北条加蓮「世界の終わる日に」 (17)

アイドルマスターシンデレラガールズ、北条加蓮のお話です。

独自設定、キャラ・文章が変などは大目に見て頂けると幸いです。 地の文あります。


世界観はとPの設定は以前に書いた
神谷奈緒「あたしの幸せ」
神谷奈緒「あたしの幸せ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455882302/)
と同じ物ですが、読んでなくて問題ないです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457757444

「私、Pさんの事、好きだよ」

 仕事が終わって、迎えに来てくれたPさんと一緒に事務所の廊下を歩いている時だった。

なんとなく、Pさんの後ろ姿を見ていたら告白してみようって気分になった。答えは分かり切っているし、本当になんとなくの気紛れ。

「え? 今なんて言った?」

 Pさんは間抜けな顔で振り返って、私の言葉を聞きなおす。

「もう。Pさんが好きって言ったの」

 私はちょっと怒ったフリをしながら、先ほどPさんの後ろ姿に向けて放った言葉を繰り返す。今度は後ろ姿ではなく、正面に向かって。

「お、おう! ありがとな! 俺も加蓮もみんなの事も好きだよ」

 目が泳いでいる。頭をかいてるし、分からないフリをしているのが丸分かりだ。

「Pさんってさ、都合が悪くなると頭かく癖、あるよね」

 私が少しトーンを落としてPさんの癖について言及すると、慌ててそんなことはないと否定されてしまった。皆知ってるから誤魔化せるわけないのに。

「はぁ……、まぁいいや」

 どうせこうやって誤魔化されるのは分かっていた。いつもの私ならここで引き下がるのだが、今日はなんとなく引き下がる気にはならなかった。

「私はPさんの事が好き。男の人として好き。付き合ってください」

 相変わらず泳ぎまくっているPさんの目を見据えてはっきりと言う。ここまで言ってしまえば誤魔化せないだろうしね。

「えっと……だな……」

 頭をかきながら言いよどむ。私はこの次にPさんが言うであろう言葉を知っている。

「ごめん。アイドルとは付き合えない」

 予想通りの言葉が返される。ただ、ひとつ予想外だったのは、先ほどまで泳ぎまくっていた目が私を力強くまっすぐに見据えていた事だ。

「だよね。知ってた」

「……すまん」

 私があっさりと納得した事に多少なりとも疑問を持ったのだろうが、Pさんだって本当に鈍いわけではない。ちゃんと空気を察してくれた。

「あーあ、せっかくトップアイドルって言っても良いくらいに頑張ったのになー」

 フラれた腹いせに少しだけ意地悪を言ってみる。こんな事してもPさんが私の告白を受け入れてはくれないのだが、せっかく勇気を出したのだ。最後くらいワガママでも許されるだろう。

