【進撃の巨人】男「人の生は……」【SS】 (59)


進撃の巨人のSSです。
注意事項
・オリキャラメイン
・原作キャラの口調や雰囲気などがずれてるかもしれません
・身の毛もよだつような気持ち悪い妄想の産物 ← 【最重要】
・厨二病成分満載
・(結婚しよ)



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この世界は空虚だ…

これは名も無き兵士の物語





—————解散式の夜—————
【大食堂】


俺達『第104期訓練兵団』は今日付けで解散だ。
そして今日はその送別会…今まで過ごした訓練場からおさらばして、
駐屯兵団の大食堂で各々が賑やかに盛り上がっている。

訓練兵A「なぁ男。お前はどうするんだ?」

男「ん…調査兵団に行ったところで無駄死にだろうし、駐屯兵団だな」

訓練兵B「だよなー。10番以内じゃないから憲兵団には行けないしよ」ハハハ

俺の周りにいるのはみな、ごく平凡な連中だ。
皆が皆、それらしい『お題目』を掲げて憲兵団を目指した結果、力及ばず駐屯兵団を希望している。


どこのテーブルも似たようなものだろう。
駐屯兵団であれ、年数を務めれば憲兵団への転属もありうる。
一方で調査兵団と言えば初陣で5割が死ぬとも、それ以上とも言われているのだ。
明確な目的が無い限り希望する奴なんてそうそういない。

?「巨人を———平均で———」

?「しかし、この地上を———人類の30分の1では———」

気がつけばずいぶんと大食堂が静かだ。
その中で喋る声の主は第104期訓練兵団6位のジャン・キルシュタイン。
訓練初日の集会で『お題目』すら掲げずに憲兵団を目指して勝ち取った男…

ジャン「人類は…巨人に勝てない…」

誰も口を開かぬ中でジャンの声だけが響く。
ジャンの言葉こそ、誰も口に出さないだけで皆が思っている事なのだ。


エレン「それで?」

ジャンの話を黙って聞いていたエレン・イェーガーが沈黙を破った。
5年前に巨人に襲撃されたシガンシナ区の生き残りで、序列は5位…
たしか彼は入団当時から調査兵団入りを希望していたはずだ。相いれないのも無理は無い。

エレン「オレには夢がある…」
エレン「巨人を駆逐して、この狭い癖内の世界を出たら…外の世界を探検するんだ」

驚いた。彼は巨人に家族を奪われた復讐心で調査兵団を希望してると思っていたが、
その他にも立派な目標があったようだ。

——バキッ!!

男「……っ!」ゴフッ

派手な音に飲みかけていた水を噴いてしまった。
視線を二人に戻すと綺麗にダブルカウンターをしている。


訓練兵A「まーた始まったよ」ヤレヤレ

訓練兵B「あいつらも飽きないよな。こんな日くらい仲良くやれっての」ハァ

男「別れのあいさつみたいなもんだろ。ほっとけよ」

あの二人はよく訓練場の食堂でも喧嘩していた。
といっても仲が悪いわけではなさそうだし『拳で語り合う』友人なのだろう。

男「……ん?」

何気なく視線を移すと、ユミルが席を立つのが見える。
彼女のファミリーネームは何だったか…コップを持っているところを見ると飲み物を取りに行ったのだろう。

男「ちょっと席外すぞ」ガタッ

訓練兵A「お?おぉ仲裁か?」

男「まさか。どうせミカサかライナーが止めるだろ」


男「またやってるな。あの二人」

クリスタ「え?あぁ男。そうだね…こんな時くらい仲良くすればいいのに」ハァ

男「そうだな。まぁ喧嘩するほど仲がいいとも言うさ」ハハッ

クリスタ・レンズ…序列10位であり、同期の中で男女ともに人気の高い人物だ。
深呼吸一つ

男「ところで急で悪いんだが少し時間をもらえるか?」

クリスタ「うん、良いけど…外のが良い?」

男「あぁ、すまんな」

殴り合っている二人で再び大食堂は盛り上がっている。
止める奴、煽る奴、賭けをする奴…様々だ。
視線も二人に集まっている事だし、ユミルが戻る前に外に出る事にしよう。

