怨奈鬼死「屈個呂背!」オーク「え?」(31)

怨奈鬼死「屈個呂背!」

オーク「え?」

怨奈鬼死「夜露死苦!」

オーク「え、え?」

怨奈鬼死「左羅場駄!」スタタッ…

オーク(女騎士の奴、いったいどうしちまったんだ……?)

ゴブリン「ようオーク」

オーク「おう」

ゴブリン「そういやさ、さっき女騎士を見たんだが、なんだかすごいことになってたぞ」

オーク「ああ、俺も見た。妙なしゃべり方してたな」

ゴブリン「妙ななんてもんじゃないだろ。いったいなにがあったんだろうな?」

オーク「さあ……俺にも分からねえよ」

<オークの家>



オーク(女騎士の奴、あんな変なしゃべり方して……いったいどうしちまったんだ?)

オーク(さっきは聞けなかったけど、今度会ったらちゃんと聞いてみるか……)

コンコン……



オーク「はい」ガチャッ

騎士団長「こんな時間に失礼」

オーク「騎士団長!? なんでアンタがこんなところに……」

騎士団長「実は……君に相談したいことがあってね」

オーク「……まあとりあえず上がってくれよ」

オーク「――で、相談したいことってのは?」

騎士団長「うむ……実は女騎士のことなのだが……」

オーク「やっぱり……」

騎士団長「やっぱり、ということは君ももう?」

オーク「ああ、今日の昼すぎにあいつと少しだけ会ってさ」

オーク「妙なしゃべり方してるし、ファッションもおかしいし、心配してたとこだったんだ」

オーク「いつから、ああなっちまったんだ?」

騎士団長「ああいう風になったのは……三日ぐらい前からだな」

騎士団長「“特攻服”と呼ばれるらしい、特殊なコートをまとったり」

騎士団長「城壁にスプレーで『夜露死苦』『怨奈鬼死参上!』だのと落書きをしたり」

騎士団長「愛馬にマフラーを巻いてそれを切って、“マフラーを切った”などと意味不明なことをいったり」

騎士団長「乗馬時にものすごいスピードを出したり、パラリラパラリラと口走ったり……」

騎士団長「君はプライベートな場面で女騎士と会うことも多いんだろう?」

騎士団長「なにか心当たりはないか?」

オーク「心当たりっていわれてもなぁ……」

オーク「うーん……」

オーク(昨日を除くと、女騎士と会ったのはちょうど一週間前だったな)

オーク(俺とあいつの二人で、騎士団の領地で剣の稽古をしてたんだ)

オーク(それで、えぇと……御者を呼んで、帰りに一緒に馬車に乗って……)

オーク(そしたら……後ろから……)

オーク「……あっ」



…………

………

……

一週間前――

<馬車内>



ガタゴト…… ガタゴト……



オーク「ふぅ~、やっぱ馬車はラクチンでいいぜ」

女騎士「稽古の後、自分の足で帰るというのはしんどいからな」

ドドドドド……! ドドドドド……!



女騎士「――む? 騒がしいな」

オーク「すげえ数の馬が走ってるな。どうしたってんだ?」

若者A「ヒャッホーッ! 暴走連合参上!」パカラパカラッ

若者B「イェイイェイイェイ!」ドカラドカラッ

若者C「オラオラオラァ! そこの馬車、どけどけどけぇぇぇい!」パカラッパカラッ



ドドドドド……! ドドドドド……!





