モバP「モテ装置?」 (79)

デレマスSSです。

モバP「平行世界体感装置?」
モバP「精神安定装置?」
モバP「トリップ装置?」
の続きです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456625013

モバP(以下P)「目が覚めたら晶葉の部屋、もとい研究室にいた」

P「っかしーな、いまだに美城常務に金を持ってかれた幻聴のショックから立ち直れていないちひろさんの仕事をやってたはずなんだがな……」

晶葉「おお、P。起きたのか、おはよう。とはいっても、まだ朝の三時だが」

P「晶葉……俺は何でここに。まさか……」

晶葉「変なことを妄想するんじゃないぞ。新作ができたから呼びに行ったら、机に突っ伏して眠っているPを見つけてな、志希に手伝ってもらってここまで運んできたんだ」

P「志希が? じゃあお礼言わなきゃな。志希は今どこに?」

晶葉「ん、ああ……そういえば姿が見えないな、きっとどこかうろついているのだろう」

晶葉「さて、そんなことはさておいてだな……」

晶葉「新しい発明品ができたぞ」

P「そんなことって……まあ志希がどっか行くのは今に始まったことじゃないか」

P「で、今度のはどんな装置なんだ?」

晶葉「聞いて驚け、その名もモテ装置だ」

P「モテ装置?」

晶葉「そう、モテ装置だ。読んで字の如く、この装置を使えば、異性から好かれるようになる」

P「なんでそう、まゆの逆鱗に釘をぶちこみにいくような発明しちゃうのかなぁ」

晶葉「科学の発展のためには、多少の犠牲は仕方がないんだ」

P「犠牲って言っちゃったよ。で、本題だけど。この装置を誰かに使ってもらえばいいんだよな?」

晶葉「ああ、その通りだ。だが、この装置自体を操作するのは君だ。そして、モテ装置を操作して誰かにモテてもらう。その対象者は、私が選定する」

P「あれ、いつもみたいにアイドル達から適当に選ぶんじゃないのか」

晶葉「ああ」

晶葉「アイドル達じゃ……検証にならないからな。Pへの好感度が既に高いと、装置のきちんとしたデータを得られない」

P「みんなから信頼してもらえて、俺は幸せ者だな」

晶葉「……」

晶葉「……まあいい、今回モテ装置でPの毒牙にかけられるのは……」

志希「ちひろさんだよ~」

P「おい毒牙ってなんだ毒牙って。あ、志希、さっきは迷惑かけたみたいだな、すまん」

志希「え? なんのこと~?」ヘンナノー

P「まあいいや……で、なんでちひろさんなんだよ? 俺なんか悪いことした?」

晶葉「どこで誰が聞いているかわからない時代だぞ、発言は慎重にな……」

晶葉「だが、疑問に思う気持ちはよくわかる。その辺の説明は、志希に任せる」

志希「任されちゃった~上手く説明できるかな?」

晶葉「まあ、安全だということがわかれば良いんだ、Pが気にかけているのはそこだろうしな」

志希「りょーかーい。じゃあ行くよ? 何か匂いを嗅いだとき、忘れてたはずの記憶がふっとよみがえることはない?」

P「うーむ、俺はあんまり鼻が良くないからなんとも言えないけど……」

志希「ありゃ……とにかく、そういうことがあるんだ~。匂いとか味って、記憶と密接に関わってる要素なんだよね」

志希「このモテ装置は、それを使った機械なんだよ」ニャハハ

志希「初恋の匂いを本人の記憶の中から探し出して、それをキミのまわりで感じられるようにして、ドキドキさせちゃうんだ~」

P「……記憶、か」ボソリ

晶葉「今回も記憶の加工は行わない。見て、辿るだけだ」

P「ん、ああ、それはわかってる。でも、話を聞く分には、初恋の時の記憶を俺に投影させるってことだよな?」

志希「そうだね。まあ初恋って言うか、自分が一番ドキドキできた恋愛の記憶」

P「それって、本人の気持ちを蔑ろにすることにならないか?」

志希「んん~……何と言えばいいのかな、この装置はね、厳密にはモテ装置って名乗っちゃダメな機械なんだよ」

志希「この装置は、恋愛中の記憶に残る象徴的な香りを再現して、その時のドキドキを思い出させる装置。キミのことを本当に邪険に思ってたりしたら、単にその時のことを思い出すだけで終わりだよ」