【兵団本部】


月が煌々と輝いて見える。
中の賑やかさとは打って変わって、外は静かなものだった。

男「寒くないか?」

クリスタ「うぅん、大丈夫だよ」

男「少し歩こう」

とても静かな夜だ。二つの足音と自分の鼓動以外は何もないようにすら感じてしまう。
先ほど同じように深呼吸一つ

男「卒業試験合格おめでとう。10位以内なんてすごいな」

クリスタ「ありがとう。男もおめでとう」

向けられた笑顔にどこか影を感じてしまう気がするのは考え過ぎなのだろうか。
気恥ずかしさも相まって視線を逸らしてしまう。


男「クリスタはやっぱり憲兵団に?」

クリスタ「まだ考え中かな……男は?」

男「駐屯兵団だろうな。調査兵団に行けるほど俺は強くない」

男「情けない話だが」ハハッ

苦笑するしかない。
訓練個々の成績はさておいても、自分は兵士としては目の前の女の子に劣っているのだ。
ゴミのようなプライドとはいえ、傷つかないわけではない。

クリスタ「そんなことないよ。壁の補修や街の人を守るのも立派なお仕事だし」

こちらの気持ちを察してか慌ててフォローしてくれた。
天使だ女神だ言われる訳である。

気がつけば、噴水のある小さな広場についた。
この辺でいいだろう…


クリスタ「それで、話って何かな?」

男「あぁ…それなんだが…」

男「俺はクリスタの事が好きだ」

静かな広場に綺麗な月明かり…そして節目のタイミング。
雰囲気としては悪くないだろう。だが…

クリスタ「あ…気持ちは嬉しいけどその……ごめんなさい!……」

失敗だ。

クリスタ「えぇと……」

男「いや、そんな気はしてたよ。気にするな」ハハッ

慰め言葉を遮って笑う。もとより訓練兵の時に仲が良かったと言うほどでもないのだ。
恋愛の三文小説でも無い限りうまくいくとは思えない。


しばらく沈黙が流れた。
そりゃ、いくら気にするなと言われても彼女からしたら気まずいだろう。

クリスタ「それじゃ、私は戻るね…」スッ

男「クリスタ…君は……」ボソッ

クリスタ「何か言った?」

男「いや、なんでもない。おやすみ」ザッ

喉元まで出かかった言葉を飲み込んで右腕を胸に、左腕は腰に当てる。
『公に心臓を捧げる』を意味するこの世界の敬礼。

クリスタ「うん、おやすみ…」ザッ

申し訳なさそうに返礼した彼女が去っていく。
あぁ、本当に今夜は月が綺麗だな…

—————トロスト区攻防戦—————
【兵団本部】

——カンカンカンカン!

住民避難の早鐘が鳴り響いている。
昨日の呑気な雰囲気など微塵も無く、兵団本部には俺達『第104期訓練兵団』が整列していた。

キッツ「我々はタダメシのツケを払うべく、住民の避難が完全に完了するまで」
キッツ「このウォール・ローゼを死守せねばならない」

トロスト区駐屯兵団の隊長であるキッツ・ヴェールマンが演説を打つ。
どうやら訓練兵団は中衛として補給と情報伝達を行うようだ。
巨人の掃討も指示はされているが、まだ配属さえ決まっていないような新兵に一騎当千の活躍はしていないだろう。

キッツ「なお…承知しているであろうが敵前逃亡は死罪に値する」
キッツ「みな心して命を捧げよ…解散!!」

「「「「「ハッ!!」」」」」ザッ


後1日でそれぞれの配属が決まるってタイミングでの巨人襲撃だ。
不運に嘆いている奴がいる、恐怖のあまりに吐いている奴もいる。
最悪な事に自分も班長を任されてしまっているのだ。人の命を背負う器では無いのに…だ

男「訓練兵第13班、点呼だ。1!」ザッ

数字を伝えて敬礼。続く声が2・3・4・5・6。目の前で横列に並んだ5人が敬礼する。
名前は端から訓練兵A・B・C・D・E。比較的仲が良い連中なのが救いか。

訓練兵A「ったく最悪だ…」

訓練兵B「なんでこのタイミングで…」

駐屯兵A「13班前進!!」

各々が愚痴をこぼして出撃を待っていると、先に出て状況を見ていた駐屯兵から声がかかった。
指示が出てしまった以上は行かなければ死罪だ。腹をくくるしかない。

男「嘆いてる暇は無いさ。俺らは西側から南進だ。行くぞ」ダッ

【トロスト区南西部】


とりあえず他の建物より1段高い塔に登ってあたりを見回す。
集合から僅かしか過ぎていないと言うのに前衛は総崩れのようだ。

駐屯兵A「どうした!早く進め!」

キッツ隊長の演説中はせいぜい補給部隊と楽観視していたが、どうにもそうはいかないようだ。
前進を指示する駐屯兵に答えるよう片手を上げ、立体起動で前進する。

訓練兵C「どうするんだ…?」

訓練兵D「突っ込まなきゃいけないのかよ…」

班員は全員が『一生、巨人と戦うことなんてない』くらいの気持ちでいた連中だ。
戦意などもとより無いに等しい。これで生き残れるのだろうか?


