恭介「よしお前ら、エロゲを買いに行こう」 (35)

極寒(ごっさむ)と言っても差し支えないこの頃。恭介は恥じらいなく、ただの買い物に誘うような口調で言った。ただし、それが買い物気分で乗れるような提案でないことは明らかだった。少なくとも同じ部屋にいる男達にとっては。

「ねえ謙吾…今、恭介なんて?」

自分の耳が信じられなかった理樹は隣の謙吾に聞いた。

「エロゲを買いに行きたいらしい…」

反応を見る限り謙吾も理樹と同じ気持ちだったようだ。

「エロゲってなんだ?」

ただし、名詞の意味すら理解出来ていない真人は別だった。

「エロいゲームのことだ」

依然、堂々とした口振りで話す恭介。真人はその解説のおかげでエロゲのことを「マリオがナイスバディなお姉さんになったゲーム」と理解した。

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旅の途中だから更新が途絶えまくるかもしれん

「なるほどな、恭介もそういうのに興味あったのか」

と、真人。

「まあ興味あるっちゃあるな」

と恭介。
もちろん、彼と付き合いの長い理樹は、その「興味」とは”未知の領域に踏み込むこと自体”のことを指すと知っていた。そしてそんなフォローを口に出す代わりに抗議の叫びをあげた。

「急にどうしちゃったのさ恭介!?え、エロゲなんて…健全な学生が興味持つものじゃないよ!」

「へえ、理樹はまだ俺たちが健全な学生だと思っていたのか」

「俺を巻き込まないでくれ」

恭介のあらゆる突拍子のない提案にはもう慣れたつもりの謙吾だったが、今回は自身の保険に入るだけで精一杯だった。

「そんなことして何になるのさ!」

なおも続ける理樹。しかし喋りながらも他の2人は薄々諦めに入っていた。何故なら恭介と口喧嘩で勝てた試しがなかったからだ。

「よく考えてみろ、エロゲってだいたい学園ものか、そうじゃなくても主人公は学生だろ?」

「知らないよ…」

「ゲームに限らず物語を楽しむにはみんな出来る限り主人公に感情移入したいはずだ。だのに学生がエロゲをするのはご法度。これっておかしくないか?」

恭介の口調はヒートアップしていて、もはや周りが見えていなかった。

「だから俺は俺でいるため…エロゲをする!学生である今エロゲをすることが最大の楽しみ方であり、エロゲに対する礼儀だっ!」

「なるほどな。恭介の言いたいことは分かった…」

余裕を取り戻した謙吾が話に割り込んだ。
理樹は心の中で本当に分かったのか疑問を抱いた。

「恭介…もしかして俺たちも買いに行くのか…?その…エロゲを」

「もちろんだとも」

理樹はみんながエロゲと連発することに少々羞恥心を持っていたが、今はそんなことを気にしている暇はない。

「ええーっ!絶対嫌だよ!それがもし見つかったらどうするのさ!?」

「見つからないから心配するな」

「いやいやいやいやいや!!」

あまりに根拠のない保証に理樹はいつもの言葉を多めに繰り返してしまった。
そんな哀れな男子高校生を尻目に恭介は財布の中身を確認し、問題無しと見ると3人に言った。

「お前らも買うか?」

3人は首を横に振った。動きはシンクロしていた。


…………………………………………



結局、恭介1人の巧みな口車に乗せられてしまった3人はエロゲが手に入るであろう街まで来てしまった。
しかし理樹の目はまだ抵抗することを諦めていなかった。今回だけはなんとかしてこの男を止めなければ将来どうなるか分かったものではない。

「ねえ考え直してよ恭介!それだけ買ったところでする所なんかないよ!?」

「学校のPCを使えばいい。図書室には一つだけ角度的に誰かに見られることのない絶妙な配置の台があるのを知っている」

「よ、よく見つけたねそんなところ……じゃなくて!!」

「なんだ、まだ文句があるのか?」

「そ、そうだ…僕らそもそもエロゲ買っていい年じゃないよっ」

「ふむ…確かにお前らは17歳だ。しかし俺の年は?」

解答者はその答えが頭に浮かび上がり、とうとう説得することを諦めた。
その様子を見届けた謙吾は静かに敗者の肩を叩き、労った。



ゲーム屋に着くと、恭介は迷うことなく目的のコーナーに3人を案内した。理樹はそれらが平然と他のゲームに混ざって置かれていることにびっくりした。あまりゲーム屋自体寄らないにしても今までよく気付かなかったものだ。

