一夏「流星群、見に行こうぜ!」(66)

【2011年5月8日 午前7時11分 is学園食堂】

のほほんさん「織斑君、朝からいっぱい食べるんだねぇ!」

一夏「あぁ、朝飯は1日の活力だからな。っというか、みんなそんなに少なくて大丈夫なのか?」

女子「え、えへへへ・・・女の子は、間食とかしちゃうからね・・・・。」

いつもの様なみんなとの朝の雑談。

千冬「おいバカ共!早く食事を済ませろ!」

そして、いつもの様に千冬姉の激が飛ぶ。
皆さっきまで談笑していたというのに食堂の雰囲気がまるで戦場の様な緊張感に包まれる。
食堂には、マシンガンの発砲音のように「カチャカチャ」という、食器の擦れあう音が世話しなく響く。

俺も一気に飯を喉に放り込み、それを拭い去るように水で一気に胃袋へ流し込む。

ニュース「本日、国立天文台より発表がありました。」

ニュース「これまでの物に比べ、比較にならないほど綺麗な流星群が見られるそうです。」

ニュース「これは、これまで未発見の流星群であり・・・・」

ニュース「太陽系の周りを何十万年もかけて一周しているとの予測が発表されました。」

ニュース「今週の全国のお天気は晴れになる見込みから・・・」

ニュース「日本時間5月10日午後6時頃よりとても綺麗な星空をお楽しみ頂けるでしょう。」

ニュース「こちらの千葉県某所では、既に多くの天体ファンが海沿いにてテントを張っての準備を・・・・」

一夏「へぇ、流星群かぁ・・・それも何十万年に一度だって!すげぇな、箒!」

箒「べ、別に星空などに興味は無い・・・見たからといって、特段何かあるわけでは無い・・・・。」

箒「い、一夏となら見たいが・・・・」ボソッ

一夏「ん、箒なんか言ったか?」

箒「ふ、ふん!なんでもない!」ガタッ

一夏「おい、待ってくれよ箒~」ガタッ

~学生寮 一夏部屋~

【2011年5月9日 午後5時12分】
ニュース「緊急放送です!先日御伝えした流星群が、突如進行方向を変更!」

ニュース「地球に向け進路を変更しました!」

ニュース「落下予測地点は、アメリカ北東部。中国沿岸部。日本太平洋沖。ロシア南西部。地中海・・・・」

世界中の落下予測地点が読み上げられる。

隕石が降ってくる・・・・。

数は約40、1つの直径は10km~15km、速度は13km/s

それに大気圏で燃え尽きることは期待できそうに無い。

落下予測時刻は5月11日午後7時。

隕石の軌道修正の理由は今だ不明・・・・。

専門家の意見だ。

ニュース「落下予測コースから逸らせるため、国連加盟国による核ミサイルを用いた」

ニュース「隕石の軌道修正という形で結論が出た模様です。」

専門家「各国が保有する核弾頭、全てを撃ちこむことはありえないでしょう。」

専門家「特にアメリカにとってはテロに対する牽制手段として核の使用を控える可能性も・・・・・・」

一夏「何言ってんだ!非常事態なんだぞ!」

一夏「10kmの隕石が大量に降り注げば地球なんて一発で終わりだ!」

一夏「人が住めなくなるどころじゃないぞ!」

俺はテレビに向かって、このやるせなさをぶつける様にひとり叫び声を上げていた・・・。

【2011年5月9日午後11時37分】
ニュース「各国より、隕石の軌道修正を目的とした核ミサイルが次々と発射れています。」

ニュース「その数は520発にも及び、世界中の国連加盟国の軍事施設から発射されています。」


【2011年5月10日午前2時07分】

ニュース「nasaの発表によりますと、隕石の軌道修正に失敗したとのことです・・・。」

ニュース「繰り返します。隕石の軌道修正に失敗。理由は不明。」

ニュース「軌道修正は一時的に成功したものの、質量が大きく微々たるものであったとの見解もあります。」

ニュース「しかし軍事関係者からは、軌道修正成功後に隕石が自立的に方向修正を行った可能性があるとの話も・・・・。」

何か嫌な予感がする・・・。

そもそも軌道修正が失敗した以上、これ以上自体が悪化することは無い・・・。

地球は、終わるのか?


