【咲-Saki-】咲「病むほど愛して」【百合】 (237)

ヤンデレ娘に愛される咲さんのスレ
1話完結の短編もの
現行スレが滞ってるんで息抜き用
なので投下は遅いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455718057

淡「咲ー!」

咲「淡ちゃん?」


カフェでお茶していた咲に声を掛けると、

先ほどまで店内に向いていた視線が私を映した。

それだけで嬉しい。


咲「どうしたの?」

淡「もちろん咲に会いにきたんだよ!」

そう言って視線を落とすと、グラスに入ったジュースが空になっていた。

淡「それ、グレープフルーツジュース?」

咲「うん。最近凝ってるんだ」

淡「ダメだよ~?最近また寒くなってきたし。ここのところ毎日飲んでるじゃない!」

咲「え…?」

淡「お腹壊しちゃうかもしれないし、少し控えた方がいいよ~」

咲「…淡ちゃん?どうして毎日飲んでるって」

淡「咲のことならなんだって分かるんだから!」


こてりと傾げられた首は細い。

白くて綺麗。

触ってみたいけど、急に触れたら驚いちゃうかな。

淡「ずっと心配してるだよ。私が傍に居られないからって原村になびくような咲じゃないって分かってるけど!」

淡「今日のお昼とか原村とパン半分こしてたじゃない!羨ましい!」

咲「…淡ちゃん」


咲は何か言いたげな視線を私に向けていた。

どんな顔してても咲はかわいい。


淡「だいたい最近原村のやつ、咲にべたべたしすぎじゃない?」

淡「お昼の時だって飲み物回し飲みしたり、あーんし合いっこしたりさー。私だってしてもらったことないのに!」

咲「…淡ちゃ、」

淡「昨日だって、急に飛び出してきた車から咲を守ったのはよくやったけどさ」

淡「あんなに強く引っ張ったら咲の腕に痣が残るじゃない!白くて綺麗な肌なのに!」

淡「しかもそのあと抱き寄せたりしてさぁ、アイツ危ないよ!絶対咲のこと狙ってるって!気を付けなきゃダメだよ?」

あ、さっきまで読んでたその本、面白かった?

嬉しそうに買って帰ってたもんね。

当たりだった?

初めて買う作者の本だよね、咲の部屋にはなかったし。

でも夜更かしするのはダメだよ?

いつもより二時間も遅く寝たでしょ。

授業中に寝れるからって睡眠不足は肌に悪いよ!

それに、

咲「淡ちゃん!!」


普段なら出さないような大きな声が店内に響く。

血の気が引くように青くなった咲の顔色。


淡「大丈夫だよ。私は咲のこと、何だって知ってるんだから」


未だに信じられないように私を見る咲に「どうしたの?」とそ知らぬ顔で微笑んで。

震える白いその指先にキスを贈った。



ねぇ、咲。大丈夫。ぜーんぶ、見てるよ。


カン!

まずはオーソドックスなSTK。
後でDV系も投下しに来ます。
なお前スレ同様に本命の和咲はラストにしようかと。

大学の授業が午前で終わり、暇を持て余してその辺をぶらぶらしていた最中。

咲が歩いているのを見かけた。

決して見逃す事のない、私の恋人。

どうやら向こうは私に気付いていないらしい。

両隣には、咲と仲の良い大星とネリー。

まるで当然のような顔をして咲に触れている。

ああ、胸糞悪い。


*****


智葉「咲」

あいつらと別れた時を見計らって、人目に付かないように物影から咲を呼ぶ。

途端にびくりと震えたのを見咎めるように眉を顰め、少し強めの力で腕を掴んだ。

智葉「なぁ、あいつらと話すなって言ったよな?お前あの時頷いたよな?」

腕の中に囲った咲を見下ろしながらそう言うと、

目に見えて震えた咲は「ごめんなさい」と謝った。

なぁ、それ何度目だ?


智葉「咲」

咲「智葉さ…ぐぅっ!」

力任せに壁に押し付けて、顎を掴んで上を向かせる。

咲の足が少し浮きそうになっていた。

はは、爪先立ちしてるぞ。

かわいいな、咲。

智葉「咲?」

咲「…っ」

智葉「痛いか?でもお前も悪いよな?私との約束を破ったんだし」


白くて華奢な手が私の腕に爪を立てる。

ああ、傷が付くじゃないか。

まあ咲が付けた傷なら構わないが。


智葉「どうして分からないんだ?何度言えば分かるんだ?なあ、聞いてるか?」

咲「…聞いて、ます…っ」

智葉「ほう?」


苦しそうに顔を歪めて、それでも気丈に振舞おうとする。

涙目で私を見上げてくる咲は本当に分かっているのだろうか。

その態度こそが私を煽っているのだという事実を。

智葉「仕方がないな、咲は」

目尻に溜まった涙を舐めると、ひっと引き攣るような悲鳴があがった。

智葉「腕、折ってしまおうか?」

咲「やっ」

智葉「でもそうしたら麻雀は出来なくなるな」

咲「や、やだ…っ」

智葉「私もそれは嫌だな。足にするか。なあ咲?」

咲「智葉さん、やめて…」


体を押さえつけている腕とは別の腕をその細い足に這わせると、

咲は真っ青な顔で必死に抵抗しだした。

怖がって怯えきった顔でぼろぼろと泣く咲は、けれども私の腕の中から逃げられない。

まあ、逃がすつもりなんてないがな。

智葉「ふっ。何を泣いてるんだ、可愛いなお前は」

咲「…っ」

智葉「折らないでいてやるよ。歩くのに不便だろ?」


濡れそぼった瞼にキスして、壁に押し付けていた体を抱き寄せる。

そのまま折れそうな首筋に噛み付いて歯を立てた。

上がった悲鳴はてのひらで塞ぐ。

私の歯形がついて血の滲むそこを舐め上げると、口内に鉄臭さが広がった。


智葉「咲」

咲「智葉さん…」

智葉「もっと呼べ」

咲「智葉、さん」

私が乞うだけ、私を呼べ。

私だけを呼べ。

その口で、他の奴と話すな。

お前の声を他の奴に聞かせるな。

じゃないとその内、冗談じゃなく喉を潰してしまうぞ?


