、エースは違うわね」

吹雪「エース、ですか?」

満潮「ええ。駆逐艦の中ではかなりのやり手らしいじゃない、アンタ。ウチの時雨ほどじゃないけど」

吹雪「……そんなんじゃあありませんよ」

吹雪「そうだとしたら、それは――」



吹雪「――回りの練度が低すぎるだけでしょう」


朝雲「――あっ、アンタ!」

山雲「あ、朝雲ちゃん……お、抑えて……ね?」

満潮「随分な言い種ね。随分、随分、頭に来るわ」

吹雪「……先日の演習の事を、まだ引き摺っていらっしゃるようで」

満潮「そうね。演習にも関わらず、メチャクチャやらかされりゃ……良い顔は出来ないわよ」

朝雲「だ、大体アンタが山雲を人質になんてしなきゃ私たちが勝ってたのよ!」

吹雪「そうですか。なら私の判断は間違っていなかった」

吹雪「……一番トロそうな方でしたからね。弱点は突かれて然るべきでしょう」チラ

山雲「っ」ビクッ

朝雲「お、お前ぇぇ!!」ブンッ

吹雪「む」パシッ、シュルッ

朝雲「っ――(腕を、取られた!?)」

伊168「あー、ソフトにねー」

吹雪「……ふっ」グルンッ

朝雲「う、わ」フワッ

バッシャアァァン

山雲「朝雲ちゃん……あれ?」

朝雲「あいたた……く、ない?」ザブザブ

吹雪「…………」ハァ

朝雲「な、何支えてんのよ……手加減のつもり!?」ジタバタ

吹雪「……湯船に浸かりたかっただけです。体が冷えてきましたから」チャプ

朝雲「は……?」

吹雪「そこの三人も、お風呂に来たならさっさと温まったらどうですか。裸で突っ立ってるのがお好きならとやかくは言いませんが」

山雲「……うーん?」

最上「(数に入れられてる……)」

吹雪「……満潮さんも、湯船に投げ飛ばされるのが好きなお方でしょうかね」

満潮「いいえ。結構」ザブン

朝雲「ちょ、ちょっと! いつまで腰触ってんのよ!」ジタバタ

吹雪「…………」ジッ

朝雲「な、何よ!?」

吹雪「……腕も体も細い。いつか深海棲艦にへし折られますよ」

朝雲「よ、余計なお世話よ!」

吹雪「……ふん」



伊168「おー、吹雪。今晩はその子?」ケラケラ

吹雪「違いますって!!」クワッ

山雲「ひぃっ!?」ビックゥ

満潮「……何の話よ。事と次第によっちゃ只じゃおかないわよ」

伊168「いや、その子イクをたらしこむ程のレズだからー」

最上「えっ!?」マジデ?

吹雪「だからぁ!!? どうして潜水艦の皆さんは私をそういう方向に持っていくんですかねえ!?」クワッ

朝雲「あ、あっ……ゆ、ゆるして……はなして……」ガタガタ

吹雪「ほら怖がってる!」

山雲「…………」ポンッ

吹雪「ん?」

山雲「……殺す」

吹雪「急に怖い!?」

満潮「……何か拍子抜けね」ハァ

吹雪「……文句でも?」

満潮「特には。アタシは分かってるわよ。分かってて、ムカついてんのよ」

満潮「あの、山雲を盾にアタシらの砲撃を防いだ時に――震えてしまった自分にね」

満潮「畏縮させられてしまった事に、ムカついてるだけ」チャプ……

吹雪「……貴女たちは、私が山雲さんを放した時点で追い込むべきだった」

吹雪「一瞬遅れてくれると信じていました。命取りだけれど、好感は無くはない」

吹雪「せめて戦場では、表に出さないよう祈っておきます――いふぁいいふぁいいふぁい!?」グニー……

山雲「朝雲ちゃんを離しなさい……!」グイグイ

朝雲「だ、脱出!」ザバァッ

吹雪「もう……! 演習もそのぐらいの気合いでやってくれたらいいんですがね」ヒリヒリ

山雲「大丈夫ー、朝雲ちゃん?」

朝雲「腰の撫で方がプロ染みてた……」

最上「うわぁ。ウチの子に手は出さないでよ?」

吹雪「…………」

満潮「……アンタも大変なのね」

吹雪「分かってくれますか?」

満潮「風呂とか天国なんじゃない?」

吹雪「…………皆、敵だ」

如月「出番……」ショボーン
投下終了

レズの取り立て怖すぎ←
投下開始

――――南方泊地、廊下、夜

伊168「いい湯だったねー」ペタペタ

吹雪「……まあ、お風呂自体は」スタスタ



「……あら、吹雪……かしら?」

「む。そうですね、姉さま」



吹雪「――扶桑さん、山城さん」

扶桑「こんばんは、吹雪。今日は……輸送任務でこちらに来たの?」

吹雪「ええ、まあ」

伊168「あれ、吹雪……知り合い?」

吹雪「……少し、過去にお世話になりました」

山城「この間の演習ではしてやられたわね……不幸だわ……」ハァ

吹雪「いえ、私の攻撃など意にも介してなかったじゃあないですか。結局の所、お二人は航空部隊の援護が無ければ落とせてませんよ」

伊168「(あの吹雪が、嫌味を言う以外でこんなに喋るのは珍しいなぁ……)」

扶桑「……強くなったわね、吹雪」ニコ

吹雪「――――っ」

伊168「(……ん?)」

吹雪「……いえ、まだまだですよ」

山城「余り自分を卑下するのは嫌みに思われるわよ」

吹雪「その言葉、お返ししますよ」クスッ

山城「実際私は不幸だから……ああ、やるせないわ」ズーン……

伊168「…………」ワクワク

吹雪「……何ですかその目は」

伊168「いやー、そろそろ『そんな不幸なんて、私が今夜忘れさせてあげます』くらいは言うかなーと思って」

吹雪「ちょっと! ここでは止めてください!」クワッ

扶桑「……どういう意味?」

伊168「実は……」ヒソヒソ

吹雪「あ、あぁぁもう……」

扶桑「――っ!?? ふ、吹雪! 私はそんな子に育てた覚えはないわよ!」カァッ

吹雪「ご、誤解です! 落ち着いてください!」

扶桑「手当たり次第なんて……山城より酷いじゃない!」

山城「えっ」

吹雪「いや本当に勘違いと誤解の結晶っていうか……」

扶桑「言い訳しないの!」プンプン

山城「あの、姉さま。今のってどういう」

――――南方泊地、客室、夜

伊168「もう、吹雪。そろそろ機嫌直してよー」

吹雪「……扶桑さんの説得に費やした時間がもう少し短ければ考えたかもしれませんね」

伊168「いいじゃないレズでも。私はそんなので差別しないよ? 実害が無ければ」

吹雪「……そういう話では……もう寝ます」

伊168「ん。明日も朝からだから、睡眠はしっかりね」

吹雪「了解です」

――――深夜

シーン

伊168「……んむ」モゾモゾ、ムクッ

伊168「(……起きちゃったか。用足して寝直そ……)」

吹雪「…………」スヤスヤ

伊168「(ふふ、寝顔は可愛いのに)」クス

伊168「(あと水でも飲むかなぁ、喉が渇いたや)」

――――

ガチャッ

伊168「(山城、この時間でも呑んでるんだ……知らなかったな)」

伊168「さあ、寝よ寝よ……ん?」

吹雪「……う……うう……」

伊168「(うなされてる……夢見悪そうだしねー)」




吹雪「いや……だ……」

吹雪「まって……いかな……いで」ツー……




伊168「(泣くほどか……全く、子供なんだから)」

伊168「仕方ないなぁ、もう」モゾッ

吹雪「……ん……?」

伊168「あ、起こしちゃった? 失礼してるよ」

吹雪「イムヤさん……?」ポケー

伊168「ん。まあ、とりあえず寝よ?」トン……トン……

吹雪「ん……」

伊168「(あら、すぐ寝入っちゃったか……私でも安心できるのかな)」

伊168「(まあ、分かるけど。この体を手でトントンするやつ不思議と落ち着くしね)」

伊168「(……実際この行為をなんて言うのか気になる。ハチ辺りに今度聞いてみようか)」

吹雪「…………」スヤスヤ

伊168「…………」フフッ

――――そして朝

吹雪「うーん……朝か……」ムクッ

モニュッ

吹雪「……お?」

伊168「んー……」スヤスヤ

吹雪「!?」

吹雪「…………」

吹雪「ま、まさか遂に私……やってしまったの……?」ワナワナ

伊168「……んぅ……あ、吹雪ー……おはよー……」モゾモゾ

吹雪「おはようごさいます」ビシッ

伊168「なんで土下座?」

――――明朝、帰航路にて

ザザァン――

吹雪「…………」

伊168「……また難しい顔してる」

吹雪「……みっともない所を見られてしまったようなので、どうイムヤさんの記憶を消せばいいのか考えてる最中ですし」

伊168「えらく物騒だね」

伊168「……吹雪は、もうちょっと皆に甘えてもいいと思うよ」

吹雪「……それでは、強くはなれませんし」

伊168「そ。ま、気が向いたらでいいよ」

伊168「私に甘えたくなったらいつでも言いなさい」ニコッ

吹雪「…………」

吹雪「……内容はともかく、了解です」

伊168「んー、よし。じゃ、最大戦速で帰りますかー!」バシャアッ!

