モバP「わらしべ長者……?」 (112)

モバP(以下P)「どうしよう……」

P「これは大変なことになってしまったぞ」

P「何となく、財布の中身を確認してみたら――残り120円しかない」チャリン

P「これはマズイ」

P「そして俺は宵越しの金は持たない現代に生きる江戸っ子なので、つまり……預金もない」

P「そこから導き出される答えは――全財産が120円ってことだ」

P「この120円だけで給料日まで持たせなければ成らない」

P「そしてその給料日まで――残り29日」


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P「……」

P「……ガチャがなぁ」

P「これがラストガチャだって思った瞬間に☆5引くじゃん? お目当ての物じゃなかったけど、流れが来たと思うじゃん? 次は目当てのが来ると思うじゃん? 来ないじゃん?」

P「それを繰り返して……このザマだよ」

P「あれだね。絶対物欲センサーついてるね。これから企業は物欲センサーの詳細についても記載すべきだと思うよ」

P「……」

P「無いものは仕方が無い。幸いまだ慌てるような時間じゃない」

P「……まゆー」ボソッ

まゆ「はぁい。あなたのまゆですよぉ」ニュッ

P「机の下にいたのか」

まゆ「はい。うふふ……乃々ちゃんと一緒に本を読んでました」

P「そうか……お前もすっかり机の下が板に付いて来たな」

P「それはそれとして、まゆ。実は……」

まゆ「先月ゲームのガチャにお金を使いすぎて、お財布の中身に120円しかないんですよねぇ。入社した時に作った預金通帳も使い機会がなく、家にどこにあるかも分からない。家に帰っても冷蔵庫の中身に食べる物はないし、実家の親御さんに食料を送ってもらおうには、お2人は海外旅行中。いつもは事務所の中にみんなが持ち寄った食料が備蓄されてますけど、この間の闇鍋パーティーでもう殆ど使い切っちゃいましたねぇ」