智葉「もっともっと鳴けよ、咲」


そうやってお前は私だけ見てればいいんだ。

なあ咲?


ほら、その目には私しか映っていない。


カン!

次は透華か揺杏で。
鬼神はもう少々お待ちください…

原村和の友人。

初めはその程度の認識しかしていなかった。

それがいつしか麻雀界を騒がす存在となり、咲を強く意識するようになった。

彼女の活躍を目にするたび、その眩しい姿が瞳に焼き付いて離れない。


欲しい。

咲の身も心も。

彼女の存在全てを手に入れたい。


だから、捕まえてきた。

それだけのこと。

女子高生ひとり拉致させるなんて、我が龍門渕にかかれば容易いことだった。

大きなダンボールが、いかにも家具でも運んできましたというような業者の制服と台車で運び込まれる。

「暴れないようにしてありますので、あとはご自由にどうぞ。お嬢様」

言われなくても自由にするつもりだったが、箱を開けて納得したものだった。

咲はその全身を厳重に拘束されていた。

手も足もそれぞれがベルトで止められていて、全く動けないようになっている。

これなら暴れられないし、ろくに身じろぎもできないだろうと言った様だった。

さらには視界も目隠しで覆われていたし、口には猿轡までしてある。

想い人のそんな有様を見て、思わず口元に酷薄な笑みを浮かべる。

とりあえず犯してしまおう。

自分のものにしてから他のことを考えよう。

咲を抱き上げて、寝室のベッドに落とす。

その拍子に咲は小さく呻いて身じろぎをしたから意識は戻ったらしい。

それには構わず無言のまま足の拘束だけ解く。

ハサミを持ち、傷つけないように気をつけて布に切り込みを入れると、

あとは力任せに切り裂いて邪魔な衣服を取り除いた。

咲は聴覚はそのままで、もちろん肌の感覚だってある。

自分が何をされているのかは視覚が封じられている分、

おそらく通常の時よりも必死に感じ取っているのだろう。

途端に足をばたつかせようとしたから、尻のあたりを一度強く叩く。

暴力も辞さない構えなのは伝わったのだろう。

すぐさま抵抗は止んだ。


下着も脱がせてしまうと咲が震え出した。

何をされるか薄々察しているのだろう。

可哀想だとは思う。

けれど彼女も悪いのだ。

この自分にこんな事をさせる程、魅惑的な存在となってしまったのだから。


滑らかな尻から太もものラインを撫でると、咲が口の拘束越しに何かを言う。

思わず手が止まった。

どうしてだろう、咲が何と言ったか分かってしまったからだ。

『んんんー、んん』としか聞こえない音なのに。


咲『りゅーもん、さん』

透華「!!どうして…」


どうして自分だと分かったのか。

思わず出てしまった声に、咲がもう一度透華を呼ぶ。

ずっと触れたかった咲が目の前にいるというのに。

どこに手を伸ばせばいいのか分からず、暫し立ち尽くす。


透華(……それでも)


こくりと息を呑む。

今さら後戻りなんてできない。

だから、咲を手に入れることのほうが先なのだ。


再び素肌に触れた手の感触に、咲は大きく震える。

腕を拘束したベルトがギシリと音を立てる。


きっと信じられないという顔をしているのだろう。

けれどその顔は見えないし、見たくもなかった。


本当に視界を閉ざされているのは、自分なのかもしれない。


カン!

