提督「ようこそ、ないない駆逐隊!」 (55)




天津風「歓迎してくれるのは結構だけど、その“ないない駆逐隊”って呼び方、やめてくれないかしら」

提督「ん? 君たちはそう呼ばれていると聞いたのだが?」

天津風「周りが勝手にそう呼んでるだけ! 私たちはね、駆逐艦の中でもエリート中のエリート!

    誇り高き、陽炎型駆逐隊の一員なんだから!」

提督「そうか、それは失礼した。では改めて言おう……ようこそ、陽炎型駆逐隊。

   そして天津風、君にはしばらくの間、私の秘書艦を務めてもらう」

天津風「ひ、秘書艦!? いきなり!?」

提督「そうだ」

天津風「も、もといた子はどうしたのよ。

    最初の挨拶の時にチラっとしか見てないけど、指輪をはめていたじゃない」

提督「彼女は……彼女らはしばらく遠征に出てしまってな……。

   だから君には私のムラムラを治めるために……げふんげふん。

   勉強の一環として秘書艦を経験してもらうことにした」

天津風「わ、私が秘書艦……」

提督「嫌か?」

天津風「い、嫌ってワケじゃないけど、駆逐艦が秘書艦を務めるなんて変でしょ。

    ここには一航戦や金剛型もいるじゃない」

提督「あぁ」

天津風「だったら普通、その人たちを優先的に秘書艦にするべきなんじゃないの?」

提督「なぜそう思う?」

天津風「なぜって……強いからよ」

提督「なるほど……」

天津風「なによ」

提督「天津風、短い間かもしれないが、君たちには色々なことを学ばせてあげたいと思っている。

   そしてこれより、君たちに最も伝えたい言葉を教えよう」

天津風「…………」

提督「……駆逐艦は、戦艦や空母よりも強い」





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        ~ 駆逐艦寮 会議室 ~






天津風「これより陽炎型駆逐隊、秘密会議を……―――――」

時津風「ふぁぁ~、ねむぅい。だるぅい。お部屋もどりたぁい」

雪風「雪風は元気もお腹もいっぱいです!」

天津風「―――――ってこら! 人の話を聞きなさいよ!」

浦風「んー? 島風の姿が見当たらんねぇ?」

浜風「どうせまた、その辺りをほっつき歩いているのでしょう。放っておくのが吉です」

天津風「もぉ~! どうしてこう大切な打ち合わせの時に、いっつもいないのよ島風はー!」

時津風「これってそんなに大事なのぉ~? せっかくの休み時間なのにぃ」

天津風「ちょっと忘れたの!? 私たちの野望を!」

雪風「この鎮守府でオイシイと有名な、間宮さんのアイスを食べることです!」

天津風「そうそう! 他じゃ味わえない濃厚なバニラアイス、あぁ~白玉餡蜜も捨てがたいのよねぇ。

    口に入れた瞬間に頬がとろける~って感じで……って違ぁああうっ!!」

浦風「見事なノリツッコミじゃねぇ」

浜風「我々がこの鎮守府へ来たのは、スキルアップを目的とした研修の一環……。

   駆逐艦の育成にはこの鎮守府が最も適しているからという、提督代理、翔鶴さんからの命令です」

天津風「そう、それよそれ! そしてこの研修には明確な期間が定められていないの。

    つまり、これがどういうことか分かる? 雪風!」

雪風「翔鶴さんは、ウッカリさんです!!」

天津風「不正解!」

時津風「一週間くらいってことー?」

天津風「違う!」

雪風「はい! 瑞鶴さんもウッカリです!」

天津風「正解! いや、そうだけど違う!!」



浜風「期待される成果を示すまで、帰れないということです」

天津風「そう。そういうことよ」

浦風「皆のトコ、はよぉ帰りたいねぇ」

時津風「ふぅーん。時津風は別に、ここも悪くないと思うけどねー。なんだかゆるいし」

雪風「ゴハンもおいしいです!」

天津風「バカ言わないで! 私たちの野望は、一刻も早くこの鎮守府を抜け出すこと!

