京太郎「修羅場ラヴァーズ」爽「完全無欠のハッピーエンド!」 (1000)

・京太郎スレ
・短編集的、オムニバス的な感じです
・安価もあるかもしれない
・ヤンデレとかあるかもしれない
・話によって京太郎が宮守にいたり臨界にいたりするのは仕様です
・ライブ感は大事
・ネリー可愛い
・揺杏いえーい

まとめ
http://www62.atwiki.jp/kyoshura/


前スレ
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400743823/)
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 健夜「幸せな、お嫁さん」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」照「ずっとずっと、愛してる」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」姫子「運命の、赤い糸」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」明華「夢でも、あなたの横顔を」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」一「キミと一緒に、抱き合って」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」 淡「あーいらーぶゆー」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」憩「ナイショのキモチ」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」久「もうちょっと、近づいて」 - SSまとめ速報
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」憧「気が付いたら、目が合って」 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455809179

とりあえず今夜はここまででー
いくつか小ネタ書いたらhtml依頼出します
それではお付き合い感謝でした

京太郎「好感度測定器……?」

ハギヨシ「ええ。異性限定で他人からの好感度が測定できるとか」


見た目はタブレットのようで。

測定したい相手の名前を画面に入力すると自分への好感度がわかる、とのことだが――。

咲 99999/100

和 99999/100

優希 99999/100

まこ 99999/100

久 測定不能/100


京太郎「……」

ハギヨシ「……」

京太郎「あの、これ……」

ハギヨシ「すいません、ちょっと急用を……」

京太郎「いやいやいや」

愛されてるな~(白目)

ハギヨシ「まぁ……試作品ですので」

京太郎「で、ですよね。こんなん嘘っぱちですよね!」

ハギヨシ「……」

京太郎「いやそこで黙らないでくださいよ」


ハギヨシ「まあ、それはさておき。数値以外でも様々なものが分かるようになっているんですよ」

京太郎「はぁ」

ハギヨシ「画面右上のステータス、というところを押してみてください」

京太郎「えっと、これですね」


ピッと軽い音が鳴り、画面が更新されると――。

咲 99999/100 爆弾

和 99999/100 爆弾

優希 99999/100 爆弾

まこ 99999/100 爆弾

久 測定不能/100 ■$、クぁ■■


京太郎「……」

ハギヨシ「……」

京太郎「爆弾って、なんですか」

ハギヨシ「爆弾です」

京太郎「いやだから」

ハギヨシ「爆弾です」

京太郎「……あの、部長のコレは」

ハギヨシ「……」

京太郎「……」

部長、愛に悪待ちは無いから(京太郎が運ばされた荷物を見ながら)

ハギヨシ「ちなみに、爆弾は他の女性と二人っきりで遊んだりすると点火します」

京太郎「点火……」

ハギヨシ「そして、爆発すると――」

京太郎「好感度が下がるんですか?」

ハギヨシ「はい。他の女性への好感度が」

京太郎「……他の、女性?」


ハギヨシ「あの女さえいなければ――という状態になりますね」


京太郎「あの、それって互いに爆発したら」

ハギヨシ「勿論。倍率ドンです」

京太郎「……」

ハギヨシ「爆弾ですから、解体することもできますが……」

京太郎「マジですか!」

ハギヨシ「ええ。爆弾状態の女性に構ってあげれば」

京太郎「……それって。他に爆弾状態の子がいたら」

ハギヨシ「爆発します。当たり前のように」


京太郎「……」

ハギヨシ「……」


京太郎「俺、転校します」

ハギヨシ「歓迎しますよ?」

小ネタ安価下3

果たして、今の状況はハーレムと呼べるのだろうか――と首を傾げる時がある。

飛行機での長旅を終え、凝り固まった首をぐりぐり回しながら京太郎はパリの空港に降り立った。

最早聞き慣れたフランス語のアナウンスを耳にしながら、電光掲示板の時刻を確認する。

待ち合わせの時間まであと一時間。

新聞でも読みながら待つかと鞄を開くと――唐突に、強めの風が頬を撫でた。


「Mon chéri!!」


続いて、頭上から女の声。

やれやれと苦笑を浮かべ、それでも愛しい女を迎えるべく、京太郎は両手を広げながら顔を上げた。


「Ma chérie――ただいま、明華」

傘を開き、風に乗って舞い降りる――そんなメルヘンチックな登場をした女性。

空港の中だというのに、一目をまるで気にせず愛する人に抱き付く彼女。

彼女こそ、風神と名高い女子プロ雀士であり――京太郎の妻の一人である、雀明華だ。


「あぁ……」


トレードマークの白い傘を放り投げ、京太郎の胸に頬ずりをする。

深く息を吸い、熱い吐息を零す。

彼の匂いを堪能し、自分の匂いを擦り込むような仕草。


彼女の想いに応えるように、京太郎は明華の頭を優しく撫でた。

さらさらと指の隙間を流れる髪の感触が気持ち良く感じる。

「あぁ、まるで夢のよう……」

「大袈裟。今回は二カ月はこっちにいられるから」

「……二カ月しか、です。次はグルジアに行ってしまうのでしょう?」

「……」


両想いの二人でも、触れ合える時間には限りがある。

彼の仕事の都合と、彼女『たち』との約束。

二人を阻む壁であり、二人を結びつける橋。

こんな歪な関係が出来てしまったのも、全ては京太郎が最善の選択を選べなかったからであり――


「ええ……時間は無駄には出来ません。行きましょう、ホテルをとってあります」

「マジかー……」


――と、物思いに耽る間もなく。

京太郎は、明華に引き摺られるように空港を後にした。

『彼の笑顔は見たいけど、他の女は必要ない』

『目の前で彼に擦り寄る女がいれば我慢できない』

『つまり。目の前に彼だけがいればいい』

『だけど。彼の悲しい顔は見たくない』

『だったら。国境さえ越えてしまえば』


そんな彼女たちの望みを出来る限り叶えた形が、今の関係。

彼は国を渡り、彼女たちは彼を待つ。

決められた時間の中で愛し合い、それが終われば次の時を待つ。


彼女たちの出した結論を、京太郎はただ受け入れた。

もう少しだけ彼に器用さか一途さがあれば、未来は違った形になったのだろうけれど。


「愛しています、あなただけを」

「あぁ――俺もだよ」


愛した女の熱と重みを受け止めながら、京太郎は微笑んだ。

微笑むしか、なかった。

ハーレムものでよくある『今日は~の日」を国境レベルにした話


小ネタ安価下3

「帽子とかサングラスとか。あと厚手の服とか。それだけで意外とバレないんだよ?」


イタズラっ子のように、彼女はわらった。

確かに、意外とバレないものだ。

自嘲するように彼も笑って、薬指の指輪を鞄にしまった。

「元気ないぞ☆ せっかくお忍びで来てるんだし、もっと楽しまなきゃ」


めっ☆と彼女は指を鼻先に突き付けるが、自分はそれどころじゃない。

この状況を楽しめるほど厚顔ではなく、図太くもなければ色ボケでもない。


「もー……そんな顔してると、みんなにバラしちゃうよ?」


……それは、ダメだ。

この『旅行』に来た意味がなくなってしまうし、『あの子』を傷付けてしまう。

それに、彼女だって破滅を迎えることになるだろう。


「んー……別に、それでもいいよ? 君が手に入れば、それで」

「キミとあの子の関係。瑞原はやりとキミのこと関係。あの子と瑞原はやりの関係。
あは――みーんな、ヒミツだらけだね☆」


彼女の業界での力は絶対的で、あの子の夢の妨げにも後押しにも成り得る。

そして、どちらに転ぶかは自分の行動次第なのだ。

だったら――選択肢なんてどこにもない。

この状況を利用してやるだけだ。


優しげな表情をわざとらしく作り、はやりの手を握る。

「はゃ?」


惚けた様子のはやりの手を引いて、演技感をたっぷり込めてこう言ってやる。

"何ボーッとしてるんですか? せっかくお忍びなんだから楽しまないと"

すると。

彼女は一瞬だけあっけに取られた顔になって。


「あは……あはっ☆ そうこなくっちゃ☆」

そうだ。

コレは、仕方のないことなのだ。

あの子を、瑞原はやりから守るために。

瑞原はやりを、味方につけるために。

仕方のないことなのだと、自分に言い訳をする。


あの子への裏切りで締め付けられる胸の痛みに耐えながら。

――心のどこかで、この状況を愉しんでいる自分に目を背けた。



【有珠山編ifルート】

小ネタ安価下3

「俺、先輩のこと好きだ」


ぽつりと、京太郎が言葉を零した。

ぽろりと、女子部員の手から牌が溢れた。

それは、無意識のうちに漏れたものだったのだろう。

女子たちの間で凍り付いた空気などまるで気にせず、京太郎はプリントの束を纏めている。


「須賀くん? い、今のはどういう……?」

「え? 何か言いました俺」


竜華は瞳孔が開くレベルで京太郎を見つめ。

怜は気怠げに目を細め。

フナQは眼鏡を光らせ。

泉は灰になった。


反応の差はあれど――千里山の主力メンバーは、京太郎の一挙手一投足を見逃すまいと目を見開いている。

麻雀部としては不幸な事に、顧問と監督は不在。

落ち着かない彼女たちに活を入れる存在がいないため、落ち着かない空気は部活が終わるまで続いた。


ちなみに。


勝ったなと言わんばかりの態度で胸を強調するように腕を組む竜華。

ささ、と髪を整えたりスマホを手鏡に身嗜みをチェックする怜。

ぶつぶつと高速で何事かを呟くフナQ。

集中放火で飛ばされ続けた泉。


このように、彼女たちの反応も様々であった。

そして、部活が終わりを迎えた時。

異口同音に、彼の真意を問いただそうとした瞬間に――。


「じゃ、俺用事あるんでっ!!」

「え、ちょっ!?」


鞄を引っ掴み、京太郎は風の如きスピードで部室を飛び出した。

腐っても元ハンドボール部のエース、彼が本気でロケットスタートを決めたら誰も追い付けない。

竜華が伸ばした腕が、虚しく宙をさ迷った。

京太郎が向かう先はただ一つ、三年のとある教室。

恥も外聞も無く、無作法に閉じられた戸を開く。


「せんぱーいっ! 江口せんぱぁあーいっ!!」

「おぅっ!? 何やいったい!?」


京太郎の視線の先。

そこには、クラスの用事で部活に不参加だったセーラが面食らった顔で座っていた。

周りのクラスメイトも目を見開いてビックリしている。


「せんぱーいっ! 好きだぁーっ!!」

「んなっ!?」

意味不明な不意打ち。

脳が理解に追い付かず固まるセーラ。

京太郎は、その間にずんずんと大股でセーラの元に歩みを進め、


「先輩、借りてきますね」

「え、あ、どうぞ……」

「え、おま」


勢いよく。

魔王が姫を掻っ攫うかの如く。

セーラを、お姫様抱っこで抱き上げた。

「おま、何のつもりや!?」

「何でしょうね――でも!!」


セーラを抱き上げたまま、京太郎は全速力で廊下を走り、階段を駆け上る。

一方の彼女、セーラはあまりの事態に抵抗する事も忘れていた。

だがまぁ――微かに緩んだ口元と、真っ赤になった頬。

彼女のこの反応も、また。

やがて二人は、屋上へ辿り着く。

完全に無計画な行動だったが、運良く扉は開いていた。

京太郎は沈む夕日と、茜色の空を決意の宿った瞳で見上げて――。


「せんぱーいっ! 江口セーラせんぱーいっ! 好きだーっ!! 俺と、俺と――むぐっ!?」

「やかましいわボケェッ!!」


京太郎の腕に抱かれたまま、セーラが手を伸ばし、大きく開いた口を摘むように塞ぐ。

不意打ちに対応しきれず、これには押し黙るしかなく。


「オレも――オレも好きや! 大好きやっ!! 愛しとるわ、こんのバカタレがぁーっ!!」

京太郎に負けず劣らずの大声量。

校舎を超えて、校庭の隅まで響き渡る未成年たちの主張。

学校から帰ろう、としていた生徒たちも足を止めざるをえない。

他の生徒たちにしてみれば、まるで意味がわからない。

なんせ、当の本人たちもわかっていないのだから。

しかし、まぁ。


「好きだぁーっ!」

「好きやあーっ! 京太郎ぉーっ!!」


それはきっと、幸せなことに間違いはないのだろう。

江口セーラ大勝利! 希望の未来へレディ!ゴー!!

小ネタ安価下3

東京都内の、とある屋敷。

その中の、二十畳はあるだだっ広い和室。

エアコン完備、最新のパソコンもあり、男子高校生が好みそうな漫画や娯楽品も全て揃えてある。

ただ一人で暮らすには十分過ぎるほどに快適と言えよう――部屋を囲む木製の格子を除けば、だが。


「……」


そんな部屋の真ん中で敷かれた布団に寝っ転がって。

京太郎は、ただぼんやりと木目の天井を眺めていた。


もう、何日も外の景色を見ていない。

ここにあるのは、何の慰めにもならない娯楽品と。


「~♪」


一人の、狂った女だけだ。

彼女は何が楽しいのだろうか。

頬杖をついて、ニヤニヤと此方を眺めている。


「何が欲しい? 何でもあげるよ、きょーちゃん」

「……」

「~♪」


京太郎は、答えない。

答えても無駄だから。


「~♪」


食事に一服盛られ、気付いたらこの部屋にいて。

それからずっと、この部屋から一歩も出られない。

ペットか何か、飼われている希少動物のような扱い。


彼女が変わらない限り、きっとこの部屋は変わらない。

「さて、と」


やがて、彼女はこの状況に飽いたのだろうか。

ゆっくりとした仕草で立ち上がると、京太郎に背を向けた。


「それじゃ、また来るからねぃ。いい子でまってろよー?」


名残惜しげに振り返り、手を振る彼女。

そんな彼女に、京太郎は――。


選択肢 下3
1 背中を向けて、寝っ転がった
2 「……俺は、ペットかよ」
3 その他

「……」


彼女の言葉に応えず、背中を向けて寝っ転がった。

何も変わらない。外に出られないのも、彼女に言葉が届かないのも。

変わるとすれば、それは京太郎が諦めた時。

何もかもを彼女に委ね、自分の意思すら投げ捨てた時。

その時こそが、彼の終わりで彼女の始まり。



彼女は、焦らない。

ただひたすらに、ゆるりとその時を待ち続けるだけだ――。


【never end】

咏って顔立ちとかはあんまロリっぽくないと思う
ちなみに2を選んだら裁縫end


小ネタ安価下3

結局のところ。

誰が、悪かったんだろう。

導いてくれる監督、支えてくれる後輩。

この二人あってこその自分だと、末原恭子は認めている。

恩義、信頼――恥ずかしいから口にはしないけれど、胸を占める温かな想いは彼女をいつも奮い立たせてくれる。


なのに。



「京太郎……んっ」


寄り添い、重なる二つの影を見た瞬間に。

まるで、全てが閉ざされたような気がした。

扉の隙間から覗く光景に酷く胸を痛めながら――それでも、目を反らせず。


「なんや、これ……ぇ」


京太郎は恭子の恋人でもなんでもない。

善野も、恭子の恩師ではあるがそれだけだ。

なのに――。


「――裏切られた。そう思う?」

耳たぶを嬲るような声音に、思わず肩が跳ねる。

大声を上げてしまいそうになるところを、辛うじて口を押さえた。


「……代行」

「これでも、ちゃーんと……みんなのことは、見とるんよ?」


いつから背後にいたのか。

いつものように目を細めて、静かに郁乃が立っていた。

「罪な男やねー。須賀くんも」

「……アイツは、そんなんじゃ」

「そう?……なら」



「私が、須賀くんをとっても――ええんやな?」


「……」

「ゆーっくり。じーっくりでええよ?」


郁乃の指が、恭子の頬を撫でる。

幼子をあやすように。

出来の悪い生徒を、導くように。


「答えが出たら……ね?」


恭子は、ゆっくりと深呼吸をして。

静かに、頷いた。

燃ゆる命の嵐を胸に戦うときだ叫けぶぜ


小ネタ安価下3

それは、月の綺麗な夜だったと思う。



「私も」


肌蹴た着物から露出した肩や、太腿の白さ。

頬を朱に染める、興奮と羞恥心。

プライドも倫理観も捨てて、俺を求め手を伸ばす。


「思い出が、欲しいな」


その姿も、心の内も。

久しぶりに再会した彼女は、少女とは呼べなくなっていた。

翌日。

恋人と二人並んで、旅館の入口で振り返る。


「次に来る時には、苗字も変わってるかな?」

「お、おう。多分な」


杏果の台詞で、恋人が照れたように頬をかく。

まぁ確かに、次に二人でここに来る時は彼女も須賀性に変わっているだろう。

いや、もしかしたら二人だけではなく、もう一人か二人か増えているかもしれない。


「それじゃ……また、ね」


そんなこちらの考えを、果たして杏果はどこまで読み取っているのか。

実に楽しげで、穏やかに手を振っている。


「ああ……『また』な」


それに応えるように、俺も手を振り。

恋人と手を繋ぐと、ゆったりとした足取りで旅館を後にした。

シノハユ編を書くなら多分どう書いても閑無ルートになります
学生時代のほろ苦い思い出を振り返りながら、閑無とくっついた京ちゃんが色んな女にちょっかい出される話を書きたい


次に書くのは多分宮守短編
ヒロインエイスリン。小瀬川京太郎
もしくは有珠山で何かの短編
または何か思いついたら書きます

京太郎「淡中毒なんですよ、俺」

菫「そうか――帰れ」

部長の睨みもどこ吹く風。

膝の上に淡を乗せ、抱きかかえる京太郎。

なすがままに京太郎の腕の中にすっぽり収まり、熟睡中の淡。


京太郎「いやいや部長。だって、淡ってすげぇやわっこくてあったかくて髪の毛ふわっふわでイイ匂いで」

菫「そうか。大変だな。帰れ」

淡「うへへぇー……すぴすぴ……」


どこから、どうしてこうなった?

冷たい視線と口調もまるで意に介さない。

馬鹿につける薬はなく、バカップルへの処方箋はない。

なんとなくコメカミをおさえ、菫は深く溜息をついた。

「私ね、きょーたろー中毒なんだ」


花のように、太陽のように。

穏やかな微風に、長い金髪をふわりと広げて、少女は笑った。

「きょーたろーってスゴイんだよ。麻雀は弱っちいけど」


「スゴくあったかくて気持ちよくって。がっしりしてて」


「こう。胸の奥から、ふわーってあったかくなるの」


目をキラキラ輝かせ、少女は語り。

でもね、と寂しそうに笑う。


「きょーたろーがいないと、さむい」


「厚着しても、布団被っても、ガタガタが止まらないの」


「いないとか、ムリ」


自分の長い髪を、両手に取って。

笑みを浮かべたままに、首に髪を巻き付ける。


「死んじゃうかも。こんな感じで」


「だから。ずっと」


「ずーっと、そばに、いてね?」

唐突にキャラ募集(清澄勢除く)

レスありがとうございます
とりあえず挙げられたキャラから大学生編的なもの書こうと思います
全員は流石に拾えないのでご容赦をー


宮守短編は書いてて詰まったのでまたの機会に

4月1日、入学式。

新入生たちは新たな生活に期待と不安を抱き、在校生は先輩になる。

新たな出会いに、少年少女たちは胸を震わせる――


爽「ドロツー」

誓子「ドロツー」

由暉子「ドロツー」

揺杏「ドロツー」

京太郎「ドロフォー」

成香「ドロフォー」

爽「………………………………」



――が。

ここ、有珠山麻雀部ではいつも通り。

麻雀卓をよそに、卓上ゲームを繰り広げていた。

爽と誓子はOBとして。

京太郎たちは上級生になりながらも、今まででと変わらないノリで卓を囲んでいた。


由暉子「……それにしても。いいんでしょうか」

成香「全国大会出場校が、初日から……」

揺杏「んー。でもなぁ……」


チラリと横目で自動卓に目を向ける。

『故障中。触るな』の張り紙と、可愛らしいライオンのイラスト。

真屋家から提供された古い自動卓は、ちょうど昨日からその役目を終えたようにうんともすんとも言わなくなった。


爽「きょーたろー、なんとかなんない?」

京太郎「ムリ言うなって」

誓子「まぁ……仕方ない、わね」


緩く、のんびりと。

第三者から見たら、とても全国大会出場校とは見えない部活動風景だが――これが、有珠山麻雀部の日常である。

変わらないメンバーに、変わらない日常。

安心感もあるが――少し、退屈を感じるのも事実。

ほんの少しばかり――少年、須賀京太郎の中に悪戯心が芽生えるのも仕方がないことだろう。


京太郎「……なあ、みんな」


ゲームがひと段落したあと。

京太郎は出来うる限りの真剣な表情を作り、みんなに声をかける。


揺杏「おー、なんだなんだー?」

爽「似合わない顔してんなー」

成香「……」ゴクリ

由暉子「?」

誓子「はぁ……」


反応は様々。

さて、次の京太郎の台詞は――


京太郎「実は俺、>>194のことが――」

誓子

京太郎「誓子のことが――」

誓子「嘘、ね」


一瞬で切捨てられた。

食い気味に、最後まで台詞を語ることもできず。

今日がエイプリルフールだと、誓子は京太郎が話を切り出した時から気付いていたのかもしれない。


京太郎「いやいや、最後まで聞いてくれよ」


だが、京太郎はメゲない。

これしきで挫けていては、彼女たちと幼馴染なんぞやってられない。


誓子「……」

京太郎「ずっと考えてたんだ、誓子のこと」

京太郎「誓子が卒業してから、ずっと寝れなくて――」

誓子「はいはい。嘘ばっかりね」


はあ、と呆れたように溜息。

取り付く島もない。


誓子「だって、あなた。昨日は夜9時の24分には寝てたじゃない。ご丁寧に瑞原はやりの曲をアラームに設定して」

京太郎「……へ?」

誓子「朝5時にアラーム前に起きたかと思ったら二度寝するし」

京太郎「え、いや」

誓子「一昨日なんて夜中の2時に起きたかと思えば夜食にカップ麺なんて」

京太郎「あ、あの」

誓子「しかも、その後は……その、アレ、だし。由暉子の写真で――」


まるで、目の前で見てきたように語る誓子。

最後にポッと頬を染める彼女に、京太郎は言葉が出ない。

ちなみに、彼女の言葉に嘘偽りはなく――全て、真実である。


京太郎は引いていた。

爽たちも引いていた。

由暉子だけは、何故か少しドヤ顔だ。


誓子「――で、これで? いつ、私を想って眠れない夜があったのかしら」

京太郎「……ゴメンナサイ」

誓子「ちなみに。エイプリルフールで嘘をついていいのは午前中だけって、知ってた?」

京太郎「え、マジで」

誓子「ええ――だから、お仕置き……ね?」

京太郎「いや、ちょ――!?」

たすけて、と視線を爽たちに送ったら。

ごめんね、と返答と一緒に全身を巡る痺れ。


京太郎(ちょ、爽――!?)