次は有珠山の誰かで。

学生時代から五年付き合っていた恋人と、丁度一時間前に別れた。

最悪の別れ方。

予定よりも早く仕事が終わり、彼女と同棲する家に帰宅すると。

恋人は寝室のベッドの上で私の知らない女性と全裸で寝ていた。


憩『ち、違うんや……っ!これには訳があって……っ』


教えてください。

恋人が仕事で数日家を空けている間に部屋に女を連れ込んで“如何にも”という状況を作っているにも関わらず

笑って許してもらえる“訳”とは一体どんな“訳”ですか。

こみ上げて来る嗚咽を必死の思いで呑み込み、「さようなら」と私は微笑んで言う。

“今までありがとう”と、“もう二度と会いません”の意味を込めて。

この家にある大切なもの、必要なものだけを急いで掻き集めて旅行バックに詰め込む。

その間彼女は何度も弁解の言葉を口にしていたけれど。

色んな感情が沸き上がり、頭が沸騰しそうな私は何一つ聞き入れるつもりはなかった。

背中の後ろで閉まった扉が、私と彼女との絆を断ち切った――そんな気がした。



そのまま一度も振り返らず走り続け、現在に至っている。

ここが何処だか正直見当もつかない。

感情のままに走り続けていたら何時の間にか雨が降り始めていて、私は見知らぬ公園に立ちすくんでいた。

時刻は既に零時を過ぎている。真っ暗闇の公園に人影などない。



これからどうしようか。

勢いでアパートを飛び出してしまったが、今まではあの家が私の帰る場所だったのだ。

しかしあの家にもう帰るつもりはない。

かといって急に実家に帰れば心配され、何かあったのだと怪しまれてしまう。

早々に新しい家を探さねばなるまい。

公園のベンチに腰掛け、ため息とともに脱力する。

二月の身に染みるような寒さが私の思考を妨げた。

このまま公園に居れば凍死してしまうかもしれない。

そうでなくとも体力のない私のことだ、仕事に支障が出るくらいには体調を崩すだろう。

「どうしよう」というその先の無い言葉だけを、何度も何度も口に出して反芻する。


「……宮永さん?」


背後から声を掛けられ咄嗟に身構え振り向くと、暗闇の中からひとりの女性が現れた。

電灯に照らされたその顔を見て、私は驚いた。


咲「有珠山の……桧森さん……?」

誓子「ええ。久しぶりね。こんな時間にこんな暗闇で何をしてるの?」

咲「……帰るところが無くて……これからどうしようかと考えていたところです」

誓子「家は?」

咲「その……、同棲相手の所から飛び出してきたので……」

誓子「そっか。これからどうするの?」

咲「とりあえず、ネカフェにでも行こうかと……」

何時の間にか桧森さんは私の隣に座っていた。

そして仕事場は何処にあるのかとか、以前は何処に住んでいたのかとか、質問攻めにしてくる。

といっても私ばかりが自分の情報を提示したわけではない。

私が質問に答えれば、律儀に桧森さんも彼女自身の情報を出来る限り教えて来る。


何でこんなに質問してくるんだろう。何か意味があるのだろうか。

本当は大して親しくもない人に自分のことを教えてはいけないのだろうけど、

弱っていた心が彼女にペラペラと自分のことを語らせる。


一通り質問が終わると、桧森さんが優し気な表情で語りかけてきた。

誓子「ねえ、宮永さん。新しい家が見つかるまででも私のアパートに住んでみる気はない?」

咲「えっ……?でも、そんなのご迷惑じゃ……」

誓子「結構広いアパートなんで平気よ。それに、東京に出て一人で寂しかったのもあるし」

咲「……本当にお邪魔しても構わないんですか?」

誓子「ええ。宮永さんなら歓迎するわよ」

咲「……それじゃあ、よろしくお願いします」

寒かったから。

今夜泊まるところがなかったから。

心が弱っていた時に優しく声をかけられたから。

何が決め手になったのかは自分でも分からないけれど、私は彼女の提案に乗ることにした。


誓子「じゃあ、今すぐ行きましょう。こんなところに居たら絶対に風邪ひくでしょ」


彼女はそう言うと、私の荷物の中で一番大きいものを持って、さっさと先に行ってしまった。

私は慌ててキャリーケースを持ち、桧森さんを小走りで追いかけて行く。

知らずのうちに眼頭に溜まっていた涙が落ちないように空を仰ぐ。

雲一つない空から、ちらちらと雪が降っていた。

アパートに着いて部屋に案内するとすぐに、ソファの上で咲は眠りについた。

余程疲れていたのだろう。着替えもせずにすやすやと眠っている。

頭を撫でても少しも起きる気配はない。

私は彼女の茶色の髪に指を通し、意地の悪い笑みを浮かべる。

可哀想な子猫。

初めから彼女の境遇など知り尽くしていたというのに。



ずっと以前から咲に恋して、咲が欲しくて。

でも彼女は別の女と恋人関係にあった。

だから私はその邪魔な女の元に罠を仕掛けた。

女は見事にその罠に嵌ってくれた。

私の宛がった女性と一晩かぎりの浮気をして。

思惑どおりに咲との関係を壊してくれた。

prrrrrrrrrr

咲の携帯の着信音が鳴り響く。画面には女の名前。

三十秒ぐらいたって、その着信音は途絶えた。

だがその数秒後にはまた同じ女から着信がくる。

画面を見ると、不在着信が何件も溜まっていた。

咲はその総てに居留守を使って無視していたようだ。

私は未だ着信が鳴り響いたままの携帯を手に取り、通話ボタンを押す。


憩『咲……!よかった!やっと、つな……』

誓子「煩いわね。アンタもう振られたんでしょ。二度と咲に近寄らないで。じゃあね、咲の愚かな元カノさん」


一方的に喋って通話を切った。

切際に何か叫んでいた気がするけど、そんなこと私には関係ない。

少し声が大きかったのだろうか。微動だにせず眠っていた咲が少し身じろぎをして寝返りをうつ。

私は彼女の頭を撫で、静かに寝室を出て行く。

手に握られた咲の携帯の画面には、またあの女からの着信が表示されていた。

思わず舌打ちをした。画面を見る私の顔の人相が悪くなってくるのが自分でもよく分かる。

あの程度の牽制で諦めるとは傍から思っていないが――

私はその足で真っ直ぐ風呂場に向かった。咲の為に態々沸かした風呂。

結局入る前に寝てしまって無駄骨だったが。

私は湯気が立ち上る浴槽に、携帯を投げ入れた。

咲の周りにある他人の痕跡は一つひとつ綺麗に消していこう。

その代りに、私のモノだという印を一つひとつ彼女に植え付けていけばいい。


ああ、愛してる。

私の可愛い咲。

私のこと以外考えられないようになるくらい、いっぱい甘やかしてあげる。

だから早く私の処まで堕ちてきて?


子猫は狂気に気づかず昏々と眠る。


カン!

