恭介「そう…あれは確か中学生の時だったな」 (54)

リトルバスターズメンバーのみの修学旅行の帰りにて



ブロロロロロロ

車内

理樹「すぅ………」

恭介「やれやれ、とうとう理樹も寝ちまったか。あと生き残ってるのは?」

来ヶ谷「後ろは私だけだ。上の2人もきっと寝てるんだろう」

恭介「そうか」

来ヶ谷「音楽でも…と言いたいところだがせっかく休んでいるのを起こすのは忍びないな」

恭介「おっ、退屈か?なら俺のハラハラドキドキする冒険譚を聞かせるが」

来ヶ谷「ふふっ…せっかく語ってくれるならここでしか聴けない話の方が良い」

恭介「ここでしか聴けない話?」

来ヶ谷「女風呂を初めて覗いた感想」

恭介「ブッ!!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457099605

前作でささせがわささみのSS書いた人ですか?

恭介「ゲホッゲホッ……いきなりそういうこと言うな!」

来ヶ谷「なんだ、驚く程の物が見れたわけでもなし」

恭介「確かにありゃ失敗だったが…まあでも来ヶ谷の言葉は一つ誤ちがある」

来ヶ谷「なに?」

恭介「実は俺たちは前にも覗きを敢行したことがある」

来ヶ谷「ほう。4人でか」

恭介「まあな。そう…あれは確か中学生の時だったな」

恭介「無論、修学旅行でだ」

来ヶ谷「…………まさか恭介氏…」

恭介「そのまさかだ。と、言ってみたいがその時はたまたま同じ日に同じ旅館へ泊まっただけだ。一緒に行動したのは旅館までだ」

来ヶ谷「それでも充分君が怖いよ」

恭介「なんだよ、だからなんだってんだよ」

来ヶ谷「いや、いい。続けてくれ」

恭介「おう!それはそれは暑い真夏の夜だった…」

来ヶ谷「回想に入るのか…」


………………………………………………


……………………………


……

>>2
YES I AM!

4年前



旅館

真人「いやーそれにしてもまさかこんな所でも恭介に出くわすなんてなあ!」

恭介「俺たちは運命の糸で結ばれてるのさ」

謙吾「実は?」

恭介「親が鈴の修学旅行の間にこっちも旅行してやろうということになったので上手く誘導した」

理樹「やっぱり!」

恭介「ま、父さんも母さんもそれなりに行きたがっていたから簡単だ。あとは俺が背中をポンっと押してやっただけだ」

鈴「みんなバカだ」

恭介「俺はともかく親にバカって言うな!」

理樹「自分はいいんだ…」

先生「じゃあ次は3組が風呂だ!20分で次の組と交代だからな!さあ行った行った!」

理樹「だってさ。行こっか」

恭介「よし、俺もついて行こう」

真人「1人だけ上級生が混じってたら他の奴らも混乱するだろうな…」

謙吾「いつものことだ。気にはせん」

恭介「そういうこと」

銭湯前

恭介(さて、ミッションスタートだ)

鈴「じゃーな」

理樹「うん」

恭介「ふむふむ………」

恭介(番人は1人。それもけっこうなお爺さんだな。監視カメラは……今回は関係ないか)

謙吾「…どうした恭介?辺りをキョロキョロして」

恭介「いや…なんでもない」







銭湯内

ゴシゴシ

恭介「ここは理樹でも……」

恭介(ふむ…なるほど)

理樹「えっ、呼んだ?」

恭介「いいや大丈夫だ。気にせず露天風呂を楽しんでくれ」

理樹「う、うん…」

真人「あいつ壁ばっかり見つめてどうしたんだ?」

謙吾「さあ?どうせまた変なことを企んでいるんだろう」

恭介「フッ、企んでいるってのは否定出来ないな」

先生「さあ交代の時間だ!さっさと上がれー!」

真人「っともうそんな時間か。せっかく俺の磨かれた筋肉をみんなに見せつける良い機会だってのに…」

理樹「真人も最近目に見えて筋肉がついてきたよね」

真人「おう!最近、試作品ではあるけど俺の特製ジュースを飲んでいるからな!」

謙吾「またマッスルなんとかって奴か?お前も飽きないな…」

真人「例えば帰りのバスが事故ったりでもしてみろ。それでも筋肉さえあれば理樹や鈴を守れるぜ!」

理樹「やめてよ縁起でもない!」

先生「ほらそこの4人なにをしている!……って1人は棗か。紛らわしい…」

理樹「あはは…じゃあもうあがろっか」

恭介「俺はもう少し残る。色々やりたいことが残った」

真人「へいへい。それじゃ行きますか」

謙吾「ああ」







19:00

ザバッ!!