輝子「フヒ……フヒヒ……フレンズがいなくなって……寂しい……でもキノコは強いから……湿気さえあれば、また何度だって復活する……フヒヒ……」

まゆ「そんなこんなで、Pさんはお困りなんですね?」

P「……」

P「流石まゆ。俺が説明するまでも無かったか」ナデナデ

まゆ「えへへ……」

P「というわけで……いつも助けてもらって悪いんだが……」

まゆ「うふふ、いいですよ。じゃあ、今日からまゆのお部屋に来て下さいねぇ。朝ご飯、お弁当、夕飯……全部まゆが用意します……うふふ」

まゆ「楽しみ……」

まゆ「じゃあ早速お部屋に行きましょうねぇ」ギュッ

P「……ん? いや待てよ。そういえばまゆお前――」

ガチャ

ちひろ「まゆちゃん! 何やってるの!? 早く行かないと飛行機が出ちゃいますよ!」

まゆ「え? ちひろさん?」

ちひろ「今日から2週間、海外で撮影ですよ! もうっ! プロデューサーさんと離れるのが寂しいのは分かりますけど、もう時間ギリギリなんです! さあ!」ギュッ

まゆ「え、あ、で、でも……」オロオロ

ちひろ「ハリーアップ! こうしてる間にもタクシー代はマシマシなんですよ!」グイグイ

まゆ「う、うぅー……Pさぁん……」ジワァ

P「ま、まゆ……」

まゆ「Pさん……Pさん……!」

P「まゆー! まゆぅぅぅぅ!」

まゆ「Pさぁぁぁぁん!」ポロポロ

ガチャ

あい「……」ツカツカ

あい「当身」トン

まゆ「うっ」ガクン

あい「さあ行こうか。飛行機が出るまでタクシーじゃ間に合いそうもない。私が車を出そう」


ちひろ「お願いしますね、あいさん。さ、私も仕事しないと! プロデューサーさんもサボってないで、しっかり仕事してくださいね!」

バタン

P「なんてことだ……頼みの綱のまゆが……仕事に行ってしまった……」ワナワナ

乃々「それ普通のことだと思うんですけど……」ニュッ

P「乃々……お前、まゆの代わりに俺の飯を世話してくれる気はあるか?」

乃々「ノータイムで鞍替えとか流石のもりくぼもドン引きなんですけど……」

乃々「……でも、最近ちょっとお料理の勉強もしてるので、そんなのでもよかったら……文句を言わないのなら……別に、お部屋に来ても……いいと思うんですけど……」

ガチャ

トレーナー「こらぁ森久保ォ! とっくにレッスンは始まってるぞ!?」ツカツカ

乃々「ひぃ!? も、もりくぼ今日はお休みして、そ、その……プロデューサーさんのご飯を作るお仕事が……」

トレーナー「それは、アイドルの、仕事では、ない」

トレーナー「行くぞ!」グイッ

乃々「ぷ、ぷろでゅーさーさん……」

P「なあ輝子、今日部屋行ってご飯ご馳走になってもいいか?」

乃々「流れるように次の獲物に!? 酷くないですか!?」ズルズル

バタン

輝子「ご、ごめん親友……キノコが無くなったから……私は無力だ……すまない……本当にす、すまない……」

P「いや、いい。その気持ちだけで十分だ」

P「しかし参ったな。何とかしないと給料日を迎えることができないぞ」

P「ん? 乃々が居た場所に――本があるな。どれどれ……『わらしべ長者』?」

ペラペラ

P「ほうほう……ほうほう。これはこれは……WIN×WINの成功例を描いた本か」

P「自分が持っている物を誰かと交換して、少しずつ自分にとって価値のある物に変えていく、か」

P「……」

P「まあ、そう上手くいくはず無いよな世の中」

P「さて。色々と騒がしかったが、その間にも半ば自動的に俺の手は動いて仕事は終わらせていた」

P「アイドルとコミニュケーションを取りながら仕事もする。プロデューサーにとってマルチタスクは必要不可欠だ」

P「時間もできたし、食料でも探しに行くか……でも給料日まで持つくらいの食料はないだろうなぁ」

P「最悪、晶葉のところへ行って空腹を感じなくなる改造でも受けるか……いや、まあ最悪の手段だけど」

ガチャ

☆廊下☆

P「廊下に出てみたが……ん? 誰か走ってくるな。アイドルが3人……来るぞ!」カマエ

タッタッタ

有香「押忍! プロデューサー――隙アリ!」アシバライ

P「うぼぉ!?」ステーン

みちる「はいパンどうぞー」ギュギュッ

P「もごごぉ!?」ムグムグ

春菜「まぁまぁ、とりあえず眼鏡どうぞー」スチャッ

P「ひぃ!?」キラーン

3人「お疲れ様でーす」タッタッタ

P「うぅ……」ヨロヨロ

P「いきなり擦れ違い様に足払いをされたかと思ったら、口にパンを詰め込まれて、眼鏡をかけられた……」

P「何だよアイツら……鎌居達か何かかよ……」

P「一部アイドルのコミニュケーションが独特過ぎて、未だに対応し切れない……」

モサモサ

P「うっわ、パンで口の中の水分奪われて口内鬼パサ砂原砂漠だょ……」

P「空腹は紛れたけど、このままじゃ次パサパサな食べ物……ドーナツとか口に捻じ込まれた時、間違いなく喉に詰まらせてデッドエンドだわ……」

P「と、とりあえず水分補給だ。自動販売機で……と」チャリン

ゴロン

P「よいしょ……熱い! よりによってお汁粉かよ! 眼鏡のせいで視界がぶれたか……」

P「まあ、飲むけどさ……」ゴクゴク

P「う、うーん……鬼パサな口内にドロッとした汁粉が染み渡って……何ともいえないぞ……」モニュモニュ

P「……」ゴクン

P「……あ」

P「全財産を使ってしまった……」スッカラカン

P「マズイぞ……これはマズイ……」

P「ん? お汁粉の缶に……これフィギュアか?」

P「おっ、懐かしいなこれ! 筋○マン消しゴムじゃん! どれどれ……復刻版、か。へー、敢えて当時と同じ作りにしてるのか」

P「このチープさ、懐かしいなぁ」

菜々「ふんふんふふーん、うさみんみーん」

P「お、菜々」

菜々「あ、プロデューサーさん! お疲れ様ですっ、キャハッ☆」ヨコピース

P「今から仕事か?」

菜々「レッスンでーす。ここだけの話、もうレッスン後の自分の状態がハッキリ予想できてしまうので……いっそのこと先に筋肉痛が来るだろう場所に湿布を貼りに――はっ!?」