世界各地では、ハルマゲドンだとそこら中で強奪や強姦が相次いでいる・・・。

isが抑止力となっているためか、学園内ではまだ治安は保たれているが・・・・。

シャル「一夏・・・怖いよぉ・・・・・」

シャルが俺の手を震えながら握り締める・・・・。

一夏「大丈夫だって、きっと大丈夫だ・・・・・」

俺はシャルの小さな手を握り返しながら、根拠の無い励ましをする。

自分の足を震わせながら・・・。

【2011年5月10日午後6時12分】
ニュース「世界各地より再度、軌道修正を目的とした核ミサイルの発射が行われました・・・。」

is学園のみんなは、寝ないで食堂にあるtvに噛り付いている。

千冬「・・・・・・・」

千冬姉の表情からは、いつも通り何を考えているのかさっぱり読み取れない。
だが、声を掛けようと近づいてみると、体が少し震えていた・・・・。

一夏「織斑先生・・・・」

千冬「・・・・・なんだ」

一夏「束さんに頼んでどうにか成らないのか?」

千冬「・・・・もうやっている。」

少し驚いた。束さんを頼りにする程、千冬姉が焦っているということ。
それでも尚、体が震えて不安を隠しきれて居ない。
要するに『お手上げ』ということか・・・。

【2011年5月11日午後4時11分】
ニュース「核ミサイルによる軌道修正は失敗しました。」

ニュース「これにより・・・はい?えっ!?い、隕石の速度が急激に減速しました!原因は不明です!」

減速・・・・?一体、何が・・・・

ニュース「隕石が衛星軌道上にて地球自転速度との同期を確認・・・・。」

ニュース「国連より全世界に非常事態宣言。」

ニュース「各国は軍にスクランブルをかけ・・・・い、隕石を光学にて捉えた映像です!」

そこに映し出されていたのは、隕石ではなかった。

まるで鋭利で細長い棒・・・・。

中央に小さな円盤状の・・・いや、それが直径10kmなのか?

そうなるとあの細い棒の部分は長さ100kmほどはある・・・。

すると突然千冬姉が叫んだ。

千冬「isは練習機も含め、全機アリーナへ集合!優先的に3年を載せろ!他の者も遅れをとるな!」

山田先生「皆さん、アリーナの中へ来てください!」

山田先生の指示通りに全員がアリーナへ向かっている。千冬姉は、電話で誰かと話しているみたいだ。
いつにもなく千冬姉が、真剣なように俺の目に映ったのは、俺の心が弱気になっていた所為だろうか・・・。


―アリーナ―

落下予定時刻を既に5時間は過ぎている・・・・。

アリーナにレベル5の非常事態が敷かれて既に4時間。

セシリア「さ、さすがに夜は冷えますわね・・・・」ぷるぷる

一夏「セシリア、もっとこっちへこい。くっついていれば寒く無いさ。」

セシリア「い、一夏さん・・・・・///」するする ぴとっ

次の瞬間だった

ものすごい風切り音・・・轟音だ。そして、震度がいくつかも分からない程の地響きと振動。

それによりアリーナ内の照明がフラッシュのようにチカチカと点灯を繰り返し・・・・。

更なる地響き!座っている筈の体が飛び跳ねる程だ!一体何が起こった!?

そして、何かが地響きと共に忍び寄ってくるような音・・・・津波だ!!

is学園のある人工島は、津波の影響を受けやすい。アリーナは津波対策については万全だが・・・・。

ドドドドッドドドッドドッ!!ドドドドドドドッ!!・・・・・・

津波がアリーナを乗り越えていく音、建物が流され津波で引き戻される際にアリーナへぶつかる音・・・・
皆必死に悲鳴を上げるのを堪えているのが分かる・・・。

そして照明が完全に落ちた。

恐らく隕石らしきものが海に落ちた・・・・それによる津波・・・・?

この程度なのか?

明らかに自然の物体ではない、人工物だった・・・・あれは一体・・・・。

教師達が、怪我人が居ないか、ライトを照らして確認して周っている。
俺はクラス代表。クラスみんなの点呼を取り、元気付けながら周る・・・・。

千冬「全員聞け。ここは破棄する。地下エレベーターから地下へ逃げるぞ!」

地下エレベーター?そんなものがあったのか・・・?

千冬「優先的に専用機持ちを下に降ろす!いいな!」

反論する者などいない。

この状況をどうにかできるのは千冬姉しかいないのだから・・・・。

俺達は、isが2機ほど入れるような大型エレベーターで地下へ降ろされた。

鈴「ちょ、ちょっとあんたどこ触ってんのよ!」

一夏「悪い悪い、そんなつもりは無かったんだが・・・」

箒「一夏、貴様という奴は!」

一夏「暴れるなよ!ただでさえぎゅうぎゅう詰めなんだから!」

どうやら着いたようだ・・・・。そこにあったのは、小型の潜水艦が3隻ほど・・・・。

千冬「よし、機体を持っている者はこれで全員揃ったな・・・・ん?」


発砲音だ!!

千冬姉のインカムから音が漏れる。

山田先生『早く乗ってください!私が食い止めていますから!!“ドドドドドドドッ”』

他の教師達も迎撃しているようだったが・・・・一体何と戦っているんだ・・・・?

インカムからは、生徒の悲鳴と発砲音しか聞こえてこない・・・・

そしてインカムが途切れ、最後のエレベーターが・・・途中で止まった。

千冬「ちっ!全員早く乗れ!」

途中で止まったエレベーター・・・中で何が行われているのだろうか・・・・・。

俺達、生き残った専用機持ちと練習機持ち・・・

200数十名は小型潜水艦に押し込まれ、すぐに移動を開始した・・・・。

一夏「どこへ向かうんだ・・・?」

何かとてつもないことが待ち受けているような気がして、千冬姉に聞いて見る。

千冬「・・・・・・束のところだ」

っということは、移動用の研究ラボ・・・・?

確かに見つかりにくいが、一体どこに・・・・?

千冬「見えてきたぞ。」

食堂での連絡はこういうことだったのか・・・・すぐ傍まで来ていてくれた・・・・。

潜水艦・・・・でかい!あれじゃまるで、海の中の島だ!

俺達は潜水艦の下方にあるドッキングベイから乗り込んだ・・・・。

束「やぁやぁ、よく来てくれたねぇ!うんうん、言いたいことは分かってるよぉー!」ぽちっ

束「現状の説明だねぇ~♪」

モニターに映し出される軍事衛星からの映像・・・束さんがハッキングしたんだそうだ。

録画したものを再生させているようだ・・・・。

棒状の部分が先に海底に突き刺さり・・・。

円形の部分がその衝撃で棒を滑り落ちるように落下している。


束「そして、この落ちたお団子のところからぁ~・・・・」

うじゃうじゃと虫のように何かが放たれていく・・・・。

山田先生はこいつらと戦って・・・・そして・・・・・・。

千冬「で、どうなんだ。今後の見通しは。」

束「とりあえずis関連の企業は全滅だねぇ。」

束「軍事施設や主要都市の近くに落下したのが多いから、」

束「地球規模で機能が麻痺しちゃってるよぉ~」

束「津波の影響もあるしねぇ・・・・。あれそのものがまるで質量兵器だよぉ。」

束「だから当分はここで生活するしか無いんじゃないかな?」

千冬「要するに、打開策は無いということか。」

束「そうなるかなぁ・・・でもご安心!」

束「この原子力潜水艦、すっごく大きいんだよぉ!オハイオ級の3倍はあるよ!」

千冬「さっきの津波で影響がなかった時点で分かる。」

千冬「それに、こんなデカ物でよく今まで逃げおおせたな。」

束「天才だからねぇ!えっへん!」

どうやらここが、地球上では一番安全なところのようだ・・・・

ラウラ「おい、嫁。」

一夏「どうしたんだ、ラウラ」

ラウラ「ここでも寝技の特訓はできるのか?」

一夏「・・・・・・・・・」

ラウラはいつもの調子だ。

ラウラなりに俺を励ましてくれているのだろうか?