    研修なんてさっさと終わらせて、陽炎姉さん達の所に戻るのよ!」

浦風「そしたらウチら、どうすればええの?」

天津風「そ、それは……早く終わらせてくれって、提督に意見するとか……」

浜風「はぁ……何も考えずに野望だけを掲げていたのですね」

雪風「意見するだけじゃイケンです!」

時津風「あっははは、おっかしぃ-」

天津風「う、うるさいわね! じゃあ浜風には、何か良い案があるって言うの!?」

浜風「……まず、我々はなぜこんな研修の対象になったかを考えるべきです」

雪風「それは……分かりません!」

天津風「ちょっと雪風は黙ってて」

雪風「ええ~」

時津風「駆逐艦の育成に力を入れたいって、翔鶴さんが言ってたからでしょー」

浜風「それは『研修が行われる理由』であり、『私たちが対象となった理由』ではありません」



天津風「翔鶴さん、突然私たちを呼び出して『勉強になるから行ってらっしゃい』って、笑顔で送り出してくれたけど……」

浜風「その笑顔は、幻想です」

天津風「幻想……?」

浜風「翔鶴さんは、暗にこう言っていたのです。

   『お前ら弱すぎ。せめて戦場で囮になれるくらいのレベルに上達するまで帰って来るな雑魚共』……と」

雪風「翔鶴さん……怖すぎです……!」

時津風「いやいやいやー、翔鶴さんはそんな汚い言葉、使わないでしょー」

浦風「要するに、ウチらの強さに問題があるってことやね?」

浜風「そうです。となれば、研修を素早く終わらせる方法は明白なはずです」

天津風「私たち6人……陽炎型駆逐隊の強さを、提督に示すこと!!」

浜風「えぇ」

時津風「ふぅーん」

雪風「がんばります!」

浦風「…………まぁ、今ココには5人しかおらんけどねぇ」

天津風「もぉおおーー!! どこ行ったのよ島風ぇええええーーーーー!!」










     ~ 鎮守府 桟橋 ~









暁「よいしょっと。ふぅ、今日の訓練もバッチリね」

雷「早く戦果を挙げて、司令官にたくさん褒めてもらわなくっちゃ」

電「はぁー……その前に汗だくなのを何とかしたいのです」

響「そうだね、とりあえずお風呂に……ん?」

島風「…………」ジー

雷「あら、見かけない子だわ」

電「だけどあの奇抜すぎる格好は、どう考えてもただ者じゃないのです……」

暁「きっと色んな意味で迷子なのよ。見てなさい、レディーなら迷子の相手くらい卒なくこなしてしまうものよ」

電「さすが暁ちゃんなのです!」

暁「ねぇあなた、名前は? どこから来たの?」

島風「ねぇねぇ、さっきの何? 盆踊りの練習? 楽しそうだね」

暁「なっ…………」ピキッ

響「落ち着こう暁。きっとこの子は、司令官が言っていた、研修に来ているという陽炎型駆逐艦だよ」

島風「わたし、陽炎型じゃないし」

雷「暁、まずはこちらが名乗るべきよ」

暁「そ、そうね……。私は特三型駆逐艦の暁よ。あなたは?」

島風「さっきのが盆踊りじゃないなら、演劇の練習とか?」

暁「ぐぬぬ……………」ピキピキッ

電「質問を質問で返されてばかりで、暁ちゃんがとっても悔しそうなのです!」

響「そんな暁の姿をただ傍観する私たち!」

島風「ねぇ、何してたの?」

暁「く、訓練に決まってるでしょ。見てて分かんないの?」

島風「訓練? ぷぷぷっ……あはははははははっ!」

暁「なっ、何がおかしいのよ!」

島風「だって、あははは、あれが訓練って。あまりにもゆっくりすぎて、お遊戯かと思っちゃった~。あははははっ」

暁「何ですってぇー! もういっぺん言ってみなさいよ!」

島風「子供のお遊戯かと思っちゃった」

暁「むきー! 二度も言ったわね!」

島風「そっちがもう一回言えって言ったのに」

暁「もぉおー! レディーに向かって失礼ね!」

島風「あぁーあ、やれやれ。ここの駆逐艦は強いって聞いてたけど、何だか大したことなさそう。

   どこの鎮守府もつまんない。つまんない場所に、つまんない人ばっかり」

暁「何なのコイツー! 生意気ぃー!」プンスカ





島風「さてと、そろそろ戻ろっかなぁ。天津風ちゃんがうるさそうだし。じゃあねー」






響「待って」

島風「なに?」

響「さすがに私たちや鎮守府のことをそこまでバカにされて、黙っているわけにはいかない」

暁「ひびきぃ……」

島風「ふ~ん。じゃあ何? どうしようっていうの?」

響「私は、君に決闘を申し込む」

島風「へぇ~」

電「お、おおお落ち着くのです響ちゃん! 決闘なんて司令官さんに見つかったら、絶対に怒られるのです!」

雷「そうよ響! 散々言われて悔しいのは私も同じだけど、挑発に乗ったらダメよ!」

響「止めても無駄だよ。大丈夫、責任はすべて私が負うから」

暁「あわわ……響ぃ、そこまでしなくても…………」

響「で、そこの駆逐艦。決闘を受けるのかい?」

島風「ぷぷっ……そんなの決まってるじゃん――――――」

電「はわわわ、もう本気になった響ちゃんは誰にも止められないのです!」

雷「もぉ、どうしてこんなことに……」

島風「――――――――――――――もちろん。そんなつまんない決闘、受けるワケないでしょ?」



暁「え?」



響「尻尾を巻いて逃げると言うんだね」

島風「あはは、何言ってるの? だって、わたしとの一騎打ちがしたいって言ってるんでしょ?

   勝つって分かってるのにやっても意味ないじゃん。燃料の無駄遣い」

響「なんだって?」

島風「まぁどうしてもって言うんなら…………うーん、四対一なら、遊んであげてもいいけど?」





   プッツーン





雷「響……悪いけど一騎打ちは諦めて。私も参加するわ」

電「電も、同じなのです」

響「分かった。私も止めはしない」

暁(え……あれ……?)



島風「ふふーん。面白くなってきたじゃん。決闘なんだから、当然使用するのは実弾―――――」











天津風「こぉおおおおおおおらあぁあああああああああーーーーーっ!!」




島風「おうっ!?」








天津風「しぃーーまぁーーかぁーーぜぇーーーーっ!!!」

島風「ちぇっ、良い所だったのに」

天津風「ちょっと島風! あなた何こんな所で油売ってるのよ! 会議室に集まれって言ったでしょ!」

島風「いいじゃん別に。大した話じゃないんでしょ。それにわたし、今はこの人たちと話があって」

天津風「やれやれ……嘘おっしゃい。島風が初対面の人と仲良くできるわけ…………あれ?」



暁&雷&電&響「…………」



島風「ね?」

天津風( う、ウソ……あの協調性のなかった島風が、まさかいきなり友達を作っちゃうなんて……。

    それはそれで少し寂しい気もするけれど、やったじゃない島風。大した成長だわ! )

天津風「あの、ありがとう! この子と仲良くしてくれて!」ペコリ

暁「あ……えっと……」

響「これから決闘をするところだからね。思う存分、ナカヨクさせてもらうよ」

天津風「あぁそう、決闘ねぇ、良かったわねぇ新しい友達と決闘ができてー………………決闘ッ!?

    島風……あなた、油だけじゃ飽き足らず、喧嘩まで売ったってワケ!?」

島風「そう、決闘。だから天津風ちゃんはあっち行ってて」

天津風「んもぉおーー!! また次から次へと面倒事をぉおーー!!」










浜風「いいんじゃないですか、決闘」









天津風「んなっ! 浜風、何言ってるのよ!」



浜風「もう一度、よく考えてみてください。あなたが言っていた、野望というものを」

雪風「はい! 雪風、分かります! 鎮守府を出ていくことです!」

時津風「そのためには、時津風たちがもう既に強いぞ~ってことを、ココのしれーに示す……だっけー?」

浜風「そうです。つまりこの状況は、我々が望んでいた状況なのではないですか?」

天津風「そ、それは……」

浦風「同じ駆逐艦を相手に勝利したら、もう誰もウチらのことを弱いなんて言えんじゃろーね」

天津風「…………」

島風「でしょでしょー? だからさ、いいでしょ、天津風ちゃん」

天津風「……分かった」

島風「やった!」

天津風「でもひとつ、条件があるわ」

島風「条件?」

天津風「これ以上問題を起こしたくないから、決闘なんて絶対にダメ。

    これから行うのは、きちんと提督の承認を得た上で行われる、れっきとした演習よ」

響「力比べができればそれで良い。私は形式にこだわるつもりはないよ」

暁「え、演習ならまぁ……」

島風「ふぅ~ん、まぁわたしも別にいいけど」

天津風「それからもうひとつ条件だけど――――――」

時津風「あれー? 最初に条件ひとつって言ったのにねー?」ヒソヒソ

雪風「しーっ! きっと、深ーい意味があるんだと思います!」ヒソヒソ

天津風「聞こえてるわよ、うるさいわね……」

島風「それで? もうひとつの条件って?」

天津風「……こほん。演習は必ず艦隊戦で行うこと。島風ひとりなんて、絶対にダメ」

島風「えぇー」

浜風「当然ですね。示すべき力は、島風固有の力ではなく、我々陽炎型駆逐隊の力なんですから」

雷「ちょっと待って? それってつまり、6対4ってことにならない?」

電「数の暴力なのですー!」

天津風「もちろん公平な戦いにしたいから、悪いけどそちらも助っ人を2人呼んできてもらえるかしら?」

響「了解した、暁」

暁「ふぁ、ふぁい!」

響「誰か呼んできてくれないかな? できるだけ強い人を」

暁「う、うん! 暁に任せなさい!」タッタッタッタ

雷「パシられてるわね……」

電「パシられてるのです……」







       ~ 数分後 ~







夕立「なになにー? 何かパーティでも始まるっぽい?」

時雨「あの、ボクたち、何をするか全く聞かされていないのだけど……」

天津風「突然でごめんなさい。私は陽炎型駆逐隊、旗艦の天津風よ」

夕立「私、夕立っぽーい! よろしくねー」

時雨「ボクは時雨。陽炎型っていうことは……中央から研修にやって来たっていう……」

島風「そうそう。島流しにあったの」

夕立「ぷぷぷー、ここは島じゃないっぽいよー?」

島風「そ、そういう意味で言ったんじゃないってば!」

天津風「はいはい、少し静かにしてて島風」

時雨「夕立もね」

島風「ふーんだ」

夕立「ぽいぃー」

天津風「それで要件なんだけど……その、いきなりでごめんなさい。私たちと、本気の演習をしてほしいの」

時雨「本気の演習?」

時津風「あー……時津風はあんまし乗り気じゃないんだけど~」

雪風「雪風は、お尻がかゆいです!」

天津風「これは、私たち陽炎型駆逐隊のワガママなんだけど……その……」

時雨「いいよ」

夕立「夕立もー」

天津風「そこを何とか! お礼に雪風が何でもするから!! …………って、いいの!?」

時雨「うん。ボクたちで良ければ、喜んでお相手するよ」

浦風「うんうん、話の分かる人らで助かったのう」

浜風「そうですね。とはいえ、我々にとっては未来を決定づける戦い……容赦はしません。沈めるつもりで臨みます」ジロッ

雷「うっ……」

電「ひぇ……」

浦風「あぁー、ごめんごめん。怖がらんといてな? 浜風ったら、思ったことはズバズバ言いよるタイプじゃけぇ」

電( だとしたら余計に怖いのです…… )