志希「正確には、好きってキモチを言いだせなくて自分に嘘をついてる人の背中を押す機械なのかも。粋なことするよねぇ♪」

P「……それはわかったとして、なんでちひろさんに?」

志希「トーゼン、サンプルとして一番公正な立場ってのもあるけど~」

志希「まぁまぁ、使ってみたらわかるんじゃないかな?」

P「特に何も起こらなかったら嫌われてる、何かしらの反応があれば一定以上の信頼はしてもらえてるってことでいいんだよな?」

晶葉「……その認識で構わない」

晶葉「他に何か気になることはないか?」

P「志希と協力したってことは、志希が匂いのもとを作るんだよな?」

志希「ううん、あたしは匂いの原理を晶葉ちゃんの教えただけだよ。いくらあたしでも、香水を作ってくださーいって言われてもすぐには無理だしね」

晶葉「トリップ装置の時と同じだ、神経に直接刺激を与える」

P「よくよく考えると、その言葉ってすごい響きだよなぁ」

晶葉「ちひろにはこっちのデバイスをつけさせるんだ。肌に直接触れているようにな」

P「ネックレスみたいだな……」

志希「実験は、装置のスイッチを入れる前から始まってるんだよん」

晶葉「ちひろが付けたのを確認したら、それで準備終了だ。Pの持っているほうのスイッチを入れればいい」

P「本当にそんなんで何か起こるのか?」

晶葉「それを確かめるのが目的だ。さあ、そろそろみんなが出社してくる頃だ、頑張ってくれ」

P「……待てよ?」ボソリ

P「…………」

P「質問はまだ終わりじゃない。すまないが志希、席をはずしてくれないか」

志希「えー? 志希ちゃん仲間はずれ?」トボトボ

P「……さて、晶葉」

P「俺は前に、死んだ人間を生き返らせるような真似はするな、と言ったよな」

晶葉「ああ」


P「お前、その約束を破ろうとしていないか」

晶葉「……どうしてそう思う?」

P「今までお前が作ってきたもの。平行世界体感装置、精神安定装置、トリップ装置、そして今回のモテ装置――平行世界体感装置で記憶を操作し、精神安定装置で視覚を操作し、トリップ装置で聴覚と触覚を操作し、モテ装置で嗅覚を操作している」

