士郎「抱きしめていいか」 (30)
夜
士郎「セイバー」
セイバー「何でしょうか、シロウ。夕飯なら先程――」
士郎「抱きしめていいか?」
セイバー「……は?」
士郎「唐突なのは分かってる。でもこれは決して冗談なんかじゃないんだ」
セイバー「えと、あの、」アセアセ
士郎「やっぱり駄目、か?」
セイバー「いえ、決してダメとかそういうわけではなく――」
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士郎「頼む! 俺もう我慢できそうにないんだ。抱きしめさせてくれ!!」バン
セイバー「シ、シロウ。そんなに大きな声を出すと他の住人が」
士郎「もうそんなことどうでもいい!!」
セイバー「………分かりました。マスターがそこまで言うのなら、サーヴァントの私は従うまでです……///」テレ
士郎「セイバー!! 恩に着るよ!!」ギュゥ
セイバー(――シロウ、逞しくなりましたね……///)
士郎「ありがとう、セイバー。俺今最高に幸せだよ」ギュゥ
セイバー「……よ、喜んでくれたのなら幸いです///」
数分後
士郎「ふぅ……」
セイバー(あっ、終わった)
士郎「それじゃあ、夜遅くに悪かったな」
セイバー「えっ、これでお終いですか? 私を抱きたいというのは、その……///」
士郎「ち、違うんだ。そういう意味ではなく、純粋にセイバーを抱きしめたくて……///]
セイバー「い、いえこちらこそとんだ早とちりを」アセアセ
士郎「じ、じゃあ俺もう寝るから。セイバーもちゃんとあったかくして寝ろよ」バタバタ
セイバー「おやすみなさい」
士郎「おやすみ」バタン
セイバー(今のは、つまり私が選ばれたということで良いのでしょうか……///)
セイバー「今夜は良い夢が見れそうです……!!」ウキウキ
昼、学校屋上
凛「それでおっかしいのよ、綾子がさぁ」
士郎「ん? 遠坂、ほっぺにパンくずが……」ヒョイ
凛「ちょっ……! そのくらい自分で取れるわよ……///」バタバタ
凛「大体士郎はすぐそういうこと女の子にして……///」バタバタ
士郎「」ドクン
凛「ちょっと、聞いてるの士郎?」
士郎「」
士郎「遠坂、抱きしめていいか?」
凛「はい?」
士郎「抱きしめてもいいかって聞いたんだ?」
凛「……それ、冗談だとしても笑えないわよ衛宮君」
士郎「冗談なもんか。俺は本気で遠坂のことが抱きしめたくてたまらない」キリッ
凛「ふ、ふんだ! そんなので流されるのはセイバーくら――」ドキ
士郎「頼む、遠坂」ハァハァ
凛「ちょ、何息荒くしてんのよこの変態!!」
士郎「頼む!! お前しかいないんだ!!」ドゲザ
凛「ど、土下座って……」
士郎「」ドゲザ
凛「」
士郎「」ドゲザ
凛「……男の子がそんな簡単に土下座なんでしないでちょうだい」ヤレヤレ
士郎「でも俺は遠坂を抱き――」
凛「ええ、ええ、分かったわよ。やってやるわよコンチクショー! ///」
凛「ハグなりキスなり好きなだけさせてあげるわよ馬鹿士郎……///」テレ
士郎「遠坂!!」ガバッ
凛(……あったかい///)
士郎「遠坂、前に俺を幸せにするって言ったよな」ギュゥ
凛「……何よ、何か文句でもあるっていうの?///」
士郎「俺、今幸せだよ」ギュゥ
凛「…………ばか///」
数分後
凛「い、いつまでベタベタしてんのよ!」バッ
士郎「ああ、満足だ遠坂。ありがとう」キリッ
凛「こんなの、これっきりだからね!!///」
士郎「授業、始まっちゃったな」
凛「誰のせいよ……、もう」
夕方 公園
カレン「おや、こんなところに迷い犬が一匹」コンニチハ
士郎「カレンか」
カレン「私では不服なようですね」フフ
士郎「まさか。アンタを外で見かけるのが珍しいかったから驚いただけだ」
