咲「Will you be my valentine?」恭子「今更やな」 (64)

末咲(恭咲)です
咲「末原さん」恭子「恭子!」参照。しなくてもいいです

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咲「ああ、もうすぐバレンタインか」

ちょっと前まで節分の豆が並んでいたと思っていたのにもうチョコが幅を利かせている

咲「随分と変わり身が早いなぁ」

なんて棚に座している大量のチョコを横目にそんなことを思う
そういえばクラスの女子たちが色めき立って騒いでいたような気もする


……私も贈らなければいけないだろうか。いけないだろうな
この日を無視すればまた何か言われるに違いない
私だって学習するのだ

こんなことで気持ちが量れるとは思わないけれど、しないよりはましだろう
気持ちは言葉にしたり形にしたりしなければ伝わらないのだから

態度で示すって手もあるけれど、あいにく私はそれが苦手だ
そんなのは得意な人に任せよう


――あ、ダメだ

唯でさえ懐が寒いのに今月は目当ての新刊が結構出るし
お財布がカラになってしまう。諦めよう

そんな訳にはいかないか

五円チョコとかじゃ駄目かな……駄目だよね。仕方ない

末原さんと麻雀部のみんな、クラスの友人分……
帰ってからお父さんに交渉だね

――――――
――――
――


食後に何やら騒がしいテレビを見ているお父さんに声をかける
大丈夫、あれは眺めているだけで真剣に見てはいないはずだ

咲「お父さん、今いい?」

界「んー?」

咲「私さ、高校で部活に入ったし、クラスの友達とかも増えたんだよね」

界「どうしたんだ?急に」

咲「それで今月は何かと入用で」

界「何に使うんだ?」

咲「付き合いってものがあるの」

界「付き合い~?なにをナマイキな」


咲「女子高生はイベント事が好きなんだよ。お願いします!」

界「……バレンタインって奴か」

咲「う……ん。最近は友チョコなんかも流行っててさ。お世話になった先輩にはちゃんとしたのあげたいし」

界「友チョコねぇ」

咲「お父さんにもあげるからさ、ついでに。いいでしょ?」

界「いらんいらん。それなら自分で好きなモン買うわ」

確かにわざわざ私を通してチョコを買う必要はないか

界「それに後からホワイトデーにお返しくれとか言い出すんだろ」

咲「そんなこと言わないよ」

お父さんのお金で私がチョコを買い、バレンタインとしてあげる……そしてホワイトデーのお返し
そう言われると違和感はあるよね


界「まぁ交際費も必要経費か。しょーがねーな」

咲「いいの!?やった」

界「学生時代の友達は大事にしとけよ。一生の付き合いになる奴がいるかもしれない」

咲「うん!」

界「……卒業してそのままって奴の方が圧倒的に多いがな」

咲「……うん」

言わずもがなの一言だ
柄じゃないとでも思ったのかな?


界「ほら」

咲「こんなに?」

これだけあれば欲しかった新書が全巻揃って手に入るかも……

界「お釣りは返せよ。あと領収書も貰っておかないと経費で落ちないからな~」

咲「はーい。ありがとう」

何はともあれ臨時収入だ
友達に配るということで予算が下りたので割と量を買わなくてはいけなくなってしまったけれど
余ったらお父さんの分にすればいいか

問題は末原さんにどうやって届けるかだ
宅配だと何だか味気ないし
かといってそれだけの為に届けに行くのもね……



恭子「寒い……!」

二月に入って一層冷え込んできたな
雪でも降るんちゃうか?
太陽はもうちょっと頑張れや

大体人間は寒いとこで活動できるように出来てないんや!

……コンビニ寄って帰ろ


寒さに震えながらもなんとか家に辿り着く
あったかいのは一瞬やったな……

恭子「バレンタイン、か」

流れるバレンタインソングにチョコの山
コンビニにあてられたようだ

思い出すのは咲の顔

恭子「バレンタインなんて私には関係ないイベントだと思ってたんやけどな……」

手作りのほうがええんかな?
でも咲の場合、素直に店の美味い奴買った方が喜ぶかもしれへんな

何とはなしに考えていると突然携帯が震えた


おお!?咲から電話!?
珍しいな。なんかあったんか?

恭子「はい」

咲『あ、末原さんですか?』

恭子「ん」

咲『今大丈夫ですか?』

恭子「うん、どうした?なんかあった?」

咲『いや、たいしたことないんですけど……』

大したことないのに咲が電話かけてくるか?


咲「え、と……」

恭子「……」

え?何?言い難いこと?