P「あと一つは、味覚か?」

P「人間の五感を文字どおり造りあげることで、お前は人間そのものを造ろうとしているんじゃないか?」

晶葉「……だったらどうする」

P「俺は、もうお前には協力できない」

晶葉「……」

晶葉「Pよ。私は、やろうと思えば記憶を改竄することだって可能なんだぞ? 平行世界体感装置で得られたデータから、それができるだけの技術をもう得たんだ」

P「俺を脅す気か?」

晶葉「これは脅しじゃない」

晶葉「君は私の前では無力だということを教えているんだ」

P「……まるでマッドサイエンティストだな。志希が寝てた俺をここに運び込んだってのも、大方その記憶操作によるものか? 志希は知らない様子だったしな」

晶葉「ふん、言いたいことはそれだけか?」

P「いいや、まだあるぞ」

P「『もしも俺が消えたら』。お前の書いているその小説は何だ?」

P「なぜ俺がレグルスを、キクイタダキの別称を知っているとお前が知っている?」

P「なぜ俺は――平行世界から帰ってきてからずっと眠れないんだ?」

P「矛盾だらけだ。おかしいことだらけだ。まるで現実的じゃない……」


P「なあ、晶葉。俺はまだ、平行世界の中をさまよっているんじゃないのか」


晶葉「……」

P「沈黙は是ととるぞ」

晶葉「平行世界では、自分の知らないことは起こらない。シミュラクラ現象をPは知らなかった」

晶葉「非常に曖昧な証明だが、それで充分だと思っていた」

晶葉「だがな、P」

晶葉「Pの言うこともまた真実だ。ここは平行世界の一つ。だがPのいた、現実の世界だ」

P「……どうだか」

P「晶葉、お前は新たな人間を造ろうとした。目的はよくわからない。そもそも俺の記憶の中で組み立てられる平行世界の中で、お前が一種の意思を持つことさえ俺には納得できない」

晶葉「それがそのまま、ここが現実世界であることの裏付けになっているとは考えないのか?」

P「……っ」

晶葉「このままだと、私と君の間には禍根が残る。円滑な実験のために、助手との関係は良好でありたい」

晶葉「ほんの少し、記憶をいじらせてもら――」


ピピピピッ ピピピピッ


P「……何の音だ?」

晶葉「……チッ、電話だ」ピッ

晶葉「私だ――ああ、いつもすまないな。すまないが今立て込んでいて……」

晶葉「なに?」

晶葉「……わかった、すぐに向かう」ピッ

P「どうした?」

晶葉「状況が変わった。今からあの人のもとへ向かう。P、お前もついてこい。私の恩人は君の恩人でもあるのだろう」ガチャ

晶葉「君達も、盗み聞きしていないで外に出る準備をしたまえ。できるだけ内密に進めたかったのだがね」

志希「ありゃ、聞いてるのばれちゃった?」

まゆ「晶葉ちゃんも侮れませんねぇ」

P「まゆもこんな時間に何やってんだよ……」

まゆ「最近晶葉ちゃんの行動がおかしいので、ずっと監視してたんですよ」

P「ご、ご苦労さん……」

志希「で、外に出るって? 実験やらないの?」

晶葉「ああ、すまないな。タイムリミットが近づいている。時間の配分を間違えた。だから試験は行わない。だが、使用しないわけではない。君には開発を手伝ってもらった恩がある。同行させないわけにはいかない」

