長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」(919)

長老「~はじめに~
・このssは魔王・勇者系ssじゃ。
・ドラクエの二次創作ssじゃが、オリジナルの設定やドラクエ本編ではありえない設定も存在するぞぃ、二次創作ということで許してほしいのぅ。
・書き溜めはしてあるぞぃ。
・書きたいこと書いておったらとてつもなく長くなってしもうた、すまんのぅ。最後まで読んでくれたら泣いてお礼するぞぃ。
>>1は厨二病全開じゃ、痛々しくても我慢してほしいのぅ。
>>1は文章構成力もない上にシナリオ力もないからのぅ、途中で読むのを飽きてしまうかもしれんが優しく見守ってくれるとうれしいのぅ。
・誤字脱字には気を付けたつもりじゃがそれでも多少のミスはあると思うからの、温かく見守ってくれるとうれしいのぅ。
>>1は『嫁にするならビアンカ、恋人にするならフローラ、愛人にするならデボラ』派じゃ、異論は認めないぞぃ。


それでは本編を始めるとしようかのぅ」

――――とある小さな村
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」

****「じいちゃんまたそれかよ……俺もういい加減聞き飽きたよ」

長老「ん?そうか?」

****「当たり前だろ!?物心ついた頃からじいちゃんからいつもいつもその話ばっかり聞かされてて耳にタコができそうだよ……」

長老「いやいや、この村に代々伝わる勇者様達の伝承じゃぞ、何度でも聞かせてやるわぃ」

****「だー!!もー!!
一番目の勇者が竜の王を倒して、
二番目の勇者が破壊の神を倒して、
三番目の勇者が殺戮の神を倒して、
四番目の勇者が魔族の王を倒して、
五番目の勇者がえーっと……あの影の薄い……そう!ナメック星人!……じゃなかった、魔界の王!、を倒して、
六番目の勇者が異次元の魔王を倒して、
七番目の勇者が世界を切り離した魔王を倒して、
八番目の勇者が悲しみの魔王を倒して、
九番目の勇者が墮天使を倒したんだろ!?」ゼェゼェ

長老「おぉ、よく覚えておるのぅ流石わしの孫じゃ」ホッホ

****「関係ないって!!、だいたいさ、勇者の伝説なんか聞いても何の役にも立たないっつーの」

長老「そんなことないじゃろ、勇者様達が如何にして世界を救ったか知っておれば何かの役に立つじゃろうて」

****「何かってなんだよ……そりゃこの世界にも魔王なんて危ないやつがいたらそん時は勇者の伝承が役に立つかもしれないけどさ」

長老「ほっほっほ、のるほどのう。そうなったらもしかしたらお前が世界を救うかもしれんな?
そしたらお前も勇者の仲間入りじゃな」ニッ

****「んなことあるわけないだろ?自分で言っといてなんだけど魔族は何千年も前に精霊様に封印されたんだろしさ……てか俺狩りに行くからおとぎ話は村の子供たちにでもしてるんだな、じゃ」タッタッタ

長老「ふむ……しょうがない奴じゃ」ポリポリ

子供a「ちょうろうさまー、きょうもゆうしゃさまのはなししてー」ニパ

子供b「してー」ニパ

長老「ん?おぉそうかそうか、じゃあ今日は三番目の勇者様の話をしようかのぅ。
あるところにアリアハンという国があってのぅ……」


――――村入口付近
友a「よっ」

友b「おせーぞぉー」

****「悪ぃ悪ぃ、じいちゃんにつかまってた」

友b「またかよ」笑

友a「長老はホントにお前のことが可愛いみたいだな~」

****「ん~……まぁな、親父も母ちゃんも俺が小さい頃死んじゃったしばあちゃんはそれよりずっと前に死んじゃったから家族は俺しかいないからなぁ」

友a「………」

友b「ま、お前も長老のこと大事にしてんだろ?」

****「はぁ?だれがあんなモーロクじじい!!」

友b「とか言ってぇ~、この前小遣い全部注ぎ込んで王都で高ぇお茶買ってきたの知ってるぜ?」

****「なな、なんでそれを!?」

友a「くくっ」

友b「へへへっ」

****「くぅ……!!さ、さっさと狩り行こうぜ!!今日も誰が一番デカい獲物仕留められるか勝負だからなッ!!」ダダダッ

友b「あ、待てよ!!」

友a「よし、負けないからな!!」

――――村付近
???「この村で間違いねぇのか?」

???「えぇ、この村で間違いありません」

???「可能性のある二十八の村を調査した結果ここにそれだと思われる石碑や勇者を奉る祠を発見いたしました」

???「よし、全兵に命ずる。この村を殲滅しろぉ!!一人たりとも逃がすなァ!!」

???「はっ!!!!」

ザザザザザザッ!!

――――山中
****「ふぃー、随分遠くまで来ちまったなぁ~。まぁそのおかげでこんなデカい獲物がとれたんだけどな」ポンポン

猪「」

****「こりゃ今日も俺が一番だな……俺ってば天才かもな」ニヤッ

****「村に帰るのにはちょっと時間がかかっちまうな……まぁのんびりいくか♪」ズリズリ

ドオン!!

ドオンドオン!!

****「!?」

****「なんだ今のすげー音!?」

タッタッタ

****「!!!! む、村が!!」

――――とある小さな村
タッタッタ

****「ハァハァ……な、なんだこれ……家も畑もメチャクチャだ……」ダダダッ

****「!!!!」

****「オェ゛ェ゛エエエ……ゲェェ……ひどい……みんな……し、死んでる……うぷっ……」

ガサッ

****「だ、誰だ!?」ビクッ

友a「あ……ぐぁ…………」

****「と、友a!?大丈夫か!?しっかりしろ!!」

友a「そうか……お前は無事だったんだな……よかっ……た……」

****「喋るな!!今手当てを……」

友a「いや……内臓が何個か潰れて……るんだ……俺はもう助からな……い……」ヒュウ…ヒュウ…

****「畜生!!ちくしょうチクショウ!!一体どうしてこんな!!」

友a「む……村からすごい音が聞こえたから友bと狩りから引き返したんだ……そしたら……村のみんなが襲われててそれで……」

****「友bは!?」

友a「……見ない方がいい……」グスッ

****「……っ!!」

****「どこのどいつがこんなことを……!!」

友a「ま……魔族だ……」

****「!?」

友a「俺は……魔族を見たことは……ないけど……直感的にわかった……今まで感じたことのないあのおぞましい気配……あれは魔族……だ……」

****「な……だって魔族は……それになんのために……」

友a「それは俺もわからない……長老なら何か……知ってるかもしれない……」

****「!!!! じいちゃん!!」

友a「はや……く……長老のとこ……ろ……」

****「友a!?」

友a「」

****「友aぇぇーーー!!!!」

友a「」

――――長老の家
バァン!!

****「ハァ……ハァ……グス……じ、じいちゃん!!じいちゃんどこだ!?」ヒグッ

長老「……その声は……」

****「!! じいちゃん!!俺だよ!!」ガバッ

長老「おぉ……お前は無事なんじゃな?……良かったわい……もう目が見えん……村はどうじゃ……?」

****「グス……ヒッグ……ダメだ……家は焼かれて村人はみんな殺された……友aも……友bも……八百屋のおじさんも隣のおばさんも……みんなみんな殺された!!」

長老「……生き残ったのはお前だけということか……?」

****「わかんないけど……たぶん俺だけだ……たまたま遠くに狩りに出てて帰ってくるのが遅れて……それで…………」グスッ

長老「そうか……お前がそうなのか……」

****「…………?」

長老「お前にこの村の秘密を……代々長老だけが知る秘密を話そう……」

****「……グス……ズズ……それが今回のことと関係あるのか……?」

長老「あぁ……その通りじゃ……」

長老「この村の本当の名前はのぅ……【勇者の伝説を紡ぐ村】と言うんじゃ……」

****「……勇者の……伝説を紡ぐ村……?」

長老「村に古くから伝わる九人の勇者様の伝承……それを代々語り継ぐのがこの村の民の使命なんじゃ……」

****「で、でもだからってそんなことでこの村が襲われていい理由にはならないだろ!?」

長老「……そうじゃな……じゃがのぅ……勇者の伝説はもう一つあるんじゃ」

****「ど、どういうことだよ?」

長老「それこそが零番目の勇者の伝説じゃ……」

****「零番目の……勇者……?」

****「なんだよそれ……聞いたことねぇよ……」

長老「そう……零番目の勇者の伝説こそが代々長老にのみ語り継がれる伝承……そしてこの世界の勇者じゃ……」

長老「そして零番目の勇者の伝説は冒頭しか書物に記されておらん……

【世界に再び闇が広がりし時、この村より生まれし一人の若者が世界の闇を打ち払うべく立ち上がることになるだろう】

……とな」

****「この村……?」

長老「……それが……おそらくお前じゃよ」

****「!?」

長老「この村の生き残りはお前一人……ならばお前こそが伝説の勇者じゃろうて……」

****「……俺が……」

勇者「勇者……!?」

長老「どこで伝承を知ったかわからぬが魔族達はこの村から『勇者』が生まれることを恐れてこの村を襲ったんじゃろう……」

長老「……勇者様を奉る祠……その隣に生える御神木の根本に隠し部屋がある……そこに向かうんじゃ……そこで……精霊様のお告げを……」

勇者「じ、じいちゃん!?」

勇者「いきなり俺が世界を救う勇者とか言われてもワケわかんねぇよ!!俺アホだしいつも悪さばっかりだし大勢の人の役に立つことなんてできっこねぇよ!!」ブワッ

長老「勇者……それでもお前はやさしい子に育った……そのやさしさこそが"勇者"に一番大事なことじゃないかのぅ?」

勇者「じいちゃん……」ヒッグ

長老「この間お前がわしにお茶をくれたじゃろ……?」

勇者「あぁ……」グスッ

長老「あのお茶のぅ……めちゃくちゃ苦くてとびきりマズかったわぃ……ヒヒッ」

勇者「なんだよ……それ……ヘヘッ」ポロポロ

長老「……でものぅ……すごく……すごく嬉しかった……胸の奥がじーんと温かくなった……わしが今まで飲んだお茶の中で……最高のお茶じゃった……」ニコリ

勇者「……じいちゃん……」ヒッグエッグ

長老「ありがとうのぅ……勇者……」

勇者「今度はもっと美味い茶飲ませてやるから覚悟しとけよ?」グスッ

長老「」

勇者「……へへ……なんとか言えよ……じいちゃん……」ブワッ

長老「」

勇者「なんで……なんで動かねぇんだよ……!!」ボロボロ

長老「」

勇者「俺を……一人にしないでくれよォ!!……じいちゃん!!じいちゃん!!じいちゃん!!」ボロボロ

長老「」

勇者「うわあああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

――――翌日・勇者を奉る祠
勇者「……なんとかみんなの墓は作り終わった……じいちゃん……友a……友b……みんな……安らかに眠ってくれ……」ポン

勇者「……しっかしこのデッケェ木の根本っつってもなぁ……」

ガサゴソ

ガコン!!

勇者「おわっ!!……下り階段だ……あ、案外簡単に見つかったな……よ、よし、降りるぞ」

シュッ ボゥ

カッカッカッカッ……

勇者「ん……広い部屋に出たな……石造りの小部屋か……特に何があるわけでもなさそう……ん?」

パァァァァ……!!

勇者「う、うわっ!!部屋中が光ッ」

???『……はじめまして……勇者……』

勇者「だ、誰だ!?」バッ

???『私はこの世界の観測者にして守護者……名をルビスと申します……今あなたの心に直接語りかけています……』

勇者「……ルビス……」

ルビス『ここに勇者であるあなたが来たということは世界に再び危機が訪れようとしていることは知っていますね?』

勇者「あぁ……」

ルビス『魔族は何千年も前に私が封印しました……しかし封印から逃れた一匹の魔族がその身を隠し、長い年月力を蓄え、ついに私の封印を解くほどの力を得たのです……そして自らを魔王と名乗り封印から解放した魔族達を手駒に世界を支配するつもりなのです』

勇者(そういうことか……)

ルビス『私は人間には真似できない不思議な力を使うことができますが戦闘力としての力は高くありません……ですから勇者、あなたに魔王を倒して欲しいのです』

勇者「ちょっと待てよ!!そんなこと言ったって俺はただの人間だぞ!?魔族どころか魔物と闘ったことすらない!!そんな俺がどうやったらアンタでさえ倒せない魔王を倒せるっつーんだよ!!」

ルビス『そう……今のあなたでは魔王には勝てない』

勇者「…………」

ルビス『だからこれからあるところである人達に師事して修行をしてもらいます』

勇者「修行?」

>>1
うわぁ…

ルビス『そう……私の力で九つの世界・時代に生きる九人の勇者達のところへあなたを飛ばします。そこで勇者達に闘いを学ぶのです』

勇者「く、九人の勇者達に!?」

ルビス『えぇ……しかしそう長くは別の世界にあなたを飛ばすことはできません……次元を超えた出会いというのは様々な歪みを生むのです……』

ルビス『一つの世界にいられる時間はおそらく十日間が限界……つまり九人の勇者に一人につき十日ずつ、計九十日間の修行しかできないでしょう』

勇者「一人につき十日か……」

ルビス『この三ヶ月であなたがどこまで成長できるか……それに世界の命運がかかっているのです……それでもやってくれますか?』

勇者「……それがアンタの考えつく方法の中で一番可能性が高いんだろ?」

ルビス『……その通りです』

勇者「……わかった、俺やるよ」

ルビス『ありがとうございます』

勇者「でも三ヶ月後もこの世界はまだ無事なのか?」

ルビス『おそらく……大規模な魔族の進軍にはまだ時間がかかると思います』

ルビス『滅ぼされる国がいくつか出るかもしれませんが世界の全てが魔族の手に堕ちるには時間がかかるでしょう』

ルビス『とは言え犠牲になる人々が出るのは事実ですが……』

勇者「……くそっ!!」

ルビス『しかしあなたが魔王を倒さねば世界が完全に魔族のものになることになります』

ルビス『自らの無力がつらいでしょうが今は耐えるしかないのです……』

勇者「…………そうか……アンタも俺と同じか……自分の無力がつらいんだな……」

ルビス『……』

勇者「まかせろ、アンタの分まで俺が力をつけて魔王をボコボコにしてやるからさ!!」

ルビス『……フフッ』

勇者「な、なんだよ!!」

ルビス『勇者……あなたはとてもやさしいのですね……』

勇者「はぁ!?う、うるせぇな!!何言ってやがんだ!!////」カァ

ルビス『クスクス……失礼しました……さぁ、こうしている間にも魔族の脅威に怯える人々がいます』

ルビス『早速一番目の勇者の世界へとあなたを飛ばしますよ』

ルビス『準備はよろしいですか?』

勇者「……あぁ、わかった!!やってくれ!!」

カァァァァァア!!

勇者(じいちゃん……友a……友b……みんな……いってくるぜ……)

シュンッ!!

しーーーーん……

――――???
勇者(なんだここ……)

勇者(暗闇の中に色とりどりの小さな光……)

勇者(まるで夜空の中を飛んでるみたいだ……)

ルビス『勇者……私の声が聞こえますか……?』

勇者「……あぁ」

ルビス『その世界の勇者に出会ったらまず彼らの体に触れるのです』

ルビス『そうすれば私の声が……あなたの世界のことが……勇者達にわかるようにあなたに魔法をかけておきました』

勇者「へぇ……気が利くな」

ルビス『さぁ……旅立ちの時です、勇者よ!!』

キィィイイイン!!

勇者(う……光の一つに吸い込まれ……!!)

――――第一の世界
パッ

勇者「!?」

勇者「う、うわあああーーー!!」

ドシーン

勇者「あてててて……もうちょっとどうにかなんなかったのかよルビス!!」

しーーーん

勇者「なんだ、もう聞こえないのか……」

勇者「ここは……森だな……つーか勇者ってどこにいるんだよ」

勇者「見つけるだけで十日かかるなんてのはナシだぜ?」苦笑

ギラリ

ヒュバッ!!

勇者「のわっ!?」

ズバン

???「チッ、外したか」

勇者「い、いきなり何しやがんだテメェは!!」

???「だまれ魔王の手先!!俺の命を狙ってきたんだろ!?」

勇者「!?」

勇者「金髪に額飾り……赤い法衣……!!」

???「?」

勇者「で、伝承と同じだ!!ア、ア、アンタが一番目の勇者だな!?」

厨ニ病はともかく冒頭で注意書きってか言い訳、しかもキャラに代弁させるとか勘弁してくれ

???「そらみたことか!!やっぱり俺の命を狙ってきたんじゃないか!!」

ヒュバッ

勇者「わっ!!」

シュビッ

勇者「とっ!!」

ビュバッ

勇者「ちょっ!!」

???「ちょこまかと避けやがって……!!」

勇者「無茶言うな!!誰が黙って斬られるかよ!!」

???「問答無用!!らあっ!!」

ブンッ!!

勇者「ひぃっ!!」

???「もらった!!」

勇者「な……裏拳!?」

バキイイィィ!!!!

勇者「ぐっはぁぁぁ」

キィィイイイン!!

???「!!」

???「なんだこれは……頭の中にお前のことが流れこんでくる……!!」

???「ゆ、勇者!?」

勇者「」ピクピク

???「……あ、あら~……」アセアセ

――――???のキャンプ
???「いやー、さっきはすまなかった!!この通り!!なっ!!」

勇者「勘違いで殺されかけたらたまんねぇっつの」ブツブツ

???「だから悪かったって」アハハー

???「……っと、自己紹介がまだだったな!!」

???「俺は伝説の勇者ロトの血を引きし者、ワンって言うんだ、よろしくな♪」

勇者「ワンさん……?」

ワン「なんだよよそよそしいな、ワンでいいよ」スッ

勇者「うん、わかった!!」ガシッ

ワン「……で、さっきお前に触れた時にお前のことがなんとなくわかった……その……つらかったな」

勇者「……あぁ……」

ワン「でもお前には時間がないのもたしかだ、俺がこの十日でバッチリ鍛えてやるからな!!」

勇者「お、おう!!」

ワン「じゃあまず手始めに使える呪文を教えてくれないか?」

勇者「……ジュモン?」

ワン「……は?嘘だろ?呪文も知らねぇの?」

勇者「し、知ってるしー。えーと……」

勇者『ポッポルンガ プピリット パロ!!』

しーん

勇者『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ!!』

しーーん

勇者『ティロ・フィナーレ!!』

しーーーん

勇者『エル・プサイ・コングルゥ!!』

しーーーーん

勇者「……」

ワン「……」

ワン「はぁ……これじゃ先が思いやられるぜ……」

勇者「ご、ごめん……」シュン

ワン「いいか、呪文って言うのはな、世界に満ちている魔力を己の中の魔力とスペルをきっかけにして解き放つことだ」

勇者「ふむふむ」

ワン「俺が今からやるから見てろよ」

勇者「……」ゴクッ

ワン『ベギラマァ』!!

ボウゥ!!

勇者「おわっ!!手から火が出た!!すげーー!!」

ワン「ふふん、そうか?」テレッ

勇者「で、どうやんの!?どうやんの!?!?」

ワン「えーとな、もう一度詳しく解説するとな」

ワン「第一段階として世界に満ちる魔力の知覚。第二段階として自分の中の魔力を変換して扉を造る。第三段階で自分の発するスペルが鍵となり扉を開く。そして最後に世界に満ちる魔力が扉を通って放たれる」

ワン「そんなイメージで呪文ってのが使えるんだ」

ワン「自分の魔力が切れたら扉は作れないから呪文を使うこともできなくなる」

ワン「唱えられる呪文は契約したものでなければならない。だけど契約したから使えるってわけじゃなくてだな、自分の中の絶対魔力がその呪文を使える値に達しないと…………って聞いてるか?」

勇者「」

ワン「勇者?」

勇者「わ、わけわからん……」

ワン「……」

勇者「ゆ、勇者って頭悪いもんだと思った……」

ワン「『勇者』ってお前のこと?」

勇者「いや、アンタのこと」

ワン「……ま、まぁ逆に褒められたと思っておこう」ピキッ

ワン「さて、じゃあまずは修行の第一段階から始めるぞ!!」

勇者「おーー!!」

――――第一の世界・二日目
勇者「……」

ワン「……」

勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「………………」

ワン「………………」

勇者「………………」ピクッ

ワン「かぁつッ!!」

バシィッ

勇者「いだぁ!!」

ワン「集中力が足りないぞ勇者!!」

勇者「んなこと言ったって昨日も今日もひたすら瞑想じゃん!!」

ワン「だからぁ、世界の中の魔力を感じるんだよぉ!!それができなきゃスタートラインにも立てねぇんだって!!」

勇者「ぐぬぬ……!!」

ワン「力んでも意味ねぇっつの!!」

ビシッ

勇者「ぐはっ!!」

――――第一の世界・三日目
勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「…………」ピククッ

ワン「……ハァ」

勇者「ぐ………」

――――第一の世界・四日目
勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「…………」

ワン「…………」

勇者「………………くそっ……」

――――第一の世界・五日目
勇者「……だめだ……全然わかんねぇ……」

ワン「……」

ワン「酷なようだがタイムリミットまどあと五日だ……」

勇者「わかってるよ!!」ガンッ

ワン「……焦っても何の解決にもならねぇぞ」

勇者「んなこと言ったって俺が……俺がやらなきゃならねぇのに……!!俺ができなきゃならねぇのに……!!」ギリッ

勇者「なんで……なんで俺なんだよ!!こんな才能もねぇ俺なんかが、なんで勇者なんだよ!!くそっ!!」ガンッガンッ

ワン「少し休むか……」

勇者「でも!!俺には時間が!!」

ワン「いいから!!少し休め……」

勇者「……くそっ」チッ

――――川
ザパァッ

勇者「……プハァ」

勇者「くそ……ダメだ……俺って……くそぅ……」

ガサッ

ワン「……少しいいか?」

勇者「!?」

勇者(……そこの木の影か……)

ワン「俺ってさ……ロトの血を引きし者、とか言われてさ、いきなりラダトーム城に連れてこられたんだ」

勇者「……」

ワン「俺の住んでた町はさ、魔物に滅ぼされちまってさ、途方に暮れてたら今度は『お前が世界を救う勇者だ』ときたもんだ……」

勇者(俺と……同じだ……)

ワン「自分の運命の重さに耐えられずに……『早く世界を救わないと』『早く強くならないと』って見えない何かに押し潰されそうになったりもしたよ……」

勇者「……」

ワン「でもさ、ある日気づいたんだよ」

勇者「?」

ワン「俺は俺だよな、って」

勇者「……」

ワン「焦ったり重圧感じたりしてもさ、俺は俺だよ、他の誰でもない……だから……俺は俺にできることを少しずつでもやっていくしかないんだな、って」

勇者「……」グッ

ワン「お前は昔の俺と同じだ……『勇者』っていう重圧と使命に押し潰されそうになってる」

勇者「……」

ワン「だけど……お前はお前だ」

ワン「俺でも他の誰でもない。お前はお前なんだ」

ワン「だから焦ったり重荷を感じたりしてもさ、お前はお前にできることをやっていくしかないんじゃないかな?」

ワン「お前にできることをやる……それでこそお前自身だろ……?」

勇者「……」グッ

ワン「……つまんない話したかな?」ハハッ

勇者「いや……ありがとう」

勇者「すぅぅ…………」

勇者「だあああああああああああ!!」

ワン「ゆ、勇者!?」バッ

勇者「よしっ!!」パンッパンッ

勇者「俺は俺にできることをやる!!やるぞ!!」

ワン「フッ……その意気だ」ニッ

勇者「あとさ……ワン、ちょっと思いついた修行方法があるんだ」

ワン「?」

――――第一の世界・七日目・川
ザアアアアア……

勇者(……)プカァ

ザアアアアア……

勇者(……感じる……)

ザアアアアア……

勇者(……川の流れ……水の冷たさ……風の爽やかさ……大地の胎動を……)

ザアアアアア……

勇者(……そこに満ちる……温かで禍々しいそれでいて惹かれる力を……)

勇者(……これが……これが魔力……)

勇者(……わかる……わかるぞ!!)

勇者「掴んだ!!」

バシャッ

ワン「……どうやら上手くいったみたいだな」ニヤ

勇者「あぁ!!」

ワン「さて、じゃあ修行の第二段階に移る前にちょいと行かなきゃならないとこがある……ちょっとこっち来い」

勇者「?」

ザブザブ

ワン「しっかり掴まってろよ!!」

ワン『ルーラ』!!

勇者「の……わぁぁぁぁぁあぁーーー!!」

ビューーーーン

――――ラダトーム城
ドオン!!

ワン「よっと」

スタッ

勇者「わわっ!!」

ガンッ

ドサッ

ワン「くくくっ…」

勇者「飛ぶなら飛ぶって一言言えよ!!」ガバッ

ワン「悪ぃ悪ぃ」クックック

勇者(コイツめ……)イラッ

勇者「それはそうとどこ行くんだ?ここは城みたいだけど……」

ワン「え?あぁ、ここはラダトーム城。この世界唯一の城さ」

ワン「用があるのは図書室だ」

勇者「図書室ぅ?」

もう寝るので起きてから全部読ませてもらう
でも確かに>>1は不要だったな、とりあえず④

――――ラダトーム城・図書室
勇者「うわーー!!本ばっかりだ!!」

ワン「当たり前だろ図書室なんだから……」

老人「おや?ワン様ではありませんか?」

ワン「よぅ、じいさん、元気にしてるかよ?」

老人「いやいや、わしももう歳じゃな……給仕の娘のお尻を撫でたらフライパンで叩かれてしもうてのぅ、昔はワケなく避けられたのじゃが……」

ワン「だっはっはっ!!そんな元気がありゃあ十分だ!!」

老人「ほっほっほ!!」

勇者「ワンー、ここで何するんだ?」

ワン「あぁ、そうだったな、じいさん。この図書室にあるありったけの魔法書持ってきてくれないか?」

老人「……と言うとあの少年が契約をするのか?」

ワン「そういうこった」

勇者「???」

>>21
>>29
>>52

掴みのあるスタートにしたかったんだが失敗だったか(苦笑)
とりあえず覗いてくれてさんくす

老人「ふむ……わかったわぃ、ちょっと待っておれ」

勇者「けいやく?」

ワン「初日に話しただろ?契約をした呪文しか使えないんだ」

ワン「呪文の契約ってのは魔法書って本に書いてある魔方陣を地面に書き写してな、そこで瞑想することで契約が完了する」

ワン「でも前も言ったように契約したらその呪文が使えるってワケじゃない、修行して力量が上がっていくうちに使えるようになる。でも契約をしてなきゃその呪文は使えない……つまり呪文の契約は呪文を使うための必要条件なのさ」

勇者「???」

ワン「えーと……とりあえず呪文が使いたいならその呪文と契約しないとダメってこと。わかった?」

勇者「そう言われりゃわかる!!」ビシィッ

ワン「そ、そうか」

老人「ほい、ワン様、これでよいかのぅ」

ドシーッン!!

勇者「!?」

ワン「ありがとな、じいさん」

勇者「ま……まさかこれ全部……?」

ワン「当たり前だろー、あ、あとどの呪文がどんな効果なのか、しっかり覚えるんだぞ」

勇者「マ……マジかよ」

ワン「じゃあ俺は別の用があるから、じいさん後は頼んだぞ」

老人「ほっほっ、任せなさいな」

勇者「ちょ、待っ」

老人「さぁて、久しぶりに鬼呪文教官の血が騒ぐわい」ニタァ

勇者「た、助けてぇぇぇぇーーー!!」

――――ラダトーム城・中庭
勇者「ホイミベホイミベホイムベホム……いやベホモ?ベホメ?」ブツブツ

勇者「……ん?」

???「うふふふ」

ワン「で、そいつが言うのです『ロトのしるしがないと認めないぞ!!』と、それで……」

勇者「いよっ!!」

ワン「のわっ!!ゆ、勇者ぁ!?」ビクッ

勇者「なんだよ、あからさまに驚きやがって」

ワン「じゅ、呪文の契約はどうした」アタフタ

勇者「え?あぁ、今朝から始めて……だいたい3分の1くらいかな?今は契約した呪文の暗記タイムであと30分後にテストだってさ……」ハァ

???「あの……ワン様、こちらの方は?」

ワン「え?あぁ、勇者と言う……えーと、私の弟子です」

???「勇者様?勇ましいお名前ですね?」ニコッ

勇者「あ、ども勇者です」ペコッ

勇者「えーと、アンタは……ワンの彼女?」

ワン「ブーーーーーー!!////」カァ

???「か、かかか彼女だなんてそんな……////」カァ

ワン「だだだ、誰が彼女かぁ!!このラダトームの姫君ローラ様だぞ!?恐れ多いわこのアホが!!」

ガンッ

勇者「……ってぇ!!」

ワン「ローラ様に謝れ!!この!!この!!」

グイグイ

勇者「わたたたっ!!」

勇者(……あれ?でもたしか『ローラ』って一番目の勇者の……)

ワン「姫様、私の弟子がとんだご無礼を!!」ヘコー

ローラ「いえいえ、気にしてはいませんよ、その……私もビックリしてしまっただけですし」モジモジ

ワン「……ったく、お前は早く図書室に戻れ!!」

勇者「わ、わーったよ!!」

タッタッタッ

ワン(……余計なことを……)ハァ

ピタッ

勇者「あ、ワンー、ローラ姫ーー!!」

ワン「?」

ローラ「?」

勇者「アンタ達すっごくお似合いだと思うぜーー!!」ヒュー♪

ワン「なっ////」カァ

ローラ「まぁ////」カァ

ワン「ゆ、勇者ぁーー!!貴様ぁーーー!!」

勇者「やべっ!!じゃ!!」

ドヒュン!!

ワン「……ったくアイツめ……」ギリギリ

ワン「姫様二度にもわたるご無礼、なにとぞお許しを!!」

ローラ「いえ……その……ワン様?」

ワン「はっ!!」

ローラ「私と『お似合い』と言われるのは……ワン様はお気分を害されますか?」

ワン「い、いえ!!光栄の極みです!!しかし私の様な一介の旅人が姫様と釣り合うとは思えません故……その……」

ローラ「そうですか……その……ローラも嬉しゅうございました」

ワン「……え?」

ローラ「……////」カァ

ワン「あ……////」カァ

ローラ「……////」モジモジ

ワン「……////」モジモジ

ローラ「……////」

ワン「……////」

――――第一の世界・九日目・夜
老人「……97点と、一応合格じゃの」

勇者「よっしゃああーー!!」ガッ

老人「しかしのぅ、命のやりとりをする魔物との戦闘の最中に間違った呪文を唱えることは死に直結する。本来は100点じゃなきゃ合格させたくないところじゃよ」ポリポリ

勇者「あぁ……だが今は紙と机とペンから解放された喜びをゆっくり味わわせてくれ……」ジワッ

老人「まったく……呪文の契約自体は昨日で終わったと言うのに呪文の内容を覚えるのに一日かかるとは……やれやれじゃのぅ。ほっほっほっ」

ワン「……お、終わったとこみたいだな」

老人「えぇ、呪文の契約とわしの呪文講座は今終わりました。あとは勇者の努力次第じゃて」

勇者「ありがとうな!!じいさん!!俺頑張ってすげー呪文使えるようになるよ!!」

老人「そうかいそうかい、楽しみじゃのぅ……ワン様もいい加減ベホマぐらい……」

ワン「わーー!!わーーー!!」

勇者「?」

――――第一の世界・十日目・ラダトーム城付近の森
ワン「よし、始めろ」

勇者「……ふぅーー……」

勇者(まず世界の魔力を感じる……)

勇者(次に自分の魔力を感じる……)

勇者(そして自分の魔力で扉を造るイメージ……)

勇者(最後にかけ声と共に扉を開け放ち世界の魔力を扉を通過させて変化させる!!)

勇者『ギラッ』!!

ボウッ!!

勇者「で……出た……出たぞーー!!」

良かろう!続けたまへ!!

ワン「よくやったな、勇者!!」ニッ

勇者「あぁ!!ありがとうワン!!」

ワン「だがまだ呪文を出すまでに時間がかかりすぎる。最終日の今日は不安定な体勢や動きながらでも即座に呪文が使えるように練習するぞ!!いいな!?」

勇者「はいっ師匠!!」

――――
勇者「ハァ……ハァ……」

ワン「もう日が暮れるな……」

勇者「だめだ……魔力ももうカラだよ……」ガクッ

ワン「だけどこの一日で随分と早く呪文が唱えられるようになったじゃないか」

勇者「へへ……」ニカッ

ワン「……もう十日か……早いもんだ……お前とももうお別れだな……」

勇者「ワン……」

勇者「あ、あのさ、お前も竜王を倒さなくちゃならないって言うのに十日も俺に稽古つけてくれてありがとうな」

ワン「気にするな、俺はずっと一人旅をしてきたからな、お前と過ごしたこの十日間は楽しかったぜ」

勇者「お、俺も!!つらい思いもしたけど楽しかった!!」

キラキラキラ……

勇者「!?」

ワン「!?」

勇者「か、体が光って……」

ワン「どうやらお別れの時みたいだな……」

勇者「……」

キラキラキラ……

ワン「俺さ、お前に二つ内緒にしてたことがあるんだ」

勇者「?」

ワン「実は俺さ……呪文十個ぐらいしか使えないんだ」

勇者「ハァ!?」

ワン「攻撃呪文ならギラとベギラマ。回復呪文ならホイミとベホイミくらいかな」

勇者「な、なんだよそれ!!中級呪文がいいとこじゃねぇかよ!!」

ワン「だな!!」

勇者「なに開き直ってんだコノ野郎!!じゃあ俺はそんな奴に先輩面されて指導されてたワケか!?」

ワン「だな!!」

勇者「だから何開き直って……」

ワン「……ぷっ」

勇者「……くっ」

勇者・ワン「だっはっはっはっ!!」

勇者「くくくっ……で、もう一つの秘密は?」

キラキラキラ……

ワン「あぁ……それがな、普通は0から呪文が使えるようになるまで早くて一ヶ月はかかるもんなんだ」

勇者「……え?」

ワン「だから十日でここまでできるようになったお前はすげー素質あるよ。お前は才能のないグズなんかじゃない!!胸を張れ!!」

勇者「……ワン……」

ワン「呪文の初歩しか教えられなくてごめんな……後は他の世界の勇者とやらに任せることにするよ」

勇者「うぅん……ありがとな……」

ワン「これからも呪文の修行は怠るなよ!?俺もお前に負けないように呪文の練習してもっとすげー呪文使えるようになるからよっ!!そんで竜王なんてパパッと倒してやる!!」

勇者「ハハッ、わかった♪俺も負けないぜ!!」

キラキラキラ……

ワン「……元気でな……勇者」

勇者「あぁ……ワンもな……」

勇者「あ、俺からも一つ言わせてくれ!!」

ワン「?」

勇者「無事竜の王を倒したらさ、その時は世界を救った勇者として堂々とローラ姫に告白しろよ!?」

ワン「な、ななな、何言ってやがんだお前!!お、俺は別に……!!」カァ

勇者「バレバレなんだよ、バカ」ニヤニヤ

ワン「ぐぬぬぬ……////」

勇者「な、漢と漢の約束だぜ?」

ワン「……わ、わかった」

勇者「じゃ指切りだ」

ワン「よし……」

勇者・ワン「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!!、と」

キラキラキラ……

ワン「勇者……」

勇者「なんだよ?」

ワン「俺はこの世界を救ってみせる……だからお前も自分の世界を必ず救えよ」

勇者「あぁ……!!」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

ワン「……また一人旅……か」

ワン「……じゃあな、勇者……」

――――???
勇者(……ここは……最初に来た星の海か……)

ルビス『第一の世界はいかがでしたか、勇者』

勇者「あぁ……ルビスか……一番目の勇者……ワンには呪文を教わったんだ……世の中俺の知らない不思議なことでいっぱいだなぁ……」

ルビス『そうですか、実りある十日間を過ごせたようですね』

勇者「……うん」

ルビス『では今は休みなさい、明日の朝になる頃次の世界へとあなたをいざないます』

勇者「わかった!!」

勇者(……なんか……)

勇者(夜空の中で寝るってのは不思議な感覚だなぁ……)

勇者(……zzzz)

>>66 ホントありがとう、頑張る

――――第二の世界
パッ

勇者「フゴッ!?」

ドシーン!!

勇者「あいだぁっ!!」

勇者「つつつ……なんつー起こし方だよ……ルビスの奴狙ってやってるんじゃねぇだろうな!!」ワナワナ

勇者「……まぁた森か……」

ガサッ

勇者「?」

???「ごきげんよう……あなたは?」ニコ

勇者「へ……?お、俺は勇者って者だが……」

???「勇者さん?勇ましいお名前ですのね」ニコッ

勇者「え……と、そりゃどうも」

勇者(ん……?聞き覚えのある台詞だな……しかもこの娘どこかで見たことあるような……)

勇者「……」ジッ

???「どうかなさいましたの?私のお顔に何かついてますの??」

勇者「あ、い、いや、そういうワケじゃ…………あ!!」

???「?」

勇者(そうだ!!ローラ姫だ!!この娘ローラ姫に似てるんだ!!)

勇者(……ってことはこの娘が……)

???(おーい、プリン~。どうかしたか~?)

プリン「あ、ツーさん!!」

ツー「ん?誰コイツ?」

勇者「青ずくめの服にゴーグル!!に、二番目の勇者!!」

ツー「???」

ツー「二番目ぇ?なんのことだ……?てかなんなんだお前?」

勇者「え……?あぁ……そうか……えっと……ちょっと握手してくれないか?」スッ

ツー「ハァ?いきなり握手してくれとか怪しすぎるだろ」

プリン「あら、いいじゃないですの、握手ぐらい。ほら」ピト

勇者「あっ」

プリン「なんともありませんわよ」フフッ

勇者(……あ、あれ?)

ツー「ム……プリンがそう言うなら……」ガッ

キィィィイイイン

ツー「くっ……頭ん中にコイツのことが……!?」

プリン「ど、どうしましたのツーさん!!」アセアセ

ツー「い、いや、大丈夫……なんでもない。そうか……勇者ってのか、俺はツー。よろしくな」

勇者「あ、あぁ、こっちこそよろしく」

勇者(プリン姫には何も起こらなかった……どうやらその世界の勇者にしか俺のことは伝わらないみたいだな……)

――――ツー一行のキャンプ
ツー「クッキー、遅くなってごめんな」

クッキー「ホントですよ~、一人で退屈だったんですよ?」

クッキー「一人じゃトランプもできないし……ん?こちらの方はどなたですか?」

ツー「ん、あぁ、詳しくは後で話すよ。ただこれから冒険はちょっと中断してな、俺はコイツに稽古をつけてやらなきゃならないことになったんだ」

クッキー「えー!?なんでまた!?」

ツー「だからそれも後で話すって」

クッキー「まぁ僕はのんびりできてそれはそれで良いですけどね~」

ツー(相変わらずののんびり屋だ)

クッキー「あ、今『相変わらずののんびり屋だ』って思ったでしょ?」

ツー「な、なんでわかった!?」ギクッ

クッキー「わかりますよ、なんだかんだで付き合い長いですからね」

プリン「フフフッ」

勇者「ぇえっと……」

クッキー「あ、僕はクッキー。クッキーでいいよ」

勇者「あ、俺勇者」ペコ

プリン「もうご存知と思いますが私はプリンと申します。プリンで構いませんわ」

ツー「んで俺がツーだ。みんなタメ口でいいぞ……っと、あぁそっか、悪ぃ悪ぃ。修行の話だったな、んーと……そうだなぁ……お前がどのくらいの力量なのか知りたいからな、軽く組手でもしてみるか!!」

勇者「く、組手!?」

ツー「そぅ、組手」

クッキー「お、これは面白そうですね♪」

プリン「ツーさーん、勇者さーん!!どちらも頑張って下さーい!!」

ツー「ほら、かかってきな。組手っつっても呪文もアリだぜ?本気で来な」ニッ

勇者「ぐっ……」

勇者(組手なんてしたことないや……昔友bと喧嘩したくらいか……?)

勇者(しっかし……対峙してわかる……これが勇者の気迫!!命のやりとりでない闘いでさえ身体の隅々まで意識を集中しているのがわかる……スキがない……!!)ツー…

ツー「どうした、来ないのか?」ジリッ

勇者「くっ……いくぜ!!」ダッ

ツー(真っ正面から突っ込んでくるだけか……つまんない奴だな)

勇者「うおおおお!!」

ダダダッ

勇者「今だ!!」

勇者『イオッ』!!

カッ!!

ボウンッ!!

ツー「!? 呪文で視界を!?」

カツンッ

ツー「だけどな……物音で右から来るのが丸分かりだぜ!!」

ブンッ

ツー「!?」

コロコロ……

ツー「な、ただの石コロ!?」

勇者「もらったぁ!!」

ブワァッ!!

ツー(!! 呪文で正面の視界を遮り目眩ましをかけ横から攻撃するとみせかけ本当は爆煙を隠れ蓑に正面から攻める二重のフェイクか!!)

勇者「らぁぁ!!」

ドゴッ!!

勇者「勝負あっ……」

ツー「いい手だったが……こんなヘナチョコパンチ効くかよ」ニヤッ

勇者「なぁっ!?」

ツー「ふんっ!!」

ガンッ!!

勇者「ぶへぇいっ!!」

ドガンドガンドガン

バキバキバキ

ズズズーン

勇者「きゅう……」ピヨピヨ

ツー「あ、やべ……やりすぎた」アセアセ

クッキー「あーあ、ツーは馬鹿力なんですから、もぅ」

プリン「あらら、ですわ」

――――
ツー「いやー、悪かった。手加減って昔から苦手でさ、つい……な」アハハ

勇者「あの後プリンがベホマかけてくれたから良かったものの……一歩間違えた死んでるっつーの」ツーン

クッキー「笑いごとじゃありませんよ、ツー。まったく……で修行の内容は決まったんですか?」

ツー「あ、あぁそうだな。さっきの組手でわかったんだけどお前は全然筋力が足りてない。戦闘訓練・呪文の練習……これから何をやるにも筋力・体力は欠かせない。だから俺の受け持つ十日間は基礎ステータスの向上に努めようと思う」

勇者「うへぇ……基礎練かよ……」

ツー「なんだ、文句あんのか?」ゴキゴキッ

勇者「い、いえ!!何もありません!!」

ツー「よろしい。えーと、クッキー」

クッキー「なんですか?」

ツー「ちょっとローレシアまで飛んで貰えるか?」

クッキー「はぁ……僕はタクシーじゃないですよ……っと」

勇者「自分で飛べばいいじゃないか」

クッキー「あぁ、ツーは呪文が丸っきり使えないんですよ」

勇者「ぇえ!?勇者のクセに!?」

ツー「……」

勇者「……ぷぷっ」

ツー「……」ビキッ

ツー「いいんだよ、俺はその代わり力があるからなぁ!!」

グリグリ

勇者「ぎゃあああ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

クッキー「大人気ないなぁ、もう」ハァ

プリン「楽しそうですね」フフッ

――――ローレシア城付近の山中
ツー「さてと、えーと……この石でいいかな……プリン、インクあるか?」

プリン「これでよろしいですか?」

ツー「サンキュー」

ピト

キュッキキュッキュ

ツー「これでよし!!」

勇者「?」

ツー「おい、勇者。この石を見ろ」

勇者「??? インクで"亀"って書いただけのただの石コロじゃないか」

ツー「よーく見てろよ……」

勇者「???」

ツー「むぅん……!!」

ビキビキビキッ

ムキムキムキッ

ツー「ちぇあぁッ!!」

ビュッ!!

ヒューーーン……

勇者「? 石を遠くまで飛ばす修行か?」

ツー「いや、今投げた石を拾ってくる修行だ」

勇者「ハァ!?」

ツー「いいか、物を探すって言うのはだな……」

勇者「いやいやいや!!ワッケわかんねぇよ!!この険しい山あんな小さい石コロ探せってのか!?そもそもこの修行どっかで見たことあるぞ!?」

ツー「つべこべ言わずに拾ってこい!!これは修行の第一段階だからな!!お前には時間がないってことを忘れるな!!さぁ行け!!」

勇者「~~~~~っ!!」

勇者「くっそ!!遭難したら探してくれよ!!」

ダダダッ

ツー「はいはーい。ここらへんは魔物もいないし修行にはもってこいだ、頑張れよ~!!」

クッキー「……さて、彼が何者なのか、どうして冒険を中断するのか、話していただけますね?」

クッキー「石探しなんて修行を押しつけてあなたが自分の時間を作ったのはそのためでしょうから」

ツー(コイツは変なとこで鋭いんだよなぁ……)

クッキー「今『コイツは変なとこで鋭いんだよなぁ……』って思ったでしょう」

ツー「な、なんでわかった!?」ギクッ

クッキー「なんだかんだで付き合い長いですから」ニコッ

プリン「うふふっ」

ツー「はぁ……ぇえっと……どこから話せばいいかな……っつっても俺は勇者のこと全部知ってるワケじゃないけどな」

クッキー「ふーん……なるホド、そういうことですか」

プリン「自分の世界を救うために別の世界へ行くだなんて……なんだかロマンチックですわね」

クッキー「こんなこと言いたくはありませんが、彼がハーゴンの手先というのは考えられませんか?僕達を作り話で油断させて隙をうかがっているとか」

ツー「いや、アイツに触れた時温かなものを感じた……あれは間違いなく精霊様の気配だ。そして優しい声でアイツのことを話してくれたんだ。だからってのも変かも知れないけど俺はアイツのこと信じるよ」

プリン「私も信じますわっ♪」

クッキー「はぁ……なんで二人はそうお人好しかなぁ」

ツー「なんだよ、お前はアイツのこと信じられないのかよ?」

クッキー「いいえ、そんなことないですよ。彼が悪い人でないのは目を見ればすぐに分かりましたから」ニコッ

ツー「じゃあいらんこと聞くなよ」ククッ

プリン「ふふふっ」

クッキー「透き通っていて真っ直ぐで、とても温かで……でも心のどこかに不安や悩み、苦しみが潜んでいる……そんな瞳でしたね」

クッキー「もしかしたら精霊様は力をつけるためだけに彼を修行の旅に出しただけじゃなく何か別の部分でも彼に成長して欲しくて僕達に彼の修行を頼んだのかも知れませんね」

ツー(コイツはたまにワケのわからんことを言う……)

クッキー「今『コイツはたまにワケのわからんことを言う……』って思いましたね?」

ツー「だからなんでわかるんだよ!!」ギクッ

クッキー「それは……」

プリン「『付き合いの長さ』ですね」クスクス

クッキー「おや、僕としたことが」ポリポリ

プリン「うふふっ」

クッキー「まぁさっきも言いましたけど僕はのんびりできて良いですけどね~……ツーも楽しめそうで良かったですね?」

ツー「んあ?」

クッキー「さっきの組手……およそ素人には考えつかない二段フェイント……彼、かなりの素質がありますから」

ツー「たしかに……な」ニッ

――――第二の世界・二日目・夜
勇者「た……ただいまぁ……」ヨロヨロ

ツー「お、お疲れ様」

勇者「だめだ……丸二日もかかっちまった……」ヘロヘロ

クッキー「いえ、むしろ二日で見つけてきたのは早かったと言えますよ。石が飛んでいった方向だけを手がかりに山中から小石を見つけてくるなんてよほど嗅覚の優れたどこかの戦闘民族の子供でもないか限り数日かかりますからね~」

勇者「そ……そうかな」エヘヘ

ツー「なぁに照れてやがる。まぁ山中の小石探しってのは体力も集中力もフルに使うからな、良い修行だよ」

勇者「そっか……俺もうクタクタ……」ドサッ

ぐぎゅるるる~

勇者「腹も減ったし……」

ツー「ん、そうだな飯にするか……今日の晩飯当番は……」

プリン「はーい、できましたよー♪」

クッキー「……プリン……ですか……」タラ…

プリン「はい、勇者さんもたーんと召し上がれ♪」

勇者「め……飯だ……いただきまーす!!!!」

ガツガツガツ

勇者「………………!!」ドーン

プリン「どう?美味しいですか?」ニコッ

勇者「……と、とっても美味しいです」プルプルダラダラ

プリン「良かったですわ♪おかわりいっぱいありますからね~♪」

クッキー「……」ダラダラ

勇者「……クッキー?」ダラダラ

クッキー「……ん?」ダラダラ

勇者「……プリンの料理ってその……すごく個性的と言うか……前衛的と言うか……」ゲソッ

クッキー「……うん、言いたいことはわかりますよ……」ゲソッ

勇者「い、いつもこんな感じなのか?」

クッキー「えぇ……普段はなるべく料理は僕がやるようにしているのですが……たまにプリンが当番になる日がありまして……」

勇者「ルーラで町の宿屋にでも行って泊まればいいじゃないか……」

クッキー「そうしたいんですが……そうしない理由は二つあります」

勇者「二つ?」

クッキー「一つはルーラは街や城、任意の場所に瞬時に行くことのできる便利な呪文ですがそれ以外のところ……例えばサマルトリア南の森、ムーンブルク付近の砂漠……と言うように漠然とした場所に移動することはできないのです」

クッキー「ですから冒険者は冒険の最中にルーラで街に戻り宿に泊まるということはあまりせず野宿することが多いのです」

クッキー「聞くところによると勇者には修行の時間がないらしいですね。修行に適した今のキャンプ地に来るにはここから一番近いローレシアから歩いて来なければなりません。その移動時間の節約のためでもあります」

勇者「へぇ~……」

クッキー「そしてもう一つ……最大の理由が……あれです」

ガツガツガツ!!

ツー「おかわり!!」

プリン「はーい♪」

ツー「いやぁ、プリンの飯はいつ食っても美味いな!!」

プリン「ふふ、ありがと♪」

ガツガツガツ!!

ツー「またおかわり!!」

勇者「……嘘だろ……オイ……」

クッキー「ツーの味覚は常人の味覚とは著しく異なるらしく……プリンの料理を大絶賛して食べるのです……」

クッキー(とは言え美味しいものは美味しいと感じるらしいので『不味い』という認識が狂っているようですが)

勇者「……」

クッキー「……ですから僕の再三にわたる宿屋での宿泊の提案も『は?なんで?キャンプに不自由ないし別によくね?』で済まされる次第……」ウゥ

勇者「……つらかったんだな……」ウゥ

クッキー「……同じ苦しみを分かつことのできる友人ができて僕は嬉しいです……」グスッ

ツー「おーい!!お前らももっと食えよー!!」

プリン「そうですわ、遠慮することないですわよ~☆まだまだいーっぱいありますから♪」

勇者・クッキー「…………うん」ニコッ(泣

【この日、勇者とクッキーの間には同じ苦しみを乗り越えたことで確固たる友情が築かれたことは言うまでもない】

――――第二の世界・五日目
ツー「オラオラッ!!もっと速く走れ!!」

勇者「ぐぬぬ……!!無茶言うな……山道でしかもタイヤが重くて……ぐぅ……!!」

クッキー「勇者!!あの日の苦しみを忘れたのですか!!あの苦しみと比べたらこんなことなんでもないでしょう!!」

勇者「……!!」

勇者「ぅ、うぉおおおお!!」

ダダダダダダッ

クッキー「そうです勇者!!頑張って!!」グッ

ツー「なんかあの二人最近すげー仲良いよな……なんかあったのか?」

プリン「さぁ?でも良いことではありませんの?」ニコッ

――――七日目・夜
勇者「だぁ……今日もくたびれたぁ……」ドサッ

ツー「まぁ大分筋力も体力ついてきたよな、またプリンに頼んでラリホーでの熟睡とベホマでの体力回復だな」

勇者「うん……呪文って上手く使うと筋肉痛とかも治っちまうんだなぁ……ホントすごいや」

ツー「……なぁなぁ勇者、お前この世界に来る前は別の勇者に呪文の修行してもらってたんだろ?」

勇者「あれ?その話したっけ?」

ツー「最初にお前に触れた時にわかったんだ。だから俺は基礎ステータスの向上を修行にしたんだ」

勇者「なるホド」

ツー「んでさ、その勇者ってどんな勇者だったんだ?」

クッキー「僕も気になりますね」

プリン「私もですわ」

勇者「ぇーと……あ!!そうか!!そういやそうなのか!!ははーん、この時代はあの時代の後の時代だもんな~」

ツー「なんだぁ?」

勇者「ふむふむ」ジー

ツー「な、なんだよ」

勇者「ぅうむ」ジー

クッキー「な、なんですか?」

勇者「うんうん」ジー

プリン「どうしましたの?」

勇者「いや、お前らやっぱりワンとローラ姫に似てるな、と思ってさ」

ツー・クッキー・プリン「!?」

ツー「な、なんでお前がご先祖様の名前を知ってるんだよ!!」

クッキー「しかも会ったことがあるような口ぶりですね……」

プリン「もしかして……」

勇者「あぁ、前に俺に修行をつけてくれた勇者はお前達のご先祖様、アレフガルドを救った勇者、ワンだ!!」

――――夜更け
勇者「んでさ、アイツ姫様の前じゃ面白いぐらいオドオドしちゃってさ」ケタケタ

ツー「なんだそれ、伝承じゃ常に凛とした態度でローラ姫を魅了しやがて二人は恋に落ちたらしいぜ」

勇者「アイツ何嘘の伝承広めてやがんだっ!!」

一同「わっはっはっはっ」

クッキー「……まさかこうしてご先祖様の話を聞くことができるだなんて……これも精霊様のおぼしめしの賜物ですね」

プリン「そうですわね……」

勇者「あぁ……アイツは良い奴だったけどさ……ただ良い奴ってだけじゃなかったな……やっぱり『勇者』って感じだったな……」

ツー「……」

クッキー「……」

プリン「……」

ツー「『勇者』……か」

勇者「?」

ツー「……なぁ、勇者俺さ、呪文が使えないって話したろ?」

勇者「ん?あぁ」

ツー「だからさ、力だけは誰にも負けないように、呪文なんか使えなくても仲間の役に立てるように、ってずっと身体を鍛えてきたんだ」

クッキー「……」

プリン「……」

ツー「そんでさ、強さを求めていくうちに……いつのまにか力に飲まれちまった……」

勇者「……」

ツー「出会う魔物を叩き潰して、殺して、絶対的な勝利を欲した……」

ツー「んでさ、ある時……血まみれになった自分の拳を見て思ったんだよ」

ツー「これが『勇者』なのか?……って」

勇者「……」

ツー「魔物は悪……悪は根絶やしに……そうやって悪を殲滅する……それが勇者なのかよ?……って」

クッキー「……」

プリン「……」

ツー「そんなある日さ、森で魔物に襲われてる子供を助けたんだ」

ツー「そしたらその子がさ、魔物が怖くて涙流してたその子が、俺にニッコリ笑って言ってくれたんだ」

ツー「『ありがとう、お兄ちゃん』って……」

勇者「……」

ツー「そんで俺は思った……『あぁ……この笑顔が見たいから……この笑顔を守るために……俺は悪と闘うんだ……それが『勇者』なんだ』……ってな」

ツー「っつってもやることは前と変わってない。人々に害を及ぼさないように魔物を退治する……それが勇者の……俺達のやってること」

ツー「だけど……あの日から心の持ち方……何のために闘うのか、どうして闘うのか……それが俺にとって明確になったんだ……」

勇者「……」

ツー「もしお前がこれから自分のしてることがわかんなくなったら……『勇者』ってものがわかんなくなったら……お前の中の大事なもんに聞いてみたらいい……いつでもそこに答えがあるよ」

勇者「……ツー……」

ツー「……なーんてな!!脳筋の俺には似合わねぇ話だったかな」ハハッ

勇者「……やっぱりお前はワンに似てるよ……」

ツー「え?」

勇者「ワンもさ、俺が落ち込んでる時に道を指し示してくれたんだ……お前も俺に勇者の道を示してくれた……やっぱり血は争えねぇよな」

ツー「……かーっ!!ったく、ガラにもねぇ話して疲れちまったぜ!!今日はもう寝る!!」ガバッ

クッキー「フフッ」

プリン「うふふっ」

ツー「明日は地獄の方がまだマシって修行してやるから覚悟しとけよ!!」

勇者「うへぇ……そんなぁ」

――――第二の世界・十日目・夕方

勇者「298……」

勇者「299……」

勇者「ぐぬぬぬ……!!」

勇者「さん!!びゃぁくっ!!」

ドズンッ!!

勇者「ハァ……ハァ……」ゼェゼェ

ツー「……よく十日間俺の修行に耐えきったな」

勇者「……ったく、お前加減ってもん知らねぇんだもんな、何度死ぬと思ったことか……」

ツー「プリン、ベホマを」

プリン「えぇ」

プリン『ベホマ』!!

パァァ

勇者「ふぃ~……ふぅ……ありがと、プリン」

プリン「どういたしまして」ニコッ

ツー「さて……最後の修行だ……」

勇者「?」

ツー「もう一度俺と組手だ」

勇者「!!」

クッキー「勇者……あなたはこの十日で飛躍的に筋力・体力が向上しました。もう初日のように簡単にやられたりはしません」

勇者「……」

プリン「頑張ってね、勇者さん。今回だけはあなたの方を応援しますわ♪」

勇者「……ぁあ!!」

ザッ

勇者「よろしくお願いします」ペコッ

ツー「あぁ……」スッ

ジリ……ジリジリ……

クッキー「……はじめっ」

勇者「だぁっ!!」

ダンッ

クッキー(あの距離……初日には走って詰めていた間合いを一足飛びで詰めた……)

勇者「せぃ!!」

ビュッ

ツー「なんの!!」

ガッ!!

バッ!!

ブン!!

シャッ!!

ツー「どうした勇者!!こんな程度じゃないだろう!?」

勇者「へへっ、お前はどこのエリート王子だよっ!!」

ドゴッ!!

勇者「くっ!!」

ズザザー

勇者(よし、覚えたてのコイツで……!!)

勇者『ベギラマァ』!!

ボウゥ!!

クッキー「!! 中級呪文のベギラマ!!広範囲を焼く炎ですか!!」

ツー「甘いぜ!!破ァ!!」

ブンッ!!

ブワァッ!!

プリン「か、かき消しした!?」

プリン(何者ですの!?)

チリチリチリ……

ツー(……いない!?)

勇者「後ろだ!!」ザッ

ツー「な……!!」

勇者「もらったぁ!!」

ツー(威力のあるベギラマは攻撃と見せかけ本命は目隠しとしての陽動!?)

勇者「おぉぉらぁぁぁ!!」

ドゴオッ!!

勇者「どうだぁ!!」

ツー「……」ニッ

ガシッ

勇者「なっ!!」

ツー「初日とは全然違う……良いパンチだったぜ」

ツー「はぁ!!」

バキィッ!!

勇者「ぐっはぁぁぁ!!」

ドゴンドゴンドゴンドゴンドゴン!!

バキバキバキバキバキ!!

ズズズズズーン!!

勇者「っつつ……だめだ、やっぱり敵わねぇや」苦笑

ツー「でもお前は強くなったよ」

ツー「さっきのフェイントもパンチも良かったし……何より俺が本気の30%で殴っても気絶してない!!」

勇者「こ、これで30%かよ……」ゾッ

クッキー「ツーの馬鹿力は底なしですからねぇ」ククッ

勇者「……ったく、敵わねぇや、ホント」ヘヘッ

ツー「ほら、立てよ」スッ

勇者「……ありがとう」ガッ

キラキラキラ……

ツー「!?」

プリン「こ、これは……!?」

勇者「あちゃー、もうお別れの時間か……どうやら十日目の日が沈むまでがタイムリミットみたいだ……」

キラキラキラ……

クッキー「勇者……」

プリン「勇者さん……」

キラキラキラ……

ツー「……勇者……」


ツー「これからもちゃんと身体鍛えるんだぞ!!お前はまだまだ強くなれる!!俺が保証する!!」

勇者「ありがとう、ツー……」

クッキー「短い間でしたが楽しかったです……勇者……」

勇者「クッキー……」

プリン「どうかお体にお気をつけて……」

勇者「プリン……」

キラキラキラ……

ツー「勇者、お前は呪文も使えるし闘いのセンスもある、だから他の勇者のところでもっと修行してもっともっと強くなれ!!俺は呪文は使えないけど……俺なりの闘い方見つけてもっと強くなってみせるぜ!!」

勇者「ハハッ……それ以上強くなってどうすんだよ」

ツー「……行ってこい、勇者」

勇者「あぁ……」

キラキラキラ……

勇者「あ、ツー……最後に一言」

ツー「……?」

勇者「お前は間違いなく『勇者』だ!!胸張って自分が信じた道を仲間と突き進めよ!!」

ツー「……あぁ!!ぁぁ!!そうするとも!!」

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

ツー「行っちまった……」

プリン「短い間でしたが本当に楽しかったですね……」

プリン「勇者さん……自分の世界を救えると良いですね……」

クッキー「えぇ……さぁ、僕達は僕達の世界を救うために進みましょう。とんだ寄り道をしてしまいましたしね」

クッキー(でも……たまには寄り道も良いものですね……)

ツー「今『でも……たまには寄り道も良いものですね……』って思っただろ?」

クッキー「な、なんでそれを!?」ギクギクッ

プリン「長い付き合いですものね、私達♪」

ツー「そーゆーこった♪」

クッキー「……まったく、敵わないなぁ」苦笑

――――星の海(勇者命名)
ルビス『お帰りなさい……勇者』

勇者「あぁ……ただいま、ってここに住んでるワケじゃないのにただいまってなんか変だな」

ルビス『フフッ、たしかにそうですね……二番目の勇者とはどのような修行を?』

勇者「あぁ……ひたすら筋トレしたり走らされたり……キッツかったぁ……でも見てくれ、この筋肉!!」

ムキッ

ルビス『素敵ですね……さぁお休みなさい、明日は第三の世界への旅立ちです……』

勇者「うん……おやすみ……」

勇者「……zzzz」

――――第三の世界
パッ

勇者「……はっ!!」

???(!! ひ、人!?)

勇者「のわわわわ!!」

???(えーと、えーと、う、受け止めなきゃ!!)

ドシーン!!

???「きゃっ!!」

勇者「あつつつ……くそ、いい加減にしろよ……今度戻ったらちゃんと言わないと……」

勇者「暗いな……ここは洞窟かなにかか?」ムニュ

勇者「……?」ムニュ

勇者「……!!」

???「きゅう……」グルグル

勇者「うっわーーー!!な、ななな、なんで下に女の子がぁ!?」

カッカッ

???「この洞窟広いなぁ……僧侶ー、そっちはどうだ~?」ヒョコ

勇者「!!」タラー

???「!!」ギョッ

僧侶「きゅう……」

???「な、ななな、お前!!僧侶に乗りかかって何してやがる!!」

勇者「わ、ちょっ、まっ!!これは誤解だ!!」

???「うるさーい!!」

ゴウッ!!

???「どうしました?戦士?何やら騒がしいですが……」コッコッ

戦士「コイツが僧侶にあられもない仕打ちを……!!」

僧侶「きゅう……」

勇者「ま、待ってくれ!!これにはワケが!!」

ブンッ!!

勇者「わっ!!」

賢者「ほぅ……私達スリー一行の仲間を襲う愚か者ですか……わかりました、手加減はしませんよ!!」

戦士「オラァァァ!!」

ブンッ

勇者「ひぃっ!!」

賢者『メラゾーマ』!!

ゴウゥゥウ!!

勇者「あつあつっ!!あつ!!」

???「どうしたんだ、さっきから……」コッコッ

賢者「スリー様!!この者が僧侶に狼藉を!!」

スリー「ろ、狼藉!?」

勇者「た……助けてーー!!」

戦士「逃がさん!!」

スリー「…………」

スリー「…………やめろ」

賢者「……はい?」

スリー「やめろって言ってるんだ」

賢者「は、はぁ……」

スリー「まったく……賢者ともあろう者が情けないぞ?」

賢者「な、何がですか?」

スリー「彼の目をよく見てみろ、一片の濁りもない透き通った瞳だ」

スリー「あれは悪人の目じゃない」

賢者「……」

スリー「……っと」タンッ

戦士「うおおぉ!!」

勇者「ああああああ!!」

ガッ

スリー「そこまでだ、戦士」

戦士「ス、スリー!?」

スリー「彼は悪者じゃない、僧侶のことはきっと何かの間違いだろう。俺に免じて許してやってくれないか?」

戦士「むう……スリーがそう言うなら……きっとそうなんだろうな、うん」スッ

スリー「大丈夫か?」

勇者「あ……あ……!!」

スリー「?」

勇者「黒髪に額飾り、そしてマント!!」

勇者「アンタが三番目の勇者にして伝説の勇者ロトか!!!!」

スリー「ロト?人違いじゃないのか?」

スリー「まぁいいか、それにしても君はいつまでそこにへたりこんでるつもりだい?」クスッ

勇者「へ……?」ヘタッ

スリー「ほら、手を貸して」スッ

勇者「あ……」

グイッ

キィィィイイイン!!

スリー「っつう……なんだこれは……君の事が頭に……!!」

賢者「ゆ、勇者様!?」

スリー「だ、大丈夫」

賢者「貴様、やはりゾーマの手先か!!」

スリー「だからなんでもないってば、やめやめ」ハァ

スリー「ふぅん……そうかそうか」ジー

勇者「???」ゴクッ

スリー「ま、こんな暗くてじめじめところで話すのもなんだ、一旦外に出てそこでゆっくり話そう」

スリー「僧侶の手当てもしないとね」

僧侶「きゅう……」

――――洞窟外の森・スリー一行のキャンプ
戦士「がはははっ、なんだそんなことがあったのか、勘違いして悪かったな!!」バシンバシン

勇者「……ったく……なんで違う世界に来た時はいつも面倒ごとに巻き込まれるかな……」イライラ

僧侶「そ、その、ごめんなさい!!わ、わたしのせいで勇者さんが危ない目に遭ったそうで……わたし……」ウルウル

勇者「え、あ、う、……い、いやいや、全然気にしてなんかないよ、うん!!」

スリー「……」クスクスッ

賢者「……」ムッ

賢者「しかし……にわかには信じられません。この者が別の世界の……しかも勇者だなんて……」ジー

勇者「そう言われてもなぁ……」

スリー「人をあまり疑うのはよくないぞ、賢者。それに俺が聞いた精霊様の声が動かぬ証拠さ」

賢者「……えぇ……スリー様が信じろと仰るその一点でのみ私は今回の話を信じるに値する話と判断したのです」プイッ

勇者(……感じ悪いなぁ)

勇者「えーと、改めまして勇者です。短い間ですがよろしくお願いします」ペコ

スリー「俺はスリー。アリアハン出身の勇者……ってことになってるけど……まぁただの旅人ってとこじゃないかな?」ハハッ

スリー「彼が戦士。力自慢って奴だね。少し考えナシの行動が過ぎる熱い奴だけどとっても良い奴だ。俺達の兄貴分と言って良い感じかな」

戦士「よろしくな、坊主。戦士でいいぞ」

スリー「こっちは僧侶。我がパーティの回復主任だ。慌てん坊な上にそそっかしくてドジばかりだけどとっても優しい娘だよ。料理がすごく上手だから楽しみにしてろよ♪」

僧侶「な、なんだかスリーさんにそう言われると照れちゃいますぅ……////その……よろしくお願いします。わたしも僧侶、でいいです」

スリー「そして彼女が賢者。攻撃呪文も回復呪文も難なく扱う呪文のエキスパートさ。彼女の冷静さにはいつも助けられている。クールだからちょっと付き合いづらいかもしれないけど根は良い娘だから、勘違いしないでくれよ」

賢者「……賢者です」ツーン

勇者「はぁ~……なんか『結束感抜群のパーティに信頼感抜群の勇者』って感じだなぁ……」

スリー「ハッハッハ、褒めても何も出ないぞコイツゥ」

戦士「そうだぞ、坊主」ガッハッハッ

僧侶「ウフフッ」

賢者「……」ムスッ

スリー「さて、俺の修行だが……呪文の基礎と基礎体力作りはやったんだよね?」

勇者「うん」

スリー「ん~……じゃあ……実践訓練といこうか!!」

勇者「実践訓練と言うと……」

スリー「うん、魔物との戦闘さ」

僧侶「ま、まだ早くはないでしょうか!?その……危ないような……」

スリー「なぁに、まずは弱い魔物から慣らしていって段々と強い魔物にしていけばいいさ」

戦士「でもよぅスリー……」

スリー「それに俺達だって"魔物戦闘訓練"みたいものを受けたワケじゃないだろ?いきなり冒険に出てなんだかんだで闘ってきて、今みたいにうまくやれるようになったんじゃないか」

スリー「習うより慣れろ。今の彼なら中級モンスターぐらいなら倒せるだろうしね」

スリー「……あ、そうだ、素手はキツいな……えーと、ふくろフクロ……」ガサゴソ

スリー「ん、あった!!これでいいかな!!うん、刃も綺麗だし問題ないな」

スリー「ほらっ」ポイッ

勇者「わっ」パシッ

スリー「しばらくはそいつで闘うといい、メチャクチャ強力な武器ってワケじゃないけど八岐の大蛇って蛇の化け物の尻尾から出てきた業物、草なぎの剣だ」

勇者「……」

スラァ……

キラン

勇者「か、かっこいーー!!」

僧侶「とってもお似合いですよ♪」

戦士「あぁ、様になってやがるな!!」

勇者「そ、そうかなぁ」テレッ

賢者「スリー様、いくらなんでもあんなレアアイテムを授けることないのでは……」

スリー「だって俺には王者の剣があるし戦士には雷神の剣があるだろ?使わないもの大事に持ってたって仕方ないって」

賢者「ですが……」

スリー「まぁまぁ」

スリー「じゃ、まずは初級者コースからだ、みんな集まって……」

スリー『ルーラ』!!

