異世界に行くとモテモテでチートという風潮 (108)

たかし「そんなこと思っている時代が僕にもありました」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455351170

こちらは前作「異世界に行くとモテモテになる風潮」[異世界に行くとモテモテになる風潮 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454244630/l50)]とは全く関係がありませんのでご了承ください。

・異世界物
・独自設定
・厨二要素
・ラノベ以下の語彙力

以上の点を含みますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。

俺の名前は山田たかし。顔も普通。成績は中の下くらい。彼女いない歴=年齢の、いわゆる普通の男子高校生というやつだ。だけど、そんな俺には秘密がある。

そう、俺は毎朝こうやって、校門と潜り抜けるたびにこうやって脳内ナレーションすることだ。

さて、そろそろ自分語りを始めさせてもらうとしよう。

この学校は、この地域の底辺校だ。だから、治安があまりにも悪い。この学校に入ったものは不良になるか、パシリになるか。この二択を迫られることになる。

だけど、僕は違う。僕にはある特技がある。

眼鏡「急がないと、矢盛さんに殴られる!」

パシリの眼鏡君が、立ち止まった僕の前を走って行く。

哲也「おらぁ!」

眼鏡「うわぁ!」

曲がり角から、突然飛び出してきた哲也に眼鏡君はぶつかってしまった。あれが、食パンを咥えた転校生のJkだったらどれだけましだっただろうか。彼は通称当たり屋の哲也。彼は毎朝こうやって食パンを咥えて角待ちスタンバイして、獲物を虎視眈々と狙っている。

哲也「おい、てめえ」

眼鏡「ヒッ!」

南無三。眼鏡君。この学校で生きるためだ。許してくれ。僕は眼鏡君の横を通り過ぎて、教室へと向かって行く。

俺の特技とは、危険予知能力だ。今みたいに危険が迫ると何となく分かってしまう。それが俺の能力……。

主人公らしからぬ能力だが、この能力のおかげで、俺はこの劣悪環境下の学校で平々凡々な学校生活を送ることができるのだ。だから、ただ意味もなく過ぎていくこの日常に飽き飽きしていた。何か刺激が欲しい。非日常を俺は望んでいた。ライトノベルやゲームみたいなファンタジーな世界に、俺は憧れていた。

たかし「ふっふっふ。だが今日の俺は一味違うぜ」

大量に印刷された、六芒星の中に飽きたと書かれた紙を目の前にして、俺は不敵に笑った。
これは、異世界に行くことができる儀式の一つだ。五センチ四方の紙に、六芒星を書き、その中に飽きたと書いた紙を、眠るときに持っていれば、異世界に行けるというものだ。俺はそれを百枚ほど印刷した。確か、こういう比のものは印刷物でも使えるというのを漫画で読んだ。だから、できないわけがない。

たかし「待ってろよ。異世界! 俺はモテモテチート主人公になってやるぜ!」

早速布団に潜り込んだ。異世界に行けるとなると緊張して中々眠れない。

たかし「眠れん……」

雨音が心地いリズムを刻んで、俺を眠りへと誘う。そして俺は気が付けば眠っていた。

たかし「んう……」

心地い風と、頬をチクチクと刺すようなむず痒さに俺は目を覚ました。

たかし「痛い……」

見渡す限りの大草原を、目の当たりにし俺は頬を抓って、これが夢でないことをまず確認した。

たかし「やった!」

まずは、魔法が使えるか確認しなければ……。

たかし「ファイア! あれ……?」

うんともすんとも言わない。魔法が違ったか?

たかし「メラ! ブリザガ! バギクロス! 赤火砲!」

出ない。もしかしてこの世界には魔法がないのか? 

女騎士「見つけたぞ。怪盗たかし!」

俺を取り囲むように、沢山の鎧を着た騎士が現れた。さっきまでは何もいなかったはずなのに……。

女騎士「貴様を、捕縛する」

女騎士は、俺の方に向いて指を指した。すると、どこからともなく鎖が現れて俺に巻きついた。

たかし「え!?」

訳も分からないままに俺は、捕まった。そして今に至るというわけだ。モテモテチート主人公になる筈が、魔法は使えず、罪人として囚われる始末だ。こんなのあんまりだろう……。


女騎士「何だ?」

たかし「人違いだと思うんですけど……」

不法侵入とかだったらまだ分かる。だが、怪盗はどう考えても濡れ衣だ。

女騎士「嘘をつくな! 手配書の顔とそっくりじゃないか!」

女騎士は手配書を取り出して、俺の眼前に差し出した。確かに、同一人物と言っても過言じゃないレベルでそっくりだ。

たかし「あ……! そういうことかぁ……」

そこで、俺は思い出した。例の儀式は異世界の自分と入れ替わるということを……。つまり、怪盗たかしはこの世界の俺ということになる。だから、同じ顔なのだろう。

たかし「これ、詰んでね……」

怪盗たかしはきっと、俺のいた世界でも盗みを働くことだろう。そうなれば、戻っても犯罪者の可能性は大いにあり得る。これぞまさしく前門の虎、後門の狼……。

女騎士「王様、たかしを連れてきました」

たかし「いてっ!」

乱暴に床に転がされ、俺は王の前に差し出された。これで死罪になったらシャレにならない。

王様「たかしよ。貴様にチャンスをやろう」

「またか」「王様も悪趣味だな」

騎士達の、ひそひそ声が聞こえてくる。その言葉から察するに最後のチャンスというのは碌でもないものなのだろう。

王様「貴様には、ある迷宮で宝探しをしてもらう。無事に帰って来られれば、無罪にしてやろう」

迷宮か……。死刑囚候補を使うという事はそれほどに危険な場所なのだろう。でも、俺には人並み外れた危険予知能力がある。トラップくらいなら回避できるはずだ。もっとも、俺の反応速度より早ければ予知の意味は全くないけれど……。

王様「それでは、奴をつれてゆけ!」

女騎士「かしこまりました」

目隠しをされて、俺は迷宮とやらに連れて行かれた。

たかし「うわ~、いっぱいいる……」

そこには俺同様に、罪を犯して迷宮に送り込まれたであろう人々がそこにいた。

たかし「女の子もいるのか……」

そこには、あまりにもふさわしくない風貌と雰囲気でその少女は明らかに周囲から浮いており、異彩を放っていた。とりあえず、モテモテの第一歩だ。話しかけてみよう。

たかし「やあ、君はどうしてここに?」

少女「……………」

無視された。確かに顔は良くないし、頼りなさそうだけど、無視は良くないと思う。

たかし「待って! そっちはダメ!」

少女の肩を掴んで止める。たまたまその横を通りかかった男が、下から突き出てきた串によって串刺しにされた。。

少女「貴方……、どこに罠があるか分かるの?」

たかし「分かるって言うか、何となく危ない気がするみたいな?」

少女「まるで小動物ね。私は可愛くて好きよ。小動物……」

小動物……。そう言われて少しショックだった。

たかし「ねえ、俺と一緒に迷宮攻略しない?」

少女「いいよ。貴方……名前は?」

たかし「山田たかし。17さい」

少女「山田たかし……。変わった名前ね」

向こうの世界では探せば学校に一人か二人くらいいそうな名前なのだが、こっちではそうでもないのかもしれない。そういえば、黒髪なのは俺くらいだし……。特別な存在……。そう思うとなんだか清々しい気分だ。