千冬「で、今はどこへ向かっている?」

束「北極だよ。とりあえず大都市から離れた辺りに行けば、標的になりにくいからね!」

千冬「ふむ・・・同感だ。で、お前はあいつらをどう見る?」

束「宇宙人っていうのが一番妥当じゃないかな?」

束「さっきのお団子が宇宙船。棒が推進源兼、母体ってところかな?」

束「でも・・・・isに似てるんだよね、この宇宙人。」ピッ

軍事衛星から捉えた、デュノア社の迎撃is部隊との好戦映像・・・・。

敵の数が多すぎて相手にならないようだ・・・・。

全員嬲殺しに遭っている・・・・。

束博士が詳細を得ようと映像の倍率を上げる・・・・。

殺すと言うよりは、体を解体しているような映像が映し出される。

室内には生徒達の嗚咽やすすり泣く声が静かに響き渡った。


シャル「・・・・・・・」

複雑な表情の横顔を見せるシャル・・・・

悲しいのか嬉しいのか・・・・

そして、嬉しいと思ってしまっている自分を悲しんでいるような・・・

一夏「シャル・・・・」なでなで

シャル「えっ・・・・・」

一夏「今は生き残ることだけを考えよう。他の事を考えるのは、その後だ。」ぎゅぅ

シャル「一夏・・・・・ありがとう・・・・・・」

そんな雰囲気をなんとかなだめ様と千冬姉と束さんが打開策を話始める。

束「行動範囲はほとんど無限だよ。お団子から飛び出したのが小型の輸送船。」

束「映像から見ると、小型輸送船で敵isは補給を行ってる。」

束「輸送船の行動時間はまだよく分からないけど、もう4時間は飛び回ってる。」

束「なのに一向にお団子に戻ろうとしない。」

束「無線によるエネルギーの補給を行ってる可能性があるよ。お団子からの。」

束「それにね、お団子じゃない形をしたのがまだ衛星軌道に残ってる。」

束「それぞれのお団子のほぼ真上。」

束「まるでヒトデみたいな形・・・恐らくソーラー発電。」

束「そこで発電したエネルギーをマイクロウェーブでお団子の串に送ってるみたい。」

束「要するにsspsだね。それに発電効率が異常に高くないとあれだけの数を動かすのは難しいと思う。」

千冬「なら、衛星軌道のソーラーを潰して時間を稼げば、勝ちなのか?」

束「手段がもう無いよ。それにもう、新しいエネルギー供給源を見つけたのかもしれないし・・・・。」

千冬「どういうことだ?」

束「地熱だよ。串の部分の先端が地殻に刺さってる。恐らくマグマにも届いてるはず。」

束「ペルチェ素子による温度差を使えば発電できるし。」

束「後考えられるのは、海洋の温度差を使っての発電、私達が使ってた発電設備の転用。」

束「まぁ、挙げればキリが無いね。」

束「だからエネルギーの供給手段を経つのは難しいよ。情報が少なすぎるし。」

千冬「情報を得る時間も無く、情報を得る方法も限られてくる・・・・か。」

束「後は・・・・もう戦うしか無いかなぁ・・・・。」

千冬「・・・・・・」

何度話し合っても絶望的な答えにしか辿りつかない。

しかし、束さんの言葉に何か違和感を感じる。

まるで、回答を誘導しているような・・・・。

いや、束さんに限ってそんなことをする筈が無い。そもそもメリットが無い。

だが、こんな状況でメリットもデメリットも言えたものか?

俺達をお荷物だから戦わせて消し去りたい?

なら、なぜ初めに載せた?この中に、回収したい人間がいた?

そして、その人間を回収したいために、わざわざこの人数を・・・・。

箒「・・・・・ちか!」

俺は何を疑っている、束さんがそんなこと・・・・でもさっきの言動・・・・・。

箒「おい・・・・ちか!」

明らかに思考を誘導していたような・・・・・。

箒「おい、一夏!」ゆさゆさ

一夏「お、おう!どうした箒?」

箒「どうしたかじゃない!あれを見ろ!」

軍事衛星は、核により自国を焦土にしながら撤退戦を行う米軍を映し出していた。

まだ民間人が残っているであろうと思しき街や基地ごと、爆風が飲み込んでいく。

『綺麗な流星群が見られるでしょう・・・・』というニュースの映像が脳裏に浮かぶ。

一夏「はぁ・・・・どうしてこんなことになっちまったんだ・・・・・・」

俺は今回の騒動が始まって、初めて弱音を吐いてしまった。

恐らく人類は、この未知の敵に破れて死ぬんだろう・・・・・。

しかし、なぜ奴らはisと似ている?

一夏「束さん。奴らはなぜisに似ているんですか?考えだけでも教えてください。」

束「そうだねぇ~、ん~・・・・・衛星軌道上で一時的に待機していた時間があったよね?」

束「あの時に、この星で最強の装備をスキャンニングして、コピーしちゃったんじゃないかな?」

一夏「そうですか・・・・確かにそうですね・・・・・・」

やはり引っかかる。

未知の敵とは言え、あの短時間でスキャンとisの製造ができるものなのか?

