【TOZ×DB】アリーシャ「悟空様!」 (149)

・テイルズオブゼスティリア×ドラゴンボールのクロスオーバーssです。

・基本的に悟空に修行してもらったアリーシャ目線でTOZにツッコミを入れていく話。最後まで書き溜め済。
・ストーリーは端折り気味なのでTOZ既プレイor既知推奨。
・恋愛要素はほぼ親子愛・友情愛。
・原作にないアリーシャイベント多数。
・原作後の悟空だけど、超の設定はなし。アニオリはちょっとあります。
・ご都合主義。






深夜 アリーシャ宅
アリーシャ(ん……? 何だ、こんな時間に。外で花火でもやっているかのような眩しさ……)スタスタ

アリーシャ(……! 何……ッ!? 降ってくる!)

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深夜 レディレイク周辺の平野

シュウウウウ……

アリーシャ「これは一体……? まるで星でも落ちたかのような、強い衝撃の後だ……兵に知らせて立ち入りを規制し、直ちに補填するよう申請しなければ……ただでさえ、一ヶ月後には聖剣祭があるというのに」

アリーシャ「……国家間の緊張が高まりつつある今、せめて星が降ってくるような騒動でも起きれば、人々は手を取り合うのだろうか」

アリーシャ(なんて、不謹慎なこと考えちゃいけないか)トコトコ

深夜だったこともあったため、幸いその現象を目撃した者は少なかった。



???(何だか変なトコに来ちまったなー。ま、いいか)

その数週間後。
ハイランド王国の王女アリーシャ・ディフダは、世界中に起こる災厄を鎮める方法を探すために一人森の中を歩いていた。
森の奥に伝承に書かれた村があると噂されていたからだ。

かつて文化の中心として信仰されていた天族という神秘の種族。
そして、天族を率い世界を浄化する救世主、導師。
いずれも伝承のみに残る存在であり、それがただのお伽噺ではないと信じる者は今やわずかな信仰者だけであった。

アリーシャは森の奥にある遺跡で遭難したところを天族と共に育った人間スレイに助けられ、導師伝承を話すことで意気投合し、伝承にまつわる都の聖剣祭を紹介した。


正午。都レディレイク聖堂内。
スレイ「アリーシャ!」

アリーシャ(スレイ! 来てくれたんだ)

アリーシャ「紹介しよう。スレイ、こちらはマルトラン卿。今回の政権祭の実行委員長を務めてくださっている方で、そして私の槍術の師匠でもあるんだ」
スレイ「よろしく! スレイで……ってあれ? どうかしたんですか?」

マルトランは人だかりに一瞥すると、すぐにスレイへと向き直った。

マルトラン「いや……少し気になる男がいたものでな。まあここには兵が多い、そう気にせず参加してくれ、スレイ殿」
マルトラン(あの青い布の服を来た男……ただならぬ気配を感じるが、一体……?)

二人を人気のないところへ呼び出し、アリーシャを狙う怪しい一団がいることを彼女に伝えるスレイ。
アリーシャ「確かに、私のことを快く思わない者たちは多い。伝えてくれてありがとう、スレイ」
その頃表側には、珍しい服装の男が一人群衆の奥を覗き込んでいた。


???(おでれえたな~。ありゃ悟飯から聞いた剣の話とそっくりだ。オラのパワーで抜けるか試してみてえぞ!)

そして、聖剣祭最後の行事が始まろうとしたその時、突如として暴動が巻き起こった。

アリーシャ「何事か! スレイ、危険だ!」
ライラ「いけません! 敵意に身を任せては! 憑魔が……生まれてしまう!」

異常気象や疫病、不作、そしてローランス帝国との政情不安が市民の心に穢れを生み、穢れが生み出した憑魔の炎は聖堂内を混乱に陥れたのだ。

スレイ「ライラ……オレの夢は、伝説の時代みたいに、人と天族が幸せに暮らす方法を見つけること。
憑魔を浄化することで、人と天族を救えるなら、オレは導師の宿命も受け入れる!」

???(やべえ! 炎の広がりがはええぞ!)

湖の乙女こと、天族のライラと会話が可能なスレイは聖堂内の剣を抜き、ライラの浄化の力を操ることで鎮火を目論んだ。
例えそれが重い導師の宿命を背負うことになろうとも、スレイは覚悟を決めた。
そしてそれはアリーシャにとっても、スレイが本当に天族と会話できる人間であると信じるきっかけとなった。

???(瞬間移動で……ダメだ、炎が近すぎる。しょうがねえ! 壁ごと炎を吹っ飛ばしちめえ!)ザッ

ライラ「私はずっと待っていました……穢れを生まない純粋で清らかな心を持ち、私の声が届く者が現れるのを」

ミクリオ「しまった、消化が間に合わな――!」

アリーシャ「なッ……! 炎が私を囲んでッ……そんな……!」

スレイ「オレは『導師』になる!」剣ヌキー

???「かぁー……めぇー……」

マルトラン「そこの男! 早く避難しろ、聞こえないのか!」

???「はぁー……めぇー……!」ゴゴゴゴゴゴ……


 ピカッ

???「波ぁーーーーーーーーーーーッ!!!!」

アリーシャ「…………」ポカーン

スレイ・ライラ・ミクリオ「…………」ポカーン

マルトラン「な……まさか、そんな……」ポカーン

ズッ
???「おっ?」
ドドドドドドドドォン……
???「……ちょっとオラ、やりすぎちまったみてえだ! 悪ぃ悪ィ!」

炎が光線の衝撃波で一掃され、謎の男はあっけらかんと笑っていた。 
台座部分が粉々に吹き飛び、外からの風が直接吹き入るようになった聖堂のド真ん中で。

???「オッス! 無事でよかったなぁー、おめえ。ところでオラ腹減っちまった。なんかうまいモン食える所ってねえか?」

アリーシャ「あ……」ガタガタブルブル

アリーシャ「あ、なたは、一体……!?」

悟空「ん? オラ悟空、孫悟空だ! よろしくな!」

これが孫悟空と、アリーシャの最初の出会いだった。

聖剣祭があった日の夜。アリーシャ宅。

悟空「いやー食った食った! おかわり!」

アリーシャ「もうありませんっ! 一体どれだけ食べたと思って……!」ハッ

アリーシャ「あ、いえ、失礼しました! 悟空様。申し訳ありませんが、もう材料がここには……」

悟空「おめえ何でそんなペコペコしてんだ? オラ、カネ持ってねえぞ」

アリーシャ「それは、その。先程も申しましたように、私は悟空様のことを『天族』の方であると思っているのですが、悟空様は天族という言葉に聞き覚えはないのですね?」

悟空「おう! オラそんな食いモン見たことねえぞ!」

アリーシャ「食物ではなく、概念の話なのです。しかし、天族とは通例人間の目には感知できない存在であると書物で読みました」

アリーシャ「ですがそれでも、貴方のような凄まじい力の持ち主は人間という器の話では考えられない……悟空様、貴方は一体どこからいらっしゃったのですか?」

悟空「オラ、すっげえ遠いところから来たからな~。道覚えてねえや。ずっと旅してんだ、そこで強え奴と戦ったり、修行したりしてる」

アリーシャ「……ご家族は、おられるのですか?」

悟空「チチって嫁と、息子が二人、あと孫もいっぞ! 他にも悟飯の嫁のビーデルや、後は……」

アリーシャ「えッ……! し、失礼、もう少しお若い方かと思っておりました。年と外見が合わないということは、やはり悟空様は天族なのでは……?」

悟空「オラ何回かあの世で修行してたからなあ。何歳だったか、数えるのも忘れちまったや」ウーン

アリーシャ「あの世、ですか?」
アリーシャ(やはりどことなく、普通の人間とは物事の考え方や、文化が違う気がする)

悟空「ここに来た時もオラ、真夜中に腹減って地面に落っこちちまったんだ! アリーシャ、おめえのおかげでやーっと腹いっぱい食えたぞ!」

アリーシャ(まさか、一か月前のあの地面の衝撃跡って……いや絶対、この方なんだろうな)
アリーシャ「よく分かりませんが、ともかく貴方がこの大陸よりもずっと遠いところからいらっしゃったということだけは、分かりました」

アリーシャ「きっと私達とは違う文化なのでしょう。ですから貴方のような方のことを、ここでは『天族』と呼ぶのです」

悟空「で、そのテンゾクって、強えのか?」

アリーシャ「強い、というより伝説のような存在です。
いわゆる神に近いモノで……人並み外れた力を持つ、と言い伝えられています。私も、信仰していながらスレイが来るまで身近にいるとは知りませんでした」

アリーシャ「なぜなら、天族は導師やその従士となった人間にしか見えないはずなのですが……悟空様は特別なのか、私にも見て触れることができます」

悟空「オラ人間だけど、そのテンゾクって奴とは戦ってみてえ。よしアリーシャ、案内してくれ!」ガタッ

アリーシャ「はあ、悟空様がお望みでしたら、明日にでもスレイに会いに行きましょう。今日はひとまず、騒動の後ですから」

悟空「挨拶するだけなら、今日できっだろ。アリーシャ、おめえも行くか?」腕ガシッ

アリーシャ「え? 悟空様、額に指を当てて何を……」

悟空「待ってろ……あれ? っかしいな~、あのスレイって奴の気は普通だけど、テンゾクの気はすげえ変だ」

悟空「まるで気、そのものしかねえみてえだ。ま、いっか! それっ瞬間移動!」フッ

アリーシャ「きゃっ! ……あ、あれ? ここは宿屋……」

そこには、導師として天族ライラを体の中に入れる輿入れという儀式の反動で高熱にうなされているスレイがいた。
側にはライラと、スレイの幼馴染の天族ミクリオもいたのだが、アリーシャには見ることも感じることもできない。

ミクリオ「アリーシャ!? それに昼間の男……!」
ライラ「やはり私達と同類、という気配はしません。おそらくこの方は、かめにんやノルミン天族のような少々特別な存在なのでは」

悟空(やっぱりテンゾクって奴は、気しかねえだけで姿も声も分からねえみてえだ。人造人間の逆みてえなモンか)
悟空(すげえ力を持ってるみてえだし、オラワクワクすっぞ!)ワクワク

ライラ(この方……すごい力を感じますわ……)


その後、ライラの懸念が影響したのか、しばらくの間スレイはアリーシャを訪ねなかった。

次にスレイ一行が二人と再会したのは、器探しにガラハド遺跡へ行く前日。

午前。レディレイク聖堂内。
スレイ「アリーシャ、マントを送ってくれてありがとう。オレはこれから世界を浄化する旅に出るんだ。
まずは、このレディレイクの加護を復活させるための器を探そうと思う」

導師の目的は、穢れの源泉であり世界に災厄をもたらす存在である災禍の顕主を浄化の力で鎮めること。
しかしスレイはまずこの世界の現状を知る必要があるので、最初の目的はレディレイクの地の主になってくれる天族と、その天族の器を探す必要があるという。
その二条件が揃うことで、レディレイクは穢れから守られるからだ。

悟空「そもそも、穢れって何だ? ひょーまってのもよく分かんねえ」

導師の力として、スレイは目を閉じ息を止めることでなんとか普通の人間相手にも天族の声を伝えることが出来るようになっていた。

ライラ「穢れとは、誰もが持つ負の感情のことですわ。
憑魔は、穢れが積み重なったことにより変化した人間や動物で、災禍の顕主が原因で今は憑魔が生まれやすい時代なのです。
ですから、霊応力の低い今の時代の人間には、ただ人間や動物が急に暴れだしたようにしか見えませんわ」

スレイ(息止め中)

悟空「でもオラ、ひょーまもおめえも、気で分かっぞ」

ライラ「それが私にも不思議なのです。人にしては霊応力が高すぎますわ。もしかすると悟空さんは、私とは少し生き方の違う天族なのかもしれませんわ」
ライラ(スレイさんの頼みで二人に会いに来ましたけど、悟空さんは導師の成長の妨げになってしまいそうで、心配ですわ。
このまま別のところへ行ってくださればいいのですけど)ハァ

スレイ「……ぷはぁ! こんなんじゃもたないよ、ミクリオが陪神になったらもっと簡単になるんだろうけど」

アリーシャ「ミ、ミクリオ様はいらっしゃらないのか?」キョロキョロ

スレイ「ちょっとね。先に聖水取りにガラハド遺跡に行ってくるよ」

アリーシャ「待ってくれスレイ! 一緒に行ってもいいか?」手ニギリ

ライラ「確かにアリーシャさんが、導師の力を分け与えられる従士契約をすれば、スレイさんの領域内で憑魔と戦うことができますわ。
アリーシャさんは、普通と比べ少し霊応力も高いようですし」チラッ

ライラ「ですが、導師の運命と共に歩むということになりますわ。もちろん、命の危険も」

アリーシャ(穢れの無い故郷を取り戻せるなら……!)

