佐久間まゆ「キャラ崩壊のススメ」 (90)



※設定はアニメ基準

※時系列は適当

※キャラ崩壊

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453912306



まゆ「それでですね。今度まゆが――」

まゆP「――。――――」

まゆ「うふふ♪ そうですか? それは――」

まゆP「――? ~~~!」

まゆ「なら――」




渋谷凛「…………」



まゆ「はい。じゃあ、お仕事頑張ってくださいねぇ」

まゆP スタスタ

まゆ「うふふ♪ 今日はPさんといっぱいお話しできました」

凛「あ、あの……」

まゆ「……?」

まゆ「あら。あなたは確か、シンデレラプロジェクトの渋谷凛さん」

凛「うん。こんにちは、佐久間さん」

まゆ「こんにちは。ニュージェネレーションズでのご活躍、拝見してますよぉ」

凛「あ、ありがとう……」

まゆ「うふふ……」



凛「あの、それで佐久間さん。今、ちょっと時間いいかな……?」

まゆ「はい、構いませんけど……。何か御用ですか?」

凛「うん……。実は、ちょっと相談に乗ってもらいたいなって……」

まゆ「……相談? ええと、はい。私でお役に立てることなら構いませんが――アイドル活動についてとかでしょうか?」

凛「そうと言われればそうなんだけど……」

まゆ「……? まあ、とりあえず場所を移しましょうか」



――346カフェ


まゆ「それで、渋谷さんのご相談とは?」

凛「うん」

凛「あのさ――佐久間さんは、自分の担当プロデューサーさんと仲がいいでしょ?」

まゆ「ええ。まゆのプロデューサーさんとまゆは仲良しですよぉ」ニコニコ

まゆ「仲良しですけど――もしかして渋谷さん……」ニコニコ……

凛「えっ?」

まゆ「……渋谷さんも、まゆのプロデューサーさんが気になってたりするんですかぁ……?」ニゴォ……

まゆ「……ねぇ? どうなのかしら?」ニゴゴゴ……

まゆ「渋谷さんも、まゆのPさんが気になっていたり――気があったりするのかしらぁ……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……