爽(うむ、式には呼んでくれ)


誓子「そうね。その嘘、ほんとにしましょうか」

京太郎「――!?」


――藪を突いたら、アナコンダに呑み込まれた。

後日、幸せそうにお腹を摩る誓子の隣で、京太郎は泣いた。

京太郎「俺、実は女なんですよ」

爽「へぇ、そうか――パウチカムイ」

京太郎「あの……爽さん? 何故服を?」

爽「そりゃ、風呂入るには服いらないし」


京太郎「あの、爽さん? 何故、俺の服に」

爽「そりゃ、一緒に入るんだから脱がないと」


京太郎「あの、爽さん? 俺……」

爽「女、だろ?」


京太郎「あの、爽さん――」

爽「あは」


爽「実は私、男なんだ。据え膳はいただかないとな」

――エイプリルフール、終了。


爽「私たち、結婚しました」

京太郎「うぅ……」

「お父さん」と、目の前の見知らぬ少女は言う。

「お前など知らぬ」と、少年は答える。

「認知してくれないの」と、少女は目尻に涙をためる。

「洒落にならぬ」と、少年は答える。



少年は天井を仰ぐ。

この状況、即ち――詰みである。

泣く女に理屈は通じない――というのを何となく、京太郎は身をもって理解した。

目の前の白髪の少女、小瀬川白望は自分のことを「おとうさん」と信じている……らしい。

泣いて縋り付く少女に、焦る少年。

端からこの場を見たら、所謂修羅場というものに見えるのではないか。


変な風に追い付いてきた頭を抱え、京太郎は考える。

この状況を、どうにかして切り抜けるには――


「シロー? 何してんのー?」

「あ、トヨ……」


――この、瞬間だ。

「じゃこれで!!」

「あ……」

「え?」


三十六計、逃げるにしかず。

理屈の通じぬ相手に理解を通す必要なし。

少女の意識が自分から離れた瞬間、京太郎は全力でこの場から離脱する。

ハンドボール部で鍛えられた足には、反射的に伸ばされた少女の手も届かない。


「おとうさ――」


解決にはなっていないが、自分一人では多分解決できない問題。

あとで部長にでも相談しようと、京太郎は全力で廊下を駆け抜けた。

廊下を走り、階段を駆け上り、足を止めて一息つく。

ただ離れることだけを目的に考えず走って来たが、これだけ距離を取ればあの少女も追っては来れないハズだ。

安心して」乱れた息を整える京太郎だが――彼は、忘れていた。


「あーっ!!」


一難去ってまた一難、という言葉を。

甲高い大声。

京太郎はその声に振り向く暇もなく、唐突な衝撃に押し倒され、冷たい床から背中に伝わった痛みに呻き声を上げた。


「ぐぇっ……!?」


目をパチクリしながら、衝撃の正体――倒れた自分に跨がる少女を見る。

ふわりと広がる金髪、鼻をくすぐるいい匂い、白い制服。

瞳をキラキラ輝かせ、マウントポジションをとったまま、少女は――


「パパーッ!!」

「……え゛」


――京太郎を見つめ、そう、言った。

尚続かない
あとほんのちょっとだけ大学編

小学生くらいのころまでは、『ハタチ』という響きに特別なものを感じていた。

20才からオトナの世界、自分から見ればとてつもなく遠い世界。

そんなものは幻で、ただの錯覚でしかなかった。


「くかぁ……」


少なくとも。

缶チューハイ片手に、半開きの口から涎を垂らす彼女からは、『オトナ』を全く感じ取れない。

やれやれと溜息をついて、京太郎は彼女の背中に触れる。


「おーい、風邪ひくぞー?」

「う……うぅ……ん…」


ゆさゆさと揺するが、返答は呻き声だけ。

アルコールで朱に染まった頬には、色気も何もない。

京太郎は彼女を起こすのを諦め――出来るだけ優しく、彼女を抱きかかえた。

寝るなら机ではなく、ベッドの上で。


自業自得と放置してもいいが、自分の恋人相手にそれは流石に薄情が過ぎるというもの。

この調子だと、二日酔いに苦しむ彼女の姿が容易に想像できる。

サークルに顔を出すどころか、出席すら難しいのではないだろうか。

そうなれば、完全に彼女の自業自得である。


「……俺も自主休講かな、コレだと」


が、京太郎はそんな彼女が放って置けない。

惚れた弱みというヤツである。


京太郎は再度溜息をつき、天井を仰ぐ。

『オトナ』とはもっと格好良くて、『レンアイ』とはもっと甘酸っぱい。

小学生くらいのころに抱いていた、幻想。


だがまぁ――現実は、この通り。

アルコールの匂いに顔を顰めながら、京太郎は部屋の電気を消した。

というわけで大学編微妙にスタート
大学編は初期から恋人います
安価はあったりなかったりします

「パパ~#9829;」


ぎゅーっ、すりすりと。

見知らぬとはいえ、美少女相手。

問答無用でダダ甘えをぶつけて来る女の子。

柔らかい感触やら、心地よいあたたかさやら、ふわふわの髪から伝わる良い匂いやらで。


「……ああ」


――俺、もうパパでいいんじゃないか?

京太郎は、そう思った。

心身共に疲れ、混乱していた。

「ねね、ぱぱー」

「あぁ……」


――おお、なんだい我が娘よ。

ああ、そうだこれからお昼に牛丼とかどうだ?

よーしパパ特盛頼んじゃうぞ――


「久しぶりに一緒におフロはいろっ!」

「えっ」


京太郎は、現実に戻った。

「どしたの? 前みたいに――」

「いやいやいや」


前ってなんだ、前って。

京太郎は頭を振り、上体を起こすと金髪少女を脇に退かした。

キョトンとした顔が可愛らしいが、とりあえずこう言わねばなるまい。


「まず、俺はお前のパパじゃない」

「え」

「第一、初対面だろ。俺たち」

「……ぇ」

少女の表情が曇る。

天真爛漫だった態度が一変、捨てられた子犬を想起させるが――それに流されてはいけない。


「ぱ、パパ……?」

「だから、パパじゃないの」

「で、でも。そっくりだし、金髪も……」

「金髪ってなんだよ金髪って。そんなんで親子になるなら――」


辺りを見渡すと、ちょうど少し離れたところに金髪の少女。

確か彼女は――龍門渕透華。

この件においてまったく関係はないが――まったく関係がないから、こそ。


「あそこの人だって、俺の娘ってことになっちゃうだろ」

「え!? パパ浮気したのっ!?」

「なんでだよ!!」

認知とか浮気とか、まともな恋も知らぬ高1男子には話が重過ぎる。

詰め寄る少女をあしらおうとして、上手くいかず。

ぎゃいぎゃいと、周りを顧みずに少女と騒ぎ。

ふと、背後からシャツをくいと引かれて、振り向かされた。


「……あなた」

「あ、えっと」


少し、騒ぎ過ぎたか。

振り向くと、さっき話に出した龍門渕透華が京太郎のシャツの裾を引っ張っていた。

すいません、あやまるべく京太郎は口を開き――



「お、お父様……!?」

「な゛ん゛でだよ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛!゛」


京太郎は、叫んだ。

嫌な奴に違いない。みんながそう言ったから。

悪い事をしてるに決まってる。みんながそう言ったから。


「だったら、なんだよ」


そうして欲しいんなら、そうしてやるよ。

お前らが、そうしろって言ったんだから。

清澄優勝から、数日後。

ある一人の男子生徒から、こんなことを言われた。


――あれ、お前って麻雀部だったの?


その時は苦笑した。

確かに自分は戦力的な意味では麻雀に貢献していない。

実力的にも、初心者に毛が生えた程度である。



「そうだよ、唯一の男子部員だぜ」


苦笑しながら、そう答えた。

胸の奥底で引っかかるものに、気付かないフリをして。

――ねえ、知ってる? 須賀って――。


妙な噂話。

ひそひそと陰で話す女子の声。

あまり質の良いモノではない。


無名の零細部からインターハイ優勝を成し遂げた清澄麻雀部には、様々な噂がある。

根も葉もないものから、わりと的を射ているものまで。

その中には、京太郎を小馬鹿にするものもあったが――京太郎は、それに気付いていながらも無視をした。

人の噂も七十五日。面倒だった。


名前も知らない奴らと話をして噂を晴らすよりは、下手な麻雀の練習でもしていた方がまだ建設的だ。

曰く、「須賀が麻雀部にいるのは女子が目的」

曰く、「須賀が麻雀部にいるのは弱味を握られてるから」

曰く、「須賀は麻雀部でドレーのような扱いをされている」


……よくもまあ、こんな妄想を噂に出来るものだと思う。

誰が流しているのか不明な噂、相手するだけバカらしい。

京太郎はただ全てを、苦笑で流す事を選んだ。


それが、間違いだったと気付くのはずっと、後の話だ。

数日後。


「はぁ……」


京太郎は、疲れていた。

噂と視線は、少しずつ少年の精神を削っていく。


「京ちゃん、大丈夫?」

「……なんでもねーよ。寝不足なだけだから」


心配そうにする幼馴染に適当な言い訳をしながらレディースランチを口に運ぶ。

部長が大学進学への準備で部活に顔を出せず、人手が足りない清澄麻雀の現状。

それを考えれば、部員に余計な心労を負わせたくなかった。

少年の間違いは、見栄と余計な気遣い。

少女たちの間違いは、何もしなかったこと。



「……?」


それは、ある日の放課後。

部活に行く前に、名前も知らない上級生に呼び止められて。


――ヤッたんたろ? 竹井先輩と。

――どうだったって、聞いてんだよ。


彼らにしてみれば、軽い気持ちで。

『竹井久がカラダを売った見返りに、京太郎を労働力にしている』

そんな噂の真偽を、確かめているにすぎない。


だが、しかし――あまりにも、間が悪かったちの

京太郎は、疲れていた。

余裕が、なくなっていた。

そんな時に、下卑た視線と口調で。

自分を、麻雀部に誘ってくれた部長を。

優勝した時、本当に嬉しそうにしていた部長の。


――竹井先輩、色々ヤッてるって話だし――



上級生の言葉は、続かなかった。

言葉を言い切る前に、殴り倒されたからだ。

瞬間的に頭に血が昇った。

つい手が出てしまった。


――な、てめ!

――須賀が、あいつがっ!


HRと部活動の合間。

多くの生徒が行き交う廊下で。

麻雀部について、色んな噂が流れている時に。


――やっぱり、あの噂は……。


時間も、場所も、タイミングも。

何もかもが悪かった。

噂は、あっという間に伝播する。

良いものを塗り潰して、悪いものだけが残る。

そして悪いものだけが残ると、また悪い噂が広まって。



「――それで、少年は非行へ走ったと。泣ける話だねぃ」

「……」

「そんなツラで睨むなって。イケメンが台無しだろー」

一人の少年が真面目さを捨て、部活を辞め、転校するまでの話。

何が面白いのかは京太郎には分からないが、目の前の女性は童女のように笑う。


「でもよー、何だかんだで未練はあるんだろ? こんなところでさー」


……それは、ただの勘違いだ。

気紛れに、暇潰しにフラフラと歩いていたら、雀荘が目に入ったから。


「……そっすか。じゃあ俺はこれで」

「ちょい待ちなって。今度はこっちの話も聞いとけよ、損はしねーからさ」

「お前さん、まだ学生……高校生くらいだろ? まぁ、すぐ終わる話。聞いとけって」


こんな時間に、こんな場所で、こんな相手と卓を囲んだのが運の尽きだったか。

京太郎は拗ねたように眉をひそめて、小さく舌打ちをすると上げかけた腰を下ろした。


「だからそんな顔すんなって。似合わねーから」

「……」

「……ま、いいか。コレ、私の連絡先だ。財布にでも入れときな」

「……ハァ?」


一枚の紙。

名刺くらいのサイズに、手書きで彼女の名前と携帯電話の番号が書いてある。

「なんで、こんな」

「わっかんねー」

「……」

「あ、ちょ、破くなって!……たく、しょーがないねぃ」


ペチペチと、扇子で自分の頬を叩きながら。

彼女――三尋木咏は、にやりと自分の唇を吊り上げて。


「もったいね~ってのと、女のカンってヤツかな」

「意味わかんねぇっすけど」

「ああ。私もわっかんねーから安心しろ……まぁ、ホントに気紛れみたいなもんだから」

「……」

「なんとなくだけど、さ。資質っぽいのはあると思うんだよねぃ。今は腐り切ってるけど」

「……」


「あとは――まぁ、一目惚れみたいなもんかな。婿養子って、興味あるかい?」

咏と別れて、深夜の帰路を歩く。

久しぶりに打った麻雀で、惨敗したが悪い気はしなかった。

……あの、意味不明な出会いを除いては。


「なんだってんだよ……」


今の高校でも、麻雀部に入る気は無い……というより、部活に入る気がない。

真面目にやる事に、疲れてしまったから。


「……」


煙草やら酒やらに興味はないが、誰かと喧嘩をする事に躊躇いはないし、学校だって平気でサボる。

不良だとかクズだとか言われても仕方ないような生活をしている――それが今の自分だ。


「……ホント、意味わっかんねーよ」


そんな自分に資質があるだとか、しかも一目惚れ?

あまりの意味不明さに、溜息を吐きながら空を仰ぐ。

「ま……どうでも、いいか」


どうせ、また会う事はない。

さっさと帰って、何も考えずに寝よう。

起きれたら登校して、起きれなかったらサボろう。

そんな舐め切った考えで、夜道を歩く。


……けれど、夜はまだ終わらない。

彼を引き止める声と出会いは、この後にもある。


「京……ちゃん?」


随分と懐かしい気がする呼び方に、足を止める。

こんな時間に、こんな場所で。

有り得ないと思いながらも、京太郎は振り向いた。

噂話にイライラ

尊敬してる部長への侮辱でブチ切れ

一発かまし、噂がエスカレート

開き直って京太郎グレる

転校


そんなヤン(キー)デレ京太郎
ヒロインは咏と照と久

男のヤンデレって書いてて楽しくないから捻ってたらこんな微妙なノリに
次にヤンデレ京太郎を書くならちょい違うノリでヤン(キー)デレ京太郎か、(物理的な)ヤンデレ京太郎を書くかも