吹雪「了解、追従します」



吹雪「(……甘え、か)」

伊8「寝かしつけ……かなぁ?」

イムヤのお母さん力は高いと思うんです←
投下終了

正直山城が勝手に動くまでは時間が掛かりました←
投下開始

――――トラック泊地、朝、母港

ザザァン……ザザァ……

吹雪「…………」

吹雪「……如月ちゃん」



伊58「またえらく湿気た面をしてるでちね」ハァ

呂500「吹雪ー、おはようですって!」ニッパー

吹雪「……お二人とも。おはようございます」

伊58「おはよ。さすが、水雷の奴らは早起きが得意でちね」

吹雪「潜水も変わらないでしょうに」

呂500「ろーはちょっと眠いですって……」クシクシ

伊58「……じゃ、輸送任務。吹雪、着いてくるでち」ザバッ

吹雪「了解です。吹雪、抜錨します」ザザァッ

呂500「ろ、ろーも行くですって!?」ザブーン

――――南方泊地へと、昼

吹雪「…………」

伊58「吹雪、敵は?」

吹雪「感無し。特には」

伊58「ん。引き続き輸送船を気にしながら索敵頼むでち」

吹雪「了解」

伊58「……ふん」

呂500「…………んもー!」ザバー!

伊58「やかましいでちよ、ろー」

呂500「うるさくもなるですって! 息が詰まりそう!」ワナワナ

吹雪「……それは、潜水しているからでは?」

呂500「ち、が、う、ですって! 吹雪がずぅっと、むすっとしてるからですって!」

呂500「航海中にこんな喋らないでっち久し振りですって!」

伊58「おい待て」

呂500「吹雪もそんなんじゃダメですって……ろーも確かにここに来たばかりは不安でいっぱいでしたけど」

呂500「でっちや皆が励ましてくれて、今のろーちゃんになれたのです!」

呂500「……だから吹雪も、にっこり笑顔でいくですって!」エガオ!