咲『その……』

ちょっと待って心の準備が……

咲『……ほら、もうすぐバレンタインじゃないですか』

恭子「……!?」

咲『末原さん?』

恭子「ああ!そういえばそうやな~」

咲『?』

恭子「なんやその話か!」


咲『はぁ……それでですね、迷惑じゃなかったら末原さんにあげたいなって』

恭子「迷惑なわけないやん!嬉しいって」

咲『そうですか。良かったです』

おお、さすがやな。淡々、というかあっさりしてる

恭子「いや~びっくりしたな」

咲『はい?』

恭子「いや、ほら咲が電話してくるなんてなかなか無いやんか」

咲『そうですかね』

恭子「そうやろ!」

記憶を辿っても……数えるほどしかないんちゃうか


恭子「咲の口からバレンタインなんて言葉が出てくるとはな」

咲『出ますよ。末原さんの私への認識ちょっとおかしくないですか』

恭子「だって興味ないと思ってたから」

咲『……そんなことは、ないですよ?』

やっぱりか。別に良いけど
それより興味なくてもやってくれようとするのが嬉しいし

恭子「うちも咲になんか贈ろうかと思ってたんやけどな」

咲『いいですよ。申し訳ないんで』

そういう間違った慎みは要らん。ってことで無視する


恭子「久々に会いたいなぁ」

咲『久々……?』

恭子「咲は会いたくないん?」

咲『いや……そういう言い方はズルいですよ』

恭子「よし、じゃあ行こうかな」

咲『あ、えと……』

恭子「なんか都合悪いんか?」


咲『今回は私が行ってもいいですか?』

恭子「お?おう、いいけど、どないしたん?」

なんや?行きたいイベントでもあるんか?
大阪で好きな作家か誰かのサイン会があるとか

咲『どうもしないですけど……え?何かおかしいですかね?』

恭子「いやいやそんなことないで」

咲『……』

恭子「楽しみやなぁ」



咲「じゃあまた」

恭子『ん。またな』

――結局会うことになってしまった
まぁいいか。来てもらってばかりじゃ悪いしね
臨時収入もあるし大丈夫だろう

いざとなれば食費で帳尻を合わせればいいんだ(新刊は譲れない)


でもバレンタインに贈りあうってことはホワイトデーにもお返ししあうってこと?
やはりこの友チョコシステム、どこかがおかしい気がするなぁ

あれ?末原さんにあげるってことは洋榎さんにもあげなきゃいけないのかな?
となると真瀬さんにも……洋榎さんに一緒に渡してもらおうかな

クラスの子は買った物でいいとしてもあげる人とあげない人の線引きがよく分からない
なんか面倒くさくなってきたな
そんなこと考えてるから駄目なのかな

予算もあるし時間もある
取りあえず作ってそれから考えよう。何を作ろうかな?
ブラウニーとか、フォンダンショコラとかでいいか


それにしても……

末原さんはなんですぐに会いたいとか好きだとか恥ずかしげもなく素直に言えるのだろう

気持ちをダイレクトに言える真っ直ぐさが羨ましい
そしてその真っ直ぐな思いが少しだけ、ほんの少しだけ私には……

でもそれは私自身の問題であって末原さんの所為じゃない

この感情を心のどこに納めればいいのか分からない
だからこそあえて気にしないようにしてきたのだけれど

何もしなくても時間は過ぎる……
ま、その時はその時だよね



咲「末原さんこれ……バレンタインのチョコです」

恭子「お~!ありがとう」

咲「どうぞ」

恭子「……え?これ?『ごえんがあるよ』……」

咲「ご縁がありますようにってことで」

恭子「……あ、ありがとうな。懐かしいな~これ」

あれ?突っ込みは?