菜々「んんっ」ゲフンゲフン

菜々「えー、あー……ちょっとレッスン前のお手洗いに……」

P「それでいいのか……」

菜々「あれ? プロデューサーさんが持ってるそれって――うわぁ、懐かしいですね! 筋肉○ン消しゴムですよね!」キラキラ

菜々「しかもそれ――ジェロニモじゃないですか! 菜々、結局ジェロニモだけ集められなかったんですよぅ!」

菜々「菜々ジェロニモが大好きで、漫画で見てた時もジェロニモが出てる場面は全部覚えて――はっ!?」

P「……」

菜々「も、勿論リアルタイムではないですけどね! あ、あれですっ。2世のアニメがこの間テレビてやってたじゃないですか! そ、それで興味が出て初代から見てみようかなーって」アセアセ

P「……マッスルタッグマッチ」ボソ

菜々「いやぁ、ブロッケンJrばっかり使う友達は嫌われてましたね! 菜々はの持ちキャラはウォーズマンでした!」

菜々「あ、いや……えっと、その……お、お婆ちゃんの家にファミコンがあって、それで……あ、あの……キャハッ☆」

P(誤魔化した……!)

P「うん、まあ、いいや。これやるよ」

菜々「え、いいんですか?」

P「いいよ貰ってくれ。俺、家にあるし」

菜々「そうですか……じゃあ頂いておきますね。あ、じゃあ代わりと言ってはなんですけど……」ゴソゴソ

菜々「えっと……あの……こんな物しか無いんですけど……」

>おはぎ

P「お。おはぎじゃん。くれるのか? 手作り?」

菜々「ええ、はい。……あっ、やっぱり無しで! クッキーとかケーキとかの方がいいですよね! おはぎなんて――」

P「いや、俺おはぎ超好き。この先何かの拍子に実刑食らって服役することになって、刑期を勤め上げて娑婆に出たらまずおはぎが食べたい」

P「それくらい好きだ」

菜々「よ、よく分からないですけど……それなら、どうぞ」

P「やったぜ」

P(筋消しがおはぎ×2になったぞ)デデーン

菜々「えへへ。じゃ、じゃあ菜々お化粧室で湿布を貼ってきますね!」タタッ



筋肉マ○消しゴム(ジェロニモ)⇒おはぎ(2個)