吹雪「…………」

呂500「――まだ納得できないようなら、最終兵器を出す他ないようですって」グイー、ゴソゴソ

伊58「どこにしまってるでちか……」アキレ

呂500「水着の中にポケットがあるですって……これです」ヒョイッ、パチンッ

吹雪「これは……写真ですか? わざわざ防水フィルムで……」

呂500「ほら、これが昔の私ですって」ココ

伊58「あー、まだユーの頃でちか。懐かしいでち」

呂500「見ての通り、この頃は引っ込み思案でいつもビクビクしてたと思うですって」

伊58「それが今じゃこんなに肌も焼けて垢抜けて……良かったかどうかは別にして」ハン

呂500「あー、でっち。ひどいですって!」プンスカ

吹雪「……勿体無い。この、物静かそうなろーさんの方が、ずっと可愛らしいと思いますがね」

呂500「えー、吹雪もひどいですって!」

吹雪「少なくとも、こう喧しくはないだけマシ……ゴーヤさん?」

伊58「(吹雪)」ヒソッ

吹雪「……なんです」

伊58「(お前の事を疑う訳じゃないでち。でも)」

伊58「(ろーに手を出したら沈めるくらいじゃ済まさないでちよ)」ミシィ……

吹雪「…………はあ。ご心配なく。私にソッチの気は無いので」

伊58「イクの魔の手からも必死こいて何とかしたんでちからね。国交問題になりかねないし……」フッ

吹雪「……大変ですね、色々」

呂500「?」

――――南方泊地、夜、客室

コンコンッ

伊58「空いてるでち」

ガチャッ

時雨「こんばんは、ゴーヤさん。物資の方はどうかな?」

伊58「もう引き渡したでち」

時雨「ありがとう。お陰で、いつも助かっているよ」

呂500「ろーも居るですって!」ヒョコッ

時雨「うん、ろーもありがとう」ニコ

時雨「……あれ? 今日は三隻の筈じゃあなかったかい?」

伊58「吹雪は、風に当たりに行くって外に出たでち」

呂500「なーんかずーっと真面目ですって。夜はおしゃべりの時間ですのに」

伊58「お前はしゃべりすぎでち」コツン

呂500「うー、でっちが乱暴するー」

伊58「人聞きが悪いことを言うなでち」

時雨「ふふ……ま、仕方ないさ。僕も少し、外を散歩するとしよう。運が良ければ会えるだろうし」

伊58「なら、時雨だし会えるでちよ」

時雨「かもね。山城には内緒だよ?」クスッ

――――南方泊地、埠頭、夜

吹雪「…………」

時雨「……ここにいたのかい、吹雪」

吹雪「……時雨さんですか」

時雨「お邪魔して、いいかい?」

吹雪「……ご勝手に」

時雨「いい風に、いい夜だね。これで霧雨でも降ってれば文句は無いのだけれど」

吹雪「……世間話だけなら、静かにしていただけると有り難いのですが」

時雨「確かにそうだ。座るよ?」

吹雪「……どうぞ」

時雨「…………」

吹雪「…………」

時雨「…………」

吹雪「……あの」

時雨「君は、誰かと一緒に居るのが落ち着かないのかい?」

吹雪「……いえ」

時雨「……君の鎮守府の話は、少し聞き及んでいるよ。悲しい、話を」

吹雪「…………」

時雨「僕たちは、戦っている。だから、何れ誰にでも起こりうる事なんだろう」

時雨「でも、分かるさ。悲しい。誰だって悲しい」

時雨「……僕もそうさ。この艤装が覚えている」

時雨「僕だけが、あの海で生き残ってしまった……扶桑も、山城も、最上も置いて」

時雨「山雲も、朝雲も、満潮も沈んで……そんな、地獄みたいな光景を」

時雨「君だって、そんな記憶があるだろう?」

吹雪「艦の記憶……ですか」

吹雪「……確かに、あります。ですが、私はあまり……気に止めた事が無いと思います」

吹雪「あれは過去の私で、今の私ではない……そう感じすらしますね」

時雨「そう……君は、不思議な人だ」

時雨「皆、その記憶が根幹にあるからこそ戦える。その悲劇を体感するからこそ海に出れる」

時雨「君は……何故、この海を行くんだい?」

時雨「僕は……もう、皆を沈めさせない為に、行こうと思っているんだ」





吹雪「……西村の皆さんだけ守れれば、満足ですか?」




時雨「――吹雪、君は」

吹雪「私は、もう」

吹雪「誰にも沈んでほしくはない」

吹雪「私の目の前で、私の手の届く範囲で死ぬなんて許さない」

吹雪「……だから、その為には強く。何だって沈められる強さが必要なんですよ」



時雨「……でも、それでは、君がいつか沈んでしまうよ」

吹雪「それならそれで――」





吹雪「――誰かを守れるのならば、それでも」




時雨とエンカウントすると急にモブ度があがる吹雪さん←

投下終了

投下開始

――――転機、南方泊地近海、朝

波の音が静かで、良い航海日和だった。
天気と言えば、少し曇り気味で涼しく――概ね良好で。

吹雪「…………」

伊58「……疲れてるでちか?」

呂500「輸送任務からの遠征だから、吹雪は慣れてないですって」

彼女らは今朝早くに南方泊地を出立し、南東の海域へと遠征に向かっていた。
この海域には、補給艦型の深海棲艦も多く――その討伐も兼ねている。

吹雪「……いえ、特には」

呂500「無理だったらすぐでっちに言うですって」

そう言って、彼女はトプン――と水中に潜った。
波一つ立たない静かな潜水で。

吹雪「…………」

伊58「凄いでち? さすがドイツの虎の子でちよ」

吹雪「ええ。自分では捉える事すら難儀するでしょう」

自分の事の様に、彼女は誇らしげだ。
潜航はせず、偵察機を一機飛ばして水面を泳いでいる。

伊58「ま、ゴーヤにはそれを補って余りある、この酸素魚雷があるでち。どんな敵だって一捻りでちよ」

吹雪「……当たれば、ですが」

伊58「う。まあ確かに……イクやイムヤの方が命中率に関しては上でち」

気まずそうな話題を反らすためか、彼女は――そうだ、と――話を一転した。

伊58「途中でイムヤも合流する事になってるでち。その時は陣形を組み直すでちよ」

吹雪「了解です」

――――南方海域、資源拠点、昼

伊168「お、来たね」

吹雪「……イムヤさん」

伊58「早いでちね」

呂500「ろー達も結構急いだですって」

資源を受け取る為の島に立ち寄り入港すると、そこには既に――幾分待ちくたびれた様子の――イムヤがいた。
やれやれ、と言わんばかりに彼女は波止場から着水する。

伊168「いやぁ、こういうタイトな行程は吹雪初めてなんじゃないかと思ってさ。心配だから少し早出で来たのよ」

伊168「大丈夫?」

吹雪「特に問題はありません」

普段と変わらぬ吹雪の様子に、彼女は少しだけ微笑んだ。

伊58「ろー、物資は?」

呂500「既に積みましたですって」

伊168「わお、大漁大漁♪ 早く持って帰りたいわね」

見れば、彼女に縛着されているドラム缶が幾つか。
しかし、それでは潜るのに苦労するだろうと。

吹雪「ろーさん、それは私が輸送しましょう。貴女よりかは、水上艦の私の方が適任です」

呂500「あっ、ならお願いするですって!」

ロープを受け取り、艤装に縛り付けた。
航行に邪魔にならない程度の長さで、海に泳がせる。

伊168「さあ、出撃よ。吹雪にも、伊号潜水艦の力を見せてあげるわ」

伊58「……偵察機を出せるのはゴーヤだけでちか。潜水艦は潜ってなんぼなのにね」

ゴーヤの溜め息も、どこへやら。イムヤは早々に潜り始めていた。
吹雪も後に続き、ゴーヤが戦速を高めつつ艦載機の発艦準備を進め。

後には呂号の潜水艦がむくれ顔で。

呂500「ろーごーうー! ろーちゃんは伊号じゃないですってー!」

それでも各人それぞれ、海を行く楽しさに心と本能を踊らせながら――更に遠海へと繰り出した。



――この先に起こる激戦など、思い当たる筈もなく。

――――南方海域、遠海、夕方

穏やかな空と、流れる雲を眺めながら。
彼女らは次の目的地へと向かっている。

敵性艦隊との接触も無く、少しだけ緊張も緩んできた頃だった。

伊168「暇ねー」

吹雪「……概ね、同意します。何もないに越した事はないのですが」

周辺に島などは無く、視界は開けている。
少し霧が出ているが、その程度だった。





――だが、冷えた声が通る。




伊58「――静かに」



呂500「……でっち、敵?」

一瞬で空気が張り詰める。
潜水していたイムヤも、静かに水面から顔を覗かせた。

伊168「『何』?」

伊58「……艦載機も飛ばしてない呑気な空母が一隻――それから」




伊58「――噂のレ級が三隻でち」



――――見敵、隠れ霧

夕闇がもうすぐそこまで迫っている。
このままやり過ごせれば、何もなく離れるのは容易いだろう。

伊58「……分が悪い――偵察機も下げてバレないように距離を取るでち」

呂500「了解ですって」

伊168「そうだね……だよ、吹雪。聞いてる?」

声を掛けられて、ハッとする。
主砲のトリガーに掛けている指には、自然と力が込められていた。

吹雪「――っ。いや、ええ。了解しました」

静かに、静かに。
戦艦とは思えない異形の深海棲艦から少しずつ離れていく。

潜水艦たちは海の中へ身を沈め、伊58以外の気配は吹雪でも読み取れない。

吹雪「(――でも、それだけだ。私は――見つかる可能性がある)」

祈るように霧の壁に隠れて移動していた。
太陽ももうじき地平の彼方。雲に隠れて光も弱い。

弱かった、のだ。

吹雪「っ――嘘……!?」

風の流れか、雲は暫し太陽の邪魔を止め――明かりは水平に流れる。
吹雪の艦影が、一瞬だけ霧に浮かび上がって消えた。

吹雪「…………」

鼓動が速くなる。

大丈夫だ。今ので気付く訳が無い。
確かに歴戦の艦であれば、電探も無しに気配だけで気取られもするだろうが。

――奴等は、深海棲艦なのだから。






――遠くで、艦載機の発艦する音が聞こえた。




――――光が消えていく海で

伊58「『吹雪! 見つかったでちか!?』」

水中から、焦りを伴った通信が艤装から聞こえた。
端的に答える。

吹雪「恐らく、発見されるのは時間の問題かと。遠征任務を破棄すべきでしょうか?」

まずはこの、邪魔なドラム缶の処遇を聞く。
これを担いでは戦えない。

伊58「『こうなったら仕方ないでち! どうせ中身は牛缶や布とかの消耗品、どうとでもなるでち!』」

吹雪「了解」

縛着していたロープを素早くほどく。
支えを失ってドラム缶は流れていった。




急降下爆撃を一つ、躱す。
――見つかってしまった。

幸い、向こうが把握しているのは自分だけ。
戦艦がこちらへと航路を変えるのが見えた――が。

吹雪「――なんだ、あれ。てんで、なっちゃいない」

お粗末な航海だった。
方向転換も鈍く、衝突すらしている。
生まれたての小鹿でもまだマシだろうに。

――ならば、と吹雪は。

吹雪「……補足されました。潜水艦の皆さんは離脱を」

伊58「『――おいバカ、止めるでち!』」

艤装に強く火を灯す。
最適解は、自分が囮になる事。

あのノロマどもなら、圧倒できる、と。

吹雪「――後で、追い付きますっ!」

空母とレ級が飛ばした艦載機が空を埋めているのを見上げた。
急降下爆雷が、雨のように降ってくる。

その中に彼女は――脚部艤装を駆って飛び込み、踊るように走って――突貫した。

伊58「――あのバカ!」

伊168「どうする?」

水中で三人は、水面に繰り返し明滅する光を見上げている。
怒りも程々に、焦りがあって。

呂500「戦わないと……! 吹雪だけじゃ無理ですって!」

伊58「……上がるでちよ、ろー」

くい、と頭上を指差して。
それに呂500はただ頷く。
魚雷を構え、素早く海面へと。

伊58「イムヤ」

伊168「はいはい、任せて」

それだけ聞いて、目を閉じた。
体が、海流に流されていく。
――接近する敵艦隊の背後を目指して。

伊168「空母とかを落とすのは得意なのよね……!」

無音の潜航で、彼女は暫しの機会を窺い始めた。

伊58「行くでち!」

呂500を追って、彼女も水面に浮かぶ。
火力が自慢の彼女の魚雷を当てれば、かのイレギュラーな戦艦たちも一撃の元に沈む。


――そう、言い聞かせて。

――――沈み行く夕日を背に

吹雪「……不気味だ」

回避運動をしながらの、感想。
敵艦載機の数は相当な物だった。
しかし、吹雪に命中する弾薬は一つとして無い。

――勿論、彼女は上手く避けていたのだが、どうやらそれ以前の事実を感じ取っていたのだ。

――殺意が感じられない。

意思が籠った攻勢では無かった。
ただ艦娘を見つけたから、意味も分からず発艦させただけ。
発艦させたから、爆撃しただけ――そんな印象さえ受ける。







戦艦からの夾叉。






吹雪「っ……!!?」

だからこその、驚き。
殺意も無いのに、この練度――?