次は阿知賀の誰かで。

私は同じクラスの宮永咲が好き。

いや、好きという言葉ではあまりに足らないくらい。

私と彼女はいろんな意味で正反対で、その自分にはない部分にとてつもなく惹かれていった。

でも咲は恋愛沙汰には全く興味がないようだった。

彼女を私のものにするにはどうしたらいいかと、私は考えに考えた。

そして思い到った。

何かにつけて目立つこともありクラスの中心にいた私は、取り巻きを使って彼女を陥れることにした。

一方的に被害者面をして、宮永さんは実はこういう人なんだ、あんな顔をして本性は酷い人だと。

上手く同情を誘うようにして言えば、頭の悪い彼女たちはあっさり本気にした。

そうしてクラス中の咲に対するイジメは始まった。

笑ってしまうくらい思い通りに事は進んだ。

もちろん私は直接手を下すことはない。

ただ絶対に彼女の身体に直接傷をつけることはするなとだけ、言っておいた。

咲が苦しそうな表情を見せ始め、少しずつ精神的に弱っていくのが分かった。

彼女に対するイジメはどんどん加速していく。

咲は授業だけに出て、それ以外は教室以外の別のどこかにいるようになった。


ある時待ち焦がれたチャンスが訪れた。

咲が昼休みに一人で、何にも使われていない鍵付きの小さな教室に入っていくところを見たのだ。

誰も通らないような一階の角の通路。

私は周囲に人がいないことを確かめ、そっとその教室というよりは空き部屋に近いそこに近づいて行った。

妙な緊張で震える足を堪えて、その扉をノックした。


憧「…宮永さん?」


返事はなかった。でも彼女は必ずここにいる。

私は確信していた。

憧「私、同じクラスの新子憧よ。宮永さんがここに入って行くとこ見たの。顔を見せて欲しいな」

憧「大丈夫、私はあなたの事クラスの皆が言うみたいに悪い人だなんて思ってないし、勿論この事を誰にも言ったりしない」


無意識だろうと彼女はクラスメイトとはなるべく距離を置きたいと思っているに違いない。

出来るだけ優しい声色で言った。


憧「…でも、どうしても嫌ならいいわよ?嫌なこと強制したくないし」


私は黙って彼女の返事を待つ。

するとしばらくの間の後、恐る恐ると言ったように小さな、でも優しく通る咲の声が聞こえた。


咲「…そこにいるのは新子さんだけですか?他に誰か…」

憧「もちろん私だけよ、大丈夫、信用して?…開けてくれる?」


少し間があって、ガチャリと鍵が解ける音がした。私は扉を開ける。

やはり思っていた人がそこにはいて、じっと私を見つめてきた。

憧「やっぱりここにいたのね。休み時間とかいなくなるの知ってたから、どこにいるのかって心配してたの」

咲「新子さん…」

憧「でも良かった、ここならクラスの奴らもいないし、ゆっくりできるわね」


目の前にいる彼女に向けて優しい笑みを浮かべ、無造作に椅子に腰を降ろす。

咲は何も言わず静かに私の向かいの椅子に座った。


憧「今日は、大丈夫?何かされた?」

咲「ううん…大丈夫」

憧「ん…そっか」


無理をしている、明らかに。

唇を噛み締め俯く咲が本当に可哀想だと思う。

可哀想で、愛しくて。

私は取りあえずと空気を変える風に明るい調子で言った。


憧「ねえ。宮永さんのこと、咲って呼んでもいい?」

咲「え…?」


にっこりと笑顔でそういうと、咲はきょとんとしていた。

ちょっと困惑したような、でもしっかり私の方を見つめてくれる彼女に心臓の鼓動はあがりっぱなしだ。

こんな狭い部屋で、それも二人っきりで誰にも邪魔されないでこうして見つめ合って話が出来るなんて。

私の頭は訳が分からない位ヒートアップして、震える指を隠すので必死だった。

憧「咲って実は芯が強いわよね。あんな事されて辛いに決まってるのに、毎日学校に来て、授業受けて…」

憧「それに咲って本当は優しい人よね。私知ってるのよ。咲の事いじめてる、あの頭悪そうな顔した女」

憧「自分をいじめてる相手なのに、あいつが教科書忘れたとき自分の見せてあげてたわよね?」


まあそれにムカついて、その女を学校に来れない状態にしてあることは黙っておいた。

咲の優しさを分けてもらうなんて許せない。

誰にも渡さない。彼女の優しさに誰も気づかせない。私だけに注がれればいい。


咲はやはり吃驚した顔で。

でもずっとずっと彼女を見てきた私には、咲の警戒心が除く表情がほんの少しだけ和らいだのが分かった。

しばらく言葉を詰まらせた後、咲は言った。