ザワワ「おはぎ(つぶ餡)です」
眼鏡「おはぎ(きな粉)です」

P「しかしこのオハギ美味いな……」モグモグ

P「菜々の手作りってことは、ウサミン星独特の製法で作っているのか……?」

P「美味いのもそうなんだけど、なんろう……こう、食べていると田舎のお婆ちゃんの家を思い出す……」

P「婆ちゃん、か。……婆ちゃんが元気なウチに帰っておかないとな」

P「そういえば子供の頃、婆ちゃん家行った時に遊んでくれてた姉ちゃん……よし……よしこだっけ? よしこ姉ちゃんが元気かな?」

P「不思議な子だったなぁ。神秘的っていうの? いつも和服着て、言葉遣いも周りの子供と違って……」

P「あの頃でも相当可愛かったから、今では相当な美人さんになってるはず。帰った時に会えたらとりあえずスカウトしとくか」

P「ごちそうさま」ゴクン

P「……」

P「もう1個行っとくか」モグモグ

P「……ん? 何だあれ? 廊下の真ん中に……何かいるぞ?」


?「ボンバー! ボンバー!! ボンバー!!!」


P「うわぁ……何だあれ。何か……人間か? その明らかに怪しい人間が廊下のど真ん中にうつ伏せになって、何か叫んでる……」

P「怖い……」

P「非現実的な光景過ぎて恐ろしい……」

P「アレか? 霊的な存在か? SCPか?」

P「近づいたらSAN値チェック入りそうだし、とりあえず動画を撮って、と」ジー

?「ボンバー!!!! ボンバー!!!!! うー……ボンバーったらボンバー!!!!!!」

P「誰かに送って意見を聞いてみるか」

P「動画を――ありすに送信、と」

prrrrrr

P「もしもし」

ありす『学校にいるのに、変なの送ってこないで下さいっ』

P「あ、ごめん、授業中だったか?」

ありす『違います。休み時間です』

ザワザワ

ありす『……え、ああ、違います。事務所のプロデューサーです』ボソボソ

ありす『あ、ごめんなさいPさん。周りの皆がうるさくって』ザワザワ

ありす『だ、だから違います! 恋人とかじゃないです! 違いますから! まだそういうのじゃないですから!』

ヒューヒュー

ありす『え、う、うん……た、確かに待っててくれるって約束したから……恋人、みたいなものだと思いますけど……だ、だからまだ違うんですっ』

ヤイノヤイノ

ありす『え? ウェディングドレスですか? ……はい、着ました。他にもいっぱいファンの皆には見せてない衣装とかも……な、内緒ですっ』

ありす『ああ、もうっ』タッタッタ

ありす『ご、ごめんなさい。今、教室から出ました』

P「今教室で喋ってたの? え、クラスメイトもいたの?」

ありす『はい? ええ、まあ全員いましたけど。先生もいましたし、校長先生もたまたま顔を出してましたけど……それが?』

P(ヒェー! 事案発生からの豚箱にシュート確定ですわ!)

P(仕事の引継ぎ準備しとかないとな……)

ありす『それでどうしたんですかPさん? さっきの動画は……』

P「あ、うん。今事務所の廊下にいるんだけど、ありすだったらその動画に映ってる怪しい人、怪人に何か思い当たらないかなーって」

ありす『……か、怪人って。いや、これ……この人、茜さんじゃないですか?』

P「茜?」

P「いやいや、茜のわけないだろ? 茜っていったら、暇さえあれば元気に走り回ってる子だぞ?」

P「あんな微動だにせず、じっとしてるのが茜のわけがないだろ」

ありす『ま、まあそうですけど……。でも、さっきからボンバーって叫び続けてますよ? ボンバーといえば茜さんじゃないですか?』

P「……」

?「ボンバー! ボンバー!!」

P「……確かに。この暑苦しいけど聞いてるこっちが元気になってくるボンバーは、茜のボンバーだな……」 

ありす『タブレット越しでも伝わってくる熱気……こんなボンバー、茜さん以外にありえませんね、はい論破』

P「くっ、論破されてしまった……。論破されてしまった以上、俺はあれを茜と認めざるをえない」

P「ありがとうありす。謎の怪人の正体が判明して助かったよ」

ありす『……ありすって言わないで下さい』ムスッ

P「あ、ああそうだったな」

ありす『……2人だけの時は、あーりんって。そう呼ぶ約束ですよ』

P「……」

ありす『約束守ってくれないんですか? 別にいいですけど、その場合タブレット内にある例のデータがWEB上に……』

P「あーりん! 勉強頑張ってな!」

ありす『えへへ……はいっ。授業が終わったらすぐに事務所に行きますね。じゃあまた後で』

プツン

P「海外逃亡しようかな……」

P「とりあえず、あの茜らしき物体に近づくとするか……」ツカツカ

?「ボンバー! ボンッ、バーッ! ボーン……バァァァァ!」

P「蝉みたいだな」

P「しかし廊下が震えるくらい勢いのある声なのに、体は全く動いてないからやっぱり怖い……」

P「あ、茜……か?」オソルオソル

?「――はっ!? そ、その声はプロデューサーさんですね!!」

茜「お疲れ様です!!!」

P「お、お疲れ。ところで茜はこんな廊下のど真ん中で一体何を……」

茜「あ、はい。実は、その……あ。その前にプロデューサーさん。私の体を仰向けにしてもらってもいいですか!?」

茜「背中を向けたまま喋るのは失礼ですし、プロデューサーさんの顔を見ながら話したいので!!」

P「よく分からんが……まあ、うん」グッ

P「よいしょ、と」ゴロン

P(汗でじっとり湿った茜の柔らかい体に手をかけ転がすと……いつも通り元気な笑顔を浮かべる茜の顔があった)

茜「ご迷惑をおかけします! そして改めてお疲れ様です!! ボンバー!!!」

P「おう、お疲れ。で、どうした? 一体何があった?」

茜「……そ、そのちょっと恥ずかしい話なんですけど」モジモジ

茜「今朝、寝坊をしてしまって……」

茜「時間がギリギリだったんです。すぐに家を出て走り始めないと遅刻してしまう。でも朝ご飯はしっかり食べないとお昼まで持たない」

茜「遅刻するのはとても悪いことなので、泣く泣く朝食は諦めて事務所へダッシュしたんです」

茜「ここまで何とか全力ダッシュで間に合ったんですけど……エネルギーが切れて倒れてしまいました!!」

茜「やっぱりちゃんと朝ご飯は食べないと駄目ですね!!!」

茜「勉強になりました!!!!」

P「……バスを使うとか、そういうことは考えなかったのか?」

茜「はい考えませんでした! それにバスってすっごく苦手なんです。自分の足を使わないで移動してると何だか落ち着かなくて……」

P(車で送迎する時もすぐに飛び出して走り出そうとするからな……)

