【fate】蒔寺「アタシはお前が嫌いだ」士郎「……そっか」 (11)

茜射す夏の夕暮れ。普段見慣れている筈の教室がいつもとは違うように見える不思議な場所で、
アタシはその男――衛宮士郎にこう宣言した。

――アタシは、お前がキライだ。

そいつはそれを聞いて、あの時とは違う笑い方で小さく笑って

――そっか。

と返した。


――――そもそも、このバカスパナとアタシが何故こんなところでこんな時間に逢っているのか。
その理由は、数日前のあの時まで遡る。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454053010

というワケでこのスレはふとした切欠からバカスパナの毒牙(フラグ)に掛かってしまうマキジ達三人娘の日常っぽいSSになります。
シリアスさんは(多分)息してません。

氷室鐘の独白


――――あれは、雨の降る蒸し暑い昼下がりだったな。

三年に進学して四ヶ月も経ち、学生時代最後の夏休みという奴に突入した私達は、
蒔の字に誘われて『受験勉強の息抜き』にと、新都に集まっていた。
その日は残念ながら、夏には珍しく強い雨が降っていたが、私達にとってはそんなものは然したる問題ではなかった。なにせ相手はあの蒔の字だ。
喩え槍が降ろうと彼女が居れば問題なかろうとまで(私の中で)思われている彼女だ。そんな蒔の字と、常識人である三の字と馬鹿馬鹿しい話に興じていれば、否がおうにも気分は晴れる。
そう……あの瞬間まではそう思っていた。

――――雨の中、私達は新都の交差点で信号が変わるのを待っていた。

口にするのは他愛ない話題。例えばそれは――
「遠坂の奴、最近付き合い悪いよなー」
「遠坂嬢の卒業後の進路は海外の大学への留学だったか。ならば仕方なかろう。海外留学ともなれば準備はしすぎるに越したことは無い。」
「遠坂さんは凄いね……進路といえばそういえばさ、蒔ちゃんは進路希望出した?」
「んー……近場の大学ってのでアタシは考えてるんだけどねー。親父殿からは『家を継ぐにしろ継がないにしろ、大学に行く事は考えておけ~』って言われてるけどさぁ……なーんかピンとこないっていうかさ……」
「珍しいな。蒔の字ならばこの手の問題は即断即決で私と三の字を巻き込む物だと思っていたが……」
「さしものアタシと言えどそんな強引な事は……しないとはいえないが今はやる気はしないぞ!!」
「蒔ちゃん……そこは断言しようよ……」
こんな風な当たり前の学生の悩みでな。当然ながら、この時分には『彼』の名など欠片も出てこなかった。
なにせ、蒔の字はともかく、この時の私は『彼』の下の名も知らなかったからな。

「おっ!!信号変わった!!よーし、次はどこ行く?アーネンエルベ?」

信号が変わって飛び出した蒔の字はこちらを振り向いて問うて来た。それに苦笑を返して答えようとした私と三の字は、そのまま固まってしまった。

この雨で彼女が見えなかったのか、それとも他に車も居なかった為の信号無視かは知らないが、大型トラックが彼女に向かって走りこんで来ていたのに私達二人は気付いたのだ。
「蒔の字!!危ない!!」
……そう、言おうとした。いや、叫べ、動けと私は思っていた。恐らくは三の字もそうだっただろう。
……だが、私の体は死んでしまったかのようにピクリとも動かず、だというのに彼女を見つめたままだった。

彼女もまた飛び出してから速度を落とさないトラックに気付いたのだろう、間近に迫った死の恐怖に顔を歪め、助けを求めたのか此方に顔を向け……そして、その表情は凍りついた。

それが何故なのか、私の頭では理解できなかった。なにせ自分が死にそうだというのに、その死以上に、それが理解できないというような顔を此方に向けたのだ。

「蒔寺!!危ない!!」
近づいてくるトラックの轟音、その暴威に抗うかのように私達の後ろから声と風が吹き抜けて行った……いや、『彼』が走り抜けて行ったのだった。
その足取りには微塵の躊躇いも感じられず、その走りはいままで見たことが無い程に速かった。

その瞬間、運転手がようやく気付いたのだろう。トラックが大きな音を立ててブレーキを踏むけたたましい音が鳴り響き、そして通り過ぎた辺りで止まった。

――――正直に言えば、その瞬間の私は倒れこみそうだった。
親友がトラックに轢かれる……そんな状況に直面した私の頭はパンクしかけで、だからこそその結果に気付いたのは三の字の方が早かったのだった。

「蒔ちゃん!!衛宮くん!!」

私の頭が動き出し、蒔の字の基に走り出したのは彼女がそう叫んで走り出した後だった。
「蒔寺!!大丈夫か!!」
蒔の字は無事だった。差していた傘はトラックに巻き込まれていたが、彼女に怪我は無かった。

「あ……あぁ……」
……だというのに、何故彼女は恐怖の表情を色濃く残したままなのか。当時の私達にはそれが分からなかった。

「ありがとう……衛宮。」
「あぁ……やっぱり氷室だったか。っと、蒔寺、怪我は無いか?」
彼女を助けたのは衛宮だった。作業中だったのだろうか、イヤに似合ったつなぎ姿で、跳びこんだからだろうか、抱え込んだままだった蒔寺に声をかけた。

「……イヤッ!!」
それに対する返事は何故か拒絶の言葉と突き飛ばしだった。
私や三の字も蒔の字との付き合いは長い。だというのに、その感情は初めて見る物だった。

「…………あ、ご、ゴメン衛宮。……衛宮……だよな。
うん……悪い……怪我?怪我……うん、無いよ。うん……」
正気が戻ったのか、雨にずぶ濡れたままの蒔寺は何故か、確かめるように衛宮の名を口にしていた。

――――その場はこれで終わった。警察や病院といった諸機関に連絡をし、蒔寺は診察の結果特に怪我もなくすぐに解放された。衛宮は既に居なかった。なんでも、バイトの予定があったそうだ。

本当の問題が分かったのは、この翌日の補習登校日の事だった。

というワケで第一幕終了。
時期は三年の夏休み、ルートはHAっぽいひむてん時空的な奴です。
……というか三人娘のお互いの呼び方ってコレで合ってたっけ?などと前途多難ですが少しずつ進めていく予定です。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom