【艦これ】川内「私の妹は鉄になりました」 (22)

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「私は今日も待っている」
【艦これ】「私は今日も待っている」 - SSまとめ速報
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 明石は工作艦をやっていた。

 その綺麗な桃色の髪や頬は煤で汚れ、軍手も油で真っ黒に染まってしまっていた。折角夕張と弄った爪もこれでは意味がない。そんなことを考えながら鉄を取り出そうと輸送用のドラム缶を開けると、鉄の上に小さな木箱が置いてあった。

「何だろう?」

と明石はちょっと不審に思ったが、そんなものに構って居られなかった。もうすぐ大規模作戦があるので駆逐艦たちの装備の改修も行わなければならないのだ。

「けど待って。ドラム缶から箱が出るっておかしいわよね?」

 明石は小箱を拾ってみた。箱は軽かった。

「軽い処を見ると、爆弾とかではないみたいね」

 明石は後で調べようと、小箱を工具箱の隅に入れた。

 そして、連装砲を改修し続けていると、終業時間になった。明石は、真っ先に風呂場に向かい、体を念入りに洗ってから風呂に十分に浸かって今日の疲れを落とした。

 さっぱりしたと、脱衣所に置いておいた工具箱を持ち、この後鳳翔の店で一杯飲んで食べることを専門に考えながら、彼女の部屋へと戻った。

 装備の改修は全体の八分通り出来上っていた。

「次の作戦も、みんな無事に戻ってきてもらわないと……」

 明石はウヨウヨしている駆逐艦たちのことや、明日に決行される大型建造の事を考えると、全くがっかりしてしまった。

「もし大和さんたちが来たとしても、今からじゃ連度上げ間に合わないのに……」

 そして、明石は工具箱の中にある小箱の事を思い出した。

 取り出した箱には何にも書いてなかった。しかし、丁寧に釘付けしてあった。

「釘付けしてあるなんて……何が入っているのかしら?」

 明石はその釘を丁寧に外すと、小箱の中からは、綺麗なリボンと共に可愛らしい便箋が出てきた。

 それにはこう書いてあった。

 ――私はとある鎮守府の、軽巡、川内です。

 私には二人の妹がいます。一人は神通。もう一人は那珂です。

 その内の那珂の二人目がウチの鎮守府に来ました。

 艦娘はごくたまに同一個体が建造されるとの噂を聞いたことがありましたが、まさかうちに来るとは……と驚きを隠せませんでした。
 
 そして、その二人目の那珂をどうするか協議した結果、解体処分することになったのです。

 私や神通、一人目の那珂。

 そして、那珂という艦を慕う駆逐艦たちは何とかできないかと、提督に抗議をしてくれましたが、うちの鎮守府も裕福とは言えず、さらに、那珂自身がそれを受け入れたために、その翌日には解体されました。

 艦娘は解体されるとは言っても、体をバラバラにするわけではなく、艤装をばらし、本人の記憶を弄り一般人として生活するということですが、それでも、艦娘としての那珂がいなくなったのには変わりがありません。

 砲も、煙突もバラバラになり、私の妹の艤装は素材になってしまいました。残ったものはこのリボンくらいです。私は妹を入れるこのドラム缶を作りました。

プロレタリアだっけ?

高橋葉介かと思った

>>7
プロレタリアですね。

>>8
作者は葉山嘉樹です。


 〝私の妹は鉄になりました。”

 私はその次の日、そのドラム缶に入った妹が他の鎮守府に譲渡されると聞き、この手紙を書いてこのドラム缶の中へ、そうと仕舞い込みました。

 あなたはどこの艦娘ですか? あなたが艦娘だったら、私がかわいそうだと思って、お返事下さい。

 このドラム缶は何に使われましたでしょうか、私はそれが知りたいのです。

 私の妹は何になったでしょうか? そしてどんな提督に、艦娘に使われるのでしょうか? あなたは戦艦ですか? それとも駆逐艦ですか?

 私は私の妹が、砲の弾になったり、ただのドラム缶になったりするのが耐えられません。ですけれどそれをどうして私に止めることができません。あなたが、提督だったら、この鉄を、そんなものに使わないで下さい。

 いいえ、我儘を言ってしまい申し訳ありません。何にでも使って下さい。私の妹は、どんな物に変わろうとも、きっといい事をします。那珂はどんなことでも一生懸命な子なので相当な働きをします。

 那珂は明るく、元気で、ふざけてるように見えるかもしれませんが、それでも艦隊の皆のことを考えて、明るく振舞ってくれているのです。

 あなたの鎮守府にいる那珂もきっとそうです。もし那珂がいないのなら、出会ったらきちんとお話をしてあげてください。あの子はとてもいい子です。

 それなのに、私は妹の艤装の装備を手伝えず、ドラム缶にしまっているのです。那珂はどこかに行ってしまいました。

 あなたが、 艦娘だったら、私にお返事下さい。その代り、私の妹のリボンをあなたに上げます。この手紙と共に入れてあったのがそれです。

 このリボンにはあの子の水雷魂が込められているのです。

 お願いです。素材を使った月日と、それから 所属鎮守府と、何に使ったかも、是非々々お知らせ下さい。

 長々と失礼いたしました。

 明石から預かった手紙を読み終え、我に返った提督は、駆逐艦たちの騒ぎを身の廻りに覚えた。

 彼は手紙の終りにある鎮守府を見ながら、ペットボトルのお茶をぐいっとあおる。

「次の作戦、絶対成功させたいなぁ。なあ、お前ら!!」と怒鳴った。

「成功させてくれないと困りますよ、あれだけ働かせたんですから」

 明石がそう云った。

 提督は、工廠の奥に、立てかけられた傘を見た 。

END

以上です。

今回は葉山嘉樹の『セメント樽の中の手紙』をオマージュさせていただきました。

元ネタが短いのですごく短いスレになってしまいましたが、見てくださった方がいてうれしかったです、ありがとうございました。

念のために書いておきますが自分は那珂ちゃん大好きです。

元ネタの『セメント樽の中の手紙』は青空文庫で無料公開されてるので、興味があれば読んでみてください。

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