多分次は大学生編です
おとうさんのアレは続くかもしれないしアレで終わりかもしれない。つまりは未定

「ガンダムとかであんじゃん」

「んー?」

「初代が最高とかエイジはないとか、鉄血意外といいとか」

「あー」

「アレと同じでさ、俺にとっての牌のおねえさんははやりん一択なわけよ」

「ふーん」

「だから、他のアイドルの子が出てきてもナンバーワンは――」



「それがユキのおっぱいガン見してた言い訳か」

「はいすんませんっした!」

「第一さー。彼女への言い訳に他の女の名前使うのはどうなんよ」

「はい……」

「確かにユキかわいいけど。かわいいけど」

「うん……」

「でもさ、京太郎の彼女は私なわけじゃんか」

「……」


「なんつーか、彼女として自信なくすっつーか――」

「それはない」

「お?」

「俺のナンバーワンはいつだってお前だよ」

「お、おぅ……おう」

「……」

「……」


「いや。ちょっと今のキモいかも……」

「お、おう……言ってから恥ずかしくなってきた」

「……まーでも、許す。許してやろー」

「おお……!」

「その代わりメシ奢れよー」

「おー」


「いえーい」

「いえい」

……などとまぁ、ちょっと小学生的な会話をしたりする相手。

一個上の先輩で、同棲相手。



「いぇーい」

「いぇいえーい」


岩館揺杏、彼女が京太郎のガールフレンドだ。

「あたためますか?」


コンビニで弁当を買ったことがあるならば、誰もが聞いた事のある言葉。

それに対する返答は、すぐに弁当を食べるなら「はい」で、時間が経つなら「いいえ」である。


「……」


迷うことなんてない質問……だというのに、京太郎は即答出来ずにいた。

表情は強張り、焦りで頬に汗が伝う。

たかが、昼飯を買いに来ただけなのに――


「あたためますね?」

「あの。手を、話してくれませんか。神代さん」


――何でか、巫女さんに迫られているからだ。

自分と彼女、二人分の昼飯を買いに来ただけだというのに。

レジに立つ巫女さんに、熱っぽい視線で見つめられ、生暖かい手に握られて足止めをされている。

しかも。


「あたためませんか?」

「……いえ、結構です」

「あたためましょうよ」

「……」


この巫女さん、何か変なモノでも付いてんのか、と思うくらい会話が成立しない。

『はい』と頷けば解放されるのかもしれないが、それはそれでイヤな予感がした。


「あたためますかね?」


手を振りほどこうにも、ぴったりと接着されたかのように指が動かない。

そんなオカルト――と否定したいが相手が相手であるし――。


「あたためますね」

「はい、そこまで」

「ぎゃいんっ!?」


膠着した状況にトドメをさしたのは、レジの奥から出て来たもう一人のバイトさん。

その手に持つ祓串で、巫女さんの頭をひと叩きすると、巫女さんはあっさりと崩れ落ちた。


「……ふぅ。ごめんね須賀くん、迷惑かけちゃったね」


コンビニの制服と祓串という実にミスマッチな格好で、彼女は額の汗を拭った。

ネームプレートに書いてある名前は、狩宿巴。

巫女さんの先輩である。


「え、いや……その、神代さんは……」

「うん、まぁ……初めてのバイトだから。テンパっちゃうんだね」

「その、大丈夫なんですか……?」

「……大丈夫だよ」

「でも、さっきまで」

「大丈夫、だよ」

「……」



京太郎は、あたためた弁当×2を手に入れた。

暫く、あのコンビニは使えないな――なんて考えながら、京太郎は自宅のドアを開けた。


「ただいまー……っと?」


コンビニ袋を片手に帰宅すると、玄関に見慣れないヒールの靴があった。

どうやら、女性の客人が来ているらしいが――



客人は>>304

1.成香
2.戒能さん
3.その他

1

本内成香。

揺杏の高校時代からの同級生で、京太郎とも知り合いである。

京太郎が帰って来たことに気がつくと、揺杏はヒラヒラと手を振り成香はペコリと頭を下げた。


「ちわっす、成香さん」

「あ、お邪魔してます」

「遅かったねー。コンビニ混んでた?」

「んー……まぁ、うん」

「?……まー、お疲れさん。お茶入れてくるわ」


揺杏が腰を上げ、台所へと向かう。

入れ替わるように、京太郎は丸いテーブルにビニール袋を置いて成香の隣に腰を下ろした。

「あ、そういえば。昨日の二限目、揺杏ちゃんと欠席してましたけど……」

「あー……アレはまぁ……自主休講、的な」

「えーっと……何か外せない用事があったんですか?」

「そんなもんです」


大変ですねー、なんて言ってくれる成香。

実際は二日酔いの揺杏を介護していただけなので、思いっきりただのサボりなのだが。


「コレ、ノートのコピーです。来週提出のレポートの題材とか書いてあるので使って下さい」

「ありがとうございます! すいません、わざわざ」

「いえいえ。大事なお友達ですから」


ニッコリ笑う成香が天使に見えた。

……思い返せば、高校時代から彼女にはよくお世話になっていたような気がする。


「今日はコレを届けに?」

「はい……それと」

「それと……?」



揺杏と成香の関係判定、直下

今夜はここまで
揺杏と成香の関係はちょいドロくらい

大学編は基本揺杏いえーいが最優先なのであんまり基地外染みた展開にはならないと思います

二人の出会いはインターハイ会場。

階段で足を滑らせ捻挫してまった成香を、京太郎が助けた。

それから、清澄と有珠山の付き合いが始まり京太郎が高校二年生になった頃あたりで、京太郎と揺杏は交際を始めた。


彼女にしてみれば――それはきっと、『間の悪い』ことだったのだろう。

本内成香は、須賀京太郎に恋をしている。

していた、ではなく、している。

この恋が始まったのは彼が高校一年生の夏の時。

つまるところ、インターハイ会場で出会った時から。

でも……今、彼の隣にいるのは自分ではなく揺杏。


『……そう、だよね』


自分という架け橋を経て二人は結ばれた。

それはきっと、自分より揺杏の方が京太郎との相性が良かったからだ。

そうに、違いない。

嫉妬をする権利は自分にはない。

揺杏を妬むのは筋違いだ。

そのように、自分に言い聞かせる。

ああ、でも、それでも――。




「お、おっす」

「……こんにちは」



――京太郎が、コンビニで怪しげな巫女さんに捕まっていた頃。

揺杏と成香は、互いに向き合わずに挨拶を交わした。

揺杏は、成香の恋心を知っている。

成香は、彼らの愛情を知っている。

それでも、二人は友達だから。


「……京太郎くんは?」

「昼飯買いに行ったよ。そろそろ戻ると、思う……」

「……そっか」


互いに、思うところはあるけれど。

口に出せば、自分も相手も傷をつける。

それは嫌だ――だって、友達だから。


二人とも、相手のことを大事に思っているから――だから、互いに向き合わない。


それが、岩館揺杏と本内成香の関係だ。

京太郎と揺杏は特定の部活・サークルにら参加していない。

いくつかのサークルを掛け持ちしている状況である。

新入生の頃は色々な麻雀サークルなどを見て回ったが、そこまで麻雀に熱が入らなかったのだ。


「さて、この後はどうするかな」


今日はバイトもなく、この後はただひたすらに暇である。

京太郎の選択肢としては――


下3
1.麻雀部(ガチ)の先輩に差し入れに行く
2.麻雀サークル(エンジョイ勢)で遊ぶ
3.街をブラブラ
4.帰って揺杏といちゃつく

――自宅にて。

京太郎は、成香から借りているノートを元にレポートを作成することにした。

パラパラとページをめくる限りではそこまで難しい内容ではなく、時間的な余裕はたっぷりある。

なんなら一夜漬けでも間に合いそうだが――『レポートは大丈夫ですか?』なんて、このノートの持ち主に微笑みかけられたら頑張らないわけにはいかない。

よし、と気合を入れて京太郎はタブレットの電源をつけ――


「にゃー」

わざとらしい猫撫で声。

背中に張り付く柔らかい温もりと嗅ぎ慣れた甘い匂い。


「にゃーにゃー」

「……」

「にゃーにゃーにゃー」


構え構え、と言わんばかりに身を寄せて来る猫。

なので、京太郎はとりあえず顎の下辺りを撫でてみる事にした。


「んっ……にゃぁ……」

満足しただろうか、京太郎は猫から手を離してタブレットに向き合――


「こらこら」


――えなかった。

中々満足しない猫である。


「おうどうした」

「どーしたじゃなくて。構えよー」

「レポート終わったらな」

「えー」


肩に顎を乗せて来る猫、もとい揺杏。

京太郎的にはこうしているだけでも満たされるのだが。

「にゃんにゃんしようぜー」

「んー」

「好きだろこういうの」

「んー……まぁ」


大好きである、が。

チラ、とノートとタブレットに視線を落とす。

まったく手付かずの状態だが、揺杏猫が引っ付いている現状で進められるかというと――。


「しょうがねえなあ」

「おっ」

振り向いて揺杏と向き合うと、脇の下に手を入れて抱き上げる。

そのまま有無を言わさずにベッドまで彼女を連れて行く。


「よっと」


自分が下になり、揺杏と一緒にベッドに寝転がる。

京太郎は揺杏の髪に手櫛を通しながら、彼女に問いかける。


「何か、あったか?」

「あー……まぁ、ね」

「そっか」


京太郎は深くは聞かない。

ただ思いっきり甘えたい、と自分の愛しい彼女が言っている。

だったら京太郎もそれに応えるだけだ。


「おーよしよし」

「にゃーにゃー」


レポートのことは今は忘れて、京太郎は揺杏を猫かわいがりする事にした。

爽「成香ってさー、カレシの弁当に自分の血とか入れそうだよなー」

成香「……はい?」

宿泊所の布団にゴロゴロと転がりながら、爽はテレビを指差す。

『恐怖! 愛のあまり狂気に走るオンナたち!!』と、そんな三流以下の番組が垂れ流しになっている。


爽「うわー。監禁だってさ、こわいなー」

成香「……はぁ」

爽「これ全部実話なんだと」


『財力に任せてカレを屋敷に監禁』『複数人で協力してカレを管理』『カレをクスリ漬けにして支配』……等々、常識で考えればあり得ないものばかり。

ポカンとしている成香に代わり、誓子が呆れたような溜息を吐いてテレビを消した。


誓子「はいはい、明日も早いしもう寝るわよ」

爽「はーい」

成香「……」

成香「……私、そんなことしませんよ? もったいないですし」

――どっちも、台無しになっちゃいますし。

続く言葉は、彼女たちの耳には届かなかった。

あんまりに久しぶりなので小ネタ的なの募集下3~5くらいまで
数日以内にちょっとずつ書いてきます

須賀京太郎は恋を知らない。

脳が甘さに満たされる幸せも、胸を締め付けられるような苦しさも経験した事がない。

故に――これはまぁ、ある意味で当然のことなのかもしれなかった。

「……やっべぇかもなあ」


夏休み、インターハイも決着がつき日常に落ち着きが戻り始めた頃。

スマホのカレンダーを眺めながら、京太郎はポツリと呟く。

注目するは今週の土曜日、夏祭りの日。


「……どうすっかなぁ……」


ぽいっとスマホを投げ捨ててベッドに身を投げる。

天井を見上げながらウンウン唸るも答えは出ない。

なんせ、人生初めての悩み。


ダブルブッキングならぬ――ファイブブッキングをやらかしてしまったからだ。

「次の土曜日、おヒマ?」


最初の誘いは、一から。

夏祭りデートのお誘いに、京太郎は快く頷いた。

どうせその日はヒマであり――ちょっとした思い出になればとの下心もあった。



「おつかれさん。次の土曜日、空いてるか?」


次の誘いは純からで、一と同じく夏祭りデートのお誘い。

京太郎のミスは、この時に純の誘いにも頷いてしまったこと。

同じ龍門渕の面子に誘われたことで――二人っきりのデートだとは思わなかったのである。


ここまでならまだ、修正は効いた。

問題は、ここからである。

そう。

京太郎は同じミスをあと3回――智紀と透華と衣相手にもやらかした。

それが間違いだと気付いたのは、金曜日の夜。

寝る直前の、一からの着信。


『あ、もしもし? 起きてる?』

「はい」

『ゴメンね、こんな時間に』

「いえ、大丈夫っすよ。何かありました?」

『あはは……何がってワケでもないけど。声が聞きたくて』

「え、えっと……」

『ちょっとだけ話したかったんだ。明日が楽しみで、ちょっと眠れなくてさ』

「はは」


まるで遠足前の小学生だ、カワイイ人だなぁ。

この時までは京太郎も呑気に笑っていた。

その笑顔が凍りつくのは、次の瞬間。



『エスコート、楽しみにしてるからね? 王子様』

京太郎はここでやっと違和感を覚える。

ん? 龍門渕のみんなで行くのでは? ――と。

それを口に出さなかったのは、ある意味で運が良かったといえる。


『それじゃ、おやすみ。また明日ね』

「あ、はい……おやすみなさい」


もしかして、マズったか。

ようやっと焦り始めた京太郎は、それとなく全員に確認を取り。


『水入らずってヤツかな。楽しみにしてるぜ』

『人混みは苦手だけど……あなたと二人なら』

『わたくしの隣を歩くのです。半端は許しませんわ!』

『デートだからな! 色々見るぞキョータロー!!』


――あ、マズったわ。

ようやっと京太郎は、己の失敗を自覚した。

素直に謝るしかない。

普通なら誰だってそう思うだろう、が。


『他のみんな?……何故、明日のデートの話に他の女の話が?』

『二人っきりなのですから……あなたは、わたくしだけを見ていれば良いのです』


電話越しの透華の声音を聞いてしまってはそれすら出来ない。

冷や汗が頬を伝い、五臓六腑が冷え切る。


つまるところ、京太郎は詰んでいた。

素直に謝るには勇気と知恵と力が足りない。

どデカイ爆弾が複数個。

この手の経験が圧倒的に不足している。


「どうすんの俺、どうするよ……!?」


パッと思い浮かぶ選択肢は3つ。


1.『諦める』
2.『誤魔化す』
3.『逃げる』


カードの切り方が人生だ。

嫌な気持ちばかり膨らむ胸を抑え、京太郎は静かに息を吐く。

1を選んだ場合。

諦める――即ち素直に謝る。

透華が怖いしどうなるかちょっと想像がつかない。



2を選ぶ場合。

誤魔化す――即ち仮病で休む。

楽しみにしている5人には申し訳ないが……また後日に調整してお詫びをしよう。



3を選ぶなら。

逃げる――急に外せない用事が入った!とでも言い訳をして遠くに出かける。

男として最低だが今更の話である。



「……」

「……3、か?」

物理的に離れてしまえばニアミスの怖れはない。

親戚の叔母さんが急病て倒れて……とかそんな感じに言い訳をすれば仕方ないと諦めてくれる筈。

諦めてくれるといいなぁ。


「……よし!」


変な方に思い切りが良い京太郎。

財布を引っ掴みベッドから起き上がる。

今から終電で適当に遠くまで行って、適当にネカフェ辺りで過ごせば何とかなる。

根拠もない穴だらけの思考に無意味な自信を持って、京太郎は歩き出す。

修羅場なんて、逃げてしまえばどうということは――





「どこへ行くのですか?」

いざ玄関から踏み出した第一歩。

目の前には完璧執事――と京太郎が心の中で呼ぶ相手。



「ハ、ハギヨシさん……!」

「どちらへ行かれるのですか?」


フリーズする京太郎に、ハギヨシが一歩詰め寄る。

ハギヨシは笑顔を崩さない。

京太郎は冷や汗が止まらない。


「皆様、どうやら明日に何か良いことがあるらしく」

「……」

「えぇ、お嬢様も国広さんも、とても楽しそうにしていまして」

「……」

「何があるかはナイショ……との事ですが」

「……」

「とても――とても、楽しそうにしているんですよ」

「…………」

「ええまぁ。それは置いておくにしても」

「……」

「感心しませんね。こんな夜遅くに出歩くのは」

「……」

「須賀くん?」

「……すんません……」

――翌日。



「……2番だ。2番しかねぇ……」


布団を頭からすっぽり被り、カーテンまで完全に締め切る。

完全に外と部屋を遮断し、薄暗い部屋の中でスマホを操作する。


熱出て夏祭りにはいけないこと
喉やられて声が出ないのでメールを送っていること
また今度埋め合わせをすること


要約するとこんな文面のメールを一人一人に合わせて作成。

上手くいきますようにと祈りを込めて、京太郎は送信を押した。

少し経つと、スマホから着メロが鳴り始める。

相手は見るまでもなく龍門渕の誰かだろう。


「……すいませんすいません……!」


震える手をぎゅっと握り、布団の中で丸くなる。

目を瞑り、ひたすらに時間が過ぎるのを待つ。


兎に角、誰からの連絡にも答えない。

そうすればきっと、諦めてくれるに違いない。

京太郎は恋を知らない。

好きな人を思いやる心も、デートの期待に胸を膨らませた経験もない。

故に、この後の展開もまるで予想ができない。



「……仕方ないなぁ。まったくもう」

「オイオイ、ガキかっての……ったく」

「……風邪……粘膜……接触……」

「むむ……キョータローは苦しんでいるのか……」

「…………」



メールを読んだ五人が看病のために自宅に集うまで。

そう、時間はかからない。

照書きたい
書きます

三連休明けくらいには更新できたらいいなぁ……

「……さむいな」


窓から差し込む朝で目を覚ました照は、猫のようにその身を丸めた。

彼が声をかけるまで、ベッドから起き上がるつもりはなかった。

京太郎と照が付きあっている、というのは本人達が語らずとも白糸台の生徒達には公認の事実だ。


――朝早く京太郎の家から出る照を見た。

――虫が湧く季節でもないのに京太郎の首筋に赤い点があった。しかも、赤い髪の毛が肩にかかってた。

――電車で京太郎に寄りかかりながら眠る宮永先輩がいた。


……等、目撃談は山程ある。

誰もが知る有名人の恋バナ、スキャンダルともなれば食い付く生徒は多い。

本人達が否定も肯定もしないうちに、噂は学校中に広まっていた。

京太郎「フュージョンアップ!」ってスレタイだけ思い付いた

更新遅れて申し訳ない
仕事忙しいのとモチベ維持の問題で長編書くの難しいので照の短編書いたらチマチマ小ネタだけ投下してスレ締めます
大学生編はいつかまた機会があれば

「でもさー。実際、きょーたろーってテルのことそんな好きじゃないよねー?」


淡のその言葉に、京太郎は特に驚きもしなかった。

噂は事実であるし、否定はできないが――そこに、恋慕の情は無い。


求められたから、応えた。

嫌いではないし、照は美人だから。

今はlikeだが、そのうちloveに変わるかもしれない。


そんな風に、引きずるように関係を続けて。


「……いや、そんな事はねえよ」

男として、中途半端な自分を自覚している。

決して褒められたものではないその本心を、淡に伝える理由はない。


「互いに好き、だから付き合ってんだよ」

「ふぅん?」


つまらなそうに小首を傾げる淡。

幼子のように目を丸くして、じぃっと京太郎を見詰める。


「告白はどっちから?」

「……」


ずいっと身を乗り出して、パーソナルスペースを遠慮なく犯してくる。

居心地が悪くなり、京太郎は目線を逸らす。


「ねね。どっちから?」

「……向こう、から」

「ふーん」


更に一歩。淡は踏み出す。

もう一歩近付いて、京太郎が身を屈めたら、鼻先が触れ合う距離。

「じゃあさ」


小さな口が、言葉を紡ぐ。


「私がおんなじことしたら」


無邪気で、悪意もない。


「テルと同じこと。してくれる?」


ただ純粋に、欲しいと強請る言葉。

「……はぁ」


小さな溜息を一つ。

ねーねーねーねーと纏わりつく淡を見下ろし、右人差し指を彼女の額に向ける。


「ばーか」

「あいたっ!?」


ペシリ、と軽く力を込めてデコピン。

とてもキレイなフォームで放たれたそれは見事デコのど真ん中を打ち抜き、淡は大袈裟に額を押さえて仰け反った。


「体罰反対っ」

「大丈夫だろ。中身ないし」

「ひどくないっ!?」


正直なところ。

淡が照よりも先にアプローチをしてきたなら、自分は淡を選んでいたのだろう。


「……ん。校門で待ち合わせ、か」


……などと考える京太郎だが、まったくもって意味のない仮定である。

さっさと思考を切り替えて、恋人からのLINEに返信を送る。


「テルからー?」

「ん。つーわけだから」

「私も行って――」

「だめ。あの人怒るし」

「ちぇ」


ヒラヒラと手を振って淡に背中を向ける。

卒業も近い訳だし、なるべく二人っきりの時間を作ってあげたい……というのが、京太郎が照に示せる少ない甲斐性だった。


「じゃさ、きょーたろー」

「ん?」

「テルにもし飽きたら」

「じゃな」

「ちぇっ」

ごめんなさい、もうすぐ終わらせます

GWからシステム障害+風邪でダウンしてました
金曜更新します

適当に小ネタ募集

幼馴染というのは、得であり。

そして、少女とは小悪魔なのであった。


「ほれ行くぞ~」

「ま、待ってよ」


ギュッと手を繋いで、東京の人混みの中を逸れないようにして歩く少年少女。
歩幅の違いから少女は少し早歩きになり、それに気付いた少年は何も言わずに歩くペースを落とした。


「しっかりしてくれよ、大将」

「だ、だってゴチャゴチャしてるんだもん、このあたり」

「ちょっと遠出するといつもソレだな……」


気安い関係といえばそれで終わりだが、お互いとって唯一の相手。
同じ卓に着くことは少ないけれど――だからこそ、少女は彼の時間を独占できるのだ。


"……ね? そんな風に睨まないでよ"

"ずーっ前から、ここは私の場所なんだから"


「わっ、た、た……」

「ほら、余所見してんなって」


少し強めに手を引かれて、躓きながら少女は歩く。

仕方ないなぁ、と微笑ましげに見つめる少年の瞳には――隣の少女しか、映っていなかった。

なおこの後淡に寝取られる模様

「ふぅー……」


彼女の白く、細い指が滑らかに動く。

慣れているような、それでいて愛おしそうな手付きで『それ』を包み込む。

命の温もりを、手のひらと指先に感じて――成香は、頬を緩ませた。


「いっぱい、出してくださいね。京ちゃん♪」


張りつめていた『それ』が、彼女の指の動きに導かれるように――


「……なぁ、その名前変えないか?」

「えぇー?」


……というのが、須賀牧場の朝の一幕であった。

有珠山高校を卒業した京太郎は――成香と寄り添う未来を選んだ。

ある意味で順当な結果だった。
他の先輩3人は純心で初心な成香を応援していたし、ユキという強敵の出現には焦りを見せたものの――


『わたしに、すがくんを、きざみつけてください……!』


インターハイ直後、敗退が決定した時に『おんな』としての覚悟を見せ付けた成香に軍配が上がった。

紆余曲折の末、牧場経営をする事になるとは思わなかったが……。


「かわいいのに、京ちゃん……」

「そんなこと言うなら、次の子の名前はなるちゃんだな」

「そ、それはちょっと……恥ずかしいし……」


まぁ、二人とも今の生活を幸せだと思っているから、それでいいのだろう。

もしかしたら、アイドルユキのマネージャーになる未来があったのかもしれない。

デザイナー揺杏をサポートする生活をしていたかもしれない。

誓子のヒモをやってたかもしれない。

爽と面白おかしく、刹那的に生きていたかもしれない。


けれども全て、意味のない振り返りだ。

今、京太郎の隣に立っているのは、成香一人なのだから。


「そうか、じゃあ隣の『なるちゃん』を絞ろうかなー」

「ひゃっ!? ま、まだお日様が出たばかりなのに……!?」


モーモー、と『京ちゃん』に見守られながら。

今日も、須賀牧場の1日は幕を開けた。


――そして。

いつも通りの日常は、『アイドルユキの牧場訪問』オファーによって、破られることになった。

なお続かない

有珠山は
ユキルート→スターライトステージ
誓子ルート→ヒモ
爽ルート→旅に出ようぜー
揺杏ルート→いぇーい
になります

今夜はここまででー
週一か週二で更新しつつ、このスレでシリーズ終わらせますー

「おかえりー」

「ただいまー。その人は? お客さん?」

「ああ、なんというか……拾った?」

「は、はは……よろしく?」


「……はぁ?」

「まぁ、悪い人じゃないけどー……」


アイスティーをストローでブクブクさせながら、はやりはボンヤリと物思いに耽る。

お行儀が悪いけれど、たまにはそんな時もある。

自分の部屋だし。おかーさんも誰も見ていないし。宿題だって終わらせたし。


「でも拾ったってそんな……」

「はやりちゃーん。ごはんできたよー」

「あ、はーい!」


自分を呼ぶ男の声に、ストローから口を離して返事をする。

考え事は中断。

元々答えなんて出ないモノだし、この後その悩みの原因と向かい合う事になるのだから。

いただきます、と両手を合わせて晩御飯。

今日のメインディッシュは鳥の唐揚げ。

美月特製の味付けははやりの大好物だ。

パクパクと箸が進み、あっという間に皿が空になる。


「おお、見事な食べっぷり」

「そーいうあなたはもっと食べなきゃ。育ち盛り男子だし」

「いや、流石に」

「はーい、遠慮しないのー」


……そして。

はやりの目の前で、美月に唐揚げを押し付けられている男性こそ、彼女の悩みの種であり。


「すいません、いただきます!」

「皿をさらっと空にしてねー」


瑞原家の、居候であった。

数日前に母が拾ってきた男性。

名前は須賀京太郎。

何でも大分遠くから来たそうで、諸事情があって帰れないから居候しているとのこと。

母曰く、『ああ、未来から来たんだって』との事だが……無論、はやりは信じていない。


(はやや……)


高橋さんみたいに家政婦さんが一人増えたと思えばいいのかもしれない。

この数日で京太郎が悪い人ではないというのもわかっている。

それでも、年上の男性を身近にというのは中々に落ち着かない。

無意識にはやりの視線が京太郎の箸を追う。


(わぁ……あんなに食べれるんだ、男の人って)