凛「いやっ、違うよ!?」アセアセ

凛「気になってるのは、佐久間さんのプロデューサーと佐久間さんとの関係っ!」

まゆ「関係……?」

凛「そう。関係の在り方っていうか……ええと……」



凛「私たちの、シンデレラプロジェクトのプロデューサーは知ってるでしょ?」

まゆ「はい。まゆのプロデューサーさんとも同期だそうで。とても真面目な方ですよね」

凛「うん。真面目なんだけど――ちょっと真面目過ぎるとことか、不器用なとことかもあって……」

まゆ「うふふ。確かに、外見も大柄ですからねぇ」

まゆ「よく知らない人からすれば、ちょっと怖かったり……そんな人たちから、あらぬ誤解を受けてしまいそうではありますねぇ……」

まゆ「私も、最初はたじろいでしまいましたし」



凛「……そう。でも、最近はプロジェクトのメンバーとも打ち解けてきてさ」

凛「ああ見えて、結構いろんな表情をするんだって思って……みんなも慕ってたり、懐いてたりするんだけど……」

まゆ「けど……?」

凛「その……、私に対してはなんか距離があるというか……」

まゆ「ふむ」

凛「いや、違うな……。私との距離が、出会った最初とあんまり変わってない気がして……」

まゆ「ふむふむ」



凛「まあ、私の考え過ぎとか、勘違いとか言われればそれまでなんだけど……」

まゆ「なるほど……。話が見えてきましたよぉ」

まゆ「――つまり、渋谷さんは、あのプロデューサーさんともっとフレンドリーな関係になりたい――例えば自分が、同じユニットの島村さんや、本田さんと接する時のような」


『凛ちゃーんっ!』


『しぶりーんっ!』


『渋谷さーんっ!』


凛「いや、卯月や未央ほどじゃなくていいけど……」

凛「――でも、卯月や未央が、プロデューサーに接しているみたいにできたら、いいかも……」

まゆ「うふふ。それで、そうなるための秘訣や方法を、担当プロデューサーと仲の良い私に、相談しに来たというわけですか」

凛「う、うん。そう……です」

まゆ「うふふ……」



凛「あの……迷惑なら断ってくれていいから……」

まゆ「いえ、構いませんよ――むしろ、喜んで協力させてもらいましょう」

凛「ほ、ホント!?」

まゆ「ええ。CPのプロデューサーさんには以前、お世話になりましたし……」

まゆ「――何より、クールな渋谷さんの意外な一面に、私も興味が出てきました」

凛「あ、ありがとう。佐久間さん……!」

まゆ「まゆ、と呼んでください。私も、凛ちゃんと呼ばせてもらいますから」

凛「じゃ、じゃあ……よろしく、まゆ」

まゆ「はい」ニコ



凛「それで、じゃあ早速だけど……どうしたらいいかな……?」

まゆ「そうですねぇ……」

まゆ「まず、大切なのは――相手に意識させる、ということでしょうか」

凛「意識させる……?」

まゆ「ええ。今、凛ちゃんがプロデューサーさんのことを意識しているように――彼の方からも、凛ちゃんを意識してもらうようにするんです」

凛「……つまり、プロデューサーの側からも、アプローチしてもらうようにするってこと?」

まゆ「はい」



凛「確かにプロデューサー、CPの中でも、蘭子とか、美波とか――最近は、智絵理とかとよく話してたりしてるの見るけど……」

凛「蘭子や智絵理とは、プロデュース方針とか仕事について話し合ってるみたいだし――」

凛「美波はCPのリーダーだから、いろいろ相談することがあるんだろうけど……あんな感じってこと?」

まゆ「そうですね」

まゆ「――ただこの場合、そこまではっきりとした行動が伴わなくてもいいんです」

凛「そうなの?」

まゆ「ええ――だから、まずは意識なんですよぉ」

まゆ「ついつい、あの子を目で追ってしまう……気が付けばあの子のことばかり考えている……」

まゆ「気になるあの子……」

まゆ「凛ちゃんを、プロデューサーさんの中でそんな風に意識させることが、まずは肝要なんです」

凛「なるほど……」



まゆ「では続いて、そのように意識してもらう方法ですが――」

まゆ「これは、相手をときめかせることが、一番手っ取り早いですかねぇ」

凛「と、ときめかせる!?」

まゆ「ええ――ドキッとさせるんですよぉ……。うふふ♪」

凛「えぇ……。で、でもあのプロデューサーが、そう簡単にときめくかな……?」

まゆ「プロデューサーさんも男の人ですし――それに、アイドルのプロデュースというお仕事をされているなら、女性の魅力にまるで無関心、無頓着ということはないと思いますよ?」

凛「そ、そうか……」



凛「でも、ときめかせるってどうしたらいいの……?」

凛「アイドルのプロデュースという仕事に携わっている以上は――女の子のそういう『人を魅了するアピール』っていうのにも慣れているんじゃない?」

まゆ「プロデューサーさんの好みが分かれば、それが一番ですが……」

凛「好み……。笑顔……?」

まゆ「凛ちゃん、いきなりプロデューサーさんをときめかせるような笑顔ができますか?」

凛「いや、卯月とかならともかく……」

まゆ「ですねぇ。というわけで、ここは別の手で行きましょう」

凛「それって?」

まゆ「ズバリ、ギャップ萌えです」



凛「ギャップ萌え……?」

まゆ「聞いたことありませんか?」

まゆ「――例えば、男勝りな彼女が、実はとっても家庭的だったり……」

まゆ「普段は凛々しく、しっかりした彼女が……プライベートでは抜けていたり、はたまた甘えたがりだったり……」

まゆ「いつものイメージと異なる女の子のそんな様に、世の男性は魅せられるんですよぉ」

まゆ「このような、キャラクターの違いから来るときめき、彼女の普段は見せない、意外な一面を知った時の高揚――それがギャップ萌えです」

凛「それで、うちのプロデューサーもときめかせられる……?」

まゆ「少なくとも、有効策ではありますねぇ」

まゆ「発する厳めしい言葉とは裏腹に、内容は素直で良い子の神崎蘭子さんや、ミステリアスなビジュアルと素晴らしい歌唱力を持ちながら、お酒とダジャレ好きな高垣楓さん……」

まゆ「彼女たちが人気である理由の一つにも、そんなギャップを持っているということが挙げられます」

まゆ「――と、これはまゆのプロデューサーさんの受け売りですけどね……うふふ……」

凛「そうなんだ」

まゆ「ええ……そう、嬉しそうにまゆに語ってくれるんですよぉ……」

まゆ「他の娘の良いところを……まゆに向かって……まゆといるのに、まゆがいるのに……うふふふふふ……」ゴゴゴゴゴ……

凛「そ、そうなんだ……」



まゆ「こほん――それは置いておいて……」

まゆ「想像してみてください」

まゆ「例えば――凛ちゃんと同じCPの新田美波さん」

凛「美波?」

まゆ「CPのリーダーも務めるしっかり者、皆のまとめ役の彼女が――裏の性格は、男を篭絡させるサディストだったら……」




新田美波『へぇ……。こういうのがいいんですか』

美波『そんな情けない声をあげて……恥ずかしくないんですか?』

美波『今日は美波がたっぷり、お仕置きしてあげますっ!』ビシィ!!




まゆ「どうですか……?」

凛「うーん……。そういうのが好きっていう性癖があるのは知ってるけど……」

まゆ「まぁ、同性では伝わりにくいかもですねぇ」



まゆ「では、当のCPのプロデューサーさんではどうでしょう」

凛「プロデューサー……?」

まゆ「はい。見た目は強面で大柄――そんなプロデューサーさんが、実は家に、大きなテディベアのぬいぐるみを置いていたら……」




武内P『あのっ……これは、その……』

武内P『いえ……。誰かからのプレゼントという訳ではなく……これは、自分で購入したものです……』

武内P『その……いいなと、思いまして……///』




凛「……ふむ」ゴクリ

まゆ「うふふ。どうやら理解できたみたいですねぇ」



凛「でも私、そういうのって特に無いと思うけど……」

まゆ「これは、お互いが近付くきっかけを作るためのプランですから――この際、そこは演技でもいいと思います」

凛「演技……か。まぁ、なんとかするしかないか」

凛「問題は、どんなギャップ、どんなキャラクターを演じるかだけど……」

まゆ「そうですねぇ……」

まゆ「一般的な凛ちゃんの印象としては――クール、美人、かっこいい、といったところでしょうか」

まゆ「ならばメジャー所で――愛らしい、いじらしいキャラクターになってみれば、いいんじゃないでしょうか」

凛「愛らしい、いじらしい……ね……」

まゆ「誰か、凛ちゃんの周りに参考になりそうな方はいませんか?」



凛(愛らしい……。一番身近だと、やっぱり卯月かな?)

凛(でもプロデューサーだって卯月とは交流があるわけだし――それを参考にしても、単に卯月の真似って思われるだけで、私のキャラのギャップとは言えない気がするし……)

凛(そう考えると、プロジェクトのメンバーじゃ駄目かなぁ……)

凛(じゃあ……誰か他に……)

凛(……ん?)

まゆ「……?」ニコニコ

凛(小柄、たれ目、ふんわりとした印象……女の子らしい赤いリボン……)

凛「ふむ……」

まゆ「誰か参考になる方が思い当たりましたか?」

凛「うん。やってみるよ……!」



――――――
――――
――


「それじゃあ、Pチャン、みくたち帰るにゃあ」

「お疲れさまでしたー」

武内P「はい。お疲れ様でした」

「うわー、もう外真っ暗ー!」

「ちょっと帰るの怖いかも……」

「大丈夫。きらりが照らしてあげるにぃ~☆」

武内P(……これで、皆さんの本日のスケジュールは終了ですね)

武内P(CPの部屋も電気が消えていますし――もう皆さん、帰宅されたのでしょうか)



武内P(忘れ物など無いか、念のために確認して――)



凛「プロデューサー」



武内P「!?」ビクッ

武内P「あ……し、渋谷さん。まだ残っていらしたんですね……」

凛「うん。ごめんね、びっくりさせて」

武内P「いえ……。こちらこそすみません……」



凛「ふふ……。でも、へぇ……」

凛「アンタもそういう驚いた顔するんだね。なんだか新鮮だよ」

武内P「それは、まあ……。あまり皆さんにお見せしたことは無いと思いますが……」

凛「うん。初めて見たよ、プロデューサーのそんな顔……」




凛「この私が、初めて、最初に、ね」




武内P「は、はい……」



武内P「……それで、渋谷さん。まだ残っていらしたということは、何か用事があるのでしょうか?」

凛「用……? 特に無いけど」

武内P「でしたら、外ももう暗いですし、早く帰宅されたほうが――」

凛「……強いて言うなら、プロデューサーと話したかったってとこかな」

武内P「私と……? 何かお仕事についての相談、でしょうか?」

凛「別にそういうのじゃないけど」

凛「……それとも、もしかして私は、用が無くちゃプロデューサーと話しちゃいけない?」

武内P「い、いえ……! そんなことは……」



凛「そうだよね」


凛「だって昨日はみくと話してたし」ヒタ


凛「その前はきらりとファッションの話をしてたし」ヒタ


凛「その前はかな子にお菓子をもらって」ヒタ


凛「その前は蘭子と二人で衣装の相談をして」ヒタ


凛「その前はアーニャと二人で日本語の勉強をして」ヒタ


凛「その前は未央に二人で買い物に誘われてたもんね」ヒタ


凛「だから、私が用もなく話しかけたって、それが駄目ってことはありえないよね?」ヒタ



武内P「あの、渋谷さん……?」


凛「ふふ……。どうしたのプロデューサー……?」


凛「またさっきみたいな顔してるよ?」


凛「ねえ、私がどんなこと考えてるか、分かる……?」


凛「どんな気持ちでいるのか……分かる……?」


凛「ねぇ、プロデューサー……?」


凛「プロデューサー……?」


凛「ふふっ……」


凛「ふふふふふふふふ……」


凛「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………」


武内P「し、渋谷さ――!?」



――――――
――――
――


凛「駄目だったよ……」ズーン

まゆ「でしょうねぇ」

凛「そりゃ、驚いた顔は新鮮だったけど……」

凛「――それ以上に、プロデューサーのあんなに恐れ慄いた表情は、それこそ初めて見たよ……」

まゆ「相手があのプロデューサーさんじゃなければ、失神してたかもですねぇ」

凛「何がいけなかったんだろ……」

まゆ「何が、というなら――何もかも、ですが……」

凛「えぇっ!?」



まゆ「何を驚いているんですか。当たり前ですよぉ」

まゆ「暗闇から、不敵な笑みを浮かべて近寄っていくなんて、誰が見ても怖いでしょう」

凛「えっ……」

まゆ「大体、それのどこが『愛らしい、いじらしいキャラクター』だったんですか?」

まゆ「凛ちゃん、どんな方を参考にしたんですかぁ?」

凛「えっ……いや、その……」

まゆ「……もしかして」

凛「…………」チラチラ

まゆ「まゆ、ですかぁ……?」

凛「はい……」



まゆ「むぅ……。まゆ、そんな怖いことしませんよぉ」

凛「ご、ごめん……。でもこの前、まゆとまゆのプロデューサーさんとを傍目から見てたら、そんな感じに見えたから……」

まゆ「確かに――特に最近は、まゆのプロデューサーさんとまゆが会うのは、朝か、仕事終わりで辺りが暗くなってからが多いですからねぇ……」

まゆ「でも、不敵な笑みなんて浮かべてませんよぉ」

まゆ「あれは、Pさんとお話しできるのが嬉しくて、ついつい笑顔が零れてしまうだけです」

凛「そうなんだ、ごめん……」

まゆ「……まあ、過ぎたことは気にしても仕方ありません。次に行きましょう」



凛「次もギャップ萌えを狙っていくんだよね?」

まゆ「ええ。ただ、凛ちゃんが演じるギャップは異なります」

まゆ「次に凛ちゃんに与えるギャップは、『ちょっと変わった趣味嗜好』です」

凛「どういうこと……?」



まゆ「まず第一に――この世には、こういう格言があります」

まゆ「それ即ち、『かわいいは正義』!!」

凛「せ、正義……?」

まゆ「ええ」

まゆ「――当然、限度はありますが……。可愛い子にとっては、多少の失敗、欠点さえもプラスになるという話です」

まゆ「ちょっとドジしてしまったり、なんだか高圧的なことや、的外れなことを言ってしまったり――」

まゆ「しかしながら、それが可愛い子なら許せてしまう――むしろ、魅力的に映る」

まゆ「そういうことです」