咲「えっと」

恭子「ミルクチョコやっけ?これうまいよな~」

うわわ。なんか笑顔が痛々しいよ!……私のせいなんだけど

咲「……なんかすいません」

恭子「何が?咲が用意してくれとったってだけで嬉しいし」

咲「いや違うんです……すいません。冗談です」

恭子「え?」


咲「ちゃんと作ったのが別にありますから」

恭子「あ、ほんま。良かった、流石のうちもちょっと泣きそうやったわ」

咲「ごめんなさい。ちょっとした出来心で」

あんな可哀想な感じになるなんて……心が痛い


咲「では改めて、どうぞお納めください」

恭子「ありがとう。開けていい?」

咲「もちろん」

恭子「……カップケーキみたいなやつ?」

咲「フォンダンショコラです」

恭子「へ~これ咲が作ったん?」

咲「ええ。見た目はともかく味は大丈夫だと思いますよ」

恭子「見た目もええし、味も絶対美味いやろ!」

咲「まだ食べてないのになに言ってるんですか」

恭子「でも美味そうやん。咲の作ったもので不味かったもんなんてないし」

そりゃ失敗作を人に出せる訳ないでしょう


恭子「うちのも、ちょっと待ってな」

そう言って末原さんが取り出したものは
少し大きめの袋に入った立派な箱で

恭子「これ美味しいって評判の奴なんやで」

開けるといろんな種類のチョコが整然と並んでいる

咲「うわぁ美味しそう!」

恭子「やろ?」

咲「沢山ありますね」

恭子「色々あるから好きなもの食べていいからな」


咲「末原さんも一緒に食べましょうよ」

恭子「これは咲にあげたもんやから……」

咲「いいじゃないですか、ね?」

恭子「じゃあコーヒーでもいれよか」

咲「あ、フォンダンショコラ温めます?」

恭子「え?温めていいん?」

咲「ふふ、大丈夫ですよ」

お茶会場と化した部屋が甘い匂いに包まれる


頂いたチョコは美味しかった。掛け値なしに

咲「美味しいです!やっぱり全然違いますね」

語彙が貧弱な私にはどう表現していいか分からななかったけれど
違いが分かるということが凄いんだろう

恭子「そか、良かった」

舌触りも食感も香りも味も何もかも違う

まろやかでコクがあって口の中でとろけるような……風味もいいし後味もいい
……コクってなんなんだろう?


恭子「おお!このフォンダンショコラ美味いな~さすが咲やな!」

ああ、もうなくなってしまった
もう一個……

うん。しっかり甘く、でも重くなくて、口どけがなめらか!何個でも食べられそうだ

恭子「……咲?」

こっちも美味しそうだな……
これはちょっとビターで大人な味だ

恭子「咲、聞いてるか?」

咲「聞いてますよ」

ホワイトチョコも美味しそう!