たかし「君は?」

少女「私……?」

たかし「うん」

少女「サルエント・ベルゼ……。サルエ……。皆は私をそう呼んでいる」

たかし「そういえば、サルエはどうしてここに?」

サルエ「つまみ食い……」

たかし「えっ?」

一瞬聞き間違いかと思って、俺はもう一度聞いた。

サルエ「行きましょ……。早く帰ってご飯食べたいし……」

たかし「そっちはダメだってば!」

慌てて引き止める。この辺には地雷のような罠が沢山あるみたいだ。もうすでに半分以上の人間が死んでいる。正直、自分が死ぬ可能性もある緊張感のせいで、目の前で人が死んでいるというのに何も感じなかった。

サルエ「こっちからいい匂いがする……」

たかし「そっちは危ないから!」

マイペース過ぎるサルエにさっきから俺は振りまわされ続けた。

今日はこの辺にしようと思います。
異世界もののラノベをあまり読んだことないので詳しくは分かりませんが、こういった迷宮探索ものってあんまりないよな~って思って思いついた没ネタです。
多分明日もこの時間に投下すると思います。


前作のたかし編では無いのだな?期待

>>26
たかし編は、何も思いついてません……。
ですが、いつか絶対書こうと思います

たかし「ここは大丈夫みたいだよ!」

この部屋だけ、危険が全くない感じがした。

サルエ「!」

サルエがこの部屋に入ると同時に、沢山の矢が壁から射出された。危険はなかったはずなのに……。サルエは、右手に三つ又の槍を召喚して、矢を防ぐ。

サルエ「なるほど……」

たかし「何か分かったの?」

サルエ「山田……魔力ない。だから、魔力センサーに引っかからない」

たかし「俺に魔力がない……」

それは、魔法を一切使えないことを意味する。モテモテチートライフが崩れていく……。

サルエ「魔力なくても魔法は使える……。だから、安心して」

たかし「本当!?」

サルエ「本当よ……。と言っても今は無理……」

たかし「勉強がいるって事?」

サルエ「違う……。説明めんどくさい……」

サルエは欠伸をして、奥へと向かって行く。どうやらこれが最後の仕掛けみたいだ。下の階段を降りるとあからさまな、大きな扉が目の前にあった。いわゆるボス部屋というやつだろうか。


サルエ「早く行こ……」

たかし「ちょっと待って!」

部屋の中から、すごい死の危険を感じる。まるで今までの罠が子供のいたずらだったと感じるほどに、そこの危険度は濃い。

サルエ「いや……」

サルエは、問答無用に扉を開いた。それと同時に、部屋の中央に魔法陣が描かれそこから、鷲のように大きな翼と、肉食動物のような足を持つ化け物が姿を現した。あれは確か……。

サルエ「グリフォンって美味しい……?」

たかし「さあ? 食べたことないし」

だけど、肉食動物はあまり美味しくないと聞いたことがある。それに、あんな得体のしれないものを食べたくない。

サルエ「山田は下がってて……」

俺では、戦いにならないということだろう。きっと、俺ではあの化け物がかるくじゃれついただけで肉ダルマにされてしまうだろう。

サルエ「スイート・スイート……」

サルエがそう囁くと、右手に三つ又の槍。左手に薙刀が握られた。臨戦態勢に入ったサルエにグリフォンが襲い掛かる。俺では躱せるかどうか分からないほどの速さの攻撃をサルエは躱していく。

サルエ「ウェルダン」

槍から、肺が焼けるような炎の弾が射出され、グリフォンの身を焦がす。

サルエ「まずは一口」

炎によって怯んだグリフォンの身体を、槍で抑え、グリフォンの肉を薙刀で一口サイズにカットした。

サルエ「いただきます」

切り取ったグリフォンの肉を口に運んで、ゆっくり吟味してからそれを飲み込んだ。

サルエ「うえ……」

どうやらお気に召さなかったらしい。

サルエ「許さない……」

サルエの纏う空気が一変する。完全に逆切れである。

サルエ「ディッシュ・ナイフ」

グリフォンを中心として、大量のナイフが現れる。どうやら、薙刀と思っていたのはナイフで、三つ又の槍はフォークだったらしい。

サルエ「ご馳走様でした」

サルエは、目を閉じて合掌する。その合図でナイフが次々にグリフォンに突き刺さっていく。

たかし「す、すげえ……」

サルエ「別に……、これくらい普通……」

サルエは、メモ帳を取り出して何かを書き始めた。

たかし「何書いてるの?」

サルエ「グリフォンの味……。美味しくなかったから……」

たかし「へえ……」

メモ帳の表紙をよく見ると、美味しくないリストVOL6と書かれていた。メモ帳6冊分美味しくないものに出会ったと考えると、少し笑えてきそうだった。

たかし「そうだ、宝をとらないと」

ここ以外にとくにそれらしいものがなかったという事は、ここ以外はほとんど盗られたか、最初からないことになる。

サルエ「こっちに箱がある……」

部屋の奥の方に、それらしい小部屋と、箱が一つだけ置いてあった。あれだけ、難しかったんだ、中身は相当期待できるものなんだろう。そう思っていた。この箱の中身を見るまでは。