――――アリアハン付近の森
スリー「よーし、いいか勇者。モンスターを倒すとモンスターメダルってのをたまに落とすんだ」

スリー「金銀銅の3種類があるんだけどね、どれでもいいから『大烏』『大ありくい』『魔法使い』『ホイミスライム』『バブルスライム』、この五匹のモンスターメダルをとってきたらこの初級ステージはクリアだ」

勇者「ぉお!!」

スリー「ステージをクリアしたら次のステージってゲーム形式で面白そうだろ?」

勇者「うんうん!!」

スリー「もしもの時のために戦士と僧侶もついていってやること」

スリー「ただしお前達が闘ったんじゃ勇者の修行にならないから勇者がどうしても危なくなった時に助けに入るだけだ、分かったか?」

戦士・僧侶「了解!!」ビシィッ

スリー「じゃ、気をつけて行っておいで、俺と賢者はここにキャンプの用意をしとくから」

勇者「はーい!!」

ダダダッ

戦士「あ、待て坊主!!」

ダダダッ

僧侶「あ、あ、2人とも待って下さぁ~い!!」

タッタッタッ

スリー「うーん、昔を思い出すなぁ……とは言えたかが一年前か」笑

賢者「……」

スリー「不服そうだね、賢者」

賢者「えぇ、いつ世界が大魔王ゾーマの手に落ちるかもしれないと言うのに十日も油を売るなどとは……私達は一刻も早くゾーマを倒し世界に平和を……!!」

スリー「まぁまぁ、そう焦らないの」

スリー「怒ってたんじゃせっかくの可愛い顔が台無しだ」

賢者「ななな……!!……も、もぅ!!////」カァ

スリー「それにこれはただの道草じゃないよ?」

賢者「……?」

スリー「人に何かを教えるってことは実は教える側の方が得るものが多いものなんだ。俺達もこの十日で得るところがあると思うな」

賢者「……」

読んでくれてる人いればだけど……投稿スピードゆっくりのほうがいいとかあるかな?

――――夜
スリー「やぁ、おかえり。成果はどうだった?」

勇者「ん~……可もなく不可もなく……」キョロキョロ

戦士「どっちかっつったら不可だな」ガハハ

勇者「うるさいな!!」

スリー「そっか、メダルはどうだい?」

勇者「大ありくいの銅が一枚だけ……」

スリー「ふむふむ……思った通りだね」

勇者「?」

スリー「俺は適当に五匹の魔物を選んだワケじゃないんだ」

スリー「『大ありくい』……コイツは難なく倒せるだろうと思ってオマケとして入れたけど」

スリー「勇者、君は大烏との戦闘では攻撃が空を飛ぶ大烏に当たらずに仕止められないことが何度もあったんじゃないかい?」

勇者「!!」

スリー「魔法使いとの戦闘では間合いを詰めようとしてメラを食らったり……バブルスライムとの戦闘では攻撃しても相手に避けられたり……ホイミスライムとの戦闘ではダメージを少し与えてもふわふわした相手の動きが読めずにいるうちにホイミで体力を回復された……どうだい?」

勇者「……」ポカーン

僧侶「すごーい、全部当たってますぅ!!」

勇者「な、なんでわかったんだ!?」

スリー「それは簡単さ」

勇者「?」

スリー「俺も昔はそうだったからね」ニコッ

勇者「え?」

スリー「剣で相手を斬りつけようとただがむしゃらに相手に突っ込んでいった……でもそれだけで勝てるようなもんじゃないんだ」

スリー「大事なのはね、相手の隙を如何にして突くかってことさ」

スリー「これはどんな戦闘でも大事なことだよ、ただ考え無しに闘っては駄目だ」

スリー「それに君……今日呪文は使ったかい?」

勇者「あ……」

スリー「君に剣を与えたのは"剣での闘い"を意識させるためでもあったんだ」

スリー「もし君が素手で魔物を倒してこい、って言われたら君は間違いなく呪文を使っていただろうね」

スリー「戦闘において使える手は決して一つじゃない。自分の持てる手札を全て使って最善の闘いをする……これが闘いってものさ」

勇者「…………」

スリー「ま、長くなったけど『相手の隙を突く』『自分の使える手段をフルに使う』これを意識して明日は闘ってごらん?」

勇者「お、おうっ!!」

戦士「がハハハ、お前の師匠役もなかなかのもんだな♪」

僧侶「スリーさんかっこいいですぅ……////」パァ

スリー「まったく、二人とも茶化さないでくれよ」ハハッ

賢者「……」

勇者(す……すげぇ……すげぇぇ!!これが伝説の勇者か!!)

スリー「さ、ご飯にしようか。僧侶、よろしく頼むよ」

僧侶「は、はひ!!」ビシィッ

――――深夜・スリー一行のキャンプ

勇者「ふっ、ふっ」

勇者「198……199……200っと!!」

勇者「ふー、今日の筋トレはおしまいっと」

勇者「次は呪文の練習……ってあんまりうるさくするとみんな起きちゃうかな、小さめに小さめに……」

勇者『メラミ』ボソッ

しーーん

勇者「あちゃー、まだメラミは出ないか~」

賢者「……」ジッ

勇者「賢者みたいなメラゾーマが使えるのはいつになるかなぁ~」

賢者「……」

スリー「勇者のこと気になるのかい?」ヌッ

賢者「……!!」ドキーーン


スリー「ん?」ニコッ

賢者「わ、私はその……寝つけなかっただけです!!おやすみなさい!!」

スリー「ふふふっ、やっぱり"良い娘"だね、賢者は」クスクス

勇者『バギマ』ボソッ

ビュオッ

スリー「やぁ、夜中まで精が出るねぇ」

勇者「あ、スリー!!」

スリー「呪文の練習かい?」

勇者「うん……ほとんどの呪文の契約はしたんだけどさ、まだまだ使えない呪文ばっかりだから」

スリー「ふ~ん……勇者はデイン系の呪文は使えるかい?」

勇者「デインって言うと……雷?」

スリー「そう、昔からねデイン系の呪文は勇者だけが使える呪文なんだ」

勇者「へぇ~……」

スリー「だからデイン系が使えるのは勇者の証ってことさ、君も早く使えるようになるといいね♪」

勇者「……あぁ!!」

スリー「ま、明日も早いし今日はもう寝なさい」

勇者「ん、おやすみスリー!!」

――――第三の世界・二日目・昼
スリー「さてと、ボチボチキャンプを片づけようかな」

賢者「今……ですか?」

スリー「うん、多分そろそろだと思うし……」

賢者「はぁ……」?

ダダダッ

勇者「スリー!!見てくれ!!言われた通りに残りの四匹のメダルもとってきたぞ!!」ニパッ

賢者「……!!」

賢者(もう……!?)

スリー「おー、すごいな、俺が思ってたよりずっと早かったよ♪しかもバブルスライムは銀メダルじゃないか」

勇者「へへっ♪」

タッタッタッ

僧侶「はぁ……はぁ……やっと追いついた……」コテン

戦士「お前にも勇者の勇姿を見せてやりたかったぜ」

勇者「相手の攻撃の後、攻撃の最中、とかに隙ができるのがわかってさ、反撃の時にそのタイミングを見切れるようになったんだ!!」

勇者「そしたらすげーうまくいってさ!!」

勇者「あとあと、呪文で態勢崩して隙作ったりしてさ!!」

勇者「全部スリーのアドバイスのおかげだよ!!」ニカッ

賢者(……ただの雑魚魔物を倒しただけなのにあんなに嬉しそう……)

スリー「そっか、でも飲み込みの早い勇者もすごいぞ♪」

スリー「さ、キャンプを片付けて次の場所に向かおうか」

勇者・戦士・僧侶「おー!!」

――――第三の世界・四日目・ダーマ神殿付近の山中
【メタルスライム達が現れた】

勇者「えーと……いっぱいいる敵をまとめて倒すには……これだ!!」

勇者『イオラッ』!!

【メタルスライムaにはきかなかった】
【メタルスライムbにはきかなかった】
【メタルスライムcにはきかなかった】
【メタルスライムdにはきかなかった】
【メタルスライムeにはきかなかった】
【メタルスライムfにはきかなかった】

勇者「あ、あれ~!?嘘ぉ!!」

戦士「がっはっはっはっ!!そいつらには呪文は効かねぇよ!!」

勇者「な……そんな魔物もいんのかよ!?」

勇者「じゃあ……」

勇者「だあああ!!」

ガキン!!

【ミス!!メタルスライムcはダメージを受けない!!】

勇者「かってぇぇぇ!!」ジンジン

僧侶「うふふっ、しかも早く倒さないと……」

【メタルスライムaは逃げ出した】
【メタルスライムbは逃げ出した】
【メタルスライムcは逃げ出した】
【メタルスライムdは逃げ出した】
【メタルスライムeは逃げ出した】
【メタルスライムfは逃げ出した】

【メタルスライム達いなくなった】

勇者「えーーー!?」

戦士「がっはっはっはっ!!」爆

僧侶「うふふっ」

勇者「くそー!!待ちやがれ畜生!!」

ダダダッ

戦士「おっと、勇者を追いかけねぇとな」

僧侶「あ、は、はい!!」

タッタッタッ

戦士「なぁ……僧侶?」

僧侶「はい?なんですか?」

戦士「なんか……アイツ見てると懐かしい気持ちにならないか?」

僧侶「戦士さんもそう思います?」クスッ

戦士「あぁ……さっきのメタルスライムにイオラとか昔のスリーそのまんまだろ?」

僧侶「そうですね……」シミジミ

戦士「……ここ……ダーマの近くだよな」

僧侶「はい……それがどうかしました?」

戦士「いや……昔賢者が転職したての頃にキャンプからはぐれたことがあったなぁ……って」

僧侶「でも賢者ちゃんは何事もなくスリーさんと帰ってきたじゃないですか」

戦士「そうだっけ?」

僧侶「そうですよぅ、たしか賢者ちゃんは一人で近くを散策しに行って……」

僧侶「帰りが遅いから賢者ちゃんを探しに行ったスリーさんが迷子になってしまって……」

僧侶「それで逆に賢者ちゃんにスリーさんが助けられたんですよ」

戦士「よく覚えてやがるな」

僧侶「だって2人きりとかうらやま……はぅ!!」

戦士「裏山?」

僧侶「な、なんでもないですぅ!!」

戦士「しっかしよぅ……あの日以来賢者って……付き合い悪くなったっつーかなんつーか……冷たくなったよな……」

僧侶「うん……別に普通に話せるけどなんだか近寄り難い空気かも……」

戦士「……わかるなぁ……」

僧侶「わたしのこと僧侶”ちゃん"って呼んでくれなくなっちゃったし……」

戦士「そういや俺も呼び捨てに……ってあれ?勇者は……?」タラー

僧侶「はわわ……み、見失っちゃいました」タラー

――――ダーマ神殿付近・スリー一行のキャンプ
スリー「ん~、メタルスライムを狩るのには流石に骨が折れるだろうなぁ」

賢者「えぇ、たしかにその通りですね」

スリー「よっと、しばらく暇だろうから俺もそこらへんブラブラしてくるね」

スリー「賢者は留守番よろしくっ」

スタスタスタ……

賢者「はいっ!!」

賢者(……)

賢者(……ここ……あの時の……)

――――賢者の回想
賢者「うぅ……ま、迷子になってしまったわ……」

賢者「スリー様ぁー、戦士さーん、僧侶ちゃーん、どこー!?」

しーーん

賢者「……」クスン

ガサッ

賢者「スリー様!?」ガバッ

豪傑熊「ガオォォォ!!」バッ

賢者「きゃあっ!!」ビクッ

豪傑熊「グルルル……」

賢者「ど、どうしよう……」

賢者「転職したてだから私すごく弱いし……こんな魔物まだ一人じゃ……」ビクビク

豪傑熊「ガァッ!!」

ドガッ!!

賢者「ひゃっ!!」ペタン

賢者「あ……あ……腰が抜け……」ガクガク

豪傑熊「グルルルゥ……ガアァァァ!!」

賢者「きゃーーー!!」

『ライデイーーン』!!

ズガーン!!

バリバリバリ!!

豪傑熊「ギャウン!?」

スリー「でやっ!!」

タンッ

ビュババババ!!

スタッ

豪傑熊「クゥン……?」

スリー「……ごめんね、熊さん」

豪傑熊「!!」

ズバババババッ!!

ドサッ……ズズーン

賢者「……ス、スリー様ぁ!!」

勇者「大丈夫だったかい?賢者?」ヨシヨシ

賢者「ご、ごめんなさい!!私……私……!!」

勇者「いいんだ、無事で何よりさ」ニコッ

賢者「…………はい」ウゥ

勇者「さ、キャンプに帰ろ?」

――――賢者の回想・スリー一行のキャンプ
スリー「やー、ただいまぁ!!」

戦士「遅ぇぞスリー!!」

僧侶「賢者ちゃんもー、心配したんですよ?」

賢者「ごめんなさい……」

スリー「いやぁ、賢者探しに行ったつもりが俺が迷子になっちゃってさ、賢者に助けられちゃったよ!!」ナハハ

賢者「え!?違……」

スリー「しー……、な?」ボソッ

戦士「がっはっはっ!!スリーらしいなぁ!!」ゲラゲラ

僧侶「もぅ、スリーさんったら」クスクス

スリー「いやぁ、失敗失敗」アハハ

賢者「……」グッ

賢者(私は……守られてばかりいてはいけない……スリー様をお守りできるように……いえ、世界にいち早く平和をもたらせるようにならないと……!!)

賢者(常に毅然とした態度で……常に冷静に……強くあらねば……!!)ググッ

――――第三の世界・四日目・ダーマ神殿付近の山中
勇者「だーめだ、見失った……」

勇者「あれ?戦士と僧侶は?」キョロキョロ

勇者「やべーな、早く戻らな……」

スカイドラゴンa「ガオオ!!」

スカイドラゴンb「グルルル!!」

スカイドラゴンc「ギシャア!!」

勇者「な、なな……空飛ぶドラゴン!?」

勇者「コイツらは流石にヤバいんじゃないか……!?」ツ…

勇者「……いや、でもここ数日で俺も大分強くなった!!やってみせるぞ!!」グッ

スカイドラゴンb「ゴアァ!!」

ボウゥ!!

勇者「!! 火炎の息か!!」

勇者『ヒャダルコ』!!

パキパキパキ

ジュワァ……

スカイドラゴンa「ガルル!!」

ビュワッ

勇者「よっ!!」タンッ

スカッ

スカイドラゴンa「ギャウ!?」

勇者「オラァ!!」

ヒュバッ!!

ズバッ!!

スカイドラゴンa「ギャウ!!」

勇者「げ……あんまり聞いてない!?」

スカイドラゴンa「グアア!!」

ビュッ!!

勇者「わっ……と!!」

ガキン!!

ギャリリリリ!!

勇者「くそ、怒らせただけになっちまったか!!」

スカイドラゴンb「ギャウ!!」

ブンッ

勇者「ほっ!!」ヒョイ

スカイドラゴンc「グアアア!!」

勇者「しまった!!もう一匹……」

ドカン!!

勇者「ぐっは……!!」ビキビキ

勇者「ぐ……効くぅ……」ヨロ

勇者『ベホイ…』

スカイドラゴンa「ガァァ!!」

バキィ!!

勇者「ぐあああ!!」ドサッ

勇者「ハァ……ハァ……こりゃヤバいな……」

勇者「逃げときゃ良かっ……」

スカイドラゴン達「ガアァァァ!!」

『ギガデイン』!!!!

ズガガガーーーン

バリバリバリバリバリバリ!!!!

スカイドラゴン達「ギャウーーン!!」

ドザドサドサ

ズズズーン

スリー「いやー、危ないところだったなぁ」スタッ

勇者「ス、スリー……」

スリー「スカイドラゴンはこの先の塔にしか出てこないハズなんだけど……まさか山にも出てくるとは……」

スリー『ベホマ』!!

パアァァ

勇者「う……た、助かったぁ……ありがとうスリー」

スリー「いや、いいってことさ。でも今回は俺が助けに来られたから良かったけど自分より強い相手と闘うことになったら逃げるのも大事な選択だからね?」

勇者「……うん」

スリー「……なんだか昔を思い出すなぁ……」

勇者「?」

ダダダッ

戦士「あー!!やっぱりスリーだ!!」

僧侶「雷が落ちたからそうだと思ったんですぅ」

スリー「まったくお前達は……下手すりゃ勇者は死ぬところだったんだぞ?」

戦士「面目ない」ポリポリ

僧侶「ごめんなさいですぅ……」シュン

スリー「勇者も勇者で勝手に一人でつっ走ってはダメだ」

勇者「……うん、ごめん……」

スリー「罰として三人は晩ご飯抜き!!」

勇者・戦士・僧侶「ぇえーーー!?」

――――第三の世界・四日目・夜・スリー一行のキャンプ
戦士「ぅう……」グギュル~

僧侶「ひぇ~ん」ギュルル~

賢者(…………)スースー


――――ダーマ神殿付近の草原

勇者「はぁ……」トボトボ

スリー「やぁ、夜の散歩かい?」

勇者「ス、スリー!?」ビクッ

スリー「夜も魔物は出るから危ないよ?」

勇者「うん……でもここらへんは見渡しも良いしいきなり襲われるなんてことはなさそうだ」

スリー「そうだね……よっ」ゴロン

勇者「?」

スリー「勇者も横になってごらんよ、星が綺麗だよ?」

勇者「……」ゴロン

勇者「……ホントだ……」

スリー「……何か悩み事があるみたいだね?」

勇者「……どうして……」

スリー「俺も何か悩みごとがあると一人でブラブラしたりするからね、君もそうかと思って」

勇者「ハハッ……スリーはなんでもお見通しだな……」

スリー「……」

勇者「……ここ最近魔物と闘ってきてさ、力がついてきたなー、って自分では思ってたんだけどさ……」

勇者「今日のスカイドラゴンにはボコボコにやられちまった……」

スリー「……」

勇者「でも俺が手も足も出ない魔物もスリーは一発で倒しちまうしさ……」

勇者「なんて言うか……『これが世界を救う勇者なのか』って思い知らされたって言うか……俺ってまだまだ勇者なんかになれないんだな……ってさ」グッ

スリー「……」

勇者「……」

スリー「……勇者、君は『勇者』ってなんだと思ってるんだい?」

勇者「……え?」

勇者「そりゃ……悪の親玉を倒して世界を平和に導くヒーローじゃないか?」

スリー「君はおかしなことを言うね?」ニコ

勇者「??」

スリー「君が今言ったじゃないか、『悪の親玉を倒して世界を平和に導く』のは『ヒーロー』なんだよ」

勇者「あ……」

スリー「じゃあ勇者ってなんだい?」

勇者「……」

スリー「いいかい……『勇者』っていうのは『勇気ある者』のことさ、それ以上でもそれ以下でもない」

勇者「勇気ある者……」

スリー「そう、世界を救うの人間が勇者ってワケじゃないのさ」

スリー「巨悪に立ち向かう勇気……人々を守ろうとする勇気……新しいことを始めようと一歩踏み出す勇気……自分の気持ちを相手に伝えようとする勇気……」

スリー「そんな勇気を持つ者……それが勇者さ」

スリー「だから勇者は一人なんかじゃない、百人……千人……いや、もっともっといる。勇者は世界中に沢山いるんだよ」

勇者「……」

スリー「俺は『勇者』って人々から呼ばれてるけど……戦士も、僧侶も、賢者も……みんな勇者さ……勿論君もね?」

勇者「……」

スリー「だから強い人間だけが勇者じゃない」

スリー「どんなに小さくても君の心に勇気の火が灯っている限り、君は間違いなく勇者さ」

勇者「……そっか……ありがと……なんか勇気が沸いてきた」ニッ

スリー「それは良かった」ニコッ

勇者「俺もスリーみたいな勇者になってみせるよ♪」

――――第三の世界・九日目・メルキド付近の森
勇者「じゃあ行ってくる!!」

スリー「あぁ、お前達二人もちゃんとついていってやるんだぞ」

戦士・僧侶「合点承知!!」

タッタッタッ

スリー「いや~、しかし元から実力があったとは言え九日でアレフガルドの魔物と戦えるようになるとはなぁ……本当にたいしたもんだ」

賢者「しかしここの魔物達は地上の魔物達とは比べ物にならないくらい狂暴です」

スリー「うん、だからここでは戦士と僧侶の三人で闘うように言ってある。まぁあの二人がいれば大丈夫だろう」

賢者「……そうですね……では私は飲み水を汲みに行って参ります」

スリー「ん、あぁすまない」

賢者「いえ……」

テクテク

――――川
バシャッ

賢者「結局とんだ道草を食うことになってしまった……スリー様は何をお考えなのか……」ハァ

???「ヒィーッ、ヒッヒ」

賢者「誰!?」バッ

バシャッ

コロコロコロ……

エビルマージ「まさかスリー一行の一人がこうして呑気に孤立するとは……やはり監視をつけておいて正解じゃったわい」

賢者「!! ゾーマの手先か!!」

エビルマージ「いかにも……さて、賢者よ……死んでもらうぞ!!」

賢者「スリー一行を舐めないことね、私一人でも貴方を倒すなんて造作もないことよ」

エビルマージ「誰がわし一人だと言った?」

賢者「!?」

エビルマージ『バシルーラ』!!

賢者「くっ……!!」

ビューーーン

――――岩山
ビューーーン……

クルッ

スタッ

賢者「ここは……」

フッ

エビルマージ「ようこそ賢者……ここはのぅ……」

魔物の群「ケケケケ……!!」

わらわら

うじゃうじゃ

賢者「……なんて数!!」

エビルマージ「貴様の墓場じゃあ!!」

エビルマージ「かかれっ!!」

魔物の群「ケケーーー!!」

ドドドドドドッ!!

賢者「……大丈夫……私一人でもやってみせる!!」

賢者『フバーハ』!!

フワッ

賢者『スカラ』!!

キュワン

賢者『ピオリム』!!

キュワン

バルログ「ケケー!!」

賢者『メラゾーマ』!!

ゴウゥ!!

バルログ「ギャーー!!

サラマンダーa「ガアァー!!」

サラマンダーb「ガアァー!!」

賢者「はっ」

ターン

サラマンダー達「!?」

賢者『マヒャド』!!

パキパキパキ!!

ビキビキビキ!!

サラマンダー達「」カキーン

魔物の群「ガアァーー!!」

ドドドドドド!!

賢者『イオナズンッ』!!

カッ!!

ドゴーーーーーン!!!!

魔物の群「ギャーーー!!」

プスプス……

賢者「……」

スタッ

賢者「ふぅ……もうおしまい?」ファサァ…

魔物の群「ぐぐぐ……」タジタジ

魔物の群「がぁぁぁ!!」

ドドドドドド!!

賢者「はぁぁぁ……!!」

エビルマージ「ふむ……やはりスリー一行の賢者……流石じゃ……じゃがのぅ……」ニヤッ

エビルマージ『マホトーン』!!

賢者『ベギラゴ……』

キィン!!

賢者「……っ!!」

賢者「し、しまった!!」

エビルマージ「ヒィーヒッヒ!!呪文が使えなければいくら賢者と言えど直ぐ様あの世逝きじゃろう」ニタァッ

賢者「なら……ハッ!!」

バキッ

キメラa「クケェ!?」

ドカッ

キメラb「クワッ!?」

エビルマージ「ほぅ……体術もなかなかのもの……じゃがいつまでもつかのぅ……ヒィーヒッヒッヒッヒ!!」ニタァ

――――
賢者(……くっ……補助呪文もそろそろ切れる……このままじゃ……)ハァハァ

サラマンダーg「ガゥウ!!」

賢者「……!!」ヒラリ

メイジキメラj「クワッ!!」

ビュッ!!

ドカッ

賢者「か……はっ!!」ドサッ

ダースリカント「グルルル……!!」

賢者(……殺られる……!!)

ダースリカント「ガァアアア!!」

賢者(……そう言えば……前にもこんなことがあったな……)

賢者(……あの時はたしかスリー様が助けてくれたんだっけ……)

賢者(……あの日から強くなろうと決めたのに……私ってやっぱり弱いんだな……)

賢者(……1人じゃ何もできない……)

ダースリカント「ガァアアア!!」

賢者(戦士……僧侶……スリー様……ごめんなさい……)

『ライデイーーン』!!

ズガーン!!

バリバリバリ

ダースリカント「ギャウンッ!?」

賢者「……この呪文!!スリー様!?」ハッ

勇者「らぁぁ!!」

ズバッ!!

ダースリカント「ガ……」

ズズーン……

勇者「へへっ、ライデイン……使えるようになったぜ!!……っと」

勇者「大丈夫か賢者!?」

賢者「勇者……」

僧侶「賢者ちゃん!!怪我してますよ、今治しますからね!!」

賢者「僧侶……」

僧侶『ベホマッ』!!

パアァァ

サラマンダーg「ギャオーーン!!」

ゴウッ!!

戦士「邪魔だ蛇公!!」

ズバァン!!

サラマンダーg「ギャオォ……」

ズズーン

賢者「戦士……」

賢者「……どうしてここに?」

戦士「ハッ、馬鹿なこと聞くなよ」

僧侶「ピンチの時に駆けつけてこそ仲間でしょ」ニコッ

勇者「魔物と闘ってたら岩山の方で爆発音とかが聞こえてきたからさ、気になって様子を見に来たら賢者が一人で魔物の群れと闘ってたってわけだ」

勇者「さ、早く片付けちまおうぜっ」チャキ

賢者「……いい」

勇者「……あん?」

賢者「私一人でいい!!私一人でもやれる!!」

戦士「賢者……」

僧侶「賢者ちゃん……」

賢者「他の人なんかに頼らなくても私一人でも闘え……!!」

パシィ!!

賢者「え……?」

戦士「勇者、お前……」

勇者「馬ッ鹿野郎!!何強がってんだよ!!何かっこつけてんだよ!!」ガッ

勇者「強い奴は仲間に頼らないとでも思ってやがんのか!?ふざけんじゃねぇぞ!?」

勇者「この際ハッキリ言わせてもらうけどな!!俺お前のそういうすかした態度気に食わなかったんだよ!!!!」

賢者「なっ…………!!」

勇者「こんなに素晴らしい仲間がいるってのにいっつも『私は一人で平気』みたいに振る舞いやがって!!」

勇者「仲間のこと頼ってみろよ!!仲間のこと支えてやれよ!!」

勇者「だって……それが『仲間』ってもんだろ!!??」

勇者「俺には仲間ってやつはいねぇけどな、それぐらいのことはわかるっつーの」フンッ

賢者「…………」

戦士「……そうだぞ、賢者。お前は真面目なのはいいけどなんでも一人で抱えすぎだ」

僧侶「うん……賢者ちゃんが苦しい時は私達も一緒に苦しい思いするよ、それでね、楽しい時は一緒に楽しもうよ、ね?」ギユッ

賢者「戦士……僧侶……」

賢者「……ごめんなさい……私……間違ってました……その……こんな私でも仲間って言ってくれますか……?」

戦士・僧侶「もちろんっ!!」ニコッ

賢者「……ありがとう……二人とも……」グスッ

勇者「……ったく、手間かけさせやがって……」ヘヘッ

勇者「さて、じゃあ行くぞ!?」

賢者「えぇ!!」

賢者『バイキルト』!!

キュワン

勇者「ぉお!?」

賢者『バイキルト』!!

キュワン

戦士「おっ!!」

賢者『ピオリム』!!

キュワワワワン

賢者「今貴方達の攻撃力と素早さを強化しました!!」

勇者「力がみなぎってくるぜ!!」

戦士「サンキュー賢者!!」

勇者「だぁあ!!」

ダンッ!!

戦士「ぬぁあ!!」

ドンッ!!

賢者「一緒にいくよ、僧侶ちゃん……」

僧侶「え……今僧侶"ちゃん"って……」

賢者「……////」

僧侶「……うん♪賢者ちゃん!!せーのっ」

賢者・僧侶『バギクロスッッ』!!!!!!

ビュォォ!!!!!!

ズババババババッ!!!!

魔物の群「ぎゃーーー!!」

――――
エビルマージ「くっ……まさか仲間達が集結するとは……こうなっては勝ち目がないのぅ、一旦引くしか……」コソコソ

スリー「いやぁ……良かった良かった♪良いものが見れたなぁ」

エビルマージ「!? 貴様いつから!?」ビクッ

スリー「賢者も無事に心を開いてくれたしさ、俺達パーティの結束もより強まったよ」

スリー「こういう状況を作り出してくれた君にはその点少ーーしだけ感謝しようかな?」ハハッ

エビルマージ「わ、わけのわからんことを言いおって……!!」

エビルマージ『メラゾーマ』!!

ゴウゥ!!

エビルマージ「フハハハッ!!油断しておるからだ!!」

ブワッ!!

スリー「でもね……」

エビルマージ「な……効いていないじゃと……!?」

スリー「俺の仲間を傷つける奴は絶対に許さない!!」

エビルマージ『イ、イオナ……』

ヒュバン!!

ブシャァアアア!!

スリー「特別サービスだ……」

ドサッ

スリー「痛みを感じることなく逝けただろ?」

キィン!!

――――第三の世界・十日目・リムルダール付近の森

スリー「早いものだね……もう十日目か」

勇者「あぁ……」

スリー「さて、二人とも最終日もよろしく頼むよ?」

戦士・僧侶「ラジャー!!」

賢者「あ……スリー様」

スリー「?」

賢者「今日は私が勇者について行きます……構いませんか?」

勇者「へ?」

戦士「どういう風の吹き回しだぁ?」ニヤッ

賢者「もぅ!!ただの気分転換よ!!私は一人で大丈夫だから」

スリー「うん、わかった。じゃあ賢者、よろしく頼むよ?」

スリー「アレフガルドには昼はないからね、地上での夕方ぐらいになったら帰ってきてくれ」

賢者「はい、任せて下さい!!」

勇者「じゃ、よ、よろしく」

賢者「えぇ」

タッタッタッ

戦士「スリぃ~」

スリー「ん?なんだい?」

戦士「お前最初から勇者が賢者の心を開かせられるかもしれねぇと思ってやがったな?」ニヤッ

スリー「なんのことやら」シレー

僧侶「ふふっ、とぼけたって無駄ですよぅ、私達ちゃーんとわかってますから♪」ニコッ

スリー「二人とも買いかぶりすぎだよもぅ」苦笑

僧侶「だって私達の自慢のリーダーですもん、ね~♪」

戦士「なー♪」

スリー「はいはいっ」笑

――――第三の世界・十日目・地上・夕方
戦士「地上に出てきてどうするんだ、スリー?」

スリー「ん、お別れ前にちょっと勇者に良いものを見せてあげようと思ってね」

勇者「良いもの?」

スリー「すうぅぅ……」

スリー「ピーーーーー!!」

勇者「?」

戦士「なるほど」

僧侶「あぁ!!」

賢者「わかりました」

バサッ

バサッ

勇者「な、ななな!!なんだこのでっかい鳥!?」

スリー「この鳥は不死鳥ラーミア……俺達の仲間さ」

ラーミア『スリー……この者は……?』

スリー「あぁ、勇者っていうんだ。俺達の弟子って奴かな?」

ラーミア『勇者……弟子……ですか』ジー

勇者「ふぇ~……世の中には不思議な生き物がいるんだなぁ……」ジー

スリー「ラーミア、彼も乗せてあげられるよな?」

ラーミア『えぇ、大丈夫です』

勇者「え?乗るって……コイツに!?」

スリー・戦士・僧侶「そう!!」

――――大空
ビュオオ!!

勇者「すっげーー!!」

勇者「飛んでる!!高い!!」

戦士「勇者ぁ、あんまりはしゃいで落っこちても知らんぞ?」ガハハ

僧侶「最後に大空から夕やけを見せてあげるだなんて……スリーさん素敵ですぅ」

スリー「ハハ、そうか?」ニッ

勇者「いつか……」

スリー「?」

勇者「いつか俺も俺の世界をこうして眺めてみたいなぁ……」

スリー「きっとできるよ、その時は『これが俺が守った世界だ』って胸張って見ることができるだろうさ」ニコッ

勇者「うん!!」

キラキラキラ……

勇者「あ……」

戦士「勇者が光って……」

僧侶「え?え?」

賢者「…………」

スリー「そうか……お別れの時間なんだね……勇者」

勇者「……うん」

キラキラキラ……

戦士「……なんか……寂しくなるな……」

僧侶「勇者さん……」グスッ

賢者「…………」

キラキラキラ……

勇者「戦士……いつも修行に付き合ってくれてありがとな……」

戦士「ハッ、いいってことよ」

勇者「俺もお前に負けないように強くなるよ……」

戦士「あぁ、お前ならできるさ、頑張れよ……くそっ目から汗が出てきやがるぜ」グスッ

僧侶「勇者さん……うっ」ヒックエッグ

勇者「僧侶も修行に付き合ってくれてありがとう……料理とっても美味しかったよ」ニコッ

僧侶「あ、ありがとうございますぅ」グスッ

勇者「世界が平和になったら……僧侶ならきっと良いお嫁さんになれると思うな」ハハッ

僧侶「な、何言ってるんですか!!////もぅ……」グスッ

賢者「……」

スリー「ホラ、賢者も……」

賢者「……」

勇者「賢者……その……昨日はビンタしちゃってごめんな、それに酷いことも言ったし…………今日謝れなくて……」

賢者「……気にしてません」

勇者「そ、そっか……」

賢者「……ア……」

勇者「ア?」

賢者「ア、アンタなんかに何にも感謝してないんだからねッ!!////」カァ

勇者(け……賢者×ツンデレだとぉ!?)ガハッ

賢者「また仲間と仲良くなれたのも全然アンタのおかげなんかじゃないんだからぁ!!////」

勇者(……これはヤバい)

賢者「アンタなんかさっさと元の世界に戻って世界を救っちゃえばいいのよ!!////」

勇者「あ……あの……ありがとな、俺頑張るよ」

賢者「あと……」

勇者「?」

賢者「離れてたってアンタも私達の仲間なんだからね、私達のこと忘れたら承知しないんだから!!」ウル

戦士「そうだぞぅ勇者ぁ!!お前も俺達の仲間だ」グスッ

僧侶「勇者さぁ~ん」ヒッグ

勇者「みんな……」

キラキラキラ……

スリー「勇者……」

勇者「スリー……」

スリー「よく考えたら俺って君にたいしたこと教えてないな、ごめん」アハハ

勇者「そんなことない……大事なこといっぱい教えてもらったよ」

スリー「もっと強くなれよ……この世界は俺達が……君の世界は君が……平和を取り戻すんだ」

勇者「うん……」

スリー「さっき賢者も言ったけどさ、俺達は離れていても仲間だ。きっと今まで君と会った勇者達も、これから君と会う勇者達も、それは変わらないだろう」

スリー「君は1人じゃない。心の絆でいつも仲間と繋がってるってことを忘れるなよ」

勇者「……うん!!」

キラキラキラ……

勇者「なぁ……スリー……」

キラキラキラ……

スリー「なんだい?」

勇者「スリーはさ、『勇気ある者が勇者だ』って俺に教えてくれたよな?」

スリー「あぁ……」

キラキラキラ……

勇者「でもさ、俺思ったんだ」

勇者「人々に勇気を与えられるスリーみたいな奴が本当の勇者じゃないかな、って」

スリー「……そうか」フッ

勇者「うん、俺スリーみたいな勇者になりたい。自分の勇気の灯火を人々に分け与えられるような勇者に!!」

スリー「うん……頑張れよ!!」スッ

勇者「……あぁ!!」ガシッ

キラキラキラ……

勇者「戦士……僧侶……賢者……そしてスリー……ありがとう……」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

スリー「……さよなら、勇者」

僧侶「勇者さぁ~~ん」ビェェン

戦士「ったく、いつまで泣いてやがんだオメェは……こっちまで……くぅ」グスッ

賢者「あら?戦士さんも泣いているんですね、『鬼の目にも涙』って奴かしら?」

戦士「誰が鬼だ!!誰が!!」

賢者「うふふっ」

僧侶「……あれ?賢者ちゃん笑って……」

戦士「……ん?そういやお前が笑うとこなんて久しく見てねぇぞ?」

賢者「ぇえ?えーとその……わ、笑ってないです!!」プイッ

戦士「いーや笑った!!」

賢者「笑ってないですー!!」

僧侶「笑ったよぉ~!!」

賢者「笑ってないですってば!!」

スリー「……賢者に笑顔が戻ってきたのも勇者のおかげだね」ニッ

スリー「さ、ゾーマを倒したらみんなでうんと笑おうか!!」

戦士・僧侶「おー!!」

賢者「だから笑ってないですってばぁ!!」

――――星の海
勇者「……ここの星も綺麗だけど……あの夕陽も綺麗だったなぁ……」

ルビス『綺麗な景色はいつの日も人々の心を洗ってくれるものですから……』

ルビス『今回の世界はどうでしたか?』

勇者「うん……魔物と沢山闘ったなぁ……あ、この剣持ってきちゃった……」

勇者「まぁいいか……大切にしよう……」ギュッ

勇者「あのさ……スリーって奴はホントにすごい奴なんだ……あれが『伝説の勇者』って奴なんだなぁ……って思ったよ」

ルビス『そうですか……貴方も彼の様な勇者になれると良いですね……』

勇者「うん……」

ルビス『さぁ……おやすみなさい』

勇者「……おやすみ……」

勇者(あれ?何かルビスに言うことがあったような……ま、いいか……)

勇者「zzzz」

キリがいいからここいらでちょっと休憩するわ
まだまだ続くけど読んでくれたら泣いて(ry

――――第四の世界
パッ

勇者「ふがっ!!」

バッシャーーン!!

勇者「ガボボボボ!!」ブクブク

勇者「プハァ!!」

ザバァ

勇者「ハァ……ハァ……死ぬわ!!」ピキッ

勇者「てか水!?川か……?」ポタポタ

???「誰だ!?」チャキッ

勇者「わわっ!!」

???「人間か……!!」ゴオッ!!

勇者「え!?ぇえっと……」

???「強欲で醜く穢らわしい……人間め……!!」ビキッ

勇者「ちょ……!!」

ヒュッ!!

バキィッ!!

勇者「が……!!」

???「ハァッ!!」ビュバッ!!

勇者「こ……のぉ!!」

ガキーン!!

勇者(誰だか知らないけどこのまま黙って殺されてたまるか……!!)

勇者「痛い目みても知らないからな!?」

???「フンッ、笑わせてくれる」

勇者「はっ!!てやぁ!!」ビュン!!ヒユッ!!

???「……ほぅ……人間にしては少しはやるではないか……」サッ スッ

勇者「!?」

???「でやぁ!!」ビュンッ!!

勇者「くっ!!」ガッ!!

???「甘い!!」サッ!!

ガッ!!

勇者「!? 足ばらっ……!?」グラッ

ドサッ

???「終わりだな……フンッ!!」

ビュン!!

サッ

勇者『イオラ』!!

カッ!!

???「むぅ!?」

ザッ!!

勇者「危ないとこだった……」ハァハァ

???「咄嗟にイオラを放ってこちらの体勢を崩すとは……なかなか面白い」

勇者(……コイツ……強い!!それもかなり!!)

???「だが……これで終わりにしよう」

勇者「!?」

ゴゴゴゴゴッ!!

???『ジゴスパー…』

ホビット「ピサロ様!!」

ピサロ「……どうした、長老ではないか……見ての通り私は今忙しい。用があるなら後にしてくれないか」

ホビット「誠に恐縮ながら申し上げます」

ホビット「私はこのロザリーヒルで長老を務める身。例え貴方様であっても村でいざこざを起こすことを許すことはできません……なにとぞこの場は剣を納めて下さいませんか?」

ホビット「この通りです……」深々

ピサロ「…………」

勇者「……?」

ピサロ「……フンッ、いいだろう。どうせ私は進化の秘法の力で全ての人間を滅ぼすのだ、今ここで一人殺すも殺さないも同じこと」キィン

ホビット「ありがとうございます」

ピサロ「……それにロザリーの墓の前で薄汚い血を流すわけにはいかないからな……」ボソッ

ホビット「……ピサロ様……」

ピサロ「私は魔界に行き進化の秘法を使う……おそらく人間への憎悪に燃える今の私が進化の秘法を使えば破壊と殺戮のみを求める化け物と化すだろう」

ピサロ「ここでロザリーと過ごした日々も化け物となった私は忘れてしまうだろうな……」

ピサロ「そうなる前に言っておきたい」

ピサロ「長老、今まで世話になった」

ホビット「ピサロ様……私めには勿体なきお言葉です」

ピサロ「ロザリーが愛したこの村を頼む……」

ホビット「……はっ」

ピサロ「……とは言えこの私自身がここを焼け野原にしてしまうかもしれんがな」苦笑

ホビット「……ピサロ様、今からでも遅くはありません。もう一度……」

ピサロ「……それはできん。もう……引き下がることはできんのだよ……」

ホビット「…………」

ピサロ「では、達者でな」フッ

ホビット「…………」

勇者(…………ピサロ……どっかで聞いた名前なんだけど…………あ!!)

勇者(そうだ!!四番目の勇者の世界の魔王だ!!)

勇者(……でもアイツが魔王……本当に悪の親玉なのか……?)

勇者(たしかにアイツからはものすごい憎しみと怒りを感じたけど……どこか寂しげで悲しげな……そんな眼をしてたな……)

勇者「……っくしょん!!」

ホビット「人間の方ですな?どうしてこのような場所に……?」

勇者「え?えーと……」

ホビット「まぁずぶ濡れのまま立ち話もなんでしょう。私の家へ案内しましょう」

――――ロザリーヒル・長老の家
ホビット「さぁ、私の畑でとれたカボチャのスープです。良かったら召し上がって下さい。温まりますぞ」

勇者「あ、ありがとう」ズズー

勇者「んーー!!んまい!!」プハァ

ホビット「それは良かった。おかわりもありますからお好きなだけ召し上がって下され」ニコッ

勇者「ありがとう♪」

勇者「なぁ、ホビットのじいちゃん。質問してもいいかな?その……答えたくないことなら答えなくていいんだけど……」

ホビット「なんですかな?」

勇者「……ピサロはどうして人間をあんなに憎んでるんだ?しかもただ憎んでるだけじゃない……どこか悲しげに……」

ホビット「ふむ……今や話しても構わないでしょうな……少し長くなりますがお付き合い下さい」

ホビット「あるところに一人のエルフの娘がおりました。その娘は世にも珍しい『ルビーの涙』を流すエルフでした」

ホビット「強欲な人間達が毎日のようにその娘を傷めつけ涙を流させようとしていました」

ホビット「そんなある日、人間達にいじめられていたその娘を魔族の総司令官であったピサロ様が助けたのです」

ホビット「名もないそのエルフにピサロ様は『ロザリー』と名を与えました……ここ、『ロザリーヒル』からとったと聞いています」

ホビット「ピサロ様は人間達からロザリー様をお守りするため、この村の塔に彼女をお隠しになられました……たまに二人で過ごす時間は静かで幸せそうでした」

勇者「……」

ホビット「魔族のトップとして地上を支配する……つまり人間と闘おうとしていたピサロ様でしたが……ロザリー様は違いました」

勇者「……?」

ホビット「人間に傷つけられ、酷な仕打ちを受けても、ロザリー様は全ての人間が悪でないとわかっていたのです」

ホビット「ピサロ様の地上支配を止めたい、ピサロ様に人間は悪い者ばかりではないとわかってほしい……ロザリー様はそう願っていました」

ホビット「そんなある日事件が起きます……欲に眼の眩んだ愚かな人間達が……ロザリー様の居場所を突き止め……ロザリー様をさらい……そして……」

ホビット「殺してしまったのです」

勇者「……!!」

ホビット「ロザリー様の元に駆けつけたピサロ様でしたが時既に遅くロザリー様は還らぬ人となりました……」

ホビット「人間の醜さ、欲深さ、傲慢さを改めて思い知ったピサロ様は憎しみに燃えました……そして人間を滅ぼすことを決めたのです」

勇者「……」

ホビット「しかしピサロ様は心のどこかで『人間を滅ぼしたところでロザリーは生き返らない』『人間を滅ぼすことをロザリーは望んでいない』とお思いなのでしょうな」

ホビット「勇者殿がピサロ様を『悲しげ』と感じたのはそのためでしょう……」

勇者「……悲しい話だな……ピサロは人間の悪いところしか見ることができなかったんだな……」

ホビット「えぇ……」

ゴゴゴゴゴッ!!

グラグラグラ!!

勇者「じ、地震!?」

ホビット「……!!」

勇者「どうした!?」

ホビット「私にはわかります……地の奥深く……そこで禍々しい何かが生まれたのです……」

ホビット「おそらくピサロ様がその身を怪物へと変えたのでしょう」

勇者「……ピサロ……」グッ

ホビット「……ところで勇者様はどうしてこの村に?」

勇者「………………あーー!!そうだった!!そうだよ、この世界のことも心配だけど俺にもやらなきゃならないことがあるんだ!!」

ホビット「はぁ……」

勇者「ホビットのじいちゃん、えーと……緑の髪でスライムピアスをつけて盾と剣持った男を知らないか!?」

ホビット「えぇと……ん?あの者ですかな?」

ホビット「村の道具屋にいる……」

勇者「!?」

――――ロザリーヒル・道具屋
マーニャ「高いー!!もうちょっとまけなさいよ!!」

道具屋「そう言ってもわしも生活がかかっておってのぅ……」アセアセ

ミネア「姉さん!!お爺さん困ってるじゃない!!」

アリーナ「うーん、でもわたし達が貧乏なのはたしかだもんね~」

???「やれやれ、『遂にピサロとの最終決戦だー』とか言って装備を調えに天空城からここに来たはいいけど金欠はどうしようもないな~」苦笑

マーニャ「まったく、マスタードラゴンもあたし達に世界を救え、って言うなら金銭的援助ぐらいしてくれないのかしら!?」

ミネア「……そのお金が姉さんの手によってカジノで消えることになるのは目に見えてますけどね」

マーニャ「」グサッ

アリーナ「ん?誰か走ってくるよ?」

???「?」

ダダダッ!!

勇者「やっぱりそうだ!!間違いない!!」ハァハァ

勇者「4番目の勇……わっ!!」

ガッ!!

???「!? あぶなっ……!!」

ドンガラガッシャーン!!

勇者・???「」ピヨピヨ

アリーナ「……???」

マーニャ「ほほぅ、白昼堂々フォーを押し倒すなんて相当なガチホモね……」ニマニマ

ミネア「なんですぐそういう発想になるのかしら……」ハァ

――――ロザリーヒル郊外
フォー「……ってことらしい」

マーニャ「ふ~ん、ただのガチホモじゃないんだ~」

勇者「ホモじゃねぇよ!!」

マーニャ「あら、そうなの?じゃあ……あたしとイイコトする?」ズイ

勇者「え!?ぇえっと……////」モジモジ

ミネア「姉さん!!」

マーニャ「冗談よ、冗談」ケラケラ

ブライ「しかし……老いぼれの固い頭には今一つ信じられませんわい」

フォー「ん~、俺のこと信じると思ってさ、な?」

ブライ「まぁフォー殿がそう仰るなら……」

クリフト「私はこの者の修行に付き合うなんて反対です!!ピサロは進化の秘法で怪物となり世界を滅ぼそうとしているのですよ!?それにこのような得体の知れない者、姫様に何か危害を加えるかもしれませんし……」

アリーナ「あら、いいじゃない♪この人色んな勇者に修行つけてもらってきたんでしょ?わたしも手合わせしてみたいし」

クリフト「そ、そうですね!!私達の旅にも何かいつもと違う刺激があるのは良いことですね!!」

フォー・ライアン・ブライ・トルネコ(……情けない奴……)ガクッ

ライアン「……コホン、悪人かどうかなど眼を見ればわかります。こんな澄んだ瞳の悪人はいないでござるよ」

フォー「えーと……じゃあ自己紹介でもしようか」

フォー「俺はフォー。世間じゃ『天空の血を引きし者』とか『勇者』とか呼ばれてるけど……まぁこのパーティのリーダーだ。フォーって読んでくれればいい、よろしくな」

ライアン「我輩はバトランド王宮騎士団のライアンと申す。今は世界を救うべくフォー殿にお供している身でござる。短い間でござろうがよろしくお願いいたす」
ペコ

勇者「あ、こちらこそよろしくな」

アリーナ「わたしはサントハイムの王女、アリーナって言うの。魔物の手で消されてしまったサントハイムのみんなを助け出すためにフォー達と旅をしてるわ、武者修行もできて一石二鳥ね♪」

勇者「……え?王女様が武者修行?」

アリーナ「そうよ、変?わたしは世界一強くなるのが夢なの」パァ

ブライ「やれやれ、だから『サントハイムのおてんば姫』などと呼ばれるんですぞ」ハァ

アリーナ「むっ」

ブライ「わしはブライ、姫様のお目付け役であると共にサントハイムの王宮魔法使いです、よろしく頼みますぞ」

クリフト「私はクリフトと言います、アリーナ姫にお供して世界を巡っております。王宮神官ですから回復呪文とザキは得意です!!」

フォー(ザキ厨が……)ハァ

トルネコ「私は武器商人のトルネコです。世界一の武器商人を目指してフォーさん達と旅をしています。あ、ちなみに私には美人な嫁がいましてね、ネネって言うんですが……」デヘヘ

マーニャ「はいはい、その話はまた今度ね」

マーニャ「あたしはマーニャ。情熱の街モンバーバラで踊り子のトップだったスーパーアイドルよんっ」ピンッ

ミネア「私はミネア……モンバーバラでは占い師として生計を立てていました。よろしくお願いします」

勇者「えーと、こっちがマーニャでこっちがミネア?よく似てるなぁ……」

マーニャ「そりゃ双子だからね~」

ミネア「下品な方がマーニャ、上品な方がミネアです」

マーニャ「ちょっと!!そりゃないんじゃない!?」

フォー「ハハハッ、こりゃいいや。これで俺達のことは大体わかったか?」

勇者「うん!でも……すごい大所帯だな、戦闘の時は8人で闘うのか?」

フォー「いや、流石にそんな大人数じゃ俺も指示が出せないからね、戦闘は四人で残りの四人は馬車の中で待機さ」

勇者「へぇ~、だから馬車があるのか」

フォー「あ、紹介が遅れたな、コイツはパトリシア。俺達の大事な仲間だ」

パトリシア「ヒヒーン!!」

勇者「よろしくな、パトリシア」

パトリシア「ブルルル……」

フォー「さて……俺のところでの修行は……」

ブライ「フォー殿」

フォー「ん?」

ブライ「先程クリフトも申しましたが世界に脅威が迫っているのも事実。のんびり寄り道などしてはいられないかと……」

フォー「あぁ、そうだな……じゃあ勇者にも魔界攻略を手伝ってもらおう!!」

勇者「魔界攻略!?」

フォー「ピサロがいるのは魔界の奥深く、でも俺達はまだ魔界に辿り着いてすらいない。この先魔物達の罠も待ち受けているだろうし仲間は多い方が良いだろ?」

アリーナ「勇者と一緒に闘えるの!?楽しみ♪」

ライアン「しかしそれでは我々の旅に勇者殿が加勢するだけで勇者殿の修行が疎かになるのでは……?」

フォー「それなら心配いらないと思うな、多分魔界にいる魔物達はピサロの側近達……つまり手練れだろう。勇者もそういった強敵とは闘ったことがないみたいだしいい実践経験になる」

フォー「……とは言えそれじゃ前の世界での修行とほとんど同じだから……うーん、そうだなぁ……」

フォー「ここらで勉強でもするか」

勇者「うえ!?」ゲェ

フォー「戦闘で頭を使うってのも大事なことなんだぞ、俺は仲間達に指示を出したりしてるからさ戦闘や魔物の知識に関してはそれなりにあるつもりだしそれを伝授しよう」

勇者「いや、でもさ、強けりゃそんなの……」アセアセ

フォー「甘いなぁ……じゃあ簡単な問題を出そう」

フォー「hpが200の魔物が二匹現れたとしよう。君は『一匹に200のダメージを与える攻撃』と『二匹に100のダメージを与える攻撃』が使える。君ならどう攻撃する?」

勇者「え……そんなの二回攻撃しなきゃならないんだからどっちでも同じじゃないか」

マーニャ「あたしは二匹に100を2回かな、一気に倒せた方が気持ちいいじゃん?♪」

アリーナ「わたしは一匹ずつ倒すな、やっぱり闘いは一対一じゃなくっちゃ!!」

ライアン「我輩もそうでござるな」

トルネコ「私はどっちでも同じような気が……」

クリフト「私もそう思います」

ブライ「やれやれ、情けないのぅクリフト」ハァ

クリフト「え!?」

ブライ「一匹に200を二回が正解じゃ」

ミネア「ですよね、フォーさん」

フォー「あぁ、その通りだ」

勇者・マーニャ「えー、なんでー?」

フォー「まず一匹に200を二回で闘うとしよう。一回目の攻撃で一匹の魔物を倒せる。そして残った魔物が君に攻撃してくるだろう。それを防ぐか避けるかして残りの魔物に攻撃して倒す……君は一回魔物から攻撃を受けることになる」

フォー「じゃあ二匹に100を二回で攻撃するとどうなるか。一回目の君の攻撃で二匹はダメージを受ける。そして二匹は君に攻撃を仕掛ける。その後君はまた二匹に攻撃をして倒す……君は二回魔物から攻撃を受けることになる」

勇者「あ……」

フォー「そう、同じ二回の攻撃で二匹の魔物を倒すように思えるけど実際はこっちが攻撃を受ける回数が違ってくるんだ」

フォー「実際の戦闘ではこんな風に計算通りにはいかないやりとりがあるワケなんだけど……戦闘で頭を使うことの大切さもわかっただろ?」

勇者「うん!!」

フォー「それに『この魔物は攻撃が効きにくいから呪文で倒した方が良い』、『この魔物にはこの呪文が効く』とか魔物にも特性があるからね。なんでもかんでもザキを使えばいいってもんじゃない」チラッ

クリフト「……」グサッ

フォー「だから俺は戦闘・魔物の知識を教えていこうと思う。と言っても勉強だけじゃ参っちゃいそうだから闘いを通して俺の仲間達に戦闘の修行をつけてもらうといい」

フォー「剣術……格闘……呪文に目利き……みんなそれぞれの分野のエキスパート達だ、きっと君の力になってくれるハズだ」

勇者「わかった!!」

アリーナ「わたし一度弟子ってとってみたかったの~、なんだかかっこいいじゃない?」パァ

ライアン「バトランドで培われた我輩の騎士道精神、しっかり勇者殿にお伝えするでござる!!」

勇者「みんなよろしくな!!」

マーニャ「攻撃呪文はブライ爺さん……回復呪文はクリフトにミネア……あーあ、あたし教えることないじゃ~ん」

マーニャ「……ねぇ、勇者、あたしがオトナのお勉強教えてあげよっか?」ニヒッ

勇者「ぇ?えっと……その……////」テレテレ

ミネア「姉さんは攻撃呪文の指導役です!!」グィ

マーニャ「痛い痛い!!冗談だってば、もぅ!!」

――――第四の世界・二日目・魔界へと続く道
ガラガラガラ

パトリシア「ヒヒーン」カポカポ

フォー「鳥系や空を飛ぶ魔物にはバギ系の呪文が有効だな、と言うのもバギ系は風を起こす呪文だから上手く気流を乱してやれば空を飛ぶ魔物はバランスがとれなくなって隙が出来る。バギ系呪文に耐性のある魔物でもこうして隙を作ることができるな。植物系の魔物の魔物は大抵が炎系の呪文が効きやすい……メラ系とかギラ系だな、でも希に植物系でも耐性のある奴が……って聞いてるか?」

勇者「……」

フォー「……」

勇者「……zzzz」ポクポク

フォー「……」

ゴッ!!

勇者「いだぁっ!!」

フォー「なぁーに寝てんだ!!」

勇者「あぅ……ごめんごめん」ポリポリ

フォー「ったく、昨日も寝てただろ?」

勇者「うーん……なんか長くて難しい話って聞いてて眠くなっちゃって」ハハ

勇者「アリーナ達は外で魔物と闘う役なんだろ?俺も戦闘に参加したいよー」ブー

フォー「その戦闘をより効率的にするために俺が今こうして君に魔物の知識を教えているんだろ?」

勇者「う……はーい」

アリーナ「フォー!!洞窟抜けたみたいだよー!!」

フォー「お、そうか。待ってろ、今行く」ヒョイ

勇者「ここが魔界か~」

クリフト「紫の雲に濁った空気、血の様に赤い海……」

トルネコ「薄気味悪いところですね……」

フォー「ライアンとブライはどうした?」

マーニャ「なんでも敵の居城の斥候とか言ってさっき……」

ミネア「あ、帰ってきたみたいですね」

ライアン「……ダメでござるな」

フォー「?」

ブライ「あの城には強力な結界が張られていまして簡単には浸入できないようです」

フォー「……結界を解く術はあるのか?」

ブライ「あの手の結界はそれを形成するために幾つかの"柱"の様なものが必要です……私の見立てですが城の四方の四ヶ所の祠や塔がその役割を担っているかと……」

ミネア「……その場所、強い魔力を感じます……」

フォー「ピサロのしもべがそれを守っていると考えるのが妥当……か」フム

フォー「まぁなんにせよ今すぐ突入は無理だ、体勢を整えるためにもここらにキャンプでも作ろうか」

フォー「勇者はライアンに剣の稽古でもつけてもらえ、ずっと馬車の中で退屈だっただろ?」

勇者「うん、わかった!!」

>>1が無ければ支援した

――――魔界・フォー一行のキャンプ付近
勇者「せいっ!!」

ビュッ

ライアン「なんの!!」

ガキーン!!

キィン!!

カガキィン!!

キィン!!

マーニャ「へぇ、案外やるもんじゃない」

ミネア「えぇ、一ヶ月前は一般人とはとても思えませんね」

マーニャ「アンタも少しは力つけたらぁ?」

クリフト「わ、私ですか!?」

クリフト「しかし私は神官でして肉弾戦は苦手で……それに……」

クリフト「私にはザキがありますから!!」キッパリ

マーニャ(……言い切った)

ミネア(……むしろ清々しさすら感じる)

>>228 見事に掴みで失敗した(苦笑)
覗いてくれてありがとうな

勇者「だりゃああ!!」

ライアン「むぅん!!」

ガッキーーーン!!

ヒュンヒュンヒュン

ザクッ

勇者「かー、負けちまったか……」

ライアン「むぅ……勇者殿はかなり腕が立ちますなぁ、まさかここまで本気を出すことになるとはこのライアン思ってもいませんでした」

勇者「そ、そうかな……?」テレッ

アリーナ「……」キラキラ

勇者「……?」チャッ

アリーナ「勇者ぁ!!次はわたしとやろう!!」

勇者「……え?別にいいけど……その……女の子とは闘いづらいと言うか……」

アリーナ「えー、何それ!!失礼しちゃうな!!」プンプン

ライアン「勇者殿……」ボソッ

勇者「?」

ライアン「本気でかかった方が良いでござるよ」ボソッ

勇者「??」

アリーナ「じゃあ行くよー!!」

ビュッ!!

勇者「な、はやっ……!!」

【勇者の咄嗟の突きをかわしざまに合わせたアリーナの右フックは】

【正確に勇者の顎の先端を捕え】

【勇者の脳を頭骨内壁に、あたかもピンポンゲームの如く繰り返し振動激突させて典型的な脳震盪の症状をつくり出した】

【既に意識を分断された勇者の下顎へダメ押しの左アッパー】

【崩れ落ちる体勢を利用した左背足による廻し蹴りは】

【勇者を更なる遠い世界に連れ去り――】


【全てを終わらせた!!! 】





【その間、実に2秒!!! 】


【これが、エンドール武術大会で優勝を収めたアリーナの、ベストコンディションの姿である】

勇者「」ドサッ

アリーナ「あら、呆気ないわね」

ライアン「むぅ……だから言ったのに……」

マーニャ(って言うか今のナレーションで元ネタ分かった奴はソッコー病院行くべきね)

アリーナ「おーい、勇者ぁ」ペチペチ

勇者「」

アリーナ「勇者ってばぁ」ペチペチ

勇者「……はっ!!」ガバッ

アリーナ「あ、起きた!!」

勇者「俺は……そうか……アリーナにやられて……」

勇者「……ってアリーナ強すぎじゃないか!?」

アリーナ「そうかなぁ?」シュビビッ

トルネコ「アリーナさんは呪文も使えませんしあまり強力な武具も装備できないのでフォーさんが入手した力の種や素早さの種、守りの種を全てアリーナさんに差し上げたんです」

勇者「!?」

アリーナ「なんだか種に頼ったみたいで嫌だからさ、ちゃーんと自分でも修行してるよ?」ヒュババッ

勇者(……見えない……)タラッ

アリーナ「さぁ!!2回戦行くぞー!!」

勇者「ちょっ、待っ!!」

【アリーナ腰を深く落とし真っ直ぐに相手を突いた!!】

ドゴォッ!!

勇者「がっ……!!」

【アリーナは爆裂拳を放った!!】

勇者「がぼぼぼぼっ!!」

【アリーナの飛び膝蹴り!!】

勇者「ぐっはぁぁ……!!」

ドサッ

勇者「」ピクピク

アリーナ「あれ~?またおしまい?」

アリーナ「クリフト~、ベホマお願ーい!!」

クリフト「はっ!!只今!!」ドヒュン

マーニャ「……実際アリーナがあたし達の中で一番強いんじゃない……?」

ミネア「えぇ……もしかしたらフォーさんより強いかも知れませんね……」

アリーナ「さぁ、3回戦だ!!」

勇者「助けてぇぇーー!!」

クリフト「あぁ……羨ましい……」ハァ

マーニャ「ダメだコイツ……はやくなんとかしないと」

――――第四の世界・三日目・魔界
ライバーンロード「グワアゥ!!」バサバサ

フォー「勇者!!そっち行ったぞ!!」

ガーディアン「ふんっ!!」

ガキーン!!

フォー「せいっ!!」ビュッ

ズバッ!!

勇者「えぇっと……空を飛ぶ魔物は……」

勇者『バギマ』!!

ビュオオオッ!!

ライバーンロード「!?」グラッ

勇者「今だ!!」

ズバッ!!

ライバーンロード「ギャオー……!!」

ズズーン

ミネア「お二人とも、回復致します」

勇者「いや、かすり傷ぐらいしかしてないし構わないよ」

フォー「俺が教えたことちゃんと覚えてたみたいだな」ニッ

勇者「当たり前だろ♪」

フォー「半分以上寝てたクセによく言うよ」

勇者「う……それを言われるとつらいな」ポリポリ

マーニャ「……で、パーティーはこの四人でいいの?」

フォー「あぁ、準備はいいか?」

勇者「おう!!」

――――結界の祠
アンドレアルa「ギャオオ!!」

ゴウゥゥ!!

フォー「ミネア!!」

ミネア「えぇ、わかってます!!」

ミネア『フバーハ』!!

フワッ

シュウウゥ!!

マーニャ「っつう!!フバーハあっても熱いわね!!」

勇者「フォー、ドラゴンの魔物は!?」

フォー「ドラゴン系の魔物は鱗が堅く皮膚が厚い上に体力もある。近接攻撃じゃ苦戦するだろう、だが火炎の息を吐くドラゴンは内臓器官に高熱の火炎袋を持っているから……」

アンドレアルc「ガウッ!!」

ビュン!!

フォー「……っと!!」サッ

アンドレアルb「ガルル!!」

シャッ!!

勇者「わっ!!」

ガキーン!!

勇者「解説はいいから早く!!」

フォー「つまり氷系の呪文に弱い!!」

フォー「ミネアはサポート、マーニャはそっちの一匹を!!時間を稼ぐだけで構わない!!」

アンドレアルa「グルル……」

マーニャ「りょーかいっ!!」

アンドレアルc「ギャオー!!」

フォー「コイツを片づけたらそっちに行く!!」

勇者「へっ、じゃあコイツは俺に任せな!!」

アンドレアルb「ギャース!!」

フォー「ok、行くぞ!!」

――――
勇者『ヒャダイン』!!

ビュオオオッ!!

アンドレアル「ガウッ!!」ググッ

勇者「マーニャ!!フォー!!今だ!!」

マーニャ「さぁ、ぶちかますわよ~♪」

マーニャ『イオナズン』!!

カッ!!

ドドーーーン!!

フォー「これで……」ダッ

フォー「トドメッ!!」

ズバンッ!!

アンドレアルa「ギャアアァァア!!」

ドシーン!!