恭子「……喜んでくれたみたいで何よりや」


恭子「生チョコもあるで」

咲「……!!末原さん!」

恭子「なんや!?」

咲「これ凄い!美味しい!!なにこれ!?」

恭子「チョコやろ」

咲「いや、そうなんですけど、これを同じチョコと言っていいんでしょうか」

恭子「チョコはチョコやろ」

咲「う~ん。もうちょっとなんか……」

恭子「じゃあ上品におチョコとでも言うか」

咲「末原さん……いいですね!ナイスアイディア!」

恭子「いや駄目やろ。突っ込めや!ちょっと落ち着け」

咲「まぁまぁ、それくらい美味しいってことです」

恭子「……そうか」


咲「やっぱり末原さんはこのチョコ食べちゃ駄目です」

恭子「え、さっき一緒にって言ってたやん。なんで?」

咲「私が作った奴が霞んじゃうからです」

恭子「いやいやいや、なに言うてんの」

咲「いや分かってますよ。比べるまでもないし、そんなことしたらむしろ失礼だって」

恭子「そんなわけないやろ。咲が作ってくれたってだけで充分やし、実際美味いし」

咲「そんなことこれを食べた後にも言えますかね……」

と末原さんの口に放り込む

恭子「むぐっ……確かに美味いな!」

咲「でしょ?」


恭子「うーん……僅差でこっちのが美味いかな」

咲「気を遣わなくていいですよ。天と地ほどの差があるでしょう」

恭子「いや、この差は咲が食べさせてくれた差やな」

咲「はぁ?」

恭子「フォンダンショコラも咲が食べさせてくれたらな~そっちの方が美味くなるんちゃうかな~」

咲「……なにを言ってるんですか。頭でも打ったんですか」

恭子「ええっ!ここはあーんする流れやろ」

咲「ええ……」


恭子「そんで『やっぱり咲の作ったやつのほうが美味いな』っていう流れやろ!」

咲「勝手に変な流れを作らないで下さい」

恭子「そこから『……末原さん、好き!』ってなる流れやろ!」

咲「なるわけないでしょ」

恭子「……クールやね」


恭子「クールと言えば……」

咲「?」

恭子「アイスやな!」

咲「冬にアイス、ですか」

恭子「寒い冬に部屋を暖かくしてアイスを食べる。最高に贅沢やろ!」

咲「そう、なのかな?」

恭子「食べるやろ?」

咲「もちろん頂きます」

恭子「ちょっと待っててな、持ってくるから」


咲「末原さんこれ……まさしくアイスクリームですね」

恭子「そうや!ラクトアイスでもアイスミルクでもない!アイスクリームや!」

咲「さすがです!末原先輩!」

恭子「せやろ?宮永くん!」

咲「濃厚!美味しい!」

恭子「まろやか!冷たい!」

咲「からの生チョコ!とろける!!」

恭子「からのフォンダンショコラ!あったかい!!」

――――――
――――
――


恭子「……なんか疲れたな」

咲「はしゃぎ過ぎましたかね」

恭子「テンションおかしなっとったからな」

咲「何だったんでしょうか。ホントに途中からおかしかったですよね。自分が怖いです」

恭子「まぁええんちゃう?たまには」



誰かが言っていた。摂取したカロリーは消費しなければならない、と

咲「いっぱい食べちゃったし、ちょっと歩きませんか?」

恭子「いやや。寒いもん」

咲「寒いもんって……いいじゃないですか。お散歩」

恭子「お散歩じゃーな~」

この人は……

咲「末原さんとお散歩デートしたかったんですけど、残念ですね」

恭子「デート!?じゃあ行く!」

何故私が言わされなきゃいけないのか


恭子「しょーがないな~そんなにうちとデートしたいって言うなら」

ムカつく……

恭子「よしっ行こう」

咲「ちょっと待ってくださいよ。上着が……」

恭子「はよしてや~」

咲「……」


ふたりで当てもなく散策する
寒いからか人通りも少なく閑散として
道行く人々はどこか急ぎ足だ

恭子「ホワイトデーのお返し、今度はうちがそっちに行くから」

咲「もう送りあったんだから、それがお返しってことでいいじゃないですか」

恭子「まぁええやん。ただの会う口実やし」

咲「会うのに口実がいるんですか?」

なんてね……
いるよね。気軽に会える距離じゃない。時間もお金もかかるんだから


恭子「いらんのなら、うちはいつでも」

咲「いや、いりますね。いるに決まってます」

しまった藪蛇だった。危ない危ない

別に会いたくない訳じゃないけど、そんなに頻繁に来られてもね
色々と心配だから


恭子「お返し、咲はなんか欲しいものある?」

咲「いえ、特には」

恭子「なんかあるやろ?」

咲「何でもいいですよ」

末原さんがくれるものなら

恭子「なんでもいいって……どうでもいいみたいやん」

咲「いや、本当に何だって嬉しいですよ」

恭子「うちが選んだもの渡したら『これは可燃物ですか?不燃物ですか?』とか言いそうやん」

咲「言う訳ないでしょ!」

恭子「ほんまに~?」


咲「本当に嬉しいですよ……末原さんが選んでくれたものなら」

うわ、末原さんみたいなこと言ってしまった。恥ずかしい。顔から火が出そうだ

恭子「そっか。でもそれも幅広すぎて困るなぁ」

咲「そういう末原さんが欲しいものってなんですか」

恭子「う~ん。今欲しいのはカイロかな」

咲「……そんなに寒いですか」

恭子「うん。寒くて凍えそう」

咲「そうですか……」

恭子「まぁ考えとくわ。咲も考えとってな」

咲「はい」


先を歩き出した小さな背中について行きながら考える

欲しいものはあるけれど、言えそうにはないかな

――末原さん

末原さんの視線が、言葉が、ぬくもりが、欲しい
末原さんがくれるものなら何だって。一つも取りこぼしたくない

おかしいな。私は何時からこんなに欲深くて我儘になったんだろう


恭子「ん?なに?」

不意に末原さんが振り返る

あれ?口に出してしまってたみたい。どうしよう
いや口に出したところでこの距離で聞こえるはずが……

咲「……呼んでみただけです」

恭子「……そうか」

末原さんはそれ以上何も聞いてこなかった


恭子「冬やなぁ。せめて太陽が出てくれたら……風がないのが救いやな」

末原さんを縫い付けるモノが欲しい
糸や鎖では足りない
そんなものよりもっとずっと強い、末原さんを縛るコトバがあれば……

そんな呪文があれば私は唱えるだろうか
無理だろうな。そんなこと口に出せるわけがない
なにより末原さんの意志はどうなる?

少し前で揺れているふわりとした藤色の髪を眺めながら
そんな考えても仕方のない、どうでもいいことを思う


恭子「やっぱり寒いな。手袋忘れたし」

咲「そうですね」

恭子「手袋忘れたし」

なんで二回言ったの?