千冬「もし、戦うことになった場合。敵のスペックとこちら側の補給について聞きたい。」

束「どっちも問題ないよぉ♪敵のスペックは第二世代前半並。」

束「補給は、電力が余ってるくらいだからね、この潜水艦。好きなだけ使っていいよ♪」

千冬「敵は質ではなく、数でくるわけか・・・・・」

束「そうだよぉ~。だからこっちは質を使った短期決戦を挑むのが一番効率がいいと思うよ。

束「相手の攻撃は止まないからね。」

千冬「わかった。まず敵の手薄な場所を探して、全員で叩きのめす。」

千冬「それで敵の実質的な攻撃力が見えてくるだろう。そうすれば作戦も組みやすい。」

束「そうだね。そうなると・・・・このまま札幌の辺りに着けちゃおうか。」

束「敵も手薄だし。あと1時間ほどで着くよ」

千冬「よしお前ら、今から隊を組む。クラス順に並べ。」

専用機持ちはそれぞれ5人の部下を持たされ、小隊を組まされた。

千冬「これは戦争、殺し合いだ。今までのモノとはわけが違う!ptsdには気をつけろ!」

千冬「異常があった者がいればすぐに帰還させろ!よし、出撃だ!!」

俺達は、浮上した潜水艦の甲板までダッシュし、小隊ごとに分かれて周りを見渡す。

久しぶりの外・・・・だが、空気が重い。

空は天気予報とは正反対の、ドス黒い雲が渦巻いている・・・・・恐らく普通の雲では無い。

雷や雨が無いだけマシといった程度か。

千冬『よし、全員出撃しろ!』

一夏「来い!白式!!」

俺はいつもより力強くガントレットを握り締め、白式を呼び出す。

周りの女子達もisを展開していく。

「is展開!」

「あ、is・・・展開っ・・・・!」

「is・・・展開・・・・・」


色んな気持ちが声量や口調で伝わってくる・・・・。

悲しんでいる者や仇をとりたい者、戸惑っている者・・・・。

しかし今は俺が小隊長。指揮を採らなければ・・・・。

一夏「みんな大丈夫だ。」

一夏「敵は全機近接型!距離を保って挟撃すれば勝てる!」

一夏「それに、いざとなったら俺がなんとかしてやる!」

他の小隊の女子達にも俺の声が聞こえたようで、それなりに安心させることができたのだろう。

周りが少し活気付いたような感覚に陥った。

一夏「よし、行くぞ!基本はツーマンセルだ!」

後ろを振り向くと、他のisも発進しているようだ。

昼間だというのに、ドス黒い雲とそれを映し出すドス黒い海。

そして、その間をただまっすぐとミサイルのように飛ぶ俺達。

既にまともに抵抗できる勢力は俺達だけだろう。

世界の終わりを見ている。

こんなにも寂しくて、孤独で、絶望的な日があっただろうか・・・・。

俺は、この抵抗が玉砕でないことを祈るばかりだ・・・・。

建物を破壊し、潰し、抵抗する自衛隊を難なく交わして装甲車を破壊している敵is。数は50。

ラウラがオープンチャンネルで話しかける。

ラウラ「援護に来た、指揮官は誰だ。」


するといくつかの返答が返って来るが、ほとんど似たようなものだった。

『指揮系統は無茶苦茶だ。今は、恐らく俺かもしれない。』


指揮官がやられてしまったのだろう。

誰しもが、指揮官だと自信無く名乗り出る。

第二世代型相当とは言え、isへの抵抗は難しいものがあるようだ。

ラウラ「では、住民を避難させつつ撤退しろ。ここは我々が食い止める。」

『ありがたい!』

『済まないが、頼む!』

人に頼られるというのは悪い気はしない・・・戦争で無ければ・・・・・。

潜水艦の護衛に100、戦闘に100を割いている。

敵の数は50。単純計算で、戦力差は2:1

全滅とまでは行かなくても、半数は倒せるはずだ。

市街地に突入する。

奴らが見えてきた。後方からセシリア達の遠距離射撃が始まる。

やはりis。色は白銀で統一されている。

俺達は片側2車線の道路に着地して周りを警戒しつつ、低空を滑走する。

そんな俺達に向かって、敵isが3機突進してきた。

こちらはツーマンセルに切り替える。

一夏「うぉぉおおおお!この野郎ぉおお!」ギンッギンッ!ギンッ!

「えいっ!たぁっ!!」

戦闘力は、確かに低い。ツーマンセルでもかなり余裕がある。

形状はどことなく、白式に似ていなくも無いが、他の機体にも似ている。

掴みどころが無いデザインだ・・・。

他の隊も到着してきた。同士討ちだけは勘弁願いたい。

鈴の龍砲は特に食らいたく無いものだ。

ドドドドドドドドッ!!

