※注意
・仮面ライダーディケイドとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ディケイド寄り
・地の文有り
・
[前回]→【ディケイド】門矢士「堕天使と飴の島」【デレマス】
【ディケイド】門矢士「堕天使と飴の島」【デレマス】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453465830/)
バトライドウォー創生の井上さんの新録ボイス、結構声の出し方変わってて驚きました。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454587827
第10話 “How should” we distinguish the girls from the fake?
キャンディアイランドとの同時デビューを果たした、凸レーション。
その活動の一環として、当初からファッションブランドPika Pika Popとのコラボが決まっていた。
このコラボのアイデアは、凸レーションのリーダーであるきらりが、同ブランドの愛用者であることに端を発する。
きらりからすれば、自分の好きなブランドを自分で宣伝できるという、願ったり叶ったりな仕事だった。
プロデューサーのノートPCに表示される、ピカピカポップと凸レーションのコラボ特設ページ。彼の元に、凸レーションの3人が集まって来た。
みりあ「わぁ~すごい!」
莉嘉「おお~、出来たんだ!」
きらり「可愛いにぃ☆」
その声を聞きつけ、みくがやってくる。
みく「ピカピカポップにゃ!え、何かするの?」
莉嘉「アタシたち、このブランドとコラボするんだー♪」
みりあ「グッズも出るんだよー!」
みく「えぇ~…、いいにゃぁ…」
きらり「これもぉ、CDの宣伝なんだよねー?」
P「はい。期間中はショッパーや店内BGMも、凸レーションです」
そこで、士がプロジェクトルームの扉を開けて姿を現した。
みく「あっ、士チャン!ねぇ、凸レーションのコラボ企画なんだけど…」
士「あぁ、もうすぐ始まるな。それがどうかしたか」
みく「えっ、士チャンも知ってたにゃ!?」
士「俺もプロデューサーだぞ、前川。友達か何かだとでも思ってたのか?」
P「門矢さん、お疲れさまです」
士「コラボの方はどうなってる?」
P「順調です。このままCDの発売日前後に合わせ、露出を増やして行こうかと…」
莉嘉「Pくんのえっちー!」
P「え?」
莉嘉「お姉ちゃんにいってやろー!きゃあー!」
顔を抑えてはしゃぐ莉嘉。どうやら、プロデューサーの言った“露出”という言葉の意味を、肌の露出の方と間違って解釈したようだ。
みりあ「プロデューサー、えっちなの?」
P「えっ……、いや……!」
士「ッフ……!」
みりあの純粋な質問には、さすがのプロデューサーもたじろいだ。それが面白く、つい士も噴き出してしまう。
勘違いする莉嘉、面白いから放置の士、そもそも分かってないみりあに囲まれたプロデューサーに、きらりが助け船を出した。
きらり「Pちゃんが言ってるのは、メディアへの露出の事だと思うよぉ」
莉嘉「なぁーんだ、そっちかぁ」
みりあ「そっち?どっち?」
みく「みりあちゃんはまだいいにゃ」
みりあ「?」
莉嘉「アタシは、露出多めでも全然オッケー☆Pくんの好きにしていいよ☆」
「「かっこいい~」」
莉嘉の態度に拍手を送るみりあときらり。しかし、士はまたしても噴き出していた。
莉嘉「あーっ、ちょっと士くん!今なんで笑ったのーっ!」
士「…フッ。そういうセリフは、あと10歳年取ってから言う方がもっといいぞ」
莉嘉「10歳って…アタシ22じゃん!やだやだ待ってらんないー!」
莉嘉が背伸びしたい年頃なのは、士も承知している。その上さらにカリスマギャルと持て囃される美嘉を姉に持ち、その姿を近くで見てきたなら尚更だ。
だからこそ、士も一笑に付すことはしなかった。それもまた、莉嘉の個性だ。
莉嘉「…でっ、Pくん的にはどうなの?」
P「……検討させていただきます」
莉嘉「んもぅ…、Pくんそればっかり」
莉嘉はがっくりとソファに倒れ込んだ。
だが、プロデューサーが話を再開するために咳ばらいをすると、きちんと起き上がって再び彼に注目する。
P「コラボグッズの発売に合わせて、皆さんにはイベントに出てもらいます」
莉嘉・みりあ「「イベント!?」」
莉嘉「ライブ!?」
P「残念ながら、場所の都合で歌は歌えないので、トークショーとなります」
莉嘉「えーっ、地味ー…」
士「ライブの仕事はいつか出来るようになるだろ。今はそれで我慢しておけ」
莉嘉「うーん…、わかった」
もう少し手間がかかるかと思ったが、莉嘉は案外素直に聞き分けた。
みりあ「トークショーって、なにするの?」
莉嘉「えっとね、みんなで裏バナとか恋バナしたりするんだよ☆」
きらり「ぅきゃぅ!恥っずかすぃ!」
みりあ「はずかしいお話するの?」
莉嘉「例えば…、初めて○○した話、とか!」
みりあ「マルマル…?」
士とプロデューサーは、どちらからともなく、顔を見合わせる。
これはどうやら、話す内容を事前に決めておかないと大変なことになりそうだ。
7月の中旬に入ったある日の、都内某所Pika Pika Pop。その店舗横の駐車場を利用した特設イベント会場。
駐車場の奥には、ピカピカポップと凸レーションのコラボ仕様になっている大型トレーラーを使用した特設ステージが設置されている。
駐車場の手前の方では、コラボグッズやTシャツなどの物販テントが設営されていた。
人の入りは上々、熱気も十分の中で、凸レーションの3人が登場した。
莉嘉「やっほーっ、莉嘉だよー☆」
みりあ「こんにちはー!赤城みりあです!」
きらり「にゃっほーい!きらりだよぉ☆」
「「「せーの、凸レーションでーっす!」」」
観客からも、歓声と言う形で反応が返ってくる。こういう風に、ダイレクトな反応を見られるのが、こういったトークイベントの強みだ。
みりあ「わぁ!ありがとうございます!」
莉嘉「いーっぱい集まってくれて、すっごく嬉しい!」
きらり「うん!きらりたちと一緒に、楽しい時間にしようね☆」
「凸レーションの皆さん、コラボグッズ、とってもかわいいですね!」
きらり「ピカピカさんの服はぁ、どれも可愛くてきゅんきゅん!今回コラボできて、とぉーっても嬉しいです♪」
愛用ブランドとのコラボと言うだけあって、きらりは特にこの仕事を喜んでいた。今の言葉も、偽らざる本音だろう。
莉嘉「アタシ的には、ちょっと可愛すぎかなーって思ってたけど、これはイイ感じ!」
みりあ「莉嘉ちゃん、とっても似合ってるよ♪」
『かわいいー!』
莉嘉「当然☆」
得意げな莉嘉は、まだステージ上にいるにも関わらず、袖にいるプロデューサーに視線を送ってきた。
プロデューサーが、前を向くようにとジェスチャーをする。
士「…後で言っておくか」
「では早速聞いていきたいんですが、凸レーションの“凸”って、そのままでこぼこって意味なんですか?」
莉嘉「そうだよー。3人並ぶと、でこぼこしてるでしょ?」
みりあ「年も、私が11才で、莉嘉ちゃんが12才で、きらりちゃんが17才!」
きらり「おっすおっす☆」
莉嘉「JCだよーっ!」
「じゃあ、きらりちゃんが2人を引っ張ってる形ですか?」
ステージ上でトークが続いているが、プロデューサーはそちらではなく、通りを行き交う人の方をじっと眺めていた。
士「どうした。顔のせいで、次のターゲットを探してる殺人者にしか見えないぞ」
P「あっ、いえ……」
プロデューサーは、首の後ろを手で押さえた。彼がよく見せる、考え事か困った事態に直面した時のサインだ。
P「…………」
結局、プロデューサーはしばらく通りを眺めた後、またステージ上に視線を戻した。首の後ろに当てた手はそのままで。
最初のショーが終わり、凸レーションの3人が楽屋代わりのテントに入った。
P「トークショー1回目、お疲れさまでした。荷物をまとめ次第、次の会場へ移動します」
きらり「おっつおっつ☆」
莉嘉「Pくん、士くん、どうだった?」
みりあ「ちゃんと出来てたかな?」
P「はい。ファンの皆さんにも喜んでいただけたようですし、上々かと」
士「ま、悪くはない。75点てところか。……で、外にいるお前はどうなんだ」
「えっ」
みりあ「えっ?」
士の言葉に、テントの外から声が聞こえてきた。
「へぇ、外にいても分かるとか、気配でも分かるの?なんかプロデューサーっぽくないよね、アンタ」
士「フッ、そのくらいは出来て当然だ」
そして、その声の主がテントの中へ入ってくる。
「ふーん…。そうそう、みんな、初めてにしては上出来だったよ?ま、及第点かな♪」
P「すみません、関係者以外は…」
士「…鈍いな、お前」
莉嘉「お姉ちゃ~ん!」
勢いよく立ち上がって、入って来た人物に莉嘉が抱き付く。
莉嘉「今日仕事って言ってたのに!」
「時間出来たから、ちょっと寄ってみただけだって!」
P「あ…。城ヶ崎さん…」
変装用の眼鏡を下にずらし、美嘉はいたずらっぽく笑った。
美嘉「もち、顔パスだよね♪」
美嘉は入って来て変装を解くなり、早速反省会を始めた。
美嘉「莉嘉はプロデューサー達の方、ちらちら見すぎ。ちゃんとお客さんに集中すること」
莉嘉「はぁ~い…。むぅ…」
美嘉「きらりちゃんはいいキャラしてるから、もっとバンバン出していこっ★」
きらり「バンバン~…?」
みりあ「はいっ!美嘉ちゃん、私は?」
美嘉「みりあちゃんは優等生すぎかな。ま、可愛かったからいいけど」
みりあ「えへへ…♪」
莉嘉「むーっ。お姉ちゃん、みりあちゃんに甘いーっ」
みりあ「次の回は、いっぱい話せるように頑張るね!」
莉嘉「アタシも!」