晶葉「それにまゆは……大切なことに気付いているだろうからな」

まゆ「うふ、何のことですかぁ……?」

晶葉「さあ行くぞ。もたもたしている時間はない」

P「どうしたんだよ、晶葉、急にバタバタと」

晶葉「P。あの人が全てを物語ってくれる。この世界が何なのか、ここはどこなのか」

晶葉「そして、君の身体に起こっている異変全てをな」

――


P「ここは……病院?」

志希「おっきい病院だね~」

P「ここに、晶葉の恩師がいるわけか。でもそんな簡単に入れるものなのか?」

晶葉「もちろんだ。さっきの電話は院長からでな。懇意にしてもらっている」

まゆ「じゃあ、研究費用はもしかしてこちらの病院から……?」

晶葉「そういうことだ」

シモンニンショウ <ピッ

男「お待ちしておりました、すぐにこちらへ……この方々は?」

晶葉「やあ、院長。いつもすまないな。この三人は私の友人だ。それに、このうち一人は見たことがあるだろう?」

院長「そうですな、はは。ではこちらへ」

P「あの、院長先生」

院長「なんですかな」

P「晶葉が大変お世話になっているようで……随分なわがままを聞いていただいたと晶葉から伺いました」

院長「それは違いますよ。利益を見越してのことです。双方ともにそれなりのメリットがあったからこそ、病院は晶葉さんに援助をしているわけです」

P「メリット……?」

院長「いずれわかるでしょう」

院長「さて、この部屋です」

晶葉「あの人はこの中だ。入るぞ」


カラカラ…


晶葉「……院長、装置の起動を始めてくれ。嗅覚面の実験は行えなかったが……きっとうまくいくはずだ」

院長「わかりました」

晶葉「そして、君達。装置が起動するまでの間、少し私の話を聞いてもらいたい。荒唐無稽な、私の話をな」

晶葉「……私は以前、平行世界体感装置というものを造った。記憶を使った、シミュレーションのようなものだ」

晶葉「安全装置のついていないものだった。それを、手違いからPが使ってしまった」

P「ああ、俺が寝ぼけていたんだよな」

晶葉「そうだ。そこでPは色々な目に遭い、だが奇跡のようなプロセスを経て、現実の世界に戻ってくることができた。もしも俺が消えたら。この願いが、全ての鍵だった」

志希「キミ、あたしたちの知らないところで色々苦労してるんだね」

晶葉「だが、君がこちらの世界に戻ってきてから、理解できないことが起こるようになった。そうだな?」

P「ああ」

晶葉「それは、理解できないことではない。単に、Pの理解が追いついていないだけだ……来たまえ。会わせてやろう、私の恩師に。このカーテンの向こう側にいる」

P「……」

晶葉「といっても、君達の知っている人だろうがな」シャッ

P・志希「!」

志希「こ、これって……」

まゆ「本物のPさんは、ここにいたんですね」

晶葉「やはり君は気付いていたか。今動いているこのPが、本物ではないことに」

まゆ「ええ、Pさんの香りが、まるで違いましたから。前に顔を近付けたときから、わかってましたよ」

P「なんだよ、これ……どうして俺が、横たわって……」

志希「本物とか偽物って、どういうこと?」オロオロ

晶葉「理解できないのも無理はない。このパソコンを見てくれ」

P「これは、晶葉が書いていた小説……」

晶葉「そう、タイトルは『もしも俺が消えたら』」

晶葉「このタイトルは私が付けたものだ。だが本文は私が書いていたわけではない。これは、P、お前が書いたものだ。今ベッドに横たわっている、本物のPが」

P「待てよ、本物とか偽物とか、じゃあ俺はいったい……」

晶葉「平行世界からPが抜け出るとき、君は願った。もしも俺が消えたら、と。そして君は、この世界に戻ってきた。そうだな?」

P「ああ、間違いない」

晶葉「それがそもそもの間違いだ」

晶葉「もしも俺が消えたら。Pが平行世界の中でそう望んだ瞬間、Pの自我は消失した。Pの意識は、いまだに平行世界の中に閉じ込められている」

晶葉「見ろ、小説の冒頭のこの部分を」

晶葉「平行世界の中で、私はキクイタダキという鳥を使って、その世界が現実世界であることを証明している。だが、君にはもとよりこの鳥に関する知識があった。確認済みだ。つまりこの部分は、Pが、自分は現実世界に戻ってきたのだと信じたいがために作り上げた、虚構の説明だ」

志希「自分を納得させるため、ってこと?」

晶葉「そうだ。まるで一つの物語を作るように、Pはそんな世界を作り上げた。それができてしまうほどの理論を、組み立てることができた」

晶葉「さて次だ、この部分……卯月と凛が事務所に入ってきた音が聞こえ、Pはそちらに向かう。そしてドアを開け、研究室から姿を消す――そのあとに、Pが聞くことができないはずの、私の台詞をPは拾っている。たとえやり直しなどきかなくても、必ずハッピーエンドにしてやる……とな」

晶葉「本物のPの意識は、平行世界の中のPの中にすら入っていない。まるで神様のように、平行世界の中で駒を動かす存在にPはなったのだろう。いわゆる、明晰夢のようなものだ」