たかし「枕って……」

サルエ「私、枕好きよ……」

たかし「これって宝なのか……?」

もしかすると最初から宝なんてなかったのかもしれない。そう思うと、なんだか哀れな気持ちになった。

たかし「さあ、帰ろう」

サルエ「そうね……。お腹すいたし……」

罠に気を付けながら、迷宮の入口へ向かって行く。

たかし「すいませーん!」

迷宮の入り口に向かって声をかける。最初から生かすつもりがないのなら、この扉はきっと開かないだろう。

女騎士「何だ?」

たかし「えっ……!」

女騎士「宝は盗ってきたのか?」

たかし「え、まあそうですけど……」

女騎士「はっきり言わないか! まどろっこしい!」

たかし「いや、ちゃんと律儀に外で待ってるんだなって思いまして」

女騎士「当たり前だろ! 私を馬鹿にしているのか?」

女騎士は俺を、睨みつける。危険度がどんどん上昇していく。

たかし「滅相もございません! あ、これが宝です」

迷宮の奥で見つけた枕を、女騎士に手渡した。

女騎士「これは……。お前、これどこで手に入れた!?」

たかし「どこって、一番奥ですけど……」

女騎士「そこには、グリフォンがいたはずだが……」

たかし「それなら、サルエが倒してくれました」

サルエ「早く帰りたい……」

サルエは退屈そうに、迷宮の床に寝そべってごろごろしていた。

女騎士「サルエント・ベルゼがどうしてここにいるんだ!?」

たかし「つまみ食いしたからって言ってましたけど?」

女騎士「そんな事くらいで、ここにつれてこられるわけないだろう。ここに連れてこられるのは余程の重罪を犯した者だけだ」

たかし「じゃあ、なんで……?」

女騎士「まあ、彼女には放浪癖があるからな。大方暇つぶしか何かだと思うが……」

たかし「はあ」

どちらにせよ、サルエがいなければ俺は無事ではなかっただろう。だから、サルエの放浪癖に感謝しないと。

女騎士「それじゃ、ついて来て貰おう」

サルエ「やっと帰れるの~……?」

女騎士「はい。サルエ嬢にはご迷惑をおかけしましたから、大量のご馳走を出させてもらいます」

サルエ「やった~♪」

女騎士「ついでに、お前もだ」

たかし「あ、ありがとうございます……」

女騎士「まさか、七大秘宝のうちの一つがここにあったとは……」

たかし「七大秘宝?」

女騎士「お前、怪盗なのにこの宝の価値も知らないのか?」

サルエ「この人は怪盗じゃないよ……。山田たかしだよ」

女騎士「どういう事ですか?」

サルエ「山田……。魔力ない……」

女騎士「そんなまさか……。魔力のない人間なんているはずが……」

サルエ「私の事信じられない……?」

女騎士「いえ、そう言うわけでは……」

サルエ「山田……、魔力検知センサーに引っかからなかった。私……この目で見た……」

女騎士「そこまで言うなら信じます。それじゃあ、お前は怪盗たかしとは全くの別人というわけだな?」

たかし「そ、そうです」

女騎士「それは、すまなかった……。このままでは、何の罪もない人間を見捨てるところだった……」

女騎士地面に膝をついて、俺に土下座をした。

たかし「頭を上げて下さい!」

さすがに、こんな街中で頭を下げられると恥ずかしい。

女騎士「だけど……」

たかし「いいですって」

女騎士「いや、この埋め合わせは今度必ずさせてもらう」

たかし「そこまで言うなら……」

女騎士「そうだ。私の名前を教えてなかったな」

たかし「そういえば、そうですね」

女騎士「私の名前は、ステラ・スレイブだ。ステラでいい」

たかし「ステラか……。覚えたよ」

サルエ「ねえ、お宝について聞かせて」

ステラ「あ、すいません。これは、怠惰の枕と言って、七大秘宝の一つなんです」

たかし「どうみても枕にしか見えないですけど……」

ステラ「この枕は、眠りにつこうとした者を一瞬で眠らせるのと、たった少しの睡眠で、1日分の睡眠と同じ効果が得られるんです」

サルエ「それがあれば寝放題だね……」

たかし「でも、七大秘宝というには結構あれじゃないですか?」

ステラ「まあ、秘宝なんて言われてますが、他の物も結構そういうものですよ。生活をちょっと便利にするくらいですし。例えば、あらゆるものをそのままの状態で無限に永久保管できるものとか、つけるだけでモテモテになる香水とかですね」

たかし「へえ……」

香水だけはちょっと欲しい。そう思った。

サルエ「山田……。香水欲しいかもって考えた……?」

たかし「か、考えてないよ!!」

サルエ「バレバレ……」

ステラ「ちなみに、さっきの香水は女性用です。男が使えば大変なことになります」

たかし「うへえ……」

男にもてても嬉しくないから、見つけても使うのはやめておこう。

ステラ「それでは、私は王様に報告してきますので、お二人はお食事でもなさってください」

ステラは、ぺこりとお辞儀をすると、枕を片手に持って王室へと向かっていった。あれが秘宝だと知らなければ、相当シュールな光景だ。

サルエ「いただきます……」

大理石のテーブルに並べられた沢山の料理を、サルエは次々と平らげていく。グリフォンの時も薄々感じていたけれど、サルエはかなりの大喰らいみたいだ。コックたちはせわしなくせっせと料理を運んでは開いた皿を片づけを繰り返していた。