咲「…まさか、私なんかにこんな事言ってくれるがいるとは思わなくて、…ちょっとびっくりしちゃった」


そう言ってはにかんだ咲が愛しくて堪らなくなってしまって、心拍数だけが異常に上がった。

か細くも優しい音色で彼女は続けた。

咲「私なんかを見てくれてる人がいると思うと本当に嬉しい。それも、新子さんみたいな人が…」


その言葉をきいた途端、私は咄嗟に立ち上がった。

咲に近づいて行き、椅子に座る彼女の傍で言った。


憧「…ねえ、咲。私、咲の事守ってあげたい」

咲「えっ?」

憧「ずっと言いたかった、私は咲のことが好き。だから私が咲を皆から守ってあげる」


私は咲を包むように、でも力強く抱き込んだ。

さらさらとした髪からは優しい彼女の匂いがした。

咲は驚愕か困惑か何も言わず、ただ私の腕の中に収まっていた。


憧「ごめんね咲。こんな事急に言って、でもずっとずっと言いたくて、言えなくて…」

咲「っ…ううん、謝られるような事じゃ…」

憧「もしかして私の言うこと、信じられない?」

咲「…そうじゃないけど、でも…」


傷ついている人間に好意を持たせるのは意外と簡単だったりする。

きっと咲も心の奥底では、自分を守ってくれるような味方を無意識にでも欲しているだろう。

だから少々強引に事を進めても彼女は退いたりしない、縋ってくるはずだという自信があった。

憧「ありがと咲、私のこと信じてくれるのね」


ぐいっと咲の顎を持ち上げ、彼女の目を見つめながら、そのふっくらとした唇に口付けた。

やわらかい。甘くておいしい。溺れてしまいそう。


憧「じゃあ、私はこれからずっと咲の傍を離れない。ずっとずっと守って、愛してあげる。ね、いいでしょ?」

咲「あ…」


彼女は心底驚いた様子で、でもしばらく間があった後確かに頷いた。

傷ついた咲のこころは思ったよりも小さくてボロボロで、引きずり堕とすのは簡単だった。


憧「これからは何も心配しなくていいからね。ずっと近くにいて、守ってあげる」

憧「誰にも触れさせない、誰にも傷つかせない。私だけが愛してあげる。だから、…ね?」


私は再び咲に口付ける。

咲は酷く困惑しているようだったが、緊張が取れたのか抵抗せず私にされるがままだった。

ねっとりと舌を絡め、吸うようにして咲の舌をこちらの腔内に招く。

喰すように咲を求め、咲の唾液を味わいながら、自分のそれと混じり合わせた。

咲は息が洩れるのを我慢するように必死で私に応える。

淡く色づいた唇を妖艶に濡らして、従順に私に従う咲。

解放してあげると口端を濡らし、何か言いたげにその唇を震えさせている。


咲「あの、新子さん…」

憧「なあに?」

咲「どうして…」

彼女は少し言葉を詰まらせた。私は遮るように言う。

憧「どうしてこんなことをするのか、って聞きたいんでしょ?簡単だよ。私はね、咲の事大好きなの」

憧「愛してるって言ったわよね?だからこういう事したいって思うのは、別に変なことじゃないよね?」

咲「で、でも…」

憧「ああ、咲がどうしても出来ないっていうなら、私すぐに止めるから」

戸惑いつつ瞳を僅かに揺らす咲を後ろ目にして、私は一方的に続けた。

憧「咲が嫌っていうなら止めてあげる。咲の嫌なことはしたくないもん。でも…」

憧「こういう事出来ないなら、咲とは一緒にいられない。近くにいたらいつまたこうやって、咲にとって嫌なことするか分からないから」

咲「え…?」

憧「だから今までみたいに何も話さないし、関わらないようにするわ。残念だけど咲のこと、守れなくなる」

憧「そしたらまた今まで通り咲はいじめられ続けると思う。そばに付いててあげられないからね」


はっと息を飲む音がして、咲の薄く染まった顔は途端に青ざめた。

苦しみから解放されるという希望をちらつかせたことで、また同じ苦痛を味わい続けるのが異様に怖くなって。

どん底を味わうようなものなのだろう。怯える顔で咲は言葉を紡いだ。


咲「っ…。ううん。私…こういう事されるの、嫌じゃない、よ」

彼女は震えていた。

憧「ううん、無理はしなくていいの。何回も言うけど、咲が嫌なことはしたくないから」

咲「嫌じゃない…。嘘じゃない、よ」

憧「本当に?私のこと、好きになってくれる?」

咲「…うん、新子さん…」


やっとやっと、私のものになったね。


憧「咲…大好きよ。ね、もっとキスしていい?」


顔を真っ白にしてうなずく咲を見つめながら。

これから始まるであろう愛しい愛しい彼女との日々を想い、その白くて綺麗な首筋にキスをした。


カン!

