剣「おい、起きろ!」勇者「ぐぅ……ぐぅ……」(56)

― 山 ―

剣「おい、起きろ!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「起きやがれ!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「このぐうたら野郎!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「このっ!」チクッ

勇者「いてっ……なんだよ、もう……」

剣「オレを引き抜いたと思ったら、いきなり寝る奴があるか!」

勇者「ぐぅ……」

剣「寝るなってんだよ!」

勇者「あ、ごめん……」

剣「オレはだいたいの事情は把握できてるから、お前のためにおさらいしてやる!」

剣「お前は、国王から魔王討伐とさらわれた姫の救出を依頼された!」

剣「んでもって、勇者の血を引く者しか抜けないオレをこの山まで引き抜きにきた!」

剣「んで、お前は眠い眠いと口走りながらもあっさりオレを引き抜いた!」

剣「ここまではいいか!?」

勇者「ぐぅ……」

剣「聞けえええええええええ!!!」

剣「オレは一度引き抜かれれば、多少は自力で動くこともできるが」

剣「しょせんは剣だ……お前に持ってもらわなきゃ100%の力は発揮できねえ!」

剣「だからお前はオレを手に、魔王を討伐しに行かなきゃならねえんだよ!」

勇者「うぅ~ん……ボクじゃなきゃダメなの……?」

剣「ダメなんだよ! オレを使えるのはお前だけで、魔王を倒せるのはオレだけだしな!」

勇者「ぐぅ……」

剣「寝るなあああああああああ!!!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「くっそ……さっきよりずっと深い眠りについちまったみたいだ」

剣「こりゃあチクチクするぐらいじゃ起きそうもねえぞ……」

剣「かといってザシュザシュやるのは流石にマズイだろうしな……」

剣「――ん」

剣「勇者が腰に身につけてる袋に入ってるのは――ライスボール!」

剣「そうだ、米粒をこうして潰して……」グニグニ…

剣「これをこいつの右手にくっつけて……」ペタペタ…

剣「さらに、オレの柄がこいつの右手にくっつく」ペタッ

剣「――よし! これでオレは勇者の右手に握られたようなもんになった!」ジャンッ

剣「この状態なら、オレも勇者の剣として最大限の力を発揮できる!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「こうなったら、オレがこのぐうたらを引っぱって、魔王を倒すしかねえ!」

剣「せっかく引き抜かれたんだ……魔王ぐらい倒さなきゃ生まれたかいがねえしな!」

剣「それじゃしゅっぱーつ!」グイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

― 村 ―

剣「ふう、ふう」グイグイ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

剣「ふぅ……やっとこさ近くの村にたどり着いたぜ」

村長「おおっ、あなたが勇者様ですか!」

剣「え、と……そうだ!」

村長「まるで、勇者様は眠っていて、剣がしゃべっているように見えますが……」

剣「え、そ、そんなことないよ!? オレが勇者だから!」

剣「剣がしゃべってるように聞こえるのは……えぇと、腹話術みたいなもんなんだ!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

村長「そ、そうですか」

剣「――なるほど、近くの洞窟の魔物をやっつけて欲しいと」

村長「村人もたびたび奴に襲われているのです……お願いできますでしょうか?」

剣「もちろん! 断る理由がねえ! なんたってオレは勇者だからな!」

剣「ほら、行くぞ!」グイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…



村長(どう見ても、剣に勇者様が引っぱられているように見えるのだが――)

― 洞窟 ―

剣「くそっ、地面がゴツゴツしててこいつを引きずるのも一苦労だ!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

ガツンッ!

剣「あ! 地面のデコボコに勇者の頭がぶつかっちまった!」

勇者「いだだ……」

剣「やっと起きたか! ――って、大丈夫か!? かなり強めにぶつかったけど……」

勇者「あれ……? なんでボク、洞窟にいるの……?」ムニャ…

剣「実はな、オレがお前にくっついて、お前を引っぱってここまで来たんだよ」

勇者「そうなんだ……」

剣「もしかして……怒ってるか? いや、怒るに決まってるよな」

勇者「いんや、別に……」

剣「そ、そうか。それを聞いてほっと――」

勇者「むにゃ……ぐぅ……」

剣「あ、寝やがった!」

剣「てめえが魔物か! 今日が年貢の納め時だぜ!」

魔物「ガルルルルル……」

魔物「ガァァッ!」ダッ

剣(飛びかかってきた! かわしてやるっ!)サッ

勇者「ぐぅ……」ズルッ

ザシュッ!