アンドレアルa「……ピサ……ロサマ……ニ、コウウン……ヲ……」ガクッ

アンドレアルa「」

勇者「ふぃー、どうにか片づいたな」

フォー「ミネア、どうだ?」

ミネア「……はい、結界が弱まったのを確かに感じます」

マーニャ「お疲れお疲れー♪」

フォー「勇者、いい闘いぶりだった。正直敵の強者相手にここまでやれるとは思ってなかったよ」

勇者「へへっ、ありがとう♪でもここまでやれたのはフォーの的確な指示のお陰だな」

勇者「俺だけじゃなくてマーニャやミネアにもその状況での適切な指示を出してたもんな」

ミネア「えぇ、フォーさんが私達のリーダーたる所以です」

勇者「俺勉強は大ッ嫌いだけどフォーのそういう戦闘の知識、改めて知りたいと思ったよ」

フォー「そうか、じゃあビシバシいくからな?」

勇者「うん!!」

フォー「次寝たらゲンコツじゃなくてギガデインな」

勇者「ぇえ!?そ、そりゃひどいよ!!」アセ

――――第四の世界・四日目・夜
フォー「……で、ルーラの応用でトベルーラって呪文があるんだ。まぁこれは正式な呪文じゃないから契約とかは必要なくてルーラで飛ぶ要領で体を宙に浮かせる感じでできる。これをうまく使えば飛んでる敵とも互角に戦える。そこらへんは呪文担当のブライかマーニャに教えてもらえ」

勇者「へー、呪文にも応用とかあるのか~」

フォー「あぁ、でもまずはその呪文を完璧に使いこなせないと話にならないからな、呪文の応用は少しずつ練習していけばいいさ」

勇者「はーい」

アリーナ「フォー!!、勇者ぁー!!、ご飯できたよー!!」

フォー「ん、そうか。じゃあ今日の授業はここまでだな」

勇者「ふー、よっしゃ!!お腹ペコペコだよ~」

アリーナ「早くこないとわたしが全部食べちゃうからね♪」

勇者「だあぁ!!させるかぁ!!」

ブライ「ホッホッ、若いですなぁ」

――――魔界・フォー一行のキャンプ
トルネコ「ぐがぁ……!!すぴー……!!」ギリギリ

ミネア「うぅ……相変わらずトルネコさんのいびきはうるさいわ……ピサロを倒したら無事に快適な睡眠を得られるかしら?」ドヨーン

ライアン「ぐぅ……ぐぅ……」

ブライ「スー……スー……」

アリーナ「……さぁ、ピサロ!!かかってらっしゃい!!……むにゃむにゃ」

ボカッ

クリフト「姫様……!!もっといたぶって下さい!!……ぐーぐー」

マーニャ「すぴー……すぴー……」

ミネア「皆さんもよくこんな状況で寝れますね……」

ミネア「……あれ?フォーさんと勇者さんがいない……?」

――――魔界・森
勇者「機械や金属の魔物は……」フッフッ

勇者「えっと……」フッフッ

勇者「そうだ!電撃か関節部分への攻撃だ!!」フッフッ

勇者「ゴースト系の魔物は物理攻撃が効きにくいから……」フッフッ

フォー「よっ」

勇者「わぁ!!」

フォー「筋トレしながら今日の勉強の復習か……遅くまでお疲れ様、ほら冷えた水」ポイッ

勇者「……ったく、おどかすなよ……あ、ありがとう」パシッ

フォー「……なぁ、勇者?」

勇者「……ん?」ングング

フォー「勇者は『勇者の伝承』とやらで俺のこと知ってるんだよな?」

勇者「うん」

フォー「俺の……俺の村が魔族の手で全滅したこともか?」

勇者「……うん、知ってる……まぁそんなに詳しい状況まではわかんないけどな」

フォー「そうか……勇者、同じ境遇の君に聞きたい」

フォー「君は魔族を憎んでいるか?」

勇者「……!!」

フォー「正直に答えてくれないか?ありのままの気持ちを」

勇者「俺は……」

フォー「……」

勇者「俺は……多分魔族を憎んでいると思う」グッ

勇者「俺のじいちゃんを、友達を、村の人達を……一人残らず殺して……村のをメチャクチャにした魔族を許せない」ワナワナ

勇者「力を欲する理由も『世界を救う』なんて大層な理由はホントは建前で……復讐の気持ちがないと言ったら嘘になる」ギリッ

フォー「…………」

勇者「……なんかごめん……幻滅した?」

勇者「『お前なんか勇者にふさわしくない!!』とか思ってんだろ?」ハハッ

フォー「……いや、逆さ」

フォー「君が憎しみを胸に……自分の心を綺麗事で偽らない……そんな『勇者』で良かったと思った」

勇者「……?」

フォー「『勇者』なんてさ、世界の救世主みたいに思われてるけど……所詮はただの人間なんだよな」

フォー「面倒なことはやりたくないし、痛いことは嫌だし、時には人を憎んだり妬んだりもする……」

フォー「君が自分の中の憎しみを認めてるってことは……それはつまり自分をありのまま、完璧でなんかないただ一人の人間と自覚してるってことだ」

フォー「だからそんな君が『勇者』で良かった、って言ったんだ」

勇者「…………」

勇者「フォーも……」

勇者「フォーも……魔族を憎んでいるのか?」

フォー「うん……いや、憎んで"いた"ってのが正しいかな」

勇者「過去形……?」

フォー「勇者、敵の親玉……ピサロの哀しい話についても君は知ってるか?」

勇者「え?あ、あぁ……ロザリーヒルの長老のホビットからだいたいのことは聞いた」

フォー「そうか……じゃあピサロも人間を憎んでいるってことはわかるよな?」

勇者「うん……」

フォー「きっと俺がピサロの立場でも……人間を憎んでしまったと思う。ピサロが俺の立場でも……魔族を憎んでしまったと思う」

フォー「俺……ピサロの話を全部知った時……アイツがすごく可哀想になった……」

フォー「俺の村を滅ぼした張本人なのに……世界を壊そうとする巨悪なのに……憎いハズなのに……可哀想で仕方がなかった……」

勇者「……」

フォー「だけど……いや、だからこそ、かな。俺は闘うことを決意した」

フォー「ピサロへの憎しみからじゃなく……ピサロのことを悲しみと憎悪から解放してやりたくて……」

フォー「俺も憎しみにとらわれていたからこそ……ピサロを憎しみから解き放ってやりたいんだ」

フォー「自分の心の中にある憎しみを、怒りを、憤りを……確かに認めた上で、世界を救うため……ピサロを救うため……そのために俺は闘うんだ」グッ

フォー「死んでいった父さんも母さんもシンシアも村のみんなも……憎しみのためにピサロと闘えとは言わないと思う」

フォー「穢れを知らない人間の言う綺麗事なんてなんの価値もない。自分の中の暗く黒い感情をしっかりと見つめて、考え、そして掲げる綺麗事にこそ意味があると思う」

フォー「……だから俺はあえて綺麗事を言うよ」

フォー「人々の希望のために闘う……人々を悲しみから解き放つために闘う……それが『勇者』の使命だって」

勇者「……」

フォー「長々と話して悪かったな、俺と同じ境遇の君にどうしても話を聞いておきたくて、話をしておきたくて」

勇者「うん……ありがとう」

勇者「俺も迷って悩んで……穢れを知った心で綺麗事を見つけてみるよ」

フォー「……うん」

フォー「さて……と、ボチボチキャンプに戻って寝るとしようぜ」

――――草むら
ミネア「……フォーさん……」

ライアン「むぅ……流石フォー殿でござるな」ヨヨッ

マーニャ「ホントホント、偽善者にもホドがあるわよね~」

アリーナ「でもそこがフォーの良いところだよ!!」

ブライ「左様、あのやさしさ、正義の心こそがフォー殿の勇者たる所以でしょう」

クリフト「くぅ……私涙が……」ウゥ

ミネア「……って皆さんいたんですか!?」ギョッ

マーニャ「うん、なんだか面白そうだなぁって思って」ニヒッ

ライアン「決戦前にこうしてフォー殿のお気持ちを知ることができて良かったでござる」ウンウン

アリーナ「何があってもあたし達はフォーについていこうね、あたし達の信頼するリーダーにさっ♪」ニコッ

ミネア「えぇ……あれ?ところでトルネコさんは?」

マーニャ「あのオッサンはいびきかいて寝てるよ」

――――第四の世界・八日目・魔界・結界の祠
ライアン「むぅん!!!!!!」

ギガデーモン「はぁあ!!!!!!」

ガッ!!

ブワァッ

フォー「ブライ!!勇者にバイキルトを!!」

ブライ「はっ」

ブライ『バイキルト』!!

勇者(デカい棍棒振り回す巨体……典型的な力自慢タイプか……)ダッ

フォー「勇者、わかってるな?」

勇者「あぁ!!」

フォー「足元から!!」

勇者「切り崩す!!」

ズバズバン!!

ギガデーモン「がっ!?」

勇者『ライデイン』!!

フォー『ギガデイン』!!

ズガーーーーン!!

バリバリバリバリ!!

ギガデーモン「ぐあぁぁ!!」

フォー「ブライ!!たたみかけろ!!」

ブライ「えぇ!!」

ブライ『マヒャド』!!

ビュウウゥゥゥ!!

ガキーン!!

ギガデーモン「ぐっ……!!」

ライアン「もらったでござる!!」ブンッ

ズバアァン!!

ギガデーモン「……ぐふぅっ……」

ズズーン……

フォー「俺の教えたことがだいぶ身についてるみたいだな、勇者」

ブライ「見事な連携でしたな」

勇者「へへっ、伊達に寝る度にゲンコツで起こされてねぇっての」エヘン

フォー「そこは威張れるとこじゃないっての」ハァ

ギガデーモン「……ゼェ……ヒュゥ……」

ライアン「む、こやつまだ息があったか」チャキ

フォー「だが虫の息だ、トドメを刺すこともないだろう」

ギガデーモン「ぐ……うぅ……ピサロ様に栄光を……」

ブライ「……ピサロめはよほど部下から信頼されておるのですな、敵ながらそのカリスマ性には感嘆します」

フォー「……あぁ、そうだな……」

フォー「……ここの結界の柱は壊れた、行こうか……」

ギガデーモン「ピサ……ロ様に……栄光……を」

――――第四の世界・九日目
勇者「…………」

クリフト「そうです、私の魔力の波長に回復呪文を同調させて……」

勇者『ベホマ』!!

パアァ

クリフト「うん、上出来です」ニコッ

ミネア「えぇ」ニコッ

勇者「よっしゃ!!」ガッツ

勇者「ありがとう、クリフトとミネアのおかげで回復呪文に関しては随分と上達したよ♪」

ミネア「いえ、勇者さんの努力の賜物です」

クリフト「そうですね、勇者さんは才能がありますよ」

勇者「いやいやぁ」テレッ

ミネア「あ、そうだ。せっかくですから勇者さんのこと占って差し上げましょうか?」

勇者「え?ホント!?」

クリフト「ミネアさんの占いは怖いくらいに当たりますよ~」笑

勇者「なんだか楽しみだな」

ミネア「えぇ、う~ん……タロットより水晶占いの方がいいかしら」

ミネア「ではいきますよ?」

勇者「う、うん」

ミネア「…………」

ボワァ…

ミネア「これは……蛇?」

勇者・クリフト「蛇?」

ミネア「……蛇の隣に……鉱石?金属の欠片でしょうか?……それが三つと……青い宝石が1つ……」

勇者「???」

ミネア「蛇がそれらを食べて……龍になりました……」

ミネア「占いによるとその龍が勇者さんに大きな力を与えてくれるみたいですが……」

勇者「なんだかよくわかんないな~」

クリフト「私にもさっぱり」

フッ

ミネア「う~ん、そうですね……。占いは人の道を指し示すものです、この占いで見えたことがいつか勇者さんのお役に立つかもしれません」

勇者「そうだな、サンキューミネア。覚えとくよ♪」

アリーナ「あ、勇者見っけ!!」

勇者「アリーナ!!」ビクッ

アリーナ「ちょうどクリフトとミネアの回復呪文講座は終わったみたいね」

クリフト「はい」

アリーナ「じゃあ暇でしょ?わたしと組手しましょ♪」

勇者「え、えーと……この後はブライとマーニャの攻撃魔法講座があるから……その……」アセアセ

アリーナ「えーーーつまんなーい」

トルネコ「あれ?ブライさんとマーニャさんはフォーさんと一緒に最後の結界の柱付近の散策に行ったんじゃ……?」

勇者「ばっ!!」

勇者(空気読めよオッサンーーー!!)

アリーナ「じゃあ大丈夫だね」ニコッ

アリーナ「いくよーー!!」

勇者「ちょ、待っ」

アリーナ「わたしのこの手が真っ赤に燃える!!」

アリーナ「勝利を掴めと轟き叫ぶゥ!!」

カアアァァァ!!

勇者「ア、アリーナさん!?拳が光っちゃってますよ!?」

アリーナ「流派、サントハイム不敗最終奥義!!!!」

アリーナ『石破天驚拳』!!!!!!

カッ!!

ズアオッ!!

勇者「ぎゃーーー!!」

勇者「」ピクピク

アリーナ「あちゃー、これ手加減難しいのよね~」

アリーナ「クリフトー」

クリフト「はっ、只今!!」

クリフト『ベホマ』!!

パアァ

勇者「ハッ!?」ガバッ

アリーナ「さぁ!!第73回戦だよ!!……あれ74回戦?まぁいいや、次いっくよー!!」

フォー「ただい……って、アイツら何してんだ?」

マーニャ「さぁ?」

勇者「勘弁してくれぇー!!」ダダダッ

アリーナ「コラー!!師匠から逃げるんじゃなーい!!」ダダダッ

ミネア「勇者さん……不憫です」

――――第四の世界・十日目・結界の塔
フォー「これが最後の結界の柱だな」

アリーナ「でもなんでここだけ塔なんだろうね?他は小さな祠だったのに……」

クリフト「ここの魔物は別格、ということじゃないでしょうか?」

勇者「心して進もうぜ」グッ

――――結界の塔・最上階
???「今までお世話になりました」

エビルプリースト「ふははは、なに、気にすることではない。勇者一行が来るまでの良い暇潰しになったわ」

???「私も"デス"ピサロをこの目で見て進化の秘法の凄まじさを実感致しました」

エビルプリースト「真の完成まであと少し……その時こそが私が新たな魔王となるのだ!!……む?」

???「いかがなさいました?」

エビルプリースト「ようやく来おったか……」ククク

???「勇者達がですか?」

エビルプリースト「うむ」

???「そうですか……そろそろ時間ですし勇者達と事を構えるのは好ましくありません。私は失礼させていただきます」

エビルプリースト「そうか、達者でな」

???「はい、エビルプリースト様も……」フッ

エビルプリースト「……行ったか」

エビルプリースト(奴の秘めたる強大な魔力……私でさえ恐気がした……まさかあのような者がいようとはな……)

ザッ!!

フォー「お前が最後の結界の柱か」チャッ

エビルプリースト「"最後"……それは相対的な順序によるもので私達結界の柱に順番などないが……まぁいい。いかにも、私が最後の柱、エビルプリーストだ。よくぞここまでたどり着いたな」

アリーナ「……コイツ……できるね」サッ

勇者「先に言っとくけどコイツにはザキは効かないからな?」チャッ

クリフト「わ、わかってますよ」サッ

エビルプリースト「……? 見慣れない小僧がいるな」

エビルプリースト「……なるほど、貴様が部下から報告のあった勇者達の新たな仲間か」

勇者「まぁそんなところだな」

エビルプリースト「フフフ……このような者達に手を貸したりしなければ楽に余生を過ごすことができたものを……自ら絶望の中で生き絶えることを望むとは……とんだ愚か者よ」ククク

勇者「まったく……なんで悪人ってのは話が長いかな……」

アリーナ「まったくね」

クリフト「えぇ、教会のお偉い様の話よりつまらないです」

フォー「神官がそんなこと言っていいのかよ」ククッ

勇者「さて、じゃあ……」

フォー「いくぞっ!!」ドンッ

――――
フォー『ギガデイン』!!

ズガーン!!

バリバリバリ

エビルプリースト「ぐぅ……」ヨロッ

アリーナ「そこぉ!!」シュビ

エビルプリースト「なめるなぁ!!」

ガッ

アリーナ「な!?しまった掴まれ……」

エビルプリースト「この至近距離なら爆死確実だな」ニッ

エビルプリースト『イオナ…』

勇者「せやぁ!!」

ゴッ!!

エビルプリースト「ぬ!?」

勇者「アリーナ!!今のうちに!!」

アリーナ「うん!!」ググッ

バッ

クルクルクル

スタッ

クリフト『ベホマ』!!

パアァァァ

アリーナ「ありがと、クリフト」

クリフト「いえ……しかしコイツ」ハァハァ

フォー「あぁ……強い!!」

エビルプリースト「流石魔界の帝王を倒しここまで来た伝説の勇者とその仲間達といったところか」ハァハァ

エビルプリースト「まさかここまでできるとは思わなかったぞ……」ハァハァ

エビルプリースト「だが貴様達はここで死ぬのだ、私が新たな魔界の王になる前の最後の雑務といったところか……」

勇者「『新たな魔界の王』?……どういうことだよ?」

エビルプリースト「フフフ……簡単なことだよ、魔界の王はその身を破壊の化身へと変えた……理性を失ったあの化物では魔族達を統率することはもはや不可能」

エビルプリースト「そうなれば新たな魔族の指導者が必要となるであろう……?」

フォー「お前にその役が務まるとは思えないけどな」

エビルプリースト「なに?」

フォー「ピサロは他の魔物や魔族達から絶大な信頼を受けている……もはや崇拝に近い」

フォー「そのカリスマ性がお前にはない、と言っているんだ」

エビルプリースト「フフフ……」

エビルプリースト「フハハハハハハハッ!!」

勇者「……何が可笑しいんだよ?自分の器の小ささを馬鹿にされたのががそんなに面白いのか?」

エビルプリースト「いや、失敬。あまりに"ピサロ"と奴を盲信する者達が哀れだったものでな」ククク

フォー「"ピサロ"……?」

エビルプリースト「私が魔族の王となることは以前から決まっていたことなのだよ」ククク

エビルプリースト「ピサロは言わば私が王の座に就くための踏み台だ」

エビルプリースト「魔族の王として他の魔族達を率い、そして悲劇の王として人間を憎み魔獣となる……その後釜に私はおさまる……」

エビルプリースト「"全て私の計画通り"というワケだ!!」

勇者「!?」

フォー「まさか……!!」

エビルプリースト「そう、貴様の想像通りだよ」ニタァ

エビルプリースト「ロザリーの隠れ家を人間に告げ、ロザリーを人間共に殺害させたのはこの私だ!!」

勇者・アリーナ・クリフト「!!」

エビルプリースト「まぁ人間共にはちょいと強力な催眠をかけて欲の感情を強くしておいたがな」ククク

エビルプリースト「あぁ、なんと可哀想なピサロとロザリー!!」ヨヨッ

エビルプリースト「だが私は君達の尊い犠牲を無駄にはしないよ……ククク……フフフフフ……フハハハハハハハッ!!」ゲラゲラ

フォー「許せない……」ビキッ

フォー「ピサロは……アイツはきっとロザリーと二人で静かに暮らしていければそれで幸せだったハズなのに……」グググッ

フォー「その心を憎しみに染めて……己の野望のために利用しただなんて……!!」

フォー・勇者・アリーナ・クリフト「絶ッ対に許せない!!!!」

勇者「だあぁ!!」ドンッ!!

ヒュッ!!

ズバァン!!

エビルプリースト「な!?どこにこんな力が」ヨロッ

勇者「せい!!てやぁ!!はぁ!!」

ズバッズババッ!!

エビルプリースト「ぐぅ……このぉ!!」

エビルプリースト『メラゾーマ』!!

ゴオオォォォ!!

勇者「ぐっ!!」

アリーナ「だぁ!!」

ドゴォッ!!

エビルプリースト「がふっ!!」

エビルプリースト「消し飛べ娘ぇ!!」

エビルプリースト『イオナズン』!!

カッ!!

ドゴーーーン!!

エビルプリースト「ハァ……ハァ……盾も持たない小娘がイオナズンを食らえばただでは済むまい……」

モクモク……

クリフト「えぇ、盾も持たない小娘でしたらね」ドン!!

エビルプリースト「!?」

クリフト「盾を持った男が全力でガードすればなんとか……」ヨロッ

エビルプリースト「まさか爆発の寸前に……」

ザッ!!

アリーナ「ナイス、クリフト!!」

エビルプリースト「!?」

アリーナ『まわしげり』!!

ゴッ!!

アリーナ『爆裂拳ッ』!!

ガガガガッ!!

アリーナ『捨て身ィ』!!

ドッガァーーン!!

エビルプリースト「ぐっはぁ!!」ガフッ

勇者『バギクロス』!!

ビュォオオオ!!

ズババババッ!!

エビルプリースト「ぐあぁ……!!」

勇者・アリーナ「うぉおおお!!」

エビルプリースト「図に……乗るなぁ!!」

ガガッ!!

勇者「ぐっ……!!」

アリーナ「くっ!!」

エビルプリースト「ハァ……ハァ……このまま人思いに握り潰してくれるわ……!!」ギュウゥ!!

アリーナ「う……ぅう!!」ミシミシ

エビルプリースト「フハハハ!!!!」

勇者「……ぎ……もう……」ボソッ

エビルプリースト「んん?せっかくの死に際の最後の台詞だが弱々しくて聞きとれんな?もう一度言ってくれんか?」ニマニマ

勇者「時間稼ぎは……」

勇者「時間稼ぎはもういいか!?フォー!!!!」

フォー「あぁ!!待たせたな!!」ドン!!

エビルプリースト「!?」

エビルプリースト「な……なんだそのいかずちの剣は……!!」

フォー「この一太刀は……ピサロの怒りだああぁぁぁ!!」

エビルプリースト「やめ……」

フォー『ギガソードォォォ』!!!!!!

カッッッ!!!!!!

ズバァァァァン!!

エビルプリースト「……ば、馬鹿な……」

ブシャアアァァ!!

エビルプリースト「魔界の王たる私がこんな……もう少しで進化の秘宝が……」ガフッ

ドサァッ

エビルプリースト「」

勇者「終わった……な」ハァハァ

フォー「いや、まだ肝心な奴が残ってるさ……」キン

フォー「ピサロを憎しみから解放した時が本当の終わりだ……」

アリーナ「……ピサロ」

クリフト「…………神よ……哀れな魔族の王は破滅によってしか救われないのでしょうか……?」

――――
エビルプリースト「」

使い魔a「おい、エビルプリースト様死んじまったぞ!?」ヒソヒソ

エビルプリースト「」ピク

使い魔b「……いや、まだ息があるようだ!!急いで治療すればまだ間に合う!!」

使い魔a「こうしちゃいられない、早く運ぶぞ!!」

――――魔界・フォー一行のキャンプ
ライアン「……そんなことがあったのでござるか……」

ミネア「部下に踊らされて憎悪の塊となってしまったなんて……ピサロ……敵ながら憐れとしか言い様がありませんね……」

フォー「でも……アイツにどんな事情があるにせよ、人々を、世界を壊すことを許すワケにはいかない」

フォー「だから俺は闘うよ、ピサロのためにも」グッ

ブライ「フォー殿……」

勇者「フォーらしいな、やっぱりどこの世界でも『勇者』は『勇者』……だな」ニッ

キラキラキラ……

勇者「あ……」

フォー「勇者……?」

アリーナ「わー!!勇者光ってるよ!!どうしたの!?」

勇者「いや……その……お別れの時間なんだ」

アリーナ「……えっ?」

ライアン「!!……そうでござるか……」

勇者「みんな、今までありがとうな、短い間だったけどすごく楽しくてすごく充実した時間が過ごせたよ」

フォー「勇者……君がいてくれたおかげで魔界攻略が随分はかどったよ」

フォー「ありがとう」

勇者「いやいや、俺の修行のために裂いてくれた時間がなかったらもっと早く結界を破れただろ?」

勇者「お礼を言うなら俺の方だよ」

ライアン「勇者殿、『弱きを助け、悪しきを断つ』……バトランド騎士団の信条でござる。勇者殿に誇り高き騎士の精神が宿らんことを……」ペコッ

勇者「ライアン……剣だけじゃなくてアンタには騎士道精神、しっかり教えてもらったよ」

アリーナ「勇者、暇な時とか修行の合間とかに組み手してくれてありがとうね。結局私の99戦全勝だったけど……勇者はセンスあると思うよ、またやろうねっ」

勇者「アリーナ……うん、その時はぎゃふんと言わせてやるからな?」

勇者(ホントは御免こうむりたいけど……)ハハッ

ブライ「呪文は精神に大きく左右される。いつも冷静に、心を乱さないことを心がけなされよ」

勇者「ブライ爺さん……呪文の稽古つけてくれてありがとうな、バギクロスとベギラゴンが使えるようになったのはブライ爺さんのおかげだよ」

クリフト「勇者さんはお一人で魔族達と闘うのでしょうからご自分の魔力の波動のパターンをしっかり理解なさって下さいね」

勇者「クリフト……うん、回復呪文の指南役本当にありがとう。ベホマが使えるようになったのは本当に大きいよ」ニカッ

マーニャ「勇者……あの夜の激しいあなた……あたし忘れないわ」ウル

勇者「マーニャ……わけがわからないよ」

ミネア「姉さん……場の空気壊さないで下さい!!」ビシッ

マーニャ「ナハハ、いや~あたし昔から湿っぽいのは嫌いでさ~」

ミネア「……まったく……勇者さん、お身体にお気をつけて」ペコッ

勇者「うん……ミネアの占いがいつどこで役立つかわからないけど、胸に刻んでおくよ」

トルネコ「…………」

勇者「…………」

トルネコ「…………」

勇者「い、色々ありがとな!!トラネコ!!」

トルネコ「やっぱり私何もしてませんよね!?ねぇ!?むしろオチが私の仕事ですか!?なんで私っていつもこんな仕打ちなんですか!!??」ブワッ

勇者「トラネコ……」

トラネコ「いやトルネコですから!!……ってなんでトラネコ表記になってるんですか!?ちょっとーー!!」ブワワッ

キラキラキラ……

フォー「元気でな、勇者」

勇者「うん、色々と教えてくれてありがとな」

フォー「三歩歩いて忘れたんじゃ大ニワトリ以下だからな?ちゃんと反復して知識を定着させろよ?」

勇者「アハハ、そうだな」苦笑

勇者「あとさ……俺と同じ境遇のフォーと出会えて良かったよ」

フォー「そっか……うん、俺もだ」

キラキラキラ……

フォー「……で?」

勇者「ん?」

フォー「俺と同じ境遇のお前はどんな結論に達したんだ?どんな想いで闘うんだ?」

勇者「んっと……正直わからない」

勇者「俺は世界のことも、魔族のことも、てんでわかっちゃいないからさ……まだフォーみたいにしっかりとした意志はない……」

フォー「……」

勇者「だけど一つだけ分かったことがある」

フォー「……それは?」

勇者「恐怖し悲しみ絶望して涙を流す人々がいたら、その涙が流れないようにするのが俺の役目だ、ってこと」

フォー「フッ……それがわかれば上出来だな」ニッ

勇者「きっとフォーもそう思ってピサロと闘う決意をしたんだろ?」

フォー「……あぁ」

キラキラキラ……

勇者「憎しみのためじゃなく、復讐のためじゃなく、俺はそのことを胸に闘うよ」

フォー「じゃあ俺もそのために闘おう……ここに誓おう」

アリーナ・マーニャ「穢れた綺麗事に懸けてってね♪」

勇者「あれ?なんでその話を!?」

フォー「さてはお前ら……!!」

トルネコ「え?なんの話ですかな?」

一同「アハハハハハハハハ」

キラキラキラ……

フォー「じゃあな、勇者」

勇者「うん」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

アリーナ「はぁ~、行っちゃったね~」シミジミ

ライアン「あっという間でござったなぁ……」

フォー「……勇者には勇者のすべきことがあるように、俺達にもすべきことがある……準備ができたらピサロの城へ向かうとしようか」

トルネコ「いよいよ進化の秘宝を使ったピサロとの決戦ですね」ゴクッ

フォー「あぁ、二、三日中には世界の命運を賭けた戦いの火蓋が切られる……みんな覚悟はいいか?」

ミネア「……そのことですがフォーさん」

マーニャ「ちょっとあたし達で考えたことがあんのよね~」

ミネア「先程のピサロの真実を聞いて一層強く思ったのですが……」

フォー「……?」

ブライ「ピサロを倒すのではなく、何か別の方法で世界を救ってみようではありませんか」ニッ

ミネア「世界中を旅してきた私達ですが、まだまだ知らないような神秘や奇跡がこの世界には満ちているでしょう」

アリーナ「そーゆー奇跡を探しに行かない?勿論時間はあんまりないだろうけど、それでもやってみようよ!!」

ライアン「フォー殿もさっきご自分で『涙を流している人の涙を止めるのが自分の役目』と言ったでござろう?」

クリフト「きっとピサロの魂も泣いていると思うのです……だから……」

フォー「お前ら……」

アリーナ「……どうかな?私達みんなで話し合ったんだけど……ダメ……かな?」

フォー「ハハッ……ダメなもんか」

フォー「化物と化した魔族の王を人間風情が倒して世界を救うなんて奇跡を起こそうなんて馬鹿なこと考えてるのが俺達だ、だったら馬鹿は馬鹿らしくもっとすごい奇跡を狙ってみるのもいいだろう!!」ニカッ

ミネア「じゃあ……」

マーニャ「決まり……ねっ♪」

フォー「闘わずにピサロを救って世界を救う……その方法を探しに行こう!!」

一同「おーーー!!」

トルネコ(……そして私だけ仲間外れなんですね、わかります)シクシク

――――星の海
ルビス『おかえりなさい……勇者』

勇者「ただいま……今度の勇者には戦闘や魔物の知識を教えてもらったよ」

ルビス『……なんだか逞しくなっていきますね、勇者』

勇者「そ、そうかな?」

ルビス『えぇ……十日おきに貴方がここに帰ってくる度に私はそう思います』

勇者「はは、ありがと」

ルビス『さぁ、次の世界へいざなうまでお休みなさい……』

勇者「……うん、おやす……って、あ!!」

ルビス『どうかしましたか?』

勇者「ルビスお前!!毎回毎回あれはわざとなのか!?」

ルビス『ぇえっと……なにがでしょうか?』

勇者「とぼけんな!!違う世界に俺のこと飛ばす時だよ!!」

勇者「毎回毎回高いとこから落とされて地面に頭ぶつけるしさ、前回なんて下が川で死ぬかと思ったんだぞ!?」ムカッ

ルビス『そ、そうですか……しかし別次元への生命体の転送というものは高度な技術と膨大な魔力を要するものでして……』

勇者「知るか!!今度からそーっと転移させてくれよ!?」

ルビス『はぁ……善処します』シュン

勇者「あー、やっと言えた~」

勇者「これで心置きなく寝れるぜ、んじゃおやすみ~」

勇者「zzzz」

――――第五の世界
パッ

勇者「おっ?」

フワッ

スー……

ストン

勇者「おー!なんだ、やればできるじゃないか♪」

勇者「うーん、清々しい朝だな~、絶好の勇者捜索日和だな♪」

???「ガオォ!!」

???「わー!!」

???「きゃー!!」

勇者「!? 悲鳴!?」ダッ

キラーパンサー「ガウゥ……」ジリジリ

???「うわーっ」

ガサッ

勇者「なっ!?」

勇者「子供達がキラーパンサーに襲われてる!?」

キラーパンサー「ガウガァ!!」バッ

勇者「危ない!!」ダンッ

???「!?」

サッ

キラーパンサー「ガゥ?」スカッ

スタッ

勇者「大丈夫だったかい?」ニコッ

???「あ、レックスお兄ちゃんずるいー!!」ブー

レックス「誤解だよタバサ!!ぼくは悪くないよ!!このお兄ちゃんがいきなり飛び出してきたのがいけないんだよ」ブー

勇者「え?俺ぇ?」

レックス「うん」

勇者「でも俺が来なかったらお前はキラーパンサーに食べられてたかもしれないんだぞ!?」

タバサ「ゲレゲレはそんなことしないです」

レックス「ぼくたち鬼ごっこしてただけだもん。ねー、ゲレゲレ」

キラーパンサー「クゥン……」

勇者「……は、はぁ?」

――――
勇者「へぇ~、ホントによくなついてるんだなぁ」

タバサ「はい♪」ナデナデ

ゲレゲレ「ゴロゴロ……」

レックス「ゲレゲレはお父さんが子供の頃からずっとお父さんと友達だったんだって」

勇者「へぇ……"地獄の殺し屋"なんて言われてるキラーパンサーがこんなに人になつくなんて聞いたことないや」

レックス「ゲレゲレだけじゃないよ、お父さんはたっくさんの魔物たちと友達なんだ♪」

勇者(モンスター使い……魔物を改心させることのできる存在か、もしかしてこの子達の父親って……)

ガサッ

???「お、いたいた」

レックス・タバサ「あ、お父さん!!」

???「レックス、タバサ、こんなところにいたのかい?……まったく、元気なのはいいけど元気すぎるというのも……?」

???「そちらの方は……?」

勇者「黒髪で紫のターバンに紫のマント!!五番目の勇者だ!!」

???「勇者?勇者は私ではなく……」

レックス「勇者は僕だよ!!」

勇者「え?あぁ、そうか、たしかにそうなんだけど……村の伝承じゃレックスのお父さんが勇者で……」

???・レックス・タバサ「???」

――――グランバニア・玉座の間
レックス「すごーい!!じゃあお兄ちゃんは色んな世界の色んな勇者に会う旅をしてるんだね!?」キラキラ

???「うん……そうだよね、勇者?」

勇者「あぁ」

レックス「かっこいー♪」キラキラ

タバサ「ロマンチックです」キラキラ

勇者「そ、そう?」フフン

???「さて、勇者の自己紹介は済んだことだしこっちの自己紹介でもしようかな」

???「私はファイブ。このグランバニアの王だ。今は魔界の王、ミルドラースを倒すために旅をしている」

勇者「よろしく、ファイブ」

ファイブ「この二人が私の双子の子供のレックスとタバサ」

レックス「よろしくね、お兄ちゃん」

タバサ「よろしくお願いします」ペコッ

勇者「うん、よろしくな」

ファイブ「こっちは私の妻の……グランバニア王妃ビアンカ」

ビアンカ「ただの宿屋の娘で王妃様ってガラじゃないんだけどね、よろしくね勇者君」ニコッ

勇者「よ、よろしくお願いします」

勇者(綺麗な人だなぁ……)ポワァー

ファイブ「……コホン」

勇者「!!」ドキッ

ファイブ「それと……グランバニアに代々仕える召し使いのサンチョ」

サンチョ「よろしくお願いします、勇者さん」

勇者「よろしく」

勇者(……なんかこの人トルネコに似てるな……)

サンチョ「どうかなさいました?」

勇者「あ、いや、なんでもない」

勇者(多分関係ないだろ)

勇者「……でもみんな俺が別の世界の人間だなんて信じられるの……?」

ビアンカ「たしかに正直言ってびっくりしたし信じられない気持ちもあるわ。でも……」

レックス「お兄ちゃんは嘘なんかついてないよ!!」

タバサ「勇者さんは優しい人だからきっと本当の事を言ってると思うの……」

ビアンカ「子供達もこう言ってるし私は信じるわ。それに勇者君そんな嘘をつくような子には見えないし」ニコ

サンチョ「そういうことですね」ニコ

勇者「……ありがとう」

ファイブ「さて、この世界での修行だが……魔物の心を理解できるようになろうか」

勇者「!?」

ビアンカ「え?でもファイブ……あなたが魔物を改心させることができるのはエルヘブンの民の血を色濃く受け継いだお母様の子供だからでしょ?」

ビアンカ「あなたの血を引くレックスやタバサでさえ魔物と仲良くなることはできても改心させることはできないし……」

ファイブ「うん、確かに魔物を改心させることができるのは母さんと僕ぐらいだろう」

ファイブ「けれど誰でも訓練すれば魔物の心を理解すること……つまり『魔物の動きを読む』ことはできるんようになれるんだよ」

ビアンカ「そうなの?」

ファイブ「あぁ、魔物の動きを目で追うんじゃなくて魔物が持つ魔力を感じとるんだ」

レックス「……?」

タバサ「それってわたしとお兄ちゃんが魔物さんとお話できることと関係あるの?」

ファイブ「あぁ、レックスとタバサは僕の子供達だから訓練なんてしなくてもなんとなくできてしまっているみたいだけどね」

勇者「へ~……なんだかすごそうだな」

ファイブ「第六感って言うのかな。極端な話この力を扱いこなすことができたら目を瞑ったって魔物と闘えるようになるよ」

勇者「ぉおー!!某有名バトル漫画の『気』みたいだな!!」

ファイブ「それは突っ込んじゃいけないところだ」苦笑

勇者「で!?何したらいいんだ!?」ワクワク

ファイブ「うん、じゃあまずは妖精の世界へ行こうか」

――――妖精の世界・妖精の村・ポワンの館
ベラ「はぁ~今日も良い天気ね~」

ベラ「だけど」

ベラ「つまんなーい」ゴロゴロ

ルナ「ハァ……行儀が悪いわよ、ベラ。ポワン様が見たらなんと言うか」

ルナ「それに世界がミルドラースの手に落ちようとしているのに不謹慎よ」

ベラ「だって~」ゴロゴロ

ルナ「……ん?あれは……」

ベラ「ん?」ヒョコ

ベラ「あ!!ファイブじゃない!!」

――――妖精の村・入口付近
勇者「ここってなんだかポカポカしてるなぁ~風も水も暖かいし」

ビアンカ「えぇ、素敵なところよね」

ファイブ「昔は雪と氷だらけでいつまでも春が来なかった時もあったんだよ?」

勇者「ここがか!?」

レックス「でも子供の頃のお父さんが妖精さん達の世界を救ってあげたんだよ♪」

勇者「へぇ~」

ベラ「ファイブー!!」タッタッタ

ファイブ「やぁ、ベラ」

タバサ「ベラさんっ」

ベラ「ようこそ、妖精の村へ……?」

勇者「妖精って初めて見るなぁ~、あんまり人間と変わらないんだな」ジー

ベラ「? 見ない顔ね」

ファイブ「うん、彼のことで来たんだ。ポワン様はいるかな?」

――――妖精の村・ポワンの館
ポワン「ようこそいらっしゃいましたファイブ」

ファイブ「お久しぶりです」ペコッ

ポワン「心の目であなたのことを見ていたので概ね事情は解っています。その者に魔力を知覚する術を習得させたいのですね?」

ファイブ「えぇ」

ポワン「勇者……私の目をよく見て下さい」

勇者「あ、はい」ジー

ポワン「……」ジー

勇者「……?」ジー

ポワン「なるほど、たしかに素質があるようですね」

ポワン「勇者がこの村に滞在することを許可しましょう……この妖精の村は人と魔物と妖精が互いに手をとりあって暮らすことを目指す村、貴方の滞在を歓迎しますよ」ニコリ

勇者「あ、ありがとうございます……」

勇者「でもさっぱり話が見えないんだけど……妖精の世界で過ごすとその魔力を知覚する術とやらが身につくのか?」

ファイブ「あぁ、妖精の世界は不思議な魔力で満たされていてね、ここで過ごしていれば自然と魔力知覚ができるようになる」

ファイブ「加えて君は素質がある。瞑想などの修行で常人より遥かに早く魔力知覚を習得することができるだろう」

ポワン「ファイブが魔物を改心させて仲間にできるのもエルヘブンの民の血だけでなく幼い頃にこの世界を訪れたことも関係しているのです」

勇者「へぇ~」

ファイブ「世界各地のモンスター爺さん達が魔物と心を通わせることができるのも、みんな子供の頃に私のように妖精の世界に来たことのある人達だかららしいよ」

レックス「えー!?そうだったんだ!!」

ビアンカ「あのお爺ちゃん達にそんな秘密がねぇ~」ヘェ

ファイブ「……と、言うワケで勇者には妖精の村で修行してもらうよ。修行については基本的に私が見ようと思うけれど、グランバニアで王としてやるべき仕事をしながらになるからいつもこちらにいることはできないな」

ビアンカ「じゃあ私はファイブのお手伝いね」

レックス「ねーねーお父さん、ぼくたちは?」

ファイブ「ん~、じゃあレックスとタバサは勇者の修行に付き合ってあげてくれないかな?」

レックス「やったー♪」

タバサ「わかりました」

勇者「よろしくな、二人とも♪」

――――魔界・エビルマウンテン最深部
ミルドラース「…………」

ミルドラース「……誰だ?」ギロリ

コツコツコツ……

???「気配を消して近づいてもお気付きになるとは……流石魔界の王と称されるミルドラース様、お見逸れ致しました」ペコリ

ミルドラース「ほぅ……私を魔界の王にして王の中の王、ミルドラースと知っていてここに来るか」

???「えぇ、生物の究極の力を求め進化の秘法の存在にたどり着き、神の怒りを買い魔界へと封ぜられし元人間の男……よく存じております」

ミルドラース「昔のことよ……今や私は神をも凌駕する力を手に入れた。マスタードラゴンへの復讐を遂げ地上を我が物とするのも時間の問題だ」グッ

???「誠にその通りでございますね」

ミルドラース「……して、そなたは何故私の元に来た?その内に秘めしどす黒い魔力……神の使者でないことはわかるが……私の首でも獲って新たな魔界の王にでもなりに来たか?」ニヤ

???「フフフ、それもまた一興ですね。しかし私は別の目的で貴方の元を訪れたのです……」

ミルドラース「……?」

???「貴方から進化の秘法の理を知るために」ニッ

――――第五の世界・二日目・妖精の村
レックス「はい、ゲレゲレご飯だよ」

ゲレゲレ「ゴロゴロ……」ガツガツ

タバサ「ロビンも油注してあげるね」

キラーマシン「アリガトウゴザイマス……」プシュー

勇者「…………」ゴシゴシ

ゴーレム「…………」

勇者「……………………」ゴシゴシ

ゴーレム「……………………」

勇者「……だぁ!!」バシィ

勇者「なんで修行が魔物の世話なんだよ!?」バンバン

ゴーレム「……イタイ……」

ベラ「ファイブも言ってたけど魔物の持つ魔力を知覚できるようになろうとしてるんだから良い魔物と心を通わせられなくてどうするの」

ベラ「とは言えファイブの仲間の魔物達は沢山いるから全部世話してたら結構ハードね……ファイブもなんだかんだスパルタなのかしら?……あ、世話が一段落したらファイブが瞑想に付き合うから早いとこ片付けなきゃね」

勇者「ぐぬぅ……!!」ゴシゴシ

ゴーレム「…………」

レックス「お兄ちゃん、ゴレムスの体洗い終わったら次はキングスにご飯あげてね」

勇者「わあーってるわ!!」ゴシゴシ!!

――――
勇者「…………」シーン

ファイブ「基本は呪文を使う時と同じだよ」

勇者「…………」

ファイブ「世界に満ちる魔力を感じとる様に、今度は人や動物、魔物達が持つ魔力を感じとるんだ」

勇者「…………」

ファイブ「……どう?」

勇者「……ふぅ、やっぱすぐにはわかんないや」

ファイブ「まぁそうだろうね」

勇者「人や動物、魔物の持つ魔力ってさ、回復呪文を使う時の魔力の波長のこと?」

ファイブ「?」

勇者「前に回復呪文を教えてくれた先生が『回復呪文を使う時は自分の魔力を相手の魔力の波長に同調させると効果が高い』って言っててさ」

ファイブ「!!」

勇者「回復する相手の魔力の波長を感じとる修行をしてたんだけど……」

ファイブ「それだよ!!」

勇者「っつてもまだ短い距離でしか魔力を感じることはできないんだけどな」ハハッ

ファイブ「でもその感覚をもっと広い範囲に拡げていけばいいんだ」

ファイブ「君の先生達は優秀な人達ばかりみたいだね」

勇者「へぇ~……」

勇者(ミネアとクリフトに感謝しなくちゃな♪)

――――二日目・妖精の村・夜
ビアンカ「は~い、ご飯できたわよ~」

勇者・レックス「いっただっきまーーす!!」ガバッ

ガツガツガツ

タバサ「二人ともそんなにがっつかなくても……」

勇者「うめぇーーー!!」

ビアンカ「ふふ、ありがとっ」

レックス「もはあはんはほっへほほーひはほーふはんはお(お母さんはとっても料理が上手なんだよ)」モゴモゴ

ファイブ「こら、レックス、口に物を入れたまま喋らない」

レックス「はーい」モグモグ

ビアンカ「調子はどうなの?」

勇者「ん~まずまずかな」

勇者「魔力の知覚ってやつ?前の世界で回復呪文の修行を受けてたのが役に立ったみたいでさ、大体半径3mぐらいまでならそこにいる生き物の"存在"を知覚できるようになったよ」

ビアンカ「へぇ~じゃあ順調なんじゃない?」

勇者「でも動きを読むなんてまだまだできないなぁ」ポリポリ

ファイブ「二日でここまでできるようになればたいしたものだよ」ニコ

ファイブ「瞑想で魔力知覚の範囲を拡げ、魔物の世話で心を通わせれば次第に動きも読めるようになるさ」

勇者「りょーかい」

レックス・タバサ「ごちそうさまでした!!」

ビアンカ「ほら、レックス口が汚れてるわよ」

レックス「へ?」

タバサ「お兄ちゃんだらしない……」

ビアンカ「まったくもう……誰に似たのかしら?」フキフキ

ファイブ「僕は君じゃないかなと思うけどな」フフッ

ビアンカ「そういうセリフは口のまわりについたご飯粒をとってから言って欲しいわね」クスッ

ファイブ「へ?」

一同「アハハハハハ」

勇者「親子で仲が良いんだなぁ」

ビアンカ「そうね、大切な家族ですもの」

タバサ「……わたしとレックスは生まれたばかりの頃にお父さんとお母さんと離れ離れになってずーっと会えない日が続いたんです」

タバサ「だからお父さんとお母さんと一緒にこうしていられる今がすごく幸せ……」

レックス「ぼくも!!」

ファイブ「それはお父さんもお母さんも一緒さ、ね?」

ビアンカ「そうよ」ニコッ ナデナデ

タバサ「えへへ~♪」

レックス「お兄ちゃんのお父さんとお母さんはどんな人たちだったの?」

勇者「え?う~ん……あんまり覚えてないんだ」

勇者「父さんも母さんも俺が小さい頃に病気で死んじゃってさ、物心ついた頃からずっとじいちゃんに育てられてたから……」

レックス「あ……ごめんなさい、聞いちゃいけないことだったね……」

勇者「気にすんな、父さんと母さんが死んだのはあんまり昔のことだから悲しくないし俺にはじいちゃんって家族がいたからな、村のみんなも優しかったしな」

タバサ「…………」

ビアンカ「さ、ご飯が済んだら早く寝なさい」

レックス「は~い」テクテク

ビアンカ「ちゃんと歯磨きするのよ」

タバサ「はいっ」テクテク

ファイブ「おやすみ、レックス、タバサ」

レックス「おやすみなさ~い」

勇者「おやすみ」

タバサ「おやすみなさい」

バタン

勇者「…………」

ファイブ「……どうかしたかい?」

勇者「……いや、なんつーか」

勇者「家族っていいもんだな~、って思ってさ」

勇者「俺の父さんと母さんが生きてたら……こうして一緒にご飯食べたりたまに喧嘩したり……でも笑いあって……そんな風に過ごせていたのかな……って」

ビアンカ「……」

勇者「……っと、らしくないな、何言ってんだろ俺」苦笑

ファイブ「……」

勇者「なぁファイブ……俺、村の伝承でファイブのことも少しは知ってるんだけど……」

ファイブ「うん……」

勇者「その……さ、生きることに絶望したりしなったりしなかったのか?」

勇者「お父さんを目の前で殺されて……子供の頃からずっと奴隷として扱われてきて……自由の身になって結婚して幸せな日々を過ごせると思ったら子供達の成長を見守ることもできずに夫婦で石にされて離れ離れ……」

勇者「石から元に戻ってやっとお母さんに会えたのにそのお母さんも目の前で殺されちゃうなんて…………俺だったら耐えられないよ」

ビアンカ「…………」

勇者「じいちゃんが勇者の伝承の話を聞かせてくれる度に、五番目の勇者の話……ファイブの話を聞くといつも不思議に思ってたんだ」

勇者「……どうしてそんなに強いんだ?」

ファイブ「…………」

ファイブ「……私は強くなんてないよ」

ファイブ「つらいことや悲しいことがある度に涙を流しては『どうして自分ばかりが』って人生を呪ってばかりさ」

ファイブ「……でもこうして今を……未来を目指して生きていられるのはきっと失ったものを数えずに得たものを、得られるものを数えようとしているからだと思う」

ファイブ「……私が奴隷として生きてきた十年……あそこでの生活は本当に酷いものだった」

ファイブ「毎日過酷な労働を強いられ、作業が遅れれば鞭を打たれ、看守の機嫌が悪いだけで殴られる……人間として扱われていなかった……死んだ方がマシだ、って何度も思ったよ」

勇者「…………」

ファイブ「でも私は生きることを諦めなかった」

ファイブ「母が生きているという父の最後の言葉を胸に、父の遺志を継ぎ母に会おうと、そのために生きていこうとね」

ファイブ「子供達と離れ離れになってビアンカと石にされた時もそうさ、今はビアンカや子供達に会えなくても……いつか、いつかこの石化の呪いが解けたら子供達に会えるんじゃないか、ビアンカに会えるんじゃないか……って」

勇者「…………」

ファイブ「母を亡くした時も……悲しくて虚しくてやりきれない思いだったけれど……私にはまだ家族がいる。ビアンカやレックスやタバサ……グランバニアのみんなが」

ファイブ「みんなのために、みんなとこれからの日々のために生きようと思った。だから今もこうして未来を目指して生きているんだと思う……」

ビアンカ「…………」

ファイブ「まぁ言い方を変えたらただのプラス思考でしかないんだろうけどね」ハハッ

勇者「……いや、そう思えるってやっぱりファイブは強い人なんだと思うよ」

勇者「……はぁー、やっぱ勇者達はみんなすごいな……俺もみんなみたいな素晴らしい勇者になりたいもんだ」

ビアンカ「勇者君ならきっとなれるわよ」

ファイブ「あぁ」

勇者「ありがとう」

勇者「さてと、んじゃ明日も早いし今日はボチボチ寝るわ、おやすみ~」

ファイブ「おやすみ」

ビアンカ「おやすみなさい」

バタン

ビアンカ「……ねぇファイブ?」

ファイブ「ん?」

ビアンカ「勇者君……なんだか淋しそう……」

ビアンカ「明るく振る舞ってはいるけど心のどこかでは孤独を感じているって言うか……」

ファイブ「僕もそう思うよ……」

ビアンカ「だからさ、私達が勇者君の家族になってあげない?」

ビアンカ「勇者君がこの世界にいる間だけでいいからさ、私達で勇者君の心を温めてあげましょうよ」

ファイブ「……でもすぐに別れの日が来る。その時はまた勇者は一人だ……それが現実だ」

ビアンカ「…………」

ファイブ「そうは言っても僕は君に賛成だよ。勇者がまた一人になっても僕達と過した時間はいつまでも勇者の心に刻まれる。温かな思い出としてね」ニコ

ビアンカ「ファイブ……」キュン

ビアンカ「……あなたは本当に優しい人ね……」

ファイブ「……え?////」ドキッ

ビアンカ「あなたのそういうところ……大好きよ……////」

ファイブ「…………僕も君を愛しているよ////」

ビアンカ「……ファイブ……////」ドキドキ

ファイブ「……ビアンカ……////」ドキドキ

ビアンカ「……////」

ファイブ「……////」

ガチャ

ファイブ・ビアンカ「!?」バッ

レックス「トイレ……」ムニャ

ファイブ「な、なんだ、レックスか」アセアセ

ビアンカ「早くおトイレ済ませて寝なさい」アセアセ

レックス「…………?」

――――第五の世界・四日目
アークデーモン「おーい、俺達の飯はまだかよ?」

勇者「ちょっと待ってろ!!こっちが終わったらすぐ持ってく!!」タッタッタ

アンクルホーン「あの人間、この仕事も大分板についてきたようだな」カッ

アークデーモン「あぁ、最初は頼りねぇとこもあるように見えたがなぁ」コッ

アンクルホーン「ファイブがモンスター爺さんの牧場から俺達魔物を全員妖精の世界に連れて来た時は何事かと思ったが……たまの気分転換は良いもんだな」カッ

アークデーモン「牧場は快適だけど狭っ苦しくていけねぇよなぁ」…コッ

アンクルホーン「……あい、チェックメイトと」カッ

アークデーモン「ぁあ!?」

アンクルホーン「今日の昼飯のスープは俺のもんだな」ゲラゲラ

アークデーモン「ふ、ふざけんな!!こんなハズじゃあ……テメェイカサマしやがったな!?」

アンクルホーン「してねぇよ阿呆!!」

アークデーモン「阿呆とはなんだ阿呆とは!!」

アンクルホーン「やんのか!?」

アークデーモン「上等!!」

アンクルホーン『バギクロ…』!!

アークデーモン『イオナズ…』!!

勇者「はいはい、そこまで!!」ガガッ

アークデーモン「んぁ!?」

アンクルホーン「むっ!?」

勇者「まったくアンクルもアクデンも喧嘩っ早いなぁ……」

アンクル「今回はコイツが悪いのだ!!」

アクデン「いや、コイツが俺が見てない隙にイカサマを……!!」

勇者「わーったわーった、えーっと……アンクルはスープの量二倍にしてやるから。アクデンにも普通にスープをやるから、これでいいだろ?」

アンクル「……うむ、俺はそれでいいぞ」

アクデン「けっ……わかったよ」

炎の戦士「くく……っ」

ブリザードマン「くくく……っ」

勇者「ファイアとブリザーは何笑ってんだよ?」

ファイア「別に~」クスクス

ブリザー「何でもないよ~」クスクス

タバサ「勇者さーん、次はレックスと一緒にシーザーをお風呂に入れるから手伝って下さ~い!!」

グレイトドラゴン「ガウゥ」

レックス「お兄ちゃん早くぅ!!」

勇者「オッケー、今行くー!」タッタッタ

アンクル「……アイツ俺達みんな名前を覚えたみたいだな」ガツガツ

アクデン「あぁ」ガツガツ

アンクル「……ま、何にせよ『わざと喧嘩してスープゲット作戦』成功だな」ニヤッ

アクデン「おぅよ」ニヤッ

ファイア・ブリザー「二人ともワルだな~」ケタケタ

アンクル「ほらよ、分け前だ♪」

アクデン「……っとと、すまねぇな♪」

――――
勇者「……ったく、シーザーはデケェなぁ、体洗うのも一苦労だ」ゴシゴシ

シーザー「ガウ……♪」

勇者「お?なんだ、ここが気持ち良いのか?」ゴシゴシ

シーザー「ガゥガァ♪」

勇者「そっかそっか」ゴシゴシ

タバサ「すごーい、勇者さんもう魔物とお話しできるようになったんですね♪」ゴシゴシ

勇者「え?そういえば……なんとなく魔物達の言いたいことが分かるようになったな」ゴシゴシ

レックス「それがお話しができるってことだよ♪」ゴシゴシ

勇者「おー、なんだかんだで俺も成長してるんだな!!」ゴシゴシ

勇者「そう言えばレックスやタバサって悪い魔物とも話せるのか?」

レックス「う~ん……改心した魔物さんとじゃないとお話しできないかな」

タバサ「でも悪い魔物さんってほとんどいないんですよ?」

勇者「そうなの?」

タバサ「たしかに凶暴な魔物さんもいますけど大抵の魔物さんは動物達と同じで自分の縄張りが荒らされたり命の危険を感じない限り人間を襲うことはないみたいです」

レックス「魔王の悪の波動に影響を受けて沢山の魔物が凶暴化してるんだって」

勇者「そうなんだ~……てっきり魔物はみんな悪い奴なんだと思ってたからなぁ……」

レックス「だからぼくが魔王を倒して人間だけじゃなくて魔物たちも助けてあげるんだ♪」

勇者「そっか……レックスは勇者だもんな」

勇者「……なぁレックス、お前自分が勇者であることを重荷に思ったことないか?」

レックス「?」

勇者「まだこんなに小さいのに……世界を救う伝説の勇者だなんて重責を背負って平気なのか?」

タバサ「…………」

レックス「う~ん……正直あんまり実感わかないんだよね」

勇者「そうなの?」

レックス「うん、お前は伝説の勇者だ、って言われてもぼくはぼくだし」

レックス「ぼくとタバサはお父さんやお母さん、おばあちゃんに会いたくて旅をしてきただけだしね」

レックス「……でも」

勇者「でも?」

レックス「おばあちゃんが死んじゃったとき、ミルドラースが世界中の人達をぼくたちみたいに悲しい気持ちにさせるつもりなら、そんなの絶対許せないって思ったんだ」

レックス「だからそのための力をぼくが持っていて良かったって、伝説の勇者で良かったって思った」

勇者「…………」

タバサ「…………」

レックス「お父さんとお母さんとタバサと……みんなで力を合わせて世界を平和にするんだ♪」

勇者「なるほどな、こんなに小さくてもしっかりとした勇者なんだな」

タバサ「ふふっ」

レックス「へへっ」

シーザー「ガゥゥ……」

勇者「……っとごめん、すっかり手が止まってたな」ゴシゴシ

レックス「タバサ、そろそろ洗い終わるからお水の用意しようか」ゴシゴシ

タバサ「うん♪」ゴシゴシ

――――第五の世界・六日目・妖精の村
勇者「…………」シーン

ファイブ「…………」

勇者「わかった」パチッ

ファイブ「この地図で言うとどこだい?」パラッ

勇者「えーと……この山のてっぺんにゴレムスとシーザーがいて、この洞窟の中にベホマンとキングス、こっちのすごろく場にレックスとタバサ!!」

ファイブ「正解だ!!」

勇者「よっしゃぁ!!」

ビアンカ「六日で妖精の世界の全域を索敵できるようになんてすごいじゃない♪」

ファイブ「うん、たいしたものだ」

勇者「いやいや、それほどでも~」ニヘラ

ファイブ「じゃあそろそろ次の修行に移ろう」

勇者「ぉお!!」

ファイブ「ビアンカ」

ビアンカ「は~い」キュッ

勇者「? 目隠し……?」

ファイブ「初日に言っただろ?目隠ししても魔物と戦えるようになるって」

勇者「え、じゃまさか……」

ファイブ「その通りさ」ニヤッ

アクデン「まいどー」

アンクル「三河屋でーす」

ファイブ「目隠ししたままこの二匹と闘ってもらう」

勇者「マジかよ!?しかもよりにもよってこの二匹!?」

アクデン「手加減しなくていいんだよな?」

ファイブ「あぁ、存分にやってくれ」

勇者「え!?だって俺まだ全然動きとか読めないんだぜ!?」

ファイブ「『習うより慣れろ』って奴だね」

アンクル「では行くぞ!!」

勇者「ちょ……!!」

ファイブ「危なくなったら助けに入るから安心してくれ」

ビアンカ(ファイブってsっ気もあったのねぇ……)

アンクル「せいっ!!」ブンッ

ドゴッ!!

勇者「ぐぼはぁ!!」

ドサッ

勇者「」ピクピク

――――第五の世界・九日目・妖精の村付近の森
アンクル「でやっ!!」ブンッ

勇者「……よっ!!」サッ

アクデン「はっ!!」シャッ

勇者「……くっ!!」ガッ

レックス「すごーい、ホントに目隠ししたまま闘ってるよ」

アクデン「ふっ!!」ビュン

勇者「……っとお!」ヒョイ

アンクル(よし、ここで……)

勇者「!!」ピクッ

勇者『マホカンタ』!!

ピキィン!!

アンクル『マヒャド』!!

ビュォォオオオ!!

アンクル「……って、え?マホカンタ!?」

カアァァ!!

ビュォォオオオ!!

アンクル「ぎゃーー!!」

アクデン「がががが!!」

カチーーン

アクデン「テメェ何マホカンタかかってんのにマヒャド出してんだよ!?」ガミガミ

アンクル「うるせぇよ!!お前だって今イオナズン唱えようとしてただろうが」ガミガミ

ファイブ「よし、いいぞ」

勇者「……ふぅ」スルッ

レックス「すごいやお兄ちゃん!!」

タバサ「ホントです♪」

勇者「最初は魔力が動いてくることしかわかんなかったんだけどだんだん魔力の微細な動きとか流れまで感じとれるようになってな」ニカッ

ファイブ「あぁ、私もまさか十日かからずここまでできるようになるとは思ってなかった。もっとかかるものだと思っていたが……正直驚いているよ」

勇者「えー、自分でこの修行内容にしといて十日で完成させられると思ってなかったのかよ、無責任な奴だな~」ムー

ファイブ「この十日で基礎を教えてあとは他の世界で修行しつつ完成させてもらうつもりだったからね、君の筋の良さは嬉しい誤算だよ」

勇者「へへ♪」

ファイブ「勇者の魔力知覚はまだ私ほどではないが十分なレベルなのは確かだ……勇者は明日この世界を去るんだろ?」

勇者「うん、十日目の日没と同時に……」

レックス「淋しくなるなぁ……」

タバサ「せっかく仲良くなれたのに……」

ファイブ「……よし、じゃあ明日は城で勇者の送別会をしようじゃないか」

勇者「え!?」

タバサ「お別れパーティー!!」パァ

レックス「ごちそういっぱいだ♪」パァ

勇者「送別会か……なんか嬉しいな……」

ファイブ「明日の昼過ぎに始めようか、それまでちゃんと修行だからね?」

勇者「あぁ!!楽しみがあると俄然やる気も出るってもんさ!!」

レックス「ぼくも楽しみだよ♪」

タバサ「わたしも♪」

アンクル・アクデン「どうでもいいがとりあえず助けろ」ブルブル

――――第五の世界・十日目・妖精の村
勇者「ども」

ルナ「あら?修行はもうよろしいのですか?」

勇者「うん、ファイブ達が送別会を開いてくれるらしくて昼過ぎぐらいにはグランバニアに来てくれってファイブに言われてるからさ、そろそろポワン様に挨拶してこようかと」

ベラ「それにしても十日でよくここまで魔力知覚をモノにしたものね~」

勇者「ファイブに言わせりゃまだまだ荒いみたいだけどな」ナハハ

ベラ「ファイブは特別よ」

ポワン「おや、勇者ではありませんか」

勇者「あ、ポワン様」

勇者「短い間だったけどお世話になりました。ベラもルナも色々とありがとうな」

ルナ「いえ、お役に立てたのならそれで構いませんわ」

ベラ「あーぁ、また退屈な日々か~」

ポワン「ベラ」ジッ

ベラ「し、失礼しました」

ポワン「勇者、ここで学んだことが貴方の力になることを祈っています。私達妖精も貴方を応援していますよ」

勇者「ありがとうございます」

ポワン「では名残惜しいですが……」

ポワン「!!」

ベラ「!!」

ルナ「!!」

ベラ「何!?これ……!?すごく大きい魔力が……!!」

ルナ「ポワン様!!人間界です!!」

ポワン「分かっています、勇者!!急いで人間界に向かいなさい!!」

勇者「あ、あぁ!!」ダッ

――――人間界・グランバニア
ファイブ「これは……!!」

ビアンカ「どうしたのファイブ!?」

レックス「すごく大きな魔力がいきなり現れたんだ!!」

タバサ「お父さん、これって……」

ファイブ「うん、この尋常じゃない大きさの魔力、忘れるものか…………ブオーンだ!!」

ビアンカ「え!?でもブオーンって確かファイブ達が倒してまた封印されたんじゃ……」

ファイブ「そのハズだけど……」

ファイブ(あの壺の封印がこんなにすぐ解けるとは考えにくい……なら誰かが意図的に封印を解いたのか……!?)

ファイブ「考えても仕方ない、このままじゃサラボナが危ない!!」

ビアンカ「大変、フローラさん達が!!」

ファイブ「みんな行くぞ!!」

タバサ「待ってお父さん!!」

ファイブ「!?」

タバサ「あっち……ずっと遠くにすごい数の魔力が……」

ファイブ「これは……ラインハットの方か!!」

ビアンカ「どうするの!?ファイブ!!」

ファイブ(くっ……二ヶ所を同時に攻めてくるとは……)

ファイブ「よし、僕とビアンカはサラボナへ向かう、レックスとタバサはラインハットを頼む!!」

ビアンカ「わかったわ!!」

レックス「うん!!」

タバサ「わかりました!!」

ファイブ「行くぞ!!」

ファイブ・タバサ『ルーラ』!!

――――サラボナ・見張りの塔
ブオーン「ブオーーーーン!!!!」

ルドマン「ま、まさかまた奴が暴れ出すとは……!!」

デボラ「ふーん、私の街に攻めてこようだなんていい度胸ね……」

フローラ「……私も闘います!!」

ルドマン「ならん!!あの化け物はとんでもなく強いんだ!!2人を危険にさらすワケにはいかん!!」

デボラ「じゃあ尻尾巻いて逃げろって言うの?私はごめんね」

フローラ「私も……私が育ったこのサラボナを魔物の好きなようにはさせたくありません!!」

ルドマン「だが……!!」

ビューーン

スタッ スタッ

ファイブ「ルドマンさん!!」タタッ

ビアンカ「フローラさん!!デボラさん!!」タタタッ

ルドマン「おお!!ファイブにビアンカ!!」

フローラ「ファイブさんっ!!」タタタッ

デボラ「私のしもべなんだからもっと早く来なさいよ、ファイブ」

ビアンカ「ファイブは私の夫です」キッパリ

フローラ「助けに来てくれたんですね」ギュッ

ファイブ「フ、フローラ!?えっと……」カァ

ビアンカ「……フローラさん?」ピクピク

フローラ「あ、ご、ごめんなさい!!つい!!」カァ

ファイブ「い、いや、いいんだ」カァ

ビアンカ「あなたも何顔赤くしてるのよ」グイ

ファイブ「いたたたっ!!」

ビアンカ「だいたいフローラさんもアンディさんがいるんだから……」

フローラ「……えっとアンディは仲の良い幼馴染みですけど……手のかかる弟みたいなものでファイブさんとは違うというか……その……」モジモジ

デボラ「ファイブ、グランバニアに一夫多妻制を導入する話はどうなったの?」

ファイブ「え?それは君が勝手に……」

ビアンカ「ちょっとファイブ!!そんな話聞いてないわよ!?」

ファイブ「いや、だから僕は……」

ギャーギャー

ルドマン「オホン!!……いいかね?」ジロッ

ファイブ・ビアンカ「す、すみませんでした」

ルドマン「見ての通り何故かブオーンが再び封印を破り出てきおった」

ルドマン「ファイブ達はわしが装備を整えて戻ってくるまで持ちこたえてくれ、頼んだぞ!!」ダッ

ファイブ「はい!!」

デボラ「ファイブ」

フローラ「私達も一緒に闘います!!」

ファイブ「しかし……」

ビアンカ「危ないわ!!」

フローラ「大丈夫、足でまといにはなりません……それに仲間は多い方が良いでしょう?」

デボラ「この私が一緒に闘ってあげるって言ってるのよ?拒否する理由なんてあるハズないわ」

ファイブ「…………わかった、ブオーン相手に私とビアンカ二人で闘うのはいくらなんでも分が悪い……頼りにさせてもらうよ」

フローラ「はいっ!!」

デボラ「当然ね、頼りになさい」

ドシーン!!

ビアンカ「……来るわよ!!」

ドシーン!!

ビアンカ「……な、なんて大きさなの」ゴクッ

ブオーン「ふわぁ……まさかこんなにすぐに出られるとは思わなかったわい。さて、今度こそルドルフの奴に……」

ファイブ「やぁ」

ブオーン「む……お前はこの前の……!!」

ファイブ「覚えていてくれたとは嬉しいね」

ブオーン「ぬぅ……いいだろう、まずは貴様を血祭りに上げてやる!!」

ファイブ「いくぞ、みんな!!!!」

――――ラインハット
タバサ『マヒャド』!!!!

ビュォォオオオ!!!!

ピキピキピキピキ!!!!

魔物の群「ぐわぁーー!!」

レックス「てぃ!!」ビュッ

ズバッ

ネクロマンサー「ぎゃあ!!」

レックス「せや!!」ビュッ

ズバッ

ホークブリザード「クェエ!?」

レックス「はぁっ!!」ビュッ

ザンッ!!

エビルマスター「ぎゃーーー!!」

スタッ

レックス「ふぅ……」

コリンズ「よくやったぞレックス!!」

ヘンリー「助けてもらっておいてなんだその態度は」

ゴンッ

コリンズ「いたた……」

マリア「レックス君、タバサちゃん、助けに来てくれてありがとうございます」

タバサ「いえ、間に合って良かったです」

レックス「魔物はそんなに強くはないけどこう数が多くちゃキリがないよ……」チャッ

タバサ「泣き言言わないの、お兄ちゃん」

タバサ『イオナズン』!!

カッ!!

ドッガーーーン!!

レックス「でもさぁ……」ブンッ

ズババッ!!