次は千里山の誰かで。

そればっか
どうせずるずる放置するんだろ?
もう咲がメインのssはVIP行って書けよ
どうせエタるんだから目障りだわ

12日に来なきゃ糞味噌に言えばいい
不満なら2週でhmtl化ってルールにでも変えてもらえや

>>1「完結させまぁす!」
>>134「どうせ咲厨は投げ出すクズ」
>>135「まだ時間あるから失せろ」
>>1失踪

もはやテンプレ

今日も今日とて私は咲の横を陣取って帰路に着く。

この立ち位置はとても気に入っていて、他の誰かに譲るつもりは無い。

私の話に相槌を打ったり少し笑う咲の頬は今日も少し淡く紅色に染まっている。


――ああ、咲は今日も私に恋をしている。


それを毎日のように確認している私はきっと性質の悪い女なのだろう。

咲の私に対する恋心に気付いたのは、私が初めて恋人が出来たと報告したときだった。

笑顔が崩れ、少し泣き出しそうに顔を歪められれば誰だって気付く。

すぐに表情を取り繕った咲は今も私がその気持ちに気付いているとは思ってもいないだろう。

当然か、私も知ってるとは言っていないのだから。

いつもの帰り道、今日は咲がやたら遠い顔をするのできっと私の事でも考えているんだろうと思った。

でも例え私の事を考えるにしても、本人を目の前にしているんだから、少しはこちらに意識を向かせたい。

ふと足元に転がる物体に、咲を隣に立たせて見せてやる。

そこには今まさに繁みに逃げていくトカゲと、その置き土産の切り離された尻尾があった。

ピクピクと蠢くその物体は酷く滑稽で嘲笑いたくなる。

見下ろす視線の先で、咲はまた遠い目をしていた。

でも私には咲の考えている事が容易に想像がついた。

咲に帰ろうと促しながら、他愛も無い話を続ける。

きっと咲は話を半分も聞いていないだろう。

その思考を埋めるのは、恐らく先程のトカゲの尻尾。


『――まるで己の恋心のようだ』


きっと咲はそんな事でも考えているに違いない。

何せ私もそう思ったのだから、きっとそうだ。

それに、トカゲの尻尾が咲の恋心とは中々に的を射ているんじゃないかと私は自画自賛した。

咲は何度も私に恋をして、そして何度も失恋する。

咲の綺麗なシッポを切り離すのが私ならば、また生やすのも私なのだ。

それが辛くて、私から離れたいと思っているのも知っている。

けど、そんなのは私が許さない。

私は私の手で咲の恋心という尻尾を切り離すが、その切り離したシッポが動きを止めるまでの間に絶対に次のシッポを生やさせる。

決して傍を離れない。

私への想いに終止符を打つことは許さない。

大丈夫、簡単な事だ。

恋人と別れたと笑顔で言ってやれば、咲は容易く私に堕ちて来る。

ただその感覚を見誤らないようにする事は注意している。

早すぎれば咲が落ち込んで私への想いに悩む時間が減ってしまうし、遅すぎれば本当に心の整理をつけてしまうかもしれない。

だからいつも念入りに傍にいて、その心の移り変わりを見定めるのだ。

ギリギリの限界まで、咲を恋心でいたぶり続ける。

傍に居れば居るだけ切なさに顔を歪める咲は見ていて飽きない。

ああ、恋焦がれている人の恋煩う表情とはこんな顔なのか。

ゾクゾクとする様な感覚が下腹から生まれ、胸や背筋に這い登る。

大丈夫。時期を見誤らなければ咲を逃がすことは無い。


竜華「咲は、うちが嫌い…?」


少し目尻に涙を溜めて見せれば咲は酷く簡単に動揺して逃げることは止めるし、

その後に満面の笑みを浮かべてやれば容易く堕ちる。

知っている。

咲が私の涙に弱い事を知っている。

咲が私の笑顔に弱い事も知っている。

いつも眩しそうに、愛しそうに見つめられれば咲のツボなんて丸分かりだ。

その胸に巣食う恋心に苦しんでいるんだろうが、私は気にせずグリグリと逃げる暇も無くそのツボを押してやる。

そうすれば、苦しそうに喘ぐのだ。

痛みに、切なさに、そして私への堪えきれない愛しさに顔を歪め、熱い吐息で喘ぐのだ。

全身を震わせ、胸を押さえて涙を堪える姿はなんて官能的なことか、咲は恐らく自覚してはいないだろう。

ああ、ゾクゾクする。

その恋心は私にとっては甘い蜜だった。

ギュッと手の平で握り締めれば堪えきれないかのように蜜を滴らせ、私はそれに舌を這わせ堪能する。

咲が好きだ。

甘い蜜に口角を吊り上げながら、私は嗤う。

自分も自覚したのは、あの咲の失恋した顔を見てからだったが、とにかく私は咲が好きだ。

その華奢な体も、白い肌も、淡い朱色の瞳も、一つ残らず愛している。

穏やかな性格も、優しすぎる心も、そして一途な想いも、全部全部愛してる。

でもだからこそ気に喰わない。

私に想いを伝えないばかりか、最初から諦めているその姿勢が気に喰わない。

私への想いから逃げられるとでも思っているのだろうか?

それならば心外だ。決して逃がすつもりは無い。

だから私は咲に失恋を味合わせる。

絶望したその傷に、絶妙の頃合でまた恋心という蜜を流し込むのだ。

その蜜は甘いだろう。きっと甘いだろう。

でも量が過ぎればただの凶器だ。

その凶器でもっと苦しめばいいのだ。

自分は決して私への恋から逃げられないのだと。

何度失恋しても私を愛しているんだと、思い知ればいいのだ。

諦める事は許さない。逃げる事も許さない。

覚悟を決めて、私を骨の髄まで愛していると自覚しろ。

そうすればようやくこの腕で抱きしめてあげるのだ。

二度と逃げ出さないように、苦しまないように、トロトロに甘やかして縋らせる。

そう、これはトカゲの恋。


知っとる?咲

分かっててトカゲのシッポが自分の恋心だって例えてるん?

きっと分かってないよな?

トカゲはいつだって逃げる時にそのシッポを切り離すんや。

もう一度言うで?

逃げることは許さへん。

そのシッポを切り離さない覚悟が出来たのなら思う存分愛してあげる。

さあ、次はどうする?


竜華「ところで咲、うち今日新しい彼女が出来たんよ」

咲「…そう、ですか」


言った後に、咲からプチリと尾の切れる音が聞こえた気がした。

あらら残念。

ならば、次のシッポが生えるまでにもっとその身に刻んであげよう。


絶望に染まった顔で、私への愛から逃れられない咲は今日も息苦しそうに喘ぐのだ。


カン!

次はまた有珠山で。

夜遅く、その連絡は来た。

――今から会ってくれませんか、揺杏さん。

不意打ちではない。むしろいつ来るかと待ちわびていたくらいだった。

――OK。どこに行けばいい?

問いかけて、返って来たのは明らかに人目を避けたような海の傍の倉庫街。

わかりやすいなと笑いながら、揺杏は家を出て適当なタクシーを捕まえた。

運転手に伝えたのは、指定された場所から少し離れた、倉庫街の入口のあたり。

おそらくこんな深夜にそんなところに向かった客など運転手の記憶に残るだろうが。

そんな後のことはどうでもいい。

長く手をかけていたことが、あと少しで結果が出るのだと思えばそれ以外のことなんて気にならなかった。

三十分近くかけて目的の場所に行くと、相手の姿はすでにあった。

数歩進めば海に落ちる、そんな場所でじっと真っ暗な水面を見下ろしている。

揺杏「よっ、待たせたか?」

振り返った彼女を見て、揺杏は笑った。

揺杏「いい顔してんな、咲。手をかけた甲斐があったぜ」

咲「……揺杏さん」

彼女の表情は憔悴していた。

疲れきっていて、絶望して、諦めに光を失っている目。

揺杏は咲のこんな顔が見たかったのだ。



本当は、咲を手に入れたかった。

だから求めた。自分のものになれ、と。

咲は拒絶した。

予想はできていたことだったが揺杏は引き下がらなかった。

――私のものにならないなら、ボロボロに壊して後悔させてやる。

宣言して、実際言葉通りにした。

咲の大学の人間関係には、あることないこと噂を立てて孤立するように仕向けた。

咲の就職先は未だ決まっていない。揺杏が手を回した結果だ。

家族関係もぎこちなくなっている。

元々彼女の家族は微妙な関係だったからそこまで持っていくのは簡単だった。


そして、咲の高校の友人たち。

あれらにも少しずつ遠回しに嘘を吹き込んだ。

大学生になっていて、彼女らと咲の間にはある程度距離があった。

だからこそ『今でも身近な咲のことだけを信じる』というわけにはいかなかったようだ。

すべてから孤立して、咲は今、ひとりぼっちだ。

揺杏は何度か咲に忠告した。

――早く私のものになれば、楽になれるぜ?