ズズズズズズッ・・・・ドォーン・・・・・・。

銃声と建物が崩れる音が鳴り響く。

一体何体のisを串刺しにして、爆発させただろうか・・・・。

作戦開始から20分ほどで戦闘は終了した。他の隊が輸送船5機全てを撃墜した。


敵が全滅したのだ。なぜ撤退しなかったのだろう・・・。

通常であれば2割程度失った段階で撤退するのがセオリーだが・・・・。

理由は誰にも分からない。

俺は何のけなしに自分が立っている道路の足元を見つめた。

中学生くらいの女の子が上半身だけになって転がっていた・・・・・。

戦闘中はピクリとも動かなかった為か、気がつかなかった。

街中は俺達が来る前から、既に死体だらけだったのだ。


千冬『敵はもうその辺りには居ない。全機帰投しろ。』

千冬姉の声で俺は我に返り。小隊員に怪我が無いか、状態を見て周る。

みんな疲れたような、虚しいような顔をして足元の死体達を見つめていた・・・・。

艦に戻る。死者0名 負傷者2名。

千冬「よし、全員生きているな。では、これからの事だが・・・・」

全員憂鬱な気分で下を向き、千冬姉の言葉に耳を貸す。

千冬「我々は敵主力部隊に攻撃をかける。このまま南下し、学園へ戻る。」

千冬姉の言う『主力部隊』というのは、団子のことだ。

相当の数がいると思うが・・・・恐らく勝機があると踏んでの事だろう。

千冬「異論があるものは?」

重い空気の中、1人の生徒がポツリと言った。

「さっきの人たち、見捨てるんですか・・・・?」

誰しもが思っていた事。だがあえて聞かなかった。

いや、聞きたくなかった・・・。

千冬「・・・・・・そうだ。」

千冬姉の力ない言葉。もう誰も反論できる者はいなかった。

俺達は太平洋経由で本州を南下した。

途中、何度かの戦闘があったが、戦闘スタイルや状況は特に変わらない。

市街地、敵は接近戦専用装備、小隊事でのチームプレイ、そして・・・・死体。

ほとんどの沿岸部は津波で流され、人も建物も無い状態だったのが幸いしたのか、

接敵することが少なく、戦闘が頻発することは無かった。

それは、東北にほとんど人が居ないことを物語っていた。

日本海側からと太平洋側からの津波により挟み撃ちにされたのだから・・・・。

そして戦闘と休憩を挟み、最初の戦闘から1日が過ぎた頃。

敵の主力部隊から5kmの地点にまで接近し停止した。

束「本当にいいんだね?」

千冬「あぁ、それにお前が言い出したことだろう。」

千冬「敵のis保有数から逆算すれば、アレを潰せると。」

千冬「そしてエネルギー供給ができなくなれば奴らは無力化できる、と。」

束「それはそうだけど・・・・・わかった、じゃあ浮上するよ」

千冬「よし、全員出撃しろ!艦の守りは最低限の人数で行う!」

艦には20人ほどを残し、全機出撃した。


先生の仇、友達の仇、学園の仇。

大切なものを奪ったモノに対して直接的な敵討ちが出来る。

関東沿岸に刺さった槍を見上げつつ、俺達は接近する・・・。

敵isが多数迎撃に来た!

千冬『敵数、約1200!右翼から前進してくる、火力を集中させろ!』

千冬姉の指示に従って、皆が攻撃を開始する!

戦力比1:6 通常なら勝ち目は無い・・・・

だが、あいつらは第二世代型だ!

一夏「行くぞ!うぉおおおおおお!!」


千冬姉から次々と指示が来る。

千冬『敵数残り600!上空から一斉射撃で援護、そのまま全機突撃だ!』

俺が鍔迫り合いを始め、また1機落とす・・・・。


右側面から斬りかかってくる。俺はそれを受け止め・・・・・きれない!?

俺は雪片を落としてしまった!

海に沈んで、見えなくなっていく雪片・・・・そして、敵isの形が変わる。

色が黒くなっている!何が起きてるんだ!

機動力が全然違う!それに、パワーも桁外れに・・・・!!

そして、空の色がどんどん黒くなっていく・・・・ここにきて、敵の増援だ。

あんなに戦力を残していたなんて・・・・・。軽く見積もっても5万はいる・・・・。

絶望感だけが漂う・・・・。

後ろから千冬姉の撤退指示が出るが・・・・逃げるのは無理がある。

誰かが、囮になって時間稼ぎをしなければ・・・・・。

俺しか居ないだろう・・・。

もう一度、雪片を呼び出し、機動力からして第四世代並の奴らに向かって突進をかける。

だが他の機体も、艦に残っていた機体さえも全機突撃した・・・・・。

考えることはみんな同じのようだ。

千冬『貴様ら、止めろ!止めるんだ!艦にもど・・・・パァーン・・・・ぷしゅー・・・・・・』


一瞬何が起こったのかと、俺は艦に目を向ける。

束『はぁ~い、篠ノ之 束だよぉ。』

束『ちーちゃんは今、私が殺しましたぁ~♪』

束『だから、さっさと全員突撃してくださ~い♪』

一夏「束さん、あなた何を言っているんですか!?」

束『いっくん、そんなことしてる暇あるのかなぁ?』

一夏「うおっ!!」

速い!それに数が多い!!