恭介(よし。事前にするべき事は終わった。ミッションスタートだ!!)






19:15

室内

謙吾「さて、これから自由時間な訳だが…」

真人「よっしゃ!早速備え付けの菓子を賭けてピンポンしに行こうぜっ!」

理樹「それはいいけど恭介はどこにいるのかな?」

謙吾「一応部屋の番号は教えてあるが…まさかまだ風呂か?」

恭介「俺はここだぜ」

理樹「あ、いた」

真人「結局なにしてたんだよ?」

恭介「それは今説明する」

謙吾「……なんだ、なにか嫌な予感がする…」

恭介「ある意味じゃその予感は当たってるかもな」

理樹「というと?」

恭介(揃うべき条件は揃った。あとはこいつら次第だ。俺は咳き込み、満を持して言った)

恭介「後で女風呂、覗きに行かないか?」

「「「はあ?」」」

恭介(まさに予想通りの反応だ)

明日は早い。今日はこの辺で(∵)

数十分後

恭介「いいか?作戦はこうだ」

恭介(なんだかんだ言って全員まだ中学生だ。俺の提案に最初こそ抵抗したが結局は頷いた。未知の領域に踏み込むことほどワクワクすることはない)

理樹「えっ…いやでも裸でしょ!?そ、そんなの見ちゃいけないよ!」

恭介(まだ反乱分子が残っていた)

真人「理樹だって小さい頃は風呂で母ちゃんの見たことあるんだろ?」

恭介「その通りだ。安心しろよ!絶対バレないからさっ」

理樹「いやいやいや!知らない人のじゃ話が全然違うよ!!」

恭介「そのほうが面白そうだからだ!」

理樹「ああ…そう」

恭介(急に訳の分からんことを喋ったかと思えばひとりで観念した理樹。なんの話だったのか知らんが今はそんな事どうでもいい)

恭介「じゃあ話を続けよう」

………………………………………


………………………




数時間後

恭介「よし!持ってきたぜ」

理樹「…うう…」

謙吾「大丈夫。お前はまだ声変わりしていないんだから多少は心配ない」

恭介(色々な道具を詰め込んだリュックサックを自分の部屋から持ってきた。そのうちの一つは今から使う女物の服だった)

理樹「ほ、本当に着なきゃいけない…?」

恭介「もちろんだ。何のために鈴から借りたと思っている?」

恭介(先生は監視しやすくするため、旅館の3Fの全ての部屋は修学旅行の男子達で埋め尽くされている。これで夜にどこか外へ出歩こうとした男子は捕まってしまうという寸法だ。だが、俺たちにとってはそれが狙い目だった)

恭介「ちょうど消灯の時間だ。先生方の見回りは1時間に1度。さっき来たのを計算に入れるとミッションのタイムリミットは1時間だ。お前ら、準備はいいな!」

真人・謙吾「「おおーっ!」」

理樹「お、おおー…」

廊下

ガチャ

理樹(女装)「…………」

恭介(俺たちの部屋も当然スタンバイしている先生には丸見えだった。なのでいくらコソコソしようが見つかるのは必至!ここを突破するにはテレビで見た『ミスディレクション』というヤツを試す他ない)

恭介「頑張れよ理樹っ…!」

理樹(ひとりで廊下に出た理樹にエールを送った。黙ってこくりと頷く理樹に、早速見張りが食いついた)

先生「むっ!どうして廊下に出ているそこの男子!……いや、女生徒か?」

理樹「あ………」

恭介(近づいてきた所で扉をギリギリまで閉めた。まず変装は見破られていないな)

先生「ここの生徒……ではなさそうだな?」

理樹「ま、迷っちゃって…!」

恭介(かなり裏声で頑張っていてくれている。そもそも女みたいな声してたし先生は完全に騙されていた)

