ハンター「“ワルプルギスの夜”討伐依頼?」(543)

ネコートさん「遥か東の島国から君に依頼が来ているんだ。」

ハンター「妙な依頼だな。差し出し人は?」

ネコートさん「魔法少女…とだけ記されている。」

ハンター「ふ~ん。…それより“ワルプルギスの夜”ってどんなモンスターなんだ?」

ネコートさん「それがギルドでも詳細を掴めていない。…もしかすると古龍の類かもしれない。」

ハンター「未知のモンスターってことか。」

ネコートさん「かなりの危険が伴うかもしれない。受けるか受けないかは君に任せるよ。」

ハンター「受けるさ…俺は、モンスターハンターだからな。」

ネコートさん「…フッ。実に君らしいな。気を付けて行ってくるんだよ。」

ハンター「あぁ。行ってくる!」

ネコートさん「行ってしまった。…本当に彼を向かわせて良かったのだろうか…。」
ポッケ村長「なぁに。あやつなら大丈夫じゃよ。伝説の覇竜や崩竜をも退け、この村を救ってくれたあやつならな。」

ネコートさん「…し、しかし!」

ユクモ村長「きっと大丈夫ですわ。」

ネコートさん「…。」

ユクモ村長「私は幾度となく見てきました。絶望に立ち向かい、その度に皆の喝采とともに生還を果たした彼の勇姿を。」

ユクモ村長「だから、彼を…彼の力を信じましょう。」

ネコートさん「そう…ですね。(無事に帰ってきたまえよ…ハンター!)」

~東の島国 見滝原 ~

ハンター「これは驚いたな…コンクリートジャングルというやつか。」

ハンター「ケルビ一匹いやしない。」

???「あなたが、ハンターさん?」

ハンター「そうだが、君は?」
ほむら「私は暁美ほむら、あなたに依頼を出した者よ。」

ハンター「では君が“魔法少女”なんだな?」

ほむら「そうよ。ここで色々話すのもなんだから、付いて来て。」

ハンター「わかった。」

ほむら「私にはどうしても助けたい友達がいるの。」

ほむら「だからワルプルギスの夜を倒すためにあなたの力を借して欲しい。」ファサ…

ハンター「つまり依頼の達成条件はワルプルギスの夜討伐とその友達を助けることだな?」

ほむら「そうよ。察しが良くて助かるわ。」

ハンター「状況はわかったが…ワルプルギスの夜について詳しく教えてくれないか?」

ほむら「えぇ。…信じてもらえるかどうかわからないけど…。」

少女は少しためらいがちに話し始めた。

魔法少女のこと。

魔女のこと。

そして自分自身が何度も時間を繰り返してワルプルギスの夜と闘ってきたこと…。

あまりに荒唐無稽なこんな話を信じてもらえるだろうかと少女は不安だった。

…だが彼の反応は意外なものだった。

ハンター「そうか…よく一人で頑張ったな。」

ほむら「…信じて…くれるの??」

ハンター「君の依頼はちゃんと受けたからな!」

ほむら「…!」

気が遠くなるくらい長い間孤軍奮闘を続けざるを得なかった彼女にとって…

それはどれだけ力強い一言であったろうか。

ほむら「あ、ありがとう…。」

ハンター「礼なら依頼を完遂してからでいいよ。」

ほむら「でもどうしてこんな話を信じてくれるの?」

ハンター「君の目が真剣だったからね。それに…」

ほむら「それに…?」

ハンター「世の中には信じられないような不思議なことがいっぱいあるからな。」

ハンター「俺もそういうものを実際に見てきた。」

ほむら「…そうなんだ。」
ハンター「あぁ。それこそ山みたいにデカイ怪物や自然災害そのものみたいな化け物と闘ってきたんだ!」

ハンター「だから大抵の事は信じるよ。」

ほむら「ふふっ。頼もしいわね。流石はモンスターハンターといったところかしら?」

ハンター「流石かどうか知らんが、どんな困難でも力を合わせればなんとかなるもんだよ。」

ほむら「そういうもの…なのかもしれないわね。」

ハンター「そういうもんだ。…さて、じゃあ早速ワルプルギスの夜を狩りに行こうか?」

ほむら「待って!ヤツが現れるのはもう少し先よ。」

ハンター「それはどういう?…!そうか!君は少し先の未来を知ってるんだったな。」

ほむら「そういうこと。」

ハンター「なるほどな。…ではまず、何をすればいい?」

ほむら「明日私と来て欲しいところがあるの。それから…」

ハンター「それから??」

ほむら「あなたが着ているその甲冑を脱いてちょうだい。目立って仕方ないわ…。」ファサ

ハンター「…ここで?」

ほむら「えぇ。わざわざ私の部屋まで来てもらったのはその格好をなんとかする為でもあるもの。」

ハンター「…////」

ほむら「そういうわざとらしいリアクションはいらないわ…。」

ハンター「わ、わかったよ。」

少女はその光景に思わず魅入っていた。

甲冑を脱ぎ、その中から出てきたのは想像していたような筋骨隆々な無骨な男ではなかった。

むしろ思っていたよりもずっと細身で少し長い髪をたなびかせた、端正な顔だちの優男だったからだ。

ほむら「…////」カァ

ハンター「そういうわざとらしい照れたリアクションとかいらないから。」

ほむら「ち…違うわよ!」

ハンター「え?わざとじゃないの?」

ほむら「…。そ…それより!その甲冑を貸しなさい!」

ハンター「…?あ、あぁ。」

甲冑を受けとると少女は小さな卵型の宝石を胸に掲げた。

瞬間…少女は眩い光に包まれ、魔法少女へと姿を変える。

その光景に魅入るの男の顔はただただ驚愕の表情を浮かべている。

ハンター「これは…さっき話には聞いたが……凄いな。」

ほむら「大抵のことは驚かないんじゃなかったの?」

少女はさっきのお返しとばかりに言い放つ。

ハンター「実際に見るとまた違うよ。…それよりなんでいきなり変身したんだ?」

ほむら「それはね…」

ほむら「こうする為よ。」

少女はそう言うと、先程男から受けとった甲冑の腕甲を左手の小さな円形の盾に近付け…“収納”した。

ハンター「…ッ!え??」

続いて足具、銅、そして兜が文字通り盾に“収納”された。

ハンター「これは…手品か何かか?」

ほむら「いえ、手品ではないわ。…これが魔法の力。」

ハンター「…魔法。」


ほむら「そう。魔法。そして私の力は時間を操る力。」

まだ目を白黒させている男の手をとり、少女は力を発動させた。

刹那。世界はモノトーンに染まる。

ほむら「あれを見て。」

ハンター「あれ…って?」

男は少女に言われるがまま、少女が指差す窓の外を眺めた…。

ハンター「…ッ!」

空中に静止する鳥、動かない雲。…視線を下にやるとまるで石化したかのように固まった人々。

ほむら「これが私の魔法。」

ハンター「………。」

しばらくして少女は魔法の力を解除し、男から手を離し、正面に向き合った。

ほむら「この力を使って何度挑んでも勝てなかった。」

ほむら「ワルプルギスの夜はそれほど強大な相手なの。」

ハンター「……。」


ほむら「…?ハンター??」

怪訝そうな表情を浮かべる少女に男は言い放った。

ハンター「礼を言わねばならないのは俺の方だな。」

ほむら「…え?」

ハンター「久し振りにそんな強い獲物と勝負したかったんだ!」

先程までの顔とは打って代わり、男は不敵な笑みを浮かべ目を輝かせている。

そして、その言葉を聞いた少女は不思議な心持ちになっていた。

ほむら(この人なら…ワルプルギスの夜を倒して、まどかやみんなを救えるかもしれない。)

彼女にそう思わせるに十分な安心感のようなものが伝わってきたからだ。

ほむら「今回は…いけるかもしれない。」ボソ

ハンター「…何か言った?」

ほむら「いえ、何でもないわ。」

ほむら「それより、話は少し飛んだけど…。」

ほむら「さっき預かった鎧はいつでも出せるから安心して。」

ハンター「そうか…確かに普通に持ち運びするより便利だな。君に預けておくよ。」

ほむら「わかったわ。…じゃあその刀も貸して?」

ハンター「あぁ。頼むよ…。」

刀を少女に差し出し…ふと思う。

この刀は駆け出しの頃から、様々な素材で鍛えに鍛えずっと一緒に闘ってきた。

言わば彼を狩人たらしめる象徴。彼の魂と言っても過言ではない。

今まで誰に「貸してくれ」と言われても触らせることすらしなかった自身の“魂”を自然と差し出した自分に少し違和感を覚える。

ハンター「大事に扱ってくれよ。そいつは俺の“魂”なんだ。」

少女はその大きな刀を受けとる。

…それは手に取るとずっしりと重い。

まるで彼の生き様をかい間見たような気がした。

ほむら「…心得ておくわ。」

つい数時間前まで初対面だったはずの二人。

だが、お互いに相手が信頼に足る人物であることを二人とも感じていた。

ほむら「さて…それじゃ明日に備えて今日は休みましょう。」

ハンター「あぁ…」

ほむら「空いてる部屋がひとつあるからそこを使って。」

ハンター「わかった。」

ほむら「それからお風呂とトイレはここだから自由に…」

ハンター「なぁ、ほむら。俺、服はどうすればいい??」

ほむら「あっ…。」

ハンター・ほむら「……。」

少女はすっかり失念していた。話があまりに盛り上がってしまったからだ。

あるていど事情を説明したら途中で話を切り上げて夕方になったら適当な服を買いに行くつもりだったのだが…。

あたりはすっかり夜の帳に覆われていた。

ほむら「…ごめんなさい。明日買って来るわ。」

ハンター「…あ、あぁ。」

少女の目の前の、黒いシャツとスパッツ姿の男は力なくそう答えるのみだった…。

~翌日 ほむらの家 ~

窓からは明々と日の光が差し込んで、男の顔を照らす。

ハンター「…ん。朝、か?」

部屋の時計を見ると短針は13時を差している…。

ハンター「!しまった。少々寝過ぎたか。」

慌てて部屋を出るとリビングでは椅子に腰掛けた少女がティーカップを片手に本を読んでいる。

ほむら「あら、遅かったわね?」

ハンター「すまん、少し寝過ぎたようだ。」

ほむら「いいわ。長旅で疲れていたでしょうし…はい、これ。」

少女は男に紙袋を手渡す。

ハンター「これは?」

ほむら「あなたの服よ。あなたが寝ている間に買って来たの。…まさかそのまま外に出るつもり?」

ハンター「あ…。はは…。そうだった。ありがとう。」

ほむら「…別にいいわ。それより着替えたら早速行くわよ。」

ハンター「わかった。直ぐに着替えて準備してくるよ。」

~見滝原 病院 ~

二人は走っていた。

歩みを進める二人の前に白い大きな建物が見えてきた。

ハンター「昨日言ってた“行くところ”ってここのこと?」

男はジャケットにカーゴパンツというラフな服装に着替えていた。
その腰にはベルトに引っ掛けるように大きなポーチがぶら下がっている。

ほむら「えぇ。…はぁはぁ。」

息を切らせる少女とは対称的に男は顔色ひとつ変わっていない。

ほむら「昨日、魔女のことは話したわよね。」

ハンター「あぁ。“グリーフシード”ってのから産まれるんだったよな。」

ほむら「そうよ。そしてあの病院にはもうすぐ羽化するグリーフシードがあるの。」

男は目の前の建物が病院であることに驚いたが、今はそんな些細なことに触れないでおいた。

ハンター「そうか…確かその魔女ってのが羽化すると“結界”とかいう厄介なのができるんだよな。」

ほむら「そう。そして私が助けたい友達も近くにいて巻き込まれてしまうの。…だから…ッ…!?」

ハンター「…!?…ほむら?…どうし…?」

病院の玄関が目の前というところまで来た時だった。

前を走っていた少女が急に立ち止まった為、男は勢いを殺しきれず軽くぶつかってしまう。

ハンター「おっと!…すまん!!」

ほむら「…どうして!?…いつもより早い!??」

男の謝罪も耳に届いていないかのような、どこか上の空といった感じでそう呟いた。

ハンター「一体どうしたんだ?」

ほむら「“結界”がもう出来上がってる…。」

ハンター「…ッ!何だって!?……それはつまりもう魔女が産まれたってことか!?」

男は少女の視線の先に目をやるが、そこには何もない。

怪訝そうな顔をしている男を尻目に彼女は視線の先に進み…“それ”を開いた。

ハンター「…なッ!?」

少女がかざした右手。
その前に唐突に楕円形の異空間への入り口が現れた。

ほむら「これが“結界”この中は魔女とその使い魔が支配する危険な世界。」

ハンター「これが…“結界”。」

ほむら「…!まずいわ。私の友達も、もう中にいる!…急ぎましょう。」

ハンター「…あぁ!そうだな!!」

~病院 結界内部 ~

そこは異様な空間だった。様々な物や瓦礫が複雑に配置され、そして宙を舞っている。

…陰湿な色が溢れ、

…遠近法が乱れているため平衡感覚が狂う。

…何より見るもの全てがグロテスクで、焦燥間を大いに掻き立てる。

ハンター「あまり長居したくはないな。」

そんな弱気な発言とは裏腹に、彼の表情は全く平然としたものだった。

それだけで彼が今までどれほどの修羅場をくぐり抜けて来たのかを察することができるほどに。

ほむら「あら、随分と余裕ね?」

ハンター「そんなことはないさ。ほら…見てくれよ。足がこんなに震えてる。」

そう言うと彼は大袈裟によろめいて見せた。

ほむら「なら今から帰る?…私は一人でも行くけど?」

彼の落ち着いた態度に影響されたのか、少女も口元に意地の悪い笑みを浮かべて切り返した。

ハンター「はは…。それもいいかもね…けど。」

ハンター「依頼主を危険な目に遭わせる訳にはいかないからね。俺も行くよ。」

少女の鋭い切り返しに対しやんわりと答える。

ほむら「そう。」

彼と一緒にいると一人の時には常に感じていた不安は一切感じない。

代わりに不思議と安心感すら覚える。

少女は言葉少なく答えたが、内心では彼が依頼を快く受けてくれたことに感謝していた。

ほむら「さぁ!もっと先を急ぐわよ!」

ハンター「あぁ!急ごう!!」

暫く進んでいくと少女は、はたと足を止めた。

ほむら「もうすぐ追い付くわ」

そう言うと彼女は例の如くあの宝石を胸元に掲げ…。

魔法少女へと姿を変える。

ほむら「後少しで大きな広間に出るわ。」

ほむら「私の友達と一緒に、一人、魔法少女もいて、その子のお陰でここまで使い魔に遭遇せずに済んだけど…。」

ハンター「…。」

男は真剣な彼女に対し無言で頷く。

そして少女が男の“魂”、刀を盾から取りだし手渡した瞬間…!

ほむら「…ッ!しまっ!!」

彼女のとりまくの空間から何の前触れもなく黄色いリボンが出現し…。

ハンター「これは…!?」


瞬く間に、生きている蛇のような動きで彼女を拘束してしまったッ…!!

???「今度こそ邪魔はさせないわ!」

迂濶だった。一人で行動していれば決して生じなかった僅な油断。

その一瞬の油断が今の結果を招いてしまった。

ほむら「くっ!巴マミ!!」

巴マミと呼ばれた少女は真っ直ぐこちらに向かって来る…。

マミ「抵抗さぇしなければ何もしないわ。」

ハンター「ほむら!」

ほむら「私は平気よ!今はそれより…ッ!!」

桃色の髪の少女「ほむら…ちゃん??」

青い髪の少女「あぁー!お前!転校生!!」

巴マミと呼ばれた魔法少女の後ろから、彼女を追って戻って来たのか、二人の少女が姿を表した。

ほむら「…!まどか!騙されては駄目!!」


少女は必死に彼女に訴えかける。

男はまどかと呼ばれた少女に目を向ける。
そして昨日ほむら聞いた話から察するにもう一人が“美樹さやか”であることを確認する。

まどか「ほむらちゃん…どうして?こんなことするの??」

ハンター「…?ほむら。事情を話してな…?」

ほむら「いいからッ!」

男の質問を遮るように彼女は叫ぶ。

マミ「…そういえばそちらの方は?」

三人の少女の怪訝そうな視線が男に集まる。

ハンター「俺は…そう!ただの協力者だ。」

さやか「…協力者ぁ~?」
不審がっていることを少しも隠さない口調で彼女はそう言った。

???「まったく…君はいつも予想外なことばかりしてくれる。」

ほむら「…(ギリッ)キュウベェ!!」

そのキュウベェと呼ばれた動物(?)が表れた途端、彼女の顔は苦々しい表情に変わる。

ハンター(なるほど…こいつがキュウベェか…。)

キュウベェ「何を企んでいるか知らないけど、ボクらの邪魔しないでよ。」

さやか「そうだ、そうだ!こんなヤツらほっといて先に行こうよ、マミさん!」

マミ「えぇ…そうね。」

二人の少女は踵を返して先に進み始める。

まどか「ほむらちゃん…私も…行くね?」

まどかと呼ばれた少女も二人に続き先へと歩みを進めめ…キュウベェも後に続く。

その時だった。周りの景色歪み…形容し難い異形のものが現れる…!

ほむら「私は大丈夫だから…みんなを追って!!」

ハンター「いや!全然大丈夫じゃないだろ!!その盾に触れられないと魔法使えないんだろ!?」

ほむら「お願い!」

男は選択を迫られる…。

…どうする?

…いや、考えるまでもない!!

ハンター「ちょっと黙ってろ!…すぐ終わる。」

ほむら「…ッ!!」

男は背中に背負っている刀の柄に右手を無造作にそえる。

次の瞬間…男の身長ほどはあろうかという刀はその刀身をあらわにし、正面に立っている使い魔の両足の間。地面にめり込んでいる…

使い魔「ギギッ…?」

使い魔は自身の身に何が起こったかわからない。

目の前には凄まじい形相の男が立っている。

視線を足下にやると、自身の両足の間の地面に刀身をめり込ませた刀がある…。
再び男に視線を戻す。

男は静かに刀を鞘に納め…。
使い魔の視界は縦一直線に亀裂が走り…。

眼前の景色が分断された。
それがこの異形の者が見た最後の光景だった。

ほむら(速いッ!!)

それはほむらですら時間を止めたのかと思わせるほどの早業だった。

しかも、状況から判断するに、身の丈ほどもある太刀を右腕一本で抜き放ったのだ!

ほむら(これが…モンスターハンター…!)

あまりの出来事に彼らを取り囲む使い魔達は怯んだが一斉に遅襲いかかって来たッ!

ハンター「…この程度か。」

男は誰にともなく冷徹に言い放つ。

眼前から二体。そして後方から一体、その後ろにやや距離をおいてもう一体。
計四体が迫ってくる。

ハンター「…小物に用はないッ」

静かに呟くと背負っていた刀の鞘のベルトを外し、腰に添える。

まず前方から飛びかかって来た使い魔に強烈な蹴りを放つ!

腹部を強かに打たれた使い魔は吹き飛ばされ、今跳びか掛ろうとしていたもう一体に激突する。

前方の二体は堪らず折り重なった状態で姿勢を崩す。

そこへ無慈悲な横一文字の一閃が閃く。

その男の無防備な背中へ後方から一体の使い魔が襲いかかる!

ほむら「危ない!」

少女は思わず叫んでいた。
後方からとびかかった使い魔の腕は降り下ろされ…。

しかし…その腕は降り下されることはかなわなかった。

男は前方の二体を横薙ぎにした勢いそのままに上半身を右へねじって後方の敵をも薙払った!

使い魔は一矢報いることなく消え去った。

少女は振り向いた男と目が合った。

すると男は少女に駆け寄り…少女の顔に鋭い突きを放った!

ほむら「…!!?」

少女は思わず目を固く瞑る。

使い魔「ギギ…ギ…」


目を開けると右頬すれすれに刀が突き出されている。

このままでは敵わないと標的を男から少女に変えた使い魔は胸を貫かれ消滅した。

ハンター「終わったな…怪我はないか?」

ほむら「え、えぇ。」

ハンター「今、下ろしてやるからな。」

そう言うと男は少女の四肢を拘束するリボンを斬りつけた。

ハンター「…!?」

ハンター「硬い!?」

男は何度もリボンに斬りつける。

見た目に反して硬い手応えが返ってはくるが…徐々にリボンに切り込みが入る。
ハンター「良し!時間は掛ければなんとか…!!」

ほむら「ハンター!今度こそ私は大丈夫だから今から言う話を良く聞いて!!」

危機迫った少女の声に思わず彼は手を止める。

ほむら「一人でまどか達を追って!!このままだと…巴マミは!!」

ハンター「……!!」

~病院の結界 最深部~

一方…先へと進んだ少女達はこの結界の主と遭遇。
今まさに戦闘が開始されようとしていた。

まどか「…あれが…魔女?」

さやか「…?何かこの間の奴よりちっちゃくない?」

シャルロッテ「……。」

確に…今まで見てきた魔女よりも随分こじんまりとした風貌。

まるで小さな縫いぐるみだ。

マミ「二人とも危ないから退がって!」

その小さな縫いぐるみを守るかのようにたくさんの使い魔が配置されている…。

シャルロッテ「……!」

マミ(こちらに気付いた!…来るッ!!)

マミは使い魔が仕掛けてくる気配を察知し、無数の単発式マスケット銃を召喚する…。

そして襲いかかって来る使い魔をことごとく撃ち落としていく…!

マミ「…いける!いけるわ!!」

さやか「おぉ~!流石はマミさん!!」

後は魔女を残すのみ!

マミは残りのマスケット銃からありったけの弾丸を小さな縫いぐるみにくれてやった。

シャルロッテ「…!…ッ」

さやか「…効いてる!効いてるよ!!」

まどか「マミさん!頑張って!私たちも一緒だからッ!」

マミ(そう。私はもう一人じゃない!)

マミ(体が軽い。今なら何でもできそうな気がする!)

マミは集中し、魔力を練り上げ巨大な銃を召喚し、照準を小さな魔女に合わせ…引金に指をかける。

マミ「ティロ…フィナーレ!!」

彼女が放った光の奔流は一直線に魔女を飲み込んだ!

彼女が放った光の奔流が消えると、そこには満身創痍といった様子の小さな縫いぐるみがあった。

シャルロッテ「」

その小さな魔女はもはや微動だにしない。

さやか「やった…やったよ!マミさん!」

まどか「やっぱりマミさんはすごい!」

マミ「えぇ。やったわ!」

キュウベェ「……。」

マミ「グリーフシードを回収するから二人はそこから見てて。」

そして魔女シャルロッテへと近付く…。

シャルロッテ?「」

マミ「…?(あら?グリーフシードが…?)」


さやか「…!マミさん!!」

まどか「うしろー!!!」

マミ「…え?」

シャルロッテから抜けだした“それ”はマミの背後に忍び寄り…。

今まさにマミの頭に喰いつかんとする“それ”彼女の後頭部より少し上空で大きな口を開けて…。

その大口からマミの肩にボタリと唾液が滴った…。


マミ「」

まどか・さやか「~!」

二人の少女はもはや声にならない叫びをあげる。

誰もが最悪の光景を想像した。

二人の少女は思わず目を臥せる。

……だが、その絶望に文字通り希望の光が差した。

結界の最深部を覆い尽すほどの眩い閃光!

フラッシュは一瞬だったが、シャルロッテの中から現れた巨大な蛇のような物は堪らず退けぞった。

???「…ふぅ。間に合ったか。」

マミ「ありがとう…あなたは?」

マミは気付けば先程の男に抱きかかえられていた。

ハンター「俺はハンター。それに礼ならほむらに言うんだな。」

マミ「それって…どういう?」

ハンター「話は後だ!…来るぞ!!」

男は巨大な蛇の魔女の攻撃バックステップで避け、マミを優しく下ろした。

続けて男はカーゴパンツのポケットから球状の物を取り出し…。

それを魔女の眼前に投げつけた。

再び強烈なフラッシュが辺りを覆う。

そして魔女が怯んでいる隙に一気に距離を詰め、流れるような斬撃を叩き込む。

三人の少女はその光景をただ見守っていた。

暫くは怯んでいた魔女だったが次第に視力が戻り反撃を開始する。

ハンター「…チッ!視力が戻ったか…。」

シャルロッテ「……!」

魔女は先程のお返しと言わんばかりにその大口を開け、突進を繰り返す。

ハンター「悪くはない攻撃だ。…だが当たらねば意味はないッ!」

男はそれをサイドステップで巧みに避け、確実にカウンターを浴びせていく。

マミ(すごい…!魔女を圧倒しているわ。)

ハンター(後もう一押しといった所か…。)

男は抜き身の太刀を鞘へ納め正面の魔女の様子を伺う。

シャルロッテ第二形態「…。」

魔女は動きを止めている。
ハンター(仕掛けてこない。…それより奴はどこを見て…?)

ハンター「そうか!奴の狙いは…。」

言うないなや彼は真後ろに駆け出した。

同時に魔女も動き出す。


そう。狡猾な魔女は男の背後…消耗して座り込んでいるマミを狙った。

男がマミをかばうために攻撃を受け止めざるを得ないことを見越して…。

魔女の口から牙を覗かせ、動けないマミに再び襲いかかる。

マミ「…い、いやぁ!助けてぇ!!」


魔女が凄まじい勢いで少女に激突しようとした時。
恐怖に震える少女の前に男は踊り出た。

…ガキィン!…

形容するならそんな甲高い金属音が響き渡った。

大きく開かれた口に、横一文字に“つっかえ棒”を当てがう形で長大な太刀の刃が食い込んでいる。

魔女は刃の食い込んだ口の両端から血を流し、ぴくりとも動けない。

目の前の男も微動だにしない。

ハンター「今のは中々の攻撃だった…だがッ!」

男の手に力がこもる。

ハンター「当たったとしても意味はないがな…。」

シャルロッテ第二形態「…ッ!?」

男はそのまま強引に力任せで刀をメリこませて行き…一刀の元に魔女を両断した。

哀れ、二枚におろされた、元は魔女だった物は次第に光に包まれ消えてゆく。

消えゆく魔女の光を背に、男は静かに太刀を鞘に納め一人ごちた。

ハンター「狩られる側に回った気分はどうだい?」

眠気がヤバイのでそろそろオチます。

また明日続きをがんばる…zzz

再開します。


少女を拘束するリボンが消え結界の最深部にたどり着いた時、光に包まれ消えゆく魔女と、
太刀を鞘に納める男の姿が目に飛込んできた。

ほむら「…これは!」

最深部の入口付近で唖然と立ち尽くす少女の姿を確認した男は彼女に声をかける。

ハンター「安心しろ。みんな無事だ!」

男の言う通り、まどかとさやか、そして巴マミも生存している!

ほむら(…この人なら、ハンターがいてくれたら…。)

ほむら(まどかだけじゃなく、本当にみんなを救えるかもしれない!!)

危機は去り、壁にもたれ座り込むマミの元に自然と全員集まった…。

マミ「助けてくれてありがとう。」

まどか「ありがとうございます、ハンターさん」

さやか「あ、ありがと…。」

ハンター「どういたしまして…っと言いたいとこだが、」

みんな「…?」

ハンター「礼ならこのほむらに言ってあげてよ。」

男の一言で少女たちの視線はほむらに集まる。

ほむら「…え?」

ハンター「なぁ、ほむら…。みんなにもちゃんと言った方がいいと思うぞ。」

ハンター「…お前の“事情”を。」

ほむら「…。」

ほむら「で、でも“今まで”だってッ!…」

ハンター「その“今まで”はちゃんと伝えてきたのか?」

ハンター「“今回”は違うかもしれないよ?」

ほむら「わ、私は。…。」

ハンター「もう一度、信じてみろ!」


ほむら「…!…そうね。」

さやか「あ、あのさ…」

まどか「ほむらちゃんの“事情”って…?」

マミ「…?」

ほむら(確にハンターの言う通り、時間を長く繰り返す内に信じることを諦めていたのかもしれない…。)

まどか「…ほむらちゃん?」

ほむら(“今まで”はだめだったけど今回は確実にいつもと違う。)

さやか「どうしたんだよ、転校生?」

ほむら(もう一度、信じる、か…。)

マミ「暁美さん??」

完全に蚊帳の外になっている三人の少女に対して、少女は意を決して話し始める。

…彼女の“事情”を。

ほむら「みんなに聞いてほしいことがあるの!」

ほむら「私は…」

彼女は語り出す。

ずっと時間を繰り返して戦ってきたこと。

それは他ならぬ親友の為であること。

故にまどかの契約を阻んでいたことを。

そしてハンターも先程みんなを救えたのはほむらの“予言”であるとフォローを入れた…。

マミ「にわかには信じ難いけど…現にみんなこうして救われたのよね。」

さやか「転校生にも色々事情があったんだな…。」

まどか「うっ…うぅ…そんな…そんなのって…ほむらちゃんがあんまりだよぉ…。」

…とりあえずまどかが泣き止むのを待ってほむらはみんなに確認する。

ほむら「それで…私の話を信じてくれるの?」

マミ「えぇ。信じるわ。」

さやか「あたしらも信じるぞ!…なぁ?まどか。」

まどか「うん!あたしもほむらちゃんのこと信じるよ!!」

ほむら「まどか…!、みんな…!!」

ほむら「信じてくれて…ありがとう!」

マミ「いぇ。お礼を言うのは私達の方よ、暁美さん。」

さやか「そうだな!ありがとなっ!“ほむら”!」

まどか「今までずっとありがとうね…ほむらちゃん!」

ほむら「…ッ。」

少女は何か言おうとしたが感極まり言葉にならない。積年の苦労が報われたような気がした。

胸の奥が温かくなる。視界がどんどん滲んでいく。

ハンター「ちゃんと話せば伝わるもんだよ。」

ハンター「…今は素直に泣いていいと思うよ…。」ボソッ

その男の一言がきっかけだった…。

彼女の目から大粒の涙が溢れる…。

普段はどことなく大人びた印象の少女も、
今だけは年相応の少女のようにただただ溢れる感情に身を委ねる…。

そんな少女をいたわるように三人の少女は彼女を優しく慰める。

その光景を、男は遠くから感慨深げに眺めているのだった…。

マミ「暁美さん、少しは落ち着いたかしら?」

ほむら「えぇ。心配をかけてしまったわね…。」

さやか「なに水臭いこといってんだ?ほむら。」

まどか「そうだよ。ほむらちゃんは私達の大切な友達なんだよ?」

ほむら「ありがとう…友達っていいものね。」

マミ「うふふ…そうね。一人は辛いものね。」

マミ「それはそうと…。」
ほむら「…?」

マミ「ソウルジェムはあなたに譲るわ」

ほむら「…いいの?」

マミ「えぇ。今回はあなた達のお陰だし。」

ほむら「わかったわ。」

そこで彼女はふと気づく。
ほむら(…?ハンターの姿が??)