凛「確かに、ドジッ子なキャラが男性受けするみたいなことは、聞いたことあるけど……」



まゆ「ここで、例を挙げるならやはり彼女でしょうかねぇ」

まゆ「カワイイと言うなら、真っ先に連想されるのが――」


『フフーン!!』


凛「え、卯月……?」

まゆ「……まぁ、それは後で個人的に言ってあげてください」

凛「うん」



まゆ「この場合、まゆが言いたいのは輿水幸子ちゃんです」

凛「ああ。そういえば、常日頃から口癖のように言ってるよね。『ボクはカワイイ』って……」

まゆ「ええ」

まゆ「自信たっぷりな態度、清々しいまでのドヤ顔――でも、ちょっと生意気……」

まゆ「ちょっといじめたくなって、でも可愛がりたくもなる幸子ちゃん……」

まゆ「――言い方は悪いですが、そんな生意気さ、鬱陶しさというマイナスを、可愛さで魅力へ昇華させているのが彼女と言えます」

まゆ「――と、これはあくまで幸子ちゃんの魅力の一側面ということですが……」



凛「でも――それと変わった趣味嗜好が、どう関係あるの?」

まゆ「つまりは、クールな凛ちゃんが、実はちょっと変わった――はっきり言えば、ちょっと変態チックな趣味嗜好を持っていた……」

まゆ「普通の人なら驚かれ、距離を取られるところを――しかし、かわいいは正義理論で、凛ちゃんの魅力として、プロデューサーさんにぶつけよう――というプランです」

凛「へ、変態チックって……」

凛「えーと……でも、それにだって限度はあるよね?」

凛「どのくらいのレベルの変態チックなら、大丈夫なの……?」

まゆ「そうですねぇ……」

まゆ「例えば――好きな人の匂いまで好きとか……」

まゆ「その人の匂いをついつい意識してしまうとか……」

まゆ「その人の着ていた服の匂いをこっそり嗅いじゃうとか……」

凛「なんで、嗅覚系ばかり言及するの……?」

まゆ「まゆもあんまり、変態には詳しくないので……」



まゆ「想像してみてください」

まゆ「例えば、アイドルとして――さらにカリスマギャルモデルとして第一線で活躍する、城ヶ崎美嘉さん……」

凛「美嘉……?」

まゆ「全国の女の子から羨望の眼差しを受ける彼女が――実はちょっと他人の匂いに敏感な、フェティシズムな性癖を持っていたら……」




城ヶ崎美嘉『あれ、これアイツの着ていた服……?』

美嘉『スンスン……。ふふ、アイツの匂いだぁ……』

美嘉『んっ……。なんだか、アイツを近くに感じるかも……』

美嘉『アイツの上着でこんなに匂いがするんだったら――』

美嘉「みりあちゃんの服は――」




まゆ「どうですか?」

凛「……ごめん。よく分かんないかも」

凛「っていうか、最後のなに……?」

まゆ「なんだか混線しましたねぇ……」



まゆ「では、当のCPのプロデューサーさんならどうでしょうか」

凛「またプロデューサー?」

まゆ「ええ。真面目で実直な彼が――魔が差したとでも言うように、凛ちゃんの上着を鼻に当てていたら……」




武内P『――!? し、渋谷さん!?』

武内P『これは、その……! すみません……』

武内P『このようなこと、許されることではありませんね……』

武内P『え……? 理由、ですか?』

武内P『それは、その……』

武内P『あなたを、少しでも感じたかったんです……』




凛「……ふむ」ジュルリ

まゆ「想像できたみたいですねぇ……」



凛「えーと、じゃあ……私もプロデューサーの服の……に、匂いを嗅げってこと……?」

まゆ「ええ。本人が着ているものでなくて構いませんから――着ていたものである必要はありますけど」

凛「それについては、いつもプロデューサーの仕事机の横に、スーツの上着が掛けてあるから、大丈夫だと思うけど……」

凛「でも――匂いを嗅ぐのかぁ……」

まゆ「嗅ぐこともそうですが――この場合、最も重要なのは、それを当のプロデューサーさんに目撃されるということですね」

凛「え、ええぇ!?」

凛「いや、無理――!! そんなの私のキャラじゃないし!!」

まゆ「ですから、そのキャラじゃないことをやることが重要なんですよ」

凛「う……うぅ……」

まゆ「大丈夫ですよぉ。いざとなれば、服にゴミがついていただの、うっかりスーツを落としてしまったから状態を確認していただの、言えばいいんです」

凛「わ、分かった……。やってみる……」



――CP・プロジェクトルーム


武内P「…………」カタカタ

凛(プロデューサーは、さっきからずっと仕事でデスクに向かってる……)

凛(案の定――横の壁に、スーツの上着が吊るしてあるけど……)

凛(さすがに、このまま堂々と嗅ぎに行くってのはおかしいよね……)

武内P「――!」ヴーヴー

武内P「はい。もしもし――」

凛(電話か……)



武内P「はい――えぇ!?」

武内P「皆さんに怪我などは? ……そうですか」

武内P「分かりました。警備にも連絡して――私も、すぐに向かいますので」

武内P「あなたたちは皆さんで固まって、動かないで下さい」

凛「……?」

武内P「では」ピッ

凛「プロデューサー……? どうかしたの?」



武内P「いえ、どうやら更衣室周辺で、不審者が目撃されたようでして……」

武内P「赤城さん他、とときら学園のメンバーがそこに居合わせたそうです」

武内P「ですので、皆さんの安全の確認のためにも、私はすぐにそちらに向かって、状況を聞いてきます」

武内P「渋谷さんには、少し留守をお願いできますか……?」

凛(これがチャンスか……!)