たかし「美味いな」

サルエ「うん。ここの料理人は結構いい腕してる……」

ナプキンで上品に口元を拭いて、サルエは料理人にお辞儀をした。

料理人「サルエ様にお褒めいただけるとは……。まことに光栄にございます」

たかし「そういえば、サルエはどこかのお金持ちのお嬢さんなの?」

サルエ「ベルゼ家の長女……?」

たかし「何で疑問形……。というか、それくらい分かるよ……」

サルエに聞いても、無駄だという事が分かった。とりあえず後で、ステラに聞くことにしよう。

ロリ「あら、サルエじゃない。久しぶりね」

サルエ「誰……?」

食事を終えて、デザートを食べているところに、小さな女の子がやってきた。

ロリ「ちょっと!! 私を忘れるなんてあんまりじゃない!!」

サルエ「冗談……。ふふっ」

ロリ「全く……。サルエ。そちらの方は?」

サルエ「山田……」

ロリ「山田さんね……。私は、ソラ・リヴァイアと申します」

たかし「山田たかしです」

そのしっかりとし立ち振る舞いに、俺は慄いた。その雰囲気からいいとこのお嬢様であるというのが見て取れた。

たかし「そう言えば、サルエって何者なの?」

ソラ「サルエは、元名家のお嬢様よ」

サルエ「ぶいっ」

サルエは俺に、ピースを向けた。

たかし「元?」

ソラ「潰れたのよ……。サルエの食費に耐えられなくて……」

サルエ「えへへ……」

笑い事なのか……? 金持ちの家が潰れるって相当じゃないのだろうか……。一体どれだけ食べたんだろか……。

とりあえず書き溜め無くなっちゃったので、また明日浮上します
多分かなりの文量になると思います。

ステラ「サルエ嬢と、たかし殿。ちょっと来てくれませんか? それとソラ嬢も」

サルエ「分かった……」

ステラに導かれて、王室へと連れて行かれた。

国王「ようこそ。諸君。今回はよくぞ宝を持ち帰ってくれたな」

その口ぶりから、生かすつもりはなかったというのが、何となく分かった。

国王「そこで諸君らに頼みがあるのだ」

サルエ「頼み……。何……?」

食事の邪魔をされて少しだけ、気が立っているのかサルエは少しだけ厳しい口調で、王様に向かってそう発言した。

国王「そうだ。諸君らには迷宮探索隊に入ってもらいたい。当然、報酬はかなりだすぞ」

サルエ「美味しいものいっぱい食べれる?」

国王「それは、諸君ら次第だ」

サルエ「やる……!」

国王「他のものはどうする?」

恐らく、どっちみち断れない流れなのだろう。何となくだが、断ればどうなるかは分からないだろう。

たかし「やりますよ」

こういうしかない。どちらにせよ、俺には罠があるか分かるくらいの能しかないのだから、すぐに追放なり何なりされるだろうし。

ソラ「私もやらせていただきます」

国王「そうか、それは良かった。ウェナス!」

ウェナス「はい」

王室の奥から、いかにも強そうな男が姿を現した。

国王「ウェナスには、迷宮探索部隊の隊長を、ステラには副隊長を命じる」

「かしこまりました」

二人はそろって返事した。

国王「さて、君たちには探して欲しいものがある」

ソラ「もしかして、あれですか?」

国王「そうだ。今この世界は水面下で資源を巡って争いが起きている。このままでは残った資源を巡って大戦になるだろう」

国王「そこでだ。君たちにはインフィートを見つけて欲しい」

国王は、古ぼけた羊皮紙を広げて、俺達に見せた。それによると、インフィニートとは無限のエネルギーを内包する、いわゆる永久機関というやつらしい。

ソラ「目星はついているんですか?」

国王「いや、全くついておらぬ……」

大変かつ地道な旅になりそうだ。リア充ライフはどんどんとあざ笑うかのように、離れていく。

国王「話は以上だ。何か質問はあるか?」

たかし「いえ、大丈夫です」

国王「それでは、君たちの部屋は既に用意してある。今日からそこを使ってくれ」

ステラ「ありがとうございます」

たかし「結構思ってたより大きいんだなー」

国王が用意しただけあって、そこはかなりの大きさだった。俺の部屋2個分くらいあるんじゃないだろうか?

たかし「どうぞー」

ドアをノックする音が聞こえたので、応じる。

ステラ「失礼する」

たかし「どうしたんですか?」

ステラ「ちょっと聞きたいことがありまして」

たかし「俺に?」

ステラ「どうして、山田様は魔力がないのですか?」

正直に答えるべきか、俺は迷った。何故なら、それはあまりにも非現実的な出来事だからだ。

たかし「もしも、異世界から来たと言えば、信じますか?」

ステラ「異世界ですか? そうですね……」

ステラは、考えるまでもなく口を開いて、こう答えた。信じると。

たかし「嘘かもしれないのに?」

ステラ「嘘つきはそう言う言い方しませんからね。貴方が本物の大嘘吐きならそうかもしれませんけど、山田様がそんな嘘吐きには見えないので」

たかし「そっか」

ステラ「それでは、これからよろしくお願いします」

ステラは、ペコッと頭を下げて部屋から出て行った。

たかし「ああ、緊張した……」


サルエ「お疲れ……」

たかし「うわっ!」

いつの間にか、サルエが俺のベッドの上に座っていた。さっきまでいなかったはずなんだけど……。

サルエ「山田は……、異世界の使者……?」

たかし「違うと思う。もしそうだったら何かしらの力があると思うし……」

俺には、何もない。力も頭脳も、何も……。俺はこの世界でも無力だ。

サルエ「そんなことない……。私は、山田のおかげで生きてる……。それは忘れないで……」

たかし「俺がいなくても、生きてたと思うよ?」

俺がそう言うと、サルエは俺の頬を思い切り掴んで、まっすぐ俺の瞳を見た。

サルエ「そんなこと言わないで……。私は山田……必要……」

たかし「ありがと……」

サルエ「仲間だから……。当然の事……」

サルエは、少しだけ得意顔になって俺の方を向いた。

サルエ「それじゃ、おやすみ……。私は寝る……」

サルエはそう言って、俺のベッドに眠りに入った。

たかし「サルエさーん。そこ俺のベッドなんですけど……」

身体を揺り動かすが、全く起きる気配がない。仕方ない……、諦めてソファで寝ることにしよう。今日は色々なことがあって疲れた。

サルエ「山田……。山田……。朝……」

サルエに揺り動かされて、俺は目を覚ました。どうやら、まだ日が昇って少し経ったくらいの時間らしい。

たかし「ちょっと、早くない?」

サルエ「バーゲン終わっちゃう……。急いで……!」

たかし「バーゲン……?」

サルエ「たかし……。魔法……、使いたいんでしょ……?」

そう言えば、昨日サルエが魔力を使わなくても魔法を使えることを教えてくれた気がする。だが、バーゲンと魔法……。何の関係があるのだろう?

サルエ「置いてくよ……?」

たかし「待って!」

俺は、クローゼットに入っていた服をせっせと着ると、急いでサルエの所に走った。

サルエ「ついて来て……」

たかし「分かったよ」

サルエに連れられて大きな繁華街に連れてこられた。

たかし「すげえ……」

サルエ「綺麗……でしょ……?」

赤や紫、青色の発光体が宙に浮いて、辺りを飛んでいた。

たかし「うん、すっごく……」

サルエ「ついて来て……」

サルエに手を引かれて、俺はとあるお店の前についた。

たかし「魔法堂?」

店主「いらっしゃい! 今日は30%引きセールだよ!」

店の中に入ると、中年の小太りな店主が暖かく出迎えてくれた。店の中には、色々なサイズの瓶に、さっき街で見た発光体が入っているものが沢山並んでいた。

たかし「これは何?」

サルエ「これは……。魔法瓶……。割ると魔法……、使える……」

たかし「へえ……」

サルエ「好きな物……、選んでいいよ……。私の……、奢り……」

たかし「いいの?」

サルエ「うん……」

綺麗に並べられた商品を一つずつ眺めていく。火、水、風、土の魔法瓶をそれぞれ一つずつ持って、レジに向かった。そういえば、雷とかはないのだろうか?