ガルバ「ぎゃっ!!」

ゴルバ「ぎぇえ!!」

タバサ「グランバニアで美味しいごちそうが待って…………」

レックス「どうしたの、タバサ?」

タバサ「あ、あ……」

レックス「?」

タバサ「グランバニアにまた禍々しい魔力が……」

レックス「……!!」

レックス「な、なんだこれ……こんな魔力今まで感じたことがないよ……!!」

タバサ「お兄ちゃんはラインハットのみんなをお願い!!わたしはグランバニアへ戻る!!」

レックス「無茶だタバサ!!あんなの一人じゃ勝てないよ!!」

タバサ「大丈夫、お父さんやお兄ちゃんが戻ってくるまでどうにか持ちこたえてみせる」

レックス「でも……」

タバサ「このままじゃグランバニアが危ないんだよ!?」

レックス「くっ……」

タバサ「お兄ちゃんルーラ使えないから天空のベル渡しておくね」スッ

レックス「……わかった、無理はしないで!!」

タバサ「うん、早く来てね……!!」

タバサ『ルーラ』!!!!

ビュンッ!!

ヘンリー「……おい、レックス、一人で大丈夫なのか!?いくら伝説の勇者でも……」

レックス「大丈夫です……だから少し離れていて下さい……」ゴオッ

ヘンリー「!!」ビクッ

ヘンリー「わ、わかった……」

魔物の群「ガアアァァァーーー!!!!!!」

レックス(待ってて、タバサ……すぐに行くから……!!)

レックス「フルパワーだ…………!!」バッ

レックス『ギガァデイィィーーーンッ』!!!!!!!!

ズガガアァァーーーーーーン!!!!!!!!

――――グランバニア
黄金の巨人「ハァッ!!」ブンッ

ドガッ!!

サンチョ「痛ぅ……!!」ヨロ

アクデン「大丈夫か、サンチョの旦那!?」

サンチョ「えぇ……なんとか」

スライムナイト『ベホマ』!!

パアァ

サンチョ「ありがとう、ピエール」

ピエール「なんの、お気になさらず」チャキッ

アンクル「しっかしなんなんだコイツは……見たこともない魔物だし恐ろしく強い!!」ジリッ

ゲレゲレ「グルルル……!!」

サンチョ「なんとしても坊っちゃん達が戻ってくるまで持ちこたえてるんです!!」

アンクル「あぁ!!」

アクデン「おうよ!!」

黄金の巨人「グランバニアヲ……ホロボス……」ドシンッ!!

グラグラグラ!!

アクデン「おわっ!?」

黄金の巨人「…………」ブンッ

アクデン「しまっ……!!」

ドガッ!!

アンクル「アクデン!!」

黄金の巨人「……」グアッ

ズシーン!!

アンクル「なんのぉ!!」ガッ

アンクル「うぉおおお!!」ビキビキ

アンクル「今だ!!」

ロビン「ピピッ……攻撃開始……!!」ビュン

ピエール「はあぁぁ!!」ビュババッ

シーザー「スゥ…………」

シーザー「ガァァァ!!!!」

ゴアァァァ!!!!

黄金の巨人「グ……」グラッ

サンチョ「行きますよゲレゲレ!!」

ゲレゲレ「ガウッ!!!!」ダダッ

サンチョ「はぁぁ!!」

黄金の巨人「…………」

黄金の巨人『バギクロス』!!

ビュォォオオオ!!!!

ズバズバズバズババ!!

サンチョ「ぐあっ!!」

ゲレゲレ「ギャウ!!」

ピエール「ぐ……!!」

アンクル「ぬぅ……!!」

シーザー「ガゥ……!!」

ロビン「ピピッ……」プシュー

サンチョ「くっ……」ハァハァ

ビュン

スタッ

タバサ「サンチョ!!みんな!!大丈夫!?」

サンチョ「タバサお嬢ちゃん!!」

タバサ「賢者の石!!」バッ

パアァァァァァ……!!

アクデン「ふぅ……ありがとうよ、大分楽になったぜ」

タバサ「あの巨人は……?」

サンチョ「わかりません……突然現れたかと思えばグランバニアを襲おうとして……」

ピエール「兵士達はグランバニア住民の避難を、拙者達グランバニアにいた魔物達とサンチョ殿は怪物の迎撃していたのです」

タバサ「……あの巨人すごく強いけど……お父さん達が来るまでなんとか持ちこたえなきゃ」

サンチョ「えぇ、グランバニアは私達が守りましょう!!」

――――サラボナ・見晴らしの塔
ビアンカ「ファイブ!!」

フローラ「デボラお姉さん!!」

ビアンカ・フローラ『バイキルト』!!

キュワワン!!

ファイブ「はあぁぁっ!!」ビュッ

バキィッ!!

ブオーン「がっ!?」

デボラ「はぁ!!」シャッシャッ

ズババッ

ブオーン「ぐっ……!!」ヨロッ

ファイブ「今だみんな!!」

ビアンカ「えぇ!!」

フローラ「はいっ!!」

デボラ「わかってるわ!!」

ファイブ『バギクロス』!!

ビアンカ『メラゾーマ』!!

フローラ『イオナズン』!!

デボラ『ベギラゴン』!!

カッッッ!!!!

ドッガアアァァーーーーーーーン!!!!!!

ブオーン「ぐああぁぁぁ!!」

ブオーン「ぐぅ……!!またも敗れるとは……こんな…………こんな馬鹿なぁ……!!!!」

カァァ!!

シュンッ!!

ファイブ「はぁ……はぁ……なんとか倒せたね」ハァハァ

デボラ「ふん……私が手伝ったんだから勝って当たり前よ……」ゼエゼエ

フローラ「お二人の力になれてなによりです」ハァハァ

ビアンカ「えぇ、ホントに助かったわ、ありがとう二人とも」ハァハァ

ファイブ「ラインハットの方はどうなって…………!?」

ビアンカ「?」

ファイブ「な、なんだこの魔力は……グランバニアが危ない!!」

ビアンカ「なんですって!?」

ファイブ「すぐにグランバニアに戻るよ、ビアンカ!!」

フローラ「待って下さい、それなら私達もお手伝いします」

デボラ「あんたに借りを作っとくのは嫌だからね」フンッ

――――グランバニア
タバサ「く……」ヨロッ

サンチョ「…………はぁ……はぁ」

ゲレゲレ「ガウゥ……」フラッ

アクデン「」

アンクル「」

ピエール「」

シーザー「」

ロビン「だめーじ限界を突破……戦闘続行不可……」プシュー

黄金の巨人「…………」

タバサ「ダメージは与えられてるけど……こっちが受けるダメージの方が大きくて戦闘が長引くにつれてどんどん不利に……」ハァハァ

サンチョ「坊っちゃん達はまだですか……ぐっ」

黄金の巨人「…………」ブンッ

ドカアッ!!

タバサ「きゃっ!!」ドサッ

サンチョ「タバサ嬢ちゃん!!」

タバサ「ぐぅ……」ググッ

黄金の巨人「…………勇者ノ妹……コロス」グアッ!!

タバサ「ーーー!!」ギュッ

ドガァン!!

サンチョ「タバサ嬢ちゃーん!!」

タバサ「…………?」パチッ

勇者「危ないところだったな、タバサ」

タバサ「勇者さん!!」ヒシッ

サンチョ「よ、良かった……」

勇者『ベホマ』!!

パアァァ!!

勇者「あんな化け物相手によく頑張ったな」

勇者「後は俺に任せてくれ」

タバサ「え!?でも……!!」

勇者「大丈夫、なんのために修行してきたと思ってるんだ?」ニカッ

黄金の巨人「……謎ノ男……障害トナルナラ排除スルノミ……」

勇者「かかってきな」チャッ

黄金の巨人「…………」ブンッ

勇者(……わかる……コイツがどこにどう打ち込もうとしてるのかが!!)

勇者「…………」スッ

ドガアッ!!

黄金の巨人「…………!?」ブンッブンッ

勇者「止まって見えるな」サッスッ

タバサ「すごい……全部紙一重でかわしてる……」

勇者「でやぁ!!」ヒュバッ

ズバッ

黄金の巨人「…………」ギロッ

勇者「あちゃー、全然効いてないな……」

黄金の巨人「…………」グアッ

勇者「……っと」ヒョイ

ズズーン

勇者(となると……一点集中攻撃で体勢を崩す!!)

勇者「せい!!」

ザンッ!!

黄金の巨人「…………」ブンッブンッ

ドガアッ!!ドゴオッ!!

ヒュッ!!シャッ!!

勇者「はぁ!!てやぁ!!」

ザザンッ!!

黄金の巨人「チョコマカト……!!」ゴウッ!!

ドッガァアン!!

シャッ

勇者「くらえっ!!」

勇者『メラゾーマッ』!!!!

ゴオオオッッッ!!

黄金の巨人「……!?」グラッ

ドシーーーン!!

勇者「伊達に右足ばっかり狙ってたワケじゃねぇさ」ニッ

勇者「んでもって……」チラッ

勇者「今だ!!ビアンカ!!」バッ

ビアンカ「ナイス、勇者君!!」ドン!!

タバサ「お母さん!!」

ビアンカ「フローラさん、デボラさん」

フローラ「えぇ、いつでも構いません」

デボラ「いくわよ……!!」

ビアンカ・フローラ・デボラ『ベギラゴンッッッ』!!!!!!!!

ゴオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!

黄金の巨人「グ……グアァ…………!!」

バサッ!!

勇者「!?」

バサッ!!バサッ!!

ズズーン……!!

謎のドラゴン「ガアアァァ!!!!」

勇者「!? ド、ドラゴン!?」

謎のドラゴン「ガアァ!!」

ガブッ!!

黄金の巨人「グオォ……!!」

勇者「味方……なのか?」

タバサ「あれは……!!」

謎のドラゴン「グルルル……ガァアッ!!」

ブンッ!!

ドガァン!!

黄金の巨人「…………!!」

謎のドラゴン「グルルル……」

キラキラキラ……

シュン

ファイブ「……っと、もう時間切れか」

勇者「え!?ぇえ!?今のドラゴンってファイブだったの!?」

ファイブ「驚いたかい?このドラゴンの杖で少しの間ドラゴンに変身できるんだ」フフッ

黄金の巨人「……グゥ……」グググッ

黄金の巨人「…………グランバニア王……死ネェ」グアッ

ファイブ「……君の負けだよ」

キランッ!!

勇者「?」

ビューーー!!!!

レックス「だああぁぁぁぁーーーー!!!!!!」

黄金の巨人「……!!!!」

レックス「これで終わりだぁぁぁ!!!!」

ズバアァァァンッッ!!!!

黄金の巨人「……ガ……アァ……ガ……」ヨロヨロッ

ドズーーーン!!

スタッ!!

レックス「遅くなってごめん、タバサ」

タバサ「ぅうん、平気だよお兄ちゃん」ニコッ

レックス「ありがとう、マスタードラゴン」

マスタードラゴン「なに、皆が無事で何よりだ…さて、私は天空城に帰るとしよう……私の力を借りたい時はまたいつでも天空のベルを鳴らすが良い……」

マスタードラゴン「では去らばだ」

バサッバサッ

勇者「ふぇ~、喋るドラゴンか……」

ビアンカ「あのドラゴンがこの世界の神様なのよ?」

勇者「そうなの!?」

レックス「人間の時はおかしなおじさんだけどね~」

勇者「???」

勇者「ま、何はともあれこの怪物を倒せたワケだな♪」

サンチョ「城の被害も軽微で何よりです」

ファイブ「…………」

タバサ「どうしたのお父さん?」

ファイブ「……この怪物は一体なんなのだろうと思って。見たことのない怪物だし……」

黄金の巨人「」

カアァァァ!!

ファイブ「!?」

勇者「!?」

シュウゥゥ……

ゴールデンゴーレム「」

ファイブ「これは……!?」

レックス「怪物がゴールデンゴーレムになっちゃった……!!」

勇者「どういうこった……?」

ファイブ(…………ゴールデンゴーレムがさっきの化け物の正体だったということか……? 一体……)

――――魔界・エビルマウンテン最深部
ミルドラース「どうやら失敗に終わったようだな」

???「えぇ……二ヶ所を同時に攻めた上で本命を叩く……上手くいくと思ったのですが難しいものですね」

ミルドラース「なかなかの采配であったが結果が出せないのならば無意味だ」

???「その通り……しかし私としましては十分な成果を得られました」

ミルドラース「?」

???「『進化の秘法』……未完成の代物ですらただのゴールデンゴーレムをあのような怪物に変えるとは……本当に恐ろしいものですね」フフッ

???「ミルドラース様からご教授いただいた進化の秘法の知識を元に、私は更なる進化の追求を致します、ありがとうございました」

ミルドラース「ふっ、この私直々に魔道の深淵に触れられたことを存分に感謝することだな……」

???「では私はこれにて……偉大なる魔界の王ミルドラース様に魔の神のご加護があらんことを……」

フッ……

ミルドラース「………………奴ならば完成させることができるかもしれんな……真の進化の秘宝を……」

――――グランバニア・玉座の間
勇者「んまい!!」ガツガツ

レックス「うん!!」ガツガツ

ファイブ「盛大な宴とまではいかなくなってしまったがささやかながらの食事会だ、思いきり飲み食いしてくれ」

勇者「うん!!やっぱり一仕事終えた後の飯は最高だな!!」ガツガツ

宿屋のおばさん「そうかい、たーんと作ったからじゃんじゃん食べておくれよ」

勇者「あ、レックス!!それ俺が狙ってた肉!!」モグモグ

レックス「違うよ!!ぼくが最初に狙ってたんだよ!!」モグモグ

タバサ「この十日で二人とも本当に仲良くなったね」

ビアンカ「そうね、なんだか兄弟みたいね」フフッ

フローラ「本当ですね」フフッ

勇者「そういやファイブ、この人達は?」

デボラ「私に向かって『この人』とは……失礼な男ね」ムッ

ファイブ「サラボナの名士、ルドマンさんの娘のデボラとフローラだ」

フローラ「勇者さん……ですね?先ほどファイブさんからお話しは伺いましたわ」ニコッ

勇者「ども……」ドキッ

勇者(ビアンカに負けないぐらい綺麗な人だなぁ……)

レックス「昔お父さんはお母さんかフローラさんかデボラさん、誰と結婚するかで選ぶことになってお母さんを選んだんだって」

勇者「何!?こんな美女3人に言い寄られてたのか!?」

ファイブ「言い寄られていたワケじゃないのだけれど……」

勇者「うるさい!!似たようなもんだ!!」クワッ

勇者「くぅ~……いいなぁモテる男はさぁ……俺にもいい人できないかなぁ……」

ビアンカ「勇者君かっこいいしやさしいし彼女なんてすぐできるわよ」

フローラ「そうですね」

デボラ「そうね……しもべにだったらしてあげなくもないけど」

勇者「それは遠慮しておきます」アセ

ファイブ「ハハハ」

タバサ「…………」ジー

勇者「? どうしたタバサ?」

タバサ「な、なんでもないです///」カァ

勇者「?」

キラキラキラ……

勇者「ん……」

タバサ「え……?」

レックス「!? お兄ちゃんが光ってる!?」

フローラ「勇者さん、これは……?」

勇者「あー……うん、お別れの時間ってことだ」

ファイブ「そうか……」

レックス「そんな……せっかく仲良くなれたのに……」

タバサ「…………」

ビアンカ「勇者君にはやることがあるの……仕方ないわ」

勇者「みんな今までありがとうな」

キラキラキラ……

フローラ「勇者さん、過酷な闘いになると思いますが頑張って下さいね。私も勇者さんの勝利をお祈りしています」

デボラ「ま、せいぜい頑張るのね」

勇者「ありがとう二人とも」

ビアンカ「私はあんまり勇者君の修行の手伝いはできなかったけど……勇者君と一緒に過ごした時間はとても楽しかったわ」

ビアンカ「頑張ってね、勇者君」

勇者「うん、ありがとう……俺も楽しかった」

ファイブ「タバサとグランバニアを助けてくれてありがとう、勇者」

ファイブ「親として王として、礼を言わせてもらうよ」

勇者「礼を言うのは俺の方さ……すっごく役立つこと教えてくれて本当にありがとう。もっと修行してファイブにも負けないくらい魔力知覚を洗練するよ」

ファイブ「うん、君ならできるさ、勇者」

キラキラキラ……

レックス「…………」

タバサ「…………」

ビアンカ「ほら、あなた達も勇者にお別れ言わないと……」

レックス「お兄ちゃーん!!」ヒシッ

タバサ「勇者さん!!」ヒシッ

レックス「お兄ちゃん!!また会えるよね!?もう会えないなんていやだよ!?」ウゥ

タバサ「わたしも……」グスッ

キラキラキラ……

勇者「…………それは…………」

ファイブ「きっとまた会えるさ」

ファイブ「それに長い間会えなくても私達はいつでも君と心で繋がっているよ」ニコッ

勇者「ファイブ……」

ビアンカ「そうよ……私達もう家族でしょ?」ニコッ

勇者「……そっか……そうだな」

レックス「う~……」ギュッ

タバサ「うぅ……」ギュッ

勇者「俺は一人じゃないんだな……」ナデナデ

レックス「へへ」グスッ

タバサ「……」グスッ

キラキラキラ……

レックス「お兄ちゃん!!ぼく立派な勇者になるよ!!そして魔王をやっつけて世界を救ってみせるよ!!」

勇者「あぁ!!楽しみにしてるぞ!!俺もレックスに負けないように頑張るな!!」

タバサ「…………ゆ、勇者さん……」

タバサ「わ、わたしが大きくなったら……その……」

勇者「?」

タバサ「わ、わたしのこと勇者さんのお嫁さんにして下さい!!!!」

勇者「え!?」

ファイブ「な!?」

タバサ「…………////」ギュッ

勇者「……そ、それは……」アセアセ

タバサ「ダメですか……?」

勇者「ダメじゃないけどなんと言うか……その……」

ファイブ「……」ポン

勇者「ファイブ……?」

ファイブ「……君が私の息子になるのは許せないがタバサのような良い娘を悲しませることも許さないよ?」

勇者「どうしたらいいんだよ!!」

一同「アハハハハハハ」

キラキラキラ……

ファイブ「……本当のお別れが近いみたいだね」

勇者「うん……」

キラキラキラ……

ファイブ「さっきも言ったが私達は家族だ。つらいことや悲しいことがあったとき私達との思い出が君の心の支えになれば、と思うよ」スッ

勇者「……うん、ありがとう」ガシッ

キラキラキラ……

勇者「本当にありがとう……」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

レックス「……お兄ちゃん行っちゃった……」グスッ

タバサ「勇者さん……」ウゥ

ビアンカ「お父さんが言ってたでしょ?勇者君は離れていても家族よ、私達とずっと繋がっているの」ナデナデ

レックス「うん……」グシッ

タバサ「はい……」ゴシゴシ

レックス「……でもタバサがお兄ちゃんと結婚したらお兄ちゃんがぼくの弟になるのか~……なんだか変な感じ」

ビアンカ「それを言うならファイブはたいして勇者君と歳も変わらないのに勇者君のお父さんね」クス

ファイブ「いや、そんなことは絶対認めない!!」グッ

フローラ「どうするタバサちゃん、お父さんは勇者さんとの結婚を認めてくれないみたいよ?」フフッ

タバサ「じゃあおじいちゃんとおばあちゃんみたいにカケオチします」

ファイブ「えぇ!?」

デボラ「あんたの負けね」フフッ

一同「アハハハハハハ」

――――星の海
勇者「ただいまーっと」

ルビス『お帰りなさい、勇者』

勇者「今回はすげー力を手に入れてきたからな、また一段と強くなってきたぜ」

ルビス『そうですか……早いものでこの修行の日々も折り返し地点ですものね』

勇者「え!?……あ、そっか、もう修行を始めてから五十日も経ったのか!!」

勇者「あっという間だなぁ……」

勇者「……そういえばあれ以来魔族の動きは?」

ルビス『……つい先日魔族は魔王軍なる軍隊を創り、遂に本格的に地上の侵攻を開始しました……』

勇者「……!!」

ルビス『各国が軍事同盟を結んで魔王軍に対抗していますが……平和に慣れすぎた人間達の軍隊では魔族や魔物達に勝てる筈もなく魔王軍の侵攻を遅らせるだけで精一杯といったところです……』

勇者「……くそ!!」

勇者「ルビス!!今から俺を元の世界に……!!」

ルビス『それはできません。貴方はたしかに強くなりましたがそれでもまだ魔王には勝てないでしょう』

ルビス『今は力をつけることだけを考えるのです』

勇者「……くっ!!」ギュッ

――――第六の世界
パッ

勇者「んっ」

スタッ

勇者「ふむ、ルビスも転送に慣れてきたのかな~……」

勇者(っつっても転送されるのもあと三回か……残り四十日でできるだけ強くならないと……)

バトルレックス「…………」ジー

勇者「ん?」

バトルレックス「…………」ジー

勇者「…………」

勇者「ぅわぁっ!!」バッ

勇者「ったく、誉めたとたんこれだ!!いきなり戦闘かよ……ってあれ?」

バトルレックス「…………」

勇者「なんだ、お前全然悪い魔物じゃないじゃん」

勇者「……俺は勇者、お前は?」

バトルレックス「……私……ドランゴ」

勇者「おー!!なんだ喋れるじゃないか♪」ナデナデ

ドランゴ「…………」

勇者(でもなんで悪意のないバトルレックスがこんなところに……?)フーム

???「……おい、アンタ。こんなところで何してるんだ?」

勇者「おわっ!!びっくりしたな~……」ドキッ

???「それは俺の台詞だ」

ドランゴ「ギルルン……旦那さん……」

勇者「あ、もしかしてこのバトルレックスの飼い主?」

???「まぁそんなようなもんだが……」

???「……ふ~ん」

勇者「?」

???「アンタ結構デキるみたいだな」ニヤッ

???「おーい、テリー!!ドランゴいたー?」ヒョコッ

テリー「あぁ、見つけたぜ」

???「いきなり走り出したからどうしたのかと思ったけど……ん?君は?」

勇者「!! その青髪!!六番目の勇者か!?」

???「……?」

――――ロンガデセオ郊外
ハッサン「へぇ~、色んな世界を旅して勇者に修行つけてもらってんのか」

バーバラ「おもしろそーう♪」

勇者「よく簡単に信じてくれたな」

???「俺達も現実の世界と夢の世界と狭間の世界……三つの世界を行き来して旅してるからね、たいして驚きはしないよ」

ハッサン「うんうん」

???「さて、勇者の紹介も終わったし俺達の紹介もしないとな」

???「俺はシックス。レイドックの王子だ。大魔王デスタムーアを倒すためにみんなと世界を旅している」

シックス「よろしくな」スッ

勇者「よろしく」ガシッ

ハッサン「俺はサンマリーノの大工の息子、ハッサンだ。旅の武闘家でもあるから体は鍛えてあるぜ!!」ムキッ

勇者「おぉー、俺が今まであった勇者とその仲間達の中でハッサンが一番マッチョだな」ペチペチ

ハッサン「何ぃ!?それはホントか!?」

勇者「え、う、うん」

ハッサン「そうかそうか~、まぁ俺の鍛え抜かれた筋肉の鎧はもはや芸術の域だからなぁ」ハッハッハ!!

勇者「……」

ミレーユ「私は夢占い師見習いのミレーユよ、よろしくね、勇者」ニコッ

勇者「よ、よろしくお願いいたします」ドキッ

勇者(うっわ、めっちゃくっちゃ美人じゃん!!)ドキドキ

バーバラ「なーに鼻の下伸ばしてんの」ジトー

勇者「の、伸ばしてねぇよ!!」

バーバラ「ふーん、まぁいいけど」クスッ

バーバラ「あたしは大魔法使いバーバレラの血を引く大魔法少女、バーバラよ。よろしくね」

勇者「……大魔法少女……」プッ

バーバラ「あー!!笑ったわね!!」

勇者「悪い悪い」ハハッ

シックス「バーバラの実力は本物だよ、その気になればここら一帯を消し飛ばせる」

勇者「……はぁ!?」

バーバラ「本当よ、でもその巨大な魔力を自分でもうまく制御できないからこうして修行してるの」

勇者「へぇ~……」

チャモロ「私はチャモロ。ゲントの神に使える者です、よろしくお願いします」

勇者「よろしく」

勇者(いかにも真面目そうな人だな……)

テリー「俺はテリー、最強の剣士を目指している。よろしく」

勇者「最強の剣士かー、すげーな」キラキラ

シックス「テリーは『青い稲妻』って異名を持つ凄腕の剣士でミレーユの弟なんだ」

勇者「そうなんだ……たしかにどことなく似てるような……」

シックス「それとコイツがスライムのルーキー、コイツがバトルレックスのドランゴだ」

ルーキー「ピキー!!」

ドランゴ「……ギルルン、勇者、よろしく」

勇者「うん、よろしくな♪」

ルーキー「ピキー!ピキキー!ピキ~~」

勇者「へぇ~……そっか、前はすごい爺さんのとこで世話になってたのか」

ハッサン「!?」

バーバラ「勇者ルーキーの言ってることわかるの!?」

勇者「うん、なんとなくだけどね。前の世界でそういう修行したから」

シックス「……と言うと君の職業は魔物マスターなのか?」

勇者「? 職業?」

チャモロ「シックスさん、勇者さんは今までダーマ神殿で転職をなさったことがないのでは?」

シックス「そうか……たしかにどの世界にも同じようにダーマ神殿があるワケじゃないだろうしな」

勇者「ダーマ神殿か……たしか第三の世界で近くに行ったことはあるけど職業がどうこうってのはわかんないなぁ」

勇者「職業ってどんなもんなの?農夫とか宿屋とか?」

ハッサン「馬鹿野郎んなワケねぇだろ、戦士とか武闘家とかそういう魔物と闘う職業だよ」エッヘン

シックス「何を偉そうに言ってるんだよ、ハッサンだって初めてダーマ神殿に行った時に似たようなこと言ってたじゃないか」

ハッサン「おっと、そうだったか?」ポリポリ

勇者「じゃあ俺って『勇者』なんじゃないの?」

ミレーユ「それはあなたの存在、使命が勇者なのであって職業が勇者というワケではないわ。職業を名乗るにはダーマの神の加護が必要なのよ」

バーバラ「ダーマの神様の加護を受けて職業に就いて修行を積めばその職業をどんどん極めていくことになるわ」

バーバラ「その過程で新しい呪文や特技を覚えていって最終的にはその職業を完全に極める。そうやって色んな職業を極めていけば新しい職業の道が開いてゆくのよ」

勇者「……??」

シックス「うーん……まぁこういうのは口で説明するより実際にダーマの加護を受けてみた方が早いだろう」

テリー「そうだな」

シックス「……と、その前に勇者」

勇者「?」

シックス「九人の勇者の伝承ってやつを詳しく聞かせて貰えないか?」

――――ダーマ神殿
勇者「おー!!ここがダーマ神殿か!!なんつーか神々しいな!!」

ミレーユ「あんまり大きな声出すと怒られるわよ?」フフッ

テリー「ここは神聖な場所だからな」

勇者「あ、ごめん」アハハ

シックス「勇者、こっちだ」

神官「ここはダーマの神殿。おのれ自身を見つめなおしこれからの行き方を考える神聖な場所じゃ」

神官「行き方を変えたいとお望みか?」

シックス「はい、この勇者が」

神官「どの職業になりたいのだ?」

勇者「…………」

神官「…………?」

勇者「…………シックス。俺って何になったらいいの?」

シックス「そっか!!じゃあ……まずは基礎の基礎として戦士にしよう」

勇者「戦士か~」

神官「それでは勇者よ、戦士の気持ちになって祈りなさい」

勇者「…………」

勇者(戦士……戦士か……スリーの仲間の戦士とかライアンのことだよな……あんな風になりたいって思えばいいのかな……)グッ

神官「おお、この世の全ての命を司る神よ!!勇者に新たな人生を歩ませたまえ!!」

パアァァ

勇者「……!!」

神官「これで勇者は戦士として生きてゆくことになった。生まれ変わったつもりで修行を積むが良い」

シックス「どう?」

勇者「……なんか不思議な感じだな!!こう……力がみなぎってくるって言うかさ!!」

シックス「だろ?」ニッ

勇者「……でもなんか呪文が上手く使えそうになさそうだな……あれ?」

シックス「それはそうだ、戦士は自分の肉体を武器にして闘う職業だからね」

シックス「戦士となった君自身もそういう闘い方に特化するようになる……習得する特技も近接攻撃中心になるよ」

勇者「ふーーん」ギュッ

ハッサン「シックスー!!勇者ぁー!!下の宿屋で飯食おうぜー!!」

ミレーユ「ハ、ハッサン、声が大きいわっ」

チャモロ「そうですよ、お静かに!!」シー

シックス「うん、今行くー」

勇者「んで修行って何すんの?」テクテク

シックス「魔物と闘うのが一番効率が良いね、魔物と闘う中でその職業での闘い方に磨きをかけていくんだ」テクテク

勇者「じゃあその職業を極めたら?」

シックス「そしたら次の職業に転職だ」

シックス「勇者が戦士を極めたとして次に武闘家になったら戦士としての闘い方を身につけた上で、今度は一から武闘家の闘い方を極める修行に入るワケだ」

勇者「なるほど、全部の職業を極めるとなると先は長そうだなぁ……」ウーン

シックス「はは、それは仕方ないよ」

ハッサン「遅ぇぞ二人とも、ほらさっさと飯にしようぜ!!」

バーバラ「まったく、ハッサンの頭の中って食べることと鍛えることと闘うことしかないんじゃないの?」

ハッサン「あと寝ることだな」

テリー「威張れたことかよ」

勇者「…………」ピクッ

テリー「どうした、勇者?」

勇者「な……なんだよこれ……」ガクガク

ミレーユ「……勇者?」

勇者「……ッ!!」ダダッ

シックス「おい、急にどうしたんだよ!?」

バァン!!

勇者「…………」

シックス「ここは……ダーマ神殿の謎の広間……」

ハッサン「ここって一体なんのためにあるのかよくわかんらないんだよな」

勇者「……この地下……」

ミレーユ「……?」

勇者「この地下深くにとんでもない化け物がいる……!!」

テリー「なんだと?」

勇者「巨悪とかそういうんじゃなくて……なんていうか……純粋な力の塊、破壊の化身って感じだ……」

シックス「破壊の化身……?」

ミレーユ「もしそんな存在がいるなら野放しにはできないわね……」

ハッサン「しかしよぅ、下に降りる階段どころか扉だってないぜ?」

バーバラ「何か仕掛けがあるとか?こう……壁が動いたり床が割れたり」

テリー「その仕掛けをどうやって起動させるんだ?」

バーバラ「それは…………わからないけど」

勇者「……シックス、さっきから気になってるんだけどこの台座の炎は一体?」

シックス「それが……さっぱりわからないんだ」

シックス「初めてこの広間に来た時にこの部屋のことを調べてはみたんだけど何もわからずじまいでさ、この炎がどうして灯っているのか分からなくて……それっきりだ」

ミレーユ「……前に来たときより炎の数が増えてるわね」

勇者「そうなの?」

テリー「俺はここに来るの初めてだぞ?俺が知るかよ……ハッサンどうなんだ?」

ハッサン「さぁ?さっぱり覚えてねぇや」

勇者・テリー「おい」ビシッ

シックス「たしかに言われてみれば……」

チャモロ「初めてここに来た時はたしか小さな炎が4、5個灯っていただけですが今はほぼ全ての炎が大きく燃え上がっていますね」

テリー「火が灯ってない台座はどうやらこの一つだけのようだな」コンコン

シックス「……どういう理屈かはわからないけどいつの間にか俺達……或いは他の誰かが火を灯す条件を満たしていた、って考えるのが妥当か」

ハッサン「う~ん……俺頭使うのは苦手だからなぁ……」ムムゥ

バーバラ「……16……17……全部で18か……」

バーバラ「……ねぇ、シックス?ダーマ神殿で転職できる職業って何があったかな?」

シックス「え?ん~……下級職が戦士、武闘家、魔法使い、僧侶、踊り子、盗賊魔物マスター、商人、遊び人……上級職がバトルマスター、魔法戦士、パラディン、賢者、スーパースター、勇者、ドラゴン……じゃないか?」

テリー「……レンジャー忘れてるぞ」

バーバラ「17!!ねぇねぇ!!もしかしてこの台座の炎って今までに私たちが極めた職業に関係あるんじゃないかな!?」

ハッサン「どういうことだよ?」

バーバラ「だってさ、私達が極めた職業って人それぞれ違うけど合わせたら17種類でしょ?」

バーバラ「火が点いてる台座の数もピッタリ17種類じゃない!!」

バーバラ「ここは職業を司るダーマ神殿なんだし職業に関係することで火が灯るって考えたら納得いくと思わない?」

チャモロ「……たしかにそれなら初めてこの広間を訪れた時にはあまり灯っていなかった炎が今ではほとんど灯っているというのも頷けますが……」

シックス「でも台座は18個だよ?職業は全部で17個……数が合わないじゃないか」

バーバラ「ん~……それもそうね……」

ミレーユ「私達の知らない職業があるとしたら……?」

ミレーユ「あくまで私達が知っている職業が17個なだけで18番目の職業がある……だからこの台座も18個。そう考えると辻褄が会うんじゃないかしら?」

バーバラ「それだ!!」

シックス「なるほど……『職業は全部で17個』って誰かに言われたワケじゃないもんな、俺達が勝手にそう思い込んでただけか……」

チャモロ「では18番目の職業とは一体……?」

バーバラ「多分……悟りの書じゃない?『ドラゴンの悟り』があるみたいに『○○の悟り』があってさ、それが必要なんだよ!!どう!?」

チャモロ「うーん……証拠はないけど否定はできない、といったところですね」

シックス「でも他にアテがないのもたしかだ」

チャモロ「はい」

シックス「…………よし、これから冒険は二手に分かれよう」

シックス「一つは勇者の修行に付き合う班。もう一つは謎の悟りの書を探す班だ」

シックス「勇者と修行をする班は勇者と一緒に魔物と闘う」

シックス「悟りの書を探す班は世界各地をまわって悟り書、もしくはその情報を探す」

シックス「これでいこうと思うけど……いいか?」

勇者「俺は勿論賛成だけど……」

バーバラ「私も賛成ーっ」

ハッサン「このパーティのリーダーはお前だ、俺も文句ないぜ」

ミレーユ「えぇ、シックスが決めたことなら従うまでよ」

チャモロ「私もです」

テリー「俺も異論はないな、宝探しなんて懐かしいしな」

――――第六の世界・二日目・グランマーズの館
グランマーズ「…………」

ギィ……

ミレーユ「ただいま、おばあちゃん」

グランマーズ「ほっほっほ、来る頃だと思っていたよ。お前達のことはなんでもお見通しだよ」ホッホッホ

テリー「相変わらず薄気味悪い婆さんだな」

グランマーズ「口には気をつけんかい」ブンッ

テリー「いてっ」ゴンッ

グランマーズ「……さて、探し物だね?」

チャモロ「えぇ、私達は今未知の悟りの書を探しています」

ミレーユ「おばあちゃんの力でそのありかをなんとか占えないかしら?」

グランマーズ「未知の悟りの書ねぇ……本当にそんなものがあるのならいいけど…………ちょっとお待ち」フッ

ボワ~…………

グランマーズ「…………」

ミレーユ「どう?」

グランマーズ「……これは……どこかの洞窟の中かね……?」

グランマーズ「…………」

フッ

グランマーズ「ダメだね、私でもそこまでしかわからないよ」

ミレーユ「でも占えたってことは存在するってことね!!」

チャモロ「洞窟の中というのが分かっただけでも捜索範囲はかなり絞り込めましたしね!!」

テリー「……ほら、分かったらさっさと行こうぜ。しらみ潰しに洞窟を探して回るぞ」カツカツ

ミレーユ「あ、待ちなさいテリー!!おばあちゃんありがとうね!!」タッタッタッ

チャモロ「お力添えありがとうございました」タッタッタッ

グランマーズ「ほっほっ、また困ったことがあったらいつでもおいで」

バタン……

猫「にゃあん……?」

グランマーズ「なぁに、淋しくなんてないよ、世界に平和を取り戻したらあの子達も帰ってくる」

グランマーズ「それにお前もいるしね」ナデナデ

猫「にゃあ♪」ゴロゴロ

――――天馬の塔
キラーマシン2「…………」ビュッ

ハッサン「ほっ」サッ

ハッサン『飛び膝蹴り!!』バッ

ドゲシッ!!

キラーマシン2「ガガ……ギ……」プシュー

デスジャッカルa「ガアァ!!」

デスジャッカルb「ガゥ!!」

バーバラ『ザラキッ』!!

デスジャッカルa「ガ……!?」

シュンッ

デスジャッカルb「ガ……!?」

シュンッ

レジェンドホーン「ヒヒーン!!」パカラッパカラッ

勇者「でや!!」

勇者『隼切り』!!

ヒュババッ!!

レジェンドホーン「!?」ヨロ

勇者「シックス!!」

シックス『岩石落とし』!!!!

ブンッ!!

ガンッ!!

レジェンドホーン「」ドサッ

勇者「いっちょ上がりぃ♪」

ハッサン「勇者、お前強いな!!」ガハハ

バーバラ「ホントね、それだけ強かったら私達の仲間も十分務まるよ♪」

勇者「ありがとう、でも魔王を倒すにはもっと強くならないと……」グッ

シックス「戦士としての闘いには慣れたか?」

勇者「あぁ!!もう大分な!!魔人斬りだってできるようになったぜ」

シックス「魔人斬りが出来るとなると戦士はもう極めたも同然だな」

シックス「一旦ダーマ神殿に戻って次の職業に転職するとしよう」

勇者「忙しいな」

シックス「当たり前だろ?時間は限られてるんだ、できるだけ沢山の職業を極めないとな」

勇者「おう!!」

――――第六の世界・四日目・天馬の塔付近の山地
キングイーター「ガオゥ……」

ドサッ

勇者「ふぅ……僧侶にも随分慣れてきたな……でも極めるにはもうちょっとかかるかな~」

シックス「戦士、武闘家、魔法使いときて今は僧侶を極めつつある……順調だね」

ハッサン「でもよ勇者、お前魔法使いや僧侶になる前からその職業で覚える呪文はほとんど使えてただろ?それなのに魔法使いや僧侶に転職する意味なんてあったのかよ?」

勇者「ん~、新しく使えるようになった呪文はさしてないけどなんて言うか呪文が洗練されたかな」

勇者「今まで使えてたメラミでも魔法使いを経験してからの方が威力も精度もずっと高くなったしさ」

勇者「一つの職業を極めるっていうのはすごく意味のあることなんだな、って思ったよ」

ハッサン「へぇ~……」

バーバラ「おーい!!ご飯の準備出来たよー!!」

勇者「お、待ってました♪」

ハッサン「俺も腹ペコだぜ~」

シックス「じゃあ今日の修行はここまでにしておこうか」

シックス「明日は朝イチで僧侶を極めてまた転職だからな」

勇者「オーキードーキー♪」

――――夜・シックス一行のキャンプ
勇者「すぴー……すぷー……」

シックス「すー……すー……」

ハッサン「ぐがぁ……!!ぐがぁ……!!」ゴロン

ドフッ!!

勇者「がっ!?」フゴッ

ハッサン「ぐー……ぐー……」

勇者「う~ん……なんだハッサンよ……ったくホント寝相悪ぃな……」ムゥ…

勇者「…………あれ?バーバラがいないや」??

――――天馬の塔付近の山地・月のよく見える丘
バーバラ「…………」

勇者「あ、いたいた」テクテク

バーバラ「勇者!?どうかしたの?」

勇者「俺の台詞だよ、いきなりキャンプからいなくなったりして」

バーバラ「あ、そっか……はは、ごめんね」

勇者「隣……良い?」

バーバラ「うん」

勇者「よいしょ……」

バーバラ「座る時『よいしょ』だなんてオヤジくさいよ~」フフッ

勇者「う、うるさいな~」

勇者「で、どうしたのさ、一人でこんなとこで」

バーバラ「うん……ちょっとね」

勇者「…………」

バーバラ「…………」

勇者「…………なんかいつもと逆だなぁ」

バーバラ「……?」

勇者「俺が落ち込んだりしてた時は他の世界の勇者達が俺のこと励ましたりしてくれてたんだ」

勇者「俺はいつも話を聞いてもらう側だったからさ、いつもと逆だなぁ、って」

バーバラ「……そっか」

バーバラ「ねぇ、勇者」

勇者「なに?」

バーバラ「勇者はその……他の世界の勇者とその仲間達と仲良くなったんでしょ?」

バーバラ「お別れしなくちゃならない、ってわかってるのに仲良くなるのつらくなかった?」

勇者「え?う~ん…………」

勇者「考えたこともなかったなぁ~」ポリポリ

バーバラ「へ?」

勇者「たしかにせっかく仲良くなっても別れてもう会えないとなるとそれは悲しいけど……」

勇者「アイツらと過ごした思い出はずっと俺の胸の中にあるからね」

バーバラ「…………」

勇者「俺のこと『仲間』って言ってくれた奴もいた、俺のこと『家族』って言ってくれた奴もいた」

勇者「一人ぼっちの俺にとってその言葉がどんなに嬉しかったか……」

勇者「別れてしまう悲しさよりも出会えた喜びの方がずっと大きいんだ」

勇者「だからそんなに悲しくはないかなぁ……」

勇者「……う~ん、なんか上手く言えないなぁ……他の勇者達ならもっとビシッとかっこいいこと言えるんだろうけどな」ナハハ

バーバラ「……ううん、そんなことないよ」ニコッ

勇者「そうか?……でもなんでそんな話を?」

バーバラ「……うん……勇者になら言ってもいいかな……他のみんなには内緒だよ?」

勇者「? あぁ」

バーバラ「あのね……私……」

バーバラ「大魔王を倒したら多分シックス達とお別れしないとならないの」

勇者「え!?」

バーバラ「夢の世界のことは知ってるよね?」

バーバラ「人々の夢が造り出した想いの世界……」

バーバラ「大魔王デスタムーアがその世界も手に入れようとして世界に歪みを作ってるから夢の世界が具現化されて、本来なら交わることのない現実の世界と夢の世界が行き来できるようになってるの」

バーバラ「シックス達は現実の世界の住人……だけど私は夢の世界の住人なの」

バーバラ「……デスタムーアを倒して世界が元通りになったら……私は元の世界に、夢の世界に帰らなくちゃならない」

バーバラ「夢の世界と現実の世界が交わることがなくなればもう二度とシックス達に会うこともできなくなっちゃう……だからデスタムーアを倒したらみんなとお別れ……」

勇者「そんな……」

勇者「どうにかできないのか?何か方法は……」

バーバラ「こればっかりは……多分無理ね……」

勇者「……あんまりだろそんなの……バーバラはずっと……長い間シックス達と旅してきたんだろ?それなのに……」

バーバラ「いいの、仕方ないよ……デスタムーアを倒して世界が平和になるならそれが一番だし……」

勇者「だけど……」

バーバラ「それに勇者の話聞いたら元気出たしね」フフッ

勇者「え?」

バーバラ「別れの悲しさより出会えた嬉しさの方がずっとずーっと大きいな、って。私も勇者と同じだな、って思って」

勇者「バーバラ……」

バーバラ「だからもう大丈夫だよ、話聞いてくれてありがとうね」

バーバラ「あ、それとこの話は誰にも言わないって約束破らないこと」

勇者「……」

バーバラ「返事は?」

勇者「あ、あぁ、わかった」

バーバラ「よろしい」ニコッ

バーバラ「さ、もうキャンプに戻って寝ましょ……よいしょっ」

勇者「……ん?なんだよ、立ち上がる時に『よいしょ』なんて言ってるようじゃバーバラもおばさんくさいじゃないか」ハハッ

バーバラ「あ!!……アハハ~、失敗失敗♪」ナハハ

――――第六の世界・五日目・夢の世界・アモール北の洞窟
テリー「ったく、ここまで散々洞窟を探したのに見つからないとなるとあの婆さんの占いが間違ってるんじゃないのか?」

ミレーユ「そんなことないわ、おばあちゃんに限って占いが外れるなんて……」

チャモロ「まだ全ての洞窟を探し終えたワケじゃありませんよ、それに洞窟のようなところ……例えばどこかの地下通路や井戸の中ということも考えられますし」

ドランゴ「私も一生懸命……探す」

テリー「悟りの書を見つける前にデスタムーアに世界が滅ぼされなきゃいいけどな……っと」

テリー『盗賊の鼻』

テリー「……」クンクン

ミレーユ「……どう?」

テリー「……!!」ピクッ

テリー「どうやらこの階にはまだ一個お宝があるらしいな」

チャモロ「今度こそ当たりだといいですね」

ミレーユ「まったくね、取り忘れた桧の棒とかは勘弁して欲しいわね」

テリー「アイテムならまだ辛うじて許せるが昨日宝箱がミミックだった時は本気でキレそうになったな」

ドランゴ「…………?」ドシンドシン

ドランゴ「…………」ジー

ドランゴ「ギルルルルルルーーン!!」

テリー「どうした!?ドランゴ!?」

ドランゴ「旦那さん……これ……」

テリー「これは……!?」

ミレーユ「……巻物……まさか!?」

テリー「『はぐれの悟り』…………ビンゴだな」ニッ

――――ダーマ神殿
バーバラ「……あれ?ミレーユ達じゃない?」

ハッサン「ホントだ」

テリー「ったく、やっと来たか」

ミレーユ「ここで待っていればそのうち転職に来るだろうと思って」

チャモロ「勇者さんの修行はどうですか?」

勇者「今踊り子を極めて転職に来たとこ。まったく闘ってばっかりで嫌になっちゃうよ」ハァ

シックス「泣き言言わない……そっちは?」

テリー「フッ……見ろ」サッ

シックス「!?」

ハッサン「ぉお!?まさか!?」

バーバラ「これが!?」

テリー「そうだ、『はぐれの悟り』だ!!」

シックス「すげー!!ホントにあったんだな!!」

バーバラ「ね!?ね!?あたしの言った通りだったしょ!?」

シックス「みんなお疲れ様」

ミレーユ「ふふっ、いいのよ」

ハッサン「う~ん……でも『はぐれ』ってなんだ?」

チャモロ「さっきそこの職業に詳しいシスターさんに聞いたら『はぐれメタル』の『はぐれ』じゃないかって」

シックス「はぐれメタルか……」

バーバラ「どんな特技が覚えられるんだろうね?」ワクワク

勇者「で、誰がこれ使うんだ?たしか一回しか使えないんだよな?」

シックス「そうだな……じゃ例のアレ、やるか……」ゴゴゴ…

バーバラ「……仕方ないね」ゴゴゴ…

テリー「……あぁ」ゴゴゴ…

勇者「……アレ?」

シックス「……そう、じゃんけん大会!!!!!!」ドーン

ミレーユ「ウチでは新しく手に入った装備とか貴重なアイテムなんかを使う人を公平にじゃんけんで決めるようにしてるのよ」

シックス「……さて、参加者は!?」

バーバラ「はーい」

ハッサン「俺もだ!!」

テリー「俺も!!」

ミレーユ「私は今回は遠慮しておくわ」

チャモロ「私も皆さんに譲ります」

シックス「勇者は!?」

勇者「俺は……いいや、他の職業極めなきゃなんないし元々この世界の人間じゃないしさ」

シックス「よし……じゃあ参加者は俺を含めて四人か」

バーバラ「最初はグーで初めて相手の手が開きかけてたらチョキを出せば負けない……」ブツブツ

テリー「ふん、バトルマスターを極めた俺の動体視力に勝てるとでも?」ニヤッ

ハッサン「あの技は二刀流じゃんけんに敗北しただろうが、もう時代遅れなんだよ」

シックス「やっぱり漢ならこれしかないだろ……」ガッグリッ

シックス「…………見えた!!!!」カッ

シックス・ハッサン・バーバラ・テリー「最初はグー!!じゃんけんぽん!!!!あいこでしょ!!!!しょっ!!!!しょっ!!!!」

ざわざわ……

ひそひそ……

ミレーユ・チャモロ(た、他人のフリ他人のフリ……)カァ

――――第六の世界・七日目・狭間の世界・嘆きの牢獄付近の平原
バーバラ「もー、いつまでたっても慣れないよー!!」ムー

テリー「フン、はぐれメタルになれたんだから文句言うなよ」

バーバラ「そんなこと言ったってさー、素早さと身の守りがすごく上がったのはいいけど体力はガタ落ちするし非力になるし強力な特技覚えられるワケじゃないしで全然いいことないよ!!」ムスッ

勇者「非力で脆弱で硬くて俊敏……はぐれメタルそのまんまだな」ククッ

ハッサン「まさか隠れ職業が外れ職業だったとはなぁ」ゲラゲラ

シックス「まだ強力な特技を習得できてないだけで極めていけばすごい特技を覚えられるかもしれないよ?」

バーバラ「実際今はそれに期待するしかないわね……」ハァ

チャモロ「勇者さんはどうですか?」

勇者「俺は順調だな、下級職は今やってる遊び人で最後だ♪」

シックス「そしたら次はいよいよ上級職だな」

勇者「おおー!!楽しみだなぁ♪」

ミレーユ(……どうしてシックスは下級職を全て極めさせてから上級職に就かせようとしているのかしら……?)

シックス「ん?どうしたかした?ミレーユ」

ミレーユ「えぇ……前から気になっていたのだけれど勇者ほどの素質があるのならバトルマスターや賢者を極めればすぐに『勇者』への転職の道が開けるんじゃないかしら?それをわざわざ下級職を全部極めさせるなんて……」

シックス「あぁ、そのことならちゃんと考えがあってのことだ、大丈夫だよ」

ミレーユ「あなたがそう言うのなら大丈夫なのでしょうけど……」

ハッサン「おいシックス、そういやお前最近ターニアちゃんとこ行ってねぇんじゃないか?」

シックス「そういやそうだな……」

勇者「ターニア?」

バーバラ「シックスの妹さんよ」

チャモロ「今日はライフコッドで休んではいかがですか?」

勇者「俺も会ってみたいなー♪」

シックス「う~ん……そうだな、じゃあそうするか」

――――夢の世界・ライフコッド
ギィ……

勇者「ごめんくださーい」

ターニア「はーい、今行きまーす」ペタペタ

シックス「よっ」

ターニア「あ!!お兄ちゃん!!お帰りなさい!!」

バーバラ「元気にしてたー?」

ミレーユ「久しぶりね」

ハッサン「ターニアちゃん、一人で寂しくなかったかかい?」

ターニア「もう、子供じゃないんだから大丈夫ですよ」ウフフ

勇者「へー、シックスにこんな可愛い妹がねぇ」

ターニア「そちらの方は……お兄ちゃんのお友達ね?お兄ちゃんがお世話になってます」ペコッ

勇者「いやー、お世話になってるのは俺の方だけどな」アハハ

シックス「今日は泊まっていくよ」

ターニア「本当!?嬉しい!!」

ターニア「……あ、でもみなさん全員が泊まるとなると窮屈ですね……」

ハッサン「なぁーに、野宿に比べりゃ天国だぜ」

バーバラ「それに近くに温泉もあるしねっ♪」

勇者「温泉!?」

――――ライフコッド付近の温泉
ハッサン「ふぃ~……いい湯だ……」ハァ…

チャモロ「久しぶりに来ましたがやはりいいものですね……」ハァ…

勇者「驚いたな、村の近くにこんな温泉があるなんて……」チャプ

シックス「だろ?村の人だけが知る秘湯でさ、みんなで整備したんだ」

勇者「この温泉を売りにすれば観光客も沢山来るだろうに」

シックス「この温泉は村のみんなだけで静かに使いたいんだってさ」

勇者「なるほどな~」

テリー「ま、そのおかげで静かに湯に浸かれていいけどな」チャプ

ハッサン「ぁあん?テリー、まさかお前このまま温泉に入って体温めて終わる気かよ?」

テリー「は?何言ってるんだ?」

ハッサン「聞こえないのか!?あの天使達の歌声が!?」

勇者「……?」

ウフフ……

キャッ……

テリー「ま、まさかお前……!!!!」

ハッサン「そこに山があるから登るのが登山家……そこに謎があるから旅に出るのが探検家……なら!!」

ハッサン「そこに女湯があるなら覗くのが漢だろ……?」ニッ

テリー「何良い顔で言ってんだよ!!ただの変態だろうが!!」

ハッサン「なんだ、お前は行かないのか?」

テリー「当たり前だろ!!姉さんも入ってるんだぞ!?」

シックス「あれ?来ないの?」

勇者「なんだよ……シラけるな~」

テリー「お前らもかよ!!!!」

シックス「おい、ハッサン、こんな漢の風上にも置けないキザ野郎は無視していこうぜ」

ハッサン「あぁ、まったくだな」ハァ

テリー「ふん……勝手にしろ」

勇者「とか言ってホントは見たいんだろ?」

テリー「は?んなワケないだろ!?」

勇者「まぁまぁ……何も言わずにさ、ミレーユやバーバラの裸体を想像してみろよ?」

テリー「…………」

シックス「……見てみたいとは思わないか?」ポン

テリー「きょ、興味ないッ!!」フンッ

ハッサン「これ以上は何を言っても無駄だ、俺達だけであのエデンへ向かおうぜ」

勇者「これがホントの『エデンの戦士達』か……」フッ

シックス「なにそれ?」

チャモロ(よくやるなぁ……)チャプチャプ

――――
勇者「…………で」

ハッサン「なんでお前もついてきてんの?」

テリー「お、俺はお前らから姉さんを守るためにだな!!」

シックス「自分に正直になれよテリー……」フッ

テリー「だから違うって!!」

ハッサン「む!?静かに!!」

勇者「……!!」

ハッサン「このすぐ先だ……」

シックス「……」ゴクッ

テリー「……」ゴクッ

ハッサン「……行くぞ!!」ダッ

シックス「おぅ!!」ダダッ

勇者「あぁ!!」ダッ

テリー「あ、ま、待てお前ら!!」ダッ

ハッサン「この湯けむりの先にエデンが……!!」バッ

デアゴ「ゴアァ……」

ハッサン「!?」

勇者「え!?何この怪物!?」

シックス「これは……大地の精霊デアゴ!!!!」

デアゴ「ガルルアァ!!!!」ババッ

ハッサン「うわ!!て、撤退だ!!」

シックス「逃げろ!!」

勇者「のわーー!!」

テリー「なんで俺まで!!!!」

――――女湯
ギャーギャー

バーバラ「? 外が騒がしいねー」

ミレーユ「ふふっ、『召喚』使っておいて良かったわね」

――――男湯
ハッサン「つつ……さっきは酷い目にあったぜ……」

テリー「まったくだ、俺までとばっちり食らったぜ……」チッ

チャモロ「よく懲りもせずに毎回挑戦しますねぇ」ハァ

ハッサン「別ルートならあるいは……」

テリー「また行くのかよ!?」

勇者「……そういやターニアも温泉?」

シックス「いや、ターニアは晩飯の準備をしてくれてる」

勇者「そっか、しかしいい娘だよな~、可愛いし気も利くしさ、シックスの妹には勿体ないくらいだよ」ハハッ

シックス「なんだよ、ひどいな~」苦笑

勇者「……ん?あれ?シックスが王子様ならターニアは王女様だろ?なんでこんな山奥に一人で住んでるんだ?」

シックス「……俺とターニアは血の繋がりがないからな……」

勇者「……え?」

シックス「勇者、ここは夢の世界だ……ここに住む人々は例外なく人々の想いが創り出した存在」

シックス「つまり夢の世界のターニアも現実世界のターニアが想い描いた夢。『お兄さんが欲しい』っていう夢が俺との出会いを生んだんだ」

シックス「現実世界のターニアは若くして両親を失った一人っ子……きっと淋しかったんだろうなぁ……」

勇者「…………」

シックス「……俺さ、ちょっと前まである事情で精神と肉体に引き裂かれていたんだ」

勇者「うん、知ってる。魔王ムドーの呪いだっけ?」

シックス「そうそう。詳しい理屈はは俺にもよくわからないんだけどとりあえず精神だけの存在……記憶を無くした俺は夢の世界で……ターニアの兄として暮らしていた」

シックス「記憶を取り戻してからやっとわかったんだけど俺は小さい頃に妹を亡くしててな……きっと俺自身も無意識のうちに妹って存在を欲しがってたのかもしれないな」

シックス「……ま、肉体を取り戻して記憶が蘇って、ターニアが本当の妹じゃないってわかった今でも俺はターニアのこと本当の妹だと思ってるけどな」ニコッ

勇者「…………」

勇者(……デスタムーアを倒したらシックス達はバーバラだけじゃなくターニアとも別れなくちゃならないのか……)

勇者「あ、あのさ、シックス……」

バーバラ『……他のみんなには内緒だよ?』

勇者「……ッ」

シックス「ん?どした?」

勇者「うん……その……さ、えっと……」

勇者「……ターニアがお嫁に行っちゃったらどうする?」

シックス「はぁ?なんだよ、藪から棒に」ハハッ

勇者「すげー遠くにお嫁に行っちゃってさ、もう会えなくなったらどうする?」

シックス「うーん、そうだなぁ……」

シックス「ターニアが幸せならそれが一番だと思うけど……もし二度会えないとしても仕方ないかな、って思うな」

勇者「仕方ないって……それでいいのか?」

シックス「だってさ、ずっと一緒にいるなんて無理なことだぜ?」

シックス「人と人の付き合いには別れはつきものさ……人と人が出会った時からな」

シックス「だからいつか来る別れのときのために一生懸命思い出をつくるんだと思うんだ」

シックス「ホラ、えーと……なんて言ったかな……あ!!そうそう!!」

シックス「『一期一会』って奴だな」

シックス「出会った瞬間から別れのカウントダウンが始まる……だから運命のような偶然のような出会いを大切にしろってことじゃないか?」

シックス「懸けがえのないのない、大切な、温かな思い出を作るために……さ」チャプ…

シックス「まーでもターニアがどんなに遠くに嫁に行ったとしても世界中を旅してる俺達なら簡単に会えるだろうけどな」ハハッ

勇者「…………」

勇者「あーぁ、やっぱ敵わねぇな~」

シックス「?」

勇者「なんでもないよ、こっちの話」

勇者「さてと、のぼせそうだしもうあがるな」ザバッ

シックス「あぁ、俺ももうあがるよ」

シックス「………………」

シックス「……大丈夫……わかってるよ、勇者……」

━━━━第六の世界・九日目・狭間の世界・とある平原
バーバラ「……!!」

ハッサン「どうしたバーバラ?」

バーバラ「……極めたよ、はぐれメタル!!」

シックス「ついにか!!」

バーバラ「うんっ!!次の戦闘で見せてあげるよ」ニッ

勇者「言ってるそばからおいでなすったぜ」チャッ

ヘルクラッシャーa「キシャア!!」

ヘルクラッシャーb「カァ……!!」

ホロゴースト「……」

バーバラ「いっくよー!!」

バーバラ『ビッグバン』!!!!

グゴゴゴゴゴ……!!!!

カッ!!

ドッガアアァァーーーン!!

ヘルクラッシャーa「」プシュー

ヘルクラッシャーb「」プスプス

ホロゴースト「」 ピクピク

バーバラ「アハッ♪すごーい!!!!ねぇねぇ見て見て!!」

ハッサン「」プシュー

シックス「」プスプス

勇者「」ピクピク

バーバラ「……あ…………テへッ」

ハッサン「『テへッ』じゃねぇよ!!危うく死ぬとこだったんだぞ!?」ガバッ

バーバラ「ごめんごめん」ナハハ

勇者「つぅ……しかしすげぇ威力だな、イオナズンの比じゃないぞ」

バーバラ「うん、扱い方に気をつけないとね」

シックス「なんにせよこれで18種類の職業を極めたわけだ」

シックス「これがあの広間の謎を解く鍵になるといいんだが……勇者、魔法戦士はどうだい?」

勇者「うん、あとちょっとかな。前やった賢者もそうだったけど上級職は強いぶん極めるのが大変だな」

シックス「まぁな……よし、じゃあ勇者が魔法戦士を極めたらダーマ神殿に行くとしよう

――――ダーマ神殿
神官「これで勇者はバトルマスターとして生きてゆくことになった。生まれ変わったつもりで修行を積むが良い」

勇者「これがバトルマスターか……力が湧き出てくるみたいだ」ギュッ

ハッサン「いいよな、バトルマスター。俺も好きだぜ」

神官「他に職業を変えたい者はいるかな?」

シックス「じゃあ次は俺が」

ミレーユ「あら?シックスも?今の職業はまだ途中じゃなかったかしら……?」

シックス「あぁ、だけど勇者の言っていた破壊の化身とやらと闘うことになるとしたら万全の準備が必要だと思ってな、勿論みんなにも自分に一番合う職業になってもらうよ」

ミレーユ「なるほど」

バーバラ「なら私は賢者ね~」

勇者「やっぱりみんな合う職業合わない職業とがあるんだな」

チャモロ「えぇ、基本的には自分の長所を活かせる職業が最適ですね」

シックス「おーい、チャモロの番だぜ」

チャモロ「はい、只今」

――――ダーマ神殿・謎の広間
シックス「いよいよだな……」

バーバラ「あ、見て見て!!ちゃんと最後の台座にも炎がついてるよ!!」

勇者「ホントだ!!」

ハッサン「でもこの前とそれ以外は何も変わらないぜ?」

テリー「……いや、待て」

キィィン……

シックス「くっ……!?」

ミレーユ「これは……!?」

『数多の技を身につけし者よ……今こそ汝を迎えん!!!!』

ハッサン「だ、誰だ!?」

ゴゴゴゴゴ……!!

チャモロ「見て下さい!!あれ!!」

勇者「壁が開いて奥に部屋が……?」

ミレーユ「こんな仕掛けがあったなんて……」

シックス「行ってみよう!!」ダッ

テリー「あぁ!!」ダッ

バーバラ「ま、待ってよ!!」

――――ダーマ神殿・封印されし小部屋
テリー「……階段だな」

勇者「間違いない、この奥だ」ゴクッ

シックス「よし、行こうか……」カツカツ

ハッサン「……あれ?ここどっかで見たことないか?」

バーバラ「あれ?たしかに……」

チャモロ「ここは……アークボルトの近くの洞窟じゃないですか?」

シックス「懐かしいなー、ドランゴがいたところだな」

ミレーユ「……でもなんでこんなところに繋がってるのかしら……?」

テリー「おい、次の階段だ、降りるぞ」カツカツ

シックス「あ、あぁ」

バーバラ「……え?何ここ?全然違う造りの洞窟になっちゃったよ?」

シックス「ミレーユ……ここは!!」

ミレーユ「えぇ、グランマーズのおばあちゃんの家の近く……夢見の雫のある洞窟ね」

ハッサン「なんだってこんなとこに出てきちまったんだぁ?さっぱりワケがわからねぇぜ」ムゥ…

――――謎のダンジョン・中間層
バーバラ「ホントになんなのここ?フロア毎にまるで別のダンジョンだし……」

勇者「おまけに出てくる魔物はみんな強いしな」

テリー「ん?この先に何かあるみたいだぜ?」

ハッサン「ハハッ、こんだけおかしなとこだ。もしかしたら次は村でもあって人が住んでたりしてな」

ミレーユ「……もぅ、こんなところに人が住んでるワケないでしょ?」

テリー「今度は外に出…………あ?」

バーバラ「え?ぇえ?村?」

ハッサン「マ、マジかよ……ハ、ハハ、な?だから言ったろ?」ハハハ

チャモロ「解せませんね……こんなところに人が住んでいるのか?何故私達は地下へ地下へと進んでいたのに地上に出てきたのか?……ふ~む……」

シックス「ここ……ラ、ライフコッドだ!!」

ミレーユ「!!……たしかにライフコッドにそっくりね……」

ハッサン「どういうことだぁ……??」

テリー「おい見ろ、アレ」クイッ

スライム「ピキー」

腐った死体「…………」

シックス「魔物!?」チャッ

勇者「待った!!…………魔物達から悪意は感じない、多分悪い魔物じゃないと思う」

シックス「そうか……でもなんでライフコッドに魔物が……」

勇者「よっ、ここはライフコッドだろ?」

スライム「ピキー!!ここに旅人が来るなんて初めてのことだよ!!」

スライム「ここはデスコッド、魔物が暮らす村さ」

ハッサン「魔物が暮らす村ぁ?」

バーバラ「そんな村があるなんて……」

シックス「……考えても仕方ないさ、ここは安全そうだし今日はここで休んでいこう、みんな疲れてるだろうからな」

テリー「賛成だ、ついでにこの村を調べてみよう。何かわかるかもしれない」

――――第六の世界・十日目・デスコッド・民家の地下
バーバラ「ホントに魔物ばっかりの村だったね~」

チャモロ「道具屋でドラゴンの悟りが売っていたのには驚きました……」

ミレーユ「えぇ……他にも喋る猫、喋るカエルにエルフもいて……本当に不思議な場所ね」

ハッサン「……で、さらに奥に進む場所つったらこの井戸しかないワケだが……どうなんだ、勇者?」

勇者「……うん、間違いない……この先だ……」

ランプの魔王「ファファファ、その先へ進むのか?」

シックス「あぁ、そのつもりだけど……」

ランプの魔王「この先には大魔王デスタムーアすら凌ぐ悪魔が存在している。お前達人間が敵うワケがない」

ランプの魔王「死にたくなければおとなしく引き返すことだな、ファファファ」

ハッサン「なんだとぉ!?」ムッ

テリー「よせ、ハッサン」

勇者「……でもたしかにとんでもない魔力の持ち主だ……狭間の世界で感じた大魔王の魔力よりずっと強い……」ゴクッ

ミレーユ「……でも行くのでしょう?」

シックス「……あぁ、そんな奴がいるってのに放っておくことはできない……行こう!!」

バーバラ「うん!!」

ランプの魔王(…………命知らずの馬鹿者どもが……だが奴らならあるいは……)

――――謎のダンジョン・最深部
ハッサン「一体どこまで続くんだこの洞窟は!!」

バーバラ「ホントね~、嫌になっちゃう」

勇者「…………」ゴクッ

テリー「……近いのか?」

勇者「あぁ……多分すぐそこだ」

シックス「おー、階段だ!!これが最後の階段だといいけ…………」

シックス「!!」ゾワッ

ミレーユ「……!!」ビクッ

勇者「……!!」ブワッ

チャモロ「……!!」ゾクッ

ハッサン「へ、へへ……勇者みたいに魔物の気って奴はわかんねぇ俺でもわかるぜ……ここは…………ヤバイ!!」

バーバラ「……ここも……どこかで見たことある……しかもその時すごく嫌なことがあったような……」ワナワナ

テリー「扉だ」

ギイィ……

テリー「ここは……!?」

ハッサン「台座にカエルとトカゲの供え物だぁ?気味の悪いとこだぜ……」

ミレーユ「この場所……グレイス城じゃない?」

勇者「グレイス城?」

ハッサン「どこだっけそれ?」

チャモロ「オルゴーの鎧の祀ってあった城ですね……大魔王すら喰らう悪魔を召喚して滅んだと言う……」

シックス「…………じゃあまさか!!」

ゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!!

テリー「…………ッ!!」チャキッ

???「ぶるあああああああああ!!!!!!」

ゴウッ!!

勇者「な、何だ!?」

???「私を呼び醒ます者は誰だ?」

???「私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり……」

シックス「ダーク……ドレアム……」ゴクッ

ダークドレアム「私は誰の命令も受けぬ……全てを無に返すのみ……!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

チャモロ「来ますよ!!」サッ

ダークドレアム「ぶるああああああ!!」

ダークドレアム『ギィガァデイン』!!!!

ズガガーーーン!!

バリバリバリ!!

ミレーユ「きゃっ!!」

テリー「くっ!!」

勇者「ギガデインを易々と使ってくるとは……!!」

バーバラ「みんな下がって!!」サッ

バーバラ『ビッグバン』!!!!!!

グゴゴゴゴ……!!

ダークドレアム「むっ!?」

カッ!!

ドッガアアァァァン!!!!

ダークドレアム「くっ……!!」ズザザザザー!!

バーバラ「な!?ビッグバンをくらってあの程度なの!?」

ダークドレアム「邪魔だぁ小娘ぇ!!」ギンッ

バーバラ「あっ……」フラッ

ドサッ

シックス「バーバラ!!」

チャモロ「大丈夫!!眠っているだけです!!」サッ

テリー「くそっ!!アイツの目を見るな!!」

勇者「んな無茶な!!」

ハッサン「くそったれぇ!!!!」

ハッサン「スゥーーー」ピタッ

ハッサン『輝く息』!!!!

