二宮飛鳥「もうすぐ誕生日」 (25)

事務所 屋上


飛鳥「今日は一段と寒いな……」ハァー

飛鳥「(天候が悪ければ確実に雪が降るかな……)」

飛鳥「さすがにこんな日に屋上にくる物好きはボクくらい――」




ヘレン「………」シュッシュッ←無言の乾布摩擦

飛鳥「………」

ヘレン「ヘイ! あなたもどう?」フリフリ

飛鳥「結構です」


飛鳥「……セカイは広い」


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飛鳥「(そろそろ1月も終わり、2月がやって来る)」

飛鳥「(つい最近まで、年越しだなんだと周囲が騒がしかったような気がするのに、まったく時が過ぎるのは速いものだと思う)」

飛鳥「2月……3日まで、あと1週間か」

飛鳥「(2月3日。一応、ボクの誕生日)」

飛鳥「(一応、というのは、ボク自身はボクが生まれた日のことなど覚えていないからだ。おぎゃーおぎゃーと元気に泣いていたらしいが、すべて両親から聞いた話にすぎない)」

飛鳥「(世間では、誕生日は特別な日であり、みんなで祝うのが通例らしいけど……どうにもボクはピンとこない)」



飛鳥「……なんてことを、半年くらい前にPに言った気がする」

飛鳥「(あれから時間も経ち、ボクも誕生日の祝福をそれなりに受け入れられるようになったのだが……)」

飛鳥「(もしかすると、彼はボクの発言を考慮してなにもプレゼントを用意しない可能性がある)」

飛鳥「(他の人には毎度渡しているのに、ボクにだけ何もない可能性が……)」

飛鳥「………」



ヘレン「擦る?」

飛鳥「擦らないです」

ヘレン「そう」シュッシュッ

飛鳥「(まあ、考えてみれば、Pからプレゼントをもらえなかったところで何か問題があるだろうか)」

飛鳥「(ないだろう。別にこんなことでボクと彼との信頼関係に溝が生じるわけでもない)」

飛鳥「(いつもと変わらぬ日々が過ぎていくだけ……)」

飛鳥「………」

飛鳥「バレンタインデーのチョコレートはグレードダウンするが、それだけだ」



ヘレン「それはプレゼントをもらえなかった場合、根に持つということね」シュッシュッ

飛鳥「勝手に思考に割り込まないでほしい」

ヘレン「擦る?」

飛鳥「擦りませ……へくちっ」

ヘレン「風邪を引く前に戻りなさい」

飛鳥「……そうする」

ヘレン「体調管理もアイドルの仕事よ」シュッシュッ


飛鳥「(あの人はなぜあれで平気そうな顔をしているんだろう……)」ブルブル

ヘレン「世界レベルだからよ」

飛鳥「だから思考に割り込まないでほしい」

飛鳥「ただいま」ブルッ

P「おかえり……って、寒そうだな。もしかしてまた屋上行ってたのか」

飛鳥「まあね」

P「今日みたいな日にあんまり長居してると風邪ひくから、気をつけてな」

飛鳥「……理解(わか)っているよ」

P「ならいい」

飛鳥「Pは何をしているの?」

P「パソコンにデータを打ちこんでいる最中」

飛鳥「そうか」


P「………」カタカタカタ

飛鳥「………」ジーー

P「………」カタカタカタ

飛鳥「………」ジーー

P「………」チラッ

飛鳥「っ」プイッ

P「………?」

P「………」カタカタカタ

飛鳥「………」ジーー

P「………」カタカタチラッ

飛鳥「……っ」ジープイッ



P「………」カタカタカタ

飛鳥「………」ジーー

P「………」カタチラッ

飛鳥「…っ!」ジプイッ


ちひろ「なにしてるんですか? 新しい遊び?」

P「なんでもないです」

飛鳥「うん」

飛鳥「(考えてみれば、半年も前の他愛のない発言をPがいちいち覚えている可能性はそう高くない)」

飛鳥「(ボクが気にしすぎているだけだな……ラジオでも聞いて落ち着こう)」ポチッ


ラジオ『えー、次のお便りです。誕生日に親しい人間から贈られるプレゼントについてなのですが』

飛鳥「」ブチッ

ラジオ『おおっとここで4番のリーゼントナツキチがスパート! 一気に3着、2着、そして先頭へ躍り出る!!』

P「飛鳥、競馬なんて興味あったのか?」