どれくらい前進したのか…不意に視界の下から手が伸びた!


男「下だ!避けろ!!」

叫んだときにはすでに遅い。自分の後ろを飛んでいたCが7m級に握られる。
戦場と化した街は煩いはずなのにバキバキと嫌な音がはっきりと聞こえた。

男「散会だ!俺とAは囮、B・D・Eは隙を見てうなじを狙え」

この中で立体起動装置の扱いが上位なのは自分とAだ。捕まらないように、それでいて目立つように巨人の前を横切る。
口からはみ出ている脚はできるだけ見たくない。

訓練兵E「Cの仇!!」バッ

巨人の背後からEが斬りかかる。
これで討伐だと班内全員が思った瞬間、あろうことか7m級が振り返り、Eが捕食された。


Eの断末魔に耳をふさぎ、再び立体起動による撹乱を再開する。
壁を使って右へ左へ…延ばされた手をかわして隙を窺う。

訓練兵D「しまっ!」ギュン

——バキッ!!!

巨人に気を取られ過ぎた結果、Dが軌道制御に失敗して壁に激突してしまったようだ。
助けに行きたいところだが、その一歩が踏み出せない。
逡巡している間に視界の隅に地上へ降りる影が見えた。

訓練兵B「D!!」バッ

たしかBとDはともにトロスト区の出身で仲が良かったはずだ。
助けに行ったのは判るが、意識のはっきりしない人間を一人抱えて、巨人の前から逃げるなんて訓練兵に出来るわけなど無い。

男「待て!巨人が…」

言葉より先に巨人が二人へと手を伸ばす。


訓練兵A「男!」

二人が巨人に捉えられると同時に、背後に回り込んでいたAから声がかかる。
確かに巨人は両手がふさがっている。
だが、今仕留めた場合下手をすれば二人は潰されるだろう。

男「一撃で仕留めてくれよ!」

迷わない。
仮にここで躊躇っても捉えられた二人は死ぬのだ。
声に合わせてAが飛び、7m級のうなじを削ぎ落とす!

訓練兵A「討伐数1だクソ野郎!!」ズバッ

——ドォォオ!!

地響きを立てて倒れた巨人にすぐさま駆け寄る。巨人の体温が熱いが構っている時ではない。
どうやら巨人はやや右に反って倒れたらしく、右手で捉えられていたBは下敷きのようだ。
だが、Dは無事に見える。すぐさま巨人の指を斬り落とし助け出す。


とりあえず地面から屋根の上に避難してあたりを見回す。
Dを抱き上げたAも同じく昇り、あたりを見回していた。

訓練兵A「6人いたのがあっという間に2人かよ」ケッ

Dが生きているとはいえ、頭を打ってしまったらしく戦力外だ。
しかし見捨てるわけには行かないし、一度本部まで退くのが順当だろう。

男「本部で後退した後に指示を仰ぐぞ。即席部隊くらいはできるかもしれない」

高々7m級を1体倒すだけなのにこちらは4人も損失を出したのだ。今戦闘を続行すれば確実に死ぬ。
それに今回は味方を囮にした様なものだ。褒められたものではない。

訓練兵A「了解!頼りにしてるぜ。班長!」バッ

まだ撤退の鐘が鳴らないのか。そう言えば自分たちを追いかけてくるはずの補給部隊も見当たらない。

男「嫌な予感がするな……」ボソッ

【兵団本部】


男「なんだこれは……」

街が戦場なら、本部はなんと言えば良いのだろう。
腕が、あるいは足が無い兵士が寝かされ、うめき声が満ちている。
それに妙なのは人数だ。処置を行う衛生兵もまばら、ガスボンベを持ち運んでるはずの補給兵に至っては姿が見えない。

衛生兵A「けが人か!?」

訓練兵A「あぁ、頭を強く打ってる。見てやってください」

Aが抱えていたDを地面に横たえて衛生兵に詳細を話している。
その間にすれ違った別の衛生兵を捕まえて状況を訪ねることにした。

男「なぜ補給兵がいないんですか?いや、それより駐屯兵は!?」

一番妙なのは指揮をとっているはずの駐屯兵団が見当たらない事だ。
補給兵は出払っているのかもしれない。衛生兵は人手が足りなのかもしれない。
だが、指揮をとっている駐屯兵が全員出撃など考えにくい。


衛生兵B「キッツ隊長以下、本部の駐屯兵団は後衛の指揮に向かった。補給兵はしらん」

それだけ言うと振り切るように走って行ってしまった。
変わりに衛生兵に説明を終えたAが近づいて来る。

男「隊長は後衛に行ったそうだ。とりあえず補給室へ行こう」

訓練兵A「後衛!?それじゃまるで逃亡じゃねぇか!」

憤るAをなだめ、とりあえずガスの補給室へと歩みを進める。
まだ手持ちのガスに余裕はあるが、いつ切れてしまうか判らない。
切れた時は死ぬ時だ…満タンに越した事は無い。

——ドゴォォォォォォ!!!!

不意に地が揺れる。見えたのは巨人の手だ。
咄嗟に下がったのが良かったか、ギリギリ掴まれる事は無かった。

男「くそっ!逃げるぞ!」バッ

訓練兵A「でもDが!」

立体起動で入って来た場所からすぐさま飛び立つ。
振りかえると、本部の周りには次々と巨人が集まっている。
最悪の展開だ…


手が伸びてくる。
15m級がやや遅れて出たAを捉えたのが視界の端に見えた

訓練兵A「くそっ!離しやがれ!」

腕はふさがれていないが、咄嗟の脱出で刃の装着が出来ていない。
そして鞘は腰だ。もうAは刃を抜く事は出来ない。

Aがどんどんと遠ざかる…
自分が前に進み、Aは後ろに引き戻されて行く。

訓練兵A「嫌だ!死にたくない!!!」

Aの悲痛な叫びが聞こえる。だが戻る事は出来ない。
一緒に過ごしてきた仲間だ、もちろん助けたい気持ちはある。
しかし、あの巨人の群れに戻る勇気が自分には無い。

——ヒュンヒュン

立体起動装置の駆動音だけが耳に届く。
Aの声はもう聞こえてこなかった…

【トロスト区西部】


本部からだいぶ離れたところで屋根の上に膝をつく。

——ガシャン

男「すまん…俺の判断ミスだ…」

武器を兼ねた操作装置から手を離し、まるで土下座のように屋根に手を突いた。
手が震え、頬を涙が伝う。
7m級との戦闘をもっと上手にやればB・C・Eの三人は死ななかったかもしれない。

男「くそっ……」

違和感に従い本部に戻らなければAとDは死ななかったかもしれない。
これが命を背負う重さなのだろう。押しつぶされそうで、足が震える。

男「これからどうする…」

口に出したところで答えてくれる仲間はもういないのだ。
震える手足で身体を反転させ、座り込む形で屋根の塔に背中を預けた。


——カンカンカンカン!

どれくらい時間が経ったか鐘の音が響く。ようやく撤退の鐘が鳴らされたのだ。
壁を伝って何とか立ちあがる。手足の震えもようやく消えた。

男「壁を昇るには少ないか…」カンカン

ガスボンベを軽く叩いて響き具合で残量を計る。
しばらくの移動はできても壁越えはとても無理だろう。
かと言って本部に戻る事は出来ない。

男「ん……?」

ふと視界の端にウォール・ローゼへと向かう二つの影が見えた。
誰だかは判らないが、合流する価値はありそうだ。

男「いつまでも泣いてはいられないな」

手の甲で乱暴に目元をこすり、二つの影に向かって飛ぶ!


ようやく追いついた。どうやらユミルとクリスタのようだ。
後方から声をかける。

男「ユミル!クリスタ!無事で良かった。二人はガスの補給が出来たのか?」

クリスタ「男も無事だったんだ。良かった」

ユミルには歓迎されていないようだが、彼女はいつもこうだから気にしてもいられない。

クリスタ「補給出来てないけど後衛に行けばまだボンベが余ってるかもしれないから!」

ユミル「ちょっとクリスタ!」

なるほど、まさしく柔軟な発想だ。
ユミルの様子を見ると教えたくないと言った雰囲気だが、敢えて空気を読まない。

男「悪いがその案に乗せてもらう」

ユミル「チッ…」

露骨な舌打ちだ。心が折れそうになる。


男「二人の班はどうした?」

ユミル「撤退に入ってからバラけちまったよ!」

クリスタ「男の班は?」

男「全滅だ…俺の指揮が悪かった」

クリスタ「…ごめんなさい」

ユミル「………」チッ

返事を聞くに全滅ではないようだが一緒に行動していないのは一目瞭然だ。もしかしたら二人はこっそり抜けてきたのかもしれない。

——ヒュン…ビン!