咲は何度もそれを拒絶した。

そのたびに、揺杏は咲への手を厳しくした。

顔を見るたびに咲が弱っていくのがわかって面白かった。



そして今日、とうとう咲は揺杏を呼び出したのだ。

さあ、咲は何を言ってくるのだろう。

もうやめてください――それじゃあつまらない。

あなたのものになってもいい――それでも面白いかもしれない。

けれど揺杏が咲に求めているのは『それ以上』だ。

はたして、咲はそっと手を持ち上げた。

その手にはかすかな光に鈍く光るナイフ。

揺杏は再び笑った。

揺杏「そっちに転んだか。上出来だな」

咲「……逃げないんですか?」

揺杏「別に必要ないだろ。ただ、聞きたいことがある」

これだけはというように、咲に訊ねた。

揺杏「私を殺した後、咲はどうする。自首するか、それとも姿をくらますか」

咲「……いいえ。そのどちらでもありません」

ナイフを暗い目で見つめながら、咲は答えた。

咲「あなたを殺して私も死にます。あなたを止めても、もう私の居場所なんてない。これで終わりにします」

揺杏「へえ、そいつはいいな」



揺杏が求めていたことは、咲のすべてを手に入れること。

生きたまま自分のものになるのもよかったが、揺杏を殺すことで咲が自分の存在に一生囚われるというのはたまらなく面白い。

こんな人生に未練なんてない。これひとつで咲が手に入るなら安いものだった。

しかも咲は、命さえも揺杏にくれるというのだから。

揺杏「あとで死体が発見されたら、女同士の無理心中がどうとかって話題になるな」

咲「構いません。そんなことは、もうどうでもいいことです」

ナイフを構えて、咲は足を踏み出した。

揺杏はそれでも動かなかった。

ずぶりと腹に沈む刃が灼熱をもたらす。

それでも揺杏の唇は笑みを刻んでいた。

咲「……揺杏さんにお願いがあるんです」

ナイフをぐぐっと押し込みながら、咲は小さく囁いた。

咲「来世があるとしたら、今度はもっと普通に私を愛してください」


そうしてくれたなら、私はきっと……。

その言葉の先は、残念なことに揺杏の耳には届かなかった。


カン!

リクを頂いた揺杏で。
多忙につき月1程度の更新しか出来ませんがご了承ください。

咲に睡眠薬を飲ませた。

何をするわけでもない。

ただ眠らせただけ。



知られたら、今まで築き上げてきた信用は失われるだろう。

テーブルに突っ伏し、静かに寝息を立てる咲の頬をそっと撫でた。

感触が嫌なのかもぞもぞと寝返りをうちそっぽを向かれる。

煌「顔を逸らされると寂しいですね…咲」

優しい声色で囁く。

まるで恋人への睦言のように。

まるで相思相愛のように。



被せた毛布から覗く細い腕。

その手を取り、そっと甲に口づけた。

煌「咲…よく眠っていますね」

その髪を優しく撫ぜる。

何度も何度も。

安眠を妨げないように。

安らかなよい夢をみられるように。



夢など見ないほど、深く眠らせたと自覚しながら。

布団を掛け直してやり、寝苦しくないよう襟元をくつろげてやる。

まったく起きる気配の無い咲はあどけなく瞼を閉じ、安らかに呼吸をしていて。

咲の掌を握り、額に張り付いた髪を払ってやる。



起きればきっと、彼女はまた「ごめんなさい」と謝るのだろうか。

それとも「起こしてくれたらいいのに…」と恥ずかしそうに言うのだろうか。

煌「もっと甘えてくれればすばらなんですが…」

そうして自分も咲の隣に横になる。



愛しくて愛しくて。

何よりも大切なただ一人の存在。

何にも変えられない、変えはない唯一のひと。

心の底から愛しくて堪らない。

狂おしいまでに…まるで狂気の沙汰と言われてもおかしくない。

それほどの執着と妄執。そして依存。

愛しい愛しいその身体を目覚めるまで抱きしめて、その時を待つのだ。



煌「目覚めなかったら、ずっと私だけのものになるのに…」



そうして今日も、致死量寸前の睡眠薬を咲に飲ませる。


カン!