先生「なんだそうか…君の名前は?」

理樹「り…りき…あっ、いや!理子です!」

先生「理子ちゃん。その迷ったという部屋の番号は覚えているかな?」

理樹「ロビーに行けば親と落ち合うことになってて…」

先生「そうかそうか。ならおじさんと一緒にロビーまで行こう」

理樹「ありがとうございます!」

恭介「よし今だっ」

恭介(先生が背を向けてエレベーターの方まで行ったと同時に2人に出るよう合図した。つまり理樹は囮だった。俺たちは非常階段から銭湯へ向かい、理樹は先生を振り切ったあとエレベーターで悠々と向かうという作戦だ)

真人「よっしゃ…!」

謙吾「うむ!」

サササッ

恭介(リュックを背負い、一気に奥の扉まで駆け走った。代わりの見張りが来るまで時間がない)

ダダダッ

ガチャッ

恭介「よし入れ!」

恭介(非常階段に誰もいないことを確認し、2人を急いで入れた)

真人「ヒュー!まずは第一関門突破ってとこだな」

謙吾「そして、もう戻れなくなってしまったな」

恭介「銭湯は最上階にある。まずはそこへ向かうぞ!」

恭介(上に続く螺旋階段がやけに長く感じた)

カンッカンッ

謙吾「そういえば…」

恭介「ん?」

恭介(登っている間の沈黙を紛らわせようと謙吾が言った)

謙吾「このまま向かうのはいいが帰りはどうするんだ?」

恭介「もちろんさっきの応用で今度は俺が先生を惹きつけて、お前らは部屋に戻る。簡単だろ?」

謙吾「そう簡単にいけばいいが…」

真人「そう悩むなって謙吾!」

謙吾「お前に言われた所でまったく励みにならないのが怖いな…」

恭介「ほら、んなこと言ってる間に着いたぞ。まず俺が行く。お前らはそれからだ」

恭介(階の作りは単純で、エレベーターの先に暖簾(のれん)があり、そこから靴のロッカーを抜けると男子と女子を分ける空間が広がっている)

恭介(慎重にエレベーターの周りを確認し、ロッカーに誰もいない事を認めると2人を呼び寄せた)

謙吾「理樹は?」

恭介「まだのようだ」

真人「あれじゃね?」

恭介(真人が数字が大きくなっていくエレベーターを指した)

恭介「一応影に隠れておけ」

恭介(やがてその数字がここの階と一致すると、ありふれた電子音を放ってそれは開けられた)

「………………」

恭介「なんだ…」

恭介(別人のようだ。女子で俺より年は下。かなり整った顔をしているが、その目は落ち着きがなくモジモジしている。どこかで見た服装だが…)

恭介「お前らの学年の奴か?」

恭介(ひょっこり顔だけ出す2人)

真人「うーーーん…なんか見覚えある気がするんだけどな…」

謙吾「真人と同意見だ。同学年の女子と言っても全員は知らんからな…可能性はある」

恭介「そうか…」

恭介(もしかするとこいつも俺たちと同じように覗きじゃないだろうが抜け出してまで風呂に入りたかったのかもしれん。ダブルなんとかって奴か?)

「…………!」

恭介「むっ?」

恭介(辺りをキョロキョロしていたその女の子が俺の方を見た途端嬉しそうにこちらへ近づいてきた)

タッタッタッ

恭介(誰かは分からんが一応警戒したほうがいいな…)

恭介「……なに者だ?」

「ハァ…ハァ…えっ?」

謙吾「………!」

謙吾「き…恭介、違うぞ…」

恭介「俺に用か?あいにく今は忙しいからな…他をあたって…」

理樹(女装)「なに……言ってるの…?」

真人「あっ!」

恭介「なにぃ!?」

謙吾「……………」

理樹「えっ、えっ、なんの話?」

恭介「なっ、なんでもない。ほらさっさと行くぞ!」

理樹「ええ……」




着替え部屋

恭介(とりあえずここまで来れば成功は30%達成している。まあそれはそれにしても……)

恭介「………………」

真人「………………」

謙吾「………………」

理樹「……うん?」

ババッ

恭介「お、おっと!どうしたものか靴下脱げねえ!あっれおかしいなあ!」

真人「あれっ、俺もなんだかハチマキの結びが硬えなー!」

謙吾「心頭滅却心頭滅却心頭滅却」

理樹「ねえ…さっきからみんなおかしいよ…」

恭介「…なんの話かね?」

理樹「トボけないでよ!なんで着替える時さっきからちらちら僕の方見てるのさっ」

恭介「バッ!バカ言うな見てねえよ!」

理樹「見てた!さっきも変な感じだったし!」

恭介(ここにきて鋭すぎる疑いをかけられた。今理樹と仲間割れを起こしてはミッションに支障が……!)