暁「へ、平気よ! なんたって時雨と夕立は、鎮守府でナンバーツーの駆逐隊、そのエースなんだから!」エッヘン

響「暁が偉そうにするのは少し違うと思うのだけど……」



時雨「詳しいことは聞かないけれど、とにかくボクたちは、暁たちと艦隊を編成する。

   そして君たちとやればいいんだね、本気の演習を」

天津風「えぇ。本気でないと、私たちが困るから」

夕立「うおおおー! 夕立、なんだか燃えてきたー! っぽーい!」

響「なら、こちらのチームの旗艦は時雨に任せよう。いいかい?」

時雨「了解。そちらの旗艦は天津風だね。よろしく」スッ

天津風「えぇ。正々堂々、戦いましょう」ギュッ

夕立「ウサギさんもよろしくねー。夕立、本気の演習、負けないっぽーい!」

島風「ウサギじゃなーい! もぉー、コイツむかつくー!」

時津風「ねー、雪風ー。これ終わったら何するー?」

雪風「さっき向こうで見つけたアリの巣の様子が気になります!」

時津風「うえー、なにそれー」

浜風「この戦い、勝てる算段はあります」

浦風「浜風がそう言いよるなら、ウチも頑張るけんね!」






天津風「絶対に負けない……。だって私たちは、駆逐艦の中でもエリート中のエリート……誇り高き、陽炎型駆逐隊なんだから!」
















          ~ 演習開始 ~





天津風「両舷前進、原速。単縦陣のまま索敵! ……浜風、何か作戦はある?」

浦風「浜風の策略が、ウチらの要じゃけ」

浜風「敵は編成されたばかりの即席の艦隊です。つまり、艦隊間の連携はうまくとれないはず。ですので、そこを突きます」

天津風「ふむふむ、なるほど……」

浜風「敵もバカではありません。連携が困難となれば無理に艦隊運動をしようとはしないはず。

   おそらく特型班と時雨夕立班で分かれての二方面攻撃を仕掛けるでしょう」

浦風「互いに干渉し合わない戦法ってことじゃね」

天津風「じゃあ私たちはどうする? こっちも艦隊を分ける?」

浜風「挑発に乗ってこちらも艦隊を分けてしまっては、敵の思う壺です。

   私たち陽炎型駆逐隊は全員、特型を無視して時雨と夕立のみに総攻撃を仕掛けます」

浦風「敵の艦隊運動はザルじゃけ、旗艦も狙いやすいってことじゃね」

天津風「なるほどね……。分かったわ、その作戦で行きましょう。雪風、時津風、島風! 分かった?!」

雪風「はい! 雪風、作戦を了解しました!」

天津風「他の二人は!? ちゃんと返事して!」

時津風「時津風、りょうかーい」

島風「…………」

天津風「こら! 島風ってば!!」

雪風「敵艦隊発見です!」

天津風「くっ……来たわね! 敵の編成は?」

雪風「二時方向に4! 十時方向に2!」

浦風「あはっ、やぁーっぱり、浜風の言った通りじゃけぇ」

浜風「では作戦通り、我々は総戦力を十時方向へ……」

島風「わたし、あっちの4隻の方に行くからー」ザザー

天津風「は? ……あっ、ちょっ! 島風!! 勝手に艦列を乱さないで!」

島風「あんなの、わたし一人で十分だし」

天津風「そういう問題じゃないわよ! 戻って!」

島風「…………」

天津風「戻りなさいってばー! 島風のアホー!!」



時津風「ありゃりゃ~、ねぇ、どうするのー?」

雪風「このままだと、結局4対1になっちゃいます!」

天津風「くっ……もうこうなったら、作戦を変更して全員で4隻のほうへ……」

浜風「いいえ、作戦は続行です」

天津風「ちょ、浜風!」

浜風「彼女が挑発に乗り単身で向こうへ行ってしまうのは、計算のうちでした。

   島風があちらで足止めをしているうちに、我々は時雨と夕立を叩きます」

天津風「な、何言ってるの……それって、島風一人を囮に使うってことじゃないの!?」

浜風「無論、そのつもりですが」

天津風「そんな……島風ひとりを犠牲にするなんて、そんな戦い方は許さないわ!」

浜風「犠牲ではありません。彼女は自ら単身突撃を申し出たのです。それだけの自信があっての行動であると、私は解釈します」

浦風「まぁまぁ天津風。そう目くじら立てんと、な?」

時津風「そーそー。別に演習なんだしさー」

天津風「浜風……あなた、これが実戦でも……そんな作戦を立てるつもりなの?」

浜風「……私に作戦を仰いだのはあなたです、天津風」

天津風「くっ……分かったわよ。……全艦、十時方向へ」





天津風「両舷前進、第三戦速。反航戦よ!」

雪風「敵の姿がハッキリ見えてきました! 駆逐艦時雨と、駆逐艦夕立です!」

浦風「浜風の見立て通りじゃね」

時津風「うーん……でもなんか、向こうの速度、速すぎない?」

浜風「最大戦速で突っ込んでくるつもりでしょうね」

天津風「どういうつもり? あんな速度で反航戦に入っても、互いに砲撃が当たるとは思えないわ」

浜風「こちらの方が数が多いですからね。機動力を生かして慎重に、ジワジワと攻めるつもりなのかもしれません。

   ……まぁ何であれ、あちらも何かを企んでいることは明らかです。十分に注意してください」

雪風「10秒後、射程範囲内に突入します!」

天津風「とにかく……やり合ってみないと分からないわね! 砲戦用意!」

雪風「3 2 1 ……」

天津風「撃てぇえーーーー!!」




天津風「被害は?」

浦風「心配いらんよ。全員無傷じゃけ」

時津風「敵さんも無傷だけどねー」

天津風「ほらご覧なさい。あんな速度ですれ違っても、お互いの砲撃が当たるわけないのに……どうして」

浜風「天津風、考え込んでいる暇はありません」

天津風「そ、そうね! 全艦一斉回頭! 次の攻撃に備え…………って、ええっ!?」

雪風「煙幕です!!」

時津風「うわー……モクモクで何も見えないよー。これじゃあお互いに砲戦なんて無理だし、

    実は向こうもあんまりやる気がないんじゃないのー?」

浦風「これは、何かの作戦?」

浜風「最大戦速での反航戦……当てる気のない砲戦……煙幕による目くらまし……」ブツブツ

天津風「奇襲よ」

雪風「きしゅー!?」

天津風「数では私たちが圧倒的に有利。だからこうやって煙幕を張って、突っ込んできた私たちを一隻ずつ潰していく算段なのよ。

    一隻ずつ叩いていくなんて、艦隊戦においては基本中の基本だものね」

時津風「じゃあ、時津風たちはどうするのー?」

天津風「いったん煙幕から距離を置いて、相手の出方を見るわ。いいわね!」

浜風「まだまだ思考する価値はありそうですが……分かりました。旗艦の判断とあらば、従いましょう」

浦風「浜風が言いよるなら、ウチも従うね」

時津風「はーい」

雪風「了解しました!」






         ~ 数分後 ~





浜風「おかしいです……煙幕が晴れません」

天津風「つまり、煙幕を今も張り続けてるってこと?」

浜風「そういうことになります。ですが、なぜそんな無意味なことを……」

雪風「……雷跡4! 来ます!」

天津風「か、回避して!」

時津風「……って、回避するも何も、あーんな明後日の方向に撃たれても、ねぇ~」

浦風「ウチらが相手を目視できないように、相手もウチらが見えてないってことじゃろ?」

浜風「無意味、無鉄砲な雷撃です」

天津風「私たちがいつまで経っても攻撃を仕掛けて来ないから、しびれを切らしたってトコかしら?」

浜風「…………」

雪風「会敵から、もう10分以上経ちました!」

時津風「ねぇー、時津風、いつまでこうしてればいいのー? 時間ばっかすぎて退屈なんだけどぉー」