剣(あ、やべっ! オレはよけたけど、勇者に攻撃が当たっちまった!)

勇者「うぅ~ん……ぐぅ……」

剣「今ので起きねえのかよ! すごいんだか、すごくないんだか……」

魔物「グルルルルル……」

剣「ぐうたらとはいえ、よくもオレの主人を傷つけやがったな!」ブンブンブンッ

ザザザンッ!

魔物「グギャアァァ……!」ドズゥン…

剣「ふぅ、いっちょ上がりだぜ!」

剣(うん、こいつを引きずりながらでも結構イケるじゃん!)

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

― 村 ―

村長「おかげで村は救われました……ありがとうございます」

剣「なんのなんの」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

村長「今晩はぜひ我が家に泊まっていって下さい」

剣「いやいや、オレは全然疲れてないから。このまま旅を続行するよ」

村長「そうですか……。旅の無事を祈っております」

剣「ありがとう! ――オラッ、行くぞ!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…



村長(やっぱり人間が剣に引きずられてるように見える……)

― 町 ―

剣「――えぇっと」

剣「あれからいくつか村や町を巡ってきたが……」

剣「ここは比較的平和な町らしいな。魔物や魔族と戦うことはなさそうだ」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「いつも野宿だし、たまには宿屋でゆっくり休むか」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「つっても、お前はいつもゆっくり休んでるけどな!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

― 宿屋 ―

店主「お一人様につき、200ゴールドいただきます」

剣「ってことは400ゴールドだな」

店主「えっ?」

剣「えっ?」

剣(あ、そっか。オレの分払う必要ねえじゃん)

剣「ほらよ、200ゴールドだ」チャリン

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

店主(横たわりながら動き回って、剣を使って支払いをする客なんて初めてだ……)

剣「オレはベッドで寝る! お前はオレを持ったまま床で寝ろ! 分かったな!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「ものすごい姿勢になってるのに、よく眠れるなこいつ……」

剣「あー、やっぱりお前もベッドに入ってよし!」グイッ

勇者「むにゃあ……」ズルズル…

勇者「あり……がと……」

剣「!」

剣「……なんだよ、照れるじゃねえか」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「寝言かよ!」

― 大都市 ―

市長「――というわけなのだ!」

市長「魔王の軍勢は、王国の産業の中心地であるこの都市を狙っておる!」

市長「私も私兵を出して応戦するが、彼らだけでは到底防ぎきれまい」

市長「勇者殿、どうか我らを助けて欲しい……!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

市長「えと……ちゃんと聞いてる?」

剣「あー聞いてる聞いてる! 魔物の軍勢なんてオレがいりゃちょちょいのちょいよ!」

市長「あ、よかった。聞いてたんだ」

剣「ほら、行くぞ!」グイグイッ

勇者「うぅ~ん……もう食べれない……」ズルズル…

ワァァァ……! ウォォォ……!

キィンッ…… ガキンッ…… ザシュッ……



私兵A「すげえな……さすが勇者様だ。一人だけでもう100匹は倒してるぜ」

私兵B「横になりながら右手だけを動かす剣術が、あそこまで強いとはなぁ……」

私兵C「俺も真似してみよっかな……」



剣「だりゃ! だりゃ! だりゃ!」ザシュザシュザシュ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

剣「こんなふざけた剣術、よい子はマネすんなよ!」ザシュザシュザシュ

ワァァァ……! ウォォォ……!

キィンッ…… ガキンッ…… ザシュッ……



剣「つーかさ、こんだけ人と魔物が入り乱れてるのに、よくお前は起きねえな?」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

勇者「……ん」

剣「おおっ、久しぶりに起きた! 何日ぶりだ!?」

勇者「今、何が起きてるの……?」ムニャ…

剣「大都市軍と魔王軍の大戦争だよ!」

勇者「そうなんだ……おやすみ……」グゥ…

剣「もはや“それでこそお前!”って感じがしてきたぜ!」

市長「――ありがとう! 勇者殿の奮戦のおかげで魔王軍を撃退できた!」

市長「この戦いには魔王軍も主力を投入していたから、この敗戦はかなりの痛手のはず!」

市長「ところで今夜は、ぜひ豪勢な食事で勇者殿をもてなしたいのだが――」

剣「いや、オレらはあまりメシを必要としてないから、いらねえや! 悪いな!」

剣(オレは食わないでいいし、こいつも眠ってばかりでほとんどメシ食わねえからな)

剣「それじゃ!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…



市長(勇者殿のアレは、お腹の力だけで移動してるということでよいのだろうか……?)