お店の手伝いや力仕事が絡む家事。

瑞原家に不足していた男手を補える存在として、母は京太郎を重宝していた。

見たところ真面目に働いているし、女の子に囲まれているのに必要以上に萎縮しない。

それに、顔だって悪くないし――


「ん? はやりちゃん、俺の顔になんかついてる?」

「い、いえ! ごちそうさまでした!」


目があって。

つい、慌てて食器を片付けて食卓を後にする。


「え、俺なんかした……?」

「あらあらー」


後には、ポカンとした表情を浮かべる京太郎と、したり顔の美月が残された。

はやりは、京太郎が苦手だ。

つい目で追ってしまうのに、目が合うと恥ずかしくって胸がドキドキする。

その理由は、まだわからない。

的なシノハユ時空in京ちゃん
まだ続きます

――京太郎の朝はそれなりに早い。


「ん……ふぁあ……」


美月よりも少し早く目を覚ます彼は、欠伸を噛み殺しながら店の前の掃除やちょっとした家事をする。

あまりやり過ぎても家政婦の高橋さんの仕事を奪う事になるので程々に、だが。


『そこまで気にしなくてもいいのよー』とは美月に言われているものの……。


「さすがに、ニートってのはなぁ……」


チリを集め終え、一通りの掃除を終えた京太郎は軽く溜息を吐く。

太陽が昇ってきたばかりの朝方は、少し肌寒った。


「……はやく、元の時代に戻らねぇと……」

京太郎は時を駆けた少年である。

デロリアンもなく、タイムリープ能力を持った同級生もいない――フィクションではない、現実。


「はぁ……」


何故自分が、過去に来てしまったのかは分からない。

元の時代で、最後に自分が何をしていたのかはうろ覚えだ。

道端で倒れているところを美月に助けられたのが、唯一ハッキリ覚えている記憶だ。


詰まる所――手掛かりがなく、詰んでいた。


「美月さんには、頭が上がらねえよ……」


そう、目を覚ました時、自分は……

判定直下
1~33 病院のベッドで
34~66 瑞原家のベッドで
67~99 膝枕で

目を覚ました時、自分は病院のベッドで横たわっていた。

第一発見者の美月がそのまま保護者になってくれたお陰で、何とか生活できている。

タイムスリップしてしまった事を自覚した時は、みっともなく取り乱したものだが……。


「おはよー」

「あ、おはようございます美月さん」

「今日もありがとうね。朝ごはん出来たし、あの子起こしてきてくれる?」

「はい!」


未来から来た、という戯言を信じてくれたのかは分からないが……自分に居場所をくれた美月。

落ち込んでいたところを、麻雀牌を使った手品で励ましてくれたお姉さん。

色んな人に支えられて、京太郎はここにいる。

はやりの自室をノックするも返事はない。

そっとドアを開けてみると、規則正しい寝息を立てる彼女の姿。

よく整っている寝顔は、将来を期待させる。


「おーい、朝だよー」

「んんー……ぅ……」


とりあえず耳元に声をかけてみるも、瞼が僅かに動くだけ。

さて、この眠り姫を覚ますには――


判定直下
1~33 もう少し大きな声で
34~66 揺すってみる
67~99 「ちゅーでむちゅーにねー」

ふむ、起きないならもう少し大きな声で呼び掛けてみよう。

そう決めた京太郎は軽く息を吸い、


「眠り姫の起こし方なら、ちゅーでむちゅーにねー」

「……何言ってんスか」


いつの間にか背後にいた美月の言葉に、少し呆れる。

小二相手に、いや小二でなかったにしても、それをするには些か以上に度胸が足りない。

気を取直して、京太郎は腰を屈めてはやりの耳元に口を寄せた。


「おーい、はやりちゃーん」

「ん……あ、れ……?」


ゆっくりと、大きな目が開いていく。

未だ覚醒しきっていないのだろう、何度か瞬きを繰り返して、寝惚け眼で京太郎を見つめるはやり。


「あはぁ♪」

「お、おう?」


はやりの手が京太郎に伸ばされ、胸に飛び込んで来る。

キュッと、小さな手でしがみついてくる彼女を抱きとめる。

そうしないと、はやりがベッドから転げ落ちてしまうからだ。


「はやりちゃん、まだ寝ぼけて――」


そして。

はやりを抱きとめているため、動けない京太郎の唇に。


「京太郎、くん♪」


はやりの唇が、重ねられた。

幼く柔らかな感触に、京太郎はフリーズ。

はやりは彼の胸の中で、再び夢の中へ。

そして母親、美月はというと。


「……我が子から、28歳アラフォーのオーラを感じたような……」


娘が見せた可能性の前に、一人戦慄していた。

シノハユ編、今夜はここまで
次回まふふ登場
もうちょい美月さんの出番を増やしたい

ちょっとシロ短編

「誕生日おめでとーっ!」

「ダル……」


ジュースで乾杯する宮守麻雀部員たち。

お菓子やらジュースやら手作りの料理やらで、高校生が用意できる範囲内で豪勢な食卓が展開されていた。

そして、この場の主役である筈の少女は――気怠げに、テーブルに頬杖をついていた。

相変わらずな様子に、塞も苦笑を浮かべる。


「こら、主役」

「年取っただけだし……」

「そう言わないの。折角準備したんだから」

「まぁ……ね?」


例年通りなら、誕生日だからと言ってパーティを開いたりはしない。

ちょっとしたプレゼントと祝いの言葉を送る程度だった。


では、どうして今回わざわざ部員全員で集まったのかというと――

「うぅ……ちょー感激だよー……」


――二人の視線の先の、小動物(身長197cm)。



小瀬川白望とて、泣く子と豊音には勝てぬ。

『みんなで集まって、誕生日パーティとかするのかなっ』なんてキラッキラした眼差しを向けられては、『ダルいからいいよ』なんて言葉も封殺される。

ずぅっと孤独(ぼっち)だった豊音にとって、同世代の女の子とのイベントは憧れそのもの。

それにまぁもう来年には卒業だし記念にね、
ということで今回のお誕生日会の開催が決定されたのだった。


「ほら、姉帯先輩。おかわりどうぞ」


そして、豊音の隣で空のコップにジュースを注ぐ後輩。

彼の存在がものぐさなシロの心を多少なりとも動かしたのだろう、と塞は思っている。


「……」


豊音を甲斐甲斐しく世話する彼を、面白くなさそうに――表面上はいつもと変わらないが――見つめるシロ。

長い付き合いの塞だけは、その眠たげな視線に嫉妬が込められていることに気付いていた。

「ありがとーっ!」

「うわっ!?」

感極まった豊音が京太郎に抱き着く。

困った様にしながらもデレデレと鼻の下を伸ばす京太郎。


「……」


想い人が他の女とじゃれついている。

シロの肩が苛立つ様に揺れる。


「えへへー、京太郎くんにも分けたげるね」

「あ、ありがとうございます」


「……はぁ」


愛しのあの人があの女と関節キッス。

そこまでいって、ようやくシロは重い腰を上げた。


「……やれやれ」


その様を隣で見ていた塞は、呆れて溜息を吐く。

ものぐさにも程があろう。

胡桃とエイスリンも、概ね似たような反応をしていた。

「そういえば、須賀とシロって似てるよね」


ポツリと、胡桃が呟く。

へ?と間抜けな顔を浮かべるのは京太郎。

その言葉に頷くのは、シロを除く女子部員全員。

『誕生日プレゼント』という言葉で京太郎の膝枕というポジションを豊音から勝ち取ったシロは一人御満悦である。


「まぁ確かに。シロを男にして筋肉つけたら京太郎になるかな?」

「キョウダイ?」

「え、いや」

「京太郎くん、けっこーかわいい顔してるもんねー」

「うーん、というより京太郎をもうちょい女子っぽくしたらシロになるかな?」

「メイク、スル?」

「はは、何を言って」

「あ、いいかも」

「え」

「んー。どうせなら本格的にやってみる?」

「え、え」


話が、変な方向に進みつつある。

思わず腰を浮かしそうになるが、シロに太腿を掴まれ身動きが取れない。


「服なら私のお古とかどうかなー」

「あ、じゃあ私詰め物もってくる」

「オッケー。じゃあ私は――」


トントン拍子に、当の本人を抜きにして話が進んでいく。

狼狽える京太郎の肩を――満面の笑みをを浮かべたエイスリンが、優しく叩いた。


「ダイジョウブ!」

「せ、せんぱ――」

「カワイク、スル!」


――違う、そうじゃない。

天使の死刑宣告に、京太郎は肩を降ろす他なかった。

そして。


「ほほぅ……」

「これは、これは……」

「very cute!」


女顔にエイスリン渾身のメイク。

服は豊音のお古の白シャツとロングスカート。

ご丁寧に胸には胡桃持参の詰め物まで。


「ちょーかわいいよー!!」


宮守麻雀部員が本気を出した結果――最早、女子大会に補欠として参加してもまるで問題がないレベルに仕上がっていた。


「うぅ……見ないでぇ……」


……当の本人は、羞恥心で燃え尽きそうになっているのだが。

目の前の後輩の痴態に思わず喉を鳴らす塞。

恥じらいで朱に染まる頰が妙に艶めかしく感じる。


「……塞?」

「あ、あ、うん? だ、大丈夫だよ?」

「……」


高鳴る胸の鼓動は、果たして?

これ以上深く考えると未知の扉が開きそうな気がしてきたので、軽く頭を振って思考を切り替える。


「と、とりあえず! 時間もアレだし今夜はこれで……」

「じゃあみんなでお泊まりだね!」

「え゛っ」

翌朝。

誰よりも早く目を覚ました京太郎は、自分の身形を確認するなり疲れを吐き出すように溜息を吐く。


「……はぁ。そうか」


妙に足元の風通しが良いと思えば、昨夜の女装姿のままだったことを思い出す。

先輩たちがはしゃぎ過ぎたせいで、夜遅くなった為に誕生日会がお泊まり会に発展。

後はその場の勢いとノリで、京太郎は女装したまま眠ることになったのだ。


「とりあえず……さっさと顔洗って着替えるか。また弄られる前に」

「……ん?」


洗面台で顔を洗った京太郎は、違和感に首を傾げる。

エイスリンのメイクは洗い流した筈なのだが……何故だか、顔の印象が昨夜と変わらない気がする。

女顔、ではなく完全に美少女の顔。


「ふ、服装のせい……かな?」


あるいは、まだ寝惚けているのか。

首を傾げ、シャツのボタンを外すべく胸元に手をやり――


「あ、れ?」


――自分の胸から伝わる、柔らかな二つの感触に頭が真っ白になった。

詰め物、だよな?

自分に言い聞かせ、『それ』を取ろうとするも――張りのある、それでいておもちのように柔らかく形を変える『それ』は、京太郎の胸から離れる事はない。


「痛っ」


そして、引っ張ると感じる痛みはコレが夢でない事を嫌でも自覚させる。

嫌な想像が、京太郎の頭を過ぎった。


「……」


顔、胸、と来て更にその下とくれば。

背筋に冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、京太郎はスカートのホックに手をかける。


……数十秒後。

響き渡る悲鳴を目覚ましに、宮守部員は一斉に目を覚ます事になるのだが。

その悲鳴は、衣を裂くような、女子のものだったという。

的なシロ誕生日からの京ちゃんTS話が読みたいので書いた
各校の京ちゃんTS話を書きたいけどニッチなのと修羅場から離れるのでここでは続きません

次はまたシノハユ編ー
ちょい安価に頼るかもしれません

プロ・大人勢から適当にチョイス下3まで

シノハユはやり編にノーウェイさん難しいので義姉編でもいいですか(小声)

三尋木咏にとって、義弟の存在は目に入れても痛くない――どころか、ずうっと瞼の裏側に閉じ込めていたい程である。

所謂ブラコンというヤツで、それは自他共に認めていることだ。


「は……オイ、なんだいありゃあ……?」


では、ここで一つ問題がある。

そんな愛しの義弟が、目の前で余所の女に誘惑されて。

対局相手の女子プロに、ハニトラ染みた勧誘を受けて。

そんな様子を、解説として招かれているために、モニター越しに見せつけられている状況で。

その激情の矛先は、果たしてどこに向かうのか。


「あ、あの。三尋木プロ? ちょっと、落ち着いてですね……?」


彼女の相方であるえりは、全力で放送事故が起きぬように務めるしかない。

しかし、内心では逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

三尋木京太郎。

今年度インターハイ男子の部の優勝者にして、三尋木咏の弟。

血の繋がりは無いが、圧倒的火力で卓を蹂躙するスタイルは間違いなく姉譲りのもの。

女子に比べて実力が低いとされる男子の部では、予定調和のようにトップの座を捥ぎ取って見せた。

そうして今は、優勝後のエキシビション・マッチで卓についているのだが――


「三尋木プロ、とりあえず落ちついて……」


ぎり、ぎり、ぎり。
みし、みし、みし。


返事の代わりに返ってきた、歯軋りと扇子が軋む音。

とてもじゃないが、その表情は直視できない。

冷や汗を流しながら、えりはモニターを注視する。

『卒業後の進路は決まってる? ハートビーツなんかオススメだけど☆』


ばちこーん☆とウィンクと星を飛ばす現役ベテランアイドル雀士。

憧れのアイドルを前に、京太郎は鼻の下を伸ばして頬を赤くする。


『ノーウェイ。彼の才能を活かすならフロティーラ一択でしょう』


何が一択なのか、具体的な理由は不明。

だがしかし、彼女も京太郎好みのスタイルをしている。

それがより一層、咏の機嫌を悪くさせた。


『神戸! いいところっ』


……どの辺が? と突っ込みを飛ばしたいがえりとしてはそれどころじゃない。

ここで京太郎全部きっぱりと断ってくれたのなら状況は好転するのだが、残念ながらそれはあり得ない。


咏は、義弟の教育には全身全霊を込めている。麻雀においても、私生活においても。

始めて出会った日の事や、始めて麻雀を教えた日の事。

瞼を閉じれば、五分前の事のように脳内再生が可能だ。


それほどまでに溺愛していて――だからこそ、女と関わらせる事は殆どさせなかった。

指導の為に仕方なく他の女と関わらせるにしても、物理的に手の届く範囲内でしか許さなかった。


詰まる所、京太郎は咏の保護なく女性と関わる機会がなかった為に。

女性に対する免疫・耐性がついていないのである。

「ああぁ……京太郎ぉ……」

「だ、大丈夫ですよ三尋木プロ……えぇ、多分……」


京太郎という存在は様々な意味で期待株であり優良物件だ。

長い間不足していた男子麻雀界の期待の星。

女子プロ達にとっては、将来が楽しみな逸材であり――あわよくば、といったところ。

元々出会いが少ない仕事において舞い込んできた数少ないチャンス、それを逃す道理はない。


「……えりちゃん」

「あ、はい」

「あと任せた」

「は、いえ!?」


もう我慢できねぇ。

席を立つ咏と、羽交い締めで止めるえり。


『ふふ……良い手、だね。いっぱい練習してることがわかります』

『いやぁ、それほどでも……』


その背後のモニターには、良子に手を握られて赤面する京太郎が映っていた。

「お、お父様!? どうしてここに!?」


と、龍門渕の透華さん。

どうしても何も。
あなたの龍門渕を決勝で破った清澄所属ですが……雑用だけど。


「パパ、モッテモテだねー」


そうだね。
できれば身に覚えのない父娘じゃなくて普通に知り合いたかったなぁ。


「……おとーさん……私より、そいつらが大事なの……?」


騒ぎを聞きつけたのか、さっきの子も追い付いてシャツの裾を引っ張ってくる。
捨てられた子犬のような目線が、事実無根の筈なのに胸の内を抉る。


複数の女子に取り合いをされる、と書くと喜ばしい筈なのに。
いざ、その直面になると何もかもを放り出して逃げ出したくなった。

「待ちなさい、あなたたち」


そんな混沌とした状況に、また新しい声。
どうせまた厄介ごとだろう――と半分諦めながら京太郎は振り向く。


「京太郎が困ってるでしょ?」


有無を言わせず女子3人と京太郎の間に割って入ったのは、風越のキャプテン福路美穂子。
女子3名の抗議の目線を物ともせず、彼女たちを京太郎から引き離した。


「大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい……大丈夫、です」

「そう、よかった――あなたに何かあったら、私……」


ホッと安心して息を吐く美穂子。
京太郎としても、やっと現れてくれた唯一の味方。
この状況を喜びたい、が。


――この人、こんなに俺と親しかったっけ……。


なんとなく、不安が拭いきれない。

「パパ、その人はー?」

「お父様……まさか、私達というものがありながら……」

「おとうさん……そいつのせいで……?」


異口同音に抗議してくる娘(仮)たち。


「あ、いや、コレは違くて……」

「わかってるわ、安心して」


テンパる京太郎だが、美穂子は落ち着いて微笑む。
もしかすると、本当に救いの手が現れたのかもしれない。


「あなたがそんな人じゃないって、わかってるから」

「ほ、本当ですか」

「ええ、だって」


京太郎は、気を抜かずに身構える。
またこの人も、娘とか言い出すんじゃ――


「私の――おかーさんの育てた、自慢の息子ですもの」


――ああ、そうきたかぁ。

ガックリと両肩を降ろして、京太郎は項垂れた。


いつも、きみのそばをあるくもう一人がいる。


サードマン、或いはイマジナリー・フレンドと呼ばれるモノがある。
危機的状況に現れ助けてくれる人、自分を絶対に助けてくれる友達。


例えば、遭難しかけたところを導いてくれたとか。
例えば、寂しい想いを過ごした幼少期の頃に励ましてくれたとか。

世界各地で様々な例が挙げられているが――それらには、一つ共通点がある。


不要になれば、いなくなるということだ。

「アレ……?」


くらり、と目眩を感じて京太郎は宿泊所の壁に寄りかかった。
体調は悪くないし、ずっと室内にいたから日差しにやられた訳でもない。

なのに、急に全身から力が抜けていく。


「……あー、そろそろ、かぁ……」


家族と別れ、傷付いた心の隙間を埋める。
麻雀部へ参加する。
姉と再会し話をする為に、全国に行く。

須賀京太郎という存在は、少女をこの流れへと運ぶ為に生まれてきた。
彼女が全国大会に来た時点で、目的の3分の2は果たされた。

後は、最後の一つを満たせばお役御免となるだろう。

『須賀くんて、意外と面倒見良いのね』


大分前、部長にそんな事を言われた覚えがある。

当たり前だ。
少女の心を慰め、迷子になったら助けてやる。
その子にとっての頼れる存在となる為だけに、自分は存在しているのだから。

――もっとも、もう直ぐその必要もなくなるのだが。


「全国に来てから、こんなんばっかだなぁ……」


清澄が勝ち進んで行く度に、部内での自分の存在感は薄れていく。
それはつまり、その少女が自分の助けを必要としない程に成長しているということ。

それは嬉しいことだけど、少しだけ寂しい。


「……まぁでも、しゃーないか」


ぐっとヘソに力を入れて持ち直す。
せめて結末を見届けるまでは、少女の側にいたい。


「気分転換に、どっか出かけるか」

キャラ安価 下2

外は曇り空。
空気はジメッと生暖かく、少し不快感がある。

気分転換にと出掛けてみたものの、これなら合宿所にいた方が良かったかもしれない。


「ん、アレは……」


それでも何だか勿体無い気がして外をブラブラしていると、見覚えある少女が困った様子で辺りを見渡していた。
特長的な民族衣装に身を包んだ彼女は確か――ネリー・ヴィルサラーゼといったか。


「どうかしました?」

「エ?」

「いや、なんか困ってる風なんで」

「エ、なんで?」


助けになれるかも、と声をかけてみたら益々困惑気味に。
赤の他人に声をかけられれば、確かにそうなるかもしれない。


「なんでってまぁ、特に理由はないけど……」

「なにそれ……けど、助けてくれるの?」

「ん、まぁ……内容によるけど……」

「……何も、あげられないよ?」

「いらねーよ」

「……」


ネリーは、悩んだ様子で口を閉じ。

少し経ってから、京太郎を上目遣いで見つめて。


「えっとね――」


ネリーの悩みは―― 下3自由安価

「財布を……? 特長は?」

「白い、ネコみたいなの」

「なるほど……心当たりのある場所は?」


ふるふる、とネリーは無言で首を横に振る。
思い当たる場所は全て探しているのだろう、その首筋には彼女の疲労を示す汗がじんわりと浮かんでいる。


「このままじゃ……」


不安げに空を見上げるネリー。
雲の色が段々と濃くなっていくその様子は、今にも強い雨が降り出しそうに見えた。


「わかった、一緒探そう」

「いいの? 中身は」

「だからいらないって。この辺でまだ探してない場所を探すか」


未だオロオロしているネリーの手を掴んで歩き出す。


「あっ……」

「あ、わ、悪い」


つい、いつものノリで手を掴んでしまったが相手は初対面。
掴んだ手のひらから驚いた様子が伝わってくる。

慌てて、謝りながら手を離そうとするが――


「……別に、いいよ」


きゅっと、繋いだ手を、小さな手で握り返された。


「そ、そっか……んじゃ、急ごうぜ。天気が崩れる前に」

「……うん」

天候が荒れる前に、と口に出しながら。
気恥ずかしくなって熱くなる頰を誤魔化すように、急ぎ足で。


「良かったぁ……!」

「何とか見つかったなぁ」


結論から言えば、財布は見つかった。
自販機の下の奥の方にに転がり落ちていて、ネリーの体格では手が届かなかっただろう。


「ありがと! えっと――」

「須賀。須賀京太郎」

「キョウタロ!」


ピョンピョンと跳ねて、文字通り小躍りするネリー。
様々な理由から懐事情に厳しい彼女にとって、この状況は九死に一生。気分は奇跡の生還者である。

自然と京太郎の頰も緩む。


「あ、ヤベ」


しかし、そんな時間は長く続かない。
いよいよ崩れ始めた空から、ポツポツと雨の雫が降り始める。


「それじゃ! 俺はこれで!」

「あ! ちょっと――」

雨の向こうに消えて行こうとする背中。
反射的に、ネリーは手を伸ばし――

直下
1~50 すり抜けていった
51~00 シャツの裾を掴んだ

伸ばした手は、彼を引き止められず、すり抜けていく。

あっという間に、雨の向こうに消えて行く背中を見送ることしかできない。


「あ……」


何で手を伸ばしたのか、それすら分からない。
財布は見つかったのだから、それでいいじゃないか。

自分にそう言い聞かせても、胸の内が締まるような気持ちになる。


「キョウタロ……」


彼の名前を小さく呟き、微かに温もりの残る手のひらを胸にやる。
少しだけ、胸が楽になったような気がして――鼓動が、速くなった。

一年ぶりくらいに書く気がするネリー
今晩はここまでですがサードマン京太郎はまだ続きます

元カノ竜華VS今カノ揺杏
そんなスレが立つのはまだですか?