「いやー良い湯でしたねえ!」

「ええ!また朝も入りませんか?」

「「「!!」」」

恭介「まずい先生だ…!お前らは死角に入れ!俺は影から合図を送る!」

恭介(先生達は談笑しながらこちらに向かってきた。着替えの途中だった俺たちはその格好のまま移動せざるをえない)

恭介「今ちょうどロッカーで挟んでいる…あっ、右から向かってくる。左へ逃げろっ」

サササッ

「………む?」

恭介(移動し終わった所で先生がこちらに気付いた。しかしほぼ死角に入ってるはずじゃ…)

「先生、そちらの鏡に映っているのは……」

「えっ?あっ…誰かこっちを…」

恭介「!?」

恭介(しまった。背後に鏡があったことを失念していた。仕方がない!)

サッ

恭介「俺がどうかしましたか?」

「君は確か3年の…」

恭介「こんにちは。いやぁ!まさか家族旅行の行き先が妹と同じとは思いませんでした」

「ああ、鈴ちゃんのお兄ちゃんか。君も銭湯に?」

恭介「はい。なんといってもこの旅館の売りである露天風呂に入らなきゃ~」

恭介(会話で目を逸らさせているうちに3人は素早くトイレに身を隠した。まったく、思わぬ伏兵だったな)

コンコンッ

恭介「もう先生らは出て行ったぞ。さ、来いお前ら」

真人「ふう…一時はどうなるかと思ったぜ」

理樹「本当だよ…もう帰りたい……」

恭介「なにはともあれさっそく風呂に入るぜ!」






カコンッ

恭介「フッ……男1人いねえな…さっき先生らが出て行ったからまさかと思ったが、これで安心だぜ」

理樹「やっぱりいない方がやりやすいもんね」

真人「おっ、珍しく理樹がやる気じゃねえか!」

謙吾「それなりに楽しみだってことだ」

理樹「そ、そんなんじゃないよ……!」

理樹「あっ、そうだ。そういえばなんで僕だけバスタオル巻いてるの?」

恭介「そりゃお前、偵察のためだ」

理樹「………えっ?」

恭介「だから先に女風呂へ潜入して来るんだよ。大丈夫、お前のタマゴ肌ならバレないバレない」

理樹「いやいやいやいやいやいや!!!!」

恭介「なんだ不満か?」

理樹「これがきっかけで変な趣味が出来たらどうするつもりなのさ!」

真人「理樹の…」

謙吾「女装趣味…?」

……………………………………

理樹『ねえみんな!今日はメイド服買ってきたんだけど僕似合ってるかなっ?胸がスースーするけど…』

……………………………………

恭介「ゲフゥオ!!」

真人「ゴッ…ゴホンゴホン!!」

謙吾「ハァ…ハァ…!」

理樹「想像しないで!謙吾に至ってはリアクションが生々しいよ!!」

恭介「ま、まあとにかくこのミッションもお前にしか出来ない。この中で一番背が低い奴が適任なんだ」

理樹「そ、そもそも侵入ってどうやるのさ…」

恭介「俺に考えがある」






恭介(俺たち4人はかけ湯のための大理石の影に隠れていた。機会をうかがっていたのだ)

恭介「アレがなんだか分かるか?」

恭介(一番大きな浴場の隣にある扉を指差した)