とりあえず今はソウルジェムの回収を最優先にし、元魔女だった縫いぐるみへ向かおうとして…

ほむら(あ…いた。)

その縫いぐるみの側に男はいた。

男は魔女の亡骸の側でかかんでいる。

その男に少女は近付く。
すると奇妙な音が聞こえてくる。

ザッ…ザシュ…ザッ…ザリッ…

ハンター「…♪」
《ハンターはシャルロッテの堅殻を入手!》ピコピコン♪

ほむら「ハンター?何をしているの?」

ハンター「何って…剥ぎ取りだけど?」

ザッ…ザシュ…ザッ…ザリッ…

ほむら「は…剥ぎ取!?…(ウプッ)」

《ハンターはソウルジェムを入手!》ピコピコン♪

ほむら(…見なかった事にしましょう。)

訂正※81 82 のソウルジェムはグリーフシードです。

すみませぬ。

マミ「暁美さ~ん?グリーフシードは回収できたの?」

ほむら「え、えぇ。無事剥ぎ取…回収したわ。」

魔女のグリーフシードが回収され、結界は徐々にその輪郭を失っていく。

魔女との厳しい戦闘を乗り越え少女たちは元の世界へと帰還する。

~見滝原 病院前 ~

さやか「ふぅ~。やぁっと帰って来られたな。」

まどか「今回はすっごく危い目にあったねぇ」

マミ「こうやって無事に帰ってこられたのは暁美さん達のお陰ね。改めてありがとう。」

ほむら「と、当然のことをしたまでよ…////」

ハンター「照れるな、照れるな。」ニヤ

ほむら「ち、違うわよ!」カァ

さやか「それに、ハンターさんもホント強いんだな!」

ハンター「まぁ仕事柄だしね…。」

こうして暫く皆で談笑したあと、それぞれの連絡先を交換して、それぞれの家路に着いたのだった。

~見滝原 病院前 ~

少女たちが病院を後にするその後ろ姿を眺めながら“彼”は呟く。

???
「なるほどね。どうりでボクと契約したことが曖昧になってたんだね。」

???
「やはり彼女はイレギュラーそのものというわけか。先手を打って行動されるのは厄介だね。」

???
「でも面倒なことになったな。彼女たちの結束が強くなって、接触し辛くなったのは痛いな。」

???
「まぁいいか…それは“彼女”をこの町に呼んで大いにその結束を乱してあげればいい。」

???
「今回はあのハンターとかいうもうひとつのイレギュラーのせいでうまくいかなかったけど…いい話が聞けたからよしようか。」

そう“彼”は結界の中で気配を消して様子を伺っていた。

???
「鹿目まどか…君は必ずボクと契約することになるのさ。」

―翌日 午後―

男は座って待っていた。
…ただただ待っていた。

~見滝原 病院 ロビー~

何故彼がこんなところにいるかというと、事の発端は昨日の夕食事に遡る…。

ほむらとお互いの健闘を称え、労い、他愛のない話に花を咲かせていた時のふとした一言だった。

ハンター「それにしてもまぁ生身の人間がよく魔女に勝てたなって我ながら思うよ。」

それを聞いたとたん彼女の顔色はみるみる蒼くなった。
男は何事かと彼女の様子を見守っていると…
唐突に彼女はこう言った。…曰く。

ほむら「とっさのことだったとはいえ鎧を渡せず、ほぼ丸腰で死地に赴かせるようなことをして申し訳ない。」

男は別に気にしていないと伝えたのだが、
やれ「怪我はないの?」、「長時間結界にいて心労は溜っていないの?」
とまくし立てられ、挙げ句の果てに「頼むから明日精密検査を受けて!」
と懇願された結果、断るに断り切れず「わかったよ」と返事してしまった事がそもそもの元凶だった。

ハンター「それにしても…」

この国は文明が物凄く発達しているんだなぁ…と男は思う。

男は朝から病院を訪れ“精密検査”とやらを受けさせられ、その結果を待っている。

正直、いろんな部屋をたらい回しにされ、見たこともない機材で体を調べられるのはいい感じはしなかった。
いきなり見たこともない機材で体をいじくり回されるような感じがどうしても好きになれなかった。

その苦痛な時間から解放された時には昼下がりのいい時間になっていた。

ハンター「…退屈だ。」

退屈を持て余し、鬱蒼とした面構えの男が焦点のイマイチ合わない目でぼんやり景色を眺めていた時、
その視界の隅に見知った人物が写った。

ハンター「あれは昨日の…。」

とたん男の顔に生気がもどる。これで退屈とおさらばできそうだ。

男はその青髪の後ろ姿に声をかける。

ハンター「こんにちは、さやかちゃん。」

声をかけられた少女は振り返る。

さやか「…あ、ハンターさん…。」

少女は男に気が付くと笑顔を作るが、どこか消え入りそうで元気がない。
…と、いうより酷く疲れている印象を受ける。

その表情にその男は何かを察した。

ハンター「…何かあったのか?」

さやか「あ、…はは。何かあったと言いますか…。」

ハンター「…悩みごと?」

さやか「…まぁ、そんなとこですね。」

ハンター「良かったら話くらい聞かせてよ。」

さやか「…じゃあ、聞いてもらえます?」

さやか「実は…。」

少し間をおいて少女は話を切り出した。

この病院に幼馴染みが入院していること。

最近は見舞いに来ても何故か邪険にされてしまうこと。

何とかして彼の右手を治してあげたいこと。

そして仲のいい友達からその幼馴染みに告白すると宣言されたこと。

ハンター「はは…なるほどな。」

さやか「あ~、今ちょっとバカにしてません?」

ハンター「そんなことないよ。」

さやか「ホントですかぁ?」

ハンター「ホントだって。…なぁ、さやかちゃん。一つ聞いてもいい?」

さやか「…?何ですか?」

ハンター「君はどうしたいの?」

さやか「…え~と?」

『…君はどうしたい?』
あまりに漠然とした問いに少女はその真意をつかめない。

ハンター「さっきの話を聞いてるとね、君の本音が全く見えないんだよな。」

さやか「あたしの本音?…。」

ハンター「もっとこう…自分に正直になってみてもいいと思うんだ。」

さやか「自分に、正直に…。」

ハンター「改めて聞くけど…」
そこで一旦止めると男は、少女の返答などおかまいなしに矢継ぎ早に質問を繰り出していく。

ハンター「どうしてその上條君に邪険にされるのが嫌なんだ?」

さやか「そ、それは…」

ハンター「どうして彼の手を治してあげたいの?」

さやか「だから、あた…」
ハンター「友達が告白するのを応援してあげられないのはなんで?」

さやか「…どうして素直になれないんですかね?」

さやか「はぁ~。やんなっちゃうなぁ…あたしってホント、馬鹿…。」

ハンター「ははははッ!そうだな。確に君は大馬鹿野郎だ!」

さやか「……、」ムッ

ハンター「せっかくだからこの際その仁美ちゃんに譲ってあげたらいいじゃないか。」

さやか「…なッ!?」

ハンター「だってそうだろ?どうせ、仁美ちゃん以外の誰かだったとしても簡単に譲れるんだろ?」

さやか「なにさ!あんたなんて何も知らないくせに!さっきから偉そうなことばっか言っちゃって!」

さやか「みんな自分勝手なんだ!あたしの気持ちなんて知ろうともしない!!」

さやか「仁美だって…恭介だってそう!!!」

さやか「あたしは恭介の事をどれだけ好きかなんてッ!!!!」

突然の少女の激昂に病院のロビーは静まり返る。

何事かと驚く人々の中で、男は一人落ち着いていた。

ハンター「今ちゃんと言えてたぞ。」

さやか「…何がッ!……あっ…。」


ハンター「それが素直になるってことだよ。大事なことはちゃんと言わないと伝わらないからね。」

さやか「…うん。」

ハンター「それにね、俺は何事も戦いだと思うんだ。」

さやか「…?」

ハンター「人生も恋愛も時には誰かとぶつかることもあるよね。そういう時は…」

さやか「そういう…時は?」

そこで男は不敵に笑いながら続ける。

ハンター「全力で相手を倒しにかかるんだよ!…だって手加減なんかしたら相手に失礼だろ?」

さやか「……。」

あまりに馬鹿らしく乱暴な言い草で、少女は一瞬唖然とした。

だが暫くすると胸の支えが取れるのと同時に笑いがこみあげてきた。

さやか「は、ははは…!そうだよね。そんな簡単なことなんだよね!!」

さやか「けど、ハンターさんが言うと何か重みが違いますなぁ。」

ハンター「そりゃもう日々戦ってますから。」

さやか「…あはは。それもそうですね。」

すっかり元気が戻った少女の顔を見て男は安心した。

そして多分これ以上は余計なお節介だと知りつつも男は少女をけしかける。

ハンター「なぁ、さやかちゃん。」

さやか「なんですか?」

ハンター「今からお見舞いに行くんだろ?」

男は誤魔化しても無駄だと言わんばかりに少女の右手に握られている物に視線を向ける。

それは一輪差し用の花だった。

さやか「…はい。」

ハンター「全力で戦ってこい!」

さやか「…!はいッ!!」

少女は男が何を言わんとしているのかを汲取り力強くそう答えた。

足早に階段へ向かう少女。

その直後、アナウンスで男の名前が呼ばれたので男は受付へ向かう。

そこで待ちに待った検査結果を受取り、入り口へと向かった。

だがこの時の男は知らなかった。

足早に階段に向かったはずの少女が一刻も早く恭介に会いたいという気持ちを抑え、
階段の直前で振り返り、男の後ろ姿が見えなくなるまで見送ろうと心に決めていたことを。

さやか(ハンターさん…ありがとっ。)

少女は神々しくすら見える男の後ろ姿に感謝の言葉を送る。

そして男が入り口に差し掛かったその時。
男は自動ドアに派手に頭をぶつけ…少女を少しがっかりさせるだった…。

さやか(なんか…凄いのか凄くないのか良くわからん人だなぁ…。)

さやか(でも…良い人だよね。)

少女は心の中でそう呟き、男の姿が見えなくなると、上條少年の部屋へと急いだ。

病院を出ると日は傾きかけていた。空がオレンジに染まっている。

先程ぶつけた額が痛む。

ハンター(どうもあの自動ドアとやらは苦手だな。不思議とタイミングが合わん…。)

帰りは生きと少し違う道を選んで歩いていると、男の目を一際惹き付けてやまない建物がそこにはあった。

男はその建物に吸い寄せられるように内部へと歩みを進めていく。

―夕方―
~見滝原町 教会~

教会の内部は本当にどこにでもありそうなありふれた内装だった。

男は特別に敬虔な宗教家でもないし、故郷に似たような建物があったわけでもない。

だからこそ自分が何にひどく興味を惹かれたのかが尚更気になったが、結局それは何なのか分からなかった。

しかし入ってしまったとりあえず祈りを捧げようとずかずかと奥の祭壇に向かう。

男の他に人はいない。

男は祭壇の前に立つと少し大袈裟に胸の前で十字を切り目を閉じる。

………。

暫しの静寂。


???「なぁ、あんた。神様って信じるかい?」

その静寂を打ち破るように、男は背後から声を掛けられる。

振り返るとそこには赤い髪とやや釣り上がった目が特徴的な少女が立っている。

男は少女に答える。

ハンター「神の存在は信じるけど、俺には必要ないな。」

赤髪の少女「…何で?」

ハンター「俺は自分の為にしか祈らないからだ。」

赤髪の少女「~♪」

男の返答が気に入ったのか少女は軽く口笛を鳴らす。

赤髪の少女「あんた、中々わかってんじゃねぇか!」

赤髪の少女「気に入ったよ!あたしは佐倉杏子ってんだ。あんたは?」

ハンター「俺はハンターって言うんだ。」

杏子「そうか、なぁ。ハンター!さっきは何をお祈りしてたんだ?」

ハンター「“帰ったら美味い飯が食えますように”って祈ってたんだ。」

それを聞いた少女は腹を抱えて笑いだした。

杏子「…く……くくっ……あははははははッ!!」

杏子「最高だ!気に入った!ますます気に入ったよ!!」

ハンター「そりゃどうも。」

杏子「食いもんを大事にするヤツは好きさ。」

杏子「ハンター!受けとれ!」

そう言うと少女はポケットから何やら取りだし、男に向けて軽く投げた。

少女が投げたそれを男は難無く片手で受けとる。

それは赤くて丸い…良く熟れたリンゴだった。

杏子「あたしは気に入ったヤツには食いもんを渡すことにしてんだ。」


ハンター「じゃあ早速頂くよ。」

男は少女の目の前で小気味良い音を立てリンゴを食していく。

そして芯も残さず平らげた。

杏子「いい食いっぷりだな。」

ハンター「良くそう言われるな。」

そして今度は男がポーチから何かを取りだし、少女に手渡した。

干し肉だった。

杏子「…?くれるのか?」

ハンター「あぁ。気に入った相手には食べ物を渡すのが君の流儀なんだろ?」


杏子「そ、そうだ。」

ハンター「だから貰ってくれ。」

杏子「なぁ、ハンター。」

ハンター「なに?」

杏子「あんたとあたしは食いもんを交換したから、今日から友達だ!」

ハンター「あぁ。君の流儀だとそうなるね。」

杏子「そんで、ここは私の家みたいなもんだから、いつでも遊びに来い。」

ハンター「わかった。また来るよ。」

男が教会を去ると再び静寂が訪れる…。

夕方の西日が窓から差し込むこの時間帯は嫌に孤独な気分にさせられる。

だが、今日の少女はそんなことは気にならなかった。

少女の中で先程の心地いいやりとりが思い出される。

杏子「…く……くくっ……」

杏子「それにしても面白いヤツだったなぁ…。」

杏子(何より初対面であたしと打ち解けるなんて相当の変わりモンだな。)

杏子(…って自分で言ってちゃ世話ないか…。)

杏子「アイツとはまた近々どこかで会える気がするな。」

こんなに笑ったのはいつ振りだったか…。

少女は珍しくそんなことを考えていた。

―夜―

~見滝原 ほむらの家~

昼間の男と打って代わり、今度は少女がひたすらに待っていた。

ほむら(…遅い。)

男は全身の精密検査を受けたのだから、かなり時間がかかるのは分かる。

…分かるのだが。

ほむら「遅すぎるわ!」

確に遅すぎる。
男は午前中に病院に向かったはずだ。
もしかしたら検査の結果が深刻だったのかもしれない…。

ほむら「放課後様子を見に行った時は…」


《ピンポーン》

ちょうどその時インターホンが鳴った。

インターホンを鳴らした時に男は気付く。

ほむらから部屋の合鍵を渡されているのだから別に呼び鈴を鳴らさずともドアを開ければ良かったのだ。

男は鍵でドアを開ける。

玄関に入り靴を脱ぐと心配そうな面持ちの少女がリビングからやって来た。

ほむら「ハンター!何か深刻な問題でもあったの!?」

ハンター「いや、何も問題ない。」

………。

少し変な沈黙の後、少女は怪訝な顔で男に尋ねた。

ほむら「…だったらなぜこんなに遅かったというの?」

男は思う。心なしか少女の声が先程より随分トーンが低いような…と。

ハンター「回り道をしたら遅くなった。」

次の瞬間少女は光に包まれ。

男は何故かさっき開けたはずのドアの前に立っていた。

状況から察するに、彼女の魔法の力だろう。

男はポケットを探る…ご丁寧に合鍵まで没収されてしまったようだ。

いわゆる“閉め出し”というやつだ。
素っ裸にされなかったのがせめてもの救いか…。

さてどうしたものかと思案していると、ドア越しに少女の声が聞こえて来た。

ほむら「昨日、私が鎧を渡せなかったせいであなたの重大な傷を負ったのではないかと…とても心配していたの!」

ハンター「そうか…ごめん。」

ほむら「反省…した?」


ハンター「…あぁ。」


わずかな言葉のやりとりの後、ドアのロックが解除される。

ドアを開けて中に入る。

ほむら「…。」

少女は何も言わない。

ハンター「すまない。軽率だった。」

ほむら「…あなたが無事ならそれでいいわ。」

そう言い残して彼女は先にリビングへ向かう。

男もそれに続く。

リビングのテーブルには二人分の食事が用意されていた。

どちらも全く手がつけられていない。

男が帰ってくるまで待っていてくれたのであろう。

ほむら「じゃあ食べましょう。」

ハンター「あぁ。」

二人「いただきます。」

ハンター「うまいな。」

ほむら「ありがとう。」

こうやって美味い夕食にありつけたのは昼間のお祈りのお陰かもしれない。

神頼みも時には約に立つこともあるんだな…と彼はそんな他愛もないことを考えていた。

※114 ありがとう

ほむら「それにしてもあなたは大したものね。」

ハンター「なにが?」

ほむら「刀一本で魔女を倒したのも凄いけど…」

ハンター「…?」

ほむら「実は放課後にね…」

彼女の話によると、放課後男が心配になって病院に行ったらしい。

そして、さやかとのやりとりから男が検査結果を受けとる所まで見て家に帰ったそうだ。

ハンター「…来てたならどうして声をかけてくれなかったんだ?」

ほむら「素直に感心したからよ。」

ハンター「感心?」

ほむら「そう。あなたがさやかから受けた悩み事の相談があったでしょ?」

ハンター「確かに相談はされたが…?」

ほむら「その悩みがきっかけで色々と大変なことになるところだったのよ。」

ハンター「よくは分からんが…目標達成に大きく近付いたってことだな?」

ほむら「えぇ。そうね」

少女は薄く笑って答えた。

ハンター「役に立てて何よりだ。」

ほむら「ふふ…。期待してるわ。」


役に立てたのはいいが…。さっきから男は気になっていることがある。

ハンター「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

ほむら「何かしら?」

ハンター「さっきのさやかの話のさ“色々困る事”って…何?」

…………。

ほむら「え?」

ハンター「俺らの目的はワルプルギスの夜の討伐とまどかを魔法少女にならせないことだったよな?」

ほむら「えぇ。間違いないわ。」

ハンター「つまりその目的の達成に支障がでることが即ち“困る”こと…だよな。」

ほむら「そ…そうね。」

少女は明らかに動揺している。

ハンター「だよな。俺が気になったのはそこなんだよ」

ハンター「普通なら個人のごくごく内面的な問題なんかがワルプルギスの夜の討伐に影響が出るとは到底考えられん」

ほむら「…。」

ハンター「けど、さっきのほむらの言い方だと、深刻な問題が生じるっていうように聞こえたんだよな。」

ほむら「………。」

ハンター「つまり、さやかが悩みを抱えたままだったら何かが起こってたんだな?」

ハンター「…と、言うよりさやかはどうなってたんだ?」

男のその言葉を聞いて少女は目を見開く。

少女はまだ男に一つだけ隠していることがある。

そして男はその隠し事にある程度の確信があるようだ。

ハンター「俺はじゃあ力になれない?」

ほむら「そんなことないッ!…そんなことはないけど!!」

ハンター「なら、教えてくれ。君の力になりたいんだ!」
男は尚も食い下がる。

ほむら「…分かったわ。」
そして少女は最後の秘密を打ち明ける。

…ソウルジェムの秘密。

…グリーフシードの秘密。

魔法少女と魔女の関係。

話し終わった彼女はただ辛そうにうつ向いている。

そんな彼女にかけられた言葉はまたしても意外なものだった。

ハンター「そんな顔しないでくれ」

ほむら「……あ。」

少女は顔を上げる。
そこには穏やかな男の顔があった。

少女は話の流れから隠し事をしたことを咎められるとおもっていた。

だからその意外な男の反応に対して少し間の抜けた声を出してしまった。

ほむら「…怒らないの?」

ハンター「…なんで?」

ほむら「だって…私はあなたに隠し事をしていて…みんなにも話せなくて…騙して。」

ハンター「それは騙したんじゃなくてみんなを気遣ったんだろ?」

ハンター「少なくとも俺には隠さなくてもいい」

ほむら「……。」

そう。先程男が気になったのはある程度検討がついていた隠し事の“内容”ではなかった。

彼が気になっていたのは少女が自分にまでわざわざ気を遣うことだった。

ハンター「君はいろんなものを背負い過ぎだ。…せめて俺にくらいは気を遣うな」

ほむら「だって…特にあなたは…」

ハンター「この事を知ったら…皆を魔法少女から解放する方法はないかと…、余計な心配を掛けてしまうと…そう思ったんだろ?」

ほむら「…えぇ。」

申し訳なさそうな彼女に対して、男は優しくこう言った。

ハンター「それこそ大きなお世話だよ」

ほむら「わかったわ…次からは気をつける。…ありがとう。」

ほむら(…本当に…ありがとう)

そんな男に、少女は言葉だけでなく心から感謝の意を示す。

ハンター「あぁ。それでいい。」

男は穏やかな笑みを浮かべそう答える。

少し安心して落ち着くと、少女の中で当然の疑問が浮かぶ。

ほむら「そういえば、あなたは魔女と魔法少女の関係について…」

ほむら「それなりの確信があったように思えるのだけど…」

その疑問に対して男は答える。

ハンター「ん?…まぁ、確信とまでは言えないけど、ある程度の見当はついてたな。」

ほむら「それは…いつから?」

ハンター「昨日の魔女との戦いで色々思うところがあったんだ。」

男はその“思うところ”について口を開く…曰く。

魔女と対峙した時、
自分に向けられたのは今まで相手にしてきたモンスターのような純粋な殺気ではなく…そこには人間のような雑多な感情のような物が混じりあっていたこと。

回収したグリーフシードの形状を見てなんとなくソウルジェムに似ている気がしたこと。

戦闘で消耗したマミがグリーフシードを使用したのを見た時、
“汚れ”を別の容器に移し変えただけで“汚れ”を溜める器という見方で考えると根本的には同じ物のような気がしたこと。

ハンター「まぁさすがに、本人の精神状態如何で魔女になるとは思わなかったが…。」

ほむら「……驚いたわ。」

少女は本当に驚いていた。強いだけでなく相当頭もきれる。…何より尋常ではないその観察眼に。

ほむら「あなたは…何者なの?」

ハンター「何者もなにも…見たまんまのしがない狩人だけど?」

男はとぼけてみせる。

ハンター「…それよりさ、提案があるんだけど。」

ほむら「…?何かしら?」
ハンター「この際依頼内容を変更しないか?」

唐突な提案に少女はその真意を掴めない。

何も言わない彼女に対し男は続ける。

ハンター「依頼の内容をワルプルギスの夜の討伐と…」

ハンター「……君の仲間を助けることにしないか」

ほむら「…ッ!」

ハンター「どうせ守るなら一人なんてケチケチしてないで全員でいいだろ?」

男はそう言い放ち、ふてぶてしく笑いながら続ける。

ハンター「その方が俺としてもやりがいっていうか、モチベーションが上がるしな!」

ほむら「なんて言うか…あなたらしいわね。」

そんな男を見て少女は微笑みを浮かべる。

ハンター「…本当はみんなを助けたいんだろ?…」

ハンター「…任せておけ。」

少女はそれ以上は何も言わず男から顔を反らす。

その目には涙が溜っていたからだ。

男もそれ以上何も言わず、彼女の方を見ないでただ一言「部屋に戻る」とだけ呟いてリビングを後にした。

一人リビングに残された少女は思う。

少女を閉じ込める永久に繰り返される時間の監獄。

あの男はその絶望の監獄から自分を解放してくれる鍵のようなもの…

いや、その絶望の監獄そのものを打ち砕き、自分だけではなくみんなを救う事ができる切札なのかもしれない。

ほむら(ハンター…。)

少女は熱くなった目元を拭い男が消えていったドアをただただ見つめていた。

―同日 深夜 ―

~見滝原 教会~

???「君がこんなところにいるなんて珍しいね。どういう風の吹き回しだい?」

声と共に唐突に“彼”は姿を現す。

???「ん?…あぁ、あんたか…今日は珍しく面白いことがあったんだ。」

少女はいきなりの来客にも関わらず眉一つ動かさずに応じる。

???「そういえば、いつもよりいい顔してるね。」
???「そう見えるか?」

???「まぁボクには人の感情なんて理解はできないけどね…。」

楽しげな表情の少女とは対称的に“彼”は無機質な表情のままだ。

???「ボクが君をここに呼んだのは他でもない。君に魔法少女としてやってもらいたいことがあるんだよ…」

???「わぁかってるよ!あんたに言われなくてもあたしはあたしのやり方でやらせてもらうさ!」

そう言うと彼女は口にくわえていた棒付きのキャンディを噛み砕いた。

夕方の穏やかな雰囲気とは打って変わって、その教会は不穏な空気が漂い始めていた。

ー 翌日 朝 ー

~見滝原 市街~

男は登校するほむらを見送った後、
来たるべき日に決戦の舞台となるこの町をもっと良く見ておこうと町を散策することにした。

ハンター(……。)

その道中、男は物思いに更ける。

今朝、彼らは二人ともかなり早くに目が覚めた。
なので少女の登校時間が来るまで色々話していた。

…彼は今正にその話の内容を思い変えしていた。

昨日教会で偶然会った佐倉杏子。
彼女もまた魔法少女であり、同時にほむらが助けたい仲間の一人であること。

魔女と魔法少女が表裏一体であることを知ると、マミの精神は危険な状態に陥ってしまうこと。

さやかが魔法少女になるとかなり高い確率で魔女になってしまうこと。

ハンター(これからは気を引き締めんとな…。)


男は眉間に皺を寄せつつ散策を続けた。

~三滝原中学校 教室~

長い黒髪の少女は教室に入ると一直線に自分の席へ向かい椅子に座る。

そこへ桃色の髪の少女が近付いていく。

まどか「おはよ~。ほむらちゃん!」

ほむら「おはよう。まどか」

回りのクラスメイト達はこの二人が短い間に名前で呼び合うほど仲良くなっていたことに少し驚いた様子だった。

ほむら「…あら?さやかは??」

まどか「今日はお休みなんだって。」

ほむら「そう…。」

まどか「珍しいよね。」

…確かに珍しい。

彼女の悩み事がいい方向へ向かったのだからこの時期に欠席しないはずなのだが…。

まぁ、風邪を引いたりする事くらいはあるか、と彼女は結論づけて、彼女はあまり気にしないことにした。

― 同日 朝 ―

~見滝原 某公園~

???「テレパシーを使ってわざわざこんなところに呼び出すなんて、どうしたんだい?」

後ろから声をかけられた少女は振り替える。

さやか「あんたにちょっと用事があってね。」

キュウベエ「どういうことだい?君は僕の目的を知ったんだろう?」

キュウベエ「それなのに君から接触してくるなんて…わけがわからないよ…。」

さやか「それでも…あんたにどうしても叶えて欲しい願いがあるんだ!」

キュウベェ「それはボクと契約して魔法少女になってくれるということなのかな?」

さやか「いいから速くして!」

少女は彼に願いを告げる。

彼女の胸元から卵型の宝石が出現し…

次の瞬間少女は光に包まれ魔法少女へと変身する。

キュウベェ「これで契約完了だよ。」

さやか「ちゃんと願いは叶えてくれたんだろうな?」

キュウベェ「もちろん。ボクはちゃんと約束を守るからね。」

さやか「嘘だったら承知しないからな。」

そう言うと彼女は変身を解き町外れの人気のない公園を後にした。

~見滝原 病院 ~

病院の玄関の前で立ち止まり少女は昨日の出来事を思い出す。

想い人、上條恭介に想いを告げ…恋人同士になれたこと。

彼の支えになりたいと心から思ったこと。

そして、彼の為に…。何より彼が喜ぶ顔を見たい自分自身の為に、彼の手を“治して”あげたいと思ったこと。

さやか(あたしは自分の為に魔法少女になったんだ!)

さやか(…だから後悔なんてない!!)

彼女は心の中で呟き…恋人の病室へ向かう。

~見滝原 病院 病室~

少女は病室の扉を開ける。
さやか「恭介~。お見舞いに…。」

恭介「さやか!?何でこんな時間に…?」

恭介「いや!それより見てよ!…右手が!指が動くんだ!!それでさっき丁度先生を呼んだところで…!」

少年は矢継ぎ早に巻くし立てる。

さやか「…!ホントに!?恭介…、良かったね恭介…。」

恭介「あぁ。これで退院できる…。さやか…退院したら一緒にデートしよう!」

さやか「うん…!うん…!」

少女は目に涙を浮かべてただただ頷いている。

恭介「…!そうだ!さやか。そこのバイオリン取っ手くれないか?」

さやか「……え?」

恭介「君にまた…僕の演奏を聞いて欲しいんだ。」

さやか「……ッ!」

驚きつつも少女は彼にバイオリンを手渡す。

少年はそれを受けとり、美しい音色を奏でる。

少女はただだだ黙ってその音色に耳を傾けていた。

暫く後、医者と看護師が来て検査の為に演奏は中断される。

少女は病室を後にする。

その顔に後悔の色などなかった。

― 同日 昼 ―

~見滝原 市街 ~

男は“コンビニ”とやらで買った缶ジュースを片手に街を歩いていた。

ギルドからあらかじめ支度金をこの国の通過で支給されていた為支払いも何ら問題はなかった。

ハンター(…しかし広い街だな。一日では回りきれんな。)

当てもなくただ歩く男に向かって元気な足音が近付いてくる。

さやか「ハンターさ~ん!」

ハンター「あれ?さやかちゃん?こんな時間にどうしたの?」

さやか「いいから、いいから!…それより聞いて欲しいことがあるんです!」

ハンター「あ~…もしかして昨日のこと。」

その表情で“うまくいった”ことは明白だが男は少女の肩に“ポン”と手を置き答えた。

ハンター「ご愁傷様だったね…。」グスッ…

さやか「いや…違いますから!」

さやか「むしろその逆…と言いますか…。」

少女は照れ臭そうに呟く。

ハンター「うまくいったんだ?」

さやか「はい!お陰様で。」

ハンター「俺はなんにもしてないよ。それより良く頑張ったな。」

さやか「えへへ~。頑張っちゃいました!」

はにかむ少女はとても嬉しそうだ。

少女の話が思っていた通りの内容だったことに安心し、男は缶ジュースを口もとに運ぶ…

さやか「それともう一つハンターさんに聞いて欲しいことがあるんです!」

ジュースを飲む男はアイコンタクトで「話を続けて。」と少女に促す。

さやか「私魔法少女になったんです!」

ハンター「ッ!?…ブッ!!」

そして、少女の口から語られた思いもよらない話に男は盛大に吹き出した…。

さやか「うわっ!ちょっとハンターさん!?…きったないなぁ~、もう。」

少女は反射的に避けたが、顔に少しかかってしまう。

ハンター「ゲホッ!ゴホッゴホッ!…あぁ、ごめんごめん!…ゲホッ…!?」

少女はハンカチを取り出して顔を拭いている。

しかし今男に目の前の少女を気遣う余裕はなかった…。

ハンター(おいおい!嘘だよな!?彼女は悩みが解決したら魔法少女にはならないんじゃなかったのか!?)