悟空「オラもひょーまと戦いてえぞ! オラは今までも何度もギリギリの戦いをしてきた、でぇじょうぶだ!」

ライラ「えっ」ドキッ

スレイ「それがアリーシャの夢なんだな。でも悟空さんって、陪神になれるのかな?」

ライラ「……悟空さんとは陪神契約もできないようですし、従士としてのほうが適切かと」

スレイ「分かったよアリーシャ、悟空さ……ううん、悟空。一緒に穢れのない世界を取り戻そう!」ニコッ

ライラ「……では、私の詠唱の後にお二人に真名を付けてください。契約のきっかけのようなものですわ」

スレイ「ようし! 『マオクス=アメッカ』、『ウミュウ=ハイロゥ』!」パァァッ

導師と従士契約をすることで、二人は天族を見ることも、触れることも可能となった。

アリーシャ「! 見える……ライラ様のお姿が見える! ……スレイはずっとこうして、天族と触れ合ってきたのだな」

アリーシャ「それに引き換え、我々は身近に天族の方々がいても、どうすることもできなかった」

ライラ「それは違いますわ。天族は人々の万物への感謝に、恩恵で応えます。
けして天族を蔑ろにしないでください。その心が穢れを生み、災厄の原因となりますわ」

悟空「つまりテンゾクってのは、母ちゃんみてえなモンか! チチにも日頃感謝しねえと、飯作ってくれなくなるからな!」

ライラ(アリーシャさんの霊応力でスレイさんに影響が出ないかも気になりますけど、悟空さんをどう扱うかも、悩みますわ……)

悟空「でもオラ、何か気分が悪くなってきたぞ。この黒いホコリみたいなヤツが、オラの体を重くしてるみてえだ」

ライラ「えっ?」

悟空の体は、この世界の穢れというものに慣れておらず、加えて悟空には超能力の類が効くことから、穢れは確実に悟空の体を疲れやすくしていた。
特に従士となることで、穢れが目に見え、精神衛生上もよくない状態だ。
だが、悟空はまだ自分が他人と比べ汚れに影響されやすいということに気が付いていなかった。

アリーシャ「なるほど、これが穢れ……あ、師匠!」

マルトラン「行くのか、アリーシャ。そして導師達」

アリーシャ「はい。マルトラン師匠。悟空様も、行くあてがないようですので私と共にいていただきます」

マルトラン「そうか。これからもアリーシャの力になってやってくれ。友人としてで構わないから」

しかし悟空の力量自体は弱体化しているわけではない上、気を察知することで憑魔の位置が分かるため、スレイの旅路は随分と楽であった。

午後。ガラハド遺跡。
スレイは天族と一体化する神衣によって、多くの憑魔を殲滅していた。
アリーシャ「何て強い敵なんだ……! 私も、神衣が使えたら……ッ!」クッ

ミクリオ「ツインブロウ!」ビシュッ

スレイ「アンド契約! アンド神衣!」ドーン

浄化の力を持つ持たないでスレイとモメていたミクリオも合流し、スレイはさらに新たな力を手に入れた。
ライラ(この調子でスレイさんが成長していけば、今度こそ……)

悟空「おほー! すげえなあアイツ、それじゃオラも」

悟空「フンッ!」金髪ビュオオオオオ

アリーシャ「!?」

スレミク「!!?」

ライラ「そ、そんな……悟空さんが力を解放しただけで、敵が吹き飛びましたわ!」ガーン

ライラ(サイヤ……人。いけません、いけませんわスレイさん)

アリーシャ(悟空様は、どんな敵に対しても臆することなく戦う……私も大臣が邪魔をするからといって、諦めてはいけないな)

悟空「…………」ジッ

ミクリオ「な、なんだ悟空。僕の顔に何か付いているのか」

悟空「ミクリオ、おめえちょっと手出してみろ」

ミクリオ「いてて! 急に手首を曲げるな!」

悟空「悪ィ悪ィ、ちょっと確かめたかったんだ」

悟空「どひゃ~、オラ疲れたぞ。しょうがねえ、瞬間移動して帰るか!」

ミクリオを仲間に、器となる水を汲みレディレイクへと帰る一向。
しかしそれぞれの胸の内の懸念が、徐々に膨らみつつあった。
ライラ「…………」イライラ

穢れによる体力制限があるとは言え、悟空の波ァーッ! だけで大体何とかなる憑魔たち。
それでは導師の成長の妨げになるため、ライラは悟空を危険視していた。

アリーシャ「ところでスレイ、私の真名はどういう意味があるんだ?」

スレイ「アリーシャのは、『笑顔のアリーシャ』。悟空のは、『大人の悟空』って意味だよ」

悟空「スレイ、おめえオラと背変わんねえのに細っせえなあ。オラと一緒に修行すっか?」

ライラ「…………」イライラ

悟空(もうちっと強いと思ったんだがな……)

後日。橋の近く。
スレイ一行は今度は地の主となってくれる天族を探すため、物々しい雰囲気の川の近くへと足を運んでいた。

スレイ「ここの辺りに地の主がいるはずなんだけど……わっ! 敵がいっぱいいる!」

悟空「波ァーッ! でえじょうぶか、アリーシャ!」

アリーシャ「大丈夫です。……悟空様のお蔭で、安心して探索できる。仲間がいる旅とは、やはりいいものだ」

ライラ「……そうですわね」

アリーシャ「もちろん、私達も腕を訛らせるわけにはいきませんけどね」クスッ

ミクリオ「……! なんだアレは! 皆! すごい憑魔が出てきたぞ!」水ビシャー

ウーノ憑魔「オオオオーーーーーーーン!!!!」ドドォン

天族は穢れに侵され憑魔化するとドラゴンとなる。地の主候補の天族ウーノはドラゴンに近い憑魔へと変化し、橋を落とすなどの悪行を働いていた。

悟空「波ッ……って、あり?」ポスッ

ライラ「……? どうされましたか? 悟空さん」

悟空「っかしいな……オラ、急に力が抜けてきたぞ」

スレイ「何だって!? そんな……よし、悟空は下がってて!」カムイー

アリーシャ「こういう時こそ、私達がやらなければ!」槍グサー

ライラ(これは……! なるほど、チャンスですわ)

浄化され、天族の姿へと戻ったウーノは地の主になって欲しいというスレイの頼みを快諾した。
だがこのことがきっかけで、後に導師と、導師に関わる者の宿命を思い知らされることになるとは、まだライラ以外気が付いていなかったのである。

ライラは一人、必死になってスレイを立派な導師にしようとしていた。
スレイに「自分の目で世界を見て判断して欲しい」とは言ったものの、先代導師のようになってはいけないという強い思いから、ついスレイの行動を制限していたのだ。

加えて、ライラは浄化の力を得るための制約により、先代導師に関する話を他言できないので、第三者に意見を聞くことさえもできないでいた。
それが、成長を妨げる悟空を遠ざけたいという考えにつながる。

悟空「オラ、変な物でも食っちまったかな」

ライラ「いいえ違いますわ。それは強すぎる穢れの影響と思われます」スッ

アリーシャ「ライラ様……」

ライラ「どうやら悟空さんは、私達よりもずっと、穢れに影響されやすい方のようですわ」

ライラ「穢れの濃い場所では一気に体力が減り、先ほどのようなことになるはずです」

悟空「そっか……修行で何とかなるかもしんねえな」

ライラ「無理ですわ。悟空さまの体質は、簡単に変わるものでは……あっ」

スレイ「? どうしたの、ライラ」

ライラ「い、いえ……」

ライラ(大変なことに気がついてしまいましたわ。悟空さんは強すぎる霊応力を持ちながら、穢れに影響されやすい体質)

ライラ(いつか必ずスレイさんに大きな反動が来てしまいますわ……ということは、今無理に遠ざけずともよいのでは)

悟空「ま、いいか。オラの体力がなくなる前に戦えば何とかなっぞ!」

ライラ(……悟空さんは、こんなことを言われても挫けない心を持っているのですわね。やはり、気が引けてきましたわ)フゥ

午後、レディレイク聖堂内。

そうしてレディレイクに天族の加護が戻り、穢れの量は驚く程少なくなった。
これで天族を信仰する人も増えるだろう、とアリーシャが安心している一方でスレイは大臣からの使いであるやけにたれ目の男に夕飯招待券を貰い、王宮へと向かうことになった。

悟空「おろっ? もう行くのか?」

ミクリオ「ん? まだ何か、やり残したことがあったか?」

悟空「だってよ、まだあのウーノって奴、人間に謝ってねえぞ」

ライラ「……え」ドキリ

悟空の言葉に、その場にいた全ての人間が目を丸くした。

司祭さん「ごごご悟空さん、な、何てことを言うのですか!?」

悟空「オラ何か、変なこと言ったか?」キョトン

アリーシャ「ご、悟空様……それは、どういう」

悟空「あいつのせいで橋が落ちて、大変だったんだろ? 悪いことしたら謝るのに、人間も天族も男も女もねえ」
悟空「あ、そっか。テンゾクって人間には見えねえんだっけか。オラ忘れてたや」ハハハ

スレイ「…………」ポカーン

悟空の言葉は、それぞれの心に波紋を生んだ。
スレイ(何だろう、この違和感。確かに悟空の言っていることは半分くらい正しいはずなのに)

ミクリオ(天族が人間に謝るだって? 人間だって天族に謝ったことなんか一度も無いくせに)

アリーシャ(そうか。悟空様はこのグリンウッドで天族がどのような存在なのか、まだ上手く理解されていないのですね)ハラハラ

ライラ(……スレイさん……スレイさんは今の言葉を聞いて、何を感じましたか?)

結局一行は、そのまま王宮へと向かうことになった。
スレイを呼んだバルトロ大臣はアリーシャとは違い、王族でない自分が政治のトップで有り続けるためには開戦しても構わない、といった思想の持ち主であった。
ただでさえローランス帝国との衝突が始まろうとしている今、アリーシャは何としてでも戦争を止めたいと思っている。

夕方、王宮前。
アリーシャは兵士達に拒まれ、王宮に入ることができないでいた。
アリーシャ「これは何のマネだ! 何故私が、王宮に入れん!」

兵士「バルトロ様の命は、導師スレイをお通しせよとのことでしたから」

兵士「もちろん、悟空様もここでお待ちを」

アリーシャ「な、何だと……あまり、生まれの有利さをひけらかすことは言いたくないけど……不敬罪であるぞ! 退け、私に大臣と話をさせてくれ!」

だが、現政権は実質官僚の物で王族や貴族が飾り物になりつつある今、大臣派の兵士に囲まれてしまっては反論のしようもなく、これ以上暴れても損しかない状況であった。

アリーシャ「くっ……悟空様、行きましょう」

悟空「なんだ、オラは夕飯食べれねえのか」ショボン

兵士「客室にてお食事を用意しております。その後、アリーシャ様には別令が下されます」

アリーシャ「マーリンドの件か。……悟空様は泊まる場所も、所持金も無い。私と行動を共にしてもよいだろうか」

兵士「傭兵という扱いになりますが、許可されるとのことです」

バルトロの命令で、明日アリーシャは疫病の街マーリンドへ働きに行かなければならなかった。
スレイ達が別の場所へ向かうなら、ここでお別れということになる。
傭兵扱いということは、悟空には黙っておくことにした。

別室にて、悟空はアリーシャとご飯を食べることになった。
末席とは言え王女がこんな調子で、どれだけ自分の夢を追えるだろうかと、アリーシャは暗い気持ちになっていた。
だが、目の前には悟空がいる。アリーシャにとって悟空は天族であり、二人目の「身近な頼れる大人」でもあり、憧れの存在となりつつあったのだ。

アリーシャ(……なんて、他人に頼るばかりではいけない。私は、私のできる限りを尽くさないと)

アリーシャ(それにしても、まさか悟空様があんな事を言うだなんて。そうか、悟空様は子どもも、孫もおられる。
だから悪いことをしたら謝る、ということは子ども達の見本として、率先して行っていたんだろうな)

悟空「いやー! 空気はうめえし飯もうめえ! こんなに気持ちがいいのは久しぶりだ!」モグモグ

悟空「おめえもこんなレディレイクが見たかったんだろ? よかったなアリーシャ」パクパク

アリーシャ「え、ええ。悟空様も体調が戻られたようで、なにより」

アリーシャ「……あの、悟空様。差し出がましいことを言うようですが」

悟空「ん? 何だ?」ムシャムシャ

アリーシャ「ここの地方では、天族とはそれすなわち神であり、宗教、いえ文化に深く根付く信仰の対象だったのです」

アリーシャ「……なのに、私はあの聖堂での悟空様の言葉を、心の底で正しいと感じてしまった」

アリーシャ「悟空様のような方は、初めてです。ですが。今の時代でも天族を盲信する人間はわずかながらいます。あまり危険なことはおっしゃらぬように……その……」

悟空「そうか。オラ、テンゾクってのは人間と何にも変わんねえと思うけどよ」ゴクゴク

アリーシャ(人間と、同じ? だけど、天族は敬う存在……いや、敬われる存在……?)

信仰者が減りつつある今でも、悟空のような考えを持つ者がいなかったのは、天族は敬われる存在、というのが当たり前であったからだ。
例え天族がただ特別な力を持っているだけで、生き方は人間と変わらないとしても。
加えて、天族自身が天族をそういう存在であると自負しているからとは、アリーシャの口からは言えなかった。

悟空「おめえがそう言うんなら、そうすっぞ。それにしても空も綺麗になったなー、今ならオラ舞空術も使えそうだ!」ヒョイー

アリーシャ「ご、悟空様!? 悟空様は空も飛べたのですか!?」ガタッ

アリーシャ「すごい……悟空様は、まるで……」

アリーシャ「背中の羽を失くした、天使のようだ……私も、悟空様のように強くなりたい」

悟空「おう。おめえも修行すっとこれくらいはできるようになるぞ」ムシャムシャモグモグ

アリーシャ「修行、ですか。も、もし修行したいと言えば、悟空様は私に修行を付けてくださいますか。スレイ達が別の所へ行ったとしても、私と一緒に」ドキドキ

悟空「おお、いいぞ」

即答してくれたことに、アリーシャは心から安堵していた。
力を付けることはもちろんのこと、悟空の気ままな性格ではいつか急にいなくなってしまうのではないかと思っていたのだ。

アリーシャ「ありがとうございます、悟空様! さっそくマルトラン師匠にも話をしないと……きっと師匠も、色々な流派を学ぶことは大切だと、おっしゃってくれます!」ニコッ

悟空「……ん? 今スレイの気が大きくなったぞ。それに小さな気がいっぱい集まってきている」ハッ

アリーシャ「なっ……王宮内に兵士を配置するとは! 行きましょう、悟空様!」ダッ

スレイのいる部屋に駆けつけると、そこは大臣派の兵士でいっぱいになっていた。
大臣は導師を戦争に勧誘しようとして失敗し、武力で交渉を終わらせようとしているのだった。

悟空「波ァーッ!」ズドォン

アリーシャ(流石悟空様。人間相手では、敵う者などいない)

アリーシャ(悟空様は大ぐらいで、戦闘好きで、家族のことなど放って旅に出るような困った方だ)

アリーシャ(……だけど、こんな朗らかな方に会ったのは、久しぶりだ)

アリーシャ(私にはマルトラン師匠がいる。しかし悟空様に師事することによって、もっと強くなって、憑魔も簡単に倒せるようになって)

アリーシャ(……スレイ達とずっと、旅を続けられたら……よかったのに)

ガシャーン

バルトロたち「ヒイッ! 暗殺ギルド!?」

スレイ達の前に突如現れた暗殺ギルド風の骨は、さらなる混乱をこの場にもたらした。

風の骨「この男は私達を利用して、姫殿下を暗殺しようとした」

アリーシャ「何だって! それは本当か、大臣!」

風の骨の一人が、バルトロに武器を向ける。スレイがアリーシャに伝えた怪しい一団とは、バルトロがアリーシャへ向けて放った暗殺ギルドのことだった。

アリーシャ「待て、止めてくれ! ……バルトロ殿は、今のハイランドに必要な人物なのだ」クッ

例え暗殺されそうになったとしても、国を背負うアリーシャにはそう言うしかなかった。

風の骨「……我らは矜持に反する殺しはしない。脱出する、お前たちもついて来い」スッ

ミクリオ「悟空、瞬間移動は……!」

悟空「駄目だ、使えねえ。このバルトロとか色々おっさんたちの穢れで、気が上手く探れねえ」

兵士「ここは通さん!」

スレイ「どうしよう、オレの力じゃ殺しちゃう! かといって悟空は穢れのせいで体力が減っていくし……!」

風の骨「こっちだ!」

暗殺ギルドの案内により水道遺跡を抜け、スレイ達は何とか王宮を脱出した。
急速に濃い穢れに蝕まれても、綺麗なところに戻れば悟空はすぐ回復するようだ。

アリーシャ(……穢れに影響されやすい悟空様を連れて歩くのは、危険かな)