浦風「そうじゃねぇ……長期戦になっても戦況は変わらんと思うんじゃけど……」

天津風「とにかく煙幕が完全に晴れて、相手の姿が見えるまで待ちましょう。迂闊に突っ込むのは危険だわ」

浜風(こんな時間稼ぎみたいな行為が、敵の策略? いやしかし、こちらに被害がなければ戦況に影響は…………あっ)

浜風「…………これは、マズイかもしれません」

浦風「ん? 浜風?」

雪風「煙幕が晴れます!」

時津風「煙幕終了したみたいだねー」

天津風「さぁ皆、私たち陽炎型駆逐隊の力を、時雨と夕立に―――――――」






一同「あれ……?」



暁「な、なによ! 悪かったわね、私で!!」







浦風「ど、どうなっとるん……?」

浜風「くっ……やはり……入れ替わっていた……」

雪風「んー??」

時津風「なになに、どういうことー?」

天津風「相手を一隻ずつ叩いていくのは、基本中の基本……―――――――島風が、危ない!」










島風「あははははっ! おっそーい!」

響「くっ……なんて速さだ……」

電「はわわわ! 砲撃が全然当たらないのです!」

雷「もぉー! ちょこまか動いて、完全に遊んでるわ、あの子!」

島風「ふーん、ならそろそろわたしも反撃してあげようかな。さぁ行くよ、連装砲ちゃん!」

電「な、何か出てきたのです!」

雷「こっちに向かってくるわ!」

響「角の生えた鉄の塊……いや違う、あれは……」

島風「いっけぇーー!!」


    ドーン!  ドーン!  ドーン!


雷「な、何なのあれ!?」

響「兵装が意思を持って攻撃している……?」

電「そんなの反則なのですー!」

島風「あははははっ! よっわーい! やっぱり私ひとりでも、全然勝てちゃうねー!」

電「自動で動く兵装とは驚きなのです。でも……」

雷「でもここまでの流れは、想定の範囲内だわ」

響「君は……艦隊戦というものを、まるで理解していない」

島風「フン! 強がり! あんたたちなんかより、わたしの方が絶対に速い! 絶対に強いんだから!」












時雨「君たちには、失望したよ」



    ドォオーーン!



島風「うわぁ!? くっ……なんで? あっちに行ったはずなのに……?」

夕立「こんにちはウサギさん! 夕立と、最ッ高に素敵なパーティーしましょ!」

時雨「たとえ相手が戦艦でも、一隻ならボクたちの敵じゃないよ。

   なぜならボクたちは艦隊を編成することで真の力を発揮し、戦艦や空母の力を大きく上回るから」

夕立「提督さんが、よく言ってる言葉っぽい!」

島風「要らない……駆逐艦島風には、艦隊なんて必要ない!」

響「その言葉、よく覚えておくといい」

雷「あなたに足りないものを、私たちが教えてあげるわ!」

電「なのです!」

島風「わたしは他の駆逐艦とは違うもん! わたしは特別! あんた達とも、陽炎型とも違う、特別な駆逐艦なんだから!」

時雨「それでも君は、独りぼっちの駆逐艦。君が今、ここに一人でいる限り、君に勝ち目はないんだ」

島風「うるさい……うるさいうるさいうるさーーーーい!! 行くよ、連装砲ちゃん!」

時雨「もう一度言うよ。これが君たちの、『 本気の演習 』だと言うのなら……―――――」

島風「私はひとりでも強いんだからぁーーーっ!!」

時雨「――――――――君たちには、失望したよ」











           ~ 演習後 駆逐艦寮 会議室 ~





天津風「演習で敗北した理由をレポートにして報告しなさいって、提督が」

時津風「へぇー、そうなんだー。大変そうだねー」

天津風「なに他人事みたいに言ってるのよ。あなたも考えるの!」

時津風「えぇー、もぉー。だいたい時津風は、演習することには反対派だったのにー」

天津風「はい、それじゃあ私が書くから、敗因について思うことがあったら挙げてちょうだい」

雪風「はい! 雪風、ひとつ思いつきました!」

天津風「なに?」

雪風「雪風たちが負けたのは……敵が勝ったからだと思います!」

天津風「…………他は?」


一同「………………」


雪風「はい! 演習前にアイスを食べなかったからだと思います!」

時津風「あ~、それ一理あるかも。時津風、間宮さんのアイス食べてみたいなぁ」

浦風「ちょうどおやつの時間じゃけ、皆で行く? 浜風も、ちぃと小腹が空く頃じゃろ?」

浜風「そうですね。何事も休息は必要ですから」

天津風「あなたたち……真面目に考える気あるの!?」

島風「はい」ピシッ

天津風「なに島風、何か浮かんだの?」

島風「お散歩行ってきてもいい?」

天津風「ダメに決まってるでしょ!」



雪風「天津風ちゃん、はい! はい!」

天津風「何よ雪風……」

雪風「雪風たちが勝てなかったのは、ズバリ昨日食べたお菓子の賞味期限が切れていたからだと思います!」

天津風「…………はぁ」

時津風「お腹に悪そー。……あれ? そのお菓子って、雪風が皆に配ってたやつじゃなかった?」

雪風「あっ……」

浦風「あはは、まぁまぁ。ウチらは元気じゃけぇ、気にせんでええよ。

   ちぃと賞味期限を過ぎたくらいで、急にお腹を壊したりはせんって」

雪風「賞味期限は二か月前に切れてました!」

浜風「最悪ですね」

島風「じゃあそれが敗因でいいじゃん。そう書いて提督に提出しようよ」

時津風「そだねー。体調管理は大事だって分かりましたー、みたいな感じで」

雪風「雪風、皆のお役に立てました!」

浦風「かなり危険な役立ち方じゃねぇ……」

浜風「まぁこれも、良き教訓になったということで」



天津風「あなたたち……いい加減にしてよ! 私は真面目に話してるの!!」



雪風「ひっ…………」ビクン

浜風「真面目に話をして……何か意味があるのですか?」



天津風「はぁ!? 今回の敗北を真面目に反省して、それを次に繋げるんでしょうが!」

浜風「我々は過去に何度も敗北し、真面目に反省をしてきました。それを次に繋げてきた結果がこれです。

   果たして、こんな実らない反省会を繰り返して、何か意味があるのですか?」

天津風「そ、それは…………!」

浜風「……ですがまぁ、どうしても報告書を作成するために反省文が必要だと言うのであれば、協力します。

   私が今から言うことを、一言一句漏らさず、その紙に書いてください」

天津風「…………」

浜風「敗北の第一の原因は、島風の慢心と独断専行」

島風「ふんっ」

浜風「そして第二の原因……最たる敗因は、旗艦の判断ミスです」

天津風「何よ……私が悪いって言いたいの?」

浜風「その通りです。あの煙幕と不自然な砲雷撃で敵の策略に気が付かなかった、あなたに責任があると、私は思います」

天津風「全部私のせいで……あなたたち僚艦には何の責任もないっていうのね……」

浜風「当然です。我々は旗艦の判断に従っただけですから」

天津風「あぁそう……そうなのね……他の皆も、そう思ってたんだ」

浦風「う、ウチは……その……」

時津風「…………」

雪風「雪風は……あの……」

天津風「そうよね……えぇ……私のせいよ。全部……全部全部全部! 私が悪いんでしょ!?」


一同「…………」


天津風「フン! いいわよ別に! だったら私、こんな艦隊の旗艦なんて、辞めてやるんだから!!」

浜風「翔鶴さんに与えられた職務を放棄するということですか」

天津風「そんなの知らない! だいたい私、旗艦なんてやりたくなかったのに!