P「しかし、そうか……つまり茜は空腹で倒れてたってわけだな」

茜「はい! 行き倒れですね!!」

P「行き倒れしてる人間とは思えない声だな」

茜「気持ち的には全然元気なんですけど、体が全く動きません!!」

P(通りがかったのが俺でよかったな……。もし発見したのが愛海だったりしたら……薄い本待ったなしだな)

グゥゥゥ……

茜「あっ」

茜「はぅ……」カァァ

茜「は、恥ずかしいです……! 恥ずかしさで今にも走り出したい!!!」

茜「でも体が動かない! うぅー……ジレンマです!!!」

茜「恥ずかしいついでに、お願いがあります! 何か食べ物があったら下さい!!」

P「食べものをあげたいのは山々なんだけど……」

P「……」

P「食べかけのオハギくらいしかないな」

茜「えっ」

茜「プ、プロデューサーの食べかけの……ですか? あ、え、えっと……あの……」モジモジ

茜「プロデューサーが嫌でなければ! い、戴いてもいいですか!?」

P「いいのか? 俺の食べかけだぞ?」

茜「はい大丈夫です! 全然気にしませんから!」

P「ならいいけど。ほら」スッ

茜「……」

茜「お願いばかりして申し訳ないですけど……あの、体が動かないので……」

茜「で、できれば……食べさせてもらえると……そ、その……あはは! 何を言ってるんですかね私!!!」

P「そうだな。ほら」

茜「むぐっ」

茜「むぐむぐ」

茜「……ごくん」

茜「美味しいですね!!! 甘くてモチモチして、元気が出ます!!!」

茜「何だかお婆ちゃんの家を思い出す味です!!!」

P「だよな」

茜「そそれに……プロデューサーに食べさせてもらってるって考えたら、もっと美味しく感じます!!!」

茜「不思議ですね!!!」

茜「……改めて考えると、これっていわゆる間接キス」

茜「う、うぅ……ボ、ボンバー……」ボソリ

P「どうした、もういいのか?」

茜「い、いえ! まだ食べたいです! お願いします!!!」

P(結局、茜はオハギを全て平らげた)

茜「来た来た来た――ボンバー!!! 日野茜、完全復活!!!」ドーン

茜「ありがとうございますプロデューサー!!!!」

茜「今日もバリバリお仕事してきます!!!!」ダダダッ

P「おう頑張って来い」

タッタッタ
キュキュッ
タッタッタ

P「あれ、戻ってきたぞ」

茜「お礼を忘れてました! これ、私の飲みかけですけど、よかったらどうぞ!!!」スッ

P(そう言うと茜は半分ほど減ったスポーツ飲料入りのペットボトルを手渡してきた)

茜「プロデューサー、とても喉が渇いてるみたいだったので、飲んでください!」

茜「じゃあ、今度こそ行って来ます! ボンバー!!」ダダッ

P(そして今度こそ茜は走り去った。先ほどまでマグロの様だった姿からは考えられないほど、活力に溢れたダッシュだった)

P(そして俺の手にはスポーツ飲料が)

P「……」グビグビ

P「オハギで奪われた水分が満たされていく……」



オハギ(2個) ⇒飲みかけのスポーツ飲料

☆事務室☆

P(空腹を満たし、水分も摂取した俺は事務室に戻った)

P(事務室に戻ると、ソファに――)

雪美「……くぅ、くぅ」スヤスヤ

P(毛布に包まって眠る雪美がいた)

P(可愛らしい寝顔で小さな寝息を立てる雪美に、思わず心が和む)

P(普段の仕事や最早義務となった過酷なガチャで疲労した精神が穏やかになっていく気がした)

雪美「……あ……P……もっと……強く」ゴロン

ペロ「……」スッ

P(雪美が寝返りをうち、体に掛かっていた毛布がバサリと床に落ちた。瞬間、雪美に抱えられるようにして眠っていたペロが目を覚まし、毛布を拾い上げ再び雪美の体にかけた)

