蒼の中まで (31)


・「蒼の彼方のフォーリズム」のSSです

・オリ主が好き放題するので苦手な人は注意

・安価少しあり

・遅筆



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小さかった頃は、無敵だった。


勉強も普通、運動も普通、容姿も普通。


そんな私が唯一誇れたのが、「空を飛ぶこと」。



空を飛ぶことにかけて、大人も含めて村の中では誰も私には勝てなかった。


自分は世界で1番飛ぶことが上手いとさえ思っていた。


きっと私は空を飛ぶために生まれてきたのだと。


本気でそう信じていた。





そう、信じていた。





でも、世界はそんなに甘くなかった。


才能がある人が集まって優越を付ける場所で、私はそのことを身を持って思い知った。


私が必死になってやっとできることを簡単にできる人は世界にいくらでもいて。


私が必死になってもできないことを簡単にできる人も世界にはいくらでもいたんだ。



私が飛んでいた空は全体のほんのはしっこでしかなくて。


あの人達が飛ぶあの蒼い空の中に私は飛んでいけないのだと。


集まった人全員の中でもとりわけ飛ぶのが上手い、まるで空そのもののように自由に空を舞う男の子を見てそう思った。


だけど、


それでも、





――それでも私は、空を飛ぶことが好きだった筈なのに。







    蒼の彼方のフォーリズム

    第一話「かつて使った羽」




「ふー、8時10分か、これなら大丈夫そうかな」


時間を確認するために取り出したスマホをポケットにしまいながら、再び学院に向かって歩き出す。

結構余裕をもって家を出たはずだったけれど、初めての風景を見ながらのんびりと歩いていたら間に合うか少し怪しい時間になってしまった。

学院への道がまっすぐでなく、ぐねぐねと曲がっているのも要因のひとつかな。


「これなら飛んだ方がよかったかなー」


ぐちりながら黙々と歩を進める。これから私が通うことになる久奈浜 (くなはま) 学院は丘の上に建っており、必然的に登校するための道は上り坂になる。

前述のぐねぐね道とこの坂道を合わせると、それなりの運動になる。じんわり体が汗ばむのを感じながらちくしょー、と空を見上げた。


頭上では何人もの生徒が空を飛んで私を追い越して行く。それぞれの履いている靴には特徴的な光る半透明の羽が生えていた。

昔の友人がこれなんてアニメ? なんて言ってたのを思い出した。

アンチグラビトンシューズ。略してグラシュ。

ばっさり言ってしまえば空が飛べるようになる靴である。重力を無視する粒子がうんたら、細かい原理は忘れた。飛べればなんでもいいのさ。

グラシュを使って飛んで移動するのは走るのよりも楽、かつ疲れないとくればむしろ使わない方がおかしい。

扱いもそこまで難しいものでもなく、なんか難しい法律の関係で日本中のどこでも使えるという訳ではないけれど、通学が大変な島や山奥なんかは実験的に使うのが許可されている(らしい)。


要するにちんたら学院への道を歩いているのが私以外にいないのはそういうことだった。

なんて考えてる間にも何十人もの生徒が頭上を通り過ぎていく。

昔に私が住んでいた所もグラシュの通学の許可が出ていたとはいえ、今とは時代が違うし、そもそも子供の数が少なかった。

なかなか面白い光景だ。

ただ……

空を飛ぶ生徒達が「なんで歩いてんだあいつ……」と目で言ってるような気がしてくる(自意識過剰なんだろうけど)。

私が空を飛んで通学しなかった理由が、『ちょっと嫌な夢を見た』だったんだけれども……。


(どんだけナイーブな少女なんだよ私は……)


数時間前の私に文句を言ってやりたい。現金なものである。

今からでも飛んでやろうかとも一瞬考えたけど、流石に学院の目と鼻の先で停留所以外の場所から飛ぶ勇気も無く、結局は心の中で愚痴をいいながら私は黙々と坂道を登っていった。


葵「あと5分!」


結局遅刻5分前の所で私は校門に辿り着いた、のだが……

校門の前で残りの時間を大声で宣言している人をつい立ち止まりまじまじと眺めてしまった。

その……なんというかエキセントリックな格好をしていらっしゃる。こういうのパンクって言うんだっけ?