カレン「そう。なかなか教会まで会いに来てくれないから、私から出てきてしまったわ」
士郎「嘘つけ」
カレン「まぁ、失礼な。飼い主のことを嘘つき呼ばわりだなんて、とんだ駄犬もいたものね」クスクス
士郎「」ドクン
カレン「あら、もう果ててしまったの?」
士郎「……カレン、抱きしめていいか?」
カレン「どうぞ」ウフフ
士郎「カレン!!」ガバッ
士郎「カレンは、温かいな」ギュゥ
カレン「……それにしても、今日はいったいどういう風の吹き回しかしら」
士郎「どうもなにも、カレンが可愛らしくてどうしようもなく抱きしめたくなった」ギュゥ
カレン「……そう」
カレン(この姿を写真に収めて、衛宮邸に送り付けたらどうなるかしら)フフ
士郎「カレン……」ギュゥ
数分後
士郎「助かったよ」
カレン「私のような汚れた女で良ければいつでもどうぞ」
士郎「……」
カレン「ところで、貴方は可愛ければなんでも抱きしめてしまうのかしら?」
士郎「分からない。ただ、一度可愛いと思うと、体中が熱くなって抱きしめるまで収まらなくなる」
カレン「まぁ、まるで発情期のネコのようね」ニヤニヤ
士郎「言っとけ」フン
カレン「フフ」
士郎「あ、もうこんな時間か。俺買い物してから帰んないと行けないから、もう行くよ。ありがとうな、カレン」ダダッ
カレン「ギルガメッシュ、カメラをありったけ用意しなさい」
子ギル「何ですかもう、藪から棒に」ヤレヤレ
カレン「24時間体制で、衛宮邸のすべての部屋を監視できるようにしなさい」
子ギル「げぇっ、なんでまた」
カレン「いいからやりなさい。明日の朝私が目覚めたときに用意が出来てなかった場合――」
子ギル「何ですか?」
カレン「令呪を使って、貴方を一生私の父(通称ゴミ虫)と同じベッドでしか眠れないようにします」
子ギル「うぇ、それは本当に困ります」
カレン「私としてはどちらも面白いので、出来なくても構いませんが――」
子ギル「やりますやりますったら。まったく、自分がどれだけ大変なことを言っているのか分かっているんでしょうか、この鬼マスターは」スゥ
カレン「せかせか働きなさい」
カレン(…………可愛い///)
…………
士郎「セイバー、本当に悪いんだけど――」
セイバー「……はい///」テレ
…………
士郎「遠坂、」
凛「本当にしょうがないわね。……馬鹿士郎///」
…………
………
……
…
夜 衛宮邸
凛「最近なんだか元気いいじゃないセイバー」ニコニコ
セイバー「そういう凛こそ」ニコニコ
士郎「ほら机拭くから手ぇどけてくれー」
凛「はーい」
セイバー「シロウ、本日の夕食もたいへん美味でした」ニコ
士郎「おう、セイバーに喜んでもらえたらうれしいよ」
セイバー「はい……///」
凛「士郎、私もあと片付け手伝おうか?」
士郎「ありがとな、でも桜がいるから手は足りてる」ダイジョブ
セイバー「今日も世界は平和ですね、凛」フフ
凛「なあに、セイバー。急にお婆さんみたいなこと言って」フフ
セイバー「な、お婆さんとはひどいですよ凛」プンスカ
凛「ごめんごめん。でも確かに、こういう何でもない時間っていいわね」ニコ
セイバー「でしょう? 世は全てことも無し、何もないことが実は幸せなんです」
凛「真理ねぇ……」
ウフフアハハ
士郎「なんだあいつら」カタカタ
桜「姉さんったら」シャー
士郎「それにしてもいつも悪いな桜。洗い物こんなにたくさん」
桜「いえいえ、先輩には美味しい料理たくさん作ってもらったので、少しはお手伝いしなきゃ」シャー
士郎「でも桜は一応お客さんなんだし――」
桜「もう、ひどいです先輩。これだけ長い付き合いなんですから、今更そんな他人行儀なこと言わないでください」シャー
士郎「うっ」
桜「美綴先輩にもこの間、か、通い妻みたいだなって言われたばかりで……///」