理樹「うーんなんだろ…言われるまで気付かなかったけど」

謙吾「あれは従業員の掃除道具などが置いてあるスペースだろう」

恭介「正解だ。お前らのクラスがあがってから観察していたんだがどうもあの部屋、女湯にも続いているらしい」

真人「本当かよ!」

恭介「ああ。さっき理樹が言ったようにあそこは女湯から見ても気付きにくいだろう…つまり理樹がさりげなく侵入すれば…」

理樹「ねえ…普通あそこって鍵かかってるもんだよ?」

恭介「かもな」

謙吾「かもなって恭介!?」

恭介「心配するな。扉があるということは、開くということだ。お前ら耳を貸せ」

「「「?」」」



恭介「………と言うわけだ」

真人「ほーんなるほどな。で、誰が倒れた役するんだ?」

恭介「真人、俺を殴れ」

真人「えっ、恭介がやんのか?わざわざ殴るようなことでもねえと思うんだが…」

恭介「いいから早くやれ」

真人「わ、分かったよ…」

ガンッ

恭介(真人の迷った拳が頬にヒットした。……と同時に俺は真人のみぞおちに渾身の一発をくれてやった)

ボコォッ

理樹「えっ!?」

謙吾「……………」

真人「な……なにを…?」

恭介「悪く思うな。一回は一回だ」

恭介(不意打ちということもあり、そのまま裸姿で倒れてくれた。正義は犠牲の上に立つ)

理樹「き、恭介!いくら倒れ役が必要だった言っても…!」

恭介「女湯のためだ。それにどうせ真人だ、冷水ぶっかければすぐに目を覚ます」

理樹「ええ……」

謙吾「気にするな理樹。あいつはこういう役回りなんだ」

真人「…………」ピクピク

従業員部屋

「~~~~!!!」

従業員「ん?男湯の方から誰かが叫んでいる…?」

ガチャッ

従業員「どうしたっ」

恭介「た、大変だー!真人が倒れたー!」

謙吾「転んで頭を打ってしまうなんてー!」

従業員「な、なに!転んでしまったのか!?」

恭介(上手いこと従業員がこちらに来た。もちろん鍵をいちいち閉めていない。男の視線が真人に向いてる隙に理樹へ視線を投げた)

理樹「…………!」

恭介(ドアのすぐ横に隠れていた理樹は無言で頷くと慌てて部屋の中へ入っていった。あとは指定した場所に来てくれればいいが…)

従業員「おい大丈夫か君!」

真人「う、うん……?」

謙吾「よかった起きたか!きっとのぼせていただけなんだろ!」

恭介「そうに違いない!さあ露天風呂の方へ行って体を冷ました方がいい!」

従業員「あっ…ちょっと………」

露天風呂

恭介(従業員の追求もあらかじめ用意しておいた文句でなんとかあしらった。隣で真人がぶつぶつ言っていたが朝食に唐揚げをやると言ったら大喜びで許してくれた。朝はバイキングなんだけどな)

謙吾「どこに理樹はいるんだ?」

恭介「言ったことを忘れていないならこっちだ」

恭介(外の一番端にある_____つまり女風呂のすぐ横に設置してある湯に理樹はスタンバイしているはずだ。もちろん女湯と男湯には大きな木の板の仕切りがしてあって見える訳がない。だが、音は耳をすませば問題なく聞こえる)

コンッコンコン

恭介(仕切りの前に立ち、あらかじめ決めておいたノックをした。すると理樹がこちらに応答した)

理樹『き、恭介……だよね?』

謙吾「おお…!」

恭介「そうだ。首尾はどうだ?」

理樹『失敗するはずがないよ…』

恭介「なんで?」

理樹『それが……』

恭介(歯切れが悪い。失敗した訳でもないのにどうして……)

理樹『…………いないんだよ誰も…中も外も人がいない』

恭介(それは絶望的な宣告だった)

恭介「ば、ばかな…!」

謙吾「あり得ない!」

理樹『空いてる時間に来たんだから女の人が来ないのも当たり前だよ…』

恭介「くそっ!ここまでか……っ!」

恭介(俺たちのミッションが失敗することなんてほとんどなかった。計画は完璧だったはずなのだ!予想外のアクシデントに頭を抱えてる)

ポンッ

真人「ま、運が無かったってことで今回は諦めねえか?」

恭介「真人……」

恭介(呆気ない言い方をされてしまって逆に承知してしまった。そうさ、その場の思いつきで考えた計画なんて崩れ去るのが世の常だ)