さやか「…もう。大丈夫ですか?」

少女は健気にも男の背中をさする。

ハンター「…あぁ…ゴホッゴホッ!…ふぅ…ありがとう。」

男はとりあえずポーカーフェイスは崩さなかったものの、頭のあることで一杯だった…。

『さやかが魔法少女になった場合、高い確率で魔女になる…。』

ハンター「…もう大丈夫だ。」

さやか「あははは!以外とおっちょこちょいなんですね!」

大丈夫とは答えたものの、この時の男の心中はあまり大丈夫ではなかった…。

その時の男の胸中を表したかのように、いつの間にか空は鈍よりとした灰色の雲で厚く覆われていた。

ハンター(まぁ、なんとか…なる……よな?そうだよな?…うん。)

男は必死でそう自分に問掛けて、自分で答えるという訳の分からない問答を繰り返していた。

そしてまた歩き出そうとしたその時だった。

さやか「この近くに使い魔の気配がする!…ハンターさん!!」

少女はそう言うや否やビルの間の路地裏に駆け込んでいく…。

ハンター「…待て!さやかちゃ…!…クソッ!行くしかないか!!」

そして男も少女の後ろ姿を追い路地裏へ急いだ。

~見滝原 市街 路地裏 ~

さやか「ッ!いた!待てぇ~!!」

少女の後ろ姿を追いながら男はあれこれ思案していた。

ハンター(使い魔って結界の外にもいるものなのか!?)

ハンター(こんな市街地で遭遇戦になるとはな!)

ハンター(しかも今は完全に丸腰だ…何か使える物は…。)

駆けながら男は狩猟道具の入ったポーチに視線をやり、その中に手を入れる。

ハンター(今使えそうなものは、これと…これくらいか。)

男は瞬時に判断し、腰にぶら下がったポーチから手を引き抜こうとして…。


さやか「どうだ~!見たかぁ!!」

男に選ばれた狩猟道具は使われることはなかった。

声の方へ視線を送る。

いつの間にか魔法少女へと変身した彼女は空中へ跳躍し、手にした剣で使い魔を両断していた。

だが…次の瞬間、少女の姿は“消えた。”

再び視線を路地に戻すとさやかは地にうつ伏せに倒れ、その背中には足が置かれている。

さやか「…ッ!?…痛っ!!」

倒れ込む少女の背中を踏み付けるその人物は眼下の少女に対し言い放つ…。

???「おめぇ…何やってンだよッ!」

???「お前…魔法少女だよな?」

少女はさやかを踏み付ける足にさらに力を込める。

さやか「…ぐ…ぅ…。だったら……なんだッ…」

さやかは気丈に返事を返す。

???「お前は馬鹿か!?卵産む前の鶏シメてどうすんだよ!!」

少女は全く足の力を緩めない。

さやか「…な…にをォ…!?」

さやかは必死で彼女の踏み付けるから逃れようとするが、逃げられない!

???「使い魔は魔女になるまで泳がせて…」

???「グリーフシードを孕むまで待ってからシメなきゃ意味ないだろぉが!」

そう言って少女は手に持っている長い槍を振り上げ…。
眼下の少女に狙いを定める。

ハンター「やめろ!杏子!!」

今、槍が振り下ろされんとしたその時、二人に追い付いた男は叫ぶ。

杏子と呼ばれたその少女は手を止め、視線だけをこちらに送ってくる。

杏子「あぁッ!?……ッ!…お前は……ハンター!?」

男に向けられた鋭い眼差し。
しかしその男が何者であるかを認識すると少女の目は大きく見開かれる。

ハンター「その子を離してあげてくれ!!」

男は杏子に向かって言い放つ。

杏子「……。チィッ!……あぁ~、もう。分かったよ!離しゃいいんだろ?離しゃあ。」

杏子は男の言葉に応じてさやかを解放する。

杏子の足から解放されたさやかは咳き込みながら後方へ飛び退く。

そして息を整え立ち上がり杏子に剣を向ける。

さやか「馬鹿はお前の方だろッ!!」

杏子「あぁッ!?」

対峙する杏子は再びさやかに槍を向ける。

さやか「魔法少女ならッ!人を助けるのが使命だろ!…そうですよね!……ハンターさん!!」

杏子「違うなッ!魔法少女の力は自分の為に使ってこそのもンだ!!…お前もそう思うよな!…ハンター!!」

二人の少女の視線は一人の男に向けられる。

男は思う。
ハンター(二人ともなぜ俺に聞く?俺は魔法少女でもなければ、少女でもない。どちらかと言えば男だ。…むしろ野郎だ。)

男は深く自分の中で問答を繰り返している間にも二人はジリジリとお互いの距離を詰める。

ハンター「二人とも、武器を下ろすんだッ!」

杏子「―――ッ!」
さやか「―――ッ!」

もはや一触即発だ!!

これ以上何を言っても無駄だと悟った男は軽く目を閉じて息を深く吸い込み…。

そして叫ぶ。

ハンター「杏子ッ!さやかッ!」

杏子・さやか「…ッ!?」

名を呼ばれた二人の少女は体をこわばらせ、戦闘体勢の姿勢はそのままに、視線だけを男に向ける。

ハンター「今更もう止めはしない!…けどここでは人目に付くかもしれない!」

ハンター「だからとりあえず場所を移そう!」

ハンター「それまでお互いに手をだすんじゃない!この勝負は俺が預かった!…いいなッ!?」

男の話を聞き終えた二人の少女は黙って頷き、変身を解いた。

だが二人ともあくまで休戦であって戦いを止める気配は毛頭ない。

勢いでこんなことを言ったものの、この先どうしたものかと男は思案を巡らせる…。

場に沈黙が訪れる。
その長い沈黙を破ったのはさやかだった。

さやか「ここの近くに木が生い茂って森みたいになってる廃れた神社があるから…そこで決着を付けましょう。」

そう言ってズカズカ歩いていくさやかの後を杏子は無言でついていく。
このまま二人だけにするわけにもいかず、男も二人の後に続く。

~見滝原 町外れ 廃神社~

さやかの案内により、三人は市街地から少し離れた廃神社に到着。

境内は、少し開けた広場を覆い隠すように周り一面を鬱蒼と木々が生い茂り神社を一層人目から遠ざける。

奥の社(やしろ)は朽果ててボロボロになっている…。確に誰も好き好んでこんなところには来ないだろう。

さやか「着いたけど?」

杏子「じゃあ始めるか?」

二人はそれだけ言うと魔法少女へと姿を変え…向かい合う。

一方男はまだ悪あがきをやめようとしない。この期に及んで二人を止める方法をしつこく考えていた。

男は確かに紛れもない手練の戦士だが何の武器も防具もない状態だ…。

その状態で魔法少女二人を相手にして、どちらも怪我をさせないようにとめる方法なんて…。

まるで「古龍の類の化け物を捕獲しろ!」と命令される位、無謀だ…。

と、そこまで考えて男はあることを思い付き、地面を見る…境内の地面の土である…。

そっと腰の大きなポーチに手を入れると確かに“それ”はあった!

男はその道具の手触りを確認すると不敵な笑みを浮かべる。

そう、男は、この土壇場で今まさに勝利の方程式に辿り着いたのである!

ひとつ深呼吸をすると男は努めて冷静なポーカーフェイスを纏って二人の少女にゆっくりと話かける。

ハンター「二人とも、ちょっと俺の話を聞いてくれ。」

杏子・さやか「…?」

対峙する二人は構えを解かず再び視線だけを男に送る…。

勝負をやめるつもりはないが一応話は聞いてくれるらしい。
それを見て男は続ける。

ハンター「さっき勝負は俺が預かると言った。…だから勝負のルールは俺に決めさせてもらう!」

二人とも静かに頷く…。

その瞬間男は自身の揺るぎない勝利を確信した。

男は境内の中央へ行くと、腰にぶら下げたポーチから大き目の“ジャッキ”のような物を取り出す。

そしてその“ジャッキ”のような物はを地面に“設置”した…。

すると、設置された“ジャッキ”状の物からポールが延び、男を中心にして大きな六角形の枠が地面に敷かれ、その枠の内部の土はがやや盛り上がる。

そして最後にポールが地面に沈み込むと、境内の中央に“六角形の土俵”が表れた。

ハンター「二人には今からこの“土俵”の中で戦ってもらう!」

ハンター「ルールは簡単だ。土俵から押し出されたり、膝を先に地面着いた方が負けだ!」

さやか「わかりました。」
杏子「へっ!上等じゃん!」

二人は“土俵”の中に入り再び静かに対峙する。


男は“土俵”から少し離れた所に片膝を地面に着いて屈んで右手を真っ直ぐ空に掲げた。

ハンター「準備はいいか?二人とも。俺が“始め”と言ったら勝負開始だ!」

二人はまた無言で頷く。

ハンター「じゃあいくぞ…」

男はゆっくりと息を吸い込んだ。

二人の少女は合図を今か今かと待っている…。

すると男は無言で空高く掲げていた右手を堅く握り締めて拳をつくり、それを全力で振り下ろし地面を殴りつけた!
強烈な振動が地面に伝わる!
途端…二人の少女は浮遊感に襲われる。

さやか「え!ちょっ!?」
杏子「な!…はぁッ!?」

二人は地面に“落ち”首から上を残して埋まってしまった!

ハンター(…かかったッ!)ニヤ

二人の少女は目を白黒させている。

つまり男は“土の地面”に六角形の枠の“落とし穴”を設置して二人を“捕獲”してしまったのだった!!

さやか「な…何ですかこれッ!?…ハンターさん!?」

杏子「ハンター!てめぇ!…クソッ!…抜け出せねぇ…!!」

二人はあがくがビクともしない。
対大型モンスター用のトラップ相手に流石の魔法少女もなす術がなかった…。

唖然とする二人。
そこへ、先程から雲って来ていた空から雨が降り出した。

血が滲む右手の甲をさすりつつ、男はにこやかな顔で二人にこう言い放つ。

ハンター「…お前ら、そこで少し頭を冷やせッ」

その男の笑顔を見た時二人の少女は思った。(目が笑っていないッ!)、と。

キリが良くなったので今日はこの辺にします…

暫くして男は「喧嘩しないなら出してやる」と二人に告げる。

それでも尚二人の少女は必死で抵抗するがトラップから抜けらない。

おまけに降り出した雨に打たれ続けて徐々に戦意を喪失。

渋々男の要求を飲むことにした。

堀起こされたずぶ濡れの少女達は男に恨めしそうに見つめる。

杏子「こいつ、鬼だな」
さやか「…そうだな」

二人の少女はブツブツと恨み事を垂れ流す。

ハンター「ん?何かいったか?」

男はまたしても笑顔で答えるがやはり目の奥が笑っていない…。

杏子・さやか「…。」

男の異様な迫力にとうとう二人は文句を言うことをやめる。

すっかり大人しくなった二人を見て男は口を開く。

ハンター「それより雨宿りできる所を探さないとな。」

当然ではあるが男もずぶ濡れである。

杏子「あ~ぁ、あんたには参ったよ。」

杏子「とりあえず手頃な雨宿りの場所ならあるけど二人とも来るかい?」

本格的に降って来た雨の中、三人は神社にせを向ける。

そして先程の短いやりとりを見て男は思う。

あの二人は実は気が合うんじゃないか…と。

杏子「おい!さっさと来いよ、何してんだハンター!」

さやか「早くしないと置いてっちゃいますよ~?」

少女達に急かされて男も神社を後にした。

― 夕方 ―

~見滝原 教会 ~

杏子の案内により一行は町外れの教会についた。

偶然にも神社の裏手からはものの五分ほどの距離だった。

杏子「全く、散々な目にあったな。」

さやか「元はといえばあんたが…」

ハンター「はいはい、そこまでだ。」

男は面倒くさそうに体を拭いている。

この教会のタオルを杏子から借りたのだった。

そして教会で変身を解いた少女達の元の服は全く濡れていないので男は自分だけが損したような気分になっていた。

杏子「そういえばお前さぁ…」

ふいに杏子はさやかへ話掛ける。

さやか「なんだよ?」

さやかは不機嫌そうに答える。

初対面で踏みつけにされたのだから無理も無い。

杏子は構わず続ける。

杏子「さっき魔法少女は人の為に戦うものだとか言ってたよな?」

さやか「それが何よ?」

杏子「おまえ、何の為に魔法少女になったんだ?」

さやか「だから何であんたなんかに…。」

そこで二人の会話を傍観していた男が口を開く。

ハンター「それは俺も気になるな…」

さやか「…!ハンターさん!?」

思わぬ質問に少女は驚く。

ハンター「ほら、町で会ってイキナリ“魔法少女始めました”みたいに言われたからさ。」

さやか「いや、そんな軽いノリじゃありませんからっ!」

さやか「あたしはちゃんと考えて恭介のために…」

杏子「…!…お前、他人のことを願って魔法少女になったのか!?」

ハンター「……。」

杏子「やっぱりお前馬鹿だろ?願いを他人の為になんて…」

さやか「さっきからひとのこと馬鹿、馬鹿って言うな!」

再び不穏な空気が漂い始める

男は頭を拭く手を止め様子を静かに伺う。

さやか「それに他人の為だけじゃない…」

さやか「あたしは“あいつ”の喜ぶ顔を見たいあたしの為にも願ったんだ!」

杏子「…後悔することになるぞ?」

さやか「あたしは後悔したりしないッ!」

杏子「…」
さやか「…」

二人の間の空気が張りつめる。

杏子「やれやれ…これだからシロートは…。」

さやか「…なっ!?」

杏子「ま、せいぜい頑張りな。」

さやか「…ふんッ。」

その時、男の腹から情けない音が鳴った。

ハンター「そういえば腹が減ったな。」

杏子はやれやれ、といった顔で服のポケットを探る。

そしてチョコレート菓子を取り出して男に差し出した。

男は礼を言うとそれを受けとる。

杏子「お前も食うか?」


杏子はさやかに手を差し出す。

さやかは差し出された手からチョコレート菓子を受け取ろうとして…。

さやか「やっぱ、あたしはいい。」

それを見た男は間髪入れずに言った。

ハンター「もらっといた方がいいよ。雨が止むまでしばらく出られないし…」

ハンター「それに…食える時にちゃんと食っとかないとな。」

さやか「…。」

さやかは杏子の手から菓子を受取り礼を言った。

さやか「…ありがと。」

杏子は満足気に答える。

杏子「それでいい。人の施しは素直に受けるもんだ。」

ハンター「そのとおりだな。」

杏子「お前はもうちょっと遠慮しろ…」

ハンター「良くそう言われるな」

しれっと答えるその男を見て杏子は笑う。

杏子「はは…。やっぱ変なヤツだな、あんたは。」

それにつられてさやかも笑う。

いつの間にか教会は穏やかな空気に包まれていた。

さやか「そういやさ…」

杏子「ん?」

さやか「あんたはどうして魔法少女になったのさ?」

さやかの問いに少し間をおいて少女は答える。


杏子「…そんな昔のこと、とっくに忘れちまったよ」

さやか「何それ?あたしのことだけ聞いといてズルくない?」

杏子「まぁ、またいずれ…な?」

さやか「なんだかなぁ…」

杏子「それはそうと、だ。」

少女は強引に話題をそらす。

杏子「ハンター、お前は何者なんだ?」

ハンター「そういや、言ってなかったな…俺はモンスターハンターだ。」

杏子「モンスターハンター!?…聞いたことはあったけど実際にいるんだな…。」

ハンター「あぁ。それも君の目の前にな。」

杏子「ははッ!違いねぇ。」

杏子「でも何でまた狩人になろうと思ったんだ?」

杏子「それこそあたしら魔法少女みたいに危険だろうに…。」

さやか「あ!それ、あたしも気になります!」

今度は男が問われる番だ。男は急に真剣な表情になった。

ハンター「……。」


さやか「…?ハンター、さん??」

杏子「…??」

ハンター「…そんな昔のこと、とっくに忘れちまったよ。」

杏子「あっこらお前!真似すんな!!」

さやか「あははは…似てる似てる!!」

杏子「どこがだ!全ッ然似てねぇよッ!」

杏子「ってか真面目に答えろよ!」

ハンター「…またいずれ、な?」

さやか「あはははは…!」


杏子「お前は笑いすぎだ!!」

しばらくして雨が止んだので男とさやかは杏子に声をかけて教会の入り口へ向かう。

そこで男はポーチから何やら取りだし振り返る。

ハンター「世話をかけたな。」

そう言うと男は干し肉を少女に手渡す。

杏子「気にすんな。」


男は再び踵を返し、少女とともに教会を後にした。

ひとり教会に残された少女は手渡された干し肉をかじる。

杏子「…かってぇなこれ。」

そして教会を去った男と少女のことを考えていた。

杏子(さやか…か。あいつを初めて見た時なぜかイラついたのは…)

杏子(昔のアタシに似てたからかもな。)

杏子(誰かの為の願い…か。)

杏子「あいつは後悔せずに進んでいくんだろうか?」

杏子(あたしは…まぁ過ぎたことだな。)

杏子「それにしても…。」

少女は先程の男の態度に気にことがあった。

男は狩人になった理由を聞かれた時、適当にはぐらかされた。

だがその直前の僅かな沈黙と真剣な表情から何か感じるものがあった。

杏子(確かあいつも“自分の為にしか祈らない”って言ってたな。)

杏子「あいつはもしかしたら…。」

…自ら望んでモンスターハンターになった訳ではない…もしくは狩人になったことを後悔しているのかもしれない…

なぜか杏子はそんな気がしてならなかった。

杏子「…まさかな。……あたしじゃあるまいし…。」
そう呟き少女は教会の遅の部屋へと消えていった。

~見滝原 市街地~

さやか「じゃあ、あたしはこっちなんで!」

ハンター「そうか。気をつけてな。」

さやか「はいっ!」

途中まで一緒だった男と別れ、少女は家路を急ぐ。

その道中一人になった少女は考え事をしていた。

さやか(…恭介が退院したら、一緒にデートか…。)

少女はそれだけでも自分が魔法少女になった甲斐があると思った。

しかし気掛かりなこともある。
魔法少女になった以上、自分の身には常に危険が付きまとう。
せっかく上條少年と恋人同士になれたものの…自分のせいで彼を悲しませてしまうかもしれない。

さやか(…やっぱり、恭介は仁美にまかせた方が…。)

さやか「…いや、そんなことない!」

彼女は弱気な考えを振り払うかのように首を振る。

さやか(あたしは絶対後悔したりしない!)

少し臆病風に吹かれた自分を奮い立たせ、少女は家へと急いだ。

― 夜 ―

~ 見滝原 ほむらの家 ~

男は玄関のドアを開けると見慣れない靴が二足ある。

男は気になりつつもリビングへ向かう。

ハンター「ただいま。」

ほむら「おかえりなさい…遅かったわね。」

マミ「こんばんわ、ハンターさん。」

まどか「お邪魔してます。」

ハンター「あぁ、ちょっとね。」

まどか「そんなことより…ほむらちゃん!」

マミ「うふふ…そうね。」

ハンター「…??」

ほむら「ハンター、あなたに…こ、これを。」

ハンター「これは?」

ほむら「phsよ、持ってたほうが何かと便利でしょ。」

まどか「放課後にお店に寄って皆で選んだんだよね!」

マミ「ちなみに私達三人の連絡先はもう登録されてますから。」

ハンター「そうか。ありがとな、ほむら。それにみんなも。」

男は皆に礼を言ってプリペード式の携帯電話を受け取った。

まどか「ティヒヒ。喜んでもらえてよかったね、ほむらちゃん。」

ほむら「まどか!?」

マミ「すごく真剣に選んでたものね。」

ほむら「…。」

ハンター「大事に使わせてもらうよ。」

ハンターは受け取ったphsをポケットにしまう。

マミ「じゃあ私達はそろそろお暇させてもらうわ。」

まどか「そうだね!あんまり二人の邪魔しちゃ悪いしね~。」

ほむら「もう!まどか!」


まどか「ティヒヒ。じゃあね~。ほむらちゃん。」

マミ「お邪魔しました。」

ほむら「まったく…。騒々しいんだから。」

ハンター「はは…。けど一人でいるよりもいいだろ。」

ほむら「そうね。」

淀みなく答える少女を男は穏やかに微笑む。

ハンター「そういえば君らの方こそ随分遅くまで遊んでたんだな。」

部屋の時計の短針は8時を差している。

ほむら「えぇ。それは…。」

ほむらの談によると、午後三時頃に授業が終わり、その帰りに三人で携帯ショップで買い物をしたらしい。

店を出てしばらく歩くと、先に帰ったはずのクラスメイト、仁美の後ろ姿を発見。

だが、うつ向きがちでどうにも様子がおかしいので後をつけると人気のない廃ビルに着いた。

そこで結界と魔女を確認したため、マミと共闘してこれを撃退。

そして、結界が消え、そばで気を失っていた仁美を介抱して自宅へ送り…。

店で買ったphsを渡す為に三人でほむらの家行って男の帰りを待っていたそうだ。

ハンター「そうか…そんなことが。すまない。」

少女から話を聞いたあと男はバツが悪そうな顔で謝った。

ほむら「気にしないで。大した相手ではなかったわ…それに…」

ハンター「それに?」

ほむら「本来ならさやかが倒すはずの魔女だったから…」

ほむら「さやかが魔法少女になっていない以上、私達が戦うのは必然なのよ。」

ハンター「………。」

ほむら「…?どうしたの?」

ハンター「ほむら、そのこと何だが…。俺が今日帰るのが遅くなったのは……。」

男は今日の出来事を話した。

午前中に市街地を散策していると、さやかに遭遇。

さやかから悩みが解決したことと同時に自分が魔法少女になったことを告白される。

その直後使い魔を発見し追跡すると、もう一人の魔法少女、佐倉杏子が表れ、二人の魔法少女は険悪な雰囲気になる。

しかし、男の機転で二人の激突は回避され、途中降って来た雨をしのぐ為に教会へ。

雨が止むのを待つ間、三人で雑談を交し、天候が良くなったのを見計らって帰って来た。

ほむら「そう…さやかが魔法少女に…。」

男の報告を聞いた少女の表情が堅くなる。


ハンター「あぁ。だが魔法少女になったのは自分の為だと言っていた。」

ほむら「そうね。さやかの悩みが解決されたのだから…」

ほむら「魔女になってしまうことはないと思うけど…。」

懸案事項が増えた事に二人の顔は少し暗くなった。

ハンター「まぁなるようになるさ。」

ほむら「…そう、よね。」

重くなった空気の中、男は申し訳なさそうに口を開く。

ハンター「それとさ、ほむら。」

ほむら「なにかしら?」

ハンター「先に風呂に入らせてもらっていいか?まだ服が生乾きなんだ…。」

ほむら「…え?」

男の髪が乾いていた為に先程から誰も気が付かなかった。

そう言われてみれば男はどことなく寒そうにしている。

ほむら「どうしてそれを先に言わないの!」

ハンター「君らがせっかく俺にプレゼントを買って来てくれて、楽しそうにしてるところに水を差すのもどうかと思ってな。」

ほむら「まったく…まどか達といい、あなたといい…。」

ほむら「…それより早くお風呂に入って頂戴。…風邪を引かれたりしたら迷惑だわ。」

ハンター「は、はは…。そうさせてもらうよ。」

少女の許可を得て男は浴室へ入っていった。
一人になった少女は呆れたような、それでいておだやかな笑みを浮かべてそっと呟く。

ほむら「……ばか。」

浴室に入った男はすでに湯がはってあった浴槽に浸っていた。

恐らくは雨が降る中、帰ってくる男の為にほむらが風呂の準備してくれたのであろう。

ハンター「あぁ~、いい湯かげんだ…。」

冷えた体が温まる。
心の中でほむらに感謝しつつ、これまでの事を回想していた。

ハンター(明日でここに来てから五日目か…。)


ハンター(ワルプルギスの夜の出現はまだ先だとほむらは言っていたが、いつなんだろうな。)

ハンター「…魔法少女、か。」

男は頭の後ろで手を組み、足を伸ばして呟く。

今回の依頼の書類を受けた時、依頼人の名前として記されていた“魔法少女”。

依頼人が狩人に依頼を出す時に便宜上、偽名を使うことは少なくない。

だから依頼を受けたこの男もそれ以上の意味はないと思っていた……ほむらから事情を聞かされるまでは。

ハンター「自身の願いと引き替えに、過酷な運命を背負わされた少女達…。」

ハンター「何とかして彼女らをその運命から解き放つ方法は無いものか…。」

組んでいた手を解き、男は天井を見上げる。

ハンター(しかしまぁ、そんな過酷な運命と引き替えにしても彼女らは自分の道を選んだんだんだよな。)

ハンター「俺は…ある意味狩人として生きることしか選べなかったがな。」

男は大きく伸びをすると、湯船から立ち上がり浴室にを後にした。

男が風呂から上がると、二人で食事を摂り、今日のことを改めて話し合った。

その後、男は「先に休ませてもらう」と言い残すと部屋へ戻った。

少女はそんな男に「おやすみなさい」と声をかけた。

ほむら(ハンター…)

一人になった少女は今日の出来事で一番気になった事を思い返していた。

ほむら(“俺は狩人として生きることしか選べなかった”って…どういうことかしら?)

少女は先程、男の入浴中に、彼の服を踊り場の洗濯機に入れようとた時。

男の何気ない独白を聞いてしまったのであった。

ほむら(あの人も色々複雑な思いを抱えているのかもしれないわね。)

少女は、普段の瓢々とした態度からは想像もつかなかった彼の心の闇をかい間見たような気がした。

― 深夜 ―

~見滝原 某所~

夜も更け、人々が寝静まった頃、街を見渡せる電波塔の上に“彼”はいた。

キュウベェ「さて…杏子がこの街に来て動き出したようだね。」

キュウベェ「それに、どういうわけか、さやかも魔法少女になってくれた…。」

キュウベェ「これで全ての役者が揃ったわけだね。」

そこまで言って“彼”はその無機質な表情のまま、空を見上げる。

キュウベェ「…後はまどか、君に魔法少女なってもらうだけだ。」

キュウベェ「準備は整った。次は必ずボクと契約してもらうよ…。」

再び街を見下ろす“彼”は静かに電波塔から姿を消した。

― ??? ―

男は夢を見ていた。
彼が狩人になる少し前の頃の夢を…。

???「ハンター!早く早く!こっちよ!」

ハンター「そんなに急ぐと危ないぞ。」

(…やめろ。)

???「ハンター…私ね、もう少ししたら…。」

ハンター「はは…。どうしたんだ?急に。」

(……やめろッ!!)

………。

???「はぁはぁ…ねぇ……ハン…ター……。」

ハンター「もういいッ!…もうしゃべるな!」

???「いいの…もう……それより……ハンター……」

『……私のやってきたことは…所詮…何の意味もなかったのかしら……』

(やめろおぉぉぉおお!!)