ドスッ!ギンッ!!

「キャーッ!!」

撃墜される者が出始めるが、何か様子がおかしい・・・!

奴ら、撃墜した子を生きたまま連れて行きやがる!

クソ!連れ戻しに行くなんて余裕は無い!

全方面を囲まれて、視界が真っ黒だ。

わかっては居たが、こいつら確実に無人機だ・・・。

死を恐れていない。だから初戦の時、撤退しなかったんだ!


そして、周りで撃墜される声が聞こえ・・・。

気がついたときには、白式は力尽き俺の体を奴らが運んでいた・・・

一夏「ここは!?」

どうやら気絶していたらしい。真っ白い部屋。サイズは15㎡程度。

ここは天国か?それとも地獄か・・・・死んだと思ったが、生きている?

そうなると、ここは恐らく敵の本拠地内。

右腕に目をやる。ガントレットが・・・・・無い。

すると突然ドアをノックする音。

コンコン

束「もしも~し、入るよぉ♪」

ガチャッ バタン

束「色々聞きたそうな顔をしているねぇ♪」

一夏「くっ!束さん!なぜ千冬姉を殺したんですか!?」

束「邪魔だったからだよぉ、計画の♪」

束「私はねぇ、彼らがくれた知恵の実を食べちゃったんだよぉ・・・・。」

一夏「・・・・・どういう意味ですか?」

束「アメリカに旅行に行ったことがあってね。」

束「ホテルに泊まったんだぁ。」

束「夜になって眠ろうと思ったら、外から轟音がして・・・・・窓を開けたの。」

束「すると小さな黒い玉が目の前に浮いててね。」

束「初めはびっくりしたんだけど私の方にゆっくり寄って来たから怖くなかったんだぁ。」

束「材質は不明。柔らかい時もあれば硬い時もある・・・・。」

束「浮く原理も不明。中を開けたくて開けたくて仕方なかった♪」

一夏「その玉って・・・・・。」

束「玉は彼らが暮れた贈り物。」

束「それこそ、何億何兆・・・もっともっとたくさん宇宙にばら撒いたうちの1つ。」

束「それが、地球にたどり着いて大気圏から突入。」

束「その辺りに居る一番頭のいい人間を選んで、誘惑した。それが私。」

束「日本に帰ってからすぐにナイフで中を切り開いてみた。」

束「そしたら中身は黒い種のような物が無数に入っててね。」


束「それで、全部食べちゃったの。」

一夏「ど、どうしてそんなこと・・・・。」

束「だって、とってもおいしそうな匂いがするんだもん。」

束「『食べて、食べて』って言ってるみたいだった。」

束「私は無我夢中で頬張ったよぉ。口の周りを真っ黒にしながら。」

束「そしたら、頭を侵食されて大脳が乗っ取られちゃったみたいなんだぁ~♪」

一夏「・・・・ずっと前から、束さんは壊れていたんですね。」

一夏「それで全員差し出した。」

束「そういうことだねぇ♪箒ちゃんや他の子達にも悪いなぁって思うんだけど

束「こればっかりは仕方無いんだぁ♪」

束「isの作り方、コアの作り方、そして彼らとの交信方法

束「全ての情報が玉から頭に入って来た。」

束「私は彼らと交信して、この星の位置情報を送り続けた。」

束「その間にisを開発して、私は世界的な実権を握ろうと考えた。」

束「無人機を作ったのだって、そう。彼らの技術を使った実験。」

束「ついでに世界を掌握しようと思ってたんだけどぉ・・・・」

束「ちょっと彼らが来るのが早かっただけだけどねぇ~♪」

一夏「コアを発表した時から、いや・・・・もっと前から企んでたんですね・・・・・。」

束「企んでいたとは聞き捨てなら無いなぁ~♪乗っ取られていたって言って欲しいよぉ♪」

束「もう、いっくんが知ってる、昔の束さんじゃないからねぇ♪」

一夏「・・・・・・・・奴らの目的は?」

束「ん~、無人isで他の星を乗っ取っては資源を食い漁ってるとしか知らないけどぉ」

束「まぁ、星に寿命がきたら仕方無いよね?」

束「あっ、来た来たぁ!」

「・・・・・・・」

そこには狂喜乱舞する束さんと、『彼ら』が3人居た。

身長は2mを越えている。

真っ黒な薄い宇宙服のようなものを着た3人。手には・・・黒い球体。

束「今丁度説明が終わったところなんだぁ」

『・・・・・・・・』ビィッシュッ!

