眼鏡「……」カチャカチャ
友「なあ眼鏡くん」
眼鏡「なんだ、友くん」カチャカチャ
友「どーして君の使ってるキャラって、違う人の名前なの?」
友「『ひでお』って名前は誰なのかなーって」
眼鏡「……」ピタ
友「ねーどうして? ねえねえ? どうしてー?」
眼鏡「黙れ」
友「え、なぜにマジギレしちゃう……?」
眼鏡「…よくまあ整然と、素直に訊けたもんだよ糞野郎」
友「くそやろう…」
眼鏡「じゃあ訊くが、お前はゲームをする際に主人公に何の名前を付ける?」
友「もちろん自分の名前っしょ?」
眼鏡「チッ」
友(舌打ち!)
眼鏡「己の名前を付けて感情移入させ、立場と世界観に没頭しちゃうタイプだね…お前はちぃーーーーっとも恥ずかしくないのかなァ…」
友「どゆこと?」
眼鏡「良いか? ゲームはゲームなんだよ、激変していく荒波のようなストーリーを歩んでいくのはあくまでこの主人公だろ、俺じゃない」
友「だから自分の名前を付けたいんじゃんか、違う?」
眼鏡「…じゃあお前やれんの?」
眼鏡「十代に旅に出たいと家を出て、各地方を無一文で飛び回り、して金に困ればメンチ効かせたゴロツキ共からブンどって」
眼鏡「最後にゃ『お前は頑張った! よくやったよ!』なんてよくわからん装置で個人情報を抽出され全国に晒されんだぞ? お前、出来るのそれ?」
友「うーん、そのときになったら考えるかな?」
眼鏡「馬鹿か…! 今がその時なんだよ…! 今なの! 今がずっとずっと続くの! ゲームでは…!」
友「う、うん」
眼鏡「…そんな状況、絶対に俺という人間を当てはめられる訳がない。初めて出会った怪しい研究者から動物貰うなんて…想像も出来ん…」
友「だから、違う人の名前をつけるってコト?」
眼鏡「まあな。別人なら気にしないでプレイできる、なんの違和感も沸かないから」カチャカチャ
友「眼鏡くんは真面目だなぁ」
友「おれなんてなーんも考えないでやっちゃうけどな。ほら、今さっき貰った動物だってさ。おれ、すぐにニックネーム付けちゃうもん」
眼鏡「ニックネーム……お前、末恐ろしいことをするんだな…」
友「末恐ろしいって、そりゃ今後一緒に旅していくパートナーだもんさ! かっこいい名前かな、かわいい名前が良いかなって、結構時間かけて考えちゃうね」
眼鏡「…じゃあ例えば、この戦闘画面にいる奴、どう名前付ける?」
友「んー『ポチ』とか」
眼鏡「……ふーん」
友「ん? どうした?」
眼鏡「……。今の名前、どうして『ポチ』ってつけたんだ?」
友「えっ?」
眼鏡「ほら見ろ…これだよ…! 俺がいいたいのはこれだ、他人から見てどうしてこんな名前つけたの? って訊かれる恐怖だよ…!」ガクガク
眼鏡「主人公の名前だってそう、『あれ? 自分の名前つけてるんだ。あー…ね、わかるわかる』とか『なんでこれこんなニックネーム付けたの? 教えて?』とか…!」
眼鏡「それを一々説明して、言い訳めいた言葉を吐かなくちゃいけない…このっ…気恥ずかしさという悶々さ…!」
友「別に説明しても良いんじゃない?」
眼鏡「だめ! わかりにくかったボケを説明しなくちゃ駄目なときのような…あるだろ…! あれが駄目なんだよ…っ」
友「考え過ぎじゃない?」
眼鏡「あーそうだよ考えすぎだね! じゃあここ最近の過剰なオンラインプレイ化はなんなんだい!?」
眼鏡「日本どころか世界に出回っちゃう、自分の感性をおっぴろげにする大胆なオープンワールドはなんなんだよ…!」カチャカチャ
友「みんな繋がっててすごいじゃんか! 昔とは比べものにならないぐらいゲームって進化してるってことだって!」
眼鏡「黙らっしゃい! もうみんな名前なんて固有名詞か、山田とか鈴木とか佐藤とか、ありふれた名前で統一すればいいんだ…」
友「それじゃ面白くないよ…」
眼鏡「こっちも面白くないんだよっ」
友「…じゃあなに、おれの家にまで来て突然やりだした古いゲームは、オンラインじゃないからやってるってこと?」
眼鏡「そう。お前の家、すごくテレビ大きいし、スーパーゲームボーイあるし」
友「……。ていっ」
ガチャコン!
眼鏡「あっ!? お前なにゲームカセットをぶっこ抜いて…!?」
友「大丈夫、今の消し方はデータだけうまく消える消え方だから。ゲームは壊れないと思うから」
眼鏡「なになに、なんなのいったい急にっ」ドキドキ
友「別に良いじゃん」
眼鏡「へっ?」
友「見てるの、おれだけなんだし。どんな名前が付いてたって───気にする人は誰一人いない」
友「好きなようにゲームして、好きなように名前をつける。楽しんでゲームをしないで何が面白いのさ」
ぴこーん
友「無理して続ける時間と努力に、何の意味があるって言うのかね!」
眼鏡「おお…」
友「うん。てーことで、最初からにして好きな名前をつけよう」
眼鏡「あぁ…でも俺のこの数時間のプレイは無駄だったと…」
友「まあまあ。その数時間はチュートリアル、今からのプレイの糧にすればいいんだ」
眼鏡「……まあ、そうだな、うん」
友「うっし! じゃあ早速名前付けるぞー!」
~~~
友「いけ! めがね! すなをかける!」
『フッシー!』
友「よっし! ここで友がボールを投げる! …やったー! 鳥を捕まえたぞ!」
友「名前なんにするかなぁ~、あ! そうだ! 今日の晩ご飯に食べようと思ってた『やきとり』にしようっと」
友「こんにちわやきとり! 今後、一緒にがんばっていこう!」ぐぅ~
友「あ、腹が減ったな。眼鏡くん焼き鳥食べる? あ、今のはめがねじゃなくて眼鏡くんのほうね」にひひ
眼鏡(こいつすげえな)
【お気楽プレイも、端から見れば非常識】
第一話 終
気まぐれに更新 ノシ
眼鏡「今日も寒いな」トボトボ
友「やあー眼鏡くんじゃん、よっす」
眼鏡「おー…」
友「今日はだいぶ早い時間に来たねー」ほのぼの
眼鏡「…………」じぃー
友「あはは。ん? どったの?」
眼鏡「なんでお前、ネックウォーマーしてんの?」
友「え?」ニコニコ
眼鏡「なんでネックウォーマーそう易々と着けられるの!?」
友「えっ!? なになに!?」
眼鏡「驚いた…今日一で驚いた…お前という人間は恐れ知らずなのかよ…」ワナワナ
友「きゅ、急にどうしたのさ?」
眼鏡「…ネックウォーマー…」
眼鏡「マフラーの代わりとして取って代わる次世代型の防寒具、それは、今の若者はこぞって着たがるものだよな」
友「そうなの? というか、言う程みんなしてないと思うけど…」
眼鏡「そんなモノを! そんな大それたモノを、なんら惜しげもなく使うお前は…友くん…俺はこれから友達をやっていけるか不安になる…」
友「だ、大丈夫だってば。考えすぎだよ、眼鏡くんだって着ければちゃんと似合うよ?」
眼鏡「似合ってるとかそういう問題じゃない。イヤだ。俺は絶対に着けない、絶対に」
友「…あれ、でもそういえば眼鏡くん。そーいう君はまったく防寒具を着けないね、こんな寒いのにさ」
眼鏡「だから、おしゃれさんアピールになるから、無理なの」
友「え、どういうこと?」
眼鏡「学生服──指定の上着、ズボン、ベルト、シャツ、靴下に革靴。普遍的な格好で統一される中で唯一、個性を出せる部位」
眼鏡「それが防寒具。一旦装着するだけで、一体どのような『おしゃれな防寒具を着けるのか』という戦いの渦中に身を投じることに…ッ」
友「ならないよ! そんな争い起こってないよ!」
眼鏡「ふん。たかが考えすぎ野郎だと甘く捉えているんだろう、わかってないなお前は」
カチャカチャ ファサァァァア…
友「あれ? それは…」
眼鏡「今、俺が取り出したのはマフラーだ」
友「なんだ持ってるんじゃないか。なら早く巻きなよ、これからもっと冷えてくるから」
眼鏡「………」ジッ
眼鏡「じゃあ教えろよ。このマフラーの正しい巻き方、俺に教えてくれよ」スッ
友「え、普通に二つ折りで巻いていけば…」
まきまき
友「ほら出来た」にぱー
眼鏡「ダサい!」バッ
友「ダサい!?」
眼鏡「こんなん、あれかよ小学生かよ…! こんな惨めな姿を晒して、俺がどんな辱めを受けるかわかってんのかよ…っ」
友「え、えー…」
眼鏡「あるじゃんいっぱい! こーんなもっふもふに巻き込んで蛇のとぐろ状態の奴とかっ…! 胸元に垂らしてフリフリゆれるタイプとか…!」
眼鏡「あんなん…ッ…どーやって形状維持させてるんだよ…ッ…全然意味が分かんないし…!」
友(羨ましいのかな?)
眼鏡「……。ここ最近の異常な『お決まり事』が怖いんだ」
眼鏡「手袋一つ付けるにもセンスが必要だったり。マフラーの巻き方もそうだ、それに色や素材なんかも拘ってるやつが嫌に多い」
眼鏡「それに倣って出来なかったら、不出来な人間と妙に観察される。こんな世間知らずなヤツに為らまいと、愚者を見つめる賢者のごとく…観察されるのだ…」
友「気のせいだって───あ、でも、オレもそうかも」
友「気分で外に出た時、街なかでマフラーや防寒具つけてる人が多かったら『あー今日は寒いんだなー』って思っちゃうね」
眼鏡「…それで、そのネックウォーマーなのか?」
友「うん! さっき家に帰ってわざわざ付けてきたよ?」
眼鏡「………」
友「と、つまりは逆に言うとオレ的には。まったく何も着けてない今の眼鏡くんのほうが、凄い変に目立つように思えるんだけど…」
眼鏡「えうそ?」
友「ほんと。例えるなら登山にカバンを持ってない人の違和感というか、水場で水着じゃない人が目立つ感じというか…あ…」
眼鏡「………」ずーん
友(うん! やってしまったね!)ドキドキ
眼鏡「っ……なんなんだよ…既に俺はもう巻き込まれてやがったのかよ…世の中様は、俺の寒さ対抗策すら許しちゃくれねえのかよ…」
眼鏡「馬鹿野郎…」ぐすっ
友(わ。寒さで鼻先、まっか)
眼鏡「じゅるる、ぐしゅっ」
友「ん。そっか、じゃあほらコレ」スッ
すぽん
眼鏡「わぷっ」
友「ネックウォーマー、これなら良いんじゃない?」
眼鏡「…俺の話し聞いてた? だから、こんなおしゃれしたら、」
友「ん」くいくい
眼鏡「な、なんだよ?」
友「変わりにそのマフラー貸して」
眼鏡「…なんで?」
友「交換するの。一度、二人で経験してみようって。やらないうちから怖い怖いって怯える前に、やって後悔してから考えようよ」
友「どう?」にひひ
眼鏡「……まぁ、お前がこんなんで良いって、言うのなら」スッ
友「おー、ありがとー」
~~~
友「あったかい」
眼鏡「…あったかい」
友「ね。やっぱつけたほうが良いって、こーいうのってさ」
眼鏡「はぁー……」
眼鏡「……、誕生日おめでと」
友「ん? 何か言ったー?」
眼鏡「なんでもねぇよ…」スタスタ
友「え、言ったじゃんか。教えてよ眼鏡くんやい」
眼鏡「駄目だ」
友「相変わらずけちんぼさんですなぁ」
眼鏡「ふん」
【きっとそれは、ずっと前から考えてた渡し方】
第二話 終
気まぐれに更新ノシ
ぱかり
眼鏡「はい、もしもし」
眼鏡「ええ、はい、そうですね───」
友「……」ペラ
眼鏡「──わかりました、それでは」
友「誰からー?」
眼鏡「教師から。生徒会の報告での要件だったわ」
友「ふーん」
眼鏡「おう」
友「うんうん…」ペラ
眼鏡「いや、」
眼鏡「突っ込めよ! なんでまだガラケー使ってんの!? とかってさァ!?」
友「……」ちらり
眼鏡「今時ガラケーって何ですのん!? ってな感じに思ってんだろ、既に俺ら親世代すらスマフォに鞍替えしてんだろって…!」
眼鏡「パカパカパカしてなにそれ! ケータイするのに無駄な労力使いすぎてねって、心底馬鹿にしてやがるんだろう…!」
友「ふぅ…」ぱたん
友「ねえ、眼鏡くんやい」
眼鏡「なんだよ…」
友「おれも、ガラケーだよ?」
眼鏡「へっ?」きょとん
友「おれもガラケーなの。知らなかった?」
眼鏡「………、なんで?」
友「なんでって、そりゃ未だに現役だからだよ」
眼鏡「ばッ!! …ば、ばかやろぉ~っ…な、な訳ないだろ~ぉ…?」キョドキョド
友「嘘じゃないから。ほら、君が次に言うだろうと思う──」
眼鏡「充電は!? 古いタイプなら充電だってすぐなくなっちまうのに!?」
友「───その充電だって、バッテリーだって、タイプによっては最新型より全然保つんだよ」
眼鏡「えぇ…」
友「ほんとでーす」ニコ
眼鏡「…正直に言うと、俺のも保つんだわ…」
友「だよね。思うに、ここ最近のは色々と昨日付けすぎだよ」
友「電子書籍、高機能カメラ、容量増加、高画質化」
友「その他諸々と機能が付きに付きまくってるけれど───結局、全てを使う人なんてそう居ないよね」
眼鏡「ま、まあな…こと学生にとってはそんなに、かな…」
友「そうそう。だから、あんまり必要性感じないよ。特におれらみたいな、拘ってない二人にとってはさ」
眼鏡(来てしまった、か)
眼鏡(ことポジティブにカテゴライズされる者が、たまに見せる……)
眼鏡(───『ポジティブ反転』!!)
眼鏡(普段、陽気な人間が思考を巡らすとき、ポジティブ過ぎて逆にネガティブ思考に成り代わる現象だ…)
眼鏡(こうなるとやっかいだぞ…経験上そのネガティブさは、本来のネガティブを超越することすらあるのだ…)
眼鏡「お、お前が言いたいこともわかる。機能美、それを追求すれば何かと不必要な部分も目に付いてくる」
眼鏡「だがな、やっぱ見た目だよ見た目。ぱかぱか、ありゃちょっと形として目立ちすぎるじゃんか」
友「でかいのに?」
眼鏡「ふぇ?」
友「最近の携帯でかいよね。ポケット入りずらいよね、ジーパン穿いてると絶対に入れにくいよね、あれ」
眼鏡「えっと…でも、かばんとかにぃ…?」
友「余計な所有物を増やしてまで携帯を持って行きたいの? おかしいよ、出かけるときぐらいは、軽装で歩きやすくしなきゃ」
眼鏡「う、うぅん…」
友「見た目を拘るのは凄く良いよ、かっこいいの多いよね、きれいだよね。でも、そんなの誰が見てるの?」
友「たかが携帯なのに。みんな同じのを持ってるのに、誰が気にして他人の携帯なんか確認なんかするのかな?」
眼鏡「むっふふぅんんん~~~っっっ」
友「あ。でも待って、そっか」
友「むしろそんな世の中だから、ガラケーが目立っちゃうってこと?」
眼鏡「そうっ! それそれ! 俺が言いたいのはそーいうこと!」バッ
眼鏡「結局は流行なわけ! ケータイ、それこそ流行という二文字を独り占めしてきたものじゃねーか!」
眼鏡「カラオケとかも、ケータイを使った歌詞であっても、その時代にあったケータイ映像を流さない徹底ぶり!」
眼鏡「常に流行の最先端! 代名詞と言っても過言ではない、そのものだけを持ってれば周りに馬鹿にされずに済むのだから!」
友「…恐いね」
眼鏡「…え?」
友「恐いよ。なんだろう、そのファクターさえ押さえとけばいいやって思えてる───この世の中ってさ」
眼鏡「と、友くん…?」
友「まるで、流行人をかぶった野蛮人だよ。強い人間を、強い流行を頭にしとけば、全て解決みたいな…」
友「なんで人はこうも…何時だって同じことを繰り返すんだろうね…」
眼鏡「もう一度呼ばせてもらう、と、友くん? どうしたんだい?」
友「ねぇ、駅前近くにあった駄菓子屋覚えてる?」
眼鏡「…え、あったっけ?」
友「うん…」こくり
友「大分、昔にね。つぶれちゃったんだ、新しいデパートが出来てね。そこで買い物していた子供たちはみんな…そっちに買いに行っちゃったんだ」
眼鏡(やべぇ…超悲しい話になってきちゃった…)
友「そして次に今度は、新しいショッピングモールが出来て、今度はデパートが潰れたんだ」
眼鏡「お、おう?」
友「するとね、子供たちは、そこで買い物をし始めた」
友「そしたらまた、今度は商店街がリニューアルされて、人がいっぱい集まるようになった」
友「ニュースに取り上げられて、全国から人が集まるような大きな大きな商店街として成長していって───」
友「──そこで駄菓子屋がまた、新しく建ったんだ」
眼鏡「………」
友「眼鏡くん。おれが言いたいこと、わかった?」
眼鏡「友くん…」
ぽろ ぽろぽろ ぱたた
眼鏡「───人は、過ちを何度も繰り返すって、そういうことかい…?」
友「ああ、そうなんだよ」すっ ぽんぽん
眼鏡「ぐすっ…」
友「繰り返し、繰り返し、人は何度も進化と退化を繰り返す。新しいものは廃れ、廃れたものは新しい要素を取り入れ、また廃れていく」
友「おれたちはきっと、そんな流行に流され続ける…」
眼鏡「野蛮人、なんだな…」
友「うん。でもね、良いじゃないか」
眼鏡「えっ?」
友「人と人とをつなぐ架け橋。携帯だって、駄菓子屋だって、求める人が沢山居るから変わっていくんだ───」
友「野蛮でも、廃れることも、流行を気にしても、それは人だから。人だから変われる」
友「大切にしようよ、今の時代をさ」
眼鏡「友くん!!!」だきっ
【二人は、いつもこんな感じ】
第三話 終
のんびり更新 ノシ
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