凛「うん、分かったよ。行ってきて」



武内P「ありがとうございます」

武内P「それと、まだ不審者が建物内にいる可能性が十分にありますので――」

武内P「渋谷さんは、この部屋に鍵を掛けて――誰か来たなら、必ずそれが誰なのかを確認して下さい」

武内P「何か届け物だとしても、それは扉の前に置いておくように言って下さい」

武内P「分からないことがあれば、私に連絡を」

凛「オッケー、分かったよ。大丈夫だから」

凛(これから、私も不審者紛いのことをしようとしてるんだけどね……)

武内P「では、行ってきます」ガチャ



凛「さてと……」

凛(これがプロデューサーのスーツ、その上着か……)

凛(うわ、なんか私、すっごいドキドキしてる……初めてステージに立つ直前みたい……)

凛(周りが静かな分、自分の心臓の音が聞こえる――耳の奥でガンガン鳴ってる……)

凛(って、躊躇ってちゃダメか……)

凛(落ち着け……落ち着け……フライドチキンを数えるんだ……)

凛(ドラム……キール……ウィング……)



凛(こんなの、よく考えれば大したことじゃない……)

凛(プロデューサーの上着を手に取って、匂いを嗅ぐ……ただそれだけ……)

凛(匂いを嗅ぐ……そう、うちのハナコみたいに……犬みたいに……)

凛(犬だ……お前は犬になるのだ……って、菜々が言ってたのは虎だっけ……?)

凛(まあいいや……)

凛(犬……犬……私は犬……)

凛(大好きなご主人様の匂いが嗅ぎたい――、一匹の犬……)



カッ――――!!



凛(今だっ――!!)ダッ!!



バッ!!

サッ!!

クンクン……


凛「…………」クンクン……

凛「うん、まぁ――普通に、服の繊維の匂いだね……」

凛「なんか、無駄に身構えてた自分が馬鹿みたい……」

凛(ふむ。確かに、ちょっとだけプロデューサーの匂いっぽい微香がするけど……なんてことはない)クンクン

凛(やっぱり、アイドルのプロデューサーとして身だしなみとかには気を配っているのかな?)クンクン

凛(でも、香水みたいな匂いはしないし、体臭とかあんまり無いほうなのかも)クンクン



凛(正直、拍子抜けだけど……一方で安心したかも……)クンクン

「――やさん? ――――す」

凛(予感とか、そんなの全然無いけど――もしこれで、プロデューサーの匂いが病み付きになっちゃうなんてことがあったら、それはそれで怖かったし……)クンクン

「――さん? ――――た!?」

凛(でも、こんなに私が匂いに無関心なのは、まゆの作戦としては駄目なのか……)クンクン

凛(このままじゃ、ホントにただ落ちたスーツを拾っただけ、って思われちゃうよね)クンクン



凛(ん……? あれ……)クンクン

凛(そうだ、私――何か大事なこと忘れてない……?)クンクン

凛(まゆの言っていた大事なこと……)クンクン

凛(えーと、確か、プロデューサーの服の匂いを嗅いで……それで……)クンクン

「――やさん!? ――ますよ!」

凛(それから――)



ガチャ

武内P「し、渋谷さん……何かあったんで……」



凛「あっ……」クンクン

武内P「す……か……?」



武内P「あの……渋谷……さん……?」

武内P「ご、ご無事……ですか……?」

凛「くん」

凛「――じゃなくて、うん……」

凛(忘れてた……。プロデューサーの鍵を掛けろって言いつけもそうだけど……)

凛(この作戦の最も重要なポイント――プロデューサーにこの光景を目撃させること……)

凛(ど、どうしよ……意図せずして成功はしてるんだけど……)

凛(こ、心の準備とか……全然……)



凛「あ、あの……プロデューサー……」

凛「わ、私は大丈夫、だよ……?」

武内P「そ、そうですか……」

凛「は、早かったね……?」

凛「不審者は……捕まった……?」

武内P「いえ、残念ながら……」

武内P「警備の方と、片桐さん、安斎さんが追っていたようなのですが……」

武内P「最後に目撃した、城ヶ崎美嘉さんの証言では――塀を登って、敷地内から逃げていったそうです」

武内P「ただ今のところ、アイドルの皆さんに直接的な害は無かったようですので……」

凛「そ、そうなんだ……」

凛(うわぁ……なんだか申し訳なくなってきた……)

凛(プロデューサーが、アイドルのために、あんなに息急き切らせて走り回ってた時に、私は何してたんだろ……)

凛(いつも鉄仮面みたな顔のプロデューサーが、あんなに汗だくで……)

凛(汗だく……)



凛(考えてみれば――今日、プロデューサーがこの上着を着てることってほどんど無かった……)

凛(だったら当然、匂いだってそんなには付いてないよね……)

凛(それに対して――今、プロデューサーが着ているワイシャツ……)

凛(今日、今までずっとプロデューサーの身体と密着し、さらに現在――プロデューサーの汗を吸った一品――)ヒタ

凛(だったら当然――プロデューサーの匂いだって染み付いているはずで……)ヒタ

凛(病み付きになるような匂いが、染み付いて――)ヒタ

武内P「あ、あの……渋谷さん……?」

凛「こ、これは仕方の無いことなんだよ……」ヒタ

凛「ちかたない……」ヒタ……

凛「これもアイドルのため……」ヒタ……

凛「全ての人のため……」ヒタ……ヒタ……



凛「正義のために――!!!」ガッ!!



武内P「――!?」



武内P「し、渋谷さん!? なにを――!?」



クンクンクンクンクンクン!! クン ククク、クンクン――――!!!!

クンカクンカクンカ!! クン、カカカ、クンカ――――!!!!

スーハースーハースーハー!! スー! ハハハ、スーハー―――――!!!!