士郎「な、何てこというんだアイツ///」
桜「ご、ごめんなさい。……変なこと言って///」カァァ
士郎「」ドクン
桜「」ニヤ
凛「それでね、今度――」
セイバー「ほう、それはそれは」
サクラァアア‼
ダメデス、センパイミンナガイマス‼
凛「ちょっ、何々。何事!?」ガタッ
セイバー「シ、シロウ!」ガタタッ
士郎「ありがとう桜」ギュウ
桜「いえ、先輩の好きなようにしてください///」
士郎「俺、今しあわ――
凛「桜から離れなさいこのアンポンタンのスケコマシぃーー!!」トビゲリ
士郎「ぐはぁっ――!!」ドンガラガッシャン
桜「せ、先輩ーー!」
セイバー「見下げ果てましたよシロウ!! 私にあんなことをしておきながら、まさか桜にまで手を出すとは!!」
凛「貴方セイバーにまで手を出してたのね……」
セイバー「まさか凛。貴女も?」
凛「ええ。そこのトンチキに、ことあるごとに抱かれていたわ」フンス
セイバー「凛。語弊のある言い方は良くない。抱きしめられていたの間違いでは」
凛「……訂正。抱きしめられました。これでいい?」チッ
セイバー「よろしい」
凛「それじゃ改めて。士郎! 今度という今度は本当に愛想が――」
桜「待ってください姉さん!! セイバーさん!!」
セイバー「庇いだてするのですかサクラ!」
凛「そうよ、貴女だってそこで転がってるクズに弄ばれてたのよ! 貴女は知らないかもしれないけど、私達もこの男に――」
桜「知ってました」
セイバー「なっ」
凛「じゃあなんでそいつの肩を持つのよ!!」
桜「違うんです!! 先輩、病気なんです!!」
士郎「」キゼツ
凛「病気? あー病気ね知ってる知ってる。頭のビョーキでしょう?」
桜「ほんとに病気なんです!!」ウル
セイバー「サクラ、ただ病気と言われても私達には到底信じることが出来ません」
凛「そうよ、ちゃんとした病名とその内容を言ってごらんなさい。どーせ『女の子大好き病』とかそんなんでしょ?」
桜「ふざけないでください姉さん!! 死に至る可能性もある病なんですよ!」バン
セイバー「なんと!」マジカヨ
凛「うっ、だから、そんなに言うなら病名を言いなさいっての」
桜「――ビョウ」ボソッ
凛「何? 聞こえないわよ桜」
桜「だから、『抱きしめたい病』です!!」ババーン
凛「はぁ? 女の子大好き病と何が違うのよ」
桜「この病気は実在します」
セイバー「しかし、そう言われましても信じようがありません。サクラ、私には貴女がおかしなことを言っているだけにしか見えない」
桜「事実は小説より奇なり、です。ライダー、例のものを」パンパン
ライダー「呼びましたか」サッ
桜「姉さんたちにアレを」
ライダー「分かりました。これをご覧ください」
凛「な、なによ。その板がどうしたっていうのよ」
セイバー「これはタブレット端末ですね。surfaceですか?」
ライダー「surface Pro 4です。バイト代を貯めて買いました」フフン
セイバー「なんと!」
凛「何? 何の話? 現代語で話してちょうだい!」
ライダー「凛には一生縁のない話ですよ」フフン
桜「ちょっと、タブレットはいいから。表示されてるページの内容の話をしてください」イラ
タブレット『抱きしめたい病の認知にご協力ください』
凛「ヒィっ、喋った」ガタッ
ライダー「フフ、googleの読み上げ機能ですよ」フフン
桜「……ライダー!!」バン
ライダー「抱きしめたい病は、100万人に一人が発症すると言われる奇病です。感染者はある特定の感情に呼応し、対象物を抱きしめたくて仕方がなくなります」ドキドキ
セイバー「……むぅ。にわかには信じがたい話ですが、その衝動は我慢できないのですか?」
桜「なんでも、その特定の感情を抱くと、感染者の体温が急激に上昇するそうです。それに伴って脳も熱を持ち、一種の酩酊状態になって――」