アリーシャ(だけど悟空様の力は通常のモンスターには十分過ぎるほど有効だ。それでも……)

アリーシャ(……これでは、私のわがままになってしまう! いくら悟空様が了承してくれたからといって、悟空様がいなくても戦えるほど強くならないと)



ミクリオ「アリーシャ? 大丈夫か?」

アリーシャ「ハッ……失礼しました。少し、考え事をしていて」

アリーシャ「今の私達は大臣に狙われています。ですが悟空様とスレイを休ませましょう。
宿屋の営業を無視してまで私を狙うとなると、面倒が起りますから、まず無いと思われます」

宿屋にたどり着くと、アリーシャはまた暗い顔になった。
アリーシャは明日から、疫病の街マーリンドへ行けと命令されているからだ。その時、スレイ達と一緒に行けるかどうか、分からなかった。

ライラ「また起こっちゃいましたね、一騒動」

ミクリオ「ま、だけど最終的には穢れが払えた」

アリーシャ「でもよかった。これで、ここでの思い残しはなくなった」

ミクリオ「そんな、まるで最後みたいな言い方じゃないか」

アリーシャは、内心を悟られないよう硬い表情を見せた。

アリーシャ「わ、私はマーリンドへ行きます。悟空様さえよければ、彼も一緒に」

ライラ「えっ」

悟空「おお、オラも頼まれたからアリーシャと一緒に行くぞ」

ライラにも予想外のことだったので、素直に目を見開いていた。
アリーシャは国民のために行かなければならないこと、できれば悟空には修行を付けてもらいたいので、一緒にいてほしいことを説明した。
では、あれほど憑魔と戦いたいと言っていた悟空が何故、アリーシャと共に行くと決めたのか。そのことがライラの心の引っ掛かりとなっていた。

ミクリオ「……って、疫病の街だろ!? あんな奴らに従うのか?」ガタッ

アリーシャ「私はできることをしたいんだ。ハイランドの民のために。穢れではなく病なら、私だけでも何とかしてみせる」

スレイ「それじゃ、オレも行くよ」

アリーシャ「スレイ、それは本当か!?」パァッ

スレイ「病のある所に、穢れはあるよ。一緒に何とかしよう」

アリーシャ「スレイ……ありがとう」

ライラ(……スレイさん……)

ライラ(お二人といることで、スレイさんの夢は良い方向へ変わるかもしれませんわね)

ライラ「さあ、橋を見に行きましょう。一緒の方が解決も早いですわ」

そうしてスレイ一行は、再び橋の跡地へと向かうことになった。
その間アリーシャは悟空に気の使い方を教えてもらいつつ、悟空の修行に付いていけるよう基礎体力も順調に増やしていった。
もちろん、レディレイク周辺程度の憑魔は悟空の敵ではなかった。

スレイ「前から聞こうと思ってたんだけど、悟空の服って変わってるよね?」

悟空「そうか? うーん、いつの服だったかオラ覚えてねえぞ。多分ずっと前の戦いで破けた後ピッコロに頼んで直してもらったやつだ」

悟空「気になるなら、着てみっか?」ヌギヌギ

スレイ「えっいいの? やった! 着る着る!」ヌギヌギ

ライラ「スレイさん、悟空さん、お食事の支度が――」スッ

ライラ「あっ……お、おお、お取込み中のようですね……」ポッ

スレイ「ラ、ライラッ! 誤解だよそれは!」

午前。川の前。
ライラの話によると、川の濁流を何とかするためにスレイ達は地の天族を迎えることとなった。
アリーシャは人々と話をつけるために、スレイ達としばし別行動をとることに決めた。

悟空「えっ? オラも山に行っちゃいけねえのか?」

ライラ「あの山から強い穢れの気配がしますわ。悟空さんはここに残って、アリーシャさんを守ってあげてください」

ライラ(そろそろ、反動のことも気になり始めましたわ)ハァ

アリーシャが人々と橋の修理について話をしている最中、悟空は修行と題して周囲の岩を破壊していた。
そのおかげで橋の材料はすぐに蓄えられ、あとはスレイ達を待つだけとなった。

アリーシャ「悟空様、もしよろしければスレイ達が戻ってくるまでの間……舞空術を、ご教授願えないでしょうか」ワクワク

悟空「おう! いいぞ。オラ人に物教えるのには自信があるしよ。いつかフュージョンって技も教えてやっぞ!」

悟空の言葉を信じ、気を集中させる修業を始めるアリーシャ。そんな二人の背後に、ある人物が近づいていた。

???「よう、お姫様」ザッ

アリーシャ「あなたは……? あれ、おかしいな、透けて見える……?」
アリーシャ(まるで光のようにぼんやりとしている。裸の人が)

???「聞いた通り、従士契約してるんだな。だけど導師が離れてるから力が弱まってるらしい」

???「俺は通りすがりの天族だ。お姫様と、その近くにいる悟空って男を見ておきたかったのさ」

悟空「何もんだ、おめえ」

ザビーダ「俺の名はザビーダ。悟空ってのはあんたか。これに見覚えはあるか」スッ

悟空「でっけえ拳銃だな。ケツにねじ込んでたのかそれ。オラ何回か撃たれたことあっけど、痛えんだよな」

ザビーダ「この銃弾か、それに近しい物を所持していたりしないか?」

悟空「いや。オラは如意棒以外の武器はそんなに使わねえ」」

ザビ―ダ「そうか。それだけ聞ければいいさ、じゃあな、姫様もお元気で」

アリーシャ「は、はあ……悟空様、あの武器をご存じで?」

悟空「並の人間なら、拳の何倍も強え力を扱えるモンだ。ま、オラには効かねえ」

この時はまだ、アリーシャはザビーダの気を捉えることができていたということに気がついていなかった。

アリーシャ(ザビーダ様……なんて堅苦しくない方なんだ。
確かに言われてみれば、天族の方も人間とそう変わらない。ただ、加護という力を持っているだけ。
つまり、人間も天族にできないことが可能なら、どちらが上ということは……)ハッ

アリーシャ(わ、私は何てことを考えているんだ!)アセアセ

悟空「……! 山からすげえ気を感じっぞ!」

アリーシャ「ええ、それに凄まじい穢れも……! スレイ、一体何と戦っているんだ」

悟空「オラも穢れさえなかったら戦えたのによぉ」

悟空「ヘルダルフって奴のせいで穢れがいっぱい増えてんだろ? あっ、ヘルダルフがいねえと憑魔もいなくなんのか?」

アリーシャ「おそらく、今が憑魔の原因となる穢れが非常に多いというだけで、
災禍の顕主がいなくなったとしても人間が本来持つ穢れは残ります」

アリーシャ「今は空気中にも穢れが蔓延していることで動物達も憑魔になっていますが、それはいつかいなくなるでしょう。
強い憎しみを抱くのは、人間の特徴ですから」

悟空「ひゃ~、すっげえあやふやじゃねえか。人間が誰でも持ってるなら、全員憑魔じゃねえとおかしいぞ」

アリーシャ「そのあやふやなもので、実際この世界は脅威にさらされているんです。
あやふやだからこそ生まれる不安を、力ある者が解決していかなければ。……あ! スレイ達が帰ってきたようです!」

地の力を持つ天族エドナを仲間に入れ、橋の基礎を作るスレイ。
あまりの力に人々から畏怖の目で見られつつもマーリンドへと向かう一向。

ライラ(相変わらず、道中の敵は悟空さん一人で掃討できる状態ですわ)

ライラ(悟空さん、話し相手としてはよい方なのですけど)

エドナ「ライラ、もしかして悟空が導師の成長の邪魔に思っているの?」

エドナ「考えすぎじゃない? 悟空って穢れに弱いんでしょ。なのに憑魔の中に突っ込むなんて、ただの馬鹿よ」

エドナ「ま、ああいう大人が近くにいることで、スレイものびのびできるみたいだけど」

ライラ「エドナさん……」

ライラ(確かに、予想に反してスレイさんは導師としても順調に成長していますわ。変わるべきは、私の方だったのかもしれませんわね)

ライラ(導師としての成長と、スレイさん自身の成長両方を望めるのなら、あるいは)

ライラ(……だけど、マーリンドの穢れは恐ろしいものですわ。きっと汚れを受けた悟空さんやアリーシャさんの影響が、スレイさんにも伝わります。その時は……)

夕方。マーリンド。

悟空「!? うぎぎ、何だこれは……! まるでやべえ重力装置みてえだ……」ズズズ

アリーシャ「悟空様! しっかりしてください!」

そこは穢れによって生まれた強力な憑魔が疫病を生み、さらに疫病に侵された人々が穢れを生んでいるという最悪の状況にあった。
強い穢れを受けた悟空を見て、目を擦るスレイ。

ライラ(……悟空さん)

ライラ(すみません悟空さん。私は、導師のことばかり考えていましたわ。だけど)

ライラ「一時的に悟空様との契約を解除しますわ。それが(導師にとっても)得策かと」

足元のふらつく悟空を、肩で支えるアリーシャ。
アリーシャ「悟空様は一旦私と宿屋へ! スレイ達はこの薬を聖堂へ届けてくれ!」

自分より導師が届けたほうが、住民も喜ぶだろう、という考えもあった。

アリーシャ「うっ……なんて重い体なんだ。悟空様、今宿屋へ連れて行きますからね」

悟空「アリーシャ……オラは力が出ねえだけだから、放って置いてもでえじょうぶだ。おめえも早く向こうに行け」

アリーシャ「嫌です! 私だって、それほど弱い人間ではありません!」

アリーシャ「悟空様のおかげで、自分よりはるかに強い相手がいるからといって、自分も負けてられない、立ち向かおうという勇気が出てきたんだ!」

アリーシャ「その悟空様を放って置くことなんて、できません!」

ライラ(…………)

ライラは、今この時だけはアリーシャと悟空に優しくしようと思った。
こんなに一生懸命になってるアリーシャと、いつか導師のことを優先してお別れしないといけないだなんて。

アリーシャ「だから……って、あれ? ライラ様、どうしてここに……」

ライラ「薬を届けるだけならスレイさん一人でもできますわ。それに」スッ

ライラ「う、うう……重いですわ……だ、だけど、誰かを助けるのに人間も天族も関係ありませんわ……」ニコッ

アリーシャ「ライラ様……!」

宿屋の中は外と比べまだ穢れが薄く、三人は一息ついてその場に座り込んだ。

悟空「悪ィな、アリーシャ、ライラ」

ライラ「いえ。それに私も、一度悟空さんと向き合って話をしていと思っていましたから」

ライラ「悟空さんは以前、ウーノさんに対して謝ったほうがいいと言いましたよね?」

悟空「おお」

ライラ「……本当は、誰よりも長く生き、多くの物事に触れた分、分かっていました。悟空さんのような外の方が、天族に対しどう思っているのかも」

ライラ「確かに人間と天族が共存できない理由には、天族によるところもあります」

アリーシャ「! そんな……」

アリーシャ(ライラ様は、それに気づいておられたのか。私はなんて勘違いを……!)

ライラ「ですが、それは人間も同じこと。それに今の人間と天族の関係は、簡単には代えられない当たり前の状態となっているのです」

ライラ「スレイさんの夢は尊重したいですわ。だけどそれで、災禍の顕主を討てるかどうかは……」

アリーシャ「……あたり前の状態を変えれば、その分穢れが生まれるということですね」

ライラ「はい。その通りです」

アリーシャ「変わらなければ、何事にも始まらないというのに……我々は悟空様という『きっかけ』を見過ごすことしかできないのでしょうか……?」

ライラ「……何事にも、災禍の顕主をどうにかしなくてはなりませんから」
ライラ(ですからそろそろ、従士契約の反動についても説明しないといけませんわね)

ライラ(私はスレイさんを立派な導師にしなければなりませんから……私にはもう、それしかないと思っていました。けど)

ライラ(最近このお二人を見ていて、思い出すんです。
私が最初スレイさんに言った、スレイさんの目で世界を見て、スレイさん自身にこの世のあり方を判断して欲しいと)

ライラ(……信じましょう、彼らを)

アリーシャ「悟空様……」

ライラ「…………」フゥ

そして穢れの原因の一つである美術館の憑魔をスレイ達が倒し、合流したライラが浄化したことで、少しだけ穢れが薄まり悟空の体調も戻りつつあった。

アリーシャと悟空も美術館で合流すると、そこで憑魔と化していたアタックというノルミン天族と出会った。
ぬいぐるみのような姿をしたノルミン天族は、ライラのかつての知り合いらしい。

アタック「ライラはん、お久しぶりやな~」パァァ

ライラ「あ、アタックさん……街の穢れは薄まったようですけど、まさかアタックさんがこにいるとは思いもしませんでしたわ」

エドナ「丁度、バカとアリーシャも来たみたいよ」

悟空「よお! もうひょーまはやられちまったのか?」トコトコ

アタック「そうか……ウチが憑魔になってムチャクチャにしたんやな……宝もんも、美術館も……」

アタック「う、うわぁ~ん!」グスグス

そうして一行は、アタックが何故憑魔化したのかの顛末を聞くことになった。

元々、アタックは芸術の大好きな天族だった。
芸術を見るだけで楽しかった、祀られなくてもここにいるだけでよかった。
しかし戦争のせいで美術品は横流しに遭い、アタックは人間の汚い部分に触れてしまった。
そんな純粋な想いは悪意に繋がり、穢れとなって憑魔に変化したというのが、事の顛末のようだった。

スレイ「……アタックが悪いんじゃないよ」

悟空「おうそうだ、だからオラも一緒について行ってやる。だから一緒に謝りに行こうぜ」

アタック「!」

ライラ「悟空さん……」

ミクリオ「どういうことだ悟空、アタックに非は無かったじゃないか!」

悟空「ん? だけどよ、こいつのせいで病気が流行ったり、色々くるしめられてきたんだろ?」

悟空「まだ空に残ってるドラゴンだって、こいつに反応して生まれたみてえなもんだ。そういやオラ、昔っから病気と超能力には苦しんだな~」ハハハ

スレイ「あ…………」

ミクリオ「そんな、確かに、だけど……」

エドナ「……ふん」

しばし、誰も答えを出さなかった。

スレイ「行こう」

ライラ「ええ」

ライラは、ようやく一つの答えにたどり着いた。
これまでの自分のように、スレイを決められた導師の道の上を歩かせるだけでは、前導師と同じ悲惨な結末を歩む可能性があると。
己の道を歩む悟空と、夢を追い一生懸命なアリーシャを見て、そう気がついたのだ。
だからせめて二人がいなくなるまでの間は、スレイを縛り付けることは止めようと。