ペロペ――



武内P「渋谷さ――!?」



――――――
――――
――


凛「駄目だったよ……」ズーン

まゆ「でしょうねぇ……」


凛「普段は鉄仮面みたな表情のプロデューサーが、石像みたいに固まって動かなくなっちゃったよ……」

凛「なのに顔は恐怖に満ち満ちていたし……」


まゆ「きっと、神話のゴルゴンに石にされた人って、そんな感じなんでしょうね……」

凛「何がいけなかったんだろ……」

まゆ「途中までは良かったんですけどねぇ……」



凛「途中……?」

まゆ「今回の失敗の原因……それは、プロデューサーさんに目撃されてからの行動――これに尽きますねぇ」

まゆ「目撃されるまでは良かったんですが……」

まゆ「そこから、恥ずかしがって言い訳でもすれば良かったところを――相手に突撃するなんて……」

まゆ「まさか、物理的にぶつかっていくとは思いませんでした……」

まゆ「犯行を目撃された強盗じゃないんですから……」

凛「う……いや、混乱しちゃって……」

まゆ「まあ、失敗は誰にでもあります。これを次の機会に生かしましょう」



まゆ「と言っても、正直なことを言えば――」

まゆ「次のこの作戦が、まゆが凛ちゃんに教えられるものとしては、最後になりますが……」

凛「そ、そうなの……?」

まゆ「ええ。最後――崖っぷち、あるはどん詰り」

まゆ「だからこその最終兵器、一撃必殺のリーサルウェポン」

凛「なんか、物騒だね……」

まゆ「うふふ。安心してください」

まゆ「勿体ぶっていますが――やること自体は、今までで一番、女の子らしいことですから」

凛「そ、それって……?」



まゆ「ズバリ――」



まゆ「涙――ですよぉ」



凛「な、涙……? 泣けってこと……?」

まゆ「ええ。そうです」

まゆ「策を弄せず、奇を衒わず――」

まゆ「ただ、彼女の頬を流れる、一筋の涙……」

まゆ「これほどまでに強力な女の武器はありません」



凛「いや、でも私……いきなり泣くなんて……」

まゆ「そうですねぇ……。確かに、子役というわけでもない凛ちゃんには、難しいかもしれません」

まゆ「しかし、これが最終にして最善――ラストにしてベストな方法――」

まゆ「凛ちゃんに唯一残された、起死回生の切り札なんです!」

凛「そ、そんなこと言われても……」



まゆ「想像してみてください」

まゆ「凛ちゃんと同じCPのメンバーにして、同じユニットの仲間である本田未央さん」

凛「み、未央……?」

まゆ「元気で明るく、皆を引っ張っていく彼女が――感極まって流す、涙の一滴――」




本田未央『えへへ……なんだか、まだ夢を見てるみたいだよ……』

未央『でも、夢じゃないんだよね……』

未央『ありがとね!』

未央『あなたが傍いてくれて、本当に良かった……!』ホロリ




まゆ「どうですかぁ!?」クワッ

凛「い、いや、感動的な場面だとは思うけど……」

凛「その未央は、そんな涙を流して然るべき時に、そうしてるわけだし……」

凛「私はそれを、なんでもない、平常時でやらなくちゃいけないんでしょ?」

凛「それに――今までの失敗で、プロデューサーに変な子だって思われてるかもだし……」

まゆ「大事な仲間が泣いているのに、心動かされないなんてっ! 凛ちゃんそれでもアイドルですかっ!?」

凛「ここにきて非難!?」



まゆ「凛ちゃん! ここが正念場ですよぉ!」

まゆ「終わり良ければすべて良し!」

まゆ「この作戦さえ上手くいけば――今までの失敗を補って余りある成果が期待できます!」

まゆ「普段はクールな凛ちゃんが流す涙ともなれば――その破壊力は天にも届くでしょう!」

凛「す、スケールが膨らみ過ぎてない……?」

まゆ「……大体、凛ちゃんこそ、ここで諦めるなんてできるんですか?」

まゆ「今までの……失敗しても積み重ねてきた努力を水泡に帰すことが――どぶに捨てるなんてことが、できるんですか!?」



凛「いや、どぶに捨てるも何も……もう既に、泥沼に嵌ってるって感じだけど……」

まゆ「嵌っちゃったんなら、むしろ浸かっていきましょう!」

まゆ「毒を食らわば皿まで! 泥に嵌るなら頭までですよ!」

凛「それ入水自殺じゃん……」

凛「最初は起死回生とか言ってたのに、なんか自棄っぱちになってない?」

まゆ「涙は武器なんです! だって涙は最強なんです!!」

凛「で、でもなぁ……」



まゆ「……分かりました」

まゆ「そうですね……まゆ、ちょっとあなたにどこか感情移入して、熱くなり過ぎていたのかもしれません……」

まゆ「凛ちゃんの気持ち――気になるあの人に近付きたいというその気持ちは、まゆにも痛いほど解りますから……」

凛「まゆ……」

まゆ「でも、もう無理強いはしません。あくまでも決めるのは凛ちゃんです……」

まゆ「選ぶのは凛ちゃんです……」

凛「わ、私は……」



まゆ「まゆがあなたに言えることも、もうありません……」

まゆ「それでも強いて――戯れで、蛇足で、毒にも薬にもならないことを言うなら、こうです――」

