王様「これ見え過ぎじゃない?」仕立て屋「そんな事ありませんよ」(9)

仕立て屋「それは愚者には見えない布で作った服でございます! とっても似合っておりますよ、陛下」ニヤニヤ

王様「どう見ても……何もつけてないように見えるんだけど……恥ずかしいよぉ……」カァァ

メイド「そんな事は御座いませんわ、若! 若には見えずとも、わたくしどもにはその……丸見えですわっ!」(●rec)

大臣「うむ、陛下は即位して間もなく、為政者としての経験が浅い故、致し方ないでしょう」ニヤニヤ

王様「わ、分かったから、いつもの服を持ってきて! こんな姿で仕事なんて、恥ずかしくて出来ないよ」モジモジ

大臣「い、いかんですぞ! せっかく新しい服をお召しになられたのです、
ここは記念として城下でパレードを催さねばなりませんぞ!」

王様「」

仕立て屋「あ、お代はいりませんので」ニヤニヤ

城下町

兵隊「王様が通られる! 道を開け~い」タッタラタラター

ざわ……ざわ…

国民「あ、あれが……」ゴクリ

国民「ザ・ニュー王様」ジーッ

国民「何でも……愚者には見えない服らしいな」ニヤニヤ

国民「へぇ……」ゴキュ

メイド「若、前を隠さず堂々と!」ドキドキ

王様「や、やっぱり城に帰ろうよ……皆、こっち見て……顔を赤らめてる人もいるしぃ……」モジモジ

大臣「陛下は民を信用出来ないと仰られるのですか? 心配する事は御座いませんぞ!

皆、陛下のあまりの立派な姿に目が眩んでいるだけでございます」ニヤニヤ

王様「本当に? だって皆の反応が……」

大臣「分かりました。では……」

大臣「皆の衆、陛下は本日新しい服をお召しになられた……愚者には見えぬ服である!」

ざわ……ざわ……

国民「なるほど……」

国民「ってことは、あたしって本当……バカ?」ドキドキ

国民「だけど、これなら……」

国民「まぁ、バカでも良いか」ニヤニヤ

大臣「見えぬと申す者は、正直に手を挙げい。特別罰することはしない、安心せよ」ニヤニヤ

シーン……

王様「えっ、そんなぁ……」ガーン

大臣「ささ、陛下、パレードを続行しましょうぞ」ニヤニヤ

王様「も、もう嫌だよぉ……」ウルウル

伝令「大臣殿ォ――!」

大臣「む、どうした?」

伝令「それが、魔王がついに自ら軍を率いて……」ヒュン、ドスッ!

伝令「ギャッ」ドサリ

大臣「で、伝令ー!」

王様「あ、あれは!」

魔物「ヒャッハー、町だぁ!」

国民「ま、魔王軍が攻めてきたぞー」

キャアアア

魔王「風の便りで、最近この国が世代交代したと聞いてな……チャンスとばかりにやってきたわけだ」

魔王「王様を出せ! なるべく血を流したくないからな……話がしたい」

大臣「へ、陛下っ!」

王様「ああ、わかってるよ」

王様「お前が魔王か! 父上と結んだ停戦協定を破って攻めてくるとは……やっぱり魔物は魔物か」

魔王「なんだお前は……」

王様「な、無礼な……ボクはこの国の現国王――」

魔王「お前みたいな全裸の王様がいるかっ、つまみ出せ!」

魔物「ガッチャ!」

王様「なっ、ボクは本当に王様なんだぞ――」

魔物「はいはい」ポイッ

王様「うわーっ」

大臣「陛下ーっ!」

魔王「国王を探せ! 大臣が居るんだ、この近くに潜んでいるに違いない!」

――こうして僕の国はあっという間に魔物に支配されてしまったのであった

王様「さ、寒い……せめて服を」ガタガタ

魔物娘「あら、あなた……人間? しかも全裸って……」

王様「ううっ……すみません……食べ物は要らないから、せめて何か着るものか、腰に巻く布を……」

魔物娘「あいにく家には服がないの、ご飯なら出せるから、上がっていって」

王様「」

王様「スープの暖かさが身体に染みる……これでせめて服さえあれば……」

魔物娘「魔王様はファッションにかなり凝られてるから……
国策として私達には、必要最低限の衣類しか許されていないの。

あなたの仲間も今は、地下のユニクロで働かされているわ」

王様「そ、そうだったんですか……」

魔物娘「だから、あなたみたいな……ぜ、全裸の人間は珍しいわ、本当」ウツムキ

王様「ちょ、あんまり見ないで下さい!」バッ

これは良い発想

王様「人間の僕に食べ物を恵んで下さって、ありがとうございます。
ですが……やはり僕は民を……仲間を助けねばなりません」

王様「――お世話になりました。僕はここから、出て行きます」

魔物娘「そうですか……でしたら、少しお待ちになって」

王様「? (何か着るものでも、恵んでくれるのかな)」

魔物娘「この剣を……私の父の形見です。護身にくらいは使えるかと」

王様「……え、着るものじゃないの?」

魔物娘「? 斬るものですけど?」

王様「……あ、ありがとうございます」

魔物娘「魔王様の今の政治には、我々魔族も呆れ果てております。
どうか、あの方の目を覚まさせて下さい」

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