ビュウウゥゥゥ!!!!

ダークドレアム「ぶるあああああああ!!!!」

ゴォオオォォォ!!!!

ジュワアアァァ!!

ハッサン「なっ!?『灼熱』で相殺しやがった!?」

ダークドレアム「はあっ!!」

シュバババッ!!!!

ハッサン「ぐおっ!?」ガハッ

シックス「一瞬でも気を抜いたらやられるぞ!!」

シックス「俺、勇者、ハッサン、テリーは攻撃、ミレーユとチャモロは回復、バーバラは攻撃兼サポートだ!!」

勇者「わかった!!」

テリー「へっ、相手にとって不足はねぇ!!」

ダークドレアム「ぶるあああああああああ!!!!!!!!」ゴオッ!!

――――
ダークドレアム『グゥラーンドクロスゥ』!!!!

キュワンッキュワンッ

カッ!!

テリー「ぐっ……!!」

ミレーユ「きゃあ……!!」

チャモロ『ベホマラ……』

ダークドレアム「遅ぉいッ!!」ビュッ

ドガンッ!!

チャモロ「が……はっ!!」

ダークドレアム「トドメだぁ!!」

ハッサン「させるかよ!!……らぁ!!」

【ハッサンは腰を深く落とし真っ直ぐに相手を突いた!!!!】

ダークドレアム「アッーーーーーーーーー!!!!」

ハッサン「へへっ」ニッ

ダークドレアム「……と、言うとでも思ったかぁ?」ニヤッ

ハッサン「なっ!?」

ダークドレアム『メラゾーマ』!!!!

ゴオォォォ!!!!

ハッサン「ぬわーーっっ!!」

バーバラ『バイキルト』!!

勇者「だあぁ!!」

勇者『諸刃斬り』!!!!!!

ズバァン!!

ダークドレアム「ぐぅ!?」ヨロッ

勇者「どうだ!!……っつ」ハァハァ

ダークドレアム『ぶるあああああああああああああああああ』!!!!!!!!!!

ゴオッッッッ!!!!!!

勇者「うわぁーーー!!」ドッ

バーバラ「きゃぁあーー!!」ドッ

ドサドサッ

ダークドレアム「さぁ……残るは貴様だけだぞ……」チャッ

シックス「…………あぁ、これで決着を着けよう」グッ

シックス「はぁあああああ!!!!」

バチバチ……バチバチバチバチ!!

キイィィィィィィン!!!!!!

ダークドレアム「ほぉう……『勇者』の秘剣ギガスラッシュか……」

ダークドレアム「良いだろう、ならば私は地獄のいかずちで応えようじゃあないか」

ゴゴゴゴゴゴッ!!

ビキビキ

ガラガラガラ

シックス「だりゃぁああああ!!!!」ドンッ

ダークドレアム「はぁっ!!」

ダークドレアム『ジゴスパー……!!』

ガシガシッ!!

ダークドレアム「なっ!?」

ハッサン「させねぇよ」ニッ

テリー「勝手に終わらせるんじゃねぇよ」ハァハァ

チャモロ「貴方の相手は私達全員ですよ?」ゼェゼェ

勇者「そういう……ことだ」ニヤッ

ダークドレアム「貴様らぁ、死に損ないの分際でぇ!!」

勇者「シックスーー!!今だぁーーー!!!!」ガフッ

シックス「ぅうおおおおおお!!!!!!」

シックス『ギガスラーーーッシュ』!!!!!!

ズッバァァァン!!!!!!

ダークドレアム「ぐっはぁぁぁ…………!!」

ブシャアァァァ!!!!!!

ダークドレアム「ば、馬鹿なぁ……」

シックス「ハァ……ハァ……!!」ゼェゼェ

ハッサン「どうやら……なんとか勝てたみたいだな……」ドサッ

勇者「……あぁ……」ドサッ

ダークドレアム「まさかこの私が破れるとは……」

ダークドレアム「しかし何者もこの私の息の根を止めることはできぬ……」

ダークドレアム「私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり」

ダークドレアム「私を滅ぼしたければもっともっと強くなることだな」

ダークドレアム「私との戦いにこんなに時間がかかっているようでは真に私を負かしたとは言えぬだろう」

ダークドレアム「私はいつでもここにいる。さらに腕を上げてここに来る日を待っているぞ」ニッ

シュウゥゥ……

フッ……

勇者「気配が消えた……」

バーバラ「ただ倒しただけじゃダメなの!?気が遠くなりそう……」

ハッサン「ケッ、負け惜しみほざきやがって……」

勇者「……でもアイツは本気じゃなかった……力をセーブして闘ってた……まるで俺達との闘いを楽むかのように」

テリー「手玉にとられたみたいで気に食わないな……」ギリッ

ミレーユ「全てを無に返す破壊と殺戮の神……恐ろしいけれど……でも私達が立ち向かわなきゃならないわね」

チャモロ「えぇ……」

シックス「まだまだ修行が足りないってことだな……さて、とりあえず地上に帰ろうか。みんなボロボロだもんな、ゆっくり休もう」ハハッ

――――現実世界・レイドック城
シックス「調子はどうだ、勇者?」

勇者「うん、お陰様でもう全快だよ。しっかし立派なな城だな~、シックスがこのお城の王子様とはねぇ~」

ハッサン「だよな、なよっちくてそんな風には見えねぇよな~、俺なんて初めて会った時王子様だと知らずにどついちまったぐらいだ」

バーバラ「それは100%ハッサンが悪いと思うけどね」

ミレーユ「えぇ」

ハッサン「ちぇっ」

シックス「デスタムーアを倒して世界が平和になったらまた昔みたいに国政を学ばなくちゃなぁ……」

チャモロ「そうですね、大魔王を倒しても私達の人生はその先もずっと続いていくのですからね」

テリー「あぁ、そのためにもなんとしてもデスタムーアを倒さなけりゃな」

バーバラ「うん……そうだね」

キラキラキラ……

勇者「おっ?」

ハッサン「なんだぁ?勇者が急に光だしたぞ?」

バーバラ「勇者、もしかして……」

勇者「……うん、お別れだ」

シックス「勇者……」

キラキラキラ……

ハッサン「……勇者、ここでお別れだけどよ、その……ありがとな。お前と過した時間、楽しかったぜ」ヘヘ

勇者「うぅん、お礼を言うなら俺の方だよハッサン」

チャモロ「勇者さん……短い間でしたが一緒に過ごせて私も楽しかったです。ご武運をお祈りしてます」

ミレーユ「私も勇者を応援してるわ。一緒に闘えないのが残念だけれど……私達はいつでもあなたの味方よ」

勇者「うん……ありがとう、チャモロ、ミレーユ」

テリー「フン、お前の世界の魔王がどれだけ強いか知らないが敗けたら許さないからな」

勇者「ははっ、そりゃこっちの台詞だ、テリー達も敗けんなよ」ニッ

バーバラ「勇者……」

勇者「……バーバラ……その……」

バーバラ「あの日は話聞いてくれてありがとうね、あたしのことなら心配いらないよ」

勇者「…………」

バーバラ「あたしも勇者が悪い奴やっつけられるように応援してるから勇者もあたし達が早く世界を平和にできるように応援してね?」

勇者「……うん、わかった」

バーバラ「うん♪お互いがんばろ」ニコッ

キラキラキラ……

勇者「シックス、色々教えてくれてありがとうな。俺また強くなれたよ」

シックス「っつっても俺は何も教えてない気もするけどな、全てはお前の努力の成果だ」ニッ

勇者「ありがとう」ニッ

キラキラキラ……

勇者「シックス……短い付き合いだったけどさ、俺との出会いも……お前に大切な思い出を作れたかな……?」

シックス「ハッ、何馬鹿なこと言ってんだよ」

シックス「思い出の大切さは必ずしも時間に比例するワケじゃないんだぜ?」

シックス「みんなも言ってただろ?お前と過した時間は楽しかった、って。俺も同じに決まってるだろ」

シックス「懸けがえのない時間をありがとう、勇者。お前のことはずっと忘れないよ」

勇者「…………そっか、そうだな、俺もみんなのこと忘れないよ!!」ニカッ

キラキラキラ……

シックス「元気でな、勇者」

勇者「あぁ、シックスも」

キラキラキラ

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ

フッ……

ハッサン「行っちまったかぁ~」

ミレーユ「勇者、明るくて元気だったものね……やっぱりいなくなるとちょっと淋しいわね」

チャモロ「そうですね~……」

バーバラ「うん……でも大丈夫だよ、あたし達が勇者のこと忘れなければ勇者はいつまでもあたし達の心の中で一緒」

バーバラ「勇者と過した大切な時間と一緒に……ね」

シックス「そうだな……それはバーバラも同じだよ」

バーバラ「……え?」

シックス「この先離ればなれになって会えなくなっても、俺達はバーバラと冒険した日々は絶対に忘れないよ」

バーバラ「え?え?シックス……もしかして知って……?」

ミレーユ「みんなわかってるわ、大魔王を倒して世界の歪みが正されてしまったら……夢の世界の住人であるバーバラは在るべき世界に帰って二度と私達に会えなくなるだろうってこと」

チャモロ「私達も馬鹿じゃないですからみんな薄々勘づいてたんです……ただそれを言葉にするのが怖くて言えなかっただけで……」

ハッサン「ったく水臭ぇよな、もし俺達が気づかなかったらさよならもなしに行っちまうつもりだったのかよ?」

バーバラ「……それは……」

テリー「俺は一人で旅していた時間が長いから仲間って奴はよくわからないが……それでも黙って別れるべきじゃないことぐらいわかる」

バーバラ「…………」

ミレーユ「みんなが自分のこと知ったら最後の闘いがやりづらくなるんじゃないかと思って言わなかったんでしょ……?」

バーバラ「……あ、あたし……みんなと離ればなれになるのが淋しくて……面と向かってさよならなんて言えなくて……」

バーバラ「でもみんなには世界を平和にするために全力で闘って欲しくて……どうしたらいいのかわからなくて……その…………」

シックス「大丈夫だよ」ギュッ

バーバラ「……シックス……」

シックス「さっき自分で言っただろ?……俺達は離れていてもずーっと一緒だよ……バーバラはいつまでも俺達の仲間だ」ギュゥ…

バーバラ「…………う……うぅ……」ブワッ

ハッサン「そーゆーことだぜ。だからお前が心配することなんてなんにもねぇんだよ」

ミレーユ「無事に大魔王を倒せたら笑顔でお別れしましょう」ニコッ

チャモロ「それが一番ですよ」

テリー「だな」

シックス「……な?」

バーバラ「…………ひっぐ……えぐっ……うん、うん!!」ギュッ

バーバラ「……ありがとうみんな……ありがとう……!!」ポロポロ

ハッサン「へへっ」

ミレーユ「うふふ」

テリー「こういう泣けるシーンも勇者の村には伝わっていたのかな…………ん?…………」ムゥ…

ハッサン「? 何難しい顔してんだオメェは?」

テリー「……すまない、少し引っかかることができたから考え事を」

ハッサン「ったく、感動のシーンだってのによ」

テリー「…………」

テリー(勇者の話によると……勇者の村は別世界の勇者達の伝承を語り継ぐ村だったらしい……)

テリー(だが……何故勇者の伝承を語り継ぐ村はその村だけだったんだ?)

テリー(複数の村で勇者の伝承を語り継ぐなり世間に広めるなりしておけば勇者の住んでいた村が魔族側に特定されることもなかった……)

テリー(『この村から勇者が生まれますよ』と言っているようなもんじゃないか)

テリー(勇者の伝承を1つの村でのみ語り継いでいたのにはやはり意味があるのか……?)

――――謎のダンジョン・最深部
ダークドレアム「ぐぅ……!!」ヨロッ

ダークドレアム「まさかこの私が敗れるとは……」

ダークドレアム「だが私との戦いにこんなに時間がかかっているようでは真に私を負かしたとは言えぬだろう」

???「ふむ……そうですか……やはりデスタムーア様の仰った通り貴方は力の権化とも言える存在、私などが真に勝てる相手ではなかったということですね」

ダークドレアム「……しかしよもや一人でこの私を打ち負かすとは……貴様何者だ……?」

――――星の海
勇者「ただいま、ルビス」

ルビス『おかえりなさい、今回は随分と闘いに明け暮れたようですね』

勇者「あぁ、もう毎日毎日魔物と闘ってばっかりで嫌になっちゃうっての」

勇者「まぁそのおかげでまた強くなれたけどな」グッ

勇者「そういやルビス、第六の世界にある『職業』ってわかる?」

ルビス『えぇ、それがどうかしましたか?』

勇者「なんか俺って他の人に比べると職業極めるの早いらしいんだよね~、シックス達も不思議がっててさ」

勇者「なんでかな?」

ルビス『それはおそらく貴方が『勇者』であるが故ですね……貴方が呪文を十日足らずで使えるようになったように、貴方は才能と素質の塊なのです』

ルビス『世界を救うため悪と対峙する選ばれし者……ならばそのための素質に恵まれていても不思議ではないでしょう?』

勇者「へぇ~……なんかご都合主義くさいな」ハハッ

ルビス『しかし慢心はいけませんよ。才能という花を咲かせるためには努力という水が必要不可欠なのですから……それに貴方がいくら素質に恵まれていても魔王に勝てるかどうかはわからないのですから……』

勇者「うん、わかってる。今回の修行でまだまだ俺は強くなれることが分かったからな、もっと修行してもっと強くなるよ」

ルビス『そうですか、それを聞いて安心しました。……さぁおやすみなさい勇者、また次の世界が貴方を待っています』

読んでる人いないと思うけど天空三部作編終わってキリがいいししばらく落ちますノシ

労力は買う

>>476 まぁ無駄な労力なワケだがww

――――第七の世界
パッ

勇者「第七の世界到着ーっと」スタッ

ザザーン……ザザーン……

勇者「ここは……船の上か……海ばっかりだなぁ……って当たり前か」アハハ

勇者「しっかし随分デカい船だなぁ……」キョロキョロウロウロ

ドンッ!

勇者・???「うわっ!!」ビクッ

???「お前誰だ?」

勇者「ビックリしたな~、なんだ子供か……」

???「オイラ『コドモ』じゃねぇぞ、オイラは『ガボ』だぞ」

勇者「ハハッ、変わった奴だな~」

ガボ「…………」クンクン

勇者「? な、なんか変な臭いするか?俺」スンスン

ガボ「お前いい奴だな、セブンと臭い似てるぞ」

勇者「セブン?名前からして七番目の勇者っぽいな……」

勇者「なぁガボ、俺をそのセブンのところに連れてってくれないか?」

ガボ「わかった!!」

――――海賊船マール・デ・ドラゴーン・船長室
???「……そうか、ダメだったか」

???「はい……せっかく手掛かりをくれたのにすみません」

???「いや、謝るのは私の方だ……不確かな情報ですまなかったな」

バァン!!

???「?」

ガボ「セブン!!コイツがお前に会いたいって!!」

セブン「え……僕に?」

勇者「やっぱり!!緑の頭巾にトカゲ!!七番目の勇者だ!!」

セブン「え?な、七番目……?」

――――
シャークアイ「別の世界から来たとは…………まったく不思議なこともあるものだな」

マリベル「なんか胡散臭いわねー……実は魔王の手先なんじゃないの」ジトー

勇者「違うっつーの」

マリベル「じゃあセブンとグル組んでドッキリとか」

セブン「ぼ、僕はそんなことしないよ!!」

マリベル「わかってるわよ、わったく冗談通じない男って嫌ね」

セブン「よく言うよ、マリベルだって人の冗談に本気でキレるクセにさ」ボソ

マリベル「な ぁ に ?」

セブン「なな、なんでもないよ」アハハ~

メルビン「ふむ……勇者殿は相当腕が立つようですな、しかもまだまだ伸びしろがある……そんなところでござるな」

アイラ「わかるの?」

メルビン「伊達にこの歳まで現役ではござらんよ」

勇者(このじいさんどことなくライアンに似てるな~)

メルビン「申し遅れた、拙者メルビンと申す。数百年前神と共に魔王と闘った兵で、今はこの時代に復活した魔王を倒すべくセブン殿と旅をしている」

勇者「す、数百年前!?だからこんな爺さんなのか……」

マリベル「そんなに長生きなワケないでしょ、神様が来るべき危機に備えてつい最近までメルビンを封印してたのよ」

アイラ「まぁ封印された時が既におじいちゃんだったみたいだけどね」

勇者「へぇ~」

アイラ「私はアイラ。神に仕えるユバールの民の踊り子で剣士もしているわ、よろしくね」

勇者「よろしく、アイラ」

マリベル「私はマリベル、フィッシュベルの網元、アミットの娘なんだから」

勇者「そ、そうか、よろしく~」

勇者(なんか第五の世界にいたデボラって人にちょっと似てるな……)

ガボ「オイラはガボだぞ!!よろしくな、勇者!!」

勇者「おぅ、よろしくなガボ」

セブン「ガボは本当は狼の子でね、訳あって今は人間の姿をしているんだ」

勇者「狼!?……なるほど、だから鼻が利くのか」

ガボ「おう!!」

セブン「僕はセブン、フィッシュベルの漁師の息子だよ。それと水の精霊の加護を受けた人間でもあるんだ、よろしくね勇者」

勇者「あぁ、よろしく!!……ところでそっちの人は?」

シャークアイ「む?私か?」

シャークアイ「私は海賊『マール・デ・ドラゴーン』の頭領にしてこの海賊船の船長を務めるシャークアイという者だ」

シャークアイ「数百年間封印されていたのをセブン達に助けて貰ってな、今はセブン達に協力しているというワケだ」

勇者「メルビンみたいなもんか~……なんか数百年とかスケールデカいよなぁ」

セブン「僕達は過去の世界と今の世界を行ったり来たりする旅をしてきたからね、慣れちゃってるとこもあるけど」フフッ

マリベル「……で、セブン。この世界での勇者の修行はどーすんのよ?」

セブン「そうだね、じゃあとりあえずダーマ神殿に行ってみようか」

勇者「!? この世界にもダーマ神殿があるのか!?」

セブン「え?それは勿論あるけど……」

メルビン「勇者殿の口ぶりから察するに他の世界にもダーマ神殿があるようでござるな」

勇者「うん、前の世界ではダーマ神殿で職業を極める修行をしてたからさ」

セブン「へぇ~、じゃあ話が早いや、早速ダーマ神殿へ向かおう!!」

――――ダーマ神殿
セブン「驚いた……勇者は下級職を全部極めているんだね」

勇者「まぁな」ヘヘッ

マリベル「でもなんで下級職を全部極めてから上級職を極めるなんて回りくどいやり方したのかしら?」

アイラ「たしかにそうね……」

セブン「推測だけど……六番目の勇者はこの世界にもダーマ神殿があることに気づいてたんじゃないかな?」

メルビン「なんと!?」

セブン「第六の世界と第七の世界……合計二十日で全ての職業を極められるようにしたんだと思うんだ。だから最初の十日では戦闘の基礎である下級職を全て極めさせた……」

勇者「……たしかに第六の世界で初日にシックスに他の世界の勇者の伝承について聞かれたな……」

勇者「特に七番目の勇者の伝承は詳しく聞かれたっけ、『どんな技を使ったんだ?』とか『どんな呪文を使ったんだ?』とか……」

セブン「多分その話で七番目の勇者……つまり僕の技や呪文の多彩さから六番目の勇者はこの世界にもダーマ神殿があるに違いないって確信したんだろうね」

ガボ「……???」

勇者「そっか……そんなことまで考えて……やっぱ勇者達はみんなすげぇな!!」

セブン「そうだね、おかげでこの世界で勇者は上級職を極めることに専念できるね」ニコッ

マリベル「ほら、方針が決まったんならさっさと転職してきなさいよ」

勇者「っしゃあ!!燃えてきたぜ!!」

――――第七の世界・三日目・ルーメン周辺の山地
勇者『火炎斬り』!!!!

ズバッ!!ゴオォッ!!

ローズバトラー「キシャアーー……!!」

ズズーン…

勇者「ふぅ……来る日も来る日も魔物との闘い……」

勇者「闘うことを宿命づけられた俺にふさわしい荒んだ日々だな……」フッ

マリベル「なーに哀愁漂わせてかっこつけてんのよ」ドゲシッ

勇者「あいたっ!!」

勇者「だってさ~、第六の世界に続いてこの世界でも魔物と闘ってばっかだぜ?俺も嫌になるよ~」ハァ

マリベル「そのうんざりするような魔物との闘いにあたし達は付き合ってやってるのよ?」

ガボ「オラは楽しいぞ?♪」

マリベル「アンタは黙ってなさい!!はーあ、疲れたわ~休憩しましょうよ」

セブン「そうだね、みんな疲れただろうし少し休もうか」フゥ

アイラ「勇者は順調に上級職を極めてるみたいね」

勇者「うん。だけど船乗りとか知らない職業もあったからな~……どの世界でも全く同じ職業ってワケじゃないんだなぁ」

セブン「でも前に勇者がやったっていう遊び人はこっちの世界で言う笑わせ師と同じようなものみたいだし大体は対応してるみたいだね」

勇者「それでもモンスター職ってのは初耳だったな~。第六の世界にはドラゴンとはぐれメタルの職業しかなかったけどこの世界には他にもいっぱいモンスターの職業があるんだろ?」

メルビン「うむ、モンスター職の数は通常職よりも多いでござるな。もっともモンスター職に就くためにはそのモンスターの『心』が必要でござるがな」

勇者「第六の世界の『さとりの書』みたいなもんだな……」

アイラ「時間が限られてる勇者じゃ全部のモンスター職を極めることはできないでしょうから残念ながらモンスター職はパスするしかないわね」

勇者「チェッ、せっかくだからモンスター職っていうのもやってみたかったなぁ」

セブン「まぁまぁ、通常職でもほとんどの呪文や特技をマスターすることはできるんだしさ、そこは我慢してよ」アハハ

勇者「まぁ俺に時間がないのはたしかだからな、できることを精一杯やるだけだ」

セブン「うんうん、その調子だよ」

セブン「…………っと、マリベル……後は任せていい?」

マリベル「わかったわよ、ほら、行ってきなさい」

セブン「うん。ごめんね、勇者。僕は用があるから……」

勇者「あぁ、いってらっさい」

ガボ「今度こそ見つかるといいな」

セブン「そうだね、じゃあ頑張って!!」

セブン『ルーラ』!!

ビュンッ!!

勇者(…………)

勇者「……なぁなぁマリベル、セブンって一体何の用があるんだ?昨日も用があるって言って途中でいなくなったし……」

マリベル「石版探しよ」

勇者「石版……?あ、あれか!!過去の世界に行くためには砕かれた石板の破片を集めて一つの絵にしなくちゃならないんだよな!!」

アイラ「よく知ってるわね」フフ

メルビン「セブン殿は未だ完成していない石版の欠片を探しに行っているのでござる」

勇者「へぇ~……」

マリベル「ま、そんなのただの建て前だけどね」

勇者「え?」

マリベル「石版探しはただのついで、本当にアイツが探してるのは…………友達よ」

勇者「友達……?」

マリベル「そ、友達」

ガボ「キーファのことだな?」

メルビン「キーファ殿……たしかグランエスタードの王子の……」

マリベル「そ、セブンの親友だったわ」

マリベル「何をするにも二人一緒、いつも二人でいたずらして……あたし達がこうして旅をするきっかけを作ったのもアイツね」

マリベル「でも旅の途中、アイツある理由で過去で生きて行くことを決めたの」

マリベル「その時にあたし達のパーティを離脱して……そのまんま」

勇者「そのまんまって……会えないのかよ?石版で過去の世界に行けば簡単に会えるんじゃないのか?」

マリベル「世界各地を旅する一族と一緒に旅をしてるからね、一つの場所には長くいないみたいなのよ。だから会いたくてもどこにいるかわかんないってワケ」

アイラ「…………」

マリベル「ホント、馬鹿よね……」

マリベル「惚れた女を守るために親友と別れたキーファも、その親友にまた会うために過去へ行って世界中を探して回ってるセブンも……ね」

勇者「…………」

勇者「……でも俺セブンの気持ちわかるな」

マリベル「……そうなの?」

勇者「うん。俺の仲良かった友達……もう死んじゃったから会えないけどさ、そのセブンの友達は過去の世界のどこかにいて生きてるんだろ?」

勇者「だったら、会える可能性が0じゃないなら、俺も探しに行くと思うな……」

マリベル「会ってどうするワケ?キーファはもうその一族の一員でこっちの世界には帰ってこれないのよ?それなのに会ったってつらいだけじゃない」

勇者「うーん…………まぁ会えたらそれでいいんじゃない?」

勇者「馬鹿な話して『じゃあな、またな』って別れてさ、そんで十分だよ」

マリベル「………………ふ~ん………………」

マリベル「………………男ってみんな馬鹿なのね」ボソッ

勇者「え?何?よく聞こえなかったんだけど……」

マリベル「いいのよ、なんだって。ほら、休憩おしまい!!ガボ!!」

ガボ「おぅ!!」

ガボ「すぅーーー……」

ピーーーーッ!!

ローズバトラーb「シャア!!」ガサガサ

ローズバトラーc「キシャア」ガサガサ

勇者「ちょ、いきなりだな!?」

マリベル「アンタには時間がないんでしょ?休んでないでさっさと闘いなさいよ!!」

勇者「……自分で休憩したいって言ったクセに……」チェッ

マリベル「何か言ったかしら?」ゴゴゴゴゴゴ

勇者「い、いえ!!直ちに戦闘を開始致します!!」

メルビン「なにやらいつものセブン殿とマリベル殿を見ているようでござるな」ニッ

アイラ「ホントね」クスッ

――――夜・ルーメンの宿屋
ガボ「がぁー……ぐぅー……」

マリベル「すやすや」

アイラ「すー……すー……」

メルビン「ぐぅ……ぐぅ……」

勇者「…………」パチ

勇者「…………」キョロキョロ

勇者「…………」ソロリソロリ

パタン…

アイラ「…………」パチ

メルビン「…………」パチ

メルビン「む?アイラ殿もでござるか」

アイラ「メルビンこそ」

メルビン「吾輩老いたとは言え戦士でござるからな、寝込みを襲われないように熟睡はしないため眠りが浅いのでござるよ」

アイラ「フフ、私も同じよ」

アイラ「でも勇者はなんだってこんな夜中に外に出ていったんだろうね?」

メルビン「うむ、それが気になるでござるな」

アイラ「ちょっと後つけてみましょっか」ニッ

――――ルーメン周辺の山地
勇者「ハァ……やっぱ上級職は極めるのが大変だな……何回『口笛』吹いたことか……」

勇者「いやいや、めげるな俺!!頑張れ俺!!」

勇者「すぅーーーー……」

ピーーーーッ!!

ローズバトラーq「シャア!!」ガサガサ

ヘルクラッシュn「ガオォ!!」ドシンドシン

ガサッ

勇者「よっ!!」ダッ

勇者『五月雨斬り』

ズババッ

ローズバトラーq「ギャゥ!?」

ヘルクラッシュn「ギャオゥ!?」

勇者「あちゃー……まだ一撃じゃ倒せないか、他の勇者達みたいに上級の魔物も一撃で倒せるようにならないとなぁ、っと」

勇者『岩石落と……』

ローズバトラーq「シャ……」ヨロロ

ヘルクラッシュn「ガゥ……」ヨロロ

ドッシシーン

勇者「……ってあれ?」

アイラ「一人で夜中に何してるのかと思ったら」

メルビン「修行をしているとは驚いたでござるよ」

勇者「アイラ!!メルビン!!」

勇者「なんでここに?寝てたと思ったのに……」

アイラ「私達は眠りが浅いからね、それより勇者こそ何してるのよ」

メルビン「修行に熱心なのは結構でござるが一人では万が一の時に助けもないし危険でござる」

勇者「あ~……うん、ごめんごめん」アハハ

勇者「でもなんとかして職業を早く極めて時間を作りたいなぁ……って」

アイラ「そんなに急ぐこともないでしょ?修行は順調なんだし……」

勇者「それはそうなんだけど……」

メルビン「?」

勇者「今日マリベルからセブンの話を聞いたからさ、修行が早く終わったら俺もセブンの友達探し手伝えないかなぁって思ってさ」

勇者「ほら、俺ってどの世界でも他の勇者に世話になってばっかりだからさ、たまには恩返しもしたいかなぁ……なんて」ナハハ

メルビン「なるほど、そういうことでござるか」ニコッ

アイラ「可愛いとこあるじゃないの」フフッ

メルビン「しかし昼間魔物と闘って疲労しているのに夜中もこうして魔物と闘うのはやはり危険でござるよ、しかも一人で」

勇者「う……はーい……」キン

勇者「じゃあ宿屋に戻るか」

アイラ「あら、どうして?」

勇者「え?だって今、夜魔物と闘うのはダメだって……」

アイラ「"一人で"闘うのはダメって言ったのよ」フフッ

メルビン「吾輩達もお手伝いするでござるよ」ニカッ

勇者「え……」

アイラ「セブンにはいつも世話になってるからね、恩返ししたいのは私達も一緒よ」

メルビン「吾輩昔の戦友は一人も生きておらぬ故セブン殿や勇者殿のように会える可能性が0でないのなら世界中探してでも会いたいという気持ちはよくわかるでござる」

勇者「二人とも……」

メルビン「さぁ、では月夜の修行と参ろうではござらんか」チャキ

勇者「あぁ!!」チャッ

――――第七の世界・六日目・洋上
シャークアイ「左舷弾幕薄いよ!!なにやってんの!?」

海賊a「左舷弾幕張れーー!!」

シャークアイ「三番から五番、撃てぇ!!」

海賊a「了解!!三番から五番、撃てぇ!!」

ドン!!ドドン!!

ギャオース「ギャオォ……!!」

グレイトマーマン「ぐふっ……!!」

海賊b「魔物共め、七つの海を支配する海賊、マール・デ・ドラゴーンを舐めるなよ!?」ギャハハ

海賊c「おととい来やがれってんだ!!」ガハハ

勇者「すげー、メチャクチャ頼りになるな。流石海賊、海の闘いはお任せって感じだな♪」

シャークアイ「ハハッ、まぁな。海上での闘いには慣れたか?」

勇者「お陰様でな♪今まで海の魔物と闘う機会なんてなかったしいい修行になったよ」

シャークアイ「それはなによりだ」

セブン「職業の方はどう?」

勇者「おぅ!!ついさっき海賊も極めたぜ!!」グッ

セブン「じゃあ残りはゴッドハンドと天地雷鳴師と勇者だけ?」

勇者「おぅよ♪」フフン

セブン「すごいな~、こんなに早くに職業を極めていけるなんて」

勇者「フッフッフ、まぁ秘密の……おっと、これ以上は言えねぇな」ニヤッ

マリベル「何よ、なんか隠し事があるわけ?」

勇者「別に~」ニタニタ

マリベル「アタマくるわね~」イラッ

アイラ「フフフッ」クスクス

メルビン「フム」ニッ

ガボ「?」

セブン「二人は何か知ってるの?」

メルビン「さて、吾輩は何も」チラッ

アイラ「私も」チラッ

セブン「あー、あやしいな~」笑

シャークアイ「セブン、勇者が今の職を極めたのならダーマ神殿へ向かうのか?」

セブン「そうですね」

シャークアイ「ここからなら船で行くのもルーラで行くのもたいして時間はかかるまい、送っていってやろう」

セブン「ホントですか!?ありがとうございます!!」

マリベル「じゃあ着くまであたしは下の宿屋で休んでるから」

アイラ「私達もそうしましょうか」フワァ~ァ

メルビン「うむ、吾輩も最近夜遅いのでここいらで仮眠を……」アワワ

セブン「ガボはどうする?」

ガボ「オラはセブン達と一緒にいるぞ!!」

セブン「そっか、じゃあ僕と航海の手伝いでもしてようか」

ガボ「おう!!」

勇者「お、面白そうだな、じゃあ俺もやる!!」

シャークアイ「そうか、では……」

セブン「第三、第四マストを畳んで来ればいいですか?」

シャークアイ「言わなくてもわかっているか、さすが漁師の息子だな。ではよろしく頼む」ハッハッハ

セブン「はいっ」タタッ

ガボ「ほっ」タタタッ

勇者「あ、待てよ!!二人とも」タタッ

――――
セブン「勇者ぁ、そっちのロープ引いてー!!」

勇者「よっしゃ、わかったぁー!!」

勇者「ガボ、いくぞ」

ガボ「おう!!」

勇者・ガボ「せーのっ!!」グイッ

スルスルスル……

勇者「えーと、これをこうして……」クルクル……キュッ!!

勇者「これでよし!!」

セブン「ありがとう、二人とも!!」

セブン「こっちに登っておいでよ!!」

ガボ「勇者早く」タタンッ

勇者「お前は身軽すぎるんだよ!!……っと」タンッ

セブン「どう?ここからの眺めは」

勇者「ぉ……おぉ!!」

勇者「海も綺麗だし水平線の向こうに見える沢山の島も綺麗だな♪」

セブン「でしょ?♪」

セブン「あの島には何があるんだろう?この海の向こうには何があるんだろう?って、そんなことを考えるとわくわくしない?」ニッ

勇者「あぁ、たしかに!!」

セブン「そのわくわくが僕がこの冒険を始めたきっかけなんだ」

勇者「そうなの?」

セブン「うん。元々この世界には僕たちの故郷の島しかなくてね、他の島や大陸なんかどこにもなかったんだ」

勇者「あぁ、昔魔王が世界を切り取ってバラバラにしちゃったんだっけ?」

セブン「そうそう」

セブン「一つの島に一つの城と一つの村。それしかない世界に退屈してさ、友達と一緒に島中冒険して……謎の遺跡を見つけて……それからは遺跡の謎を解こうって毎日が新鮮だったなぁ……」

セブン「遺跡の謎を解いて初めて知らない島に行った時、すっごく興奮した」

セブン「初めて魔物と闘った時、すっごくドキドキした」

セブン「それからも知らない島に行く度に『ここには何があるのかな、って』いつもわくわくしてたな~」

セブン「知らない何かを知った時、見たことのない何かを見た時、聞いたことのない何かを聞いた時……自分の中に新しい世界が広がる」

セブン「だから僕は知りたいくて見たくて聞きたくて、こうして旅をしているんだと思うんだ」

勇者「へ~……」

セブン「勇者は冒険とかしたことある?」

勇者「いや、ほとんど村で生活してたからな~、たまに遠出して王都まで遊びに行ったくらいかな」

セブン「そっか。勇者が自分の世界を平和にできたらさ、世界中を旅してみなよ。きっと勇者の知らないものや知らないことがいーぱいあるハズだよ♪」

勇者「そうだな~、その時はそうしてみよっかな」

勇者「まぁ今こうして色んな世界に行ってるのが既に大冒険だけどな」ハハッ

セブン「たしかに」ハハッ

海賊c「おーーい!!そろそろダーマに着くぞーー!!」

セブン「わかりましたー!!今行きまーす!!」

――――第七の世界・十日目・ダーマ神殿

神官「それでは勇者よ、『勇者』の気持ちになって祈りなさい」

勇者「…………」ゴクッ

神官「おお、この世の全ての命を司る神よ!!勇者に新たな人生を歩ませたまえ!!」

パアァァ

勇者「……!!」

神官「これで勇者は『勇者』として生きてゆくことになった。生まれ変わったつもりで修行を積むが良い」

勇者「…………」

メルビン「なんとか間に合ったでござるな」

セブン「予定じゃ今日の夕方ぐらいに転職する予定だったからね。むしろ早いくらいだよ」

セブン「……どう?晴れて『勇者』になった気分は?」

勇者「すげーしっくりくる……ゴッドハンドも良かったけど『勇者』がやっぱり一番俺に合うな、自然な感じがするし……」ギュッ

セブン「そっか、僕も『勇者』が一番しっくりくるしそういうものなのかもね」フフッ

マリベル「じゃあさっさと魔物と闘いに行くわよ、アンタ今日でこの世界とはお別れなんでしょ?」

勇者「あぁ、そのことなんだけどさ……セブン」

勇者「その……セブンの友達探し、俺も手伝うよ」

セブン「え?」

勇者「その時間をつくるためにアイラやメルビンに手伝ってもらって修行を早めてきたんだ」

勇者「俺の魔力知覚は人探しにも役立つと思うし」

セブン「…………」ジトー

マリベル「な、なによ」

セブン「いつから知ってたの?って言うかなんで喋ってるんだよ」ムスッ

マリベル「そ、そんなのあたしの勝手じゃない」

セブン「はぁ~……弱ったなぁ」ガシガシ

セブン「勇者、君は自分の世界を救うために少しでも力をつけておかないとならないんでしょ?その気持ちだけで僕は十分だよ」ニコッ

勇者「そう言うと思ったけどさ、最後に恩返しさせてくれないか?」

勇者「『勇者』の職を極めることなら他の世界でもできるしさ、な?」

セブン「…………」

メルビン「セブン殿、勇者殿はセブン殿に恩返しがしたいと夜中にも魔物と闘って修行していたのでござる」

アイラ「そうよ。セブンは優しいからこういうのは嫌かもしれないけど……たまには自分のわがままに他人を付き合わせるのもいいんじゃない?」

ガボ「オラもキーファに会いたいぞ!!」

セブン「……みんな……」

勇者「…………マリベルは?」

マリベル「何馬鹿なこと言ってるわけ?こうしている間にも世界は魔王の手に堕ちようとしているのよ?」

マリベル「そんな中一人の馬鹿が友達に会うために時間を割くなんてホンット馬鹿馬鹿しいったりゃありゃしないわ!!」

セブン「…………」

マリベル「……でもま、たまにはその馬鹿に付き合ってあげないこともないわよ」フンッ

セブン「マリベル……」

セブン「ありがとうみんな……じゃあ……今日一日だけ、僕のわがままに振り回されてくれないかな?」

勇者「あぁ、任せとけ」ニッ

――――石版世界・ウッドパルナ周辺
メルビン「しかしどうやってキーファ殿を探すのでござるか?」

ガボ「臭いか?」

マリベル「臭いって……アンタは今までどうやって探してたのよ?」

セブン「その世界の町の人に聞いたりして近くにユバールの民がいないか聴き込み調査かな」

マリベル「……よくそんな根気がいるマネしてたわね……」

セブン「へへっ」

マリベル「褒めてないわよ!!」ビシッσ

勇者「まぁそこで俺の出番なワケだ」ニッ

勇者「俺は人や魔物の魔力を知覚することができるからな、それを使って探してみるよ」

勇者「アイラ、ユバールの民って何人ぐらいで行動してるんだ?」

アイラ「そうね……二十人弱ってところじゃないかしら、多くて三十人か……」

勇者「ok、じゃあ人の魔力を感じとったら地図を見て町や城以外のところにそれぐらいの規模の集団がいたら怪しいってことだな」フム

セブン「すごいね、そんなこともできるんだ」

勇者「あぁ、でも俺はファイブみたいに知覚範囲がまだそんなに広くないからな、島だったらその島の真ん中ぐらいまで行かなきゃならないしデカい大陸なら何ヵ所か回らなきゃならないだろうし」

勇者「ホントはキーファって奴の魔力の波長を知ってたら一発でわかるんだけどな……」

セブン「でもずっと効率良くキーファを探せるよ♪」

ザッ……

アイラ「ここが大体この島の中心ね……」

勇者「………………」スゥ…

勇者「………………」

勇者「………………」パチ

勇者「セブン、地図くれるか?」フゥ

セブン「はい」

勇者「ん~…………ダメだな、この島にはいないみたいだな」

セブン「そっか……」

マリベル「なにグズグズしてんの、いないと分かったら早く次の石版世界に行くわよ、時間がないんだから」

セブン「そ、そうだね!!」

――――石版世界・マーディラス周辺
アイラ「中々見つからないわね」

マリベル「ホントよ、やっとそれらしい集団見つけたと思ったら盗賊のアジトだった時は発狂しそうになったわ」イラッ

勇者「マリベル暴れてたもんな~」アハハ

メルビン「まぁとは言え犯罪を未然に防ぐことができたのは良かったでござる」

セブン「それぞれの石版世界が同じ時代ってワケじゃないからね、別の時代ならその場所にユバールの民がいるかもしれないし、もしかしたらキーファのいない時代ってことも有り得るからね」

マリベル「アンタよくこんな途方もないことしてたわね」

セブン「へへっ」

マリベル「だから褒めてないわよ!!」ビシッσ

勇者「時間的にここが最後かな……」

勇者「………………」スゥ

勇者「………………」

勇者「………………」パチ

ガボ「地図だぞ」

勇者「ありがとう」

勇者「ん~と、こことここと…………ん!?」

セブン「どうしたの!?」

勇者「ここ、山の中に20人くらいの集団がいる。今度は動物っぽい魔力も感じたし当たりかもしれない!!」

メルビン「最後の最後で当たりがきたでござるな!!」

セブン「キーファ!!」ダッ

マリベル「あ!!待ちなさいよ、セブン!!」ダッ

――――山中
セブン「こっちでいいの、勇者!?」ビュッ スタ ビュッ

勇者「あぁ、あの谷の下だ」ビュッ スタ

ガボ「人の臭いが近いぞ!!」ダダッ

セブン「……ほっ!!」スタン

セブン「…………」キョロキョロ

セブン「……これは……」

わいわい がやがや

スタッ

メルビン「……どうやら大規模な商人隊……キャラバンの様でござるな」

アイラ「ユバールの民の伝統的なテントもないし……ハズレね」

マリベル「あーあ、一日探して回ったのに結局見つからなかったわね」ハァ

勇者「……役に立てなくてごめんな」

セブン「ぅうん、いいんだ、みんながこうして僕とキーファのために力を貸してくれただけで嬉しいよ」ハハッ

勇者「でも……」

商人a「……あの~、すみません」

セブン「はい?」

マリベル「何よアンタ、売り込みならお断りよ」

商人a「いや、違います」

セブン「マリベル、いきなり失礼だよ……どうかしたんですか?」

商人a「旅人さん、もしかしてセブンさんですか?」

セブン「え!?……どうして僕の名前を……?」

商人a「やっぱり、キーファさんの名前を出したからそうじゃないかと思ったんですよ」ニコッ

マリベル「ちょっと!!オッサンキーファを知ってるの!?」

商人a「オッサンて失礼な……私はまだ20代です!!」ムッ

商人a「私達のキャラバンは世界各地を旅していましてね、何ヵ月か前にユバールという民族と少しの間行動を共にしていたんですよ」

アイラ「ユバールの民と……」

商人a「そこでキーファさんに出会いましてね、いやぁ逞しくて愉快な方でしたよ」

セブン「そうですか……キーファは元気に……」

商人a「おーい、商人b、商人c」

商人b「なんだ?」

商人a「この人がセブンさんだって!!ホラ、ユバールの民のキーファさんが話してくれた!!」

商人c「え!?本物かよ!?」

セブン「あの……もし良かったらキーファのこと、キーファが話してくれた話のこと、聞かせて貰えませんか?」

商人a「えぇ、勿論」ニッコリ

――――
セブン「ハハハハッ!!あれはたしかに傑作だったなぁ~、あの時のホンダラさんの顔といったら!!」

商人b「ホントにそんなマネしたのかよ!!」ゲラゲラ

商人c「キーファさんの作り話だと思ってたのになぁ」ケタケタ

勇者「ろくでもねーー!!」ヒーヒー

セブン「その後マリベルにも同じことしようとしたんだけど直前に王様にバレちゃって……」

マリベル「ちょっと、それ初耳よ!?」キッ

セブン「しまった!!」

アハハハハ!!


アイラ「……楽しそうね、セブン」

メルビン「そうでござるな」

アイラ「キーファには会えなかったけれど……これで勇者も頑張ったかいがあったわね」

メルビン「うむ」

商人a「しかしこうしてセブンさんに会えるとは思ってもみませんでしたよ」

商人b「まったくだなぁ」

セブン「それは僕も同じですよ、まさか僕達以外にキーファを知る人にこうして会えるなんて」

商人a「…………キーファさん、言ってましたよ」

商人a「『今の生活は充実してるしこの道を選んだことを後悔はしてない。けどセブンと一緒に冒険できないことだけが心残りなんだ』って」

セブン「…………」

商人a「この話をする時のキーファさんは決まってどこか遠い遠いところを見るかのように……少しだけ寂しそうな目をして言うんです」

商人a「でもその後、必ずニッコリ笑って言うんですよ」フフッ

商人a「『でもどんなに離れていても俺達は一緒だから寂しくなんてない。セブンもそう思ってるハズだ』ってね」ニコッ

セブン「そうですか……」

マリベル「…………」

勇者「…………」

商人「『なんたってアイツは俺の弟分だからな』とも言ってましたね」ハハッ

セブン「弟分、ですか」ハハッ

商人d「旦那ァーー!!そろそろ出発しましょうやー!!そろそろ日も暮れるしあまり遅くならないうちに次の町に着かないとー!!」

商人a「わかったーー!!」

商人a「では私達はこれで」ペコッ

商人b「アンタ達に会えて良かったぜ」ヒラヒラ

商人c「じゃあなー」ヒラヒラ

商人a「お元気で」

セブン「はい、こちらこそ今日はありがとうございました」

わいわいがやがや……

ガボ「行っちゃったな~」

マリベル「結局キーファには会えなかったわね」

セブン「うん……でも、もういいんだ」

勇者「え?」

セブン「キーファは元気でやってるってことがわかったし、それに……僕達は離れていても一緒だからね」

セブン「キーファがそう言ってくれたんだ、それなら僕も寂しくなんかないよ」ニコッ

メルビン「セブン殿……」

勇者「セブン」

セブン「うん?」

勇者「俺色んな世界で色んな人達に出会ったけど……必ず別れの時が来た」

勇者「だけど別れてもずっと一緒だと思ってるし、みんなもそう言ってくれた」

セブン「…………」

勇者「だからさ、別れは悲しいかもしれないけど出会えたことに意味があると思ってるよ」

セブン「……うん、そうだね。僕もそうだと思う」

セブン「この先何年経っても僕はキーファのこと忘れないよ。きっとキーファも僕のこと覚えていてくれると思う……」

セブン「……だって僕達は友達だからね」ニッ

勇者「あぁ、そうだな」ニコッ

キラキラキラ……

ガボ「!? 勇者が光ってるぞ!?」

メルビン「これは一体……!?」

キラキラキラ……

勇者「……お別れの時間か」

アイラ「そう……」

ガボ「勇者、オラ勇者と一緒にいられて楽しかったぞ!!」ニカッ

勇者「あぁ、俺もだよ、ガボ」ニッ

ガボ「もう会えないのか……?」

勇者「…………わからない、けどもし会えたら、また遊ぼうな♪」

ガボ「あぁ♪」

勇者「アイラ、メルビン……夜中まで修行に付き合ってくれてありがとうな」

アイラ「いいのよ、おかげでセブンの楽しそうな顔が見れたし」

メルビン「うむ、勇者殿もご自分の世界のため……いや、自分自身のために頑張って下され」

勇者「うん!!」

勇者「マリベル……」

マリベル「…………なによ」

勇者「色々キツいこと言ったりしてたけどマリベルが優しい娘なのはわかってるからな?」

マリベル「な、なによいきなり!?//」

勇者「もう少し素直になった方がいいと思うぜ」ヘヘッ

マリベル「うるさいわ!!さっさと行きなさいよ!!//」

キラキラキラ……

セブン「お別れだね、勇者」

勇者「うん……色々世話になったな」

セブン「そんなことないよ、むしろ世話になったのは僕の方さ」

セブン「今日はありがとう。商人さん達に会ってキーファの話を聞けたのは勇者のおかげだよ」

勇者「まぁそれぐらいしかできなかったけどな」ナハハ

キラキラキラ……

勇者「……なぁ、俺さ……世界が平和になったら楽しい時には一緒に笑って、悲しい時には一緒に泣いてくれる……そんな友達を作りたい」

勇者「……できると思うか?」

セブン「大丈夫、きっとできるよ」ニコッ

勇者「へへっ、ありがとう」

セブン「でも僕達だって友達だからね?忘れたりしないでよ?」

勇者「うん、勿論!!」ニカッ

セブン「頑張ってね、勇者。僕達も応援しているよ」

勇者「あぁ、セブン達もな」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

ガボ「勇者……ホントに消えちまったぞ……」

アイラ「なんだかあっという間だったわねぇ……」

メルビン「勇者殿にご武運があらんことを」

マリベル「…………」

マリベル「……ねぇ、セブン」

セブン「なに?」

マリベル「アンタホントにもうキーファを探さなくていいわけ?ホントは会いたいんじゃないの?」

セブン「うん……それはホントのこと言ったら会いたいよ?」

マリベル「じゃあ……」

セブン「でもね」

セブン「キーファが自分の選んだ道を一生懸命生きているのなら、僕だって自分の選んだ道を一生懸命生きなきゃ、って…………今日キーファの話を聞いて思ってさ」

セブン「だから僕は魔王を倒して、世界を平和にして……父さんの跡を継いで漁師になるんだ」

メルビン「ハハッ、世界を救った漁師でござるか」ハッハッハ

アイラ「おかしな話ね」クスクス

セブン「なんだよ~、そんなに変?」苦笑

マリベル「……でも……キーファはアンタに会いたいかもしれないじゃない」

セブン「大丈夫、きっとキーファもそれぞれがそれぞれの道を生きていくことを望んでいるよ」

マリベル「……なんでわかるのよ?」

セブン「なんたって……」

セブン「キーファは僕の自慢の友達だからね♪」ニッ

――――第七の世界・石版世界のどこか
男「おーい、キーファ!!もう上がっていいぞー!!」

キーファ「はい!!お疲れ様でーす!!」

キーファ「ふぅ~、疲れた疲れた」

ライラ「お疲れ様、キーファ。これ」スッ

キーファ「お、ありがとう」ゴクゴク

ライラ「貴方が私達と一緒に旅をして随分経つわね」

キーファ「あぁ、ユバールの民の一員として生きていくことにも大部慣れてきたよ」

ライラ「…………」

キーファ「どうした?」

ライラ「……私は今でも思うの、貴方はセブンさんと一緒に旅を続けていくべきだったんじゃないか、って……」

キーファ「なんだよ、俺がユバールの民の守り手じゃ不服なのか?」

ライラ「そうじゃないの!!貴方がこうして私と一緒ににいてくれること……私はすごく嬉しいわ」

キーファ「だったら……」

ライラ「……でも、セブンさんは貴方にとってかけがえのない大切な友達だったのでしょ?それなのに……」

キーファ「なぁに、そのことなら大丈夫さ」

キーファ「俺は自分でユバールの民として生きることを決めて自分の意志でセブン達と別れたんだ」

キーファ「セブンもそのことの意味をよくわかっているハズだ」

キーファ「アイツは俺のことを応援してくれてるよ、そして自分の人生を一生懸命生きてるだろうさ」

ライラ「……セブンさんの旅はとても過酷なものとなるハズよ……?心配じゃないの?」

キーファ「ん~……心配じゃないと言ったら嘘になるが……それもきっと大丈夫だ」

キーファ「ライラはセブンのことどう思った?」

ライラ「え?どうって……とても優しそうな人だなって……」

キーファ「でもさ、ちょっとガキっぽくて頼りなさそうじゃなかったか?」

ライラ「えぇっと……」

キーファ「ショージキに、な?」

ライラ「す、少しだけ……」

キーファ「だよなぁ」クックック

キーファ「でもさ、アイツはああ見えてしっかりした奴なんだよ」

キーファ「内に秘めた強さがあるって言うかさ、実はすげー頼りになる奴なんだ」

キーファ「だから大丈夫。俺がいなくてもアイツはやっていけるさ」

ライラ「……随分自信満々なのね」フフッ

キーファ「まぁな、なんたって……」

キーファ「セブンは俺の自慢の友達だからな♪」ニッ

――――星の海
ルビス『お帰りなさい、勇者』

勇者「ただいま~」

ルビス『……おや?雰囲気が違いますね?』

勇者「え?そうか?」

ルビス『えぇ、今まで見てきた他の勇者達と同じ顔つきになってきたと言いますか……』

勇者「あ!!あれじゃないか、『勇者』に転職したから」

ルビス『なるほど、だから勇者としての風格が出てきたのですね』

勇者「……なぁルビス、俺ってまた他の世界の勇者やその仲間達に会えるかな?」

ルビス『……そうですね……残念ながらそれはできないでしょうね……』

ルビス『こうして私の力で貴方を別の世界に飛ばしてはいますがこれは大変危険なことなのです』

勇者「危険?」

ルビス『えぇ……その世界に本来いるハズのない人間がその世界に現れるということは世界の因果律に影響を及ぼしかねませんし歴史が変わったりすることもあります』

ルビス『それに別世界への生物の転送はとても大きな魔力を必要とするのです』

ルビス『私は世界の観測者であり守護者……本来なら数多の世界に干渉することを許された身ではありません。ですから私の力ではもう……』

勇者「……そっか……」

ルビス『……寂しいのですか?』

勇者「うぅん。会えなくたって平気さ、アイツらは俺の大切な友達だからな」

ルビス『そうですか……』

勇者「……それと魔王軍の方は……?」

ルビス『…………既にいくつかの国が滅ぼされました』

勇者「ッ!!」

ルビス『……つらいでしょうが今は……』

勇者「わかってる、今は力をつけることに専念しろ、だろ?」ギリッ

ルビス『…………はい』

勇者「大丈夫、二十日後にはこの俺が魔王に一泡吹かせてやるよ」グッ

――――第八の世界
パッ

クルッ

スタッ

勇者「フッ……見たか、俺の華麗な着地を」キラン

勇者「……って誰もいないか」アハハ

勇者「さて、早いとここの世界の勇者を探さないとな……ここはどこかの町か……」キョロキョロ

???「違う!!わしは魔物じゃない!!」

荒くれa「嘘をつけ!!緑の皮膚の人間がいてたまるか!!」

荒くれb「俺達の町を襲いに来たんだろ!?」

ギャーギャー!!

勇者「…………?」

???「だからわしは呪いでこんな姿をしているだけで元は人間なんじゃ!!」

荒くれa「安っぽい嘘つきやがって!!」

荒くれb「そんなわかりきった嘘に俺達が騙されるかよ!!」

勇者「あの~……どうしたの?」

荒くれa「おぅ!!この魔物がこの町を襲いに来やがったんだ、それを俺達がいち早く発見してな、これから締め上げようとしてたところだ」

???「だから違うと言っておるのに……この無礼者めが!!」

荒くれb「あんだ?テメェ、偉そうに!!」

勇者「…………」ジー

???「な、なんじゃ?」

勇者「オッサン達、コイツは悪い奴じゃないみたいだ。見逃してやってくれないか?」

荒くれa「ぁあん?なんでそんなことお前にわかるんだよ?」

勇者「う~ん…………」

勇者(正直に悪の気を感じないって話しても信じてくれないだろうからなぁ……)

勇者「……だってホラ、いかにも弱そうじゃん」

荒くれb「む……たしかに」

荒くれa「言われてみればこんなチンチクリンが強い魔物だとは到底思えねぇな……」

???「黙って聞いておれば好き勝手言いおって!!」ムキー

勇者「な、そんなワケでさ、見逃してやってくれよ。もしもの時は俺がどうにかするからさ」

荒くれa「チッ、わかったよ」スタスタ

荒くれb「あーぁ、つまんねぇ。久々に暴れられると思ったのによ」スタスタ

勇者「ふぅ……無事で良かったな」

???「フンッ、まぁ一応礼を言っておこう」

勇者「いいっていいって、ただもう町に入っちゃダメだぞ、山で静かに暮らすんだ。人間の中には魔物はみんな悪い奴だって思ってる奴も沢山……」

???「だからわしは魔物じゃないと言っておるだろうが!!」ガー!!

勇者「ぇえ?いや、それはいくらなんでも無理があるだろ~」苦笑

???「ぬぬー、失礼な奴め……!!」グヌヌ

勇者「じゃああれか?ジェダイの騎士なのか?」

???「そうそう、緑のライトセイバーで……って違うわぃ!!」ビシッ

???「もぅいい、証人がいるからちょっとついてこい!!」グイッ

勇者「あ、おい!!」

――――パルミド郊外
ゼシカ「トロデ王ったらどこほっつき歩いてるのかしらね?」

ククール「パルミドでは酷い目にあったって言うのに懲りないよな」

???「たまにはハメを外したいんじゃないかな?」アハハ

ヤンガス「でも遅すぎでげすよ、置いていっちまいましょうぜ」ハァ

トロデ「なーにが、置いていっちまいましょうぜ、だ」ヌッ

ヤンガス「おっさんいつの間に!!」ビクッ

トロデ「お前はわしの家来のエイトの子分なんだからわしの家来も同然なんだぞ!?主君を置いていく奴があるか!!」コノ!!コノ!!

ヤンガス「俺の兄貴はエイトの兄貴だけでだって何度も言ってるだろ!!」コノ!!コノ!!

勇者(…………野獣と魔物…………)

勇者「……って、あー!!バンダナにネズミ!!八番目の勇者!?」

エイト「……?」

エイト「えーと……こっちの人は……?」

トロデ「おぉ!!そうだ、忘れていた。町で悪漢に絡まれたわしを助けてくれたんじゃ!!えーと…………」

勇者「あ、俺は勇者。よろしく」スッ

エイト「こちらこそ、よろしく」ギュッ

キイィィィン!!

エイト「…………っ!?」ヨロ

ククール「どうしたエイト!?」

ゼシカ「大丈夫!?」サッ

ヤンガス「やいテメェ!!兄貴に何しやがった!?」

エイト「だ、大丈夫だよ、みんな」フゥ

エイト「……そっか、短い間だけど改めてよろしくね、勇者」ニコッ

――――
ククール「……どうにも胡散臭いな」

ゼシカ「たしかに突拍子もない上に話が大きすぎてビックリしちゃったわ」

エイト「そこをなんとか信じてあげてくれないかな?」

ヤンガス「あっしは兄貴が信じろと言うなら信じるでげすよ!!」

ゼシカ「まぁ嘘だとしても悪い人じゃなさそうだし……」

ククール「どの道俺にはたいして関係のない話だしな」フンッ

トロデ「やはりただ者ではないと思っておったぞ」フフン♪

ヤンガス「自己紹介が遅れやした、あっしは元大盗賊のヤンガスでがす!!今は足を洗って大恩人である兄貴の舎弟をしているんでげす!!」

エイト「舎弟って……そんなんじゃなくていいっていつも言ってるのに」ナハハ

勇者「よろしく、ヤンガス」

ゼシカ「私はゼシカ、ゼシカ・アルバートよ。兄さんの仇を討つために旅に出て今はエイト達と一緒に旅をしてるの。よろしくね、勇者」プルン

勇者「…………」

ゼシカ「? どうかしたの?」プルルン

勇者「あ!!いや、な、なんでもない!!よろしくな、ゼシカ」アハ、アハハ

ククール「俺はククールだ。目的が同じだからコイツらとつるんでる、教会の聖騎士団の一員だが……そんなガラでもないんだがな、よろしくな」

トロデ「そしてわしがトロデーン城の王、トロデじゃ!!ラプソーンの杖の呪いでこんな姿をしておるが本当はもっとハンサムなのだぞ!?」

ヤンガス「後半は怪しいけどな」

トロデ「フン、モサい男に言われたくないわい」

ヤンガス「なんだとぉ!?」

エイト「まぁまぁ、二人とも」ハァ

トロデ「こっちが我が娘のミーティアじゃ、本来ならそれはもう美しい姫なんじゃがミーティアにも呪いがかけられておってな、今はこんな馬の姿じゃ……」ウゥ

ミーティア「ヒヒィン……」

勇者「……へぇ……だからなんかこの馬からは温かな感じがするんだな……早く元に戻れるといいな」ナデナデ

ミーティア「……♪」コクン

エイト「僕はエイト、トロデーン城の兵士だったんだけど今は呪われた城とトロデ王、ミーティア姫を元に戻すためにこうして旅をしてるんだ」

勇者「うん、よろしく」

エイト「……あ、あと僕の相棒のネズミのトーポだよ」スッ

トーポ「ミーミー」

勇者「…………」ジー

勇者「トーポも呪いか何かをかけられてるのか?」

エイト「? そんなことないよ、トーポはただのネズミだけど……どうかした?」

勇者「いや……それにしてはなんか変な感じがするな……」ジトー

トーポ「ミ!?」ギクッ

勇者「なんつーかオッサン臭いっつーか……」

トーポ「ミミ!?」ギクギクッ

勇者「まぁ気のせいだろ」

トーポ「ミー……」ホッ

ヤンガス「ところで兄貴、勇者に何の修行をつけてやるんでげすか?」

エイト「うん、そのことなんだけど……」

エイト「僕は勇者に剣術を教えてあげようと思うんだ」

勇者「剣術ぅ!?」

勇者「いやいや、だって俺剣の扱いには慣れてるぜ?剣技もいくつか使えるし魔物だって倒せる、今さらそんな……」

エイト「ふふ、そんなに自信があるなら僕がちょっと相手してあげるよ」ニコッ

エイト「えーと、たしか袋の中に桧の棒が二本……あ、あったあった!!」

エイト「はい、勇者、これ」ポイッ

エイト「先に相手に一太刀入れた方が勝ちでいいね?」

勇者「わかった」パシッ

エイト「先に言っておくけど全力でかかってきなよ?」

勇者「わかってるって!!よーし、見てろよ!!」

エイト「ゼシカ」

ゼシカ「えぇ」

ゼシカ「じゃあ…………始め!!!!」

勇者「だぁっ!!」ビュッ

エイト「ほっ」ガッ

勇者「せやっ!!」ブンッ

エイト「はっ」カッ

スカッ

コッ

ガッ

バシッ

ガガッ

ゼシカ「勇者の攻撃全然当たらないわね……全部防がれてる」

ククール「あんな無駄だらけの動きじゃ当たり前だ」

勇者「…………あれ?」ハァハァ

エイト「どうしたの?こんなもの?」

勇者「なろっ!!でやぁ!!」ブンッ!!

エイト「……」サッ

エイト「はぁ!!」ビュバッ

ドンッ

勇者「が…………っ!!」ガクッ

ヤンガス「さっすがぁ♪兄貴の勝ちでげす!!」

勇者「ぐぅ……おかしいな……今まで魔物と闘ってもこんなに手も足も出ないなんてことなかったのに……」ヨロッ

エイト「わかった?君の剣術はにわか仕込みの我流剣術、ただがむしゃらに剣を振り回しているのとたいして変わらないんだよ」

エイト「我流なのは僕も変わらないけど……でも『剣を使う』んじゃなくて『剣術』として昇華してあるからね、どうしたって君との差はできるよ」

勇者「そういうもんなのか……」フーム

エイト「特に一対一で闘う時にこの術があることとないことじゃ大違いだからね、君は魔王と闘うんでしょ?なら剣をもう少し使えるようになるべきだね」

エイト「勿論最終的には勇者には僕と同等かそれ以上の剣の腕になってもらうからね?」

勇者「おぅ、わかった!!」

エイト「剣を極めたのは僕の他にもう一人いるんだけど……」チラッ

勇者「?」

ククール「俺はパスだ、お前が教えてやるんだな」フッ

ゼシカ「そう言わずに修行に付き合ってあげたらいいじゃない」

ククール「先生、ってガラでもないんでね」

エイト「僕とククールじゃ剣術のスタイルが違うからククールも教えてあげて欲しかったんだけど……仕方ないね」苦笑

――――第八の世界・三日目・
ゴッ

勇者「ぐえっ!!」

ガッ

勇者「がっ!!」

ドッ

勇者「ごふっ!!」

勇者「」ピクピク

エイト「ほらほら、そんなんじゃいつまで経っても僕から一本取れないよ?」ハハッ

勇者「うーー!!まだまだぁ!!」ダッ

ブンッ

ビュッ

エイト「またそうやってすぐ力んで大振りになる……隙だらけだよ」ビュッ

ガスッ

勇者「ごっ!!」ヨロロ

エイト「あ!!ごめん!!いいのが入っちゃったね……大丈夫?」アセアセ

勇者「こ、これぐらいなんでもないぜ!!次いくぞー!!!!」

エイト「うん、その意気だよ」

エイト(……まだまだ粗削りだけど最初と比べるとこの短期間でずっと良くなってる……これならホントに十日でなんとかなるかもしれないな)

ガガッ!!

ゼシカ「毎日飽きもせずよくやるわね」

ヤンガス「でも勇者も一日目と比べて随分とやるようになったよな」

ゼシカ「まーね、……あれ?ククールどこか行くの?」

ククール「あぁ、修行をただ見てるだけなんて退屈だからな、カジノにでも行ってくる」

ヤンガス「遊ぶ金は……」

ククール「大丈夫、俺のポケットマネーだ。それぐらいの甲斐性はあるさ」

ククール「それじゃ」ヒラヒラ

ヤンガス「……まったく、アイツはいつもクールぶってると言うか……付き合い悪いよな。アイツのあーゆーとこがいけすかねぇんだ」チッ

ゼシカ「そお?結構面倒見のいい優しいところあるのよ?」

ヤンガス「アイツがかぁ?」

ゼシカ「うん。普段気取ってるけど不器用なんじゃないかな~……ちょっぴり照れ屋さんなのよ」ウフフッ

勇者「だぁぁぁ!!……ぐはっ!!」

――――夜・ベルガラックのバー
ククール「さて、そろそろ帰るか」

バニーa「えぇ~~、ククールちゃんもう帰っちゃうのぉ?」

バニーb「夜はこれからでしょ~?」

バニーc「そうよぉ~」

ククール「悪いな、今日はこれから他の女と約束があるんだ」

バニーb「えぇ~、つまんなーい」

バニーa「また来てくれるんでしょ?」

ククール「そうだな、最近は時間もできたから明日にでも来るよ」

バニーc「ホント!?嬉しい~」ギュッ

ククール「コラコラ、離せって」ハハッ

ククール「じゃあな」ピッ

バニー達「またね~」

――――エイト一行のキャンプ付近
ククール「……ふぅ、大分遅くなっちまったな……まぁみんな寝てるだろうし気にすることはないだろうけど……」

ブンッ!!ブンッ!!

ククール「……?」

勇者「せい!!」

ブンッ!!

勇者「はっ!!」

ブンッ!!

勇者「かぁ~、やっぱりまだまだなんだろうなぁ……いつまで経ってもエイトから一本取れないし……」ハァ

勇者「しかし修行あるのみ!!」

勇者「せい!!」

ブンッ!!

勇者「はっ!!」

ブンッ!!

ククール「……お前は剣と一つになれてないんだよ」

勇者「おわっ!!ククール!?なんでここに……!?」ビクゥッ

ククール「ふん、ただの気まぐれだ」

ククール「それよりお前、何を考えて剣を振ってるんだ?」

勇者「え?何を考えてって……やっぱ上手く剣を使えるようにならないとなぁって」

ククール「それが間違いなんだ」

勇者「?」

ククール「剣の達人にとって剣とは自分の体の一部のようなもんだ……お前は自分の手や足を上手く使えるようになりたい、なんて思うか?」

勇者「……」フルフル

ククール「だろ?手や足は自分の思い通りに動くから上手く使うもクソもないからな」

ククール「剣もそうだ。上手く使おうってのがそもそもの間違いだ」

ククール「剣という道具を使うんじゃなくて剣という体の一部を使うという意識が大事なんだ、そうすれば無駄な動きも減るし大振りだってしなくなる」

勇者「そうなのか……」

ククール「まぁ言ってすぐできるもんじゃないけどな」チャキ

勇者「!?」

ククール「酔いざましにはちょうどいいだろ、稽古つけてやるよ」

勇者「…………あ、ありがとう!!ククール!!♪」

ククール(…………やれやれ、こりゃしばらくバニーちゃんはお預けだな)

――――第八の世界・六日目
ゼシカ『双竜打ち』!!