― 朝 ―

~ほむらの家 男の部屋~

???「…て…ンター!…?起きて!!ハンター!!」

ハンター「……ッ!はッ!?」

ほむら「やっと起きてくれたわね。…ひどくうなされていたようだけど?」

ハンター「…君……は?」

男を起こしに来たほむら。
彼女の顔に夢の中の少女の面影が被る…。

ほむら「まだ寝惚けているのかしら?それより急いで支度してちょうだい。」

慌てた様子の彼女を見て男の意識は現実へと帰る。

ハンター「…何かあったんだな?」

男の問いに少女は無言で頷く。

ほむら「今、さやかから電話があったの!」

ほむら「学校の門の近くに魔女の結界を見付けたから先に向かうって!」

ハンター「…!?」

少女の話を聞いて男にも緊張が走る。

ほむら「巴さんにも連絡を入れたって言ってたけど…。」

ハンター「心配だな。俺たちも急いで向かおう!」

ほむら「…えぇ!」

男は急いでポーチの中身を確認し、支度を済ませると、少女と共に見滝原中学校へ急いだ。

~見滝原 見滝原中学校~

ほむら「私達の学校が見えて来たわ!」

ハンター「…あれか!」

懸命に走る二人の前に学校の門が見えて来た。

日曜日の朝と言うだけあって人気はほとんどない。

ほむら「学校に結界が出来るなんて…“今まで”そんなこと一度も…。」

そんな彼女の言葉を聞いて男は少し不安になった。

今朝見た久しぶりに見た“あの夢”。

“あの夢”を見た日は決まって良からぬことが起こるというジンクスがあったからだ。

ハンター(…何事もなければいいが……。)

さらに学校が近くなってくる。

すると、二人の前に同じく懸命に走って来る人物が見えてきた。

それは巴マミと…まどかであった。

ほむら「巴さん…ッ!…どうしてまどかまで!?」

四人は校門の前で合流する形になった。

マミ「暁美さん…それは…。」

まどか「今日は朝からマミさんに会う約束をしてたの!…それで…」

マミ「まどかちゃんが私の部屋に来てすぐさやかちゃんから電話があって…。」

ほむら「…ダメよまどか!…あなたはやっぱり帰って…!」

まどか「…私も一緒に行く!」

ほむら「…でも!」

男は一つ思案した後、口を開く。

ハンター「わかった。…だが危なくなったらすぐに逃げるんだよ!」

ほむら「ハンター!?」

ハンター「これだけ人数がいるんだ…恐らくは問題ないだろう。」

まどか「…ほむらちゃん。」

まどかは懇願するようにほむらを見つめる…。

ほむら「…わかったわ。」


まどかの必死な態度に少女は渋々同行を認めた。


まどか「…!ほむらちゃん!」

マミ「良かったわね。まどかちゃん!」

ハンター「良し。そうと決まれば俺達も先を急ごう!…さやかちゃんが心配だ。」

男の言葉を聞くと、三人の少女は真剣な顔で頷いた。

男と少女達が校門付近の結界内に突入して暫く後…。

杏子「ホントだ。おまえの言う通り結界が出来てるな。」

キュウベェ「君たち魔法少女のサポートをするのがボクの役目だからね。」

杏子をここへ導いた張本人は当然と言わんばかりにそう答えた。

杏子「まぁ何だっていいや。…あたしはあたしのやりたいようにやるだけさ!」

少女は魔法少女へと姿を帰ると、昨日、男から受け取った干し肉をくわえながら結界の入り口を開いた。

キュウベェ「……。」

そして、少女の後ろ姿に彼も続いて結界へと入って行った。

~学校の結界 最深部付近~

朝から恭介の見舞いに行く途中で偶然結界を見付けた少女は最深部へ辿り着こうとしていた。

さやか「もうすぐ退院する恭介に会ってデートの日にちを決める予定だったのに!」

少女は忌々しく吐き捨てる。

さやか「それにしても変だなぁ…。」

魔女の気配にかなり近付いているのに使い魔が全く現れない。

そして何より結界内部の景色が今までと明らかに違う。

さやか(…真っ白だ。)

この結界内部の景色は白一色でただひたすらに一本の道が続いている。

さやか(考えてても仕方ないか。それに後からみんなも来てくれるし…)

さやか「まぁこの魔法少女さやかちゃんがさっさとやっつけちゃえば済む話だしね!」

そして彼女はさらに歩みを進めて行く…。

~学校の結界 最深部~

さやか「あれは…魔女……なのか?」

少女は結界の最深部、一際広い空間に到着した。


その中央には卵型の“オブジェ”が配置されている。

魔女?「」

少女は剣を正面に構え、様子を伺う。

さやか「…?」

さやか(何もしてこない?というより動かない??)

一向に動く気配すら見せないこの結界の主を見て少女は構えを解いた。

さやか「…何だコイツ?」

不審に思いつつも少女は警戒しながらその巨大な“オブジェ”に近付いていく。

さやか「そういやこれって何か…」

……あたしらのソウルジェムとそっくりな形してるなぁ……

ふとそんなことを思い、少女が巨大なソウルジェムのようなモノに触れたその時…!

さやか「な…何よこれ!……うわあぁぁ…!!」

少女は最深部を覆い尽すほどの眩い光に飲み込まれた。

~学校の結界 通路~

結界に突入した四名は先を急いでいた。

ほむら「そろそろさやかに追い付くわ。」

マミ「そうね。魔女の気配が近いわ!」

まどか「…さやかちゃん。」
そこで男は立ち止まりほむらに話かける。

ハンター「ほむら…俺の甲冑を出してくれ。」

ほむら「えぇ。わかったわ。」

男は背負っていた太刀を下ろし、ジャケットを脱いで少女に渡す。

そしてほむらは男のジャケットを受取り盾ち“収納”すると、甲冑を取り出して渡していく。

男は少女から渡された甲冑を足具、胴、腕甲、兜の順に装着していく…。

全てのパーツを装着すると最後に男は目元を格子状に保護するフェイスガードを下ろして太刀を背負う。

すると彼は胴は和風で残りは西洋風な独特の姿になった。

鎧は黒一色で継ぎ目などに黒い毛のような素材がふんだんに使われている。

マミ「わぁ…まるで漆黒の騎士様みたいですね。」

ほむら「…。」

まどか「ティヒヒ。どうしたのほむらちゃん?」

ほむら「な…なんでもないわ」ファサ…

ハンター「待たせたな。さぁ、先を急ごう!」

漆黒の騎士を先頭に魔法少女達は先を急いだ。

~学校の結界 最深部~

男達は一本道をひたすらに進むと広大な空間に出た。

そこはコンサートホールのような風景で観客席には指揮者の姿をした無数の使い魔が配置されている。

コンサートホールの中央には人魚のような風貌の大きな魔女がたたずんでいる。

さらにその魔女の腹部は巨大なソウルジェムのようなものが埋め込まれていて…。

まどか「…!さやかちゃん!?」

その中には磔にされたキリストのような格好でさやかが取り込まれている!!

ほむら「これは…!?」

マミ「さ、さやかちゃん!」

異様な風貌の魔女を見た少女達は思わず声をあげた。

男はほむらに駆け寄り小声で耳打ちした。

ハンター(…さやかは魔女になってしまったのか?)ボソッ

ほむら(わからない…わからないわ!“今まで”にこんなこと…一度も!!)ボソッ

うろたえる一同を前に、人魚の魔女はその三つの目で少女らを捕える。

オクタヴィア「………ッ!!」

ハンター「気付かれた!…仕掛けて来るぞ!!」

人形の魔女は手に持ってある剣を振りかざす!

そこから無数の歯車がこちらに向かって飛来する!

ハンター「ほむらはまどかを守るんだ!…マミには俺の援護を頼む!!」

まどか「……!」
ほむら「わかったわ!」
マミ「わかりました!!」

男は号令を飛ばすと大太刀の柄に手を掛け、魔女に向かって疾走する。

マミ「ハンターさん!援護します!!」


マミは男に向かって飛来する歯車を召喚したマスケット銃で撃ち落としていく。

ハンター「さすがだな!…いい狙いだ!!」


ほむらはまどかを抱きかかえて後方へ飛び退く。

そしてまどかを下ろすと、盾から取り出した拳銃を両手に持ち、自身を狙う歯車を撃墜していく。

ほむら「まどか!私の側から離れないでね!」

まどか「うん!わかったよ、ほむらちゃん!」

彼らは二組ずつに分かれて戦闘を開始した。

男は人魚の魔女との距離を詰めつつ呼び掛ける。

ハンター「さやかッ!俺の声が聞こえるか!?」

さやか「……」

魔女の腹部の中で磔になっている少女は目を閉じたままで反応がない。

オクタヴィア「…!!」

魔女は正面から迫り来る男に両手の剣を左右から振り下ろす。

ハンター「どけぇ!…邪魔だ!!」

男は目にも止まらぬ早業で刀を抜き放ち魔女の右手の剣を打ち払う。

そして魔女の左手の剣が男に迫ったその時だった。

ほむら「させないわ!」


オクタヴィア「!??」


ほむらは右手の拳銃を捨て盾から取り出したロケットランチャーから榴弾を放った。

次の瞬間、爆風と共に魔女の左手は消し飛んだ!

ハンター「今だ!」

これを好機と見た男は魔女の腹部へと跳躍する。

そしてさやかを閉じ込める巨大な卵型のか球体に斬りかかる。

ハンター「…!?」

だが、甲高い金属音と共に刃は弾かれる。

ハンター「クソッ!!」

男は飛び退いて距離を取り、太刀を鞘へ納めて様子を伺う。

すると…。

オクタヴィアの左手が再生していく!!

ほむら「魔女の腕が!?」

少女は思わず感嘆の声をあげる。

さやか「…う…うぅ…あ゛あぁぁ……」

まどか「さやかちゃんが!!」

人魚の魔女の腕が再生され、さやかの口からうめき声が漏れる。

マミ「さやかちゃんの魔力が…!」

ハンター「どういうことだ!?」

マミ「腕が再生された時にさやかちゃんの力が吸われたようです」

ハンター「何だと!?」

確に、さやかはさっきより苦しそうだ。

ハンター(これは無闇に攻撃できんな…。)

???「そいつはあたしがもらった!!」

四人の後ろから現れたその人物は人魚の魔女に向けて槍を等擲する。

今日はこの辺にしときます。続きはまた今度で。

等擲された槍は一直線に魔女へと向かい、その頭部をふっ飛ばした。

ハンター「杏子!ヤツには下手に手を出すな!」

漆黒の鎧を纏った男は槍を放った少女に向けて叫ぶ。

杏子「その声はハンターか。そんな格好してるから誰かと思っちまったよ!最近はホントよく会うな!!」

杏子は男に不敵な笑みを浮かべて答える。

マミ「…杏子…ちゃん…。」

そんな少女にマミは不意に声を掛けた。


杏子「……あんたもいたのか…。」

マミの姿を確認したとたん杏子の顔が無表情になっていく。

男は二人の間に流れる妙な空気が気になったが今はそれどころではない!

ハンター「それよりヤツを良く見てみろ!」

男は魔女の方を指差している。

杏子がその先へ顔を向けると頭部を失ったはず魔女は頭を瞬時に再生した。

杏子「…!?なんだありゃ!…どうなってんのさ?」

さやか「あ゛…あぁっ…」


杏子「…!さやか!?」

思いもよらない所から聞こえてきたさやかのうめき声に少女は驚きを禁じ得ない。

ハンター「ヤツを痛めつければさやかも傷付くことになるんだ!」

杏子「それじゃあ…あの魔女とさやかは今…一心同体ってことかよ!?」

???「まぁ確かにそうとも言えるね。」

杏子「…!どういうことだ!キュウベェ!!」

杏子の後を追ってきた彼は少女の型に飛び乗り話を続ける。

キュウベェ「今のさやかはまだ魔女と混じり合ってはいないけど…」

キュウベェ「…君達魔法少女と魔女は一心同体と言うよりも全く同じ物だからね」

マミ「…え…??」


ハンター(…!この話は!?…マズい!ヤツを黙らせないと!!)

男はほむらの方を見る。

彼女はこちらから随分離れている上に、飛来する歯車からまどかを守ることで手一杯だ。

ハンター(今はほむらの魔法でどうにかするのは無理か!)

男も迫り来る無数の歯車から後方の杏子とマミを守るために文字通り手が一杯だ!

ハンター(くそ!ポーチの音爆弾さぇ使えれば高周波で邪魔できるんだが!!)

男は後方で、呆然と立ち尽くす二人の少女に向けて必死に叫ぶ。

ハンター「二人とも!そいつの話を聞くな!!」

しかし、少女達の耳には届かない。

マミ「……。」

杏子「魔女と魔法少女が同じだと!?…聞いてねぇぞそんなこと!」

キュウベェ「…だって聞かれなかったからね。なんなら今教えてあげるけど…」

ハンター「マミ!杏子!…そんなヤツの話を間に受けるな!!」

男の叫びは虚しく木霊する。


そして彼はゆっくりと語り出す。

ソウルジェムとグリーフシードの秘密を…さらに、魔法少女と魔女の関係を…。

杏子「…嘘、だろ?あたしらはソウルジェムに“汚れ”が溜れば…」

杏子「魔法が使えなくなるだけじゃなくて魔女になっちまうのかよ!?」

マミ「そんな…。私達は……。」


キュウベェ「本当さ。それにほら、君達の間では大人になる前の女性を少女と呼ぶんだろ?」

キュウベェ「だから君達は…」


キュウベェ「成長して魔女になる前の存在だから魔法“少女”なんだよ。」

そこまで言い終えると、キュウベェは何も語らなくなった。

飛来する歯車を太刀で打ち払いつつ少女達の元へ徐々に後退して来た男に叩き斬られたからだ。

ハンター「…お前…ちょっと死んでろ…!」

切り捨てられた彼を見下ろして男は吐き捨てる。

しかし斬られたはずの彼と全く同じモノが再び最深部の入口から姿を現した。

キュウベェ「無駄だよ。この体はたくさんあるからね。」

そして先程まで彼の体だったモノを一口で平らげた。

キュウベェ「だからと言って無闇に殺されてもあまりいい気はしないけどね。」

ハンター「気色悪いヤツめ!」

いかなる手段か…不思議な方法で復活を遂げた彼を、男は忌々しく睨みつける。

その時だった。

マミ「…イヤ……嫌あぁぁぁあああ!!」

突然のマミの絶叫。

マミは召喚した単発式マスケット銃を杏子に向ける。

その照準は杏子の襟元…彼女のソウルジェムに絞られる!

ハンター「……!」


それを見た男は背負っていた太刀の鞘のベルトを外し、太刀を腰に重心を低く構えた…。

マミ「どうせ魔女になるなら!…こうするしかないじゃない!!」

マミの二度目の叫びとともに狙い澄まされた銃弾が撃ち出された。

杏子はただ呆けたように立ち尽くしている。

だがその凶弾は杏子のソウルジェムを捕えることなく両断される。

杏子とマミの間にいた男が放った居相斬りに阻まれたのだった。

ハンター「落ち着くんだマミ!…杏子もボケっとするな!!」

男の呼びかけに対し杏子は返事をするも目から光が失われている。

マミ「…邪魔しないで!」

ハンター「やめないかッ!!」

再びマミは銃を構える。
その間も歯車は飛来する!
ハンター(クソッ!このままでは防戦一方か!!)

ほむら「ハンター!…何かあったの!?」

遠くからほむらとまどかがこちらに駆けてくる。

ハンター「来るな!!」

男はこちらへ駆け寄る少女達を遠ざけようとした。

マミは再び無数にマスケット銃を召喚し、今度はほむらに銃弾を放つ。

ほむら「…!?」

だが次の瞬間、ほむらとまどかはやや左後方へ瞬間移動した。

マミ「…!?」

ほむらは魔法で時間を止めてこれを回避した。

そしてキュウベェの姿を見付け大体の状況を把握する。

ほむら「…!キュウベェ、あなた!まさか!?」

キュウベェ「やはり君は知っていたようだね。でも君だけ知ってるのはフェアじゃないからさ…」

キュウベエ「ボクは親切心でみんなに教えてあげたんだよ??」

ほむら「キュウ…ベェ……!!」ギリリッ

少女は怒りを露にし、キュウベェを睨みつける。

まどか「マミさん!…お願い!!落ち着いて!!」

まどかは必死に呼び掛けるも彼女は耳を借そうとしない。

ほむら(どうすれば!?…時間停止の魔法を使うべきかしら?)

しかし彼女の時間停止の魔法は無限に使える訳ではない。

彼女の盾に内蔵されている砂時計。
その中の砂の量だけ使用することができるのである。

ほむら(重火器を調達するために随分使ってしまったし…)

ほむら(ワルプルギスの夜との戦いにもこの力を残しておきたいから…)

ほむら(…ここで長時間、私の魔法を使うわけにはいかないわ!…でも!!)

彼女があれこれ思案している間にもマミの凶弾と魔女の歯車が迫り来る!

ほむら「…くっ!…こんな!?」

彼女はマシンガンを取りだし魔女の歯車を撃ち落としつつ、
もう片方の手の拳銃でマミの狙撃に抵抗し、まどかを守る。


反対側では男も同じく魔女の歯車とマミの銃弾の嵐から杏子を必死に守っている…。

それはまさしく絶望の光景だった。


ほむら(何よ…これ。……これは、一体何なのよ!!)

ハンター…あの男が力借してくれる今回は何もかもが順調だった。

間違いなくそのはずだったのに!

だが今は……。

マミの錯乱。
さやかの魔女化。
大きな戦力になってくれるはずの杏子の戦意喪失。

少女が何よりも恐れていた最悪の事態が、揃いも揃って襲いかかってきた!!

ほむら(“今回”も…ダメなの!?)

まどか「マミさん!どうしちゃったの!?こんなの…ひどいよ!!」

ほむら(どうすれば…!?)

キュウベェ「ねぇ…まどか。ボクと契約する気はないかい?」

ふと気がつくとほむらとまどかの側に彼はいた。

まどか「…こんな時に何を言ってるの!」

まどかはふざけないでと言わんばかりにキュウベェに鋭い視線を向ける。

キュウベェ「君が魔法少女になれば、この場をなんとかできる!」

まどか「…え?…ホント…なの??」

少女は悪魔の甘言に耳を傾けてしまう。

ほむら「まどか!騙されてはダメよ!!…こいつの目的は…!」

キュウベェ「君はみんなを助けることができるんだ!…それともまた見てるだけなのかい?」

キュウベェ「…みんながやられるところを……。」

まどか「…!…わ、私は…。」

ほむら「まどかッ!!」

ほむらの声はもはや悲鳴に近くなっていた。

この圧倒的な絶望の中、皆の目からは光が失われつつあった…。

そんな中、ただ一人…その双眸に鋭い光を湛えた者がいた。

ハンター(ナメるなよ!今まで伊達に化け物どもとやりあって来た訳じゃないんだ!!)

ハンター(…勝気は必ず来る!今はまだ、その気配が見えないだけだ!!)

男の心はこの深い絶望の中にあって尚も折れてはいなかった!


ハンター(ほんの少しでいい!僅な隙さえあれば…ッ!)

男は腰のポーチに視線を落とす。

ハンター(だが…今は両手が使えない!!)

ハンター「……?」

その時男はある事に気付いた。

オクタヴィア「……アタシ…ハ…オマエ…ナンカニ…マケ…ナ…イ!」

人魚の魔女の口からノイズ混じりではあるが確かにさやかの声が聞こえる。

ハンター「……!」

魔女に取り込まれた少女もまだ諦めていなかった。

ハンター「…杏子ッ!…聞こえるか!!」

杏子「……??」

オクタヴィア「アンタ…ヲ…ヤッツケ…テ…キョウスケ…ニ…アイ…ニ…イクンダ!」

杏子「さや…か?」


ハンター「あいつは!…さやかはまだ諦めてないぞ!」

その声を聞いた杏子は魔女に向かって問い掛ける。

杏子「なんでお前はそんなに頑張れるのさ!」

杏子「あたし達は遅かれ早かれ魔女になるしかないのに!!」

杏子「…あたしもお前も…人の為に祈ったが為に魔女なんかになっちまうってのにッ!」

オクタヴィア「ソレ…デモ…アタシハ…キョウスケ…ガ…スキ…ダカラ」

杏子「…!」

オクタヴィア「アタシ…ガ…イナク…ナッタ…ラ…アイツハ…カナ…シムカラ…」

声がする間も魔女の攻撃は止まらない。
男は杏子を守っている。

オクタヴィア「ダカ…ラ…アタシ…ハ…マジョ…ニ…ナンカ…ナラナイシ…コンナ…ヤツニ…ダッテ…マケ…テ…ラレ…ナイ!!」

杏子「…!!!」

オクタヴィア「アタ…シ…ハ…アキラメ…ナイ…シ…コウカイ…モ…シタク…ナイ…カラ…」

オクタヴィア「サイゴ…マ…デ…ゼン…リョクデ…タ…タ…カ…ウ…。」

ハンター(さやか…あの時俺が病院で言ったことを覚えてたんだな…。)


杏子(あんたは誰かの為に祈って、こんな絶望をつきつけられてもまだ…)

杏子(さやかを助けられれば…あたしも…あたしを許すことができるかもしれない!!)

杏子「ハンター!あたしは死んでもさやかを助ける!!」

杏子「だから!お前は、マミ…さんを頼む!!」

先程まで死んだような目をしていた少女の目にも光が宿る。

ハンター「…任せておけ!」

飛来する魔女の歯車を杏子は難なく弾き返す。


男は全神経をマミの方へと向ける。

ハンター「杏子!後ろは気にするな!…全力でぶつかって来い!!」

男は杏子の後ろ姿にそう言い放った。

杏子「ハッ!…任せたぜ!…“相棒”!!」

男と少女はそれぞれの相手に向かって疾走する。

この圧倒的絶望の前に、今…反撃の狼煙が立ち上がる!!

ほむらは迷っていた…。

まどかの契約を阻止するため時間停止を使うか否かを…。

彼女は決断迫らる。

時を止めてまどかを逃がすべきか…?

それともこの場でまだ抵抗を続けるべきか…?

ハンター「ほむら!もう大丈夫だ!!」

ほむら(…ハンター!?)

気が付けばハンターはマミに向かって来ている。

そして魔女の車輪の飛来も止み、杏子が魔女へと距離を詰めている。

ハンター「君はまどかを守ることだけに専念しろ!!」

ほむら「わかったわ!」

まどか「…ハンターさん!!」

キュウベェ(……。)

マミは男の接近を確認すると、男に銃口を向ける。

男はジグザクにサイドステップを折り交ぜ狙いをつけさせない!

すると男は腰のポーチから左手で黒い“球”を取り出した。

それを見たマミは一瞬顔を伏せる。

マミ「その手は食わないわ!!」

マミはその“球”を男が以前に使った“閃光球”だと判断したからだ。

ハンター(もらったッ!)

それを見た男は例の不敵な笑み浮かべている。

男のその表情を見たほむらも自然と胸が高鳴った。

ほむら(あの人が“あの顔”をした時は…。)

そう…何かが起こる!

マミの手前に投げられたその“球”は例の閃光を発しない…。

…不発か?マミはふと顔をあげる。

男はマミに向けて投げたその“球”に向けて太刀の切っ先を突き出した!

刀の切っ先に貫かれた“球”からは液体が滴り、太刀の刃をじっとりと濡らす。

マミ(…!…フラッシュが来ない!?)

マミは慌ててマスケット銃を構え直す。

ハンター「遅いッ!」

ハンターはマミの直前で地面を転がってマミの射撃を避け…。

立ち上がりざまに銃を構える右腕を切っ先で薄く斬った!!

マミ「…くぅっ……さすがですが…私はまだ…!?」

そう言い終わりかけた瞬間、マミの視界がぐにゃりとひさゃげた…。

ハンター「いや、もう勝負はついてる。俺の……勝ちだ!」

男は太刀をゆっくりと鞘に納める。

刀が鞘に収まり、鯉口から軽い金属音が鳴ると同時にマミは地に倒れ込んだ。


そこへほむらとまどかが駆け寄ってくる。


ほむら「何をしたの!?」

まどか「マミさん…大丈夫?」

ハンター「安心しろ…マミは少し“眠った”だけだ。」

ほむら「ハンター!あなたどうやって魔法少女を気絶させたというの!?」


男は二人に事情を説明する。

男が先程使った“球”は獲物を捕獲する時の“麻酔球”だった。

それを“閃光球”だと思わせて隙を作り、切っ先で“麻酔球”を破って“麻酔液”を刃に滴らせ…。

そのままマミに斬り付け、昏倒させたのだった。

まどか「やっぱりハンターさんはすごい!!」


さらに男はほむらにだけ耳打ちでこう続けた。

ハンター(それに、ソウルジェムが魔法少女の魂である以上、魔法少女の身体にいくら物理ダメージを与えても気絶させることは不可能だから…)

ハンター(ならばと体自体を麻酔で行動不能にしたんだ。これならばソウルジェムの中に意識があったとしても完封できると思ったんだ。)

ほむら「……。」

ほむらは文字通り開いた口が塞がらなかった。

それほどまでに驚いていたからだ。

まどか「…ねぇねぇ!二人で何の話してるの??」

ほむら(この人は…本当に…。)

…私達を救ってくれる希望の光なのかもしれない…

少女はもはやそう信じて疑わなかった。

まどか「……?」

不思議そうな顔をしているまどかと神妙な面持ちのほむらに男は話しかける。


ハンター「二人とも、マミを連れて結界から脱出してくれ!」

まどか「…!けどさやかは!?」

ハンター「大丈夫だ!俺と……杏子で必ず助ける!!」

ほむら「…まどか…私達は私達のできることをしましょう!」

まどか「そう…だね。……ハンターさん!さやかちゃんを…お願いします!」

ハンター「あぁ!任せておけ!…必ず君の元に連れて帰ってやるよ!!」

男の自信に溢れた返事に満足し、二人はマミを連れて最深部を後にした。

一方、魔女の方へと向かった杏子は魔女の攻撃をいなしつつ、さやかへ呼びかける。

杏子「さやか!お前は絶対にあたしが助けてやるからな!」

杏子「だから…誰かの為に祈ることは間違いじゃないってことを…」

杏子「このあたしに証明してみせてくれ!!」

必死に叫ぶ杏子の目には泪がたまっていた。


オクタヴィア「キョウ…コ…アン…タ…モ…ダレ…カノ…タメニ…」

オクタヴィア「マホウ…ショウ…ジョ…ニ…ナッタ…ノカ…?」

杏子「あぁ!そうさ!あたしはなぁ…!!」

杏子は語気を荒げて自身が魔法少女になった経緯を語りだした…。

彼女には宣教師の父がいたこと。

宣教師として人から見向きもされない父の為に信仰が集まることを願って魔法少女になったこと。

しかし、人々の信仰が集まったのは娘の“願い”のお陰であったことを知ると、彼はその精神を病んでしまう。
そして、彼は妻と杏子の妹の三人と共に一家心中を図り、家庭は崩壊してしまったことを…。

杏子「だから!…だからあたしは人の為に祈ることを止めたんだ!!」

杏子「あたしの願いがみんなを不幸にしてしまったからッ!!」

オクタヴィア「…キョウ…コ…アンタハ…マダ…アキラメテ…ナイ…ジャ…ナイ」

独白を終えた杏子の目からは大粒の涙が溢れていた。
オクタヴィア「ダカラ…ソンナ…ニ…クヤシイ…ンダ…ロウ?…アンタ…モ…マダ…アキラ…メキレ…テ…ナイカ…ラ…」

オウタヴィア「キョウコ…アタシ…モ…!?ウゥッ…ア゙ァ…ア…」

杏子「さやか!?おい!しっかりしろ!!…さやかッ!!」

そこへマミとの一戦を終えた男が駆け付けた。

ハンター「杏子!?どうかしたのか?」

杏子「さやかの意識が!!」
ハンター「…!?」

キリが悪いが今日はここまでにさせてもらいマス。

いつも支援下さる方々、ありがとう。

続きはまた明日ということで…。

それでは…おやすみzzz

オクタヴィア「……」

魔女は無言で剣を振り下ろす。

男と少女はその剣に裂かれるようにそれぞれ左右に跳躍して回避する。

ハンター「さやか!俺達の声が聞こえるか!?」

さやか「…」

男は再び呼びかけるも反応はない。

杏子「待ってろよ!…今あたしらがなんとかしてやるからな!」

二人は魔女から繰り出される無数の車輪と斬撃を避け、あるいは受け流していく。

ハンター(先程キュウベェは言っていた。“さやかはまだ混じりあっていない”と。)

男はいつの間にやら姿を消したキュウベェの言葉を思い出していた。

ハンター(まだ魔女になっていないなら…助ける方法も存在するはずだ!)

ハンター(冷静に考えろ!…このまま、また防戦一方では俺達も、さやかも…!)

解決策を見い出そうとする男。そこへ少女から声をかけられる。

杏子「おい!ハンター!あれ…!!」

ハンター「…!」

絶え間なく攻撃を続ける魔女はピタリと動きを止めた。

そして、魔女の両肩が盛り上がり、腕のようなモノが形成されようとしている。

ハンター(…?…気のせいか?)

魔女の両肩から二本の腕が形成されようとしているその時だった。

男にはさやかを孕んでいる魔女の腹部の球体の輝きが鈍くなっているように見えた。

男は魔女を凝視する…。

ハンター「…!やはり気のせいじゃない!!」

言うやいなや男は魔女の腹部に斬りかかった。

杏子「ハンター!何してんだよ!…そんなことしたらさやかが!!」

男は鈍い手応えと共に弾かれた。

だが先程とは手応えが明らかに違う!

そして何より、杏子の位置からは見えなかっただろが…魔女の腹部の球体に僅なヒビが入ったのだった。

ハンター(今なら…!)

男は再び魔女に飛びかかろうと、正面を見据える。

だが人魚の魔女は完全に四本腕になった途端、腹部の球体は元の輝きを取り戻した。

ハンター(そううまくはいかんか…だが分かったぞ!)

ハンター「杏子!…見付けたぞ!さやかを助ける方法をなッ!!」

杏子「本当か!?」

杏子は感嘆の声をあげる。

ハンター「あぁ!ヤツは体を再生させる時に腹部の輝きが鈍くなる!」

ハンター「その瞬間を狙えばこちらの攻撃が腹部に通るようになるんだ!」

ハンター「だから…」

杏子「二人で連携して、片方がヤツを痛めつけて、もう片方がさやかを助けるんだな!」

ハンター「そうだ!ただし、さやかの状態から考えてチャンスは多分、一回きりだ!」

杏子「…。」

ハンター「俺が道を開く!…さやかお前がその手で助けろ…杏子!」

杏子「一回きりねぇ…しくじんなよ?」

少女は口元をにやりと歪めて言い放つ。


ハンター「お前、誰に言向かって言ってるんだ?」

それに対し男もふてぶてしい笑みを浮かべて切り返す。

ハンター「…準備はいいか?」

杏子「…あぁ!いつでも行けるよ!!」

杏子の返事を確認した男は無言で魔女に向かって走り出す。

その後ろ姿に少女は呟く。

杏子「わざとらしくさやかを助ける役目はあたしに回しやがって…」

杏子「まったく…粋なことしてくれんじゃねぇか」

しばらくして、少女は目を閉じて意識を集中していく…。

少女を中心として蛍のような球状の光の粒が集まっていく。

猛スピードで接近して来る男を確認すると、
魔女はその四本の腕の剣を一斉に男に目がけて振り下ろす。

ハンター「見切ったッ!」


その内の一本を、男は腰に携えていた鞘から抜き放った居合いで腕ごと切り飛ばした!

だが魔女の残りの三本の腕はそんなことお構いなしに男に向かう。

人魚の魔女はその瞬間勝利を確信した。


男は再び太刀を腰の鞘に納めた。

次の抜き打ちは間に合う筈がない…と彼女は判断したからだ。


オクタヴィア「…!」

しかし次の瞬間、魔女の三つの目は大きく見開かれる!

男を捉えた筈の腕がことごとく彼に届くことなく宙を舞う…。

(まさか全ての腕を居合で叩き斬っていったとでも言うのか!?)

