相葉夕美「傲慢な彼女の傲慢な優しさ」 (17)


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街角のビルにある大きなスクリーンから流れてくるアイドル卒業という話題。

それを横目に、フードを深くかぶった一人の少女は、拳を作りながら立ち尽くす。


彼女、夕美も今では立派なアイドルだ。

いずれスクリーンに映るアイドルのように卒業する日が来るだろう。

終わりのある偶像的存在。

初めから分かっていたこととはいえ、今の夕美には不安を煽るだけの酷なニュースだった。

三月の昼下がり。

蠢く人々をかき分けながら、今一番会いたい人の元へと駆け出す。


* * * *


「もうすぐ桜の季節だね。」

河川敷を歩く二つの影。

クリーム色の髪を靡かせながら、目の前にある一本の桜の木を眺め、切なさを思わせるような遠い瞳を見せる。

「どうしたの?」

隣でジッと夕美を不思議そうに見ていた周子は、今にも泣きそうな目をしていることに気付く。
夕美は目蓋を綴じ、深く息を吐いた。

「ねえ、シューコちゃん。桜の花言葉って知ってる?」


「え、えっと、ごめん、知らない…。」

唐突な問いに戸惑いを見せる周子。
花は好きだがガーデニングが趣味な夕美程までには詳しくない。
ましてや花言葉だ。

「染井吉野は純潔、枝垂桜は優美とごまかし、八重桜はしとやかと豊かな教養。あと、山桜は…」

すらすらと言葉が並ぶ中、最後に口を噤んだ夕美。
次の言葉を待つが一向に口を開かないどころか、下唇を噛み締め涙を浮かばせている。

「えっ、急にどうしたの!?」

あわてふためきながらもポケットに入っていた鮮やかなピンクの手縫いで、頬をつたいだした涙を拭う周子。

「ごめんね、シューコちゃん。ありがとう。」

ぐずっと真っ赤になった鼻をすすりながら周子を抱きしめる。
顔が見えぬよう、腰に手を回し周子の肩に顔を埋める。


「夕美ちゃん…?」

「…さっきの続き。山桜の花言葉はね、“あなたに微笑む”なんだよ。」

やっと顔を上げたと思えば、悲しそうに笑う彼女が居た。

「どうしたの、あたし今の状況がよくわかんないんだケド…。」

頬に手を添えながら涙を拭う。
泣いているせいか、紅潮した頬は熱を帯びている。


「桜って、春の花じゃない? まるで私たちみたいだなぁって。」

言っている意味がよく分かっていないのか、周子は黙ったまま夕美の言葉に耳を傾ける。

「偶然の出逢いから始まった関係で、いつか卒業してお別れをする。学校とかもそうだけど、特に私たちはアイドルって関係性だから尚更特別に思ったんだ。」

「夕美ちゃん…。」

「って言っても、さっき某事務所のアイドルの子が卒業ってニュースを見て現実味を帯びたんだけどねっ」


夕美が何を伝えたかったのかやっと理解した周子は、夕美を強く抱きしめた。

「皆との思い出もだけど、何よりシューコちゃんとの大切な思い出がたくさん詰まってるのに、卒業で笑えるわけないよ。」

再び涙を流しながら、夕美はいずれ迎えるであろう“卒業”のことを口にした。



ああ、そういう意味か。

周子は目の前の桜の木に視線を移した。


桜とは別れと出逢いの季節に咲く花だ。

夕美曰く花言葉も様々にあるが、いつか来るであろう別れに微笑むだなんて。

「大事な思い出なら、安っぽい“お涙頂戴”にはならないでしょ。それに、あたしらは一緒に居ればいいだけだよ。それで笑えばいーじゃん?」

周子は泣き続ける夕美の頭を撫でながら言った。

「…シューコちゃん…っ」

まるで子どものように泣きじゃくる夕美。

そんな夕美を余所に言葉を続ける。


「それにね、あたしは思い出の夕美まで愛すよ! ていうか、卒業とか拘ってないし! 連絡取るなり会えばいいだけだし!」

何も不安がることないよと、ニッて微笑んだ周子の笑顔に、夕美はまた涙を流した。



たった一つの、唯一の繋がりでも、別れを選ばなければいい。

お互いが特別だと思えているのなら、それは、計り知れない程の関係が築けているということ。

周子はもう一度夕美を抱きしめ、「だから桜の季節が来ても大丈夫だよ」と呟いた。



短いですが終わりです。

ありがとうございました。

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