ビュバッ!!

勇者「くっ!!」サッ

ガガッ!!

勇者「だぁ!!」ダンッ

ゼシカ「はっ!!」

ビュッ!!

勇者「っと!!」サッ

勇者「もらった!!」ブンッ

ゼシカ「甘い!!」タンッ

クルクル、スタッ

勇者「あぁー!!もぅ!!あとちょっとだったのに!!」

エイト「たしかに惜しかったね~」

エイト「『大事なのは間合い』。鞭の方が間合いが長いからね、相手の攻撃を避けながら自分の間合いに持っていく……言ったことちゃんとできてるね♪」

ゼシカ「ホント、正直危なかったわ」フフッ

ヤンガス「しっかしこの数日でよくここまで腕を上げたでがすな~、きっと兄貴の指導が良いんでげすな♪」ウンウン

エイト「ははっ、ありがとう。じゃあ次はゼシカと一緒にヤンガスも手合わせしてあげてくれないかな?一対多数ってシチュエーションもあると思うし」

ヤンガス「了解でげす!!」

勇者「うへぇ、二対一かよ」

ヤンガス「兄貴の期待に応えるためにもこの勝負絶対に勝たせてもらうぜ」ヘッヘッヘ

ゼシカ「それは趣旨が変わってると思うけど」苦笑

ククール「ふわぁ……朝からよくやるな」テクテク

エイト「あ、ククール今起きたの?おはよう」

ククール「あぁ」

エイト「…………ありがとうね」

ククール「ん?何がだ?」

エイト「またまたぁ、とぼけちゃって」フフフッ

エイト「夜中勇者に稽古つけてくれてるんでしょ?」

エイト「勇者の動きを見てればわかるよ、格段に良くなったし……ところどころククールらしい動きもしてるからね」

ククール「……別に、ただの暇潰しさ」

エイト「ふふっ、そういうことにしておくよ」クスクス

ヤンガス『烈風獣神斬ッ』!!!!

勇者「のわーー!!」

――――夜
勇者「いちち……」

エイト「ヤンガス、やりすぎだよ~」

ヤンガス「すいません兄貴!!しかしあっしも兄貴の舎弟第一号として後輩に負けるワケには……」

勇者「俺はエイトの舎弟じゃない!!」ビシッσ

ヤンガス「ぇえ!?違うんでげすか!?」

エイト「違うよ~、第一ヤンガスも僕の舎弟なんかじゃなくて仲間だし」アハハ

ヤンガス「兄貴……あっしは一生兄貴についていくでがす!!」ウルウル

エイト(う~ん……どうしたもんかな)苦笑

ゼシカ「エイト、そろそろご飯にしましょうよ。運動したから私もお腹ペコペコよ」

トロデ「うむ、わしも腹が減ったな」

ヤンガス「おっさんは何もしてないだろうが」ケッ

エイト「じゃあご飯の仕度をしなくちゃね、少し待っててね」

勇者「あ~い」

トロデ「勇者、お主ミーティアに食事を持っていってやってくれんか?ミーティアも話相手ができて嬉しいみたいでな」

勇者「ん、了解」

――――
勇者「はい、ミーティア姫。飯だよ」

ミーティア「ヒヒン」ムシャムシャ

勇者「しっかしな~、お姫様が草と水食べるしかないってのはあんまりだよな……」

ミーティア「ヒヒン、ブルルル」

勇者「だよな……ホントに酷い呪いだ」チッ

ミーティア「ヒヒーン、ヒヒン」

勇者「え?そうなの?例えば?」

ミーティア「ヒヒン、ヒヒーン、ヒン、ヒヒン」

勇者「なるほどな、たしかにこうして呪われなかったらずっと城のお部屋で暮らしてたかもしれないもんなぁ……色んな世界が見れて幸せってのも頷けるよ」

勇者「でもエイトやトロデ王達と話せないのはつらいんじゃない?俺は魔物となんとなくなら話せるから、その要領でミーティア姫とも話せるけどさ」

ミーティア「ヒヒン、ヒヒヒン」

勇者「え!?そうなの!?」

ミーティア「ヒン」

勇者「じゃあさ、今夜のククールとの稽古が終わったらその場所教えてくれよ!!俺がミーティア姫をそこに運んでくからさ」

ミーティア「ヒヒーン♪」

エイト「おーい!!勇者ーご飯できたよー!!」

勇者「おーう!!今行くー!!」

勇者「じゃ、また後でな♪」

ミーティア「ヒヒン♪」

――――夜更け
勇者「……」コソコソ

ミーティア「……?」

勇者「だって急に俺とミーティアがいなくなったらみんな心配するだろ?だからみんなを起こさないように……な?」

ミーティア「ヒヒン」

ミーティア「ヒヒン、ヒヒーン?」

勇者「あぁ、そのことなら問題ない。俺に任せてくれ」ニッ

――――ベルガラック南の森・上空
ビュワッ

ミーティア「ヒヒーン」

勇者「な?すごいだろ♪トベルーラって言ってルーラの応用呪文なんだ」

勇者「これなら鳥みたいに自由に空飛べるからな、行ったことないとこでも行けるし空飛ぶ魔物とも闘えるぜ」

ミーティア「…………ヒヒン、ヒヒヒーン」

勇者「……たしかに、馬を抱えて空を飛ぶってのはものすごくシュールだな」苦笑

ミーティア「ヒヒン?」

勇者「大丈夫!!鍛えてあるから重くなんてないぜ!!」

勇者「ところで方向合ってる?」

ミーティア「ヒヒ~ン」

勇者「オッケー、もうちょい森の奥か」

ビュワッ

――――少し前・エイト一行のキャンプ
トロデ「おい、エイト」ユサユサ

エイト「すぴ~……すぴ~……」

トロデ「エイト!!」ビシッ

エイト「ふがっ!?」

エイト「ふぁ……なんだ、トロデ王じゃないですか……どうかしたんですか?」ネムネム

トロデ「わ、わしの可愛いミーティアがどこにもおらんのだ!!」

エイト「え!?」

トロデ「またパルミドの時のように拐われてしまったのかもしれない……!!」アワワワ…

エイト「まだそうと決まったわけじゃないですよ。僕が探してきますから」

トロデ「た、頼むぞ!!」

エイト「……」チラッ

ヤンガス「ぐがぁ~……ぐおぉ~……」

ゼシカ「くぅ……くぅ……」

ククール「すー……すー……」

エイト(勇者もいない……差し詰め勇者とミーティア姫で散歩でもしてるんだろうな。トロデ王も心配性だからなぁ……)

エイト「神鳥の魂で……」

カァッ!!

ビュワッ!!

エイト『そこらへんにいると思うんだけどな~……』バサッバサッ

エイト『…………あ、あれだ』

エイト(馬抱えた人間が空飛んでるってシュールすぎるでしょ)

――――不思議な泉
勇者「へぇ~……この泉なのか……たしかになんか不思議な感じがするな」

ミーティア「ヒヒン」カポカポ

ミーティア「……」ゴクゴク

カアアァァァ……!!

勇者「ぉお!?」

ミーティア姫「…………」

シュウゥゥ……

勇者「お、おおお!!すげー!!ホントに人間になったー!!!!」

ミーティア姫「ふふっ、こうして元の姿に戻るのは久しぶりです」

勇者「へえぇ~~……」ジーー

ミーティア姫「どうかなさいましたか?」

勇者「いや、馬の時でも綺麗だったけどさ、やっぱり人間の姿も綺麗だなぁ、って思ってさ」アハハ

ミーティア姫「もぅ、勇者さんったら……誉めても何も出ないですよ?」ウフフ

――――木陰
エイト「なるホドね、この泉に来たかったわけか」

ウフフフ

アハハハ

エイト「ミーティア姫も楽しそうだし……トロデ王には悪いけどそっとしとこうかな、しばらくしたら帰るだろうし」

――――
ミーティア姫「私の14歳誕生日のことだったのですけれど、お父様は急なお仕事が入ってしまって他国に赴かなければならなくなってしまったのです」

ミーティア姫「楽しみにしていた誕生日パーティーにお父様が出席できなくなったことが私は残念でしたが王女としてわがままも言えませんから寂しくても我慢しました」

ミーティア姫「そしたら夜にお部屋のドアをノックする音が聞こえました」

ミーティア姫「誰かしら?と思ってドアを開けると……そこにはエイトが立っていました」

ミーティア姫「息を切らせて額には汗を浮かばせて、『誕生日おめでとう』って言って私に小さな包みを渡してくれたのです」

ミーティア姫「その包みの中には青い硝子細工のブローチが入っていました……」

ミーティア姫「後で知ったことなのですが私の誕生日パーティーにお父様が出られなくなってしまったと知ったエイトはお城のお仕事が終わった後にトラペッタの町まで行って私のためにそのブローチを買ってきてくれたらしいのです」

ミーティア姫「そのブローチは今でも私の宝物です」ウフフ

勇者「ふ~ん………………ミーティア姫さ」

ミーティア姫「はい?」

勇者「エイトのこと好きなの?」

ミーティア姫「え!?な、なんですか急に!?」

勇者「だってさっきからエイトの話ばっかりだし」

ミーティア姫「うぅ……私としたことが……そんなに分かりやすいでしたか?」

勇者「そりゃあもう。顔に書いてあるよ」ケタケタ

ミーティア「うううう~~~////」カァ

ミーティア姫「…………エイトは優しくて頼りになる素敵な方です……でも……私とエイトが結ばれることはあり得ません……」

勇者「なんでだよ?あれか?王女と家来じゃ身分が釣り合わないとか言うのか?だったら……」

ミーティア姫「……それもあります。家臣との色恋沙汰など王家の身にはあってはならないことです」

勇者「身分なんて関係ないじゃねぇかよ!!俺が前に会った勇者は一介の旅人だったけどお姫様と結ばれたし、旅の一族の娘に一目惚れして城を離れた王子だっていた、自分が王家の人間だって知らなかったとは言え宿屋の娘と結婚した王様だっているんだぞ!?」

勇者「だから身分だの立場なんて大した問題じゃねぇよ!!」

勇者「大切なのは自分の気持ちだろ!?」

ミーティア姫「ふふ……勇者さんはとても真っ直ぐなのですね」ニコッ

勇者「はぐらかすなよ」ムッ

ミーティア姫「私もできることならエイトと結ばれたい……しかし私には…………」

キラキラキラ……

勇者「!?」

ミーティア姫「あら?もう時間切れみたいですね……もう少しこうしてお話ししていたかったのに残念です……」

勇者「そんな……」

ミーティア姫「勇者さん、今日は楽しかったです。さぁ、お父様達が心配するといけませんからキャンプへ帰りましょう……」

勇者「…………」

パァァァ……

シュウゥゥ……

ミーティア「ブルルルル……」

――――第八の世界・七日目
勇者「ぜぁっ!!」

ガガッ

ビュバッ

エイト「はぁっ!!」

ガキーン


ゼシカ「勇者、また腕を上げたわね~、昨日より一回りも二回りも強くなってるじゃない」

ヤンガス「あぁ、兄貴も少しだけ本気になったみたいだな」

ゼシカ「それにしても……なんだか勇者変じゃない?」

ヤンガス「どこがだ?」

ゼシカ「なんか……腑に落ちないことがあるみたいな……そんな顔してる」

キィン

エイト「いいね、昨日よりもずっと良くなってるよ、その調子その調子♪」

ガガキン

勇者「…………」

勇者「…………なぁ、エイト。昨日……聞いてたんだろ?」

エイト「何が?」

勇者「ミーティア姫の呪いを解くことのできる不思議な泉での話だよ」

勇者「ミーティア姫と話した時すぐ近くにエイトの魔力を感じたからな、隠れて聞いてたんじゃないか?とぼけたって無駄だぞ」

エイト「その能力はずるいなぁ」苦笑

勇者「お前はどうなんだよ?」

エイト「どうって?」

勇者「だからとぼけんなって!!…………お前はミーティア姫のこと好きなのか?」

エイト「う~ん…………真面目に答えた方がいいよね?」

勇者「当たり前だろが」

エイト「僕はミーティア姫のこと……多分好きだよ」

勇者「じゃあ……!!」

エイト「でもそれはできないんだ」

勇者「なんでお前までそんなこと言うんだよ!!」

エイト「昨日ミーティア姫が言っていたみたいに僕達は身分があまりに違いすぎる」

エイト「それに…………」

エイト「ミーティア姫には婚約者がいるんだ」

勇者「婚約者!?」

エイト「うん。サザンビークっていうお城の王子様だよ」

エイト「二人の結婚は前々から決まっていたんだ。ミーティア姫が産まれる前からね。」

エイト「二人が結婚すればトロデーンとサザンビークの関係も今よりずっと良くなる。お互いの国の繁栄にも繋がるしね」

勇者「でもミーティア姫はお前のことが……」

エイト「王家同士の婚約の破棄……これが何を引き起こすと思う?」

勇者「え?それは……」

エイト「…………下手をすれば戦争が起きる」

勇者「な……」

エイト「もっとも、それは最悪のケースだけどね。でも国同士がギクシャクしてわだかまりができることは間違いない」

勇者「…………」

エイト「それをミーティア姫は分かっている。トロデーンという国を、民を誰よりも愛しているミーティア姫だから、個人の感情に走ることはできない」

エイト「それを分かってるから、僕も…………ね」

勇者「…………」

ガキィン!!

ヒュンヒュンヒュン……

勇者「あ…………」

ピタッ

エイト「はい、僕の勝ち」ニコッ

エイト「さぁ、勇者は時間がないんだろ?僕達の問題なんか気にせず修行に専念しなきゃ」

勇者「………………あぁ」

――――夜
勇者「ごちそうさまー」

ゼシカ「お粗末様でした」

ヤンガス「あー、食った食った」ゲップ

エイト「ヤンガス、行儀が悪いよ」苦笑

ヤンガス「おっと、コイツは失礼しやした」ヘッヘッヘ

トロデ「エイト、ミーティアに夕飯を持って行ってやってくれんか?」

エイト「はい、わかりました」スクッ

テクテク

勇者「………………」ムゥ…

ゼシカ「どうしたの?勇者。朝からなんだか難しそうな顔してるけど」

ヤンガス「便秘か?」

ゼシカ「そんなワケないでしょ」ビシッ

勇者「う~ん…………なぁゼシカ」

ゼシカ「なに?」

勇者「ミーティア姫の婚約者の王子様ってどんな人だかわかる?」

ゼシカ「それってチャゴス王子のこと?それは知ってるけど……でもどうして?」

勇者「えっと……昨日ミーティアと話してて婚約者がいるって聞いたからさ、どんな人かなぁって」

ゼシカ「そう。えっとね……太ってて我が儘でエロくて自己チューで悪戯好きで怠け者で臆病者で見栄っ張りで克己心がなくて情けなくて感謝の『か』の字も言えないような他人を見下した奴よ」ペラペラ

勇者「………………は?」

勇者「…………マジ?」

ヤンガス「マジ」コクン

ゼシカ「お父様は立派な人なのにどうしてあんな風に育っちゃったんだろうなぁ……」

ゼシカ「こう言っちゃなんだけどミーティア姫が可哀想よね……ホントの姿は可憐ですごくいい娘なのにあんな豚みたいな奴と結婚させられるだなんて……」

ヤンガス「そういや赤いトカゲを狩りに行った時にアイツ姫さんでロデオとかやってやがったな」

ゼシカ「あったわね……乱暴されてミーティア姫も嫌がってたわね」

勇者「……………………」

勇者「…………」スクッ

ゼシカ「? 勇者どこ行くの?」

勇者「……ちょっと」

スタスタ

ゼシカ「どうかしたのかしら?」

ヤンガス「さぁ?」

――――
エイト「もういいのですか?ミーティア姫」

ミーティア「ブルルル!!」

エイト「あ、ごめんごめん。二人でいる時は呼び捨てで敬語もナシだったね」アハハ

ミーティア「……」コクン

エイト「……ミーティア?」

ミーティア「……?」

エイト「……勇者、すごくいい子でしょ」

エイト「他人のために心を痛めて熱くなって本気で悩める人ってそうはいないと思うんだ」

エイト「勇者はそれができる人なんだ……きっと大切に育てられてきたんだろうね」

エイト「そんな勇者にだから僕も力を貸してあげたいんだ」

エイト「ミーティアが元の姿に戻るのが少し遅くなっちゃうけど……我慢してくれるかな?」

ミーティア「ヒヒン」コクン

エイト「ふふ、ありがとう」ナデナデ

ミーティア「…………♪」

ザッ

勇者「…………」

エイト「勇者?どうしたの?」

勇者「エイト、修行の最終日に俺と真剣勝負してくれ」

エイト「え?何をいきなり……」

勇者「今までの修行の成果を計る……言うなりゃ免許皆伝の試験みたいなもんとしてさ」

エイト「じゃあ僕は九頭龍閃を撃てばいいのかな?」

勇者「そうそう、神速の抜刀術を会得するために……じゃなくて!!」

エイト「ごめんごめん」ナハハ

勇者「……ったく……んでさ、その真剣勝負、俺が勝ったらエイトは俺の言うことなんでも一つ聞くってのでどうだ?」

エイト(…………)

エイト「なるほどね、そういう魂胆か」フフッ

勇者「…………」

エイト「でも僕が勝ったら僕には何かメリットがあるの?」

勇者「え!?そ、それは……」

エイト「じゃあ僕が勝った時のことは後で考えておくよ」クスクス

勇者「じゃあ……」

エイト「うん、その勝負受けて立とう」ニコッ

勇者「よっしゃ!!」グッ

勇者「……っと、そうと決まったらこうしちゃいらんねぇ!!ククール探して稽古つけてもらわなくちゃ!!」ダダッ

エイト「頑張ってね~」ヒラヒラ

エイト「…………ホントにいい子だね」

ミーティア「…………」

エイト「ねぇミーティア、もし僕達が勇者の様に自分の気持ちに正直に生きられたなら……」

ミーティア「…………」

エイト「…………いや、なんでもない」

エイト「さてと、勇者の師匠として僕も負けるワケにはいかないからね、頑張らないと」

エイト「あ、そうだ。ミーティア。君に頼みがあるんだけど……」

ミーティア「……?」

――――第八の世界・九日目・夜
キィン

ガキン

キキィン

ククール「ふぅ……まぁこんなもんだろ」

勇者「今日はもう終わり?」

ククール「だってお前明日勇者と真剣勝負するんだろ?」

ククール「昼間はエイト達と修行して夜は俺と修行してクタクタなんだからもう休んどけよ」

勇者「でも……」

ククール「体調を整えるのも立派な修行だ」

勇者「う……は~い」

勇者「……ククール、俺って強くなったかな?」

ククール「俺が教えられることは大体教えたしエイト達との修行もちゃんと形になってる。数日前と比べたら見違えるほど強くなっただろうな」

勇者「ホントか!?」

ククール「あぁ……だがエイトは強いぞ?多分俺よりも」

勇者「…………」

ククール「ま、早く寝て明日に備えるんだな。遅くまで野郎なんかに付き合って俺も眠いんだ」フワァーア

勇者「今までありがとうなククール!!おやすみ」

ククール「おやすみ」

勇者「俺も早く寝ないとなぁ……」

勇者(………………明日エイトに勝てたらエイトとミーティア姫をくっつけることができる…………かもしれない)

勇者(……でも俺でホントにエイトに勝てるのか?昼間だって一本も取れなかったってのに……)

勇者「………………」

勇者「……だー!!くそ!!やっぱもう少し体動かしてこう!!」チャッ

勇者「ほっ!!」

ビュッ

???「夜中まで精がでるのぅ」ザッ

勇者「誰だ!?」チャキ

トロデ「わわ!!わしじゃ!!」

勇者「なんだ、トロデ王か……」フゥ

トロデ「わかったら早く剣を納めい!!」

勇者「あ、ごめん」スッ

勇者「……で、どうしたの?」

トロデ「うむ、勇者が昼も夜も剣の修行に勤しんでおるからわしも少しばかり稽古をつけてやろうかと思っての」

勇者「はぁ?稽古ってトロデ王が?」

トロデ「そうじゃ。こう見えてトロデーン流兵法を極めておるからな、そんじょそこらのヒヨッ子よりはずっと強いんじゃぞ?」

トロデ「奥義を体得したわしは木の棒で刃物を受け止めることだってできるんじゃ」エッヘン

勇者「へぇ~……(棒読み)」

トロデ「な!?お前疑っておるな!?」

勇者「だってエイトやククールならいざ知らずトロデ王が剣の達人って……」

トロデ「ふん、まぁいいわい」

トロデ「お前の修行を見ておったがまぁ大分剣の扱いがマシになったな」

勇者「はぁ、そりゃどうも」

トロデ「じゃがまだ自分の剣術のスタイルを確立してはおらん」

勇者「どういうこと?」

トロデ「エイトやククールから学んだ剣を振るっているにすぎんということじゃ」

勇者「そうは言ってもなぁ……俺剣の扱いに関しちゃ素人に毛が生えたレベルだったし自分のスタイルなんて言われても……」

トロデ「別に剣に限ったことじゃなくてもいいんじゃよ、体術と組み合わせるとか呪文も使ってみるとか……お前の今まで学んできたことを分解して、混ぜ合わせて、新しく1つの形に作り変えるんじゃ」

勇者「俺が今まで学んできたこと……か」

勇者「………………」

勇者「!!」

トロデ「何か思いついたか?」ニッ

勇者「あぁ!!トロデ王のお陰だよ!!」

トロデ「ではその閃きを形にできるまでわしが付き合ってやろう」スッ

勇者「ありがとう!!よーし……行くぞ!!」ダッ

――――第八の世界・十日目
勇者「zzzz」ムニャムニャ

エイト「……それでこんなところで寝てるんですね」

トロデ「うむ」

トロデ「いや~、わしもついつい熱が入ってしまってな、気がついたら日が上っておったのじゃ」ハッハッハ

エイト「トロデ王は今日の僕と勇者の試合については」

トロデ「勿論知っておる」

トロデ「ついでに勇者が勝ったらお前が勇者の言うことをなんでも聞いてやるという約束についてもな」

エイト「え……」

トロデ「その上でわしは勇者に肩入れしたんじゃ」

トロデ「わしは一国の主だがそれ以前に娘を持つ一人の親じゃ」

トロデ「いつの世も親が願うのは子の幸せだけじゃよ」ニッ

エイト「…………」

トロデ「勇者も疲れておるんじゃ、寝かしておいてやれ」テクテク

勇者「zzzz」

――――夕方
勇者「……はっ!?」ガバッ

ゼシカ「あ、やっと起きたわね」

ククール「結局日中ずっと寝てやがったな」

勇者「え!?あれ!?もう夕方!?」

勇者「……そうか、俺修行の後に5分だけ横になろうとして……」

ヤンガス「完全に死亡フラグだな」ゲラゲラ

勇者「……っていうかみんな起こしてくれよ!!」

エイト「流石にそろそろ起こそうとしてたけどね、あんまり気持ち良さそうに寝てたものだから」クスクス

勇者「あぁーーー!!貴重な一日がぁーー!!」ガシガシ

トロデ「じゃがお陰で体調は万全じゃろ?」

勇者「た、たしかにそりゃそうだけど……」

エイト「じゃあ早速だけど始めようか」チャキ

勇者「!!」

ヤンガス「お!!遂に最後の修行でげすな!!」

ゼシカ「どっちも頑張れ~って言いたいとこだけど……今回は勇者を応援しちゃおうかな」ウフフ

ククール「酒場が開くまで暇だからな、俺も見物してってやるよ」フン

トロデ「お前さんはちっとも素直じゃないのぅ」フフッ

エイト「ルールは簡単。先に相手に一太刀入れた方が勝ちだよ」

勇者「いつもと同じだな」

エイト「うん。準備はいい?」

勇者「いつでも」

エイト「怪我してもククールにベホマで治してもらうから遠慮なく全力で闘っていいよ」

勇者「最初からそのつもりだ」

勇者「フッフッフ……秘密の特訓の成果を見せてやるぜ」スッ

エイト「それは楽しみだ」サッ

エイト「ヤンガス」

ヤンガス「はいでげす!!」

ヤンガス「では……」

エイト「…………」

勇者「…………」ゴクッ

ヤンガス「始めぇっ!!」

勇者「だぁっ!!」ドンッ

エイト「でやっ!!」ドンッ

ガキーーーン!!!!

キィン

ガキン

キン

キキン

ガッ

キキィン

キン

勇者「なんだよ、手加減してくれてんのか?」ビュッ

エイト「いくらなんでも寝起きの君に最初から本気で斬りかかったりしないよ……っと!!」

ギィン

エイト「ウォーミングアップはこれぐらいでいいかな?」ビュッ

勇者「へっ、そりゃどう……も!!」ビュバッ

ガキーーン!!!!


ヤンガス「やっと本気の打ち込みが始まったか……」

ククール「剣の闘いってのは一瞬の勝負だからな……よほど実力が拮抗していない限りそう長引きはしないだろう」


エイト「はっ!!」ビュッ

勇者「よっ!!」

ギギギギ……

キィン!!

エイト「剣の腹を受け流して太刀筋を変える技か……ククールの得意技だね」

勇者「あぁ、昨日やっとできるようになったばっかりだけどな!!」

キィン

ガキン

キィン

エイト(勇者、本当に強くなったね……もう剣術に関しては達人の域だよ)

エイト(……これで心置きなく本気を出せるよ)ニッ

勇者「? 何笑って……」

エイト「はっ」ビュバッ!!

勇者「!? くっ!!」

ガキーン!!

エイト「せやぁっ!!」ビュンッ!!

勇者「……っ!!」サッ

勇者(これがエイトの本気か……!!なんつー剣さばきだよ!!)

勇者(昨日までの俺ならすぐやられちまってた!!)

勇者(昨日までの俺なら……な)

エイト「はぁっ!!」ビュッ

勇者「よっ」サッ

エイト「もらった!!」

エイト『火炎斬……』

勇者「上段突きからの縦斬りでの火炎斬り」

エイト「え!?」

キィン!!

エイト「な……」

勇者「はぁっ!!」ビュッ

エイト「くっ!!」サッ

エイト『隼……』

勇者「俺の太刀を左に避けてからの隼斬り」

エイト「!?」

キキィン!!

エイト「なんで僕の動きが……!?」

勇者「魔力の知覚だよ」

勇者「呪文を使わなくても魔物が動く時にはその魔物の魔力の波動が動きに呼応して変化する」

勇者「魔物ほど大きな変化はないけどそれは人間だって同じだ」

勇者「魔力の知覚を応用すれば人間の動きを読むこともそう難しいことじゃないぜ!!」ビュッ

エイト「なるほどね……やっぱりその能力はずるいや」フフッ

サッ

エイト「でもなんで今まで使わなかったの?」クスクス

勇者「うっ……うるさいなぁ!!」

ガキン!!

勇者(昨日トロデ王にヒント貰うまで忘れてたからな……第三の世界での最初の修行の時もそうだったけどどうも俺は一つのことをしてると他のことは考えられないみたいだ)トホホ

勇者「はぁっ!!」

エイト「せいっ!!」

キィン

ガガキィン

ガガッ

ガキーーン

エイト「やるね、勇者。ここまでできるようになるとは思ってもみなかったよ」

勇者「へへっ、ありがとうよ」ニッ

勇者「……でもそろそろ終わりにさせてもらうぜ……俺の必殺技でな」スッ

エイト「必殺技……?」

勇者「あぁ、昨日トロデ王との修行で編み出した俺の必殺技だ」ニッ

エイト「へぇ……面白そうだね……受けて立つよ」チャッ

勇者「吠え面かきやがれ!!」ダンッ

勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!

ビュッ!!

エイト「!?」

ガキーーン!!バリバリバリバリ!!

エイト(稲妻斬りと疾風突きの合わせ技!?)

勇者「まだまだぁ!!」

勇者『真空隼斬りッ』!!!!

ビュババッ!!

ガキキィン!!

エイト「くっ……!!」

エイト(今度は真空斬りと隼斬りの合わせ技……)

勇者『氷雪五月雨斬りッ』!!!!

ヒュババババッ!!

キィンキィンキィンキィン!!

エイト(マヒャド斬りと五月雨斬りの合わせ技に……)

勇者『火炎諸刃斬りッ』!!!!

ガキィン!!ゴウゥ!!

エイト(火炎斬りと諸刃斬りの合わせ技か!!)

ザザーッ

勇者「うおおおっ!!!!」ブンッ

ガキィン!!

ヒュンヒュンヒュン

エイト「しまっ……」

勇者「もらったぁーーー!!!!」

ゴゴゴゴゴ……!!

バチバチバチバチバチバチ!!!!

エイト(これは……!!)

エイト「ヤバい!!!!」

勇者『ジゴスラッシュ』!!!!!!

ズガガーーーン!!!!!!

バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!

ヤンガス「兄貴ぃ!!!!」

勇者「!?」

エイト「危ないところだったよ……」

勇者「…………なっ!?」

エイト「ジゴスパークのいかずちでギガスラッシュを放つ合わせ技とは……正直恐れいったよ」フフッ

勇者「光の剣!?」

エイト「魔力を剣の形にとどめたまま剣として使う……ギガスラッシュの応用技さ」

エイト「まさか奥の手を使うことになるとは思ってなかったけどね」

勇者「チッ……そう上手くはいかないってか」ハァハァ

エイト「そういうこと♪」

エイト「それよりさっきの合わせ技……随分と体力を消耗したんじゃない?」

勇者「大きなお世話だ」ゼェゼェ

エイト(ああいう応用技は体力の消費も魔力の消費も半端じゃない……。勿論勇者もそのことを分かってたからここぞって時の決め技にしたんだろうけど)

勇者「ハァ……ハァ……」

エイト(このまま持久戦に持ち込めば楽に勝てるけど……)

エイト「それじゃつまらないね」

勇者「?」

エイト「これを最後の打ち込みにしよう」

カアァァァ!!

勇者「!?」

バチバチバチバチ!!!!

エイト「いいかい?」

勇者「…………へっ、やっぱ最後はそうなるか」ニッ

カアァァァ!!

バチバチバチバチ!!

勇者「…………」

エイト「…………」

グゴゴゴゴゴ……!!

勇者「だあっ!!」ダンッ

エイト「はっ!!」ダンッ

勇者・エイト『ギガスラッシュ』!!!!!!!!

カッ!!!!!!!!

勇者「……」ザッ

エイト「……」ザッ

勇者「…………」

エイト「…………」

勇者「…………チッ」ピッ

エイト「僕の勝ち……だね?」ニコッ

勇者「あぁ、悔しいけどやっぱ敵わねぇや」ハハッ

ヤンガス「やっぱり兄貴は最強でげす!!♪」

ゼシカ「でも勇者もエイトの剣を弾き飛ばすなんてすごいじゃない!!ホントは危なかったんじゃないの?」

エイト「うん、あとちょっと光の剣を出すのが遅かったらやられてたよ」アハハ

勇者「ちぇっ、惜しかったな~」

ククール「まぁ十日間の修行の成果にしちゃ上出来なんじゃないか?」

勇者「あれ?ククールも褒めてくれたりするんだ」

ククール「俺をなんだと思ってるんだ」ハァ

勇者「そういやエイト、お前が勝ったんだから何か……」

ゼシカ「? 負けた方は勝った方になにかする予定だったの?」

勇者「……まぁそんな感じ」

エイト「じゃあ……これを持っていって欲しいんだ」スッ

勇者「へ?ブローチ……?」

勇者「まさかこれって!!」

エイト「うん。僕がミーティア姫に昔あげたものだよ」

エイト「後で知ったんだけどトラペッタって町に住んでいた高名な魔法使いが念を込めて作ったものなんだって。邪悪な力を祓うお守りとしての効果があるみたいだしきっと勇者の役に立つと思うんだ」

エイト「ミーティア姫も是非君に持っていって欲しいって……ね?」

ミーティア「ヒヒン♪」

勇者「でも……これミーティア姫の宝物だったんだろ?ホントにいいのかよ?」

ミーティア「ブルルル……♪」

勇者「何!?マジかよ!!……たしかにそりゃそっちの方がいいな」ニコニコ

ヤンガス「? 姫さんはなんて言ったんだ?」

勇者「ん~……秘密♪」ニカッ

ミーティア「ブルルル……♪」

キラキラキラ……

勇者「お……」

ゼシカ「ゆ、勇者!?」

トロデ「身体が光だしたぞ!?」

勇者「うん……もうお別れの時間ってことだ」

エイト「そっか……」

キラキラキラ……

ヤンガス「勇者、ここまで強くなったことを兄貴の舎弟として誇らしく思うぜ」

ヤンガス「その調子で魔王って奴もぶっ倒しちまえよ」

勇者「うん、頑張ってくるよ、ヤンガス」

ゼシカ「えーと……こんなこと言うのも変だけど身体には気を付けてね?」

勇者「ホントに変だな」ケタケタ

ゼシカ「もう!!からかわないでよ!!お別れの言葉なんて何言ったらいいのかわかんないから……その……」

勇者「ありがとう、ゼシカ。気持ちだけで十分だよ」ニコッ

ゼシカ「…………勇者なら勇者の世界を救うことができると思うわ、頑張ってね」ギュッ

勇者「のわわっ!!////」カアァ

スッ

勇者「……ククール……夜中剣の稽古つけてくれてありがとうな」

ククール「あぁ、やっとお守りから解放されると思うとせいせいするぜ」

勇者「ひどいなぁ」苦笑

ククール「お前はエイトの教え子であると同時に俺の教え子でもあるんだ、魔王だかなんだか知らないが負けたら承知しないからな」フンッ

勇者「あぁ、必ずギャフンと言わせてやるぜ」グッ

キラキラキラ……

勇者「トロデ王もありがとうな」

トロデ「何、気にするな。わしもこの世界からお前さんの勝利を願っておるぞ」

ミーティア「ヒヒーン……ブルルル……」

勇者「ミーティア姫もありがとうな」

キラキラキラ……

エイト「勇者……この十日で本当に強くなったね」

勇者「ありがとう。まぁまだエイトには及ばないけどな」ハハッ

エイト「君にはまだまだ可能性がある……残り十日で本当の強さを手に入れるんだよ」


勇者「あぁ、やるだけやってやる」

キラキラキラ……

勇者「エイト、さっきミーティア姫から聞いたけど……」

エイト「うん、大丈夫。僕は約束は守るよ」ニコッ

勇者「そっか、なら心配いらないな」ニカッ

エイト「だから僕とも約束してくれないかな?」

勇者「……?」

エイト「必ず君の世界を救ってみせるって」

勇者「へへっ、言われなくたってそのつもりさ」ニッ

キラキラキラ……

エイト「じゃあ勇者……元気でね」

勇者「あぁ……ありがとうな、みんな」

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

ククール「行ったか……」

ゼシカ「あっという間だったわね~……」

ヤンガス「ところで兄貴。ミーティア姫との約束ってなんでげす?」

エイト「え?それは……」

――――七日目・夜
エイト「あ、そうだ。ミーティア。君に頼みがあるんだけど……」

ミーティア「……?」

エイト「君に昔あげたブローチ……あれ勇者にあげてもいいかな?」

エイト「あれって聖なるお守りの効果があるみたいでさ、勇者の役に立つと思うんだ」

ミーティア「ブルルル……」コクン

エイト「ふふ、ありがとう」

エイト「その……代わりにはならないかもしれないけどさ」

ミーティア「……?」

エイト「ミーティアが元の姿に戻ったら……その時は僕の君への想いを伝えるよ」

エイト「身分や立場なんて関係なく、一人の男として」

ミーティア「……」

エイト「その時は……僕の想いを聞いてくれるかな?」

ミーティア「……ブルルル♪」コクン

エイト「うん、約束するよ」

――――
エイト「それは……秘密さ」ニコッ

ゼシカ「え~気になるな~」

エイト「ま、そのうち……ね♪」

トロデ「しかし勇者は魔王とやらに勝てるかのぅ……」

ヤンガス「あれだけ強くなりゃ楽勝だろ」

エイト「そんな甘いワケないよ」

エイト「現時点で勇者には足りないものが三つある」

ゼシカ「三つ?」

エイト「うん。一つはすぐ解決できると思うけど……後の二つは勇者次第かな」

エイト「まぁ第九の世界の勇者がきっとどうにかしてくれると思うけどね」

ゼシカ「ふ~~ん……」

バサッ

ククール「なんだ?」

バサッバサッ

ヤンガス「あれは……」

フワッ……ザッ

レティス『まったく、ここ数日ラプソーンに対して何も対策をとるわけでもなくこんなところで何をしていたのですか?』

ゼシカ「レティス!!」

エイト「ごめんごめん。ちょっと人助けをね」アハハ

レティス『人助け……?』

エイト「うん、短期間で弟子をとってたんだ」

レティス『弟子……ですか?』

ヤンガス「おうよ、兄貴がみっちり剣術を仕込んだんだからな、勇者の剣の腕もピカイチになったってもんだぜ」

レティス『勇者!?その弟子の名は勇者というのですか!?』

ヤンガス「ぁあ?そうだけど……」

レティス『………………』

エイト「レティス……?」

レティス『エイト、彼のことを詳しく聞かせてもらえませんか?』

――――星の海
勇者「ただいま~……っと」

ルビス『お帰りなさい、勇者』

勇者「エイトには剣術を習ってきたぜ♪これで魔王とのタイマンもバッチリだ」

勇者「…………次が最後の世界だな」

ルビス『えぇ……長いようで短かった貴方の修行の旅も残すところ十日です』


勇者「呪文の修行から始まって筋トレ、実戦訓練、勉強、魔力知覚、職業に剣術か……色々やったなぁ……」

勇者「あと十日でどこまで強くなれるか……だな」グッ

勇者「……魔王軍の方は?」

ルビス『………………』

勇者「……状況は良くないみたいだな」

ルビス『……予想以上に魔王軍の進行スピードが早く……最悪の場合あと十日で最後の国も魔王軍の手に墜ちてしてしまうかもしれません……』

勇者「十日!?ギリギリじゃないかよ!!」

ルビス『えぇ…………』

勇者「くっ……こうしちゃいられねぇ!!ルビス、俺を今すぐ第九の世界へ!!」

ルビス『しかし……』

勇者「大丈夫、昼間たっぷり寝てたからまだまだ元気だ」

ルビス『……わかりました。早く行けば早く行っただけ早く帰ってこれますからね』

ルビス『……いきますよ、勇者』

勇者「あぁ!!」

――――第九の世界
パッ

スタッ

勇者「暗いな……夜か」

勇者「……早いとこ九番目の勇者を見つけないと……」

勇者「ここは城下町か……今までその世界の勇者の近くに転送されてきたんだからそこらへんにいるとは思うけど……」キョロキョロ

勇者「……ん?あれは……」

???「ちょっとナイン~、もう日が暮れちゃってるんですケド~」

ナイン「ん~、そうなんだけどね、ちょっと待って」ガサガサ

???「さっきからそればっかりじゃ~ん、明日でもいいんじゃないの?」

ナイン「じゃああとちょっとだけ……ね?」ガサガサ

???「まったく、1gの足しにもならないような頼みよく聞くわね……お人好しにもほどがあるんですケド~」ハァ

勇者「こんばんわ」ニッ

ナイン「あ、こんばんわ~」

???「ちょっとナイン、誰この変なの?」

勇者「変なのとは失礼だな」ムッ

???「へ?」

ナイン「え!?ひょっとして君サンディが見えるの?」

勇者「このちっさい妖精のことだろ?」

サンディ「ウソ~、信じらんない。アタシのこと見える人間がいるなんて……」

サンディ「アンタももしかして天使なの?」

勇者「いや、れっきとした人間だ」

ナイン「じゃあなんで……」

勇者「妖精を引き連れて天使って呼ばれてるし……うん、間違いないな」

ナイン「……?」

勇者「ごめんごめん、こっちの話。……ま、すぐわかるよ。俺は勇者、よろしくな」スッ

ナイン「あ、え~と……僕はナインだよ。よろしくね」スッ

ギュッ

キイイィィン!!

ナイン「…………これ……は!?」フラッ

サンディ「ちょ、ちょっとナイン!?ダイジョーブなの!?」

ナイン「う、うん。大丈夫……」

勇者「な?すぐわかっただろ?」ニッ

ナイン「うん、そうだね」フフッ

サンディ「? ちょっとどーゆーこと?」

ナイン「後で詳しく話すよ」

ナイン「そうだね……じゃあ自己紹介が必要だね。僕はナイン、今はワケあって光輪も天使の羽もないけど正真正銘の守護天使だよ」

ナイン「ほら、サンディも自己紹介して」

サンディ「ワケわかんないけど……まぁいいわよ」フン

サンディ「アタシは天の方舟の運転手のサンディちゃんよ、よろしくね勇者」

勇者「よろしく、サンディ」

ナイン「運転手はアギロさんでしょ?」

サンディ「バイトだって似たようなもんだし!!」

勇者「さて、ナイン。とりあえず早速修行を……」

ナイン「うん、でも……」

勇者「?」

ナイン「今探し物をしててね、それが見つかったらね」

勇者「探し物……?」

サンディ「そーそー、町の女の子が大切な髪飾りを無くしちゃったとか言ってね~、昼間からずっと探してんのよ」

サンディ「別に高価なご褒美が貰えるワケじゃないんだから別に頼みを聞いてあげることもないと思うのに……」ハァ

ナイン「まぁまぁそう言わずにさ」ハハッ

勇者「ナイン、悪いけど俺には時間がないんだ、今こうしている間にも俺の世界じゃ……」

ナイン「………………」

ナイン「……わかった、じゃあこの髪飾り探しを最初の修行にするよ」

勇者「はぁ!?」

勇者「だからそんなことしてる時間なんて……!!」

ナイン「言ったでしょ、これも修行だって。ホラ、早く早く」ガサガサ

勇者「……っ、わかったよ!!」ガサガサ

サンディ「…………?」

――――
ナイン「見つけたーー!!」

勇者「随分かかっちまったな」ハァ

サンディ「ホントよ、もぅ待たされてるアタシの身にもなってよ」

ナイン「でも探しながら勇者のことを話せて良かったよ」

サンディ「他の世界の勇者ねぇ~……ま、この世界って他の色んな世界と繋がってるみたいだしそこまで驚かないけど……」

勇者(他の世界と繋がってる……?)

ナイン「さてと、今から女の子のところに届けに行こうか、まだ起きてたらいいけど……」

勇者「俺も行くの?」

ナイン「勿論♪」

――――
ナイン「こんばんわ~」

おばさん「はいはい……おや?どなただい?」

女の子「あ、昼間のお兄ちゃん!!」

ナイン「こんばんわ」ニコッ

女の子「どうしたの?」

ナイン「はい、これ」スッ

女の子「え!?これあたしがなくした髪飾り!?お兄ちゃんが探してくれたの!?」

ナイン「うん、遅くなってごめんね」

女の子「ううん、ありがとう♪」

おばさん「あらあら、わざわざすまないねぇ」

ナイン「こっちのお兄ちゃんも一緒に探してくれたんだよ」

勇者「え、俺は……」

女の子「ありがとう、お兄ちゃん♪」ニパッ

勇者「え、えっと……どういたしまして」

おばさん「どうだい、たいしたおもてなしはできないからご飯でも食べていかないかい?」

ナイン「いえ、宿に戻らないとならないので」

女の子「じゃあね、お兄ちゃん♪今日はホントにありがとうねー」ブンブン

ナイン「じゃあね」ニコッ

キィ……パタン

ナイン「…………」テクテク

勇者「…………」テクテク

ナイン「勇者、女の子に感謝されてまんざらでもなかったでしょ?」

勇者「まぁ……な」

ナイン「感謝の気持ち、屈託ない笑顔。お金や物なんかじゃなくてそれが何よりのお礼だよね」フフッ

ナイン「勇者、君は自分の世界を救わなければならなくて焦ってるのだろうけど……」

ナイン「小事を成せない人間が大事を成せるかい?」

勇者「…………」

ナイン「世界中の人々の笑顔は必ず一人一人の笑顔から成り立ってるんだよ」

ナイン「さっきの女の子の笑顔、忘れないでね」

勇者「そう…………だな」

ナイン「うん、分かればいいよ。これが一番大事なことだからね♪」

ナイン「さ、明日から本格的な修行だ。今日はゆっくり休もう」ニコッ

――――第九の世界・二日目・セントシュタイン城下町・リッカの宿屋
リッカ「起きろーーー!!」

バサッ

ナイン「わわっ!!」

ドテッ

ナイン「痛たた……」

サンディ「くくくっ」クスクス

リッカ「もう朝よ、ナイン」

リッカ「さっきから何度も起こしたのにちっとも起きないんだもの」

ナイン「どうも朝弱くて」アハハ

ナイン「……あれ?勇者は?」キョロキョロ

リッカ「昨日一緒に泊まった人のこと?それなら、ほら」

勇者「はっ!!せい!!」

ビュッ

バッ


リッカ「朝早くから外で体を動かしてるみたいね」

リッカ「ナインも勇者さんを見習わなきゃね」ウフフ

ナイン「ハハッ、まったくだね」苦笑

――――宿屋裏
ナイン「おはよう、勇者」

勇者「おぅ、今起きたのか」

ナイン「起こしてくれたら良かったのに」

勇者「なんか起こすのも悪い気がしてさ、修行の前に体慣らしておこうと思って」チャキ

ナイン「………………」ジー

勇者「……? どうした?」

ナイン「勇者、まさか君その格好で魔王と戦うつもりだったの……?」

勇者「へ?なんか変か?」キョロキョロ

ナイン「ごめん、言い方が悪かったね。『その剣で魔王と戦うつもりだったの?』って聞いたんだ」

勇者「剣って……」チャッ

ボロッ

勇者「んな!!!!」σ

ナイン「刃がところどころ欠けててボロボロじゃないか」

勇者「そういや第三の世界でスリーに貰ってからずっとコイツを振ってきたんだもんな……」

勇者「魔物との闘いも剣術の修行もずっとこの一振り……そりゃボロボロにもなるか」

ナイン「勇者にそれだけ使われていて折れてないってことは相当な業物だってことはわかるけど……それにしても今のその剣が最終決戦に相応しいとは言えないなぁ」

勇者「うーん……そうだよな……」

ナイン「よし、ちょっとついてきて」

――――リッカの宿屋
勇者「宿屋に何かあるのか?」

ナイン「まぁね……彼さ」

勇者「……彼? 変わった形の釜があるだけでどこにも人は……」

???「おはようございます、ご主人様」

勇者「!!?? かか、釜がしゃべった!?」ビクッ

ナイン「彼はカマエル。錬金釜っていう魔法の釜だよ」

カマエル「はじめまして、カマエルと申します」

勇者「ふえぇ……第六の世界で喋る蛙には会ったけど無生物が喋るとはなぁ……」

カマエル「ご主人様、錬金なさいますか?」

勇者「ナイン、レンキンって?」

ナイン「錬金術って言ってね、複数のアイテムを合成して新しいアイテムを作り出す技術があるんだ」

ナイン「カマエルにアイテムを入れるとアイテム同士の相性が良ければ錬金が成功する、ってワケ」

勇者「なるホド、便利な釜だな~」

ナイン「ええっと……はぐれメタルの剣と……オリハルコンと……スライムの冠を入れて」

ガチャガチャ

ナイン「カマエル、よろしくね」

カマエル「はい、かしこまりました」

グツグツグツ……

カッ!!

勇者「!?」

ナイン「できたかな」

カパッ

ナイン「『メタルキングの剣』の完成さ」チャキッ

勇者「おー!!すげー!!ホントに別のアイテムが出来た!!」

ナイン「銀河の剣は僕のだからあげられないけれど……これが今僕が君にあげられる剣の中で一番強い剣だよ」スッ

勇者「え、じゃあ……」

ナイン「うん、君にあげるよ」ニコッ

勇者「マジかよ!!うっわ!!ありがとうナイン!!」

サンディ「相変わらずのお人好しね……ただであんな名刀あげちゃうなんて」

ナイン「フフッ、いいんだよ」

勇者「よっ」チャキ

スラァ……

キラン

勇者「………………」

ナイン「どう、勇者?」

勇者「うん、すげー切れ味良さそうな良い剣だな」

勇者「けど……」

ナイン「けど?」

勇者「なんか草なぎの剣と比べて全然手になじまないなぁ……と思って」

ナイン「それは仕方ないよ、勇者がずっと握ってきた剣とは全く別の剣なんだし……これから新しい剣に慣れていくしかないよ」

勇者「そうか」

ナイン「ホントは君の草なぎ剣をベースに錬金してより強力な剣を作ることができたらそれが一番なんだけどその剣はこの世界にはないものだから僕は何も錬金の情報を知らないからね……」

勇者「錬金の情報?」

ナイン「錬金の成功のために必要なヒントのことだよ。この世界には数百数千ってアイテムがあるんだから、その膨大なアイテムの中で相性の良いアイテムの組を選ぶことはほとんど無理に近い」

ナイン「だから錬金が成功するヒントになるような言い伝えや噂話が頼りなんだけど……さっきも言った通りその剣はこの世界には存在しないからヒントもない、ってこと」

勇者「そっか……」

ナイン「何か錬金の情報になりそうなことを他の世界で聞かなかった?」

勇者「そう言われてもなぁ……」

ナイン「まずは……そうだね、この剣にまつわる話とか」

勇者「えっと……なんだっけな、たしかヤマタノオロチとか言う蛇の化け物の尻尾から出てきたって聞いたな」

ナイン「じゃあ蛇に関係のある話を何か聞いたことないかい?」

勇者「へび……ヘビ……蛇……」

勇者「…………何か、何かあったような……」

『これは……蛇?』

ナイン「何か思い当たることがあったの?」

ミネア『これは……蛇?』

ミネア『……蛇の隣に……鉱石?金属の欠片でしょうか?……それが三つと……青い宝石が1つ……』

ミネア『蛇がそれらを食べて……龍になりました……』

勇者「そうだ!!ミネアが言ってた占い!!きっとあれはこの錬金のための占いだったんだ!!!!きっとそうだ!!」

ナイン「占い?」

勇者「あぁ、蛇が三つの石と青い宝石を食べて龍になるって占い……これって錬金のヒントになるんじゃないか!?」

ナイン「ふぅ~む……たしかに試してみる価値はありそうだね」

ナイン「石……多分鉱石や金属のことかな?それならプラチナ鉱石やミスリル鉱石、オリハルコンあたりかな……青い宝石って言うのがわからないけどそれっぽいものをを手当たり次第に試してみれば……」

ナイン「勇者、なんとかなるかもしれないよ」ニッ

勇者「ホントか!?」

ナイン「うん。とりあえず僕は錬金に必要になるかもしれないアイテムの調達に行こうと思う。それにちょっとした用事もあるし」

勇者「じゃあ俺もアイテム探し手伝うよ」

ナイン「いや、君は修行をしていてくれないかな」

勇者「そうか、わかった。……けど、ナインはどんな修行をつけてくれるんだ?」

ナイン「うん……そのことなんだけどね、勇者」

ナイン「正直僕が勇者に教えられることはほとんどないよ」

勇者「え?」

ナイン「呪文、体力、剣術、戦闘知識に戦闘訓練……もう君がやるべき修行は一通り終わってるんだ」

ナイン「だから……君にこれを渡すよ」スッ

勇者「これは……地図?」

ナイン「うん、『宝の地図』と言ってね、異世界のダンジョンへ繋がる地図さ」

ナイン「今君に渡した地図には異なる世界にいる十三の魔王と大魔王の分身が封印されている」

勇者「!!」

ナイン「地図に示されたの場所に行って地図を使えばダンジョンへいざなわれ魔王達と闘えるよ」

勇者「じゃあ最後の修行は……」

ナイン「そう、魔王との一対一の闘いだよ」ニッ

ナイン「君は自分の世界で魔王とその軍勢に一人で挑まなければならないんでしょ?」

ナイン「この修行はそのための最終ステップだよ」

ナイン「いいかい?」

勇者「あぁ、わかった。やってみる」グッ

勇者「でもせっかくならまさゆきの地図が欲しかったな~」

ナイン「あれは色々といけないからね」苦笑

勇者「冗談だよ」ヘヘッ

勇者「じゃあそうと決まれば早速出発だ!!行ってくるぜ!!」ダダダッ

ナイン「うん、頑張ってね。夜にはここに帰ってくるんだよ」

ナイン「……さてと、僕も行かなくちゃ」タッ

――――鬱蒼と生い茂る森の上空
ビュワッ!!

勇者「……ここらへんかな」

フッ

スタッ

勇者「へへ、やっぱ最初は竜王でしょ」ニッ

勇者「魔王との闘いとはな……今までの修行の成果を全部発揮しないと勝てないだろうな……」

勇者「でも魔王が率いる魔族の大軍に喧嘩売ろうってんだ、他の世界の魔王一人に勝てないでどうする」

勇者「…………よし、行ってみるか!!」バッ

カアアアァァァ!!!!

勇者「おわっ!!ホントにいきなりダンジョンが出てき…………」

勇者「!!」

勇者「邪悪な魔力……このすぐ先に竜王がいる……!!」ゴクッ

カツカツ……

竜王「誰だ貴様?わしを王の……」

勇者「『王の中の王、竜王』だろ? 知ってるぜ」

竜王「ホゥ……わしのことを知っているとは感心じゃな。…………それにしても貴様中々腕が立つと見た」

竜王「どうじゃ?世界の半分をやるからわしの仲間にならんか?」

勇者「へへっ、お決まりの質問だな」

勇者「答えは勿論……」チャキッ

勇者「noだ!!!!!!」ドンッ

――――旧ガナン帝国
サンディ「ねぇねぇナイン~」

ナイン「ん?なに?」

サンディ「勇者の奴一人で行かせちゃって大丈夫だったの?」

サンディ「たしかにアイツは強そうだったけど……宝の地図の魔王達は半端じゃなく強いよ?アンタだって魔王達と闘う時はルイーダの酒場の仲間と協力して闘ってるっしょ?」

サンディ「それを一人で闘わせるなんて……」

ナイン「心配しなくても平気だよ、今の勇者じゃまず勝てないだろうから」

サンディ「うんうん、やっぱりそうよねぇ…………って、はぁ!?勝てないワケ?」

サンディ「それって超ヤバくない!?何無茶な修行押し付けてんのよ!?死んじゃったら修行どころじゃないじゃん!!」

ナイン「落ち着いてよ、サンディ。僕は"今の"勇者じゃ勝てないって言ったんだ」

サンディ「どういう……」

ナイン「勇者がこの世界に来た時、勇者には足りないものが三つあった」

ナイン「一つは全力で闘える武器がないこと。これは今から解決するとして……」

ナイン「残り今回の修行が上手くいけば残りの二つを補える」

ナイン「もっとも、危険な賭けだけどね……」

――――竜王の地図
勇者「……がふっ」ゴパッ

竜王「フハハハハ!!先程までの威勢はどうした、小僧!!」

勇者「……っくそ、いい勝負できると思ったのに……ここまでボロボロにやられるとは思わなかったな……」ハァハァ

竜王「かあぁぁぁぁ!!!!」

ゴオオォォォ!!!!

勇者「くっ!!」シャッ

勇者『マヒャ……』

竜王「甘い」ニヤリ

勇者「マズい!!」

ブンッ

勇者「……尻尾が……」ズキッ

勇者「!!!!」

勇者(しまった!!今までくらったダメージのせいで動けな……)

ドギャッ!!!!

勇者「ぐぁっ!!」メキメキ

ドサッ

勇者「ぐ……畜生……」ゼェゼェ

竜王「まだ息があるか……。だがその中途半端な強さが地獄の死を与えることになる」ニマァ

ガシッ

勇者「!!」

竜王「このままわしの手の中で息絶えるがいい!!」

ギュウウゥゥ!!!!!!

勇者「が……ああ……!!!!!!」メキメキビキビキ

勇者(ぐ……だ、ダメだ、抜け出せない!!!!)

竜王「フハハハハハ!!そうれ、これで終わりじゃ」ギュッ!!!!

メキメキメキ!!!!

勇者「ぐぁああ…………!!!!」ミシミシミシ

勇者(っ……頭がボーっとしてきた……指先に力が入らない……)

勇者(あれ?おかしいな……なんかすげー静かだ……何も見えないし何も聞こえない……さっきまで感じてた激痛もどっかいっちまった……)

勇者(冷たい空気でいっぱいのただ真っ暗な部屋に一人でいるような感じだ……)

勇者(もしかして俺……このまま死ぬのかな……?)

勇者(死んだら仲間がザオリクで……って、クソッ、俺一人で闘ってたんだ)

勇者(それに遺体もある程度の原形を留めてないと蘇生呪文は効かないらしいしな……このままミンチになっちゃったら生き返るもクソもないじゃないかよ)

勇者(……じゃあ……これで終わりなのか……?)

勇者(俺はここで死ぬのか?)

ドクン……

勇者(使命も果たせずに、約束も守れずに、ここで死ぬのか?)

ドクン……

勇者(俺は他の勇者達とは違うのか?……結局世界を救うことなんてできないのか……?)

ドクン……

勇者(こんな中途半端じゃなく……)

ドクン

勇者(俺は……俺は…………!!!!)

ドクン!!!!

――――旧ガナン帝国
サンディ「なんなのよ、その足りないもの二つって?勿体振らずに教えなさいよ」

ナイン「一つ目は……死の覚悟さ」

サンディ「死の覚悟……?」

ナイン「そう。勇者は今までの修行を通して生と死の境目での命のやりとりをしたことがない」

ナイン「魔物との闘いの時、他の世界の勇者やその仲間達がサポートしていてくれたみたいだしね」

ナイン「勇者はこれから修行なんかじゃない、本当の死闘を魔王と繰り広げることになると思う」

ナイン「しかも勇者の場合は他人の助けなんてない、孤独な闘いになる」

ナイン「そんな勇者に死を感じたことがないっていうのは重大な問題だよ」

サンディ「そうなの?」

ナイン「そりゃそうだよ、だって相手も命を懸けて闘いにくるんだからね。そんな相手に今の勇者が闘いを挑んでも勝つことはできないよ」

ナイン「死の恐怖を知らない人間が本気で命を懸けることなんてできないんだから」

ナイン「だから今のうちに死というものを肌で感じる必要がある……意識が薄れ、視界が霞み、耳が遠くなる……その時はっきりと感じる黒々とした、冷たい、無機質な『死』というものを」

ナイン「……それを感じることができて初めて『死』と表裏一体をなす『生』というものを感じることができるんだから……」

サンディ「ふ~~ん」

ナイン「命のやり取りをする闘いでは力も経験も勿論必要だけどそれ以上に生への意志が重要になってくる……月並みな言い方だけど『気持ちが大事』ってことだね」

サンディ「じゃあ最後の一つは?」

ナイン「それは……」

――――???
勇者『!?』ハッ

勇者『あれ……ここは!?』

勇者『俺さっきまで竜王に握り潰されそうになってたのになんでこんな真っ白なとこにいるんだ……?』

???『よう』

勇者『誰だ!?』バッ

???『『誰だ』とは随分なご挨拶だな』クックック

勇者『な……嘘だろ?お前は……』

勇者『お、俺ぇ!?』

勇者『ご名答、俺はお前さ』ニヤ

勇者『どういうことだよ!!なんで俺が二人も……つーかお前偽者だろ!!』

勇者『おいおい、勘弁してくれよ俺は正真正銘お前さ、それに勇者は俺とお前だけじゃないぜ』

勇者『!?』

勇者『そうそう、俺も勇者さ』スゥ…

勇者『俺もな』スゥ…

勇者『俺もだな』スゥ…

勇者『ほら……な』

勇者『なな、なんで俺がこんなにいっぱい!?竜王のまやかしか!?』

勇者『俺のクセに物分かりが悪いな、お前』ハァ

勇者『俺達全員お前でお前は俺達全員だ』

勇者『人の中にはいくつもの自分がいるもんなんだよ、だから"勇者"はお前の中に無数に存在するんだ』

勇者『なんかよくわかんねーけど……まぁいい、それよりここはどこでどうして俺はこんなところにいるんだ!?教えてくれ!!』

勇者『お前自信の強い想いよってお前の精神はここにいざなわれたのさ』

勇者『俺の想い……?』

勇者『そーそー、お前がさっき死にかけてるとき『本当の勇者になりたい』とか思ったからだよ』

勇者『なーにが本当の勇者だよ、笑わせるっての』ケタケタ

勇者『な、なんだよお前!!俺のクセに生意気だぞ!!』

勇者『じゃあ聞くがお前なんかが本当の勇者とやらになれると思ってるのか?』

勇者『村の少年aとして育ってきたお前が、他の世界の勇者達のようになれんか?』

勇者『ぐ……な、なれる……いや、なってみせる!!』

勇者『口ではなんとでも言えらぁな』

勇者『まったくだな、そもそもお前の薄っぺらい使命感なんざたかが知れてるんだよ』

勇者『何ぃ!?』

勇者『本当の勇者になりたいだの自分の世界を救うだのほざいてるけどさ、純粋にそう思ってるワケ?』

勇者『そんなの当たりま……』

勇者『俺が世界を救えたらカッコいいなー』

勇者『!!』

勇者『他の勇者達みたいに強くなれたらすごいなー』

勇者『!!』

勇者『魔王なんて倒した日には人気者じゃね?』

勇者『!!』

勇者『こんなことこれっぽっちも考えてないなんて言えるのかよ?』

勇者『それは……』

勇者『ほーらな、お前の気持ちなんてその程度なんだよ』

勇者『ただかっこいい自分に酔ってみたいだけ』

勇者『そこらへんのガキと何一つ変わりゃしねぇ』

勇者『わかったか?お前は所詮村の少年aにすぎないんだよ』

勇者『ち、……違う!!俺は勇者で……魔王を倒して……村のみんなの仇を討って……世界を救って……』

勇者『自己満足に浸るのか?』

勇者『カッコイ~自分に酔いしれたいのか?』

勇者『みんなからチヤホヤされたいのか?』

勇者『違う!!』

勇者『違わねぇよ』

勇者『違う違う!!』

勇者『違わないっつーの』

勇者『違う違う違う!!』

勇者『もういいだろ?認めちまえよ』

勇者『違う……俺は……俺は…………本当の勇者に…………』

――――旧ガナン帝国
ナイン「それは……」

ナイン「使命感が足りないことさ」

サンディ「はぁ?」

ナイン「納得いかない?」

サンディ「だって勇者は昨日の夜だって今すぐ修行を、ってアンタに頼んでたし今朝だって修行のために体動かしてたじゃない」

サンディ「ヤル気も十分すぎるぐらいあるし使命感がないようには思えないんですケド」

ナイン「まぁね、勇者はたしかにやる気があるし自分の使命を果たそうと一生懸命だ」

ナイン「けど…………自分の全てを懸けてはいない」

サンディ「……?」

ナイン「世界を救いたいっていう勇者の気持ちは本物だよ。そこに嘘偽りはない」

ナイン「だけど世界を救うために自分の命を引き換えにしてもいいか、って聞かれたら躊躇してしまうだろうね」

サンディ「なるほどね、気持ちは嘘じゃないんだけど覚悟が足りてないってワケ」

ナイン「そうそう、覚悟が足りてないって言い方がしっくりくるね」

ナイン「自分の使命の重さを心の底から理解した上で自分の命を、自分の全てを懸けて闘う覚悟。それが今の勇者に足りない最後のものだよ」

ナイン「生への意志、勇者としての使命。この二つを自覚した時……勇者は本物の"勇者"になるだろうね」

――――???
勇者『ったく、さっさと認めちまえばいいのによ』

勇者『まったくだ、こんなに強情だとはな』

勇者『だから違うんだ!!俺は……』

勇者『違わねぇっつってんだよ!!!!』

勇者『!!』ビクッ

勇者『いいか、俺達はお前自身なんだ』

勇者『お前がいくら否定しようがお前の心のどこかに今言ったような気持ちがあるのは事実なんだよ』

勇者『でも……!!』

勇者『だからまず自分自身の弱さを認めろ』

勇者『認めたくない気持ちもわかるがな。自分から逃げるな、自分を否定するな』

勇者『弱い自分を見つめて、醜い自分と向き合え』

勇者『その上で強くなりゃいいじゃねぇか』

勇者『弱い心のない人間なんていやしないんだぜ?』

勇者『本当の強さってのはな、弱さを知ることから始まるんだよ』

勇者『…………』

勇者『お前に……見せてやるよ』スッ

勇者『!?』

キイィィィン!!

ウオオオオオオオ!!

男『た、助けてくれ!!家で家族が待って……ぎゃあっ!!』ドサッ

わーわー!!

女『や、やめて下さい!!きゃーー!!』

わーわー!!

シスター『お願いです、貴方達に少しでも情というものがあるのでしたらどうかこの子達だけでも……ぐふっ!!』バタッ

わーわー!!

老人『せめて安らかに死にたかったわい……』ゴフッ

わーわー!!

女の子『お父さーーん!!お母さーーん!!』ウワァーン!!

勇者『これは…………』

勇者『今のお前の世界だよ』

勇者『人間と魔族の戦争?そんなもんじゃねぇ、魔族による人間の虐殺だ』

勇者『平和ボケした人間達に魔族と闘える奴なんてほんの一握りしかいないからな、まして魔王になんて勝てっこない』

勇者『………………』

わーわー!!

女の子『うわぁーーーん!!』グスッヒグッ

勇者『………………』グッ

勇者『ようやくその気になったみてぇだな……心の底から、よ』

勇者『ま、世界がピンチだとか言われても生の現場を見てないから実感沸かなかっただろうけどよ』

勇者『もう大丈夫だな?』

勇者『……あぁ』

勇者『いいか、お前は弱い』

勇者『"勇者"だって人間だ、完璧なんかじゃねぇ』

勇者『まずはそれを受け入れろ』

勇者『でも弱いお前にもできること、あるだろ?』

勇者『したいこと、あるだろ?』

勇者『しなきゃならないこと、あるだろ?』

勇者『それに命懸けてみろよ、お前の全部をな』

勇者『……あぁ!!』

勇者『ったく世話の焼ける俺だぜ』

勇者『行ってこいよ、俺』

勇者『お前は"勇者"なんだからよ!!!!』ニッ

――――竜王の地図
勇者「…………」

竜王「フハハハハ!!くたばりおったか!!まぁわし相手によくもった方だとは思うがな!!」

勇者「…………俺はまだ死ねない」ボソッ

竜王「む!?」

勇者「俺の世界を救うまで……死ぬわけにはいかねえんだぁーーー!!!!」

バァン!!!!

ブシャァアアーーー!!!!

竜王「ぐあぁ!?わ、わしの手がーーー!!」

ヒュッ

スタッ

勇者「…………」

竜王「き、貴様よくもぉーーーー!!!!!!」ギャオォーー!!!!

勇者「"勇者"の秘剣に……」

バチバチバチ!!

勇者「真の勇気が加わりし時……」

バチバチバチバチバチバチ!!!!!!

勇者「その剣もまた真の力を解放する!!!!」

キイィィィン!!!!!!

竜王「!?」

勇者『ギガブレイク』!!!!!!

ザンッ!!!!

竜王「が……!?」

ブシャァアアーーー!!!!

竜王「ば、馬鹿な……世界の王となるべきこのわしが……」

竜王「こんな……ガキ一人に……」

ズズーーン!!

勇者「やっと……わかったよ」

勇者「"勇者"ってもんの重さが……さ」

キン!!