謙吾「ふっ、いいじゃないか。俺たちにはまだまだ早かったということだ。今日はこの辺で帰ろう」

恭介「そうだな…よく考えればたかが見慣れた裸を見るためにわざわざこんな遠回りな…」

理樹『あっ、人が来た!2人!』

恭介・謙吾「「な、なにぃーーっ!?」」

恭介「歳は!?」

理樹『こ、ここからじゃよく見えないけど多分20歳くらいじゃないかな!?』

恭介「よ、よし!いいか理樹?仕切りの下の土を見てみろ!どこかおかしくないか?」

理樹『あ…ここだけなんか耕されてる…!」

恭介「掘り返してみろ」

理樹『うんしょ…うんしょ……なっ!こんなところドライバーがっ』

謙吾「いつの間にそんなものを埋め込んでいたんだ恭介!お前という奴はつくづく……天才だな!」

恭介「よせやい謙吾!よし、じゃあそのドライバーで温度計のすぐ横にあるネジを取れ!そしたら女湯がこちらから見えるはずだ!」

理樹『わ、分かった!………あっ、ちょっと待って…さっきの人達が来た!』

恭介「仕方がない。一応後ろを向いてやり過ごせ…」

理樹『う、うん!』

女性A「でも…本当に良かったんですか?お店を開けて」

女性B「ええ、主人は『あいつが手伝ってくれているしパンくらいなんとかなる。友達と行ってこい』なんて言ってくれたんです」

女性A「相変わらず頼りになる方なんですね。こちらも親戚の子が家に来てくれたので安心して娘を任せられます。恥ずかしいことですけど…」

理樹『ヤバい…ヤバイよ…!』

恭介「こんなときこそ冷静に作業に取り掛かるんだ!」

女性A「あら?」

女性B「どうか…しましたか?」

女性A「あそこにいる女の子…なにか壁に向かって…」

女性B「なんでしょう…一応声をかけますか?」

恭介(3人揃って壁に耳を傾けた。今更ドライバーは隠せない。なんとかアドバイスを渡して2人に離れてもらうよう言わせなければ!)

理樹『どうしよう!全部のネジが取れる前にバレちゃうよ…!』

女性A『あの~…』

恭介(さっきは遠くで聞こえた声が理樹の声と同じくらいの大きさになっていた。理樹のすぐ後ろにいるんだ)

恭介「落ち着け!だから背を向けてろと言ったんだ!いいか?すぐ言え…こう言うんだ!」

恭介「『女で悪いことでも何かあるんですか?』言え!理樹…っ!』」

恭介(我ながらナイスアイデアだ!開口一番の台詞としてはややおかしいがこれなら胸が育たなくて悩む思春期の少女の逆ギレとも言えなくもない!)

理樹『分かった!』

理樹『女で悪いことでも何……うわっ!!』

理樹『な、な、な………』

バタンッ

真人「なにがあった!?」

女性B『ど、どうしたんですか?』

女性A『分かりません…突然私の方を振り向いたかと思うと鼻血を出して倒れて……!』

恭介「ああ、やっちまったな理樹のやつ!」

謙吾「振り向いて裸をモロに見てしまったか…刺激が大きすぎたんだ!」

女性B『とりあえず向こうのベンチに座らせましょう』

女性A『はい……』

恭介「こいつはまずい…このまま従業員を呼ばれてタオルを剥がされてしまったら!」

真人「退学になっちまうぜ!!」

謙吾「恭介!なにか手はないのかっ!?」

恭介「考えてる余裕はない。行くぞ!」

真人「ま、マジかよ!!」

恭介(もはや俺たち3人に羞恥心はなかった。急いで風呂から上がり、男子ロッカーを稲妻のごとく走り抜けると裸ん坊のまま番人をすり抜け、禁断の『女』と書かれた暖簾(のれん)を潜った)

恭介(そしてなんとなく甘い匂いがする更衣室を抜けて一気に風呂のドアを開けた)

恭介「理樹が男とバレる前に回収するぞ!こっちだ!」

謙吾「よし!待ってろ理樹!」

恭介「ま、待て謙吾!早まるな!」

恭介(俺の制止も聞かず謙吾が露天風呂に飛び出した。興奮のあまり何故理樹が倒れたかを謙吾はすっかり忘れてしまったんだ)

謙吾「理樹ーーーッ!!」

ガラッ

女性A「あらっ?」

謙吾「ブッ!?」

恭介・真人「「け、謙吾ぉーー!!」」

恭介(鼻血を出して姿勢はそのまま俺たちの方にぶっ倒れた)