吹雪「(これだけの距離なのに! もう散布界に捉えられた――)」

戦速を最大にして、射線から離れようと試みる。
横目で発砲光を確認して、その深海棲艦を目視した。




他とは違う、白い外套のレ級。



無意識に、こちらを正確に追い詰めていた。

吹雪「分かりやすい――食らえっ!」

波を切って最高速で前進し、両腿の魚雷管を構える。
近寄ってしまえば、後は乱戦で掻き回せばいい――と、魚雷を計六発。

見えているだろうに、避けることさえしない。
本当にちぐはぐな動きで。



――まるで、眠っているよう。



吹雪「――っ!? 邪魔――!」

その白き深海棲艦の前に、呆けた様子の空母が――モタモタと覚束無い足取りで――躍り出た。

中りはするだろうが、本来の狙いとは大きく外れる。
空母を先に沈めるならば、と吹雪は更に接敵しようと水面を駆けた。

ヲ級「――――?」

白レ級「…………!」

触雷の水柱を横目に、彼女は追撃の連装砲を構えて――

吹雪「――っあがぁ!?」

――至近弾の衝撃が身体を刺した。

吹雪「――やっ、ば!?」

間発入れずに吹雪は水面を舞って逃げる――かのレ級の斉射から。
至近弾、至近弾、至近弾の連続。

吹雪「捉えられて、る!」

Z字を書くようなステップから直線急加速。
その他のレ級から放たれる、艦載機の爆撃を併せて――大きく、しかし小刻みに回避していく。

その最中、変化していく敵を見た。

吹雪「なんだ、あれ……!」

白い敵艦の右目から、青い炎が噴き上がる。
ゆらりゆらりと、柔らかく穏やかで――しかし真っ直ぐな揺らぎ。

――不愉快だった。

吹雪「――しまっ」

一点に集中し過ぎてしまう。
通常種であろう一匹のレ級――その尾の大口径砲がこちらを確実に捉えていた。

伊58「ゴーヤの、魚雷はぁぁ!!」

急浮上してきた伊58の、艦首魚雷が一斉に火を吹いた。
それは時間差を持って、レ級の回りに水柱を上げる。

伊58「――おりこうさん、でち!」

圧倒的な威力を持って、戦艦の航行機能を一撃の元に破壊した。
沈み行くそれに背を向けて、彼女は吹雪に向き直る。

伊58「あれはヤバいでちよ、吹雪!」

焦りを隠さない声。

伊58「何故かは知らないけれど、目からああやって火が出てる奴は決まって化け物みたいに強いでち――もう下がるでちよ!」

吹雪「いえ、まだ。せめて空母だけでも――いや、空母だからこそ……沈めます!」

伊58「バカ! 戦力差がわからないでちか――うっ、もう!」

制止も聞かず水上を走っていく吹雪と、砲撃の雨に堪らず潜水する伊58


吹雪「ほら、どうしたの――当たらないよ!」

対空射撃をばら蒔き、墜ちていく艦載機の破片の間をすり抜ける。
攻撃のチャンスを窺いながら――




伊168「なら、空母を落としたら下がってね?」



ヲ級「……!…………?」

吹雪「――イムヤさん!」

伊168は無音潜航にて敵の真後ろまで回り込み――浮上のち静かに魚雷を発射したのだ。

それはヲ級に直撃して、爆音と共に深海棲艦の装甲を破壊する。
何をされたのかも分からないまま、それは少しずつ沈み始めた。



咆哮に、思わず耳を塞ぐ。


かのレ級の声だった。
激昂したのか、その戦艦は『水面を駆け』――素早く潜ろうとした伊168の足を――その尾にある牙で噛み砕いた。

一瞬の出来事だった。

伊168「っ、ああぁぁぁっ!!?」

そのまま海から引きずり出され、逆さまに宙吊りにされる。

青い炎は、激しく揺らめいていた。

伊58「――イムヤっ!」

吹雪「イムヤさんっ――この、どけっ!」

小賢しい蚊トンボを撃ち落とす――後一隻のレ級だ。邪魔で、本当に煩わしい。

白のレ級は伊168を提げたまま、空母の側へ寄る。
僅かに航行機能は削いだが、沈むほどでは無いのを確認して――そのレ級は『安心したようだった』。

もう一匹のレ級が、ぼんやりとした目でそれを見ていて。
だから何気無く、そのぶら下がった『的』に向かって――砲撃、した。

白レ級「!」

伊168「か、は」

確かに正確に、それは潜水艦に命中して。
その薄い装甲は一撃で貫かれる。

吹雪「――――」

もう一撃で、次は肉片が飛ぶだろう。
噛まれて提げられ、身体を足から頭へポタポタと滴るのは血液。

伊58「(――ろー、チャンスを窺うでち……しくじらないで……え?)」

伊58「吹雪……それ、は……?」




『吹雪は、もうちょっと皆に甘えても良いと思うよ』

『私に甘えたくなったら、いつでも言いなさい』



今度は、目の前で。
この私から奪おうと言うのか。


あの絶望と。
喪失、別離の悲しみを。
もう一度受けろと言うのか。


伊168「う…………」


無力感が、身体を支配する。
それはそのまま、敵への憎悪へと変わる。


――だから。
例え自分が沈んでしまおうとも。
例え自分の全てが海の色に溶けようとも。


あの艦だけは、倒す。

――違う。この感情では弱すぎる。

あの艦だけは――!



吹雪「――ぶっ、殺す!!!」



艤装の内部を業炎が駆け巡る。
溢れだした感情が――その右目から真っ赤な炎となって溢れ出す――!

憎しみの色を揺らがせて、脚部艤装が爆裂して――白のレ級を蹴り抜いた。

――疾風の様な速さを、海の上に具現して。

投下終了。疲労感凄いので寝るでち……←

またも奥深いレズシーンが書けたので投下します

――――夜の闇に踊る蜻蛉(かげろう)

月明かりが太陽よりも明るくなり始めた。
ありがたい。これで敵を――

吹雪「見失う事も、無い!」

蹴り抜いた白色が艤装を暴れさせながら海上を転がっていく。
伊168は放り出され、冷たい海へと着水。
猛々しい魂が、一片だけ冷え込んで周囲を読み取った。

空母1。大破、戦闘続行不可。
戦艦3。一隻轟沈、二隻健在。

潜水艦3。一隻大破、意識不明。二隻健在。



駆逐1。損傷軽微――好きに使え。



吹雪「もう、一撃!」

最大戦速で白を追い掛ける。
駆逐艦の夜戦は、肉薄してこそ――!

立て直した所に、連装砲の零距離射撃を叩き込む。
怯んで起き上がった戦艦の身体、顎が丸見えだ。

吹雪「お、らぁっ!」

掌底をカチ上げる。
仰け反った、その腹部に連装砲をブチ当て――一斉射撃。
堅牢な装甲を持っていても、痛みはあるのか、

白レ級「――コ、ノ」

――反抗的な、『声が聞こえた』。

不愉快だ――!

吹雪「深海棲艦が、人の言葉を喋るなぁぁぁっ!!」

止めとばかりに連装砲を構えようとするが、尾の艤装に横薙ぎを食らい――ふらつく。

吹雪「この、程度――っ!」

再び構え直した先には。



伊168「…………」



盾の様に、白きレ級の艤装に噛み付かれ差し出された伊168の姿があって。

一瞬、戸惑ってしまったから。

吹雪「――っ、ぐぁ、ああぁっ!!?」

右腕を掠める戦艦の砲弾。
――擦り抜けた空間と共に、そこが捻じ切れて吹き飛んでいってしまった。

暫し、間。
追って着水する右腕の音。

弾ける様に後ろ飛び。
遮二無二距離を取って、余った腕で艤装から応急処置用具を引っ張り出す。

しかし、機銃の雨霰が吹雪を襲った。
ご丁寧に傷を塞ぐ暇は無い。
伊168は用済みとばかりに海へと投げ捨てられ。

吹雪「くっ、そぉ……!!」

連装砲は右腕に持っていかれた。
予備を組み立てる隙も無い。

吹雪「(特型駆逐艦を嘗めるな……こう見えて重装備なんだ、から!)」

連装砲のパーツが艤装から飛び出す。
内部には既に弾薬が装填されているだろう。

砲は全てで三基。
まだ予備はある。

それを足先の艤装で思いきり蹴り上げた。
――内部の炸薬が爆裂する音。
と、共に空中に舞い上がる連装砲の胴。

吹雪「くっ!」

頭部を撃ち抜かれる――寸前の所で身を翻す。
どうやら衝撃も、首が持っていかれない程度には軽減できた。

落ちてくる連装砲のグリップを左手で受け止め、ただの焼けた箱となったソレを右腕の切断面に当て焼灼する。

吹雪「あっ、づ――!」

傷口は焼き塞がれ、出血の問題をクリアする。
布でそこをキツく――左手と口で素早き器用に――縛った。

疎らになってきた航空機、の雷撃をすり抜けて、魚雷を三本発射管にぶち込む。

吹雪「こっ、の!」

通常種の砲撃を回転しつつ避けざま、雷撃を白い方に放った。
少しは学習したのか、戦艦は鋭く走る。

吹雪は、ソレを見てから全速で接近。

牽制しようとした白のレ級の応射。

を、左手の焼けたガラクタで横殴りに。
衝撃は横に逃がして、酷く凹んだソレを投棄する。

――深海棲艦に向かって。

白レ級「!?」

当然、尾がその鉄壊を払うが――次の瞬間には視界から消える、吹雪。

――尾の砲塔に、錨が掛けられていた。

吹雪「こっちだ、よっ!」

艤装の腰部から伸びた鎖――先は錨に繋がる――を、機構が巻き上げる。

急停止から、ソレに引かれる勢いそのまま――振り向いた戦艦の顔面に飛び蹴りを見舞った。

大きく揺らぐその体躯。
次の一手を打とうと着水した。

――魚雷の航跡が吹雪に真っ直ぐ向かって来る。
レ級の、雷撃。

吹雪「(――戦艦が雷撃――ヤ、バ?)」

随分と遅く見えた。
着水にて少し体勢を整える、その僅かな時間があれば命中してしまうだろうソレ。

しかし、それは吹雪の手前で水柱を上げた。
占めて三本。

吹雪「なっ――助かった……まさかっ!!?」

何かに当たったのだろう――この海のど真ん中で?