――――旧ガナン帝国
サンディ「で、なんでここに来たワケ?ガナサダイはもう倒したっしょ?」

ナイン「会いたい人がいてね……って正確には人じゃないか」アハハ

ナイン「この本棚だね」

ナイン「おーい、大賢者さーん、起きて下さいよー」ツンツン

本「ふわぁぁ……誰だい?せっかく人が気持ち良く寝てたっていうのにさ」

ナイン「お久しぶりです」

本「なんだ君か~」アワワ

サンディ「なるホド、この本に会いに来たってワケね?」

本「口うるさい奴もいるね」

サンディ「なな、なんですってー!!本のクセに生意気なんですケド!!」

本「あーうるさいうるさい、だから苦手なんだよ……それに僕は元は人間だって言ってるだろ?」ハァ

本「で、用件はなんだい?何か用があるから僕に会いに来たんでしょ?」

ナイン「はい。極大呪文の呪文書をお借りしたくて……」

本「ん~……あれは本当に強力な呪文だからそう易々とは貸せないんだけど……君の頼みなら仕方ないね」

カアアアァ……

バサバサドサドサ

本「ほら、持って行きなよ」

ナイン「ありがとうございます♪」

本「じゃあ僕はまた寝るから~おやすみ~」

ナイン「あ、待って下さい。お聞きしたいことが」

本「もー、今度は何?」

ナイン「『草なぎの剣』って知ってますか?」

――――リッカの宿屋
ギィ……

勇者「ただいまー」

ナイン「おかえり、勇者」

サンディ「なんだ、ちゃんと生きて帰ってきたじゃ~ん」

ナイン「そうだね、それに……」

勇者「?」

ナイン「朝とは別人のようだ」

ナイン「……"勇者"の顔つきになったね、勇者」

勇者「……もしかしてあぁなることがわかってて俺を魔王と闘わせたのか?」

ナイン「まぁね」ニコッ

勇者「ひっでぇな~……危うく俺は死にかけたんだぞ?」苦笑

ナイン「ごめんね……でもあぁするしかなかったんだ」

勇者「わかってるよ、ありがとうな、ナイン。お陰で大切なことが分かったよ」

ナイン「ふふっ、どういたしまして」

ナイン「あ、勇者。君に渡したいものがあるんだ」

勇者「何?」

ナイン「これさ」スッ

勇者「これは……呪文書か?」

勇者「メラガイアー……バギムーチョ……どれも知らない呪文だな」ペラペラ

ナイン「とびきり強力な呪文……極大呪文って呼ばれてる呪文の呪文書だよ」

ナイン「今の君なら扱いこなせると思う、これからの闘いに役立てて」

勇者「なんか何から何まですまないな」

ナイン「いいんだ、人のために何かをするのが天使の性だからね」ニコッ

ナイン「僕が天使でいられるのもあと少しだろうし」

勇者「…………?」

サンディ「ナイン………」

――――第九の世界・六日目・夜・リッカの宿屋
ボワンッ!!

モクモクモク

勇者「エホエホッ!!」

ナイン「ケホッケホッ」

サンディ「ちょっともう勘弁してよ~」ケホケホ

勇者「またダメだったな~」

ナイン「う~ん……時の水晶も違かったか~……」

勇者「もう三つの金属ってのがオリハルコンじゃないんじゃないか?」

カマエル「オリハルコンと草なぎの剣の相性は良いようですしそれはないと思いますよ」

勇者「そっか~……でもナインが持ってるもので"青い宝石"に当てはまりそうなもんはもう全部試しただろ?」

ナイン「あと一つだけ試してないものがあるよ」

勇者「おっ、何!?」

ナイン「このブルーオーブさ」スッ

キラキラキラ……

勇者「すげー綺麗な宝玉だな……空よりも海よりも青い……」

勇者「きっとこれだ!!」

サンディ「今度こそ成功してよ~」

カチャカチャ

ナイン「これで良し」

ナイン「頼むよ、カマエル」

カマエル「はい、かしこまりました」

グツグツグツグツ

カッ!!!!

ボワーーーン!!!!

勇者「のわーー!!」

ナイン「おへっおへっ!!」

サンディ「もうホンットサイアク!!」

ナイン「あれ~?ブルーオーブでもダメか~……絶対そうだと思ったんだけどな~」ポリポリ

勇者「俺もそうだと思ったんだけどな~……他になんかないの?」

ナイン「う~ん……僕にはもう心当たりはないな~……」

サンディ「もうそんな宝石なんかないんじゃないの?」

勇者「ミネアの占いが外れてるってか?」

サンディ「所詮は占いでしょ~?」

ナイン「それはそうだけど…………」

ナイン「!!」ハッ

勇者「どうした?」

ナイン「そうか……そういうことか」

サンディ「なんなのよ?」

ナイン「草なぎの剣は元々この世界には存在しないものだよね?だったらその錬金に必要なものもこの世界には存在しないものなんじゃないかな?」

サンディ「え?じゃあ別の世界にしかないものってこと?」

ナイン「うん」

勇者「え~、もう他の世界には行けないんだぜ?完成できないじゃないかよ」ハァ

ナイン「勇者は何か他の世界の物持ってないの?」

勇者「何かって……硝子細工のブローチぐらいしか……」コトッ

ナイン「これって……」

サンディ「青いわね……」

勇者「ぇえ!?もしかしてこれ!?」

ナイン「可能性はあるんじゃないかな?」

勇者「だってこれ宝石じゃなくて硝子だぞ?」

サンディ「見方によっては宝石に見えないこともないんじゃない?」

勇者「そ、そうか…………よし、ダメで元々って言うしな、やってみるか」

カチャカチャ

勇者「カマエル」

カマエル「はい、いきますよ」

グツグツグツグツグツグツ

カッ!!!!

ピカーーー!!!!!!

勇者「おわっ!?」

ナイン「これは……!?」

シュウゥゥ……

カマエル「ご主人様、錬金大成功です♪」

ナイン「やったね勇者♪」

勇者「あ、あぁ!!まさかエイトから貰ったブローチがこんなところで役に立つとは思わなかったな……」

カパッ

チャキッ

スラァ…………

キラン!!

サンディ「綺麗な刀身ね~」

ナイン「うん……一目見ただけでこの剣の秘めたる力が伝わってくるよ……勇者、どう?」

勇者「……すげー手に馴染む……草なぎの剣よりもっと手に吸い付く感じだ」

勇者「ありがとうな、カマエル」

カマエル「いえいえ、ご主人様のご友人のお力になれてなによりです」

勇者「そうだ、この剣にも名前をつけなきゃな、う~ん……何がいいかな……」

ナイン「『天叢雲剣』……なんてどうかな?」

勇者「アマノムラクモノツルギ……?」

ナイン「大賢者さんから聞いたんだけどね、草なぎの剣の別名らしいよ」

勇者「へ~……かっこいいな、それ!!」

勇者「よし、じゃあこの剣の名前は『アマノムラクモノツルギ』に決定だ!!」

ナイン「やっと全力で戦える武器を手に入れたね」フフッ

勇者「これで残りの修行も全力で闘えるってもんだ」ニッ

ナイン「そういえば勇者はいつこの世界を去るの?」

勇者「俺が他の世界にいられるのは初日の朝から数えて十日目の日が沈んだ時までだな」

ナイン「あれ?でも勇者ってこの世界には夜に来たんじゃなかったっけ?」

勇者「あ!!たしかにそうだ!!じゃあよくわかんねーや……でもどうして?」

ナイン「この世界を去ったらいよいよ最後の決戦なんでしょ?だったら最後の日は気力体力を万全にしておかないとならないな、って思って」

勇者「そっか……たしかにそうだな」

ナイン「う~ん……そう考えると……十日目の朝にでもこの世界を去ることになるんじゃないかな」

勇者「十日目の朝か……」

ナイン「九日目は修行を早めに切り上げてゆっくり休みなよ、それがいいと思うな」

勇者「ok、じゃ俺は早速……」ウズウズ

ナイン「その剣で宝の地図の魔王と闘って来たいんでしょ?」

勇者「ハハッ、バレバレだな」

ナイン「顔にそう書いてあるもん」フフッ

ナイン「じゃあ僕も用があるから行くとするよ」

勇者「どこに?」

ナイン「それはナイショさ♪」ニコッ

――――第九の世界・九日目・ダークドレアムの地図
ダークドレアム「ぶるあああああああああ!!!!!!」

勇者『私を呼び醒ます者は誰だ?』

ダークドレアム「私を呼び醒ます者は誰だ?」

勇者『私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり……』

ダークドレアム「私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり……」

勇者『私は誰の命令も受けぬ……全てを無に返すのみ……!!』

ダークドレアム「私は誰の命令も受けぬ……全てを無に返すのみ……!!」

ダークドレアム「…………って誰だ貴様は!!人の台詞をことごとく先に言いおってぇ!!!!」

勇者「いやー、ごめんごめん。アンタとの闘いってすげー印象に残っててさ、つい」ナハハ

ダークドレアム「……? 何を訳のわからぬことを……貴様に会うのはこれが初めてのハズだが……?」

勇者「こっちの話だ」ククッ

勇者「今は職業も勇者で剣術も極めたし頼れる武器もある……あの時とは違うぜ」チャキッ

ダークドレアム「…………まぁいい、……血湧き肉踊るとはこのことを言うのだろうな……対峙しただけで分かる貴様のその力……良い闘いになりそうだ」フフフ

勇者「俺も最後の相手がアンタで良かったぜ、相手にとって不足無しってな」

勇者「いくぜっ!!!!」ドンッ

ダークドレアム「ぶるああああああああああ!!!!!!」ドンッ

――――リッカの宿屋
勇者「っぅ~……やっぱダークドレアムはとんでもなく強かったな……ありゃバケモンだ」

勇者「でもどうにか勝つことができたし……自信もついたかな」ヘヘッ

リッカ「あ、お帰りなさい、勇者さん」

勇者「おぅ、ただいま。いつも出迎えありがとうな」

勇者「ナインは?」

リッカ「帰ってきてますよ、なんでも勇者さんのこと驚かせるんだって張り切ってました」ウフフ

勇者「へぇ~~……でもそういうことは俺に言わない方がいいんじゃないか?驚きも半減するって言うか……」

リッカ「あ…………たしかにそうですね」テヘヘ

――――
ギィ……

勇者「よ、ただいま」

ナイン「おかえり、勇者。いよいよ明日だね」

勇者「あぁ……なんだかあっという間の三ヶ月だったよ」

ナイン「フッフッフ……最後の決戦に旅立つ勇者に僕からサプライズがあるんだ」ニヤ

勇者「お?なんだよ、勿体振らないで教えてくれよ」

ナイン「……これさ!!」

ジャーーン

勇者「え?これって……」

ナイン「そう、最上級の防具だよ♪」

ナイン「マントに鎧、額当てにグローブ、ブーツ、腕輪……どれも超一級品さ♪」フフン♪

ナイン「剣術を極めた勇者なら盾なんかいらないと思って用意してないけど……」

勇者「うおーー!!すげーー!!やっぱり勇者はマントだよな!!あ、これ『星降る腕輪』だろ!?スリーが装備してたの見てずっと憧れてたんだー!!!!」キラキラ

ナイン「喜んでくれて僕も嬉しいよ♪」

勇者「これ、ホントに貰っちゃっていいのか!?」

ナイン「勿論さ♪僕からの餞別だよ」ニコッ

勇者「ホントありがとう!!ナイン!!!!」ギュッ

ナイン「いいのいいの、さ、明日に備えて今日は早めに休みなよ。お風呂沸いてるから先に入っちゃってね」フフッ

――――夜更け
勇者「…………」

勇者(明日はついに決戦か……思い返せば色々あったな……)

勇者(九つの世界で修行をして俺は確かに強くなった)

勇者(だけど手にしたこの力よりも……もっと大事なもんを勇者達から教えてもらったなぁ……)

勇者(もしかしたらルビスはそういうもんを俺に知って欲しかったのかな……)

勇者「はは、考えすぎかな」

ナイン「なーに考えてるの?」ヌッ

勇者「おわっ!?」ドキーーン

勇者「な、なんだナインかよ、おどかすなよな」ハァハァ

ナイン「ごめんごめん、部屋見回しても勇者がいないから探してみたら廊下で一人で窓の外眺めながら物思いにふけってたからさ、どうかしたのかなぁ、って」

ナイン「よく眠れなかった?」

勇者「いいや、そんなことないぜ?ぐっすり眠れたよ」

勇者「ただなんか早くに目が覚めちゃってさ、落ち着かなくて……ボーっとしてた」

ナイン「そっか……じゃあ僕も少しこうしていようかな」

勇者「夜の風は涼しいからな」

ナイン「うん、そうだね」

勇者「……」

ナイン「……」

勇者「…………」

ナイン「…………」

勇者「………………」

ナイン「………………」

勇者「…………なんか無言って気まずいな」苦笑

ナイン「ホントだね」アハハ

ナイン「…………不安なの?」

勇者「え?」

ナイン「明日は最終決戦でしょ?だから……」

勇者「あぁ、そのことか。…………うーん……なんて言うか心がふわふわしてもやもやしてちょっぴり怖くて……ドキドキもしてて……そんな感じかな?」

ナイン「それを不安って言うんだよ」フフッ

勇者「そうか」苦笑

勇者「他の勇者達も魔王との決戦の前はこんな気持ちになるのかな……」

ナイン「きっとそうだと思うな……"勇者"だって人間だもの」

ナイン「僕も……不安なんだ、エルギオスと闘うことが……何より自分が天使でなくなってしまうことが」

勇者「え?天使でなくなるって……?」

ナイン「天使っていうのはね、自分より位の高い天使には刃向うことができないようになっているんだ」

ナイン「堕天使エルギオスは元は最上級天使。堕ちてしまった今でもそれは変わらない……つまりどの天使も彼と闘うことはできない」

ナイン「でもこのまま彼を放っておいたら世界が滅ぼされてしまう」

ナイン「だから僕は願いを叶える果実の力で人間になろう、って決めたんだ」

勇者「でもそれじゃナインが……」

ナイン「うん、もう二度と天使には戻れない……人間として生きて行くしかないだろうね」

ナイン「でも……大切な友達が、仲間が、世界中の人達が、悲しい思いをするのだけは絶対に許せないんだ」グッ

勇者「ナイン…………」

ナイン「『誰かのためにその身を捧げる』……これも天使として生まれた僕の宿命なのかな」フフッ

ナイン「人間になろうとは決めていたけど……正直悩んでるところもあった。だけど君と出会って決意を固めたよ」

勇者「俺と出会って……?」

ナイン「うん。不安や恐怖と闘いながら世界中の人々のために闘ってるのは僕だけじゃないんだな……って思って」

ナイン「僕が最後の決断をできたのは……迷いを振り払うことができたのは勇者のおかげさ」

勇者「…………でもナイン、村の伝承ではナインは堕天使を倒したって語り継がれていたんだ」

勇者「これってナインが人間になったってことだろ?」

勇者「俺と出会わなくても結局は……」

ナイン「そんなの……関係ないよ」

ナイン「勇者の村の伝承で僕のことがどう語り継がれてるか知らないけどね、今ここにいる僕は君に支えられて人間になることを決めたんだ」

ナイン「だからやっぱり君のおかげなんだよ」

勇者「ナイン……」

ナイン「きっと他の勇者達も君に助けられたことがいっぱいあるんじゃないかな?」

ナイン「君が勇者達に出会えたことを感謝しているように勇者達も君に出会えたことを感謝していると思うよ」

ナイン「勿論、僕もね」ニコッ

勇者「……ありがとう……」

ナイン「…………話している間に夜が明けてきたね」

勇者「…………」

キラキラキラ……

勇者「お……」

ナイン「お別れの時間……だね?」

勇者「あぁ……」

勇者「ナイン、俺精一杯やってくるよ。勇者の……いや、俺の使命を果たしてみせる」

ナイン「うん、僕もだ」

キラキラキラ……

勇者「色々とホントにありがとうな、高価な武具までもらっちゃって……」

ナイン「それは気にしないでって言ったでしょ……じゃあ勇者が魔王を倒したら倍返しにしてもらおうかな」フフッ

勇者「うへぇ、それはルビスにつけといてくれよ」苦笑

キラキラキラ……

ナイン「……勇者、例えどんなにつらくても……挫けそうでも……諦めないでね」

勇者「勿論だとも」

ナイン「"勇者"は人々の希望の象徴……君の心の希望の光が消えないことを願っているよ」スッ

勇者「ありがとう」ギュッ

キラキラキラ……

勇者「じゃあ……行ってくる」

ナイン「うん、いってらっしゃい」ニコッ

キラキラキラ……

勇者「じゃあな……」

キラキラキラ……

フッ……

ナイン「行っちゃったか……」

サンディ「寂しいの?」ヒョコッ

ナイン「まぁね……それよりありがとう、サンディ」

サンディ「何が?」

ナイン「僕と勇者がゆっくりお別れできるように自分は出てこないで我慢しててくれてたんでしょ?」

サンディ「は、はぁ~?意味わかんないし、勘違いもいいとこなんですケド~」

ナイン「ふふ、じゃあそういうことにしとこうか」クスクス

ナイン「勇者も決戦に旅立ったことだし……僕も最後の決戦へと向かおうかな」

サンディ「遂にエルキモスとの最終決戦ってワケね」

ナイン「エルギオスだよ、エルギオス」フフッ

サンディ「もう、わかってるちゅーの!!わざとよわざと!!」

ポッポーーー!!

ナイン「あれは……」

ガシュガシュガシュガシュ

ポッポーーー!!

キキィ……

アギロ「よう、ナイン、サンディ」

ナイン「アギロさん!!」

サンディ「店長!!」

アギロ「だから店長じゃねぇつってんだろ!!」

ナイン「どうしてここに……?」

アギロ「女神様……セレシア様っつったっけか?あの方からの声が聞こえてな、ナインを迎えにセントシュタインまで行けってよ」

ナイン「そうですか」

アギロ「覚悟は決まったみてぇだな?漢のツラしてやがるぜ」

ナイン「はい、行きましょう。エルギオスを倒しに神の国へ!!」

アギロ「おぅ!!出発……」

サンディ「進行ぉーーー!!」

ポッポーーー!!!!

ガシュガシュガシュガシュ!!

サンディ「はぁ……」

アギロ「どうした、ため息なんかついて」

ナイン「幸せが逃げちゃうよ?」

サンディ「アンタのせいよ!!」ジロッ

ナイン「え!?僕!?」

サンディ「だってアンタが女神の果実を食べて人間になっちゃったらもうアタシ達のこと見えなくなっちゃうんでしょ?」

サンディ「そんなのってあんまりだよぉ~」

アギロ「馬鹿野郎、漢の決断にとやかく言うんじゃねぇ」

サンディ「でも……」

ナイン「大丈夫だよサンディ、人間になっても消えていなくなっちゃうワケじゃないしサンディのこともアギロさんのことも忘れないよ」

ナイン「それにもしかしたら何かの出来事でまた天使に戻れるかもしれないでしょ?」

サンディ「ナイン……」

ナイン「そういうワケだからさ、悲しまないでよ」

サンディ「……うん、わかった……その代わりアタシのこと忘れたら毎日寝てる間に顔に落書きしてやるからね?」

ナイン「ははっ、わかったよ」

ナイン「さてと……それじゃ」ゴクッ

ナイン「いただきま~……」アー

ナイン「…………?」

サンディ「何よ、どうしたの?」

ナイン「いや……今声が聞こえなかった?」

サンディ「アタシは何も言ってないケド?」

アギロ「俺も何も……」

ナイン「…………ホラ、また」

サンディ「はぁ?アンタ頭おかしくなっちゃったの?」

アギロ「…………ん?」

ナイン「どうかしたんですか?」

アギロ「……なんだありゃ?」

ナイン「あれは…………!?」

――――星の海
勇者「…………ルビス」

ルビス『いよいよ決戦の時ですね』

勇者「魔王軍は?」

ルビス『既に最後の国を陥落させつつあります……王都まで攻め込まれてますから……時間の問題かと……』

勇者「分かった」

ルビス『落ち着いているんですね?』

勇者「自分でもなんでかわからないけど心が静かなんだ……でもその奥底には熱い何かが煮えたぎってるって感じかな」

ルビス『そうですか……勇者、準備は良いですか?』

勇者「あぁ、気力体力、申し分ないぜ!!」

勇者「ルビス……今までありがとうな」

ルビス『え……?』

勇者「ルビスがこうして力を貸してくれなかったら俺は何もできない何も知らないただのガキのまんまだったと思うんだ」

勇者「だから……ありがとう、ルビス」

ルビス『………………』

勇者「……ルビス?」

ルビス『いえ……少し驚いてしまって……』

勇者「なんで?」

ルビス『貴方に勇者という過酷な運命を背負わせてしまったのは私です……ですから恨まれても仕方ないと思っていたのです。それなのにこうして感謝されるなどとは……』

勇者「…………」

ルビス『私の方こそ貴方にお礼を言わなければなりませんね、貴方が勇者で本当に良かった……ありが……』

勇者「おっと、そこから先は魔王を倒してからだ」ニッ

ルビス『ふふっ、そうですね』

ルビス『いきますよ、勇者』

勇者「あぁ!!頼む!!!!」

ルビス『行きなさい、勇者よ。今こそ貴方が悪を切り裂く光の剣となるのです!!!!』

カアアァァァァァァ!!

最終決戦前突の前にしばらく落ちます
もし読んでくれてる人いたら最後までお付き合いいただければ幸いですm(_ _)m

追い付いた!!最後まで見るからな!!支援

>>700-702 来てくれてサンクス最後まで駆け抜けるぜ

――――零番目の世界・勇者の伝承を紡ぐ村・地下室
パッ

スタッ

勇者「ここか……勇者の祠の御神木の隠し地下室……」

勇者「ここから冒険が始まったんだな」

勇者「……っと、感傷に浸るのは魔王を倒してからだ」ダダッ

カッカッカッカッ

ザッ

勇者「なんだこりゃ……?空がどす黒く濁ってる……それに……」

勇者「…………ここからでも感じる……ドデカい魔力ととんでもない数の魔力があっちの方角に固まってる……」

勇者「……そうか、最後の国って俺がいた国なのか……じゃあ王都へはルーラで行けるな」

勇者「待っててくれよ、みんな!!!!」

勇者『ルーラッ』!!!!!!

ドヒュンッ!!!!!!

――――――――
あるところに一人の少年がいた。

小さな村でごく普通の少年として育った彼はある日自らの過酷な運命を知ることとなった。

そんな彼を支えたのは別の世界の九人の勇者とその仲間達。

勇者達は彼に自らの持てる全てを教えた。
彼が運命の荒波に飲まれぬように、一人の人間としてその運命に立ち向かえるように。

時には共に戦い、
時には共に笑い、
時には共に怒り、
時には共に泣き、
互いを支え合った。

いつしか少年は勇者達にとっても大切な仲間となっていた。

そして今、ここにはかつての少年はいない。

一人の孤高なる勇者がいるだけである。

勇者はこの世界を救うため風を切り、雲を抜け、巨悪に苦しめられている人々の元へと向かっている。

眼下には山や川、いくつもの滅ぼされた村や街やが広がっている。

それらの頭上を通り過ぎ、勇者は行く。

世界のために。

人々のために。

何よりも自分自身のために。

仲間との誓いを胸に。

――――王都・王宮前広場
わー!!わー!!

ウオォォォ!!!!

キィン!!

ガキィン!!

兵士a「ここから先へは行かせんぞ魔族め!!」

キィン!!

魔族a「クハハハハ!!人間ごときが俺達に勝てるわけがないだろうが!!」

カッ!!

ドガァン!!

兵士a「うわーー!!」ドサッ

兵士b「兵士aーー!!うおぉーー!!」ブンッ

魔族a「おっと」

スカッ

兵士b「なっ!?」

魔族b「隙だらけだぜぇ兵士さん」ビュッ

ドゴッ!!

兵士b「が……!!」ガフッ

魔族a「おい、さっさと殺っちまえよ」

魔族b「まぁそれもいいけどよ……腹減らねぇか?」

魔族a「……たしかに」ニヤリ

兵士b「!?」ビクッ

魔族b「本当は女子供の肉が一番美味いけど……まぁ人間の肉に変わりはねぇ」ジュルリ

兵士b「や、やめろ、やめろーー!!!!」

魔族a「あ~~……」

兵士長「私の部下なんか食べても腹を壊すだけだぞ?」

ザンッ

魔族a「が……はぁ!?」ドサッ

兵士b「兵士長!!!!」

魔族b「テメェ……よくも魔族aを!!!!」グアッ!!

兵士長「ぬぇい!!」

キィン!!

キキィン!!

ガキィン!!

魔族b「へぇ……人間にしては少しはやるようだな……」

魔族b「だがここまでだ、可愛い部下と一緒に消し飛べ!!」

魔族b『イオナズ……!!』

ドスッ

魔族b「な……!?」

兵士a「人間舐めるなよ……魔族め」ハァハァゼェゼェ

魔族b「く……そ……」ドサッ

兵士長「無事だったか、兵士a」

兵士a「えぇ……まだちょっと頭がクラクラしますがね」

兵士b「兵士長……状況は芳しくありません……第二、第三、第六師団はほぼ全滅。残りの第一、第四、第五、第七、第八師団も……」

兵士長「あぁ、騎士団もほぼ全滅だと連絡があった」

兵士b「騎士団が!?」

兵士a「どうなっちまうんだ俺達……」

兵士長「来い!!なんとしても国王と姫様だけはお守りするんだ!!」ダダッ

兵士a・b「ハッ!!」ダッ

兵士a「……はぁ……しっかし華のない人生だったなぁ……せめて一回ぐらいは可愛い女の子とらぶらぶちゅっちゅしたかったぜ……」

兵士b「お前じゃ一生無理だろうよ」

兵士a「うるせーイケメン!!テメェにゃモテない男の悲しみなんかわからねぇんだ!!」グスッ

兵士長「まだ死ぬと決まったワケじゃないだろう?そう悲壮的になるなよ」

兵士a「でも兵士長……このままじゃ……」

兵士長「私は希望の光とやらを信じるつもりだ」

兵士b「と言いますと……城の占い師が予言した光の勇者のことですか?」

兵士長「あぁ」

兵士a「そんな予言なんかアテになりませんよ、勇者だかなんだか知りませんがホントにいるんなら早く助けにこいって話ですよ」ケッ

兵士長「だが例え占いでも心の支えにはなるだろ?それに……私にはどうしても勇者が現れる気がしてならんのだ」

兵士b「それは何故……?」

兵士長「自分でもわからん……だが闇が存在するなら光もまた存在するべきだとは思わないか?」

兵士a「……前から思ってたんですけど兵士長ってすげープラス思考ですよね」

兵士長「まぁな、悪い考えは下の者に伝染する……人の上に立つ身としてプラス思考でいることは必要なことだと思う」

兵士a「ま、そういうとこ俺は嫌いじゃないですけどね」

兵士長「そうか……私はお前が嫌いだがな」フッ

兵士b「俺もです」ククッ

兵士a「なぁ!?アンタらなぁ!?」

兵士長「……っと、無駄話もここまでだな」

ザザザッ

魔族c「おい、また人間だぞ」クチャクチャ

魔族d「ったく、ウジャウジャ湧いてきやがって……お前らアリンコかよ」

魔族e「さっさと片づけちまおうぜ」

兵士長「少しの時間も無駄にはできん!!一刻も早くここを突破し国王と姫様をお助けするぞ!!」チャキッ

兵士a「合点!!」チャッ

兵士b「了解!!」チャッ

わー!!わー!!

ウオォォォ!!!!

――――王宮・王の間
ブシャアアァァ!!

騎士団長「ぐ…………は……」ドサッ

国王「騎士団長!!」

姫「お、お父様!!」ダッ

国王「来るな!!」

姫「!!」ビクッ

炎の四天王「おうおう、護衛も死んじまって絶体絶命だってのに娘の身を案じるとは泣かせるなぁ」ニタニタ

国王「く……この国ももう終わりじゃ……大人しく降伏しよう……じゃからせめて国民達には手出ししないと約束してくれんか?」

国王「そのためならわしの命など喜んで差し出す……この通りじゃ」バッ

炎の四天王「あーあ、一国の主が敵に頭下げるなんて……情けねぇなぁ」ケッケッケ

国王「…………」ギリッ

炎の四天王「でもそのお願いは聞いてやれねぇんだわ」

国王「な!?」

炎の四天王「俺達は魔王様からこの国を破壊し虐殺し尽すことを仰せ遣っている」

炎の四天王「まして魔王様の望みは人間共の完全支配だ、今まで墜としてきた国でも生き残った人間はみんな奴隷として使っている」

炎の四天王「それなのにお前一人の命で他の人間を見逃して欲しいだ?笑わせるぜ、お前何様だよ?あ、王様か……グハハハハハ!!」ゲラゲラ

国王「ぬぅ……おのれぇ!!」

炎の四天王『メラミ』パチィン

ボウゥッ!!

国王「ぐ……ああぁぁあ!!!!」

姫「お父様ぁーーー!!」

炎の四天王「おいおい、死なない程度に加減してやったってのに大げさな奴だなぁ」

炎の四天王「さて」ジロッ

姫「!?」ビクッ

炎の四天王「噂には聞いてたけどお前美人だな、この美貌なら魔王様もきっと気に入るハズだ」クックック

姫「な、何を……」

炎の四天王「なぁに、お前は無傷で生かしといてやるって言ってんだよ」

炎の四天王「ちょっと頭の中いじって魔王様に絶対の忠誠を誓わせてやるよ」ケッケッケ

バァン!!!!

炎の四天王「ぁあん!?」

兵士長「そこまでだ!!魔王軍!!」ハァハァ

兵士a「そうだそうだ!!俺達のアイドル、姫様に指一本触れてみろ!?この兵士長と兵士bが黙っちゃいないぜ!!」

兵士b「お前もだよ」

ガンッ

兵士a「いてっ」

姫「兵士長!!兵士b!!」

兵士a「あ、あの~姫様?俺もいますよ~」

炎の四天王「なんだよおどかしやがって……人間の兵士か」

兵士b「兵士長、あれを!!」

国王「う……ぐぅ……」シュウゥ

騎士団長「」

兵士長「こ、国王!!騎士団長!!」

兵士長「貴様……行くぞ、お前達!!!!」

兵士長「ぅおおおおおお!!!!!!」ダッ

兵士a「おりゃああああ!!!!!!」ダッ

兵士b「はぁあああああ!!!!!!」ダッ

炎の四天王「雑魚はすっこんでろ!!」

炎の四天王『ベギラゴン』!!!!

ゴオオオォォォ!!!!

兵士長「ぐ……あぁぁ!!」

兵士a「うわ……っ!!」

兵士b「が…………!!」

ドサドサドサッ

シュー……プスプス

姫「な!?そ、そんな……!!」

炎の四天王「ったく、余計な手間かけさせやがって……」

国王「に……逃げろ……姫……」

兵士長「姫……様……」

兵士a「熱つ……ぐぅ……」

兵士b「お逃げ下さい……」

炎の四天王「ホラ、こっちに来いよ、姫さん」ケッケッケ

姫「…………嫌です!!」バシィッ

炎の四天王「…………あ゛?」ギロッ

姫「お父様やお城の皆さん……国の皆さんに酷いことをする魔王などに付き従うぐらいでしたら……ここで死んだ方がマシですわ!!」キッ

炎の四天王「……その言葉……本心だな?」ゴゴゴゴゴ

姫「えぇ!!悔いたりしません!!」

炎の四天王「なら望み通りにしてやるよ…………ここで死ねぇ!!!!!!」グアッ

兵士長「ひ、姫様ぁ!!」

姫「………ッ!!」ギュッ

ガキィーーーーーーン!!!!

勇者「危ねぇ~……間一髪ギリギリセーフ、ってとこかな」ヘヘッ

姫「…………!?」パチッ

兵士長「な……何者だアイツ……?」

炎の四天王「な、なんだテメェは!?俺の一撃を受け止めるなんて……タダ者じゃねぇな!?」

姫「あ、貴方は一体……?」

勇者「俺は…………」

勇者「この世界の勇者さ!!」ニッ

姫「ゆ、勇者様……?」

炎の四天王「勇者!?勇者だと!?ば、馬鹿な!!あの村はたしかに俺が指揮を執って全滅させたハズ……なのに勇者が存在するなんてあり得ねぇ!!!!」ワナワナ

勇者「ところがいたんだなぁ……一人だけ生き残った少年がさ」

炎の四天王「ぐ……だ、だがそれがどうした!!例え勇者でも俺達魔王軍と魔王様に勝てるワケがない!!」

炎の四天王「今ここでケシ炭にしてやる!!!!」

勇者「…………」チラッ

勇者「ここで闘うのは得策じゃないな……もっと広いところじゃなきゃ俺も暴れられないし」

炎の四天王「うおおお!!」ダッ

勇者『バシルーラ』!!

バァンッ!!

炎の四天王「な……!?」

ビューーン!!

勇者「よし、外に出たな……他の魔族共々片付けてやる」

姫「あ、あの!!勇者様!!」

勇者「あぁ、姫さんか……へぇ~……見たことなかったけどすげー美人だな、噂通りだ」

姫「先程は危ないところをありがとうございました」ペコッ

勇者「いいっていいって、それよりもっと早く来れなくてすまなかったな、王都がこんなにメチャクチャになっちまってるなんて……」

姫「…………」

勇者「でも後は俺に任せとけ!!魔王なんざ軽くぶっ飛ばしてやるからよ!!」ニカッ

姫「は、はい!!」

勇者『トベルーラ』!!

フワッ……ギュンッ!!!!

兵士a「っう……へ、兵士長……アイツは……」

兵士長「あぁ、間違いない……俺達の希望の光、勇者だ!!!!」

――――王宮前広場
わー!!わー!!

ウオォォオ!!

勇者「……すげぇ数の魔族だな……だけど負けるつもりはない!!」

炎の四天王「テメェ……さっきはよくも吹っ飛ばしてくれたな……」

勇者「あそこじゃお前も闘いづらいだろ?俺も本気出せないしさ」

炎の四天王「ほざけ!!お前ら!!人間共は後でいい、コイツを真っ先に潰せ!!」

魔族達「ハッ!!!!」

――――――――
数えきれないほどの魔族達が勇者へと襲いかかる。
或る者は手に武器を携え、また或る者は呪文を放とうと身構えている。

圧倒的な数の殺気を―――常人なら卒倒しかねない殺気を―――その身に受けつつも勇者は至って冷静だった。

呪文を使う時はそうあることが求められるからだ。

ワン『第一段階として世界に満ちる魔力の知覚』

勇者はまず静かに目を閉じた。

ワン『第二段階として自分の中の魔力を変換して扉を造る』

次に己の中で魔力を高めていく。

ワン『第三段階で自分の発するスペルが鍵となり扉を開く』

自らの放つ呪文……そのイメージをハッキリと形にする。

ワン『そして最後に世界に満ちる魔力が扉を通って放たれる』

そして呪文の名と共に蓄えられた魔力が解放され大爆発を引き起こす!!!!

勇者『イオグランデッ』!!!!!!

カッッッ!!!!

ドッガアアアァァァァーーーーン!!!!!!!!

魔族の群れ「ぐあああぁぁぁーーー!!!!」

大気中の塵を利用し広範囲に渡り魔力の爆発を起こすのがイオ系の呪文である。

中でも勇者が今放った呪文は極大呪文……つまり最強の破壊力を持つ呪文だった。

修行により培われた勇者の膨大な魔力と相まってその爆発は千を超える魔族を一瞬にして無力化する規模となった。

爆発の余韻は今尚大地を、大気を揺らし続けている……。

勇者「ワン……どうだ?呪文も知らなかった俺が今じゃこんなすげー呪文だって使えるんだぜ」

――――――――
イオグランデによる爆煙の中から一つの巨大な影が躍り出た。

勇者の20倍……いや、30倍はあろうかという巨大な影は真っ直ぐに勇者へと突き進んでくる。

勇者「!?」

大地の四天王「フハハハハ!!たいした威力の呪文だ!!だがな、部下達は倒せてもあの程度の爆発では俺は倒せんぞ!!!!」ギュンッ

ガシィッ!!

岩肌の巨大な魔族が勇者を両手で鷲掴みにする。
その姿はさながら大男が小さな羽虫を握り潰そうとしているかのようである。

ググググググ……!!!!!!

大地の四天王がその手に力を込める。

彼は魔王軍で魔王に次ぐ怪力の持ち主。
その気になれば山をも動かすことができるとさえ言われている。

大地の四天王「このまま潰れてしまえぇ!!!!!!」

大地の四天王は全身にみなぎる力を握力へと変え勇者を握り潰す。

しかし……その手は微動だにしない。
彼の手に包まれている勇者は潰れていない。

大地の四天王「な……にぃ!?」

こめかみに青筋を浮かべ歯をくいしばり手先に力を込める大地の四天王。
だが彼の両手は力の入れすぎで小刻みに揺れるだけである。

勇者「……なんだよ、これが全力か?」

大地の四天王「!?」

勇者「ぅ……ぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

雄叫びと共に勇者が全身に力を込める。

ググ……

グググ……!!

全力で握っているにも関わらず徐々に開いてゆく大地の四天王の両手。

そして……

勇者「だぁっ!!!!」

バァンッ!!

大地の四天王「ば……馬鹿な!!俺の怪力から逃れるなどそんな…………!!」

勇者「これで怪力自慢のつもりか?ハッ、笑わせんな。お前じゃツーの50%にも勝てないだろうよ」

言うと勇者は空中で左足を前にする形で半身に構え深く腰を落とした。
体重は左足に三、右足に七の割合でのせる。

勇者「せやぁああ!!」ドンッ!!

掛け声と同時に大地の四天王へと突進する。

狙いは心中線、鳩尾。
腰の捻りと同時に左手を引き右手を突き出す。
勇者の全力と全体重ののった拳が大地の四天王の急所を真っ直ぐに捉えた。

勇者『正拳突きぃぃ』!!!!!!

ドゴオッッッ!!!!!!

大地の四天王「ぐっはああぁぁぁぁ!!!!!!」

大地をハンマーで打ちつけたような重々しい音と共に大地の四天王は吹き飛んだ。
……自分の掌よりもずっとずっと小さい人間の手によって。

勇者「ツー、いつか100%本気のお前と組手がしてみたいもんだな」

―――――――――
意識を失い地上へと落ち行く大地の四天王。
その姿を尻目に勇者は次の行動に移っていた。

わー!!わー!!

ウオオォォォ!!!!

先程爆裂呪文で千の魔族を倒したとは言え広場にはまだ数えきれない魔族が王国の兵士達と闘っている。

眼前を見下ろすと勇者は静かに腰から下げた愛剣を抜いた。

『天叢雲剣』。

勇者が苦難を共にした『草なぎの剣』の生まれ変わった姿だ。
刀身には鮮やかな青の紋様が細工されている。
誰もが息を飲むほど美しい剣である。

勇者は剣を高々と天へと掲げた。

ゴロゴロ……

ゴロゴロゴロゴロ!!!!

魔族f「な、なんだ!?」

魔族g「雷雲だと!?」

勇者は広場にいる魔族一人一人の位置を把握するために意識を集中する。
十分な精神統一の後、勇者が叫ぶ。

勇者「くらえぇ!!」

勇者『ギガデイーーーンッ』!!!!!!

カッッ!!

ピシャァ!!!!

ズガガガガガーーーーン!!!!!!

魔族達「ぎゃああぁぁぁーーー!!!!」

古より勇者のみが扱うことを許された稲妻の呪文、デイン。
その最高クラスの呪文がギガデインだ。

勇者が呼び出した雷雲より放たれし千のいかずちは広場の魔族達を的確に狙い撃った。

本来広範囲に向けて放つこの雷撃の呪文を複数の対象に、それも正確に命中させることができたのは勇者の力量があればこそである。

地上へと落とされた高密度の魔力の落雷を受けた魔族達の多くは断末魔を叫ぶのもままならぬままに炭と化した。

勇者は剣を抜いた時と同じように静かに鞘へと納めた。

キィン!!

勇者「デイン系は勇者の呪文だったな……俺もアンタに負けないようなギガデインが使えるようになったぜ、スリー」

――――――――
風の四天王「まだまだだぁ!!」バサッ

大きな翼を生やした魔族が空を駆ける。

風の四天王。
大地の四天王がパワーの四天王だとするならば彼はスピードの四天王である。
その疾風の如き疾さは魔王すら一目置いているほとだ。
彼の本気のスピードは一般人には目に留めることすら許されない。
正に神速の魔族と言えよう。

風の四天王「先程の爆裂呪文と雷撃呪文でかなりの数の魔族を倒したみたいだけどな、まだ魔王軍の兵士は半分以上残ってるぞ!!!!」

勇者「言われなくてもわかってるよ」

風の四天王「それにな、貴様はここで俺達に倒されるんだ!!!!」

風の四天王「ピーーーー!!!!」

バササササササササササササッ

疾風の魔族a「風の四天王様!!」バサッ

疾風の魔族b「我らが来たからにはこやつの命もここまで!!」バサッ

疾風の魔族c「行きましょうぞ!!!!」バサッ

風の四天王の口笛によって上空へ現れたのは十二人の疾風の魔族。
風の魔族直属の上級魔族である彼らもまた背中に翼を有している。
そのスピードはやはり魔王軍随一である。

風の四天王「行くぞぉ!!」

疾風の魔族達「ハッ!!!!」

ビュワワワワッ!!!!!!

風の四天王の合図を受けて最大戦速へと加速する疾風の魔族達。
今勇者の回りには風の四天王と疾風の魔族達が超スピードで飛び回っている。

計十三対の翼が目にも留まらぬ速さで勇者を翻弄する。

勇者は肩幅より広く足を開き若干前屈みになり、おもむろに左右へ両手を広げた。

風の四天王「フハハハハ!!この速度で飛び回る俺達に呪文を当てる気か!?」

風の四天王「やってみるんだな!!呪文を外した時が貴様の最期だ!!!!」ビュワッ!!

勇者「別に、当てるつもりなんかないよ」

風の四天王「何!?」

勇者『バギムーチョ』!!!!!!

ビュワーーーーーッ!!!!!!!!

ゴウゥッッッッ!!!!!!!!

風の四天王「な……あ!?」

今勇者が放った呪文は空気を操り突風、真空波を起こす真空呪文。その極大呪文である。

戦闘で相手に致命傷を与えるためならこの呪文で発生させた巨大な真空波の竜巻を相手にぶつけるのが効果的だ。

だが勇者はそうしなかった。
空中において自分を中心に大規模化な気流のうねりを発生させるためにこの呪文を使ったのだ。

疾風の魔族a「ぐぁ……!?」グラッ

疾風の魔族b「何ぃ!?」グラッ

翼で空を舞う風の四天王、疾風の魔族達は突如として起こった気流の洪水によってバランスをとれなくなり、為す術もなくきりもみ状態となった。

ヒュッ!!

ザンッ!!

疾風の魔族k「ぐあぁ!!」ヒュー

風の四天王「!?」

ヒュッ!!

ザンッ!!

疾風の魔族l「きゃー!!」ヒュー

風の四天王「な、なんだ!?」

ヒュッ!!

風の四天王「!!」

勇者「よう、お前が最後だな」

風の四天王「ち、ちくしょぉおおー!!」ブンッ

サッ

勇者「ハァッ!!!!」

ザンッッッ!!!!

風の四天王「ぐ……はぁ……!!」ガフッ ヒュー

鳥が鳥たる所以は翼で大空を自由に舞うことができるからだ。
翼を失った鳥は鳥ではない。

風の四天王の苦し紛れの攻撃を空中浮遊の呪文で優雅に避わし勇者は彼の体を二つに切り裂いた。

勇者「『鳥系や空を飛ぶ魔物にはバギ系の呪文が有効だな、と言うのもバギ系は風を起こす呪文だから上手く気流を乱してやれば空を飛ぶ魔物はバランスがとれなくなって隙が出来る』だろ?フォー、アンタから教えて貰ったこと……ちゃんと覚えてるからな」

――――――――
水の四天王「ちょっと!!大地の四天王だけじゃなくて風の四天王もやられちゃったわよ!?」

炎の四天王「狼狽えんな!!アイツは暢気に空に浮かんだままだ、このまま撃ち落とせばいい!!」

炎の四天王「弓隊!!呪文隊!!前へ!!!!」

弓隊・呪文隊「「「ハッ!!!!」」」ザザザザッ

魔王軍の中でも遠距離攻撃を担当しているのが弓隊、呪文隊である。

その名が示す通り弓隊は弓術の名手が在籍している隊だ。
しかも彼らはただ弓矢を使うだけではない。
矢尻に魔力を伝わせることによって矢のスピード・破壊力・命中精度を向上させているのだ。

呪文隊は呪文使いのエリート集団だ。
通常呪文は一度に一つの呪文を使うことしかできないが呪文隊に在籍する魔族は同時に二~三種類の異なる呪文を使うことができる。
勿論その精度、威力共に申し分ない。

炎の四天王「撃てぇーーー!!!!!!」

弓隊「「はぁっ!!!!」

ビュビュビュビュッ!!

ヒュンヒュヒュンッ!!

呪文隊『メラゾーマ』!!!!

ボオォォォ!!

呪文隊『マヒャド』!!!!

ビュワァァ!!

呪文隊『バギクロス』!!!!

ズバババッ!!

魔力を帯びた矢と火球、吹雪、真空波。
数多の悪意が勇者に向けて放たれた。
空中に飛翔呪文で浮かぶ勇者はこの弾幕にとって格好の的である。

勇者「…………」スゥ…

勇者はそれらを見切ろうともせずに静かに目を閉じた。

炎の四天王「目を閉じただと!?諦めやがったか!!」

しかし違った。
勇者は意識を深く深く集中する……。

ヒュッ

ササッ

スッ

クルッ

サッ

炎の四天王「な……なんだと……!?」

炎の四天王は驚愕した。
勇者は目を瞑ったまま矢と呪文の雨を避けているからだ。

まるで川の流れのように流麗に、
まるで洗練された舞踏のように鮮やかに、
一片の無駄のない動きで攻撃を避けてゆく。

ついには全ての攻撃を避けきった。

勇者「ふぅ…………」パチッ

勇者「目で視ようとしないで魔力を感じる……か。ファイブ、この力は俺の中ですげー財産になったぜ」

――――――――
弓隊、呪文隊の猛攻をしのいだ勇者は地上へと降り立った。
目標は魔王軍の指揮官、炎の四天王。

勇者『ピオリム』

キュワン!!

勇者「よーい……ドン!!」ダンッ

己の身を羽の如く軽くする身体能力強化の呪文をかけると勇者は大地を力強く蹴り敵陣へと駆けた。

魔族達「うおおおおお!!」

風の四天王の言っていた通り相当数の魔族がまだ残っているようだ。
勇者はそんなことに構わず向かってくる敵を蹴散らしてゆく。

勇者『回し蹴り』!!!!

ドガガガガッ!!

勇者『真空波』!!!!

ザザザザンッ!!

勇者『岩石落とし』!!!!

ドゴゴゴーーーン!!!!

勇者『マグマ』!!!!!!

ビキ……ビキビキビキ!!

グツグツグツ!!

ゴッパァ!!!!

その場にいた魔族の中には勇者に見とれる者すらいたという。
勇者が放つ技…………その研ぎ澄まされた技の冴えとおよそ常人には扱うことのできないであろう技の多彩さに。

勇者『グランドクロスッ』!!!!

キィンキィン!!

カアアァァァ!!!!!!

戦場を駆ける一人の戦士。
その後ろ姿は魔に染まった者達にすら光輝いて見えた。

これが技の極みなのか、と。

勇者「シックス、俺がこうして色んな特技を使うことができるのもお前がダーマ神殿に連れていってくれたからだな。感謝してるぜ!!」

――――――――
炎の四天王「魔巨獣を出せっ!!」

魔族h「ま、魔巨獣ですか!?し、しかしまだ戦場には我が軍の兵士が相当数おります!!暴走しては……」

炎の四天王「構わねぇ!!アイツさえ仕止められるんならそれでいい、暴走したら俺が処分する、それでいいだろ!?」

魔族f「ハ、ハッ!!」

呪文隊の魔族達が巨大な円を描く。
地面には魔族の文字と記号が並べられた魔方陣。
魔族達が自らの手を切り血を流す。
その血が地面へと……いや、魔方陣へと吸い込まれてゆく。

勇者「!?」ハッ

魔族の兵士達との闘いの最中であった勇者はその異変に瞬時に反応した。
禍々しい異質な魔力がこの場に現れようとしている。
魔力知覚に長けた勇者はそれを感じ取っていた。

魔巨獣「ガアアアァァァァーーーーー!!」ゴウッ!!

けたたましい叫び声と共に戦場に一つの巨影が現れた。

魔巨獣は元は魔族の死刑囚達である。
死刑になる変わりに魔王の強大な魔力によって複数人の魔族が合成され、理性を奪われ、獣となった姿だ。
理性が無くなったことで命令を聞かせることはできなくなったのだがそれでもその膨大な魔力と溢れんばかりの力は十分すぎる戦力となる。
実際いくつかの人間の国を壊滅させた主戦力は彼である。

魔族i「う、うわぁ!!魔巨獣だ!!」

魔族j「に、逃げろぉーー!!」

蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく魔族達。

ズン……!!

ズズン……!!

魔巨獣「グアアァァァーーー!!」

その巨大な体は大地の四天王を遥かに凌ぐ。
王国の城と同じかそれを超える巨体である。

勇者「でけぇな……まぁ図体がデカいだけじゃ俺には勝てねぇけどなッ!!」ダンッ

魔巨獣の巨大な右腕が勇者を襲う。
それを難なく避わし勇者は魔巨獣の体の真下へと滑りこんだ。
愛剣を地面に突き刺し叫ぶ。

勇者『ジゴスパークッッ』!!!!!!

地面に刺さった天叢雲剣を中心に巨大な魔方陣が地面に浮かぶ。
それはこの世界と魔界とを繋ぐゲート。
魔方陣の中心から黒々とした魔界のいかずちがほとばしる!!

ズガガーーーン!!!!

バリバリバリバリ!!!!

魔巨獣「ギャォオオ!?」

ドシーーン!!!!

足元からの強力な雷撃にバランスを崩した魔巨獣はその場に倒れた。

下からの攻撃を受けて倒れながらに自らの足元へと目を向けた魔巨獣は目を疑った。

そこには誰もいなかったからだ。

勇者「こっちだデカブツ!!!!」

魔巨獣「!?」ハッ

上空からの声に魔巨獣は上を見上げた。

しかし遅かった。

勇者の手には巨大な光の剣が握られていたのだ。
飛翔呪文で加速し真っ直ぐに魔巨獣の顔へと向かってくる。
降り下ろされたその光の剣……それは『勇者』の秘剣。

勇者『ギガスラッシュッッッ』!!!!!!

ズバァーーーーーーーンッッッ!!!!!!

魔巨獣「ギャォオオオオオ!!!!」

大地の震えのような断末魔の叫びと共に魔巨獣は命を絶った。
魔獣として肉体を弄ばれた哀れな魔族達にとって、死は唯一与えられた安息なのかもしれない……。

勇者「勇者の秘剣ギガスラッシュ……ちゃんと使えるようになったぜ、セブン。他の世界で勇者の職を極めるって約束、ちゃんと守っただろ?」

――――――――
ザッ……

勇者「よう、あんたがこの戦場の指揮官だろ?」

炎の四天王「まさか魔巨獣までやられるとはな……」

水の四天王「フンッ、四天王が二人もやられた時点で十分想定できたことだろ?」

炎の四天王「チッ……だが俺達はそう簡単には倒せんぞ!!」

水の四天王「あぁ!!死ぬのはアンタの方だよ!!!!行くよ、炎の四天王!!!!」

炎の四天王「わかってらぁ!!二人でいくぞ!!!!」

燃え盛る炎をイメージさせる造りの巨大な斧を構え炎の四天王が勇者へと向かってきた。
周囲の空気すら凍らせる氷の鞭を片手に水の四天王もそれに続く。

重たい斧の一撃は威力こそ高いが動きが直線的になってしまう。
それをカバーするように変幻自在の鞭さばきが勇者を襲う。

勇者「…………」スッ サッ

水の四天王「ハハハ、どうだい?アタシ達のコンビネーションは!?」

炎の四天王「斧と鞭を極めた俺達二人がかりではさすがのお前も手も足も出まい!!!!」

勇者「極めた……?これでか?」

勇者はそう言うと一歩踏み込んだ。

炎の四天王「!?」

爆発的な加速により炎の四天王の脇を通り過ぎたかと思うと水の四天王の間合いの内側、つまり鞭による攻撃が不可能な超近距離へ接近したのである。

水の四天王「な………!?」

勇者「……ゼシカならこんなに簡単に間合いの内側にいれてくれないよ」

ザンッッッ!!

水の四天王「が…………!?そ、そんなばかな……アタシが…………」ドサッ

神速の居合で水の四天王を両断する。

炎の四天王「テメェーーーー!!!!」ゴウッ

勇者「……ヤンガスならそんな大振りはしないな」ブンッ

ガキィーーーーーン!!!!

ヒュンヒュンヒュンヒュン……

超重量の斧を弾き飛ばされ炎の四天王は狼狽した。

炎の四天王「ば……ばかな…………」

勇者「アンタらさ、全ッ然武器を極めてなんかないよ。武器は己の体の一部…………それが分かってないようじゃあさ」

炎の四天王「お、おのれぇ…………!!!!」

勇者「エイト、今闘ったらお前からでも一本とれるかな?そんときは…………なんか飯でも奢ってくれよな」

――――――――
炎の四天王「この俺様を……炎の四天王を舐めるなよぉ!?」ゴオゥ!!

炎の四天王の体が二回りほど大きくなった。
彼の体躯は彼自身の精神と深く結びついている。
とりわけ闘争心、怒り、憎しみ…………そういった感情がそのまま彼の力となるのだ。
身に纏う炎もその激しさを増し、猛っている。

炎の四天王「俺が……この俺が負けるわけないんだ!!!!下等な人間なんかに!!!!ムシケラにぃーーー!!!!」

ゴオオオォォォ!!!!

彼の怒りの炎は激しさを増しあたり一面を焼き尽くさんとしている。
うねり、轟き、燃え上がる赤々としたその業火は彼の憤怒を如実に表している。

怒り狂う炎の四天王の眼をじっと見据え勇者は口を開いた。

勇者「アンタ……命を懸けた死闘ってもんをしたことねぇな?」

炎の四天王「ぁあん?何ワケわかんねえこと言い出してんだテメェは?」

炎の四天王「俺様が命を懸けるぅ?ハッ、馬鹿なことぬかすんじゃねえよ!!人間ごとき焼き殺すのになんで命なんか懸けなきゃならねぇ!?」ゲラゲラ

炎の四天王「俺様は無敵なんだよぉぉーーー!!!!」

炎の四天王『煉獄火炎』!!!!!!!!

ゴオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!!

炎の四天王が吐き出したのは燃え後に炭すら残らないといわれる地獄の業火。
灼熱の炎が勇者に向けて放たれた。

その瞬間、勇者の見せた動きは炎の四天王が全く予想だにしていないものだった。

勇者「だああああああぁぁぁぁぁ!!!!」ダンッ

炎の四天王「な!?俺の炎に自分から飛び込んできただとぉ!?」

ブワアアァァァッ!!!!

死中に活を見出す。
己の身を敢えて危険にさらすことで僅かな生を手繰り寄せる術を掴む。
勇者は燃え盛る火炎の中に自ら突撃し、内側から火炎をかき消した。

勇者「せやぁっ!!」

ヒュバババン!!!!

ブシャアアアァァ!!!!

炎の四天王「が…………は…………!?」

炎の四天王「なんで……なんでこの俺が人間なんかに………!?」

勇者「命のやり取りをする闘いでは力も経験も勿論必要だけどな、それ以上に生への意志が重要になってくる……命を懸けてないお前には生にしがみつこうって気持ちがないんだよ。それが絶対的な敗因だな」

炎の四天王「ちくしょ……お……」ガフッ

ドサッ……

勇者「ナイン、直接は教えてもらってないけどさ、お前が俺に教えたかったことって……きっとこのことだったんだろ?命を懸けるってことの本当の意味、わかったつもりだぜ」

――――王宮・王の間
兵士a「よっしゃあああぁぁあ!!」

兵士a「見たか!!我らが勇者サマの力を!!」ハーハッハッハ!!

兵士b「……ったく、ついさっきまで勇者なんか信じない、みたいなこと言ってたのにゲンキンな奴だよ」ハァ

兵士長「国王、お怪我の具合は……」

国王「だ……大丈夫じゃ……なんとか生きておるわ……」ヨロヨロ

姫「父上……」

国王「それより兵士長、さっきの若者は……」

兵士長「はい、彼こそが我々が待ち望んでいた光の勇者です」

国王「それは誠か!?」

兵士長「えぇ、その証拠に単身魔王軍と渡り合い……その半数以上を無力化、敵の指揮官四名も討ち取ったようです」

国王「な、なんという強さじゃ……しかし今の話を聞く限りじゃと魔王軍は相当な痛手を受けたようじゃな……」

国王「この戦は我々の……いや、勇者殿の勝ちか?」

兵士長「いえ……おそらくこれからが本番になります」ゴクッ

――――王宮前広場・上空
勇者『ベホマ』

パアァァァ

勇者「ふぃー、体力全快っと」

勇者「さてと……そろそろ本命の出番か?」チャキ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

勇者「空が震え大地が怯えている……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ピシッ!!

勇者「空に切れ目……!?」

ピシッピシッ!!

パリィィィン!!!!

グゴゴゴゴゴ……!!

魔王「フッフッフ……はじめまして、だな、勇者。……よく一人で我が魔王軍と渡り合うことができたものだ」

勇者「お前が魔王か……思ってたよりもずっと小さな……」

魔王「巨大な化け物だとでも思っていたか?いかに魔族の王と言っても姿かたちは他の魔族達とそう変わらないだろう?」

勇者「あぁ……でも他の魔族達とは比べもんにならないようなすげー悪の魔力を感じる……流石は魔王って感じだ」

魔王「まぁそうであろうな……ときに勇者よ、貴様がここにこうして現れるということは予想しておったよ」

勇者「何!?」

魔王「あのテの預言の類いは外れた試しがないからな……完全に村の人間を殲滅したつもりでもどこかに生き残りがいる……そんな気がしておったのだ」

勇者「へぇ~……で、今その魔王を倒す勇者と相対してるワケだけど……どうする?尻尾を巻いて逃げてみるか?」

魔王「クハハハハハ!!!!小わっぱが偉そうな口をききおって!!」ゲラゲラ

魔王「貴様誰にモノを言っているかわかっているのか?」ククク

魔王「我は魔族の頂点に立ち、神をも凌駕する力を持ち、世界を混沌へと導く者……魔王なるぞ!!」ゴオッ!!

魔王「この世は全て我のために存在するのだ……そのためにはまず人間などという下らぬ生物に支配された地上を我がものとしなければならない!!」

勇者「へっ、強欲の塊ってか」

勇者「お前がもしピサロみたいに人間に憎しみを抱いてたんなら俺が助けてやろうと思ったけどさ、お前は人間を虫ぐらいにしか思っちゃいない……」

勇者「だったら俺も全力でお前を叩き潰せるってもんだ!!」ゴオッ!!

魔王「面白い……元より我らはこうして闘うことが宿命づけられているのだ……」

魔王「来い、勇者よ!!その頭蓋を砕き、四肢を切り落とし、臓物を潰し、この世に生を受けたことを後悔させてやるわ!!」ゴオッ!!!!!!

勇者「勝負だ、魔王ぉーーー!!」ゴオッ!!!!!!

――――――――
戦闘が始まるとほぼ同時、先に仕掛けたのは魔王であった。

魔王「ケシ炭と化せ!!」

ゴアアアァァァ!!

魔王の体内の火炎袋から吐き出された灼熱の炎。
先の戦闘で炎の四天王が放った煉獄火炎よりも温度の高いその火炎が勇者を包み込む。

ゴオオオォォォ!!

魔王「クックック……これで終わりではあるまい?」

勇者「当たり前だ」ニッ

魔王の灼熱が命中する寸前、勇者は火炎の吐息と吹雪の吐息を軽減する光の衣を身に纏う呪文を唱えていた。
そのため熱によるダメージは受けず無傷だったのだ。

魔王「な……無傷だと!?」

魔王が驚くのも無理はない。
勇者の放った呪文『フバーハ』はブレス攻撃によるダメージを"軽減"する呪文なのだ。
そう、決して無効化する呪文ではない。

にも関わらず勇者が無傷ということは勇者のフバーハが魔王の灼熱の威力を完全に相殺するほどの魔力を秘めているということである。

ある程度のダメージを見越していた魔王はこの初手によって勇者の力が自らの想像の遥か上にあることを悟った。

だが……

魔王(だがそれで貴様の勝ちという訳ではない!!)

魔王はその膨大な魔力を両の手へと集中させた。

魔王「メラゾーマ……」

ボウゥゥゥッ!!

勇者「!? 左手にメラゾーマを留めている……何をするつもりだ?」

魔王「マヒャド……」

カアアァァァ

勇者「今度は右手にマヒャド……」

魔王「フッフッフ……喰らうがいい、全てを無に帰す極大呪文を!!!!」

バチバチ……

バチバチバチ……!!

魔王は左手の火球と右手の冷気の球を一つの魔力の塊へと合成してゆく。

膨大な魔力と抜群の魔法センスがなければ成功し得ないこの呪文の合成。

炎と氷という二つの相反する力を全く同じ魔力で重ね合わせ新たな呪文を生み出す。
二つの力がスパークして生まれたその異質な魔力に触れたものを全て消え去ってしまうと言われる禁じられた消滅呪文。

巨大な光の弓を引き絞り、魔王はつがえた矢を放った!!

魔王『メドローアッ』!!!!!!

勇者(これは……ヤバい!!!!)

勇者は直感的にこの呪文の恐ろしさを理解した。
おそらく直撃を喰らえば跡形も残らないであろうと。

ここで勇者がとれる行動は二つ。
避けるか迎え撃つか、だ。

避けた時に隙ができることを考えた勇者はここで後者を選んだ。

勇者『マホカンタ』!!

勇者の目の前に巨大な光の壁が現れた。
魔王の放った光の矢は光の壁で跳ね返され再び来た道を戻ってゆく。
このまま進めば魔王に直撃するハズだ。

しかし魔王はこの勇者の行動を読んでいた。

前方の巨大呪文を目の当たりにした勇者はその呪文への対応へ意識を向けざるを得ない。
その隙を突いて背後へと回り勇者の首を刈る。

それが魔王の算段であった。

魔王愛用の武器、血に塗られた朱の大鎌を次元の彼方から呼び寄せた魔王は既に勇者の後ろで大鎌を振りかぶっている。

魔王(終わりだ、勇者!!!!!!)ブンッ!!

ガキィィーン!!

魔王「!?」

勇者は前を向いたまま剣を頭上へと構え魔王の攻撃を防いだ。

勇者「そんなこったろうと思ったよ、魔王!!」ビュワッ

キィン

キキィン

ガキィン

勇者「おらぁーーー!!!!」

魔王「くっ……!!」

勇者の猛攻を必死に耐える魔王。
いや、正確に言うならば耐えることしかできないのだ。
魔族の長たる魔王が、だ。

それほどまでに勇者の剣撃は激しく、隙が無かった。
しかも一撃一撃が重い。
少しでも気を抜けば致命傷受けてしまうだろう。

勇者「貰ったぁ!!」

魔王「ほざけ青二才が!!」バッ

魔王は一度後方へ大きく飛び退き勇者と距離をとると勇者めがけて火炎の極大呪文を放った。

魔王『メラガイアー』!!!!!!

魔力の大火球が勇者へと飛んでゆく。

勇者「しゃらくせぇ!!!!」ビュッ

ズバンッ!!

魔王「な……なんだと!?我のメラガイアーを切った……!?」

勇者「一気にたたみかける!!!!」キッ

勇者「うおおおお!!」ドンッ

勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!

ビュバッ!!バリバリバリバリ!!

魔王「ぬおぉ!?」

勇者『真空隼切りッ』!!!!

ザザンッ!!

魔王「ぐ……!!」

勇者『氷雪五月雨斬りッ』!!!!

ヒュバババ!!キラキラキラ!!

魔王「がぁ!!」

勇者『火炎諸刃斬りッ』!!!!

ザンッ!!ゴオオォォ!!!!

魔王「ぐはぁ……!!」

勇者「これで…………終わりだぁぁ!!!!」

バチバチバチバチバチバチ!!!!!!

魔王「!!!!」

勇者『ジゴスラッシュッッッッ』!!!!!!!!

ザンッッッッッ!!!!!!!!

魔王「ぐああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

勝敗が決した!!

――――王宮広場前・上空
魔王「ぐ……うぅ……」ヨロッ

勇者「へぇ……流石腐っても魔王……まだ死んじゃないか」

魔王「誰が腐っておるだと……!?……うっ、がふっ」ゴフッ

勇者「どうした、第二形態に変形したりしないのか?」

魔王「フッ……我にはそんな力はない……」ゼェゼェ

魔王「全く信じられんな……これが伝説の勇者……九人の勇者の力を受け継ぎしこの世界の勇者か」

勇者「!? お前なんでそのことを知ってるんだ!?」

魔王「クククッ……簡単なことだ、貴様の村にあった九人の勇者の伝説……あの勇者達の世界はこの世界とは別の世界だがそれでいて近しい平行世界……あの憎き精霊がその勇者達を利用しない手はあるまい」

魔王「まったく、貴様は本当にたいした奴だ……我が例え万全の状態であったとしても貴様に勝つことはできなかっただろう……」

勇者「なんだ?今日は体調が悪かったとでも言いたいのか?」

魔王「あぁ……我が膨大な魔力……その大半をあることに使ってしまっていてな……」フフフ……

勇者「……なんだよ、あることって……?」

魔王「勇者よ……お前の住んでいた村……我々魔族の間でなんと呼ばれていたか知っているか……?」

勇者「…………?」

魔王「…………『魔王の伝説を紡ぐ村』、だよ」ニタァ

勇者「!?」

魔王「わかるか!?九人の勇者達がいるということは即ち九人の魔王達がいるということと同義!!」

魔王「おそらく私の前に現れるであろう伝説の勇者……そやつが我が力を超える存在であろうことは分かっていた」

魔王「どんなに預言が本当のこととならぬようにしようとも恐らく勇者の登場を覆すことはできぬ……」

魔王「だから我は考えたのだ……そして行き着いた!!!!我も精霊と同じマネをしてやろうと!!!!預言を覆せぬのならば預言を超える存在を作り出せばいいということを!!!!」

勇者「な……じゃあまさか!?」

魔王「そう!!九人の魔王達に師事を仰いだ究極の魔族の存在!!!!それこそが我の答えだ!!!!!!」

魔王「はあああぁぁぁぁ……!!!!!!」

ヒイイィィィン!!!!!!

勇者「くっ……!!やめろ!!!!」ビュッ!!

ザシュッ!!!!

魔王「がふっ…………!!」ボタタタ……

魔王「く……クックック……だがもう遅い……さぁ出でよ!!」

ピシッ!!

ピシピシピシッ!!

バリーーーンッ!!

???「…………ただ今帰りました、父上」

勇者「父上!?」

魔王「おぉおぉ……我が息子よ……逞しくなって……」

魔王の息子「父上…………」

魔王「我はもう力尽きる……最後の力でお前をこの世界に呼び戻したのだ……」

魔王の息子「…………はい、存じております……」

魔王「今こそお前に魔王の位を譲ろう……」

魔王「お前の手で……魔族の世界を…………」ヒューーー ドサァ

魔王の息子「…………」

勇者「お前が新しい魔王ってか……?」

魔王の息子「そうですね……」

新・魔王「父上の遺志を継ぎ、たった今より私が魔王となりましょう」

勇者「そうか……お前だったのか」

新・魔王「なにがですか?」

勇者「第五の世界で魔力知覚を習得してからさ、色んな世界に行ったけど……いつも魔王の近くに禍々しいどす黒い気を圧し殺したような魔力を感じてたんだ」

勇者「最初は魔王の側近か何かだろうと思って気にも留めなかったんだけど……やっぱりおかしいな、って思うようになってさ、ずっとモヤモヤしてたんだ」

勇者「だけど謎が解けたよ……あの魔力の正体はお前だったのか」

新・魔王「えぇ……おそらくそういうことになるのでしょうね」

新・魔王「フフフッ、それにしても楽しみですね」

勇者「何がだ?」

新・魔王「九人の勇者の教え子と九人の魔王の教え子……光と闇の特異点同士が闘ったらどちらが強いのか、気になるじゃありませんか」クククッ

勇者「何言ってやがる、いつの時代どの世界でも魔王は勇者に倒されるって決まってんだよ」ニッ

新・魔王「ならば私が勇者を打ち倒す最初の魔王となりましょう」

新・魔王「お手合わせ願いますよ……!!」ドンッ!!