恭介「だから言ったのに……!」

謙吾「う、うう……」

真人「良かった…謙吾の傷は浅いぜ!俺はこいつを担ぐ、恭介は理樹を!」

恭介「ああ、分かった!」

女性A「あらあら…皆は男の子かしら?」

女性B「きっと間違えたんでしょう。男湯ならあちらに…」

恭介「すいません!!そこ通ります!!」

恭介(薄目でなんとか視界をギリギリまで縮め、理樹の方へ駆け寄った)

恭介「理樹…理樹…!」

理樹「……………」

恭介(身体を揺さぶったが反応がない。完全に気絶している)

恭介「真人!」

真人「おう!」

恭介(阿吽の呼吸で露天風呂から出た。追ってきたりはしないようだ)







男湯

更衣室

恭介「ハァ…ハァ…!!」

真人「ゼェ…ゼェ…!!」

謙吾「うぐっ……ここは…」

恭介「ふぅ……男湯だ…着替えろ謙吾…!」

恭介(結局失敗に終わってしまった。だが今はそんなことよりいかに俺たちの立場がマイナスになってしまわないかを考えるべきだった)

恭介「理樹はこの通り気絶している。しょうがない、このバスタオル姿のまま担いで行く。いいな?」

真人「おう!」

恭介(俺たちはただ走った。脱皮のごとく非常口から一気に階段を2段飛ばしで駆け巡り、目的の階まで行きの3分の1のスピードで到着した)

恭介「先生がいないことを祈れ!」

バンッ

恭介(扉を開け、理樹たちの部屋の番号を血走った目で探した。しかしそのどの扉の番号を見てもお目当の番号がない。なにかおかしい…根本的な何かが違うような…)

恭介「………ハッ!しまった!ここじゃない!」

謙吾「なにが!?」

恭介「この『階』じゃない!ここの階は確か……!!」

「お前ら……ここでなにしてるんだ?」

恭介(透き通る聞き慣れた声が後ろから聞こえた。おそらくトイレから出てきたんであろうウチの妹が目を擦りながらこちらに来た)

真人「り、鈴!ってことはここは…」

謙吾「女子の階だ!俺たちのは一階下だ!」

鈴「うっさい…夜だぞお前……ら?」

恭介(と、鈴の台詞が中断されて視線が俺の方に集中した。いや、少し違う。俺のすぐ後ろ、背負っているものを見ているんだろう)

恭介「あっ」

恭介(そう。今俺が背負っているのは理樹だ。だが、普段の理樹ならただ裸同然というだけで鈴もそこまで気には止めないだろう。しかし今回そうしているのは、理樹がツインテールのカツラを被っているということだ)

恭介「り、鈴……こ、これは…だな……!」

鈴「この………ど変態馬鹿兄貴ーーーっ!!」

恭介「に、逃げろぉおおお!!」

恭介(完全なる勘違いで鈴の逆鱗に触れた。そして数秒としないうちに先生と思われる大人が向かってきた)

恭介「や、やべぇ…!終わった……!!」

真人「いいや、まだ終わってないぜ」

恭介(と、肩を置いて親指を立てる真人。何故こんなに余裕なんだこいつは)

真人「理樹がさ…もし起きたら俺のことはこう言ってくれないか?『あいつはお前の筋肉となって今も生きている』って……」

恭介(そう言って真人は俺たちのツラがバレないうちに鈴を抱えて駆け寄る先生らへ突っ込んでいった。……壁となる気だ)

謙吾「真人ぉおー!!」

鈴「は、離せボケ!」

真人「悪いがそれはあいつらが行ってからだ!」

恭介「謙吾!あいつの犠牲を無駄にするな!行くぞ!」

恭介(また非常口に逆戻りになってしまった)


非常階段

恭介「俺の……俺のミスだァァ!!」

謙吾「落ち着け恭介!こうしている間にも真人は身を呈して近づけまいとしているんだぞ!」

恭介「あ…ああ……そうだな…俺としたことが動揺しちまった」

恭介(なんとか気を保った。そうだ、理樹と謙吾を部屋に届けるのが目的なんだ。ここで俺があせってどうする)

恭介「………よし、開けるぞ」

ガチャ

シーン

恭介「……大丈夫だ。行こう」

恭介(落ち着いて部屋へ向かった。抜き足差し足忍び足)

サッサッサッ



ガサッ

恭介「!」

恭介「止まれ謙吾…!」

謙吾「む?」

ザッザッ

先生「………………」

恭介(突然十字路の右から先生が通った。しまった…色んなことが巻き起こっている間にもう見回りの時間になったか……!)