    こんなバラバラな艦隊の旗艦なんて、死んでもやりたくなかったのに!! もうウンザリよ! 辞めるったら辞める!」

浜風「辞めたければそうしてください。中途半端な気持ちでは困ります」

天津風「……バカ…………バカ!! バカバカバカバカバカーーーー! 皆のバカァアアアーーーーーーッ!!」


  タッタッタッタッタ……


浦風「行ってしもうたね……」

時津風「はぁー。もう、なにこれ。雪風、アイス食べにいこうよー」

雪風「は、はい……」

島風「わたし、お散歩してくるから」


  ゾロゾロゾロ  バタン


浜風「どう足掻いたって無理なんですよ。この駆逐隊は」

浦風「自分で言うのもアレじゃけど…………ウチらってとことん、『ないない駆逐隊』なんじゃね」










        ~ 鎮守府 桟橋 ~





天津風「はぁ……結局どこに行っても私たち……」

時雨「元気なさそうだね?」

天津風「はっ!? 時雨!?」

時雨「……あ、ごめん。泣いていたの?」

天津風「な、泣いてなんかないわよ。これはその……雨よ、雨」

時雨「そっか……それは、悲しい雨だね」

天津風「ねぇ時雨」

時雨「うん?」

天津風「あなた達は……どうしてそんなに強いの?」

時雨「それは……なんだか変な質問だね。強いのは君たちだって同じのはずだよ。

   ううん、陽炎型なんだもの、ボクたちよりもずっと性能が良いハズじゃないかな?」

天津風「……時雨って、見かけによらず意地悪なこと言うのね。私たちに圧勝しておきながら……」 

時雨「えへへ……ごめんごめん」

天津風「でもまぁ、そういうことよね。陽炎型は性能に恵まれた近代的な駆逐艦。

    時雨の言うように、私たちは強いはず。それでもあなた達に敗北するということは、どう考えても艦隊の問題よ」

時雨「艦隊の問題かぁ……まぁ、簡単に言っちゃえば、艦隊の仲の良さ、とか?」

天津風「時雨は……たとえば夕立とかとケンカしたりしないの?」

時雨「それは…………うふっ、それは秘密だよ」

天津風「なによそれ」

時雨「でもうちの鎮守府で駆逐艦同士のケンカなんて、日常茶飯事なんじゃないかな」

天津風「そうなの?」

時雨「うん。でも、だからと言って仲が悪いってわけじゃないんだ。ケンカするほど仲が良いってことなのかな?」

天津風「ふぅーん」




時雨「陽炎型駆逐隊は?」

天津風「…………おかげさまで、さっきしてきたトコよ」

時雨「あはは……」

天津風「でも……あれが仲良しだなんて、思えない。あれはただ、艦隊を組まされて一緒にいるだけよ」

時雨「でも陽炎型駆逐隊って言えば、うちのナンバーワンと肩を並べるほどの技術とチームワークを誇るって噂だけど?」

天津風「その『 陽炎型駆逐隊 』ってのは、陽炎姉さんたちのことよ。私たちとは違う」

時雨「そうなの?」

天津風「私たちは……陽炎型の底辺、陽炎型の面汚し、陽炎型の問題児たち……他にも色んな悪評があるわ」

時雨「…………『ないない駆逐隊』っていうのも?」

天津風「……どこで聞いたのよ」

時雨「それも秘密さ」

天津風「はぁ……まぁいいわ。そう、その通り。『ないない駆逐隊』……それは私たちの、最悪の通り名。

    やる気がない、本気を出さない、遠慮がない、意志がない、協調性がない、そして……」

時雨「自信がない?」

天津風「……正解よ、時雨って本当に意地悪な子よね」

時雨「きっとボクでなくても、今の天津風を見れば誰でもわかると思うな」

天津風「私って……そんな自信なさそうにしてる?」

時雨「少なくとも、今はね」

天津風「ふーん……。まぁでも実際、自信なんてこれっぽちもないもの。

    ある日、急に問題児ばかりが招集されて、艦隊を組めって言われて、いきなり旗艦をやれって言われて……。

    私には、陽炎姉さんみたいにうまくやれる自信なんて、全然ない。無理なのよ」

時雨「そっか……」



天津風「あ、ごめんなさい……。愚痴みたいなこと言って……」

時雨「……ありきたりなことを言うようだけど、最初は皆、自信がないものだと思うよ」

天津風「……今はこんなでも、頑張ればそのうち自信がつくって言いたいの?」

時雨「それはまぁ……頑張り方次第って言うべきかな? ボクたちだって最初はそうだったから」

天津風「時雨は、どうやって自信をつけていったのよ」

時雨「うーん……ただひたすら仲間を信頼して、信頼されて、そういうのを繰り返しているうちに、

   自分に自信が持てるようになったんじゃないかな?」

天津風「信頼……それだけ?」

時雨「うん。まぁ、それが実際難しかったりするわけなんだけど……。

   ……なんて言うのかな? 仲間との絆っていうやつなのかな? えへへ、言葉にするのは少し照れくさいんだけど」

天津風「絆……たしかに私たちの隊には似合わない言葉だわ」

時雨「ならその言葉が似合うようになったとき、天津風は旗艦として、立派な自信が持てていると思うよ」

天津風「よく分からないわ」

時雨「何が?」

天津風「仲間とか絆とかさ……そんなの、キレイゴトくらいでしか使わないもの」

時雨「うーん……まぁ、実際のところ、普段からよく使う言葉ってわけでもないからね」

天津風「でしょ。だから『 仲間との絆 』なんて言われても、私にはよく分からない」

時雨「じゃあこう言い換えたらどうかな?