もしそうなら、それは――

吹雪「やっぱり――ゴーヤさん!」

海に浮かんだ手を掴んで引きずり出す。
艤装が完全に破壊されていた。

伊58「ふ……吹雪、油断――するんじゃないでち……」

吹雪「な、何で身代わりなんかに――潜水艦の装甲じゃ一堪りも……」

沈まない様に、必死でその小さな姿を左腕でかき抱く。
いつの間にか、右目の炎は溶けて消えていて。

白のレ級が、こちらに砲を向けた音を聞く。

吹雪「――や、め」




呂500「任せるですって」



白レ級「――?」

振り返ると、呂500が音も無く――レ級の肩の上に跨がっていた。
まるで肩車のように。

呂500「そー、れ!」

足を首に絡ませ、自らの身体を後ろ向きに投げ出した。
当然、戦艦は一回転――頭から海に叩き付けられる。

呂500「がーるるー!」

呂500は海に投げ出されたソレを踏んで軽く飛び上がり――踵を垂直に叩き落とす。
衝撃で海が下向きに押し込まれ――波紋が強く広がった。

呂500「まず一発目――てー!」

レ級から爆炎が上がる。
魚雷を零距離で艤装に捩じ込んだのだろう。
堪らず身動ぎ、距離を置こうとするが――呂500の瞳が鋭く冷える。

呂500「逃がしませんって。Wurfgerät―― Feuer」

艤装から小型のロケット弾が放たれ、戦艦の周囲に着水し視界を遮った。

呂500「二発目、てーっ!」

魚雷がもう一本――白のレ級はがむしゃらに身を投げてソレを何とかやり過ごし。



た、かに見えた。



白レ級「――!?」

避けた筈の魚雷が、旋回する。



呂500「試製FaT仕様九五式酸素魚雷改――ろーちゃんの魚雷はね」

呂500「――当たるまで追い掛けるよ」

航路を修整した魚雷が、レ級に命中して――その艤装を航行困難な状態まで追い込んだ。

映画を見ているような、流れる見事な戦闘だった。

伊58「吹雪――煙幕を張るでち……これ以上は、お前も、ゴーヤも無理でちよ……」

吹雪「くっ……」

目の前で、目も開けられない様子の伊58の声。

呂500「でっち、イムヤ回収した!」

伊58「オッケー、逃げるでちよ……吹雪」

吹雪「……了解」

艤装の発煙管が白煙を上げる。
元々の霧と相まって、月光を吸い込み濃いカーテンと化した。

伊58「南に舵を取るでち……島群がある――そこに潜んでやり過ごすでち」

呂500「イムヤおっも……急ぐですって吹雪! ろーちゃんもこれじゃ速さ出せないですって――!」

吹雪「ええ……ゴーヤさん、縛着します」

伊58「急ぐでち……夜も深くなれば、艦載機も振り切れるから……」

二人は、負傷したその二人を引き――指示通り一路南を目指して。

傷付いた彼女らを見て――また一つ、苦々しげに吹雪は自分を嘲笑った。




――右腕の激痛が、今さらやってきた。




がるるーが可愛すぎると思うんです(戦闘スタイルから目を反らす音)
投下終了

今書いてるから待っててなー

懐かしの深夜更新ですって
投下開始

――――南方海域、島郡、夜

暗く深い夜の、砂浜に倒れ込む音。
何とか敵艦隊を振り切った吹雪たちだった。
霧もこの島の回りには無く、月明かりが薄く駆逐艦の肌を照らしている。

吹雪「はーっ――ぜぇはーっ……!!」

伊58「……着いた……でち?」

呂500「何とか逃げ切ったですって!」

伊168「…………」

潜水艦を縛着し、沈まないよう全速で航行していた吹雪。
過呼吸になるほどで済んでいるのは常日頃の訓練の賜物だろうか。

呂500「イムヤ、今から手当てするですって……目を覚まして!」

伊168は息も浅く、肌色も青ざめていて。
血を流しすぎたのか、意識も戻る気配が無い。

伊58「艤装も酷く痛んでるでち……もう、長くないよ……」

吹雪「――っ」

その様子を、自分にも言い聞かせるように――伊58は呂500をたしなめる。
起き上がることも、もう儘ならない。

呂500「でっち、静かにして。それでも、助かるかもですって」

伊58「……全く、こういう事の度に……ろーの頼もしさを再確認するでち」

呂500「吹雪は――?」

手早く伊168の止血を行い、呂500は吹雪の右腕も手当てしようと向き。

艤装を下ろして中身を漁っている彼女に面食らった。

吹雪「アレがあれば――妖精さんならもしかして――これか!!」

吹雪が左腕で艤装から引っ張り出したのは――小さな水筒。
片腕で器用に飲み口を開け、チビリと味を見る。

吹雪「――よし、当たりだ! ツイてる……後でお礼を言っておかないと」

呂500「な、何を盛り上がってるですって?」

独り言を繰り返す吹雪に不安げに問い掛ける呂500。
そんな気は知らず、吹雪は興奮して言った。

吹雪「簡易の高速修復材です! ドックが無いので完治とはいきませんが、これを飲めばゆっくりと効いてくるはずです」

吹雪「……お二人で分ければ、十分な量ではないと言え、今すぐ命を失う事は無いでしょう」

言い換えれば、二人までしか治癒できない。
そういう意味も孕んでいた。

呂500「で、でもそんなの何で持ってるですって……それは提督さんしか扱っちゃダメなんじゃ……」

吹雪「たまに妖精さんが……その話は後でしましょう、今はイムヤさんとゴーヤさんを」

伊58「……ゴーヤはともかく、イムヤはどうするでち。あの様子じゃ液体を飲むなんて無理でちよ」

吹雪「なら、無理にでも飲んで頂くまでです」

吹雪は伊168に寄り添うように顔を近付け、水筒の中身を口に含んだ。

呂500「あっ」

伊58「……なるほどでち」

口付け、唇を抉じ開け、修復材を逃がさないように密着させ、舌を捩じ込んで流し入れる。
――飲み下す音が聞こえた。

吹雪「――ぷはっ、ん。んむっ」

もう一度、同じ要領で繰り返す。
みるみる内に、血色が良くなってきた。

吹雪「……良さそうですね。ではもう半分を、ゴーヤさん」

伊58「断るでち」

吹雪「なっ」

手渡そうとして、ソレを返された。
伊58は顔を背けて彼女を、静かに諭そうとする。

伊58「……それは吹雪が飲むでち。その怪我で、私は大丈夫です、なんてぬかすんじゃないでち」

吹雪「……この程度」

呂500「確かに、吹雪の怪我は……艤装は無事なのに――何で身体が傷付いてるんですって?」

吹雪「え――いや、当たり前でしょう。砲弾をまともに受けたんですから」

そもそも、吹雪は今まで被弾が少なかった。
駆逐艦として成果を挙げるなら、その装甲の薄さも相俟って一撃の被害も許されないのだから、当然と言えば当然なのだが。

呂500「そ、それはおかしいですって……ろーちゃんもそうですけど、私たちはまず艤装が痛みを肩代わりしてくれる筈ですって」

伊58「だから……装甲が破けない限りは問題無いでち――さっきのイムヤも、そうだったでしょ」

吹雪「――確かに」

言われてみれば、その通りだった。
自分の艤装は、もしかするとどこか不調だったのかもしれない。

吹雪「この程度で済んだのは運が良かったという事でしょうか……帰れれば、艤装を点検してもらわないといけませんね」

それより、と吹雪。

吹雪「ゴーヤさんには、これを飲んでいただかないと」

伊58「それはお前が飲めって言ってるでち。くどいでち」

吹雪「……なら仕方ありません。力ずくでも」

幸いか、伊58は傷付き動けない。
横になっている彼女に吹雪は近付き――

伊58「おい、止めるでち――」



呂500「――だ、ダメですって!!」

吹雪「えっ」



予想外の、強い否定に驚き振り返る。
自分でも何故大声を出したか分からないのか、キョトンとした呂500。

呂500「そ、その……でっちと吹雪が、その、kuss――あー、ちゅーするのは、ちょっと」

呂500「……何だか、モヤモヤしますって」

指をグルグルと動かしながら、恥ずかしげにしている彼女を見て、吹雪はおかしくて笑ってしまった。

伊58「…………」

吹雪「はは……では、どうしましょうか――」

呂500「でも!」

それはもう食い気味に。





呂500「何だか、それはそれでこう――背中がゾワゾワして気持ち良くなれるかもしれないですって……」





伊58「飲むからよこすでち」

吹雪「あっはい」

――――深夜

伊58「…………確かに楽になってきたでち」

砂浜に横になったまま、彼女は呟いた。
吹雪も、腕に包帯を多目に巻き――見た目よりは問題無い。

吹雪「効いたようで何より」

呂500「イムヤはまだ起きないですって……」

伊58「仕方も無いでちよ。さて……ろー、任務でちよ」

呂500「――うん、了解」

伊58「言わなくても分かるでち?」

呂500「援軍を連れてこいって事でしょ? 分かるですって」

艤装を唸らせ、呂500は休憩終了とばかりに立ち上がる。

伊58「頼むでち……電報は既に打ってるから、後はこの海域に誘導してくれればいいでち」

呂500「了解……でも、でっち達が敵に見つかったら?」

伊58「どうせお前しかいないんじゃじり貧でち。ろーの避難も兼ねてるでちよ」

伊58「帰ったら何か奢ってやるでち。欲しけりゃ働け、でち」

呂500「――うん、了解、ですって!」

伊58の微笑を受け取って、呂500はその速力を万全に発揮して航路を西に取った。
夜の闇で、敵に見つかることはまず無いだろう。

吹雪「…………」

吹雪の手元から金属音。

伊58「……おい、何してるでち」

吹雪「予備の連装砲を組み立てています。いざというときの為に」

伊58「まだ、戦うつもりでちか?」

吹雪「ええ」

ガキン、と撃鉄が鳴る。
どうやら壊れてもいなさそうだ。

吹雪「私のせいでお二人が沈む――そんな事があってはいけませんから」

吹雪「大丈夫です。この命に換えても、お二人は守ります」

溜め息。
伊58からだ。




伊58「そんなんで拾う命なら、いらないでち」

吹雪「――何を寝惚けた事を」



伊58「いつまで」



紡いで、少し言葉を置いた。

伊58「……いったいいつまで、吹雪は死に場所を探すんでち?」

吹雪「……何の話ですか?」

伊58「お前は…やらなければならない、って戦って。足りないからって、命を擲てるやつでち」




伊58「吹雪は、吹雪にとって、どんな存在なの?」



意味が分からない。
何を問わんとしているのか。

吹雪「私は駆逐艦です。それ以上でも、それ以下でもない」

吹雪「安いものでしょう。駆逐艦一隻程度、すぐ替えも利きます」

全てに抗おうとしているのに、ある一つに付いては完全に諦めてしまっている。

伊58が余りに腹が立って声を荒げようとした時、か細い音が――伊168から聞こえた。

伊168「ふ……ぶき――」

吹雪「――イムヤさん。目覚めましたか……気分はどうですか?」

素早く駆け寄り、彼女は様子を伺う。
潜水艦は片手を差し出し、

伊168「……おいで」

とだけ言った。

吹雪が言葉通りに側に寄ると、伊168は彼女の頬を優しく撫でる。

伊168「まーた……無茶、して」

伊168「ホント……喧嘩っ早いんだから」

吹雪「いえ……そんな」

弱々しい声に、皮肉の一つも返せない。

伊168「助かったかぁ……ありがとうね、吹雪……」

伊168の瞳に、無くなってしまった吹雪の腕が映った。
悲しい、表情。

伊168「ごめんね……そんな、風に……させちゃってさ」

吹雪「いえ、これは必要経費のようなものです……仕方ありません」

伊168「そんな事……ない、よ」

力無く落ちた手が、吹雪の服の縁を掴んだ。
何かを伝えたくて、そうしている。

伊168「吹雪は……まだ、嫌い――?」

伊168「私たちは――嫌い、なの……?」

吹雪「――――っ」

その問い掛けに、声が詰まる。
背後から、不機嫌な声は聞こえたが。

伊58「……お前は、ゴーヤたちを――いや、他の艦娘を誰も当てにしていなかったでちね」

伊58「失望していたようにも覚えるでち」

吹雪「そんな、そんなことは――」

伊58は無理矢理、痛む体を起こして立ち上がった。
吹雪に向かって倒れ込むように掴みかかる。



伊58「ゴーヤが、トラックの皆が、お前一人どうでもいいと……!」

伊58「駆逐艦の一隻や二隻、手痛い損失ではないと……!」

伊58「そうやって思って、過ごしていると――お前は本気で思ってるでちか!?」



振り払おうとすれば、容易いだろう。
だが、彼女にはとても、動くことはできない。



伊58「そんなの……そんなの、誰だって思ってないでち! お前のとこの鎮守府の皆も、そうでち!」

伊58「吹雪がそう思うように、ゴーヤたちだって、悲しいって、だから守りたいって、そう思うでち!!」



強い語気で、しかし優しく諭すように。

伊58「だから、お前ばっかり戦うのは、止めろでち! ゴーヤたちにも、ゴーヤたちにも!!」



伊58「――吹雪のように、吹雪を守らせろでち!!」


言って、彼女は吹雪の胸に倒れた。
息も荒い。急に動いたせいだろう。

背中にも、暖かさを感じて。

伊168「よっ、と……体、重いなぁ」

吹雪「イムヤさん……! まだ、寝ていないと――!」

伊168「吹雪」

吹雪「っ」

つい、言葉に詰まる。
そんな、呼び掛け。



伊168「私たちもさ、戦わせてよ……一緒にさ。一緒に、この海でいたい」

伊168「せめて、さ。私たちは嫌いでもいい――でも、そろそろさ」



伊168「……吹雪は、吹雪を許してあげようよ」


トン、と心の奥を叩かれたようだった。

吹雪「――――」

伊168「ずっと、自分を責める人が、ずっと側に居たら、いずれ吹雪はもっと傷付いて」

伊168「――きっと、いなくなっちゃうよ」

伊168「吹雪はとっても頑張ってるの……だから、もう許して、あげて……」

伊168「吹雪がいなくなると、皆が悲しむから……」

唇がひくついた。
出そうな嗚咽を、何とか堪えて。

吹雪「で、でも――足りないんです。足りないから、やらなくちゃならない。足りないんですよ」

伊58「――足りないなら」

胸元からの声。

伊168「そうだよ、足りないなら……私たちがいるじゃない……」

背中からの声。

伊168「吹雪と同じように泳ぐのは……ダメかな……?」

伊58「ゴーヤにも一枚噛ませろでち」

ああ、ああ。
ダメだ。堪えなきゃ。

伊58「確かに過去はいつも辛い事ばっかりでち。だからこそ、今を精一杯笑うんでち」

伊168「それでも、たまに辛くなる。だから、皆といるんだよ」

伊58「……お前の鎮守府の奴等も、吹雪から遠ざかっていかれて、途方に暮れていただろうでちね」

伊168「大丈夫、待っててくれてるよ……きっとさ」

ああ、ダメだ。
せっかく張り詰めていた物が零れ落ちていってしまう。
ちゃんと組み立てたのに、何とか保っていたのに、全部。

伊58「……優し過ぎるのも、問題でち」

伊168「嫌いじゃないよ……悪いことじゃないもの」

嗚咽と共に、何とか絞り出したのは。

吹雪「ごめん、なさい――ごめ、ごめんな、さい……!」

申し訳無さと、有り難さが混ぜこぜになった感情が、謝罪と言う不器用な形で。

そんな、稚拙な言の葉を――二人はゆっくり、聞いてくれていた。



吹雪の隣で、聞いていた――。

――――島郡、早朝

深く眠り込む二人より先に、薄明かりを感じて吹雪は目を覚ました。
鏡があれば、酷い顔の自分を見れるんだろうな、と一つ自嘲。

砂浜に鳴る波の音が心地好く――
――そして混ざりモノの波と。

吹雪「っ!」

生きている電探をフル稼働させる。
――敵艦の気配を、遠くに感じた。

恐らくは、奴ら。

ここが割れては、一溜まりもない。

ならば――!