まゆ「ある程度自分の思ったことが実現する夢のことですよねぇ? 前に調べたことがあります」

晶葉「そうだ。Pは、夢の中に閉じ込められていると言ってもいい」

晶葉「それでだな、P、君の正体だが」

晶葉「……今までご苦労だった、P――いや、P‐492Mよ。君は、Pの自我が消滅するまでのPの記憶を搭載したロボットだ。Pの不在を隠すために造った、偽物なんだ」


P「……っ」

P「そう、か……俺は偽物なのか」

晶葉「君の中の意思と呼べるものも、本物のPの記憶から導き出されうるものに過ぎない。つらい思いをさせたな」

P「いや……何か知らんが、妙に落ち着いてる」

P「偽物だから、なのかな。自分が目の前で寝てる状況で、どうやって疑えって言うんだ」

院長「お話の途中すみません……装置の準備が整いました」

晶葉「ありがとう、手間をかけさせたな」

まゆ「……あの、」

まゆ「本物のPさんは、今どういう状況なんですか」

院長「……長い夢の中にいます。緩慢な夢の中に。彼の五感は、ひどく退化してしまっています」

院長「夢の中では、現実世界にいるよりも時間がずっと遅く流れます。彼は今、夢の中で八十年近く過ごしているのです」

晶葉「肉体に異常はなくとも、精神だけが刻々と時間を刻み、Pを老い衰えさせていく。Pの精神は、着実に死へ向かっている。そしてPの精神が死んだとき――すなわち夢の中で老衰による死を迎えたとき、Pは死んでしまう」

P「ノーシーボ効果――晶葉、お前が教えてくれたな」

晶葉「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わないか。私もそう思う。私の判断でPを死に至らしめてしまうのなら、私はそれを止めなければならない。Pの死を、なかったことにしなければならない」

晶葉「だから私は、装置を造ったんだ。Pを眠りから覚まさせるための装置を」

院長「彼の容体はひどい。一般の患者に当てはめるとするならば……この現状は、脳死に近い。もしもそれを救う手立てがあるというのなら、病院が彼女を支援することに異論はなかった」

晶葉「神経に直接……脳に直接働きかける、視覚、聴覚、触覚、嗅覚が必要だった。Pに、本当の刺激を与えるために」

晶葉「味覚は、時間の短縮のためになくてもいいと思った。時間に猶予があるならば、造りたかったのだがな」

晶葉「八十年の中で鈍麻してしまった感覚に確かな刺激、意図せぬ刺激を与え、本来の世界を思い出してもらう。その刺激には、P‐492Mに蓄積された、Pの知らない記憶を使用する」

晶葉「ケーブルでPの装着している平行世界体感装置とP‐492Mとを繋ぎ、そして偽物の八十年の記憶のファイルを全て削り取る。これが成功しなければ、打つ手はもうない」

まゆ「それで造ったのが……この大きな装置なわけですか」

晶葉「ああ。理論は完成していた。だから、実験用のものと実践用の装置、同時進行で造っていた。私が完成させるべき最後の装置はこれだった。だが匂いに関してはまだデータがない……Pの死に至るスピードが速すぎた」

晶葉「もうなりふり構ってはいられないんだ。Pの脳波が消えてしまう前に、装置を使わなければならない」

晶葉「……良いだろうか、みんな」

晶葉「私の装置は、今この瞬間Pを救うのかもしれない。或いは、死なせてしまうのかもしれない。それでも、良いだろうか」

志希「……」

まゆ「答えられるはず、ないです……」

P「……」


P「……構わないぞ、晶葉」

晶葉「っ、」

P「俺は偽物だが、本物の俺と同じ記憶、生き方を持ってる俺が言うんだ。やってくれ。なんなら、俺がスイッチを押してもいい」

晶葉「いや……っ、これは、私の発明が引き起こした事態だ。私がやらなければならない」

晶葉「私は、科学者だ……っ」


ポチッ



P「……」ボソリ

―――
――


P(たくさんのアイドル達の笑い声が、微かに聞こえる)

P(でも、なんだか気持ちが高ぶらない)

P(頭に靄がかかったみたいで――)

P(もう何年プロデューサーをやっているんだろう)

P(毎日毎日、どこかで見たことのあるような日常の繰り返し)

P(それも、みんなの行動が手に取るようにわかる――俺がみんなを動かしているみたいな感覚さえする)

P(何のために生きてるんだ)

P(そもそも、生きるってこんなんだっけ)

P(ずっとこうやって生きてきたんだっけ)

P(こんな、なんの感覚も得られないまま――まるで、死んでるみたいに)

……ザザッ

P(ん? 今……)

P「なんだ……? 急に目が見えなく……っ」

―――

P「……ここは、事務所?」キョロキョロ

杏「おはよー」

P(杏……?)