「これだ!というものを探してみてくれ。パッケージを見るだけなら法に触れていないからな」

と、恭介。

「ううむ……」

と、謙吾。

「見るだけでも抵抗あるんだけど……」

と、理樹。

「アクション系のエロゲってどの辺だ?」

と、真人。


………………………………

しばらくして4人が長方形の箱を持って再び集った。
謙吾と理樹は顔が真っ赤に燃えていた。

「さて、互いに成果を発表しようじゃないか。まずは言い出しっぺの俺から」

そう言って恭介が取り出したのは夏を思わせるパッケージのゲームだった。

「もう箱の絵からして名作臭がしないか?説明によると人形劇で生計を立てている旅人がぶっ倒れた先に金髪美少女が現れたってシチュエーションだ。考えただけでも心が躍るな!そんでこの主人公の声優も緑川って奴らしい。初めて聞く名前だがこいつは期待出来そうだぜ!」

恭介の説明が終わったと見るや次は謙吾が自分が持ってきた物の解説を行った。恥ずかしいことはできるだけ早くに終わらせたいのだ。

「さあロマンティック大統領の腕前を拝見させてもらうぜっ!」

「お、俺が持ってきたのはこれだ…」

謙吾が持ってきたのは春を思わせるパッケージのゲームだった。

「説明によると始業式が始まったばかりの高校が舞台だ。主人公は桜舞い散る高校に続く坂道で不思議な少女と出会い、恋に落ちていく…しかもこのゲームの魅力は、とあるルートではなんと結婚後まで話が続くということだ」

「へえ、付き合って終わりとかじゃないんだね」

理樹が思わず興味ありげに呟く。
しかし恭介は逆に眉をひそめていた。

「謙吾…確かにそのストーリーは関心を引くんだけどな…」

「な、なんだ…?」

謙吾は自分が何かミスを犯したんじゃないかと焦った。
そしてその予想は当たっていた。

「パッケージを見てみろ。どこかにR-18って書いてあるか?」

「ハッ!?」

そう言われて初めて気がついたのだった。自分が持ってきたのはそもそもエロゲじゃなかったんだと。

「なんでエロゲじゃないのに持ってきたんだ謙吾っちよぉー」

普段バカにしている…というか本物のバカの真人にまで言われた謙吾は苦しい言い訳をするしかなかった。

「じ、人生……かな?」

「何言ってんだこいつ」


次は理樹の番だった。理樹のチョイスには恭介も注目していた。何故ならばこの3人の中で理樹は唯一こういった物の趣向を明かしていなかったからだ。

「僕はその…これなんだけど」

ずっと背中に隠していたものを3人に見せた。理樹の持ってきたのは冬を思わせるパッケージだった。

「説明によると主人公は両親の都合で叔母さんの所にやっかいになったんだ。7年前まではよく訪れていたにも関わらず、主人公には当時のことが思い出せずにいた。そんな中、彼はそこで出会った5人の少女達と交流を深め、幼い頃の大切な記憶を取り戻していく物語だってさ」

「ほー…18禁だな?シチュエーションは正に俺好みだな」

珍しくお眼鏡にかなったようなので理樹は少し嬉しくなった。しかしその時点でもうエロゲを買う空気に飲まれていることに理樹はまだ気付いていなかった。

「じゃ、そろそろ俺が見せる時が来たようだな……」

真人は自分が真打ちだと勝手に思い込んでいた。3人にそんな気は毛頭なかったが、果たしてどんな代物を持ってくるかという意味では一番注目された存在でもあった。

「こいつだ!タイトルはAngel Beats! って言うらしい」

「あっ」

誰かが「これは触れてはいけない奴だ」とでも言いたげな声を出した。

「なんか1st beatとか書かれてるけどどういう意味なんだろうなー………っておいどうした恭介?」

すかさず恭介がそれをひったくると元の位置に戻した。

恭介「さ、結局候補は俺の奴と理樹の奴の2つに絞られた訳だが…」

真人「ちょっと待て!なんで俺のはスルーしたんだよ!!」

「なるほど2対2か……結局こうなっちまったなぁ…」

理樹はなんとなくこの組み合わせが嫌いだった。何故かと言われると上手く説明出来ないがとにかく好きにはなれない。
と、そこへ店の入り口から聞き慣れた声が4人に向かって伸びた。