伊58「――吹雪」

声が掛かる。
彼女を一瞥し、微笑んだ。

吹雪「大丈夫です。無茶はしませんって……少し、囮になるだけです」

吹雪「やることは、そんなに変わりませんし、変えられません。でも」





吹雪「『私は、帰ってきます。皆も、必ず連れて帰ります』」

吹雪「――その為に戦います」





吹雪「だから、祈っていて下さい。私の無事を――それだけで、ずっと心が軽くなります」

伊58「……味方もすぐ来るだろうけど、無理なら逃げてくるでち。ゴーヤたちだって、浮き砲台くらいにはなるでち」

吹雪「――ありがとう、ございます。では」




吹雪「――吹雪、抜錨します!」




眠さヤバい
投下終了

書いてたらこんな時間じゃねぇか!
仕事どうするんでち!←

投下開始

――――島郡近海、早朝

水平線が暁色に染まる。
ゆっくりと、光が伸びていった。
薄明かりの中で、吹雪は敵艦隊と接触する。

吹雪「……はは。なるほど、確かに化け物だね」

無傷の戦艦レ級が一隻。
大破した空母ヲ級が一隻。

だが、あれだけの打撃を与えた筈の白色の戦艦は――何故か損傷を再生していた。

まだ距離は遠い。
お互いに気付いてはいるが、それだけ。

吹雪「白いのは空母を庇ってる……問題は――!」

通常種のレ級から艦載機が発艦する。
昨日に撃ち落としただけ、幾分か数を減らしてはいた。
それでも、軽空母一隻程度なら。

艤装に取り付けられた対空の為の機銃が仰角を上げる。
危険な物だけ迎撃し、後は回避するだけだ。
無い右腕を振って、掃射する。

吹雪「墜ちろ!」

甘い動きの艦載機は薙ぎ払う。
練度の足らないヤツに付き合う余裕は無い。
脚部艤装を唸らせて、滑るように海を舞って。

砲撃も振り切る。
白いレ級はこちらに攻撃をする様子は無さそうだ、と横目で判断。

吹雪「しかし、それだけでも厄介!」

左手で連装砲を構え、応射を行った。
反動を片手では殺しきれず、大きくよろめくが――その一撃がレ級に命中し、しかし無傷。

吹雪「構わないよ」

レ級「?」

その衝撃に揺らぐ時間で、目の前に潜り込めた。

吹雪「いくよ――!」

まずは垂直に、顎を蹴り上げた。
上に向いたレ級の視界に、それと共に見えるのは――同時に空に浮かんだ対潜用爆雷が一つ。

そのままそれごと、踵で顔面に捩じ込んだ。
小さな爆風に吹雪は翻る。

着水、から跳ねるように腹部を蹴り抜く――と共に、魚雷発射管から飛び出す虎の子。

その魚雷を、後ろ回しに蹴り出し――レ級の艤装の口の中に押し込んだ。
――内部から爆裂する。

レ級「!?」

吹雪「まだ、まだぁ!!」

片腕が無くとも、航行に支障は無いとばかりに背後に滑り込む吹雪。

トドメとばかりに連装砲を構えるが――

レ級「!」

吹雪「っ、しまっ――!?」

レ級のその、巨大な口と牙を模した艤装ががむしゃらに噛み付いてきて。
予想外の攻勢に吹雪は絡め取られる。

吹雪「くっ――うっ、ぐぅ……!」

左腕の連装砲が上の牙を、右足先の艤装が下の牙を何とか砕けず押し留める。

レ級「……!」

ギシギシと、艤装の悲鳴を聞く。
馬力が違いすぎた。支えは徐々に狭くなっていく。
万力で締め付けられるように、ゆっくりと吹雪は潰れつつあった。

吹雪「こ、の……!」

渾身の力では足りない。
四肢も欠損し、万全でも無い。

だが、ここで。
ここで諦める訳にはいけなかったから。

吹雪「う……ぐ、あぁぁ……!!」




嫌だ。
死にたくない。
ならば、ここで。

――コイツを、殺す!



吹雪「…………!」

吹雪の右目から、身体を駆け巡る熱が漏れ出した。
紅蓮となって揺らぐその炎に、潰れ行くその牙を暫し押し止めた事に、しかし深海棲艦は恐れもしない。




『吹雪』




吹雪「っ」

仲間の、誰かの声が聞こえたような気がした。
そうだ。こんな、こんな思いで戦うのは止めたんだ。

赤色の炎が身を潜めて、その途端に力が抜けていった。
脚部艤装に皹が入る。

吹雪「くそっ……この……!」


でも、このままでは、どうにもならない。
だから、ここで負ける訳にはいけない。
自分の後ろには、大切なモノがあるんだ。



守るんだ――今度こそ、守るために――何でもいいから、私に力を貸せ!!





――吹雪の艤装に炎が灯る。
それは『その艤装らしからぬ』、青い炎。

吹雪「ぐ、お、おぉ……!」

左目から、その優しい想いが漏れ出して溢れる。
青色に輝く灯りが、吹雪を後押しした。

艤装が、力強く咆哮する。

レ級「!!?」

吹雪「う、お、お……おぉ……!!」

ギシギシと、レ級の艤装の牙を無理矢理抉じ開けていった。
蒼炎が靡く程に、力が湧いてきて。

骨が外れる様な音がして、その顎は開ききった。
レ級の悲鳴も聞こえるならあっただろう。

吹雪「機銃――撃てぇっ!」

柔らかな口内に弾薬をばら蒔く。
堪らずレ級は逃げ出すが――駆逐艦が艤装を確りと掴んでしまっていて。

レ級「!?……!!?」

吹雪「ぐ、おぉ――らぁぁっ!!」

遂には、上顎を引き千切られてしまった。
そこに付いていた主砲諸とも、駆逐艦の左手の中に。

吹雪「はぁっ、はぁ……っ!」

その奪ったパーツを海に投げ込む。
――魚雷に当たって爆発した。

白レ級「…………!」

吹雪「…………」

奇しくも、彼女も蒼い炎を右目に宿していた。
そんなのでも、仲間なんだ――そうとでも言わんとしているのだろうか。



通常種が背後で吼え猛る。



吹雪「――なに、それ」

死に瀕した事を『実感した』レ級が、凄まじい勢いで損傷を修復していた。
艤装も、更に強く大きく変化していく。




弱い武装を捨てろ。
拾ってくるんだ――そこにあるだろう?




そう、深海棲艦は感じていたのだ。

レ級「――――!」

主砲は四基にもなり、メチャクチャに掃射してくる。
口径も一回り大きくなっていて、回避した際の衝撃も強くなって。

吹雪「でっ、たらめ、だっ!?」

大口径主砲を、冷却の時間も弾薬の再装填時間も無視して機銃の如く乱射を行ってきた。
操作を失った深海の艦載機達が、雨のように降り注いできて。

大きく小刻みに、炎を揺らしながら吹雪は回避する。

レ級「!!――!!!――――!!!」

白レ級「――!?」

壊れてしまったかの如く、自らの身を省みない攻撃の嵐。
声にならない叫びと、狂乱が、仲間にも畏怖を与える。

吹雪「違う――! あの艤装、壊れた端から直ってる――いや、入れ替わってる?」

吹雪「――っ!」

足元を魚雷の弾幕という、おおよそ意味不明なソレを高く飛び上がって回避した。
咄嗟の出来事で、しかし最適解。

だが、着水までは隙だらけで。
レ級の砲塔がまっすぐ吹雪を捉えていた。

吹雪「しまっ――」






レ級の回りに、魚雷命中の水柱が一つ――遅れて、

レ級「――――?」

――時間差で、四つ上がった。

――――暁の水平線

吹雪「助かった……?」

レ級「?――?」

もう一つ、雷撃の爆発。

不思議に思っていると、足元から。

伊401「ぷはっ、やっほー! 吹雪、無事――って、その腕!?」

急速に浮上してきたのか、伊401が足元にいた。
となれば、今の雷撃は彼女が放ったのだろうか。

伊401「――っ、今はそれより! 私だけ先に合流したけど、もうすぐ皆も着くよ!」

吹雪「助かります。見ての通りの状況です。あの白いのは今は大人しいし、空母は動く事もままならない」

突然の衝撃に混乱する通常種を指し、

吹雪「アレの航行能力を削げれば、逃げ切るのは容易いでしょう」

と、言う間にまた着雷の音。

吹雪「あれは――?」

伊401「あー、イク気合い入ってるから」

吹雪「もう、近いのですか?」

伊401「噛み合ってる時のイクは魚雷航行限界の倍くらいの距離からでも当ててくるよ?」

吹雪「――ふふっ、それは頼もしいです、ねっ!」

白いレ級の威嚇砲撃を避ける。
吹雪はその目と――深くフードを被っていて表情までははっきりとしないが――目が合った。

苦々しげな顔だったように思えた。
その深海棲艦は、未だ気絶している空母を抱えて――ゆっくりとこの海域から離れていく。

伊401「どっかに行くのかな――深追いはしない、今は!」

残ったのは、再度身体を修復したレ級のみ。
艤装の砲塔がこちらを向いて。

吹雪「くっ――あっ!」

レ級「!」



伊8「やりますね?」

伊401「オッケー!」


気付けば、伊8が敵の艤装の上で座って寛いでいた。
防水された本を敵に向けて開くと、何とそこから魚雷が飛び出す。

――それはレ級の艤装を縦に貫いた。

ドイツ仕込みの格闘術なのか、踵をレ級の顎に掛けて水面に投げ叩きつける。




――遠距離からの砲撃の初段がレ級に命中した。

吹雪「――っ、みなさん!」





トラックの皆と、南方泊地の西村艦隊が、もう目視できるところまで来ていた。

正確な弾着観測射撃の雨で、遂に。

レ級「……――」

ゆっくりと、深海棲艦は沈んでいった――
白い奴はもう見当たらない。




仲間が、手を振りながらやってきた。
わらわらと集まってきて、それが少し、おかしかった。

伊19「ぷっはぁ、吹雪、迎えに来たのね!」

伊8「皆、心配していたの」

伊401「早く治療を……!」

呂500「任務完了、ですって!」

龍譲「はぁ、ひぃ……しんど……全速航行の新記録やなぁ」

利根「はっはっは! いや、吹雪……ご苦労であった!」

筑摩「やれやれです。明石さんを宥めるの大変だったんですからね?」

扶桑「初段命中なんて、久方ぶりね」

山城「流石姉さま。運を持っていますね」

時雨「そ、それはどうだろう……?」

満潮「面倒かけさせるんじゃないわよ、吹雪」

最上「いやぁ、久し振りに飛ばしてきたよー。いい汗かいた!」

朝雲「あれだけ言ってそのザマ――ひぃっ、腕?!」

山雲「あら、あらら……痛そう……」



何だ、と溜め息を一つ。

吹雪「(こんなにも、思われていたんだ)」

自分が今まで目を背けていた事に、思い知らされる。

吹雪「――ありがとう、ございました」

伊19「お礼なんて要らないのね!」

利根「うむ! ほれ、帰って入渠といこうか」

安心して、涙が出てきて――苦しくなるくらいもみくちゃにされたのを。







――今も、覚えている。

――――現在、西の島、暁の水平線となるか

吹雪「――朝、か」

懐かしい夢だ。
でも、今思い出せて良かった。

吹雪「皆、きっと心配してるんだろうな……」

吹雪「沈んだ、と聞いたくらいで諦めるような人たちでもないし――早く顔を見せに帰らないと」

覚悟を新たに、吹雪は立ち上がった。

吹雪「皆といっしょに、必ず、あの暖かな場所へと――帰るんだ」

如月が遠くで呼ぶ声が聞こえる。
そろそろ、出発の時刻だ。

吹雪「……ふふっ」

風は、優しく靡いていた。

後二時間しか寝れねぇ!←
潜水艦娘が多いので戦闘に個性を持たせて書き分けるのに苦労しました。

イムヤ→無音潜航で背後に回る
ゴーヤ→火力が高い
イク→遠距離でも当ててくる
ハチ→変な所から魚雷出せる、ドイツ絡みでちょっと格闘
しおい→急速潜航が速い
ろー→身軽、静か、ドイツ装備、格闘