咲「急ぐから忘れるんですよ……じゃあ手でも繋ぎますか」

恭子「いいの!?」


咲「あ、でも私の手冷たいから意味ないかも」

恭子「そこじゃなくて、前に公序良俗がどうのって言ってなかった?」

咲「そんなこと言いましたっけ?」

恭子「ええ……言ってたやん」

咲「そんな昔の話忘れちゃいました」

なんてうそぶく


恭子「そんな昔ちゃうやろ……うちは構わんってかむしろ嬉しいけど」

咲「今は人通りも少ないですしね」

恭子「そうやな!ルールやマナーなんて人目があるから出来たようなもんやしな」

咲「そういう側面もあるでしょうけど……」

恭子「要するに周りが不快にならんかったらええんやし」

咲「そう、なのかな?」

そういうことにしておこう
道行く人たちの手を繋いで歩きたいという気持ちも少し分かってきたし

少しだけ、ね


咲「末原さんの手、あったかいですね」

恭子「咲はびっくりするほど冷たいなぁ。末端冷え性?」

咲「さぁ?時期的なものじゃないですか?」

我ながらテキトーな返しだ

咲「末原さんは体温高いですよね」

恭子「そうやな」

咲「そういえば子供って体温高いですよね」

恭子「……何が言いたい?」

咲「いえ、特に何も。他意はないです」

末原さんはあったかいなぁ

私にはあったかすぎて火傷しそうだ


恭子「知ってるか?熱って高いとこから低いとこに移るんやって」

咲「つまり私が末原さんの手の体温を奪ってるんですね」

恭子「コワイ言い方するなぁ」

恭子「……で、同じ温度になるんや」

咲「つまり?」

恭子「つまり、その……良い温度になるんちゃうか?」

咲「……」

恭子「いや、だから……」


口ごもる末原さん
自分で言ったのに照れるのはどうなんだろうか

もうちょっと見てたい気もしたけれどここは助け舟を出しておこう

咲「大丈夫です。言いたいことは分かりましたから」

恭子「そうか」

つめたい私とあったかい末原さん
二人でやっと平熱だ

……まぁ、口に出すにはクサすぎるよね


咲「帰りましょうか」

恭子「え?もう?」

咲「寒いんじゃなかったんですか」

恭子「もうちょっとええやん」

咲「私は構いませんけど」

寒いからと外に出るのを嫌がったかと思えば
冷えるから帰ろうとしてもまだ外にいたがる

末原さんはよく分からない


咲「Will you be my valentine?」

なんて呟いてみる

恭子「ん?どうしたん?」

咲「……末原さん、私のチョコ、どうでした?」

恭子「んー?咲の愛情が伝わってきた!」

咲「そうですか」

恭子「あれ?どうしたん?」

咲「え?」

恭子「……やっぱちょっと寒いな」

咲「そうですね」


恭子「……」

咲「……」

恭子「You're my Valentine.」

!……そう返されるとは思ってなかった

恭子「なんで英語なん?」

なんか急に恥ずかしくなってきちゃった

恭子「なんや照れれとんのか?カワイイなぁ」

咲「照れてないです!」

恭子「ふぅん?別にいいけど」

ああ、言わなきゃよかった

逃げ出したくなる衝動に駆られながら
でもまだこの手は放したくない

私はもう逃げられないのだろう



帰ってから分かったことだが、末原さんから貰ったチョコ、すごく有名なお店の物らしい
しかも限定品。それに加えて生チョコにあのアイスも……

いや、分かってはいた。分かってはいたんだけど、ここまでだとは……

確かに美味しかった。それだけの値打ちはあるのかもしれない
しかし私はそれを知らずに貰って労せず食べてしまったのだ

対して私は手作りフォンダンショコラ+五円チョコ……
言い知れぬ罪悪感と恐怖が湧き出てくる


末原さんはお金遣いが荒いわけではないのだろうけれど
遣いどころがおかしい気がしないでもない

私が言うようなことではないから言わないけど

それよりお返しどうしよう……


――末原さんが与えてくれるものに値する何かを私は返せているのだろうか




咲から貰ったフォンダンショコラ
食べるの勿体ないな。でも早よ食べな悪くなるよな

なんで食べたらなくなるんやろか
めっちゃ美味いけどケチ付けるとしたらその点やな

もう一つの綺麗な包装がしてある袋が目に入る

恭子「……洋榎のがあるやん」

咲が洋榎に作ってきたらしい。それを預かったのだ

いやいや流石にあかんか
でも一個くらい食べても分からんやろ

――駄目駄目。そんなことしたらうちの人間としての何かが失われてまうわ


っていうかなんで洋榎にも作ってんの?
なんかデカいし手紙ついとるし

それこそごえんがあるよで充分やろ
いや、マカダミアチョコくらいにしといたろ


それにしても結局咲がどうして来てくれたか分からんかったな
こっちに用事があった訳じゃなかったみたいやし……

まぁええか。
咲から言って来てくれたって事実に喜んどこ!

うちが手を握ると咲が握り返してくれる
それだけで充分やろ?





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