サルエ「これだけでいいの?」

たかし「うん。あんまり買っちゃうと持ちきれないからね」

サルエ「優しいのね……」

たかし「そんなことないよ……」

俺は、自分のためなら平気で他人を捨てるような人間だ。

店主「嬢ちゃんは可愛いから、半額ね!」

サルエ「ありがとう……」

店主「ことらこそ、ありがとな」

俺達は、この店を後にして自分たちの拠点に戻った。

たかし「ただいま」

ソラ「おかえりなさい。どこに行っていたの?」

サルエ「魔法瓶……買ってた……」

サルエは、袋に入っていた魔法瓶を、ソラに見せた。

ソラ「へえ、中々良さそうじゃない」

サルエ「ソラ……。お願いがある……」

ソラ「何かしら?」

サルエ「山田に、魔法の事……教えてあげて」

ソラ「どうしてですか?」

サルエ「駄目……?」

ソラ「サルエがそこまで言うなら……」

きっと、サルエはこの世界の事を何も知らない俺のために、わざわざお願いしてくれたのだろう。

ソラ「それでは、山田さん。ついて来てくれない?」

たかし「は、はい」

ソラに導かれて、書庫と書かれたプレートのある部屋に入った。

すいませんここから少し解説みたいなのが入りますので、多少読みづらくなります。
正直飛ばしても全然問題ないです

たかし「お、お願いします」

ソラ「そんなにかしこまらなくてもいいわよ」

ソラは、書庫にある、黒板に文字を書き始めた。

ソラ「魔法には大きく分けて二種類存在するの。一つ目が魔術。例えば、物を持ち上げたり、薬を作ったりと私たちの生活に密接に関係があるものを魔術。別名、初級魔法とも呼ぶわ。誰でも使えるけど、それを極めれば建築や、乾いた大地に潤いをもたらすことや天候すら変えられる人がいるから、決してしょぼいわけではないわ」

ソラ「そしてその魔術を、人に向けて撃つように攻撃用に転化したもの。それが魔法。魔術と魔法それら二つを言いくるめて、私たちは魔法と呼んでいうの」

おおよそは理解できた。つまり、魔術が生活に使われ、魔法は争いに使われるという認識で間違いないだろう。

ソラ「魔術については、あれ以上説明することもないから次は魔法について詳しく説明するわ」

たかし「おっす」

ソラ「魔法には属性を大きく分けて四つ。火、水、風、土の四つよ」

たかし「雷とか氷とかはないの?」

ソラ「それについては後で説明するわ。さて、問題。魔法はどのように発動するでしょうか?」

たかし「えっと、呪文を詠唱したり、魔法陣を書いたり?」

たかし「えっと、呪文を詠唱したり、魔法陣を書いたり?」

ソラ「残念ながら、不正解で~す♪」

たかし「えっ!?」

ソラ「実は、その二つは必要ないわ。魔法はイメージと魔力。この二つさえあれば発動可能よ」

ソラは、特に詠唱も魔法陣もなく右人差し指の上に小さな水玉を出現させた。

たかし「そういえば、何でサルエは詠唱を行っていたんだ?」

グリフォンとの戦いのとき、サルエが呪文を唱えたのを、俺は覚えている。

ソラ「それはね……」

ソラはここで、あえて一度区切って止めた。

ソラ「そのほうがかっこいいから、よ」

たかし「えぇ……。何それ……つまり無駄って事じゃん……」

予想外の解答に、俺は思わず心の中の言葉を喋ってしまった。

ソラ「そうね。私も無駄だと思う。でもね、考えてみて。お互い無言で魔法を打ち合うのって何かかっこ悪いでしょ?」

たかし「確かに……」

ソラ「それに作家さんも、魔法に名前があったほうが書きやすいし」

たかし「作家さん?」

ソラ「ええ、有名になった魔法使いは本が出版されることがあるの」

たかし「へえ……」

ソラ「つまりは、魔法の名前に関しては基本的に自由なの。それに魔法に名前を付けることで相手に牽制をかけることだってできるのよ」

確かに、大げさに長い詠唱をすることで強力な攻撃を予感させることができるというわけか……。一見無駄に見えることでも、意外と効果があるというわけか……。

ソラ「次に、魔法の発動パターンには二種類あるわ。自然の力を借りるものと自らの魔力を用いるもの。基本的にこの二つね。前者は発動にかなりの時間を使うし、なおかつ難易度もかなり高いけど、発動にほとんど自分の魔力を使わない上に、強力というメリットがあるわ。後者は、発動が速い分、威力は魔力量に依存するから自然の力を借りる場合と比較するとどうしても威力が落ちてしまうの」

そういえば、忍者漫画で自然エネルギーを体内に取り込むと、ものすごく強化されるみたいなのを読んだ覚えがある。

ソラ「さっき、山田さんは雷魔法や氷魔法はないのか? と質問したよね?」

たかし「うん」

ソラ「そういう比の魔法は複合魔法と言って、異なる属性の魔法を組み合わせて発動させるものなの。そこで必要になるのが闇魔法。闇魔法は魔法における中間素材のようなものなのよ」

たかし「闇魔法は、五大元素に入らないの?」

ソラ「実は、闇魔法は発見されたのが割と最近で、今評議会の方でもどうするか話題になっているのよ」

たかし「そうなんだ」

ソラ「そうなんです。因みに雷魔法は、炎と風と水、これに闇魔法を混ぜることで雷魔法になる。発動が難しい分、威力はそこそこ高いかな。氷は闇と水この二つで可能よ。
他にもあるけど、数が多いから省略するわ」

つまり、氷魔法や雷魔法はゲームみたいにポンポン打てるような魔法ではないという事になる。

ソラ「以上で魔法についての説明は終り。何か質問はある?」

たかし「えっと、この魔法瓶についてと、この国の資源についてかな」

ソラ「はい、分かりました。まず、この魔法瓶を割ると魔法が発動するのは分かる?」

たかし「はい、サルエがそう言っていたので」

ソラ「あれには、魔法が封じ込められているの。誰にでも強力な魔法を使えるようにって考案されてできたのが、魔法瓶。だけど、量産に時間がかかるのがネックってところかしら」

たかし「じゃあ、結構高かったんじゃ……」

俺はこの世界の貨幣価値を知らなかったので、値段を見たときはそこそこ安いと思ったが、実はそうでもなかったのかもしれない。

ソラ「そうね、結構高いわよ。それ一ダースで金塊一本買えるくらいの値段はするわね」

たかし「そ、そんなに!?」

ソラ「そりゃあ、職人さんが一つ一つ丁寧に作っているからね。それくらいするわよ」

後で、ちゃんとサルエにお礼を言おう。そして、いつかお金が溜まったらご飯でも奢ってあげることにしよう。俺はそう心に誓った。

ソラ「で、次はこの国の資源だっけ?」

たかし「うん、ほら昨日言ってたじゃない? もうすぐ資源が底を尽きるってさ」

ソラ「ああ、そゆこと」

この世界の資源も石油とかなのだろうか? 