ライラ「…………こんなことを、私が言うのは間違っているのかもしれませんが」

エドナ「どうする気?」

ライラ「スレイさんの力を以てすれば、マーリンドの長の方と面会することが可能です。一度正式に、謝罪しに行きましょう」

アタック「えっ!」

アタック「な、なんやて……そんなん、ウチ嫌や……嫌や~!」バタバタ

エドナ「意外ね。ライラがそんなことを言うだなんて」

ライラ「私も、自分でそう思います。だけどスレイさん、アリーシャさん、そして悟空さんのような方たちと出会い、思ったんです」

ライラ「変わることを恐れていても、想いからは何も生まれないと。今は、悟空さんの意見に従いましょう」

スレイ「……そうか……そういうことだったのか……」ハッ

ミクリオ「いいのか、ライラ。そんなことをしたらアタックはこの先ずっと祀られなくなってしまうぞ」

スレイ「祀られて当たり前……だけどそこに……」ブツブツ

ライラ「私もそれは大変なことだと思います。ですから、アタックさん自身が最終的な決断をしてください」

ライラ「人々に疫病をもたらし、その命までもを奪った天族が、祀られることを望むのか。それとも……」

アタック「う、うう……」

エドナ「! 駄目、また穢れが出るわ! スレイ、ぶつぶつ言ってないで早く何とかしなさいよ」

スレイ「……そうか、分かったぞ!」ポン

アリーシャ「スレイ? 何を……」

スレイ「分かったんだよ。共存の第一歩が!」ガシッ

スレイ「『変わること』が大切なんだ! それは今ある常識から全部、考えを改めないといけない!」

スレイ「悟空っていうイレギュラーが入ることで、少なくともライラは変われた! 宿屋に戻って、天異見聞録に異文化との交流記録がないか調べないと!」

悟空「おう! さっさと謝って、ちっせぇドラゴン倒して、一緒に飯でも食おうぜ!」

アタック「で、でもウチ……」チラッ

ミクリオ「な、何で僕のほうを見るんだ」

ミクリオ「その。僕は正直人間に謝る必要なんて無いと思う、思って、いたけど……」

アタック「……」ウルウル

ミクリオ「僕はまだ、周りの人間よりも長く生きていないんだ。だから、こういう考えは人間寄りなのかもしれないけど」

ミクリオ「もし君が美術館のある街に住んでいるのに、急にもう二度と絵画を観れなくなったとしたら、どう思う」

アタック「そ、そんなん嫌や! 絶対嫌や!」

ミクリオ「君はそういうことをしたんだ」

ミクリオ「だから……謝るかどうかは別として、長いこと反省する必要はある」

アタック「…………そ、そうやな……ウチ、目から鱗が落ちたわ……」

アタック「悟空はんやライラはんの言う通り、ウチ謝りに行きますわ。スレイはん、付きおうてくれるかな」

スレイ「もちろん! さあ、一緒に行こう!」

長い話は終わり、一行は美術館の外へと出た。
夜空には未だドラゴンの陰が星々を隠し、人々を怯えさせている。

エドナ「どうやら先に、倒さなきゃいけないお客さんがいるようね」

アリーシャ「だけどあの高さをどうやって……」

アタック「ウチの出番や! 謝る前にまず、お詫びをさせてほしいんや!」

ミクリオ「アタックの力と僕の矢を合わせるのか」

ミクリオ「……いけるか、スレイ」ボソッ

スレイ「アリーシャの前でその話は、駄目だ」ボソッ

屋根の上で神衣化し、ドラゴンを撃ち落とすスレイ。
ドラゴンは浄化され、そこから一人の天族が姿を現した。

悟空「おーさっぱりした! さーて、偉え人のところに行って飯でも食うか!」

アリーシャ「悟空様ったら……もう」クスッ

アリーシャ(変わること、か。私もスレイも、この世界のあたり前を変えてみせなければならないんだね)

しかしマーリンドの驚異はまだ終わっていなかった。
加護天族となった元憑魔のロハンに、マーリンドの近くにいる憑魔を倒してきてほしいと頼まれたのだ。
その憑魔がいる限り、真の平和が戻ってきたとは言えない
翌朝。森の中。

悟空「波ァーッ! ……あり? オラの攻撃、普通の野犬とかには効くけどひょーまには効かなくなってちまったぞ?」

ライラ「あ、契約を解除したままでしたわ。その話は後でまた」
ライラ(……もうそろそろ、潮時ですわね)

エドナ「ちょっと、大きな食虫植物みたいな敵が来たわよ」

憑魔「グォォォォォォォォ」ドドドド

ミクリオ「まかせろ! フリーズランサー!」シュッシュッ

憑魔「グゥゥゥゥゥゥ……」バタン

スレイ「ふぅ、なんとかなったかな」クルッ

悟空「! まだだスレイ、まだ終わっちゃいねえぞ!」バッ

スレイ「えっ?」クルッ

憑魔「グゥゥ……グォォォォォォ!!」フッカツ

アリーシャ・ミクリオ「スレイ危ない!」

アリーシャ「うおおおおおっ!!」ダッ


ドンッ


アリーシャ「ぐっ……」バタッ

スレイ「アリーシャ! そんな……」

ミクリオ「憑魔は倒したし、僕は無事だけど、アリーシャが……」

ライラ「すぐにアリーシャさんを回復しますわ。アスティオン!」パァァ

エドナ「スレイ」

スレイ「……ごめん」

エドナ「下手したら怪我だけじゃすまなかったわよ。二人共」

スレイ「! ……それは……」

ミクリオ「僕はいい! スレイはアリーシャのために黙ってたんだ!」

ライラ「私も、言うのは悲しいですわ。ですがスレイさん、もう……」

悟空「おうおめえら、何ボソボソ喋ってんだ。アリーシャが目ぇ覚ましたぞ」

アリーシャ「スレ……イ……?」ハッ

スレイ「アリーシャ、手を。一緒に帰ろう」ガシッ

アリーシャ「あ、ああ……」

午後。マーリンド。
街に戻ったスレイ達は、そこで傭兵の一行と出会った。
スレイ達が離れた後のマーリンドの警護は、彼らに任せることにした。それを聞いて、アリーシャは思いつめた顔をする。

さらにアリーシャを困らせたのは、宿屋で飛び入りチェックインをしてきた天族デゼルと女暗殺者との話だった。
二人はスレイに、何故マーリンドに留まらず他の地へ向かうのかと尋ねた。

スレイ「ここでやるべきことはやったよ。それに、オレは自分の夢を追うために、知らなきゃいけないことが世界にあるんだ」

そう言って、スレイは次の目的地をローランス帝国に決めてしまったのだ。
スレイは元々ハイランドでもローランスでもない、政治事とはかけ離れた導師という存在だからだ。
ローランスに行くと決めたスレイに、ハイランドの王女であるアリーシャは付いていくことができない。

さらにローランス帝国がハイランドに攻め込んできたと知り、いよいよアリーシャはハイランドから動くことができなくなった。

スレイ「さっき商人のロゼに会って追加の薬を運んでもらったし、ルーカスもいるからマーリンドは大丈夫だけど……」

エドナ「けど?」

アリーシャは、あえて気丈に振る舞いスレイと向かい合う。

アリーシャ(それに、スレイの……)

アリーシャ「……スレイ」

スレイ「アリーシャ」

アリーシャ「わ……私は残る。ハイランドに残るよ」

アリーシャ「だって……正式にロハン様を祀る人を見つけたほうがいいだろうし……」

ミクリオ「アリーシャ、もしかしてスレイの目のこと……」

霊応力が導師と比べ少ないアリーシャとの契約は、スレイの視力に悪影響を与えていた。
スレイ達はそれを隠していたようだが、もう隠すことができないほど深刻化し、ついにアリーシャは核心を突いてしまったのだ。
それに、悟空は今丁度契約を解除している。別れるなら、今しかない。

アリーシャ「レディレイクに報告しに行かなくてもならない。それに、ほかにも理由があって」

グッと言葉を押さえ、アリーシャは笑って見せた。

アリーシャ「ほ、ほんとうはっ」

アリーシャ「……本当は、もちろん、ずっと一緒に旅をしたい。したかった。だが……」

アリーシャ「私には悟空様がいてくださるっ! それが、その、よかった。だから私はっ」

ハッとなって、アリーシャは悟空を見た。

スレイ「……悟空」

悟空「おう」

スレイ「アリーシャと一緒にいてくれないか?」

ライラ「……そうですわね。戦争をしている場所を通過する上で、大陸外の方がいるのは問題がありますわ」

スレイ「だから、アリーシャのことを頼んだ」

悟空「ああ、任せろ」

アリーシャ「……スレイ、ミクリオ様、エドナ様、そしてライラ様。今までありがとうございました。またこちらに戻ってきた時には……」

ライラ「……アリーシャさん」スッ

ライラ「握手しましょう。また会えた時に、もっとお互いが通じ合えるように」

スレイ達は行ってしまった。
残されたアリーシャと悟空は、しばらく二人でぼうっとしていた。

アリーシャ「……また、じきに、命がきます」

アリーシャ「だ、だから……それまで……」

悟空「おっし! それじゃあ修行すっぞ! アリーシャ!」ダッ

アリーシャ「えっ? ……あ、は、はい!」ダッ


アリーシャ「悟空様……あの、聞いてもいいですか?」

アリーシャ「確かに、従士契約の反動はあります。
だけどそれでもスレイ達に付いていくだけで、もっといろんな人とめぐり合ったり、戦ったり出来たかもしれないのに。どうして、私と?」

悟空「おめえがそうしてほしいって言ってたじゃねえか」

アリーシャ「そ、それはそうですが。それを呑んでくれた悟空様の意思が知りたいのです」

悟空「強くなりてえって言っただろ? おめえ、強くなれっぞ。さっきスレイを助けた時も、一瞬すげえ気が大きくなった。それに気の使い方が上手え」

アリーシャ「悟空様……ありがとうございます」パアッ

スレイがいなくなったことを紛らわすために、アリーシャは一生懸命修業した。
そのお蔭で、数日後にはなんとか数メートル空を飛べるように成長していた。微かながら、テニスボールほどの気弾を操ることもできる。

だが、そんな日々は長く続かなかった。

スレイと長く関わったアリーシャを、大臣バルトロは敵国のスパイだと報道したのだ。
アリーシャは自宅に軟禁され、悟空とも引き離された。
せめて反バルトロ派の官僚と話ができれば。
そんなことばかり考えていると、師匠であるマルトランがアリーシャ宅を訪ねてきた。

マルトラン「アリーシャ、悟空殿との修行で、新しい力を身につけたそうだな」

アリーシャ「師匠! ……はい。今までにない力を身につけることができました。これも悟空様と、そして元となる戦い方を教えてくださった師匠のおかげです」

マルトラン「精進するのだな。悟空殿の評判は、私もよく知っている」

マルトランが去ると、アリーシャはまた一人になった。

夜。アリーシャ宅。

アリーシャ「スレイ……悟空様……皆……」ハァ

アリーシャ(駄目だ、こんなことでは私こそ何も変われない)

アリーシャ(メイドに頼んだ手紙も、悟空様に届きはないんだろうな)

アリーシャ(せめて外に出られれば、反バルトロ派に接触して裁判を起こすことはできる)

アリーシャ(今の私に勝てたらの話だけど……)ハァ

アリーシャ「……流石にこの窓の高さからは私でも飛べないか」

アリーシャ「やってみなくちゃ分からない、かな」ヨイショ

アリーシャ「って……わっ、きゃ、きゃーーーー!!!!」ズルッ

アリーシャ(お、落ちる……ッ!) ドスッ

窓から落下したアリーシャは、おそるおそる目を開けた。

アリーシャ(……)ドキドキ

アリーシャ「あ、あれ? 痛くない……」ハラハラ

脱出を試みたアリーシャを助けた者、それは間一髪でアリーシャを受け止めた悟空であった。

アリーシャ「悟空様!」

悟空「オッス! 間に合ったな、アリーシャ!」

アリーシャは悟空の背中にしがみつき、このままレディレイクの夜空を飛行することになった。
悟空は反バルトロ派の人間が誰なのか知らないので、瞬間移動はできないからだ。

アリーシャ「悟空様、助けていただけたことは嬉しいのですが……」ビュオオオオオオ

アリーシャ「こ、こんなに自由に空を飛んでは、目立ってしまいます!」ビュオオオオオオ

悟空「だってよー、アリーシャの言う大臣(反バルトロ派)の家ってのが見当たらねえんだ」ビュオオオオオオ

悟空「それに夜は皆寝てる。心配すんな!」ビュオオオオオオ

アリーシャ「し、しかし……あ、そこの角を右です」ビュオオオオオオ

悟空「おめえ、オラの一人目の息子に性格似てっぞ」ビュオオオオオオ

アリーシャ「い、いま何と言ったのですかー? か、風の音で、言葉がよく……」ビュオオオオオオ

悟空「オラの息子に似てるって言ったんだー!」ハハハ

アリーシャ「!」 ビュオオオオオオ

アリーシャ「わ、私も、悟空様のこと……」ビュオオオオオオ

アリーシャ「私の父だといいなって、思いましたー!」ビュオオオオオオ

悟空「おーし! 大臣の家に到着だ!」スタッ

急に現れた二人に驚く大臣(反バルトロ派)に事の顛末を話し、急遽アリーシャの話の裏付け調査が始まった。
マーリンドにいる兵士への事情聴取の結果、アリーシャのスパイ疑惑は見事払拭されたのだ。

悟空「ここの国には携帯電話がねえのか? 不便だなー」

しかしバルトロも出来る限りの人脈を集め、何とか追求を免れていた。

そして報道を左右する権力を手に入れたバルトロは、アリーシャに誤報による風評被害という爪痕を残して、間接的に行動を制限しようと企み始めたのだ。

バルトロ「騎士姫の評判を取り戻すには、民にその態度を示すしかありませんな 」クックック

アリーシャ「態度、だと……?」ゾワッ

バルトロ「何、簡単なこと。先日森で暴れていたベアを兵士が捕獲しました」

バルトロ「姫はそれを民の前で仕留めて見せればいい。それだけの話です」クックック

アリーシャ「くっ……」

バルトロの狙いに、アリーシャは気づいていた。
広場の中心でベアを仕留めるプロパガンダなど行ったところで、バルトロはアリーシャ一人ではベアに勝てないと思っているのだろう。

アリーシャ(さすがにバルトロでも、みすみす民を穢れの脅威にさらすとは思えない )

アリーシャ(ある程度私が痛めつけられたあとで ベアを兵で仕留め私を見せかけだけでも回復させ、兵の強さで民を安心させると同時に)

アリーシャ(私を一人では何もできない女だと印象付ける気か!)