P「ご主人様想いだな、ペロは」

ペロ「ミャッ」ムッ

P「分かった分かった。もう喋らないよ。雪美が起きちゃうからな」

P「ただ一言だけ言わせて欲しい」

P「仮にもお前猫なんだからさ……直立して両手を使って洗練された執事の如き動きで毛布をかけるのはやめようぜ」

P「せめて口で毛布を咥えてかけるとかさぁ……あるだろ」

ペロ「ミャア?」

P「いや、別にいいんだけどさ……」

雪美「ん……」モゾモゾ

雪美「ふわぁぁ……むにゃむにゃ」ノソリ

P(雪美がゆっくりとあくびをしながら、起き上がった)

雪美「おはよう……ペロ……」

雪美「いい夢を見れた……ふふふ……しあわせ……すごくハピハピする……」

雪美「……喉、渇いた……」

雪美「ペロ……これで……お茶買ってきて……」チャリン

P「待て待て。無茶を言うな無茶を」

P「そしてペロも慣れた動きで走りだそうとするんじゃない」

雪美「あ……P……おはよう」

P「おはよう雪美」

雪美「いつから……いたの……?」

P「まあ、さっきだな」

雪美「私の……寝顔……見た?」

P「え? ああ、うん。普通に可愛い寝顔だったよ」

雪美「恥ずかしい……」モソモソ

P(顔を赤くしながら毛布に潜り込む雪美は可愛い。流石俺のアイドルだ)

P「喉渇いてるんだろ? これでよかったら飲むといい」スッ

雪美「ありがとう……。あれ……? 少し減ってる……これ……」

P「ああ、俺の飲みかけで悪いけどな」

雪美「……」ジー

雪美「……」コクン

雪美「……美味しい。Pの味が……する……」

P「気のせいだろ。もういいのか?」

雪美「残りは……後で……ゆっくり飲むから……」シマイ

雪美「ありがとう……P……凄く嬉しい……」

P「雪美は大げさだなぁ」

雪美「……」キョロキョロ

雪美「ど、どうしよう……私、Pにあげられる物、ない……」

P「いやいや、別に気にしなくていいから」

雪美「……」フルフル

雪美「私……Pに……ちゃんとお礼……したい……」

雪美「……」

雪美「そうだ……私……今日からPの家で……メイドさん……する……。お礼にPのお世話……する……」

ペロ「……」

P(ペロが『何を言っているんだこの主人は』みたいな顔で雪美を見た。俺も大体同じ意見だった。まあ、前のメイド衣装を着た雪美は可愛かったけども)

P「気持ちは嬉しいけどな。ほら、雪美が俺のメイドになったら、アイドル活動はどうするんだ? それに学校もあるだろ?」

雪美「ペロが……代わりに……やってくれるから……」

ペロ「……っ」フルフル

P(ペロが『本当に何を言ってるんだこの主人は……正直猫的にもかなりヒクわ……』という表情で雪美を見た。俺も大体同じ意見だった)

P「本当に! 本当に気持ちは嬉しいから!」

雪美「そう……」シュン

雪美「じゃあ……代わりに……これ、あげる……」スッ

P「これ……毛布くれるのか?」

P「ん? これ……毛布じゃないのか。よく見たらスーツの上着だな」

P「いいのか? これ……雪美の物じゃないのか?」

雪美「うん……いいよ、あげる……。それに……もう匂いも……無くなったから……」

雪美「また……匂いが充電できたら……返してもらうから……いい……」

P「そ、そうか……よくわからんけど、ありがとう」

P「ちょうど上着がなくなって困ってたところなんだ。ありがたく使わせてもらうよ。ありがとうな雪美」ナデナデ

雪美「えへへ……」

雪美「Pに……撫でられると……幸せ……。心が……ポカポカ……する……」

雪美「ペロ……今撫でられてるところ……写真に撮って……家のパソコンに写しておいてね……」

ペロ「ミャッ」パシャッ

P(慣れた手つきでスマホを操作するペロを見て俺は、ペロさんマジパネェー――とリスペクトの念を禁じえないのだった)




飲みかけのスポーツ飲料⇒スーツ(上)