凛「判断力を失うってわけね。……その特定の感情ってのはどんな感情なの?」
セイバー「このページによれば、起因となる感情は人それぞれのようですね」
ライダー「士郎の場合は、可愛い、です」
凛「は?」
桜「だから、先輩は相手の仕草とかが可愛いと少しでも思ってしまうと、抱きしめたくてたまらなくなるんです」
セイバー「そ、それは………///」
凛「なっ! ほ、ほんとに馬鹿ねコイツ……!///」ゲシゲシ
士郎「ぐっ、うぇっ」
桜「照れ隠しに先輩のお腹を蹴らないでください!!」
凛「無理やり我慢させるとどうなるのよ」
桜「一度スイッチが入ってしまった場合、抱きしめるまで体の熱は収まりません。それがどういうことを意味するか、姉さんならわかりますよね?」
凛「……アホみたいだけど、結構えぐい病気ね」
セイバー「な、治すことは出来ないのですか?」
ライダー「治療法は見つかっていません」
セイバー「そんな……」
桜「この病気は周囲の人間の協力が、患者にとっては不可欠なんです」
凛「確かに、ことあるごとに抱きしめようとする人間なんて、普通に考えたら社会生活は困難ね。性犯罪者のレッテルを張られて豚箱行きになっちゃうか」
ライダー「症状は時間とともに悪化していき、末期患者は感情のスイッチが簡単に入ってしまうようになります。この病気の死因の第一は、酩酊状態での交通事故です」
セイバー「……目を離せませんね」
桜「だから、協力すべき私達がそんなふざけたスタンスでいてはいけないんです!」バン
凛「……うぅ、悪かったわよ」
セイバー「シロウ、なぜ私に黙っていたのです」ポロポロ
桜「先輩に自覚はありません……」
ディスプレイ『先輩に自覚はありません……』
ディスプレイ『シロォオオオオ』ウワァアアア
カレン「WWW」ゲラゲラ
子ギル「おバカさんたちですねぇ」フフ
ランサー「女は魔性なぐらいがちょうどいいってか。それにしても羨ましいビョーキだぜ」
凛「それで、これからどうすんのよ」
桜「姉さん達に迷惑はかけられません。これからも私が――」
セイバー「桜、現にそれは無理があったでしょう」
凛「そうよ、ここは手分けして介護しましょ。士郎はアンタのおもちゃじゃないんだから」
桜「何のことでしょう」ニコ
セイバー「そうですね。時間ごとに担当を決めてシロウの傍につくというのはどうですか?」
凛「まあ妥当ね。発作が起きたら、その時の担当が、……その、抱きしめさせてあげれば……///」
セイバー「////」
桜「チッ、……いいんじゃないですか」
ライダー「士郎、大丈夫ですか?」
士郎「うぅ……、なんか体中が痛いんだけど」イテテ
ライダー「気のせいですよ」
凛「ちょっと桜、アンタだけ担当の時間多くない?」
桜「姉さんたちに負担はかけられません」
凛「お気遣いどうも、でも私全然苦じゃないから」
セイバー「負担だと思うのなら、桜の担当部分は私が引き受けましょう。なに、サーヴァントとしてマスターのためならこれしきのこと、むしろ報奨です」
桜「なっ、負担っていうのは姉さんたちから見た場合の話です! 私はむしろ抱きしめられたいくらいです!!」
凛「ちょっ、アンタ正気?」
セイバー「ざ、残念でしたね桜。抱きしめられたいのは何も貴女だけではない。私だってシロウに、その、抱きしめられたい……///」ボソッ
凛「ずるいわよセイバー!」
ギャアギャア
士郎「なぁ、あいつら何かおっかない話をしてないか?」
ライダー「フフ、士郎も罪な男ですね」フフフ
士郎「」ドクン
士郎「ライダー――」
ライダー「どうぞ」ニヤ
凛「ちょっと待てえええええ!!」
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