「わふ?もしかして…リキ、それにみなさんも!」

その人物とは、もしエロゲに出ようものならすぐさま規制を食らってゲーム会社自体が潰れるようなフォルムを持った少女だった。幸いここはエロゲではないが。

「「(能美)ク、クド(公)!!」」

「わふー?」

白のマントと帽子を身にまとってミニマムな(親父ギャグではない)クドと呼ばれた少女がこちらを覗き込む。幸い、恭介が何を持っているかまでは分かっていない様子である。

うぁあああああ!!他のスレ見たら今日はバレンタインじゃねえか!せっかくチョコを貰える(かもしれない)祭典に俺はなんで放浪してんだよ!っていうかそんなことよりバレンタインssとか全く考えてもなかったわ!
仕方がねえ、今日でこのssをなんとか終わらせて俺もこのウェーブに乗るぜ!

>>21
頑張れお前のss愛してるぞ






というわけで恭介×理樹のバレンタインお願いします

クド「テヴアのお爺さんが今度は日本のカセットゲームというものをやってみたいというので探しに来たのですが……皆さんも何かをお探しですか?」

クドリャフカは、この4人とそれほど離れた歳ではないにも関わらずその身体の成長具合から中学生に見られることも少なくなかった。当人にとっては悩みの種であるものの、周囲の人間はその苦悩すら母性本能を奮い立たせる材料に過ぎず、結果として可愛がられる傾向にあった。
しかし今はそんなことはどうでも良かった。恭介は、彼女のような真面目で無垢な少女にエロゲを購入する姿を見られるとどうなるか頭の中でシミュレーションをしてみた。

…………………………

恭介「うっ、これは違うんです!」

クド「わふー!恭介さんはエロゲオタだったんですか!?キモーイ!なのです!」

鈴「エロゲオタが許されるのは30過ぎた孤独なおっさんだけだな」

クド&鈴「あはははは(ガッハッハッハ)!」

…………………………


恭介「…………………」

恭介は、自分の今置かれている状況を瞬時に理解すると、いまだに唖然としている3人に素早く、クドに聞こえないよう声をかけた。

恭介「おいお前ら…今すぐ能美をあっちにやれ…!そうじゃないと全員これから卒業まで後ろ指を指されて過ごす事になるぞ…っ!!」

口ではそう言いながらも実際そうなるのは自分だけだろうなと思った。しかし、そうでも言わないと、3人に死ぬ気で協力してもらわないと想い描いた未来が実現するのはほぼ確実だった。

理樹「どどどどうしよう!」

不意の事態に理樹はまだ混乱していた。しかし、奇跡的にも謙吾と真人は全く同じ解決法を同時に思い付いた。そして2人はお互いの目を見てそのことを理解し、実行に移した。長年のライバルであり、良き友である彼らだからこそ出来ることであった。
謙吾はクドの元へ接近すると、彼女の視界をほぼ自分で覆い尽くし、そのすぐ後ろには真人がスタンバイした。

クド「あ、あの…どうされたんですか?」

急に距離を詰められたクドリャフカは戸惑いながらも後ずさりした。しかし謙吾は、そのまま下がられて、恭介の持っているものを知られる前にミッションをスタートさせた。

謙吾「能美!突然だが俺達の反復横跳び競争を見ていてくれ!どっちが多く飛べたか数えてくれないか!?」

真人「用意スタートォ!フッ!フッ!フッ!フッ!」

謙吾「フッ!フッ!フッ!フッ!」

ミスった
修正

謙吾が、左にいる時は真人は右に。
真人が、右にいる時は謙吾が左に。
つまりクドの2つの眼はむさ苦しい男しか捉えられなかった。
そうでなくともクドは素直なので謙吾の突然のリクエスト通りに2人の行き来する回数を必死に数えることに夢中で、文字通りの意味で恭介達の方は眼中に無かったのである。

「さあ早く買え恭介!俺たちが全力を出せているうちに!!」

恭介はこれほど2人に感謝したことは無かった。個人的なありがとう度で言えばあの世界にいた頃よりもはるかに気持ちは上回っていた。
しかし、まだ問題は残っている。

「さ、さあ早く買おうよ恭介!」

「いや。まだダメだ…」

苦心で掴み取ったチャンスを持っているにも関わらず、まだ足をレジへ運ぼうとしない恭介に理樹は苛立ちを覚えた。

「どうして!?」

「…………まだ…どっち買うか決めてねえ…」

じゃあバレンタインss考えてくるかな
タイトルは
理樹「なんでチョコ?」

>>22
西園さん落ち着いてください

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