バルトロに穢れというものが分かっているかはさておき。アリーシャはもう一つ、懸念すべきことがあった。加護のあるレディレイク周辺で捕まえられたベアであるので、憑魔ではない。しかしそれでも自分ひとりで勝てるかどうか。

アリーシャ(……いや、逆にこれはチャンスと考えなければ)

アリーシャ「今逃げても報道被害からは逃れられません。受けてたちましょう」

悟空「そうか。じゃあ修行すっか!」バシュバシュバシュ

アリーシャ「ええ! 私は誰にも負けません」ババババババ

一旦休憩入ります。6時までに再開します。

コメントありがとうございます! 見てくださる方がいてとても嬉しいです。
再開します。

反バルトロ派に保護されている間も、アリーシャは修行を怠らなかった。

アリーシャ「マルトラン師匠! 手合わせをお願いします!」

アリーシャ「こんな事を言うのはワガママなのかもしれませんが……私はマルトラン師匠と悟空様の技を併せた、究極の技を獲得したいのです」

マルトラン「分かっている。かかってこい、アリーシャ」ザッ

アリーシャ「! は、はい! 師匠!」キラキラ

強くなったアリーシャでも、人間離れした力を持つマルトランには敵わなかった。

悟空「ひゃ~、おでれえたぞ。マルトラン、おめえ強えんだな~」

だからこそアリーシャは師匠を心から尊敬し、信頼していた。

アリーシャ(まるで父と母に囲まれているみたいで、幸せだ……) フフ

アリーシャ(あとは私の無事を、なんとかスレイたちに知らせられたらいいのだけれど)

そして数日後の朝、広場。

兵士「この檻の中から、ベアが出てきます。柵から逃げ出さぬよう仕留めてください」

アリーシャ「分かった。始めてくれ」

アリーシャ(見物に来た人々の中に、マルトラン師匠と悟空様がいる)

アリーシャ(見ててください、これが私の答えです!)

ベア「グルルルルル!!!!」ズドドドド

アリーシャ「ハァーッ! 飛燕月華!」ダッ

ガキィン!

兵士「な、なんとこれはすごい! アリーシャ姫、槍を抱えたまま宙へ浮かんでいます!」

アリーシャ「狙いを定めて……そこだ!」ドン

兵士「おおーっとこれはどういうことでしょう! アリーシャ姫が放った光の弾により、砂煙が立ち込めて柵の中が見えない!」

兵士「だんだん煙が晴れてきました……こ、これは!!!!」

ザワワァッ

兵士「ベアがアリーシャ姫に持ち上げられている!!!!」デデーン

ウォアアアアアア!(歓声)
パチパチパチパチ……

ベア「グウウウウ……」

兵士「なんということでしょう、喉元に当てられた槍からは逃れられない! これはまさしく、アリーシャ姫の勝利だーッ!」

アリーシャ「命は奪わない……皆聞いてくれ! このベアを人里離れた山へ解放したい! それでもよいか!」

民たち(大喝采)パチパチ

アリーシャ(気を放ち、槍で突く。この組み合わせで、私は随分と強くなれた)

アリーシャ(それに、気を見ることで私もウーノ様の気配を感じるようになってきた。天族は、こんなに身近な存在だったんだな)

アリーシャ(そういえば、気とは一体何なのだろう? 悟空様が言うには、人間の中にある穢れの逆のようなものらしいけど)

アリーシャ(穢れの、逆……?)ハッ

アリーシャ(ま、まさか!)

アリーシャ「マティア軍機大臣、失礼!」ギュッ

マティア「なっ何ですか姫! 急に手を握って!」

アリーシャ「波ァッ!」バシュウ

アリーシャは、バルトロ派であるマティアの手を握り、傷つけないように気を放った。
最初は困惑していたマティアだが、次第に穏やかな表情になり、落ち着いていく。

アリーシャ(やはりそうだ……! これだ、これが気の正体!)

夕方、アリーシャ宅。
自らの活躍により、アリーシャは立場を取り戻したが、彼女に休んでいる暇などなかった。

アリーシャ「悟空様、聞いてください。穢れとは人間の持つ負の感情から生まれた力。
そして気とは、その反対に位置する感情から力なのではないかと思うのです」

アリーシャ「つまり気は、穢れを払う浄化の力を持っています。
今の時代の人々は皆心が穢れに支配されていますが、私のように修行をして、気を操れるようになれば」

アリーシャ「心の中で気が半分、穢れが半分になって、人間の正しい状態に変われるのではないでしょうか」

悟空「よく分かんねえけど、気があれば穢れはなんとかなるってことか!」

アリーシャ「はい! 穢れとは、人間が元々持っていたもの。そこに人間の持つ正義の気を操れるようになれば!」

悟空「いや、別に気は正義のモンじゃねえぞ?」

アリーシャ「えっ、そうなのですか?」

夕方、アリーシャ宅。
自らの活躍により、アリーシャは立場を取り戻したが、彼女に休んでいる暇などなかった。

アリーシャ「悟空様、聞いてください。穢れとは人間の持つ負の感情から生まれた力。
そして気とは、その反対に位置する感情から力なのではないかと思うのです」

アリーシャ「つまり気は、穢れを払う浄化の力を持っています。
今の時代の人々は皆心が穢れに支配されていますが、私のように修行をして、気を操れるようになれば」

アリーシャ「心の中で気が半分、穢れが半分になって、人間の正しい状態に変われるのではないでしょうか」

悟空「よく分かんねえけど、気があれば穢れはなんとかなるってことか!」

アリーシャ「はい! 穢れとは、人間が元々持っていたもの。そこに人間の持つ正義の気を操れるようになれば!」

悟空「いや、別に気は正義のモンじゃねえぞ?」

アリーシャ「えっ、そうなのですか?」

悟空「邪悪な気とか、変わった気とか、いっぺえあるぞ!」

アリーシャ「正義でないなら、そうですね……ならあえて、情熱とでも例えましょうか」

アリーシャ「情熱も、誰もが持つ感情です。それを持つだけでなく、操れるように修行する。これが、この災厄の時代の解決方法だったんです!」

悟空「けど、修行できねえ奴はどうすんだ?」

アリーシャ「それが問題ですね。それに、これを私から民に伝えても信じては貰えない。せめてスレイ達と、話ができたら……」

兵士「申し上げます!」ダダッ

兵士「グレイブガント盆地から、戦禍に巻き込まれ導師が姿を消しました! ハイランド内では依然行方不明です!」

アリーシャ「何だって! スレイ……」ソワソワ

兵士「そしてレディレイクより東の廃村付近にて、謎の敵による被害が多発しています」

アリーシャ(憑魔だろうか……スレイがハイランドにいない今、私がやるしかない)

アリーシャ「悟空様、行きましょう! 先ほどの話が正しければ、退けることはできます!」

悟空様「おう! いっちょ飛んでいくか!」シュバァ

アリーシャ「はいっ!」シュバァ

兵士「ひ、姫様が鳥になってしまわれた……」 アワアワ


丘の上で苦戦している兵士たちを発見し、アリーシャは憑魔に目をこらした。

アリーシャ(私の気の使い方が上達したのか、憑魔の力が強いせいだろうか、憑魔の姿がはっきりと見える)

アリーシャ「悟空様、あれを!」

悟空「おう!」バシュウシュインシュイン

兵士「な、なんだあの金髪の男は……?」

兵士「危ない! 敵が向かってくるぞ!」

悟空「ヘァーッ!」ドォン

カッ
ズズズズズゥン……

兵士「お、丘が……」

アリーシャ「丘がえぐれた……憑魔にも十分ダメージが通ってる!」

アリーシャ「これが超サイヤ人の気……悟空様、大丈夫ですか?」

悟空「オラ疲れちまったぞ。やっぱここの敵は超サイヤ人じゃなくても充分だな」

アリーシャ(えっ?)ビクッ

悟空「よう、憑魔」

憑魔「ウググググググ……」

元憑魔「ぐ、グググググ……?」

悟空とアリーシャが触れた憑魔から、みるみる穢れが消えていく。二人に穢れは見えないが、憑魔だったものの雰囲気からそう感じ取れた。

悟空「おめえ、もう悪さしねえって誓えるか」

元憑魔「グゥ……」ズズズズズ

悟空「よし分かった」フッ

アリーシャ「! 悟空様と憑魔が消えた……あ、悟空様だけ戻ってきた」

悟空「よう! 憑魔はガラハド遺跡に置いてきた、あそこなら迷惑かけずに生きていけるだろ」

悟空「あれじゃあ食えねえしな。無駄に殺すことはねえ」

アリーシャ「悟空様……」ホッ

悟空「戦ったら腹減っちまった! 帰って飯食いてえな~、なあアリーシャ」

アリーシャ「はい! 私、悟空様と師匠が一緒なら、どんな時でも勇気と誇りを持って戦えます。……帰りましょうか、私たちのレディレイクに」クスッ

一方その頃スレイは、ペンドラゴで憑魔を浄化していた。

スレイ「ふう、なんとか天族を救えた……それじゃ、一緒に謝りに行きましょうか」

ムルジム「えっ」

スレイ「えっ」

ロゼ「……あのさ、スレイ。前から思ってたけど、別に謝りに行く必要なくない?」

スレイ「でも、一応迷惑かけたんだから……街の人だって、そのほうが祀ってくれるかも」

ロゼ「黙ってたほうが分かんないて。それに謝りたくないって言ってんのに無理やり謝りに行かすの、イジメみたいじゃん」

ライラ「……それは……」

ミクリオ「確かに、そういう風には見えるな……」

エドナ「実際、悟空の意見はほぽ誘導尋問みたいなものだったわね」

デゼル「…………」

ロゼ「絶対そっちのほうが穢れ生まないっしょ。皆幸せだし」

スレイ「……そうだね、さすがロゼ!」

ライラ(……スレイさんの変わり方は、これでいいんでしょうか)

そして明るさを取り戻したアリーシャのもとに、一通の手紙が届いた。
官僚達の結束が目的で、王宮でパーティーを開催する。そこに悟空を連れてこいとの命令だ。

悟空「オラ、こんな固っ苦しい服嫌だぞ~」

アリーシャ「まあまあ、料理もたくさん出ますから」ドレスアップ

悟空「お、アリーシャ。後ろ髪上げてんのか。すっきりしてんな」

アリーシャ「……悟空様は、こちらの方が好みですか?」

悟空「いや、そのほうが飛ぶ時邪魔になんねえだろ」

アリーシャ「は、はあ……そうですね」アハハ

アリーシャは他の大臣達と話をしつつも、さりげなく悟空を側から離さないようにした。
パーティー参加者の一人マティア軍機大臣は先日の一件以来、戦争は起こすべきではないというアリーシャの思想に共感してくれている。

アリーシャ(とはいえ、悟空様は食べてばっかり……)

悟空「お? オオトロとかいう奴が来たぞ」

バルトロ「バルトロだ。これはこれは悟空殿、先日憑魔退治にご活躍なされたようで」

悟空「おう、遠くに置いてきたぞ」

バルトロ「良ければその、力……我がハイランドの益になるよう、使ってみてはどうかな?」

アリーシャ「!」

悟空「どういうことだ?」

バルトロ「悟空殿が協力すれば、戦争は早く終わる。それは姫も望んでいることでは……?」

アリーシャ「悟空様……」ハラハラ

悟空「駄目だ。戦争が早く終われば、その分大量に死人が出る」

悟空「それに、ここにドラゴンボールはねえ」

悟空「オラは強え奴と戦うために修行してんだ、戦争には行けねえ」

バルトロ「……ほう。」

悟空「話はそれで終えか? アリーシャ、おめえは戦争に行くのか?」

アリーシャ「わ、私は……今はまだ行く訳にはいきません。やらなければいけないことが、たくさんありますから」

悟空「そうか。そういうこった」ムシャムシャ

バルトロ「……ではまた、気が変われば連絡を」

アリーシャ(……私が戦地に行くこととなったら)

アリーシャ(その時悟空様は……)



そしてしばらく、アリーシャは修行と公務の日々を送っていた。

悟空がいるから、マルトラン師匠がいるから。自分の出来ることをしよう。スレイが無事であることを信じて……。

アリーシャ「見てくださいマルトラン師匠! 槍の先から気を放つことができました!」

マルトラン「ほう、よくやったな、アリーシャ」

アリーシャ(やった! 褒められた!)キャッ

アリーシャ「そうだ、悟空様。今日の午後は橋の視察に行かなければなりません。果物でも持って行って、向こうにいる方々と一緒に食べましょう」

悟空「おっピクニックか! オラも昔やったな~、たまにはいいかもな!」

そして午後、橋の上。

アリーシャ「あっ……」

アリーシャ「ス、スレイ……スレイなのか?」

レイクピローで見つかった遺跡へ向かうために、スレイ一行はハイランドへと帰ってきていたのだ。

ライラ「アリーシャさん……」

アリーシャ(スレイが元気そうでよかった! スレイは私のことを心配してくれていたかな? それに天族の方々の気が分かるおかげで、ライラ様の言葉も伝わってくる!)