― 邪神殿 ―

黒魔術師「フフフ、お待ちしておりましたよ、勇者殿」

黒魔術師「魔王様第一のしもべたるこの私があなたを永遠の眠りにつかせてあげましょう」

黒魔術師「この暗黒魔術でねぇ……」ゴゴゴゴゴ…






剣「すげえ魔力だ! 半端じゃねえ! さすがのお前も起きちまうんじゃねえか!?」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「うん、知ってた」

黒魔術師「なぜだ!? なぜ勇者には私の睡眠呪文が通じないのだ!?」

剣「ごめんな……こんな勇者で。本当に申し訳ない」グイグイ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

剣「どおりゃっ!」ブンッ

ザシュッ!

黒魔術師「ぐはぁっ! ま、魔王様……お許しを……」ドサッ…

― 闇の渓谷 ―

剣「この暗黒の瘴気に包まれた谷を越えりゃ、もう魔王城は目と鼻の先だ!」

剣「気合入れてくぞ!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「うん、そのままの君でいて欲しい」

剣「しっかし真っ暗だな……前がどうなってるのかろくに見えやしねえ」グイッグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

勇者「むにゃ……なにここ、真っ暗だね……」

剣「お、目が覚めたのか。こんな暗闇、恐ろしくてたまらないだろ?」

勇者「うぅ~ん……最高……」ニタァ…

剣「だろ? 分かってて聞いたんだ」

ここまでとなります

― 魔王城 ―

剣「ついに魔王城にたどり着いた……」

剣「こんなぐうたらを引っぱりながらでも、どうにかなるもんだな」

剣「よぉーっし、それじゃいざ突入!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…



剣「どおりゃぁぁぁぁぁっ!!!」ブンブンブンッ

剣「だありゃぁぁぁぁぁっ!!!」ザクザクザク

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

― 魔王の部屋 ―

魔王「ようやく来たか……勇者よ、待ちくたびれたぞ」

剣「待たせてすまねえな、こっちは人一人引っぱってるもんでな」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「魔王……姫さんに悪さはしてねえだろうな?」

魔王「……ふん」

剣「この野郎……まさか! てめえは絶対討伐してやる!」

魔王「来るがいい……勇者と勇者の剣よ」

剣「だぁりゃああああああっ!」ブンブンブン

魔王「笑止……!」シュバババッ

キンッ! ガキキンッ! ギンッ!

剣「ぐっ……!」

魔王「ふっ、なるほど。どうやら勇者自体に戦闘力は皆無のようだ」

魔王「勇者の手にあれば力を発揮できるという勇者の剣が、勇者の体を引っぱって」

魔王「どうにかこうにかここまで来たというわけか」

剣「バレちまったか……。その通りだよ!」

魔王「いかに勇者の剣とはいえ、そんな戦い方で私に勝てると思ったかぁっ!」ブオッ

ギャリンッ!

剣(さすが魔王! 今までの敵とはケタが違う! オレの攻撃が通用しねえ!)

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣「うおおおおおおおおっ!」ブンブンブンッ

魔王「無駄だ! すでに貴様らの弱点は見抜いておる!」バリバリッ

バチィンッ!

剣「ぐおっ!」ボトッ

勇者「むにゃ……」ドサッ

剣(しまった……! オレと勇者の右手が、離れちまった……!)