ソラ「この世界の資源は結晶よ」

たかし「結晶?」

ソラ「ええ、エネルギーが時間をかけて凝縮されたものよ。これによって私たちは、料理を作ったり、夜でも明るく過ごしたりできるの」

ソラ「元々は、鑑賞目的に存在したもの何だけど、エネルギーとして使えると分かってから、需要が増えたことで、今底を尽きようとしているわけよ……」

たかし「それは、周知の事実なの?」

ソラ「いえ、ほとんどの人は知らないでしょうね」

たかし「それは、どうして?」

ソラ「私には偉い人の考えがよく分からないから、何とも言えないわ」

たかし「そうなんだ……」

ソラ「ところで、もう聞きたいことはない?」

たかし「うん、もう大丈夫だよ」

ソラ「そう……。また何か知りたいことがあったら私に何でも聞いてよね!」

たかし「そうさせてもらうよ」

本日の書き溜めは終了です。
終りが全く見えませんが頑張ります!


ウェナス「ちょっと、皆来てくれるかな?」

丁度昼食を食べ終わったくらいの時間に、俺達は呼び出された。恐らくは、迷宮についてだろう。

ウェナス「もうすでに察しはついてると思うけど、新しい迷宮が見つかった。そこで、今回は二人派遣しようと思う」

そう言えば、迷宮について俺はあんまり知らない。俺は質問しようと思って手を挙げた。

ウェナス「お、山田君! 行ってくれるのか!!」

たかし「え、いやっ……」

ウェナス「どうしたんだい?」

たかし「イキマス……」

ウェナス「ありがとう。さて、もう一人はどうするかな」

こうなるんだったら、迂闊に手を上げるんじゃなかったと俺は後悔した。後で、ソラに聞くべきだった……。

ソラ「じゃあ、私が」

ウェナス「ありがとう。それでは今回はソラと山田。この二人に行ってもらおう」

サルエ「頑張ってね……」

ソラ「勿論!」


ソラ「溜息すると、幸せが逃げるわよ」

迷宮についての話が終わって、俺達はどう攻略するかを話し合うために談話室を使っていた。

たかし「その理論だと、俺はとっくに不幸で死んでるって」

ソラ「で、聞きたいことあるんでしょう?」

たかし「さすがだね」

ソラ「まあね」

たかし「それでなんだけど、迷宮ってどういうものなの?」

ソラ「迷宮ねぇ。まあ、定期的に中が変化したり、場所自体が変わったりするぐらいしか説明することないわね」

たかし「ソラってすごい物知りだね」

ソラ「そりゃあ、伊達に25年生きてますからね」

25……? 今25年生きたって言ったのか? この世界では成長が通常の半分とかそういう世界なのだろうか?