他の生徒達がおはようございまーす! と元気に件の人物の横を駆け抜けて行くのを見るに、学校の関係者かつこれが日常的なものであるということなんだろうけど……。

美人はどんな格好をしても美人だ。世の不条理よ。


葵「ん? 何をしてるんだ? 早く入りなさい」

「あ、は、はい」


なぜだろう、声を掛けられてちょっとドキドキしてしまった。

私にはそっちの気は無いはずである。


葵「ん? 君は見かけない顔だな……ああ、転校生の一人だな?」

「はい。転校生の……一人?」

葵「ああ、すまない。珍しいことに今日転校生が二人も来ることになっているんだ。私はここの教師をしている各務 葵 (かがみ あおい)。よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

葵「転校生の担当は私がすることになっているんだ。悪いがこれが終わるまで少し待っててくれないか。終わったら職員室まで案内しよう」

「はい。わかりました」

葵「よろしい。……あと3分!」


再び声を張り上げる先生を尻目にこっそりとスマホを取り出して時間を確認する。8時27分。いや、さっき先生が後3分って言ったんだからあたりまえなんだけど。

この学院がスマホの持込を許可しているのかしていないのかわからないけど、わざわざ自分から危ない橋を渡ることも無いだろうと再びポケットにしまう。

特にやることが無い私は、空を飛んでくる遅刻ギリギリの生徒達を眺めた。


飛ぶのが速い人、姿勢が綺麗な人、着地が上手い人――色々な人がいる。

私が今飛んだら、一体どんな風に見えるんだろうか?

なんて心の中で詩人になっていたら、気になる物が1つ見えた。

男子生徒と女子生徒が手を繋いで飛んでくる……だと……?

あれが……世に聞くリア充という奴なんだな!? そうなんだな!?

まさか転校初日にこんな気持ちにさせられるとは思わなかったぜ……リア充爆発しろ。


葵「ほう……? 珍しいこともあるもんだな」

「? 先生、どうかしたんですか?」

葵「いや、なんでもない」

「??」


さっきの二人を見てそう言っていたような気がする。珍しいっていうのは堂々といちゃつくカップルがってことかな?

件の二人の方に視線を向けると、いつの間にか女子生徒の方は居なくなっていた。


葵「さて、今日も遅刻者なし、と。じゃあ職員室まで行こうか」

「え、もう1人の転校生はいいんですか?」

葵「ああ、先に行ってしまったみたいだ」

「はぁ……」


まあ、先生がいいというならいいんだろう。

歩く姿すら様になる先生について行きながら、私はこれから通うことになる校舎をぼーっと眺めた。



葵「……空から来るなんてな……本当に珍しい」


葵「ついたぞ、ここが職員室だ」

「失礼します」


先生に連れられてすぐ、教育棟の一階のなんの変哲もない職員室にたどり着いた。

いや、別に変な職員室とか期待してた訳じゃないけどね?


葵「ふむ、ちゃんと着いてるみたいだな」


そう言って先生が歩いて行く机の前に一人の女子生徒が立っていた。

ってあれ、さっきのリア充の片割れじゃないか。

もしかして転校生の二人目っていうのは……。


葵「さて、じゃあ二人とも揃ったことだし名前を教えてもらえるかな」

明日香「はい! 倉科 明日香 (くらしな あすか)です! よろしくお願いします!」

(倉科さん、ね……)


心の中でリア充(女)の名前を更新しながら、自分も当り障りのない自己紹介を終わらせる。

職員室の中という緊張せざるを得ない場所(自分だけ?)のせいで、少しどもってしまったのは内緒だ。

先生は手に持っている紙と私たち転校生ズを見比べながら――おそらく履歴書みたいな物だろう――満足そうに頷いた。


葵「君がこっちで、君がこっちだな。私は君たちの担任の各務葵だ。よろしく頼むよ」

葵「じゃあこれからの簡単な説明と、少し書いてもらいたい書類があるから……場所を移そうか。ついてきてくれ」


先生は紙をいくつか机から取り出すと、隣の部屋に続いているであろう扉に向かって歩き出した。

それに続いて歩いて行く途中で、倉科さんに話しかけられる。


明日香「同じ日に転校してくるなんて、すごい偶然ですね! よろしくお願いします!」

「うん、一人だと心細かったし心強いよ。よろしくね」


うーん、なんというか、こう……可愛い子だ。

ちょっとアホの子? っぽい雰囲気があるけどなんといってもこの容姿。これは男が放っておかないだろう。

私は――



  1 素直に、仲良くなりたいと思った

  2 いや、油断するな。これはリア充の外面なんだ


  ↓1


いや、油断するな。これはリア充の外面なんだ。

なんてったって転校初日に男子生徒と手を繋いで登校してくるような子だからね(しつこい)。

きっとこの人畜無害な顔の裏には神様も真っ青な策謀と欲望が……

……なんかこれ私がすごい嫌な奴みたいじゃん。うん、実際嫌な奴だね。

まあでも、女の子っていうのは色々な顔があるものだ。


明日香「私は父の仕事の都合で――」


にこやかに喋り続ける倉科さんからはそんな感じ全くしないような気がするけどね!