クリスタ「…っ!」

男「クリスタ!!」

縦列の真ん中を進んでいたクリスタが視界から消える。
立体起動装置のワイヤーを巨人に掴まれ地面に落下したようだ。
咄嗟に叫び、先頭で進むユミルに異常を伝えるが、クリスタは頭を打ったのかすぐに立ちあがれそうにない。


7m級が路地に隠れていた。Cの時と同じだ。
地面に座り込むクリスタに延ばされる巨人の手…この位置からうなじは狙えそうにない。
ならば……!

男「……っ!!」グルンッ

延ばされた巨人の手にワイヤーを打ち込んでの急加速。
ぶつかる勢いで身体を回転させ、7m級の手首を斬りつける!!

——ドサッ!

痛覚の鈍い巨人と言えど、流石にダメージがあったらしく斬られた手を引いた。
もっともすぐに再生を開始してしまうから一時しのぎでしかない。
自分はと言うと、斬り付けた衝撃でスピードが下がったとはいえ顔面から地面に落ちてしまった。まったくカッコ悪い…

男「いてぇ……」フラッ

なんとか立ちあがるが強打した左の視界が赤い…
手にした刃も折れてしまっている。そして再生した巨人の手が再び迫る…


——ドォォオ!!

だが、手が届く前に巨人が倒れこんだ。
その背中にはユミルが乗っている。叫んだ声は聞こえていたようで咄嗟にうなじを狙いに行ったのだろう。

男「助かったぜ…」ガシャン

刃を取り換え、クリスタを抱えるユミルと共に屋根へと昇り、屋根に横たえる。

ユミル「クリスタ!」パシッ

ユミルが軽く頬を叩くとうっすらと目が開かれ、青い目が動いた。
幸いに生きているようだが、どうにも意識がもうろうとしているようだ。
焦点が定まっているようには見えない。

クリスタ「ユミル……男……?」

比較的低い位置からの落下だったからか、目立った外傷がない。
しかし脳へのダメージは見た目では分からないのだ。
気を失ったクリスタをユミルが抱え上げる。


ユミル「癪だけど共同戦線だ」

男「ユミルは俺より立体起動装置の扱いも上手いし、何より俺は左がよく見えない。クリスタを頼む」

ユミル「言われなくたってお前なんかに任せるもんかよ」チッ

ふと、屋根に引っ掛かっていた布が目についた。
広げてみると小さめの駐屯兵団の旗のようだ。
靡くように薄い布で作られたそれを何度か折りたたみ、眼帯のように頭に巻く。

男「援護するから一気に行くぞ」バッ

ユミル「仕切ってんじゃねぇ」バッ

もうだいぶ後方まで来ている。あと一息でウォール・ローゼだ。
問題は補給用のボンベが残っているかだが、そこは期待するしかない。

【トロスト区北西部】


——ドゴォ!!!

突然、右手側の建物が崩壊する。中から出てきたのは巨人!
カエルの真似をする子供のように、笑みの貼りついた顔で飛び跳ねて左の建物へと突っ込んだ!

男「奇行種だ!」

巨人との戦いで最も恐れなきゃならないのが奇行種と呼ばれる、異常な動きをする巨人だ。
建物に突っ込んでいる合間にさっさと通過するが…

ユミル「早い!」チッ

建物から抜け出した奇行種はカエル跳びで追いかけてくる。
一度に飛び跳ねる飛距離が長いのか、少しずつ追いつかれているようにすら見えるのは気のせいではないだろう。


男「ユミル!この先の空中回廊で俺が食い止める」

ユミル「は?自己犠牲で恩でも売る気か!?」

男「恩?そりゃいいな。生きて帰ったら肉入りのパンでも買ってくれよ」

ユミル「冗談言ってんじゃねぇよ!」

奇行種は僅かにだが確実に迫ってきている。
立体起動装置のワイヤーを巻き取り、建物同士を繋ぐ高い通路に飛び乗って立ち止まる。
やや先の建物にユミルも降り立ったようだ。