次は久かゆみで。

咲「まだ…来ない」

自室のベッドに寝転がり握りしめた携帯を見つめた。

久からのメールが来ない上に電話しても連絡が取れない。

久から返信があったのは3日前。それ以降は何も連絡がないまま。

いつものように久とメールしていて『明日からテストがあるので勉強します』とメールを送って、

『頑張りなさい』と久が返事を送ってくれたのが最後。

たったの3日間。

きっと久の方も忙しくて連絡ができないだけだ。

と自分に言い聞かせるが、それまでは毎日のようにメールしたり電話してたのに、それがぱたりと止んだ。

仮にもしも何か連絡取れないような用事があったら教えてくれたし、

そんな時でも一言だけでもメールは送ってくれてたのに。

このように連絡が全く取れないだなんて、初めての事だった。

最初1日経っても連絡が来ないので『今忙しいんですか?』とメール送ったが、返事は来なくて。

2日目に電話をかけてみたが久は出なかった。

そして3日目。メールも電話も一切音沙汰ない。

久が高校生だった頃であれば毎日学校に行けば会えたのに、久が上京した今ではそうもいかない。

簡単に会える距離ではない今、メールも電話も繋がらない状態にどうしていいのかわからなくなる。

彼女に何かしてしまったのだろうか。

何か気に入らないことでもしたのかと不安になって、原因を考えたけれどわからない。

今まで離れてもいつでも連絡が取れた携帯は安心をもたらしていたが、今の状態では不安しかもたらさない。

一時間おきにメールセンターへ問い合わせてもメール0件の表示。

1日目も2日目も落ち着かなかったが、3日目の今日は何をしても集中できないし落ち着かない。

せっかく今日発売されたお気に入りの作家の新作でさえも全く頭に入ってこないで同じページを何度も読み直してる始末。

どうしたんですか。

何かあったんですか。

どうしよう。

私が悪いの?

返事を、して。


不安で不安で仕方なくて。

返事が来ない、ただそれだけが頭をぐるぐる回って気分が悪くなってくる。


久さん、ねぇ久さん。

久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん久さん!!

♪~♪~♪♪~


物音ひとつなかった部屋に軽快な機械音が鳴り響いた。

ただ一人、設定してある着信音。

一人の相手からしか鳴らないこの音。


咲「久さん!?」


寝転がっていたベッドの上でガバッと起き上がり、

慌てて通話ボタンを押して叫ぶように彼女の名を呼ぶ。

久『咲…』

耳に押し当てるようにして握りしめた携帯から、

待ち望んだ久の声が聞こえた。


―――――――――――――――


咲『久さん!?』


いつもの落ち着いた静かな声からはかけ離れた慌てた、

というよりも切羽詰まった声に思わず口端が上がる。

久「咲」

落ち着かせるように、答えるように彼女の名を呼ぶと、

電話越しに小さく安堵の息をつくのが伝わりさらに笑みが浮かぶ。

久「久しぶりね。ごめんなさい、連絡が取れなくて」

咲『い、いえ…私もテストとかありましたし…忙しかったんですか?』

久「ええ、大学の用事や家の用事なんかで携帯を見る暇がなくてね」

咲『そう、ですか…それは仕方ないですよね』

久「本当にごめんなさい」

咲『いえ、大丈夫です。気にしないでください』

落ち着いたのか、いつもの調子に戻っている。

ねぇ、咲。

どれだけ私のことを考えていてくれた?


久「そう?あぁ、そういえば咲のお気に入りの作家が新作出してたけど、もう買った?」

咲『はい、予約してたので発売日に』

久「どんな話だった?」

咲『っ、えっと…それは…こ、これ推理物だから犯人教えちゃうと面白くないですよ?久さんだってまだ読んでないでしょう?』

久「ええ、そうね。それなら聞かない方がいいかしら」

咲『そうですよ、楽しみなくなっちゃいます』


必死ね、咲。

きっとまだ読んではないでしょう。

発売当日に買ったのだろうけど、携帯が気になって同じページを何度も読んでしまって。

全然小説に集中できなかったんでしょうね。

それを必死に隠そうとして…本当に可愛い。


あぁ、会いたいわ。

久「ねぇ、咲」

咲『何ですか?』

久「咲に会いたくなったわ」

咲『え?』

久「久しぶりに声を聞いたら何だかとても会いたくなって、ね」

咲『…久さん…』

久「会いに行ってもいいわよね?」

咲『え、あ、それは構いませんけど…でも学校が』

久「1日ぐらい大丈夫よ。明日会いに行くから」

咲『いいんですか?』

久「咲は会いたくないの?」

咲『…その言い方ずるいです。…私だって会いたいに、決まってるじゃないですか』

久「じゃあ問題ないわよね。朝一の始発でそっちに行くから」

咲『はい…待ってます』

久「じゃあまた明日ね。おやすみ咲」

咲『おやすみなさい、久さん』



柔らかな咲の声を最後に通話を切った。

昔とは違い、簡単には会えない距離となって考えた。

どうやったら、どんなに離れていても咲は私のことを考えてくれるだろうか、と。

色々考えてこの方法なら、と試してみた結果は想像以上に良好だったらしい。

電話に出た時の態度だけで十分わかる。

せっかく買った好きな本だって手につかない程に。

私からのメールを待ってた?私からの電話を待ってた?

私から連絡が来るのを今か今かと待ちわびてたの?

嬉しくて楽しくてクスクスと笑いがこぼれる。


もちろん私自身もこの3日間は辛かった。

ずっと話せないのもメールできないのも苦しかった。

3日間咲を感じない時間はいつもよりも1日がずっと長く感じた。


その間咲は何を考えていた?私のことをどれだけ想ってくれていた?

他の何も考えられないぐらいに私だけのことを考えていてくれた?

咲の中は私でいっぱいいっぱいになってた?

けれど私もそろそろ限界だったから。

咲を感じられないことに私が限界だったから今回はここまで。

明日はこの3日間咲を感じられなかった分、いっぱい話そう。

思いっきり抱きしめて、甘やかして甘やかして。

唇を重ねてどろどろに溶かしてぐずぐずに溶けてわからなくなるぐらいに啼かせて。

ふたつがひとつになるぐらいに交じり合いましょう。

あぁ、本当は今すぐにでも会いに行きたい。


ねぇ、咲。

もっともっともっともっともっとずっと深く。

骨の中まで体の奥にまですっと深く。

心の奥底まで私のことを考えて想って咲の中を私一色に染め上げたい。

宮永咲という存在を竹井久という存在でいっぱいに満たして。

他の何も入り込めないぐらいに。


咲の全てを、私で支配したいの。


カン!

あと和咲を書いて終わりにします

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