絵里「テトロドトキシン」 (28)

鬱描写あり
えりにこです

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プロローグ
絵里 crash

まるで崖の上に立ったような気分だ。

体中の血は熱を持ち体を駆け回る。
はしゃぐ子犬のように。

肌は明らかに熱を帯び始め。

伝っていく雨が蒸発してしまうんじゃないかと錯覚する。

その場で立ちすくむ、にこの視線はあちこちに舞い。

最終的には私の足元に集中する。

私と同じようににこも声が出せないらしく。

何かを言おうとしてやめたり、口をパクパクさせたり。
それを何度も繰り返していた。

そんなにこの顔芸を見せられて、私はちょっと面白いなって思った。
だから、頭の中はミントキャンディーを放り込まれたみたいにスッキリとなり。

冷静になって、考え出した結果。
この状況は何を言ってもどんな言い訳を考えても無駄だと悟り。

私はにこに向かってちょっとだけ微笑だ。

にこはそんな私を見て恐怖を感じたのか逃げて行ってしまった。

何かが崩れるような気がした。

Chapter.1
にこ Down on me

結局の所、私は絵里の事がどうしようもなく好きでたまらない。

どうしようもなく好きって言うのはもうどうしようもないわけで。

絵里の制服を隠れて匂いを嗅いだりだとか、絵里が椅子に座った後はすぐそこに座り残った暖かさを実感したりしている。

変態って呼ばれても仕方ないし、大体そんな事やってる本人が一番分かってる。
言われたところで、特に何も思わないけど本人にバレたらかなり嫌だ。

でも、どうしようもないくらいに好きなんだから結局の所もうどうしようもない。
むしろ本人にバレてしまった方が歯止めになっていいかもしれない。

更に言えば今は絵里の家にいて。
もっと言えば洗面所の歯ブラシをカバンの中に忍び込ませた所だ。

小学生でもやらない事を私はやってる。
何度もしつこいようだけど、好きなんだ。
どうしようもないくらいに。

絵里「にこ、タオルはかけてあると思うからそれ使って」

にこ「うん。ありがと」

流石に一人で絵里の家に忍び込むような真似はしていない。
ちゃんと家に入る許可は貰っている。
友達同士だから少し言い方はおかしいけど・・・。
当たり前だけど歯ブラシを貰う許可は貰っていない。

バレてしまっても間違えて持って返ったと言えばいいかなと漠然とした言い訳は一応考えている。

ただ遊びに来ただけなのに、何をどう間違えて歯ブラシを持って返ったと聞かれたらぐうの音も出ないけど。

何と無く。
絵里だったらあぁそうなので終わったりするかもしれない。
少し天然な所あるから。

にこ「ふぅ・・・」

洗面所から出ると絵里はまるで私を待ってたかのように出迎えてくれた。

絵里「そろそろ帰る?」

時刻はもう五時を回り。
私には妹や弟にご飯を作らないといけないから何も言わずコクリと頷く。
何も言えないのはまだいたいからだ。

絵里「ご飯食べていけばいいじゃない」

にこ「分かってるでしょ」

絵里「あぁ・・・ご飯作らないとね」

にこ「そう言う事。じゃあまたね」

玄関に向かう私と後からついてくる絵里。
鴨の子供みたいでとても愛らしく思える。

いっその事、私の私だけの物になってしまえばいいのに・・・。

そう考えながらお互いにさようならと別れを言い合った。

絵里「本当にご飯食べていかないの?」

にこ「だーかーら。ご飯作らないとダメでしょ」

絵里「私がにこの家に行くのは?」

それも有りだと思ったが、やめた。

にこ「お母さん早めに帰ってくるから・・・ほら疲れてるから休ませたいの」

これは嘘だ。
歯ブラシの事、バレるの怖いし何より楽しめない。

絵里「そう、それなら仕方ないわね」

にこ「仕方ないのよ。また今度来てよ」

絵里「うん、分かった」

特に残念な表情を見せてそう言う絵里に軽い苛立ちを感じた。
ほんの少しだけ別れを惜しむような表情をしてくれたらこんな感情は沸いてこないんだけど。

にこ「じゃあ。また来るわね」

絵里「うん。外まで見送るわ」

靴を履く。
絵里も靴を履いた。

絵里「・・・あ」

と声を聞いて絵里が私の方へと倒れた。

靴を履いてる途中バランスでも崩したのだろう。

私より大きな絵里を力いっぱい支えて絵里は私に抱き着いた。

絵里「ごめんなさい。にこ、大丈夫?」

にこ「別に大丈夫よ。もう、気を付けてよね」

絵里「えぇ」

絵里は私から離れて玄関の扉を開いてくれた。

普段よりも強く香る絵里の匂いをかき消すかのように雨の匂いが鼻腔を刺激する。

外に出ると雨が降っていて、私は大きく落ち込んだ。

傘を持って来てないからじゃない。
雨が降っているからじゃない。

もう少し。
絵里とあのままでいたかった。

太陽はもう沈み始め。
あと一時間もすればすっかり暗くなるだろう。

やることがない私は道行く人々を見て、時計を見てを繰り返し。

絵里は事故にでもあったんじゃないかと心配になる。

カーティガンを袖を伸ばして手をすっぽりと隠す。
店内は暖房が効いていないのか少し肌寒い。

あと一時間待って来なかったらもう帰ってしまおう。

用事が無いならいくらでも待てるけど、私には毎日用事がある。

今日はお母さんがいるから夕飯は作らなくていいけど、まだやらなくちゃいけない事は沢山ある。


そういえば今日はあまり良いことが無い。
今朝の星座占いは一位だったのに・・・。

今もそうだし、遅刻するし練習中爪が欠けたし靴紐切れた。
私の経験上、一位の時ってだいたい良い事ない。
むしろ悪い時の方が良い事ある気がする。

ベルの音が店内にチリンチリンと響く。
誰かがこの喫茶店に入って来たようで私は期待して入口を見る。

絵里の姿が見えて心臓がどきんと跳ねた。

にこ「ちょっと遅いじゃない絵里!」

絵里「あっ、にこ!」

にこ「何してたの?」

絵里「ごめんなさいにこ!」

にこ「もう、座りなさいよ」

絵里「う、うん。本当にごめんねにこ」

にこ「もう、いいわよ。で、何してたの?」

絵里「おばあちゃん道に迷ってて案内してたの」

にこ「それよく使われる嘘じゃない。本当なの?」

絵里「本当よ!」

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