飛鳥「え、あぁ、うん」

P「見るだけならかまわないけど、賭け事は大人になってからにするんだぞ?」

飛鳥「もちろんさ……そもそもやる気がないけど」

飛鳥「はぁ……」

P「どうしたんだ? さっきから様子が変だけど」

飛鳥「……考えすぎるのは、ボクの悪い癖だとは理解しているんだけどね」

P「? 悩み事があるなら相談に乗るぞ」

飛鳥「いや……」

P「飛鳥は遠慮しがちなところがあるからな。たまには包み隠さず話してくれてもいいんだぞ」

飛鳥「………」

飛鳥「それでも……」


飛鳥「……あっ」

P「?」

飛鳥「雪、降ってる」

P「雪? おー、本当だ。しかも本降り……このまま降ったら積もるかも」

飛鳥「そうだね」

P「傘、持ってきてるか?」

飛鳥「あぁ。午後から降るかもしれないと天気予報で言っていたから」

P「そうかそうか。飛鳥はしっかりしているな」

飛鳥「別に、このくらい普通さ。キミにも明日は雪が降るかもと言われていたしね」

P「そうだな、うん」

P「………」

飛鳥「………P?」

P「あはは」



夕方


飛鳥「まったく。自分が忘れるとはどういう了見だい」テクテク

P「面目ない。うっかり折りたたみ傘を鞄に入れ忘れてしまって」テクテク

飛鳥「……しょうがないな、Pは」フッ

P「飛鳥が2本持っていてくれて助かったよ。ありがとう」

飛鳥「普通のと折りたたみと、両方持ってきていたから……キミ、本当に折りたたみのほうでいいのかい?」

P「こっちは借りてる側なんだから。飛鳥がサイズの大きい方を使うべきだろう」

飛鳥「ならいいけど。にしても、かなり降っているね」

P「そうだなあ。これは夜には本格的に積もるかも」

飛鳥「あまり降りすぎると厄介だな……明日事務所へ行くのが手間になる」

P「……ははっ」

飛鳥「……なに?」

P「いや、飛鳥はしっかりしてると思って。俺が中学生の頃なんて、雪が降ったら『積もらないかなー。あと学校休みにならないかなー』としか考えてなかったから」

飛鳥「今もそうじゃないのかい?」

P「さすがにそこからは成長してるさ。もう社会人なんだから」

飛鳥「……さっきからしきりに手を伸ばして、雪を拾おうとしているみたいだけど」

P「……まあ、これは癖みたいなものだから」

飛鳥「恥ずかしがることはないさ。キミのその純粋さは、ボクにとって眩しいものだ」

P「どっちが年上なのかわからなくなるな」ハハハ

飛鳥「そんなことはないと思うけど」

P「そうか?」

飛鳥「(最近気づいたことだけど、並んで歩く時はPは必ず車道側に立つ)」

飛鳥「(たいしたことではないのかもしれない。でも、そういうところは大人の男だと思う)」

P「もうすぐ春だなあ」

飛鳥「雪が降っている最中にそんなことを言う人を初めて見たよ」

P「でも、あと1ヶ月くらいで冬も終わるし。そうしたら、桜咲く季節の到来だ」

P「時間がとれれば、事務所のみんなで花見にでも行きたいところだな」

飛鳥「………」

P「どうかした?」

飛鳥「桜といっても、他の花と同じ植物にすぎない。なのになぜ、ボクらはあの花達に心惹かれるのだろうか」

P「ご先祖様から続く、遺伝子の力ってやつじゃないかな」

飛鳥「そう? 単純に、親や周りの人間が桜を愛でるから、それに流されているだけなのかもしれないよ」

P「『桜はきれいなものだ』という固定観念にとらわれている。そういうことか」

飛鳥「あぁ」

P「まあ、確かにそういう考え方もあるかもしれない。けど、俺は遺伝の力を推す」

飛鳥「どうして」

P「そっちのほうがロマンがあるから」

飛鳥「………」

P「ダメか?」

飛鳥「いや、アリだよ」

飛鳥「自分の信じるモノをセカイにインプットする……それもまたひとつの選択だ」

P「そんな大層な言い回しされることじゃないと思うんだが……」

飛鳥「Pは春が好きなのかい」

P「暖かいし、景色も華やかできれいだからなあ」

P「あ、でも冬の雪景色も好きだぞ」

飛鳥「じゃあ、秋は」

P「食べ物がおいしいし、涼しいから好き」

飛鳥「夏は」