>>577の続きやります

身体が怠い。

まるで、この雨と一緒に溶けていくような……などと、らしくない感想を抱く。


「あぁー……」


自分はあの少女の心の隙間を埋める為に生まれてきたのだから、今の状態はむしろ喜ばしい筈なのだ。

自分という存在がいなくなっても、少女は充分にやっていけるということだから。


だが、それでも。


「……キッツいなぁ……」



重たい足を引きずるように、雨の中を歩く。


キャラ安価下3

合宿所まではまだ少し距離がある。

雨足が強くなるにつれて、身体の怠さも増していく。

このままでは、下手すると帰るまでに倒れてしまうかもしれない。


「……雨宿り、するか」


辺りを見渡すと、ちょうど良さそうなカフェが見つかった。

身体も冷えているし、雨宿りしつつ休憩しよう。


そう思って、少し古風なカフェのドアノブに手をかけようとして。


「あっ」

「……あ?」


同じ金髪の、高校100年生に遭遇した。


淡判定直下
1~33 まーいふれーんど
34~66 ふれんど以上らぶ未満
67~99 らぶのべくとるを感じる……
ゾロ目 ???

ドアノブを握ろうとした手の甲に、淡の手のひらが重なった。

柔らかな暖かさが、湿った肌に伝わる。


「つめたっ!?」

「お、よぅ?」


とりあえず挨拶でも、と口を開いた京太郎だが淡の勢いに押されて変な声が漏れた。

京太郎の手を握った淡はブルブルとその身を震わせていて、何と声をかけていいのかが分からない。


「きょーたろー冷たい!」

「この雨だしな。早いとこ――」


なんかあったかいものでも飲もうぜ、と続けようとした言葉は。


「あっためなきゃっ!」

「――は?」


むぎゅっと。

突然の抱擁によって、遮られた。

確かに、京太郎の体温は低くなっている。

彼固有の事情と、雨の直撃を食らった事が原因だ。


「えいっ」

「お、おおお……」


そして、冷えたものを温めるにはより温度の高いものを当てれば良い。

成る程、確かにそれは道理である。

この高校100年生にしては実に論理的な――


(――わけ、ねえだろっ)


淡の体温がダイレクトに伝わり、鼓動が早くなるのを自覚する。

シャンプーか何かだろうか、髪から立つ香りにもより胸が高鳴る。

サードマンだとか気取ったモノローグで語っていても、根っこは純情な高校一年生であった。

もっとさわりたい、しかし勇気が足りない。

そんなもどかしい時間も、唐突に淡がその身を離した事により終わりを告げた。

勿体無いようなホッとしたような、判断のつかないままに京太郎は淡に問いかける。


「あ、淡? どうした?」

「……グッショグショ……」

「……ああ、まぁ、な……」


雨でびしょ濡れの相手に抱き付けば、そりゃそうなる。


「と、とりあえず。何か頼んであったまろうぜ」


色々と透けそうになっている淡の格好からできるだけ目を逸らして、京太郎はカフェのドアを開けた。

天候のせいか、カフェは空いていた。

店主の厚意で借りたタオルケットに包まりながらココアを啜り、一息つく二人。


「雨、止まないねー」

「小一時間もしたら止みそうな気もするけどな。この時期って通り雨多いし」

「ふーん?」


ちびちびとココアを口にして、淡は窓の外を眺める。

激しい雨がカーテンのように降り注ぐ外を見ていると、帰るのが酷く億劫に思えた。


「ねー。きょーたろー」

「んー?」

「このまま雨が止まなかったら」


「一緒に、どっか泊まる?」


返答 下三
1.それもいいな、と冗談混じりに
2.バーカ
3.その他 自由セリフ

「それもいいな……」


強くなる雨音に比例して怠さを増していく身体。

帰るのが非常に億劫になっていた京太郎は、冗談混じりにそう答えた。


「名案でしょー」

「そーだな。お前が高校100年生じゃなかったらな」

「なんで!?」


実際、淡が白糸台大将ではなく京太郎が清澄の一年生という立場でなかったらその誘いに乗っていたかもしれない。

もっとも、もしそうだったらこの二人が出会うこともなかったのだけれど。



「……眠くなってきたな」

「お昼寝する? 雨止んだら起こしたげよっか」

「あー……」


ココアのお陰で冷えた身体はマシになってきたが、そうすると今度は眠気が湧いてきた。

倦怠感が限界を迎えつつあった京太郎にとって、それは非常に魅力的な提案だ。


「悪い、頼む……」

「らじゃっ」



「……きょーたろー」

「……前より、元気ない?」



「……」



「いらないなら」

「いらないなら、私にくれたらいいのに」



……ちなみに。

雨が止んだら起こす、と気張っていた淡だが。

京太郎の寝顔を見ているうちに自分も夢の中へと旅立ち。

二人揃って目を覚ましたのは、すっかり雨も上がって絵本のような夕焼けが沈む頃になってからだった。

何件か入っていた自分を心配するメールに返信しつつ、京太郎は早足に帰路につく。

ダルかった体調も幾らかはマシになった。

全快とは程遠いが、無茶をしなければ暫くは持つだろう。


キャラ安価下三
清澄は久のみ

「うわっ」


急いでいたせいか、道中の階段で足を滑らせてしまった。

咄嗟に手摺を掴めたので大事には至らなかったが、手首を痛めたのか鈍い痛みが残った。


「つつ……」

「うわー。ダイジョーブかい?」


手摺に寄りかかりながら手首を摩っていると、全く心配していないような声音で声をかけられる。

大丈夫です、と返そうと京太郎は顔を上げて


「ほーほー、なるほどねぃ」


パーソナルスペースをガン無視して、顔を覗き込んでくる女性と目があった。

赤い着物に扇子といった、珍しい出で立ち。

下駄を履いて背伸びする姿勢は、身長差が無ければ髪先が触れ合う程に顔を寄せていただろう。


「あ、あの……何か、用ですか?」

「用? まぁ、用は無いんだけど」

「はぁ……」

「ただ、珍しくてさぁ」

「珍しい?」


自分の出で立ちは、目の前の女性に比べれば有り触れたものだ。

特別、目を見張るものがあるとは思えないが。


「大抵、幼少期に消えちゃうんだけどね。ここまでハッキリ形が残ってるのは珍しいよー?」

「え……」

「ふーむ、ふむ」


咏 判定直下
1~33 キミに、キョーミが出てきたな
34~66 おねーさんのとこに来ないかい?
67~99 キミ、もーらい♪
ゾロ目 ???

「キミ、もーらい♪」


ピシッと、鼻先に畳んだ扇子が突きつけられる。

完全に女性のペースに呑まれた京太郎は、目を何度か瞬かせるも上手く返事ができない。


「いや、もーらいって……」

「んふふー。キミにキョーミが湧いたのさ。わっかんねーけど」

「は、はぁ……」


扇子を広げて口元を隠す女性。

よくわからないが、楽しそう……なんだろうか。

まるで、宝物を見付けた子どものような――


「あ、いや……そうだ。オレのこと、何か知ってるんですか?」

「いや、知らんけど」

「……」

「あっはっは、そんな顔すんなってー……そうだねぃ、キミのことは知らんけど」


女性は、懐から名刺を取り出した。


「これ、私の連絡先。夜の12時に連絡ちょーだい。色々教えてあげよっか」

「いやいや、12時って……」

「んー? どーにかなんじゃね?」

「適当だなぁ……」

「そんなもんだよ……ま」



「とにかく、そーいうことだから。よろしくね♪」

今夜はここまででー
全国編以降の京太郎の存在感の薄さから色々考えてったら変な方向に行きそう
まだ続きます

シノハユ編はこれが終わったら

「おかえり。随分遅かったわね」

「ええ、確かに凄い雨だったけど……ふーん?」



「長い金髪、肩のとこ」



「雨宿り、大変だったみたいね?」

「……まぁ、いいけど……」

「とにかく、早く暖まって休んでちょうだい」


「……」

「よかった、無事に帰ってきてくれて」


「なんだか、あなたがどこかに行っちゃうような気がして……」


「……ごめんなさい、忘れて?」

「おうおう、こんな夜中に出歩くなんて。補導されちまったりしてね?」

「あなたが指定したんでしょうが」

「あー、そうだっけ?」

「……帰りますよ」

「待ちなって、きょーちゃん」

「……俺、名乗りましたっけ」

「あっはっは、細かいこと気にすんなっ……じゃあ、こう呼ぼうかね。『サードマン』?」

「……あなたは、俺の何を知ってるんですか」

「いんや、何も知らんけど」



「でも、きょーちゃんみたいなのは知ってるかもね」

「アイツら……『サードマン』はイマジナリーフレンドだとか実在しないだとか言われてるけど。それは違う」

「確かにそこに『いる』んだよ。力が弱すぎるのと、大抵は幼少期の寂しさがなくなったら消えるんだけど」

「その点、きょーちゃんはスゴイね。ここまでハッキリ形があって、ずっと残ってるんだから」

「きょーちゃんを生み出したその『お友達』は、よっぽど強い力があって、よっぽど大きな寂しさを持ってるとみた」

「うんうん、だから大丈夫」


「『サードマン』が消えるのは、『お友達』に不要とされるからさ」


「少なくとも、ここに。欲しいって思う女が一人いるからな」




「私は、きょーちゃんが欲しい」




「消えないよ、きょーちゃんは」

「ソイツがきょーちゃんを捨てるってなら。私は奪い取るだけだ」


「……ま、その存在理由はちょこーっと歪んじゃうかもしれんけどね?」

キャラ安価下4

翌日。

僅かな倦怠感が残っているが、昨日ほどではない。

全国大会に来てから力仕事もほぼ無くなったし、この調子なら今日一日は問題ないだろう。


「じー……」


この阿知賀大将の実にこそばゆい視線に耐える事が出来れば、だが。


判定直下
1~33 体調、悪いんですか?
34~66 コレ、食べる?
67~99 大丈夫? ウチくる?

「大丈夫? ウチくる?」

「何言ってんだ、お前……」

「だって、京太郎が……なんか、捨てられた犬みたいな顔してたから……」

「……」


ある意味、鋭いというか。

変なところで勘が働いているように感じた。

別に自分は捨てられてもいないし、帰る場所が無いわけでもない。


「そだ! こっちのホテル来なよ! 憧も喜ぶだろうし――」

「何言ってんだよ」

「あたっ!?」


少し強目のデコピンを一つ。

こうでもしてツッコミをいれないと、直ぐにでもこの暴走特急は出発していただろう。


「うー……」

「ほら、さっさと戻れよ。ミーティングとか、色々あんだろ?」

「……」

「高鴨?」



「あの子とは、ぎゅーって抱き合ってたのに?」

「んなっ」

「対戦校だからって関係ないと思うんだけどなぁ」


純粋に、疑問を感じているのだろうか。

なんで『あの子』はよくて『私』はダメなの?と、小首を傾げる穏乃。


「ほら、あの雨の日。一緒にお昼寝までしてたし?」

「……まぁ、あの時は……その、お互い冷えてたし」

「ふうん?」


「じゃあ、似たような感じになれば私もオッケーなんだ」

穏乃を適当にあしらい、自由時間を得た京太郎は近くの公園のベンチに腰掛けた。

見上げた空は先日と違い、雲ひとつない晴天。


「ふぅー……」


ここに来た理由は何をするでもなく、ただノンビリと過ごすため。

怠いからといって合宿所で寝て過ごすのは勿体無いような気がしたのだ。

非常にジジくさいようにも感じるが、老い先短いという意味では似たようなものかもしれない。


「……いや、流石に笑えねーわ」


骨を抜かれたかのようにぐったりとベンチに腰掛け、雲の流れを追う。



「……何、してんのさ」

「何って……何?」

「ニホン名物・公園でハトに餌やるサラリーマンのマネ?」

「微妙に古いイメージだな、それ」


声をかけてきたのは、先日出会った少女。

臨海の大将、ネリー・ヴィルサラーゼだった。

今日の彼女は民族衣装ではなく、ラフな格好で髪を後ろで一つに纏めている。

取材や試合の無い、所謂オフの日というヤツだろうか。


「今日はどうした?」

「どーしたって……どーもしてないけど」

「そっか」

「そうだよ」


ネリーは京太郎の返事に興味無さげに頷くと、その隣に腰掛けた。

お互い揃って、会話なく空を見上げる。


「何してんだろうな、俺ら」

「何って……何だろ?」


お互いの間を、涼やかな風が流れていった。

ネリー可愛い今夜はここまで

少女が京太郎を不要とした時、京太郎は消える。
それはサードマンには覆せない流れであり、京太郎も望んでそのように少女を運んで来た。

だがあの咏と名乗った女性曰く、少女に負けぬ程の想いで自分を必要とする誰かがいるのなら――自分は、消えなくても済むらしい。


「……いや、考えてもしょうがねえよな……」


本当かどうかも疑わしいし、もしそうだったとしても自分の将来なぞ考えた事もない。


それに――あの時の、咏の目。

瞬きもせず、少しも揺らぐことなく。


ただじっと京太郎を見つめて来たあの瞳は、出来れば思い出したくなかった。

溜息を吐き、牌譜を整理する。

こうしている間にも、『終わり』が近づいて来ている事を、京太郎は感覚的に理解していた。


キャラ安価下2

激化していく大会に備え、部内での練習も密度を増していく。

試合では役に立てない京太郎は、皆の為に買い出しに出かける事にした。


「お、おはよ?」

「おぅ」


合宿所を出た瞬間に、ネリーと鉢合わせをする。

コレで彼女と会うのは3度目だ。

服装は前回と同じようなラフな格好をしている。


「どうした? また財布でも落としたか?」

「ち、違うよ! えっと……」


ネリーは歯切れが悪いようでモゴモゴと口を動かし、それでいてどこか嬉しそうに口角を上げている。

京太郎には言いにくい理由でもあるのだろうか。


「んーと、じゃあ……」


選択肢 下3
1. とりあえず俺は買い出し行くわ
2. もしかして俺に会いに来たとか!
3. その他 自由

「もしかして多い日か?」

「? 多い日?」

「ああ、いや……何でもない」


意味が通じなかったらしく、今度は京太郎が歯切れ悪く口を閉じた。

外国人である彼女には意味が通じなかったようで、流石にその意味を解説するのは気が引けた。

……というか出会って3回目の少女に何を言っているのだろうか、自分は。

同学年でちびっこいせいか、ネリーとは妙に距離感を近く感じてしまう。


咳払いを一つして、話題を切り替える。


「とりあえず、俺は買い出し行くから」

「買い出し? キョウタロ、マネージャーなの?」

「んー、そういうわけじゃないんだが……」


ただ現状を振り返ると、似たような事はしている。

裏方作業も嫌いではないし、誰かの為に――というのはある意味自分の存在意義だ。


「……似たようなことはしてるな」

「へー……」


ネリー判定直下
1~33 それって、楽しい?
34~66 キョウタロ、いくらで雇えるの?
67~99 ネリーのマネージャーになってよ
ゾロ目 ???

「それって、楽しい?」

「んー……」


近場のコンビニを目指して歩きながら、その問いへの答えを考える。

どうだろうか、少なくともつまらないとは感じていない。

今では雑用をこなす事が当たり前のように感じているが、そこに楽しさを見出すことは考えもしなかった。


「なんつーか、『そういうもん』だと思ってやってたからなぁ」

「お金も入らないのに?」

「あぁ。そういうもんなんだよ」


楽しくはないが、苦でもない。

ただ、『そういうもの』として自分の境遇を受け入れている。

ネリーの問いに、強いて答えを出すならばこういった解答になるだろう。

コンビニでは皆が好きなお菓子や飲み物を補充する。

やや量が多くなったが、京太郎なら十分一人で運べる量だ。


「う、うぅ……重……」

「大丈夫か?」


が、ネリーにとってはそうではなかったようで。

何を思ったのか、京太郎の一挙手一投足を隣で見ていた彼女は京太郎と同じように部内のメンバーへの差し出しを飼い始めた。

普段の彼女なら絶対にしない行為だが、京太郎はそれを知る由もない。


「ほら」

「へ?」


プルプル震えながら両手で袋を支えていたので、片手で手伝ってやる。

相変わらず身体に怠さはあるが、この程度なら問題ない。


「あ、ありがと……」


ネリーの袋を持つ手が、少し温かくなった。

湿気が高く暑い時期だが、彼女はこの熱を不快には感じなかった。

――その後。



「ネ、ネリーの差し入れ……デ、スカ?」

「そんなバカな……」

「どういう風の吹きまわしだろうね」

「明日は雪でしょうか」

「槍でもおかしくないな」


と、好き放題言われた言葉も気にならず。

ネリーは両手をそっと胸に当て、瞳を閉じて微笑んだ。

今夜はこれだけー
そろそろ修羅場パートに入りたい所存

気力的に長編は書けないんですがこのスレ終わったら修羅場に限らず適当な小ネタ・短編スレとかで細々とやっていくかもです

「須賀くん、大丈夫?」

「へ?」

「ポーッとしてたし……顔色、悪いわよ?」

「ああ、いや……大丈夫、す」

「そう、ならいいけど……無理はしないでね?」


「大丈夫ですって。ちょっくら、顔洗ってきます」

控室から出て、角を曲がったところで。

京太郎はぐったりと、施設の壁に寄りかかった。


「あー……クソ……」


体調に、酷く波がある。

調子が良いと思えば、唐突に倦怠感に襲われる。

その波のうねりは、清澄が大会を勝ち進む度に大きくなっていく。

まるで、少女の期待と不安に連なるように。

清澄のメンバーには悪いが、こんな姿は見せられない。


もう少し離れた場所で、調子が安定するまでじっとしていよう。


キャラ安価下3

「キ、キョウタロ……?」


知った声に、顔を上げる。

そのまま挨拶を返したかったが、力が抜けてズルズルとその場に膝をつく。

ネリーは慌てて京太郎に駆け寄り、その顔を覗き込む。

血の気が引いた顔と、荒い呼吸。

専門的な知識がないネリーでも、今の京太郎を放って置く事が危ないことは理解できた。


「大丈夫、だって」

「そんなわけないじゃん! えと、救護室っ」


ネリーは京太郎の手を引き、無理矢理にでも連れて行こうとする。

手のひらから伝わる体温は冷たく、また彼の身体は不自然な程に軽く感じた。

しかし、それを疑問に思う余裕は今のネリーにはない。

とにかく、人手が必要だとネリーは辺りを見渡し――。



キャラ安価下2

恐らくは貧血だろう、とスタッフに判断された京太郎は救護室の簡易ベッドで寝かされている。

寝息は落ち着いているが、顔色は中々良くならない。


「きょーたろー……」

「……」


そんな彼の寝顔を覗き込む、二人の女子。

最初に彼を見付けたネリーと、偶然その場を通りかかった淡。

二人の間に面識はないが『京太郎が危ない』となれば、次の行動に迷いはない。


戸惑いながらも、二人は協力して京太郎を救護室へと運んだ。

「やっぱり、元気、ないんだ」

「やっぱりって……キョウタロは、白糸台なの選手なの?」


何か知っているような口振りの淡に、ネリーは目を釣り上げて問いかける。

京太郎個人の事情についてはネリーが知る事は少ない。

だが、もし彼を目の前の女が苦しめているのなら。


「ちがう。私なら絶対、きょーたろーをこういう風にしないもん」

「……そっか」


着火しかけた胸の内が、急速に冷めていく。

今の自分に落ち着きが欠けている事を自覚したネリーは、短く息を吐いた。


「ねぇ」

「っ、なに?」


急に声をかけられて、ネリーは肩を小さく震わせた。

未だ、冷静さが戻ってきていない。


「名前、なに?」

「……ネリー。ネリー・ヴィルサラーゼ」

「ふーん……」



「じゃあ、ネリー」

「なに?」

「ネリーは、きょーたろの……何なの?」


ネリー判定直下
1~33 「……わかんない」
34~66 「トモ、ダチ?」
67~99 「……わかんない。けど」
ゾロ目 ???