ソラ「私の身体が年相応に見えないって思ったでしょ?」

たかし「ご、ごめん……」

ソラ「いいよ。慣れてるから」

たかし「じゃあ、こっちは成長の流れが通常より遅いとかじゃないんだね?」

ソラ「ええ、そうだと思うわよ」

たかし「でも、ちっちゃいってすごい便利だと思うよ」

ソラ「そうかしら……」

たかし「だって、可愛いし」

ソラ「そう……。ありがとね」

たかし「どういたしまして」

ソラ「さ、そろそろ本題に入りましょう」

たかし「うん、そうだね」

ソラ「私の身体が年相応に見えないって思ったでしょ?」

たかし「ご、ごめん……」

ソラ「いいよ。慣れてるから」

たかし「じゃあ、こっちは成長の流れが通常より遅いとかじゃないんだね?」

ソラ「ええ、そうだと思うわよ」

たかし「でも、ちっちゃいってすごい便利だと思うよ」

ソラ「そうかしら……」

たかし「だって、可愛いし」

ソラ「そう……。ありがとね」

たかし「どういたしまして」

ソラ「さ、そろそろ本題に入りましょう」

たかし「うん、そうだね」

ソラ「そういえば、山田の戦闘経験ってどのくらい?」

たかし「ゼロかな」

ソラ「威張っていう事じゃないでしょ……」

たかし「ごめん……」

ソラ「まあ、いいわ。明日までに、ある程度体に叩きこむから」

たかし「お手柔らかにお願いします……」

ソラ「山田次第ね。確か地下に訓練所みたいなところがあったはずだからそこに行きましょう」


ソラ「汚いわね……。ちょっとそこにいなさい」

たかし「何をするの?」

ソラ「何って、床掃除」

ソラは指をパチンと鳴らすと、水の波を出現させた。水の波が、汚れた床を綺麗にしていく。

ソラ「まあ、こんなもんかな」

たかし「すごい!」

ソラ「別に、このくらい普通よ」

たかし「そうかなぁ」

ソラ「そうよ。それじゃ、特訓始めるわよ!」

たかし「お、お願いします」

それから、日が暮れるまで俺達は特訓を続けた。

ソラ「それじゃあ、今日はここまでにしましょう」

たかし「あぁ~、疲れた……」

ソラ「筋は良かったわよ。後は体の動かし方ね」

たかし「うい……」

ソラ「さあ、ご飯食べに行きましょう。今日は私の傲りよ」

たかし「いいの?」

ソラ「ええ、それに山田お金ないんでしょう?」

たかし「う、そうだけど……」

ソラ「だったら素直に甘えなさい。年下なんだから」

たかし「いいのよ」

ソラ「それじゃ、行くわよ!」

たかし「うん!」

ソラ行きつけというレストランで、俺は食事をした。おすすめのオムライスはかなり美味しかった。

ソラ「それじゃ、また明日」

たかし「また明日」

明日は、初めての任務だ。足を引っ張らないように頑張らないと……。

たかし「おはよう」

ソラ「おはよう、山田。さ、行きましょ!」

たかし「おう!」

迷宮は国を出て、南東20kmくらい先の所にあるらしい。

ソラ「ここよ」

そう言われてついた場所は、扉がぽつんと置いてあるだけの場所だった。

たかし「え?」

ソラ「これが通称旅する迷宮と呼ばれているものよ。この扉は迷宮の入り口に繋がっているの」

たかし「なるほど、どこでもドアみたいなやつか……」

ソラ「何それ?」

たかし「ああ、漫画でそういう道具があるんだよ。行きたいところにどこでも行けるような道具が」

ソラ「なるほど、それでどこでもドアってわけね」

たかし「そういうこと」

ソラ「心の準備はいいかしら?」

たかし「うん、一応……」

ソラ「それじゃ、行くわよ」

扉を開けて中に入る。石独特の冷たさが伝わってくる。

たかし「結構寒いね」

ソラ「そ、そうね」

この場所はかなり寒かった。体感的には秋の始まりくらいだろうか。

ソラ「早く終わらせましょう。寒いもの」

たかし「ちょっと、待って!」

ソラの手を引いて、ソラの動きを止める。

ソラ「ちょっと、何?」

その瞬間、ソラの目の前に鉄の棘が振って地面に突き刺さった

たかし「まあ、こういう事です……」

ソラ「そういう事だったのね。ごめんなさい……」

たかし「問題ないよ」

ソラ「山田は、トラップがどこにあるか何となく分かるのよね?」

たかし「そうだけど、魔力検知式のトラップだと分からないんだよね……」

ソラ「それに関しては大丈夫よ。ヴィジブル」

ソラがそう唱えると、ソラの周りに霧が発生した。ソラの周りに赤い線のようなものが何本か見える様になった。

ソラ「これが魔力検知トラップよ、っと」

ソラは、センサーを潜り抜けた。

ソラ「ホントこういう時は小さくて良かったって、そう思うわ」

たかし「あはは」

ソラ「さ、行くわよ。私を奥までエスコートして見せなさい」

たかし「仰せのままに?」

罠を避けながら、部屋をしらみつぶしに探索していく。

ずしんと響く音が聞こえる。一定のリズムで繰り返されるそれが、足音であると俺は何となく分かった。

ソラ「さあ、山田修行の成果を見せてあげなさい」

たかし「え?」

ソラ「大丈夫、危なくなったら助けるから」

足音が近づいてくる。

ソラ「来るわよ!」

曲がり角から、そいつは姿を現した。

たかし「ミノタウロス……」

ソラ「大丈夫。オリジナルじゃない分。弱いから」

ミノタウロスは、俺に身を付けて雄叫びを上げた。ビリビリと音の振動が伝わってくる。

たかし「っ……!」

ソラ「敵をまっすぐ見据えて!」

ソラのアドバイス通りに、ミノタウロスの方をじっくりと観察する。筋肉の挙動一つから呼吸の動きを……。

たかし「来るっ……」

ミノタウロスは、俺にむかって突進を仕掛け右手に持った斧を振り下ろす。勢いはあるけど躱せないわけじゃない。だけど、躱しているだけじゃ勝てない。魔法瓶は奥の手だ。ここで使うわけにもいかない。

たかし「どうすれば……」

横からの危険を感じて、俺は咄嗟に下がる。毒が塗られた矢が俺の身体の先を通り抜けていく。うまい具合に罠にかければ……。俺は、ミノタウロスの攻撃を避けながら、罠の大体の場所を頭の中にインプットしていく。

たかし「よしっ、こい!」

俺はミノタウロスに背を向けながら、できるだけ服をなびかせて走る。ミノタウロスは、足を動かして、突進の予兆を見せる。本当にやると思ってなかった。だが、おかげで少し余裕ができた。

たかし「こっちだよ!」

ミノタウロスは、その合図とともに突進を繰り出した。見極めなければ……。俺はただではすまない。早くても遅くても行けない。

たかし「ここだ!」

トラップの仕掛けを思い切り、足で踏む。それによって、大量の槍が射出され、ミノタウロスを貫いた。

たかし「やったか?」

ソラ「まだよ!」

ミノタウロスは、突き刺さった槍を無理矢理へし折って、こちらに突進しようとする。まだ動く余裕があったなんて……。完全に油断した……。これでは避けられない……。

ソラ「バレット!」

ソラの指先から、小さな水の塊が射出され、ミノタウロスの頭を貫いた。

たかし「あ、ありがとう……」

ソラ「全く……。最後まで油断しちゃダメよ」

たかし「はい、仰るとおりです……」

ソラ「でもまあ、よくやったと思うわ」

たかし「本当?」

ソラ「ええ、そうね。というわけで、これからもヨロシク」

たかし「えぇ……」

ソラ「今度は、強化魔法をかけてあげるわ。さすがに一体一体にあれだけ時間かけてたら、迷宮の場所が変わっちゃうかもしれないし」

たかし「ぐぬぬ……」

ソラ「頼りにしてるわよ。山田」

ソラは、俺に笑顔を向けた。無邪気で何の曇りもない笑顔を。不覚にも綺麗だなんて思ってしまった。

ソラ「先に進むわよ」

たかし「あ、待ってよ」

それから、何度か魔物と出くわしたが何とか全員倒すことができるようになった。最後の方ではほとんど時間もかからず倒せるようになった。

たかし「よしっ」

ソラ「やるわね」

たかし「教える人の筋がいいからかな?」

ソラ「でしょうね」

ソラは悪戯的な笑みを浮かべる。

ソラ「いよいよね……」

俺達はついに、最深部でろう部屋の前に辿りついた。

ソラ「さすがにあなた一人では相手にならないだろうから、私も闘うわ」

たかし「良かった……」

ソラ「私もそこまで鬼じゃないからね?」

たかし「分かってるよ」

ソラ「開けるわよ」

ソラが扉を開くと、そこには黒い穴だけが広がっていた。

ソラ「嘘でしょ……」

たかし「どうしたの?」

ソラ「山田はここに残りなさい」

たかし「どういうこと?」

ソラ「この先にはとんでもなく強い敵が待ち構えている。下手したら私もどうなるか分からないわ。だから、山田にかけた強化魔法が解けたらここから帰りなさい」

ソラは扉の淵に手をかけて、俺の方を見た。

ソラ「山田、貴方といて楽しかったわ」

ソラは、黒い世界の中に飲み込まれていった。

たかし「何でだよ……」

扉が、大きく音を立てて閉じられる。

たかし「そんな死ぬことを予感させるみたいなこと言うんじゃねーよ……」

本当は追いかけたかった。でも、体が動かなかった。ここから先に行けば、俺は死ぬかもしれない。そう思うと足が動かない。逃げてしまえと、俺の心の中の悪魔が囁く。

SIDE CHANGE (ソラ)

ソラ「さて、どうしましょう」

次元の扉。異なる界と通じる扉。その先には恐ろしい怪物が待ち構えているとそう言われていた。出来損ないの私で相手になるだろうか?