「いや、加蓮は名実共にトップアイドルだよ。うん」

「ふふっ。そう? ありがと」

 褒められると嬉しくなってしまう。フラれたばかりだとは言え、私はやはりこの人が好きなのだ。構ってもらえるだけでも、私は充分に満たされてしまう。

「でも、シンデレラガールにはまだなれてないよ」

 シンデレラガール。うちの事務所で一番栄誉ある称号だろう。1年にたった一人しか選ばれない、特別な称号。

「加蓮ならすぐにでもなれるさ」

「まだトライアドプリムスの中じゃ凛だけなのに? ホントになれる?」

 私が組んでいるユニットの中でシンデレラガールになったのは凛だけだ。もちろん、私も奈緒も負けているとは思わないけども。

「ああ、何せ俺が惚れ込んだアイドルだからな」

「そういう事言うからPさんはずるいんだよ……」

 Pさんには聞こえないくらいの声でぼそっと愚痴を言う。やはりPさんには聞こえていなかったのだろう、事務所の扉を開けて私が入るのを待ってくれている。

「どうした?」

「ううん、なんでも」

 扉を開けてくれたPさんにお礼を言いながら事務所に戻る。ただいま、と声をかけたのだが、誰も反応してくれない。珍しくちひろさんも出払っているようだ。

「あれ、珍しいね。ちひろさんも居ないんだ」

「あー、みたいだな」

 Pさんは仕事の続きをするのだろう、休憩もせずに自分の机でパソコンを開いていた。

「ね」

 Pさんの背中に向かって呼びかけると、Pさんはこちらに振り返りもせず、気のない返事を返してくれた。

「もし、私がアイドルじゃなかったら付き合ってくれた?」

 意地の悪い質問だ。もし私がアイドルになっていなかったらそもそもPさんとは会っていなかっただろうし。

「……俺にはアイドルじゃない加蓮なんて想像もできないよ」

「……そっか」

 やはり私が欲しかった言葉は言ってはもらえなかった。それだけ私がPさんに入り込む隙間はないのだろう。仕方のない事だけど、少しくらいは私の事も見てほしかった。

「俺はさ……」

 しばらくの間、何を話せばいいのか分からず黙っていたのだが、沈黙を破ったのはPさんだった。

「俺はさ、加蓮のプロデュースが出来てすごく楽しくて幸せなんだ」

 パソコンを叩く手は止めず、こちらに振り返ってすらくれない。

「だから、俺の思い込みかもしれないけど、加蓮がアイドルじゃなかったら俺はここまで幸せにはなれてないよ」

 顔が熱くなるのを感じる。奈緒じゃないんだからこの程度で赤くなってどうするのだ。

「じゃあ、私の大好きなPさんのためにも私はアイドルを続けないとね」

 ちょっとばかり強がりを言う。本音はPさんの幸せよりも私の幸せを優先したいところだけど、私ではPさんには振り向いてもらえないみたいだ。

「シンデレラガール、私がとったらPさんももっと幸せでしょ?」

 振り向いてはもらえないのなら、せめてPさんの心の中に私という存在を強く残そう。Pさんの中では1番になれなくても、アイドルの中では1番になってやろう。

「ああ、楽しみにしてる。俺をもっと幸せにしてくれよ、加蓮」

 ようやく振り向いてくれたPさんが私にかけた言葉はまるでプロポーズみたいだった。

「うん、頑張るよ」

 私はその言葉だけあればもっと頑張れるだろう。例え、実る事の無い恋であっても私は充分に幸せだったのだから。

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 時計を見ると夕食にちょうど良い頃合いになっていた。

「もうちょっと待ってくれれば送っていくぞ?」

「ううん、Pさん忙しそうだし、大丈夫」

 戻ってきてからというもの一度も手を止めていないのだ。実際忙しいのだろう。

「それに、フラれた人と車内で二人きりはちょっとキツいからね」

 私の意地悪な発言にPさんはようやく手を止める。ああ、ダメだ。嫌な女だ。

「ごめん……」

「謝らないでよ、冗談だから」

 軽く笑顔を作って見せる。これでも演技には自信がある。自分で言うのもなんだけど良い出来だと思う。

「じゃあ、また明日。お疲れ様」

 今度は私がPさんに振り向く事なく一方的に告げて事務所を後にした。


「はぁ……」

 ため息を吐きながら駅までの道のりをゆっくりと歩く。

「なにが、アイドルとは付き合えない、だ……」

 軽く夜空を睨み付けながら悪態を吐く。アイドルがこんなことしてはいけないのは承知の上だが、今だけは仕方がない。

 私はPさんに好きな人が居る事を知っていた。仮にPさんに問い質したとしても決して認めはしないだろうけど、私も凛も知っている。知らないのはPさんの想い人であるただ一人だけ。

「奈緒はずるいなぁ……」

 じわっと目頭が熱くなる。泣くつもりはないのに、上を見ていないと涙が零れてきてしまう。

 もし、奈緒より先にPさんと私が出会っていたら、Pさんは私に惚れてくれたのだろうか。見た目だけなら奈緒にだって負けてはいないはずだ。

「ま、後か先かなんて関係ないよね……」

 Pさんが奈緒に惚れたのは見た目だけではないだろう。私の……私達の自慢のお姉ちゃんは優しくて、照れ屋で、ほんの少し素直じゃないけど、すごく頑張り屋なのだ。惚れないわけがない。

「うん……。奈緒なら仕方ないよね、仕方ない」

 私自身に言い聞かせるように何度か同じ言葉を繰り返す。そう、奈緒なら仕方ないのだ。姉の幸せを願わない妹はいないのだし。

「おーい! かれーん!」

私が上を向くのをやめて、俯いて歩いていると良く知った声で呼び止められた。

「よっ! お疲れ! 仕事終わったのか?」

 声のする方に顔を向けてみれば、そこには屈託のない笑顔を浮かべながら、大きく手を振る良く見知った顔があった。

「そうだよ、今から家に帰るとこ。奈緒も?」

「うん。あたしも今日は直帰で良いって言われてるから、このまま帰るつもりだったんだよ」

 奈緒はそう言うとニコニコとしながら隣に並んで歩く。こんなにニコニコしているということは私に会えて嬉しかったのだろうか。そう思うと先ほどまでの暗い気持ちもどこかへ行ってしまう気がした。

「じゃあさ、ごはん行こ! ごはん!」

 今からごはんに行くと、奈緒が家に帰るのは遅くなってしまう。でも、多少ワガママだが、奈緒を連れまわさないと私の気が済まない。

「えぇー……? 今からだとあたし帰るの遅くなるんだけど……」

「じゃあ、うちに泊めてあげるからさ!」

 言葉では嫌そうにしているが、顔は緩んでいるから大丈夫だろう。

「もう、加蓮は仕方ないやつだなぁー」

「やった! じゃあポテト食べにいこ! ポテト!」

 強引に奈緒の手を取り、歩を早める。奈緒との楽しい時間はいくらあっても足りはしない。食事なんてあっという間だし、一晩だって奈緒と一緒ならあっという間だ。

「ポテトって、ダメだダメだ。そんな身体に悪いもん」

 奈緒がお姉さんぶって私を窘める。なら、私は妹としてお姉ちゃんに甘えるとしよう。

「えー、だってポテト食べたいんだもーん」

 なにせ、Pさんに恋していた世界が終わる日なのだ。世界の終わる日なのだから、多少のワガママくらいお姉ちゃんに言ってもいいだろう。

「仕方ないなぁ、もう……」

「ふふっ! それでこそ私のお姉ちゃんだね!」

 明日からはまた新しい世界が始まる。奈緒と凛と一緒に、私は新しい世界へと踏み出すのだ。

End

以上です。

しゅがはさん来るまで10連は引かないと言ったが、禁断症状には耐えられなかった。

そしたら加蓮が来てくれました。嬉しかったのでちひろさんに感謝を捧げてます。

この調子で奈緒も出してほしいなーなんて。

加蓮も可愛いのですが、やはり私は奈緒が好きです。早く奈緒と凛を引いてトライアドプリムスで踊らせたいです。

では、依頼出してきます。

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