ユミル「クリスタと言いお前と言い、英雄ごっこがしてぇならお友達とやりな」

男「人の生は何を成したかで決まる…」ボソッ

ユミル「あ?」イラッ

男「俺には残らなきゃならない理由があるんだよ!彼女を助けたいならさっさと行きやがれ」

ユミル「っ……礼は言わねぇぞ、カッコつけ野郎」バッ

男「気にするな。自分の為だ。」ガシャン

—————少年が見た世界—————


幼いころからこの世界は空虚だった。
心からやりたいと思うことなどなく、それでいて大概の事は並みにこなせた。
並みに友人を作り、並みに喧嘩をし、並みに勉強もした。

友人たちはよく、職人になるだの憲兵団に入るだのと夢を語り合っていた。
自分には語るべき夢がない。話を振られてもいつも曖昧に返事をするだけだったのを覚えている。


父は調査兵団に所属していた。
『人の生は何を成したかで決まる』口癖のようにそう言っていた父は、
調査兵団として人類の反撃の糧となるべく戦い、5年前の壁外遠征で帰らぬ人となる。

母はどこにでもいるありふれた主婦だった。
その母も父の死を知ることなく、ウォール・マリアに侵入した巨人たちに捕食されて死んだ。
なぜ自分だけ助かったのかについては、記憶がない。


身寄りがない自分は生きるために開拓地で働いた。
毎日僅かな配給で草を抜き、石を退け、地を耕す日々。
頑張るでもなく、サボるでもなく、ただ淡々と作業してる自分はよほど気味が悪かったのだろう。
開拓地でまともに誰かと会話した覚えがない。

そうしている内に2年の月日が過ぎ『第104期訓練兵団募集』の広告が目に留まった。
もしかしたら自分のやりたいことが見つかるかもしれない…そんな一縷の希望で入団を希望した。

手荷物は父が愛用していた小型の折り畳み式単眼鏡が一つ。
調査兵団の人が形見として届けてくれたものだ。
この時初めて父の死を知ったが、そんな気がしていた為かあまり衝撃は受けなかった。

【訓練所】


キース「貴様は何者だ!」

男「ウォール・マリア南区出身、男です!」

キース「男か!貴様は何しにここに来た!」

男「……自分の成すべき事を探す為です!」

キース「ほぉ…では貴様の成すべきことは巨人の餌だ!次!!」

憲兵団に入る為の『お題目』など掲げる気が起きない。悪目立ちをするかと思ったが、
内地行きを公言するジャン・キルシュタインや、敬礼を間違えて吊りあげられたコニー・スプリンガー。
芋を食べていたサシャ・ブラウスのお陰で、特段目立つ事もなかったようである。


訓練所にはいろいろな人がいろいろな場所から集まっていた。
後に共に戦う事となる訓練兵A・B・Dとは同室でもあった。

訓練兵A「そういえばライナーとベルトルトはウォール・マリアの南部に住んでたんだってな」

訓練兵C「男もそうじゃなかったか?」

訓練兵B「もしかして同郷か?」

男「いや、二人は南東の村らしいが、俺は南西の村だ。あった事はねぇよ」

ライナー・ブラウン…大柄で面倒見がよく仲間内からも評判が良い男だ。
ベルトルト・フーバー…ライナーといつも一緒にいる長身の男だが、俺は少し壁を感じる気がして苦手だった。


長い間、閉鎖した空間で男女が詰められていれば当然恋愛の話で盛り上がる事もある。
訓練兵となり半年もしたある日。

訓練兵D「俺は…ミカサかなぁ」

訓練兵B「ありゃエレンにしか興味がねぇぞ?俺はアニかな」

訓練兵E「アニって…お前ドMか?ここは天使クリスタだろう」

訓練兵C「だな!我らが天使クリスタが一番だ。で、男は?」

ミカサ・アッカーマン…成績優秀で美人。まさに才色兼備だがエレンの心配ばかりしている。
アニ・レオンハート…大柄のライナーですら格闘訓練で吹き飛ばす小柄で気の強い女傑。
そして、クリスタ・レンズ…可愛らしい外見と献身的な優しさで男女ともに人気が高い。

男「俺もクリスタ…かな」

外見や性格以上に彼女に興味があった。
そう多く話したわけではないが、なんとなく自分と似ている気がしたのだ…

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クリスタ「大……丈夫?」フラッ

男「あぁ、大丈夫だ。ちょっと挫いただけだ」

兵站行進の訓練中、足首をくじいて休憩していると声をかけられた。
男ですら倒れる奴が出るというのに、小柄な彼女ではさぞ辛いだろう。
意を決してかねてからの疑問を口にしてみた。

男「なぁクリスタ…なんでそんなにまわりを気にかけるんだ?自分だって辛いだろうに…」

クリスタ「なんで…なんでかな?迷惑だったよね…ごめん」

男「いや、迷惑じゃないし嬉しいけど…無理はするなよ」

クリスタ「うん、ありがとう」

その様子を見てふいに思い浮かんだ。
自分が成すべき物を探しているように、彼女も”何か”を探しているのではないだろうか?
目的?居場所?それとも……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




自己満足でしかない。



”何か”なんて存在しないのかもしれない。



それでも”何か”を探す手伝いが出来たのなら…



この空虚な世界を初めて美しくと感じた。




訓練所に来て3年間。脱落した奴や死んだ奴もいたが、様々な訓練に耐え抜いた。
立体起動と対人格闘は得意だったが、まぁ井の中の蛙だろう。上はたくさんいる。

初日から巨人を駆逐すると息巻いていたエレン・イェーガーや、
『お題目』ではなく、胸を張って王に身を捧げると宣言したマルコ・ボット。
明確な目標を持っている連中は、俺達よりも一歩も二歩も上を進んでいた。

そして卒業試験の結果が知らされる。
なんというか…並みだった。ある意味順当な結果なのだろう。仲良い奴らも同じような物。
世間体的に訓練兵になり、あわよくば憲兵団を狙っている程度の覚悟ではそんなものだ。

そして解散式の夜を迎える———


結局俺は、訓練兵団で彼女に対して何か行動を起こすことが出来なかった。
喋りに自信があるわけでもなく、きっかけをつかみ損ねて出遅れたといえばそれらしいが、
つまり俺は想いを秘めても行動できない『半端なクソ野郎』だったのだ。

そんなクソ野郎の我儘の為に彼女を呼び出し、想いを伝える。
予想通り断られた。
こうして初めて見つけた”目的”にケジメを付けた…はずだったのだが、

起こってしまった。

トロスト区への巨人の進撃

5年前の悪夢の再来が…


ケジメをつけたはずの”目的”が再び沸き起こる。
人が聞いたら馬鹿だと笑うかもしれない。蛮勇だと嘲られるのかもしれない。

それでもなお、この世界が空虚では無いと教えてくれた彼女を守りたいと、強く想う。

きっと彼女からすれば迷惑な話だろう。
家族でも、恋人もでも、ましてや仲が良い友人ですらない奴に命をかけられても重たいだけだ。
だからこれは俺の中の自己満足。月の綺麗なあの夜の我儘の延長。



生きて帰れたら、あの夜に聞けなかった事を聞いてみよう。



—————成すべき事の為に—————
【トロスト区北西部】


震えも恐れも無い。
飛び去ったユミルを見送り、向かってきた巨人を見据える。

——ドゴォ!!!

巨人が空中回廊に突っ込む。
それよりやや早く立体起動で右へ飛ぶ事で回避。
そのまま背後から斬りたかったが、建物の破片に邪魔されて進む事が出来ない。

男「……っ!」ギュン

巨人は大きな目でギョロリとこちらを見つめ、再び飛びかかって来た。
この巨人は奇行種とは言え、とにかく無茶な直進をする程度であり、
1対1なら動きが読みやすいのが幸いだ。

負傷で左目が見えない以上は極力右回り…つまり右目が巨人に向いてなくてはいけない。
動きが単調になり気味なのが不安ではあるが、この際は仕方ないだろう。


もうどれくらい跳びこまれては避けることを繰り返したのか。
長い時間のように思えるが、実際は一瞬なのかもしれない。

巨人が跳ぶ。先ほどより高いのは突っ込んだ建物を蹴ったからだろう。
ガスの噴射をやや強めて迫る口からギリギリのところで逃げる事が出来た。
奇行種故にこの動きだが、もし手を使われていたら捕まってのは間違いない…だが!

男「もらった!」バッ

空中で身体を反転させ、過ぎ去った巨人のうなじにワイヤーを打ち込む。
跳んだ事で落下している巨人が空中で反転できる道理は無いのだ。

左側で何かが動く気配がした気がした。
無視してガスを噴射しようとした刹那に左腕に激痛が走る。

男「15m級……」

奇行種の動きにばかり注目して外に目を配れなかったが災いしたか、
左腕の肘先を別の巨人に掴まれていた。

男「離しやがれ!」ブン


右手の剣を振るう。
超硬質スチールの刃はとてもよく斬れる。硬い巨人の肉を削ぎ落すために作られているのだから当然だ。
人間の肉や骨など、勢いがつけば文字通り一刀両断だろう。

——ザクッ

男「っ!!!」

掴まれた左腕を肘先ごと斬り落とす。
左の操作装置が無いため右側の噴射と巻き上げしかできない。
それでも、勢いのままに身体を回転させて奇行種のうなじを削ぎ落す!