   『 自分がどうしようもなく困っている時に助けてくれる 』その行為を『 仲間との絆 』だと思えばいいんだよ」

天津風「…………」

時雨「あはは、なーんて、これはボクが以前に言われた言葉なんだけどね。

   ボクもまだまだ半人前だし、そんな偉そうなことは―――――」

天津風「時雨ッ!」

時雨「ん? なんだい?」

天津風「私……もう少しだけ、頑張ってみようかな……」

時雨「そっか、うん。ボクとしてもそうしてくれると、嬉しいな」

天津風「ありがとう時雨……あなたって、本当はいい人なのね。好きになりそう」

時雨「もう、意地悪なのは天津風の方だよ」












            ~ 工廠裏 ~







島風「…………」

夕立「あっ、ウサギさん、見ぃーつけた!」

島風「………………」プイ

夕立「あれー? ウサギじゃなーい!って、言わないっぽい?」

島風「うるさい。あっち行って」

夕立「そんな所に座って何してるの? そこ、ネコさんのウンチ、いっぱいあるっぽいよ?」

島風「えぇー!?」

夕立「あはははっ! 反応、面白っぽーい!」

島風「うぅ~! よく考えたら鎮守府は猫禁止なんだから、そんなのあるわけないじゃん!」

夕立「ううん。でもそこで、とある駆逐艦がこっそり猫さんのお世話してたって、聞いたことあるっぽい。

   夕立がココへ着任する前の話だけどねー」

島風「ふーん。でもそれ軍規違反でしょ。その駆逐艦、クビになったの?」

夕立「ううん」

島風「じゃあ、バレなかったの?」

夕立「真っ先に提督さんに見つかったっぽいよ」

島風「何それ。じゃあ辺境に飛ばされたとか?」

夕立「ううん。今は鎮守府ナンバーワンの駆逐隊の旗艦で、秘書艦をやってるよ」

島風「そんなの……おかしいよ」

夕立「うーん。夕立もよく分かんないけど、でも本当っぽい」

島風「私だって、向こうではよく軍規違反してたけど怒られてばっかり。誰よりも速くて強いのに、誰も褒めてくれない。

   それどころか私のこと、皆指さして問題児だって言うし、仲間はずれにするし……」

夕立「陽炎型駆逐隊の仲間は?」

島風「私、陽炎型じゃないもん」

夕立「夕立だって白露型だけど、暁ちゃんたちとは仲良しっぽいよ?

   この間だって暁ちゃんの帽子を手の届かない所に置いて泣かせちゃったけど、お菓子あげたら仲直りしてくれたっぽい」

島風「それ、ただのイタズラじゃん……」

夕立「それだけ仲が良いってことっぽいー!」



島風「天津風ちゃんたちは別に……あれはその、勝手に艦隊を組まされただけで、仕方なく一緒にいるだけだもん」

夕立「ふぅーん。じゃあウサギさん、同じ隊の仲間にも嫌われてるっぽい?」

島風「……別に、そういうわけじゃないと思うけど」

夕立「なら大丈夫、これから仲良しになれるっぽい!」

島風「嘘だよ」

夕立「本当だよー。別に何か特別なことを言わなくたって、一緒にいて笑ってるだけでいいっぽい。

   それだけで、ウサギさんが皆と仲良くなりたいっていう気持ちも、たくさん伝わるっぽい!」

島風「嘘だ……それっぽっちで伝わったら、苦労しないもん」

夕立「ねぇねぇウサギさん。夕立のこと、よく見て?」

島風「な、何で……」

夕立「いいから見てよ~」

島風「もう……何なの」

夕立「えへへー、夕立も、ウサギさんと仲良くなりたいっぽい!」

島風「…………っ!!」

夕立「あ、目そらした」

島風「うぅ……もう分かったってば。あんたの言う通りだから」

夕立「ぽいー!」

島風「あと一応……あの、ありがと」

夕立「えへへっ、夕立、お礼よりもアレ貸して欲しいっぽいー」

島風「アレ?」

夕立「何だっけ? ウサギさんの使ってる兵装…………ほうれん草ちゃん?」

島風「連・装・砲ちゃん!! そんなナヨナヨしてなーい!!」

夕立「あははー、そうだった。一束でいいから、夕立も使ってみたいっぽーい!」

島風「だーかーらー! ほうれん草じゃないってばー!!」










               ~ 甘味処 間宮 ~







時津風「んーっ! おいしーおいしー! ねー、雪風ー?」

雪風「…………」ボー

時津風「雪風? ねぇ、ちょっと聞いてるー?」

雪風「あ、はい! 美味しいですね、アリの巣!」

時津風「アリの巣がこんなに美味しかったら、きっと今頃アリは絶滅してるよ」

雪風「うぅ……」


     コツコツコツ……


雷「間宮さんのアイス券、貯めておいた分もなくなっちゃったわ」

電「調子に乗って食べすぎる方が悪いのです」

雷「まぁでも、やっぱり人に奢ってもらうスイーツは格別よねぇ。出来の良い妹を持てて誇らしいわ」

電「奢らないのです」ニッコリ



時津風「あっ」

雷「あら、さっきの」

電「こ、こんにちはなのです」

雪風「こんにちは!」

雷「よいしょっと」

時津風「って、何でわざわざこっちに座るのさー。他が空いてるのに」

雷「まぁまぁいいじゃないの別に。減るもんじゃないし」

電( お財布の中身を減らされそうな気がするのです…… )