自分は京太郎の何か――と言われれば、答えに詰まる。

落とした財布を拾ってもらったり、一緒に日向ぼっこしたり。

けれど、二人の関係が何か特別なモノかといえば、そうではない。


「……わかんない。けど」

「けど?」

「……」


瞳を閉じて、胸に手をやる。

先日の彼の温もりと、先程の彼の手の冷たさを思い返す。


「……」


彼が嬉しいなら、きっと自分も嬉しい。

彼が苦しいなら、きっと自分も苦しい。

この気持ちの呼び方はまだ分からないが、それを口にするのなら。


「キョウタロは、だいじな、ひと」

「……」


たどたどしく返ってきた解答に、淡は笑うでも怒るでもなく、ただ興味深そうにその瞳を見詰める。


「そっか」

「うん」

「なら、敵どうしだね。私たち」

「うん?……元から、でしょ」


京太郎を抜きにしても、白糸台と臨海は打倒すべき相手。

今の会話の流れから、どうしてその言葉が出て来たのかが分からない。


「あー……うー……そーじゃなくて」

「なくて?」

「こーいうのはね、敵は敵でも――」

 
            /. : : : : . . . . . . . . . . . . . . . . . :.ヽ
              // : : : : : : : : . . . . . . . . .: . : : : : : :゙、
           i. :.  : :/: : : : : : : . . : . : : : : :.|: : : : ゙、

           ノ, : : : // : : : : ;.ィ: : :∧: : : : : :|:   ゙、
          /イ. : : /: /: : .  :// ://  、 ;、: : |: . : : : i
           (:( i/: /: /: : : :// : //   i:| |: : : |: : :!: : |゙、 「コイガタキって、いうんだよ?」
           シ;.ィ: : : : /:/ /: //    !:|/: : : :|: : :|: : | ゙、
        r;='"´//i: : : ://ーメ<_      ! /__,..」:! : | : |  ヽ,
       リ / !イ: : : ハ! .,ィ=≧ミ、    ,/._,∠二/!|: : !: :|   ノ
    ,..-:.‐:.':.´: : : ノ| : ;、'^ 〈 !;::::::::i゛    //イ!::;レ7:/i|: : !: ;! /
   i: :r―ー-‐'"/: :!: i:.丶.i ヒ二⊥  ,/ /ヲ-:!/ ;! :/:/リ

.    |: |       ノィー|: |‐-‐'゙、 """     レ′ / /: /://
 ー=ノノー---< ,.┤ |:.|    \     '     _ノ/: :/、
  '" `ヽ、: : :/  ! |:|     iー- 、` ´ _,..-‐'/: :/   ̄/7ヽ,
        \/   ゙、 !|     |    ̄,.:'.;"´: :/     // /ヽ
          /     ゙、゛、    |_  //;.イ´     //    ゙、
        /  ヽ  ヽヾ    ト、 ` i / ̄/     //       |
    r'"´      \  ト、、   ! フノ―/    /// i      |
.    ゙、.           |`i:、゛、.   i'"´   /   //::::/ i...:;    ヽ
     ゙、.          |  i::\\ i   /  //::::::::/_ //      ゙、
     |、ヽ       λ |:::::::\\! / //:::::::::::/ ̄ノ           l

「コ、イ……?」

「あり?」


淡としてはバッチリ決めたつもりだったのだが、ネリーにはイマイチ伝わらなかったようで。

呆けた顔で首を傾げる二人と、その隣で安らかな寝息を立てる京太郎。

きっかり十秒ほど沈黙が続き、まーいいやと淡が先に口を開く。


「じゃー、きょーたろーは私が貰っちゃうから」

「ハァ?」


淡の言葉の意味は理解していない。

してはいないが、その台詞は見過ごせない。


「……何言ってんのかは分かんないけど。ネリーから、大事なものを奪うなら」


冷めかけていた胸の内の戦意に、再び火が灯る。


「やっぱり、敵だね」

「へぇ?」


連絡を受けた清澄の部長が救護室を訪れるまで、二人は互いに睨み合っていた。

「大分楽になったような感じがするだろ?」

「そいつはねぇ、ただぐーすか寝たからってわけじゃないぜー」

「まー、そもそも倒れた理由も"貧血"なんかじゃないしねぇ」


「『満たした』のさ。あの二人が、きょーちゃんの『中身』をね」


「前にも話したろ? サードマンが消えるのは、『友達』に不要とされるからだ」

「だから、そいつの想いを上回る程に必要とされれば……おっと、でも今はまだ一時的なもんだねぃ」

「今のきょーちゃんの土台になってる部分。そいつが揺らいでるうちは、満たされてもすぐ薄れちまう」

「だから、きょーちゃんが解放されるのは」

「そいつの心の隙間が埋まった時か」


「そいつの心に、昔と同じぐらいデッカい隙間を作ってやるか……ま、こっちは論外だとして」


「植物と似たようなもんだよ。土台がなくなったら植え替えをすりゃいい」


「きょーちゃんだって、本当は消えたくなんかないだろー?」

――どうして、そんなことを知ってるんですか。


「んー?」


――いや。どうして、そんなことをしてくれるんですか。


「あー、そいつはねぃ」





                        ..:.:´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
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                 |:| |::::::/ ィ芹ハ::|l:::::::::l:::::: |:::::::.:.:.:.:.l

                 |:| |:::/∧  Vソ |::l}::::::: |:::::::|:::::::::.:.:.:.乂 ____      「わっかんねー……ってね♪」
                     ` 乂:::{:::)   .l::|:::::::::|:::::::′::::::::.:.:.:.:.:.:<⌒ヽ
                _r'\\}\ /ヽ|::::::: ′:/:::::::::::::::\.:.:.:.:.:\

                r' \. ヽ ∨>`=彳::::/:::::イ::::::::::::::::::::::.>-=::::ヽ
               / ` 、 \ . }::/r―':::::ィ::: / |:ハ::::::::::::::::::::::::`ヽ`ヽ}
                」 ー- ≧ rヘj「}/f7⌒7:::::/ 八:.乂:::::::::::::::::::::ト::}  ′
              {二ニニ=- /ヾ{:::{ぃ〃./:./⌒ヽ.:.:.::{  ̄| ̄`ヾ{ ′
               ー‐――┴ /⌒>{{ //(_人,\人::/|
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キャラ安価下3

清澄のメンバーの目を盗んで、京太郎は夜の街へと歩き出す。

行き先は近くの公園。

その目的は、


「よう」

「遅い、罰金!」

「悪い、みんなを誤魔化すのにちょっとな……って、時間指定なかったろーが」


会いたいと連絡を入れて来た、ネリーに会うため。

いつぞやと同じように京太郎はベンチへと腰掛けた。


「ホラ、座れよ」

「……うん」

「それで、話って?」

「……」

「ネリー?」


今のネリーの服装は、試合へ挑む時と同じ民族衣装。

特徴的な帽子を膝の上に置いて、ぎゅっと指を食い込ませるように掴んでいる。


「キョウタローは」

「おう」

「……ネリーは、キョウタローの、なに?」

「……いきなり、どうした?」

「いいから。答えて?」


「それは――」



京太郎選択 下5
1.「目の離せないヤツ、かな」
2.「トモダチ……? 」
3.その他 自由

ネリーと出会ったのはつい最近。

さて、では自分の中のネリーが『何』なのか――というと。


「……」


言葉に、できない。

最初は困っているところを助けた。

次は一緒に日向ぼっこをして、その次は一緒に買い出しに出かけた。

さっきは、倒れかけたところを助けてもらった。


「えーと……」


知り合い以上の関係ではある。

しかし、友達とはちょっと違うような気がしている。


「うーむむむ……」


腕を組んで、考え込む。

答えはきっと一言で済むのだろうが、その一言が導き出せない。

そもそも、どうしてネリーはこんな問いかけをして来たのだろうか?


「なぁ――」


どうして、こんな事を聞くんだ?

そのように開こうとした口は、


「……わかんない、のかな……」


ネリーの不安げに揺れる瞳を見た瞬間に、閉じられた。

自分がお人好しだから。

ネリーがちびっこくて気安く絡める性格をしてるから。

あの少女と同じように、何となく放っておけない気がするから。


今まで彼女と接して来た理由は、きっと、そのようなモノではなく。


「そうだな……」


不安そうなら、晴らしてやりたい。

泣きたいのなら、支えてやりたい。


「そう、だなぁ……」


京太郎は軽く息を吐いて、ネリーの瞳を真っ直ぐに見つめた。

帽子を掴む手を取って、安心させるように手のひらで包み込む。



「きっと、お前とおんなじような理由だよ」


今夜はここまででー
次か次の次でサードマン京太郎は終わります

この流れで進めば普通にネリー√
ちなみにどう進んでも咲√はあり得ません

「昨夜はお楽しみでしたね」


「え? 違う?……ふーん、夜にこっそり出かけたのは見間違いかしら?」


「ふーん」

「ふーん?」


「……ん、わかればよろしい」



「……」


「心配」


「心配、したんだからね?」

長かったようで短かった全国大会も、後少しで終わりを迎える。

その時――京太郎は、どうなっているのか。

未だ想像もつかないが、きっと何かが大きく変わる。


「んー……」


右手を閉じたり、開いたり。

体調は悪くない――が、咏の言葉を信じるならまた直ぐに倒れてしまうかもしれない。

まだ元気なうちに、後悔が残らないようにしたい。


そう考えた京太郎は、スマホの連絡先一覧を開き――。


キャラ安価 下3
咲は不可

「おうおう嬉しいねぃ、そっちから連絡くれるなんてさ」


話がしたいです、とダメ元でコンタクトを取ったらあっさり了承してくれた。

彼女も全国大会の解説役として免れたトッププロの筈なのだが……意外と、暇なのだろうか。


「まー、えりちゃんに全部おっ被せて来たからね」

「針生アナ……哀れな……」


咏の用意した料亭の個室で向かい合う。

今さっき連絡したばかりなのにこういった場所を即座に用意できるのは流石だと思う。

……その煽りを受ける女子アナについては、心の中で合唱した。


「それで」

「え」

「わざわざそっちから連絡して来たってのは――なにか、知りたいことでもあんだろ?」

「ああ、えっと……」


京太郎選択肢 下3
1. 「いや、ただ貴女と会いたかっただけです」
2.「消えない為に……何をすればいいのかなって」
3.その他 自由台詞

咏にそう聞かれても、特に理由はないので返答に詰まる。

下手な事を聞いてもわっかんねーと返されるのは目に見えているし。

ただまぁ、強いて言えば――


「ただ、貴女に会いたかっただけです」


咏判定直下
1~30 咏は、小さく噴き出した
31~60 「言うねぃ、色男♪」
61~98 「今この場で、貰っていいかい」
ゾロ目 ???

ぷ、と咏は小さく噴き出した。

小刻みに肩を震わせて、笑いを堪えている。


「きょーちゃんそれ、狙ってやってんの?」

「え? 何が?」

「くくく……いや、なんでもねー。もし狙ってやってたら10年早いって突っ込んでたけど」


――ま、そういうところも可愛いんだけどさ。

そう言って、咏は上機嫌そうにお猪口の日本酒を一杯呷った。

眠さに負けたので今夜はここまででー
あと2~3回判定して終わりますけど、わりと平和的に終わると思います

Aブロックの準決勝を勝ち抜いたのは白糸台と阿知賀。

Bブロックからは臨海と、清澄。

決勝では、この四校が激突する事になる。


「なんつーか……見事に知り合いだらけだな」


清澄が参加していなければ、大将戦で誰を応援するかで悩んだに違いない。

もっとも、その場合だとそもそも自分の存在自体が成り立たなくなってしまうので、その仮定に意味はないのだが。


「さて、と」


残り少ない時間を、どう過ごそうか。



キャラ安価 下3

ネリーにとって麻雀は目的ではなく手段である。

お金を稼ぐ為に一番適した手段が麻雀だった、というだけ。

故に全国大会という場においても彼女が重視するのは如何に"魅せる"か、というその一点のみ。

どのように戦えば次の稼ぎに繋がるか、彼女はソレを重要視して対局に臨む。


『臨海女子! 圧倒的な強さを見せて決勝進出です!』


そしてソレは、今までもこれからも、きっと変わることはない。


(宮永……清澄……)


ただ、"魅せる"対象が、もう一人増えた。


「……勝つ、絶対に……」

会場付近の、自販機の前。


「ほらよ」

「ありがと」


適当にペットボトルのコーラを購入し、ネリーに差し出す。

自分も同じものを購入すると、近くのベンチに二人揃って腰掛けた。


「準決勝……凄かったな、お前」

「まー……アレぐらいは、ね」


準決勝の大将戦におけるMVPを選ぶとしたら、間違いなくネリーだろう。

彼女が、一番あの場を支配していた。


「スゲーヒヤヒヤしたわ」

「ふふん」


得意げに口角を上げるネリー。

こうして見ればただのちびっ子なのに、卓に着けば恐ろしい魔物と化す。

……思えば、彼の知る少女も似たようなモノだった。

というか決勝戦の大将全員に同じ事が言える。


「今から決勝が怖くなってきたぜ……大丈夫かな、あいつ」

「……アイツ?」

「我らが清澄の大将だよ。お手柔らかに頼むぜ?」



ネリー判定直下

その言葉にネリーは答えず、ちびちびとコーラを飲み進める。

缶の中身を三分の一ほど飲み終えから、口を開く。


「……ねぇ、キョウタロ?」

「ん?」

「全国終わったら、こっちに来なよ」

「こっち?」

「臨海」


唐突な言葉に、咄嗟の言葉が出なかった。

京太郎はゆっくりと息を吐くと、中身を飲み干した缶をゴミ箱に放った。


「えっと……あー、臨海は女子高だろ?」

「じゃあ、ネリーが個人的に雇う」

「個人的ってお前」


冗談かと思ったが、ネリーの目は本気だ。

本気で、京太郎を勧誘している。


「ネリーなら、京太郎を捨てない。絶対に」

「イヤイヤ、捨てるって――」


――別に、今だって捨てられてるわけじゃない。

そう告げようとして、言葉に詰まる。

不要とされるからさ、と咏は言った。

そして自分も、それを受け入れていた。

確かにそれは――捨てられるとも、言い換えられる。


「……大星が言ってたよ。キョウタロ、最近元気ないって」

「……アイツ……」


淡もネリーも、京太郎の『正体』まで知っているかはわからない。

ただ、彼女たちの鋭い感性は何かを感じ取っているらしい。


「ネリーなら、絶対大切にする。大事にする。だから……」


ネリーの真っ直ぐな視線を受けては、誤魔化す事は出来なかった。

京太郎は、目を閉じて『これから』のことを思い浮かべる。

全国大会で、少女が姉と和解を果たせば自分の役目は終わり、後は消えて無くなるだけ。

今までそう思って生きてきたから、『これから』の事なんで考えもしなかった。


「俺は……」


京太郎選択肢 下3
1.「……それも、悪くないかもな」
2.「もう少し、考えさせてくれよ」
3.その他 自由台詞

「……それも、悪くないかもな」

「でしょっ! 監督に話してくるから!」


ポツリと溢れ出た言葉に、ネリーは文字通り飛び跳ねて喜んだ。

満面の笑みで身軽にベンチから立ち上がると、あっと言う間に駆け出して行く。

京太郎が止める間も無く、小さな背中は建物の向こうに消えて行った。


「まだ頷いたわけじゃないってのに」


どうも、自分は少女たちに振り回されてばかりな気がしてくる。

が、ネリーのあの笑顔を側で見れるのなら――彼女の提案も、案外悪くないのかもしれない。



判定直下
1~80 「きょーたろー、どったの?」
81~00 「京ちゃん、あの人って……」

「きょーたろー、どったの?」

「いや、これからのことをちょっとな」

「これから?」

「ああ、全国が終わったら……っていつのまに」


ベンチの後ろから身を乗り出して顔を覗き込んでくる淡。

前置きも何もなく話を始めるものだから、いつから彼女がいたのかがわからない。


「これからのこと?」

「全国が終わったらどうするかーってのをちょっと考えてた」

「え……あ! もしかして!」


頭上に電球を灯す淡。

その瞳は期待にキラキラ輝いている。


「白糸台に転校するとか!」

「なんでだよ」

「え、違うの!?」

「むしろその答えはどっから出て来た」


答えを否定された瞬間、喜びの笑みが膨れっ面に変わる。

秋の空の如く、表情をコロコロ変える淡は次に――


淡判定直下
1~50 中身の残っているコーラの缶に目を付けた。
51~00 「むむ? きょーたろーからいい匂いがする……?」

「むむ? きょーたろーからいい匂いがする……?」


これまた、おかしな事を言い出した。

京太郎の首筋の辺りに顔を寄せて、スンスンと匂いを嗅いでいる。


「むー! えいっ!」

「おわっ!?」


と思えば、長い髪を振りかざして頭をグリグリと押し付けてきた。

淡の甘い匂いがダイレクトに伝わるが、それ以上にこそばゆさと困惑が勝る。


「おま、何っ!?」

「なんかムカつくから! 淡ちゃんマーキング!」

「やめろって! 犬かお前は!」

「わんわん!」

「意味わからん!」


……と。

夏の日差しに体力を奪われ、汗だくになるまで二人のじゃれ合いは続いた。

微妙に乱れた服で、息も荒くベンチに寄り掛かかる二人の姿は、見様によっては変な噂話になったことだろう。

今夜はここまででー
お付き合い感謝

あと2回キャラ安価したらこの短編は終わります
その後はシノハユ短編の続き書いて、それが終わったら少しだけ小ネタ書いてスレ仕舞いですかね

京太郎に両親はいないし、ペットのカピバラは信頼できる知人に預けて来た。

全国大会が終わった後、いつ自分がいなくなってもいいように。


「……」


咏の言う事については未だに半信半疑だ。

今でも時折、唐突な虚脱感と倦怠感に蝕まれる。

風前の灯火と言ってもいい。


「……けど」


ここまで、少女を運んで来て。

清澄が準決勝を突破して、いよいよ後少しというところまできて。


『キョウタロー』

『きょーたろー!』


少し、未練が出来てしまった。

あの笑顔を、もう見れなくなるのは――なんて、勿体無い。


キャラ安価下3

電気を消して横になろうとしたタイミングで、ドアをノックする音。

欠伸を噛み殺しながらドアを開けると、そこには。


「えっと、来ちゃった」

「お、おう……」


少女――宮永咲が、何処と無く居心地の悪そうな顔で立っていた。

布団の上で向き合う二人。

京太郎は無作法に胡座をかいて、咲は緊張した面持ちで正座している。


「で、どうした?」

「うん、えっとね……なんだか、緊張して来ちゃって……眠れなくて……」

「優希たちは?」

「もう寝ちゃったみたいで」

「部長は?」

「あ」

「……いや、まあいいけど」


京太郎は頬をかきながら、咲の目を見つめる。

まだ何かを伝えたいようにも感じられて、しかし敢えてそこには触れず。


「まぁ、おっかないヤツばっかだもんな。決勝」

「……うん」

「一番おっかないのはお前だけど」

「ええっ!?」

「牌が見えるとか倒すとか叩き潰すとか、マジこえーよ」

「え、だ、だって、お姉ちゃんに私の気持ちを伝えるには……」

「選ぶ言葉が物騒過ぎるんだよ」

「そ、そうかな……?」

「そうだよ」


この天然魔王め、とその小さな額にデコピンを一つ。

あた、と少しばかり大袈裟に額を摩る咲。


「ミーティングも練習試合もしっかりやってんだろ?」

「うん」

「だったらいつも通りだろ。牌が応えるだとか何だとか、まぁなるようになるって」

「……うん」

「それに」

「?」

「大丈夫、俺がついてる」

「ふふ……なに、それ」

「へへ」

「ねえ、京ちゃん」

「んー?」


咲判定直下
1~30 「えへへ、何でもない」
31~60 「京ちゃんは、どこにも行かないよね?」
61~98 「京ちゃんは、ずっと……」
ゾロ目 ???