特に意味は無いけどね!←
投下終了

全く関係ないアレ

伊168「ふんふーん♪」ツイッツイッ

伊58「ん? イムヤ、スマホで何やってるでちか?」

伊168「うん、これ? これはね、『シャドウバース』」

伊58「しゃどうばーす?」

伊168「そうそう。神撃のバハムートなんかを手掛けるサイゲームスの新しいスマホゲーム」

伊168「対戦できるトレーディングカードゲームみたいなモノなんだけれど、意外と奥が深くてハマっちゃって」

伊168「おかげで>>1も時間ドロボウされてSSが書けないって」

伊58「待てでち(半ギレ)」

伊19「(オクが深くてハマる……!?)」

伊401「違うよ」

呂500「でっちー、課金楽しいですって!」チャリンチャリン

伊58「やめろでち!!」




伊8「あ、投下開始です」

――――西の島、波打ち際、朝

吹雪「おはよう。少し寝てたみたい」アハハ

如月「寝てないのが前提みたいになってるわよ」クスッ

利根「明石よ、吹雪が直しておったソイツの具合はどうじゃ?」

明石「私も最終的には手を加えましたが、微速航行なら問題ありませんね。いけますよ!」フンスッ

吹雪「良さそうですね。なら――」

利根「うむ、後は無事に帰るだけ。であるな」

如月「何にもなければ良いのだけれど……」フゥ

明石「火気の類いは、私、豆鉄砲程度ですので……それに越したことはないですねぇ」

吹雪「天気は悪くない。まずは途中の小島まで散歩といきましょうか」




吹雪「第一艦隊、抜錨します!」



――――航路、昼前

ザザァン……

吹雪「日が高くなってきましたね……明石さん、着いてくるのしんどかったりします?」

明石「この程度なら……かなり加減させてるみたいですいません」タハハ……

如月「むしろ、このくらいの方が私の艤装には優しいわ。吹雪ちゃんと一緒にスると激しいんだもの」

明石「急に夜の話!?」ビックゥ!?

吹雪「違います!」

如月「激しいのが?」クスクス

吹雪「航海の話でしょ!」プンスカ!

如月「むー……吹雪ちゃんは、そんなに私とそうやって見られるのが、イヤ?」プクー

吹雪「そ、そういう問題じゃなくてね……」

明石「そういう問題じゃないんですか!?」ビクビク

吹雪「いやいやだからですね――っと」キッ

吹雪「偵察機帰ってきましたね。利根さん、周辺の状況は?」

利根「うむ、今の所は問題無しじゃ」

吹雪「そうですか。このまま穏やかに運びたいものです」

明石「(急にスイッチ切り替わるのはトラックでもそうでしたよ)」ヒソヒソ

如月「(あのギャップに私もやられちゃったの)」ヒソヒソ

明石「(えっ)」

――――小島遠海、昼すぎ

吹雪「半分は越えたね……しかし、どう思います?」

明石「ああ……アレですね?」チラッ




利根「…………」




如月「露骨に元気が無いわ……何故かしら?」

吹雪「多分、トラックの提督の事を思い出したからだと思う」

明石「これは海よりもふかーく、山よりもたかーい……利根さんと筑摩さん、そして提督の、訳があるんです」

吹雪「ちょっと色々あってね……それは帰って落ち着いてから話すよ」フー……

如月「な、何だか重い話の予感がするわ」

吹雪「ご飯時に」シレッ

如月「食卓の会話レベル!?」ガーン!

明石「何も喉を通りませんよそれ」

如月「違った!?」ガガーン!?

――――小島近海、強い日差し

吹雪「そういえば、昨晩夢を見て思い出したのですが……お二人は、南方泊地の西村艦隊を覚えていますか?」

利根「――ほう! 確かにおったな!」

明石「――! これは厄介ですね。聞かれるまでは、記憶の何処にもありませんでした」

如月「また吹雪ちゃんの愛人の話?」

明石「ええ」利根「うむ」

吹雪「ちょっと!?」

――――和やかな時、も僅かに

懸念していた深海棲艦との接触も無く、偵察機に映る艦影もなかった。

四隻は和やかに、とりわけ明石は空白の時間を埋めるように歓談していて。

だから、仕方無かったのだ。

吹雪「――雷跡!? 明石さん!」

明石「え――?」

吹雪が気付いたのも、寸前になってから。
それもそのはずで、その魚雷の航跡はほぼ無に等しかった。

明石に直撃したソレが、爆裂して。

明石「ガッ……はぁ……!?」

一夜漬けの応急艤装が、大破する。
虚弱な部分そのままに航行していたのだ。
普段以上には、脆い。

如月「明石さん!?」

利根「なんと!? 何処からなのじゃ!?」

利根が再び瑞雲を飛ばして周囲を見回す。
先程まで、敵艦隊は影も形もなかった筈で。

吹雪「(酸素魚雷……!? 小癪な真似をする!)」

利根「――そんな、バカな。あの距離から……?」

利根の偵察機が敵影を捉えた、が。
それは吹雪も肉眼で確認できた。

確認できるギリギリの距離に、豆粒程度の深海棲艦――浮上している姫級の潜水艦が。

利根「くっ……他にも居るのではないか! 吹雪、如月、聴音機は!?」

吹雪「やってます!」

如月「は、はいっ!」

駆逐艦二人が水面に手を当て、艤装を起動する。
水中の音に耳を澄まし、敵の影をその脳内に浮かばせるように。

――揺れる、海の音を聴く。

如月「と、利根さんが見つけた潜水艦より少し近くにいるわ……多分、三隻……いや四隻……?」

吹雪「四隻。一隻は速いし、他の一隻は深い」

吹雪のパッシブソナーが、水中の潜水艦の航行音を――それこそ化け物染みた精度で拾った。

利根「明石よ、掴まれ! 縛着するぞ!」

明石「う、うう……面目ありません……」

利根がロープで明石の艤装を繋ぐ。
重巡ともなれば、馬力も駆逐艦とは比べ物にならない。
だが、工作艦の重量を上げられるか――は、また別問題だ。

吹雪「――おかしい」

如月「な、何が!? それより早く逃げなくちゃ、明石さんが!」

足して、五隻。



――いない。



吹雪「――利根さん! どうせ居場所はバレてるんです……三式、使いますよ!」

利根「――なるほど! 確かに数が合わぬ、やってしまえ!」

吹雪は自らの艤装の聴音機の機能を切り、探信儀――三式探信儀――側に切り替える。

彼女は踵を高く上げ――

吹雪「ふっ!」

そのまま真っ直ぐ、水面を蹴りつけ、海を揺らす。

水中に広がった音が、跳ね返って――艤装がその音を解析した。

吹雪「――いる! 無音潜航で接近する潜水艦、一! 合わせて六隻……間違いない、奴らです!」

利根「分が悪いが、速力はともかく距離はある――吹雪、如月! 明石を全力で曳いていくぞ!」

吹雪「島は近い。とりあえず、そこに逃げ込みましょう!」

如月「わ、わかったわ!」

三人がかりで明石を誘導していく。



潜水艦は、ゆっくりと跡を追ってきていて――

出た! 吹雪のスタイリッシュアクティブソナーコンボだ!←
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このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月06日 (水) 04:59:06   ID: tsCq8Sum

久しぶりに面白いss

2 :  SS好きの774さん   2016年05月14日 (土) 20:02:44   ID: pMaLICnx

タイトルに反していい

3 :  SS好きの774さん   2016年06月05日 (日) 02:57:55   ID: v2QRzq6R

これは名作の予感
女の子同士はいいものですね

4 :  SS好きの774さん   2016年06月17日 (金) 22:26:36   ID: PLWqacGk

これは名作
タイトルに釣られた自分が情けなくなるほど名作
続き待ってます

5 :  SS好きの774さん   2016年06月21日 (火) 03:12:01   ID: zAuMCa-G

過去編との往復で展開がよく分からなくなってきた
死後の世界、もしくは再ドロップにより記憶が失われたのかな

6 :  SS好きの774さん   2016年07月24日 (日) 00:35:57   ID: ivkMv152

これはどう考えても艦娘がわと深海がわが反転してるでしょう。
だからきっとこれから戦う潜水艦は58達ですね

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