悟空「オッス! エドナ、おめえちょっと見ねえうちにでっかくなったな。ライラ、唇赤いぞ。病気か?」

エドナ「ちょっとの間で変わるわけないでしょ。それにアリーシャのほうが、見るからに筋肉質になった気がするけど」

ライラ「口紅ですわ! ……って、え? 悟空さん、契約は切れているはずでは?」

アリーシャ「聞いてくださいライラ様! 実は……」

アリーシャはスレイ達に、気が穢れに対抗できること、ぜひ導師にこの考えを流布して欲しいということを伝えた。
今すぐ人間全員を変えることはできないけど、いつか必ず穢れと気が両立した世の中になれると信じているのだ。

ロゼ「うわ何それ! さぱらんし。修行しただけで天族を感じれるんなら、何でアリーシャは導師になれないわけ?」

アリーシャ(……!)ドキッ

ロゼ「大体今修行とかしてる場合じゃないじゃん。現実見なよ、もうすぐ戦争なんだよ」

悟空「サイヤ人は元々純粋に戦いを求める種族だった。素が純粋な『悪』の超サイヤ人の状態だからこそ、普段分からねえことも分かるようになる」

ライラ「『悪』、ですか?」

悟空「何もおめえらが悪って言ってるんじゃねえ。だけど人間もテンゾクも気を感じる条件はほとんど同じだろ?」

スレイ「すごいや……悟空は修行することで得た純粋な心で、オレみたいに天族を感じることができるんだ!」

デゼル「元々純粋な奴が一番天族と触れ合うことができたからな……だからスレイやロゼは霊応力が高かった」

アリーシャ「……あ、えっと。ロゼ……だったね? 王宮に出入りしていた商人の」

ロゼ「どもー。悟空もアリーシャも、スレイから話を聞いてるよ。で、反逆容疑は解けたわけ?」

アリーシャ「ありがとう。もう大丈夫だよ。心配かけてすまなかった」

ミクリオ(スレイが真っ先に『アリーシャのことは一旦忘れよう』って言ってたけどね……)ハハハ

アリーシャ「それで、スレイ。今旅をしていることでの……あの影響は大丈夫なのか?」

スレイ「大丈夫。どこも悪くないよ。ロゼは神衣もできるし」アハハ

アリーシャ「…………」

アリーシャ「スレイの成長もあるだろうが、きっとロゼの力が優れているのだろうな」

アリーシャ(穢れに対抗できたからって……私は神衣を使うことはできない)

アリーシャ(スレイ、ロゼ、悟空様のように才能があるわけじゃない……だけど才能のない人間を変え

ることが出来るなら、どれだけ時間がかかっても、やるしかない)

アリーシャ「さて、私は行くよ。いくら気を張ったところで戦争は止められない。だけど私は一人の騎士

として、悟空様やマルトラン師匠と一緒に全力を尽くそうと思う」

スレイ「そっか。アリーシャ、悟空。元気で。……それじゃ」

アリーシャ「ああ。また、会おう」


ライラ(アリーシャさん……)

ライラ(スレイさんは……もう……)

悟空「アリーシャ、おめえも気づいてたろ。あのロゼって奴の気を」

アリーシャ「ええ。ですが、きっとあのような人物こそがスレイの従士にふさわしいのでしょう。……スレイ自身も、今がやりやすいようですし」

アリーシャ「……マルトラン師匠のところへ行きましょう! ここからなら飛んですぐです!」びゅんっ

悟空「あっアリーシャ! 急に飛んだら危ねえぞー!」ビュンッ

アリーシャ(スレイ! 私は……君を信じている。必ず正しい道を歩むと)

アリーシャ(スレイ達とは、また近いうちに会うだろう)

アリーシャ(その時、ゆっくり話をしよう。彼らの見つけた答えは、一体どんなものか)

小さな墓の前で、一人暗い顔をするスレイ。

スレイ(また一人、救えなかった……)

スレイ(……いや、違う)

スレイ(こうすることで、この子は救われたんだ……もう苦しまずに済むから)

ロゼ「スレイー? 早く残りの瞳石見つけに行くよー?」

スレイ「分かったー! 今行くー!」ダッ

スレイ(苦しみが終わるなら……俺はヘルダルフを……)

朝、アリーシャ宅。

アリーシャ(……最近、不安なことがある)

アリーシャ(穢れが減っていくにつれ、憑魔の数は減り、悟空様に適う敵はいなくなった)

アリーシャ(……いや、そんなもの最初からいなかった。だから悟空様はいつ、このグリンウッドに飽きてもおかしくはない)

アリーシャ(悟空様は、戦うために、戦っているのだから)

悟空「おうアリーシャ、手紙が届いてっぞ」

アリーシャ「あ、はい。ありがとうございます、悟空様」

アリーシャ「これは……! 開戦を知らせる命令か!?」

アリーシャは自宅で悟空と共に考え込んだ。
ハイランドとローランスは今まで攻め、守りを少しずつ繰り返してきたが、ついに開戦の勅命をアリーシャが戦場へ持っていかなければならなくなったからだ。

アリーシャ(……いっそのこと)

もちろん、アリーシャはこの勅命を持っていくのが遅れれば、その分自国の兵の犠牲が増えることも分かっている。
せめてあと数分、戦争を回避する案はないかと考え、そしてアリーシャは不安を口に出した。

アリーシャ「悟空様」

悟空「おお」

アリーシャ「私が戦場へ行けば、悟空様は共に戦ってくださいますか」

悟空「いや、オラは戦わねえ」

アリーシャ「……悟空様」

アリーシャ「私も、戦争はしたくありません。ですがもはや事態は、戦わなくては止められないところまで来ているのかもしれません」

アリーシャ「それに、気があれば戦場の穢れだって……悟空様には酷な話ですが、私も体力が尽きるまでは戦い抜きます」

悟空「オラ、戦争してる人間とは戦わねえ。戦場にとんでもなく強え憑魔がいたら戦うけどな。オラが戦って戦争が早く終われば、その分多くの人間が死ぬ」

アリーシャ「……それでも止めたいんです……戦争を……」

悟空「おめえは、強えけど戦いに向いてねえ」

アリーシャは、悟空に向かってガルドの入った袋を押し付けた。

アリーシャ「これは、私の側で戦ってくれたことに対する、国からのお金です」ギュッ

アリーシャ「これを受け取って、せめて戦争のないところへ行ってください」

悟空「受け取らねえ」

アリーシャ「……悟空様は」

アリーシャ「弱い者の心が、分からないんです」

悟空「おお。昔ピッコロにも似たようなこと言われたから知ってっぞ」

悟空「悟飯を敵と戦わせて、やられてるのを見てたら『間違ってる』ってな」

悟空「アリーシャ、おめえは修行して、すんげえ強くなった」

アリーシャ「それは……強くなった私と戦いたかったからでしょう!?」

アリーシャ「でも私は悟空様のように強くない、戦争だってしなくちゃならない! なのに悟空様は、力があるのに自分のために使うだけなんて!」

アリーシャ「私が到底届かない……情熱を持っているのに……」グスッ

悟空「でもおめえは、オラになれないものになれるじゃねえか」

悟空「おめえ、いつか母ちゃんになれよ。母ちゃんってのは強えぞ~、オラも敵わねえくれえだ」ハハハ

アリーシャ「私が女だからですか!? 私だって、戦えます!」

悟空「女だからじゃねえ」

悟空「オラの息子の悟飯は、すんげえ強え。もしかすっとオラより強えかもしんねえ」

悟空「オラにはチチがいたから、すんげえ強え悟飯と出会えたし、戦うことだってできる。
オラはオラのことばっかり考えてたから、悟飯はオラのことを尊敬してるか分かんねえ。けどチチのおかげで、ご飯は立派な学者になったぞ」

悟空「おめえも強え母ちゃんになって、もっと強え子どもを育てて、平和な世界を目指せばいいじゃねえか。
おめえの子どもの子どもはもっともっと強くなる。そんでオラと戦えるくれえ強くなれる」

悟空「他人任せじゃねえ、アリーシャ、おめえがやるんだ。だからオラはおめえを強くする」

悟空「おめえを強くすることに関係ねえ戦争には、参加しねえ」

アリーシャ「悟空様……」

悟空の言う「強え」が、ただ腕力のことのみではないということに気がついた。
悟空は自分のためだけに力を使うのではない。
確かに、アリーシャに新しい力を与えた。そして新しい考え方も与えたのだ。
それを思うと、アリーシャはもう怒れなくなっていた。

アリーシャ(そうか……私は修行したことで、戦いのことばかり考えていた)

アリーシャ(武器を振るわずに、戦争を終わらせる方法だってある。
戦場で巧みに指揮を執るマルトラン師匠のように、兵に指示をして被害を最小限に食い止められれば。それは王女である私のすべきことだ)

アリーシャ(最後まで諦めずに、自分のすべきことを判断する。きっと悟空様は、それを私に伝えたかったんだ)

アリーシャ「……私は戦場へ行きます。だけど、戦場で直接戦いません」

アリーシャ「武器を振るう以外の戦い方もあるのです。その時は、隣にいてくださいますか。私に支えさせてください」

悟空「おお」

緊張が解け、アリーシャのこわばっていた体からフッと力が抜けた。

アリーシャ「申し訳ありません、悟空様……私は酷いことを言ってしまって……人が戦争という過ちを犯す前に、急がなければ」

アリーシャ「行きましょう悟空様。ここからすぐの盆地で……ん?」

スレイ「アリーシャ!」

アリーシャ「スレイ! どうしてここに? それに、ザビーダ様も……!」

スレイはここに来た理由を早口で説明した。
マルトランは実は憑魔であり、そして災禍の顕主の部下だということ。
さらにアリーシャを利用して、戦争を煽り恐ろしい量の穢れを生み出そうとしている張本人だということを知り、アリーシャは目を見開く。

アリーシャ「そんな……う、嘘だ! いくらスレイとはいえ、師匠を侮辱することは許さない!」

アリーシャ「そうですよね? 悟空さ……」

アリーシャ「…………」

アリーシャ「……どうして、そんな顔をするのですか。悟空様……」

ミクリオ「悟空……やっぱり気が付いて……」

悟空「悪ィ、アリーシャ。実はけっこう前から気づいてた。けどよアリーシャ、おめえもうすうす気がついてたんじゃねえか?」

アリーシャ「う、それは……しかし悟空様、何故黙っていたのですか? スレイ達も。私は修行して強くなった、だから――」

エドナ「――いくら修行したって無駄よ。マルトランは憑魔だもの。生半可な強さじゃないわ」

悟空「いつか本気になったマルトランと戦ってみてえと思ってたんだ。だから、黙ってた」

アリーシャ「そんな……」

アリーシャ「い、一緒に行っても、いいか? 師匠が穢れを生もうとしているなら、何よりも先に止めなければならない」

ライラ「……従士契約、復活させました」

スレイ「いいよ。今はロゼもいないし、一緒に来てくれたほうが助かるよ。ちょっと目がかすむけど」

アリーシャ「ありがとう、……ライラ様」

一行は、盆地方面へと向かった。そこにマルトランが待っており、戦いを挑んでくるらしい。

悟空「それでおめえ、マルトランは人間に戻んのか?」

スレイ「……もう助からない。殺すしか救う方法はないよ」

アリーシャ「スレイ!? 待ってくれ、そんなことはできない!」

アリーシャ「正気か!? 殺すことが救いだなんて、そんなの間違っている! それは殺す側の都合でしかないじゃないか!」

ミクリオ「アリーシャ、落ち着いてくれ」

アリーシャ「師匠はっ……私の、もう一人の母のような方だったんだ……殺すなんて、とても」

スレイ「……けどアリーシャ。そうしないと、苦しみは終わらない。終わらないんだ、ずっと」

アリーシャ「現状を変える方法を探す前に、終わらせるのか!? スレイ、それが君の答えなのか……?」

スレイ「少なくも今は、そうするしかないよ」

アリーシャ「……なら、私が説得してみせる! 私には、気も使える!」

エドナ「ライラでさえ浄化できないのに、無理よ」



そして森の中で、マルトランは待ち構えていた。いつもと変わらぬ彼女の姿に、アリーシャは唇を噛む。

マルトラン「……来たか」

スレイ「アリーシャ、戦える?」

アリーシャ「スレイ、本当に、本当に戦うのか? 師匠も、もうやめてください!! あなたは災禍の顕主に騙されているんです!!」

しかし、マルトランはアリーシャに事の顛末を話し始めた。

アリーシャが、マルトランにとってはハイランドとローランスを全面衝突させるためのただの道具に過ぎなかったこと。
そして、穢れを生むためにはどんな悪行も厭わないということを。

悟空「アリーシャ、おめえは下がってろ」

アリーシャ「……いえ、私に戦わせてください! マルトラン師匠は嘘をついているんだ! そうでなければ、そんな……!」

マルトラン「まだ、そんなことを言うのか」

マルトラン「……どこまでも優しいな。私は、そんなお前が――」


グサッ


アリーシャ「!」

スレイ「……」

マルトラン「――反吐が出るほど嫌いだったよ」




マルトランの手が、最期に一度アリーシャの頭を撫でた。

マルトランは槍に貫かれ、動かなくなり、代わりにアリーシャだけがよろよろとその体を抱きしめていた。

アリーシャ「……あ……せ、師匠……?」


アリーシャ「嘘だ……そんな、嫌だ、師匠、私はッ」ダッ

スレイ「あっアリーシャー! 待って!」ダッ

アリーシャは事実を受け止めきれず、走り出した。
追いかけてきたスレイの手を払い、少し怯えたように震えた後、わっと涙が止まらなくなる。

アリーシャ「もう嫌だ……」グスッ

アリーシャ「もう嫌だ! 嫌だ! 家に帰りたい! 知らないよ! 戦争も国も民も!」ダンッ

スレイ「アリーシャ……」

スレイ(他の皆や……悟空は追いかけてこなかったのか)チラッ

アリーシャ「私だけ馬鹿みたい! 師匠も悟空様もロゼも天族も皆変われない! 変わろうとしない!」

アリーシャ「もうたくさん! 王女も、騎士もやめる! バルトロでも誰でも勝手にすればいい!」

スレイ「アリーシャ、落ち着いて」

アリーシャ「どうして! 皆のためにって頑張っても……いいことなんかっ」ハッ

アリーシャの脳裏に、悟空の笑顔が過ぎった。

アリーシャ「…………いいことなんかっ……」

スレイ「でも」

スレイ「思っちゃうんだよな。戦争を止めたいって」

アリーシャ「……え?」

スレイ「マルトランがアリーシャに嘘を教えていたとしても、アリーシャが受け止めた気持ちは本当だろ? それに」

スレイ「アリーシャは悟空に大切なことを教えてもらったんだよね? オレも戦争を止めたい。アリーシャなら戦争を止められるよ。そうしたい、んだよね?」

アリーシャ「スレイ……」

そこでアリーシャは、ようやく気がついた。
スレイが一生懸命励まそうとしてくれていることと、スレイの『戦争を止めたい』という願いの手段が、『他人(アリーシャ)に頼る』というものだということを。

アリーシャ(それもそうだ。導師は戦争に直接介入することはできないし、目的は災禍の顕主を倒すことだから)

アリーシャは、自分が本当にどうしたいかを考えた。
戦争を止めたい。その変わらぬ想いを貫くために、アリーシャ自身は変わらないといけない。

アリーシャ(直接戦わず、王女としてできる限りのことをする)

アリーシャ(そして、戦争を止める……! そうだ、私のやりたいことは、戦争を止めることだ!)