と顔に書いてあるかのように魔女は驚愕の表情を浮かべた。

再び魔女の腹部の球体の輝きが鈍くなる。

もはや遮るものは何もない!

ハンター「杏子!…今だ!!」

男は振り返らず背後の少女に合図を送る。

杏子「おう!」

杏子は自身をとりまく光の粒を纏い、眩い光の玉となって一直線に魔女へと突撃する。

杏子(さやか、絶対にあんたを魔女に成らせたりしない!!)

杏子はソウルジェムの力を解放し自身の魔力の全てをその身に纏っていた。

まさに玉砕覚悟、決死の行動だった。

あまりに眩いその命の光は人魚の魔女に激突し…。

その腹をぶち抜いた。

オクタヴィア「……!!!」


腹に大きな風穴を空けられた魔女は徐々に風化した岩のように体がさらさらと消えていく…。

魔女に引頭を渡したその光の塊からも同様に段々と輝きを失ってゆく。

そして、その輝きが失われると、さやかを抱き抱える杏子の姿がそこにあった。

さやか「…杏…子?」

抱きかかえられたさやかは絞るようにして声を出す。
杏子「…なんだ?」

さやか「ありが…と…」

そこまで言うとさやかは事切れた。

杏子「さやか!?」

杏子は慌ててさやかの口元に耳を近付ける。

そこからは穏やかな呼吸が繰り返されている。

杏子「…バカ野郎。」

そのことに安心した彼女は小さく悪態をつくと、さやかをゆっくり下ろした。

そして立ち上がり男の方へ振り向いて…膝から崩れてしまった。

ハンター「馬鹿はお前だ…。」

さやかの側に倒れ込む杏子。
彼女の襟元のソウルジェムは魔力を使い果たし、真っ黒に濁りきっている。

男は魔女から回収したグリーフシードを杏子に手渡した。

杏子「ははっ!…違いねぇ!」

杏子は渡されたグリーフシードを自身のソウルジェムに当て“汚れ”を浄化した。

杏子「悪いけど…後のことは頼むよ…“相棒”」

どうやらもう体が動かないらしい。

ハンター「しょうがないヤツだな…。」

男はそう言うと、さやかを背負い、杏子を抱きかかえた。

杏子「世話…かけちまうな。」

ハンター「気にするな…“相棒”」


そんな男の返事を聞いて少女は満足気に目を閉じた。

主を失った事により結界はその輪郭を失っていく。

~見滝原 中学校 校門 ~

ほむら「…急がないと!」


少女は再び見滝原中学校の校門を目指していた。


先に結界を脱出していたほむらはマミを背負ってまどかと共に彼女のマンションへ向かった。

そしてマンションに着くとマミを自室のベッドに寝かした。

彼女が目覚めた時に再び暴れないよう、まどかと二人で見守るつもりだったが、

まどか「一人で大丈夫だから、ほむらちゃんは行ってあげて!」

と言われたので、学校に戻ることにした。

ほむら(…ハンターは…みんなは無事なのかしら?)

さらに走り続けると校門が見えてきた。

すると、校門付近の景色が歪み、男と彼に介抱されている二人少女が現れた。

ハンター「ほむら!…マミはどうしたんだ?」

ほむら「彼女ならマンションに送ったわ。…まどかも一緒よ。」

ほむらは話しながら男からさやかを受け取り、背負う。
男も抱き抱えていた杏子を背中に背負った。

ほむら「あなたは本当に凄いわね。」

ハンター「ん?どうしたんだ、急に?」

ほむら「あの最悪の状況からみんなを救い出すなんて。」

ハンター「当然だろ?…君と約束したからな。」

ほむら「…。」

ハンター「ワルプルギスの夜の討伐と…みんなを助けることが今の俺の使命だからな」

ほむら「ふふっ…そうだったわね。」

少女は短く答えると先に歩き出した。

少し早いけど今日はこのへんで一旦きり上げます。

―正午―
~見滝原 マミのマンション~

ほむら「着いたわ。」

ハンター「ここか…。」

二人はマミが部屋を貸りているマンションの前に着いた。
そして門をくぐりマミの部屋の玄関に来た時、男の背中が急に軽くなった。

杏子「よっと。…ふわ~ぁ。」

男の背中から降りた少女はその小さな口から八重歯を覗かせ、大きな欠伸をした。

ハンター「起きたか。」

杏子「…あぁ。それよりここは?」

ハンター「マミのマンションだ。」

杏子「…!…マミさんのマンション!?…じゃあ、あたしはここで…」

杏子が全てを言い終わる前にほむらが押したインターホン応じてまどかがドアから現れた。

まどか「ほむらちゃん!それにハンターさんも!!…さやかちゃんは?」

彼女は開口一番、さやかの安否を尋ねて来た。

ほむら「落ち着いてまどか。」

ハンター「さやかなら無事だ。」

さやかはほむらの背中で寝息を立てている。

まどか「…!」

それを見たまどかは今にも泣き出しそうな顔になった。

ハンター「ちゃんと連れて帰るって言ったからな!」

まどか「…はい!」

ハンター「それよりマミは?」

まどか「マミさんなら…」

マミ「私なら…もう平気です。」

噂をすればなんとやら…奥のリビングからマミがゆらりと姿を現した。

マミの姿を見た男とほむらは反射的に身構える。

男は結界を出た直後に装備をほむらに渡したので完全な丸腰だ。

まどか「マミさん!?…まだ横になってなきゃダメですよ!!」

マミ「いいの…それよりこんなところではなんですから、どうぞあがって下さい。」

ハンター「…あ、あぁ。」

予想に反して落ち着いた態度の彼女に促され男とほむらは部屋へ入っていく。

杏子「マミ…さん。」

マミ「…!…杏子ちゃん…あなたもよかったらあがって。」

杏子は迷ったが皆に従い玄関のドアをくぐった。

マミのベッドにさやかを寝かせ、一同はリビングの背の低いテーブルを囲むように腰を下ろした。

マミ「まずはみんなに謝らないといけないわね…本当にごめんなさい。」

ハンター「気にしないで。あれは仕方なかったことだ。…それより腕は大丈夫か?」

マミ「はい。それなら問題ありません。」

傷跡ひとつ残っていないマミの右腕を見て男は胸を撫で下ろす。

ハンター「やむを得なかったとは言え…すまなかった。」

男は深々と頭を下げる。

マミ「ハンターさん!?やめて下さい!これは私が悪いんです!!私のせいで…」


男の謝罪に対してマミは顔前で大きく手を振ってうろたえる。


ほむら「いえ…全てはみんなにソウルジェムの秘密を話さなかった私の責任よ。」

杏子「…。」

ほむらは自身の“事情”をしらない杏子の為にも改めて全てを包み隠さず説明した。

ほむら「今まで黙っていて…ごめんなさい。」

マミ「気にしないで暁美さん。」

マミ「それはソウルジェムの秘密を知った私が取り乱すことを見越してのことだったんでしょ?」

ほむら「え…えぇ。」


マミ「私の方こそ、取り乱してしまってごめんなさい。」

ほむら「…。私は…。」


杏子「ほむら…お前も自分の願いに後悔しない為に精一杯頑張ってんだな。」

まどか「それより、なんとかしてみんなが魔法少女から元に戻る方法ってないのかな?」

ほむら「いつかキュウベェに聞いたけど…ないと言っていたわ…。」

ほむらの言葉で部屋は重い沈黙に包まれる。

ハンター「…そのことなんだが、俺に考えがある。」

唐突な男の発言に皆の視線が集まる。

ほむら「ハンター…?」

ハンター「なぁ、まどかちゃん。明日ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど。」

まどか「いいですよ!…でも手伝って欲しいことって何ですか?」

ハンター「まぁそれは明日のお楽しみってことで…。」

男は何やら自信ありげにふてぶてしく微笑む。

その顔を見た一同は目を輝かせた。

ハンター「それと…だ。杏子。」

杏子「なんだよ?相棒。」


男はあぐらをかいて座る自身の左膝の上にさも当然のごとく腰を下ろす少女に声をかける。

ハンター「お前、マミの部屋に住ませてもらえ。」

杏子・マミ「…え!?」

男の提案に杏子は思わずポケットから取り出したお菓子をポロリと落とした。

杏子「な!…何言ってんだよ!?」

ハンター「一日中教会に篭ってるより健全だろ?」

杏子「人をヒキコモリ扱いすんじゃねぇよ!」


うろたえる杏子などお構いなしに男は続ける。

ハンター「それに…にぎやかな奴がいた方がマミも退屈しないだろ?」

マミ「…。」

マミ「私は…杏子ちゃんさえよければ…。」

杏子「マミ…さん!?」

ハンター「…だそうだが、どうする?」

杏子「…マ、マミさんがそう言うなら…。」

マミ「うふふ…よろしくね。杏子ちゃん。」

杏子「あ…あぁ。また世話になるよ。」

男はそんな二人を見てしきりに頷いていた。

杏子「お前は強引だな。」

ハンター「よくそう言われるな。」

男は文句をブツブツと垂れ流す杏子の頭をわしわしと撫でながら、
彼女が先程落としたクッキーをその口に押し込んで黙らせた。

杏子「まったく…(ボリボリ)…お前には勝てる気が(ゴクン)…しないな。」

ハンター「勝てるつもりでいたのか?」

杏子「ははッ!言ってろ!」

男の挑発的な返事に少女は朗らかに笑う。

ほむら「とりあえず、話は一段落ついたけど…」


ほむら「あなたはいつまでそこに座っているのかしら?」

そんな少女の問掛けに男の膝にちょこんと座る杏子は口元をニヤリと歪めて答える。

杏子「なんだよ…もしかして妬いてんのか?」

ほむら「な!?」

部屋に妙な沈黙が訪れる。そこへ…。

さやか「あれ?みんないたんだ…。」

マミの部屋から眠たそうな目をこすりながらさやかがやって来た。

さやか「…ってか何この空気?」

まどか「…さやかちゃん。」
そんなさやかを見てまどかとマミは苦笑いを浮かべるのだった。

― 夕方 ―

あれからしばらく皆で雑談した後マミと杏子を部屋に残して少女達は帰って行った。

杏子「…なんていうかにぎやかなヤツらだな。」

杏子はやれやれと肩をすくめる。


マミ「うふふ。そうね。」

杏子「マミさんはホントにいいのか?その…あたしがここにいて…。」

マミ「昔は一緒だったじゃない。あなたが駆け出しの頃は…」

杏子「それは昔だろ?…あたしは一方的に出ていったってのに…。」

マミ「私はあなたがこの町に戻ってきてくれて嬉しかったわよ?」

杏子「……。」

マミ「おかえり、杏子ちゃん。」

杏子「……ただいま。」

― 夜 ―

~見滝原 ほむら宅~

男と少女はリビングで夕食を摂っていた。

ほむら「あなた、料理もできるのね。」

ハンター「一人で野営することも多いからな。見てくれの悪さはどうにもならんが…。」

今日の夕食は男が手掛けたのだった。

ほむら「…でもなかなかの味よ。」

ハンター「それは何よりだ。」

ほむら「ねぇ…さっきみんなの前で魔法少女を元に戻す方法に心あたりがあるって言っていたけど…」

ほむら「…本当なの?」

少女はにわかには信じられないといった様子だ。

ハンター「あぁ。そのことか。」

ハンター「俺はあまり頭のいい方じゃないが…」

ハンター「職業柄、一応だけど薬の調合とかには造詣が深いんだよ。」

ほむら「…!…じゃあ元に戻す薬か何かに心当たりがあるの?」

少女は男の方へぐいっと身を乗り出す。

ハンター「いや…さすがにそんな都合のいい代物はないよ。」

ほむら「…??じゃあどうするつもりなのかしら。」
ハンター「話すと少し長くなるけど…。」

男はそこで一旦軽く目を閉じ、テーブルの上で手を組んだ。

ハンター「化学の話になるんだけど“化学変化”って分かるかい?」

ほむら「えぇ…例えば鉄が酸化したり、錆びた鉄を元に戻したりすること…よね?」

ハンター「まぁそんな感じかな。」

ほむら「それがどうしたと言うの??」

ハンター「つまりだ。物質は違う物質に変化しても理論上は元に戻すことができるんだ。」

ハンター「つまり魂を別の物質…ソウルジェムに変化させたと考えれば…」

ほむら「…!…キュウベェは元に戻す方法を知っている!?」

ハンター「俺の勘だが…その可能性はかなり高いと思う。」

ほむら「でもどうやって?…あいつと交渉しても素直に戻してくれるとは思えないわ。」

ハンター「交渉なんてしないよ。」

ほむら「え?だったらなおさらどうやって…。」

少女は首をかしげる。

ハンター「脅して命令するんだよ…!」

ハンター「ヤツがこちらの条件を飲まざるを得なくなるように追い詰めてからな!」

ほむら「…?ますますわからないわ。」

そこで男は組んでいた手を解いて少女に真剣に向き直る。

ハンター「なぁ、ほむら。前にも聞いたけどキュウベェの目的って何だっけ?」

ほむら「それは…」

少女はキュウベェの目的を、以前に男に説明した内容を今一同語りだす。

キュウベェ、もといインキュベーターの目的は…。

少女の願いを何でもひとつ叶える代わりに魔法少女になってもらう。
だがそれは表向きの話だ。

彼の真意は魔法少女が魔女に変貌する際に発生する何らかのエネルギーを集めることにある。

ほむら「だから、キュウベェはそのノルマを達成する為に少女に契約を迫る。」

ハンター「そこだよ。だったらそのノルマが全く果たせなくなったら…エネルギーとやらが回収できなくなったらどうなる?」

ほむら「そんなことが可能なの!?…そもそもアイツはたくさんいて、それこそ世界中にいるのよ?」

ほむら「…それをどうやって阻止するの!?」

ハンター「俺になら…俺たち狩人になら可能だ。」

そこで男はphsを取り出した…。

― 深夜 ―

~まどか宅 自室~


少女はベッドに寝そべり携帯を握りしめていた。

まどか(…さっきハンターさんから電話で言われたとおりにすればいいんだよね。)

少女はそっと目を閉じ心の中で“彼”に呼びかける。

まどか(…キュウベェ…話があるの。)

するとすぐに反応があった。

キュウベェ(どうしたんだい?こんな時間に?)

まどか(私…やっと自分の願い事が決まったの!…だから…)

キュウベェ(本当かい!じゃあボクと契約してくれるんだね!!)

まどか(うん。…だから明日、学校が終わってから来て欲しいところがあるんだけど…)

………。

キュウベェ(わかった!じゃあ明日そこで落ち合おう!)

まどか(…待ってるからね。)

彼とのやりとりを終えるとまどかは部屋の明かりを消して眠りに就いた。

―朝―

~見滝原 ほむら宅~

登校するほむらを見送った後男はphsでギルドに連絡をとっていた。

ネコートさん「話は分かった…君の言うとおり“彼ら”をそちらに向かわせたよ。」

ハンター「流石は仕事が早いな!」

ネコートさん「まさかそんな事になっているとはね…それともう一つの件だが…」

ハンター「それはまだいい。」

ネコートさん「そうか…また何かあったら直ぐに言いたまえよ?」

ハンター「ありがとう…それじゃあ。」

電話を切ると男は自室へ戻り何やらポーチを漁り出した。

― 午後 ―

~見滝原 中学校 教室~

終礼のホームルームが終わり生徒達が帰り始める。

さやか「ま~どか~!ほむら~!一緒に帰ろ~!」

席の近い二人の少女の元にさやかが近付いてくる。

まどか「さやかちゃん…私今日は…」

ほむら「さやか。まどかはちょっと用事があるみたいだから今日は私と帰りましょ。」

さやか「え~。用事って何だよ~?」

ほむら「いいから、行くわよ!」

さやか「わっ!ちょっと!?ほむら~??」

ほむらはさやかをズルズルと引っ張っていった。

仁美「それじゃあ、私も先に帰らせてもらいますわ。」

まどか「あ、うん!仁美ちゃんもまた今度ね!」

クラスメイトを見送ったまどかは一人目的の場所へ向かった。

― 夕方 ―

~見滝原 高台 公園 ~


見滝原の町を見渡せる高台の人気のない公園に少女はいた。

その公園の隅のベンチにまどかは一人腰かけている。

キュウベェ「早かったね…待たせたかい?」

ふいに少女は小さな白い動物(?)に話かけられた。

まどか「キュウベェ…。私も今来たばっかりだよ。」

キュウベェ「そうか…じゃあ早速君の願い事を…」

ハンター「…その前に俺の話を聞けよ…キュウベェ。」

キュウベェ「…君は。」

キュウベェは声がした方を見る。

公園の入り口からはハンターと…二人の男がこちらへやって来る。

ハンターの後ろのイカツイ二人の男はともにtシャツにジーンズと言うラフな格好だ。

そして両手にバカでかいトランクを持っている。

キュウベェ「これはどういう…?それにその二人は何者なんだい?」

地獄兄弟(兄)「ドハハハハ…!俺達は人呼んで地獄から来た兄弟…ヘルブラザーズよ!なぁ!弟よ!」

地獄兄弟(弟)「おうとも兄者!俺達は泣く子も黙る上位ハンターだ!バハハハハ…!」

キュウベェ「…彼等も狩人なのかい?」

ハンター「あぁ。だが今はそんなことは関係ない。」

ハンター「キュウベェ…さやか、杏子、マミ、そしてほむらの四名を元に戻してやってくれないか?」

キュウベェ「それは無理だよ。何を根拠にそんな…」

ハンター「そうか…残念だ。」


あくまでシラを切る彼の態度を見て彼はphsを取り出した。

キュウベェ「そんなもので何をするつもりだい?わけがわからないよ…。」

キュウベェは首を傾げてみせる。

ハンター「キュウベェ…お前、エネルギーとやらが回収できなくなったら困るよな。」

キュウベェ「そりゃ困るさ。ボク達にとっては死活問題だからね。」

それを聞いた男は不敵な笑みを浮かべる。

ハンター「今から俺がギルドに連絡して、お前が討伐対象として認定されたとしたらどうする?」

キュウベエ「そ、そんなことが…。」

ハンター「世界中の腕利き狩人達に永遠に追い掛け回されるのもいいかもな?」

キュウベェ「…本気かい?」

ハンター「あぁ。ただしさっき俺が言った条件を飲んでくれるなら見逃してやってもいい。」

キュウベェ「…断る!」

キュウベェの返答を聞いた男はあることを確信した。

ハンター(ヤツは今“できない”ではなく“断る”と言った。)

ハンター(つまり、魔法少女を元に戻すことは可能ということだ!)

ハンター「じゃあ仕方ないな。」
キュウベェ「…。」

男はphsで何やら話始めた。

ハンター「俺だ、例のモンスターを討伐対象にして世界中に緊急以来を送ってくれ。…ああ。…よろしく頼む。」

キュウベェ「君は今何をしたか分かってるのかい?…このままでは宇宙は…」

ハンター「知らんな!それはお前らの理屈だろうが!!」

キュウベェの恨み節を男はピシャッと遮った。

ハンター「ただし、俺も鬼じゃない。条件を飲むなら討伐対象から取り消してやる。」

キュウベェ「……。」

ハンター「条件を飲む気になったらいつでもまどかにテレパシーとやらで連絡をよこせ!」

そこまで言うと男はポーチからペイントボールを取り出してキュウベェに投げつけた。

球がはじけるとピンク色の液体と強烈な臭いを巻き散らされた。


キュウベェ「なんのつもりだい?これは。」

ハンター「これでお前は狩られる者になった。」

ハンター「そして、この国でお前の討伐を担当するのはこの二人だ…。」

ハンターがそこまで言うと二人の男はずいっと前に進み出る。

地獄兄弟(兄)「うむ!では俺達の狩りを始めるとするか、弟よ!」

地獄兄弟(弟)「そうだな兄者!俺のライトボウガン“タイタンパンツアー”とォ…!」

地獄兄弟(兄)「俺のヘヒヴィボウガン“メテオフォール”との連携でぇ…!!」

地獄兄弟「地獄の業火ヘルファイアにて葬り去ってくれるわ!バハハハハ…!ドハハハハ!」

キュウベェ「…くっ!!」

キュウベェは二人の腕利き狩人に終われて公園から去って行った。

まどか「なんか可愛そう…かも。」

消えて行ったキュウベェを眺めながら少女は呟く。


ハンター「可哀想なもんか。ヤツは今まで願いを叶えると称してたくさんの少女達を犠牲にして来たんだ…。」

ハンター「これは然るべき報いでもあるんだ。」

まどか「…!…そうですね!」

まどか「でも、うまくいくでしょうか…」

ハンター「うまくいくさ。今頃世界中で追い掛け回されてあの無表情な顔でヒィヒィ言ってるかもな。」

まどか「ティヒヒ…それはやだなぁ。…けど、なんかうまくいきそうな気がしてきました!」

二人はしばらく笑いあって高台の公園を後にした。

これ以上は明日に差し支えるので寝ます。

続きはまた明日。

それでは失礼…。

~見滝原 市街地~

ハンター「今日は手伝ってくれてありがとな。」

まどか「ティヒヒ…どういたしまして!」

ハンター「じゃあ俺はこっちだから…またね。」

まどか「はい!」

高台の公園を後にした二人はそれぞれの帰路につこうとしていた。

まどか「ハンターさん!」

少女と別れ、歩き出した男の背に声がかけられる。

まどか「今日はありがとうございました!私、いっつも見てるだけだったから…」

まどか「少しでもみんなの役に立ててうれしかったです!!」

礼を言う少女に対し男は振り返らず、ただ手を振って去って行った。

男の姿が見えなくなってからしばらくすると少女の携帯が鳴った…。

まどか(この音はメール…。誰からだろ…?)

少女は携帯を取り出し画面を見る。

from:ハンターさん
to :********
sub : 無題
本文:狩りにおいても人生においても人にはそれぞれ役割のようなものがある。だから、君は焦らず君のできることをすればいい。


まどか(ハンターさん…。)

メールの文面を見たまどかは返信の文面を打ち終えると携帯をポケットに戻した。

まどか(私のできること…か。)

まどか「私も…みんなの為に自分らしく頑張ろう。」

少女は男が消えて行った方向をもう一度見てから再び家路を急いだ。

― 夜 ―
~見滝原 ほむら宅~

ハンター「ただいま。」

ほむら「おかえりなさい。…それで、どうだったの?」

ハンター「あぁ。それなら…」

男はリビングのテーブルの席に着くと先程の事の填末を話した。

ほむら「そう。ならうまくいったのね!」

ハンター「これでみんなは近々、晴れて魔法少女から解放されるはずだ。」


ほむら「ハンター…あなたには本当になんて言ったらいいか…」


その時男のphsから呼び出し音が鳴った。

ほむら「…誰からかしら?」

ハンター「ギルドからだ。新たに支給品を要請しておいたからな……もしもし…」

男は電話に出て話し込んでいる。

ハンター「…え?…でも何で??…分かった。」

ほむら「…?…どうしたの?」

ハンター「ギルドの者が依頼が長引きそうだから依頼人の君に進展を聞きたいそうだ。」

そう言うと男は少女にphsを手渡した。

ほむら「…もしもし?」

???「こんばんは。私はネコートと言う者です。依頼の状況はいかがです?何か問題はありませんか?」

ほむら「問題はありません。後はワルプルギスの夜さえなんとかできれば…。」

ネコートさん「ふむ。では事は順調に進んでいるのですね。」

ほむら「えぇ。…でもワルプルギスの夜は自然災害そのものとも言える超弩級の存在で…。」

ネコートさん「それならご心配なく。相手が超弩級ならば対するハンター君はg級…」

ネコートさん「猛者揃いの狩人達の頂点の一人にして、“無双の狩人”の異名を持つ男です。」

ほむら(“無双の狩人”…。)

ネコート「彼に任せておけば問題ないでしょう。…ただ…。」

ほむら「…ただ?」

そこまで言ってネコートは蛇足だったか…と思いつつも続ける。

ネコート「彼はどこか…戦場で死ぬ事を望んでいる節があるような気がしてならないのですよ。」

ほむら「…え??」

ネコート「いえ…私の勝手な思い込みです。忘れて下さい。…それでは依頼が無事達成されることを願っています。」

そこまで言うと電話が切られた。

ハンター「…で?何だって??」

ほむら「え?…えぇ。困った事があったらいつでも言って下さいって…。」

ハンター「そうか。あの人らしいな。」

少女は平静を取り繕ったが先程のやりとりが気になっていた。

その時、リビングのテレビの画面がcmから天気予報に移り変わった。

気象予報士「天気予報の時間です。日本列島の遥か南の洋上で発生した大型台風は勢力を強めながら徐々に進路を変え…。」

気象予報士「……今後も台風の進路に警戒する必要があるでしょう…続きまして明日の最高気温は……。」

ほむら(…来る!…あいつが!…ワルプルギスの夜が!!)

ハンター「…?…ほむら?」

男はテレビ画面を食い入るように見つめる少女に心配そうに声をかける。

ほむら「ハンター…もうすぐワルプルギスの夜が現れるわ。」

ハンター「…!!」


少女のその言葉で男に緊張が走る。

ほむら「さっきの天気予報からすると2、3日後といったところかしら。」

ハンター「2、3日後か…。」

ほむら「えぇ…。それまでにしっかり準備しておいてね。」

ハンター「あぁ!」

男は席を立つと自分の食器を流しに置いて振り返って少女に告げる。

ハンター「ほむら!…絶対に勝つぞ!!」

満面の笑みで振り返った男の口元には米粒がこれでもかと言うくらいもっさりと付いていた…。

ほむら「…ぷっ!くくっ……。」

それを見た少女は笑いを必死で堪えている。

男はその米粒を食べながら自分の部屋へと消えて行った。

ほむら「こんな時にまで大した余裕ね。」

近付く決戦を前にして尚、気遣いを忘れない男に少女はただただ感心していた。

― 深夜 ―

~見滝原 某所~

彼はひたすらに逃げ回っていた。

地獄兄弟(弟)「そちらへ向かったぞ!兄者!」

地獄兄弟(兄)「了解だ!任せておけィ!弟よ!!」

キュウベェ(どこへ逃げても追い掛けて来る!一体何なんだ彼らは!?…わけがわからないよ!)

そんな彼の後ろからサイレンサー着きの銃口から発射される無音の銃弾の嵐が遅いかかる!