P「おお、おはよう杏、来たな……なんか今日もやる気なさそうだな」

杏「いつものことじゃん?」

P(なんだ……何が起こってる)

杏「番組を盛り上げてる、って言ってよ」

P「だからって、答えのフリップにぐっちゃぐちゃの字で――」

……ザザッ

加蓮「こんな楽しいもの、手放すわけないじゃん?」エヘヘ

……ザザッ

紗枝「Pはん、そんな後ろから抱きしめはるなんて、そないなこと……」

紗枝「み、見んといてぇ……ぁ、や、ぁ……」

P「紗枝の顔、やばいくらい赤いけどほんと大丈夫? ポンコツになったりしない?」

……ザザッ

凛「き、気付かれないようにって……い、いらっしゃいませぇ――って、え!?」

P(なんだ、これ、こんなの見たことがない)

P(俺は知らない、こんな、)

P(いつも通りのはずの杏のこんな表情も)

P(紗枝と凛のこんなとろけた表情も)


……ザザッ


ちひろ「人の夢と書いて儚い……なんだかよくわかった気がします」

P(こんなに目の座ったちひろさんも)


……ザザッ


P『ちひろさんは終始目が濁ってたし、その分のフォローも夜のうちにやっとかないと』

P(俺自身の、こんな言葉さえも――俺は、知らない)

P(なのに――なのにどうして、こんなに、懐かしい感じがするんだ)

P(知らない、見たことのない映像のはずなのに)

P(……ああ、そうか。アイドルの表情も、声も、匂いも、その全てが新しいから)

P(だから、懐かしいんだ)

…………ザザッ

晶葉「理論さえ完成で切れば、今の私は満足だ」

志希「その言葉、そっくりそのままキミにお返ししちゃうよ?」

まゆ「ええ、あなたの、まゆですよ」


…………ザザッ

晶葉「獅子座の星、レグルスという星を知っているか?」

P(レグルス……)

P(そうだ、知っている。星は知らないけど、その言葉なら、俺は)

P(キクイタダキの別名だ。小さな王。俺は知っている)

P『小さな王、だ』


…………ザザッ

P『俺は偽物だが、本物の俺と同じ記憶、生き方を持ってる俺が言うんだ。やってくれ。なんなら、俺がスイッチを押してもいい』

P(偽物……? で、俺が俺の前に横たわってる……)

P(偽物の俺、本物の俺……そして、晶葉のもつスイッチ)

P(もしかして、俺は……ずっと、偽物の世界の中にいたのか)

P(俺は、ずっと……平行世界の中に、)

P(助かったふりをして、めちゃくちゃな理論を頭の中で組み立てて――)

晶葉「いや……っ、これは、私の発明が引き起こした事態だ。私がやらなければならない」


P(……偽物の俺がいる、本物の世界)

P(それはきっと、本物の俺がいる偽物の世界よりも、ずっと、楽しさに溢れているんだろう)


晶葉「私は、科学者だ……っ」


P(でも……偽物の俺は、それで納得するんだろうか……?)

P(きっと死にたくないって――)




P『おい、』



P(!?)


P『絶対に帰って来いよ、俺』


P(――――ッ!!)