うう、おじさん倉科さんの笑顔がまぶしいよ……


――


葵「よし、話はこれで終わりだ」


先生がそう言うと同時に、チャイムが鳴り響いた。

結構時間がかかったなーと考えながら軽く伸びをする。肩や腰で鳴るポキポキと鳴る音が気持ちいい。


葵「今日は午前中で終わりだから、このまま帰ってもらってもいいんだが……」

葵「二人はグラシュの使い方は心得てるのか?」

明日香「いえ、実は一回も使ったことがなくて」


そういえば倉科さん、さっき初めて空を飛んで感動したーと言ってたっけ。

あ、そうか。朝の手繋ぎはそういうことだったのか。

通常、グラシュを起動することで発生するメンブレン(体を覆う反重力子の膜のこと)は反発しあうので、飛行中はグラシュ起動者同士では接触できないのだけど、

グラシュの起動時に起動する人と触れ合っていれば、二人一緒に飛ぶことができる(二人まとめて膜が覆う訳だ)。

大方朝のあれは、遅刻しかけた倉科さんを親切な男子生徒が送り届けたってことだったんだろう。遅刻ギリギリだったし。

また倉科さんに対する後ろめたさポイントが加算されてしまった……


葵「そうか。じゃあ資格を持っている生徒に指導員をやらせるから、そいつに飛び方を教えてもらうといい」

明日香「指導員、ですか?」


限定指導員制度。

普通はグラシュで飛ぶには決められた時間、さらには資格を持ってなければいけない。

が、そこは田舎。ここでは簡単な申請をするだけで空を飛ぶことができるそうな。

もちろん今までグラシュを使ったことが無いような初心者にいきなりはいどうぞ、と空を飛ばせるのも色々と危険なので、

初心者を指導する資格を持った人が指導してあげましょうという訳だ。

以上、各務先生の解説でした。

最近はこんなことになってるんだね。


葵「本当は教師が教えるのがいいんだが、あいにく忙しくてな。何、飛行の名人を寄こすから安心してくれ」

明日香「はい! わかりました!」


おおー、すっごい目がキラキラしてるよ。よほど空を飛ぶのを楽しみにしてたみたいだね。

まあ自分はグラシュの使用経験がある訳だし、今日はまっすぐ家に帰らせてもらおう。

そのことを先生に言おうと口を開いた瞬間、ガッシと倉科さんに手を掴まれた。


「あれ? どうしたの倉科さん?」

明日香「じゃあ早速行きましょう!」

「え、いや私は……」

明日香「?」

「あ、いやなんでもないです……」


倉科さんのキラキラした顔を見てると「いや、自分必要無いんで……」などとは言えない気持ちになってしまう。

まああれよ、私も長いことグラシュに触れて無かったし久々の起動時には周りに経験者がいてもらった方がいいだろう。

言い訳なんかじゃないんだからね!


葵「じゃあ、先に校庭の方に行っててくれ。すぐに指導員の方も向かわせるよ」

明日香「わかりました! じゃあ行きましょう!」

「あい……」


なんか倉科さんには逆らえないオーラが出てる気がする。

自分だけですかね、はい。


――


明日香「ええっ! 指導員って日向さんのことだったんですか!?」


校庭で倉科さんと指導員とやらを待つこと数十分後。やってきた男子生徒を見るなり隣で倉科さんが驚いた声を上げた。

知り合いかな? とよく見てみば今朝のリア充(男)だった。ちなみにイケメンであった。

私がぼーっと経緯を見守っている中、二人は自分達の間でしかわからない会話を繰り広げている。

自分、帰っていいすか。


晶也「えー、それで、こっちの人は……」


二人で話すこと数分、会話が一段落ついた所で、リア充(男)がこっちに声をかけてきた。

よかった。忘れられて無かった。


明日香「あわわ、ごめんなさい紹介するのを忘れてました」


こっちには忘れられていた。そりゃないぜ倉科さん。

慌てて私の名前をリア充(男)に紹介する倉科さんの隣で苦笑しつつ男子生徒を観察する。

はて? 気のせいかどこかで見た顔な気がする。

私はナンパ男か、と自分にツッコミを入れた所でこっちに倉科さんの紹介が入る。


明日香「こちらが、日向 晶也(ひなた まさや)さんです」


――どくん、と自分の心臓が鳴った音が聞こえた気がした。


日向晶也? その名前は――いや、そんな、まさか。

同姓同名? あらためて相手の顔をよく見る。

似ていた。昔見たあの顔に。当たり前のように私を翻弄し、私の先を飛んでいたあの男の子に。

自分の心臓の音がうるさい。何故? という言葉で頭の中が一杯になる。

何故? こんな所、空を飛ばずにであんたは一体何を――


明日香「あ、あの、大丈夫ですか?」

「っ!?」


心配そうに倉科さんに声をかけられ、我に帰った。

二人が戸惑ったように自分を見ている。


「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」


落ち着け、私。世の中には似た人間が三人居るというし。よく似た別人かもしれない。

そう自分に言い聞かせるものの、私は目の前の男子が「あの」日向晶也であるとほぼ確信していた。

けれど、この人が本物だとして、それがどうしたというのか。

もう自分には関係のない話だ。

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