P「零から出発して、そこそこいい生地のスーツに」

P「うーん、着々と物のランクが上がってるなぁ」

P「わらしべ長者……いけるな」

P「最終的に飯を定期的に提供してくれる的な存在をゲットできたら俺の勝ちだな」

P「さて、もっとわらしべるか」

☆廊下☆

P「ん? あの自販機の前にいるのは……凛か」

P「おーい凛」

凛「プロデューサー?」

P(振り返った凛の顔には薄らと汗が浮かんでいた)

P(レッスン着を着ているので、さっきまでレッスンをしていたのだろう)

P「レッスン終わりか?」

凛「違うよ。今、休憩中。喉渇いたからジュースでも買おうと思って」

P「そっか。だったら俺が奢るよ」スッ

P「……」

P(さっきジュース買って、既に財布の中は空っぽだった)

P(いや、マ○ドのSサイズジュース、無料引き換え券が1枚だけ入っていた)

P「……すまん。奢っておくと言っておきながら、金がなかった」

P「無料引き換え券しかない……すまん……甲斐性の無いプロデューサーで本当にすまない……」

凛「い、いいよ別に。貰っておくから。ありがとう。今度奈緒達とマ○ク行った時に使わせてもらうから」

P(そう言って凛は財布の中に無料券をしまった)

P(ええ子や)

凛「……プロデューサー、お金ないの?」

P「恥ずかしい話な。一銭もない」

凛「……ふぅん。だったら……その、今夜はウチに来たら?」

凛「ほら、あの、この間、私をウチに送ってくれたときに、お母さんが言ってたでしょ?」

凛「今度ウチに来てお食事でもどうですかって」

P「あれ、社交辞令的じゃないのか?」

凛「違うよ。まだかまだかって、家でせっつかれてるから。だ、だから――」

凛「ふぇぁ!?」

P(話の途中で、突然凛が目を見開いた)

P「ど、どうした凛? いきなりそんな声出して」

凛「い、いや……べ、別に? な、なんでもないから」

凛「ね、ねえプロデューサー。話は変わるけど、今着てるそのスーツ、どうしたの?」

凛「いつも着てるスーツと違うよね?」

P「ん? これか」

P「実はな――」

P(俺は今までの経緯を凛に説明した)

P「――というわけで、わらしべ的に雪美から貰ったものなんだ」

凛「……ふ、ふぅん。そうなんだ」

凛(やっぱり見間違いじゃなかった……!)

凛(あのスーツは例のスーツ……!)

凛(去年の忘年会でプロデューサーが酔い潰れた後に開催された『プロデューサーの私物争奪ビンゴゲーム大会』の目玉商品……!)

凛(プロデューサーが入社当時に来てたスーツ!)

凛(まさかこんな所でSSRクラスの代物と出会えるなんて……!)

凛(お小遣い全額叩いてビンゴカードを買ったのに結局手に入れられず涙を呑んだ夢の残照……)

凛(ほ、欲しい……!)

凛(何が何でも手に入れなきゃ……!)

凛(雪美は多分、無くなったプロデューサーの匂いを補充する為に、手放したと思う)

凛(でも……雪美には悪いけど、これは私が戴くよ)

凛(ふふっ……)

凛「……ふぅん、わらしべ長者ね」

凛「全く、プロデューサーは……仕事サボって変なことして」アキレガオ

P「う……すまん。そうだよな」

P(凛に叱られると結構凹むな)

P(確かに真面目にレッスンをしてる凛から見たら、イラッとくるよな)

P「ええ、はい……仕事してきます」トボトボ

凛「えっ!? あ、いや、ちょっと待って!」アセアセ

凛「やるやる! 私もやるから!」

P「やるって……何を?」

凛「わらしべ長者。プロデューサーの変な思いつきに付き合うのは慣れてるし。いつもの事だし」

凛「付き合ってあげるよ」

P「り、凛……!」

凛(危なかった……もう少しで千載一遇のチャンスを不意にするところだった……)

凛「じゃあ、私はそのSSRのスーツを……」

P「SSR?」

凛「んんっ」ゲフン

凛「特にこれといって価値も無さそうな、普通のスーツを、私が持ってる何かと交換すればいいんだよね」

P「おう」

凛(さて、どうしようか)

凛(わらしべ長者の付き合うと言ったものの……レッスン休憩中で、何も持ってない)

凛(あげられる物なんて……)

>財布

凛(4万5000円ほど入った財布が手元に……)

凛(……)

凛(よし行ける)

凛(SSR相当の物とこの金額じゃ釣りあわないと思うけど)