次の瞬間、球体から白いピアノ線の様なものが20本ほど飛び出し・・・

束さんの顔をぐちゃぐちゃに引き裂いた。

白い部屋に飛び散る血と肉片。

首からシャワーのように飛び出す鮮血が、部屋中を真っ赤に染める。

一夏「な、仲間じゃなかったのか!?」

『コイツから得る情報はもう無い。用済みだ。』

文字が球体の上に浮かぶ・・・・口が、無いのか?

文字や言語は事前調査で調べていた・・・?

一夏「俺も・・・俺達も・・・・そうするつもりか?」

『バカな。貴様らには死んでもらっては困る。』

一夏「何を言ってる!じゃあ俺達をどうする気だ!」

『この星で暮らしてもらう』

一夏「回答が的外れ過ぎて、意味が分からねぇぜ?」

『我々の管理下で、この星で暮らしてもらう。』

『isやコアについての知識はこの女より我々の方が上だ。』

『だが、我々の星にはisを操縦できるものがもう居なくなってしまった。』

『そして、搭乗者とisの相性についての研究を行ったが既に行き詰った。』

『貴様らには実験台として一生我々の管理下で暮らしてもらう。』

一夏「何言ってんだ!?嫌に決まっているだろう!!」

『お前が口答えする度に1人殺すぞ?』

一夏「くそっ・・・・!」

今は奴らに従うしか無いのか・・・?!

俺はその後、女子達全員がいる部屋に放り込まれた・・・・。

会えたことを喜ぶ者もいるが、みんな檻に入れられた猿のように怯えていた。

そして、彼らが使う謎の黒い球体によって津波被害にあった学園はすぐに再建された。

学園の周りは高さ50mほどの壁で区切られた。

あの黒い球体は一体何なんだ?

そして、俺達は放り込まれた部屋ごと学園へ放たれ・・・・・中で『飼われる』ことになってしまった。

彼らが提供してくれるため、衣食住には困らない。

月に1度の定期健診。初め、彼らは俺達の体を隅々まで調べた。

そして、ほとんど彼らと俺達に違いが無いことが分かったようだ。

精々、臓器の役割と位置関係程度。性別もある。

俺達は初め彼らに怯えていたが、半年もすれば恐怖心も薄れ・・・・

そして、定期健診の際現実に引き戻された。

『3日前に、人類はもうお前達だけになった。これで管理しやすくなった。』

遂にやりやがったな、こいつら!

『部屋に戻れ。』

俺は何も出来ないやるせなさが心を満たすのを感じつつ階段を上がり、部屋の前に来た。

『入れ。』

なぜ俺の部屋の前に居やがる!

一夏「言われなくても入るよ!」

ガチャッ バタン・・・・ ガチャッ!

外から鍵を閉める音。なんなんだ!?

そして俺は自分の目を疑った。

5人ほどの女生徒が全裸で頬を高潮させて乱交していたからだ。

そしてほぼ毎日そんな生活が続き強制的にsexを強いられた。

妊娠する者が出始め・・・・・出産を行った。


子供と母親は健診室へ連れて行かれ、子供は奴らの下へ。

母親は・・・・死体として処理される。

薬を盛られ、妊娠中も体を求めてくる彼女ら。

子供を産んだ先に待ち受けるものがどんな悲惨なことか・・・。

それを判断する能力はもう残されては居なかった。

あるいは、その方が幸せなのだろうか・・・。

箒やセシリア、鈴、シャル、ラウラ・・・・・みんな死んだ。

もう何年経つだろうか・・・。

奴らに掴みかかったこともあった。

だが、奴らは俺を特別視する。

男でisを使えるからだ。

ただそれだけの理由で生き残ってしまった・・・。

恐らく奴らは俺を殺さない。この先も永遠に・・・。


綺麗な夕日が織り成す、オレンジ色の幻想的な世界。

一体どこで何を間違えたのだろう・・・・これは必然だったのか?

俺は自分自身に問いかけながら、空を見上げて、涙を溢し・・・・屋上から飛び降りた。

一番星が輝いているのが最後に見えた。

end

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