魔王「ここまでだな」ガシッ

剣「ぐっ……なにしやがる! てめえなんかに持たれたくねえんだよ!」

魔王「勇者の手から離してしまえば――」

魔王「貴様は多少自力で動けて、しゃべることができるだけの剣に過ぎん」

剣「好き放題いいやがって……!(図星だけど……!)」

魔王「しかも、肝心の勇者はあのザマだ」



勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

魔王「つまり! 貴様をへし折れば――私の勝利は確定する!」ググッ…

剣「ぐおおおおっ……!」メキッ…

魔王「ハハハ、剣の分際で粘るではないか!」ググッ…

剣「あたぼうよ! 伝説になるほどの剣をナメんなよ!」メキッ…

魔王「しかし、ここまでだ! 真っ二つにしてくれるわっ!」グンッ

剣(ち、ちくしょぉぉぉぉぉっ……!)メキメキ…

勇者「――ボクの剣、返せよ」パシッ

魔王「あっ!?」

勇者「どれどれ……」チャキッ

勇者「ふぅ、よかった……折れてないみたいだ」

剣「勇者……!? お前、なんでいきなり起きてんだよ!?」

勇者「なんでって……」

勇者「たしかにボクはぐうたらで、勇者と呼ばれる資格なんてない人間だけど……」

勇者「いくらボクだって、ボクみたいな奴をずっと引っぱってくれて」

勇者「一人で頑張ってくれたキミがピンチって時に、寝てられないよ」

剣「…………!」

剣「へっ、こんな最後の最後になってらしくねえこといいやがって……!」

勇者「魔王……ボクとこの剣が改めて相手をする」チャキッ

魔王「ふん、ぐうたら勇者が剣のピンチに覚醒したか……泣かせる話ではないか」

魔王「しかし、おそらく貴様は今まで一度も戦ったことがあるまい?」

剣(そうなんだよなぁ……今までの戦いは全部オレがやってきたんだよな……)

魔王「そんな経験ゼロの勇者など、私にとってみれば赤子も同然!」

魔王「一撃で滅してくれる!」ダッ



ザシュッ……!

魔王「ぐあっ……!?」ガクッ

魔王「な、なんだと……!? 私の攻撃をかわし、しかも反撃だと……!?」



勇者「残念だったね」チャキッ

剣「えぇ!? あれれ!? どして!?」

剣(――ってオレの方が魔王より驚いてどうすんだ!)

勇者「ボクだって、眠りながらずっと経験ってやつを蓄積していたんだよ」

勇者「引きずられ続けたおかげで体は丈夫になったし、夢の中で戦ったりもしてたしね」

勇者「睡眠学習ってやつさ」

剣(そうだったのか……! オレはこいつを見くびってたようだ……!)

勇者「さぁ、いくよ! ボクの剣!」

剣「おう! 存分にオレを振るってくれ!」

勇者「はっ! でやっ! てやっ!」ビュアッ ビュオッ シュバッ

魔王「ぐぬぅぅぅぅぅ……!」ギンッ キンッ キィンッ

ガギィンッ!

勇者「ぐあぁっ!」ヨロッ…

魔王「ちっ!」ヨロッ…

魔王(なかなかやりおる! 睡眠学習……どうやらハッタリではないようだ!)

魔王(だが――)

ギィンッ! キィンッ!

魔王(本当の実戦というものをこなしていないハンデはやはり大きい!)

魔王(ところどころにスキはある!)

魔王(そのスキを突き、一気に心臓をえぐってくれるわ!)グワッ



勇者「ん……」ウトッ…

勇者「――あ、やっぱり眠いや……」ゴロン…





ザバシュッ!





魔王「ぐわっ……!?」

魔王「ま、まさか……あれだけ勇猛に戦ってたのに……」

魔王「いきなり眠りに落ちて、その時の勢いで放たれた一撃が……」

魔王「私の急所を切り裂くとは……!」

魔王「こんなの……ひど、すぎる……」ドザァッ



剣「…………」

剣「……勝ったけど、なんでだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだ……」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

剣(今の一撃……あえて技名つけるとしたら『寝返りスラッシュ』とかになるのかな……)

剣「と、とにかく! 魔王は倒した! 結果オーライだ!」

剣「また米粒を使って勇者とくっついて、と」ペタ…

剣「ほれ、あとは姫を救出するだけだ!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

剣「この扉の監禁されてるんだな……? とりゃあっ!」ブンッ

ズバァッ!

剣「姫! 勇者があんたを助けにきたぜ!」グイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

姫「あらら! あら! やっと来て下さったのね! 待ちくたびれちゃったわあたし!」

剣「うおおっ!?」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」

姫「あら! あらららら! そちらが勇者様!? 眠ってらっしゃるの!? 熟睡!?」

姫「ほら、起きなさい! 起きて! 起きて起きて起きて起きて起きて!」バチンッバチンッ

勇者「いだだ……」ムニャ…

勇者「ぐぅ……」

姫「まぁすごい! 二度寝するなんて! だったら起きるまで叩くまでよ!」バチンッバチンッ

勇者「いだい……」ムニャ…

勇者「ぐぅ……」

剣(どっちも負けてねえっ……!)