雪風「みんなで食べたほうが、きっとおいしいです!」

時津風「まぁ、別にいいけどさぁ」

電「ありがとうなのです」

雷「ねぇねぇ、ところであなたたちって、どれくらいコッチにいられるの?」

雪風「それが……期間は決められていないみたいなんです」

電「どういうことなのです?」

時津風「時津風たちが十分成長したーって、しれーが判断するまで帰れないんだってさ」

雷「そうなの? でもそれって裏を返せば、強さを証明できれば早く戻れるってことじゃないの?」

時津風「そーだよ。まぁ、いきなり失敗したんだけど」

電「あっ……それであの演習を……」

雷「あー……なるほどね。って、だからって私たちを恨むのはやめてよね。言われた通り本気で演習しただけなんだから」



雪風「雪風、恨んでなんかいないです!」

時津風「そうそう。第一、別に時津風は、そうまでして早く帰りたいなんて思わないし」

電「どうしてなのです?」

時津風「だってここ居心地いいし、間宮さんのアイスあるし。それに、別に強くなりたいだなんて、思ってないし」

雷「強くなくてもいいって……何か別の目的でもあるの?」

時津風「ただこうやって、のんびりアイスが食べられる生活を続けられれば、時津風はそれでいいもん」

雷「えーっ! そんなんじゃダメよ! ブタになっちゃうわ!」

時津風「別にいいもんブタでも。ぶーぶー」

雪風「雪風、トンカツ大好きです」

時津風「食べられるのはちょっとなぁー」

電「でも……艦娘である限り、深海棲艦との戦闘はつきものなのです。

  強くないと、仲間どころか自分の身すら守ることができないのです」

雷「そうよ。空っぽのまま深海棲艦と戦うのは危険だって、教えてもらったことがあるわ。

  私たち駆逐艦の最大の武器は、立ち向かう勇気と強い心なんだから!」

時津風「別に……戦いたくて戦ってるわけじゃないのに……」

電「できれば戦いたくないのは、皆同じなのです」

雷「それでも深海棲艦はやって来るから私たちは戦う。司令官や仲間のことを守りたいから、強くなりたいと思うの。

  あなたにだって、大切な人はいるでしょ?」

時津風「それは……そーだけど」

雷「だったら、強くなくてもいいなんて、言っちゃダメよ」

電「本当は戦いたくなくて、暗い雰囲気や真面目な話もイヤで、いつでも明るく冗談ばかり言い合うような日常……。

  皆がそんな毎日を夢見ているのです。だからこそ、戦わなくてはいけなくて、暗い雰囲気や真面目な話にも、

  本気で向き合わなくちゃいけないのです」

雪風「…………」

雷「どーお? 少しは勉強になったかしら?」

電「それを言ったらせっかくの先輩面が台無しなのです……」

時津風「……あーあぁー。世の中って、どうしてこうも面倒なことで溢れてるんだろう」

雷「少しくらい面倒な方が、幸せが増すからよ」

雪風「時には真面目に向き合うことも、大切なんですね」

電「本気になった分だけ、冗談を言い合えるひと時が楽しく感じるのです」

雷「あ、先に言っておくけど、お礼なんて要らないわよ。あなた達はただ、アイスのお代を払ってくれるだけでいいの」

時津風「えっ、奢らないけど」

雪風「奢りません」

雷「えっ」

電「いや、当然なのです」










             ~ 駆逐艦寮 会議室 ~





浦風「なぁ浜風」

浜風「何ですか、浦風」

浦風「ウチら……いつになったら皆のトコ、戻れるんじゃろうな」

浜風「我々が戦力として数えられていない以上、いつまでココにいても構わないと、翔鶴さんなら思うはずです」

浦風「うぅ……この鎮守府がイヤってことはないんじゃけど……やっぱり寂しいけん。はよぉ戻りたいね」

浜風「…………」


響「仲間とケンカでもしたのかい?」


浜風「あなたたちは……」

響「響だ」

暁「暁こと、レディーよ」

響「逆、逆」

暁「へ?」

浦風「あはは……でも、ウチらがケンカしたって、なんで分かったん?」

響「そりゃ、あんな酷い負け方をした後だからね」

暁「っていうか、あなたたち二人しかココにいない時点で、そうに決まってるじゃないの」

浜風「別に同じ隊の者を憎んだり、ケンカをしたかったわけではありません。

   我々はいつも……気付けばこうなっているのです」

暁「なにそれ? ケンカの原因が分からないってこと?」

浜風「いえ、おそらく原因の大半は私でしょう」

響「自分が原因だと分かっていても、ケンカが起きるというのはどういうことだい?」

浦風「あー……えっと、浜風はな、思ったことをまっすぐ口にするタイプじゃけ。

   その気がのぉても、いつの間にかケンカみたいになることが多いぃんじゃ」

浜風「ですから、そうならないように丁寧に話しているのですが」

暁「それ、火に油なんじゃないの……」



響「けれど、たしかに仲間との信頼関係を築くのは、そう容易ではないのかもしれないね。

  ストレートに本音を言いすぎてもダメ。人に依存して自分の考えを放棄するのもダメ……」

暁「まぁでも、暁ほどのレディーともなれば、その程度のバランスはバッチリよ」

浜風「ふむ。詳しく聞きたいですね」

暁「え? 詳しく? あー……えーっと……その……」

響「これは去年の夏の話なんだけど、ある夜、暁は調子に乗って夜中にホラー映画を見たんだ」

浦風「ほぉほぉ」

暁「え、ちょっ」

響「翌朝、暁のベッドのシーツが湿っていた」

浜風「…………」

暁「だ、だから! あれは汗だってば!!」

響「そう……当時もこのように、暁は必死に『これは汗だ』と主張していたんだ」

浦風「頑固じゃねぇ」

響「私と雷と電は、これは間違いなくオネショだろうと確信を持った上で、『たしかに汗だね』と嘘をついた」

浜風「本音をあえて隠し、オネショという恥ずかしすぎる失態に気が付かない振りをしたということですね。

   ひどく幼稚な自称レディーの心を傷つけないために……」

暁「うぅ……汗だもん……」

響「これが私たちの、絆なんだ」キリッ

暁「うわぁああああん! 汗だもぉおおん!!」

浦風「泣いとるけど……ええの?」

響「あとでお菓子をあげれば許してくれるさ」

浦風「さすがじゃね……」

浜風「ともあれ、我々に足りないのは、そういうところなのですね」

浦風「なら、浜風もオネショしてみる?」

浜風「それはさすがにドン引きです」

暁「汗だってばぁあああーーーーっ!!」













              ~ 夕方 司令室 ~




提督「それでどうだ? うちの鎮守府の居心地は」

天津風「まぁ……別に悪い気はしないわ。良い鎮守府だと思う。皆いい人だし」

提督「そうだろう、そうだろう。なんたって私の愛をたっぷり注ぎ込んでいるからな」

天津風「あなただけはどうしても警戒するけどね」

提督「ま、まだ何もしてないぞ私は……」

天津風「まだって何よ」

提督「こほん。それより演習の件だが、報告書は出来上がったのか?」

天津風「そ、それは……」

提督「期限を設けるつもりはないが、早めが望ましい。皆で協力すればスグに終わるはずだ」

天津風「分かってるわよ……」

天津風( 時雨に言われて、もう少し頑張ってみるって決めたはいいものの……結局あれから皆とまともに話せてない……。

     やっぱり、ダメなのかな……私たち)

提督「君たち陽炎型駆逐隊は……どうしても、ダメなのか?」

天津風「えっ?」

提督「君たちのことは翔鶴から多少聞いている。チームとして、どうしても一つになれないと言うのなら……」

天津風「…………」




提督「その時は、向こうへ帰れるよう、融通を利かせることもできる」

天津風「え……今、なんて?」

提督「どうしても無理だと言うのなら、君たちの強さは十分だと翔鶴に報告し、帰してやることもできると言ったんだ」

天津風「私たち……帰れるの?」

提督「あぁ」

天津風( どういうこと……? つまりじゃあ、私たちは何もしなくても、帰ることができるってこと?

     あの絶望的な駆逐隊を何とかする必要もない? 自分に鞭を打って、自信をつける必要も……? )

提督「天津風が望むと言うのなら、今スグにでも取り計らうことができる」

天津風( やった……やったわ。嬉しい。嬉しいことじゃないの。だって、帰ることが私たちの野望だった。

    変わりたいと思う気持ちも嘘じゃないし、ないない駆逐隊だなんて呼ばれたくないのも確かだけど。

    でも何よりも、まずは帰ること。そう……だから、これ以上の話はないわ )

提督「今ここで君が帰りたいと言えば、明日の朝には帰してやることができる。

   だが逆にこのチャンスを逃せば、まだしばらくここへいてもらうことになる」

天津風「私は……」

提督「………………」





天津風「……………………帰りたい」





提督「……了解した。それが陽炎型駆逐隊の決断であると受け取った。

   ではさっそくで悪いが、これより講堂にて、全体集会を行なう」

天津風「全体集会?」

提督「君たち陽炎型駆逐隊が、もとの鎮守府へ帰るという……それだけの集会だ」

天津風「え……今から?」
















           ~ 講堂 ~




  がやがや    がやがや



提督「皆、急な呼び出しに集まってくれたこと、感謝する。

   既に知っている者も多いだろうが、数日前から我が鎮守府には中央鎮守府から陽炎型駆逐隊の一部が研修に来ている」

天津風( こうして壇上から見ると、私たちの絆の浅さがよく見えるわね……。

    浜風と浦風、雪風と時津風、それぞれのペアが離れた場所に座ってるし、島風はいないし…… )

提督「しかしそんな陽炎型駆逐隊の皆も、短い期間ではあったがお別れの時がやってきた」



時津風「え?」

雪風「どういうことです?」

浜風「研修が終了……そんなことが……」

浦風「で、でも……今たしかに、提督さん……」



提督「急な話だが、出立は明日の早朝となる。皆にはろくに挨拶もできないだろう。

   だから今ここに、陽炎型駆逐隊、旗艦の天津風より皆への挨拶の場を設けた」

天津風「えっ、私、何か言うの?」

提督「当然だろ。大丈夫だ、君がここで学んだことを少し話して、別れの挨拶を言うだけだ」

天津風「…………わ、分かったわ」

天津風( これが帰るための最後の試練……そう思えばこんなの………… )





天津風「か、陽炎型駆逐隊……旗艦の天ちゅ風です」



一同( 噛んだ…… )



天津風「こほん! 天津風です!

    わ、私はこの鎮守府で様々なことを学びました。向こうでは教えられない戦略や航行技術、砲雷撃戦の――――――」


天津風( あぁ……私、今なに言ってるんだろう……。

     私が本当にここで学んだことって何だっけ? たいして長くいるわけでもないのに、たくさんのことが学べたっけ?