アリーシャ(さようなら、マルトラン師匠……)

アリーシャ(師匠が私をどう思っていたとしても、師匠の教えは忘れません)グスッ

スレイ「あ、皆が来たみたいだ。ほら、もう大丈夫!」

エドナ「ささやかだけど、悟空と協力してお墓を作ったわ。……あら、お邪魔だったかしら」

スレイ「えっ……あ、いや、その」テレテレ

アリーシャ(よく言えば、スレイには期待されているということだ。……頼ってばかりの私でも、やらなければならないことがたくさん残っている)

アリーシャ「ありがとう、スレイ。ハイランド軍のことは任せてくれ。最後まで青臭くあがいてみせるよ」

アリーシャ「……のために。それじゃ、また」ビュンッ

悟空「またなー!」ビュンッ

ミクリオ「アリーシャ、ついに自由に飛べるようにまで……」

ザビーダ「世が世なら、姫様がナンバーワンだったんじゃねえの」

アリーシャ「スレイも、皆さんも、ザビーダ様も……」ビュウウウ

アリーシャ「どうか戦禍に巻き込まれ、不幸の起こらぬよう……」ビュウウウ

悟空「で、こっからどこに行くんだ?」ビュウウウ

アリーシャ「直接盆地に向かいます。可能であればローランスの騎士団長と話をしたいのですが、まずは自軍の現状を聞かなければ」ビュウウウ

悟空「そっか。じゃあ一旦ここで別行動すっぞ」

アリーシャ「えっ?」

悟空「向こうからすんげえ気を感じんだ。後で合流する!」バッ

アリーシャ「あっ悟空様! ……もう」

盆地に降り立ち、アリーシャは一部の兵士にマルトランが戦死したことを伝えた。
無用な混乱を招かぬよう細心の注意を払いながら、兵士達の中で行動していく。

アリーシャ(悟空様は変わろうとしない、か……つい口に出してしまったこととは言え、私はそう思っていたんだ)

アリーシャ(けど、変わらない悟空様が側にいてくださるからこそ、私は変わっていける。
スレイの側に、あんなにはっきりとしたことが言えるロゼがいるように)

アリーシャ(私は、信じていよう。悟空様は戦い好きだけど、正しい心を持ったお方だと)

アリーシャ「さて、今の戦況は……な、何だ!? 兵から憑魔の気を感じる。これはもう戦争なんかじゃない!」

アリーシャは慌てて高地から洗浄を見下ろした。
人間が、次々と憑魔になっていく。
そして災禍の顕主が略取した天族の男が、戦場の真ん中へ落とされる。

アリーシャ「!」

ドラゴン「ウォアアアアアアア!!」バサァッ

穢れによって実体化した、ドラゴンとして。
穢れが、炎が、混乱と破壊の渦となり災厄を生み出していた。

アリーシャ「拠点にいる者は負傷兵の避難を! ドラゴンは完全に実体化している……そうだ、スレイは!?」

アリーシャ「ドラゴンと戦っているのか……!? しかし、今私がここを離れるわけには」

マティア「姫、前線の兵へ指示を!」

アリーシャ「軍機大臣、助かった! ここを頼む!」ダッ

今ばかりは、末席ということが助かった。アリーシャ自ら前線へ行き、兵を連れてスレイ達のもとへと急ぐ。

アリーシャ「そこにいるのは……ローランス帝国の騎士、セルゲイ・ストレルカ殿か!?」

セルゲイ「アリーシャ姫! 今こそ、手と手を取る時!」

兵「うおおおおおおおおおおおーっ!!」ザッザッザッ

スレイ「ハイランドと、ローランスが協力してドラゴンと戦ってる……!?」ガッ

ロゼ「なんか希望出てきたかも。あたしたちも、まだまだ踏ん張るよ!」ジャキィン

アリーシャは、槍を持ち兵達に指示を出した。

アリーシャ「導師殿を援護せよ! 必ず生きて帰れ、一人も見捨てるな!」ザッ

アリーシャ「スレイ! ドラゴンは浄化できるのか!? それとも……!」

スレイ「駄目だ、浄化できない。……分かってくれ、アリーシャ!」

アリーシャ「なっ……確かエドナ様のお兄様は」

アリーシャは、以前エドナから聞いた話を思い出した。そしてエドナの表情を見て、彼女の兄の最期を悟る。

スレイ「本当はこの戦争が終わった後のつもりだったけど、だけどエドナが前に進むために仕方が無かったんだ……!」

アリーシャ「そんな、そんな……うわあああああーっ!」ダッ

殺しが救いと言うスレイ、殺すしかないドラゴン、そしてマルトランの最期を思い出し、アリーシャはドラゴンに向かって駆け出した。

アリーシャ「君の情熱を思い出してくれ! 師匠は道を誤った、だがこのドラゴンは違う!」

アリーシャ「例え君に救う方法が無いとしても……! 私には、気がある!」

アリーシャ「私の気弾でッ……ああっ!」ズザーッ

勢いよくドラゴンに跳ね飛ばされ、体が宙に浮くアリーシャ。

アリーシャ「……!」ドスッ

アリーシャ「…………」

アリーシャ「あ、あれ……痛くない……?」

地面に打ち付けられたと思い、おそるおそる目を開くアリーシャ。

アリーシャ(私、抱えられてる、誰に……?)

アリーシャ(!)



悟空「よぉアリーシャ、遅くなっちまった」

アリーシャを受け止めたのは、もちろん孫悟空であった。

アリーシャ「悟空様! よかった……ううん、今はドラゴンを」

アリーシャ「もはや戦争どころではありません。人間が、生き残れるかの戦いなのです」

アリーシャ「お願い、共に……共に戦ってください、悟空様!」

悟空「ったりめえだ! オラのパワーとドラゴンのパワー、どっちが強えか比べっぞ!」

アリーシャ「悟空様……!」パアアッ

アリーシャ「はじめましょう、用意してください。元気玉の用意を!」ザッ

アリーシャ「元気玉ならば、この穢れの中でも悟空様に沢山の気が集まります! 
それにドラゴン相手ならば、穢れと反応し合い周囲への被害は少ないでしょう! さあ、早く!」

悟空「おう! 皆ーッ! オラに元気を分けてくれぇぇぇぇーッ!!」バッ

セルゲイ「皆の者! 手を挙げてくれ!」バッ

兵「ウオオオオオオーッ!」バッバッバッッッッ

アリーシャ「すごい気が集まっていく……まるで星が落ちるようだ!」

ドラゴン「グォォォォォォォォォ!」バサァッ

スレイ「悟空!! やれぇぇぇぇーッ!!!!」



カッ!!
ブワッッッッ!!

悟空「ぐぎぎ……!」バチバチバチバチ

ロゼ「駄目、ドラゴンに押されてる! あとちょっとなのに……!」

悟空「ぐぐ……オラのパワーが……!」バチバチバチバチ

スレイ「周囲の穢れが強すぎるんだ! せめて支えられたら……!」

アリーシャ「悟空様!」バッ

アリーシャ「私が悟空様を支えます! 二人ならやれます!」ガシッ

悟空「サンキューアリーシャ! よっしゃぁーッ!!」ババババババ



カッッッッ!!



ドラゴン「グォォォォォォォォォォ!!!!」ドドドド




悟空「今だスレイ、浄化しろーッ!」

スレイ「これなら……! フォエス=メイマ!」バッッッッ



ドラゴンは消滅した。

凄まじい爆風の中、アリーシャは二つの人影を視界の端に捉えた。
一人は、人間と変わらぬ姿の天族。そしてもう一人は、その天族に剣を突き刺している、スレイ。

アリーシャ「スレイ!? 何故だ、スレ――」



次の瞬間、アリーシャは悟空の瞬間移動で地面へ下ろされ、スレイの安否がわからぬ状態となってしまった。

アリーシャ「スレイ! スレイ、どこだ! スレイーッ!!」

悟空「落ち着けアリーシャ、穢れが無くなったからスレイの気が分かる。吹き飛ばされたみてえだ」

アリーシャ「分かってます、けど、けど……!」

アリーシャは叫ばずにいられなかった。スレイは、気の力と浄化の力で天族に戻れた相手を、わざわざ殺めたのだ。何がスレイをそうさせたのか、アリーシャはとても納得することができなかった。

アリーシャ「……師匠の……ように」

アリーシャ「殺すしかないだなんて……罪には罰がある! それは決して、死ではないんだッ!」クッ

アリーシャ「分かり合う道を目指す君が、何故それを分からない!」

アリーシャ「何故……」

一旦休憩。9時までには再開します。

コメントありがとうございます!
ここから最後まで一気に投下します。


全てが終わり、兵も引き、ほぼ人のいなくなった戦地でアリーシャは遠くを見つめていた。

アリーシャ(……停戦のチャンスは今しかない)

アリーシャ(そしてスレイ達と話せる機会ももう残りわずか。何故だろう、そんな気がする)

アリーシャ(そして……)

悟空「よっアリーシャ、そろそろ帰れって兵が言ってっぞ」

アリーシャ「悟空様……今日はありがとうございました。私は大きな口を叩いて、結局悟空様のお力を借りることになり……だけど、それで、戦争は……終わったのです……」グスッ

悟空「おめえも随分踏ん張ったじゃねえか。明日はローランスのなんとかって街に行くんだろ?」

アリーシャ「はい。傭兵の皆さんも一緒です。だから悟……」

アリーシャ「…………」

アリーシャ「悟空様は、そろそろ行ってしまわれるのですか?」

悟空「ん~……」

悟空「明日か明後日くれえかと思ってたけど、よく分かったなおめえ」

アリーシャ「ドラゴンでさえ、元気玉で一撃でしたから」

アリーシャ「最初から、考えていました。悟空様は旅をしておられる、いつかいなくなる、と」

アリーシャ「でも……大丈夫です! 私は充分強くなれましたし」

アリーシャ「私の力を受け継いだ子達と、戦ってくれるのでしょう?」

アリーシャ「さあ、帰りましょうか。……私達のレディレイクに」

アリーシャ(そして……)

アリーシャ(これから変わる、世界に)

翌日。ラストンベル入口前。

アリーシャと悟空は停戦交渉のため、ハイランド国へと足を向けていた。
護衛に傭兵のルーカスを連れているが、もはやアリーシャにとって憑魔は敵ではなかった。
そこへ、戦争後ヴァーグラン森林へ吹き飛ばされていたスレイ達がやって来る。

スレイ「アリーシャ!」

悟空「おっす! 元気か?」

ロゼ「停戦の話に来たの? よくやるねぇ、ハイランドの姫がろくに護衛も連れずに」

アリーシャ「この程度の危険で争いが止まるなら、安いものだ。……だが、互いの立場を考えると、ローランスの騎士団長と会うのは時間がかかりそうだ」

スレイ「大丈夫だよ、オレセルゲイと友達だから。そこの兵士の人、セルゲイを呼んでくれないかな。スレイの友達のアリーシャが来た、って」

アリーシャ(スレイ……君は、まだ私を友達だと言ってくれるんだね)

アリーシャ(そんな君を、こんな風に変えてしまったのは……おそらく……)

セルゲイ「アリーシャさんですね。セルゲイと申します」

アリーシャ「アリーシャです。先日はお世話になりました。こちらは私の……」

ふと、アリーシャは悟空のことを何と紹介すればよいか迷った。

アリーシャ「……二人目の師匠の、悟空様です」ニコッ

セルゲイの大きな手に、アリーシャは両手で握手する。
アリーシャはふと、ライラと握手したことを思い出した。人間が相手でも、天族が相手でも手を取り合うということは同じだ。

アリーシャ(そう……人間と天族が同じだからこそ、今の当たり前の状態を変えなければならない。なのに殺めてしまっては、変わることさえできないんだ)

そしてラストンベルの聖堂内で、アリーシャはセルゲイと停戦についての話を進めた。
次に話をする時は、ローランス皇帝陛下も交渉に参加する。いよいよ戦争はアリーシャの手で止められようとしていた。

アリーシャ(……スレイ……)