オーク「あっという間に俺たちを追い抜いていきやがった……なんだありゃ?」

御者「ああ、あれは暴走族ですよ」

女騎士「暴走族?」

御者「素行の悪い若者たちが、集団で馬を乱暴に走らせてるんですよ」

御者「ようするに不良集団の一種ですな」

御者「特攻服なるコートを着たり、東方の“漢字”なる文字を使うのが彼らの間ではブームのようです」



女騎士「そういうことか……」

女騎士「自分の馬を持っているということは、それなりに裕福な家で育った者たちなのだろうが」

女騎士「まったく下らない連中だ……」

オーク「そうか?」

女騎士「え?」

オーク「俺自身、自分が昔はワルだったからってのもあるんだけどよ」

オーク「ああいうバカな若者連中見てると、青春してんなぁ、って気分になるんだよな」

オーク「ああやって好き勝手できるのも、色んなものに守られてる今のうちだけだしな」

女騎士「それはつまり……お前は……暴走族が好き、だと……?」

オーク「ん~……好きといえば好きだな」

女騎士「!」ガーン

……

………

…………



オーク「…………」

騎士団長「どうした? ずいぶん長く考え込んでいたようだが」

オーク「あっ、いや……。団長、俺もしかして、心当たりがあるかもしれねえ」

騎士団長「本当か!?」

オーク「うん……だからこの一件は俺に任せてくれないか?」

騎士団長「分かった、この件は君に一任することにしよう。よろしく頼む」

騎士団長が帰った後――

オーク(さて、どうやってあいつを説得しよう)

オーク(ストレートに『俺はお前に暴走族のようになって欲しかったわけじゃない』といったとしても……)



怨奈鬼死『勘血害酢留奈! 尾魔絵之田目邪奈胃!』



オーク(『勘違いするな! お前のためじゃない!』って怒るに決まってるしな……)

オーク(う~ん、どうしよう……。とにかく明日会ってみるか……)

翌日――

<騎士団領地>



オーク「おはよう、女騎士」

怨奈鬼死「尾歯陽!」

オーク(やっぱり相変わらずこのしゃべり方か……)

怨奈鬼死「尾華背!」

怨奈鬼死「霊不゜死露!」

怨奈鬼死「豪勘死露!」

怨奈鬼死「名華駄士死露!」

オーク(いやむしろ、エスカレートしてる……ものすごいことになってる……!)

オーク(これ以上ひどくなる前に、なんとしても止めないと!)

オーク「あのさ俺、久しぶりに馬に乗りたくなっちゃったんだけど」

怨奈鬼死「保宇?」

オーク「だからさ、お前の後ろに乗せてくれないか?」

怨奈鬼死「鎌湾!」

馬「ヒヒィィィン! ブルルルル……」

オーク「すまねえな、俺みたいな重い奴が乗っちまって」

怨奈鬼死「異毛!」グイッ

馬「ヒヒィンッ!」



パカラッ…… パカラッ……

パカラッ…… パカラッ……



オーク「おいおい……ちょっと飛ばしすぎじゃねえか?」

怨奈鬼死「魔駄魔駄!」グイッ



ドカラッ…… ドカラッ……

オーク「…………」

オーク「うわぁっ!」ヨロッ



ドザァッ…… ゴロゴロ……





怨奈鬼死「!!!」

オーク「ぐ……落馬しちまった……俺としたことが……」







女騎士「大丈夫か、オーク!」ダッ

女騎士「しっかりしろ!」

オーク「なぁに、俺は大丈夫だ。ちゃんと受け身も取ってたしな」

女騎士「よ、よかった……。すまん、私が無茶な走りをしたから……」

オーク「それより……やっと元のお前に戻ってくれたな」

女騎士「!」ハッ

オーク「すまなかったな……こないだは変なこといっちまって」

オーク「いっとくが俺は暴走族なんかより、今のお前のがずっとずっと好きだぜ」

女騎士「…………!」カァ…

女騎士「ふ、ふん……私のせいで落馬した者にそういわれては……元に戻らざるをえんな」

オーク「……よっしゃ、じゃあ今度はゆっくり乗馬を楽しもうぜ!」

オーク(“わざと落馬作戦”……大成功!)

オーク(どうにか女騎士の暴走を食い止めることができ――)

女騎士「乗馬の後は……分かっているな? 今夜は寝かさんぞ!」ニヤッ

オーク(――るわけないよな、やっぱ)





― 終 ―

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