斬り落とした左腕が焼けるように熱い。
右の操作装置の刃も先ほどの無理な攻撃で折れてしまったようだ。
立体起動装置のガスも無くなったようだし満身創痍とのはこの事か…

我ながらカッコ悪い状況だと思う。


二人は…彼女は無事に逃げのびれたのだろうか?
右の操作装置を手放して上着から単眼鏡を取り出して覗きこむと、
壁に取り付いている人影が二つ見えた。

よかった。そう思う間もなく身体が持ち上る。
先ほどの15m級に捕まえられたのだろう。不思議と怖くない。


『人の生は何を成したかで決まる』


父のように兵士として戦う事は出来なかった。
巨人との戦果も討伐数1。おまけしても討伐補佐が2だ。優秀とは言えない。

それでも、最後に自分の意思を貫いて戦いぬけたのだ。

男「好きな人のために戦う…俺にしては上出来すぎるな」

右腕を胸に、左腕は無い。
公に心臓を捧げる覚悟なんて持ち合わせてないが、あの夜のように彼女へ敬礼を捧げよう。








——グシャ







—————エピローグ—————
【ウォール・ローゼ】


駐屯兵B「二人昇ってくるぞ!手を貸せ!」

駐屯兵C「大丈夫か?掴まれ」

——パシッ

ユミル「私は大丈夫です。もう一人を手伝ってやってください」

駐屯兵C「あと少しだ、手を」グイッ

クリスタ「……ありがとう、ございます」

駐屯兵B「下の様子は?」

ユミル「本部が巨人に囲まれているようで…」

駐屯兵B「そうか…とりあえず二人は駐屯兵団の詰め所で報告をしてくれ」

「「ハッ!」」ザッ


ユミル「街の様子はひでぇな…」

クリスタ「ねぇ…ユミル?」

ユミル「どうした?」

クリスタ「私が気を失ってる間、もう一人…誰か居なかった?」

ユミル「………」

ユミル「いなかった」

クリスタ「……そっか」

ユミル「大方、頭を打って訓練の時と混乱してるんだろ。報告には私が行くから休んでな」

クリスタ「うぅん、私も行って残ってる人達への補給を志願してくる」ダッ

ユミル「は?おい待てよ!」


ユミル「………」

ユミル「自分の為って言ったんだ…」

ユミル「これで満足かよ…カッコつけ野郎」ボソッ


クリスタ「ユミル?どうしたの?」

ユミル「なんでもない。今行くよ、私のクリスタ!」ダッ

クリスタ「あのね!ふざけてる場合じゃないでしょ」

ユミル「まぁそう怒るなよ」ケラケラ

クリスタ「先に行くからね」ダッ

ユミル「置いてくなっての」ダッ





この世界は空虚だ…

そして…とても美しい

これは名も無き男の物語





くぅ〜疲れましたwこれにて完結です!

クリスタが好きすぎて死にたくなったので勝手に死にました。
一応、原作との整合性を重視したのですが荒が多いかもしれません。

本当は原作キャラをそのまま使ったSSを書いてみたいのですが、
キャラ崩壊をしないように意識すると全く書けなかったので今回はモブキャラを主人公としました。
結果はご覧の通り痛々しいだけですが…

とにかく、お付き合いいただきありがとうございました。

乙!
IGLOO見てる気分だった

歌詞に近いものを感じるから主題歌も張っておきますね。
http://www.youtube.com/watch?v=VPdvg-FJGjw&feature=youtube_gdata

最初と最後が無ければ普通に良かった

たくさんの乙をありがとうございます。

>>53
表舞台に出てこないだけで、人知れず戦う兵士がいるってことを書きたかったので題材的には似てるかもしれませんね。
余談ですが、>>20の訓練兵Aのセリフはカスペン大佐を参考にしてます。

>>56
意識したつもりは無いですが『月の闇に隠した儚き夢が囁くよ』って歌詞が何となく響きますね。
勝手ながスレのら主題歌として「時空のたもと」をお借りしましょう。

>>57
この世界は空虚だ…のくだりでしょうか?
ミカサが「残酷だ」と評したように、誰もが世界への違った印象を持ってる事を表したかったのですが、
無理やりねじこんだ感じになってしまったかもしれませんね。ご意見感謝します。



今後もこのスレにて、同じような雰囲気で更新していこうかと思います。
1人につき50程度になると思いますので、わざわざ新しく立てるほどでもないですしね。
ネカフェに行かないと連続での投稿が出来ないのでペースは遅いですが、またお付き合いいただければ幸いです。

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