………………ザザッ


P「……ぅ、」

晶葉「目が覚めたか! おいP、聞こえるか!?」

P「…………晶葉」

晶葉「そうだ、私だ……!」

志希「やった、成功?」パアァ

まゆ「……良かったです」グスン


P(帰ってきたんだな、はは……)

P「まゆも、志希も……来てくれたんだな、ありがとう」

まゆ「いえ、Pさん……ご無事で何よりです」

志希「志希ちゃんは全然気づけなかったけどね~ニャハハ」

晶葉「なあ、変なことを訊くようだが……目覚める前の記憶はなんだ?」

P「見たことも聞いたこともない映像が、流れ込んできた。その前は、凄く長い夢を見てた気がする……全然覚えてないけど」

晶葉「記憶の消去もうまくいった……良かった、Pを救えて」

P「ああ、ありがとうな」

P「……俺が平行世界に行ってから、どれくらい経った?」

晶葉「十二日だ」

P「その間、晶葉はよく頑張ってくれた。助けてくれてありがとう」

晶葉「……私の、せいだったから。もう科学者ではいられない」

P「晶葉の発明は完璧だった。こうして戻ってこれたわけだから」

晶葉「完璧なんかじゃ……っ」

まゆ「晶葉ちゃん……」

まゆ「完璧って言葉を発明した人は、きっと完璧なんかじゃなかったんです」

P「まゆの言う通りかもな。ただ俺は救われた。それがすべてだよ」

晶葉「P……っ!」ダキッ

志希「」

まゆ「」

志希「……大丈夫?」

まゆ「晶葉ちゃんには、Pさんを酷い目に遭わせた罪がありますが、それ以上にPさんを助けてくれた恩があります」

まゆ「……Pさんに抱き着いたって、まだまだおつりが来ますよ」

院長「……すみません、皆さん。これから彼の精密検査がありますので、言いにくいことですが、一度ご退室いただけますか」

P「そっか、いきなり仕事に復帰するわけにはいかないもんな」

晶葉「……精査、よろしく頼む」

院長「ええ、任されました」

晶葉「P、頑張ってくれ。君の帰りを待っている」

P「ああ、待っててくれな」


カラカラ…バタン

院長「……さて」

院長「一応お聞きしたいのですが、本当に体に異常はないですか? 隠していることはありませんか?」

P「ありません」

P(これは本心だ。少し力が入りにくいが、特に支障もない)

院長「そうですか、良かったです。彼女達を部屋から出す必要もなかったですな。では、検査室の方へ」

P「はい」ヨロヨロ


カラカラ…


院長「どうぞ……どうかしましたか、立ち止まったりなんかして」

P「あの」

P「晶葉の作ったこの装置はどうなるんですか?」

院長「彼女は、この装置は一度しか使えないと言っていました。回路に負荷がかかりすぎるためと。恐らく廃棄でしょう」

P「そうですか」

P(俺がさっきまで頭にかぶっていた、平行世界体感装置――)

P(それと繋がっていた、真っ黒焦げのヒト型ロボット……)

P「……みんなには迷惑かけたな。アイドルにも、ちひろさんにも――」

P「P、お前にも」

P(もう顔も何もわからないけど、きっとお前が、俺のいない間この世界を守ってくれたに違いない)

「……」

P「お前が、頑張ってくれたんだよな」

「……」ピシッ

P「お前が、助けてくれたんだよな」

「……」パキッ

P「ありがとう」


 ――バキッ ガコン… ガラガラ…ッ


P「お前は俺の偽物だったみたいだけどさ、」

P「でも、本物の、俺のお墨付きの、プロデューサーだったぞ」

P「……」

P「……じゃあな」


……カラカラ バタン




読んでくださりありがとうございました。
装置の設定や話の運び方、言葉の選び方に不満を抱いた方も多くいらっしゃると思います、本当に申し訳ございませんでした。
また何か書く機会があるかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いします。
本当にありがとうございました。

信者の方に「新スレあったの気づかなかったけど荒らしてくれたから気がつけたわ」と感謝されたので今回も宣伝します!

荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」

信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」

鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋

信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」

>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456676734/)


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