凛(幸いプロデューサーはアレの価値を理解してない)

凛(ふっかけられることもない)

凛(たった4万5000円とブランド物の財布だけで、夢焦がれた至高の1品を手に入れることができる)

凛(こんな楽なチャンスはないね)

凛(……)

凛(でも……これでいいのかな)

凛(こんな楽して手に入れて……本当にいいのかな)

凛(……いや、駄目だ。これは違う)

凛(トレードは正当じゃなくちゃいけない)

凛(本来のトレードは、相手が出してきたグッズに、相応しい価値のある物を見出して差し出す――聖なる戦い)

凛(相手の心理を読み取って、お互いが満足行くトレードを成立させるのが、プロのトレーダー)

凛(時にリスクに身を晒すこともある……私はそんな死闘をくぐり抜けてきた)

凛(私の部屋にある唯一のSSRクラスのグッズ、プロデューサーが高校生の時に使ってたお弁当箱も、そうやって手に入れた)

凛(そうだ。今ここで楽をしたら……プロのトレーダー失格だ)

凛(私も……相応のリスクを背負わないと)

凛(でも、どうしよう)

凛(今、この場で私が差し出せる物なんて……)

凛(……)

凛(処――って何を考えてるの!?)

凛(それは本当に最後の切り札……! 16歳の誕生日に切る予定のラストジョーカー!)

凛(間違ってもこの場で披露すべき物じゃない……!)

凛(冷静に……冷静になって渋谷凛)

凛(Coolに……いつも通り冷静な私になって)

凛「……」

P「えっと……そろそろいいか凛?」

凛「待って」

P「でもそろそろスーツを差し出した手がプルプルしてきたんだけど」ブルブル

凛「いいから。少し考えさせて」

P(凛が手を顎に当てて思考に没頭し始めてから、既に20分近く経過した)

P(何を考えているのか分からないけど、早くして欲しい)

凛「……ん、待たせてごめん」

凛「私が差し出すもの、決まったよ」

P「やっとか」

凛「今渡すから……ちょっと目をつぶってて」

P「え、何で?」

凛「いいから……!」

P「は、はい」

P「こ、これでいいか?」スッ

凛「うん」

凛(私が差し出せる最も価値のある物……これしかない)ヌギヌギ

凛(目をつぶってるプロデューサーの前で上を脱ぐの、恥ずかしいな)ヌギヌギ

凛(……よっと、外れた)プチ

凛(私が持ってる最も価値のある物――ブラジャー)

凛(……自分でもちょっとおかしいのは分かる)

凛(でもこれはかなり価値のある物だ)

凛(私だって自分の価値はちゃんと分かってる)

凛(現役JK、アイドル、そしてシンデレラガール)

凛(そんな私がさっきまで着けてたブラジャーは、それなりに価値があるはず)

凛(プロデューサーが出してきたSSR相当の物と釣りあうかと言われれば微妙だけど……)

凛(足りない分は後日何らかの形で補填しよう)

凛(せめてパンツもセットで渡せれば価値は上がったんだけど……)

凛(今日のは、あんまり可愛くないし……)

P「凛、まだかー」

凛「今、目開けたら通報するからね」

P「お前何してんの!?」

凛(後はシャツを着て、と)

凛(流石に直接渡すのは恥ずかしいから、タオルに包んで……)

凛「もういいよ」

凛(と、今思いついたけど)

凛(これ、目つぶってるプロデューサーに……キスして『これで釣りあう?』みたいな展開でも)

凛(……う、違うな。これは私のキャラじゃない。未央辺りのキャラだ)

凛「はい、これ」スッ

P「お、おう。じゃあ俺も」スッ

凛「……」ウケトリ

凛(……やった)グッ

凛(夢じゃないよね、ふふっ)ニヤニヤ

P「これ、タオルか? ん? タオルで何か包んで……」

凛「まだ開けないで」

P「えっ」

凛「今あけたら通報するから」

P「通報好きだな凛!? ていうかマジでこれ何なんだよ! 怖いよ!」

凛「じゃあ、私行くから。それ、大切にしてよ」スタスタ

P「爆発物とかじゃないよな!? なあ!?」



P(珍しくスキップしながら去っていく凛を見届けた後、俺は汗を吸って少し重くなったタオルを開いた)

P「……」

P「……えぇー」



スーツ(上) ⇒薄蒼色のブラジャー

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