まゆ「想像してみてください」

まゆ「あなたのために、涙を流すあのプロデューサーさんを……」




武内P『渋谷さん……』

武内P『とても――本当にとても良いステージでした』

武内P『私は、あなたを輝かせたい、笑顔になってほしいと、そう思ってきましたが――』

武内P『今は、こう思っています』

武内P『あなたのプロデューサーで良かったと……』

武内P『あなたの傍に居られて、本当に良かったと……!』ホロリ




凛「…………」

まゆ「ええ、そんなことだけです……」チラッチラッ



凛「決めたよ」

凛「私、決めた」

凛「やるよ、私」

凛「やるよ、涙」

凛「思い出したんだ。なんで私は、まゆにこんなこと相談したのかって」

凛「私も思ったんだ――プロデューサーにもっと近付きたいって……」

凛「まゆは、私の相談に真摯に応えてくれた――答えをくれた」

凛「だったら、私だってそれに応えなきゃ」

凛「自分の答えを、見つけなきゃ!」

凛「行ってくるよ、まゆ!」

まゆ「凛ちゃん……!」

凛「まゆの想いを無駄にしないためにも――」

凛「私の想いを無駄にしないためにも――!!」

まゆ「凛ちゃん!」

まゆ「頑張ってくださいね!」

凛「うん!!」

まゆ「あと――」






まゆ「鼻血拭いてください」

凛「おっと」タラリ





――――――
――――
――


「お待たせ―」

「あれ? 凛ちゃんは来ないんですか?」

「なんかやることがあるから、先に行ってってさ」

「なんだか瞳に並々ならぬ決意の炎が宿っているのが見えたからね……。ここはしぶりんの意思を尊重しようと……」

「凛ちゃん……。何か大変なことに巻き込まれているんじゃ……」

「リン……心配ですね……」

「卯月ちゃん、アーニャちゃん、そんなに心配しなくても、大丈夫よ」

「凛ちゃんはすごくしっかりしているし――」

「それに、あのプロデューサーさんも居てくれるから」

「私たちは先に行って、凛ちゃんを出迎えてあげましょう?」

「うんうん。私たちはしぶりんを笑顔で迎えてあげようよっ!」

「ダー! そうですね」

「私、笑顔なら任せてください!!」



「よっし、じゃあ早速、カラオケにレッツゴー!」

「美嘉ちゃんと――あと、とときら学園の年少組メンバーが、先に行っているんでしたっけ?」

「うん。今日はそのメンバーでの交流会――って趣旨だから」

「美嘉ねぇがお姉さんポジ――これはCPのお姉さんポジ、みなみんも負けていられませんなー!」

「ミナミの歌――とても綺麗でカッコイイですから、みんな釘付け、ですね!」フンス

「はい。この前の『ミツボシ☆☆★』もすっごく良くて!」

「うんうん! まさか、あんなにカッコ良くなるとは……」

「なんだかまるで、ロボアニメの主題歌みたいな――」



――CP・プロジェクトルーム


凛(まゆにはあんなこと言ったけど……)

凛(やっぱり緊張する……)

凛(いや、落ち着け――じゃなくて、落ち着くな、かな?)

凛(とにかく、涙を流す練習しなくちゃ……)

凛(えーと、とりあえず悲しいことを考えてみようか……)

凛(悲しいこと、悲しいこと……)

凛(例えば――卯月や未央、CPのみんなと離れ離れになる、とか……)

凛(………………)

凛(いや、悲しくないわけじゃない……。当然、悲しい……)

凛(でも、それって色々理由にもよるだろうし――何より、そんな時に泣いてる場合じゃないって気持ちの方が強いな……)



凛(じゃあええと……)

凛(ハナコ、そうハナコについて……)

凛(散歩してたら、ハナコが逃げた! 探しても見つからない……!)

凛(…………)

凛(――いや、うちのハナコ別に逃げないし……)

凛(利口だからね。はぐれても、すぐ戻ってくるよね。うんうん)

凛(――でも)

凛(ハナコとはぐれて――それでハナコに何かあったら……?)

凛(………………)

凛(……どうしよう、ちょっとヤバいかも)

凛(ハナコがいなくなったら、私……)ジワァ

凛(私――!)



「渋谷さん……?」



凛「――!!」ビクッ

武内P「まだ、残っていらしたんですね」

武内P「何か、用事でも……?」

凛(ぷ、プロデューサー……!?)

凛(ヤバい、まだ練習できてないのに!)

凛(でも、そうだ……プロデューサー……)



凛(もし、プロデューサーがいなくなったら……?)


凛(傍からいなくなって――)


凛(それで、どこにもいなくなったら……)


武内P「渋谷さん……?」

武内P「どうか、されまし――」

武内P「し、渋谷さん!?」




凛「えっ……?」ポタポタ




武内P「あ、あの……」

凛「あっ……」ポタポタ



凛「ご、ごめん、これ――」

凛「な、なんでもないから――」ダッ!



武内P「待ってください」パシッ



凛「えっ……?」

凛(プロデューサーが、手を取って……)