キュウベェ「…ぐっ!しまった!!」

そしてついに銃弾の直撃を受け彼は絶命する。

地獄兄弟(兄)「ドハハハハ!仕留めたぞ!これで52匹目だァ!!」

地獄兄弟(弟)「バハハハハ!流石は兄者!…次は向こうに現れたようだ!!」

地獄兄弟(兄)「うむ!狩りは楽しいなァ!!」

地獄兄弟(弟)「まったくだ!!」

地獄兄弟「ドハハハハ…!バハハハハ…!」

彼の受難はまだまだ始まったばかりだった…。

― 朝 ―

~見滝原 中学校 教室 ~

さやか「…でさぁ~…」
まどか「…だよねぇ…」
ほむら「…ふふっ…。」

担任「は~い、みんな席に着いて~。」

担任のかけ声で生徒達はそれぞれの席に着いた。

担任「いきなりだけど、このクラスにまた人が増える事になりま~す…ってことで転校生~、入って来て~。」

先生の言葉に促され、転校生は教壇の上に立った。

さやか「!」
まどか「!」
ほむら「!」

担任「はい!じゃあ自己紹介して~。」

転校生「杏子…、佐倉杏子だ。…よろしく。」ムスッ

さやか「杏子ぉ!?」
まどか「杏子ちゃん!?」
ほむら「……。」

さやかは思わず席から立ち上がった。

担任「あら?二人とも知り合いなの?…じゃあ佐倉さんの席はそこね~」

杏子は担任が指差した場所…さやかのとなりの席にツカツカと歩いて行った。

さやか「なぁ、杏子。どうなってんのこれ?」

杏子「マミさんがちゃんと学校に行けってうるさくてな。あたしは嫌だったんだが…」

杏子「マミさんの遠縁の親戚ってことで転入させられたんだ。」

席についた杏子は仏頂面でさやかの質問に答えた。

さやか「そうか!これからよろしくな!杏子!!」

仏頂面の少女に対しさやかは嬉しそうに微笑む。

杏子「…あぁ。」

杏子は言葉少なく答えたものの、口元には笑みを称えていた。

用事ができてしまったので今日はこれにて御免。

皆様、すみませぬ。

続きはまた明日。

― 正午 ―

~見滝原中学校 屋上~

午前の授業が終わり五人の少女は屋上で昼食を摂っていた。

さやか「それにしても杏子が教室に入って来た時はビックリしたなぁ~。」

ほむら「そうね。…私も驚いたわ。」


杏子「あたしもマミさんに言われてなきゃ来てないさ。学校なんて面倒臭い。」

マミ「あら…ダメよ、杏子ちゃん!学校にはちゃんと行かないと!」

杏子「うっ…、わぁかったよ!ちゃんと通うからそんな顔しないでくれよ…」

まどか「ティヒヒ…何かマミさん…お母さんみたい!」

マミ「お母さん!?…せめてお姉ちゃんと言ってほしいわ。」

そんな日常の何気ないやりとりに一同は笑い合う。

他愛のない話に花を咲かせる皆を見て、少女は意を決して話し始めた。

ほむら「盛り上がっているところ悪いのだけど…みんなに話があるの。」

ほむらの真剣な表情を見た一同は雑談を止め彼女の話に耳を傾ける。

ほむら「ここじゃなんだから今日学校が終わったら集まって欲しいの。」

マミ「分かったわ。じゃあ学校が終わったら、みんな私の家に来ない?」

マミ「先に帰ってお茶とケーキを用意して待ってるわ。」

さやか「あ!そうか、マミさんは今日授業、五時間目までだもんな。」

まどか「ほむらちゃん…ハンターさんにはもう言ったの?」

ほむら「あの人には今メールを送っておいたわ。」


杏子「いよいよ…か。」

杏子がそう呟いた時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、少女達は屋上を後にした。

― 昼 ―

~見滝原 市街地~


迫る決戦を前に、男はまだ全てを見回れていなかった町を再び散策していた。

ハンター(取り敢えず一通りは回れたな。これで大体は…)

ハンター「…ん?」

その時、男のポケットから振動が伝わって来た。

男はその振動の元を取り出して開いた。

ハンター「…メールか。」

from:暁美 ほむら
to :******
sub :無題
本文:ワルプルギスの夜のことで皆と話し合うから、2時半頃に巴さんの家にあなたも行って先に合流しておいて。後から私達も行くから。

ハンター(今は1時ちょうどか…もう少し時間を潰したら行くとするか。)

ハンター「了解…っと。」

男はぎこちない手付きで返信の文面を打つと駅前の繁華街へと向かった。

― 午後 ―

~見滝原 マミのマンション~

マミの部屋の前に着いた男はドアの前でインターホンを鳴らした。

するとしばらくして慌ただしい足音と共にドアが開き、エプロン姿のマミが現れた。

ハンター「すまん、ちょっと来るのが早すぎたか?」

マミは鼻の先についたクリームを恥ずかしそうに拭って答える。

マミ「いいえ。そんなことないですよ。…それより、どうぞ上がって下さい。」

ハンター「それじゃあ、お邪魔するよ。」

男は少女の後に続いてリビングへと入って行った。

~マミの家 リビング~

男は部屋に入ると背の低いテーブルの前であぐらをかいて座った。

マミはテーブルに置かれている焼きたてのホールケーキを6つに切り分け、
紅茶と共に男に差し出した。

マミ「どうぞ、召し上がって下さい。」

男に差し出されたケーキは6つの中で一際大きな物だった。

ハンター「杏子のヤツが見たら何やら文句を言いそうだな。」

マミ「ですから、みんなが来る前に食べちゃって下さい。」

マミ「いつも助けてもらってばかりですから、そのお礼ですっ」

少女は満面の笑みを浮かべて男に感謝を述べる。

ハンター「じゃあ遠慮なく頂くぞ。」

男はイチゴの乗ったケーキに手をつける。

マミ「どうですか?」

ハンター「うまいな。すごく上品な味だ。」

マミ「お口に合って、何よりです。」

男の感想を聞いて少女は嬉しそうに答えた。

そんな少女を見て男は気になっていた事を口にした。

ハンター「もうふっきれたのか?」

男の問掛けに対し少女は間を空けることなく返す。

マミ「はい。さすがに全てを納得できたわけではありませんが…私はもう独りじゃないから…」

ハンター「そうか。」

マミ「それに、魔法少女から元に戻る方法にも見当があるんですよね?」

ハンター「そのことなんだが…多分近々みんな元に戻れるぞ。」

マミ「そうですよね。やはりそんな簡単には……え!??」

さらりと男の口から出た意外な返答に少女は思わずその手からフォークを落とした。

マミ「元に………戻れるんですか??」

ハンター「あぁ。詳しくは皆が集まってから話すが…。」

マミ「ハンターさんッ!!」

男が全てを言い終わる前に少女は男に抱きついた。

マミ「………ッ」

マミは男の胸板に顔をうずめて泣き出した。

男はそんな彼女の頭を優しく撫で、落ち着くのを待った。

しばらくして少女は落ち着きを取り戻すと、自身が魔法少女になった経緯を語りだした。

昔、家族三人でドライブをして時に車が崖から転落し両親は即死…。
自身も瀕死の重症を負うも目の前に現れたキュウベェに延命を願いやむを得ず契約したこと。

魔法少女になってからはずっと孤独であったことを…。

マミ「だから私はずっと解放されることを信じて戦って来たんです!」

マミ「そんな日が本当に…本当にやってくるなんてッ…!!」

ハンター「マミちゃん…お疲れ様。」

マミ「…はい……。」

再びマミの視界が滲んでいく…。


ハンター「君も、望んで選んだ訳じゃないんだな…」ボソ

マミ「…ふぇ?」

その時玄関のインターホンが鳴らされた。

マミ「あ…、みんなが来たみたいです。」

少女は男から離れると少し赤い目を拭いながら玄関へと向かった。


ハンター(そう。あの子達は近々、魔法少女から無事解放され救われる…。)

ハンター(俺も…いつかは救われるんだろうか…。)


もの思いに耽る男は、ハッと思い出したようにそそくさとケーキの残りを口に入れ、紅茶で流し込んだ。

そのタイミングを見計らったかのように少女達がリビングにやってくる。

杏子「よう、相棒!もう来てたのか。…それよりケーキ、ケーキ!」

ハンター「あぁ。お邪魔してるよ。」

杏子は早速ケーキを選ぶとあぐらをかく男の左膝の上に自身の指定席と言わんばかりに腰かけた。

ほむら「…お邪魔します。」

それを眺めながら男の右側に腰を下ろしたほむらは何やら仏頂面だ。

まどか「あれ?マミさんの目…なんか赤いね。」

マミ「そ、そうかしら?自分ではよくわからないわ。」

さやか「お~!マミさんのケーキ~!!」

そうこうしているうちにリビングに全員が揃った。

皆が揃ったところで杏子が気になりつつもほむらは話を切り出した。

ほむら「今日みんなに集まってもらったのは他でもない…前に話したワルプルギスの夜についてなの。」

ほむら「近々現れるヤツはとても強大な、自然災害そのもののような超弩級の魔女よ。」

ほむら「今まで何度挑んでも駄目だった…でも、今一度、みんなに力を貸して欲しいの!!」

マミ「私は協力するわ。一緒に戦いましょう!暁美さん!!」

さやか「あたしも戦うぞ!ほむらだけに全部背負わせたりするもんか!」

杏子「今更頼み事なんて水くせぇんだよ!…お前はあたしらにただ手伝えって言やいいんだよ!!」

ほむら「みんな…!」

ハンター「俺も闘おう。ヤツを倒し、お前らを守ることが今の俺の使命だからな。」

ほむら「ハンター…!」

さやか「ハンターさんも来てくれるんなら百人力だな!!」

ほむらは皆が快く引き受けてくれた事に深く感謝していた。

ほむら「ありがとう…絶対にワルプルギスの夜を倒しましょう!」

少女のかけ声に皆威勢の良い返事を返す。

まどか「ほむらちゃん…あたしも何か手伝えることないかな?」

ほむら「まどか、気持ちはありがたいけど…」

ハンター「そうだな、今回ばかりは安全な所に避難するんだ。」

まどか「…でも!!」

ハンター「まどか。ほむらの気持ちを汲んであげるんだ。」

まどか「…!そうですね。私は私のできることを、ですよね。」

ハンター「そういうことだ!…それから俺とまどかからもみんなに話があるんだ。」

男はまどかに目線を送る。

目が合ったまどかは真剣な表情で頷いた。

ハンター「実はこの前に心あたりがあるって言ってた魔法少女から元に戻る方法なんだが…。」

男とまどかは昨日の夕刻の出来事を皆に話した。

さやか「まどかの用事ってそのことだったのか…。」

まどか「うん。」

杏子「なるほどなぁ。だったらまどかに魔法少女になってもらってさ…」

杏子「ワルプルギスの夜を倒してから全員元に戻してもらった方がいいんじゃねぇか?」

杏子の一言に一同は目を見開いた。

まどか「私が…。」


ほむら「だ…駄目よ!それだけは認められないわ。」
ほむらは必死でその提案を拒否する。

場に訪れた沈黙に対して男はさらに続ける。

ハンター「それでは駄目だ…さっきも話したがこの話には大前提がある。」

さやか「前提って??」

ハンター「キュウベェに条件を飲ませるためにはエネルギ゙ー回収が困難な状況に陥らせる必要がある。」

ハンター「仮にまどかが契約したらヤツのエネルギー回収のノルマは達成されるだろ?」

杏子「…そうか!そうなったらキュウベェは条件を飲む必要がなくなって…!!」

ハンター「御名答だ。これはあくまで“交渉”ではなく“脅し”だからな。」

ハンター「脅迫材料がなくなればヤツに妥協する理由がなくなる。」

マミ「すごい!そこまで考えてたんですね!!」

さやか「さすがはハンターさん!頼りになりますなぁ!!」

皆から男に賛辞の声がかけられる。

ハンター「やめろやめろ…俺はてきればキュウベェみたいな詐欺師まがいな事はしたくなかったんだからな。」

ハンター「それに俺なんかより、見事キュウベェを誘いだしたまどかを誉めてやってくれ。」

まどか「え?私は何も…。」

まどかに皆の視線が集まる。

さやか「まどかも頑張ったもんな!」

マミ「うふふ…そうね。」

杏子「まぁ、お前にしちゃ上出来だ!」

ほむら「まどかもお疲れ様。」

まどか「ティヒヒ、私はみんなの為に何かできないかなって…ただその一心で…」

マミの部屋で来たる決戦への話合いをし、憂慮すべき事柄も解消された今、
しばらく談笑した後、皆決意を新たにし、それぞれの家路に着いた。

― 夜 ―

~見滝原 ほむら宅~

帰宅した男と少女は少々早めの夕食を摂っていた。

ほむら「まだ六時だけど夕食にしましょ。」

ハンター「そうだな。」

二人はテーブルの席に着き両手を合わせる。

二人「いただきます。」

大きな口で目の前のハンバーグを頬張る男に少女は話かける。

ほむら「あなたって本当になんでもできるのね…」

ほむら「相当色んな経験を積んでるみたいだけど年はいくつなのかしら?」

ハンター「多分25歳くらいだ。」

ほむら「25歳……くらい?」

男の顔は少女のその一言にほんの一瞬、能面のように無表情になった。

だが、男はすぐにいつもの瓢々とした表情に戻った。

ハンター「まぁ…20代も後半になると自分の年に無頓着になるものだよ?お嬢さん。」

ほむら「…。」

少女はとそんな風にとぼける男を見て、今まで遠慮してきたが、
最近どうしても気になって仕方がないことを聞いてみた。

彼の生い立ちとモンスターハンターになった動機を。

ほむら「ねぇ?ハンター…。」

ハンター「なんだ?」

ほむら「あなたはどうして狩人になろうと思ったの?」

ハンター「……。」

男は表情こそ変わらないものの押し黙った。

ほむら「…というよりも、あなたはどんな半生を歩んで来たのかしら?」

ハンター「なんで…そんなこと知りたいんだ?」

男の口調は穏やかだがそこには明らかに質問に対する拒絶が含まれている。

少女は構わず続ける。

ほむら「あなたが何か大きな物を抱えて苦しんでいるような…そんな気がしたから。」

ハンター「…。」

ほむら「それにあなたは前に、私に言ったわよね?“何でも一人で背負込むな”って。」

ハンター「……。」

ほむら「私はあなたのお陰で何度も救われたわ!だから!!…無理にとは言わないけど…。」

ハンター「………。」

尚も食い下がる少女に対して男は軽く目を閉じテーブルの上で手を組んだ。

そして瞼を持ち上げ「あまり面白い話ではないよ?」と断りを入れ、薄く笑いながら語り始めた。

ここより遥か西の大陸。
今は失き彼の祖国ではかつて、紛争が続いており彼自身も幼くして戦争で両親を失った孤児だったそうだ。

そして彼の父は英雄的なモンスターハンターでもあった為に彼もその力を期待され、幼少の頃より軍隊で戦士になるべく厳しく鍛えられた。

ハンター「生き方なんてとても選べやしなかったんだ。」

ハンター「ガキのころから遊びは訓練、友と呼べるのは一振りの模造刀。」

ハンター「11歳の頃生きる為に初めて戦場で人を手にかけた。」

ハンター「返り血を浴びて初めて人の温もりを知った。」

ハンター「ガキの頃の俺はよくこんなことばかり考えていたよ…。」

ハンター「昨日は二人、今日は三人、合わせて五人…明日は何人??」

ハンター「200まで数えてそこからは数えるのをやめた。」

ハンター「殺した数だけ軍での肩書きだけは立派な物になり…」

ハンター「人は自分自身ではなく自分の力しか見てくれない。」

ハンター「自分は人であるまえに都合の良い殺戮兵器なのだと嫌でも思い知らされた。」

ハンター「生き死になんてどうでもいい。」

ハンター「多くの命をひたすらに奪って来たのだからどうせ俺はロクな死に方はできんだろうと思っていた…。」

ハンター「そしてただひたすらに戦いに明け暮れ、19歳になった頃、インペリアルガードの筆頭に抜擢されたんだ。」

ハンター「そこで俺は国の第三皇女の少女に遣えることになったんだ。」

年の近い少女との触れ合いで男は人間味をとりもどしていった…。
何より彼女は男を友として一人の人間として見てくれた。

ある時は二人でこっそり宮殿を抜け出したりした。

少女「ハンター!早く早く!…こっちに来て!」

ハンター「そんなに走ると危ないぞ~。」

ある時は夜更けに宮殿のテラスで国の行く末を語ったりした。

少女「ハンター…あたしね、もう少ししたら…」

ハンター「どうしたんだ、急に?」

それは男にとって何よりも賭けがいのないものだった。

だが、ある日。
次期皇帝の座を狙う国の重鎮の一人が軍部を掌握しクーデターを引き起こした。

遠征から近衛騎士を率いて祖国へ帰ったハンターの目に飛び混んで来たのは、
いたるところから黒煙を上げる宮殿だった。

ハンター「何だ!?これは!…それより皇帝は…少女は無事なのか!?」

ハンターは反乱軍を斬り伏せながら宮殿へ向かった。

宮殿へ到達すると近衛騎士達を皇帝の元へと向かわせ、自身は第三皇女、少女の元へと向かう。

そして向かって来る反乱軍をことごとく返り討ちにし、ハンターは少女の寝室に辿り着いた。

少女「ハンター…来てくれると信じていたわ。」

ハンター「…!…少…女。」

少女は純白のドレスの腹部を真っ赤に染め、天蓋付きのベッドに力なく横たわっていた。

少女「はぁはぁ…ハンター…あたしね…」

ハンター「もういい…!もうしゃべるな!!」

男は震える手で少女を優しく抱き寄せる。

少女「もう…いいの。…それより…。あたしはこんなにもこの国を思ってきたのに…」

少女「信じてきた国と、民に裏切られて…こんな…ことになるなんて…。」

少女「…私のやって来たことは全部…無意味だったのかしら…」

ハンター「そんなことはない!君はいつでも立派だった!!」

少女「…………ッ」

少女はさらに息絶えるまで何かを口にしていたが、もはやハンターの耳には届いていなかった。

ハンター「うおおぉぉぉおおッ!!誰だ!誰がやったァ!!…殺してやる!……殺してやるぞぉッ!!」

~ほむら宅 リビング~

ハンター「そして俺は反乱軍を皆殺しにして、首謀者を血祭りにあげ、翌朝逃げるように国を去ったんだ。」

そこまで話しすと男は組んでいた手をさらに堅く握りしめる。

ハンター「俺はまた、色んなものに絶望してしばらく各地を放浪した。そんな中、風の噂で祖国は滅んだと聞いたよ。」

ハンター「それを聞いて、なぜか俺の中で少女との思い出が消えてしまうようなそんな気がしたんだ…。」

ほむら「……。」

ハンター「あいつはいつも他人の為に頑張っていた。…だから人の為に何かをすれば…」

ハンター「あいつとの絆を繋ぎ止められると思ったんだ…だから!」

ほむら「モンスターハンターに…なったのね…。」

ハンター「あぁ。それまでこの手を血に染めあげることだけをしてきたこの俺が…」

ハンター「誰かの役に立って…そして、“あいつ”のように人を傷つけないようにするには、それしか思いつかなかった。」

この男はほむらが想像していたことよりも遥かに重く深い闇を心に抱えていた。

ほむら「あなたは人間に深く絶望して…今も…自分の中の葛藤と戦っているのね……。」

目の前の男はよく見ると小刻に震えていた。

ハンター「さぁな…ただ、俺はあの時から今もずっと、誰かの為にと称して自分の為にしか生きれちゃいないがね。」

そんな男の背中を少女は後ろからそっと抱きしめる。

ハンター「…憐れみのつもりならやめてくれ…!」

そんな少女に男は厳しくいい放つ。

ほむら「…あなたは本当に強いのね。」

ハンター「どこがだ!…俺は強くなんかない!…今も自分の生き方にみっともなく迷っているだけだ!!」

ほむら「それでも!…それでも自分と向き合うことを諦めないじゃない!」

ハンター「……!」

ほむら「私は…、私はね…。」

一旦間を置いてほむらは静かに話し出した。

何度も時間を繰り返す内に心は擦り減り自暴自棄になりつつあったこと。

そして結果がどうあれ“今回”をもって最後にしようと思っていた事を。

ほむら「これは本当に誰にも言うつもりは無かったんだけどね。」

ハンター「…。」

ほむら「あなたのやってきたことで少なくとも私は…私達は救われたわ。」

ハンター「ほむら…君は……。」

ほむら「でもまさか最後の最後になって風の噂で聞いただけのモンスターハンターに助けを求めて…」

ほむら「ここまでやってくれるとは思わなかったわ。」

ほむら「…本当に、ありがとう。ハンターさん。」

ハンター「……。」

そして男から離れた少女がテレビを点けた時、気象情報が流れて来た。

気象予報士「勢力を強めて依然、北上を続ける五月末に発生した季節外れの超大型台風は、日本上空の梅雨前線とぶつかり…」

気象予報士「局所に甚大な被害をもたらすスーパーセルに変貌する可能性があります!…」

気象予報士「今現在、この超大型台風は九州を通過し…明日正午に首都圏に到達する模様で…」

ほむら「…いよいよ明日、この見滝原にワルプルギスの夜が現れるわ。」

ハンター「あぁ。」

ほむら「明日の為に今日はもう休みましょう?」

そう言うと彼女は踵を返す

ハンター「ほむら…ありがとう。」

男の例を聞いた少女は優しい微笑みを彼に向けると無言で部屋へ戻った。

ハンター(ワルプルギスの夜を倒して、あの子を救うことができれば…俺も答えが見付かるかもしれんな…。)

男も明日の決戦に向けて休むことにした。

キリがいいので今日はこのへんで止めマス。

おやすみ。

御支援ありがとう。
再会します。
最終決戦、始まります。

御支援ありがとう。
再開します。
最終決戦、始まります

― 決戦当日 朝 ―

~見滝原 ほむら宅 自室~

男が目覚めると外は風が吹き荒れ、空は厚い雲に覆われ雨が降り始めていた。

ハンター「…。」

ハンター(今日で…終わらせる!)

男がこの見滝原の地に来て今日で八日目の朝となる。

男はtシャツとカーゴパンツに着替え、大きなポーチを片手に自室を出た。

~ほむら宅 リビング~

ほむら「おはよう。…良く眠れたかしら。」

男が部屋を出ると、少女はリビングのテーブルの席に着いてティーカップを片手に本を読んでいた。

ハンター「あぁ。俺が来た最初の朝もそうやっていたな。」

ほむら「ふふ…。そうだったかしら?」

ハンター「今日は学校を休むのか?」

ほむら「いえ…さっき学校から連絡があって、今日は臨時休校よ。」

ハンター「そうか…。」

そんな時、玄関のインターホンが鳴らされた。

ほむら「は~い…どちら様ですか?」

ドアを開けた少女の前には羽飾りの着いた帽子を着たラフな服装の見慣れない人物が立っていた。

???「ハンターさんはいらっしゃいますか?」

ほむら「えぇ…いますけど?」

自分に不審な目を向ける少女に対しその人物は落ち着いた態度で話を続ける。

ギルドナイト「申し遅れました。私はギルドナイト。ハンターズギルドの使いの者です。」

ギルドナイトは羽つき帽子を取り浅く一礼した。

ギルドナイト「ハンターさんから要請を受け支援物資を届けるために来たのです。」

二人のやりとりを聞いていた男が奥からやって来る。

ハンター「すまないな。このポーチに入れてくれ。」

ギルドナイト「はい。…では。」
ギルドナイトは支援物資をポーチに詰めていく。

ギルドナイト「物資の内容は…応急薬、携帯食糧、秘薬、ネット、対古龍用の高性能小型爆弾でよろしかったですか?」

ハンター「あぁ。バッチリだ。」

物資を受け取った男はパンパンになったポーチを腰のベルトに賭けた。

ギルドナイト「あなたほどの人がこんな第一級装備を要求されるなんて…相手はどんな化け物なんです?」

ハンター「自然災害そのものみたいなものらしい…この天候もヤツの仕業だそうだ。」

ギルドナイト「なんと!…それではあなたがかつて葬った古龍、アマツマガツチ並みではありませんか!?」

ハンター「その程度で済めばいいけどな…。」

ギルドナイト「あ、あの嵐龍をもしのぐ怪物…!」

ギルドナイトのこめかみから一筋の汗が滴り落ちた。

ほむら「話の途中で悪いけどそろそろ行かないといけないわ。」

ハンター「そうか…すまないな。俺らはもう行くよ。」

ギルドナイト「分かりました。…ご武運を。」

ギルドナイトは再び一礼すると去って行った。

ほむら「ちょうど今、さやかと巴さんからメールが来たわ」

男がギルドの使者と話している内に携帯でのやりとりがあったらしい。

ほむら「二人とも街に向かったみたい…もちろん杏子も一緒よ。」

ハンター「そうか…。俺らも早速街に向かうか。」

ほむら「えぇ。そうしましょう。」

~見滝原 市街地~

男と少女は足早に市街地の中心部へと向かう。

先程より雨、風共に強まり、徐々に嵐の様相を呈してきた。

アナウンス「間もなく街に超大型台風が到達します!…近隣にお住まいの方は急いで学校など最寄りの避難所に向かって下さい!…繰り返します…」


街中にはアナウンスが響き、人々はもうすでにそのほとんどが避難所へ向かった後なのか、二人は誰ともすれ違わない。

ハンター「傘くらい持って来た方が良かったかもな?」

ほむら「こんな風じゃ役に立たないわ…それに、」

ほむら「あなたは傘を差したまま戦うつもりなのかしら?」

ハンター「あぁ~。その考えはなかったな。」

ほむら「バカなこと言ってないで先を急ぐわよ。」

ハンター「おう!」

人影のない、風雨が吹き荒れる街を、二人は軽口を叩きながら駆け抜けて行った。

~見滝原 避難所~

街に流れるアナウンスに従い少女は母と幼い弟と共に避難所に来ていた。

絢子「ふぃ~。ここまで来れば安全だろう。」

まどか「パパも無事かなあ…。」

絢子「大丈夫に決まってるわよ。あたしは今から避難して来た人の名簿を見てくるけど、」

絢子「あんたはここでおとなしくしてるんだよ?」

まどか「うん…ママも気を付けてね。」

絢子「外に出る訳じゃないから、心配いらないさ。」

そう言い残し絢子は広間を出て行った。

まどか(今日…なんだよね。)

まどか(みんながどうか無事に帰って来ますように…。)

少女は広間で一人、皆の無事を祈っていた。

~見滝原 市街地 中心部~
男とほむらが嵐の中、市街地の中心部に到着すると、そこには三人の魔法少女の姿があった。

マミ「暁美さん!ハンターさん!!」

杏子「やっと来たか。」

さやか「これで全員揃ったな。」

ほむら「えぇ。待たせたわね。」

ほむらも皆に従い魔法少女へと姿を変える。

そして男に盾から取り出した漆黒の鎧を渡していく。

男は受け取った鎧を足具、胴、腕甲、兜の順に服の上から装着し、
最後に兜の目元のみを覆う格子状のフェイスガードを下ろした。

ハンター「俺も準備完了だ。」

皆が男のその一言に頷いたその時…。

皆の視界が白一色に覆われ映画のフィルムの上映開始の時のようなカウントダウンが始まった。

―⑤―

ほむら「ワルプルギスの夜が現れるわ!…みんな、覚悟はいい?」

―④―

杏子「あたしはいつでもいけるぜ?」

―③―

―②―

さやか「ワルプルギスの夜…いよいよだね。」

マミ「みんな!頑張りましょう!!」

―①―

ハンター「…ッ!…来るぞ!」

カウントダウンが終わり、視界が元に戻ると、嵐はピタリと止んだ。

そして市街地上空を覆い尽す分厚い雲の中心に円形の裂目が生じ、
超弩級の魔女はその全貌を徐々に露にしていく…。

ワルプルギスの夜「アハハハハ…!」

マミ「あれが…ワルプルギスの夜…!!」

さやか「…で、デカイ!!」
杏子「ふん!…上等じゃん!!」

天から現れたその巨大な魔女は頭を下にして逆さまにして狂ったように笑いながら、市街地上空の宙に浮いている。

まるで人形のような外見だが、その青いドレスからは一本の軸の様な足が伸びており、
巨大な一枚の歯車にくっついている。

…そんな異様な風貌をしている。

ハンター「…相手にとって不足はなさそうだな。」

男は背中の長大な太刀の柄に手をかける。

ほむら「私が魔法を使って仕掛けるわ!…みんなは援護をお願い!!」

少女の飛ばした号令に皆は威勢の良い返事で応えた。

超弩級の魔女もそんな少女達の様子に気付き、その巨躯を反転させこちらをその視界に捕えた。

ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」

魔女は一際甲高い声をあげるとその体は円形の魔法陣に包まれる。


さらに魔女の周囲に無数の光点が出現し、それぞれから眩く輝く熱線が打ち出される。

先程止んだ雨の代わりに、一同に向けて無数の輝きの雨が降り注ぐ!

迫りくる光の時雨を、マミはマスケット銃で迎撃し、
さやかと杏子は各々剣と槍で受け流し、
男は太刀で素早く斬り払っていく。

ほむら「みんな!…もう少し持ち堪えて!!」

ほむらは自身を懸命に援護する仲間を気遣って声をかけた。

さやか「あたしはまだまだいけるよ!!」

マミ「くっ…手数が多いわ!」

杏子「こんなの全然大したことねぇってのッ!」

さやかと杏子は力強く応えるが、マミは力の性質上、少々分が悪い。

ハンター「キツくなって来たら俺の後ろに回って態勢を整えろ!」

男は少女達の前に進み出て、視認が困難な程の神速の斬撃で光をことごとく斬り払う。

斬り払われた光はあらぬ方向へ飛び去り、あるいは地に激突して破ぜる。

マミ「すみません!…少し下がります。」

マミは堪らず男の背後に避難した。

杏子「あんたも大した化けモンだな!」

顔色一つ変わらない男に対し、杏子は口元をニヤリと歪めて話しかける。

ハンター「あんなのと一緒にするな。」

顔がフェイスガードで隠れている男は口角を持ち上げて平然と返事を返す。

しばらく耐えると魔女が放った光の時雨が止んだ。

ほむら「今よ!巴さん、道を作って!!」

マミ「…!分かったわ。」

マミは再びいくつかのマスケット銃を召喚し、魔女に向けて魔力を帯たリボンを射出していく。

そのうちの数本が魔女を捕えた。

マミ「…暁美さん!」

ほむら「えぇ!」

ほむらは胸元に左腕の盾を掲げ、右手で触れる。
すると盾に内蔵された砂時計が起動した。

その瞬間、彼女以外の全てのモノは景色を含めて白と黒の二色に染まり、一切の動きを停止する。

ほむら「覚悟なさい!」

停止するモノトーンの世界で、唯一鮮やかな色彩を残す少女は魔女に繋がる道を疾走する。

そして魔女の巨躯に到達すると小さな“四角い物”を大量に盾から取りだし、隙間なく魔女に設置していく。

作業が終わると彼女は魔女から飛び降り、魔法を解除した。

時間停止が解除され、一同の目に飛び込んできたものは、魔女の側から落下するほむらと…。

赤い点滅を規則正しく繰り返す、無数の小さな黒い物で覆い尽された魔女の姿だった。

さやか「え!何あれ!?」

尚も落下を続けるほむらは盾からライフル銃を取りだし、設置した物の一つを狙撃する。

放たれ弾丸が魔女に触れたその時。

市街地上空は閃光と共に尋常ではない爆炎に包まれた。

杏子「…なッ!?」

ハンター「そうか!あの点滅は爆弾だったのか!」

マミ「…凄い!」

爆風に飲まれた魔女からは依然、黒煙が上がっている。

ワルプルギスの夜「アハハハハ…!」

しかし黒煙の中から尚も響き渡る狂った洪笑が魔女の健在を物語る。

事実黒煙が消え、大した痛手を負っていない魔女が姿を現した。

さやか「ほとんど効いてない!?」

ハンター「あの爆風をものともしないか…。」

魔女は着地したばかりのほむらを見付けるとその両腕を大仰に広げた。

すると魔女の周辺の高層建築物が根本から千切られて宙に浮き、魔女の周辺を乱舞する。

ワルブルギスの夜「アハ!アハハハ!」

マミ「いけない!ティロ…フィナーレ!!」

それを見たマミは魔力を練り上げ巨大な銃を召喚し魔女の周囲を光の奔流で薙ぎ払った。

マミが放った光の奔流で上空の構造体は全て消し飛ばされた。

ほむら「助かったわ。」

その隙にほむらは魔法で時を停め一瞬でこちらに戻って来た。

杏子「…!…いつの間に?」

ハンター「怪我はないか?」


ほむら「えぇ!…次は皆で一斉攻撃を仕掛けるわ!」

ほむらが次の作戦の詳細を伝えると全員、無言で頷き行動を開始する。

一同はマミを地上に残し男を先頭に魔女の胴を拘束するリボンを駆け上がる。

途中、一同を囲むように光点が出現し無数の光の筋が閃くが皆で協力してなんとか突き進んでいく。

杏子「あと少しだ!」

ほむら「巴さん!!」


魔女の胴まで後少しといった所でほむらはマミに合図を送る。

マミ「今ね!!」

指示を受けたマミは意識を集中し、リボンで魔女を囲むように輪っか状の足場を形成した。

ほむら「みんな持ち場について!!」

魔女を目前にほむらは叫ぶ。

それを合図に魔女を囲む円環状の足場に移動する。

ほむらは魔女の真後ろ、杏子とさやかはそれぞれ魔女の右側と左側に…そして男は正面に待機した。

それを見たほむらは皆に問掛ける。

ほむら「準備はいい?」

さやか「いいよ!」
杏子「おう!」
ハンター「やってくれ!」

皆の返答を聞いたほむらはリボンの輪っかの足場に右手をついて、
その上に盾を押し付け砂時計を起動した。

再び時間は停止し世界はモノトーンに染まる。

しかし、リボンの足場とその上の一同は白黒に染まらない。

ほむら「うまくいったわ!…けど、足場から両足を離してはダメよ!」

さやか「わ、わかった。」
杏子「あぁ。」
ハンター「了解した。」

ほむらの言葉を合図に男と二人の少女はそれぞれの得物を構える。

それを見たほむらは静かに息を吸い込み…。

ほむら「始めッ!!」

斉攻撃開始の号令を下した。

男は腰を低く落とし、太刀で滅多斬りにし、

さやかは剣を大量に召喚しそれらを突き刺していく。

杏子は両手の槍で斬り、払い、突きの乱舞を繰り出す。

ほむらは右手を足場に着いたまま、左腕をスナップさせ盾から様々な銃を取りだし、それらを拾い銃弾を浴びせていく。

しばらく時間一杯全力で攻撃した後再び、ほむらは皆に号令を飛ばす。

ほむら「魔法を解除するわ!」

その号令でほむらは停止を解除した。

時間が動き出した瞬間。
正面の男はポーチから取り出した対古龍用の小型爆弾を二つ魔女に設置した。

ハンター「退くぞ!みんな!!」

叫ぶやいなや男はリボンの道を駆け降りる。


そして残りの少女達は魔女から飛び降りる。

皆が魔女から離れるのを確認したマミは巨大な銃を二門召喚し魔女に放つ。

マミ「いけぇーー!」

二筋の光の奔流は魔女に直撃し、仕掛けられた爆弾は凄まじい爆発を起こす。

そこへダメ押しと言わんばかりに追撃が加わる。

さやか「くらぇぇ!」

さやかは召喚した無数の剣を雨のごとくを魔女に降らせる。

杏子「こいつも持ってきな!」

杏子は持っていた魔力を込め、巨大化させた槍を放った。

ほむら「まだよ!!」

ほむらは大型のハンドグレネードを4つ取り出し、両手で二つずつ投擲した。

ほむらの放った4つの手榴弾によって魔女は三度爆炎に包まれた。

ワルプルギスの夜「アハ…ハハ…」

炎が消え、ドレスがボロボロになり、無数の剣と巨大な槍が突き刺さり、黒煙をあげる魔女は堪らず徐々に高度を落とす。

杏子「おい!あれ見ろよ!」
地面に着地した杏子は魔女を指差して叫ぶ。

さやか「効いてる!効いてるよ!!」

マミ「やったわね!!」

ほむら「喜ぶのはまだ早いわ!」

歓喜に沸く少女達をほむらはたしなめる。

ハンター「そうだな!畳かけるぞ!」

男は背中の太刀を外し鞘を腰にそえた。

ほむら「そうね…けどみんなは巴さんの元に戻って。」

さやか・杏子「え?」

ほむら「あと僅な私の魔法を全て使ってトドメを刺すわ!!」

ハンター「わかった!だが無茶はするなよ!!」

ほむら「えぇ。」

男は少女の決意を汲み取りさやかと杏子と共にマミの元へ向かった。

三人がマミの元へと合流したのを確認し、ほむらは三度魔法を使う。

ほむら「これで最後よ。ケリをつけましょう…!!」

ワルプルギスの夜「」

魔女は随分と低空で停止している。

ほむら(あともうひと押しで…。全てが終わる…!)

時間停止魔法を使えるのはあとわずかであることを盾の砂時計が示していた。

少女は円形の盾から大小様々な“筒”を取り出し魔女を囲むように設置していく。

ほむら(長かった…。長かったけど……)

そして次にいくつかの大きな“箱”を設置していき最後に魔女の真下に巨大な“発射台”を設置した。

ほむら(まどか!…もうすぐ約束、果たせるからね!)

浮き立つ気持ちを押さえ、少女は魔女から距離を起き、魔女とマミ達の中間くらいの位置まで戻った時…。

盾に内蔵された砂時計の砂が尽き、時が再び刻まれ始める。

ワルプルギスの夜「アハハ…ハハ…ハ」

そして少女は息も絶えだえの魔女に向き直り言い放つ。

ほむら「消えなさい!!」

ほむらは盾から取り出した筒型のスイッチを押し込んだ。

その瞬間、先程設置した様々な物が起動する。

魔女の周辺に設置された、多数の大小の“筒”…グレネードランチャーやrpgから無数の榴弾が魔女に向かう。

また、いくつかの“箱”状の物…ミサイルランチャーから小型の赤外線誘導弾が多数撃ち込まれ…。

極めつけに魔女の真下の巨大な“発射台”からは中型の弾道ミサイルが発射された。

それらは真っ直ぐに標的に向かい、超弩級の魔女は自身の称号に違わぬ超弩級の火力をその身に受けることとなった。

それらが着弾した瞬間…轟音と共に目が焼かれるほどの閃光を放つ。

そして少し遅れて凄まじい熱波を伴った衝撃波が一同を巻き込む。

ハンター「ぐっ!」

男は衝撃波からさやか、杏子、マミをかばうように前へ進みでる。

マミ「きゃあ!」
杏子「うわぁっ!」
さやか「あち!あっちぃ!」
三人の少女は顔を臥せ、三を屈めている。

ハンター(凄まじい熱波だ!…あいつは…ほむらは無事なのか!?)

しばらくして衝撃波が収まり、男は顔をあげた。

そこには盾で顔を覆い、身を硬くするほむらの後ろ姿と…。

その少女の眼前にうつ伏せに地に倒れ臥す魔女の姿があった。

ハンター「ほむら…!…これは!!」

男は少女の右隣に駆け寄り、よろめく少女の肩に手を回した。

ほむら「ハンター…!…あ!…ワルプルギスの夜が…!!」

少女の眼前の魔女は地に突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。

ほむら「…やった!…ついにやったわ!!」

ほむらの勝鬨を聞き後方の少女達も歓喜の声をあげる。

さやか「やったぁ!」
マミ「やったわ!」
杏子「てこずらせやがって…」

三人の少女達は地に腰を下ろし限界近くまで消耗し、真っ黒に濁ったソウルジェムをグリーフシードで浄化することにした。

ほむら「…」

ほむらは無言でマミ達の方へ振り返る。

ハンター「君もソウルジェムを浄化しなくていいのか?…頑張り過ぎて真っ黒だぞ??」

少女は男に言われて気づく。

ほむら「え?…あぁ、そうね。」

彼女は慌ててグリーフシードを取り出した。

男はほむらの右隣の位置か真後ろを振り返り真っ直ぐに歩いていく。

そして周囲に異常がないことを確認してほむらを向き直った。

ハンター「…ッ!ほむらァ!!」

少女に向き直った男は鬼気迫った形相で走ってくる!

ほむら「え!…なに?…きゃあ!?」

少女は頭から飛び込んで来る男に突き飛ばされる。

そして突き飛ばされながら少女は見た。

目の前で男が下腹部に一筋のか細い深紅の光の直撃を受ける瞬間を…。

ほむら「ハンター!!!」

スローモーションのような一瞬の光景が終わると、目の前の男は吹き飛び、
二度バウンドしながら地面を転がっていった。

ほむらの悲痛な叫びと共に、ソウルジェムの浄化を終えた三人の少女の元に男は吹っ飛ばされて来た。

それを見た杏子とさやかは後ろから男を必死で受け止める。

さやか「大丈夫ですか!?」

杏子「相棒!…何があったんだ!」

マミ「二人とも!…あれ!!」

二人はマミの指差す方を見た。

杏子・さやか「…!」

こちらへ走って来るほむらの後方で、
ワルプルギスの夜はうつ伏せの体勢で頭だけを持ち上げている。

ハンター「う…、すまん、二人とも。」

さやかと杏子に両わきを支えられた男はよろめきながらも自らの足で立った。

ハンター「俺なら大丈夫だ…。」
その言葉を聞いて二人の少女は男から手を離した。

そこへ悲壮な顔をしたほむらが駆け寄ってきた。

ほむら「ハンター!!あなたその怪我!!!」

ハンター「…え?」

男は少女の目線の先、自らの下っ腹を見た。

ハンター「…これ、は。」

黒いの甲冑の胴は左下腹部の部分が砕かれ、断面は赤熱している。

貫通こそしていないが肉が焼け、おびただしい血が流れている。

男は反射的にポーチに手を突っ込み血止めの応急薬をひと瓶丸々ぶっかけて塗りたくった。

杏子「おい!そんなので大丈夫なのかよ!!」

左側を支えていた杏子は自身の服に付いた男の血を見て声を荒げた。

マミ「ハンターさん!?」

マミも心配そうに寄ってくる。

ハンター「少々痛むが問題ない。」

確かに彼の言う通り、露出した腹部は表面が焼けているが裂傷は浅い。現に出血は止まりつつあった。

ハンター「それより…ヤツを何とかしないと!」

魔女は地に両手を着き今まさに上体を起こそうとしている。

男は正面の魔女に向かって歩き出す。

ハンター「……うぶッ。」

しかし三歩ほど歩いた時点で突然、派手に血を吐きだし、膝から崩れた。

ほむら「ハンター!??」

男は前のめりに倒れるが、顔面が地面に激突するまえに目の前の少女に抱き止められた。

そしてほむらは彼を仰向けに寝かせて肩を支えた。

ハンター(…景色が、暗いな。)

マミ「ハンター…さん…」

ハンター(みんなの声が遠い…。)

さやか「しっかりして下さい!!」

杏子「嘘だろ?」

ハンター「みんな…俺なんかに…構わずヤツ…を…」

そこまで言って彼の体から一切の力が抜け落ちた。

ほむら「…そん……な。」

ほむらの脳裏にネコートの言葉がよぎった。

『彼は戦場で死ぬことを望んでいる節があるような気がしてならないのですよ』

ほむら「あ、あ…ぁ…」

一同がうろたえている間に魔女は歯車を下にして“正位置”で完全に立ち上がった。

さやか「危ない!」

そして魔女はその左目から先程と同じ深紅の光を少女達に放ち、浮上を始めた。

さやかは茫然と立ち尽くすほむらを抱え、
マミがハンターを抱き上げてそれぞれその場から飛び退いた。

頭を上に、歯車を下にした“正位置”になって浮上した超弩級の魔女は再び大きな魔法陣に包まれる。

途端、周囲の景色は赤く染まり、再び激しい風雨が巻き起こった。

マミ「まるで結界の中みたいね…。」

男を一旦下ろしてマミは呟く。

魔女がその両手を挙げると再び周囲の建物が地面から剥ぎ取られ、宙を舞う。

杏子「ほむら!お前はハンターを背負って一度ここから離れろ!!」

ほむら「…でも!」

さやか「ほむら!…頼むよ。」

ほむら(確かに、時間停止を使い切った以上、私はあまり戦力にならない…。)

ほむら「わかったわ…けど直ぐ戻るから!」

それだけ言い残し、ほむらは男を背負ってその場を離れた。

中途半端ですが今日はここまでにします。

悪しからず。

ほむらは男を背負って市街地の中心部から少し離れた所までやってきた。

そして男をやさしく降ろして仰向けに寝かせた。

遠くには魔女とそれに挑む少女達の姿が見える…。

ほむら「ほら、みんな頑張ってくれてるわよ」

ハンター「」

ほむら「私を…私たちを助けてくれるんじゃなかったの?」

ハンター「」

ほむら「…ねえ」

今にも消え入りそうなか細い呼吸を続ける男に少女は声をかけ続ける。

ほむら「…ハンター…」

ハンター「」

男の顔にそっと手を触れる少女の視界が段々と滲んでいく。

少女の問掛けも虚しく男は力なく横たわり、徐々に生気が失われていった。

一方その頃、男とほむらが離脱した後、
三人の魔法少女は息を吹き替えした魔女と戦っていた。

ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」

魔女は右手を振りかざすと彼女を中心に強烈な衝撃波が巻き起こった!

杏子「くっそぉ!」
マミ「きゃっ!」
さやか「うわぁぁー!!」

二人は全力でふんばって堪えたがさやかが吹き飛ばされ大きなビルに激突した。
マミ「さやかちゃん!」

マミはさやかに駆け寄り、グリーフシードを使用する。

さやか「ごめん!マミさん。」

杏子「このままじぁジリ貧か!!」

少女達は必死で抵抗するが、手持ちのグリーフシードがもう僅かしか残っていない。
杏子「…化け物め…!」

杏子は忌々しそうに吐き捨てた。

― 正午 ―

~見滝原 避難所~

キュウベェは追っ手から逃れる為、避難所へ潜り込んでいた。

キュウベェ(この人ごみの中なら彼らもヘタに手を出せないだろう…。)

キュウベェ(外の嵐の様子からして、ほむら達は苦戦しているみたいだね。)

そんな時、彼はある少女の姿を見つけた。

キュウベェ(あれは…鹿目まどか!)

それと同時に彼は一計を思い付いた。

彼は無感情な顔で少女に近付いていく。

キュウベェ「みんなが心配かい?まどか。」

少女は意外な人物(?)にいきなり声をかけられ驚いた。

まどか「キュウベェ!?…どうしてここに…?」

キュウベェ「それはどうでもいいじゃないか…それより君はまた何もしないのかい?」

まどか「私は…みんなを信じてるから…。」

キュウベェ「その皆は今窮地に立たされているよ。」

まどか「え!?」

キュウベェは先程から市街地の魔法少女達の魔力の反応が小さくなってきていることを感じていた。

キュウベェ(さすがにあのイレギュラーの男がどうしているかは分からないけど…まぁこの際それはいいか。)

キュウベェ「このままではみんなワルプルギスの夜に負けて力尽きるか…」

キュウベェ「勝てないことを悟って絶望し、魔女になってしまうだろう。」

うろたえる少女に対し彼は残酷な言葉を投げ掛ける。

まどか「本当…なの?」

キュウベェ「ボクは聞かれないことは答えないこともあるけど…嘘はつかないさ。」

まどか(そんな!…私も行かなきゃ……みんなの為に、私も出来ることしなきゃ!!)

キュウベェの話はまるで詐欺師のような口ぶりだったが、
気が動転していた少女は無言で広間の出入口へ歩き出した。

まどかが広間の出入口に差し掛かった時だった。

???「どこに行こうってんだ…おい!」

まどか「ママ…」

娘の表情に何かを感じた母は、まどかの前に立ち塞がった。

まどか「私は…友達を助けに行きたいの。」

絢子「なら消防署に任せな…素人が動くんじゃない!」

娘の返答を聞いた母の顔はさらに険しくなった。

まどか「私じゃないと駄目なの!!」

娘は母に懇願する。

絢子「てめぇ一人の命じゃねぇんだ!お前の勝手な行動で周りがどれだけ…!」

しかし、母も譲らない。

まどか「分かってる…私も良く分かってるよ」

だが少女はまだ母を説き伏せようとした。

絢子「まどか…。」

まどか「私もパパとママの事大好きだから…」

まどか「自分がどれだけ大切にされて守られてるか分かってるから…」

絢子「……。」

まどか「自分を粗末にしちゃいけないことも分かってるよ。」

尚も食い下がる娘に母は黙って耳を傾ける。

まどか「だから今は違うの!…私も自分の大切なみんなを守りたいから!」

絢子「それはただ周りに流されたり、変なヤツにそそのかされた訳じゃないんだな?」

母は娘に改めて確認した。

まどか「うん。それに…私にしかできない事だから、今すぐ行かなきゃいけないの!!」

絢子「…絶対に……帰って来いよ…!」

まどか「うん!!」

絢子は自分の横をすり抜け嵐の中へ飛び出す娘を黙って見送った。

~見滝原 市街地 町外れ~

少女は嵐の中、避難所から市街地の中心部へと向かっていた。

まどか(ごめんなさい…ママ。…もしかしたら約束、守れないかも。)

キュウベェ「こっちだ!まどか!」

キュウベェに案内され、少女はみんなの元へと急いだ。



地獄兄弟(弟)「あれは…!見つけたぞ兄者!あそこだァ!!」

弟の声を聞いたその人物は避難所から駆け出して来た。

地獄兄弟(兄)「ドハハハハ…!でかしたぞ!弟よ!!」

地獄兄弟(兄)「…む?あの時のお嬢ちゃんも一緒のようだな!…まぁいい、追うぞ!!」

地獄兄弟(弟)「了解だ!兄者ァ!!」

二人の執拗なる追跡者は遥か向こうに見える標的の後ろ姿を追い掛るべく走り出した。

― 午後 ―

~見滝原 市街地 中心部~

中心部から少し離れた場所で少女はただただうつ向いていた。

ほむら「このままじゃ…みんなもう、もたないかもしれないから…」

ほむら「私も行ってくるね…」

ハンター「」

男の体からは体温が失われ、もはや呼吸をしているかどうかは分からない…。

ほむら「…今回で最後にするって決めたから…」

ほむら「どうせダメならみんなと一緒に玉砕もアリかもね…」

ほむら「そにしても…」



……悔しい。……

この男が現れてからは奇跡の連続だった。

マミが生き延びて、ソウルジェムの秘密を知っても尚、心を繋ぎとめた。

さやかを襲う絶望を打ち払い、彼女が魔女になっても救い出してくれた。

杏子はかつて失った魔法少女としての信念を…誇りを取り戻すきっかけをもらった。

ほむら「私も…あなたと一緒なら、この決戦の日を越えて…繰り返しの時間の向こう側に…」

ほむら「まどかと…みんなと一緒に笑って過ごせる、まだ見ぬ明日にいけると思ったのに…」

だが、少女が望んで止まない希望の未来は…もう手の届きそうな所にまで来ていたのに…。

後少しの所で彼女の掌から砂のようにさらさらとこぼれていった……。

ほむら「あなたに依頼を出した為に巻き込んでしまってごめんなさい…。」

ハンター「」

少女は物言わぬ男の上体を軽く起こし、力強く抱きしめた。

ほむら「…じゃあ…これでお別れね。」

少女は男を優しく寝かせるとゆっくり立ち上がった。

ほむら「…行って来るわ。」

???「やめて!…もういいんだよ?ほむらちゃん。」

ほむら「まどか!?…どうしてここに??」

死地に赴こうとしていた少女は目を見開いて振り返る。

キュウベェ「ボクがここに案内してあげたんだ。」

ほむら「キュウベェッ…!!!」

まどか「もういいの…。それより、ごめんね。」

まどか「今までずっと私と、みんなの為に頑張ってくれたんだよね?」

ほむら「………。」

まどか「そのおかげで今の私があるんだよ。」

ほむら「まどか…。」

まどか「だから、私もみんなと一緒に戦う!!」

ほむら「まどか…何を言って……?」

まどか「本当にごめんね、ほむらちゃん。」

ほむら「…いや…。」

まどか「…でも私、もう決めたから。」

ほむら「やめて…。」

まどか「私…魔法少女になるね。」


ほむら「…そんな…それじゃあ……。

ほむら「私が今までやってきたことは…所詮、無意味だったというの?」

キュウベェ「お話の途中で悪いけど…」

そこでまどかをこの場に案内した張本人は口を開いた。

キュウベェ「ほむら…君の切札の男もやられた今、君達の敗北はもはや間近だ。」

キュウベェ「それとも敗北を認めず、この時間軸を無為にしてまどかに更なる因果を背負わせるかい?」

ほむら「…私はッ!」

キュウベェ「まぁ、どっちにしても後悔のない選択をするんだね。」

ほむら「………。」

ほむらは無言でがっくりとうなだれた。

まどか「ほむらちゃん…私はみんなに自分らしく自由に生きて欲しいの…だから…。」

ほむら「………。」

ほむらは黙して何も語らず、その目からは涙が溢れていた。

キュウベェ「では異論もないようだし、改めて問おうか…。」

彼は真剣な眼差しの少女に向き直る。

キュウベェ「鹿目まどか…君はその魂を代価に何を願う?」

キュウベェ「因果の特異点たる今の君なら…どんな途方もない願いも叶えられるだろうね。」

少女は少し間をおいて応える。

まどか「私は……。」







―――――待ちなッ―――――







ハンター「……お前かァ?」


満身創痍の体を起こしてゆらりと立ち上がった男の姿がそこにはあった。

キュウベェ「……。」

ほむら「ハンター…?」

ハンター「“あいつ”の…泣く声が聞こえたんだよ…。」

フェイスガードが上げられた兜から見える彼の目は焦点が合っていない。

ハンター「誰だ…!“あいつ”にィ……」

まどか「ハンター…さん??」

ハンター「自分がやって来たことは無意味だったなんて言わせた奴はァッ!!!」

咆吼と共に男はゆっくりとキュウベェに向かって行く。

一歩、歩くごとに傷口が開いた腹から血が滴る…。

近付いて来る男の常軌を逸した迫力前にキュウベェは動けない。

そんな彼の首根っこを力一杯掴み、持ち上げる。

キュウベェ「ぐ…ぅ…なんの…つもりだい…?」

そして無言で彼を軽く放り投げ、背中の太刀で一刀の元に両断した。

抜き放たれた刀身は深々と地面にめり込んでいる。

ほむら「どうしたの!?ハンター??」

駆け寄った少女は尋常ではない様子の男の後ろから抱きしめた。

ハンター「聞こえたんだ…“あいつ”とお前の泣き声が…それに……」

少女に抱きしめられた男は徐々に正気を取り戻す。

ハンター「思い出したんだ…。」

ほむら「……え?」

ハンター「“あいつ”は自分の身の上を嘆いて死んでいった。」

ハンター「だが…今まで思い出せなかったけど、息を引き取るまでに…確かにこう言ったんだ…!!」

男の中で彼女の“最後の言葉”が蘇る…。

少女『ねぇ…ハンター…あたしのやって来た事は所詮無意味だったのかしら…?』

……………。

少女『…なんてね…。結果はどうあれ…自分の生き方に…後悔のなんて…してないわ……。』

少女『ただ…あたしは…生き方を…選べなかったけど…あなたは違うわ…。』

少女『あなたは…本当は…戦いが嫌いな…やさしい人…』

少女『だから…あなたは自分らしく…自由に…生きて……』

少女『…あたしの…大好きな人……ハン…ター………。』
少女『…………。』

ハンター「“あいつ”は、最後の最後まで…俺を気遣って……」

ハンター「…自分らしく自由に生きろと言ったんだ!!」

ほむら「…ハンター…」

後ろから自分を抱き締める少女を優しく振りほどき、男は前へ進み出る。

ハンター「俺はもう目を背けない…。自分の過去にも……自分の生き方にもだッ!!」

そして抜き身の大太刀を地面に突き差して、男は咆吼する。

その男の咆吼に応えるかの様に男は眩い金色の光に包まれていく…。

鎧の継ぎ目や装飾にふんだんに使われている、
“金獅子ラージャン”の黒毛は男の決意に呼応するかのごとくその真の輝きを取り戻す。

まどか「ハンターさん!?」

ほむら「ハンター…あなた!?」

男は漆黒の騎士から黄金の騎士へとその姿を変えた。


黄金の騎士の周囲は金色のか細い稲光が現れては破ぜて消えてゆく。

かつて大切な人を守れなかった深い悔恨が…

一人の魔法少女の涙が…

散りゆく男の魂を…

今一度、決して負けられない決戦の舞台へと呼び戻した…!



金色の男はポーチから黄色い秘薬の袋を取り出し中身の丸薬を噛み砕いた。

そして振り返り、少女に告げる。

ハンター「ほむら…決着をつけに行くぞ!…みんなが待ってる!!」

また中途半端で申し訳ないが…今日はこの辺で止めます。

続きはまた明日。

それでは皆様、おやすみ。

まるで夢でも見ているような心持ちになった少女は呟く。

ほむら「これは…奇跡?」

それに対して目の前の男は答える。

ハンター「それは違うな。」

ほむら「…え?」

ハンター「これは必然だ。…お前の声が俺を呼び戻してくれたに過ぎない、ただの必然。」

ハンター「奇跡は……」

そこで男は不敵な笑みを浮かべる。

ハンター「これから起こしに行くんだよ!!」

ほむら「…ハンター…!!」

深い絶望に沈んでいた少女の心に希望が戻る。

ほむら「そうね…行きましょう!」

地獄兄弟(兄)「おめぇ…若造か!?こりゃあ一体?」

地獄兄弟(弟)「ハンター!?…いやそれより、あの白いヤツは?」

キュウベェを追って来た狩人達も市街地へとやって来た。

ハンター「ヤツならそこだ。」

ハンターは二枚に下ろされたキュウベェだったものを指差した。
ハンター「任務中に悪いが、あんたらにはその子の側にいてくれ。」

ハンターはまどかの方へ向き直る。

まどか「え?」

ハンター「今さら避難所へ戻れとは言わんよ。…まどかはここで待っててくれ。」

まどか「わかりました!…私、ここでみんなの帰りを待ちます!」

ハンター「あぁ。………と、いうわけだが、頼まれてくれないか??」

地獄兄弟(弟)「任せておけィ!他でもないお前の頼みを無下にはできンからな!バハハハ!」

歴戦の狩人は豪快に笑う。
まどか「ありがとうございます。」

地獄兄弟(弟)「いいってことよォ!お嬢ちゃん!」

地獄兄弟(兄)「…おい、若造!!」

イカツイ男はトランクから取り出した大きな杭の様なものをハンターに投げて寄越した。

ハンター「これは…対古龍バリスタ拘束弾か。」

地獄兄弟(兄)「おうよォ!…役に立つかは分からんがなァ。」

ハンター「…ありがとう。」

地獄兄弟(兄)「気にするな!悔しいが、俺らにできることはそれくらいだからな!」

地獄兄弟(弟)「さすがの俺達もあんな化け物は相手に出来んからな…」

地獄兄弟(兄)「…そういうことだ!……若造共ォ…」

地獄兄弟(弟)「…死ぬんじゃねぇぞ…必ず生きて帰って来い!!」

まどか「ほむらちゃん!…ハンターさん!…私、信じてるからッ!!」

ハンター「あぁ!」

力強い返事を返し二人は皆の元へと急いだ。

~三滝原 市街地 中心部~

杏子「はぁ…はぁ…。…二人とも、まだやれるか?」

杏子は地に突き刺した槍を杖代わりにして体を支えている。

さやか「ぜぇぜぇ…なんとか…ね。」

さやかは両手を膝につき辛うじて立っている状態だ。

マミ「…当たり…前よ!」

マミも瓦礫に片手をついて倒れまいと踏ん張っている。

ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」

そんな少女達を見下すかの様に魔女は狂った笑いを辺りに響かせる。

ワルプルギスの夜「アハハハハ!」


遥か上空の魔女は無造作に左手を天に掲げた。

すると、巨大な魔法陣が瞬時に形成され、陣を中心に光の束が集約されていく…。

さやか「マミさん!杏子!…あ、あれ!!」

杏子「おいおい…冗談だろ?」

そして収束された光の束は巨大な白い煌めきの塊となって少女達に向けて放たれた!

少女達のソウルジェムは黒く濁り魔力は尽きかけている…。

マミ「…そんな!」

魔女が放った圧倒的な絶望は真っ直ぐに大地に向かって飛来する。

…今さら飛び退いても恐らく間に合わない…

三人の魔法少女達は己の死を覚悟した。

立ちつくす少女達の間を一筋の光が疾風のごとく駆け抜ける。

その光は地表近くまで迫る破壊の塊へと向かう。

一筋の金色の光が通過した直後、巨大な光球は少女達を避ける様に左右に分かれた。

大地に激突した二つの光球は凄まじい閃光を巻き起こす。

その閃光が消えると、少女達の前には太刀を鞘に納める金色の男の後ろ姿があった。

ほむら「遅くなってごめんなさい。」

さやか「ほむら!…どうして…!?」

ほむらは持っていた最後のグリーフシードを少女達に使った。

ほむら「戻って来るって言ったでしょ?」

杏子「それより…あの金ピカって……もしかして…!」

マミ「ハンター…さん?」


名を呼ばれた男は振り返り目元のフェイスガードを上げる。

ハンター「良く頑張ったな…後は任せろ!!」

その男の言葉を聞いた少女達の顔に生気が戻った。

マミ「でも、どうするんですか?魔女はかなりの高度まで浮上しています…」

マミ「私の今の魔力ではあそこまで道をつくれませんよ!」

マミは自身のソウルジェムを指し示す。

一つのグリーフシードを三人で分けたのだから、
確かに魔力は回復したが、微々たるものだ。

ハンター「それなら問題ない!…ほむら!!」

ほむら「えぇ!」

ほむらは男から“大きな杭”を受けとると、盾から固定式大型ボウガン“バリスタ”を出して設置した。

ほむら「道は私が作るわ!」

続いて少女はマシンガンを二丁取り出し魔女に向けてデタラメに撃ちまくる。

さやか「何やってんのさ?ほむら!…そんなことしたって…。」

ワルプルギスの夜「アハハハ…!」

飛来する無数の弾丸に対し、魔女は様々な大きさの円形の魔法陣を大量に出現させこれをしのぐ。

杏子「今のアイツに生半可な攻撃は効かねぇぞ!」

ほむら「いえ…これでいいの!!」

まるでハンターのようなふてぶてしい笑みを口元に浮かべ、少女はバリスタで狙いを定める…。

ほむら「…!…そこよ!!」

数多の障壁の間隙を縫って大きな矢は魔女と歯車を繋ぐ棒状の足に巻き付いた。

バリスタからは対古龍仕様の強靭なワイヤーが伸びている。

マミ「これが狙いだったのね!!」

ほむら「そうよ。」

ハンター「流石だな。…お前達はこのバリスタを守ってくれ。」

杏子「おう!…背中は気にするな!相棒!!」

杏子の返答を聞いた男は口元をニヤリと歪めてバリスタに飛び乗った。

ワルプルギスの夜「アハ!アハハハ!」

しかし魔女へと続く一筋の希望の道の途中に、
等間隔に三つの大きな魔法陣の障壁が形成された。

さやか「そんな!…これじゃあ…!!」

再び魔法少女達の顔に不安の陰が差した。

そんな中、一人の少女は落ち着いた様子で口を開いた。

ほむら「ハンター…後は任せたわよ。」

武器をほぼ使い尽したほむらはバリスタに手を置いて、続ける。

ほむら「見せてくれるんでしょ……奇跡を。」

ハンター「…あぁ!」

金色の男はフェイスガードを下ろして長大な太刀を静かに抜き放ち…

一筋の希望の上を駆け出した。

男は地を踏み抜かんばかりの勢いで突き進む。

そんな男の周囲に無数の光の光点が現れる。

マミ「…!…危ない!!」

光点から幾つもの煌めきの筋が放たれ男に襲いかかる!