アリーシャは、ぐっと勇気を振り絞って声を出した。

アリーシャ「スレイも一緒にペンドラゴへ行かないか? 君は重要な人物だ、ぜひ両国の架け橋となって欲しい」

スレイ「ありがとう。でもそれはアリーシャが叶える夢だよ」

アリーシャ「……!」

アリーシャ「……そうだね」

アリーシャ「旅の無事を祈るよ。……セルゲイさん、今日はありがとうございました」



アリーシャ「ロゼ、ちょっと後で聖堂の裏に来てくれないか」

夕方。ラストンベル聖堂裏。

アリーシャ「……ロゼ。わざわざ来てもらってすまない」

ロゼ「何? 話、長い?」

アリーシャ「今夜もう出発するのか?」

ロゼ「ううん、明日だけど。あれ、悟空はいないんだ」

アリーシャ「ふたりっきりで話がしたかったからね。ロゼ、ずっと確かめたいことがあったんだ」

アリーシャ「ロゼは風の骨の暗殺者だね?」

ロゼ「えっ、今頃? ずーっと分かってると思ってた」

アリーシャ「気の雰囲気で、なんとなく分かっていた。けど、こんなこと面と向かって聞く機会はなかったからな」

アリーシャ「けど、単刀直入に言う。スレイは変わってしまった。それはロゼ、君の影響か?」

アリーシャ「ロゼがスレイに、殺すことが救いになると教えたのか?」

ロゼ「……アリーシャは、スレイに『変わることが大切』って教えたんじゃないの」

アリーシャ「それは……! 悪い現状を打開するためには、変わる必要があると言っただけで、そんな風に変わって欲しくはなかった!」

アリーシャ「人間も天族も、分かり合わなければならない。だから何があろうとも殺すことが救いになるだなんて、あってはならないことだ!」

ロゼ「で、言いたいことはそれだけ?」

アリーシャ「……ロゼ、お願いだからもう誰も殺さないでくれ」

アリーシャ「ロゼが殺しをしてきたのには理由があるのだろう。だけど、殺してしまえば罪を償うこともできないんだよ?」

アリーシャ「私はロゼを、一緒にいた時間は少なくとも、同じ道を歩む仲間だと思っている! だからロゼ、もう殺人なんて止めて!」

ロゼ「いや、無理っしょ」

アリーシャ「どうして!? それに、殺した人間の中には極悪人以外もいたかもしれないのに!」

アリーシャ「私……だって……」

ロゼ「甘すぎ。ほんと、世間のことなーんも分かってないんだね、お姫様」

ロゼ「今更止めろとかさぱらんし。仕方ないじゃん、これがあたしの生きる道なんだから」

ロゼ「あたしは悪しか殺らない。それで、悪なら殺る。罪も全部自覚してる」

ロゼ「あたしは変わんないよ。最後までスレイの隣にいる。何も知らないでお花畑で生きてるお姫様とは違うからね」

アリーシャ「ロゼ……!」ガッ

ロゼ「何、離してよ。そんなに必死になるほど止めたいんなら、今すぐこの世全部を変えてみせたら? お姫様!」

アリーシャ「今すぐは無理でも、後の世代が変えてみせる! それを支えるのは私達だ、ロゼ!」

ロゼ「正論ばっか言ってんじゃないよ! それだけで世の中綺麗になるなら、スレイだって眠らずに済むのにさ!」

アリーシャ「スレイ!? どういうこと……説明して! ロゼ!」

ロゼ「話す気なんてないよ。アリーシャには関係ない」

アリーシャ「関係ある! 現に悟空様と私の気で、昨日のドラゴンは浄化できたのに! なのにどうして……!」

ロゼ「昨日のドラゴンは、生き残ってたって周りの人間の恨みを向けられるだけ。それに一度ドラゴンになった天族がその後のうのうと暮らしていけると思う?」

アリーシャ「長い時間をかければ生きていける!」

ロゼ「アリーシャも悟空も、人の苦悩も何も知らないような顔して! 生半可な気持ちで助けることがどれだけ辛いことか分からないなら黙ってなよ!」

アリーシャ「悟空様の悪口を言うな! ロゼ、スレイのことを話して!」

ロゼ「嫌!」

アリーシャ「ロゼ! ロゼは怖がっているだけだ!」


ロゼはアリーシャを強く押し飛ばした。
だが、アリーシャの屈強な胸元は衝撃を全て吸収した。

ロゼ「……誰が、何に怖がってるって?」

アリーシャ「ロゼ……」

アリーシャ「ロゼは暗殺者じゃなくなっても、一人ぼっちじゃない。風の骨がなくたって、その明るい性格なら沢山の友人ができる!」

アリーシャ「なのにロゼは孤独になるのが怖いんだね? だからスレイのことも、独り占めしたいんだ」

ロゼ「だったらどうっての? あたしが仮に、一人ぼっちになりたくないから暗殺続けてるとしたら? 暗殺止めても、何にもなれないよ、今更」

アリーシャ「……悟空様は言っていた。悟空様の友人には、昔極悪人だった方もいるそうだ。だけど同じ敵を前に手を取り合い、今は悪から足を洗っているらしい」

アリーシャ「ロゼ、君の生き方は暗殺だけじゃない。私はロゼのこと、すごいなんて言わない。ただの女の子でいい、これから普通に生きてくれればいいんだ!」

ロゼ「できるわけがない!」

アリーシャ「やってみなくちゃ分かんないッ!!」

ロゼ「…………ッ!」

ロゼ「…………」

ロゼ「……もういい、口喧嘩疲れた。スレイのこと話す」ハァ

ロゼの口から、スレイの考えが語られた。
スレイはヘルダルフを殺した後、五大神とも呼ばれる天族マオテラスと共に、すべての感覚を遮断して眠りにつくつもりらしい。

アリーシャ「そうすることで、あらゆる人間が天族を見えるようにする、ということか……!」

アリーシャ「無茶だ! 災禍の顕主がいなくなれば、憑魔はいなくなるだろう。
けど急に天族が見えるようになっただけでは、共存できるはずがない! お互い変わろうと決心しなければならないんだ!」

アリーシャ「現に、天族と触れ合えてしまったことで、事件に巻き込まれてしまった人間もいたんだろう……? それに、ヘルダルフは殺すしかないのか?」

ロゼ「しか、ないっしょ。悪に染まりすぎて、もう人間としては生きていけない。浄化する方法も見つけてないし。あたしだって……」

ロゼ「…………」

アリーシャ「ロゼ……」

アリーシャ「……安心してくれ。私はもう一度、スレイと話をしようと思う」

そして、ロゼは夜の街へと消えていった。

アリーシャ(ロゼ……スレイ……)

アリーシャ(私は、悟空様と出会えたおかげで、強くなれた。だからこそ、思うのかもしれない)

アリーシャ(私がやらなきゃ、誰がやるんだ、ってね)



それぞれが決意を固める中、ついに決戦の朝がやってきた。

前導師が興した村がイズチからそう遠くない場所に有り、その深部で災禍の顕主は待ち構えている。
悪に染まりすぎた、災禍の顕主ヘルダルフ。スレイの決断は、そう簡単なものではなかっただろう。


アリーシャ「おはようございます、悟空様」

悟空「おっす。で、今日はどうすんだ?」

悟空「そういやセルゲイがさっきアリーシャに伝えてくれって言ってたぞ。『後悔のないように』ってよ」

アリーシャ(セルゲイさん……ありがとう)

アリーシャ「悟空様、今まで私は、悟空様に多くのお願いをしてきました。そして悟空様はいつも、それを叶えてくれた」

アリーシャ「悟空様は私の英雄でした。……これが最後のお願いです。悟空様、スレイ達の所へ、瞬間移動してください」


フッ



そしてスレイ達はついに、前導師が興したという全ての始まりの地、カムランへとたどり着いた。
アリーシャはこの地を目指し遺跡で迷ったところを、スレイに助けられたのだ。
今はひとりではない、悟空がいる。そして強くなった自分がいる。


スレイ「……アリーシャ!」

アリーシャ「遅かったね」

アリーシャは、髪を下ろし正座してスレイ達を待っていた。
出会った頃のアリーシャとは違う、確かな決心を抱いた瞳が開かれ、その中心でスレイをしっかりと捉える。

アリーシャ「もう一度だけ、話がしたかったんだ。スレイ、君の真意を聞かせて欲しい」

アリーシャ「災禍の顕主は殺さなくてはいけないのか?」

スレイ「……」

スレイ「……うん、そうだよ。浄化の炎はと届かないし、ヘルダルフの領域は穢れが強すぎて、悟空やアリーシャは連れていけない」

アリーシャ「でもっ!」

スレイ「アリーシャ、ヘルダルフは人を殺しすぎたんだよ」

スレイの言葉で、アリーシャの胸は痛くなった。

アリーシャ「……黙って行くつもりだったのか?」

スレイ「それがオレの答えだから」

アリーシャ「……ッ!」

アリーシャ「……スレイ……!」

アリーシャは拳を地面に打ち付けた。

アリーシャ「……なら何故、スレイは眠りにつく?」

アリーシャ「確かに人間は徐々に天族を見て、触れるようになるだろう。だが!」

アリーシャ「それが共存につながるのか!? 災禍の顕主を殺すことで、スレイが眠ることで、皆の意識が変わるわけじゃない!」

アリーシャ「何故なら、私は天族の穢れた部分を知ったからだ! それは人間と同じ、当たり前の感情……生まれの特異さ、育ちの特異さだけで敬われてよいものではない」

アリーシャ「ライラ様は隠し事が上手ではなかった、ミクリオ様はいつも焼き菓子作りを失敗していた、エドナ様は私にリスリスダンスをさせるし、ザビーダ様はいつも裸だ!」

アリーシャ「いい所も、悪い所もある……だけど今でも天族のほとんどの人が、敬われて当たり前だと思っている! 
人間は、戦争という過ちを犯す!その意識の隔たりを、どうやって埋めるつもりだ!?」

スレイ「それはアリーシャ、アリーシャがやっくれるって思っているから」

アリーシャ「それは……! 他人任せと言われてもいい行動だぞ!」

ライラ「スレイさん! アリーシャさん!」バッ

二人の間に、ライラが割って入った。

ライラ「喧嘩は止めてください! ……スレイさんも、もう本当のことを言ってください」

ライラ「アリーシャさんは少なくとも、私の意識を変えました! 
アリーシャさんだけではない、アリーシャさんの情熱を受け継いだ人々、天族、全ての仲間が古き考えを改め、新しい世界に目を向けようとするのです」

ライラ「だけど新しい時代を迎えるためには、きっかけが必要なのですわ。
スレイさんはアリーシャさんを、今まで出会った全て仲間を信じているから、覚悟を決めたのですわ!」

アリーシャ「ライラ様……スレイ……私を、信じて?」

アリーシャ「覚悟……そうか、覚悟、か。
ならせめて、誰かに報告すべきだったんじゃないか? 君がいなくなったあとで報告されて、その悲しみをどう乗り越えろと言うんだ!」

ミクリオ「アリーシャ、スレイのことを分かってくれ」

エドナ「スレイだって、黙って行きたかったわけじゃないのよ」

ザビーダ「ま、昨夜までずーっと悩んでたみたいだけどな」

ロゼ「……会えば決心が鈍るかも、だからだって」

ロゼ「あーあ、あたしだってギリギリまで一緒なのに。スレイったらアリーシャとか、セルゲイとか、他の人の思い出ばっかり考えてるし」

アリーシャ「スレイ……そうか、そうだったのか……!」ハッ

アリーシャ「私はスレイの気持ちに気づかず、自分のことばかり……すまなかったスレイ、君の真意を知ったよ」

スレイは恥ずかしそうに、少し笑った。

スレイ「ごめん、アリーシャ。ずっと黙ってて」

アリーシャ「だからこそ、私は君を止めなければいけない」

スレイ「アリーシャ?」ハッ

アリーシャは立ち上がり、そして槍の柄を一度地面に突き、後ろで待っていた悟空を呼んだ。

アリーシャ「君の覚悟は受け取った……だけど、それでも私は君を失わせはしない!」

アリーシャ「王族ではない、アリーシャ・ディフダ個人としてここで君を止めてみせる!」

スレイ「アリーシャ、戦うの!?」

アリーシャ「安心しろ、悟空様の仙豆がある。総力をあげてかかってこい。その代わりに、私達も全力で戦わせてもらう」

アリーシャ「悟空様、アレをやりましょう」

悟空「どっひゃぁ~、マジでやんのか? 一回も成功してねえし、オラベジータとくれえしかやったことねえからなぁ」

悟空「おめえとは背が違うし、性別も違えし、どっちかって言うとおめえとロゼのほうが成功しそうだぞ」

アリーシャ「背丈は舞空術でなんとかなります。さあ、気を私に合わせてください」

悟空「むっかしいな~。しょうがねえ、いっちょやってみっか!」バッ

スレイ「な、何をする気……!?」チャキッ

アリーシャ「フュー……」

悟空「ジョン!」

スレイ「…………」

アリーシャ・悟空「ハッ!!」

スレイ「!!!!」ビクッ


カッ!!


ゴクーシャ「ふん……どうやら上手くいったみてえだな」パチパチパチパチ

スレイ「こ、この雰囲気は一体……!? まるで一気に戦闘力が上がったみたいだ」クッ

ロゼ「見た目はほとんど悟空だけどね……むしろそれでかなり強そうに見えるけど」

スレイ・ロゼ「負けられない!」

スレイ「フォエス=メイマ!」バッ

ロゼ「ハクディム=ユーバ!」バッ

ゴクーシャ「でゃぁーッ!!!!」ズアッッッッ




そして一時間後。

戦いは終わった。その場に倒れ込んでいる三人に、悟空は仙豆を投げ渡す。


アリーシャ「私はいいです。もう……私の戦いは終わりましたから」

アリーシャ「王族アリーシャとして、私は私の戦場に戻ります。……私はスレイ達に負けた。もう彼らを止めることはできない」

スレイ「でも最初の三十分間は、本当に負けるかと思ったよ」

ロゼ「その後二人に分かれてから、なんとかギリギリ勝てたって感じ……」

スレイ「……悟空はただ、戦いを楽しんでただけみたいだしね」ハハッ

アリーシャ「スレイ」

スレイ「うん」

アリーシャ「必ず変えてみせるよ、この世界を」

スレイ「信じてるよ、アリーシャ」


スレイ「そうだ、言い忘れていたことがあったんだ」

スレイ「アリーシャ、オレ、この世界を変えたい。けど一つだけどうしても変わって欲しくないものがあるんだ?」

アリーシャ「……? 何かな、それは」

スレイ「アリーシャの笑顔。それじゃ、アリーシャ」

ロゼ「またね」





アリーシャ「…………」

アリーシャ「行ってしまった……か……」

悟空「今日は泣かねえんだな、おめえ」

アリーシャ「最後に見せるのは、笑顔でありたいですから」

悟空「アリーシャ、いっぺんオラに拳打ち込んでみろ」

アリーシャ「え……? はい、いきますよ」

アリーシャ「ハッ!!」バシッ

悟空「お~、おめえほんと強くなったな。手がジンジンすっぞ!」

アリーシャ「ハッ!! やあっ!!」バシッバシッッ

悟空「でえじょおぶだ。おめえのこの強さなら、どんな敵にだって立ち向かえる」

アリーシャ「悟空様……!」バシッ


アリーシャの拳が、悟空の胸の前でピタッと止まった。

悟空「いい母さんになれよ」

アリーシャ「はいッ……」

悟空「天族と、仲良くしろよ」

アリーシャ「はいッ……悟空様……」

アリーシャ「今まで……ありがとうございましたッ……!」

悟空「バイバイ、アリーシャ。おめえがいたから楽しかった」




そして、スレイは長き眠りについた。
ハイランドとローランスの間には正式に停戦協定が結ばれ、商人にとってより効率的な流通経路も開かれた。
アリーシャ・ディフダは人間、天族分け隔てなく、これから世界に起こること、そしてそのためにどうすればよいのかを説く旅を始めた。
過激派勢力の残る中、彼女が己の道を歩めたのは彼女自身の強さと、彼女と支えあった悟空のおかげ、かもしれない。
全てが終わり、新しい始まりを迎えてから一ヶ月が過ぎる頃には、アリーシャの教えは誰もが知るあたりまえの常識、となっていた。

アリーシャ「集まっていただき、感謝する」

アリーシャ「こうして私が皆の前で話すことができるのは、自ら変わろうと決心してくれた市民、そして天族の方々の支援によるものだ」

アリーシャ「もう天族と交流を始めた方はいるだろうか。大丈夫、人間も天族も同じ、グリンウッドに生きる私たちの仲間なのだから」

アリーシャ「知っての通り、導師スレイは天族の中で生きていた。私は導師スレイと共に、旅をしたことがある」

アリーシャ「天族の皆さんと共に歩き、眠り、そして食事をした。美味しいと感じる心は、皆同じだ」

アリーシャ「それでも、どうしても辛い思いをした時は、もう一度自分の心と向き合って欲しい。誰もが持つ穢れの隣に、隠されていた力が見えるだろう」

アリーシャ「それが誰もがあたり前に持つ、気だ」

アリーシャ「穢れが憎しみ、悲しみ、そして孤独であるならば、気は情熱である。忘れないで欲しい、生きるということはいつも、心に情熱を秘めていることを」

アリーシャ「私は学校を建てようと思う。そこで人間と天族、両方が学び、そして力を受け継いでいく世界、今まで側にあったのに、見えなかった世界を照らしたい」

アリーシャ「二人の師匠、そして一人の勇敢な導師にこの言葉を捧げます」

アリーシャ「情熱は、今世界を照らしていますよ、と――」



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