美嘉「頑張りなよ。プロデューサーは、何かある?」
P「……もっと、お客さんを巻き込みたいと思いました。ファンだけでなく、偶然通りがかっただけの人にも、足を止めていただけるような」
莉嘉「アタシもそれ思った!スルーされるの、寂しかったもん」
みりあ「どうすればいいのかな…?」
きらり「うにゅ~…」
先ほどプロデューサーが通りを眺めていたのは、そういうことらしい。
通りすがりの人たちを止めるのは至難の業だろう。彼らが興味を持ち、足を止めても見ていたい、と強烈に思わせる何かが必要になる。
莉嘉「みんなでカブトムシでも捕まえる?」
美嘉「そういうイベントじゃないでしょ?…早く出る準備しなよ」
「「はーい」」
莉嘉とみりあが返事をするのと同時に、プロデューサーの携帯に電話がかかってきた。
準備中の3人をテントに残し、プロデューサー・士・美嘉の3人がテントから出る。
P「今から移動します。…はい、では、失礼します」
美嘉「…で、次の回、どうするの?」
P「……引き続き、3人の思うように進めていただこうかと」
美嘉「何それ?丸投げってこと?」
P「いえ。凸レーションは、自由に行動させたら面白いユニットだと思います。3人に賭けてみたいんです」
美嘉「ふぅん…。いいけど、責任取るのはプロデューサーの仕事だし…?」
P「はい」
そこで、士が口を挟んだ。
士「随分と偉そうな部外者だな」
美嘉「ぶ、部外者ってアンタ…」
士「何か違うか?」
美嘉「…い、いや違わないけどさ…。ねぇ、アンタはどう考えてるの?今後のこと」
士「コイツの言った通りでいいんじゃないか。元気が取り柄なんだろ」
P「はい。その元気で、思いもよらぬ結果をもたらしてくれると、信じていますから」
数分して、ステージ衣装の上から、普通の服装に見えるように服を着た凸レーションの3人が出てきた。
莉嘉「ねえ見て!さっきそこで見つけたカブトムシ!」
士「…どうやったら、東京のど真ん中でカブトムシを捕まえられるんだ…?」
莉嘉の掌の上には、立派な角のカブトムシがいた。黒い甲殻が、太陽の光を受けて、雄々しく、美しく輝く。
きらり「わぁ、莉嘉ちゃんすごぉい!」
みりあ「カブトムシ!?見せて見せてー!」
この2人はそれほど虫嫌いしないらしい。
とはいえ、カブトムシもポピュラーな昆虫な上、某黒光りするアレのように嫌われるような要素が無いのも大きいだろう。
“昆虫の王者”という仇名は伊達ではない。
美嘉「じゃあ、アタシはこれで。莉嘉、しっかりやりなさいよ?」
莉嘉「うん!お姉ちゃんもお仕事頑張ってねー!」
歩き去って行く美嘉の背中に、莉嘉が大きく手を振る。その拍子に、カブトムシがどこかへ飛んで行ってしまった。
莉嘉「あっ…」
みりあ「ばいばーい!」
きらり「莉嘉ちゃん、仕方ないことだにぃ」
莉嘉「…うん、そうだよね」
項垂れた莉嘉をきらりが励ます。
一方、何の気なしにそのカブトムシを追って、空を見上げた士。
「――――――」
その脳裏に、2か月ぶりの『滅び』のイメージが浮かび上がった。
そして、士が見上げた空に、異変が起こる。
士「何だ……」
空にかかるスクリーン。それは、見慣れたオーロラによく似ていた。
ただし、色が違う。何色と言えばいいのか分からないオーロラと違い、それにははっきりと色がついていた。
黒。光によって生み出される“影”の色。
士「世界が、影を落とす……」
あのイメージに重なる光景。『滅び』の前兆。
それは、士以外の誰にも見えていた。困惑のざわめきが、会場を満たしていく。
莉嘉「ね、ねぇ士くん…、何か起こってるの…?」
きらり「士ちゃん……」
士「………………」
士は空を睨んだまま、一言も喋らない。ただ、その手にはもう既に、ディケイドライバーが握られていた。
様子を察したプロデューサーも、士たちの元に駆け寄ってくる。
P「これは、一体……」
みりあ「何…?また悪い人たちがいっぱい来るの…?」
断言はできないが、その可能性はかなり高いと言わざるを得ない。
誰もが、異常な空を不安げに見上げていた。
そして、唐突に、何の前触れもなく。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
世界が、停止した。
士「っ!?」
黒いスクリーンが消滅すると同時に、士を除くその場の全員の動きが、まるで粘度が極端に高い液体に放り込まれでもしたかのように、重く緩慢になった。
士「何だこれは……」
呟く士の視線の先、イベントの特設会場に、通常通りのオーロラが現れる。
そしてそこから、3体の怪物が歩み出てきた。
「この世界を、我らが偉大なる創造主ショッカーのものに…」
「まずはグローバルフリーズだ。世界の全てを停止するのだ」
「それが、我ら『ロイミュード』に与えられた、絶対の使命」
オヒュカスと邂逅した時同様、『ロイミュード』というワードを聞いた瞬間に、士の頭に膨大な情報が流れ込んできた。
士「―――なるほど、だいたいわかった」
頭を強く降り、ブラックアウトした視界を取り戻す。そして、ロイミュードたち目掛けて躊躇うことなく駆け出した。
士「おい」
「む、人間が動いている…?どういうことだ」
「まさか、これが“仮面ライダー”か」
「であれば、排除するのみ。仮面ライダーの排除は、我らの使命」
3体のロイミュードが、一斉に士に向き直った。
士「そうか、そのくらいの方が分かり易くていい」
士も、腹部にディケイドライバーを当てた。
士「変身!」
『KAMEN RIDE DECADE!』
『ATTACK RIDE ILLUSION!』
敵の数に合わせ、士が3人に分身する。
各々がライドブッカー・ソードモードの刀身を撫で上げ、士とロイミュードたちの戦いが始まった。
士「フッ!」
手近にいた一体に駆け寄り、ライドブッカーを振るう。
「ハッ」
その一体は腕を剣に変化させて、ライドブッカーの刃を防いだ。そのまま、2度3度と互いの刃をぶつけ合う士とロイミュード。
『ATTACK RIDE BLAST!』
士「っと」
「グッ!?」
音声が聞こえると同時に、士はすぐに地面を転がってロイミュードと距離を置く。
その直後、ロイミュードに他の分身が放った弾丸が命中した。
『ATTACK RIDE INVISIBLE!』
士の姿がかき消える。ロイミュードから感知されなくなった士は、別のロイミュードに狙いを定めて接近を開始した。
「くらえっ」
腕を銃器に変化させた別のロイミュードが、ライドブッカーを振るい接近戦の真っただ中の分身の背中に、その銃口を合わせる。
しかし、士は透明なのをいいことに、さらにその背後へと忍び寄っていた。
『ATTACK RIDE SLASH!』
士「ハァッ!」
「ぐぉあっ!?」
分身した刃が、無防備な背中を容赦なく切り裂いた。
士「フンッ!」
続けて、よろめいたその背中に前蹴りを見舞い、他のロイミュードのもとへ蹴り飛ばす。
「ぬぉぁっ」
「ぐっ、貴様っ」
「がはぁっ」
士の分身との巧みな連携によって、3体のロイミュードが一まとめになる。
『 『 『ATTACK RIDE BLAST!』 』 』
それぞれのドライバーから発した音声が奏でる三重奏。
三角形でロイミュードを囲んだ士と分身の三方向からの銃撃が、まとめられたロイミュードたちに命中した。
ロイミュードたちにダメージが入り、周囲を覆っていた“重加速粒子”が消滅する。
それと同時に、世界は元通りのスピードで動き始めた。
渦巻く悲鳴、逃げ惑う人々。
楽しかったはずのイベント会場は、一瞬で混乱と恐怖の底に叩き落とされるかに思われた。
『見ろよあれ、仮面ライダーじゃね?』
『ホントだ、でも警察のと違くない…?』
『でもどんよりの中で動いてたし、仮面ライダーだって!』
『うおー!仮面ライダー!ホンモノだ!しかも新しいヤツ!』
しかし、その反応はどうも想定していたのとは違っていた。
士「…さて、ロイミュードとか言ったなお前ら。ショッカーの尖兵か?」
人の輪の中心で、分身が消滅して再び1人に戻った士が、目の前のロイミュードたちに問うた。
立ち上がったロイミュードたちは、士に意識を集中させながら声を発した。
「いかにも。我々は、偉大なるショッカーによって生み出された、新たなロイミュード。我がコードは“アイン”」
「同じく“ツヴァイ”」
「同じく“ドライ”」
士「なるほど。この世界を支配するための尖兵だっていうなら、残念だがここで終わりだ」
士の放つ気迫が、爆発的に増大する。機械のロイミュードの表面装甲すら震わせるほどの、圧倒的な威圧感。
だがしかし、ロイミュードたちの判断は素早かった。
アイン「ならばっ」
腕を銃器に変えたアイン・ツヴァイ・ドライは、その銃口を士ではなく周囲の人々に向ける。
士「っ―――」
咄嗟にロイミュード目掛けて駆け出すが、それでも間に合うかどうか。
いや、わずかに士の方が遅い。ロイミュードが人々に攻撃するのを止められない。
そして、六つの銃口が火を噴いた。
『GO!シフトカーズ!』
空中に生成されるハイウェイ。それらを走るミニカーたちが、銃撃を弾き飛ばした。
アイン「何…っ!?まさか…!」
『スピード!』
「ハッ!」
呆気に取られるロイミュードたちに、通りの方から人々を飛び越えて何者かが迫る。
士「ハァッ!」
何者かの飛び蹴りがアインを捉えると同時に、士の振るったライドブッカーの刃が、ツヴァイ・ドライをまとめて切り裂いた。
「「「ごはぁっ!?」」」
地面に着地したそいつは、黒いスーツの上に赤い装甲を装着していた。
そして、一際目を引くのが、その胸にたすき掛けに装着されている“タイヤ”だ。
『仮面ライダーだ!仮面ライダーが来たぞ!』
『頑張ってー!仮面ライダー!』
人々の注目は、あっという間に士の方からそっちへ移動した。
しかし、この反応はおかしいと、士は感じていた。
まず前提として、この世界には仮面ライダーがいない。だからこそ士が呼ばれてきた。
そして、士の戦いのことは、世界によって記憶の改ざんが行われ、一部の人間以外は覚えていないはずだ。
だというのに、この反応は何だ。彼らは皆一様に仮面ライダーのことを知っており、あまつさえその名を呼んでいる。
これまでの士の戦いを知っていたのでも、こんなことはあり得ない。
だが、彼らは元々こうだった…『仮面ライダーが知られていて当たり前』、と考えるとつじつまが合う。
『仮面ライダーが知られていて当たり前の世界』が、この世界に影を落としている。
その影響が、今ここに現れ出ている、ということか。
「…なぁ、ちょっと」
士「…あ?」
思考に沈んでいた士の意識は、男の声によって再び浮上した。
その声は、士の前にいるタイヤたすき掛けの仮面ライダーが発していた。
「あんた何もんだ?見たところ、仮面ライダーみたいだけど…」
士「…人に聞く前に、まず自分から名乗ったらどうだ、タイヤマン」
「た、タイヤマン!?タイヤマンはいくら何でもそのまますぎないかね、君!?」
士「ベルトも喋るのか…」
キバットバットⅢ世を思い出すが、こちらは完全にベルトから声が出ている。その点は若干の差別化が出来ている…のだろうか。
“タイヤマン”は、ベルトを軽く揺すって黙らせてから、口を開いた。
「俺は『仮面ライダードライブ』、『泊進ノ介』。警視庁特状課の刑事だ。あんたは?」
「仮面ライダーディケイド、門矢士。世界のはか…守護者。
兼、346プロダクション・シンデレラプロジェクトのプロデューサーだ。覚えなくていい」
ドライ「ぬぅぅ…仮面ライダーが、2人…」
「「!」」
自己紹介もそこそこに、2人はドライの声に反応して、素早く戦闘態勢をとった。
進ノ介「あんた、コイツらについて何か知ってるか?」
士「どこか別の世界から、この世界にやって来た」
「別の世界…?パラレルワールドかね」
士「ほお、察しが良いベルトだな」
「ベルトではない。私はクリム・スタインベルト。このドライブシステムの開発者だ。“さん”をつけて呼びたまえ」
士「結局“ベルト”だろ……っと、お喋りはこの辺りか」
アイン・ツヴァイ・ドライの3体は、士と進ノ介に両腕の銃を向けていた。
莉嘉「あっ、士くーん!頑張ってー!」
きらり「士ちゃん、ファイトだよぉ!」
みりあ「がんばれ、士さーん!」
いつの間にか、周囲の人ごみに凸レーションの3人まで混じっていた。
彼女たちの声援がきっかけとなり、周囲からの応援が士と進ノ介に飛んできた。
しかし、好き勝手に盛り上がる周囲と違い、戦闘状態にある者たちには、緊張感が満ちていく。
拳を握り、足に力を込める士と進ノ介を、ロイミュードたちの銃口が狙う。
そして、緊張感が最高潮に達した瞬間。
「「「フッ!」」」
「「「なっ……!」」」
ロイミュードたちは、自分の足元を撃った。
進ノ介「待てっ」
素早く駆け出す進ノ介と士だったが、煙の向こうに、すでにロイミュードたちの姿は無かった。
士「…チッ、厄介な」
ロイミュードの特性、人間のコピー。これだけ多くの人間がいる中であれば、誰にでもコピーし放題だろう。見つけ出すのは困難だ。
進ノ介「…くそっ、逃げられた」
ロイミュードの追跡を諦め、士と進ノ介が変身を解除する。
後に残ったのは、あっけない幕引きに消化不良な顔をした観衆たちだけだった。
先ほどの仮設テントに引き返し、そこで士と進ノ介、ベルトさんの3人による情報整理が始まった。
進ノ介「ベルトさん、あんたはアレについて何か分かるか?」
ベルトさん「…あんなタイプのロイミュードを、蛮野は作っていないはずだ」
士は、脳内のロイミュードに関する情報を精査する。そして、対峙した3体のロイミュードたちとの相違点を発見した。
士「ロイミュードは3種の素体からなる。だが、奴らの見た目は素体に近いが、タイプがどれとも一致しない、だろ」
ベルトさん「ほう、君は中々詳しいようだ。どこで知ったのかね」
士「さっきだ」
進ノ介「さっきって。…まあいい。加えてアイツらは、自分たちを普通のロイミュードとは違う呼び方で呼んだって言ったな、士」
士「ああ。“アイン”・“ツヴァイ”・“ドライ”、ドイツ語の1・2・3だな。そう呼んでいた」
ロイミュードたちは、進化し独自の姿を持たない素体のままの同胞を、コアの数字で呼ぶ。
例えば001であれば『ゼロゼロイチ』、108であれば『イチゼロハチ』といった具合だ。
ベルトさん「ふむ、それに当たる001はフリーズ、002はハート、003はブレンだが…、それとはまったく違っていたね」
進ノ介「001はコアを破壊したし、ブレンもつい最近コアにしたばっかりだからな」
士「やはり、お前たちの知っているロイミュードとは別の、ショッカーが作り出したロイミュードという認識が正しいようだな」
進ノ介「ショッ…カー…。ッ」
士「おい、どうした?」
頭痛に襲われたのか、進ノ介がこめかみを押さえて俯いた。
ベルトさん「私も、こんな身体なのに、何かが引っかかる…」
士「どうも、お前らは並行世界でショッカーと何かあったらしいな。知っているような感覚はあるが、絶対に思い出せないだけだ」
進ノ介「……っ。すまない、話を、続けよう」
進ノ介は軽く頭を振って頭痛をかき消し、次を促した。
ベルトさん「ヤツらの目的は何かね?」
士「ショッカーは今も昔も、どこの世界でも、世界征服しか考えていない。アプローチはその度に違うがな」
士「今回も、この世界を支配するためにヤツらを送り込んできた」
進ノ介「重加速を起こしてた、ってことはやっぱりアイツらも、グローバルフリーズを起こすのが目的なのか」
士「そう言っていたな。全世界規模で重加速を起こすのが、そのグローバルフリーズとやらなんだろ」
ベルトさん「イエス。それだけは、何としても阻止しなければならない」
進ノ介「となると、アイツらを見つけないといけないんだけど」
士「手がかりはゼロ、か」
テントの中を沈黙が包む。ロイミュード事件に関してはいつも後手に回らざるを得ないが、今回の状況はもっと悪いと言わざるを得ないだろう。
進ノ介「…しょうがない。士、ロイミュードが出た時のために、お前の電話番号教えてくれ」
士「あ?ああ、ならこれでも持っておけ」
そう言うと、士は胸ポケットから取り出した名刺を進ノ介に投げた。
進ノ介「っと…。ありがとう、感謝する」
早速進ノ介は、そこに書かれている士の携帯の番号に電話を掛けた。
進ノ介「よし、これでいいか。そっちも、何かあったら連絡をくれ」
士「いいのか?そんなに簡単に教えちまって」
進ノ介「同じ“仮面ライダー”の仲間だろ?それくらいどうってことないさ」
士「…フッ、仲間か」
士と進ノ介・ベルトさんがテントから出た。
進ノ介は乗って来た車『トライドロン』の方へと向かっていく。拠点に戻るそうだ。
そして士の元に、凸レーションの3人とプロデューサーが集まった。
莉嘉「ねー士くん、さっきの人も仮面ライダーなの?」
士「ああ、そう言っていた。だが、この世界の人間じゃない」
きらり「…士ちゃんと同じ、ってことぉ?」
士「…いや、アイツには恐らくアイツの世界がある。今、その世界とこの世界が、一時的に繋がってると見るべきだな」
みりあ「どういうことなの?」
士「小難しく考えず、この世界がどこか別の仮面ライダーの世界と繋がった、と思えば良い。というか、それはどうでもいい」
莉嘉「え?どーゆーこと?」
士「イベントだ。早く移動するぞ」
みりあ「…あーっ!忘れてた!」
きらり「Pちゃん、今何時?」
プロデューサーが告げた時刻は、イベントの第2回開始までに十分あった余裕がいくらか無くなっていた。
莉嘉「えーっ。もう、タイミング悪いんだからー」
きらり「お客さんを巻き込むアイデア、考える時間欲しかったにぃ…」
みりあ「そうだね…」
P「仕方ありません、移動中の車内で」
士「おい待て。時間が無いなら、作ればいいだけの話だろ」
P「え?」
士は、今繋がっている世界…『ドライブの世界』がこの世界に与える影響を思い出す。
ロイミュードの出現に対し、市民もその存在を知っており、仮面ライダーが警察所属でその事件の解決に当たっている。
ということは、ドライブの世界ではロイミュードの事件は広く知られていて、同時に仮面ライダードライブのことも知られているはずだ。
そして今、この世界はそこから影響を受けている状態にある。
ならばと、士は次のイベント会場の担当者へ電話を掛けた。
数分後、携帯をポケットに突っ込み、士が息を吐いた。
士「…イベントの開始を、少し遅らせた」
P「ほ、本当ですか」
士「ああ、『機械生命体が出て混乱したから遅らせろ』って言ったらあっさり認めた」
担当者は、士の思った通りの反応を返した。
先にロイミュードのことを話してから、開始を遅らせるように言ったところ、それならば仕方がない、と士の要求を簡単に受諾したのだ。
ドライブの世界では『機械生命体』=『テロリスト』のような扱いなのではないか、と士は考えた。そして、その読みは見事に当たっていた。
士「時間は作った。後は好きにしろ」
莉嘉「わーい!士くん、ありがと☆」
みりあ「何にしよっかー!」
きらり「士ちゃん、ありがとぉ☆きらりたち、ぜーったいに!お客さんをもっともっと巻き込んじゃう方法、見つけるにぃ☆」
士「ちゃんと見つけろよ。時間は無駄にするな」
凸レーションとプロデューサーはワゴン車に乗り、士はいつも通りマシンディケイダーに跨り、イベント会場を後にした。
士とプロデューサー達の距離は徐々に開いていくが、以前もあったことだと気にもせず、そのままマシンを走らせ会場へ向かう。
2回目のイベント会場は原宿のすぐ近く。
そこに一足先に到着した士は、現場担当者と顔を合わせて打ち合わせを済ませると、人のいない仮設テントに入った。
士「仮面ライダードライブ…か」
ポケットから取り出した6枚のブランクカード。ここ最近は見る機会も無かったが、久しぶりにその時がやって来た。
士の見る前で、その内の1枚に、情報が追加されていく。
ぼやけたライダーの輪郭すらなかったカードに、やっとそれが浮かび上がった。色の無い、ドライブの頭部アップが浮かび上がる。
そして、『KAMEN RIDER DRIVE』の文字も。
士「…接触しなければ、こうはならないのか」
ただし、それが起こったのはドライブのカードだけだ。他の5枚に依然変化はない。
このカードたちが、世界の崩壊を食い止める鍵なのは間違いないだろう。
これが効果を持つためには、まず残り5人のライダーと接触する必要がある。
そうした上でこのカードが力を持ち、その力を解放できるようにしなければならない。
士「結局、九つの世界を巡った時と同じってわけか」
しかしその時と違い、今度は世界を巡るわけではない。
次にいつ別のライダーの世界と繋がるのか、いつその力を得られるようになるのか、そのタイミングは全く分からない。
確実だと判明していることは殆ど無いのだ。
士「俺を呼んでおいて、そういうところは気の利かない世界だな、まったく」
一つため息を吐く。それに合わせたかのように、携帯が震えた。
取り出して内容を確認すると、メールが二件来ている。一件目はどうやら走行中に届いていたようで、気付くことも出来なかった。
先にそちらを確認すると、プロデューサーから『凸レーションの3人と原宿を回る』という内容が記されていた。
そして、もう一件。今届いた方を確認する。
士「……は?」
送信してきたのは莉嘉。その内容に、さすがの士も困惑した。
『Pくんが迷子になっちゃった!Σ(゚Д゚ )アタシたちで探すね!(~_~;)』
ちひろ『もしもし、門矢さん』
士「ちひろか。アイツはどうした?」
ちひろ『その前に、事情はどの程度把握していますか?』
士「アイツが迷子になったとかいうメールが、城ヶ崎から送られてきたくらいだな」
ちひろ『分かりました。プロデューサーさんは今、警察の方にいるそうです』
士「……職質されたか、あの悪人面め……。で、お前はどうするんだ」
ちひろ『今、プロデューサーさんの所へ向かっています。きらりちゃんたちが先にそちらに向かった時のために、門矢さんはそこで待機をお願いできますか』
士「いいだろう。他に要件は有るか」
ちひろ『いえ、今のところは。他に何かありましたら、その都度連絡します』
士「分かった。切るぞ」
ちひろ『はい』
何故、面倒な出来事はこう重なるのだろうか。
ロイミュードが来た。その対処を考える必要があるのに、今度はプロデューサーと凸レーションがはぐれた。
しかも、莉嘉のメールの文面をそのまま受け取るなら、彼女たちはすでにプロデューサーを探して動き始めている。
こういう時は無暗に動き回らないのが一番だが、今から言っても遅いだろう。
士「…今日は警察に縁があるな」
携帯の受信履歴に残った、進ノ介の電話番号。それを見て、士は深くため息を吐いた。
それから30分ほどの間に、士にも様々な情報が飛び込んできていたが、決して現場から動こうとはしなかった。
そんな士の前に、ちひろが現れる。
ちひろ「門矢さん、お待たせしました」
士「別にお前は待ってない。凸レーションはまだ来てないぞ、アイツはどうした?」
30分も経ってまだ合流できていないようで、プロデューサーも凸レーションも、ここには到着していない。よりにもよって、ちひろが一番乗りだった。
ちひろ「すみません。プロデューサーさんが、凸レーションの皆さんを探すと言うので、私だけ先に…」
士「…見つかってないのか、まったく」
またため息を吐き、士はパイプ椅子から立ち上がる。
士「ちひろ、ここはしばらくお前に任せる」
ちひろ「えっ…、門矢さんも探しに行かれるんですか?」
士「既に開始時間を一度遅らせてる、これ以上は無理だ。遅れる前に、最低限凸レーションの3人だけでも連れてくる必要がある」
ちひろ「でも、今から歩いて探すとなると…」
士「俺には俺のアシがある。歩くよりはずっと速い」
そう言いながら、士はマシンディケイダーに跨る。メットを被り、ゴーグルも掛けた。
士「じゃあな」
ちひろ「あっ、ちょっと…」
ちひろの制止も聞かず、士は走り出した。
プロデューサーを探しに、凸レーションが警察署に来ていないか、と警察署に向かった士。
しかし、そこに彼女たちの姿は無かった。
警察署を出て明治通りを北上した士は、小学校の前で左折して道なりに走り、原宿駅前に到着した。
こう言っては何だが、士はきらりの身長を探す目当てにしていた。
莉嘉とみりあは人ごみの中に見えないだろうが、きらりは確実に見えるはずだ、と。
そして。
士「…いた」
原宿駅前で、辺りを見回すきらりの姿を発見した。
マシンを止め、士はきらりの方へ歩いていく。
士「諸星」
きらり「うきゃっ!?あっ、士ちゃん!」
莉嘉「あれ?何で士くんがここにいるの?」
みりあ「プロデューサーは?」
今日3度目のため息を吐き、口を開こうとしたところで、士の携帯が震えた。
士「…どうした」
P『門矢さん、どうもご迷惑をおかけしました。諸星さんたちと合流できましたので、これから会場の方へ……』
士「……合流?待て、お前今どこにいる」
P『……ええと、神宮前信号のあたりですが』
士「…諸星を出せ」
P『はい…?』
きらり『…もしもし、士ちゃん?ごめんね、きらりたちが勝手に動いちゃったせいで……、あれれぇ?士ちゃん、どうしたのぉ?』
士「…………プロデューサーと一緒に、会場へ行け。こっちも後で行く」
きらり『…?わかったゆ』
通話を終えて、士はすぐさま着信履歴の中に有る電話番号にかけた。
士「……出番だぞ、仮面ライダー」
イベント会場の駐車場、さらにその奥。人払いの行われたその場に、一同が会した。
P「なっ……」
ちひろ「え……っ」
蘭子「な、なんと……!?」
凛「嘘……」
美波「ど、どういうこと……?」
莉嘉「「アタシがもう一人いるー!?」」
みりあ「「私もだよ、莉嘉ちゃん!」」
きらり「「きらりも、もう一人いるにぃ!」」
凸レーションのメンバー3人が、それぞれ2人ずつの計6人。
まったく同じ格好の人間たちが、2組存在していた。
P「門矢さん、これはまさか…」
士「…どっちかは、ロイミュードで間違いない」
確かに遭遇したロイミュードは3人1組だったが、よりにもよって凸レーションの3人をコピーしていたのだ。
ひとまず区別のために、プロデューサーが発見した方の凸レーションをA、士が発見した方の凸レーションをB、と呼ぶことにして話が進む。
ロイミュードに対するために、士が2組の凸レーションの前に立つ。その後ろにプロデューサー、ちひろや凛たちを最後尾に置いて、士が口を開いた。
士「無駄だと思うが、とりあえず聞いておく。本物はどっちだ」
莉嘉A「アタシが本物に決まってるじゃん!」
莉嘉B「何言ってんのっ、本物はアタシ!」
みりあA「はいはい!私、ぜーったいに本物だよ、みんな!」
みりあB「ううん、私が本物!ねっ、プロデューサー!」
きらりA「うにゅにゅ…。莉嘉ちゃんもみりあちゃんも、分からないにぃ…」
きらりB「ねっ、Pちゃんと士ちゃんなら、わかゆよねー?」
P「いえ……」
士「まるで分からない」
美嘉「アンタたちプロデューサーでしょ…、って言いたいけど、これはアタシにも分からないかな……」
莉嘉A「えーっ、お姉ちゃん!アタシが本物だって言ってるじゃん!」
莉嘉B「騙されないでお姉ちゃん!本物は、アタシなんだから!」
美嘉「…声も仕草も、どっちもアタシの知ってる莉嘉と一緒だよ…」
「「「「………………」」」」
黙り込む士たち、騒ぐ2組の凸レーション。
腕時計を見ると、イベントの開演までは後10分強ほどしかない。このまま長々と質問を続けても、時間を浪費するだけだ。
どうするべきかと各々が黙考する中、士たちに1人の男が駆け寄って来た。
進ノ介「士!」
士「…来たか、進ノ介」
ベルトさん「私を忘れないでくれるかね?」
士「…と、ベルト」
ベルトさん「…だから、“さん”をつけたまえ」
進ノ介「見た目ではまったく区別がつかないな」
ベルトさん「ついていたら、今まで我々が苦労することは無かっただろうね」
ロイミュードに対するスペシャリスト2人も、区別は出来ないようだ。
しかも、突発的に起きた事件であるがゆえに、ロイミュードを見分ける手がかりは一切無し。
残り10分でこれを見分けるには、何か核心的な問いを以って、一発で真贋を区別するしかない。
進ノ介「生憎、俺にはそこまでのことは分かりません。プロデューサーさんか、士か、それともそっちの美嘉ちゃんか」
進ノ介「誰でもいい、何か『本物しか出来ないような答え』が答えになる質問を考えてください」
P「分かっています、しかし……」
美嘉「どうすれば……」
ロイミュードは、コピー元の情報のほぼすべてをコピーする。
場合によっては“ある一点に関しては、コピー元よりもロイミュードの方が詳しい”という逆転現象すら起こり得るのだ。
記憶に聞くことも、判断材料になるとは言い難い。
莉嘉A「てゆーか、アタシが2人なんてふっつーにあり得なくない?」
莉嘉B「ホントホント!アタシ、もう偽物のこと見るの嫌になっちゃった…」
莉嘉A「だから!本物はアタシだって!偽物はそっちでしょー!?」
莉嘉B「もーしつこいんだから、偽物めー。本物は、ア・タ・シ!」
P「………?」
みりあA「あれ、プロデューサー、どうかしたの?」
みりあB「もしかして、本物がわかったの?」
P「…………それは」
きらりA「Pちゃん、言ってみて?きらりたち、聞くよぉ☆」
きらりB「それで、本物だってこと、証明してみせるにぃ☆」
P「…では門矢さん、泊…さん。ご協力をお願いしても、よろしいですか」
士「ああ」
進ノ介「わかりました」
プロデューサーの言った通りに各人が動く。
それぞれ莉嘉が代表して前へ。
2人の莉嘉は、士と進ノ介の提案により、読唇術で答えを真似されないように、距離を置いて背中合わせになった。
莉嘉Aの前には進ノ介、莉嘉Bの前には士が立つ。
残ったみりあときらりは、ベルトさんの指揮の下、シフトカーたちが監視する。
進ノ介「いいんですね?」
P「はい。恐らく、これで判明するかと」
莉嘉A「よーっし!アタシが本物だって事、バッチリ証明しちゃうよ☆」
莉嘉B「まっさかー。本物はアタシなんだから、そんなことないって!」
P「では……、城ヶ崎さん」
一瞬迷うような表情を見せたプロデューサーが、思わず口ごもる。しかし、拳を握りしめ、決然とした表情を作った。
プロデューサーは、自分の腕時計を見る。そして、口を開いた。
P「3分、時間を取ります。カブトムシを、捕まえてきてください」
莉嘉A「カブトムシ!?うんっ、行ってくるねPくん!」
莉嘉B「どしたのPくん?カブトムシなんて見つかるわけないじゃん」
P「門矢さんっ、Bが偽物です!」
士「ハッ」
プロデューサーの言葉の直後、一切の躊躇なく士の脚が莉嘉Bに迫る。
「――――チッ」
莉嘉Bは、ありえないほどの俊敏さで跳び退り、士の蹴りを躱した。
士「――なるほど、正解だったみたいだな」
呟く士の目の前で、凸レーションBが変貌、いや、あるべき姿へと戻っていく。
機械生命体、ロイミュードの姿へと。
進ノ介「ベルトさん!」
『GO!シフトカーズ!』
ベルトさんの号令と共に、シフトカーたちが一斉にロイミュードへ突撃していく。
ただの時間稼ぎだが、進ノ介と士はその間に“本物の”凸レーション3人を仲間たちの元へと送り届けた。
士「良く思いついたな」
P「1度目の会場で、城ヶ崎さんがカブトムシを捕まえていたことを、たまたま思い出しまして……」
美嘉「そっか、莉嘉ならカブトムシに反応しないがわけない…」
P「どういった反応を取るかは、半ば賭けでした。どちらの城ヶ崎さんも、同じような行動を起こすかもしれない、と」
ベルトさん「……っ!2人とも!そろそろ包囲が崩れる!」
士と進ノ介は同時に振り向いた。その向こうで、ロイミュードたちがシフトカーを弾き飛ばしていく。
アイン「答えろ人間。なぜ今の問いで判断した。判断出来た」
その中央から、低い声でアインがプロデューサーに問いを投げた。
P「…城ヶ崎さんは、カブトムシを見つけることに非常に長けています。探しに行ってください、と言われて『見つかるわけがない』とは言いません」
ツヴァイ「クッ。それが、模倣し切れない人間固有の特性…」
ドライ「選ぶコピー元を間違えたか」
そう言いながら、ドライが最後のシフトカーを弾き飛ばそうとする。
しかしそれはドライの手をするりと躱し、ハイウェイを走って進ノ介の右手に収まった。
士「さて、時間がない。さっさと行くぞ」
進ノ介「ああ、一緒に行くぜベルトさん、士!」
ベルトさん「OK!Start Our Engines!」
士がディケイドライバーを下腹部に装着し、ライドブッカーから取り出したライダーカードを、ロイミュードたちに見せつけるように構える。
進ノ介がドライブドライバーのキーを捻り、手にしたシフトスピードの後部を回転させ、左手首のシフトブレスに装填した。
「 「 変身! 」 」
『KAMEN RIDE DECADE!』
『ドライブ!タイプスピード!』
ドライバーから出現した7枚のライドプレートが、頭部へ突き刺さる。
飛来したタイヤが、胸部に装着される。
「「「ぬぅ……!」」」
進ノ介「さぁ…て、お前ら。ひとっ走り付き合えよ!」
士「だとよ。最後まで走れたら褒めてやる!」
「「「フンッ!!」」」
ロイミュードたちが、重加速粒子を放つ。
停止しかけた世界の中で、2人の仮面ライダーが今、走り出した。
『タイヤコウカーン!マックスフレア!』
進ノ介が勢いを保ったままドライに炎を纏った飛び蹴りを見舞うも、ドライはそれを腕をクロスして防御した。
ドライが繰り出したまっすぐの右拳を、進ノ介は低く腰を落とすことで回避し、同時に空いたボディに燃える拳を打ち込んだ。
ドライ「グッ…、おのれっ」
ふらつき少し後退したドライは、その腕を剣に変化させた。左腕の切っ先を進ノ介に向けて、じりじりとにじり寄って来る。
ドライ「ハッ!」
進ノ介「来いっ、ハンドル剣!」
一歩で距離を詰め、左腕を振るうドライ。その刃は進ノ介が呼び寄せたハンドル剣に阻まれ、進ノ介を斬るには至らない。
ドライ「ぬおおぉぉぉ……っ!!」
しかしドライはそのまま、左腕に力と体重を乗せ始めた。必死に抗うも、進ノ介の身体が徐々に沈みこんでいく。
ベルトさん「まずい、パワーは向こうの方が上だ!」
進ノ介「分かってる…クソッ!」
とうとう耐え切れずに、進ノ介は片膝をついてしまった。そのタイミングを逃さずに、ドライが左腕に全体重をかける。
ドライ「ハァッ!」
右肩に押し付けられた刃が、左の脇腹まで一気に振り切られた。
進ノ介「ぐあぁっ!」
ドライ「フンッ!」
装甲から火花が散る。すかさず再び左腕を振り上げ、追撃に移るドライ。しかし、高速で走るシフトカーが、その腕を弾いた。
ドライ「何っ」
今度は進ノ介が素早く立ち上がり、ドライのボディにハンドル剣を振るって斬り付ける。更によろめくドライの胴に炎の突きを入れて吹き飛ばした。
その隙に、進ノ介はシフトカーを交換する。
『ドライブ!タイプワイルド!』
黒いスーツはシルバーに、赤い装甲は黒に。タイプワイルドへタイプチェンジした進ノ介は、さらに別のシフトカーを装填する。
『タイヤコウカーン!ランブルダンプ!』
右肩に黄色いタイヤが装着され、左手にはドリル・ランブルスマッシャーが装備される。このタイプであれば、力負けはしない。
ドライ「おおおっ!」
右手も剣に変化させたドライが、両腕を巧みに操って連続攻撃を繰り出す。進ノ介も負けじとハンドル剣を振るって、ドリルで剣を受け流し、
『ダンプ!ダンプ!ダンプ!』
進ノ介「ハァァッ!」
高速回転するドリルを、思い切り突き出した。
ドライ「ぐっぉおおおああぁぁぁっ……!!」
ドライのボディに高速回転するドリルが突き立ち、表面装甲を削る。
進ノ介「フンッ!」
進ノ介は左腕を引くと、ハンドル剣を思い切り横一線に振るい、ドライのボディを斬った。
フック気味に迫るツヴァイの腕。それを屈んで躱し、続けて目の前に迫るアインの腕が変化した剣を、ライドブッカーの刀身で受け止める。
ツヴァイ「フッ!」
ツヴァイが右腕を銃に変化させ、足の止まった士の背中に照準を定めた。
士「チッ」
すぐさまアインの腕を弾き上げると、時計回りに回転するのに合わせてそのボディを左から右へ、横一線に斬り付ける。
ちょうど180度回転すると、そこにはツヴァイの姿。今度は返す刀で右から左へライドブッカーを振るって、ツヴァイを斬り付けた。
ツヴァイ「がァッ」
しかしツヴァイはそこで退かず、逆に一歩踏み込んでまっすぐの左拳を士に突き出した。
士はその拳を、自身の右腕で受け流す。
前方に身体が傾きがら空きの胴体を晒してしまったツヴァイに、士は容赦なくボディブローを叩き込んだ。
ツヴァイ「ごぁっ……!!」
身体の内側に響く衝撃に、膝を折るツヴァイ。士は続けてライドブッカーを振り下ろそうとしたが、
アイン「ハァァッ!」
後ろで士の背中へアインが突きを繰り出したのを察知し、即座にツヴァイを跳び越してアインの攻撃を回避した。
士「っと。コイツなんてどうだ」
地面に着地すると同時に一回転し、アイン・ツヴァイから距離を取った士は、新たなカードをドライバーに挿入する。
『KAMEN RIDE KABUTO!』
アイン「これでっ」
士が次のアクションを起こすより速く、両腕を銃に変化させたアインが、素早く銃口を合わせてエネルギー弾を発射する。
士「狙いは悪くない…が」
正確な射撃ゆえに、士は全弾の弾道を完全に見切っていた。
自分に命中する弾だけを、カブトクナイガン・クナイモードを振るって斬り裂く。
アイン「ぬぅっ……」
士「何発やっても同じだ。来いよ」
自然体で立つ士に、アインが突進する。
両腕を剣に変化させて素早く、絶え間なく振るうも、士は最小限の動きだけで躱し、カブトクナイガンで弾く。
有効打が入るどころか掠りもしない。
しびれを切らしたアインは右腕を振り上げ、士を真っ二つにしようとした。
士「機械でも焦るもんだな」
それに対し、士は素早く左腕を伸ばして、アインの右腕を軽く外側へ弾く。
たったそれだけで、アインもまたツヴァイ同様、士の前に無防備な胴体を晒してしまった。
士「フッ!」
右と左の鋭いコンビネーションがボディに叩き込まれ、よろめいたアインの頭部に追撃のハイキックがクリーンヒットした。
アイン「ぐがぁ……ッ!!」
アインが地面に倒れる。3体すべてがダメージを負ったことで、重加速が解除された。
きらり「士ちゃーん!」
士「あ?」
後方から聞こえてきたきらりの声に、士は振り向いた。
莉嘉「あっ!士くん、それカブトムシ!?」
みりあ「わー!赤くてカッコいいかも…!」
士「お前ら……」
何とものんきな応援に、つい脱力してしまう。そんな士に向けて、プロデューサーが叫ぶ。
P「門矢さん、イベントの開始時間まであと5分です!」
士「わかったわかった」
右手をひらひら振って応えると、士は再びロイミュードたちに向き直った。
進ノ介「すまない士、2体相手してくれてありがとう」
その隣に、進ノ介が駆け寄ってくる。
片やスマートな体系のディケイドカブト。片やマッシブなタイプワイルド。
正反対の印象を与える姿の2人だが、並んだ姿から発される頼もしさは共通していた。
アイン「ぬぅぅ……」
ツヴァイ「これが、我らが創造主を阻む者たち…」
ドライ「仮面ライダーの力とでも言うのか……!」
2人の前で、ロイミュードたちが立ち上がる。
ベルトさん「重加速は解除できたが、まだ撃破に十分なダメージには至っていないようだね」
進ノ介「どうする、士」
士「…フッ、向こうが遅くするなら、こっちはもっと速く、だ。行けるか?」
士はライドブッカーから1枚のカードを引き出す。
進ノ介「ああ、ちょうど俺もそう考えてたとこだ。行くぜベルトさん!」
進ノ介の手に、青いシフトカーが飛び込んできた。
『ドライブ!タイプフォーミュラ!』
タイプフォーミュラへとタイプチェンジした進ノ介。
突き出した胸部の装甲、背部のウイングがフォーミュラカーを彷彿とさせる。そして小型のタイヤが2つ、両腕に装着される。
アイン「何を……」
士「見逃すなよ、ついて来れるならな!」
『ATTACK RIDE CLOCK UP!』
『フォーミュラ!フォーミュラ!フォーミュラ!』
士・進ノ介「「ハッ――――」」
一歩を踏み出すと同時に、2人の姿がかき消えた。
後にはただ、青い風が吹き抜けるだけだ。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
ありとあらゆる音を置き去りにした、スピードの極致。
士と進ノ介だけが触れることの出来る、超絶的な加速感覚。
やがて青い風が止み、2人の姿が再び視認できるようになった時。
ツヴァイ「な…ぁ…っ…!?」
ドライ「我ら、が…反応すら、出来ないと、は……ぁっ!」
ツヴァイ・ドライの2体は、全身からスパークを奔らせていた。
「「ぐうおああああああああ!!」」
ボディが爆ぜ、その中から“2”と“3”のコアが飛び出す。
ディケイドへ戻った士は、ライドブッカーの銃口をコアに合わせてトリガーを引いた。
アイン「させんッ」
士「っ!」
しかし、弾が届くより早く、コアはアインの両腕に吸収されていく。
進ノ介「仲間を吸収した…!?」
ベルトさん「2人とも気を付けろ!ヤツの体内のエネルギー反応が跳ね上がった!」
それはすぐに見た目にも表れた。
両腕・両脚はより太く盛り上がり、膨張した全身が威圧感を放つ。そして何より、両肩から突き出た2つの砲塔、合計4つの砲塔が目を引く。
士「吸収したヤツらの腕を……」
ベルトさん「武器にしたということか…!」
アイン「ハァアァァァァーーーッ………!!」
4つの砲門に光が集まる。その狙いなど、わざわざ言うまでもない。
アイン「アァアッ!!」
進ノ介「まずいっ!」
士「クソッ!」
砲門が火を噴く。放たれた4本の光線が命中する寸前、すんでのところで2人は地面に転がって回避に成功した。
進ノ介「流石にあれは喰らいたくないな…」
士「言ってられるか、行くぞっ」
一足早く立ち上がった士は、先ほどから微動だにしないアインに駆け寄って、ライドブッカーを振り下ろした。
しかし、それでもアインは動かなかった。ただ、その左腕で刃を受け止めたのだ。
アイン「ハ、イ、ジョ…スル…ッ!!」
士「――――――」
士の身体に、右拳が突き刺さる。くの字に折れ曲がった士の身体は、いともたやすく吹っ飛ばされ、地面を転がった。
進ノ介「士っ!くそっ」
『タイヤコウカーン!フォーミュラ01!』
オレンジ色の小型タイヤが両腕に装着され、進ノ介の身体にエネルギーを漲らせる。
『01!01!01!』
進ノ介「ハ……ァァァァーーーッ……!!」
エネルギーを全て背部のブースターに集め、一気に放出する。
爆発的な加速と共に繰り出したパンチは、しかしわずかにアインの身体を動かした程度に過ぎなかった。
まるで、しっかりと地面に根差した巨木と戦っているような、そんな感触が進ノ介の拳に伝わってくる。
アイン「仮面…ライダー、ウ、ツ」
ベルトさん「離れるんだ進ノ介っ」
進ノ介「っ」
4つの砲門が、進ノ介を捉えていた。それから逃れるために、進ノ介はアインの脇の下を転がり、その背後を取る。
『タイヤコウカーン!フォーミュラ03!』
右腕に、スパナのような形状のクローが付いた、黄色のタイヤが装備される。
『03!03!03!』
先ほどのランブルダンプのようにそれを高速回転、さらに電気を纏わせた状態で、アインの背中に振り下ろす。
しかし。
ベルトさん「なっ!?」
背中に、4本の剣が“生えた”。それらがクローを防ぎ、進ノ介の腕を弾き飛ばす。
進ノ介「クソッ!―――っあ」
気付いた時には既に、アインの裏拳が叩き込まれていた。
莉嘉「え……、ウソ、だよね……?」
みりあ「そんな……!」
きらり「士ちゃん……、刑事さん……」
P「………っ!」
門矢士と、泊進ノ介。
2人の仮面ライダーは、強化されたロイミュードの圧倒的な力の前に叩きのめされた。
美嘉「な、なに、コレ…。アンタたちのプロデューサー、どうなってんの…」
凛「これがあの人の…、士さんの本当の姿だよ」
今更それか、とは誰も言わない。誰も、何も言えない。
地面に寝たままの士は、ピクリとも動かない。
さらに遠くへ吹き飛ばされた進ノ介の様子はよく見えない。
2人を相手にして叩きのめしたアインは、ただ静かに佇んでいた。
そして、これまでの派手な戦闘の様子は、流石に人払いをしていても、もう隠しきれなかった。
『えっ、何アレ…。機械生命体…?』
『なんかすっげームキムキなんだけど…』
『てか、あそこで倒れてんのって仮面ライダーじゃね!?』
『ウソ…!じゃあアイツ、やばいじゃん!逃げなきゃ!』
戦闘の様子を目の当たりにし、騒ぎ出すイベントの参加者たち。一部にはパニックを起こして、逃げ出そうとしているものもいる。
そんな無力な人々を、アインの目が捉えた。
重加速粒子は放たれていない。
にも関わらず、その場の誰もが、一歩たりとも動けず、指を一本動かすことも出来なかった。
アイン「ショ、ッカー…。シ、ハ、イ」
砲塔に光が集まる。放たれれば、確実に死をもたらす光が。
それでもまだ、いや、だからこそ。
誰一人として、動き出せるものはいなかった。
砲塔から光が溢れる。そしてそれは、人々に向けられていた。
アイン「マ、ズハ。オ、マ、エ、タチ―――」
「待、て、このっデカブツ………っ!」
『ATTACK RIDE BLAST!』
アイン「――――――」
光弾が、右肩の砲塔を破壊した。
しかし、左肩の砲塔は依然健在。
問題なく、その光が放たれ―――
『スピード!スピード!スピード!』
―――割り込んだ赤い人影に、命中した。
士「グッ、はぁー……ッ!」
ゆっくりと上半身を起こし、士が咳き込む。血でも吐きそうな、そんな痛々しい咳の音。
やがて咳が止まると、士はゆっくり立ち上がって、振り返った。
士「…生きてるか、進ノ介…!」
その視線の先には、大の字で立ち尽くしたままの、進ノ介の背中。
「あ゛あ……ゲホッ!当たり、前、だ……っ!!」
声は、ひどく掠れている。しかし、まだ闘志は消えていない。
進ノ介「簡単に……、死ねるか……!!」
泊進ノ介のエンジンは、まだ止まっていなかった。
ベルトさん「カモン、ドクター!」
ベルトさんに呼ばれ、進ノ介のシフトブレスに自動的にシフトカーが収まった。
『タイヤコウカーン!マッドドクター!』
『ドクター!ドクター!ドクター!』
進ノ介の手元から離れた医療器具が、士の頭上で止まった。
降り注ぐエネルギーが、士自身の傷を癒し、疲労を取り去っていくのを感じる。
士「…なるほど、中々便利だな、それ」
万全ではないが、さっきまでより身体はよっぽど楽になった。
進ノ介「…今回は俺にも、それで頼むよ、ベルトさん…」
ベルトさん「了解した」
医療器具は進ノ介の頭上へと戻り、そこからエネルギーが注ぐ。
進ノ介「……っはぁ。よし!」
士同様、ある程度力を取り戻した進ノ介は、身体の様子を確認するように肩をぐるぐると回し、手を幾度か握っては開いた。
互いに回復し、再び、士と進ノ介が並ぶ。その光景に、やっと動き出せた人物がいた。
P「あ……。か、門矢、さん。無事、でしたか」
士「上手く衝撃を逃がしたつもりだったんだが、それでもギリギリあの瞬間まで動けなくてな……」
プロデューサー1人が動き出したのを皮切りに、徐々に皆が動き出した。
莉嘉「……士、くん。士くん!士くん!!大丈夫!?」
みりあ「士、さんも、刑事さんも……!生きてて、良かった……っ!」
きらり「うぇ……士ちゃん……!良かった、生きててよかったにぃ……」
士「…悪かったな」
進ノ介「大丈夫、もう死なないさ」
ベルトさん「そうだとも。2度も戦いの中で死ぬわけにはいかない」
アイン「ナ、ゼ」
「「「っ!」」」
アインの声に、士と進ノ介は同時に振り返った。
アイン「ナゼ、カ、バッタ。オ、マエ、ガ、シ、ヌ、カモ、シレ、ナ、イノニ」
その問いは、どうやら進ノ介に対して投げられたもののようだ。
士「あのデカブツに答えてやれ」
進ノ介「…ああ」
一歩前に出て、進ノ介は口を開いた。
進ノ介「何故庇ったって…。そんなの決まってる、人を、市民を守るためだ。確かに、死ぬかもしれないと思うほど、危険な一撃だった」
だけど、と進ノ介は続ける。
進ノ介「…だから、だから俺が守るんだ。みんなを死なせるわけにはいかない」
アイン「リ、カイ、フノウ。リ、カイ、フノウ」
進ノ介「良いか、よく聞けロイミュード。俺は泊進ノ介、警視庁特状課の刑事だ」
「市民を守るのが、警察官の役目だ。市民の幸せを脅かすやつがいるなら、
そいつと戦って市民の幸せを守る。それが俺の、仮面ライダーとしての使命だ!」
「俺は『仮面ライダードライブ』!“刑事”で、“仮面ライダー”だ!!」
アイン「リ、カイ、フノウ。ハイジョ、ハイジョ……」
左肩の砲塔が、士と進ノ介に合わせられる。だが、既に対策は提示されていた。
進ノ介「ドア銃っ!」
士「フッ」
ライドブッカーとドア銃の銃口が、左肩の砲塔を捉える。2人は同時にトリガーを引いた。
2発の光弾は、狂い無くターゲットを撃ち抜く。これで、すべての砲塔が沈黙した。
アイン「ア゛ア゛……、ア゛、ア゛、ア゛……」
アインがうめき声を漏らす。痛覚は残っているのだろうか。
アイン「ヘン、カ…、ヘン、カ…」
再び、アインの身体が隆起する。今度は背中から、阿修羅像のような4本の腕が生え、対照的に脚がいくらか細くなった。
さらにその4本の腕が、剣に変形する。無造作に振り回す腕が、風を切る音が響いた。
士「お次は剣山ときたか、バリエーション豊富だな」
そして、腕を振り回しながらアインが歩き出した。
進ノ介「通すわけには行かないな」
士がライドブッカーの刀身を撫で上げ、進ノ介がハンドル剣を握りしめる。
ベルトさん「準備は良いかね?」
士「いい加減ここで倒すぞ!」
進ノ介「ああ!考えるのはやめだ、行くぜ!」
ベルトさん「OK!GO、仮面ライダー!」
「「はああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」」
誰もが、その戦いの行方を見守っていた。身じろぎもせずに、ただじっと見ていた。
彼らの手にした武器が弾かれ、傷付けられて地面に転がるたびに、悲鳴が上がることはある。
しかし、彼らが諦めずに立ち向かうその背中に、声を掛ける者はいなかった。
「…………………」
彼らは、自身が傷つくのも構わずに、戦えない者たちを守るために立ち上がり、戦う。
「……………………」
命令されているわけでもない。それでも、彼らは人を守ってくれている。
「………………………」
何故自分たちは、そんな彼らに何も返せないのか。何故一言声を掛けることも出来ないのか。
「…………………………」
そんなの、おかしい。ただ守られていれば、それでいいのか。
「……………………………」
「…よく、ないよね」
何かを、返さなければいけない。
「…うん。何か、しなくっちゃ」
たとえ彼らが、それを必要としていなくても。
「そう、だよねぇ…」
貰ってばかりじゃ、不公平だから。
士「ぐあっ!」
進ノ介「うぐっ!」
士と進ノ介は、4本の剣に斬り裂かれ、拳を受け、幾度となく地面を転がっても、アインに挑み続ける。
ここで自分たちが退けば、後ろの人たちが危険な目に遭う。そして、命を落とすことだって。
しかし、気持ちはまだでも、身体は限界を訴え始めていた。
士「ハァッ……。いい加減倒れろよ、このデカブツ……っ」
進ノ介「くそっ…、倒れてる場合じゃ、ないってのに……!」
ベルトさん「くっ…、ライダーが2人がかりでも厳しいか…!」
それでもなお、アインの動きは止まらない。ただ、迫ってくる。
アイン「ハ、イ、ジョ。ハ、イ、ジョ…」
『ドライブ!タイプテクニック!』
進ノ介「行かせるか…!」
正確な銃撃が脚部、腕部、頭部に連続して撃ち込まれる。しかし、アインの背中から伸びた4本の剣が、全ての光弾を斬り裂いた。
ベルトさん「くっ、ならば重力で…!」
『タイヤコウカーン!ローリングラビティ!』
進ノ介「う…ぅおっ!」
進ノ介は、巨大な分銅10tオモーリをアインの頭上へと放る。
『グラビティ!グラビティ!グラビティ!』
それは空中に留まり、アインに向けて強烈な重力を発生させた。流石のアインも動きが鈍る。
ベルトさん「よし、今だ!」
その機を逃さず、士と進ノ介はアインに向かって突撃した。
アイン「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
しかし、アインの持つ力は3人の想定を上回る。咆哮と共に全身から衝撃波を放ち、空中の10tオモーリ、士と進ノ介をも吹き飛ばした。
士「……あぁァッ!」
進ノ介「う……ッ、ぐっ…!」
『ドライブ!タイプスピード!』
少ない力を必死にかき集め、何とか立ち上がる2人。
足に力を込めて、アインへと駆け出そうとしたが、
莉嘉「士くーん!!」
みりあ「刑事さーんっ!」
その前に突然後ろから声を掛けられ、足が止まってしまった。
振り向いた2人の、視線の先にあったのは。
きらり「2人とも、頑張ってーっ!」
「「「守ってくれて、ありがとーっ!これくらいしか出来ないけど、応援するからーっ!!」」」
「「「ガンバレっ、仮面ライダー!!」」」
手を繋いだ凸レーションの3人が、立ち上がって必死に声を挙げている姿だった。
士「……フッ。応援、か」
3人の声が耳に、そして何より、その心に届く。
みりあ「頑張ってっ、士さん!刑事さん!」
莉嘉「2人なら絶対負けないって、アタシ信じてるからーっ!」
きらり「いっつも守ってくれて、本当にっ、感謝してるにぃ!」
ベルトさん「これは…。彼女たちなりの、恩返し、というところか…」
きらり「ねぇみんな!きらりたちみーんな、今まで仮面ライダーさんたちに、守ってもらってきたにぃ」
みりあ「いっつも、助けられてばっかりだよね。でも、それじゃダメだって思うの!」
莉嘉「だからね、これでお返しになるかは、分からないけど…。アタシたちと一緒に、仮面ライダーを応援してほしいの!」
「「「せーのっ、ガンバレ、仮面ライダーっ!」」
『……そうだよな、今まで俺たち、仮面ライダーに守ってもらってたんだよな…』
『でも、何も返せてなかった……』
みりあ「遅くないよっ、一緒に応援しようよ!」
『応援くらいなら、俺にも出来る……うん』
『恩返し、しないとね』
きらり「うんっ!きらりたちみんなの応援で、仮面ライダーさんたちに、元気をいーっぱい届けるにぃ!」
『……よしっ、俺も精一杯元気送る!』
『仮面ライダーに、私たちの声を…!』
莉嘉「うんうんっ!それじゃみんな、いっくよー!せーのっ!!」
頑張れっ、仮面ライダー! いつも守ってくれて、ありがとう!
最高にカッコいいぞーっ!!
俺たちのヒーロー!
恩返しさせてもらうよーーっ!
必ず勝つって、信じてる!
うおおーーっ!負けるなーーーっ!!
いつもありがとう!頑張って!仮面ライダー!!
進ノ介「……悪い、士。少し、待ってもらっていいか」
士「…ああ」
「……ああ!!必ずアイツに勝って、みんなを守ってみせる!!」
「エンジンフルスロットルで行くぜ!!」
ベルトさん「OK進ノ介!君のテンションは今、最高潮に達している!」
進ノ介「当たり前だ!あいつに負ける気なんか、少しもしねえっ!!」
漲る力、あふれ出る闘志。士は、進ノ介の身体から迸る力を感じていた。
そして、口にはしないだけで、それは士も同じだった。
士「人を守るために走る…、それがお前の、仮面ライダーとしての在り方か」
進ノ介「ああ。士っ、悪いがもうひとっ走り付き合ってもらうぜ!」
士「良いぜ?ただし、遅れるなよ!」
拳と拳を打ち合わせる、士と進ノ介。
今、2人の仮面ライダーの心が、完全に繋がった。
士「っ!」
それを待っていたかのように、ライドブッカーがひとりでに開いた。
そして、3枚のカードが士の手に収まる。
士「フッ、これも久しぶりだな」
色の無いカードが、力を得て鮮やかな色をつけていく。
アイン「オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ………!!」
アインのうめき声が聞こえてくる。見れば、かなりあったはずの距離がだいぶ縮まっていた。
士「進ノ介!ヤツにトドメを刺す!俺と、お前と、そのベルトの3人でな!」
進ノ介「ああっ、何でも来やがれ!」
ベルトさん「…いいだろう、ディケイド!」
士は今出現した3枚のカードから1枚を選び、ドライバーに挿入した。
『FINAL FORM RIDE D・D・D・DRIVE!』
士「ちょっとくすぐったいぞ!」
進ノ介の背中に、手で触れる。その瞬間、胸部のタイヤが外れて空中へと飛んだ。
進ノ介「おっ、おおお……!?」
パーツを足し、足りない部分を補いながら、進ノ介の姿が変化していく。
一方、空中に飛んだタイプスピードタイヤは、6つに増えて進ノ介の元へ落下した。
それぞれがあるべき場所へと収まり、ついに進ノ介は超絶変身を遂げる。
士「なるほど、車か。悪くない」
進ノ介は赤い4輪のスーパーカー、『ドライブトライドロン』となった。
みりあ「すごーい!刑事さん、車になっちゃった!」
きらり「うきゃー☆士ちゃんも刑事さんも、すっごいにぃ☆」
莉嘉「いっけー!士くーん!!刑事さーん!!」
士「ハッ」
声援を受けた士は、こともあろうにトライドロンの上に跳び乗った。
士「行け!」
進ノ介の方もそれを了解し、上に士を乗せたままエンジンを起動させ、走り出した。
アイン「オオオオオオオ……!!!」
士「生憎、こいつにバックギアは無いぜっ」
一瞬でトップスピードに達したトライドロン。しかし、士は振り落とされることなくバランスを保ち、アインへ高速で接近する。
士「フンッ!」
すれ違いざまにライドブッカーを振るい、アインを斬り付けた。トライドロンのスピード分も乗った刃に斬り裂かれ、アインがよろめく。
士「進ノ介っ」
急ブレーキして反転したトライドロン。その前方に備え付けられた機銃からエネルギー弾を連射し、アインをハチの巣にする。
アイン「グゥオオオオオオ……ッ!!」
たまらず、アインが膝をついた。その機を逃さず再びトライドロンが駆け、その上に乗った士がアインのボディを斬り裂いた。
アイン「ガァァッ!!」
士「こいつで決めるぞ!」
『FINAL ATTACK RIDE D・D・D・DRIVE!』
士がカードを挿入すると、アインを中心にトライドロンが高速で回転し始めた。
赤い軌跡を残し、さらに加速を続けるトライドロンは、やがて赤い疾風となる。
士「ハァッ!」
士はトライドロンから跳び、右足にマゼンタのオーラを纏った跳び蹴りをアインに叩き込んだ。
しかし、一撃で終わりではない。
士はアインを蹴って方向を変えると、周囲を走るトライドロンを蹴って再び加速し、またアインに跳び蹴りを叩き込んだ。
跳び蹴りを叩き込み、方向を変え、トライドロンを蹴って加速し、再び跳び蹴りを叩き込む。
士「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」
超高速の連続蹴りが、確実にアインのボディに叩き込まれていく。
アイン「アアアアアァァァァーーーーッ!!!!」
咆哮が、空気を震わせる。
しかし、それにも負けない人々の声援が、士たちに届いた。
『『『『仮面ライダーーーーッ!』』』』
士「ハァァァァーーーーッッ!!!」
トライドロンのスピードの全てを乗せた士の跳び蹴りが、真正面からアインに突き刺さる。
アイン「ガッ……アァァッ………!!」
着地した士は、スピードを殺しきれずに、地面を数メートル滑ってから停止した。
そして、トライドロンへの変身が解除された進ノ介も、地面を滑って士の隣で停止する。
「グゥゥオオオアアアァァァァァァァーーーーーッッ!!!」
最期に獣のように咆哮して、アインのボディが爆発した。
ボディから抜け出た3つのコアも、すべて空中で弾け飛ぶ。
ベルトさん「…2人とも、Nice Drive!我々仮面ライダーの勝利だ!」
割れんばかりの歓声が、響き渡った。
士「はぁ…。まったく疲れた」
P「…今日は本当に、お疲れさまでした。門矢さん」
変身を解除した士と進ノ介の姿は、戦いの過酷さを物語るような酷いものだった。
頬には擦過傷が出来、切れた唇の端から血が滲む。無数の青アザも出来ていた。スーツの下には、同じような傷がもっとたくさんあることだろう。
ベルトさん「2人とも、本当によく戦い抜いた!」
進ノ介「あー…。戻ったらマッドドクターの世話になるのか…。いっつ…」
しかし、2人は痛みに顔をしかめこそするものの、戦いそのものに関しては少しも悪い顔をしなかった。
そんな2人の様子に、プロデューサーはただ感謝することしか出来なかった。
その感謝をほんの少しでも伝えようと、礼をして感謝を口に出す。
P「…泊さん、クリムさん。今日はお2人にもお力添えしていただき、本当に感謝しています。何とお礼を言えば良いか…」
進ノ介「頭、上げてください。こっちは、これが仕事ですから」
ベルトさん「それに、私たちには“あれ”があれば十分さ。そうだろう、進ノ介」
進ノ介「ああ、もちろん」
士「……まったく、人のいい奴らだ。貰えるものは貰っておけばいいものを」
進ノ介「いいや士、貰えるものならもう貰ったさ。一番大事なものを」
目を閉じれば、先ほどの応援と歓声が蘇ってくる。
応援を欲しいと思ったことは無かった。
ただ市民がいつも通りに暮らすことさえ出来ていれば、それこそが自分の戦いに意味があったことの証明だった。
人を守れる力を持ったことが誇らしかったのだ。
その誇りがあるだけで、進ノ介は市民を守るために戦えた。
だからこそ、先ほどの応援は、何より進ノ介を励ましてくれた。
応援しか出来ない、なんてものじゃない。応援を貰えただけでも十分すぎるくらいだった。
その中心となった、3人の少女。
彼女たちは今、ステージ上で元気いっぱいに観客を盛り上げていた。
溢れる元気と、眩しい笑顔で。
P「皆さん、今日のイベントはこれで終了となります。お疲れさまでした」
ロイミュードの出現というトラブルは起こったが、解決後のトークショーは1回目とは比べ物にならないほどの観客を呼び、
結果としては想定以上の大成功で幕を閉じた。
P「今日のイベントが行えたのは、門矢さん、泊さん、クリムさんのお陰です。本当に、ありがとうございました」
再び頭を下げるプロデューサーに、ベルトさんもドライバーのディスプレイに笑顔を表示した。
P「凸レーションの皆さん、今日は多くのトラブルがありましたが、よくやり切りました。今後も、今日のことを忘れずに一層励みましょう」
「「「はい!」」」
「「「ごめんなさい!」」」
莉嘉「アタシが周りをよく見ずに行動しちゃったせいで、色んな人に迷惑をかけました。本当にごめんなさい!」
みりあ「私も、莉嘉ちゃんと一緒になってはしゃいじゃって、私たちが迷子になっちゃって…、ごめんなさい」
きらり「きらり、リーダーとして2人をリードしなきゃいけないのに、全然できなかったにぃ…。
ダメなことはダメって、ちゃんときらりが言うべきだったよね…。みんな、ごめんなさい」
今度は、謝罪で頭を下げる3人がいた。
プロデューサーは首の後ろを押さえ、士は腕組みしながらそれを見下ろす。
士「遅刻寸前だったことは、ロイミュードの事件があって結果的に帳消しになったから、あまりとやかくは言わない。だが、反省はお前たちでしておけ」
「「「はい…」」」
P「…門矢さんの、言う通りです。反省は、しっかりとしておいてください」
そして、一拍置いてプロデューサーもまた頭を下げた。
P「私も、すみませんでした。皆さんを管理するべき私が、近くにいられずに…」
士「…今後外へ出る時は、必ず名刺の確認をするべきだな」
P「…はい。私にも、反省するべきことがあります。お互いに、今後同じ失敗を繰り返さないように努めましょう」
進ノ介「……さて、俺らはそろそろ戻ろうぜ、ベルトさん」
ベルトさん「ああ、霧子たちも待っている」
反省会を終えて、笑顔の下手なプロデューサーのために、笑顔の練習が行われている様子を見届け、進ノ介とベルトさんは踵を返して歩き出した。
みりあ「あっ、待って刑事さん!」
進ノ介「ん?」
振り返った進ノ介の元に、みりあ・莉嘉・きらりの3人が駆け寄ってくる。
進ノ介「どうかしたのかな?」
3人は目配せし合って、一緒に口を開いた。
「「「刑事さん!今日は本当に、ありがとうございました!」」」
きらり「みんなのために頑張る刑事さん、とーっても!カッコよかったです!」
莉嘉「ワルモノから守ってくれて、ホントに嬉しかった!」
みりあ「あのっ、ケガいっぱいしてると思うから、今日は良く休んでくださいね!」
進ノ介「……こっちこそ、今日はありがとう。みんなの応援があったから、俺たちはアイツに勝てたんだ。本当に、助かった」
莉嘉「一生懸命頑張ってる人を応援するのも、アイドルの仕事だもん!」
進ノ介「そっか。みんな、アイドルの仕事は楽しいか?」
みりあ「うん!難しいことや失敗しちゃうこともあるけど、それでも毎日がすーっごく、楽しいの!」
きらり「きらりも、刑事さんに負けないくらい、お仕事頑張るにぃ☆」
進ノ介「その“刑事さん”っていうの、やめにしないか?俺のことは進ノ介でいいよ」
莉嘉「じゃあじゃあっ、進ノ介くんだねっ☆」
みりあ「ねぇねぇ進ノ介さん、そっちのベルトのおじさんは何て言うの?」
ベルトさん「…む、私かね?私の名はクリム・スタインベルトだ」
進ノ介「俺は“ベルトさん”って呼んでる」
きらり「だったらぁ……。あっ、ベルト“ちゃん”なんてどうかなぁ?」
ベルトさん「ちゃ、ちゃん付け…?そう呼ばれるのは初めてだな…」
進ノ介「フフッ、良いじゃないか、ベルト“ちゃん”」
ベルトさん「彼女たちはともかく、進ノ介!君はそう呼ぶな!」
莉嘉「…プッ、アハハハハ!2人とも面白ーい!」
莉嘉が噴き出し、つられてみりあときらりも笑いだした。
その笑顔を見て、進ノ介も笑顔になり、ベルトさんもドライバーのディスプレイに笑顔を表示した。
進ノ介「…うん。その笑顔だよ、みんな。そんな真っ直ぐな笑顔があるから、それを守ろうと思って、俺は戦えるんだ」
みりあ「うん!凸レーションはどんな時でも!」
莉嘉「バッチシ笑顔で!」
きらり「ハッピーハッピー元気!じゃなきゃぁ…」
「「「幸せなことだって逃げちゃうもんね!」」」
進ノ介「ああ、そうだな!だから毎日、トップギアで走っていくんだ!」
ベルトさん「良い少女たちに出会えたものだ。我々は、君たちのことを忘れない」
進ノ介が差し出した右の手を、莉嘉・みりあ・きらりの3人が一緒に握る。
ベルトさん「また会おう、諸君!ディケイド、いや士!君もだ!」
進ノ介「これからも、お互い全力で走っていこうぜ!またな!」
莉嘉「うん!またね、進ノ介くん、ベルトさん!」
みりあ「バイバイ!また会おうねー!」
きらり「進ちゃん、ベルトちゃん、元気でねー!」
歩き去って行く進ノ介の背中が見えなくなるまで、3人は手を振り続けていた。
その姿を写真に収め、士も別れの挨拶を口にした。
「じゃあな、仮面ライダードライブ、泊進ノ介とクリム・スタインベルト。…またどこかで、な」
今回はここでおしまいです。
サブタイトルは「“どうやって”少女たちを見分ければいいのか」という英文のつもりです。
ディケイドはコラボ回の1回は元の世界のサブタイと同じサブタイの付け方をしますので、それに則りました。
勢いでFFRなんか出しちゃったのですが、生暖かい目で見ていただければ幸いです。
また機会があったらよろしくお願いします。
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