     私が教えてもらったのは……思い知ったのは……もっと、単純なことだったような気がしたのに…… )

天津風「――――――だからその、皆さん、本当にありがとうございました。

    私たちは…………私たち陽炎型駆逐隊は、明日をもって、この鎮守府を……」

浜風「…………」

浦風「…………」

時津風「…………」

雪風「…………」




天津風( これでいいの……? 本当にこのまま帰ってもいいの? イヤ……イヤだけど……。

     やっぱり私は……ここに残っても……やっていける自信なんて…………ない )







     ――――――――――仲間との、絆。


――――――――――自分がどうしようもなく困っている時に助けてくれる。その行為を、仲間との絆だと思えばいいんだよ。








天津風( 私を助けてくれる仲間なんていないじゃない…………だってそれが、ないない駆逐隊なんだもの…… )


















島風「待って!! 天津風ちゃん!!!」












天津風「あ……島……風……」



雪風「あの島風ちゃんが……」

時津風「人の集まるところに、自分から来るなんて……」





島風「わたし、このまま帰るなんてイヤ!! だって、だってだって! 悔しいもん!

   だから、帰るなんて言わないで! 島風は速いのに! 強いのに! 負けたまま帰るなんてイヤ!

   イヤ! イヤ! イヤーーーーーーッ!!」




天津風「島風…………あなた…………」




浜風「…………」

浦風「…………」チラッ

浜風「………………」

浦風「ウチも……」ガタッ

浜風「え……?」

浦風「ウチもイヤじゃ! このまま帰ったって、また皆の笑いものにされるだけじゃけぇ!!」


天津風「浦風……」


雪風「雪風も、まだ帰りたくありません! 皆がひとつになるまで……もっと、もっともっと、雪風は頑張りたいです!」

時津風「時津風だって! その、もうちょっとくらいなら、頑張ってみようかなって思ってきたところなの!」


天津風「雪風……時津風……」


浜風「はぁ……仕方がありませんね……。全員が研修の続行を希望すると言うのであれば……私も喜んで、お付き合いします。

   ですがひとつだけ……条件があります」

天津風「条件……?」

浜風「天津風、あなたは我々にこう言いましたね。こんなバラバラな艦隊の旗艦は嫌だ、と。

   たしかに我々は……私も含め、てんでバラバラ、最悪な艦隊です。

   ですが、この状況をどうにかしたいという気持ちは、誰の心にもあるはずです」

浦風「うん……そうじゃね、浜風」

浜風「ですから条件というのは……あなたが旗艦を務め、我々を導くということです」

天津風「こんな最悪な艦隊でも……こんな私でも、務まるっていうの?」

浜風「はい。 ……私はこれでも、あなたを信頼しています」

天津風「うっ……嘘よ」

浦風「ふふっ、それこそ嘘じゃて。天津風かて、浜風の性格くらいよう分かっとるくせに」

時津風「まぁ、嘘は言わないもんねぇ浜風って」

雪風「はい! 雪風も、よく知っています!」

浜風「…………」

天津風「分かったわよ……でも、こんなのは卑怯よ」



時津風「え、何が?」

天津風「私だけ壇上で喚いてて、不公平よ! だから全員、壇上に上がりなさい! 旗艦命令よ!」

雪風「あはっ、雪風も、そっちに行きます!」

時津風「えー、メンドくさーい」

浜風「はぁ、やれやれですね……」

浦風「くすっ、横暴なリーダーじゃね」


  ぞろぞろぞろ……


天津風「こらーっ! 島風も!」

島風「おうっ!? わ、私はいいよ。恥ずかしいもん!」

天津風「そんな格好しといて、今さら何言ってんのよ! 雪風、連れてきて」

雪風「了解です! さぁ島風ちゃん! 行きましょう!」グイグイ

島風「いーやーだぁ! やーめーてー!!」



提督「さて、全員揃ったところで、続きをお願いしてもいいか?」

天津風「続き? 何の?」

提督「おいおい……。これからの陽炎型駆逐隊についてだ。どうするのか、しっかりここで明言しておいてくれ」

天津風「これからの……陽炎型駆逐隊……」

提督「あぁ。天津風、旗艦である君が決めるんだ」

浜風「旗艦の決定に、異論はありません」

浦風「何でも好きに決めてええよ。ウチらはついてくけぇ」

時津風「時津風もー」

雪風「雪風もです!」

天津風「…………」


一同「………………」


天津風「この鎮守府における陽炎型駆逐隊は…………本日をもって、解隊とするわ」

提督「ほう」

天津風「私たちは今日から…………ないない駆逐隊よ」

島風「えーっ!? それ、悪口なのにぃー」

天津風「私たち、ないない駆逐隊の最大の野望は……この隊を解散させ、また改めて陽炎型駆逐隊を名乗ること」

浜風「あえて辛酸を舐めるということですね。なかなか面白いと思います」

雪風「雪風たち、みーんなで、ないない駆逐隊です!」

時津風「うーん、まぁ別にいいけどねぇ」

浦風「何だかんだゆーても、それが一番言われ慣れとるけんねぇ」

島風「はいはい賛成。もう何でもいいから、わたし、もう部屋に戻る」

天津風「まだよ島風。ないない駆逐隊の結成を記念して、今ここで、円陣を組むわよ!」

島風「皆の前じゃなくてもいいでしょー!」

天津風「いいでしょ、提督」

提督「あぁもちろん。他の皆だって同じだ」






時雨「ふふふっ、歴史的瞬間かな」

夕立「夕立も、ぽいぽい駆逐隊を結成するっぽ-い!!」

響「私たちも、おもらし駆逐隊を結成しようか」

暁「だから汗だってばー!」

雷「あ、じゃあ私、写真撮るわ」

電「電もお手伝いするのです!」



天津風「じゃあ皆、それぞれがよく言われてる悪口を言いながら、手を出して」

島風「えー、なにそのイヤな円陣……」

浜風「結成と同時に、自分の欠点と向き合うということですか」

浦風「で、欠点を乗り越えたときに、解散ってことじゃね」

時津風「えぇ~、何で自分で自分の悪口言わなきゃいけないのさー」

雪風「は、恥ずかしいです!」

天津風「いいから言うの! 行くわよ!!」






天津風「自信がない!」

島風「協調性がない……」

時津風「やる気がない」

雪風「本気を出さない!」

浜風「遠慮がない」

浦風「意志がない」






天津風「私たち、ないない駆逐隊――――――」

島風「えいえいおー」

天津風「―――――頑張っていくわよ!」

雪風「おーっ!」

天津風「―――――えい、えいっ」

時津風「ふぁいとーおー!」

天津風「――――――おーっ!!」

浦風「お~」

浜風「…………おー」


天津風「――――――――――って! 皆バラバラすぎぃーーーーーっ!!!」










提督( ふっ……これから面白くなりそうだ…… )




提督「ようこそ、ないない駆逐隊」










(おわり)




ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
いきなり余談ですが、艦これ小説「陽炎、抜錨します!」が大好きです。

陽炎型(と島風)は広く人気もあるし可愛いし強いし文句なしなのですが、
ゲーム内ではあまり育っていませんでした。そんな彼女らを好きになる!という目的のもと、書き始めた次第です。

今回はメインとなる『ないない駆逐隊』の自己紹介となるお話でした。
これを含め全5作くらいになると思います。

⑥提督「朝潮型、解散!」
提督「朝潮型、解散!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447416092/)
⑦提督「朝潮型、結婚!」
提督「朝潮型、結婚!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451124063/)

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