ソラ「ごきげんよう。魔物さん」

黒い世界が、青い水晶のようなものに包まれた世界に変わり、白い玉座の上に、一人の女が座っていた。

魔物「あらあら、随分ご丁寧なあいさつだこと。私の名前は氷の女王。そう呼ばれているわ」

氷……。よりによって、一番相性の悪い敵が相手だなんて……。

ソラ「私は、ソラ・リヴァイアよ」

氷の女王「ほう……。貴様。リヴァイア家の人間か……。道理で、多大な魔力を持っているわけだな。これは楽しみだ」

氷の女王は、氷の剣を空中に沢山作り出すと、それを私に向けて飛ばした。

ソラ「アクアボール!」

水の大きな弾を作って、抵抗を生ませることで勢いを殺す。それでもなお、剣は止まらず私の方へと向かってくる。だが、大分スピードは落ちた。私はそれを避ける。

氷の女王「私に対して、水の魔法とはな……」

ソラ「バレット・クラスター」

水の弾丸を氷の女王に打ち込んでいく。しかし、それは届く前に凍り付いて落ちてしまった。分が悪すぎる……。

氷の女王「どうした? 他の属性の魔法はないのか?」

私は、水の魔法しか使えない。

だから、私にはこれしかできない。

ソラ「押し流せ、パルスノア」

これが今使える最強の魔法だ。湖ができるほどの大量の水を凍りの女王に向けて放つ。

氷の女王「我も舐められたものだ」

私の最高魔法が、ものすごい速さで凍り付いていく。魔力は今ので半分以上使ってしまった。駄目だ……。どうやっても勝つビジョンが浮かんでこない。

氷の女王「水のないところでこれだけの水魔法が使えることは賞賛に値する。だが、相性が悪すぎるみたいだな」

ソラ「バレット!」

駄目だ、どうやっても凍り付いてしまう。手詰まりだ……。

氷の女王「まさか、お前水魔法しか使えないのか? それは滑稽だ。まさか出来損ないだったなんてな」

ソラ「そうだよ。私は出来損ないだ。才能も何も私にはない」

氷の女王「主はさぞがっかりしただろうな。それだけの魔力を有しながら魔法の才能はほとんどないのだからな」

その通りだ。

氷の女王「さぞかし、お前は嫉妬と主の重圧に苦しんだだろうな。だが、それも今日で終わりにしてやろう」

私の周りに、氷の剣が姿を現す。最早、心をくじかれた私は避ける気も起きなかった。ここで楽になってしまおう。私はその身を守る魔法を解除した。

氷の女王「さよならだ。ソラ・リヴァイア」

たかし「ちょっと、待った!」

(SIDE CHANGE たかし)

たかし「体の力が……」

急に体の力が抜けていった。それはソラの強化魔法が解けたということを意味する。ソラがピンチだ……。

今すぐにでも助けに行きたいのに、体が動かない。見捨てろというのか、そんなことできない。

でも、そうすればお前は死ぬ。ソラも死ぬ。つまりお前は無駄死にするってことだ。

心の悪魔がそう囁く。

お前はまだ死にたくないだろう? 正しい選択をしろ。両方死ぬより、お前が生きている方が正しいはずだろう? な?

お前が行って、何の助けになる? むしろ邪魔にしかならないし、このまま帰っても誰もお前を責めたりしない。むしろ励ます奴だっているはずだ。

もう、悩むこともないだろう? 

たかし「そうだな」

おいおい。そっちは出口じゃないだろ?

俺は、扉に手をかけた。

そこに待っているのは、BADEND直行の扉だぜぞ? 今ならまだ間に合う。引き返せ。

たかし「嫌だね」

何故だ? お前は今までだってそうやって、見捨ててきたじゃないか。自分が助かるためによ。もしかして、惚れたのか? ないわー。お前ロリコンだったのか?

たかし「何故? そりゃソラにはまだまだ、聞きたいこといっぱいあるからね」

大馬鹿野郎め。ここで引き返せばよかったのに。

たかし「俺は大馬鹿野郎でも構わない」

好きにしろ。

たかし「好きにさせてもらうよ。それに、俺は負けるつもりはない」

あっそ。

俺は扉に手をかけて、中に入っていった。

(SIDE CHANGE ソラ)

ソラ「どうしてここにいるの!? 引き返せって言ったはずよ!」

本当は助けに来てくれて、嬉しかった。でも、山田では相手にならない。

たかし「入る扉間違えちゃって……」

山田は、舌を出して笑った。

ソラ「馬鹿ね。山田」

たかし「ええ、俺は馬鹿です。だから、これからも色々教えてください」

ソラ「しょうがないわね。アイツを倒してさっさと帰るわよ」

たかし「おう!」

と言っても、戦局は全く変わっていない。以前圧倒的にこちらが不利な状況だ。一人は水の魔法しか使えず、もう一人は魔法そのものが使えない。

氷の女王「お話は終りか? それではいくぞ」

氷の剣が、私たちに向かって飛んでくる。さっきよりも速い……!

ソラ「アクア・ボム」

本来は攻撃用に使う魔法を、楯に用いて先ほど同様、剣のスピードを殺して、避ける。

たかし「俺がアイツに近づくよ」

ソラ「何を言っているの!? 無理よ……」

山田では、攻撃を交わせないだろうし、そもそも氷の女王の周りには、絶対零度の結界がある。

たかし「俺にはこれがありますから」

たかしは懐から、炎と風の魔法瓶を取り出した。確かにこれがあれば、結界を一部だけほんのわずかな時間無効化できるかもしれない。だけど、その間に倒しきれる保証はゼロに等しい。でも、それに賭けるしかない。だったら、私にできることは、一つだけだ。

ソラ「私が援護するわ。だから、全力で走り抜けて」

たかし「任せて」

ソラ「ヴィジブル・ヴィジブル」

霧を発生させる魔法を何度も発動させて濃い霧を作る。これで少しの間目くらましになる筈だ。

ソラ「行って!」

たかし「了解!」

霧の中で、合図を交わし山田は、氷の女王のほうへと走って行く。

氷の女王「小賢しい真似を」

霧が凍り付いて、すぐに晴れていき、山田の姿が露わになる。

ソラ「アクアボール」

剣の動く先を予測して、剣の動きをわずかに遅れさせる。その間、動きをあまり取れない私に何本か剣が刺さる。だが、この詠唱を緩めるわけにはいかない。

たかし「おりゃ!」

山田が魔法瓶を投げるとほぼ同時に、私は詠唱を始める。

ソラ「バレットスナイパー」

圧縮された水の弾を放つ。それが、魔法瓶を撃ちぬき、火炎魔法と風魔法が発動する。風魔法の相乗効果によって、大きくなった火が氷の女王を包み込み結界周囲の温度を上昇させる。

ソラ「もう一発!」

バレットスナイパーを、そのわずかな隙間に撃ちこんでいく。これで倒せなければ私達の負けだ。

書き溜め無くなっちゃったので、今日はここまでにします。
心折れそう

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