きっとここから先が、彼女が本当に伝えたかった事だろう。

そう感じ取り、京太郎は背筋を伸ばして次の言葉を待つ。


「えへへ、何でもない」

「……お前なぁ」


……かと思いきや、肩透かしを食らって脱力する。

「生意気なヤツめっ」

「や、やめてよー」


と咲の頭を乱暴に撫でてやる。

恐らく和あたりが整えたであろう髪も、遠慮なくグシャグシャにしてやる。

ちっこい手を振り回して抵抗されるが、それすら無視して撫で回す。


……きっと、こんなやり取りをする事も、コレが最後になるだろう。


そんな想いは、少女には悟られず。

二人は互いに遠慮もなく、笑いあった。

次でキャラ安価ラスト
ぶっちゃけここまで来たらシズ出ても大した修羅場にはならんです……


決勝が始まる前に、京太郎は一人で会場から出た。

清澄のメンバーは、それを気にすることは出来ない。

少女の意識が決勝へと向いている今、自分の存在は今の彼女たちの中には無い。


「……へ」


飼い犬は、死ぬ間際に飼い主の前から姿を消すらしい。

ふと、昔にそんな話をした事を思い出す。

縁起でもないが――まぁ、今の自分の状況からすると、そんな話を思い返しても仕方あるまい。


ベンチに腰掛け、京太郎は自嘲の笑みを浮かべた。



キャラ安価下3

「趣味が日向ぼっこですーってのは、ちと年寄りすぎねー?」


暫く一人でぼんやりしていると、カラコロ鳴る下駄の足音。

この声の持ち主は、最早振り向かずとも分かる。

咏はわざとらしくよっこらせ、と声に出して京太郎の隣に座った。


「観に行かなくていいのかい? 愛しのあの子の晴れ舞台だろー?」

「アイツなら大丈夫ですよ。絶対勝ちます」

「ああいや、違う違う」


扇子を広げ、口元を隠す彼女。

その下にはさぞ愉悦に満ちた笑みが浮かばれているのだろう、実に楽しそうに目を細めている。


「白糸台の……いや、臨海の方かな? 京ちゃん的には」

「……いえ。アイツらは、そんなんじゃ」

「ない、とは言わせねーよ?」


勢い良く扇子が閉じられ、鼻先に突き付けられる。

下手に誤魔化すことも、そして取り繕うことも許されない。


「アイツらのこと、気に入ってるんだろ? 自己の礎にしてもいいくらいには」

「それは――」

「で、どっちなんだい?」


「きょーちゃんの、愛しの子は」

京太郎の存在意義を揺さぶる問いかけ。


「――」


答えは見付からず、それでも何かを伝えようと、口を開こうとして。


「――あ」


唐突に、視界が揺れた。

全身から、力が抜けていく。

崩れた姿勢を整える事すら出来ず、吐き出す息と共に生命力が抜けていくような錯覚を覚える。


「タイミングがいいのやら、悪いのやら……」

「どっちにしろ、ここが命の張りどころってねぃ」

「頑張って持ちこたえろよー? 『お友達』」


咏の言葉も、耳に入らない。

京太郎に分かることは――少女が、自分の気持ちの全てを姉にぶつけようとしているということだけ。


「 」


口にしようとした応援の言葉は形になることはなく、ただ短く息を吐く音が漏れた。


少女は、全身全霊をかけて決勝戦へと臨む。

全ては、姉に自分の想いを届けるために。

その想いの強さは、対局相手にも伝わる。


「宮永、咲」


――故に。

少女たちは、彼女が許せない。


少女たちは、直感で理解した。

――彼女が彼を捨てたのだと。


そして、同時に悟る。

――自分たちでは、彼女には勝てない。

波のうねりのような、大きな力。

強い流れが、宮永咲の後押しをしている。

そしてソレは、彼女の持つ力ではない。


「キョウタロー……」


常に、誰かの為に在り続けた少年の力。

物事を、少女の望む方向に運ぶ流れ。


――なんで。


ある意味で、同種の力を使うネリーはこの場の誰よりも解ってしまう。

彼の後押しを受けた宮永咲には、この場の誰も敵わない。

――こいつは、キョウタローを捨てようとしてるのに!


きっと、彼の献身は報われない。

宮永咲の想いの行く先は、彼には向いていない。

その後押しを受けながら、彼女が京太郎に振り向くことはない。


「……なら」


――諦める?

いや――そんなことは、在りえない。


挫けかけた心を、鼻で笑い飛ばす。

宮永咲が京太郎を捨てるなら、奪い取るだけ。

京太郎が咲ばかり見ているのなら、無理矢理にでも振り向かせる。


――負けない! きょーたろーも、勝利も! 奪い取る!

――ネリーには、お金がいる……でも、それだけじゃない!



少女たちの想いが激突する中で、決勝の火蓋が切って落とされた。

「フェイタライザー……だったかな」


「運の波に乗る力。自分の好きなように、運命を手繰り寄せる能力」

「だけど、きょーちゃんのソレは自分の為には使えない」

「全て、『アイツ』の為だけに使われてる」



「そのためだけに、きょーちゃんは生まれて来たんだから」



「……まったく、妬けるねぃ。『サードマン』ってのを差し引いてもさ」


「でも、それも直ぐに終わる」


「きょーちゃんも、それは解ってんだろ?」

間近にいる咏の言葉すら、耳に届かない。

視界は霞み、思考すら曖昧になっていく。


「 」


意外にも、気怠さや苦しさは感じない。

……というよりは、それを感じ取れる機能も既に消えてしまった。

後少しで、自分という存在は完全に消え去るだろう。


「 」


でも、それでも構わない。

少女の望みが果たされ、笑顔でいてくれるのならば――

『京ちゃん』

「 あ 」


――少女。


『きょーたろー!』

「 れ 」


――少女って。


『キョウタロー?』

「 」


――誰、だっけ?


判定、下3までの平均
1~60 特徴的な民族衣装を着た女の子が、息を切らして駆け付けた。
61~00 特徴的な民族衣装を着た女の子と、白いワンピースのような制服を着た女の子が、息を切らして駆け付けた

もう、京太郎には何も見えず、聞こえない。

身体を起こすどころか、指先を動かすだけの力も残っていない。


「きょーたろー!」

「キョウタロッ!」


そうして、京太郎の瞼が完全に降り切った頃。

特徴的な民族衣装を着た女の子と、白いワンピースのような制服を着た女の子が、息を切らして駆け付けた。


「ふむふむ、やっぱりねぃ」


彼女たちが此処に来たという事は、決勝戦は幕を下ろしたということであり――京太郎の役目は、終わったということだ。


「さて……それじゃあ、始めよっか」


慌てて駆け寄ってくる二人を前にして、咏の唇は弧を描く。

これから始めることが、楽しみで仕方ないと言わんばかりに。

咏は、指先で京太郎の顎を持ち上げる。

そして、そのまま身を屈めて。


「いただきまーす……てね♪」


二人に、見せ付けるように。

唇を、重ね合わせた。

その瞬間、少女たちの思考は真っ白に塗り潰される。

宮永咲に向けていた憤りや、京太郎への淡い感情を、上塗りする想い。


「三尋木、咏……!」

「っ! きょーたろーに、何してんのっ!?」


少女たちは、その想いの呼び方を知らない。

しかし身を灼く激情を抑えることも出来ず、ただ咏を責め立てるように叫ぶ。


「ふふふ……!」


対して咏は、二人の様子が心底面白くて堪らないと、上機嫌に扇子を扇ぐ。


「さて、わっかんねー……てねぃ♪」

「ふっざけんな! きょーたろーはっ」


そして彼女は知っている。

その感情は――嫉妬と、呼べるもの。

この世の何よりも強い女の情念。

二人分のソレを真っ向から受け止めて尚、咏は上機嫌にころころと笑った。


「さてさて、それじゃあ聞いてみるかい?」

「はぁっ!?」

「……誰に」


喚き立てる淡と、冷静でいようと努めながらも溢れる感情が抑えきれていないネリー。

面白いくらいに予想通りの反応を見せる二人を前に、咏はあえて挑発的な声音で語りかける。


「だれって、決まってるだろう?」


咏の指が、横たわる京太郎の頰へと伸びる。

その指先から伝わる感覚は――仄かに、熱い。


「みんなが愛しくて愛しくって堪らない――この子に、さ」

先程まで、死んだように目を閉じていた彼の瞼が微かに動く。

少女たちの激情に応えるように、彼の身体が熱くなっていく。


「く……う、ぁ……?」

「きょーたろー!」

「だ、大丈夫っ!?」


『サードマン』が消え去るのは、『お友達』に不要とされるから。

ならばソレを上回る程の想いで、彼を引き止めるコトが出来るのなら。


「くふふっ」


そうして咏は、目論見通り『お友達』から『須賀京太郎』を切り離すことに成功した。

女の情念を煽ることで、彼の存在承認をより強固なものとした。

故に、後は。


「いやぁ、楽しみだ」


コイツらから、彼を奪い取る。

ただ、それだけだ。


瞼が徐々に開かれる。

何度か瞬きを繰り返して、ぼやける視界が少しずつ鮮明になっていく。


「ここは……」


先ほどまで、咏と話していた公園。

自分の役目は終わった、それは確信している。

だというのに、自分がまた目覚めたということは。

自分を必要とする『少女』が、未だ。


「俺、は……そう、か――」


ぎこちなく、口を動かす。

目を開いて、最初に彼が呼びかけた名前は――


「あれ?」

「どうしたの?」

「……ううん、何でもないよ。お姉ちゃん」

「何だか、悲しそうに見えるけど」

「そう、かな?」

「うん……よかったら、聞かせて? 今までの分も、あるから」

「……えっとね。何て言えばいいのか、わからないけど」


――大事な何かを、失くしちゃったような、気がして。


――インターハイ終了から、数週間後。

アレクサンドラ・ヴィントハイムは机の前で頭を悩ませていた。

臨海女子の共学化と、それに向けて二学期からの男子生徒の受け入れ。

余りにも唐突に決まったので驚かされたが、それだけならまだいい。

自分たちの商売には強く影響しない。

問題は、それに伴って転校してきた男子生徒が麻雀部に入部してきたこと。


「恋に浮かされた小娘の戯言、だと思ってたんだけどね……」


そして、その男子生徒の名前が須賀京太郎ということだ。

アレクサンドラが臨海麻雀部の『選手』に求めることは二つ。

自分を痺れさせる貪欲さと、商売になるかどうかだ。


この二点を元に『選手』として評価するなら、現時点での京太郎は落第とせざるを得ない。


磨けば光るモノは持っているように感じるが、今の臨海はそんな悠長に選手が育つのを待ってはいられない。

男子生徒の数が増えて男子麻雀部が設立されれば、恐らく似たようなスタンスを上から強いられる事になるだろう。


「しかし、ソレを理由に彼を退かす事は……論外か」


別の側面から、『部員』或いは『マネージャー』としてみれば、彼は中々に有用だ。

見てくれに似合わず意外と気も効くし行動もテキパキしている。

雑用も嫌がらず率先して行うからか、サトハや明華たちの覚えも良い。

無論、それだけなら彼を麻雀部に置く理由にはなり得ないのだが。


「……さて、どうしたものか……」


アレクサンドラの悩みの種は、彼そのものよりも、彼を取り巻く女たちにあった。

悩みの種の一つ。

我らが大将、ネリー・ヴィルサラーゼ。

彼女は、明らかに須賀京太郎に惚れていて――その恋慕が、ネリーの力を後押ししている。

恋愛感情なんてモノが絡むのは不安要素でしかないが、結果を出している以上は口出しできない。


「……はぁ」


溜息を吐きながら、手元の資料を捲る。

悩みの種のその二。


「なんで、白糸台の大将がこっちにやってくるのやら……」


大星淡。


夏のインターハイで、激戦を繰り広げた白糸台の大将。

何がどうなったのかは皆目検討つかないが、彼女も臨海女子へと転校してきたのだ。


件の男子、須賀京太郎と一緒に。

彼女もまた、京太郎にラブのベクトルを向けている。

ネリーと度々火花を散らし、下らないラブ・コメディを部内で演出している。

外でやれ、むしろ出て行けと言いたいところだがソレが起爆剤となって成績が上がっているので今のところは放置中。


「……」


最後に、無言で資料を捲る。

三つ目にして、最大の悩みの種。


「なんで」


特別指導員、三尋木咏。


「なんで、日本代表の先鋒まで来るんだか……!」


この名前に、アレクサンドラは毎日悩まされている。

信じたくないが、咏が度々京太郎に向ける目線。

それに込められた意味を、アレクサンドラは察してしまう。


「ああ、もう……どうしたらいいんだか!」


信じられないようなことが連なり、今の状態が出来上がってしまった。

そのせいで、今の麻雀部は非常に危ういバランスの上に成り立っている。

大きな波のうねりに物事が運ばれているような、そんな錯覚すら覚える。

そして、その物事の中心に立っているのは。


「……いや、考え過ぎか」


溜息を吐き、椅子に体重を預けて目を閉じる。

ギシ、と小さく軋む音がした。


――夏休み明け、清澄にて。


姉とも和解し、咲は充実した気持ちで新学期に登校する。


気力も十分に放課後を迎えた彼女は、少し強めに部室の戸を開けた。


「あれ?」



「そっか、京ちゃんお休みだっけ」



「え? 聞いてないって……何を?」



「え」



「京ちゃんが……転校……?」


『きょーちゃんが解放されるのは』


『そいつの心の隙間が埋まった時か』


『そいつの心に、昔と同じぐらいデッカい隙間を作ってやるか』


少女は、満開の花が散っていく様を、幻視した。



といったところでサードマン短編終了
短編というかプロローグ
京太郎の全国以降の存在感の薄さとかフェイタライザーのアレコレを考えたら変な方向に話が飛んでいった

次はシノハユ編続きから
それ終わったらいくつか小ネタ書いてスレ終わります


でもまだ書きたい話が
・大阪二校
・ヒッサ編
・ネリーに原作みたいに悪い顔させたいのでヒロイン未定・ネリー可愛い補正なしの臨海編
・ヤン(キー)デレ京太郎
・先生編で高校絞ってリベンジ
・まだいくつか書いてない義姉ネタ
・怜に憑依しちゃった話
・アナウンサー組でラストシンデレラ


と色々出て来たのと書いて来たら少しずつモチベ上がって来たので多分また何かスレ立てると思います
修羅場・ヤンデレに限らず書いてくので立てるとしてもスレタイは変えると思いますが

唐突だが、京太郎は甘やかすよりは甘えたい派である。


家庭的で女性的な年上のおねえさんに思いっきり甘えたい――とまぁ、そんなシチュエーションに憧れるお年頃。

何故だが清澄ではちびっ子の面倒を見る機会が多かったが、今でもその憧れは変わらない。


そして、今。


「はぁ……」

「こーら、幸せ逃げるよー?」


京太郎は憧れのシチュエーションの、真逆の状況を体験していた。

スレンダーで美人なお姉さんを甘やかして――膝枕なんぞをしている。

男の固い膝なぞ心地よくはないだろうに、彼女は退こうとしない。


「そろそろ足が痺れて来たんですが……」

「頑張れー、男の子だろー?」


楽しそうに京太郎の膝枕を堪能している彼女の名前は、春日井真深。

現役の牌のおねえさんで、京太郎の恩人の一人だ。


コレが、自分の時代の牌のおねえさんだったらなぁ――と、そんな願望が口にはしないが頭を過ぎる。

タイムスリップしたばかりの頃。


家に帰りたくても帰れず、友達も一人もいない。

寂しさと悲しさで無気力に陥った京太郎を励ましてくれたのが、この牌のおねえさん(24)だ。


『ただ、キミが悲しそうだったから』


たったそれだけの理由で真深は病院の待合席で見知らぬ少年に声をかけて、勇気付けた。

彼女がいなければ、京太郎はただ美月に縋るだけの毎日を過ごしていたことだろう。


まふふから見た京太郎は……判定直下
1~30 ほっとけない子
31~60 かわいいヤツ
61~98 ……いや、ないから! ショタコンとか、ないから!
ゾロ目 ???

一方で、真深は京太郎のことをかわいいヤツだと認識している。


素直で、わかりやすくて。

周りのために、頑張って自分に出来ることをする姿勢も好感が持てる。

イケメンだし、自分があと10才若ければ――なんて、バカな事は言わない。


「……で。そこの見舞客は入ってこないのかな?」

「っ!」

「え、あれ……はやりちゃん?」



今は、他人の恋路を見てる方が面白いから。

京太郎とは違った意味でわかりやすい反応を見せてくる少女に、真深は頬を緩めた。

普段はお店の雑用や、家事の手伝い。

タイミングが合えば真深のお見舞い。

元の時代に帰る方法も探してはいるが、当然ながら手掛かり一つ見つからない。

まず、どうやって探せばいいのか。それすらわからないのだから。


「……っ」


京太郎は、首を振って頭を切り替える。

クヨクヨするぐらいなら、出来ることをしよう。


行動 下2
1. 美月さんの手伝いをしよう
2. はやりちゃんの宿題を手伝おう
3.まふふのライブに行こう

「まーふふーっ!」


まふーっ!!


野外に設営されたLIVE会場にて、ファンと一緒にコールする京太郎。

まさか自分がアイドルのライブに通うようになるとは、夢にも思わなかっただろう。


「こーんにちわーっ☆」


簡素な会場ながらもその熱気は侮れない。

彼女と、そしてファンたちと一体化するように、京太郎は『まふふ』に歓声を送る。

会場の中心でLIVEを披露するまふふの姿は、病院での弱ったイメージを吹き飛ばすエネルギーを持っていた。

眠気限界にて一旦中断
まふふかはやりんか美月さんで修羅場にしたいなぁ……

脳味噌というものは、自らの処理能力を超えると一周回って冷静になるのである。


「ふぅー……」


昨日の流れを思い返す。

朝早く起きて店前を掃除、その後は昼まで家の中を掃除。

やる事がなくなった後はまふふのライブに参加して、帰宅後ははやりの宿題を手伝った。

別段、おかしな事はなかった筈だ。


で、あれば。


「すぴー……すぴー……」


この、同じベッドで眠る一児の母親。

下着姿の瑞原美月は、どうやって説明をつけようか。

京太郎の腕を枕にして眠る美月。

間近で見る彼女の顔は、一児の母親だとは思わせない程に若々しい。


(……頑張ればアイドルやれるんじゃないか、この人……)


半ば現実逃避気味にそんなことを考えつつ。

疲労と眠気の溜まった頭では、思考も上手く纏まらず――。


判定直下
1~50 京太郎は、二度寝した。
51~98 しょーにはみていた
ゾロ目 ???

その朝、はやりは目覚まし時計よりも早く目が覚めた。

宿題を京太郎に手伝ってもらったお陰で、昨夜は普段より早く眠れたから。

なんとなく新鮮な気持ちになって、はやりは朝日を浴びながら背伸びをする。


「あ、そうだ」


今日は、わたしがおにーさんを起こしてあげようっ


小さくガッツポーズを作って、はやりはベッドから飛び起きる。

気分爽快で目覚めた彼女の心には、朝陽のような光が差し込んでいた。


「まーふふ~♪」


無意識に鼻歌を口遊み、目指すは彼の部屋。

そこにあるものに、はやりの表情は一転して曇り空になるのだが――浮き足立つ彼女は、その事をまだ知らない。

その朝の、食卓。


「は、はやりちゃん?」

「……」


声をかけても、ふくれっ面で顔を背けられる。

不機嫌の理由がわからない京太郎はたじろぐばかり。


「~♪」


唯一、美月だけが上機嫌そうにトーストを齧っていた。

はやりの登校を見送る二人。

満面の笑みを浮かべる美月と、疲れた顔で肩を落とす京太郎。

通りの向こうにはやりの姿が消えた頃に、京太郎は深々と溜息を吐いた。


「なんだったんですか、朝から」

「んー?」

「俺のベッドで寝てたのは……」

「あー……寂しかったから?」

「はい?」

「うちの子、ませてるから一緒に寝てくれないし……」

「いやいや、だからって」

「大丈夫。あなた、もうウチの息子みたいなもんだから」

「……」

「それに。あなたも、ね」

「え」

「寂しさを忙しさで紛らわすのはダメよ? 今は良くても――いつか、潰れちゃうから」

美月がベッドに潜り込んで来たのは、彼女自身と京太郎の感じている寂しさを埋める為。

美月は、はやくも親離れしそうな愛娘に。

京太郎は、帰りたくても帰れない、自分の居場所に。


「はぁー……」


京太郎は気恥ずかしくなって顔を伏せる。

言葉に出さなかった自分の気持ちに、美月は気付いていたのだ。


「はぁ……まぁ、元気は、出て来ましたよ」

「それは良かったカッター……私もまだまだイケるでしょ?」

「……」


敵わない。

改めて、色んな意味でそう思った。

「ロリコンかと思いきや人妻狙いとは」

「違います」

「え、じゃあ私……」

「もっとねーよっ」


そんなやり取りがあったのは、また別のお話。

今夜はここまでで
次から話が大きく動く……かなぁ


真深の容態が急変した時、京太郎は何もする事ができなかった。


面会謝絶の張り紙を前に、京太郎とはやりは同じ気持ちで立ち竦む。


「……」


この白いドアの向こうに、真深が眠っている。

信じられなかった、彼女の病状がそこまで悪化していたとは。


「……だ、大丈夫だよ……きっと」


隣にはやりがいなかったら、京太郎はみっともなく取り乱していたかもしれない。

"せめて、この子を安心させなきゃ"

その一心で、不安に押し潰されそうな心を持ち直す。


「すぐ……元気になって……出て来るって……」


だというのに、出て来る言葉は具体性も根拠も、そして自信もないモノだけ。

自分の言葉を、自分自身が信じられなかった。

真深に会えない日々が続く中。

はやりは部屋にこもって、何かの練習をしていて。

そして、京太郎は――


選択肢 下2
1. 今まで以上に、雑用と家事の手伝いに打ち込んだ
2.彼女に、何か出来ることがないかを探す

はやりは、幼いなりに真深を元気づけようとしている。


ならば――自分には、何が出来る?


麻雀の腕に自信は無いし、ハンドボールの経験や力仕事は今の真深の為にはならない。


思い出せ、何か一つでもいい。


自信をもって、誰かを喜ばせる事ができるものは――

「……で、それがタコスのレシピ?」

「はい!」


ベッドに横たわる彼女に、メモ帳を差し出す。

その中身は、記憶を絞って纏めたタコスのレシピ。

本当ならタコスそのものを渡したかったのだが、病人が食べていいものかがわからなかった。


「元気になったら作ってみてください。完璧執事のお墨付きっす」

「何だそりゃ……」


でも、ありがとね。

苦笑交じりにだが、彼女は頬を緩めた。


本当に、それが彼女の役に立つものかは疑問だが――少なくとも、京太郎の気持ちは伝わっていた。

「あ、あの……っ!」


続けて、隣のはやりが緊張した面持ちで一歩踏み出す。


「元気になって!」


そして披露したものは、白牌を一瞬で字牌へ変える手品。

それはかつて、京太郎とはやりが真深に元気付けられたものと全く同じで。


「あ……」


真深と、そして京太郎は。

同じように目を見開いて、彼女の字牌を見詰めた。

「それあげるわ」


目の前で、真深からはやりに渡される髪飾り。

牌のおねえさんのトレードマークとも呼べるそれが、幼い少女へと受け継がれた。


「……ああ、そうか」


その光景を見た京太郎は、漸く本当の意味で実感する。

自分が、過去に来てしまったことを。

ツーサイドアップの髪型、ピンクの髪飾り。

瑞原はやり、そして牌のおねえさん。

ずっと前から、気付ける要素はあったのに。


「あぁ……」


この子は、自分がいた時代の牌のおねえさんで。

コレがきっかけで、アイドルを目指すようになったのだ。


20年前という、自分が生まれるよりもずっと前に。




「かえり、たい」


今回はここまででー
次回シノハユ短編終了
このスレも終わるかな?