P「水着の仕事が増えるから」

飛鳥「………」ペシッ

P「冗談だよ。夏は海で遊べるしアイスがおいしいし、好きだ」

飛鳥「結局、全部好きなんじゃないか」

P「それぞれいいところがあるから。飛鳥はどうだ?」

飛鳥「ボク?」

飛鳥「そうだな……春は桜が美しい、夏は緑の凛々しさに心打たれ、秋は紅葉になんとはなしに感銘を抱き、冬は冬で寂しさを感じる空気がお気に入りだ」

P「そっちも決められない?」

飛鳥「……うん」

P「お互い優柔不断ってことで、似てるな」

飛鳥「似ている、か……そうかもしれないね」

飛鳥「キミとボクは似ている……ふふっ」

P「なんかうれしそうだな」

飛鳥「そうだね。不思議なことだけど、キミと似ていると言われただけで、なぜかそう思ってしまった」

飛鳥「どうしてだろうか」

P「………どうしてだろうな」

P「けど、ひとつわかることがあるとすれば」

飛鳥「すれば?」

P「俺もうれしいってことかな」

飛鳥「……そうか」フッ

飛鳥「なら、今はそれで十分……か」


P「寮、着いたな」

飛鳥「そうだね」

P「それじゃあ、また明日。傘、ありがとう。明日返すよ」

飛鳥「あぁ……また、明日」

ガチャリ


飛鳥「ふう……寮の中は暖かいな」

飛鳥「(Pの言った通り、あと1ヶ月で春なんだが。まだまだ寒い日が続きそうだ)」

飛鳥「(少なくとも2月中は……)」

飛鳥「2月………あ」

飛鳥「(誕生日の件、完全に忘れていた……)」ガーン


蘭子「む、そこにいるのは我が友飛鳥!」

蘭子「闇に飲まれよ!」バッ

飛鳥「………さっきの空気に任せて直接聞けばよかった」ブツブツ

蘭子「あ、あれ? 飛鳥ちゃん?」

飛鳥「あぁ……蘭子。ただいま」

蘭子「お、おかえり」

飛鳥「はぁ……」トボトボ



蘭子「………」ポツーン

蘭子「飛鳥ちゃん、ため息ついてた」

蘭子「も、もしかして……私の言葉、ウザがられてる!?」ガガーン


ヘレン「擦る?」

蘭子「涙は出てないのでタオルは必要ないです」

ヘレン「そう」シュッシュッ

蘭子「(ヘレンさん寮暮らしだったっけ?)」




P「さて。飛鳥の誕生日プレゼントも早めに用意したし、あとは当日忘れなければ大丈夫だな」


Prrrrrr


P「あ、電話だ……蘭子からか」

P「はい」


蘭子『夜分遅くにすみません。少しご相談したいことが』

P「どうしたんだ、その言葉づかい。いつものしゃべり方は?」

蘭子『い、いいんですか? いつもみたいに話して』

P「そりゃもちろん」

蘭子『………』

蘭子『ハーッハッハ!! やはり私の言の葉は世界を揺るがす』

P「でも夜だから隣の部屋に迷惑にならないようにボリューム抑えてな」

蘭子『あ、はい』

蘭子『……そういえば、ヘレンさんが言っていたんですけど』

P「ん?」

飛鳥「……ふう」

飛鳥「そろそろ寝るか……ん、メール」

飛鳥「Pから……」



『誕生日プレゼントはちゃんと用意してるから、来週をお楽しみに』


飛鳥「………」

飛鳥「……ふふ」ポチポチ


『予告するということは、自らハードルを上げるのをいとわないという解釈でいいのかい』

『……それは想定していなかった』

『冗談だよ。おやすみ』

『おやすみ』


飛鳥「世界レベルのフォロー、感謝するよ」

飛鳥「プレゼント、何をくれるんだろう……」ワクワク

飛鳥「………」

飛鳥「……参ったな。しばらく眠れそうにない」フフッ

飛鳥「ミッドナイトレディオショーで気持ちを落ちつけよう」



ラジオ『今日のテーマは、ジャジャン! バレンタインデーに贈るチョコレートについて、です!』

飛鳥「………」





蘭子「翌朝、飛鳥ちゃんは眠そうな顔で事務所にやってきたのでした」


おしまい

終わりです。お付き合いいただきありがとうございます

SSも書いたことだし飛鳥君をシャイニングドローしてきます
声が思ったよりも可愛い系だったけど素晴らしいので問題ないですね

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