恭介・謙吾「「………………」」

恭介(だがあっちはこちらに気付いていない。ここは観葉植物などに隠れてやり過ごし……)

理樹「………くちゅんっ」

恭介「!!」

謙吾「しまっ…!」

恭介(理樹がくしゃみをしてしまった。よく考えれば風呂から上がってタオル一枚のまま練り歩けば誰だってそうなることは分かったはず!)

先生「む?誰かいるのか?」

恭介(一転して絶体絶命の状況になってしまった。いくら隠れているとは言えいずれ俺たちに気づくはず。かといってここでヘタに動けば見つかるのは必至!)

恭介「ど、どうする…どうするんだ俺……」

恭介(思わずライフカードが欲しくなった瞬間だった。しかし我らが謙吾はそんなものに頼らなくとも打開策を思いついたようである)

謙吾「恭介……一つ、あの教師から理樹を無事部屋に届ける術がある。それは……」

恭介「それは?」

謙吾「逃げるんだよーーー!!」

恭介(逃げた。謙吾はわざわざ大声を出して元来た道を引き返した……囮になったんだ!)

先生「あっ、待て!誰だ!」

恭介(おかげで謙吾を追うのに必死な先生は物かげの俺たちをチラリとも見ることなく謙吾だけを追っていった)

謙吾「ハァハァ……!あの馬鹿は…俺たちを逃すために自分を犠牲にして救ってくれた…だからオレだって、なんかしないとな…カッコ悪くて2度とあいつのライバルを名乗れん!お前らは逃げ切ってくれーー!!」

恭介「謙吾………」

恭介「ハァハァ……」

ガチャ

恭介(やっと辿り着いた。まったく酷い結果になったもんだ。……しかし、まあ…)

恭介「真人、謙吾…終わったぞ…無事、理樹は届けた」

恭介(あとは服を着せるだけだ)

恭介「………服を着せる?」

恭介(それを完遂させるにはまずこのタオルを脱がせる必要があった。敷かれた布団に寝ている理樹をまじまじと見てみる)

恭介「………こいつはマジに女だな…」

理樹「………………………」

恭介「………………いやいやいやいや」

恭介(なにを考えている棗恭介。理樹は紛れもなく男だ。…………本当にそうなのか?)

恭介「………………」

恭介(よく考えれば俺は理樹が男である決定的証拠を見たことはない。確かに理樹は男として遊んできたが実は本当に女だとしたら…?)

恭介(そう考えればこいつに女装が似合うのも頷ける。もしかしたら理樹はなにか事情があって男として育てられたのかも)

恭介「……ははっ、馬鹿な…!」

恭介(そこまで考えて自分の間抜けな考察を止めることにした。これ以上理樹をほっとけば風邪を引いてしまう。ここは男らしく脱がせてしまえ)

恭介「………………」

恭介(どうした。さあ早く一気にいけっ!何てことはない!)

恭介「う、うぉおおおおお!!」

バサッ……!!


ガチャ

先生「さてこの部屋の奴らは全員寝て………寝て?」

恭介「あ…あ……あ…………」

カツラを外していないはたから見れば完全なる女の子なのに大事な部分以外はタオルで隠されていない寝ている理樹「………………」

先生「………………」






……………………………………



…………………






車内

恭介「とまあ、これが事の顛末だ。あのあと勿論誤解は解けたが主犯として真人、謙吾と共に反省文3枚書かされたぜ」

来ヶ谷「…………君らも小さい頃から馬鹿だったんだな」

恭介「俺だっていつも完璧な訳じゃないやい!」

来ヶ谷「………それはそれでいいとして、そちらにちり紙はないかね?ウェットティッシュでもいい」

恭介「どうして?」

来ヶ谷「…途中で起きた美魚君が鼻血を出してまた倒れたのさ」

西園「女装の直枝さん……うふふ………」

恭介「やれやれ……」


ブロロロロロロ…………




お し ま い (∵)

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