『牌のおねえさん』を目指すと決めた日から、はやりは日を追ってめざましく成長している。

体も、そして心も大きく。

今まで無縁なモノだった可愛い歌の練習やダンスの振付は辛く厳しいが、彼女は諦めない。

支えてくれる母親と、不器用ながらも元気付けてくれる兄のような人。

ファンとして応援してくれる沢山の人たち。


多くの声に背中を押されて、はやりは夢に向かって一歩ずつ歩み始めた。

それは、ある夜のこと。

妙に目が覚めて寝付けない京太郎は、ぼんやりと真っ白な天井を眺めていた。


「……」


『瑞原はやり』という輝きは、どんどん強く、そして大きなモノになっていく。

そしてソレは、京太郎の中であるモノと重なってしまう。

テレビ越しに見た、『牌のおねえさん』の笑顔に。


「はぁ……」


彼女の成長はとても喜ばしく思うが、比例して強くなる郷愁の念が胸の内を締め付ける。


このまま自分は、『現代』に帰れるのだろうか?

もしかして、このまま家族や友達にも会えないのではないか?


浮かぶ不安と、答えの出ない悩み。


堂々巡りになりかけた思考を中段させたのは、控えめなノックの音だった。

「おつかれさまー、サマーキャンプ?」

「は、はぁ……」


一つのベッドに、二人の男女。

残念な事に肩を並べて横になるには狭く、必然的に触れ合って寝ることになる。

悩みについて頭を回す事はなくなったが、また別の理由で寝付けなくなってしまった。


「……また、寂しそうに見えましたか?」

「うん」

「隠してたつもりなんだけどなぁ」

「あの子にはね」


有無を言わさずにベッドに潜り込んできた美月を、京太郎は追い出せない。

そして、自分から出て行こうとも思えなかった。

「……ねえ」

「はい」

「正直ね、あなたが未来から来たっていうのには半信半疑なんだけど」

「……」

「でもきっと、お家に帰りたくても帰れないっていうのは本当なんだろうなって」

「……はい」


京太郎、と美月は鼻先が触れ合うほどに顔を近付けた。

息遣いや体温で、灯りがなくても互いを理解できる距離。


「私たちじゃ……あなたの家族には、なれないかしら?」

その言葉の意味を、京太郎は朧げにしか理解できないが――とても、重要な選択である事は感じ取れた。

目蓋を閉じて、京太郎は――



選択 下2
1. 【もはや、瑞原家は己の家族同然だと……美月の抱擁を、受け入れた】
2. 【やっぱり、それは……かえられるものでは、ない】

――美月の抱擁を、受け入れた。


声に出して、返事をした訳ではない。

ただほんの少しだけ力を込めて、美月を抱き返した。


そして、その気持ちは――十分過ぎるほどに、美月に伝わっていた。

――というのが、大分昔のお話。


「……あぁ……」


20年という時間を経て――ついに、京太郎は『現代』へと追い付いてしまった。

そのせいだろうか、懐かしい夢を見たのは。


「はー……」


首を回して肩を鳴らす。

身体は重く、頭は少し熱い。

連日の疲れが未だに抜けていないが、仕事と患者は待ってくれない。


「……うしっ!」


軽く頰を叩いて気合を入れると、京太郎はベッドから身を起こした。

「せんせー、私とケッコンせえへん?」

「せぇへん」

「えー。養ってやー」

「自分で食ってけるだろ、お前なら……はい。今日の健診はおしまいっと」

「ん。ならこの後デート」

「しない。予定があるの、俺も」

「んー……めっちゃいけずやなぁ、自分……」

「予想以上に時間かかっちゃったな……っと」


ドアベルを鳴らしながら、喫茶店の扉を開く。

店内を見渡すと、目当ての女性は直ぐに見つかった。

そして、それは向こうも同じなようで――京太郎に気が付くと、満面の笑みで手を振って迎えてくれた。

20年経っても変わらない笑顔に京太郎は頰を緩めると、店員に待ち合わせしている事を告げて彼女の待つ席へと足を運んだ。


「おひさしぶりですっ」

「久しぶり、はやりちゃん」


木製のテーブルを挟んで、彼女と向かい合う。


瑞原はやり、28才――牌のおねえさん。

須賀京太郎、35才――医者。


互いに多忙な日々を過ごす中で、二人で会うのは本当に久しぶりのことだった。

真深の影響を受けて、はやりは今の道を選んだ。

そして、京太郎は医者になった。

真深が倒れた時、何も出来なかった自分を恥じて。

はやりとは違う方法で、関わった人たちを元気にする方法を目指した。

お互い困難な道のりではなかったし、今も相応の苦労は背負っているものの――充実した日々を、過ごしていた。


「……で、でね?」


――と、ココで終われば綺麗な話なのだが。

残念ながら、そうはいかないのである。


「き、今日は……その、伝えたいことが、あって……」


頰を赤らめ、モジモジするはやりを前に京太郎は背筋を正す。

強めの冷房が効いているにも関わらず、一筋の汗が頰を伝った。

視線、仕草、表情、携帯の待ち受け、スケジュール帳に貼られた写真、インタビューで答えた好きな異性のタイプ、etc……。

20年、温められた感情は少し暴走気味で。

それだけあれば京太郎も彼女の想いに気付かざるを得ない。

そして、その想いに素直に頷けない理由があるのだ。


「奇遇やなぁ、私もせんせーに伝えたいことがあんねん」

「なっ」

「……だれ?」


横から入ってきたのは、はやりよりも10才以上年下の少女。

京太郎が請け負った患者の一人で、(京太郎にとっては)厄介な事に、はやりと同じ感情のベクトルを向けて来るのだ。

しかも何故だか――たまの休日に外出すると、今のように彼女と偶然遭遇する確率が非常に高い。


「せんせー、やっぱイケズやわ。私の大事なとこみといて……」

「……京太郎さん、この子は……?」


そうして、京太郎の前でニアミスした感情の矢印は激突する。

年齢の差があっても、想いの強さに違いはなし。


「は、はは……」


カラン、と氷がグラスに打つかる音がした。

「はあぁ……」


場面は変わって、とある居酒屋の狭い個室。

答えを先送りにする事で二人から逃げたものの、根本的な問題の解決にはなっていない。

深い溜息が、胸の奥底から溢れ出た。


「元気出しなって」

「はは……どうも」


向かいに座る女性――春日井真深、44才・麻雀講師。

その年齢からは想像出来ない程に若々しく、元闘病患者と言われても信じられない。

「まー、とりあえず飲もうか。明日休みなんでしょ?」

「はい……」


20年前は、悩みと寂しさを忙しさで忘れようとした。

そして今は、悩みを酒で忘れようとしている。

果たして、コレは成長と呼べるのだろうか。


「こらこら、小難しい顔しない」

「う、うす」

「よしよし、じゃ……乾杯!」


ジョッキを高く掲げて打ち合わせる。

春日井真深とサシ飲みをするなんて、20年前は考えもしなかった光景だ。

人生何があるか分からないが、とりあえず今はアルコールの力で悩みを忘れさせようと、一気にジョッキを呷り――。

――そして、京太郎は思い出す。

脳味噌というものは、自らの処理性能を超えると一周回って冷静になるのである。


「すぴー……すぴー……」


男女、一つ屋根の下。

一糸纏わず、同じベッド。

どこがと言わず、湿った感触。

そしてトドメに、昨夜の飲酒。

これらの状況証拠が指し示すものは、一つしかない。


「……しあわせぇ……」


彼女の寝言も、耳に入らず。

京太郎が思う事は、一つだけ。


「かえり、たい……!」

あの頃に、と願っても。

残念ながら、それが叶う事はない。

というわけで今夜はここまで
後は次の更新時に1レスで終わる小ネタをいくつか書いてスレ閉じます
その後で別スレ立てるとしたらスレタイは『だらだらばーず』とか多分そんな感じになると思います

明日更新します

時間で消えない傷跡と、時間で消えない痛みがある。

でも――それ以上の幸せで、満たす事は出来る。


「眠れない?」


その言葉に頷くと、彼はしょうがないと笑って抱き寄せてくれる。

明日はきっと、人生で一番喜ばしい日になる筈なのに、緊張で寝付けない。

それを感じ取って、彼は幼子をあやすように両腕で包み込んでくれるんだ。


「ごめんね、ダメな奥さんで」

「いや、眠れないのは俺も同じだから」


干支が一回り離れてるのに、いつも私は頼る側。

彼が理想とするお嫁さん像とはかけ離れてる……けど。


『惚れた方の負けって、いうじゃないですか』


私と付き合い始めてから、彼は色んなものを失った。

友達、時間、先生と呼べる人たち……。



なのに、彼は幸せそうに笑う。



自分で言うのもアレだけど、私は面倒な女だ。

家事もあまり得意じゃないし、お洒落だってセンスはないし愛想も微妙。

本当に良かったのかだなんて、あーだこーだ考えてしまう私だけど――この笑顔ひとつで、胸の中は幸福で満たされる。



私も、彼と同じように多くのものを失った。

だけど、こうやって同じベッドの中で。

彼に抱き締められて眠る私は、きっと誰がどう見ても――。


【幸せな、お嫁さん】

恋は盲目とは、よく言ったものだと思う。

彼以外の何もかもがどうでもいい、と。

彼と高校で再開して、結ばれて、プロになって結婚して子どもを産んで――今に至るまで、その想いが変わる事は無い。

そしてソレは、死ぬまで――いいや、死んでも変わらないだろう。


「京ちゃん」


私の自慢の旦那さま。好きなところは丸ごと全部。

その中でも特に、強いて一番好きなところを挙げるなら、優しいところ。


「……もう、あの子も高校生かぁ」

「うん……懐かしい?」

「……」


白いワンピースのような制服に身を包んで登校する愛娘を二人で見送る。

私にとっての高校時代は、少しの苦しみと多くの幸せで満ちている。

私は京ちゃんが隣にいてくれる幸せでいっぱいだけど――京ちゃんは、優し過ぎるから。


たまに、自分を傷付けて去っていったあいつらの事を、思い出してしまう。


「大丈夫、だよ」

「……」

「京ちゃんの優しいところと、強いところ。あの子は、ちゃんと持ってるから」


彼の手をとって、抱きしめる。

京ちゃんが苦しいのなら、それ以上の愛情で。

私の幸せが、少しでも彼に伝わるように。



心の痛みが消えるその時まで、私は彼の手をとろう。



【ずっとずっと、愛してる】

「命」を「運」んで来ると書いて『運命』!

よく言ったものだ――避妊の大事さを教えてくれる。


「……まじで」


幸せそうに笑う先輩に、思わず敬語がすっぽ抜けた。

お酒に酔った勢いで致してから始まった、彼氏彼女の関係。

二人が付き合い始めた入り口だったその出来事は、どうやら人生の墓場まで直通だったらしい。


「えへへ、名前どげんしよー?」


しかしまあ、幸せそうにお腹をさする先輩を見ては京太郎も腹をくくらざるを得ない。

困難は多いだろうが、きっと何とかなるだろう。


なんだかんだ言って――先輩と一緒にその子の名前を考え始めるくらいには、京太郎も幸せを感じているのだから。


【運命の、赤い糸】

まぶたの裏までアナタだけ。


ハンドボールで活躍する姿を見てから、そして彼が臨海に入って来てから。

追い続けて来た横顔が、今は自分の隣に。


「いい天気だな」

「風が気持ちいいですね」


二人の休日、晴れた日は並んで近所をデート。

高校時代と違って、邪魔は入らない。

だから私は祖国と、そしてこの道が大好きだ。


「っと」

「大丈夫か?」

「ええ。ありがとう、アナタ」


彼に見惚れて、石畳に躓いた私を危うげなく抱き留めてくれる。

彼のぬくもりを感じるのは、もう数えきれない程なのに――胸の高鳴りは、留まるところを知らない。


期待を込めて、彼の頰に口付けを。


ああ、今日の夜と夢の中でも――きっと、幸せな風が吹くに違いない。


【夢でも、あなたの横顔を】

駆け落ちを成し遂げるのは、監視社会とまで言われる現代において非常に難しい。

ましてや、逃げる相手が大富豪となれば。


「何というか、ホームレスみたいな感じだね」

「……」

「あはは、そんな顔しないで。ボクは結構楽しんでるからさ、この生活」


服にも食うにも寝るにも困らなかったあの頃と違う。

転々と場所を変えながら、二人で逃げ続ける日々。

生活必需品を調達するにも、周りの目を気にしなければならない。


「それにさ、キミを好きになった時から、薄々こうなる気はしてたんだよね」

「え」

「透華も衣も執念深いし、ボクなんて買われた立場だし?」


寝具も満足に揃えられない。

だから、一つの毛布に、二人で包まって眠る。


「どっちを取るかで、ボクは京太郎をとった。それだけのお話」


「さ、明日も早いし。もう寝ようか」


「うん。もうちょっとだけ――距離、詰められるかな?」


【キミと一緒に、抱き合って】

それは、渇いた風が吹き抜けるように。

私の胸の中に、確かな痛みを与えたのでした。


「なーにしてんだよ、このポンコツ」

「だ、だって……!」


好きな人の笑顔。

それは何よりも喜ばしい筈なのに――それを向けられているのが、私じゃない。

大丈夫?って聞かれても、見せかけの笑顔も作れない。


この想いは、一体何?

どうすれば、解消できるの?

悩んで、悩んで、悩み抜いて――何故か、霞ちゃんにも言えなくて。


私が、この気持ちの呼び方を知るのは――まだまだ、先のお話。



【あなたしか見えなくなって】

先輩たちは、私をアイドルとして目立たせようとしてくれる。

可愛い衣装に、髪型の研究。

自分でも、垢抜けて中学から大幅に変わったと思う。

……のに。


「大丈夫? 袋持てるか?」

「大丈夫、です……!」


一番伝えたい相手には、伝わらず。

可愛いとは言ってくれるし、応援もしてくれる。

それでももどかしいのは――中学から変わらない、距離感のせい。


「無理すんなって、ホラ」

「あっ……ありがとう、ございます」


何でもないように、手を重ねるように袋を持ってくれる彼。

もうちょっと意識してくれてもいいんじゃないか、なんて思ったりするのでした。


……中学から、ずっと惚れっぱなしだったなんて、この時はまだ、知りもせず。



【誰よりも、何よりも】

言葉にせず伝わる関係――そんなの、自分はゴメンだ。

大好きだって人前では叫んで欲しいし、二人っきりのベッドでは囁いて欲しい。


「……決めた」


ふとそう思い付いて、立ち上がる。

清澄、阿知賀、臨海の大将が不思議そうに自分を見上げるが関係ない。

キョロキョロ辺りを見渡し、カメラを見つけると勢いよく指を指す。


「きょーたろーっ!!」


マイクがなくても、会場全体に響くような大声で。

頬っぺたを真っ赤にして、叫ぶ。


「大好きっ! 愛してるっ!! だから――!!」


「私が優勝したら、ケッコンしてねっ!!」


TPO? そんなものは関係ない。

すると決めたら、絶対だ。

満足気に鼻を鳴らして着席。


たとえ国内無敗が相手でも――今の自分に、負けはない。



【あーいらーぶゆー】

お金は使わなきゃ回らない。

愛情だって、返して貰わなきゃ満たされない。

一方的に注ぐだけじゃあ、続けられないと、彼女は知っていた。


「キョウタロ、キョウタロ!」

「はいはい、わかってますよお姫様」


高い高いをするように、両脇の下に手を添えて抱き上げる彼。

まるで幼子を相手にしてるみたいだが、42cmの身長差を埋めて目線を合わせるにはこうするしかない。

自分が屈むのではなく、彼女を高く持ち上げて。


「絶対、勝ってくるから」

「わかってるよ」


今度は、彼女から。

小さな手を彼の頰に添えて。

何度も何度も、口付けを交わす。

軽く重ねるものから、深く交わるものまで、何度も。


「それじゃ、行ってくるね」

「ん。祝勝会、準備しとくわ」


大事な試合の前では、欠かす事の出来ないやり取り。

お金と、そして愛の為に。

彼女は今日も、卓に向かう。


【大好きがいっぱい】

変わらない日常、変わらない愛情。

素晴らしいモノに囲まれた不変の日々を、彼女は何よりも尊いと感じるのだ。


「そう思いませんこと?」

「ははは……まぁ、そうですね。俺も、諦めましたよ」

「もう……もっと砕けても構いませんのに」

「いやまぁ、唯一の抵抗……みたいなもんなんで」

「むぅ」


変わって欲しいところも変わらないまま続いているのは玉に瑕、だが。

素晴らしい友人たちと素敵な恋人と過ごす日々は、他の何にも変えられない。


「ああ、願わくば――」



【永久に、美しく】

「みんなには、ナイショですよーぅ?」


なんて、誰も聞いていないのに。

保健室で眠る彼の唇に、そっと人差し指を重ねた。


「ふふ……」


面倒見が良いというのか、お人好しというのか。

皆のサポートに回るのはいいけど、それで倒れたら元も子もないだろうに。


「ほんと、もー……困った子ですわー」


彼が倒れたというのに。

心配するよりも――ふたりきりのこの時間が嬉しい、だなんて。



【ナイショのキモチ】

――推薦で大学決まって時間出来たから、今迄の分もあるし私が色々教えてあげるわね。

そんな口実で始めた、麻雀講師ゴッコ。


はじめは、放課後の部室で。

次はふたりきりの教室で。

その次は、彼の部屋のPCで。


そして、その次は――


「あの、部長」

「もう、部長じゃないけど」

「……先輩」

「もう、卒業しちゃったけど」

「……竹井さん」

「もぅ」

「……久、さん」

「何かしら?」

「お泊まりは、さすがに……」

「……イヤ、だった……?」

「……もう、色々とズルイっす……」


まだ、まだ足りない。

最終的には、二人一緒に人生の墓の下に――なんて。


【もうちょっと、近づいて】

「愛してるー!」

「私もー!」


彼女を思いっきり抱き締めて、グルグルと振り回す。

何故こんなことをしてるのかというと、大会でアレな戦績だった彼女に『慰めろ』と言われたから。

はじめは面食らった様子の彼女も、ヤケクソ気味に応えてくれる。

他の部員の呆れた目線も気にしない。

近くを通り掛かった他校の選手には、むしろ見せ付けてやるように。


「いぇーい!」

「いぇい!」


ホラ見ろよ、お前ら。

俺の彼女は、こんなにも可愛いんだぜ。


【絶対無敵のラブラブラブ!】

我ながら性格が悪いなぁ、と思う時がある。


「きょーたろー」

「京太郎くん」


アイツにちょっかいをかける女子は多い。

背も高いし、まぁイケメンだし……性格も悪くないし。

だけど私は焦らない。

ハッキリと確かなものを、もう受け取っているから。


髪型変えた?って聞かれて喜んでるあなた。
――私なんて、考えすら読みとられてるからね。

なんだかんだで優しいから、勘違いしちゃうのも仕方ないのだ。
――その優しさだって、独り占めしちゃうから。


女子に囲まれて困り顔のアイツだけど、助け舟を出すのはもうちょっと経ってから。

乙女心というものを、もう少しだけ知るべきなのだ、アイツは。



【気が付いたら、目が合って】

「うーむむむ……」

「どーした色男ー」

「否定できねぇ……いや、コレで良かったのかなーって」

「ん? 不服?」

「いや、んなことはないけど……」


誰も選べず、選ばなかった彼。

彼しか選ばなかった彼女たち。

常識というハードルをパウチカムイで踏み倒せば、後の道は一つだけ。


「両手どころか、爪先からテッペンまで花だらけだよ」

「まーま。素直に喜んどきなって」


お天道様に顔向けは出来ないが、間違いなく彼女たちは幸せだ。

彼を中心に、誰も欠けることなく平等に愛し合っている。

だから彼女は、満足気に高らかに、こう叫ぶのだ。



【完全無欠のハッピーエンド!】

といったところでこのスレは終了でございます

ヤンデレ修羅場とかあまり得意ではなかったのですが皆様のおかげでここまで続けられました

修羅場ラヴァーズシリーズはこれで終わります
次はヤンデレ修羅場に限らず(今までもヤンデレ修羅場以外のネタ多くありましたが)色んなシチュの京カプで書いてきます
スレタイは【だらだらばーず】で立てると思いますがいつ立てるかはまだ未定です


それでは、このスレの更新はここまででー
今までお付き合いありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年05月16日 (火) 19:47:55   ID: VlxR6Q7f

ずっと待っていた。

2 :  SS好きの774さん   2019年02月05日 (火) 02:05:46   ID: 2-PVccwl

とりあえず咲が死ぬほど嫌いなのは良く分かった。

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