武内P「……渋谷さん」

武内P「……少し、お話ししませんか?」



――――――
――――
――


武内P「私と、仲良くなるため……ですか……」

凛「……うん」

凛「プロデューサーだって思ってたでしょ? 近頃、私が変だって……」

凛「それってさ――まゆにアドバイスをもらって、色々やってみてたからなんだよね」

武内P「佐久間さんに、ですか」

凛「含みがあるように話しかけたのも、プロデューサーのスーツを嗅いでたのも――全部、そのための演技っていうか、アピールだよ」

凛「――まぁ、お察しの通り……私のやり方がマズくって、全部失敗してるんだけど……」

武内P「では、先ほどの涙も……?」

凛「……うん。あれが一番の失敗かな」

凛「考え過ぎで、空回った一番の例……」

武内P「そう、だったんですね」



武内P「申し訳ありません……」

武内P「そのような気遣いをさせてしまい……更には、それに気付けないなんて……」

凛「謝らないでよ。これは私が勝手にやったことだもの」

凛「むしろ、プロデューサーこそゴメン……」

凛「色々――迷惑とか、失礼なことしたりして……」

武内P「いえ、そんな……!」



武内P「私はその……」

武内P「とても嬉しく思います」

武内P「あなたに、そのように思って頂けるなんて。プロデューサーとして、とても誇らしいと感じます」

凛「プロデューサーとして、ね……」

凛「私こそありがとね、プロデューサー」

武内P「……はい?」

凛「さっき、引き留めてくれたでしょ?」

凛「――正直、あんな突然泣き出すような女は、いくらプロデューサーでも引くと思ってたから……」

武内P「いえ、それは……」



武内P「実は……、渋谷さんが佐久間さんからアドバイスを受けていたように――私も、佐久間さんの担当プロデューサーと少し、話をしたんです」

凛「まゆのプロデューサーと? そういえば、二人は同期だって言ってたっけ……」

武内P「はい」

武内P「――正直私も、ここ最近の渋谷さんの普段との変化が気になっていましたので、相談を……」

凛「あ……そ、そうなんだ……」

武内P「そこで、彼はこう言っていました――」



武内P「『彼女たちとちゃんと向き合え』と……」



武内P「あなたたちアイドルは、夜空の星のように輝き、瞬き――それを見上げる人々に夢や希望を届けます……」

武内P「しかし――アイドルは輝く星である以前に、一人の、ただの、普通の人間であると」

武内P「普通に悩み、苦労し、躓いたり、挫折したり、涙したり……努力するものであり――」

武内P「そして、それが解ってあげられるのが、私たちプロデューサーであると」

武内P「精いっぱい輝く星になるために、人である彼女たちに向き合い、支えてやるべきだと」

凛「…………」



武内P「渋谷さんは、前に仰いましたよね」

武内P「『用事が無くては、話しかけてはいけないのか』と……」

凛「い、いやそれは……」

武内P「いえ、あれはもっともな指摘だったと思います」

武内P「例え用事などなくても、他愛の無いことでも――近付くのに、歩み寄るのには十分です」

武内P「私は、あなたとしっかり向き合い――」

武内P「そして、一歩を踏み出すあなたの背中を応援したい……」

武内P「そう、思っています」



凛「そっか……」

凛「プロデューサー、私を見ていてくれるの……?」

武内P「はい」

凛「私だけ見ていてくれる?」

武内P「い、いえ、あの……」

凛「ふふっ。冗談だよ」

凛「今は、それだけ聞ければ十分かな……」

凛「後ろでアンタが見ていてくれるなら、振り返らずに前を向いて、どこまでも走って行ける……」

武内P「渋谷さん……」

凛「んーー!」ノビー

凛「なんだか、スッキリしたよ。まゆにもお礼言わなくちゃね」



武内P「渋谷さん……!」

武内P「例えこれから――あなたの傍を離れるとしても、私はあなたを見ています! 応援しています!」

武内P「ですから――」

凛「ストップ――その辺にしときなよ」

凛「それ以上は、言わないほうがプロデューサーのためだよ」

武内P「……?」

凛「だって私――」




凛「こう見えて、意外に惚れっぽいかもよ……?」





――――――
――――
――


まゆ「……うふふ、凛ちゃんは上手くやったみたいですねぇ」

まゆ「例え、姿は見えなくても、後ろで見守ってくれていると信じて、進んでいける……」

まゆ「凛ちゃんらしい、いい答えだと思いますね……」

まゆ「――ただ、まゆにはちょっと真似できないかも」

まゆ「やっぱりまゆは、こうやってPさんと真正面から向かい合って、想い合って、通じ合って――」

まゆ「愛し合わなくちゃ……ね?」



まゆ「うふ♪ そんな顔しないでください、Pさん」

まゆ「まゆ、こう見えて結構臆病で、意外と泣き虫なんですよぉ……?」

まゆ「だからこうやって、向かい合って、想い合って、通じ合って、愛し合って――」

まゆ「重なり合って、組み合って、触れ合って、絡め合って、擦れ合って、惹かれ合って――」

まゆ「目が合って、寄り合って、抱き合って、解け合って、馴れ合って、溶け合って――」

まゆ「戯れ合って、睦み合って、乱れ合って、腐り合って――」

まゆ「乳繰り逢わなきゃ……ですよね?」

まゆ「うふふ……」



まゆ「……え? せめて付けてくれ……?」

まゆ「へぇ……、最近のものはこんなに薄くて――付けていても、付けていないのと変わらないんですか……すごいですねぇ♪」

まゆ「――でも」

まゆ「付けても付けなくても変わらないなら、付けなくていいですよねぇ……?」ビリィ

まゆ「うふふ♪ そんな顔、しないでください」

まゆ「Pさんだって悪いんですよ……?」

まゆ「『お前とちゃんと向き合うと決めた』なんて言われたら――まゆ、止まれません」

まゆ「Pさんのその言葉で……身も心も溶けちゃいます……」



まゆ「うふふ……ねぇ、触って……?」

まゆ「まゆのココ、すごくドキドキして、すごく熱を持ってます……」

まゆ「すっごい、いい気分……」

まゆ「こんな気分にしたのも――」

まゆ「こんなにハートが高鳴るのも――」




まゆ「あなたのせい、ですよぉ……?」





ヴーヴー

武内P(……メール? 『彼』から、ですね……)

武内P「…………?」

武内P「『SOS』……?」











二次創作特有の、ヤンデレクンカーしぶりんには、実はこんな裏側があったという妄想が書きたかっただけ。

誤字脱字、キャラの口調、敬語が変だったらごめんなさい。

読んでくれてありがとう。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom