【百合】夢を救うくらいなら、まずは私の締切を【SF】 (4)

景色を気にしている場合じゃなかった。

「リノ、右翼!」
「――、はいはい、まかせて……っ!」

私とリノは命懸けだ。
鉄で出来た大きな翼と、鉄柱を無作為に編みこんだ大きな顎。

「それでいて、このブレスっていうのはキツイんですけどっ!?」

息を吸い込むかのような挙動のあと、吐き出す高温のブレス。
魔術壁で中和するにしたって回数に限界がある。

リノは動き自体は早いけど、これだけ硬そうな相手を短時間で倒すような
火力は持っていない、と思う。

身を翻しながら、自分の長い黒髪が煩わしい。
動き回るような戦闘スタイルなんだから、やっぱり短く設定するべきだったのだろうか。

足を踏み込む。
綺麗に積もった粉雪のミルフィーユに足型をつけながら、跳躍。

とにかく相殺出来る限り、ヘイトは稼ぎ続けないと。


そこでがなり立てる目覚ましだ。
時刻は8時42分、ちょうど三回目のアラームが狭いマンションの一室に響き渡る。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454423791

スマホに手がかすめるのと同時に、ブチッと充電のコンセントが抜け落ちる。

どうにかこうにかアラームを停止させ。
これも、どうにかこうにか体を起こす。

毛布はかけっぱなしのままで、しばらく覚醒するのを待つのが
毎朝の日課だ。

眩しいのは苦手で、カーテンはいつも締め切っている。
「……、リノちゃん可愛かったなぁ……」

でゅへっと、寝ぼけ眼で笑を漏らす。
他人から見たら、大層気持ちの悪い構図であろう。

それから、15分近くが経過しただろうか。
あまり聞きなれない音が部屋に響き、怪訝な顔をする私。

インターホンだ。
前に、気持ち悪いほど必死な新聞勧誘をされて以来出ないことにしている。

知人や、重要な案件なら電話が来るはずだ。
それでもインターホンは2度、3度と繰り返される。

覗き穴から向こう側を覗き込むと、赤い帽子にひょっこり対面する。
今年中学生になろうかという姪っ子がいるのだが、それと同じかさらに
小さいのかもしれない。

インターホンの受話器を手に取る。
「どちら様ですか?」

反射的に声にドスを聞かせてしまった。
気にはなったが、未知の人物に対して警戒心は抱くものだ。

「……、勇者様のお宅でしょうか?」
少し不安げな声で、少女はそう言った。

「宗教勧誘なら間に合ってますが?」
朝から気分が悪くなる。

とある駅前を往復する機会が多いのだけれども、どの知り合いよりも
こういう輩に声をかけられる確率がダントツに高い。

インターホン越しとはいえ、相手の少女? からは少し困ったような
挙動が感じ取れる、が。

「イリーナ様、ですよね……?」
「……、――!」

まだ何かのたうち回るのかと一瞬嫌気が差したのも束の間。
イリーナの名前に聞き覚えはあった。

もちろん両親ともに純粋な日本人である私はそんな名前なんかじゃない。
少なくとも“こちら側の私は”だ

向こう側で、確かに私はイリーナと名乗っている。
向こう側を認知出来るようになったのは、小学校の高学年くらいからか。

イリーナの名前に愛着も湧いているし、親しみも持っている。
向こう側の何人かの知り合いに名前は覚えてもらっているけれども、
こちら側では誰もイリーナなんて名前は。

覚えていない、はずだった。

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