しかし男は全く足を止めることなく輝きの時雨を斬り払う。

そして男が飛来する閃きを斬り伏せる度に、その刀は銀色の輝きを宿していく。

さやか「刀が…!?」

男が一つ目の障壁の前に差し掛かった時…。

彼は剣道の“担ぎ胴”の様な体勢で左肩にかついだ太刀から電光石火の袈裟切りを放った!

ハンター「気刃…斬りィッ!」

ワルプルギスの夜「……!」

男を阻む円陣の守りは銀の一閃にて切り裂かれ…霧散する。

男は魔女への道を尚も駆け上がる。

杏子「凄ぇ!あたしらの攻撃じゃビクともしなかった障壁を一撃かよ!!」


ワルプルギスの夜「キャハハハハ!」

魔女が再び不快な声で笑い出すと、バリスタの周りにも光点が出現する!

ほむら「来たわ!…絶対に死守するわよ!!」

ほむらは残り最後のマシンガンと拳銃を一丁ずつ出して応戦する。

マミ「ここが正念場ね!」

マミもマスケット銃を召喚し迎撃していく。

杏子「無理すんなよ!…マミさん!!」

杏子は多節棍になっている槍の柄をヌンチャクの様に振り回し、皆を守る。

さやか「さやかちゃんも頑張っちゃうよ~!!」

さやかは持ち前の回復力を生かして皆の盾役に徹した。

男が突き進むに連れ魔女の抵抗も厳しくなった。

飛来する閃光に加えて、魔女の周囲を舞う建造物の残骸までもが彼を襲う!

だが彼は輝きを受け流し、迫り来る残骸を緩急をつけた前後のステップで見切っていく。

ハンター(その程度で止められると思うな!!)

凄まじい猛攻を一身に受けても、皆の期待を背負う男は止まらない!

その上、煌めきを斬り払う彼の太刀を覆う銀の輝きは男が纏っているのと同じ金色となっていく。

第二の障壁は先程の物よりも一回り大きい!

だが、「それがどうした」と言わんばかりに、
男が放った金色の一閃は彼女の障壁を豪快に縦一直線に叩き切った。

魔女の元へ男は迫る。

ワルプルギス「アハハハハ!!」

それに対し魔女はまるで焦りを露にするかのように叫ぶ。

さやか「あと一つだな!!」

マミ「ハンターさん!!」

男の背後を死守する少女達からも歓声が上がる。

さらに接近する男に対し、魔女は光の嵐と残骸の乱舞に加え、

一度は彼を窮地に追いやった深紅の輝きをその目をから放った。

男は飛来する建造物の残骸を回避するため体が宙に浮いている…。

…回避不能。

…直撃は必死!

…万事休すか!?

ワルプルギスの夜「キャハ!キャハ!」

超弩級の魔女はこれ見よがしに勝鬨を上げる!!

その、か細い深紅の煌めきは男の胸元に吸い込まれ…

男の直前で更に細かい光の筋となって、彼を避けるように後方へ飛び去っていく…

ワルプルギスの夜「キャハ……!?」

男は自身の胸板を貫こうとした深紅の光を狙い済ました鋭い突きで捉えて返り討ちにした!

ハンター「それはもう見飽きたぞ…。」

男は最強の魔女を見下すかのように冷徹に吐き捨てた。

深紅の閃きを切り裂いた太刀はその身に纏う輝きを金色から紅へとさらに変化した。

着地した男の眼前に最後の障壁が近付く…。

男は右腕一本で逆手に持った太刀で下段から一迅の風の如き紅(クレナイ)の逆袈裟を繰り出した。

残像すら残さないその早業は音もなく、しかし鮮やかに一際大きな円陣を滅した。

ハンター「次は…お前だ…。」

ワルプルギスの夜「……ッ!」

自身を護る鉄壁の布陣はことごとく打ち破られ、

巨大な真紅の刃と化した大太刀を携えた、金色(こんじき)の煌めきはさらに勢いを増して迫り来る!

名実ともに“無双の狩人”と化した修羅は阻む物全てを蹂躙する。

男の怒濤の快進撃を目のあたりにした少女達から更なる歓声が上がる。

さやか「いける!いけるよ!ハンターさん!!」

マミ「…圧倒的ね!!」

杏子「あいつ…反則だろ…。」

皆が思い思いの歓声を上げる中、一人の少女は一同の顔を見て、呟く。

ほむら「みんな…!」

ほむらの気持ちを汲み取ったように一同は黙って頷いた。

そして、一斉に叫んだ。




ほむら「いけーー!!」
さやか「いけーー!!」
杏子 「いけーー!!」
マミ 「いけーー!!」






少女達の歓声に押される様に男は魔女へと跳躍した。

ワルプルギスの夜「ア~ハハハ!」

直後、男が先程までいた足場は深紅の光に薙ぎ払われ…ワイヤーはその役目を果たすと同時に焼き切られた。

無双の狩人は空中にて、諸手で握った紅の巨大刀を左腰に添え、刃を寝かせて下段に構える…。

ワルプルギスの夜「アハ…ハ…。」

万策尽きた最強の魔女は、眼前のその光景を、成す術なくただ見つめるのみ…。

そして男は自身の体に時計回りの力を加え、渾身の一撃を放った!







―――気刃大廻天斬り―――






紅(クレナイ)一閃…。

ワルプルギスの夜を両断するかの様に、景色一面に横一文字の真紅の輝きが一筋入った。

ワルプルギスの夜「ア……ハ…ハ…」
断末魔の声をあげる魔女に対し、
無双の狩人はさらに、右側に流れた巨大刀を頭上に構え、
落下し始めた勢いを利用し、兜割りの要領で無慈悲な追撃を放つ。

ワルプルギスの夜「………。」

景色を分断する横一文字に、さらに縦一文字が加わり、
超弩級の魔女を中心とした紅の十文字が、市街の上空に浮かび上がった…。

ワルプルギスの夜「」

最強の魔女は、自身の体を縦横に横断する十文字の裂け目から幾重もの光の筋を放ち…

その体は徐々に風化していく岩の如く、
さらさらと消えてゆく。

魔女が消えゆくに従って雨風は弱まり…そして止んだ。

魔女の姿が完全にかき消えた頃には、
市街地を覆う分厚い灰色の雲にも切れ目が生じ、
眩しい光が大地を部分的に照らすし出す。

その内の一条の光が照らし出した場所に…

…その男の姿はあった。

金色(こんじき)の鎧を纏いいしその者は、眩いばかりの輝きに包まれ、
中ほどから折れた太刀をゆっくりと鞘に納める。

そのあまりに神々しい姿は…

まさに英雄譚に出てくる、伝説の勇者さながらだった。

勇者は帰る。
自身を待つ者達の元へと。
勇者は彼を待つ少女達の喝采を一身に受け…奇跡の生還を果たした。

※445いい情報をありがとう。

後、読んでくださる皆さまもにも感謝です。

今日はキリよくここまで。
まだ少し続きます。

ではおやすみ。

― 運命の日から二日後 ―

災厄の化身を見事討伐し、

歴史の表舞台では決して語られることはないが、

狩人達の間で後世まで語り継がれる新たな神話を打ち立てた英雄は、

しばしの休息を与えられていた。

~見滝原 病院 某病室 ~

ハンター「たまには休暇もいいが…」

ハンター「…退屈だな。」

大きな病院の一室にその英雄の姿はあった。

またしても喝采と共に生還を果たした男は、

皆とそれぞれの健闘を称え、労い、勝利の余韻に酔いしれた後、

男の負傷を心配した少女達にそのまま病院に担ぎ込まれたのだった…。

ハンター「こんな大きな個室なんて大袈裟だ。」

男はかなりの重症を負っていた為、昨日は丸一日、面会遮絶となっていたが、

医者も目を疑うほどの驚異の回復力を見せ、その翌日である今日、

晴れて面会遮絶は解除されたが、それでもしばらくは安静を強いられそうだ。

ハンター「だから病院は嫌いなんだ…」

男は点滴の管が繋がった右腕をぶらぶらさせている。

彼は誰かに分けてやりたいほどの退屈を持て余していた。

ハンター(せめて話相手くらい欲しいな…)

そんな彼の願いが届いたのか、廊下から足音が聞こえて来る。

その足音は男の病室の前で止まった。

丁寧な3回のノックの後、足音の主は部屋に入って来た。

マミ「こんにちは。お加減はいかがですか?」

まどか「ティヒヒ。お見舞いに来ました!」

ハンター「よく来てくれたな二人とも。…体の事なら問題ない。」

男は腕を振って健在をアピールした。

だが右腕の点滴の針が抜けそうになり、悶絶する。

ハンター「…!…あたた…。」

まどか「ハンターさん!?」

マミ「もう!…まだ安静なんだから無茶しないで下さい。」

ハンター「あぁ…そうだな。」

涙目の男を尻目にマミは小さな紙袋を取り出した。

ハンター「これは?」

マミ「ケーキを焼いて来たんです。」

マミ「病院食だけじゃ、物足りないと思って!」

ハンター「ありがとな。…また後で頂くよ。」

まどか「今食べないんですか?」

ハンター「あ~…さっき食べたばっかで腹一杯なんだ。」

まどか「あ…」

まどかは決戦の日、男が血を吐いていた事を思い出した。

激闘の後、あまりにも平然としていたので、二人ともすっかり失念していた…。

恐らくはまだ固形物は無理なのだろう。

まどか「じゃあ冷蔵庫に入れときますね。」

まどかは男の気遣いを汲み取ってケーキを冷蔵庫にしまった。

ハンター「それよりも、二人とも今日はサボリなのか?」

時計の短針は13時を差している。

マミ「学校はしばらくは休校なんです…嵐の影響で街もあちこち壊れちゃいましたから。」

ハンター「そうか…。」

男は少し真剣な面持ちになった。

マミ「でも私達みんなの家は大丈夫です。」

ハンター「それを聞いて安心したよ。無事で良かったな。」

マミ「はい!…ハンターさんも早く良くなって下さいね。」

マミ「私達は少しでも元気になってもらうためにお見舞いに来たんですからね?」

マミは少しはにかんだ笑顔を作る。

まどか「私はそれだけじゃないんですけどね。」

ハンター・マミ「…え?」

まどか「実は今日、もう一人、ハンターさんに会いたいって人がいるんですけど…。」

ハンター「俺に…?」

男は歯切れの悪いまどかの言葉を聞いて、頭の上に大きな疑問符を浮かべた。

まどか「入って来ていいよ。」

男とマミが不思議そうな顔をしている中で、その人物は部屋に入って来た。

キュウベェ「…。」

ハンター「お前…。」

マミ「キュウベェ…!」

病室は意外な珍客を迎え、空気が張りつめる。

キュウベェ「君に会いに来たのは他でもない…君と交渉するためだ」

ハンター「それは前に俺が言った条件を飲む気になったということか?」

キュウベェ「…認めたくはないけど、仕方ないからね。」

キュウベェ「まどかがもう魔法少女になってくれない以上、地道に契約の数でエネルギーの回収するしかないからね…」

キュウベェ「なのに世界中で追い回されて、契約もままならない。」

キュウベェ「お願いだから、君の仲間の狩人達をなんとかしてよ。」

ハンター「なら彼女達を元に戻せ……“全ての”魔法少女をな。」

マミ・まどか「!!」

キュウベェ「…!…は…話が違うじゃないか!!」

彼は顔色こそ変わらないが明らかに動揺しているように見える。

ハンター「ならそのまま永遠に追われる続けるか?…後何万回死ぬことになるんだろうな??」

キュウベェ「……。」

ハンター「……。」

二人の間の空気が氷つく。
キュウベェ「…わかったよ。その条件を飲もう。」

キュウベェ「今、存在する全ての魔法少女達を元に戻すよ。」

しばらくして、キュウベェは白い光を放ち始めた。

マミ「…!…私の…ソウルジェムが!!」

マミのソウルジェムは小さな白い光となって彼女の胸元に吸い込また。

マミ「…うっ……。」

マミは胸を押さえて苦しそうにしている。

まどか「マミさん!?」

マミ「私なら…平気よ。」

キュウベェを包む光が消えるとマミの痛みも収まったらしい。

キュウベェ「これでみんな元に戻したよ。」

キュウベェ「今度は君の番だよ。」

ハンター「分かった。」

男はベッドの枕元のphsを手にとった。

ハンター「俺だ…例の討伐対象のモンスターの事だが…」

ハンター「監視をさらに強化して、討伐優先度を、最優先に切り替えてくれ。」

キュウベェ「君は何を言ってるんだい!?訳がわからないよ!!」

通話を終えた男にキュウベェはまくし立てる。

キュウベェ「これじゃあ約束が…!」

ハンター「約束?…俺はお前を脅しはしたが、約束なんてした覚えはないぞ。」

キュウベェ「そんなの理不尽じゃないか!!」

キュウベェが理不尽と言った瞬間、男の目付きが剣呑になった。

ハンター「…理不尽?」

キュウベェ「…!」

ハンター「お前は今まで願いを叶えると称して、どれだけの人間を食いものにしてきたんだよ…。」

ハンター「どれだけの人間が苦しんできたと思ってんだ!」

ハンター「そいつらの気持ちを考えたことはあるか!」

キュウベェ「…。」

ハンター「ほむらは親友との約束を守る為に自分を犠牲にして、苦しみながらも最後まで頑張った!」

ハンター「杏子とさやかは大切な人の幸せを願って、その魂を差し出した!」

ハンター「ここにいるマミは、生きることに必死で、過酷な運命を前に、選択すら許されなかった!」

マミ「ハンターさん…。」

ハンター「その苦しみや悲しみ、辛さをお前も存分に味わえ。」

ハンター「そうすればお前も感情ってモノが分かるようになるかもな。」

キュウベェ「…。」

長い沈黙の後、
キュウベェは「やっぱり人間は理解不能だ」 とだけ言い残して部屋を去っていった。

まどか「ハンターさん…。」

ハンター「自業自得だよ…まぁ、あいつがちゃんと反省したら…」

ハンター「討伐対象から解放してやらんでもない。」

それを聞いたまどかは安堵の表情を浮かべる。

ハンター「まったく…君は優しすぎるよ。」

まどか「ティヒヒ…。」

マミ「…………。」

まどか「…?…マミさん?」

マミは小刻に震えている。

マミ「私…。やっと…解放されたんですね…。」

ハンター「あぁ。」

マミ「長かった…!本当に…長かったけど…やっと…!」

少女の長きに渡る苦労が報われた瞬間だった。

― 夕方 ―

マミが落ち着くまで待って三人で長い間、話した後…

まどか「ハンターさん!今日はありがとう!!」

マミ「本当にありがとうございました!」

と、二人の少女は男に礼を言って帰って行った。

その後、ほむら、さやか、マミからのメールで、

ほむらとさやかと杏子も、普通の女の子に戻れたという報告を受け、

男はphsの画面を見て満足気に頷いていた。

―入院三日目 朝―

ハンター「…。」

今ちょうど目が覚めた男は困惑していた。

ほむら「…。」

目の前にはほむらの顔がある。

それにしても異様に近い。

彼女は目を閉じたまま、前髪を手で押さえていて…

彼女の顔が…というより唇がゆっくりと近付いてくる。

…男が目を覚ましたことには気付いていないらしい。

ハンター(……。)

ハンター「ほむら?」

ほむら「…!」

男に名を呼ばれた少女は目を見開いてベッドから飛び退いた。

その顔は真っ赤だ。

ほむら「やっと起たのね。」

少女は髪をかきあげる。

ハンター「こんな朝から見舞いに来てくれたのか?」

ほむら「え…えぇ。」

先程のことが追求されなかった事に少女は胸を撫で下ろした。

ハンター「体は大丈夫なのか?」

ほむら「え?」

ハンター「魔法少女になる前は確か体が弱かったんだろ?」

ほむら「それなら大丈夫だけど…。」

少女はそこまで言って薄く笑い出した。

ハンター「どうしたんだ?」

ほむら「ふふ…。いえ……そんなことまで覚えてくれてたんだなって。」

ほむら「私の方が忘れてたくらいだわ。自分のことなのに。」

ハンター「それだけ苦労したんだな。」

ほむら「でも、あなたのお陰で報われたわ。」

最後まで書くてもりだったが
今日はここまでにさせてもらいます。


皆様おやすみなさい。

ハンター「俺はほんの少し手伝いをしただけだよ。」

ほむら「そんなことないわ。私だけではどうにもならなかったもの。」

少女はゆっくりと窓のカーテンを開ける。

ほむら「まどかとの約束を果して、今日この日を迎えられたのは…」

そこで少女は男に振り返る。

ほむら「やっぱりあなたのお陰よ。…本当にありがとう……ハンターさん。」

少女は窓から射し込む朝日のように、穏やか微笑みを彼に向けた。

ハンター「どういたしまして。…役に立てたなら何よりだ。」

男は完遂された依頼に対する少女の礼を素直に受け取った。

そんな男を、少女は目を細めて慈しむように眺めていた。

それからしばらくして少女は再び窓の方を向いて男に話しかける。

ほむら「ねぇ…ハンター。あなたは退院したらすぐに別の任務に就くの?」

男は寂しげな少女の後ろ姿に答える。

ハンター「任務には就かんが、報告の為に俺が所属するギルドに行かないといけないんだ。」

ほむら「そうなんだ…。」

ハンター「帰りはまた長旅になりそうだよ。」

そこで少女は再び男に振り返る。

ほむら「じゃあ、あなたの旅の無事を祈って、私が魔法をかけてあげるわ。」

そう言うと、彼女はブラウスの胸ポケットからハンカチを取り出した。

ハンター「魔法?ほむら、君は…」

次の瞬間、世界は白と黒に包まれた。

少女は昨日、自身のソウルジェムが白い光に変わった時、

同時にそこから生じた僅なな“輝く砂”を辺りに振り撒いたのだった…

しばらくして世界は色彩を取り戻す。

ハンター「…!」

先ほどまで目の前にいたはずの少女の姿は、病室の入り口にあった。

ほむら「あなたが退院する日にまた、あなたの荷物を持ってくるわ。」

彼女は最後に一言だけ言い残して部屋を後にした。

少女の後ろ姿を呆けた顔で見送った男は少し間をおいてから気付く。

寝起きで乾いていた自身の唇がしっとりと濡れていることに…。

ハンター「…。」

我にかえった男はふと思う。

ハンター「そういえば、ほむらに言い忘れたな。」

ハンター「あいつは俺のお陰で救われたって言ってたけど…。」

ハンター「俺も、あいつのお陰で救われたんだよな。」

男は天井を見上げながら、唇にそっと触れる。

ハンター「その礼を…すっかり言い忘れてたな。」

ベッドで寝返りを打つと、少女が消えて行ったドアをただただ眺めていた。

― 入院六日目 昼 ―

二人の少女が男の病室に近くに差し掛かると何やら騒がしい声が聞こえてきた。

???「ドハハハハ!遠慮せず受けとれ若造ォ!…退屈しのぎくらいにはなるだろうよ!」

???「バハハハハ!お前も嫌いではあるまいッ!何せ男の必需品でもあるからなァ…!」

???「二人とも声がでかい!…医者に見付かったらに没収されれだろ!!」


杏子・さやか「…。」

さやか「何か…えっちぃ気配がしますなぁ。」

杏子「いや…あいつに限ってそんな事は…。」

そうこうしている内に、立ち尽くす少女達の前のドアが開き、イカツイ二人組の男が現れた。

さやか「あ…おっちゃん。」

地獄兄弟(兄)「む?決戦の日以来だな!嬢ちゃん達よッ!若造の見舞いに来てやったのか?」

杏子「まぁ、そんなとこだ。」

地獄兄弟(弟)「そうか!嬢ちゃん達が行ってやった方が、ハンターも喜ぶだろうなァ!」

地獄兄弟「ドハハハハ!…バハハハハ!」

騒がしい二人が去って行った後、
二人の少女は意を決してドアをノックして、ドアノブに手を掛ける。

部屋の中の男が“いかがわしい物”を見ている現場に遭遇しませんようにと祈りながら。

ハンター「よく来てくれたな、杏子!さやか!」

さやか「あ…。」

杏子「そっちかよ!」

ハンター「…何が??」

キョトンとする男の手には缶ビールが握られていた。

さやか「あたしらはてっきり…」

何かを言おうとしたさやかの前に、杏子はサッと進み出る。

杏子「病人が酒飲むなよな~…しかもまだ昼だってのに。」

ハンター「たまには昼から飲んでもいいんだよ!それに狩人に酒はつきものなんだよ。」

さやか「ほどほどにしないとダメですよ~?」

さやか「でもその様子じゃもう大分良くなったんですね!」

ハンター「あぁ。見ての通りだ!」

男は飲み干した缶をベッドの脇の机に置いて答えた。

ハンター「それよりお前らこそ、どうなんだ?」

ハンター「体が元に戻ってから、具合が悪くなったりしてないか?」

男の気遣いに少女達は笑顔で返す。

さやか「それなら大丈夫です!」

杏子「あたしも問題ないよ!」

ハンター「そうか。良かったな、お前ら!」

三人で一時間ほど話した後、さやかは「ちょっと約束があるんで!」と言って部屋の入り口へ向かった。

さやか「ホントにありがとっ!ハンターさん!!」

最後に、男に礼を言ってドアノブに手をかけた時だった。

ハンター「楽しんできなよ…デート。」

さやか「なななな…何でぇ!?」

さやかは慌てて振り返る。

杏子「いや、さっきからそんだけそわそわしてたら誰だって分かるだろ…。」

さやかは動揺する自身の心を落ち着けてから、
「行ってきます…」と呟いて廊下に 出て行った。

二人はそんな微笑ましいさやかの様子を見てひとしきり笑っていた。

ハンター「さやかは、上條君とうまくいってるみたいだな。」

杏子「まぁな。見てるこっちが恥ずかしいくらいだよ。」

杏子は掌で顔をパタパタと扇いでみせた。

ハンター「そういう杏子はどうなんだ?」

杏子「…どうって?」

ハンター「せっかく魔法少女から解放されたんだ…」

ハンター「年頃の女の子らしく、恋愛の一つや二つくらいしてみたら?」

杏子「ははっ!あたしはそんなのガラじゃねぇよ。」

杏子「ただ…」

ハンター「ん?」

そう言うと杏子は椅子から立ち上がり病室のドアに向かう。

そして振り返ると同時に男に何かを投げ渡した。

…それは林檎だった。

杏子「あたしが食いもんを渡す男はあんただけだけどな!…ハンター!」

そして再び男に背を向けると、
「あんたには本当に世話になった…ありがとう」と言い残し、その少女はそっと出て行った。

それからさらに十日後

6月某日…。

平穏な日常を取り戻した少女達の姿がそこにあった。
~見滝原 市街地~

マミ「じゃあ私達はこっちだから、またね…みんな!」

ほむら「そうね。それじゃあ私達も。…行きましょう、まどか。」

まどか「うん!みんなまた明日ね~!!」

さやか「あたしも今日は恭介と約束あるからこの辺で!!」

杏子「さて、と…じゃあ帰るか、マミさん。」

一緒に下校していた一同は帰り道の途中でそれぞれの帰路についた。

まどか「ティヒヒ。今日も楽しかったね!」

ほむら「えぇ。」

まどか「明日はみんなで遊びに行こっか?」

まどか「ふふ…。それもいいわね。」

ほむら(こうやってまどかやみんなと笑って過ごせるのはあなたのおかげね…)

…………… ハンター ……………


ほむら「……。」

まどか「…それでね……。ねえ聞いてる?ほむらちゃん!」

ほむら「…!…ごめんなさい。…ちょっと考え事をしていたの。」

まどか「最近そういうの多いよ、ほむらちゃん。」

ほむら「そ、そうかしら?」

まどか「やっぱり…ハンターさんのこと?」

ほむら「違うわ。あの人には感謝してるけど、別に寂しくなんか…。」

まどか「ほむらちゃん、寂しいんだ?」

ほむら「!」

聞かれてもいないことを親友に答えてしまったほむらは黙ったままうつ向いてしまった。

ほむら「…。」

まどか「…。」

しばらく黙ったまま歩く二人。

そんな時、まどかは何かに弾かれたかの様に顔をあげた。

まどか「そうか!」

ほむら「…どうしたの?急に。」

怪訝そうな顔のほむらに対し、まどかは瞳を輝かせる。

まどか「私も用事ができたから先に帰るね!」

ほむら「ちょっと!…まどか!?あなたの家はそっちしゃあ……。」

困惑する少女を置き去るようにしてまどかは走っていった。

ほむら「どうしたのかしら?」

どこかへ駆けていく親友を見送りながら、ほむらは再び歩きだした。

???「ここにおったか…ハンター。」

ハンター「…!…村長さん。」

遥か東の島国から帰還した男は、自身が所属するハンターズギルドのある地にいた。
ポッケ村長「工房もおヌシの太刀の修理には頭を抱えておるようじゃの。」

ハンター「えぇ…まぁ、もうしばらくはここにいますよ。」

ポッケ村長「ハンターよ、ヌシは今までほんにようやってきた…」

ポッケ村長「ヌシの狩人としての象徴である刀が折れたのはもう、おヌシが狩人として成すべきことをやり終えたからではなかろうか…。」

ハンター「そんなことないですよ。むしろ、今回の以来を通して改めて分かったんです。」

ハンター「俺が狩人として成すべきことを!」

ポッケ村長「…そうか。」

ハンター「はい!!」

???「お二人とも、お話の途中で申し訳ないが…ハンター、ちょっといいかい?」

ハンター「ネコートさん!」

ネコートさん「いきなりだが君宛てで緊急依頼が来ているのだよ。」


ネコートさん「依頼内容は“白い獣”をなんとかして欲しいという事らしい。」

ハンター「緊急依頼だって!?…けどまだ俺の刀は……。」

ネコートさん「そんなに危険は伴わないから大丈夫だよ。ちなみに、場所は君が一度行ったことがあるところさ」

ハンター「…?…ますますよく分からん依頼だな。」

ネコート「そして依頼人は…“魔法少女の友達”となっている。」

ハンター「…ッ!」

ネコートさん「まぁ、受けるか受けないかは君に任せるよ」

ハンター「そういう事か…受けるよ、今回モンスターハンターじゃなく、一人の個人としてね。」

ネコート「フッ…それもまた君らしいな!…たまには楽しんできたまえ。」

ハンター「あぁ!行ってくる!!」

―夕方―

~見滝原 ほむら宅~

学校から帰宅した少女は、主を失った部屋の前に立っていた。

ドアノブに手をかけ扉を開ける。

当然そこには誰もいない。
分かってはいるものの少女は軽く溜め息をついた。

ほむら(…。)

少女は少し後悔していた。

男は様々な依頼を受けて各地を飛び回らなければならない以上…。

彼が見滝原の地を離れる時に後ろ髪を引かれないようにと、敢えて引き止めなかったことを。

少女は奥に進んでいく。

そしてリビングの片隅の棚に置いてあるphsを手に取った。

役目を果たしたそれは、電源ボタンを押しても画面は暗転したままである。

まるで、持ち主など最初からいなかったと言わんばかりだ。

ほむら(最後くらい甘えても良かったかしら?)


再び男が使っていたphsを棚に置いた時、玄関の呼び鈴が鳴らされた。

ほむら「はい、どちらさ…」

少女がインターフォンの受話器を取る前に、玄関からドアの鍵が解除された音がした。

少女は何事かと玄関へ急ぐ。

そして絶句する。

少女がそこで確かに見た。

開け放たれたドアと、

その向こうに立つ、

少し長い髪をたなびかせ、
細身で、端正な顔立ちをした人物を。

少女はその姿を見るやいなや、その男の胸に飛込んだ。

男も少女の背中に優しく手を回す。

ほむら「ハンター!…どうして…?」

ハンター「一つ忘れてたことがあってね。君に礼を言ってなかった。」

ほむら「…え?」

ハンター「俺も、君のお陰で救われたんだ…」

ハンター「だから…ありがとう。」

それだけ言うと男は少女の背中から手を離そうとした。

ほむら「ハンター!!」

対する少女は男を離そうとしない。

ハンター「ほむら…」

そんな少女を見て男は困ったように微笑む。

ほむら「イヤぁ…。」

今離せばもう二度と会えないかも知れない…。

不安に駆られる少女はまるで駄々っ子のように“いやいや”をする。

そして爪先立ちになり、何かを懇願するかの様に目を閉じた…。

男は少女の閉じられた瞳から流れる涙をそっと拭い、

子供をあやすような手付きで彼女の頭をそっと撫でた。

ハンター「それは君がもっと大人になってからだ。」

ほむら「…ふぇ?」

少女はそっと目を開ける。

涙で滲む視界にはおだやかな男の顔が映った。

ハンター「急がなくてもいい。…君は流れ始めた時間を今からゆっくり歩めばいい。」

ハンター「それに俺も、時間はたくさんあるからね。」

ほむら「え?」

ハンター「俺は今回の依頼で、この国のキュウベェ討伐担当になったんだ。“魔法少女の友達”さんとやらに依頼されてね。」

ほむら「…!…それじゃあ!!」

ハンター「あぁ。ずっとこの国にいることになった。」

ハンター「だから君はゆっくりと大人になればいい…。」

ハンター「俺は…それまで待つよ。」

ほむら「ハンター…」

男の言葉を聞いた少女は今一度強く男を抱き締める。

ほむら「…大好き…。」

ハンター「…。」

男は黙して語らず、しかし彼もまた、少女を強く抱き締めた。

男は腕から伝わる温もりを感じながら思う。

かつて、ただ力を持つことをひたすらに望まれ、その身を戦場へと追いやり、

ただただ誰かを傷つけることを強いる自身の力を呪っていた。

だが、今はその力に感謝していた。

その力のお陰で、大切な人を守る事ができたからだ。

人々を災厄から護る守護者たるモンスターハンターとしては、いけないことなのかもしれないが、

男は目の前の小さな温もりのためにこの力を使おうと心に誓った…。


~ハンター“ワルプルギスの夜”討伐依頼?~

~ fin ~

長々とお付き合い頂きありがとうございました。

皆様の暇潰しにでもなれば幸いです。


またしばらくしたら何か別の物を書くかもです。

それではまた―

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