姫「ま、いいわ! 魔王は倒したんでしょ? だったら帰りましょう! さ、早く!」

剣(なんなんだ、このせっかちすぎる娘は……)

姫「さ、ほら早く! ダッシュ、ダァァァッシュ! なんたって時は金なりだもの!」

勇者「ぐぅ……」

姫「ほら起きて起きて起きて!」パシパシパシッ

勇者「いだいなぁ……ぐぅ……」





魔王(そう……さらったはいいが、さすがの私もこの姫のハイペースさに辟易し……)

魔王(悪さなどしようがなく……閉じ込めておくしかなかった、のだ……)ガクッ…

姫「もう、こんなにのんびりした人は初めてだわ! ほら起きて! やれ起きて!」パシッパシッ

勇者「ぐぅ……」

剣「おいおい姫さんよ、あんまり叩くなって……」

姫「あらすごい! しゃべる剣! どうしてしゃべるの!? 7文字以内でどうぞ!」

剣「勇者の剣だから」

姫「やっるぅ~! やるわねあなた! 気に入っちゃった! あたしの剣になってよ!」

剣「ハ、ハハ……」

姫「じゃ、こののんびり屋さんを二人で引っぱって帰りましょ! レッツゴー!」グイッ

剣「ほれ、帰るぞ! 魔王退治は帰るまでが魔王退治だ!」グイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…

― 城 ―

姫「お父様! あたし帰ってこれたわ! 勇者様を褒めたげて! 手短にね!」

国王「う、うむ」

国王「勇者よ、よくやってくれた」

勇者「ぐぅ……」

国王「寝てしまってるな……後にした方がいいだろうか?」

剣「あ、気にせず続けてくれ。次はいつ起きるか分からねえし」

姫「そうよ、さっさと褒めてあげてよ! さっさとさっさとさっさと! ハリアップ!」

国王「う、うむ。余はいかなる恩賞をもおぬしに与えるつもりでいる」

勇者「ぐぅ……」

剣「寝る場所があればいいそうだ」

国王「う、うむ」

国王「ところで余は我が娘――つまり姫をおぬしと結婚させたいのだが、どうだろうか?」

剣「さすがにこれはちゃんと答えさせなきゃな……おいっ!」チクッ

勇者「ん……? なに……?」

剣「お前、姫と結婚したいか!? したくないか!? どっちだ!?」

勇者「う~ん……してもいいかな……。ぐぅ……」

剣「――だ、そうだ」

国王「う、うむ」

姫「やったわ! じゃあ今日中に結婚して初夜りましょ! ひゃっほう!」

姫「それじゃさっそく結婚式を挙げないとね! 10分以内に終わらすわよ!」

姫「さあさあ、勇者様! さっそく着替えましょ! ほら引きずっちゃうから!」グイグイッ

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」ズルズル…



剣「あんな極端な二人を見守っていかなきゃならないとは……あんたも大変だね、王様」

国王「う、うむ」

国王「というわけで、勇者の剣よ、おぬしには二人の後見役を任せた」

剣「おう、任された! ――って、え!?」

国王「じゃあ……後はよろしく! 全部任せた!」ニコッ

剣(くっ、こいつ……『う、うむ』しか言わないから油断してた! とんだ知恵者!)

剣「でも、ま……」



姫「ほらほらほら! 早く着替えてほら! ほらほらほら! 着替えさせてあげる!」ゴソゴソ…

勇者「ぐぅ……ぐぅ……くすぐったい……」ムニャ…



剣(せっかく引き抜かれたんだ……)

剣(あとはこのお似合いの二人を見守りながら、楽しく暮らすってのもありかもな)



剣「お~い、姫さん! このぐうたらの扱いはまだオレのが上だぜ!」ヒュオッ

姫「そうね! 剣にも手伝ってもらうわ! ほらほらほら! 手伝って! さぁさぁ!」

勇者「ぐぅ……ぐぅ……」





おわり

以上で完結となります
ありがとうございました!

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