勇者「お前を倒せば本当に終わりだ…………全力でいかせてもらう!!」ドンッ!!

――――――――
先手を仕掛けたのは勇者だった。
高速接近から左薙ぎで新・魔王の頭部を狙う。

新・魔王は腰に差していた黒刃の大剣を素早く抜き放つと勇者の初撃を受け止めた。

一撃目を止められた勇者は即座に剣を放し深く体を沈めた。

沈みながら急速左回転。
左の踵で下段回し蹴りを放つ。

突如として新・魔王の視界から消えた勇者だったが新・魔王は取り乱すこともなく距離をとるため軽く後ろへ下がった。

勇者の蹴りは虚空に弧を描いた。

だがこの二手目までは勇者にとっては想定の範囲内だった。
本命は次の三手目。

回転の勢いをそのままに体のバネを活かして相手に飛びかかる。
それと同時に先程手放した剣を右手で逆手に持ち相手を突く。
二撃目を避けて油断しているところへの追い撃ち。
避けられるハズのない一撃。

それを新・魔王は避けた。
勇者のこのトリッキーな動きを読むことは不可能。
勇者の逆手突きが放たれたのを"見てから避けた"のだ。

勇者(コイツ……なんて速さだよ!!)

その尋常ではない反応速度に勇者は戦慄した。

戦慄に浸る暇もなく撃ち下ろされる黒刃の大剣。
勇者は逆手持ちの剣を持ち換えずにその腹で相手の太刀筋をそっと逸らした。

大振りの黒刀が勇者の右半身を紙一重で通りすぎる。

勇者「!?」

と同時に勇者はあることに気づく。

新・魔王がいない。

視界から相手が消えたことに動揺はしたものの勇者の体は、本能は、相手の魔力を的確に感じ取っていた。

勇者「下か……!!」

新・魔王は消えたわけではなかった。
先程の勇者と全く同じように剣を放し身を沈め、下段回転回し蹴りの体勢へと移っていたのだ。

勇者は相手の下段攻撃が来るよりも早く右の手首をさっと引き剣先を下へと向けた。

振り降ろされる勇者の突き。
既に攻撃の体勢へと移っている新・魔王にとってこの一撃を避けることはできない。
即座に左手の籠手で防御をはかる。

ガキィィィーーーン!!!!!!

金属同士がぶつかり合いけたたましい異音を奏でる。
舞い散る火花。

勇者の一撃を防いだ新・魔王の攻撃はまだ止まってはいない。
回転により十分に威力を増した下段蹴りが今勇者を捉えようとしている。

そこで勇者は跳んだ。

右手に持った剣、その剣先を軸にまるで棒高跳びのように空中を踊った。
先程の突きはこの動作のための布石にすぎなかった。

新・魔王の図上を弧を描くように通りすぎる勇者。
その左手から呪文が放たれる。

勇者『メラガイアー』!!!!!!

先刻魔王が放った極大呪文に劣らぬ威力の大火球を至近距離で新・魔王へと唱える。
この距離、この体勢ならばいくら超スピードの持ち主であろうとも避けることは叶わないだろう。

火炎による攻撃で怯むであろう新・魔王へ勇者が次に仕掛けるべき攻撃を考えていた時、新・魔王もまた呪文を唱えた。

新・魔王『イオラ』

空いた右手を体の横へと広げ爆裂呪文を放ったのだ。
その標的は勇者ではなかった。
自分のすぐ横の何もない空間に向けての爆発。

新・魔王はその爆風を利用し自身の身体を吹き飛ばすと勇者の真下から緊急回避、巨大な業火を避けることに成功した。

対象を失った大火球が虚しく地へと落ちてゆく。

勇者はまたも戦慄せざるを得なかった。
回避不可能な体勢からの全く無駄のない緊急回避。

勇者の方が先に呪文を唱えたのだから後から呪文を唱えた新・魔王の呪文が先に発動するのは不可解かもしれないが実際はそうではない。
強力な呪文であればあるほどその詠唱から発動までのタイムラグが大きくなるのである。
つまり極大呪文を唱えた勇者よりも後に中級呪文を唱えた新・魔王の呪文が先に発動してもおかしくはないのだ。

だがそれは理論上の話である。
ほんの一瞬のタイムラグの隙を突いて呪文を唱えるなどという芸当は歴戦の勇士ですら思いもよらない手段であろう。

時間にして数秒にも満たないこの攻防の中で勇者は理解した。
この新・魔王の並外れた反応速度と戦闘センス、それが自分よりも上であることを。

そして新・魔王もまた理解していた。
勇者の鍛え抜かれた剣技・体術・呪文……そのどれもが超一級品であることを。
今ここに相対している伝説の勇者、彼が己の全力を懸けるに相応しい相手だと、自分の宿敵なのだと悟った。

それと同時にある一つの感情が沸き上がってきた。

新・魔王「クククク……フハハハハハハ!!!!!!」

勇者「!?」

勇者「なんだよ……何が可笑しいんだ?」

新・魔王「いえ……嬉しいのですよ」

新・魔王「貴方は本当に素晴らしい……私が全力を懸けて闘うに相応しい相手だ」

新・魔王「少し心配していたのですよ、もし伝説の勇者がたいした実力もなく呆気なく勝敗がついてしまったら……と」

新・魔王「しかしそれもただの杞憂にすぎませんでしたね……フフフ、あぁ、魔族の神よ!!私に至福の時を与えて下さったこと、心から感謝致します!!!!」

勇者「そりゃどうも……ホラ、お前の剣」ヒュンッ

勇者「丸腰のお前に勝っても本当に勝ったって言えないからな、返してやるよ」

新・魔王「これはこれはご丁寧に」パシィ

新・魔王「しかし良いのですか?これで貴方の勝機はまたグッと遠退いてしまったのですよ?」

勇者「関係ねぇよ、どのみち俺が勝つんだからな」

新・魔王「フフフ……たいした自信ですね」

勇者「自信……?いや、違うな」

勇者「覚悟だ!!!!!!」ドンッ

再び仕掛ける勇者。
それを迎え撃つ新・魔王。

キィン!!

ガキィン!!

キキィン!!

カガキィン!!

ガキィン!!

キィン!!

超次元での一進一退の攻防が繰り広げられる。
相手の太刀を交わしては斬り込み、斬り込んでは受ける。
全く無駄の無い二人の剣戟はさながら完成された剣舞を見ているかのような優雅ささえ漂わせていた。
その一撃一撃が相手の命を絶たんとする必殺の太刀であるにもかかわらず……。

勇者(チッ……魔力知覚で動きを先読みしてもコイツの動きについていくのがやっとだ……少しでも気を抜いたらやられる!!)

新・魔王(私のスピードについてきているだけでなく常に一撃必殺の一太刀を狙っている……少しでも気を抜いたら終わりですね!!)

キィン!!

ガキィン!!

勇者「行くぜぇ!!」

激しい斬り合いの中、勇者は吠えた。
仕掛けるなら今しかないと判断したからだ。
剣の師匠を追い込み、魔王に致命傷を与えた勇者の最強連続剣技、その一太刀目が繰り出される。

勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!

ガキィン!!バリバリバリ!!

新・魔王「くっ……!!」

相手の右肩、右利きの敵ならば最も防御のしづらい位置への魔法を纏った高速の突き。
そこからさらに体勢を崩すため、瞬きすら許されない疾風の二連撃を叩き込む。

勇者『真空隼……』

新・魔王「甘い!!」ビュッ

勇者「!?」

ガキィーーーーン!!

勇者「ぐぐ…………!!」

勇者(……俺の必殺技が見切られただと!?)

勇者の連続剣技は最後の必殺剣を確実に命中させるためにその前の四つの剣技で相手の体勢を崩すことで完成する技である。
無論体勢を崩すのが目的とは言え一撃一撃が致命傷を与える一撃であることは言うまでもない。

その流れるようなコンビネーション、勇者でさえ気づいていなかった一瞬の隙をを突いて新・魔王はこの勇者の奥義を破ったのだ。
新・魔王のケタ違いのスピードと研ぎ澄まされた直感がそれを可能にした。

キィン!!

ザザッ

距離をとる両雄。

勇者「へへっ、どうやら長い戦いになりそうだな」チャキ

新・魔王「えぇ、その様ですね」チャキ

ドンッ!!

ガキィーーーーーン!!!!!!

二人の剣がぶつかり合う度に空が、海が、大地が揺れた。

――――王宮・王の間
キィン!!

ガキィン!!

ガキィン!!

キキィン!!

兵士a「……一体どっちが勝つんだ……?」ゴクッ

兵士b「かれこれ三時間はああして斬り合っている……剣の闘いでこれほど闘いが長引くなどとは信じられない……両者ともなんて体力と集中力なんだ……」ゴクッ

兵士長「お互いの力量が全く同じなのだろうな……でなければとっくに勝敗はついている」

兵士長「……気づいているか?」

兵士a「何がですか?」

兵士長「広場の我が軍と魔王軍の闘い……すっかりおさまってるだろ」

兵士a「あ!!そう言えば!!」

兵士b「人も魔族も闘うことを止め、ただ静かにあの二人の闘いを見ている……」

兵士長「分かっているんだ、あの二人のうち勝った方の軍勢がこの戦の勝者となることを……」

兵士長「私達にはただ勇者殿の勝利を願うことしかできんがな」

兵士a・b「…………」

姫「勇者様……」ギュッ

キィン!!

ガキィン!!

ガキィーーーン!!

――――――――
勇者「ゼェ……!!ゼェ……!!」

新・魔王「ハァ……!!ハァ……!!」

勇者・新・魔王「うおおおおおおーーーー!!!!!!」

キィン!!

勇者「ぐ……!!」ピッ

ガキィン!!

新・魔王「ぬぅ……!!」スパッ

キキィン!!

ガキィン!!

両者が熾烈な闘いを初めてから既に三時間が経過していた。

闘いの初めこそ攻撃を受け、それを切り返すという剣舞のような闘いが行われていたが時間が経つにつれお互いに少しずつ防ぎきれない攻撃が増えてきた。
いかに世界最強の二人とは言えこの長時間に亘る真剣勝負においてスタミナが減り集中力が欠けてゆくのは無理もない。
むしろこの二人だからこそここまで闘いを続けることができたのだろう。

しかし今尚お互い致命傷は受けていない。
満身創痍になりながらも集中力の糸は途切れることなく、全身全霊を懸けた斬り合いが続けられている。

キキィン!!

ガガッ!!

ガキィン!!

キィン!!

勇者「ハァ……!!ハァ……!!……チッ、しつこいなぁ……そろそろ倒れろよ!!」

新・魔王「ゼェ……!!ゼェ……!!……それは私の台詞です……!!」

勇者(このまま長期戦に持っていっても埒が明かないどころか俺が不利……)

勇者(アイツは見てから反応できるスピードを持ってるが俺は魔力知覚による先読みで闘ってるようなもんだ)

勇者(この先一瞬でも集中力が切れたらアウト……ならここで勝負を決める!!)

キン

新・魔王「!?」

勇者は剣を納めた。

新・魔王「どうしたのですか……?まさかここまで来て勝負を諦めるつもりですか?」

勇者「いや……その逆だよ」

勇者「ここで勝負を決めさせてもらう!!!!」

バチバチ……

バチバチバチバチバチバチ!!!!

新・魔王「……!!」

勇者の左手に高密度の魔力が集中……その性質を雷撃へと変え、紫に輝く光の剣と化した。

新・魔王「なるほど……そのために剣を納めたのですか……」

勇者「あぁ……俺の残りの魔力を込めた必殺剣ギガブレイク、コイツで決めてやる!!」

新・魔王「フフフ……良いでしょう……ならば私も全魔力を込めたこの剣で迎え撃ちましょう!!!!」

新・魔力「はあああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」ゴウッ!!

新・魔王の体から黒々とした禍々しい魔力が吹き出される。
その邪悪な魔力が新・魔王の持つ剣へと集まってゆく。
どす黒い血のような魔力に包まれたその魔剣は一振りで大地を裂き海を割るほどの力を秘めていることだろう。

勇者「…………」スゥ…

新・魔王「…………」チャキ…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

両者は最後の斬り合いに向けて構えをとった。

新・魔王(…………?)

ここで新・魔王が勇者の異変に気づいた。

……おかしい。

何故左手に光の剣を出したのだろうか?

先の戦闘で勇者が右利きだということは分かっている。
全力で斬りかかるのなら両手ないし利き手に剣を構えるべきだ。
なのに何故勇者は左手に剣を……?

勇者「…………行くぜ」ニッ

口の端に笑みを浮かべると同時に勇者は右の掌を新・魔王へと向けた。

新・魔王「!!」

勇者『イオナズン』!!!!!!

カッ!!!!

ドガアアァァン!!!!!!

新・魔王「くっ!!」

いかに反応速度に長けた新・魔王であっても不意を突かれた呪文に対応することはできなかった。
上級爆裂呪文を至近距離で放たれ新・魔王の周囲は爆煙に包まれた。

モクモクモク……

新・魔王「くっ……右手を空けておいたのはこのためでしたか!!」

爆裂呪文によるダメージは軽微。だが新・魔王は完全に勇者をロストした。

モクモクモク……

新・魔王(勇者には魔力知覚という技がある……爆煙の中でも正確な私の位置を知ることができるというわけですか……)

新・魔王(この煙の中から私を狙うつもりでしょうが……私はそんなに甘くはありませんよ……!!)

新・魔王は全魔力のこもった魔剣を上段に構え全神経を集中した。

新・魔王「………………」

風の流れ、
煙の動き、
空気の震え……それらを極限まで研ぎ澄まされた五感で感じとる……。

新・魔王(来るッ!!!!)

ブワッ!!!!

もうもうと立ちこめる新・魔王正面の煙の中から勇者が超スピードで突進してきた。
左半身を前に出す形で振りかぶったその左手には真の勇者にのみ使うことを許された紫電の剣が握られている。

そして今その秘剣を放つ!!!!

勇者「だあああぁぁぁーーー!!!!!!」

勇者『ギガブレイクッッッ』!!!!!!!!!!

右薙ぎで放たれた勇者の秘技。
真っ直ぐに新・魔王の胴へと光の太刀が向かっていく。

新・魔王「はああぁぁぁっ!!!!」

サッ!!

ブンッ!!

勇者「!!!!!!」

勇者の懇親の一撃を身を引いて避わす新・魔王。
五感を研ぎ澄ませ勇者の一撃に備えていた新・魔王は勇者の奇襲を見事に避け切ったのだ。

そして……

新・魔王「さらばです、この一撃で散りなさい!!!!!!」

回避と同時に上段に構えていた黒刃の大剣を振り降ろす。
先程攻撃を外した勇者は隙だらけ……この一撃を避けることは不可能。

長きに渡る死闘の決着は新・魔王の勝利で幕を閉じた!!!!






…………かに思われた!!

勇者「……あぁ、お前がな」ニッ

新・魔王「!?」

カアアアァァァ!!!!!!

爆煙の中から光輝く何かが姿を現した。

それは勇者の右手に逆手に持たれた紫電の剣であった。

新・魔王「な……にぃ!?」

新・魔王(もしや左手のギガブレイクは囮……この爆煙も視界を遮っての奇襲が目的ではなく右手の本命を隠すための……!?)

勇者「二刀流だあああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」

勇者『ギガクロスブレイクゥーーーーー』!!!!!!!!!!!!!!

ズバアァァァンッッッ!!!!!!

新・魔王「が…………はぁっ!!!!!!」

ブシャアアァァァ!!!!!!

勇者の光の太刀が新・魔王の体を切り裂いた。
彼の身体から飛び散る深紅の血飛沫が王都の上空を舞った。

そう、遂に勇者が勝利を収めたのだ!!!!

――――王宮前広場・上空
新・魔王「が……!!がふっ……!!うぅ……」ボタタ

勇者「ハァ……ハァ……!!へへっ……俺の勝ち……だな」ゼエゼエ

新・魔王「ぐぅ……まさかこの私が負けるとは思いもしませんでしたよ……」

新・魔王「魔王の子として育ち魔王達に師事を仰ぎ……魔族の頂点に立つに相応しい力を得たこの私が……ただの人間の少年に敗れるとは……ね……うっ!!」ガフッ

勇者「……おしゃべりはそこまでた新・魔王…………さよならだ」チャッ

新・魔王「フフフフフ……何を言っているのですか?闘いはまだ終わっていませんよ?」

勇者「……負け惜しみはよせ、さっきの一撃は明らかに致命傷だ。この闘い、俺の勝ちだ」

新・魔王「えぇ……そうですね、たしかに私は敗れました……」

新・魔王「しかし我々魔族はまだ敗れてはいません」フフフッ

新・魔王「……これがなんだかわかりますか?」スッ

勇者「……!?なんだこれは……?ただの宝玉みたいだけど……禍々しい魔力が秘められてる……!!」

新・魔王「……これは『進化の秘法』と呼ばれる秘術……その結晶体です」フフフッ

勇者「『進化の秘法』だと……!?」

新・魔王「えぇ!!貴方もよくご存知でしょう?第四の世界で魔族の王ピサロを破壊の化身デスピサロに変え、第五の世界では強欲な人間の男を最凶の魔族へと変貌させた秘術ですよ!!」

新・魔王「私はエビルプリーストとミルドラースの元で進化の秘法を学び……遂に真の力を解放させるに至ったのです!!」

新・魔王「さあ、進化の秘法よ……私に魔族の王たる……いや、魔族の神たる力を与えたまえ!!!!!!」

カアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!

魔族i「な、なんだ!?身体が浮かんで……!?」フワッ

魔族j「新・魔王様の宝玉に引き寄せられる……!!」フワッ

大地の四天王「」 フワッ

風の四天王「」フワッ

水の四天王「」フワッ

火の四天王「」フワッ

魔巨獣「」フワッ

魔王「」フワッ

魔族k「お、おい!!やられちまった魔王様達もだ!!」フワッ

勇者「一体何を……!?」

新・魔王「神……それは万物の創成主にして全知全能の存在……」

新・魔王「私が神になるべく考えた末に行き着いた答え……それは全ての魔なる生命体を吸収し全ての力を得ること!!圧倒的な魔の力を!!」

勇者「……!?」

新・魔王「さぁ、魔族達よ!!私の血となり肉となるがよい!!!!!!」

カアアアァァァーーーーー!!!!!!

魔族達「うわーーー!!」ギュンッ

魔族達「助けてくれーーー!!」ギュンッ

魔族達「ぎゃーーー!!」ギュンッ

グチャ……

グチャグチャ……

ゴチャ……

ゴチャゴチャ……

ズモモモモモ……

ドクン……

ズモモモモモ……

ドクン……ドクン……

メキメキ……

バキバキ……

ドクン……ドクン……!!

ドクン!!!!!!

カッ!!!!!!!!!!!!

バサァッ!!!!

真・魔王「ゴアアアァァァァーーーーー!!!!!!」

ズオッ!!!!!!!!

勇者「く……お……!?」

真・魔王「素晴ラシイ……ナント素晴ラシイ力ダ……!!力ガ溢レテクル…………!!!!!!」

真・魔王「私ハ……私ハ真ノ魔王トナッタノダ……フハハハハ!!フハハハハハハハハハ!!!!!!」

勇者「なんて馬鹿デカい図体だ……それにこの魔力……!!」

勇者「参ったな……新・魔王との闘いでこっちはボロボロ、魔力も殆ど残ってないって言うのに…………」

真・魔王「クックックッ……勇者ヨ何ナラ見逃シテヤランデモナイゾ……?」

真・魔王「地上ガ私ノ支配下トナッタ後モ貴様ダケハ生カシテオイテヤロウ……一生ヲ苦シミナガラ過ゴスガ良イ……ククククッ」

勇者「……そんなのまっぴらごめんだな……」

勇者「俺は『勇者』、人々の希望の証だ、最後の最後まで希望を捨てるわけにはいかねぇんだよ!!!!」

真・魔王「ソウカ……最後ノチャンスヲクレテヤッタトイウノニ愚カナ奴ヨ…………」

真・魔王「ナラバ!!今ココデソノ人間ノ希望トヤラヲ粉々ニ砕イテクレルワァ!!!!!!」ゴオッ!!

――――――――
真・魔王「ハアアアァァァ!!!!!!」

真・魔王は六つある巨大な手それぞれに魔力を集中させた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

まだ呪文を唱えてすらいないというのに大地が悲鳴をあげている。

真・魔王『メラガイアー』!!!!

ゴオオオォォォ!!!!

真・魔王『マヒャデドス』!!!!

パキパキパキィ!!!!

真・魔王『イオグランデ』!!!!

ドガアアァァン!!!!

真・魔王『ギラグレイド』!!!!

ボワアアァァァ!!!!

真・魔王『バギムーチョ』!!!!

ビュオオオォォ!!!!

真・魔王『ドルマドン』!!!!

ズガアアァァン!!!!

火・氷・熱・風・爆発・闇、六種の極大呪文が一斉に放たれた。
真・魔王の持つ強大な魔力によってその威力をおぞましいまでに高めた呪文達は王都を瞬く間に地獄絵図へと変えた。

勇者「くっそぉぉ!!」シュバッ

勇者は六つの極大呪文を避けるのに精一杯だった。

マホカンタで跳ね返そうにも、自分の魔力を大きく上回るこの人外の呪文達を跳ね返すことは不可能だからだ。

真・魔王「フハハハハ!!ドウシタ勇者ヨ!!」

ギュギュギュンッ!!!!

勇者「ッ!!」

真・魔王の持つ三本の尻尾。その先端には巨大な口がついている。
咬まれたら肉を引きちぎられ骨を砕かれるのは明白……それほど鋭い牙と力強い顎を有している。

尻尾a「キシャァ!!」ギュンッ

尻尾b「シャァ!!」ギュンッ

尻尾c「ガアァ!!」ギュンッ

勇者「ちぃ……!!!!」ビュンッ

凄まじいスピードで勇者を追跡してくる尻尾達。
満身創痍とは言え神速の速さで空を駆けることのできる勇者が引き離すことのできないスピードだ。

三尾のコンビネーション攻撃を巧みに避わしつつ勇者はどう攻めるべきかを考えていた。
自分の残り少ない体力と魔力……それでどうこの巨大な敵を倒すのか。

と、その時、突如突風が巻き起こった。

勇者「なぁ…………!?」グルン

真・魔王の持つ巨大な六つの翼、それらが勇者に向けて羽ばたきを起こしたのである。

バランスを崩した勇者は体勢を立て直そうとその場で急ブレーキをかけた。

それがいけなかった。

ガシィッ!!

勇者「しまっ……!!!!」

真・魔王の持つ巨大な六本の腕の内、上の二本の腕が勇者を捕えた。

勇者「ぐ……うぅぅ……があああ……!!!!!!」

グググググ!!

大地の四天王の握撃をみ振りほどいた勇者であったが真・魔王の怪力から脱出することはできない。

真・魔王「フフフ……モガケモガケ、勇者ヨ……」

城よりも大きな真・魔王の体躯。その頭とも言える部分にある人間サイズの魔族の上半身がある……おそらくこれが真・魔王の本体なのだろう。

真・魔王本体とおぼしきその体は組んでいた腕をほどき両の掌を勇者へとかざした。

真・魔王『ジゴスパーク』

バリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!

勇者「ぐぁああああああああ!!!!!!!!」

真・魔王の放った魔界の雷が勇者の身を焼き焦がす。

パッ

勇者「ぐ…………うぅ……」ヒュー

ドサッ

真・魔王の握撃とジゴスパークから解放された勇者は飛翔呪文を唱えることすらできずに無惨に地へと落ちた。

真・魔王「ドウシタ、勇者?モウ終ワリカ……?」

勇者「ぐ……うぅ……」

虫の息の勇者は地面にうつ伏せで倒れている。
体力も魔力も殆どカラの勇者……だがそれでも彼の瞳は希望の光を失ってはいなかった。

勇者(何か……何かないのか……!?)

勇者(俺のありったけを……全てを懸けて……アイツを倒す術は!?)

勇者(俺の体力全部なくなったっていい、俺の魔力全部なくなったっていい、アイツを倒せるだけの強烈な一撃を…………!!)

勇者(……!!!!)ハッ

そこで勇者の脳裏をよぎったのはある一つの呪文。
契約こそすれ使うことはないだろうと思っていたある呪文。
いや、できれば使いたくはないと思っていた禁断の呪文。
その呪文なら或いは真・魔王を倒せるかも知れない……。

勇者(……あの呪文か……第一の世界で爺さんに教えて貰ったけど……一度も使ってはないけど……あの呪文なら……!!)

勇者「…………へへっ、やっぱこれっきゃねぇのか……な」ググッ

真・魔王「ソウダ勇者!!ソウデナクテハ面白クナイ!!」

勇者(これが多分最後の攻撃になる……だから俺の……俺の命全てを懸けてぇ!!)

勇者「行くぜ!!真・魔王ォォォ!!!!!!」ドンッ!!

勇者は空を駆けた。

一心不乱に、
ただ真っ直ぐに、
真・魔王を目指して。

尻尾a「シャァ!!」ギュン

尻尾b「シャァー!!」ギュン

尻尾c「ガアァ!!」ギュン

勇者「うおおおおーーーー!!!!!!!!」ギュンッ

ガキンガキンガキン!!

尻尾a・b・c「!?」

真・魔王「ヌォ!?」

真・魔王(コノ……スピードハ……!?)

真・魔王の尻尾達の攻撃を超スピードで避わすと勇者は真・魔王の懐へと飛び入った。

勇者「このままお前をブッ潰すッ!!!!!!」ビュワッ!!

真・魔王「イイ気ニナルナヨ!!!!」ゴゴゴゴゴ

真・魔王『六連……ドルマドン』!!!!!!!!

勇者「!?」

ズガガガガガガガガガガガガァァァァン!!!!!!

圧縮された闇の超魔力に押しつぶされた勇者。
いかに最上級の防具に身を固めた勇者であろうともこの圧倒的な破壊の力の前には骨すら残らない。

いまだ消え去らぬ黒々とした魔力の球体。

ヒュバババババンッ!!

真・魔王「!?」

突然その球体に幾つもの筋が入る。

ズッバアアァァン!!!!!!

勇者「…………」

真・魔王「バ……バカナ……私ノ極大呪文ヲ斬リ裂イタダト……!?」

真・魔王「貴様ハ虫ノ息ダッタハズ……!!ドコニソンナ力ガ……!?」

勇者「わからねぇだろうな……」

勇者「これが命を懸けた人間の力だあああぁぁぁーーー!!!!!!」

シュッ!!

ガガッ!!

真・魔王「!? キ、貴様……放セ!!」

真・魔王の本体と思われる魔族の半身を羽交い締めにする勇者。

勇者「いいや、放せねぇな……!!」ググッ

真・魔王「貴様……コンナコトデ私ヲ倒ス事コトガデキルトデモ思ッテイルノカ!?」

勇者「あぁ……思ってるさ……」

真・魔王「何ヲ馬鹿ナコトヲ……!!魔力モカラ同然ノ貴様ニ何ガデキルトイウノダ!?」

勇者「あぁ……たしかに俺の魔力はスッカラカンだ……だけどな、俺の残り少ない魔力でもお前を倒せる呪文があるんだ」

真・魔王「…………貴様マサカ!?」

勇者「ご名答……使用者の命と引き換えに発動できるこの呪文は魔力をほとんど消費しない代わりに超大規模な爆発を引き起こす……」

勇者「その威力は使用者の力量に比例する……今の俺が使えばイオグランデの比じゃねぇだろうなァ……!!」

真・魔王「グ……オオオォォォ……!?」

勇者「お前はここで俺と一緒に死んで貰うぜ!!!!」ニヤッ

真・魔王「ヤ、ヤメロ…………!!ソレデハ貴様モ……!!」

勇者「言ったろ?……俺は勇者……人々の希望の光なんだよぉぉお!!!!」

真・魔王「ウオオオオォォォォーーーー!!」

勇者『メガン……』

真・魔王「ハアアアァァァ!!!!!!!!!!」

ブワッ!!!!!!

バチィ!!

勇者「ぐぁっ!?」

突如として真・魔王を包み込んだ禍々しいオーラ。
真・魔王を羽交い締めにしていた勇者だがそのオーラに弾き飛ばされた。

勇者「こ……これは……!?」

真・魔王「フ……フフフフフ……危ナイトコロダッタ……マサカ『メガンテ』ヲ唱エヨウトシテクルトハナ……」

真・魔王「……コノ『闇ノ衣』ノ発動ガ少シデモ遅レテイタラサシモノ私モ命ハナカッタデアロウナ」クククッ

勇者「『闇の衣』……!?」

真・魔王「第三ノ世界ノ大魔王ゾーマガ持ッテイタ絶対障壁ダ……」

真・魔王「闇ノ衣ガ発動シタ今、何人タリトモ私に触レル事ハデキヌ!!!!」

勇者「く…………!!」

勇者(もう少し早くメガンテを唱えてさえいれば……!!!!)

ビュッ!!

ガシッ!!

真・魔王「……」ニタァ

勇者「!!!!」

真・魔王「息絶エヨ、勇者ヨ!!!!」

ブンッ!!!!

巨大な手で勇者を鷲掴みにした真・魔王は力任せに勇者を地面へと投げつけた。

ギューーーン!!!!!!

ドッガーーーーン!!!!

石畳の王宮前広場に叩きつけられた勇者。
直径十数メートルに亘り広場の石畳を吹き飛ばす勢いで地面に激突した勇者の全身には強烈な痛みが走り、彼の意識を遠のかせた。

真・魔王「フフフ……アレデハイクラ勇者ト言エド生キテハオルマイ……」クックック

真・魔王「サテト……」ギロッ

王宮へと視線を移す真・魔王。
その視線の先には壁と屋根の崩れ去った無防備な王の間があった。
さらにそこに立つ人間の中の一人へと焦点を合わせる。

姫「…………!!」ビクッ

真・魔王「ホホゥ……姫ヨ……人間ニハ惜シイホドニ素晴ラシイ美貌ダナ……気ニ入ッタゾ……私ノ妻ニシテヤロウ」フフフッ

姫「い、嫌です!!!!」

兵士a「そ、そそ、そうだ!!姫様をお前みてぇな化物に渡すもんか!!」ガクガク

兵士b「姫様をお守りするのが俺達の役目!!」ザッ

兵士長「そのためならばこの命惜しくはない!!!!」ザッ

真・魔王「ククク……勇者ナライザ知ラズ、タダノ人間ニスギナイ貴様ラガ私ニハムカウカ……」

真・魔王「勇者モソウダガ人間トハ理解シガタイ生物ダナ……他人ノタメニ自ラノ命ヲ懸ケルナドトハ……」クックック

???「てめぇにゃ一生わかんねぇだろうな……」

真・魔王「!?」バッ

聞き覚えのある声に真・魔王は振り返った。

王宮前広場……いまだ粉塵の立ちこめるその広場の中心に一人の男が立っていた。
身体中打撲と切り傷だらけ。初めて着た時は光輝いていたその防具は彼から流れ出た血で汚れている。
立っているのもやっとといったその男だったが、その目にはまだ力強い光が消えることなく宿っていた。

姫「勇者様!!」

真・魔王「貴様……生キテ……!?」

勇者「へへっ……勝手に殺すなよ……」ヨロッ

真・魔王「分カラヌノカ!?貴様デハ私ニ勝ツコトハデキヌノダ!!」

真・魔王「マシテ今ノ貴様ハ立ッテイルノガヤットデハナイカ!!全身ニ激痛ガ走リ息ヲスルノモツライハズダ!!」

真・魔王「ナノニ何故立チ上ガル!?」

勇者「…………さぁ?自分でもよくわかんねぇんだ」

真・魔王「何…………!?」

勇者「全身痛くて……意識が遠くなって……そのまま寝ちまおうかと思ったんだけどさ」

勇者「…………やっぱダメだった」

勇者「世界のどこかに……今も涙を流してる人がいる」グッ

勇者「絶望にうちひしがれてる人がいる」ググッ

勇者「助けを求めている人がいる」グググッ!!

勇者「そういう人達の涙を拭って、励まして、助けてやるのが俺の使命だろ!?」

勇者「だったら……いくら俺が死にかけてようが!!そんなこと関係ねぇんだよ!!」

勇者「世界中の人達に希望を……!!」

勇者「優しさを……!!」

勇者「勇気を与える……!!!!」

勇者「それが『勇者』なんだよ!!!!!!!!」ドンッ












「よく言ったァーーーーー!!!!!!」

勇者「!?」ハッ

勇者は天を仰いだ。

勇者の耳に届いた優しく力強く懐かしい声。

その声は死の淵に立たされた勇者が聞いた幻聴かもしれない。

しかし勇者は確信していた。

天より聞こえたその声が幻などではないことを!!

勇者の遥か上空。
一羽の神鳥が大空を滑空してくる。
その背中には九つの影。

???「流石俺の弟子だな」

赤の法衣を身に纏い額飾りをした金髪の少年が声高らかに言った。

???「いーや、俺の弟子だね、ご先祖様でもこれは譲れねぇぜ」

全身青ずくめの服に頭にゴーグルをつけた筋肉質の少年が不平を漏らした。

???「二人ともそんなことはどうでもいいだろう?」

紫のターバンに紫のマントを着けた精悍な青年が二人を制した。

???「そうだよ、勇者は僕達みんなの弟子なんだからさ」

緑の頭巾を被った少年が言った。まだあどけなさの残るその声だが、芯に強い意志を感じる。

???「そういうことだな」

青髪の少年が言う。彼の物腰にはどこか気品が漂っている。

???「ま、でも弟子って言うのもちょっと違うんじゃないか?」

緑の髪に額当て、スライムピアスをつけた青年が力強い声で言った。

???「たしかに弟子じゃちょっと可哀想だね」

オレンジのバンダナを頭に巻いた青年が優しそうな声で言う。

???「ふふっ、その通り、もう勇者は弟子じゃないね」

茶髪の少年は答えた。人間とはどこか違う、不思議な雰囲気を漂わせた少年だ。

???「あぁ!!俺達の立派な仲間さ!!!!」

黒髪に額当てをした少年がマントをなびかせてどこか嬉しそうに叫んだ。

勇者「……み……みんな!?」

――――――――
ワン「よぅ!!勇者ぁ!!」ニヤッ

ツー「なーにくたばりそうな顔してんだよ!!」ヘッ

スリー「一人でよく頑張ったね!!」ニコッ

フォー「助けに来たぜ、勇者!!」フフン

ファイブ「私達も共に闘おう!!」フッ

シックス「ピンチの時には助けに来るぜ!!」ニカッ

セブン「だって僕達友達でしょ!!」エヘヘ

エイト「さぁ、行こうか!!」ニッ

ナイン「僕達の絆の力をみせてあげようよ!!」フフッ

勇者「そんな……どうして!?」

ラーミア『私ですよ』

勇者「ラーミア……!?」

ラーミア『私は異なる時代、異なる世界を自由に行き来することを神に許された存在』

ラーミア『私の加護を受けた者もまたその資格を得るのです』

ラーミア『『レティス』という名で第八の世界でエイトに会った時に貴方の話を聞きましてね、第三の世界でも貴方に会ったことを思い出したのです』

ラーミア『それから詳しい事情を聞き、他の八つの世界を巡り九人の勇者達と共にこの世界へと貴方を助けに来たのです』

ラーミア『最高の助っ人でしょう?』フフッ

勇者「クソッ、ルビスの奴め……そんな方法あるなら先に教えてくれよな」ヘヘッ

真・魔王「ェエイ!!オノレ勇者共メ!!」

真・魔王「数ガ増エタトコロデ所詮は人間!!コノ私ハ倒センゾ!!!!」

真・魔王は六本の腕を全て勇者達に向け叫ぶ。

真・魔王『六連…………イオグランデ』!!!!!!

一発で街一つを消し飛ばしかねない大規模な爆発。
その六倍のエネルギーの超爆発が勇者達に向けて放たれた。
勿論その爆発は勇者達を灰にするだけに止まらず王都を裕に消し飛ばすだろう。

勇気「ヤバいぞ!!」

シックス「わかってる……ナイン、行くぞ!!」

ナイン「うん、任せて!!」

シックス「全力でブチかますぞ……はあああぁぁぁぁ!!!!!!」

シックスが放とうとする技は広範囲に亘り巨大な爆発を引き起こすもの。
イオ系の呪文とは全く原理の異なるその技は超圧縮した魔力を瞬間的に暴走させることで発動する。
そのすさまじいまでの威力はさながら宇宙誕生の超爆発……
その名は……

シックス『ビッグバンッッッ』!!!!!!

ナイン「……この宇宙に瞬く数多の星々達よ……今こそその力を解き放て……!!!!」

夜空に輝く星達には不思議な力がある。

時には人々を導き、
時には人々を惑わせ、
時には人々を温かく見守る。

輝く天の星達の持つ魔力を自らの身体を媒体として解き放つ奥義……

ナイン『グランドネビュラッッッ』!!!!!!

グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!!

カッッッッッッ!!!!!!

ドガアアァァァァーーーーン!!!!!!

真・魔王「ヌ……ォオ!?」

シックスとナインの放った究極奥義が真・魔王の極大呪文とぶつかり合う。
激しい爆発はこの大地を激しく揺さぶった。

しかし勇者達は無事だった。
六番目の勇者と九番目の勇者の目論見通り等しい高エネルギーの大爆発によって真・魔王の極大呪文は相殺されたのだ。

シックス「ヘヘッ、どんなもんだ」ニッ

ナイン「何度ここを消し飛ばそうとしても僕達が防いでみせるよ」ニコッ

真・魔王「コレナラバドウダァァ!!!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

勇者「!? 空が……!?」

空に立ち込める暗雲、それが巨大な黒い渦巻きを作ってゆく。

ゴロゴロゴロ……!!

ピシャァ!!

真・魔王「魔界ノイカズチヲコノ世界ヘト呼ビ出ス『ジゴスパーク』……シカシ我ガ魔力ヲモッテスレバ魔界ノ雷雲ゴトココニ召喚スルコトガ可能ニナル……!!!!」

真・魔王「ソノ威力ハ通常ノジゴスパークノ数十倍……クラエェ!!」

真・魔王『真・ジゴスパーク』!!!!!!

真・魔王が魔界のいかずちを解き放とうとしたその時、空に異変が起きた。

黒く渦巻く雷雲……それがもう一つ現れたのだ。

真・魔王「ナ……アレハ……モウ一ツノ魔界ノ門!?私以外ニ誰ガ……!?」

ファイブ「私さ」

真・魔王「!?」

ファイブ「エルヘブンの民……かつて神々に魔界と地上とをつなぐ門の開閉をする力を与えられし一族……」

ファイブ「今はもうその力は弱まってしまったけど私の母は特別強力な力の持ち主でね、その血を引く私も修行の果てにこうして魔界の門を開くことができるようになったというワケさ」フッ

ファイブ「さぁ、私もいくよ……」

ファイブ『真・ジゴスパーク』!!!!!!!!

ピシャァ!!

ゴロゴロゴロゴロ!!

ズガガガガァァン!!

バリバリバリバリバリバリィ!!!!

けたたましく鳴り響く雷鳴。
空一面を覆い尽くす黒き雷撃。
真・魔王の攻撃と五番目の勇者の攻撃が激しくぶつかり合う。
地上の勇者達は絶え間なく明滅を繰り返す上空のいかずちの光によって照らされる。

真・魔王「グヌゥ……小癪ナァ……!!」

真・魔王「ダガ貴様達ニ私ヲ倒スコトハデキヌ!!私ニ闇ノ衣ガアル限リナァ!!!!」

パアアアアァァァァ!!!!!!

真・魔王「!? コ、コノ光ハ……!?」

勇者の上空を舞う神鳥ラーミア。
その背には後に伝説の勇者『ロト』の称号を冠することとなる一人の男が立っていた。

高く掲げられた彼の右手に握られた神々しい輝きを放つ光の宝玉。
黒く濁った空のせいで薄暗い王都全体をまばゆく温かな光が包み込んでゆく。

シュオオォォォォ……!!

真・魔王「ナ……ニィ……!?馬鹿ナ!!不可侵ノ絶対障壁、闇ノ衣ガ消エ去ルナドトハ……!?」

真・魔王を包んでいた邪悪なオーラが消え去ってゆく……。

スリー「この『光の玉』は『闇の衣』を消滅させる温かな光を放つ……」

スリー「いつの時代……どの世界でも……邪悪な闇を晴らすのは一筋の光ってことさ」ニッ

三番目の勇者は不敵に微笑んだ。

真・魔王「……闇ノ衣ナド無クトモ私ノ圧倒的ナ力ノ前ニハ貴様ラハ虫モ同然……!!」

ギュバババ!!

尻尾a「シャァ!!」ギュン

尻尾b「ガァ!!」ギュン

尻尾c「グルルアァァーーー!!!!」ギュン

真・魔王の持つ三本の尾は上空から降下、地面スレスレの高さを這うように勇者へと近づいて行く。

その前へと立ちはだかる男がいた。

ツー「勇者、お前には俺の100%……見せてなかったな……見せてやるよ、俺の全力を!!!!」ニッ

ツー「はああぁぁーーーー!!!!」

ムキムキ……!!

ビキビキビキ!!

二番目の勇者の全身の筋肉が硬化し隆起する。
魅せるための筋肉ではない。
度重なる実戦によって鍛えられたその筋肉の鎧にはとてつもない力が凝縮されている。

尻尾a「ガァッ!!」

サッ!!

ガチィン!!

尻尾a「!?」

一本目の尻尾の攻撃を左へと避けたツーは脇を締めコンパクトに、かつ破壊力抜群の右ストレートを放った。

ツー「フッ!!!!!!」

ドゴオッ!!!!!!!!!!

尻尾a「ゲギャァ!?」

一発k.o.。
続く攻撃に備える。

左右から迫り来る第二第三の尾。
ツーを挟み撃ちにするつもりのようだ。

その動きを見切ったツーは高く飛んだ。

尻尾b・c「!?」

ドカアアァァン!!!!

尻尾b・c「ギャォオ……!?」クラクラ

二本の尾が互いにぶつかり合う。
その隙をツーは逃さない。
上空から二本の尾に向けて攻撃を仕掛ける。

ツー『百烈・爆裂拳ッッッ』!!!!!!

ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!

尻尾b・c「ギャオーー……!!!!」ズズゥン

鋼の肉体から放たれた百の拳を受けて残りの二尾も沈黙した。

ツー「鍛え方が足りんなぁ……諸君」ニッ

真・魔王「グ……ヌヌヌ……!!オノレ!!オノレオノレオノレ!!勇者達ヨ!!アクマデ私ニ立チハダカルカ!!」

ワン「あぁそうさ、それが勇者と魔王の宿命……だろ?」ニッ

真・魔王の眼前、飛翔呪文で一番目の勇者が空に浮かんでいた。

真・魔王「ホザケェ!!!!」

真・魔王『メラガイアーーーーッ』!!

真・魔王本体の両の手から放たれし灼熱の大火球。
全てを焼き焦がすその焔が真っ直ぐにワンへと向かう。

ワン「魔王っつってもまだまだだな……」

ワンは両手を自分の前へと突きだし魔力を集中させた。

ポゥ……

ワンの掌に現れたのは小さな火球。

ボゥ……

真・魔王「ソノ小サナ火ノ玉デ私ノメラガイアーヲ相殺スルツモリカァ!?」

ボオゥ……

ワンの放った火球が次第に大きくなる。

メラメラメラメラ……!!

ワン「相殺……?違うな……飲み込んでやるっつーんだよ!!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

真・魔王「オオオ……!?」

真・魔王のメラガイアーすら超える巨大な炎の塊は優雅な鳥へとその姿を変えた。

炎の不死鳥。
その優美なる姿と絶対なる破壊力を合わせ持つ火炎呪文の究極形は古来より魔界では賞賛と畏怖の念を込めてこう呼ばれる……

ワン『カイザーフェニックスッッッ』!!!!!!!!

不死鳥は優雅に真・魔王へと飛び立つ。
先程真・魔王が放った大火球を飲み込み、その炎の激しさを増し、襲いかかる。

ゴアアアァァァァァァァ!!!!

真・魔王「グアアアァァァァーーー!!」

真・魔王の全身が炎に包まれた。

ワン「どうだ勇者、俺もちゃんとすごい呪文使えるようになっただろ?」ニッ

ワン「後は任せたぞ、お前ら!!」

セブン「うん!!」

エイト「フォーはどれにするの?」

フォー「上の右手にするかな」

エイト「じゃあ僕は真ん中の左手にするよ」

セブン「僕は下の左手にするね」

フォー・セブン・エイト「だあああぁぁぁぁ!!!!!!」ドンッ!!

掛け声と共に真・魔王へと空を駆ける三人の勇者達。
しかし彼らの剣は鞘に納められたままである。

フォー『ギガデイン』!!!!!!

広場の魔族達を一掃した勇者の放ったギガデインに勝るとも劣らぬ超強力な魔力の雷撃。
その雷撃は真・魔王へと放たれたのではなく第四の勇者の右手めがけて落ちてゆく。

ズガァァーーーーン!!!!

バリバリバリバリ!!!!

千のいかずちが彼の手の中へと集中し圧縮され、青白い光を放つ一振りの剣へとその形を変えた。
彼が振り抜くその剣は、魔なる存在を倒すことを運命づけられた天空の血を引きし地上の勇者にのみ扱えるという、闇を切り裂く稲妻の剣。

フォー『ギガソードォォォ』!!!!!!

エイト「はああぁぁぁぁぁ!!!!」

八番目の勇者の手には光の剣が握られていた。
勇者の秘剣『ギガスラッシュ』。
幾多の勇者が数多の闇を屠ってきたであろうその剣は雷撃呪文と同じく勇者の証である。

キイイイイィィィィン!!!!

バチバチバチバチ!!

エイトの持つ光の剣の輝きがより強まっていき、刀身に纏う雷撃も激しさを増してゆく。
勇者の真の勇気に呼応し光の剣が真の力を解放したのだ。
それは闇夜に轟く紫電、その権化。
エイトは高密度の魔力の大剣を振りかぶり、その技を放った。

エイト『ギガブレイクッッッ』!!!!!!

キィン!!!!

真・魔王の持つ六本の腕。
その左下に位置する巨腕が光の結界に包まれた。
使用者のオーラによって形成されるその結界を内側から破壊することは不可能。
完全に身動きを封じられることとなる。

セブン「ぅおおおおおおおお!!!!!!」

七番目の勇者の手にもまた光の剣が握られていた。
しかしその剣はギガソードの様ないかずちの剣ではなく、ギガスラッシュのような光の剣でもない。

神の手を持つと称される格闘神『ゴッドハンド』。
格闘術を極めたもののみが放つことのできる闘志の剣。
自ら放った光の檻ごと相手を両断する究極剣が振り降ろされる。

セブン『アルテマソードォォォ』!!!!!!

ザザザンッ!!!!!!

真・魔王「グアアァァァ!!!!!!」

真・魔王の腕が三本、同時に切り落とされた。
並の剣では傷一つつけることすら叶わぬ鋼鉄の皮膚が切り裂かれ、どんな巨木よりも太い骨肉が断たれたのだ。

真・魔王「憎イ……!!貴様達勇者ガ!!貴様達ノ持ツ光ガ私ノ闇ヲカキケソウトスル!!!!」

真・魔王「消エテ無クナレ!!塵スラ残サズ!!跡形モナク!!!!」

真・魔王「ハアアアアアァァァァァ!!!!!!!!」ゴオッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真・魔王の持つとてつもない魔力が膨張を始める。

空を振るわせ、
海を怯えさせ、
大地を泣かせる災害に等しいその強大な魔力が暴走しようとしているのだ。

『マダンテ』。

古よりその使用を禁じられてきた最強の秘技。
己の持つ全魔力を解き放ち暴走させ、周囲のあらゆるものを破壊し無に帰すと言われる魔道の超奥義。

仮に一般の魔法使いがこの技を放ったとしてもその凄まじい破壊力は小さな村一つなら跡形もなく消し去ることができる。
それを神をも超えし魔力を持つ真・魔王が放とうとしているのだ。
その大破壊はこの王都を滅ぼすだけに留まらず、この王国を……いや、この大陸すら根こそぎ吹き飛ばすだろう。

スタッ

ファイブ『ベホマ』!!

パアアアァァァ!!

温かな治癒の光が勇者の傷を癒す。

勇者「ありがとう、ファイブ」

ファイブ「だが体力を全回復できるベホマでも一発で完全に回復しないとは……相当手酷くやられたみたいだね」

勇者「あぁ、でもずっと楽になったさ」

スタッ

ナイン『mpパサー』!!

パアアアァァァ

ナインの持つ魔力が勇者へと流れ込む。

ナイン「僕の魔力を勇者に分けてあげたよ。流石に勇者の魔力を全快にはしてあげられないけれど……これでまた闘えるハズさ」

勇者「ありがとう、ナイン」

勇者「でも……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

勇者「あの野郎ついに最後の攻撃をするつもりらしいな……あんなの喰らったら今度こそおしまいだ」

ナイン「うん、次が僕達にとっても最後の一撃になるだろうね」

ファイブ「勇者……聞こえるかい?」

勇者「……なにが?」

ファイブ「……目を閉じて」

勇者「…………」スゥ

ファイブ「耳をすませて」

勇者「…………」

ファイブ「心を静かにさせるんだ」

ファイブ「今の君になら……聞こえるハズだよ」

勇者「…………」

――――――――
『……さま!!』

どこからか誰かの声が聞こえる。

『勇者様!!』

それは人々の心の声。

勇者の名を呼ぶ声。

兵士長『勇者殿……!!』

兵士a『勇者サマ……!!』

兵士b『勇者様……!!』

国王『勇者……殿……!!』

姫『勇者様!!』

世界中から声が聞こえる。

男『勇者様……!!』

女『勇者様……!!』

農夫『勇者さま……!!』

神父『神よ!!勇者様にお力を……!!』

子供達『ゆうしゃさま!!』

先生『勇者様……!!』

人々『勇者様!!』


人々『勇者様ー!!』


人々『勇者さん!!』

幾つもの声が勇者を呼ぶ。

祈りを込めた声で勇者を呼ぶ。

希望を込めた声で勇者を呼ぶ。

勇気を込めた声で勇者を呼ぶ。



女の子『お願い、勇者様……私たちを……ううん』

女の子『この世界を守って!!!!!!』

――――――――
勇者「…………」

ファイブ「……聞こえただろ?」

勇者「……うん、確かに聞こえたよ」

ファイブ「負けるわけにはいかないね」フフッ

勇者「あぁ!!俺がみんなの……世界中の希望の光になる!!!!」グッ

ナイン「そう、この世界の勇者は君なんだ……最後の一撃……準備はいいかい?」

勇者「おう!!!!」ドンッ

勇者は空高く飛んだ。

勇者の真下。
地上では九人の勇者達が上空の勇者を囲むように円を描いて立っている。

ツー「最後の仕上げだな」

フォー「あぁ、勇者に全てを託すとしよう」

シックス「俺達はこの世界の『勇者』じゃないからな」

エイト「これでもし勇者が負けちゃったらどうする?」フフッ

ワン「魔王なんざに負けるようなら俺が勇者をぶっ飛ばしてやる!!」

スリー「魔王じゃなくて勇者をかい?」クスクス

ファイブ「まぁ気持ちはわからないでもないがな」ククッ

セブン「大丈夫、勇者は敗けないよ。僕達がついてる。それに……」

ナイン「世界中の人達の想いを背負ってるんだからね!!」

皆が天に手をかざし、勇者へと叫んだ。

スリー「勇者!!!!俺達の!!!!!!」

ワン「希望と!!!!」

ツー「力と!!!!」

スリー「勇気と!!!!」

フォー「意志と!!!!」

ファイブ「愛情と!!!!」

シックス「夢と!!!!」

セブン「友情と!!!!」

エイト「想いと!!!!」

ナイン「絆の力を!!!!」

九人の勇者達「受けとれええぇぇぇーーーーーー!!!!!!!!」

九人の勇者達『ミナデイン』!!!!!!!!!!!!!!!!

ドオオオォォォォォン!!!!!!!!!!!!

轟音と共に天が裂けた。

強い絆で結ばれた仲間達がその心を一つにした時にのみ放つことができるとされる究極の雷撃呪文『ミナデイン』。
その人知を超えた破壊力は人の扱う呪文などとは比較することすらできず、『神の怒り』と呼ばれている。

この雷撃には九人の勇者の想いと力の全てが込められている。

ズガガアアァァァァーーーーーン!!!!!!!!

勇者は天へと掲げた剣でそのいかずちを、仲間達の想いを、人々の想いを受け止めた。

勇者「感じる……みんなの温かな力を……」

勇者「本当にありがとう、みんな……」

勇者「後は……この剣に俺の全てを込めるだけだぁーーー!!!!」

バチバチバチバチ!!!!!!!!

バリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!!!

勇者の想いに応じるようにいかずちが形を変え……

カアアアァァァァーーーーー!!!!!!!!!!!!

今、邪悪な暗闇を断たんとする巨大な光の剣となった!!!!

勇者「行くぞぉー!!真・魔王ぉぉお!!!!!!!!」

真・魔王「良カロウ!!!!貴様ラ人間ノ全テヲ私ガ否定シテクレルワ!!!!!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

九人の勇者達「行けぇ!!!!勇者ーーー!!!!!!」

勇者「うおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」ドンッ!!

真・魔王「ハアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」バッ!!

勇者『ミナ・グラン・ブレイク』!!!!!!!!!!!!!!!!!!

真・魔王『マダンテ』!!!!!!!!!!!!!!!!!!

カッ!!!!!!!!

そして、世界が光に包まれた!!!!!!

――――王都・上空
勇者「………………」

真・魔王「………………」

勇者「……ぐっ!!うぅ!!」ガハッ

勇者「ハァ……ハァ……」

真・魔王「……何故ダ?」

真・魔王「…………何故コノ私ガ…………!?」

ブシャアアァァァァ!!!!!!

――――王宮前広場
ワン「やりやがった……勇者の奴やりやがったぞ!!!!」

ツー「ハハッ!!やったな!!勇者!!!!」

パアァ…………

スリー「空を覆っていた禍々しい雲が消え去ってゆく……」

フォー「青い空と太陽の温かな光が何よりの贈り物だな」フフッ

ファイブ「勇者に先を越されてしまったな」

シックス「ん?たしかにそうだなぁ」

セブン「僕達も勇者に負けていられないね!!」

エイト「うん……この温かな太陽の光と人々の歓喜の声を聞くために……ね」

ナイン「僕達も勇者だものね」ニッ

――――王都・上空
シュルルル……

勇者「!?」

新・魔王「ぐ……う……」

勇者「新・魔王に戻った……!?」チャキッ

新・魔王「フフ……そう身構えることはありませんよ、勇者」

新・魔王「他の魔族達を取り込み無理矢理進化をした私はもうじき灰となって消えます……それが因果というものです」

ボロッ

ザアァ……

勇者「…………」

新・魔王「……消えてしまう前に一つお聞きしても良いでしょうか?」

勇者「……なんだ?宿敵のよしみで聞いてやるよ」

新・魔王「フフッ、ありがとうございます」

新・魔王「私は……どうして貴方に勝てなかったのでしょうか?」

新・魔王「貴方は勇者達に、私は魔王達に、それぞれ師事を仰ぎ修行に励んだというのに……」

勇者「………………」

勇者「……同じように修行した俺達だけどな、俺にあってお前になかったもの……わかるか?」

新・魔王「さぁ?……それは一体……」

勇者「『仲間』さ」

新・魔王「仲間…………」

勇者「そんなものあったって馬鹿馬鹿しいってお前は思うかもしれないな、自分が圧倒的な力を持っていればそれで事足りる、絆なんて何の役にも立ちはしないってさ」

勇者「でもな、理屈じゃないんだ」

勇者「大切な人のために、自分の全部を、命を懸けようっていう想いが……人を何倍にも強くするんだ」

勇者「他の世界の魔王達はお前がピンチだと知ったら命を懸けてでも助けに来てくれるか?」

新・魔王「…………」

勇者「多分駆けつけてはくれないだろうな……でも勇者達はこうして助けに来てくれた。俺の師匠達は俺の最高の仲間だ」ヘヘッ

新・魔王「仲間との絆……ですか」

新・魔王「たしかにそれは私にはないものですね……」フフッ

ザアァ……

新・魔王「…………勇者よ、この勝負貴方の……いえ、貴方達人間の勝ちです……」

勇者「……ありがとう、新・魔王……これからも俺は命ある限りこの世界を守って行こうと思う」

勇者「人々の笑顔が絶えない平和な世界をつくるために…………敗けたお前に恥じないようにな」

新・魔王「フフフッ、そうですか、楽しみですね……」

ザアァ……

新・魔王「あぁ……闘いに破れ死にゆく時だというのに何故私の心はこんなにも晴れやかなのか……」

新・魔王「もし魔王と勇者としてではなく、貴方と会うことができたなら私も……」

勇者「新・魔王……」

新・魔王「……いえ、なんでもありません」フフッ

ザアァ……

新・魔王「さようなら、勇者……我が宿敵よ……」

ザアァ……

フッ

勇者「あぁ……新・魔王……」

勇者「…………じゃあな」

――――王都・王宮前広場
シュー……

スタッ

勇者「ふぅ……王都もすっかりメチャクチャになっちまったな……こりゃ復旧に何年かかるか……」

ダダダダッ

勇者「?」

兵士長「勇者殿ぉーー!!」

兵士a「勇者サマーー!!やりましたね!!」

兵士b「ご無事ですか!?」

兵士c「ホントすごかったッスね!!」

兵士d「広場で闘ってた時に雷で助けてくれてありがとうございました!!」

兵士達「……勇者様のおかげで……」

兵士達「……本当にありがとうございました……」

わいわいがやがや!!

勇者「いや、俺は仲間と一緒に俺にできることをしただけだよ」ハハハッ

姫「しかし勇者様がこの世界をお救いになられたのは紛れもない事実ですわ」ニコッ

兵士a「姫様!!」

姫「この国の者を代表してお礼を言わせていただきますわ……ありがとうございました」ペコッ

勇者「あ……う……えーと、その……」

勇者「ど、どういたしまして」

兵士達「うおおおおおーーーーー!!!!!!」ヒューヒュー!!

国王「私からも礼を言わせてもらうぞ、勇者殿」

兵士b「国王様」

兵士長「お体の具合は……」

国王「なに、お前達の介抱のおかげで随分楽になったわい」

国王「ところで勇者殿よ」

勇者「はい」

国王「娘を嫁に貰ってくれんか?」

勇者「!?」

姫「おおおお父様!?////」

国王「娘ももうそろそろ嫁にいくなり婿をもらうなりしてもいい年頃じゃしの、世界を救った勇者殿が相手ならわしも安心して娘を任せられるわい」

姫「でもあまりにも急すぎますわ!!」

国王「まぁまぁ……お前も勇者殿が夫なら満足じゃろ?」

姫「それは……」チラッ

姫「…………そうですけど……////」

勇者「え、いや、……ぇえ?な、何これ?」

兵士a「俺達の姫様がぁー!!」ウワァーン

兵士c「ズルいッスよ勇者様!!」

兵士達「そーだそーだ!!」ブーブー

兵士達「うらやましいぞコノヤロー」ブーブー

兵士達「死ねー!!」ブーブー

わいわいがやがや

国王「どうじゃ、うん?」

勇者「えーっと……その……まだ返事はできないです、俺姫様のこと何にも知らないし……姫様だって俺のこと何にも知らないワケだし……それなのに結婚とか……」

姫「勇者様……」

国王「ハッハッハ!!それでこそ勇者殿じゃな、まぁ返事は今でなくても良い。じっくりと考えてから答えを聞かせてくれ」

国王「さぁ、何をしておる皆のものよ!!魔王は倒れ魔王軍は滅び去ったのじゃ!!偉大な勇者様の勝利を祝って宴の準備をせんか!!!!」

兵士達「うおおおぉぉぉ!!」

姫「宴には出席なさって下さいますよね、勇者様?」

勇者「あぁ、そのつもりだよ」

バサッ!!

「ところがそうはいかねぇんだな~」

姫「!?」

勇者「みんな!?」

ワン「おいおい勇者、自分の世界を救ったらそれでおしまいかよ?」ニッ

勇者「え?だって……」

ツー「俺達は勇者だからな」

スリー「困っている人がいたら無償で助けるよ」

フォー「でもそれは相手が一般人のときだけだ」ニヤッ

勇者「どういう……」

ファイブ「勇者同士には無償の手助けなんてないってことさ」フッ

シックス「そうそう、借りはちゃんと返さなきゃな♪」

勇者「なぁ!?」

セブン「僕達は君に修行をつけてあげたし、今回の闘いでは君を助けてあげたよね?」

エイト「今度は君が僕達に協力する番じゃないかな?」ニコッ

ナイン「防具代は倍返しって言ったよね、勇者♪」フフッ

勇者「お、お前らなぁーー!!」

ラーミア『さぁ、どうしますか、勇者?』フフッ

勇者「……………………」

勇者「そんなの決まってんだろ?」ニッ

姫「勇者様?」

勇者「悪いな姫さん、俺ちょっと行ってくるわ!!」

姫「……はい!!私、勇者様がお帰りになるのを待っていますわ」ニコッ

タンッ

スタッ

勇者「頼むぜ、ラーミア!!」

ラーミア『はい』

バサッ!!

バサッバサッ!!

兵士a「……おい、あれ勇者サマじゃないか!?」

兵士b「ホ、ホントだ!!」

兵士長「勇者殿!!一体どちらへ!?」

国王「ま、待つんじゃ勇者殿!!」

兵士達「勇者様ーーー!!」

勇者「へへっ、ごめんなみんな、でもな……」

勇者「これが『勇者』の…………いや、俺の宿命なのさっ!!!!」ニカッ

――――――――

――――

――



――――星の海
ラーミア『まったく、ルビス様は何故あんな回りくどい真似をなさったのですか?』

ルビス『あら、回りくどい真似とは?』

ラーミア『とぼけないで下さい、勇者のことです』

ラーミア『わざわざ九つの世界で修行させたりしなくとも他の世界の勇者を勇者の世界へと連れて行って、魔王と闘って貰えば良かったではありませんか』

ラーミア『私に申しつけて下さればそれぐらい簡単に……』

ルビス『それでは無意味なのです……と言うよりもその方法は上手くいかなかったでしょうね』

ラーミア『何故です?』

ルビス『勇者達に『他の世界が危ないから助けて欲しい』とでも言うのですか?』

ルビス『彼らは自分達の世界を救うために闘いに身を投じたのです、その上で他の世界の話などされても実感が湧かないでしょうし、その闘いに真に想いを懸けることはできなかったでしょう』

ラーミア『…………』

ルビス『九人の勇者が勇者を助けに来てくれたのは勇者が彼らの大切な仲間だったからですよ』

ルビス『もっとも魔王側も息子を九つの世界で修行させていたのは予想外でしたし……九人の勇者達が最後の決戦で勇者に力を貸してくれるかどうかは賭けでしたがね』

ラーミア『世界の命運がかかっていたというのに『賭け』とはまた随分と適当なのですね』ハァ

ルビス『いいえ、私は信じていましたよ?』

ラーミア『…………?』

ルビス『人間達の持つ絆の力を……ね』フフッ

――――――――

――――

――



――――――――
勇者達と魔王の死闘から長い歳月が経った。

魔族によって破壊された町並みも無事に元通りとなり、

人々は再び訪れた平和の中で互いに手を取り合って過ごしている。

――――ここはとある小さな村。

長老「…………と、言うのが零番目勇者様のお話じゃ」

少年a「すげー!!やっぱり何度聞いてもかっこいいよなー!!」

少年b「だよなー!!」

少年c「でもその後この世界の勇者様はどうなったんだろうね?」

少年a「馬鹿だなぁ、他の世界の勇者様達と協力して別の世界の魔王を倒して回ったに決まってんじゃん!!」

少年b「やっぱかっこいーなー!!」

長老「いや、実際そんなかっこいいもんじゃなかったぞぃ……鶏好きと卵好きの喧嘩の仲裁をさせられたり、花嫁泥棒を手伝わされたり、タバサと姫さんの板挟みにあって窮屈な思いをしたり……」ハァ

少年達「???」

長老「あ、な、なんでもないぞぃ!!なんでも!!」ホッホッホ

タッタッタッタ

少年d「ハァ……ハァ……遅れてごめんなさい、長老様」

少年a「遅せーぞ~」

少年c「もぅお話聞き終わっちゃったよ~」

少年b「お前みたいにどんくさいやつは勇者様達みたいに強くてかっこいい人になんてなれないな」ゲラゲラ

少年a「まったくだな」ケタケタ

少年d「うぅ……」ショボーン

長老「これこれ、いつも言っておるじゃろ?勇者とは勇気ある者、腕っ節の強さなど関係ないと」

長老「どんなに小さくても心に勇気の炎が灯っている限り、誰もが『勇者』じゃよ」ニコ

少年達「はぁ~い」

少年d「あ、あの……長老様、今からでもまた勇者様達のお話聞かせてもらえませんか……?」

長老「いいともいいとも」ウンウン

長老「さて……」



長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」ニッ


―――the end―――

ふぃ~~、長くなりましたがこれでおしまいです。
なんとか1スレで完結できて良かった(笑)

ベッタベタの王道すぎる長編ですが最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございます

短いラノベ一冊分ぐらいの量があるんでこらから読んでみようかなって方にとってはいい暇つぶしぐらいにはなるんじゃないでしょうか?ww

それではノシ

>>888

『これから』ですね、失礼(苦笑

ども、>>1です

こんな長いss誰も読んでくれないんじゃないかと思ってましたが、思ってた以上に読んでくれた人がいたみたいで嬉しい限りです

このssを読んでくれた人たちが少しでも楽しいひと時を過ごしてくれたなら幸いです

蛇足かと思いますがちょいと訂正と補足をさせていただきます

【訂正】
思ってたより誤字が多かったので訂正

>>3
長老「……なるほどのぅ……」

****「……封印されたんだしさ……」

>>98
クッキー「……子供でもない限り……」

>>115
プリン「か、かき消した!?」

>>139
戦士「ガハハハ……」

>>218
フォー「……って呼んでくれれば……」

>>356
ロビン「だめーじ限界ヲ突破……」

>>373
ビアンカ「……勇者君にお別れ……」

>>398
シックス「……盗賊、魔物マスター、……」

>>432
シックス「詳しい理屈は……」

>>482
メルビン「……吾輩メルビンと申す……」

誤字修正はいいけど、まさか長文で補足なんかしてまた叩かれる理由増やす気じゃないだろーな

>>461
勇者「……立派な城……」

>>643
ナイン「今回の修行が……」

>>738
弓隊「はぁっ!!!!」

>>779
新・魔王の頭上を……

>>810
大地の四天王の握撃をも……

>>818
真・魔王「……何人タリトモ私二触レル……」

>>907
もしも気になった人がいたら、って程度の補足

【補足】
・Ⅰの主人公は『剣神』『バトルロード』のデザインで描写
・Ⅴの主人公の一人称が『私』なのはds版Ⅵの隠しダンジョンより
 ビアンカと話すときだけ『僕』って設定

あと気になるところがあったらオリジナルの設定


最後に、
自己満足の駄文長文にお付き合いくださりありがとうございます
支援、乙くれた方、本当にありがとう
叩きでもコメくれた方、悪いところ指摘してくれてありがとう、今後に役立てます

では

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月01日 (月) 14:27:26   ID: PssVVefh

王道で面白い

2 :  ジョウLv★   2018年06月29日 (金) 13:13:44   ID: 6lCTWj8k

面白い!!!!!!
ドラクエ好きなのがめっちゃ分かりますね!!!!!!
いい時間を過ごせました!!!!!!ありがとう!!!!!!

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